説明

珪酸カルシウム成形体及びその製造方法

【課題】耐凍害性を改善することができ、熱的、化学的安定性を備えかつ成形が容易な材料を使用した珪酸カルシウム成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、及びその他の非反応性充填物の混合物に対し、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を添加し、水を加えてスラリーにした後に成形し、オートクレーブにて水熱反応を行うことにより珪酸カルシウム成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として建築分野で外装用板材として使用される珪酸カルシウム成形体に関し、より詳しくは、耐凍害性に優れた建築用外装板材として、新規でかつ有用な珪酸カルシウム成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に建築分野で外装用板材として広く使用されているものの一つに珪酸カルシウム成形体がある。この珪酸カルシウム成形体は、断熱性・耐火性・柔軟性に優れており、さらに、模様や図柄を彫ってあるロールを押しつけながら転がすことにより浮き出し模様をつけることができるという特徴もある。この種の珪酸カルシウム成形体は、主として珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維と非反応性充填物などを所定の割合で配合し、水を添加してスラリー原料とした後、これを成形することにより製造される。成形方法には抄造成形、押出し成形、脱水プレス成形、もしくはこれらを組み合わせた成形方法がある。成形された珪酸カルシウム板はエンボス加工、脱水、養生、乾燥、裁断と言った工程を経ることにより、製品化される。
【0003】
このように外装用板材として広く使用されている珪酸カルシウム成形体には、強度、耐衝撃性、寸法安定性、耐炭酸化性、耐水性、耐凍害性などの特性が要求される。これらの特性のうち、耐凍害性は珪酸カルシウム成形体の吸水特性、凍結時の水の移動圧による基材の破壊に対する抵抗性(曲げ強度、引張強度)などに大きく影響される。
【0004】
耐凍害性を改善するために、これまでに様々な検討・研究がなされてきた。例えば下記特許文献1には、基材中にシリコーンオイル、脂肪酸金属塩または脂肪酸エステルを成分とする液状または粉末の撥水剤をスラリーに分散させた原料を用いて、成形体を形成し、基材に撥水性を持たせることにより、吸水量を低減させる方法が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、ポリエステル、ポリエステルポリアミド、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂粉末をスラリーに分散させた原料を用いて、成形体を形成し、基材内の空隙を補強、強度を向上させる方法が開示されている。
【0006】
さらに、下記特許文献3には、アルケニルコハク酸カルシウム、ロジン酸、アルキルケテンダイマーなどの、一般に内添サイズ剤と呼ばれる化学添加剤を分散、もしくは、あらかじめ上記化学添加剤により補強繊維を処理したものを用いて、成形体を形成し、耐水性を向上する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−1715号公報
【特許文献2】特開2002−201054号公報
【特許文献3】特開2004−527664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の技術においては、以下のような問題がある。
【0008】
上記特許文献1に記載された、シリコーンオイル、脂肪酸金属塩または脂肪酸エステルを成分とする液状または粉末の撥水剤の添加は、オートクレーブ中での養生において、水熱反応の進行が阻害され、珪酸カルシウム成形体の強度を低下させる。このため、珪酸カルシウム成形体の切断時に角欠けが生ずる問題があった。
【0009】
また、シリコーンオイル、脂肪酸金属塩または脂肪酸エステルを成分とする液状または粉末の撥水剤の添加による基材の撥水効果は、基材が凍結−融解のサイクルを繰り返すと次第に無くなり、さらに撥水剤のブリードが見られるという問題もあった。
【0010】
また、上記特許文献2に記載された、ポリエステル、ポリエステルポリアミド、ポリビニルアルコール、また上記特許文献3に記載された、アルケニルコハク酸カルシウム、ロジン酸、アルキルケテンダイマーなどの化学添加剤は、オートクレーブ中での水熱反応における熱的安定性、さらには原料がアルカリ性のために、高温での化学的安定性に欠ける材料であり、本来の化学添加剤の効果が得られないという問題があった。また、熱的・化学的安定性に欠けるため、分解物、分解ガス等が生じ、異臭発生などの問題もあった。さらに、分解物によっては珪酸カルシウム基材に着色を生じてしまうという問題もあった。
【0011】
以上に述べた中でも、特に液体化学添加剤を使用する場合は、その成形方法が限られてしまう。例えば、抄造法では液状材料を抄くことはできないなどの問題点がある。また、シリコーンオイルなどの撥水剤は水と分離してしまうために、分散の不具合が生じてしまうなどの問題もある。
【0012】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、耐凍害性を改善することができ、熱的、化学的安定性を備えかつ成形が容易な材料を使用した珪酸カルシウム成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維及び所定の非反応性充填物を混合してなる原料スラリーを成形した後、オートクレーブ中での水熱反応により得られる珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、前記成形原料100重量部に対して、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を0.05〜10重量部含有させることを特徴とする。
【0014】
ここで、上記非反応性充填物としては、パーライトおよびワラストナイトを用いることを特徴とする。
【0015】
また、上記オートクレーブ中での水熱反応を、蒸気圧4〜12kgf/cm(3.9×10Pa〜11.8×10Pa)で行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、珪酸質原料、石灰質原料及び補強用繊維を含む非反応性充填物を混合してなる原料スラリーを成形した後、水熱反応により得られる珪酸カルシウム成形体であって、前記成形原料100重量部に対して、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を0.05〜10重量部含有させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる珪酸カルシウム成形体では、珪酸カルシウムと補強繊維およびエチレン/ビニルアルコール共重合体とが耐凍害性に有効な珪酸カルシウムマトリックスを形成する。このためエチレン/ビニルアルコール共重合体を添加した珪酸カルシウム成形体は、耐凍害性が大幅に向上する。また、本発明で使用しているエチレン/ビニルアルコール共重合体樹脂は高温アルカリ条件下でも熱的・化学的安定性に優れているために、水熱反応等の高温条件下で分解するという問題が生じない。このため、オートクレーブなどでの水熱反応や、熱を加えることによる養生工程を経て製造される様々な水硬化性物質の性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)について説明する。
【0019】
本発明の珪酸カルシウム成形体は、珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、及びその他の非反応性充填物を主成分とする成形体であり、これら珪酸カルシウム原料に対しエチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を添加し、水を加えてスラリーにした後に成形し、オートクレーブにて水熱反応を行うことを特徴とする。上記エチレン/ビニルアルコール共重合体は、オートクレーブでの水熱反応時の熱的、化学的安定性に優れており、珪酸カルシウム成形体の耐凍害性を大きく改善することができる。
【0020】
本発明で用いられる珪酸カルシウム成形体の原料である珪酸質原料は、SiO成分を供給するものであり、例えば、珪石、珪藻土、高炉スラグ、フライアッシュ等が挙げられる。
【0021】
また、本発明で用いられる珪酸カルシウム成形体の原料である石灰質原料は、CaO成分を供給するものであり、例えば消石灰、生灰石、ポルトランドセメント等が挙げられる。
【0022】
また、本発明で用いられる珪酸カルシウム成形体の原料である補強用繊維としては、パルプ、耐アルカリ性ガラス繊維、炭素繊維、有機合成繊維等が使用できる。有機合成繊維としてはポリプロピレン繊維、パラアラミド繊維、メタアラミド繊維などの耐アルカリ性繊維を使用することができる。
【0023】
また、本発明で用いられる非反応性充填物としては、ワラストナイト、パーライト、石膏、炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク等が使用できる。
【0024】
本発明では、上述した珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、およびその他の非反応性充填物を主成分とする珪酸カルシウム原料100重量部に対し、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を0.05〜10重量部添加することを特徴とする。0.05重量部より少ないと珪酸カルシウム板マトリックス内への分散量が不十分となり、耐凍害性の改善効果が得られない。また10重量部より多くするとオートクレーブ中での水熱反応を阻害し、未硬化状態で得られることになり、保形性が悪化する。添加量としては、0.1〜5重量部がより好ましく、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。
【0025】
本発明で使用するエチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体の鹸化度は70〜100モル%が好ましく、85〜100モル%がより好ましい。
【0026】
本発明で使用できるエチレン/ビニルアルコール共重合体のエチレン重合比率は、上述したように25〜50モル%である。オートクレーブ中での水熱反応を蒸気圧4〜12kgf/cm(3.9×10Pa〜11.8×10Pa)で行う際の熱的及び化学的安定性と溶融温度との両方を考慮すると、エチレン重合比率25%以下の重合比率のエチレン/ビニルアルコール共重合体は、熱的及び化学的安定性と溶融性が低くなり、好ましくない。また、エチレン重合比率が50%以上のエチレン/ビニルアルコールの使用は、耐凍害性に有効なビニルアルコール単位が少なく、添加の効果が減少してしまうため好ましくない。このように、熱的及び化学的安定性と溶融温度、耐凍害性に有効であるビニルアルコール単位の量の全てを考慮すると、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0027】
なお、本発明で使用できるエチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体としては、末端変性型エチレン/ビニルアルコール共重合体を使用することも可能である。
【0028】
上述した珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、非反応性充填物の混合物に対して添加するエチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体は水に対して溶解しない。そのため、粉末にして添加することが好ましい。この樹脂粉末の粒度としては、10μm〜500μm、より好ましく30μm〜300μmが好適である。粒径が10μm以下の場合は、抄造法、脱水ブレス法において、樹脂粉末が成形体内部に残らず、添加効果が得られない。また、500μm以上の粉末を使用すると、珪酸カルシウム板中にこの大きさの空隙ができてしまい、かえって珪酸カルシウム板の耐凍害性が低下してしまう。
【0029】
また、上述した珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、非反応性充填物に対する、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体の添加方法は、スラリーにする前の粉末状態の珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、非反応性充填物と乾式混合する方法、もしくは珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、非反応性充填物に水を加えたスラリーに添加する方法のどちらでもよい。また、抄造法の場合は、層間にエチレン/ビニルアルコール共重合体樹脂の粉末を散布することも可能である。
【0030】
上述した珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維、非反応性充填物、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体からなる原料から本発明にかかる珪酸カルシウム質成形板を製造するには、水分を加え、例えば抄造法、脱水プレス法、押出し成形法など、一般に使用されている成形方法にて生板を得る。ここで成形方法は特に限定されないのが本発明における重要な特徴である。さらに、例えばエンボス加工など上記生板にロールにて凹凸をつける工程、圧力を加えプレスする工程などを行うこともできる。
【0031】
本発明では、このようにして成形された生板に圧力を加えつつオートクレーブによる水熱反応を行い、珪酸カルシウム形成原料から珪酸カルシウム結晶マトリックスを生成する。オートクレーブの処理条件としては、蒸気圧4〜12kgf/cm(3.9×10Pa〜11.8×10Pa)であり、保持時間は3〜20時間である。本発明におけるエチレン/ビニルアルコール共重合体としてエチレン重合比率25〜50モル%の樹脂を用いる理由は、上記蒸気圧3.9×10Pa〜11.8×10Paの範囲で熱的及び化学的に安定に存在するからである。エチレンの共重合比率が25モル%以下であると熱的な安定性が損なわれ、エチレン重合比率が50モル%以上のエチレン/ビニルアルコール共重合体を使用すると、耐凍害性に有効なビニルアルコール部位が減少してしまい、添加効果が少なくなってしまうために好ましくない。
【0032】
これらの工程を経て得られた珪酸カルシウム結晶マトリックスからなる珪酸カルシウム成形体は、乾燥工程、裁断工程を経て建築用外装用板材等として使用することができる。
【0033】
以上の工程を経て得られた珪酸カルシウム成形体は、珪酸カルシウム結晶マトリックス内にエチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体が分解することなく溶融分散する。その結果、珪酸カルシウム結晶と補強繊維と樹脂との強固な結合が形成されることにより、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を添加しない成形体に比べ、耐凍害性が大幅に向上する。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げ、本発明に関して詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
比較例1〜3、実施例1〜4
下記の表1に示すリサイクル材、珪石、消石灰、セメント、フライアッシュ、ワラストナイト、パーライト、パルプと、それぞれ共重合比率の違うエチレン/ビニルアルコール共重合体とを、表1に示す組成で混合した成形材料に水を加えて5分間撹拌して原料スラリーの調整を行った。なお、上記リサイクル材は、珪酸カルシウム成形体を所定の寸法にカットするとき等に発生する廃材である。また、各原料の配合比率は重量部である。使用したエチレン/ビニルアルコール共重合体は、エチレン共重合比率=0:ポバール(株式会社クラレ製)、エチレン共重合比率=27:エバール−L(株式会社クラレ製)、エチレン共重合比率=38:エバール−H(株式会社クラレ製)、エチレン共重合比率=48:エバール−G(株式会社クラレ製)、エチレン共重合比率=100:ハイワックス(三井化学株式会社製)を用いた。次に、原料スラリーを200mm×200mmの金型に流し込み、面圧40kgf/cm(3.9×10Pa)で脱水プレス成形した後、成形体をオートクレーブにて蒸気圧8kgf/cm(7.8×10Pa)で8時間の水熱反応を行うことによって硬化させて、珪酸カルシウム成形体を得た。珪酸カルシウム成形体はそれぞれ熱風循環式オーブンにて乾燥を行った。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示された比較例1〜3、実施例1〜4の配合の成形材料を使用し、上記に示すような方法で作製した珪酸カルシウム成形体は、以下に示す試験方法でその評価を行った。
【0038】
基材の着色:比較例1すなわち樹脂を添加していないものと比べ基材に茶色い着色が見られたものを“あり”、基材に着色が見られないものを“なし”とした。
【0039】
基材から発生する異臭:オートクレーブによる水熱反応の終了したサンプルから発生する臭いを分析し、異臭の発生があったものを“あり”、異臭の発生がなかったものを“なし”とした。
【0040】
かさ密度:JIS A5413に準拠した試験を行った。105℃の熱風循環式オーブンにて24時間乾燥した後、デシケータ内で24時間冷却した後、重量と体積を求め、かさ密度の計算を行った。
【0041】
曲げ強度:JIS A1408に準拠した試験を行った。試験片は105℃の熱風循環式オーブンにて24時間乾燥した後、デシケータ内で24時間冷却し、支点間距離180mmにて3点曲げ試験を行った。
【0042】
耐凍害性:JIS A1435に準拠した試験を行った。試験片は105℃の熱風循環式オーブンにて24時間乾燥した後、デシケータ内で24時間冷却したものを用いた。試験は、水中凍結水中融解試験50サイクルにて実施し、評価は外観観察と体積変化率にて行った。
耐凍害性(外観評価)
◎:外観上、全くの異常は確認されず。
○:外観上、ほぼ異常は確認されず。
△:外観上、一部に異常が見える。
×:外観上、全体的に異常が見られる。
【0043】
比較例1に示したものは、共重合比率の異なるエチレン/ビニルアルコール共重合体の添加の効果を知る上で、比較基準となる珪酸カルシウム成形体である。比較例2はエチレン共重合比率0%のポリビニルアルコールである。耐凍害性は、比較例1に比べ外観観察、体積変化率とも向上している。しかしながら、オートクレーブでの水熱反応の際に高温(蒸気圧8kgf/cm(7.8×10Pa)、174℃)に曝されることにより、ポリマーの分解(分解温度100℃)が進行し、基材に着色、さらには異臭が発生した。耐凍害性に効果があるビニルアルコール単位のみによって構成される高分子であるが、水熱反応時のポリマーの分解により耐凍害性を向上させる効果が減少することがわかる。
【0044】
比較例3はエチレン共重合比率100%のポリエチレンである。オートクレーブでの水熱反応の際、ポリマーの分解はないと考えられ、それゆえ基材の着色、基材から発生する異臭は確認されなかった。耐凍害性は、比較例1に比べ外観観察、体積変化率とも向上しているが、耐凍害性に有効なビニルアルコールが分子内に無いため、その効果は小さかった。
【0045】
実施例1〜実施例4は、エチレン共重合比率27−47%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を使用した例である。熱的・化学的に安定性に優れるエチレン単位が共重合されているため、分解温度は240℃以上である。このためにオートクレーブでの水熱反応の際(蒸気圧8kgf/cm(7.8×10Pa)、174℃)、ポリマーの分解はない。実際に、実施例1〜実施例3において、基材の着色、基材から発生する異臭は全く確認されなかった。耐凍害性は、比較例1〜3に比べ外観観察、体積変化率ともさらに向上している。耐凍害性に効果があるビニルアルコール単位を多く含む高分子であり、また水熱反応時にポリマーの分解がないため、エチレン共重合比率0%のポリビニルアルコールを使用した比較例2よりも耐凍害性が優れる。耐凍害性に効果があるビニルアルコール単位を多く含む実施例1に使用したエチレン/ビニルアルコール共重合体よりも、ビニルアルコール単位がより少ない実施例2および実施例3の耐凍害性が良好な理由として、樹脂溶融時の流動性(メルトインデックス)が挙げられる。実施例1よりも実施例2および実施例3に用いたエチレン/ビニルアルコール共重合体の方が、溶融時の流動性が優れ、その結果オートクレーブ溶融時に基材中に効果的に分散することにより珪酸カルシウム成形体の耐凍害性が向上している。
【0046】
エチレン/ビニルアルコール共重合体が耐凍害性を大幅に向上する理由として、ビニルアルコール部位が、珪酸カルシウム及びパルプなどの補強繊維と強固な結合を形成、または強固な相互作用を形成していることなどが挙げられる。即ち、珪酸カルシウムと補強繊維とエチレン/ビニルアルコール共重合体とが耐凍害性に有効な珪酸カルシウムマトリックスを形成していると言える。
【0047】
上記に示した珪酸カルシウムとパルプなどの補強繊維とエチレン/ビニルアルコール共重合体との間に強固な相互作用が存在することを証明するため、以下に実施例を挙げ、本発明のメカニズムに関して詳しく説明する。
【0048】
比較例4、実施例5
下記の表2に示す、リサイクル材、珪石、消石灰、セメント、フライアッシュ、ワラストナイト、パーライト、パルプとエチレン共重合比率が27モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を表2に示す組成で混合した成形材料に水を加えて5分間撹拌して原料スラリーの調整を行った。使用したエチレン/ビニルアルコール共重合体は、エチレン共重合比率=38:エバール−Hを用いた。次に、原料スラリーをφ100mmの金型で抄造した生板を3枚作製した。この生板3枚を重ね、面圧7kgf/cm(6.9×10Pa)で脱水プレス成形した積層成形体を作製した。このサンプルをオートクレーブにて蒸気圧8kgf/cm(7.8×10Pa)で8時間の水熱反応を行うことによって硬化させ、珪酸カルシウム成形体を得た。珪酸カルシウム成形体はそれぞれ熱風循環式オーブンにて乾燥を行った。
【0049】
【表2】

【0050】
比較例4と実施例5の配合により作製したサンプルの層間の引張強さを測定したところ、エチレンビニルアルコール共重合体を添加していない比較例4に比べ、エチレンビニルアルコール共重合体を添加した実施例5の引張強さが約1.7倍になった。即ち、エチレン/ビニルアルコール共重合体が、珪酸カルシウム及びパルプなどの補強繊維と強固な結合を形成、または強固な相互作用を形成していることがわかった。
【0051】
以上の実験結果から明らかなように、本実施例の珪酸カルシウム成形体は、比較例の珪酸カルシウム成形体に比べその耐凍害性は大きく向上している。また、基材への着色や、製造工程における異臭の発生なども無く、製造環境への悪影響を及ぼさすに珪酸カルシウムの耐凍害性のみを向上させることができる。さらに、添加物質が液状物質である場合は、抄造方法に応用できないといった製造方法が限定されるという問題があるが、添加するエチレン/ビニルアルコール共重合体が他の原料と同様に粉末であることから、製造方法は限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質原料、石灰質原料、補強用繊維及び所定の非反応性充填物を混合してなる原料スラリーを成形した後、オートクレーブ中での水熱反応により得られる珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、前記成形原料100重量部に対して、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を0.05〜10重量部含有させることを特徴とする珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項2】
前記非反応性充填物としてパーライトおよびワラストナイトを用いることを特徴とする請求項1に記載の珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項3】
オートクレーブ中での水熱反応を、蒸気圧4〜12kgf/cm(3.9×10Pa〜11.8×10Pa)で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項4】
珪酸質原料、石灰質原料及び補強用繊維を含む非反応性充填物を混合してなる原料スラリーを成形した後、水熱反応により得られる珪酸カルシウム成形体であって、前記成形原料100重量部に対して、エチレン重合比率25〜50モル%のエチレン/ビニルアルコール共重合体を0.05〜10重量部含有させることを特徴とする珪酸カルシウム成形体。
【請求項5】
前記非反応性充填物としてパーライトおよびワラストナイトを用いることを特徴とする請求項4に記載の珪酸カルシウム成形体。
【請求項6】
オートクレーブ中での水熱反応を、蒸気圧4〜12kgf/cm(3.9×10Pa〜11.8×10Pa)で行うことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の珪酸カルシウム成形体。

【公開番号】特開2007−91508(P2007−91508A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280976(P2005−280976)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】