説明

現像ローラ及びそれを有する現像装置

【課題】適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像ローラ及びそれを有する現像装置を提供する。
【解決手段】基体の表面に設けられた樹脂被覆層が、分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂で構成されるか、又は、窒素元素を分子構造中に有する低分子化合物を含有する樹脂で構成され、且つ、前記樹脂被覆層の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10〜0.35である現像ローラにおいて、前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に減少され、前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に増加され、そして、前記樹脂層の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されているものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置において用いられる一成分トナーを用いて現像する現像ローラ及びそれを有する現像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置、特に、小型の電子写真装置の分野においては、メンテナンスの簡素化が進められており、例えば、感光体表面、感光紙、記録紙等の画像担持体上に形成された静電潜像を非磁性一成分トナーを使用して現像する現像装置が実用化されている。
【0003】
このタイプの現像装置において、地汚れ、残像等の発生を防いで画像品質を維持すると共に、現像装置の長寿命化をはかるためには、(a)トナー帯電を高く且つ均一にすること、(b)トナー規制部材表面及び現像ローラ表面へのトナーの凝集・固着の発生を防止すること、(c)現像ローラ表面及びトナー規制部材表面のキズ、亀裂、剥離等による劣化を防止すること、(d)トナー漏れや飛散による画像形成装置内部の汚染を防止すること、等が課題となっていた。これらの課題は、現像ローラを構成する材料の選定、現像装置の構造の工夫等の手段で部分的に解決されてきた。
【0004】
このような現像ローラとしては、次のようなものが用いられていた。即ち、(イ)金属の芯金上にゴムで構成される弾性層を設けた現像ローラ、(ロ)前記(イ)の現像ローラの弾性層上に樹脂被覆層を設けた現像ローラ、及び、(ハ)金属の芯金上に樹脂被覆層を設けた現像ローラが、それぞれ、用いられていた。これらの現像ローラは、感光体の構造に対応させて用いられており、例えば、ドラム感光体を使用する場合には、前記(イ)の現像ローラ及び(ロ)の現像ローラが用いられ、また、ベルト状感光体を使用する場合には、前記(イ)の現像ローラ 、(ロ)の現像ローラ及び(ハ)の現像ローラのいずれもが用いられてきたが、それらの中でも、ドラム感光体と前記(イ)の現像ローラ又は(ロ)の現像ローラとの組合せが一般的であった。
【0005】
しかしながら、前記(イ)の現像ローラ及び(ロ)の現像ローラ、いわゆる、弾性現像ローラを用いる場合には、
1)硬度及び電気抵抗を適正なものに制御すること、
2)低硬度にすると共に表面粗さを小さくすること、
3)樹脂被覆層が柔軟性を有していること、及び、
4)弾性層のゴムを劣化させないように、被覆樹脂を加熱硬化するための焼成温度を低く設定すること、
といった課題があった。
【0006】
近年、現像装置においては、カラー化に伴って、レイアウトの自由度を高める必要性が生じてきたので、ベルト感光体を用いたシステムが採用されるようになってきた。そこで、前記(ハ)の金属の芯金上に樹脂被覆層を設けた現像ローラ、いわゆる、ハード現像ローラがさかんに採用されるようになってきた。このようなハード現像ローラを用いると、前記1)、3)及び4)の課題が解決できるが、トナーを高帯電させること、トナーを均一な薄層に形成すること、及び、現像ローラを高寿命にすること、といった共通の課題が残った。
【0007】
一成分現像装置においては、前述のとおり、トナーを高帯電させると共に、トナーを均一な薄層に形成しなくてはならない。トナーを高帯電させるためには、現像ローラの表面、又は、トナー規制部材(ローラ)の表面にトナーと逆極性の帯電性を示す材料を被覆することが望ましい。このような材料としては、マイナス帯電トナーに対しては、プラス帯電性を示すポリアミド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂等の主鎖又は側鎖に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂材料が有効である(特許文献1,2を参照。)。しかしながら、現像ローラ表面の樹脂被覆層は、その化学組成を完全に均一にすることは難しいので、経時の摩耗によってローラ表面の化学組成が変化して帯電量が変化してしまうという問題があった。特に、現像ローラの樹脂被覆層の最表面は、スキン層が形成されているために、摩耗による化学組成変化が急峻である。また、近年の高画質化に伴って、現像ローラの表面粗さ、及び、表面層の被覆欠陥によって生じる突起が画像欠陥として現れるので、非常に厳しい樹脂被覆層の表面性が求められている。そこで、樹脂被覆後の樹脂被覆層の表面をテープ研磨等の除去加工を行うことにより、このような表面欠陥が除去されている。
【0008】
弾性現像ローラには、トナー漏れを防止するために樹脂被覆層上にシールを強固に当接させる必要があるが、そのシールを当接させた部分に亀裂や剥離が発生することがある。メラミン、グアナミン等のトリアジン系樹脂を硬化させた樹脂被覆層は柔軟性に乏しいので、かかる樹脂被覆層を弾性層上に形成した場合には、短時間のうちに樹脂被覆層に亀裂が発生してしまう。特に、現像ローラでは、バイアス電圧を印加するために樹脂被覆層に電気抵抗制御剤を含有させる必要があるが、抵抗制御剤を樹脂被覆層に含有させると、樹脂被覆層に亀裂を発生させる現象が加速される。それ故、弾性現像ローラは、摩耗という点でシールに対する対応が難しい。従来の現像装置においては、このような弾性現像ローラが用いられているが、1万枚レベルの作像後の現像装置を観察すると、弾性現像ローラ端部のシール部分の摩耗が激しい。
【0009】
そこで、現像ローラとして、金属の基体であるアルミスリーブをそのまま使用し、そして、トナー規制ローラとして、表面にトナーと逆極性の帯電性を示す材料を被覆した弾性ローラを使用した現像装置が提案された。しかしながら、この現像装置は、アルミ表面のトナーの保持力、搬送力が低いという問題があった。また、かかる現像ローラの表面に粗面化処理を施してトナー搬送性を高めることが考えられたが、その表面は作像回数の増加に伴って平滑化され、そのために、必要なトナー搬送量が得られなくなるという問題が生じた。さらに、金属基体であるアルミスリーブをそのまま使用した現像ローラは、トナーの保持力が小さいために、飛散による画像形成装置内の汚染を引き起こし易いという問題があった。
【特許文献1】特開2000−181218号公報
【特許文献2】特開2001−34060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0011】
即ち、本発明は、適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像ローラ及びそれを有する現像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、基体の表面に導電性付与部材としてITOを含有する樹脂被覆層を有する現像ローラであって、前記樹脂被覆層が、分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂で構成されるか、又は、窒素元素を分子構造中に有する低分子化合物を含有する樹脂で構成され、且つ、前記樹脂被覆層の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10〜0.35である現像ローラにおいて、(イ)前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に減少され、(ロ)前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に増加され、そして、(ハ)前記樹脂層の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されているものとすると、適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像ローラ及びそれを有する現像装置を提供できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、請求項1に係わる発明は、上記目的を達成するために、基体の表面に導電性付与部材としてITOを含有する樹脂被覆層を有する現像ローラであって、前記樹脂被覆層が、分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂で構成されるか、又は、窒素元素を分子構造中に有する低分子化合物を含有する樹脂で構成され、且つ、前記樹脂被覆層の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10〜0.35である現像ローラにおいて、
(イ)前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に減少され、
(ロ)前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に増加され、そして、
(ハ)前記樹脂層の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されている
ことを特徴とする現像ローラである。
【0014】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記樹脂被覆層を構成する樹脂が、主鎖又は側鎖に水酸基を有するポリエステル樹脂とアミノ基をエーテル化したトリアジン系樹脂との架橋反応生成物であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記樹脂被覆層の表面粗さ(Rz)が4μm以下であり、且つ、前記樹脂被覆層の表面上の突起が7μm以下であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記テープ研磨等の研磨加工前には、前記樹脂被覆層の表面から、ITOの構成物質であるインジウムがX線光電子分光分析で検出されず、そして、前記テープ研磨等の研磨加工後には、前記樹脂被覆層の表面から、ITOの構成物質であるインジウムが検出されることを特徴とするものである。
【0017】
請求項5に記載された発明は、現像ローラと、前記現像ローラに接触配置しトナーを供給するトナー供給ローラと、前記現像ローラ上のトナーを規制して薄層を形成するトナー規制ローラとからなる一成分トナーを用いて現像する現像装置において、前記現像ローラとして請求項1〜4のいずれかに記載の現像ローラを有することを特徴とする現像装置である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載された本発明によれば、1)前記樹脂被覆層が導電性付与部材としてITOを含有しているので、現像ローラにおける、抵抗制御性が良好となると共に、耐摩耗性が向上し、2)前記樹脂被覆層が、分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂で構成されるか、又は、窒素元素を分子構造中に有する低分子化合物を含有する樹脂で構成され、且つ、前記樹脂被覆層の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10〜0.35であるので、適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像ローラとすることができ、3)前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に減少され、前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に増加され、そして、前記樹脂層の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されているので、化学的な組成変化が大きいスキン層を除去することができると共に、塗装による突起等の不具合を除去することができ、しかも、導電剤を表面に露出させることができるので、トナー化による画像の変化を防止することができ、また、表面の電気抵抗を下げて残像を防止することができる。
【0019】
請求項2に記載された発明によれば、前記樹脂被覆層を構成する樹脂が、主鎖又は側鎖に水酸基を有するポリエステル樹脂とアミノ基をエーテル化したトリアジン系樹脂との架橋反応生成物であるので、樹脂被覆層のトナー帯電性を向上させるばかりでなく、耐水性、耐溶剤性、摩耗性等の機械的物性を向上させることができる。
【0020】
請求項3に記載された発明によれば、前記樹脂被覆層の表面粗さ(Rz)が4μm以下であり、且つ、前記樹脂被覆層の表面上の突起が7μm以下であるので、化学的な組成変化が大きいスキン層を除去することができると共に、塗装による突起等の不具合を除去することができ、しかも、導電剤を表面に露出させることができるので、トナー帯電量等の特性変化による画像の変化を防止することができ、また、表面の電気抵抗を下げて残像を防止することができる。
【0021】
請求項4に記載された発明によれば、前記テープ研磨等の研磨加工前には、前記樹脂被覆層の表面から、ITOの構成物質であるインジウムがX線光電子分光分析で検出されず、そして、前記テープ研磨等の研磨加工後には、前記樹脂被覆層の表面から、ITOの構成物質であるインジウムが検出されるので、テープ研磨等の研磨加工が施された樹脂被覆層の表面は、その電気抵抗が下がり、残像が発生しない電気抵抗領域となる。
【0022】
請求項5に記載された発明によれば、現像ローラと、前記現像ローラに接触配置しトナーを供給するトナー供給ローラと、前記現像ローラ上のトナーを規制して薄層を形成するトナー規制ローラとからなる一成分トナーを用いて現像する現像装置において、前記現像ローラとして請求項1〜7のいずれかに記載の現像ローラを有しているので、適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態を示す現像ローラの断面図である。図2は、本発明の他の一実施の形態を示す現像ローラの断面図である。図3は、本発明の一実施の形態を示す現像ローラの表面層の深さと窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)との関係を示すグラフである。図4は、本発明の一実施の形態を示す現像ローラの表面層の深さとトナー帯電量との関係を示すグラフである。図5は、本発明の一実施の形態を示す現像ローラの前記N/Cとトナー帯電量との関係を示すグラフである。図6は、本発明の一実施の形態を示す現像ローラの耐久枚数と表面層の摩耗量との関係を示すグラフである。図7は、本発明の一実施の形態を示す現像ローラを用いた現像装置の概略説明図である。
【0025】
図1において、10は現像ローラである。現像ローラ10は、基体3の表面に導電性付与部材としてITOを含有する樹脂被覆層4を有している。このように、樹脂被覆層4が導電性付与部材としてITOを含有していると、現像ローラにおける、抵抗制御性が良好となると共に、耐摩耗性が向上する。前記基体3は、例えば、円柱状又は円筒状の金属で構成される芯金である。本発明においては、図2に示されているように、現像ローラ20における基体3は、芯金1の表面に弾性層2を有するものであってもかまわない。弾性層2としては、例えば、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ウレタンフォーム等のゴム又はエラストマーが使用できる。前記樹脂被覆層4は、分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂で構成されるか、又は、窒素元素を分子構造中に有する低分子化合物を含有する樹脂で構成される。このような窒素元素を有する樹脂は、プラス帯電系列の材料であるので、トナーをマイナスに帯電させることができる。前記樹脂被覆層4は、例えば、ディップ法、スプレーコート、ローラコート等の手段により被覆するか、或いは、チューブ状に成形した成形物を被覆することにより形成される。
【0026】
本発明の現像ローラ10(20)においては、前記樹脂被覆層4の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)は、0.10〜0.35である。前記「元素組成比」は、「原子比」ともよばれている。前記樹脂被覆層4の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10未満であると、トナーを高帯電させることができず、また、前記樹脂被覆層4の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.35より越えると、該現像ローラ10(20)の上にトナーの逆電荷が残存するために残像が発生してしまう。しかるに、本発明の現像ローラ10(20)は、前述のとおり、樹脂被覆層4の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10〜0.35であるので、適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像ローラとすることができる。
【0027】
前記分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂は、例えば、メラミン、グアナミン、グアナミン誘導体等のトリアジン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミン、ポリイミン、ポリアクリルアミド、ポリアクリルイミド、ポリエチレンアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、アミノポリアクリルアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ユリア樹脂、アミノ酸樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、及び、これらの樹脂の混合物、或いは、これらの樹脂と他の樹脂との共重合物であるが、好ましくは、主鎖又は側鎖に水酸基を有するポリエステル樹脂とアミノ基をエーテル化したトリアジン系樹脂との架橋反応生成物である。前記メラミン、グアナミン、グアナミン誘導体等のトリアジン系樹脂は、アミノ基を含有しているので、マイナス帯電トナーに対して逆極性を示す。そのために、このようなトリアジン系樹脂は、トリアジン環に負荷しているアミノ基が−NH2 の形では硬化剤として作用しないので、−NH(CH2 OR)のエーテル化した構造に変えることにより、生成したエーテル基とベース樹脂の水酸基の間で縮合架橋反応により架橋構造を形成する。
【0028】
本発明の現像ローラ10(20)においては、(イ)前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層4の表面から内部方向に減少され、(ロ)前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層4の表面から内部方向に増加され、そして、(ハ)前記樹脂層4の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されている。このように、(イ)前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層4の表面から内部方向に減少され、(ロ)前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層4の表面から内部方向に増加され、そして、(ハ)前記樹脂層4の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されていると、化学的な組成変化が大きいスキン層を除去することができると共に、塗装による突起等の不具合を除去することができ、しかも、導電剤を表面に露出させることができるので、トナー帯電量等の特性変化による画像の変化を防止することができ、また、表面の電気抵抗を下げて残像を防止することができる。
【0029】
また、前記(イ)〜(ハ)の構成を有する現像ローラ10(20)を一般に使用されている現像装置(図7を参照)に装着すると、その現像ローラの150kプリント終了後のN/C比が0.1以上となり、そして、その現像ローラの150kプリント終了後のIn/C比が0.01以上となり、残像及び地汚れの発生しにくものになっていることがわかる。
【0030】
本発明においては、前記樹脂被覆層4を構成する樹脂は、好ましくは、主鎖又は側鎖に水酸基を有するポリエステル樹脂とアミノ基をエーテル化したトリアジン系樹脂との架橋反応生成物である。このように、前記樹脂被覆層4を構成する樹脂が、主鎖又は側鎖に水酸基を有するポリエステル樹脂とアミノ基をエーテル化したトリアジン系樹脂との架橋反応生成物であると、樹脂被覆層4のトナー帯電性を向上させるばかりでなく、耐水性、耐溶剤性、摩耗性等の機械的物性を向上させることができる。
【0031】
前記窒素を分子構造中に有する低分子化合物は、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)]尿素、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2−メチル−1−イミダゾリル]−エチル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2−ウンデシル−1−イミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−エチル−4−メチル−1−イミダゾリルエチル]−1,3,5−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクローラーイド、N,N’ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2,4−ジアルキルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクローラーイド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシルメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ビス(ヒドロキシルメチル)イミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ビス(シアノエトキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−[2−メチル−1−イミダゾリルエチル]−1,3,5−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−アルキル−4−フオルミルイミダゾール、2,4−ジアルキル−5−フォルミルイミダゾール、2,4,6−カルボキシフェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン等のイミダゾールやトリアジンの誘導体である。本発明の目的に反しないかぎり、これらの化合物以外の窒素を分子構造中に有する低分子化合物であってもかまわない。
【0032】
前記樹脂被覆層4の表面粗さ(Rz)は、好ましくは、4μm以下であり、且つ、前記樹脂被覆層4の表面上の突起は、好ましくは、7μm以下である。このように、前記樹脂被覆層4の表面粗さ(Rz)が4μm以下であり、且つ、前記樹脂被覆層4の表面上の突起が7μm以下であると、経時で樹脂被覆層4の表面が摩耗したとしても、トナー搬送量の変化が小さいと共に、画像のドット再現性(抜け等がない)がよく、しかも、画像において突起による白抜けが発生しない。
【0033】
本発明の現像ローラ10(20)においては、前記テープ研磨等の研磨加工前には、前記樹脂被覆層4の表面から、ITOの構成物質であるインジウムがX線光電子分光分析で検出されず、そして、前記テープ研磨等の研磨加工後には、前記樹脂被覆層4の表面から、ITOの構成物質であるインジウムが検出される。ITOは、比重が大きいので沈みやすく、そのために、被覆後に希釈溶剤が気化していくと共に芯金方向へ沈んでいき、樹脂被覆層4内で傾斜する。それ故、樹脂被覆層4のスキン層においては、ITOが露出しない。その結果、研磨無しの樹脂被覆層4の表面は、電気抵抗が高くなり、現像後のローラ表面に現像されたトナーと逆極性の電荷が残って電荷が除去されなくなるので、残像が発生しやすくなる。しかし、樹脂被覆層4にテープ研磨等の研磨加工を施すと、ITOが露出するので、樹脂被覆層4の表面は、その電気抵抗が下がり、残像が発生しない電気抵抗領域となる。
【0034】
本発明の現像装置は、図7に示されるように、現像ローラ10と、前記現像ローラ10に接触配置しトナー107を供給するトナー供給ローラ102と、前記現像ローラ10の上のトナー107を規制して薄層を形成するトナー規制ローラ104とからなる一成分トナーを用いて現像する現像装置であるが、前記現像ローラ10として請求項1〜4のいずれかに記載の現像ローラを有している。図7において、103はトナー搬送部材であり、105はケースであり、そして、106はバネである。このように、本発明の現像装置は、前記請求項1〜4のいずれかに記載の現像ローラを有していると、適正な高トナー帯電量に保持して残像及び地汚れの発生を防止すると共に、耐久性を向上させた、一成分トナーを用いて現像する現像装置とすることができる。
【0035】
本発明の現像装置を動作させるには、非現像時において、トナー規制ローラ104を駆動回転させないで、現像ローラ10を作像時の回転とは逆に回転させるようにする。このようにすると、現像ローラ10とトナー規制ローラ104の間の楔部分に堆積したトナーが非現像時に一旦上流側へ押し戻される。具体的には、トナー規制ローラ104にワンウェイクラッチ(図示せず)を設けて、現像ローラ10が逆回転する場合のみにトナー規制ローラ104を稼動させるようにすると、トナー規制ローラ104と現像ローラ10の表面の摩擦抵抗のみによって、トナー規制ローラ104を回転させることができる。トナー規制ローラ104を同方向に強制的に駆動させても同じ効果を出すことができるが、現像装置を煩雑にすることになり、また、ギアの構成いかんによってはバンディング等の副作用が発生するので、留意する必要がある。トナー規制ローラ104と現像ローラ10との摩擦抵抗のみによってトナー規制ローラ104を回転させるには、現像ローラ10とトナー規制ローラ104との静摩擦係数が大きい方が連れまわりし易い状態となる。しかし、この摩擦係数が大きすぎると作像時においても現像ローラ10とトナー規制ローラ104の摩擦抵抗が大きくなり、摩擦による発熱が生じるので、当接部のトナーの溶着が生じやすくなる。それ故、非現像時での摩擦抵抗を作像時より大きくすることが必要であると考えられる。
【0036】
(実施例1)
ポリエステル樹脂及びメラミン樹脂を固形分比で7:3に配合し、これにITO導電粒子を配合して塗料を調合した。この塗料をφ26mmのアルミローラにスプレー塗装し、160℃で1時間焼成して、アルミローラの表面に約10μmの樹脂被覆層を形成した。そして、この樹脂被覆層の表面を#1000の研磨テープ(研磨剤;SiC)を用いて、約0.05m厚を研磨することにより、表面粗さ(Rz)を1.4〜2.1μmとした平滑面を有する現像ローラとした。
【0037】
このようにして得られた現像ローラの樹脂被覆層の化学組成の測定は、X線光電子分光分析(XPS)を用いて次に示す測定方法で行った。
【0038】
[測定方法]
測定装置:複合表面分析装置 PHI製 ESCA−5600
X線源:Mg−kα線(1253.6eV)
測定深さ:約4nm 楕円形
中和銃:使用
【0039】
以上、現像ローラの樹脂被覆層の化学組成の測定結果、即ち、1)現像ローラの表面層の深さと窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)との関係、2)現像ローラの表面層の深さとトナー帯電量との関係、及び、3)現像ローラの前記N/Cとトナー帯電量との関係は、それぞれ、図3、図4及び図5に示される。
【0040】
また、耐久試験については、現像ローラを1分間空回し後、逆転操作を0.1秒行うとともに、休止10秒するというサイクルで行った。プロセススピードはA4ペーパー20枚/分相当とした。(空回しの時間)÷(20枚/分)の計算により耐久枚数を換算した。耐久の目標は150k枚とした。現像ローラの樹脂被覆層の耐久試験結果は、図6に示される。
【0041】
図2における初期(0→0.05μm)の変化は、樹脂被覆後の樹脂被覆層の表面をテープ研磨により研磨した際の変化である。この初期的な化学組成の変化は、非常に大きく、そのために、この変化が大きい部分をあらかじめ除去しておくことは、経時の大きな変化を防止できることとなる。また、トナー帯電量が高すぎる場合、トナーの逆電荷が樹脂被覆層の表面に残り残像が発生する。さらに、テープ研磨をしない樹脂被覆層の表面は、導電剤が露出していないために、次の表1に示されるように抵抗が高く、残像が発生する。なお、表1において、In(インジウム)は、導電剤であるITOに由来する元素である。また、抵抗は印加電圧30Vの値である。
【0042】
【表1】

【0043】
図4より次のことがわかる。即ち、表面層内部へ行くにしたがって、窒素元素の存在が少なくなるので、トナー帯電量が減少していく傾向にあり、また、樹脂被覆層が約2μm摩耗してN/C比が0.1を下回るとトナー帯電量が−10nC/cm2 を下回り、地汚れが発生しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施の形態を示す現像ローラの断面図である。
【図2】本発明の他の一実施の形態を示す現像ローラの断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態を示す現像ローラの表面層の深さと窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施の形態を示す現像ローラの表面層の深さとトナー帯電量との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態を示す現像ローラの前記N/Cとトナー帯電量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施の形態を示す現像ローラの耐久枚数と表面層の摩耗量との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施の形態を示す現像ローラを用いた現像装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 芯金
2 弾性層
3 基体
4 樹脂被覆層
10,20 現像ローラ
102 トナー供給ローラ
104 トナー規制ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に導電性付与部材としてITOを含有する樹脂被覆層を有する現像ローラであって、前記樹脂被覆層が、分子構造中に窒素元素を有する高分子化合物よりなる樹脂で構成されるか、又は、窒素元素を分子構造中に有する低分子化合物を含有する樹脂で構成され、且つ、前記樹脂被覆層の表面のX線光電子分光分析による窒素元素に対する炭素元素の元素組成比(N/C)が0.10〜0.35である現像ローラにおいて、
(イ)前記窒素元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に減少され、
(ロ)前記ITOの構成物質であるインジウム元素の分布が、前記樹脂被覆層の表面から内部方向に増加され、そして、
(ハ)前記樹脂層の表面における初期の組成変化の大きな部分が、研磨により除去されている
ことを特徴とする現像ローラ。
【請求項2】
前記樹脂被覆層を構成する樹脂が、主鎖又は側鎖に水酸基を有するポリエステル樹脂とアミノ基をエーテル化したトリアジン系樹脂との架橋反応生成物であることを特徴とする請求項1に記載の現像ローラ。
【請求項3】
前記樹脂被覆層の表面粗さ(Rz)が4μm以下であり、且つ、前記樹脂被覆層の表面上の突起が7μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の現像ローラ。
【請求項4】
前記テープ研磨等の研磨加工前には、前記樹脂被覆層の表面から、ITOの構成物質であるインジウムがX線光電子分光分析で検出されず、そして、前記テープ研磨等の研磨加工後には、前記樹脂被覆層の表面から、ITOの構成物質であるインジウムが検出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の現像ローラ。
【請求項5】
現像ローラと、前記現像ローラに接触配置しトナーを供給するトナー供給ローラと、前記現像ローラ上のトナーを規制して薄層を形成するトナー規制ローラとからなる一成分トナーを用いて現像する現像装置において、前記現像ローラとして請求項1〜4のいずれか1項に記載の現像ローラを有することを特徴とする現像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−203894(P2008−203894A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128528(P2008−128528)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【分割の表示】特願2001−322232(P2001−322232)の分割
【原出願日】平成13年10月19日(2001.10.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】