説明

現像装置及び画像形成装置

【課題】現像剤の保持力と供給性が共に高い現像剤供給部材を有し、出力画像に現像剤供給部材に起因したムラが発生することを抑制可能な現像装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】現像剤供給ローラ5の弾性体層にN個(N>1)のスリットSを設け、現像剤供給ローラ5の回転中心から外周面までの径方向の長さに関して、現像剤供給ローラ5の回転方向に向かって設けられたN個のスリットSのうちn番目(n<N)のスリットが設けられたことで分割された弾性体層の2つの分割端部のうち回転方向下流側の分割端部の長さをRa(n)、上流側の分割端部の長さをRb(n)とし、n番目のスリットから、n番目のスリットに対して回転方向上流側に設けられたn+1番目のスリットに至る領域での長さをR(n)とした場合、Rb(n)<Ra(n)、Rb(n)≦R(n)≦Ra(n+1)、Rb(n)<Ra(n+1)の全てを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート等の記録材上に画像を形成する機能を備えた、例えば、複写機、プリンタなどの画像形成装置に関し、特に、これらの装置に備えられる現像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非磁性一成分現像方式を用いた画像形成装置においては、像担持体上に形成された静電潜像を現像剤担持体上の現像剤により現像するものであるが、現像剤担持体上への現像剤の供給は、一般に現像剤供給部材としての現像剤供給ローラにより行われる。現像剤供給ローラは、現像容器内の現像剤を保持し、現像剤担持体としての現像ローラに接触することで、保持していた現像剤を現像ローラに受け渡す。現像剤供給ローラは、現像剤の受け渡しと同時に現像ローラからの現像剤の剥ぎ取り機能も担っており、この供給性と剥ぎ取り性のバランスにより、現像ローラ上の現像剤量は制御される。一般的には、剥ぎ取り性と供給性が共に高いものが望ましい。
【0003】
剥ぎ取り性が低い場合、現像時の履歴が現像ローラ表面上の現像剤層に残り、その面が再度、現像領域に達した時、その履歴の画像が発生する(ゴースト画像)ことが懸念される。また、低い印字率が続く場合などでは、現像ローラ上に同じ現像剤が長い間存在し続けてしまうため、この現像剤は大きな負荷を受け、著しく劣化しやすくなることが懸念される。供給性が低い場合では、例えばベタ画像の連続出力のような現像剤を連続して消費する場合、連続出力の後半で濃度が低下し、現像剤消費の無い紙間直後の現像剤担持体1周目に対して、現像剤消費後の2周目以降で濃度が低下してしまうことが懸念される。このような場合には、1枚の紙面内で濃度の不均一が発生することが懸念される。更にこの現象は、前記の剥ぎ取り性を高くすると一層顕著になりやすくなる。
【0004】
この供給性を高くするためには、現像剤供給ローラの現像剤保持力を高めることが有効である。このため、現像剤供給ローラとしては、ブラシ形状のものやスポンジタイプのものが広く使われている。ブラシ形状のものは、表面において微少な隙間に現像剤を保持することで現像剤の保持力を高めている。スポンジタイプのものは、表面の微細な多数のセル内に現像剤を保持すると共に、内部のセル内にも現像剤を保持することが可能である。
【0005】
更に、現像剤の供給性の向上を図るため、特許文献1では、表面に台形状の凹凸を持たせることで現像剤供給ローラ表面における現像剤の保持力を高めることについて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−52709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の現像剤供給ローラの構成では、現像剤の保持力は高くなるものの、現像剤供給ローラ表面における現像剤層が台形状の凹凸に沿って不均一になっている。この結果、画像上においても現像剤量のムラが発生しやすくなることが懸念される。
【0008】
本発明は上記したような事情に鑑みてなされたものであり、現像剤の保持力と供給性が
共に高い現像剤供給部材を有し、出力画像に現像剤供給部材に起因したムラが発生することを抑制可能な現像装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
像担持体に形成された静電潜像を現像するための現像剤担持体と、
前記現像剤担持体に現像剤を供給する現像剤供給部材であって、回転可能に設けられた芯金、及び前記芯金の外周に設けられた弾性体層を有し、前記弾性体層が前記現像剤担持体に当接するように設けられた現像剤供給部材と、
を有する現像装置において、
前記弾性体層は、
前記弾性体層の外周面にN個(N>1)設けられ、前記現像剤供給部材の回転方向に向かって形成された段差部と、
前記段差部にそれぞれ設けられ、前記弾性体層のうち外周面から内部に向かって設けられたスリット部であって、前記スリット部が設けられたことで分割された2つの分割端部の径方向の長さが異なるように前記段差部を分割するスリット部と、
を有し、
前記現像剤供給部材の回転軸に垂直な断面における、前記現像剤供給部材の回転中心から外周面までの径方向の長さに関して、
前記現像剤供給部材の回転方向に向かって設けられたN個の前記スリット部のうち前記回転方向の下流側から上流側に向かって数えてn番目(n<N)のスリット部が設けられたことで分割された2つの分割端部のうち前記回転方向の下流側の分割端部の長さをRa(n)、上流側の分割端部の長さをRb(n)とし、
n番目のスリット部から、n番目のスリット部に対して前記回転方向の上流側に設けられたn+1番目のスリット部に至る領域での長さをR(n)とした場合、
Rb(n)<Ra(n)
Rb(n)≦R(n)≦Ra(n+1)
Rb(n)<Ra(n+1)
の全てを満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、現像剤の保持力と供給性が共に高い現像剤供給部材を有し、出力画像に現像剤供給部材に起因したムラが発生することを抑制可能な現像装置及び画像形成装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】現像装置の概略構成を示す図。
【図2】本発明を適用可能な画像形成装置の概略構成図。
【図3】プロセスカートリッジの概略構成を示す断面図。
【図4】実施例1の現像剤供給ローラの概略断面図。
【図5】比較例1,2の現像剤供給ローラの概略断面。
【図6】実施例1においてスリット部の変形状態を示す図。
【図7】比較例2においてスリット部の変形状態を示す図。
【図8】他の実施例について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0013】
<画像形成装置>
図2は、本発明を適用可能な画像形成装置Aの概略構成図である。本発明を適用可能な画像形成装置は、電子写真プロセス利用のフルカラーレーザプリンタであり、画像形成装置本体及びこれに着脱自在に設けられたプロセスカートリッジを備えている。プロセスカートリッジには、帯電装置、現像装置、クリーニング装置及び像担持体としての感光体ドラム等が一体となって設けられている。プロセスカートリッジとしては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のプロセスカートリッジBy,Bm,Bc,Bkが設けられており、これらが4連に並べられ(一列に並設され)ている。そして、各色のプロセスカートリッジで、像担持体としての感光体ドラム上に形成された現像剤による像が、転写装置の中間転写ベルト20上に転写されることでフルカラー画像が形成され、その後の記録材への転写工程及び定着工程を経て画像が形成される。ここで、本実施形態における電子写真プロセスは、接触現像装置を適用したものであり、現像剤は各色ともにネガ帯電性を持つ平均粒径6.0μmの非磁性1成分現像剤を使用した。なお、プロセスカートリッジの詳細については後述する。
【0014】
各色のプロセスカートリッジにより感光体ドラム上に形成された現像剤像は、中間転写ベルト20を挟んで各色の感光体ドラムの対向位置に設けられた1次転写ローラ22y,22m,22c,22kにより中間転写ベルト上に1次転写される。中間転写ベルト上に1次転写された現像剤像は、その後、中間転写ベルト20の移動方向下流側に設けられた2次転写ローラ23により、一括して記録材上に2次転写される。なお、中間転写ベルト上の未転写現像剤は、中間転写ベルトクリーナ21によって回収される。記録材Pは画像形成装置Aの下部に設けられたカセット24内に積載されており、印字動作の要求とともに給送ローラ25により搬送され、2次転写ローラ23によって中間転写ベルト上に形成された現像剤像が転写される。その後、記録材上の現像剤像は定着ユニット26により記録材に加熱定着され、排出部27を経て画像形成装置外部に排出される。
【0015】
本画像形成装置においては、4色の各プロセスカートリッジ等を収納する上部ユニットと、転写ユニット及び記録材等を収納する下部ユニットとは分離可能になっている。そして、紙詰まり等のジャム処理発生時やプロセスカートリッジの交換時においては、上下のユニットを開口(分離)することにより前記処理を行う。
【0016】
次に、プロセスカートリッジの構成について述べる。図3は、並列に置かれた4つのプロセスカートリッジの1つについて、感光体ドラム1の回転軸に直交する方向で切断した断面を示した図である。なお、4つのプロセスカートリッジの構成は、本質的には全て同じである。画像形成プロセスの中心となる感光体ドラム1は、アルミニウム製シリンダの外周面に機能性膜である下引き層、キャリア発生層及びキャリア移送層を順にコーティングした有機感光体ドラムを用いている。画像形成プロセスにおいて、感光体ドラム1は所定の速度で画像形成装置により図中矢印a方向へ駆動される。
【0017】
帯電装置である帯電ローラ2は、導電性ゴムのローラ部を感光体ドラム1に加圧接触して図中矢印b方向に従動回転する。ここで、帯電ローラ2の芯金には、感光体ドラム1に対して−1100Vの直流電圧が印加されており、これにより誘起された電荷によって感光体ドラム1の表面電位は−550Vとなり、一様な暗部電位(Vd)が形成される。この一様な表面電荷分布面に対して、スキャナユニット10により画像データに対応して発光されるレーザ光のスポットパターンは、図3中の矢印Lで示すように感光体ドラム1を露光する。露光された感光体ドラム1の部位はキャリア発生層からのキャリアにより表面の電荷が消失し電位が低下する。この結果、露光部位は明部電位Vl=−100V、未露光部位は暗部電位Vd=−550Vの静電潜像が感光体ドラム上に形成される。この静電潜像は、現像装置Dにおいて所定のコート量及び帯電量になるように形成された現像剤コ
ート層により現像され、これにより静電潜像が実像化される。
【0018】
各プロセスカートリッジの感光体ドラム1に接触する中間転写ベルト20は、感光体ドラム1に対向した1次転写ローラ22により感光体ドラム1に加圧されている。また、1次転写ローラ22には直流電圧が印加されており、感光体ドラム1との間で電界が形成されている。これにより、感光体ドラム上で実像化された現像剤像は、中間転写ベルト20が加圧接触する転写領域において、電界の力を受けて感光体ドラム上から中間転写体上に転写される。一方、感光体ドラム1上で中間転写ベルト20に転写されずに残った未転写現像剤は、クリーニング装置Cに設置されたウレタンゴム製のクリーニングブレード6により感光体ドラム表面から掻き落とされ、クリーニング容器内に収納される。
【0019】
図1は、現像作用を行う現像装置の概略構成を示す図である。現像装置Dは、現像剤担持体としての現像ローラ3、現像剤供給部材としての現像剤供給ローラ5、規制部材としての規制ブレード4、現像剤及びこれらを収納する現像容器などから構成される。現像ローラ3は、外径φ6mmの芯金に導電性のシリコーン弾性体層3mmを形成したφ12mmの弾性ローラを用いている。なお、この弾性シリコーンローラのAsker−C硬度は50°である。
【0020】
本実施形態の特徴的な構成である現像剤供給ローラ5は、回転可能に設けられた外径φ5mmの芯金の外周に、発泡ウレタン弾性体層を形成したスポンジローラを用いている。ここで、発泡ウレタン弾性体層は、その表面に平板を1mm侵入させた時の線圧が3gf/mm(29.4mN/mm)になる硬度のものを用いた。現像剤供給ローラ5は、現像ローラ3に対する線圧としての当接圧が4gf/mm(39.2mN/mm)程度になるように、現像ローラ3との軸間距離が12.75mmに設定されている。なお、弾性体層の形状等の詳細については、後述する各実施例及び比較例で述べる。
【0021】
現像ローラ3は、感光体ドラム1に接触しながら感光体ドラム1の回転方向に対して順方向(図中矢印c方向)に回転しており、現像剤供給ローラ5は現像ローラ3に接触しながら現像ローラ3の回転方向と逆方向(図中矢印d方向)に回転する。現像剤供給ローラ5は、現像容器内の現像剤としての非磁性1成分トナーTを保持して現像ローラ3との接触面に搬送し供給するとともに、現像ローラ上において現像部で現像されずに残った現像剤を現像ローラ上から剥ぎ取り、現像容器内に回収する。現像剤供給ローラ5から現像ローラ上に供給された現像剤は、現像ローラ3と規制ブレード4との当接面を通過する際、摩擦帯電により帯電されるとともに、コート層厚の規制を受け、所定の帯電量及びコート層厚を持つ現像剤コート層が形成される。現像ローラ3には、画像形成工程時にDCバイアス=−300Vが印加されており、前記工程によりマイナスに帯電した現像剤は、感光体ドラム1に接触する現像部においてその電位差により明部電位にのみ飛翔し、感光体ドラム上の静電潜像を現像する。なお、本画像形成装置は、市販のレーザプリンタLBP5300(キヤノン株式会社製)をベースにしたものであり、実施例に明記していない項目についてはLBP5300の仕様をそのままの設定で使用している。
【0022】
<実施例及び比較例>
以下に、本実施形態の特徴的な構成である現像剤供給ローラ、実施例及びこれに対する比較例に用いた現像装置の構成、及び本発明を実施することにより得られる効果について、例示的に詳しく説明する。なお、以下の実施例及び比較例において、特に明記していない画像形成装置の構成、画像出力条件等は全て同一である。
【実施例1】
【0023】
実施例1で用いた現像剤供給ローラ5の概略断面図を図4に示す。本実施例の現像剤供給ローラ5は、芯金の周りに弾性体層として体積抵抗値1×1011Ωcmの絶縁性発泡
ウレタン層を持ち、芯金から発泡ウレタン表面まで周方向45°間隔で放射状にスリット部としてのスリットSが入った構造を持つ。そして、現像剤供給ローラ5においては、スリットSで分割されることで、現像剤供給ローラ5の回転方向下流側の分割端部5aと、回転方向上流側の分割端部5bとに分けられる。本実施例の現像剤供給ローラ5では、分割端部5aにおける中心(軸中心、回転中心)からの径方向の長さRaを8mmとし、分割端部5bにおける中心からの径方向の長さRbを7mmとし、隣接するスリット間の外周面形状は平面としている。
【0024】
このように本実施例では、現像剤供給ローラ5の表面(弾性体層の外周面)に、回転方向に向かって複数形成された段差部を有し、その段差部において弾性体層のうち外周面から内部に向かって設けられた(切り込まれた)スリットSを有することを特徴とする。スリットSは、スリットSが設けられたことで分割された2つの分割端部の径方向の長さが異なるように段差部を分割している。そして、段差部における高さは、現像剤供給ローラ5の回転方向下流側で高くなるように構成されている。
ここで、現像剤供給ローラ5にスリットSがN個設けられた場合に、あるn番目のスリットSにおいて、スリットSで分割された2つの分割端部のうち、現像剤供給ローラ5の回転方向下流側の分割端部を5a(n)とし、回転方向上流側の分割端部を5b(n)とする。但し、N>1、n<Nの関係を満たす。また、n番目とは、現像剤供給ローラ5の回転方向の下流側から上流側に向かって数えた場合のn番目をいうものとする。
現像剤供給ローラ5の回転軸に垂直な(直交する)断面における、現像剤供給ローラ5の回転中心(回転軸の軸中心)から外周面までの径方向の長さに関して、次のような関係が成立する。まず、分割端部5a(n)における回転中心から外周面までの径方向の長さをRa(n)とし、分割端部5b(n)における回転中心から外周面までの径方向の長さをRb(n)とする。また、n番目のスリットSに隣接する回転方向上流側のスリットをn+1番目のスリットSとする。すると、長さRa,Rbは全てのnに対して以下の式を満たしている。
Rb(n)<Ra(n)
Rb(n)<Ra(n+1)
【0025】
また、隣接するスリットSで区切られた、連続した領域における外周面の高さは、連続した領域の最上流部の高さと、最下流部の高さの間にある。ここで、n番目のスリットからn+1番目のスリット間の領域における、現像剤供給ローラ中心から外周面までの長さ(径方向の長さ)をR(n)とすると、以下の式を満たしている。
Rb(n)≦R(n)≦Ra(n+1)
【実施例2】
【0026】
実施例2の現像剤供給ローラ5は、弾性体層として体積抵抗値1×10Ωcmの導電性発泡ウレタンを用いている。なお、導電性以外の発泡ウレタンの物性値は、実施例1の発泡ウレタンとほぼ同じであり、現像剤供給ローラの形状も実施例1と同形状である。本実施例においては、画像形成装置本体に設けられた不図示のバイアス供給電源(外部電源)により、画像形成装置本体とプロセスカートリッジに設けられた電気接点を通じて、現像剤供給ローラ5にバイアス印加が可能になっている。現像剤供給ローラ5には、電圧印加部として芯金に電圧が印加される。本実施例においては、DCバイアス−500Vを印加しており、現像ローラ3に対する電位が−200Vとなるように設定している。
【0027】
[比較例1]
比較例1で用いた現像剤供給ローラ105の概略断面図を図5(a)に示す。本比較例における現像剤供給ローラ105は、実施例1と同じ絶縁性の発泡ウレタン層を持ち、その外面形状は実施例1と同形状であるが、発泡ウレタン層にスリット構造を持たない。
【0028】
[比較例2]
比較例2で用いた現像剤供給ローラ105の概略断面図を図5(b)に示す。本比較例における現像剤供給ローラ105は、実施例1と同じ絶縁性の発泡ウレタン層を持ち、実施例1と同様にその内部にスリット構造を持つが、外面形状は表面に段差のない円筒形状である。
【0029】
[比較例3]
比較例3における現像剤供給ローラ105は、実施例2と同様に、弾性体層として体積抵抗1×10Ωcmの導電性発泡ウレタンを用いている。形状は、比較例2と同様に内部にスリット構造を持つが、外面形状は表面に段差のない円筒形状である。
【0030】
[実施例及び比較例の結果]
上記実施例及び比較例に示した現像装置を用いて出力した画像の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0031】
評価用画像出力は、現像装置の初期状態、及び、4000枚画像出力後(現像装置には50gの現像剤を充填し、5000枚の画像出力でトナー不足による画像不良が発生した。)において行った。画像評価は、印字率100%の画像により濃度について実施し、現像剤の保持・供給性を見るために面内の一様性について実施した。また、スリットSと段差部での現像剤の供給ムラを見るためにスジの発生について実施し、現像剤の劣化を見るためにかぶりについて実施した。
【0032】
実施例1では、初期状態から4000枚画像出力後まで画像全体で十分な画像濃度を有しており、画像の前・後半の濃度差も僅かであった。また、スジ、かぶりの発生もなく、良好な出力画像が得られた。実施例2では、実施例1よりも高濃度の画像が得られたが、実施例1と同様、初期状態から4000枚画像出力後まで、画像の前・後半の濃度差も僅かであり、スジ、かぶりの発生もなく良好な出力画像が得られた。一方、比較例1では、画像の前半では十分な反射濃度を有していたが、画像先端から(現像剤供給ローラの外径/周速比)に相当する長さ以降では反射濃度の低下が見られた。さらに、現像剤供給ローラ表面にある凹凸のピッチで画像上にスジが発生した。4000枚画像出力後では、かぶりが増加した。比較例2では、画像の前・後半での濃度差は実施例1と同様に僅かであったが、濃度がやや低く、さらに、現像剤供給ローラに設けたスリットと同じピッチで画像にスジが発生した。比較例3では、画像の前・後半での濃度差は実施例2と同様に僅かであり、十分な濃度の画像が得られた。しかし、比較例2と同様、現像剤供給ローラに設けたスリットと同じピッチで画像にスジが発生した。
【0033】
[実施例及び比較例の考察]
<比較例1及び比較例2に対する実施例1の優位性について>
比較例1及び比較例2に対する実施例1の優位性を示すために、現像ローラとの動的当接シミュレーションを行った。図6(a)は、実施例1の現像剤供給ローラと現像ローラとの当接位置にスリット部があるときのスリット部の変形状態を示す図、図6(b)は、スリット部が当接位置を通過後、スリット部が開き始める位置にあるときのスリット部の変形状態を示す図である。図7は、比較例2の現像剤供給ローラと現像ローラとの当接位置にスリット部があるときの変形状態を示す図である。以上の現像剤供給ローラの変形状態に対する計算結果を用いながら、以下にその詳細を説明する。
【0034】
比較例1の現像剤供給ローラにおいては、表面に長手方向に沿って複数の段差部を持つため、段差部を持たない場合に比べて凹部を中心に現像剤の保持量が多く、現像ローラへの供給性を高めることができる。また、この段差部では、現像ローラからの現像剤の剥ぎ取り力が高いため、段差部のないローラに比べてゴースト画像の発生やトナー劣化に対して優位性を持つ。しかしながら、外周面に凸凹を持つため、この凸凹に沿って保持される現像剤量は変化し易い。そのため、現像ローラへの現像剤の供給はこの凸凹ピッチで変動し、画像上において濃度のピッチムラが発生しやすい。また、剥ぎ取り性についても同様である。この問題に対しては、比較例1に示した形状に対して段差を低く抑えながら、段差部の数を増やすことで改善が図れるが、剥ぎ取り性と供給性を両立させた上で、このピッチムラを消すことは困難である。
【0035】
一方、比較例2の現像剤供給ローラの持つ効果として、スリット部が現像ローラに当接する部分で変形することで段差が発生し、その段差のエッジによる現像剤の掻き取り効果が考えられる。しかしながら、この段差を生む変形では、現像ローラとの動的当接シミュレーションにより求めた結果によると、図7に示すようにスリット部が一時的に開く。このため、この部分での現像剤の供給が不安定になり、横スジ画像が発生しやすい。
【0036】
これに対して、実施例1においては、現像剤の高い供給能力と現像ローラからの高い剥ぎ取り性を持ちながら、前記比較例で問題となっている横スジピッチムラの発生を抑えることを可能にしている。実施例1における現像剤供給ローラの外周部形状は、比較例1と同様である。すなわち、実施例1の現像剤供給ローラにおいては、上述したように、ローラ表面に長手方向に沿って、以下の式を満たす複数の段差部を持つ。
Rb(n)<Ra(n)
Rb(n)<Ra(n+1)
このため、比較例1と同様に表面における現像剤の保持力が高く、現像ローラへの現像剤の搬送能力が高い。
また、実施例1の現像剤供給ローラにおいては、隣接するスリットSで区切られた、連続した領域における外周面の高さは、連続した領域の最上流部の高さと、最下流部の高さの間にあり、上述したように、以下の式を満たすように構成されている。
Rb(n)≦R(n)≦Ra(n+1)
実施例1においては、隣接するスリットSで区切られた、(Rb(n)とRa(n+1)とをつなぐ)連続した領域における外周面を、より好ましい形態として、平面で構成している。ここで、隣接するスリットSで区切られた領域において、Rb(n)以上であって、Ra(n+1)以下であれば、表面に微小な凹凸があってもよい。
【0037】
このような構成とすることにより、現像剤供給ローラ表面における現像剤層が不均一となってしまうことを抑制することができるので、画像上においても現像剤量のムラの発生を抑制することができる。
一方、現像ローラとの当接部での変形は、図6(a)に示すようにスリット部が開くことがないため、スリット部のみで画像濃度が変化するようなことはない。従って、実施例1の現像剤供給ローラにおいては、現像剤の保持力が高く、高い現像剤の供給性と剥ぎ取り性を持ちながら、ピッチムラ(不均一画像)の発生を抑えることが可能となる。また、
実施例1の現像剤供給ローラは、スリット部を持つために変形が容易になり、比較例1の現像剤供給ローラに比べて現像ローラとの接触圧が低い。そのため、現像剤の劣化が抑えられ4000枚出力後もかぶりの悪化が抑えられている。
【0038】
<比較例3に対する実施例2の優位性について>
比較例3に対する実施例2の優位性を示すため、現像ローラとの当接状態における現像剤供給ローラへのバイアス印加の効果について以下にその詳細を説明する。実施例2及び比較例3においては、現像剤供給ローラのスポンジ層を導電性とし、バイアス印加可能にすることで、現像剤供給ローラから現像ローラへの現像剤の供給力アップを図っている。これは、例えば実施例2の場合のようにネガ帯電極性の現像剤を使用する場合に、現像剤が現像剤供給ローラから現像ローラに移動しやすくするために行われる。すなわち、ネガ帯電極性の現像剤を使用する場合に、現像ローラの電位よりも現像剤供給ローラの電位をマイナスに設定することで、この電位差に従ってネガに帯電した現像剤が現像剤供給ローラから現像ローラに移動しやすくなる。
【0039】
画像濃度を上げるためには、感光体ドラムに対する現像コントラストを高くする、現像ローラの表面粗さを大きくして現像ローラ上での現像剤の保持能力を高める、などが一般的に行われる。現像剤供給ローラからの現像剤の供給性が十分でない場合、現像ローラでの現像剤の消費に対して、現像ローラへの供給が間に合わなくなる。このため、現像剤が消費されていない画像の先端部では、現像ローラ上に十分な現像剤があるため、高い濃度が得られるが、その後は画像濃度が落ち、紙面内において前半部と後半部で大きな濃度差が生まれることが懸念される。導電性の現像剤供給ローラは、この課題に対応したものである。従って、一般的な現像剤供給ローラから現像ローラ上への現像剤の供給が、現像剤供給ローラ上の現像剤が現像ローラ上へ擦りつけられることによるものであるのに対し、前記バイアス効果は、この擦りつけの効果には因らず、静電的な効果によることを特徴とする。
【0040】
しかしながら、比較例3の現像剤供給ローラのように、導電性の現像剤供給ローラにスリット部を設けた場合では、このバイアスによる供給性アップの効果が悪影響を与えることが懸念される。比較例2について述べたように、スリット部は現像ローラとの当接部での変形で開くため、他の部分に比べて多くのトナーを供給しやすいが、この開いた部分では、現像剤供給ローラが現像剤を現像ローラ上に押し当てる力がないため、供給性を弱める要素もある。しかしながら、比較例3のようにバイアス効果がある場合では、圧力が無くても存在する現像剤の多くが現像ローラ上に供給される。従って、比較例2の構成を、スリット部を小さくするなどして弊害を小さくしたとしてもスジの発生を抑えることは困難であり、スポンジ層の導電化を併用することは難しい。
【0041】
これに対して、実施例2では実施例1と同様に、スリット部を持ちながら現像ローラとの当接部においてもスリット部が開くことがないため、比較例3のようにスリット部からの現像剤の供給性がバイアスによって特に大きくなるようなことはない。このため、実施例2の現像剤供給ローラでは、実施例1の現像剤供給ローラの効果に、バイアスによる現像剤供給性アップの効果を加えることができる。
【0042】
<実施例1及び実施例2における更なる効果>
現像剤供給ローラにおける現像剤保持力の重要性については既に述べたとおりであるが、前記スリット部には、この保持力に大きな効果があることが分かった。現像剤の保持能力を高めるためには、現像剤供給ローラの表面形状の他、スポンジ層を連泡スポンジにする等によりスポンジ内部への保持量を上げることが効果的である。しかしながら、スポンジ内部への現像剤の保持工程を考えると、現像剤が内部に入る道程は現像剤供給ローラの表面しかない。このため、空泡率が高く保持能力の大きいスポンジであっても、現像剤の
供給と消費は同時に行うことはできず、高印字率の連続した画像では供給性が間に合わなくなる場合がある。また、逆に、低印字率が続く場合では、スポンジ層内の奥に入った現像剤は外部に出ていくことが出来ず、長期間、スポンジ層内部で負荷を受け劣化しやすい。このため、低印字率画像が続いた後で高印字率画像を出した場合では、劣化した現像剤が供給されカブリ画像等の原因となる場合があった。
【0043】
これに対して、実施例1の構成では、図6(b)に示すように、スリット部が現像ローラとの当接部を通過した直後に開くため、このスリット面からスポンジ層内部に現像剤が直接入ることが可能になる。従って、現像剤の供給と消費のルートを別に確保でき、連続した高印字画像に対しても十分な供給性が確保できる。また、スポンジ層内の奥に同じ現像剤が留まり続ける事が減少するため、劣化した現像剤の発生も抑えることが出来る。また、実施例2のように、現像剤供給ローラから現像ローラへの現像剤の供給性を高めた場合には、現像剤供給ローラ自体の持つ現像剤の保持能力はより重要になり、開いたスリット部からの現像剤の供給性はより大きな効果となる。
【0044】
なお、実施例1及び実施例2における現像剤供給ローラの構成については、外周部に段差部を持ち、その段差部の位置において内部に向かってスリット部を持つことを特徴とするものである。よって段差の大きさ、段差の間隔、スリットの向き及びスリットの深さ等の最適な条件は、現像剤供給ローラの硬度や当接条件及び他の現像条件等により異なり、その条件に合わせることが望ましい。
【0045】
図8は他の実施例について説明するための図である。図8(a)は、実施例1の現像剤供給ローラよりも段差が大きく、現像剤の供給性を上げる効果がある。図8(b)は、実施例1の現像剤供給ローラよりも段差の間隔が狭く、現像剤の保持・供給性を上げるとともに、現像ローラとの接触圧を下げ現像剤の耐久劣化を抑える効果がある。図8(c)は、スリットの方向が現像剤供給ローラの中心点からずれており、より変形が容易なため接触圧が低く、現像剤の耐久劣化を抑える効果がある。図8(d)は、スリットが芯金まで届いていない構造であり、スリットの深さを調節することで現像剤の供給性、構造的柔軟性をコントロールすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 感光体ドラム ; 3 現像ローラ ; 5 現像剤供給ローラ ; D 現像装置 ; S スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体に形成された静電潜像を現像するための現像剤担持体と、
前記現像剤担持体に現像剤を供給する現像剤供給部材であって、回転可能に設けられた芯金、及び前記芯金の外周に設けられた弾性体層を有し、前記弾性体層が前記現像剤担持体に当接するように設けられた現像剤供給部材と、
を有する現像装置において、
前記弾性体層は、
前記弾性体層の外周面にN個(N>1)設けられ、前記現像剤供給部材の回転方向に向かって形成された段差部と、
前記段差部にそれぞれ設けられ、前記弾性体層のうち外周面から内部に向かって設けられたスリット部であって、前記スリット部が設けられたことで分割された2つの分割端部の径方向の長さが異なるように前記段差部を分割するスリット部と、
を有し、
前記現像剤供給部材の回転軸に垂直な断面における、前記現像剤供給部材の回転中心から外周面までの径方向の長さに関して、
前記現像剤供給部材の回転方向に向かって設けられたN個の前記スリット部のうち前記回転方向の下流側から上流側に向かって数えてn番目(n<N)のスリット部が設けられたことで分割された2つの分割端部のうち前記回転方向の下流側の分割端部の長さをRa(n)、上流側の分割端部の長さをRb(n)とし、
n番目のスリット部から、n番目のスリット部に対して前記回転方向の上流側に設けられたn+1番目のスリット部に至る領域での長さをR(n)とした場合、
Rb(n)<Ra(n)
Rb(n)≦R(n)≦Ra(n+1)
Rb(n)<Ra(n+1)
の全てを満たすことを特徴とする現像装置。
【請求項2】
前記弾性体層は導電性を有し、
前記現像剤供給部材は、外部電源より電圧印加される電圧印加部を有することを特徴とする請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
像担持体と、
前記像担持体に現像作用を行う請求項1又は2に記載の現像装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−112706(P2011−112706A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266444(P2009−266444)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】