説明

環状カーボナート化合物およびその製造方法、ならびに重合体

【課題】放射線に対する透明性に優れ、レジスト溶剤に対する溶解性に優れるレジスト用樹脂を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される環状カーボナート化合物。


式(1)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは単結合またはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表し、pが0または1でnが0のとき、mは1または2であり、pが0でnが1のとき、または、pが1でnが1のとき、mは0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KrFエキシマレーザーあるいはArFエキシマレーザー等の遠紫外線、シンクロトロン放射線等のX線、電子線等の荷電粒子線の如き各種の放射線を使用する微細加工に有用な化学増幅型レジストの単量体として好適に使用できる環状カーボナート化合物およびその製造方法、ならびに環状カーボナート化合物を重合させた重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路素子の製造に代表される微細加工の分野においては、より高い集積度を得るために、最近ではKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、F2エキシマレーザーあるいはEUV(極紫外線)等の遠紫外線、シンクロトロン放射線等のX線、電子線等の荷電粒子線等を用いた100nm程度以下のレベルでの微細加工が可能なリソグラフィー技術が必要とされている。
このような放射線に適したレジストとして、酸解離性官能基を有する樹脂成分と放射線の照射により酸を発生する成分である酸発生剤とによる化学増幅効果を利用した化学増幅型レジストが数多く提案されている。化学増幅型レジストの樹脂成分として、ラクトン環を側鎖に有する樹脂も数多く提案されている。
しかしながら、半導体分野において、より高い集積度が求められるようになると、従来の技術では新たなレジストの要求特性を十分に満足できる樹脂成分が得られないという問題があり、新規な樹脂の出現が望まれている。
【0003】
一方、環状カーボナート化合物を側鎖に有する樹脂を製造するための原料となる環状カーボナート化合物の合成については、既に知られている。例えば、常圧下でエポキシドと二酸化炭素とを反応させて高い効率で環状カーボナート化合物が得られることを遠藤等は報告している(非特許文献1)。
また、触媒としてベタイン塩基類を用いてエポキシドと二酸化炭素とを反応させて環状カーボナート化合物を得る方法についても知られている(非特許文献2)。
さらに、エポキシドを側鎖に有する単量体を用いた共重合体も知られている(特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、半導体分野において、より高い集積度が求められるため、レジストに用いられる樹脂成分は、放射線に対する透明性が高く、レジスト溶剤に対する溶解性が優れている等の特性などが同時に求められるようになってきた。
エポキシドを側鎖に有する単量体を用いた共重合体など、これまでの技術ではこれらの要求特性を十分に満足できる樹脂成分が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Endo et. al. J Org. Chem, 1993, 58, 6198-6202
【非特許文献2】Y.Zhou et. al.J of Molecula Catalysts A:Chemical 284(2008)52-57
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−133373
【特許文献2】特許第3055495号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に対処するためになされたもので、放射線に対する透明性に優れ、レジスト溶剤に対する溶解性に優れるレジスト用樹脂を合成できる環状カーボナート化合物およびその製造方法、ならびにレジスト用樹脂として使用できる重合体の提供を目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の環状カーボナート化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【化1】

式(1)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは単結合またはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表す。
特に、pが0または1でnが0のとき、mは1または2であり、pが0でnが1のとき、または、pが1でnが1のとき、mは0であることを特徴とする。
【0008】
本発明の環状カーボナート化合物の製造方法は、下記式(2)で表されるエポキシ基を有する化合物と、二酸化炭素とを反応させることを特徴とする。
【化2】

式(2)において、R、X、p、nおよびmは、式(1)におけるそれらと同一である。
【0009】
本発明の重合体は、下記式(4)で表される繰り返し単位を含み、重量平均分子量が1,000〜100,000であることを特徴とする。
【化3】

式(4)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは単結合またはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の環状カーボナート化合物は、重合性不飽和結合を有しているので容易に重合体が得られる。得られる重合体は、その側鎖に環状カーボナートを有するので、放射線に対して透明であり、かつ高屈折率であり、またレジスト溶剤に対する溶解性に優れる。
また、他の単量体との共重合体とすることにより、化学増幅型レジストを容易に得ることができる。
本発明の製造方法によれば、室温付近の低い反応温度で環状カーボナート化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】環状カーボネートへの転換率を表す図である。
【図2】式(ll)で表される化合物の1H NMR図である。
【図3】式(ll)で表される化合物の13C NMR図である。
【図4】式(ll)で表される化合物の赤外分光チャート図である。
【図5】式(ll)で表される化合物の重合体の1H NMR図である。
【図6】式(ll)で表される化合物の重合体の赤外分光チャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記式(1)、式(2)および式(4)において、Rとして表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、1−メチルプロピル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基が挙げられる。これらの中で原料入手が容易であるメチル基が好ましい。
本願発明において、Rは水素原子またはメチル基であることがラジカル重合における高い反応性、得られる重合体の物性解析の容易さから好ましい。
【0013】
Xとして表されるヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基もしくは1,2−プロピレン基等のプロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、ヘプタデカメチレン基、オクタデカメチレン基、ノナデカメチレン基、インサレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル1,3−プロピレン基、2−メチル−1,2−プロピレン基、1−メチル−1,4−ブチレン基、2−メチル−1,4−ブチレン基、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、または、2−プロピリデン基等の飽和鎖状炭化水素基、1,3−シクロブチレン基等のシクロブチレン基、1,3−シクロペンチレン基等のシクロペンチレン基、1,4−シクロヘキシレン基等のシクロヘキシレン基、1,5−シクロオクチレン基等のシクロオクチレン基等の炭素数3〜10のシクロアルキレン基等の単環式炭化水素環基、−CH2CH2−O−基等が挙げられる。
これらの中で、メチレン基、エチレン基、−CH2CH2−O−基が工業的に原料入手が容易であるので好ましい。
【0014】
上記式(1)、式(2)および式(4)において、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表す。
特に、pが0または1でnが0のとき、mは1または2であり、pが0でnが1のとき、または、pが1でnが1のとき、mは0であることが好ましい。
すなわち、p、n、mは以下の関係を有する。
(1)p=0、かつn=0のとき、m=1または2、
(2)p=0、かつn=1のとき、m=0、
(3)p=1、かつn=0のとき、m=1または2、
(4)p=1、かつn=1のとき、m=0である。
【0015】
上記p、nおよびmを含む基の好ましい例を以下の(a)〜(e)に表す。
【化4】

上記(a)〜(e)の基の中で、好ましいものは(a)および(d)である。その理由は前駆体の入手および合成が容易なためである。
【0016】
式(1)で表される好ましい環状カーボナート化合物の具体例を以下の式(1−1)〜式(1−6)に表す。
【化5】

【0017】
式(1)で表される環状カーボナート化合物は、式(2)で表されるエポキシ基を有する化合物と二酸化炭素とを触媒の存在下で反応させる、以下の方法で製造できる。
【化6】

【0018】
式(2)で表されるエポキシ基を有する化合物は市販品として入手できる。
触媒としては、アミジン構造を有する化合物およびハロゲン化アルカリ金属を用いることが好ましい。
好ましいアミジン構造を有する化合物としては、下記式(3)で表される環状アミジン化合物が挙げられる。
【0019】
【化7】

式(3)におけるR1およびR2としては、水素原子、炭素数が1〜12のアルキル基、アリール基等が挙げられる。また、R1とR2とが相互に結合する窒素含有脂環式基としては、炭素数5〜8の窒素含有脂環式基が挙げられる。
これらの中で、好ましい環状アミジン化合物を式(3−1)〜式(3−3)に挙げる。
【化8】

上記式(3−1)〜式(3−3)で掲げる環状アミジン化合物は、化学的に安定で、工業的に入手しやすいので本発明の触媒として好ましい。
【0020】
ハロゲン化アルカリ金属としては、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、沃化ナトリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、沃化リチウムを挙げることができる。
これらの中で臭化リチウムが反応定数が大きく、また高い収率を得られるので好ましい。
また、ハロゲン化アルカリ金属にアルキルオニウム塩を併用することができる。アルキルオニウム塩は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、またはドデシル基などの炭素数1〜12のアルキル基、またはベンジル基の4級化アンモニウム塩、4級化ホスホニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられ、オニウム塩の対イオンとしては、臭素イオン、塩素イオン、よう素イオンが挙げられる。具体例としては、テトラブチルアンモニウムブロミドを挙げることができる。また、これらを混合物として用いることができる。
【0021】
アミジン構造を有する化合物と、ハロゲン化アルカリ金属と、アルキルオニウム塩との併用において、その割合は、[アミジン]/[エポキシド]=0.01〜1(mol/mol)、[ハロゲン化アルカリ金属]/[エポキシド]=0.01〜1(mol/mol)、[アルキルオニウム塩]/[エポキシド]=0.01〜1(mol/mol)であることが好ましい。この範囲とすることにより、反応温度100℃未満の反応温度で環状カーボネート化合物を高い収率で製造できる。
【0022】
反応条件を以下に示す。
二酸化炭素が充填されたガスバルーンが取り付けられた反応容器にアミジン構造を有する化合物を所定量投入して、その後ハロゲン化アルカリ金属、アルキルオニウム塩および原料のエポキシ基を有する化合物を添加し、1時間〜10日間の反応時間、好ましくは3時間〜7日間の反応時間、100℃未満の反応温度、好ましくは室温〜80℃、より好ましくは室温〜60℃の反応温度で、大気圧(1気圧)下に反応させる。
上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒中でも反応できる。好ましい溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン極性溶媒が好ましい。この条件とすることにより、反応温度100℃未満の反応温度で環状カーボネート化合物を高い収率で製造できる。
【0023】
上記製造方法で得られる式(1)で表される環状カーボナート化合物は、化学増幅型のフォトレジスト用重合体の物性改良材料として、またはラクトン構造を側鎖に有する単量体の代替として利用できる。
【0024】
本発明の重合体は、上記式(4)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする。式(4)で表される繰り返し単位は、式(1)で表される環状カーボナート化合物を単量体として重合させることにより製造することができる。
【0025】
また、本発明の重合体は、化学増幅型のフォトレジスト用重合体とする場合は、酸解離性基を含む繰り返し単位を含むことが好ましい。酸解離性基を含む繰り返し単位としては例えば式(5)で表される繰り返し単位を挙げることができる。
【化9】

式(5)において、R3は水素原子またはメチル基を示し、各R4は相互に独立に炭素数4〜20の1価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体または炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示し、かつR4の少なくとも1つが該脂環式炭化水素基もしくはその誘導体であるか、あるいは何れか2つのR4が相互に結合して、それぞれが結合している炭素原子とともに炭素数4〜20の2価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を形成し、残りのR4が炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基または炭素数4〜20の1価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を表す。
【0026】
本発明における重合体は、例えば、その各繰り返し単位に対応する重合性不飽和単量体を、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、ジアシルパーオキシド類、アゾ化合物等のラジカル重合開始剤を使用し、必要に応じて連鎖移動剤の存在下、適当な溶媒中で重合することにより製造することができる。
上記重合に使用される溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素類;クロロブタン類、ブロモヘキサン類、ジクロロエタン類、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、プロピオン酸メチル等の飽和カルボン酸エステル類;2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘプタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン類、ジエトキシエタン類等のエーテル類等を挙げることができる。
これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
また、重合における反応温度は、通常、40〜120℃、好ましくは50〜90℃であり、反応時間は、通常、1〜48時間、好ましくは1〜24時間である。
【0027】
本発明における重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、通常、1,000〜100,000、好ましくは1,000〜30,000、さらに好ましくは1,000〜20,000である。この場合、樹脂のMwが1,000未満では、レジストとしたときの耐熱性が低下する傾向があり、一方100,000をこえると、レジストとしたときの現像性が低下する傾向がある。
また、樹脂のMwとゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、「Mn」という。)との比(Mw/Mn)は、通常、1〜5、好ましくは1〜3である。
上記重合体は、化学増幅型のフォトレジストの樹脂成分として利用できる。
【実施例】
【0028】
実施例1
【化10】

セプタムキャップ付き反応用試験管内に8ml(50mmol、9.7g)の上記式(l)で表される化合物(ダイセル(株)社、市販品)と487mg(4.96mmol)のMTHP(N−メチルテトラヒドロピリミジン)をとり、セプタムキャップを用いて蓋をした。二酸化炭素バブリング用のシリンジ針と圧抜き用の二本のシリンジ針をセプタムキャップに差し込んだ後、二酸化炭素ガスを室温で15分間バブリングした。その後、2.31g(7.17mmol)のBu4NBr(テトラブチルアンモニウムブロミド)と347mg(4.00mmol)のLiBr(臭化リチウム)を添加した後、55℃で二酸化炭素をバブリングしながら7日間反応させた。式(l)で表される化合物から式(ll)で表される化合物への転換率は1H NMRにより算出した。結果を図1に示す。図1上段は転換率を表す図であり、下段は1H NMRの測定を示す図である。
【0029】
転換率は1H NMRにより算出された。図1の下段に示すように、環状カーボネートに結合している水素原子bの積分値より求めた。また、エポキシ環に結合している水素原子aの積分値と環状カーボネートに結合している水素原子bの積分値の合計がメタアクリレートの二重結合に結合している水素原子cの積分値に等しくなるので、(a+b)の積分値がcの積分値よりも大きくなると、その差はメタアクリレートの重合により生じたものとして、ポリメタアクリレート積分値を算出した。
【0030】
反応終了後、室温に戻し、アセトン10mlを添加し、30分間放置した。500mlビーカーに反応混合物を移し、200mlの酢酸エチルを添加した。不溶部が生じるので、酢酸エチル可溶部を分液ロートに移し、水で3回洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去することにより9.8gの粗生成物を得た。得られた粗成生物を30mlのサンプル瓶に移し、20mlのシクロヘキサンを添加し、2時間激しく撹拌した。2時間後、シクロヘキサンが上層として分離するので除去した。同様の操作を2〜3回繰り返した。得られたシクロヘキサン不溶部を、酢酸エチルに溶解後、水および飽和食塩水で洗浄した。酢酸エチル層を、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去することにより4.7gの上記式(ll)で表される化合物を収率40mol%で得た。
【0031】
得られた式(ll)で表される化合物の1H NMR結果を図2に、13C NMR結果を図3に、赤外分光チャートを図4にそれぞれ示す。
異性体と思われるピークが一部見られるが、図2〜図4の結果より、式(ll)で表される化合物の生成が確認された。
【0032】
また、式(ll)で表される化合物の極性を液体クロマトグラムの保持時間で評価した。液体クロマトグラフィーの条件は、カラムがGL Sciences製Inertsil 3Series(OD3、5μm、4.6mm×250mm)であり、展開溶媒がアセトニトリル/水=80/20(質量%)である。式(ll)で表される化合物の保持時間は3.72であった。この値は同一条件で測定した5−メタクリロイルオキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトンの保持時間3.81と略同じあり、式(ll)で表される化合物は、レジスト材料として使用されているラクトン環を有する化合物と同等の極性を有していることが分かった。
【0033】
実施例2
式(ll)で表される化合物137mg(0.57mmol)を2.0M、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をモノマーに対して3mol%の濃度でクロロベンゼンに溶解した。この溶液を凍結脱気法により溶存酸素を除去した後、封管中70℃で16時間加熱することにより重合させた。反応終了後、内容物をメタノール中に滴下して生じた沈殿をろ過により回収し、乾燥させることで重合体を得た(収率約40mol%)。
得られた重合体は、メタノール、ヘキサン、クロロベンゼン、クロロホルムに不溶であり、ジメチルスルホキシド(DMSO)には一部可溶、ジメチルホルムアミド(DMF)には可溶であった。
得られた重合体を、東ソー社製GPCカラム(G2000HXL 2本、G3000HXL 1本、G4000HXL 1本)を用い、流量1.0ml/分、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、重量平均分子量(Mw)は63,000で、Mw/Mn(数平均分子量)は2.79であった。
また、得られた重合体の1H NMR結果を図5に、赤外分光チャートを図6にそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の環状カーボナート化合物は、KrFエキシマレーザーあるいはArFエキシマレーザー等の遠紫外線、シンクロトロン放射線等のX線、電子線等の荷電粒子線の如き各種の放射線に対する透明性に優れ、かつレジスト溶剤に対する溶解性に優れているので、今後さらに微細化が進行すると予想される半導体デバイス製造用の化学増幅型のフォトレジスト用重合体の物性を改良する原材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状カーボナート化合物。
【化11】

(式(1)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは単結合またはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表す。)
【請求項2】
前記式(1)において、pが0または1でnが0のとき、mは1または2であり、pが0でnが1のとき、または、pが1でnが1のとき、mは0であることを特徴とする請求項1記載の環状カーボナート化合物。
【請求項3】
下記式(2)で表されるエポキシ基を有する化合物と、二酸化炭素とを反応させることを特徴とする環状カーボナート化合物の製造方法。
【化12】

(式(2)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは単結合またはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表す。)
【請求項4】
下記式(4)で表される繰り返し単位を含み、重量平均分子量が1,000〜100,000である重合体。
【化13】

(式(4)において、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは単結合またはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、pは0または1、nは0または1、mは0、1または2を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−235910(P2010−235910A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196879(P2009−196879)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】