環状シームレス成形体製造用の連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置
【課題】膜厚が比較的均一で、かつ破損のない成形体を十分に生産性よく製造できる環状シームレス成形体製造用の連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなり、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて、環状シームレス成形体を製造するための連結式金型であって、樹脂溶液の塗布の際に金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成とした連結式金型。上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布する環状シームレス成形体の製造方法。
【解決手段】軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなり、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて、環状シームレス成形体を製造するための連結式金型であって、樹脂溶液の塗布の際に金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成とした連結式金型。上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布する環状シームレス成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環状シームレス成形体製造用の連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンター等の画像形成装置において、感光体、中間転写体および定着ベルト等としては、薄肉の樹脂ベルトがよく用いられる。そのような樹脂ベルトは変形が可能なため、装置の小径化に有用である。樹脂ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がないシームレスベルトが好ましい。
【0003】
シームレスベルトは、例えば、金型の外周面または内周面に樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱し、得られた樹脂膜を脱型する方法によって製造される。特に、ポリイミド樹脂からなるシームレスベルトは、金型の外周面または内周面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱して乾燥および反応させ、得られた樹脂膜を脱型する方法によって製造される。金型は一般に、樹脂膜の脱型を容易にするために、樹脂溶液塗布面にメッキ膜やシリコーン樹脂膜等の離型層が形成されて使用される(例えば、特許文献1〜3)。また金型は軸方向長さを所望の成形体の幅と略同等に設定され、量産時には数百本用意され、それらを繰り返して使用される。
【0004】
しかしながら、従来の製造方法では、1つの金型ごとに、上記した方法が適用されるので、生産性が問題となっていた。また1つの金型ごとに、樹脂溶液は塗布されるので、塗布の際の塗布開始部分と塗布終了部分に相当する成形体端部において膜厚が不均一になり、その両端をカットする必要があった。さらには、1つの金型ごとに、樹脂溶液を塗布し、加熱するので、樹脂溶液の液垂れ等の観点から、金型には端部を残して樹脂溶液を塗布する必要があり、離型層の酸化劣化が生じていた。詳しくは、離型層は金型の樹脂溶液塗布面全面に形成されるので、金型端部で離型層が露出した状態で加熱を行うと、当該露出領域が酸化劣化した。酸化劣化した離型層上に、樹脂溶液が塗布され加熱されると、樹脂膜が金型から離れず、樹脂膜成形体の破損が起こった。
【特許文献1】特開平1−156017号公報
【特許文献2】特開平6−23770号公報
【特許文献3】特開2004−291367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の発明者等は、軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなる連結式金型を提案した。そのような連結式金型の表面に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返す。これによって、成形体の生産性等が向上する。
【0006】
しかしながら、上記方法では、金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液が進入する、という新たな問題が生じた。つなぎ目に樹脂溶液が進入すると、得られる成形体において、進入した樹脂がバリとなって残るので、成形体を金型ユニットから脱型する際に円滑に脱型できない。しかも、当該バリを除去する工程を要する。そのため、生産性が十分ではなかった。
【0007】
本発明は、環状シームレス成形体の生産性に十分に優れた連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、膜厚が比較的均一で、かつ破損のない成形体を十分に生産性よく製造できる環状シームレス成形体製造用の連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなり、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて、環状シームレス成形体を製造するための連結式金型であって、
樹脂溶液の塗布の際に金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成としたことを特徴とする連結式金型に関する。
【0010】
本発明はまた、上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布することを特徴とする環状シームレス成形体の製造方法に関する。
【0011】
本発明はまた、上記連結式金型を有する環状シームレス成形体の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金型は連結式構造を有するので、当該連結式金型に樹脂溶液を連続的に塗布することにより、成形体の連続製造が可能となる。しかも、本発明の連結式金型は、金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成を有するので、円滑な脱型が可能となる。よって、本発明の金型は生産性に十分に優れている。
本発明の連結式金型はその表面に樹脂溶液を連続的に塗布され、塗布が中断することはないため、得られる成形体の膜厚は比較的均一である。
本発明の連結式金型はその表面全面に樹脂溶液を連続的に塗布され、離型層の露出がないので、成形体の破損を防止できる。
本発明の連結式金型を使用すれば、たとえ成形体に破損が生じても、当該破損が生じた金型ユニットのみを取り替えればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<金型>
本発明に係る金型は、表面に樹脂溶液を塗布されて、環状シームレス成形体を製造するためのものであって、軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなる連結式構造を有するものである。樹脂溶液は連結式金型の外周面に塗布されても、または内周面に塗布されてもよい。樹脂溶液を連結式金型外周面に塗布する場合、当該連結式金型を構成する金型ユニットは中空体であってもよいし、または中実体であってもよい。樹脂溶液を金型内周面に塗布する場合、当該連結式金型を構成する金型ユニットは中空体である。
【0014】
本発明の連結式金型(以下、単に「金型」ということがある)を構成する金型ユニットは、2個以上用意したとき、軸方向で互いに連結/切り離し可能なものであり、例えば、両端に連結部を有し、一端の連結部が他端の連結部と嵌合可能な形状を有する金型ユニットであればよい。嵌合とは、一方の凸部を他方の凹部に嵌入させることによって結合を達成することである。
【0015】
そのような金型ユニットの具体例として、例えば、図1に示すものが挙げられる。図1は本発明の連結式金型を構成する金型ユニットの一実施形態を示す概略断面構成図であり、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための後述する本発明の詳しい構成については図示しないものとする。本明細書中、断面とは、金型ユニット軸を通る断面を意味するものとする。
図1に示す金型ユニット1は一端に凸部2を有し、他端に凹部3を有し、当該凸部2および凹部3は互いに嵌合可能な形状を有するものである。そのため、そのような金型ユニットを複数個用意したとき、凸部−凹部間の嵌合によって連結/切り離し可能に連結できる。金型ユニット1は中空形状を有しているので、外周面に樹脂溶液が塗布されても、または内周面に樹脂溶液が塗布されてもよい。
【0016】
金型ユニット1の軸方向長さXは、従来の金型の軸方向長さに対応するものであり、環状シームレス成形体1個分の所定幅Yに等しくてよいが、これに制限されるものではなく、例えば、Y以上であっても、n×Y(nは2以上の自然数;Yの整数倍長)に等しくても、またはn×Yより大きくても良い。環状シームレス成形体の製造スペース確保の観点から、長さXは当該所定幅Yに等しいことが好ましい。図1における寸法Zは、得ようとする環状シームレス成形体の用途等に依存して決定されるため、特に制限されるものではない。
【0017】
金型ユニットを構成する材料としては、シームレス成形体の製造時における加熱によっても変形が起こらないものであれば特に制限されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、鋼、ステンレス等の金属、アルミナ、炭化珪素等のセラミックス、およびポリイミド、ポリアミドイミド等の耐熱樹脂等が好ましく使用される。中でも市場流通性、耐溶剤性、熱伝導性、強度等の観点から、アルミニウムが特に好ましく用いられる。上記金属からなる金型ユニットを製造するに際しては、溶融金属を特定形状の鋳型へ流し込み、冷却した後、切削等を施せばよい。特にアルミニウムを用いる場合は、管材、あるいは棒材を切削により所定の形状にすればよく、金属の中でも切削性に優れるため、加工しやすい特徴があり、型生産効率を上げられる。
【0018】
金型ユニットにおける樹脂溶液塗布面には離型層が形成されていることが好ましい。
離型層を構成する材料としては特に制限されず、例えば、シリコーン樹脂やフッ素含有樹脂等を被覆したり、シリコーン系、フッ素系離型剤をコーティングして使用される。
【0019】
本発明の連結式金型の一実施形態を図2に示す。図2に示す連結式金型10は、図1に示す金型ユニット1を5個だけ連結させてなるものである。図2は本発明の連結式金型の一実施形態を示す概略断面構成図であり、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための後述する本発明の詳しい構成については図示しないものとする。
金型を構成する金型ユニットの数は2個以上であれば特に制限されるものではなく、後述の環状シームレス成形体の製造方法において金型ユニットを切り離すタイミングに応じて適宜決定されてよい。金型ユニットを塗布完了直後に切り離す場合、金型ユニット数はそれほど多く設定する必要はなく、例えば、2〜10個、特に4〜7個程度でよい。一方、金型ユニットを乾燥あるいは焼成後に切り離す場合等、金型ユニットの切り離しのタイミングを遅く設定するほど、より多くの金型ユニットが必要になる。
【0020】
本発明の連結式金型は、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて使用される。
樹脂溶液の塗布方法は、連結式金型に対して軸方向一端側からの塗布が可能であれば特に制限されず、通常はリングコート法、ブレードコート法、バーコート法、ロールコート法が採用され、縦塗りが可能なこと、外塗りと内塗りのどちらでも可能なこと、といった観点から、リングコート法が好ましい。
【0021】
リングコート法においては、金型の樹脂溶液塗布面と所定の間隙を確保しつつ、当該金型に対して相対的に移動しながら、環状に有するスリットより樹脂溶液を金型の全周にわたって一様な速度で吐出する樹脂溶液用環状スリットヘッドを用いて塗布を行う。樹脂溶液用環状スリットヘッドは樹脂溶液を貯蔵および供給する供給槽と一体化された構成を有していてもよいし、または当該供給槽を外部に配置した構成を有していてもよい。
【0022】
樹脂溶液を連続的に塗布するとは、複数の金型ユニットからなる連結式金型に一端側から樹脂溶液を塗布するに際し、1つの金型ユニットの塗布を終えた後、中断することなく、前記一端側から他端側への方向で隣の金型ユニットの塗布を連続的に行うという意味である。
【0023】
本発明の連結式金型の使用例を図3(A)および図3(B)に示す。
図3(A)では、3個の金型ユニット1a〜1cを連結してなる連結式金型10aは、その外周面に対して一端側から樹脂溶液4を塗布方向Dcで環状スリットヘッド11aにより連続的に塗布される。
図3(B)では、3個の金型ユニット1a〜1cを連結してなる連結式金型10bは、その内周面に対して一端側から樹脂溶液4を塗布方向Dcで環状スリットヘッド11bにより連続的に塗布される。
【0024】
本発明においては連結式金型を、そのような樹脂溶液の連続的塗布に際して金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成としたことを特徴とする。
そのような構成として、以下に示す構成(1)〜構成(4)が挙げられる。
【0025】
構成(1);
連結式金型に対する樹脂溶液の連続的塗布を樹脂溶液用環状スリットヘッドにより行うに際し、図4に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて下流側の金型ユニット1yにおける環状スリットヘッド11との間隙が上流側の金型ユニット1xよりも広いか、または等しい構成とする。すなわち、下流側金型ユニット1yと環状スリットヘッド11との間隙長さLyは、上流側金型ユニット1xと環状スリットヘッド11との間隙長さLx以上であり、好ましくはLxよりも大きい。LxおよびLyが上記関係と逆の関係を有すると、樹脂溶液が下流側金型ユニット1yのエッジによってかき取られ、かき取られた樹脂溶液が塗布方向に逆流し、つなぎ目内部へ進入する。
【0026】
本構成における間隙長さの上記関係は、通常、上流側金型ユニット1x全体と下流側金型ユニット1y全体との間で満足されるが、図4に示すように上流側金型ユニット1xにおける塗布方向で下流側5mm以上の端部Exと、下流側金型ユニット1yにおける塗布方向で上流側5mm以上の端部Eyとの間で満足されればよい。間隙長さの上記関係は隣接する任意の金型ユニット間において満足される。図4に示す拡大模式図は、例えば、図3(A)および図3(B)におけるP領域と略同等の領域に対応し得る。
【0027】
本構成における間隙長さの上記関係は通常、上流側金型ユニット1xおよび下流側金型ユニット1yの外径または内径を調整することにより達成できる。
例えば、金型ユニットの外周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、下流側金型ユニット1yの外径doyは上流側の金型ユニット1xの外径dox以下とし、好ましくは外径dox未満とする。doxとdoyとの差は、つなぎ目16への樹脂溶液4の進入を防止できる限り特に制限されず、通常は0〜10μm、好ましくは0〜4μmである。
【0028】
また例えば、金型ユニットの内周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、下流側金型ユニット1yの内径diyは上流側の金型ユニット1xの内径dix以上とし、好ましくは内径dixを超えるようにする。dixとdiyとの差は、つなぎ目16への樹脂溶液の進入を防止できる限り特に制限されず、通常は0〜10μm、好ましくは0〜4μmである。
【0029】
構成(2);
樹脂溶液塗布面における金型ユニット間のつなぎ目の断面形状を、樹脂溶液塗布方向に対して鉛直方向を基準に塗布方向の上流側へ傾斜させた形状とする。すなわち、図5に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側金型ユニット1xと下流側金型ユニット1yとの間のつなぎ目16を、樹脂溶液塗布方向Dcに対して鉛直方向Dvを基準に塗布方向の上流側へ傾斜させた断面形状とする。本構成における金型ユニット1x、1y間の関係は隣接する任意の金型ユニット間において満足される。図5に示す拡大模式図は、例えば、図3(A)および図3(B)におけるQ領域と略同等の領域に対応し得る。
【0030】
本構成において傾斜角θは、つなぎ目16への樹脂溶液4の進入を防止できる限り特に制限されず、例えば15°以上、特に20〜45°である。
【0031】
上記つなぎ目の断面形状はつなぎ目の全体形状として達成されてもよいが、本発明においては金型における少なくとも樹脂溶液塗布面近傍において有していればよい。例えば、図5に示すような断面図において樹脂溶液塗布面からの傾斜長さTは1.5mm以上あればよい。
【0032】
構成(3);
金型ユニット間のつなぎ目に金型の樹脂溶液塗布面に向けてエアーを流す。すなわち、図6に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側金型ユニット1xと下流側金型ユニット1yとの間のつなぎ目16に金型の樹脂溶液塗布面に向けてエアー13を流す。図6に示す拡大模式図は、例えば、図3(A)および図3(B)におけるQ領域と略同等の領域に対応し得る。
【0033】
例えば、金型の外周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、金型の内側から外側に向けてつなぎ目16にエアーを流す。
また例えば、金型の内周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、金型の外側から内側に向けてつなぎ目にエアーを流す。
そのようなエアー流はいかなる方法によって発生させてよく、例えば、金型を中空とし、かつ中空内部と外部との気圧を制御することによってエアー流方向を制御できる。
【0034】
エアー流の強さの程度は、つなぎ目16への樹脂溶液4の進入を防止できる限り特に制限されず、例えば、金型における中空内部と外部との気圧差を1〜10hPa、特に3〜5hPaとする)。
【0035】
構成(4);
金型ユニット間のつなぎ目を樹脂溶液塗布面側でカバー部材によって塞ぐ。
【0036】
例えば、図7に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側の金型ユニット1xの樹脂溶液塗布面における下流側端部に、カバー部材17を、下流側の金型ユニット1yとのつなぎ目(間隙)16を塞ぐように、金型を周回して固定する。このとき、カバー部材17は塗布方向Dcの上流側の一端で金型ユニット1xに対して固定され、下流側の他端はフリーである。本構成において、カバー部材は樹脂溶液塗布面に固定されるので、カバー部材がその厚み分だけ樹脂溶液塗布面から凸設されていてよいが、図7に示すように、カバー部材表面と樹脂溶液塗布面とは面一であることが好ましい。その場合、上流側金型ユニット1xの樹脂溶液塗布面におけるカバー部材の固定面は、該カバー部材の厚み分の段差の凹形状を有している。
【0037】
また例えば、図8に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側の金型ユニット1xと下流側の金型ユニット1yとの間のつなぎ目16に樹脂溶液塗布面側でカバー部材17を挟み込んで、つなぎ目(間隙)16を塞ぐ。
【0038】
カバー部材17は耐熱性樹脂よりなるものであり。そのような耐熱性樹脂として、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。
カバー部材の厚みは通常、10〜100μmであり、20〜40μmが好ましい。
【0039】
本発明の連結式金型は、上記構成(1)〜構成(4)のうち少なくとも1つの構成が採用されるものであり、好ましくは少なくとも構成(1)が採用され、より好ましくは構成(1)と構成(2)とが同時に採用される。
【0040】
<環状シームレス成形体の製造方法>
本発明の環状シームレス成形体の製造方法は、上記した連結式金型に対して、前記したように一端側から樹脂溶液を連続的に塗布する樹脂塗膜形成工程を含むことを特徴とする。これにより、複数の金型ユニットに対する樹脂溶液の塗布を連続的に行うことができる。
【0041】
本工程において、通常は、連結式金型に対して、前記したように一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返す。図9に樹脂溶液の塗布時の実施形態の一例を示す。図9には、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための前記した本発明の詳しい構成については図示しないものとする。
【0042】
図9は、5個の金型ユニットを連結した連結式金型10に対して一端側Aから樹脂溶液4を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部の金型ユニット1aを切り離すとともに、該連結式金型10の他端側Bに新規金型ユニット1fを連結させるところの概略模式図である。樹脂溶液用環状スリットヘッド11aは、一体化された供給槽12内の樹脂溶液4を、連結式金型10の外周面に対して外側から所定の速度で制御しながら連続的に吐出する。一方で連結式金型10は所定の速度で図9中、上方に移動する。その結果、樹脂溶液4は複数の金型ユニットをまたいで連続的に塗布される。図9において、連結式金型10は移動し、環状スリットヘッド11aは固定されているが、環状スリットヘッド11aが連結式金型10に対して相対的に移動できれば特に制限されず、両者が互いに反対方向に移動しても、または連結式金型10が固定され、環状スリットヘッド11aが移動してもよい。
【0043】
塗布を連続的に行いながら、金型ユニットの切り離し/連結を行うときの具体例を以下に示す。
まず、連結式金型10を図9に示すように上方移動させ、環状スリットヘッド11aによる連続塗布を開始する。図9に示すように、1番目の金型ユニット1aの塗布を完了し、2番目の金型ユニット1bおよび3番目の金型ユニット1cへと連続して塗布する。そして、環状スリットヘッド11aが連結した3番目の金型ユニット1cと4番目の金型ユニット1dとのつなぎ目へ到達した時、1番目の金型ユニット1aの上方への切り離しを実行する。それと同時に最下部の5番目の金型ユニット1eの下に新規の金型ユニット1f(6番目)を連結する。これ以降は、環状スリットヘッド11aが次の金型ユニットのつなぎ目(例えば、金型ユニット1dと1eとのつなぎ目)に到達する毎に、最上部の金型ユニット(例えば、金型ユニット1b)を切り離し、新規の金型ユニット(図示せず)を最下部の金型ユニット(例えば、金型ユニット1f)の下に連結するというサイクルを繰り返すことにより、複数の金型ユニットへの塗布が連続して行われる。
【0044】
金型ユニットの切り離しの際は、当該金型ユニット表面に樹脂塗膜が存在するので、樹脂塗膜を、隣接する金型ユニットとのつなぎ目でカットすることが好ましい。本発明は金型ユニットの切り離しの際に樹脂塗膜をカットしなければならないというわけではなく、カットしなくても、樹脂塗膜は隣接する金型ユニットとのつなぎ目で破断する。カットは、樹脂塗膜が乾燥されていない場合は、エアーを吐出することによって達成してもよいし、樹脂塗膜が乾燥されている場合は、エアーを吐出すること、または刃物等のカッターを用いることによって達成してもよい。エアーを吐出すると、当該吐出圧によって樹脂塗膜が押しのけられるので、樹脂塗膜の分割が起こり、結果としてカットが達成される。
【0045】
エアーの吐出は、例えば、エアー用環状スリットヘッド(図示せず)によって達成される。エアー用環状スリットヘッドは、連結式金型の外側または内側で該金型の樹脂溶液塗布面と所定の間隙を確保して位置し、環状に有するスリットより金型の全周にわたって一様な圧力で圧縮エアーを吹き出させる。エアー圧力は樹脂塗膜を押しのけて、樹脂塗膜の分離・分割を達成できれば特に制限されない。
【0046】
図10に樹脂溶液塗布時の実施形態の別の一例を示す。図10は、連結式金型10の内周面に樹脂溶液を塗布すること、樹脂溶液用環状スリットヘッド11bは、一体化された供給槽22内の樹脂溶液4を、連結式金型10の内周面に対して内側から所定の速度で制御しながら連続的に吐出すること以外、図9と同様であるため、図10の説明および図10を用いた具体例の説明を省略する。図10には、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための前記した本発明の詳しい構成については図示しないものとする。
【0047】
本発明においては、連結式金型への塗布後、金属ユニットの切り離し前に、所望の処理工程を実施することにより、複数の金型ユニットに対して樹脂溶液の塗布を行う樹脂塗膜形成工程だけでなく、当該所望の処理工程までも連続的に行うことができる。
【0048】
本発明において使用される樹脂溶液は樹脂を有機溶剤に溶解して得られるものである。
樹脂溶液を構成する樹脂は公知の樹脂が使用可能であり、例えば、未硬化の液状熱硬化性樹脂、未硬化の固形状熱硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーなどが使用可能である。中でも熱硬化性樹脂、特にポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂は比較的高温での加熱を要し、金型離型層の酸化劣化が起こり易いが、そのような樹脂を使用する場合であっても、本発明の目的を有効に達成できるためである。
【0049】
有機溶剤としては、樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されず、例えば、後述する有機溶剤等が挙げられる。なお、液状の樹脂を使用する場合、有機溶剤の使用は必ずしも要しない。
【0050】
本方法において例えば、ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、樹脂溶液としてポリイミド前駆体溶液が使用される。ポリイミド前駆体として、いわゆるポリアミック酸、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)からなる前駆体、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノフェニルエーテル(ODA)からなる前駆体等が使用される。
【0051】
また例えば、ポリアミドイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、樹脂溶液としてポリアミドイミド前駆体溶液が使用される。ポリアミドイミド前駆体として、例えば、アミド基含有芳香族ジアミンとPMDAからなる前駆体や、芳香族ジアミンまたはその誘導体と無水トリメリット酸(TMA)からなる前駆体等が使用される。
【0052】
以下、特に好ましい実施態様として、ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリイミド樹脂環状シームレス成形体の製造方法は、以下の工程を含むものである;
上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布する樹脂塗膜形成工程;
得られた樹脂塗膜を加熱し、乾燥させる乾燥工程;
乾燥した樹脂塗膜を加熱して焼成する焼成工程;および
焼成した樹脂塗膜を金型から剥離する脱型工程。
【0053】
(樹脂塗膜形成工程)
本工程は、以下に特記しない限り、前記した樹脂塗膜形成工程と同様であり、通常は上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返す。
【0054】
樹脂溶液はポリイミド前駆体溶液である。ポリイミド前駆体は上記したものが使用可能であり、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
有機溶剤は、ポリイミド前駆体を溶解可能なものであれば、特に制限されず、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。樹脂溶液におけるポリイミド前駆体の濃度、粘度等は、塗布方法および成形体の所望厚み等に応じて適宜選択される。
【0056】
得られる成形体を、定着ベルト、中間転写ベルト、接触帯電ベルト等、導電性機能を付与する場合には、樹脂溶の中に導電性物質の添加剤を分散させることができる。
【0057】
例えば、本工程において連結式金型への塗布後、金属ユニットの切り離し前に、連結式金型表面に形成された樹脂塗膜に対してそのまま後述の乾燥工程を実施することができる。この場合、乾燥工程後に切り離された金型ユニットは個別に、後述の焼成工程および脱型工程に供される。これによって、複数の金型ユニットに対して樹脂溶液の塗布を行う樹脂塗膜形成工程だけでなく、乾燥工程までも連続的に行うことができる。
【0058】
また例えば、本工程において連結式金型への塗布後、金属ユニットの切り離し前に、連結式金型表面に形成された樹脂塗膜に対してそのまま後述の乾燥工程および焼成工程を実施することができる。この場合、焼成工程後に切り離された金型ユニットは個別に、後述の脱型工程に供される。これによって、複数の金型ユニットに対して樹脂溶液の塗布を行う樹脂塗膜形成工程だけでなく、乾燥工程および焼成工程までも連続的に行うことができる。
【0059】
(乾燥工程)
本工程では、樹脂塗膜を加熱し、乾燥させる。
詳しくは、樹脂塗膜中に過度に残留する溶剤を除去する目的で、静置しても塗膜が変形しない程度まで加熱乾燥を行う。乾燥条件は、80〜200℃の温度で30〜60分間であることが好ましい。その際、温度が高いほど、加熱時間は短くてよい。また、加熱することに加え、風を当てることも有効である。また、遠赤外線加熱を用いれば、溶剤除去をさらに効率よく行うことができる。加熱は、時間内において、段階的に上昇させたり、一定速度で上昇させてもよい。なお、樹脂塗膜から溶剤を除去させすぎると、塗膜はまだ成形体としての強度を保持していないので、割れを生じる虞がある。そのため溶剤を適度に残留させておくことが好ましい。具体的には樹脂塗膜中に15〜50質量%、特に35〜50質量%の割合で溶剤を残留させることが好ましい。
【0060】
(焼成工程)
本工程では、乾燥した樹脂塗膜を加熱して焼成する。
詳しくは、300〜450℃、好ましくは350℃前後で、20〜60分間、樹脂塗膜を加熱反応させることで、ポリイミド樹脂膜を形成できる。加熱反応の際、塗膜中に有機溶剤が残留していると、ポリイミド樹脂膜に膨れが生じることがあるため、加熱の最終温度に達する前に、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、加熱前に、200〜250℃の温度で、10〜30分間加熱乾燥して残留溶剤を除去し、続けて、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱し、ポリイミド樹脂膜を形成することが好ましい。この際、遠赤外線加熱を併用すれば、残留溶剤の除去とイミド化反応を効率的に行える。
【0061】
(脱型工程)
本工程では、焼成した樹脂塗膜(ポリイミド樹脂膜)を金型ユニットから剥離し、脱型する。
金型ユニットからの樹脂塗膜の剥離方法は、特に制限されるものではなく、例えば、金型ユニットと皮膜との隙間に、加圧空気を注入することで、皮膜を膨張させて剥離できる。加圧空気の圧力は、一般的な空気圧縮機で得られる数気圧程度でよい。注入された加圧空気は、ある程度は皮膜端部から漏れるが、全部が漏れるわけではないので、皮膜は空気圧により、多少、膨れることになる。そのため、形成された樹脂塗膜を金型ユニットから容易に抜き取ることができる。
【0062】
抜き取られた樹脂塗膜が所定の幅を有している場合はそのままポリイミド樹脂環状シームレス成形体として使用できる。樹脂塗膜が所定幅より大きい場合は、不要部分を切断して、ポリイミド樹脂環状シームレス成形体を得ることができる。樹脂塗膜が所定幅の整数倍の長さを有している場合は、所定幅に切断するだけで、そのまま使用可能なポリイミド樹脂環状シームレス成形体を複数個得ることができる。
【0063】
成形体の厚みは樹脂塗膜の厚みを調整することによって制御可能で、例えば、20〜1000μm、特に30〜100μmとすることができる。
【0064】
特に樹脂塗膜形成工程で金型内周面の離型層上に樹脂溶液が塗布される場合は、以下の順序で工程処理を行うことが好ましい。樹脂塗膜形成工程後、乾燥工程、および脱型工程を行う。次いで、脱型して得られた未反応の樹脂塗膜を別の金型ユニット外周面に嵌める型嵌工程、および焼成工程を行い、再度、脱型工程を行う。この場合は、最初の脱型工程までに金型ユニットの切り離しが行われればよい。
【0065】
成形体表面には、テトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の他のポリマーからなる樹脂層が形成されてもよい。その場合には、焼成工程後であって、脱型工程前に、樹脂塗膜を外周面に有した金型に対して、所定のポリマーからなるチューブを被せ、加熱溶着処理を行った後、脱型工程を行うことが好ましい。この場合は、脱型工程までに金型ユニットの切り離しが行われればよい。
【実施例】
【0066】
<比較例1>
(金型ユニットAの製造)
内径26mm、外径30mmおよび長さ300mmのアルミニウム製円筒状金型ユニットを注型法により製造し、切削により、図1に示すそのままの形状の凸部および凹部を設けた。凸部および凹部の軸方向の段差は5mmであった。
金型ユニットの外周面に、シリコーン系離型剤(商品名:KS700 (株)信越化学社製)を塗布することによって離型層としてシリコーン樹脂膜(膜厚約1μm)を形成し、金型ユニットAとして用いた。
【0067】
(連結式金型の製造)
金型ユニットAを5個連結して連結式金型を製造した。得られた金型は、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための本発明のいずれの構成も有さなかった。
【0068】
(樹脂塗膜形成工程)
3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PDA)とを、N,N−ジメチルアセトアミド中で反応させて、22質量%濃度ポリイミド前駆体溶液Aを調製した。この前駆体溶液Aに、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で23%混合し、次いでジェットミルにより分散し、樹脂溶液Aを得た。
図9に示すように、上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液Aを連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットAを連結させるサイクルを繰り返した。金型ユニットを切り離す直前に、エアー用環状スリットヘッドより金型の外側から圧縮エアーを圧力0.2MPaで、隣接する金型ユニットとのつなぎ目に吐出することにより、樹脂塗膜を金型周囲にわたってカットした。切り離されたいずれの金型ユニットの表面にも約500μm厚の樹脂塗膜が形成されていた。
【0069】
以下の工程は切り離された金型ユニットごとに行った。
(乾燥工程)
次に、金型ユニットを水平にして、20rpmにて回転させながら、室温で5分間の乾燥後、80℃で20分間、100℃で1時間、加熱乾燥させた。これにより、厚さ約150μmの樹脂塗膜を得た。
【0070】
(焼成工程)
次に、金型ユニットを一旦、室温まで冷却した。その後、金型ユニットを垂直に立てて、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、ポリイミド樹脂膜を形成した。
【0071】
(脱型工程)
室温に冷えた後、金型ユニットとポリイミド樹脂膜との隙間に圧力0.5MPaの加圧空気を注入したところ、ポリイミド樹脂膜が膨張し、抜き取ることができたが、他の実施例と比較して困難であった。得られた成形体の両端部を20mm幅でカットし、ポリイミド樹脂製環状シームレス成形体を得た。
【0072】
(評価)
樹脂塗膜形成工程の所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかったが、脱型が困難であったので、生産性が不十分であった。
【0073】
<実施例1;構成(1)>
(金型ユニットa1の製造)
金型ユニットの外周面における上端部の形状を図11に示すような形状としたこと以外、金型ユニットAと同様の方法により金型ユニットa1を製造した。
【0074】
(連結式金型の製造)
金型ユニットa1を5個連結して連結式金型を製造した。
【0075】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において新規に連結される金型ユニットとして金型ユニットa1を用いたこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【0076】
<実施例2;構成(2)>
(金型ユニットBの製造)
複数個の金型ユニットBを連結したときの上流側金型ユニットと下流側金型ユニットとの関係が図5に示す構成を満たすような形状としたこと以外、金型ユニットAと同様の方法により金型ユニットBを製造した。
金型ユニットBにおける図5中のθは20°、Tは2.1mmであった。
【0077】
(連結式金型の製造)
金型ユニットBを5個連結して連結式金型を製造した。
【0078】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において新規に連結される金型ユニットとして金型ユニットBを用いたこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【0079】
<実施例3;構成(3)>
(連結式金型の製造)
金型ユニットAを5個連結して連結式金型を製造した。
【0080】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において金型における中空内部と外部との気圧差を3hPaとすることによって金型ユニット間のつなぎ目に金型の樹脂溶液塗布面に向けてエアーを流したこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【0081】
<実施例4;構成(4)>
(連結式金型の製造)
金型ユニットAを5個連結して連結式金型を製造した。連結時には図8に示すように金型ユニット間に厚み40μmのフッ素樹脂製カバー部材を挟み込んだ。
【0082】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において新規金型ユニットAの連結時に図8に示すように上記と同様のカバー部材を挟み込んだこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の金型は、画像形成装置、特に電子写真式画像形成装置の定着ベルト、転写ベルト、接触帯電ベルトとして使用可能な環状シームレス成形体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の連結式金型を構成する金型ユニットの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の連結式金型の一実施形態を示す概略構成図である。
【図3】(A)および(B)は共に、本発明の連結式金型の使用例の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成1)を示す拡大模式図である。
【図5】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成2)を示す拡大模式図である。
【図6】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成3)を示す拡大模式図である。
【図7】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成4)を示す拡大模式図である。
【図8】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成4)を示す拡大模式図である。
【図9】本発明の環状シームレス成形体の製造方法における樹脂塗膜形成工程の一例を説明するための概略模式図である。
【図10】本発明の環状シームレス成形体の製造方法における樹脂塗膜形成工程の別の一例を説明するための概略模式図である。
【図11】実施例1で使用の金型ユニットを示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0085】
1:1a:1b:1c:1d:1e:1f:金型ユニット、1x:上流側金型ユニット、1y:下流側金型ユニット、2:凸部、3:凹部、4:樹脂塗膜(樹脂溶液)、10:連結式金型、11a:11b:環状スリットヘッド、12:22:供給槽、16:つなぎ目、13:エアー、17:カバー部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は環状シームレス成形体製造用の連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンター等の画像形成装置において、感光体、中間転写体および定着ベルト等としては、薄肉の樹脂ベルトがよく用いられる。そのような樹脂ベルトは変形が可能なため、装置の小径化に有用である。樹脂ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がないシームレスベルトが好ましい。
【0003】
シームレスベルトは、例えば、金型の外周面または内周面に樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱し、得られた樹脂膜を脱型する方法によって製造される。特に、ポリイミド樹脂からなるシームレスベルトは、金型の外周面または内周面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱して乾燥および反応させ、得られた樹脂膜を脱型する方法によって製造される。金型は一般に、樹脂膜の脱型を容易にするために、樹脂溶液塗布面にメッキ膜やシリコーン樹脂膜等の離型層が形成されて使用される(例えば、特許文献1〜3)。また金型は軸方向長さを所望の成形体の幅と略同等に設定され、量産時には数百本用意され、それらを繰り返して使用される。
【0004】
しかしながら、従来の製造方法では、1つの金型ごとに、上記した方法が適用されるので、生産性が問題となっていた。また1つの金型ごとに、樹脂溶液は塗布されるので、塗布の際の塗布開始部分と塗布終了部分に相当する成形体端部において膜厚が不均一になり、その両端をカットする必要があった。さらには、1つの金型ごとに、樹脂溶液を塗布し、加熱するので、樹脂溶液の液垂れ等の観点から、金型には端部を残して樹脂溶液を塗布する必要があり、離型層の酸化劣化が生じていた。詳しくは、離型層は金型の樹脂溶液塗布面全面に形成されるので、金型端部で離型層が露出した状態で加熱を行うと、当該露出領域が酸化劣化した。酸化劣化した離型層上に、樹脂溶液が塗布され加熱されると、樹脂膜が金型から離れず、樹脂膜成形体の破損が起こった。
【特許文献1】特開平1−156017号公報
【特許文献2】特開平6−23770号公報
【特許文献3】特開2004−291367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の発明者等は、軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなる連結式金型を提案した。そのような連結式金型の表面に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返す。これによって、成形体の生産性等が向上する。
【0006】
しかしながら、上記方法では、金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液が進入する、という新たな問題が生じた。つなぎ目に樹脂溶液が進入すると、得られる成形体において、進入した樹脂がバリとなって残るので、成形体を金型ユニットから脱型する際に円滑に脱型できない。しかも、当該バリを除去する工程を要する。そのため、生産性が十分ではなかった。
【0007】
本発明は、環状シームレス成形体の生産性に十分に優れた連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、膜厚が比較的均一で、かつ破損のない成形体を十分に生産性よく製造できる環状シームレス成形体製造用の連結式金型、ならびに環状シームレス成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなり、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて、環状シームレス成形体を製造するための連結式金型であって、
樹脂溶液の塗布の際に金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成としたことを特徴とする連結式金型に関する。
【0010】
本発明はまた、上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布することを特徴とする環状シームレス成形体の製造方法に関する。
【0011】
本発明はまた、上記連結式金型を有する環状シームレス成形体の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金型は連結式構造を有するので、当該連結式金型に樹脂溶液を連続的に塗布することにより、成形体の連続製造が可能となる。しかも、本発明の連結式金型は、金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成を有するので、円滑な脱型が可能となる。よって、本発明の金型は生産性に十分に優れている。
本発明の連結式金型はその表面に樹脂溶液を連続的に塗布され、塗布が中断することはないため、得られる成形体の膜厚は比較的均一である。
本発明の連結式金型はその表面全面に樹脂溶液を連続的に塗布され、離型層の露出がないので、成形体の破損を防止できる。
本発明の連結式金型を使用すれば、たとえ成形体に破損が生じても、当該破損が生じた金型ユニットのみを取り替えればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<金型>
本発明に係る金型は、表面に樹脂溶液を塗布されて、環状シームレス成形体を製造するためのものであって、軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなる連結式構造を有するものである。樹脂溶液は連結式金型の外周面に塗布されても、または内周面に塗布されてもよい。樹脂溶液を連結式金型外周面に塗布する場合、当該連結式金型を構成する金型ユニットは中空体であってもよいし、または中実体であってもよい。樹脂溶液を金型内周面に塗布する場合、当該連結式金型を構成する金型ユニットは中空体である。
【0014】
本発明の連結式金型(以下、単に「金型」ということがある)を構成する金型ユニットは、2個以上用意したとき、軸方向で互いに連結/切り離し可能なものであり、例えば、両端に連結部を有し、一端の連結部が他端の連結部と嵌合可能な形状を有する金型ユニットであればよい。嵌合とは、一方の凸部を他方の凹部に嵌入させることによって結合を達成することである。
【0015】
そのような金型ユニットの具体例として、例えば、図1に示すものが挙げられる。図1は本発明の連結式金型を構成する金型ユニットの一実施形態を示す概略断面構成図であり、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための後述する本発明の詳しい構成については図示しないものとする。本明細書中、断面とは、金型ユニット軸を通る断面を意味するものとする。
図1に示す金型ユニット1は一端に凸部2を有し、他端に凹部3を有し、当該凸部2および凹部3は互いに嵌合可能な形状を有するものである。そのため、そのような金型ユニットを複数個用意したとき、凸部−凹部間の嵌合によって連結/切り離し可能に連結できる。金型ユニット1は中空形状を有しているので、外周面に樹脂溶液が塗布されても、または内周面に樹脂溶液が塗布されてもよい。
【0016】
金型ユニット1の軸方向長さXは、従来の金型の軸方向長さに対応するものであり、環状シームレス成形体1個分の所定幅Yに等しくてよいが、これに制限されるものではなく、例えば、Y以上であっても、n×Y(nは2以上の自然数;Yの整数倍長)に等しくても、またはn×Yより大きくても良い。環状シームレス成形体の製造スペース確保の観点から、長さXは当該所定幅Yに等しいことが好ましい。図1における寸法Zは、得ようとする環状シームレス成形体の用途等に依存して決定されるため、特に制限されるものではない。
【0017】
金型ユニットを構成する材料としては、シームレス成形体の製造時における加熱によっても変形が起こらないものであれば特に制限されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、鋼、ステンレス等の金属、アルミナ、炭化珪素等のセラミックス、およびポリイミド、ポリアミドイミド等の耐熱樹脂等が好ましく使用される。中でも市場流通性、耐溶剤性、熱伝導性、強度等の観点から、アルミニウムが特に好ましく用いられる。上記金属からなる金型ユニットを製造するに際しては、溶融金属を特定形状の鋳型へ流し込み、冷却した後、切削等を施せばよい。特にアルミニウムを用いる場合は、管材、あるいは棒材を切削により所定の形状にすればよく、金属の中でも切削性に優れるため、加工しやすい特徴があり、型生産効率を上げられる。
【0018】
金型ユニットにおける樹脂溶液塗布面には離型層が形成されていることが好ましい。
離型層を構成する材料としては特に制限されず、例えば、シリコーン樹脂やフッ素含有樹脂等を被覆したり、シリコーン系、フッ素系離型剤をコーティングして使用される。
【0019】
本発明の連結式金型の一実施形態を図2に示す。図2に示す連結式金型10は、図1に示す金型ユニット1を5個だけ連結させてなるものである。図2は本発明の連結式金型の一実施形態を示す概略断面構成図であり、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための後述する本発明の詳しい構成については図示しないものとする。
金型を構成する金型ユニットの数は2個以上であれば特に制限されるものではなく、後述の環状シームレス成形体の製造方法において金型ユニットを切り離すタイミングに応じて適宜決定されてよい。金型ユニットを塗布完了直後に切り離す場合、金型ユニット数はそれほど多く設定する必要はなく、例えば、2〜10個、特に4〜7個程度でよい。一方、金型ユニットを乾燥あるいは焼成後に切り離す場合等、金型ユニットの切り離しのタイミングを遅く設定するほど、より多くの金型ユニットが必要になる。
【0020】
本発明の連結式金型は、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて使用される。
樹脂溶液の塗布方法は、連結式金型に対して軸方向一端側からの塗布が可能であれば特に制限されず、通常はリングコート法、ブレードコート法、バーコート法、ロールコート法が採用され、縦塗りが可能なこと、外塗りと内塗りのどちらでも可能なこと、といった観点から、リングコート法が好ましい。
【0021】
リングコート法においては、金型の樹脂溶液塗布面と所定の間隙を確保しつつ、当該金型に対して相対的に移動しながら、環状に有するスリットより樹脂溶液を金型の全周にわたって一様な速度で吐出する樹脂溶液用環状スリットヘッドを用いて塗布を行う。樹脂溶液用環状スリットヘッドは樹脂溶液を貯蔵および供給する供給槽と一体化された構成を有していてもよいし、または当該供給槽を外部に配置した構成を有していてもよい。
【0022】
樹脂溶液を連続的に塗布するとは、複数の金型ユニットからなる連結式金型に一端側から樹脂溶液を塗布するに際し、1つの金型ユニットの塗布を終えた後、中断することなく、前記一端側から他端側への方向で隣の金型ユニットの塗布を連続的に行うという意味である。
【0023】
本発明の連結式金型の使用例を図3(A)および図3(B)に示す。
図3(A)では、3個の金型ユニット1a〜1cを連結してなる連結式金型10aは、その外周面に対して一端側から樹脂溶液4を塗布方向Dcで環状スリットヘッド11aにより連続的に塗布される。
図3(B)では、3個の金型ユニット1a〜1cを連結してなる連結式金型10bは、その内周面に対して一端側から樹脂溶液4を塗布方向Dcで環状スリットヘッド11bにより連続的に塗布される。
【0024】
本発明においては連結式金型を、そのような樹脂溶液の連続的塗布に際して金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成としたことを特徴とする。
そのような構成として、以下に示す構成(1)〜構成(4)が挙げられる。
【0025】
構成(1);
連結式金型に対する樹脂溶液の連続的塗布を樹脂溶液用環状スリットヘッドにより行うに際し、図4に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて下流側の金型ユニット1yにおける環状スリットヘッド11との間隙が上流側の金型ユニット1xよりも広いか、または等しい構成とする。すなわち、下流側金型ユニット1yと環状スリットヘッド11との間隙長さLyは、上流側金型ユニット1xと環状スリットヘッド11との間隙長さLx以上であり、好ましくはLxよりも大きい。LxおよびLyが上記関係と逆の関係を有すると、樹脂溶液が下流側金型ユニット1yのエッジによってかき取られ、かき取られた樹脂溶液が塗布方向に逆流し、つなぎ目内部へ進入する。
【0026】
本構成における間隙長さの上記関係は、通常、上流側金型ユニット1x全体と下流側金型ユニット1y全体との間で満足されるが、図4に示すように上流側金型ユニット1xにおける塗布方向で下流側5mm以上の端部Exと、下流側金型ユニット1yにおける塗布方向で上流側5mm以上の端部Eyとの間で満足されればよい。間隙長さの上記関係は隣接する任意の金型ユニット間において満足される。図4に示す拡大模式図は、例えば、図3(A)および図3(B)におけるP領域と略同等の領域に対応し得る。
【0027】
本構成における間隙長さの上記関係は通常、上流側金型ユニット1xおよび下流側金型ユニット1yの外径または内径を調整することにより達成できる。
例えば、金型ユニットの外周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、下流側金型ユニット1yの外径doyは上流側の金型ユニット1xの外径dox以下とし、好ましくは外径dox未満とする。doxとdoyとの差は、つなぎ目16への樹脂溶液4の進入を防止できる限り特に制限されず、通常は0〜10μm、好ましくは0〜4μmである。
【0028】
また例えば、金型ユニットの内周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、下流側金型ユニット1yの内径diyは上流側の金型ユニット1xの内径dix以上とし、好ましくは内径dixを超えるようにする。dixとdiyとの差は、つなぎ目16への樹脂溶液の進入を防止できる限り特に制限されず、通常は0〜10μm、好ましくは0〜4μmである。
【0029】
構成(2);
樹脂溶液塗布面における金型ユニット間のつなぎ目の断面形状を、樹脂溶液塗布方向に対して鉛直方向を基準に塗布方向の上流側へ傾斜させた形状とする。すなわち、図5に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側金型ユニット1xと下流側金型ユニット1yとの間のつなぎ目16を、樹脂溶液塗布方向Dcに対して鉛直方向Dvを基準に塗布方向の上流側へ傾斜させた断面形状とする。本構成における金型ユニット1x、1y間の関係は隣接する任意の金型ユニット間において満足される。図5に示す拡大模式図は、例えば、図3(A)および図3(B)におけるQ領域と略同等の領域に対応し得る。
【0030】
本構成において傾斜角θは、つなぎ目16への樹脂溶液4の進入を防止できる限り特に制限されず、例えば15°以上、特に20〜45°である。
【0031】
上記つなぎ目の断面形状はつなぎ目の全体形状として達成されてもよいが、本発明においては金型における少なくとも樹脂溶液塗布面近傍において有していればよい。例えば、図5に示すような断面図において樹脂溶液塗布面からの傾斜長さTは1.5mm以上あればよい。
【0032】
構成(3);
金型ユニット間のつなぎ目に金型の樹脂溶液塗布面に向けてエアーを流す。すなわち、図6に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側金型ユニット1xと下流側金型ユニット1yとの間のつなぎ目16に金型の樹脂溶液塗布面に向けてエアー13を流す。図6に示す拡大模式図は、例えば、図3(A)および図3(B)におけるQ領域と略同等の領域に対応し得る。
【0033】
例えば、金型の外周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、金型の内側から外側に向けてつなぎ目16にエアーを流す。
また例えば、金型の内周面に樹脂溶液4を塗布する場合においては、金型の外側から内側に向けてつなぎ目にエアーを流す。
そのようなエアー流はいかなる方法によって発生させてよく、例えば、金型を中空とし、かつ中空内部と外部との気圧を制御することによってエアー流方向を制御できる。
【0034】
エアー流の強さの程度は、つなぎ目16への樹脂溶液4の進入を防止できる限り特に制限されず、例えば、金型における中空内部と外部との気圧差を1〜10hPa、特に3〜5hPaとする)。
【0035】
構成(4);
金型ユニット間のつなぎ目を樹脂溶液塗布面側でカバー部材によって塞ぐ。
【0036】
例えば、図7に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側の金型ユニット1xの樹脂溶液塗布面における下流側端部に、カバー部材17を、下流側の金型ユニット1yとのつなぎ目(間隙)16を塞ぐように、金型を周回して固定する。このとき、カバー部材17は塗布方向Dcの上流側の一端で金型ユニット1xに対して固定され、下流側の他端はフリーである。本構成において、カバー部材は樹脂溶液塗布面に固定されるので、カバー部材がその厚み分だけ樹脂溶液塗布面から凸設されていてよいが、図7に示すように、カバー部材表面と樹脂溶液塗布面とは面一であることが好ましい。その場合、上流側金型ユニット1xの樹脂溶液塗布面におけるカバー部材の固定面は、該カバー部材の厚み分の段差の凹形状を有している。
【0037】
また例えば、図8に示すように、樹脂溶液塗布方向Dcについて上流側の金型ユニット1xと下流側の金型ユニット1yとの間のつなぎ目16に樹脂溶液塗布面側でカバー部材17を挟み込んで、つなぎ目(間隙)16を塞ぐ。
【0038】
カバー部材17は耐熱性樹脂よりなるものであり。そのような耐熱性樹脂として、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。
カバー部材の厚みは通常、10〜100μmであり、20〜40μmが好ましい。
【0039】
本発明の連結式金型は、上記構成(1)〜構成(4)のうち少なくとも1つの構成が採用されるものであり、好ましくは少なくとも構成(1)が採用され、より好ましくは構成(1)と構成(2)とが同時に採用される。
【0040】
<環状シームレス成形体の製造方法>
本発明の環状シームレス成形体の製造方法は、上記した連結式金型に対して、前記したように一端側から樹脂溶液を連続的に塗布する樹脂塗膜形成工程を含むことを特徴とする。これにより、複数の金型ユニットに対する樹脂溶液の塗布を連続的に行うことができる。
【0041】
本工程において、通常は、連結式金型に対して、前記したように一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返す。図9に樹脂溶液の塗布時の実施形態の一例を示す。図9には、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための前記した本発明の詳しい構成については図示しないものとする。
【0042】
図9は、5個の金型ユニットを連結した連結式金型10に対して一端側Aから樹脂溶液4を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部の金型ユニット1aを切り離すとともに、該連結式金型10の他端側Bに新規金型ユニット1fを連結させるところの概略模式図である。樹脂溶液用環状スリットヘッド11aは、一体化された供給槽12内の樹脂溶液4を、連結式金型10の外周面に対して外側から所定の速度で制御しながら連続的に吐出する。一方で連結式金型10は所定の速度で図9中、上方に移動する。その結果、樹脂溶液4は複数の金型ユニットをまたいで連続的に塗布される。図9において、連結式金型10は移動し、環状スリットヘッド11aは固定されているが、環状スリットヘッド11aが連結式金型10に対して相対的に移動できれば特に制限されず、両者が互いに反対方向に移動しても、または連結式金型10が固定され、環状スリットヘッド11aが移動してもよい。
【0043】
塗布を連続的に行いながら、金型ユニットの切り離し/連結を行うときの具体例を以下に示す。
まず、連結式金型10を図9に示すように上方移動させ、環状スリットヘッド11aによる連続塗布を開始する。図9に示すように、1番目の金型ユニット1aの塗布を完了し、2番目の金型ユニット1bおよび3番目の金型ユニット1cへと連続して塗布する。そして、環状スリットヘッド11aが連結した3番目の金型ユニット1cと4番目の金型ユニット1dとのつなぎ目へ到達した時、1番目の金型ユニット1aの上方への切り離しを実行する。それと同時に最下部の5番目の金型ユニット1eの下に新規の金型ユニット1f(6番目)を連結する。これ以降は、環状スリットヘッド11aが次の金型ユニットのつなぎ目(例えば、金型ユニット1dと1eとのつなぎ目)に到達する毎に、最上部の金型ユニット(例えば、金型ユニット1b)を切り離し、新規の金型ユニット(図示せず)を最下部の金型ユニット(例えば、金型ユニット1f)の下に連結するというサイクルを繰り返すことにより、複数の金型ユニットへの塗布が連続して行われる。
【0044】
金型ユニットの切り離しの際は、当該金型ユニット表面に樹脂塗膜が存在するので、樹脂塗膜を、隣接する金型ユニットとのつなぎ目でカットすることが好ましい。本発明は金型ユニットの切り離しの際に樹脂塗膜をカットしなければならないというわけではなく、カットしなくても、樹脂塗膜は隣接する金型ユニットとのつなぎ目で破断する。カットは、樹脂塗膜が乾燥されていない場合は、エアーを吐出することによって達成してもよいし、樹脂塗膜が乾燥されている場合は、エアーを吐出すること、または刃物等のカッターを用いることによって達成してもよい。エアーを吐出すると、当該吐出圧によって樹脂塗膜が押しのけられるので、樹脂塗膜の分割が起こり、結果としてカットが達成される。
【0045】
エアーの吐出は、例えば、エアー用環状スリットヘッド(図示せず)によって達成される。エアー用環状スリットヘッドは、連結式金型の外側または内側で該金型の樹脂溶液塗布面と所定の間隙を確保して位置し、環状に有するスリットより金型の全周にわたって一様な圧力で圧縮エアーを吹き出させる。エアー圧力は樹脂塗膜を押しのけて、樹脂塗膜の分離・分割を達成できれば特に制限されない。
【0046】
図10に樹脂溶液塗布時の実施形態の別の一例を示す。図10は、連結式金型10の内周面に樹脂溶液を塗布すること、樹脂溶液用環状スリットヘッド11bは、一体化された供給槽22内の樹脂溶液4を、連結式金型10の内周面に対して内側から所定の速度で制御しながら連続的に吐出すること以外、図9と同様であるため、図10の説明および図10を用いた具体例の説明を省略する。図10には、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための前記した本発明の詳しい構成については図示しないものとする。
【0047】
本発明においては、連結式金型への塗布後、金属ユニットの切り離し前に、所望の処理工程を実施することにより、複数の金型ユニットに対して樹脂溶液の塗布を行う樹脂塗膜形成工程だけでなく、当該所望の処理工程までも連続的に行うことができる。
【0048】
本発明において使用される樹脂溶液は樹脂を有機溶剤に溶解して得られるものである。
樹脂溶液を構成する樹脂は公知の樹脂が使用可能であり、例えば、未硬化の液状熱硬化性樹脂、未硬化の固形状熱硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーなどが使用可能である。中でも熱硬化性樹脂、特にポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂は比較的高温での加熱を要し、金型離型層の酸化劣化が起こり易いが、そのような樹脂を使用する場合であっても、本発明の目的を有効に達成できるためである。
【0049】
有機溶剤としては、樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されず、例えば、後述する有機溶剤等が挙げられる。なお、液状の樹脂を使用する場合、有機溶剤の使用は必ずしも要しない。
【0050】
本方法において例えば、ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、樹脂溶液としてポリイミド前駆体溶液が使用される。ポリイミド前駆体として、いわゆるポリアミック酸、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)からなる前駆体、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノフェニルエーテル(ODA)からなる前駆体等が使用される。
【0051】
また例えば、ポリアミドイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、樹脂溶液としてポリアミドイミド前駆体溶液が使用される。ポリアミドイミド前駆体として、例えば、アミド基含有芳香族ジアミンとPMDAからなる前駆体や、芳香族ジアミンまたはその誘導体と無水トリメリット酸(TMA)からなる前駆体等が使用される。
【0052】
以下、特に好ましい実施態様として、ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリイミド樹脂環状シームレス成形体の製造方法は、以下の工程を含むものである;
上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布する樹脂塗膜形成工程;
得られた樹脂塗膜を加熱し、乾燥させる乾燥工程;
乾燥した樹脂塗膜を加熱して焼成する焼成工程;および
焼成した樹脂塗膜を金型から剥離する脱型工程。
【0053】
(樹脂塗膜形成工程)
本工程は、以下に特記しない限り、前記した樹脂塗膜形成工程と同様であり、通常は上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返す。
【0054】
樹脂溶液はポリイミド前駆体溶液である。ポリイミド前駆体は上記したものが使用可能であり、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
有機溶剤は、ポリイミド前駆体を溶解可能なものであれば、特に制限されず、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。樹脂溶液におけるポリイミド前駆体の濃度、粘度等は、塗布方法および成形体の所望厚み等に応じて適宜選択される。
【0056】
得られる成形体を、定着ベルト、中間転写ベルト、接触帯電ベルト等、導電性機能を付与する場合には、樹脂溶の中に導電性物質の添加剤を分散させることができる。
【0057】
例えば、本工程において連結式金型への塗布後、金属ユニットの切り離し前に、連結式金型表面に形成された樹脂塗膜に対してそのまま後述の乾燥工程を実施することができる。この場合、乾燥工程後に切り離された金型ユニットは個別に、後述の焼成工程および脱型工程に供される。これによって、複数の金型ユニットに対して樹脂溶液の塗布を行う樹脂塗膜形成工程だけでなく、乾燥工程までも連続的に行うことができる。
【0058】
また例えば、本工程において連結式金型への塗布後、金属ユニットの切り離し前に、連結式金型表面に形成された樹脂塗膜に対してそのまま後述の乾燥工程および焼成工程を実施することができる。この場合、焼成工程後に切り離された金型ユニットは個別に、後述の脱型工程に供される。これによって、複数の金型ユニットに対して樹脂溶液の塗布を行う樹脂塗膜形成工程だけでなく、乾燥工程および焼成工程までも連続的に行うことができる。
【0059】
(乾燥工程)
本工程では、樹脂塗膜を加熱し、乾燥させる。
詳しくは、樹脂塗膜中に過度に残留する溶剤を除去する目的で、静置しても塗膜が変形しない程度まで加熱乾燥を行う。乾燥条件は、80〜200℃の温度で30〜60分間であることが好ましい。その際、温度が高いほど、加熱時間は短くてよい。また、加熱することに加え、風を当てることも有効である。また、遠赤外線加熱を用いれば、溶剤除去をさらに効率よく行うことができる。加熱は、時間内において、段階的に上昇させたり、一定速度で上昇させてもよい。なお、樹脂塗膜から溶剤を除去させすぎると、塗膜はまだ成形体としての強度を保持していないので、割れを生じる虞がある。そのため溶剤を適度に残留させておくことが好ましい。具体的には樹脂塗膜中に15〜50質量%、特に35〜50質量%の割合で溶剤を残留させることが好ましい。
【0060】
(焼成工程)
本工程では、乾燥した樹脂塗膜を加熱して焼成する。
詳しくは、300〜450℃、好ましくは350℃前後で、20〜60分間、樹脂塗膜を加熱反応させることで、ポリイミド樹脂膜を形成できる。加熱反応の際、塗膜中に有機溶剤が残留していると、ポリイミド樹脂膜に膨れが生じることがあるため、加熱の最終温度に達する前に、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、加熱前に、200〜250℃の温度で、10〜30分間加熱乾燥して残留溶剤を除去し、続けて、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱し、ポリイミド樹脂膜を形成することが好ましい。この際、遠赤外線加熱を併用すれば、残留溶剤の除去とイミド化反応を効率的に行える。
【0061】
(脱型工程)
本工程では、焼成した樹脂塗膜(ポリイミド樹脂膜)を金型ユニットから剥離し、脱型する。
金型ユニットからの樹脂塗膜の剥離方法は、特に制限されるものではなく、例えば、金型ユニットと皮膜との隙間に、加圧空気を注入することで、皮膜を膨張させて剥離できる。加圧空気の圧力は、一般的な空気圧縮機で得られる数気圧程度でよい。注入された加圧空気は、ある程度は皮膜端部から漏れるが、全部が漏れるわけではないので、皮膜は空気圧により、多少、膨れることになる。そのため、形成された樹脂塗膜を金型ユニットから容易に抜き取ることができる。
【0062】
抜き取られた樹脂塗膜が所定の幅を有している場合はそのままポリイミド樹脂環状シームレス成形体として使用できる。樹脂塗膜が所定幅より大きい場合は、不要部分を切断して、ポリイミド樹脂環状シームレス成形体を得ることができる。樹脂塗膜が所定幅の整数倍の長さを有している場合は、所定幅に切断するだけで、そのまま使用可能なポリイミド樹脂環状シームレス成形体を複数個得ることができる。
【0063】
成形体の厚みは樹脂塗膜の厚みを調整することによって制御可能で、例えば、20〜1000μm、特に30〜100μmとすることができる。
【0064】
特に樹脂塗膜形成工程で金型内周面の離型層上に樹脂溶液が塗布される場合は、以下の順序で工程処理を行うことが好ましい。樹脂塗膜形成工程後、乾燥工程、および脱型工程を行う。次いで、脱型して得られた未反応の樹脂塗膜を別の金型ユニット外周面に嵌める型嵌工程、および焼成工程を行い、再度、脱型工程を行う。この場合は、最初の脱型工程までに金型ユニットの切り離しが行われればよい。
【0065】
成形体表面には、テトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の他のポリマーからなる樹脂層が形成されてもよい。その場合には、焼成工程後であって、脱型工程前に、樹脂塗膜を外周面に有した金型に対して、所定のポリマーからなるチューブを被せ、加熱溶着処理を行った後、脱型工程を行うことが好ましい。この場合は、脱型工程までに金型ユニットの切り離しが行われればよい。
【実施例】
【0066】
<比較例1>
(金型ユニットAの製造)
内径26mm、外径30mmおよび長さ300mmのアルミニウム製円筒状金型ユニットを注型法により製造し、切削により、図1に示すそのままの形状の凸部および凹部を設けた。凸部および凹部の軸方向の段差は5mmであった。
金型ユニットの外周面に、シリコーン系離型剤(商品名:KS700 (株)信越化学社製)を塗布することによって離型層としてシリコーン樹脂膜(膜厚約1μm)を形成し、金型ユニットAとして用いた。
【0067】
(連結式金型の製造)
金型ユニットAを5個連結して連結式金型を製造した。得られた金型は、つなぎ目への樹脂溶液の進入防止のための本発明のいずれの構成も有さなかった。
【0068】
(樹脂塗膜形成工程)
3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PDA)とを、N,N−ジメチルアセトアミド中で反応させて、22質量%濃度ポリイミド前駆体溶液Aを調製した。この前駆体溶液Aに、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で23%混合し、次いでジェットミルにより分散し、樹脂溶液Aを得た。
図9に示すように、上記連結式金型に対して一端側から樹脂溶液Aを連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットAを連結させるサイクルを繰り返した。金型ユニットを切り離す直前に、エアー用環状スリットヘッドより金型の外側から圧縮エアーを圧力0.2MPaで、隣接する金型ユニットとのつなぎ目に吐出することにより、樹脂塗膜を金型周囲にわたってカットした。切り離されたいずれの金型ユニットの表面にも約500μm厚の樹脂塗膜が形成されていた。
【0069】
以下の工程は切り離された金型ユニットごとに行った。
(乾燥工程)
次に、金型ユニットを水平にして、20rpmにて回転させながら、室温で5分間の乾燥後、80℃で20分間、100℃で1時間、加熱乾燥させた。これにより、厚さ約150μmの樹脂塗膜を得た。
【0070】
(焼成工程)
次に、金型ユニットを一旦、室温まで冷却した。その後、金型ユニットを垂直に立てて、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、ポリイミド樹脂膜を形成した。
【0071】
(脱型工程)
室温に冷えた後、金型ユニットとポリイミド樹脂膜との隙間に圧力0.5MPaの加圧空気を注入したところ、ポリイミド樹脂膜が膨張し、抜き取ることができたが、他の実施例と比較して困難であった。得られた成形体の両端部を20mm幅でカットし、ポリイミド樹脂製環状シームレス成形体を得た。
【0072】
(評価)
樹脂塗膜形成工程の所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかったが、脱型が困難であったので、生産性が不十分であった。
【0073】
<実施例1;構成(1)>
(金型ユニットa1の製造)
金型ユニットの外周面における上端部の形状を図11に示すような形状としたこと以外、金型ユニットAと同様の方法により金型ユニットa1を製造した。
【0074】
(連結式金型の製造)
金型ユニットa1を5個連結して連結式金型を製造した。
【0075】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において新規に連結される金型ユニットとして金型ユニットa1を用いたこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【0076】
<実施例2;構成(2)>
(金型ユニットBの製造)
複数個の金型ユニットBを連結したときの上流側金型ユニットと下流側金型ユニットとの関係が図5に示す構成を満たすような形状としたこと以外、金型ユニットAと同様の方法により金型ユニットBを製造した。
金型ユニットBにおける図5中のθは20°、Tは2.1mmであった。
【0077】
(連結式金型の製造)
金型ユニットBを5個連結して連結式金型を製造した。
【0078】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において新規に連結される金型ユニットとして金型ユニットBを用いたこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【0079】
<実施例3;構成(3)>
(連結式金型の製造)
金型ユニットAを5個連結して連結式金型を製造した。
【0080】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において金型における中空内部と外部との気圧差を3hPaとすることによって金型ユニット間のつなぎ目に金型の樹脂溶液塗布面に向けてエアーを流したこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【0081】
<実施例4;構成(4)>
(連結式金型の製造)
金型ユニットAを5個連結して連結式金型を製造した。連結時には図8に示すように金型ユニット間に厚み40μmのフッ素樹脂製カバー部材を挟み込んだ。
【0082】
(評価)
上記連結式金型を用いたこと、および樹脂塗膜形成工程において新規金型ユニットAの連結時に図8に示すように上記と同様のカバー部材を挟み込んだこと以外、比較例1と同様の樹脂塗膜形成工程、乾燥工程、焼成工程および脱型工程を行った。
特に、樹脂塗膜形成工程では所定のサイクルを50回繰り返し行い、50個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。しかも、バリはほとんど生じていなかったので、脱型を円滑に行うことができ、生産性が十分に優れていた。
任意の10個の成形体それぞれについて任意の10点の厚みを測定したところ、全ての成形体で最大値と最小値との差は14μm以下であり、膜厚均一性に優れていた。特に成形体における金型ユニット軸方向の端部と中央部とでも膜厚の差は上記範囲内であり、膜厚均一性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の金型は、画像形成装置、特に電子写真式画像形成装置の定着ベルト、転写ベルト、接触帯電ベルトとして使用可能な環状シームレス成形体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の連結式金型を構成する金型ユニットの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の連結式金型の一実施形態を示す概略構成図である。
【図3】(A)および(B)は共に、本発明の連結式金型の使用例の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成1)を示す拡大模式図である。
【図5】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成2)を示す拡大模式図である。
【図6】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成3)を示す拡大模式図である。
【図7】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成4)を示す拡大模式図である。
【図8】本発明における樹脂溶液のつなぎ目への進入防止策の一例(構成4)を示す拡大模式図である。
【図9】本発明の環状シームレス成形体の製造方法における樹脂塗膜形成工程の一例を説明するための概略模式図である。
【図10】本発明の環状シームレス成形体の製造方法における樹脂塗膜形成工程の別の一例を説明するための概略模式図である。
【図11】実施例1で使用の金型ユニットを示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0085】
1:1a:1b:1c:1d:1e:1f:金型ユニット、1x:上流側金型ユニット、1y:下流側金型ユニット、2:凸部、3:凹部、4:樹脂塗膜(樹脂溶液)、10:連結式金型、11a:11b:環状スリットヘッド、12:22:供給槽、16:つなぎ目、13:エアー、17:カバー部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなり、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて、環状シームレス成形体を製造するための連結式金型であって、
樹脂溶液の塗布の際に金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成としたことを特徴とする連結式金型。
【請求項2】
塗布が環状スリットヘッドによって行われ、
隣接する任意の金型ユニットにおいて樹脂溶液塗布方向で下流側の金型ユニットの環状スリットヘッドとの間隙が上流側の金型ユニットよりも広いか、または等しいことを特徴とする請求項1に記載の連結式金型。
【請求項3】
樹脂溶液塗布面における金型ユニット間のつなぎ目の断面形状を、樹脂溶液塗布方向に対して鉛直方向を基準に塗布方向の上流側へ傾斜させた形状とすることを特徴する請求項1に記載の連結式金型。
【請求項4】
金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液塗布面に向けてエアーを流すことを特徴する請求項1に記載の連結式金型。
【請求項5】
金型ユニット間のつなぎ目を樹脂溶液塗布面側でカバー部材によって塞ぐ請求項1に記載の連結式金型。
【請求項6】
カバー部材が耐熱性樹脂よりなる請求項5に記載の連結式金型。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布することを特徴とする環状シームレス成形体の製造方法。
【請求項8】
連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返すことを特徴とする請求項7に記載の環状シームレス成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の連結式金型を有する環状シームレス成形体の製造装置。
【請求項1】
軸方向で互いに連結/切り離し可能な2個以上の金型ユニットを連結させてなり、一端側から表面に樹脂溶液を連続的に塗布されて、環状シームレス成形体を製造するための連結式金型であって、
樹脂溶液の塗布の際に金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液を進入させないような構成としたことを特徴とする連結式金型。
【請求項2】
塗布が環状スリットヘッドによって行われ、
隣接する任意の金型ユニットにおいて樹脂溶液塗布方向で下流側の金型ユニットの環状スリットヘッドとの間隙が上流側の金型ユニットよりも広いか、または等しいことを特徴とする請求項1に記載の連結式金型。
【請求項3】
樹脂溶液塗布面における金型ユニット間のつなぎ目の断面形状を、樹脂溶液塗布方向に対して鉛直方向を基準に塗布方向の上流側へ傾斜させた形状とすることを特徴する請求項1に記載の連結式金型。
【請求項4】
金型ユニット間のつなぎ目に樹脂溶液塗布面に向けてエアーを流すことを特徴する請求項1に記載の連結式金型。
【請求項5】
金型ユニット間のつなぎ目を樹脂溶液塗布面側でカバー部材によって塞ぐ請求項1に記載の連結式金型。
【請求項6】
カバー部材が耐熱性樹脂よりなる請求項5に記載の連結式金型。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布することを特徴とする環状シームレス成形体の製造方法。
【請求項8】
連結式金型に対して一端側から樹脂溶液を連続的に塗布しながら、該連結式金型を構成する金型ユニットのうち前記一端側最端部にある少なくとも塗布が完了した金型ユニットを切り離すとともに、該連結式金型の他端側に新規金型ユニットを連結させるサイクルを繰り返すことを特徴とする請求項7に記載の環状シームレス成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の連結式金型を有する環状シームレス成形体の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−96000(P2009−96000A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267696(P2007−267696)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
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