説明

環状ジハイドロジェンポリシロキサン、ハイドロジェンポリシロキサン、それらの製造方法、シリカ系ガラス成形体およびその製造方法、光学素子およびその製造方法

【課題】被覆時、加熱等して硬化時にクラックがはいらず、真空紫外光領域〜近赤外光領域で光透過率が優れたシリカ系ガラスとなるハイドロジェンポリシロキサン等を提供する。
【解決手段】環状ジハイドロジェンポリシロキサン、特定のシロキサン単位式等を有するハイドロジェンポリシロキサン、加水分解縮合によるそれらの製造方法、これらポリシロキサンを型内で硬化させることによる170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス成形体の製造方法、該シリカ系ガラス成形体、該シリカ系ガラスからなる光学素子、これらポリシロキサンを光学部材に被覆し硬化させることによる該シリカ系ガラス膜層を有する光学素子の製造方法、該シリカ系ガラス膜層を有する光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ジハイドロジェンポリシロキサン、少なくともジハイドロジェンシロキサン単位とモノハイドロジェンシロキサン単位もしくはシロキサン単位とからなるハイドロジェンポリシロキサン、加水分解縮合によるそれらの製造方法、該環状ジハイドロジェンシロキサンまたは該ハイドロジェンポリシロキサンを型内で硬化させることによる170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス成形体の製造方法、該シリカ系ガラス成形体、該シリカ系ガラスからなる光学素子、真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材上に該環状ジハイドロジェンシロキサンまたは該ハイドロジェンポリシロキサンを被覆し硬化させることによる170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子の製造方法および該シリカ系ガラス膜層を有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシロキサン中のケイ素原子に水素原子が直結してなるポリシロキサン、すなわち、ハイドロジェンポリシロキサンとして、シラノール末端ポリジハイドロジェンシロキサン粉末とその末端をジメチルシリル化したポリジハイドロジェンシロキサン粉末(特開昭59−84920、特開昭60−42426参照)、シラノール末端ポリジハイドロジェンシロキサンもしくはシリル末端ポリジハイドロジェンシロキサンからなる溶媒に溶解可能なシリコーン樹脂(特開昭60−86018参照)、低重合度の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(Inorg. Chem.1983,22,2163-2167参照)、水素シルセスキオキサン樹脂(米国特許第3615272号参照)、化学式[H2 SiO]x [HSiO3/2 ]y (式中、x,yはモル分率を表わし、0.01≦x≦0.1,0.9≦y≦0.99,x+y=1である)を有し、分子量がMn =300からMW =500,000の範囲内であるペルヒドロシロキサンコポリマー(特公平7−86142参照)、構造式(SiO2)x(RSiO3/2y (R2 SiO)zで示される水素化珪素樹脂(前記構造式中、Rは水素または炭化水素であり少なくとも20%は水素、yは0.05〜1未満のモル分率であり、xとzは0(0を含まない)〜0.95のモル分率である)(特許第3298990号参照)および式:[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]および式:[HSiO1.5][SiO2](式中、pは約8〜約5000の範囲内の整数であり、nとwの和は約8〜約5000の範囲内の整数であり、nとmの和は約8〜約5000の範囲内の整数であり・・・・・)で表されるヒドリドシロキサン樹脂(特表2000−510522参照)が知られている。
【0003】
前記ポリジハイドロジェンシロキサン類の溶液を熱処理等すると酸化ケイ素膜になり、水素シルセスキオキサン樹脂溶液や水素化珪素樹脂溶液を基材に薄層コーテイングし、溶剤を揮発させ、高温加熱すると1μm前後、せいぜい2μm未満の厚さの二酸化ケイ素(すなわち、シリカ)含有セラミック状薄膜に転化することが知られている(特開昭60−86018等、特公平6−42477、特許第3298990号参照)。
【0004】
しかし、前記ポリジハイドロジェンシロキサン類は、粉末状であり溶剤に溶解しないとコーテイングに供せず、シラノール末端ポリジハイドロジェンシロキサンは不安定であり、その末端をジメチルシリル化したポリジハイドロジェンシロキサンは無機度合いと耐熱性が低下している(特開昭59−84920参照)という問題がある。前記低重合度の環状ジハイドロジェンポリシロキサンは、重合度が4〜23の範囲のものであり主成分は重合度が4〜9の範囲のものであるので、硬化させるときに大部分が揮散して所定サイズの硬化物が得られないという問題があるに本発明者らは気付いた。水素シルセスキオキサン樹脂、水素化ケイ素樹脂および前記ペルヒドロシロキサンコポリマーは、常温で固体状であり有機溶媒に溶解しないと薄層コーテイング不可能である(特公平6−42477、特許第3298990号、特公平7−86142参照)という問題がある。しかも、これらは、溶液をコーテイングし、溶剤が揮発した後の膜厚が約2μm以上になると、コーテイング膜にクラックが生じるか、そのときにクラックは生じないが、シリカに転化するために熱処理等した際にクラックが生じるという問題があることに本発明者らは気付いた。しかも、水素シルセスキオキサン樹脂、前記ペルヒドロシロキサンコポリマー、ヒドリドシロキサン樹脂は、常温で固体状であり、加熱しても溶融しないので、注型成形等が不可能であり、ミリメートルオーダのフィルム、シート、スラブおよびブロック状物を成形不可能という問題があることに本発明者らは気付いた。
【0005】
次に、前記ポリジハイドロジェンシロキサンは、ジアルコキシシラン、すなわち、HSi(OR)の加水分解縮合により製造されているが、溶剤に溶解するが熱溶融しない粉末しか得られないという問題がある。
前記水素シルセスキオキサン樹脂および水素化ケイ素樹脂は、米国特許第3615272号明細書に記載された稀小水加水分解方法、すなわち、ベンゼンスルホン酸水和物加水分解媒体中でトリクロロシラン、すなわち、ハイドロジェントリクロロシランを加水分解した後、得られた樹脂を水または硫酸水溶液で洗浄するという方法、具体的には、トリクロロシランのベンゼン溶液を濃硫酸と発煙硫酸とベンゼンの混合液中に滴下し加水分解縮合させ、得られた樹脂を水または硫酸水溶液で洗浄するという方法で製造されている(特許第3298990号の段落0012、0013参照)。
【0006】
前記の化学式[H2 SiO]x [HSiO3/2 ]y (式中、x,yはモル分率を表わし、0.01≦x≦0.1,0.9≦y≦0.99,x+y=1である)を有し、分子量がMn =300からMW =500,000の範囲内であるペルヒドロシロキサンコポリマー、すなわち、ハイドロジェンシロキサンコポリマーは、(1)アリールスルホン酸水和物を含有する加水分解媒体を調製すること、(2)HSiX3 及びH2 SiX2 (式中、XはCl、アルコキシ基のような加水分解性基である)を、撹拌した加水分解媒体に加えること、(3)加水分解媒体中のHSiX3 及びH2 SiX2 の加水分解を促進してコポリマーを形成させること、(4)加水分解媒体及びコポリマーを、酸層及び有機層(有機層がコポリマーを含有する)から成る不混和層へと鎮静すること、そして(5)有機層を酸層から分離するという製造方法で製造されている(特公平7−86142の段落0011〜0031参照)。その実施例1では、ジクロロシラン、すなわち、H2 SiCl8.5g(0.08モル)とトリクロロシラン、すなわち、HSiCl39.4g(0.07モル)の共加水分解縮合にもかかわらず、生成物であるハイドロジェンシロキサンコポリマーは化学式(H2 SiO)1 (HSiO3/219、すなわち、シロキサン単位式(H2 SiO)0.05 (HSiO3/20.95を有するものであり、H2 SiO単位量が著しく減少し、HSiO3/2単位量が著しく増大している。H2 SiO単位の導入率が悪く、事実上5モル%以下H2 SiO単位を有するハイドロジェンシロキサンコポリマーしか製造できない。そのため水素シルセスキオキサンの物性を大きく改善できず、水素シルセスキオキサン樹脂と同様に常温で固体である。そのため、炭化水素溶剤(例えばトルエン)に溶解してスピンコーテイング、スプレーコーテイング等をしている。すなわち、炭化水素溶剤に溶解しないと薄膜状コーテイングが困難という問題がある。しかも、炭化水素溶剤に溶解して薄膜状コーテイングしても溶剤が揮発した後の膜厚が約2μm以上になると、コーテイング膜にクラックが生じるか、そのときにクラックは生じないが、シリカコーテイングに転化するために熱処理等した際にクラックが生じるという問題があることに本発明者らは気付いた。しかも、生成物であるハイドロジェンシロキサンコポリマーは、常温で固体状であり、加熱しても溶融しないので、注型成形等が不可能であり、厚さがミリメートルオーダのフィルム、シート、スラブおよびブロック状物を成形不可能という問題があることに本発明者らは気付いた。
【0007】
特表2000−510522号公報には、 a.一般式R1SiX3(Xはハロゲン又はOR2であり、R1とR2が各々独立にH、アルキル及びアリール基よりなる群れから選ばれる)を有するシラン単量体と相間移動触媒、すなわち、四級アンモニウム塩とを、非極性溶媒と極性溶媒とを含んで成る反応混合物の存在下において、該シラン単量体をヒドロリドシロキサン樹脂又はオルガノヒドリドシロキサン樹脂に触媒作用的に転化するのに有効な条件下で接触させ、そして b.上記で生成したヒドリドシロキサン樹脂は又はオルガノヒドリドシロキサン樹脂を回収する工程を含んでなる、ヒドリドシロキサン樹脂又はオルガノヒドリドシロキサン樹脂の製造法が開示されている。生成物として、式:[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]および式:[HSiO1.5][SiO2](式中、pは約8〜約5000の範囲内の整数であり、nとwの和は約8〜約5000の範囲内の整数であり、nとmの和は約8〜約5000の範囲内の整数であり・・・・・)で表されるものが例示されているが、実施例は トリクロロシランの加水分解縮合物(水素シルセスキオキサン樹脂)のみである。式:[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]で表されるおよび式:[HSiO1.5][SiO2]で表されるヒドリドシロキサン樹脂は、水素シルセスキオキサン樹脂よりもSiに対するHの比率が小さく、すなわち、シリカ[SiO2]に近いので、常温で固体であり、加熱しても溶融しにくく、溶媒に溶解しがたく、薄膜コーテイングすら困難と思われる。
【0008】
特開2001−2785号公報には、(A)式RXSiCl4-X(X=0または1、R=水素または一価炭化水素基)で表される少なくとも1つのクロロシランを、非極性有機溶媒と、0〜43重量%の塩酸、アルキルスルホン酸水和物、アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩、アリスルホン酸水和物およびアリールスルホン酸のアルカリ金属塩から選択される界面活性化合物を含有する水性相からなる二相混合物に添加して加水分解縮合させ、(B)二相混合物をシリコーン樹脂を包含する有機相と水性相に分離し、該有機相を中和剤と接触させることによりシリコーン樹脂を製造する方法が記載されているが、純粋のハイドロジェンポリシロキサンは、式(HSiO3/2mで示される水素シルセスキオキサン樹脂しか記載されていない。
ところで、170nm以上の真空紫外光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で良好な光透過率を有する材料は、石英ガラスを除けば水素シルセスキオキサン樹脂が唯一の高分子材料である。しかし、上記先行技術文献では、水素シルセスキオキサン樹脂等の溶液を基材上に極めて薄くコーティングし、溶剤揮発後に高温加熱等して厚さ1μm前後、せいぜい2μm未満のセラミック状シリカ層を形成しているに過ぎない。したがって、上記先行技術文献の方法は、石英ガラス等の光学部材上に厚さ2μm以上のセラミック状シリカ層を形成することができない。ましてや、厚さがミリメートルオーダのセラミック状シリカを製造することができない。したがって、
エキシマレーザをはじめとする種々の紫外光源に広く適用できる厚さと内部構造の均質性が求められる光学素子の製造には不適である。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−86018号公報
【特許文献2】特開昭59−84920号公報
【特許文献3】特開昭60−42426号公報
【特許文献4】米国特許第3615272号明細書
【特許文献5】特公平7−86142号公報
【特許文献6】特許第3298990号号公報
【特許文献7】特表2000−510522号公報
【特許文献8】特公平6−42477号公報
【特許文献9】特開2001−2785号公報
【特許文献10】特公平6−23333号公報
【非特許文献1】Inorg. Chem.1983,22,2163-2167
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記問題点のないジハイドロジェンポリシロキサン、ハイドロジェンポリシロキサン、それらの製造方法、前記ハイドロジェンポリシロキサンから、真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス成形体を製造する方法、真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス成形体、該シリカ系ガラスからなる光学素子、石英等の光学部材上に真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス膜層を有する光学素子を製造する方法および光学部材上に真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス膜層を有する光学素子を発明すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。本発明の目的は、常温で液状であり、そのまま薄膜コーテイング可能であり、厚さ2μm以上のコーテイング膜でもクラックがはいらないハイドロジェンポリシロキサン、その効率的な製造方法、そのままあるいは有機溶剤に希釈すると薄膜コーテイング可能であり、厚さ2μm以上のコーテイング膜およびそれを硬化して形成されたシリカ系ガラス膜にもクラックがはいらないハイドロジェンポリシロキサン、前記ハイドロジェンポリシロキサンから真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス成形体を製造する方法、真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラスからなる光学素子、真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス成形体、石英等の光学部材上に真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス膜層を有する光学素子を製造する方法、石英等の光学部材上に真空紫外光領域〜紫外光領域、さらには可視光領域〜近赤外光領域で光透過性に優れたシリカ系ガラス膜層を有する光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的は[1] 重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサン。
[2] 非極性有機溶媒と水の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンから揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを除去することを特徴とする、重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
[3] 非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンから揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを除去することを特徴とする、重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
[4] シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃以下で液状であることを特徴とするハイドロジェンポリシロキサン。
[5] 非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中で、(a) ジハイドロジェンジクロロシラン,(b) ハイドロジェントリクロロシラン,(c)テトラアルコキシシランまたはテトラクロロシランを0.12≦(a)<1.0,0≦(b)≦0.88,0≦(c)≦0.30,(b)と(c) が同時に0であることがなく、(a)+(b)+(c)=1であるようなモル比で共加水分解縮合させることを特徴とする、シロキサン単位式[H2 SiO2/2x[HSiO3/2[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
[6] 非極性有機溶媒がトルエンまたはキシレンであり、イオン系界面活性剤が脂肪族スルホン酸、脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩および第4級アンモニウム塩からなる群から選択される[5]記載のハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
[7] 非極性有機溶媒と水の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒と無機酸とプロトン性極性溶媒を混合することによりジハイドロジェンポリシロキサンを分岐させることを特徴とするシロキサン単位式:[H2 SiO2/2[HSiO3/2(式中、v,wはモル分率を表わし、0.12≦v<1.0,0<w≦0.88, v+w=1.0)で示されるハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
[8] 極性有機溶媒がトルエンまたはキシレンであり、無機酸が硫酸、塩酸、硝酸またはリン酸であり、プロトン性極性溶媒がアルコールまたは脂肪族カルボン酸である[7]記載のハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
[9] (A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなる環状ジハイドロジェンポリシロキサンまたは (B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンを型に入れ、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高め、ついで、環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)またはハイドロジェンポリシロキサン(B)を硬化させてシリカ系ガラス成形体を形成し、該型から取り出すことを特徴とする170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス成形体の製造方法。
[10] 硬化手段が、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱、または高エネルギー線照射であることを特徴とする[9]記載のシリカ系ガラス成形体の製造方法。
[11] [9]記載の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の硬化物またはハイドロジェンポリシロキサン(B)の硬化物であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であることを特徴とするシリカ系ガラス成形体。
[12] [9]記載の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の硬化物またはハイドロジェンポリシロキサン(B)の硬化物であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラスからなることを特徴とする光学素子。
[13] (A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなる環状ジハイドロジェンポリシロキサンまたは (B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンを、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高めるか有機溶剤で希釈し、真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材上に被覆し、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して該有機溶剤を揮発させ、ついで、環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)またはハイドロジェンポリシロキサン(B)を硬化させることを特徴とする、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子の製造方法。
[14] 硬化手段が、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱、高エネルギー線照射、オゾン暴露、亜酸化窒素暴露または湿性アンモニア暴露であることを特徴とする、[13]記載の光学素子の製造方法。
[15] 真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材上に、[9]記載の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の硬化物またはハイドロジェンポリシロキサン(B)の硬化物であり170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有することを特徴とする光学素子。;により達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)は、有機溶媒に溶解しなくても薄膜コーテイングが可能であり、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱等により硬化させたときにクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラス膜を形成することができる;本発明の環状ジハイドロジェンポリシロキサンの製造方法は、製造中にケイ素原子結合水素原子が脱離しないので、環状ジハイドロジェンポリシロキサンが収率よく得られる;本発明のハイドロジェンポリシロキサン(B)は、そのまま又は有機溶媒に溶解すると薄膜コーテイングが可能であり、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱等により硬化させたときにクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラス膜を形成することができる;本発明のハイドロジェンポリシロキサン(B)の製造方法は、製造中にケイ素原子結合水素原子が脱離しないので、ハイドロジェンポリシロキサン(B)が収率よく得られる;本発明のシリカ系ガラス成形体の製造方法は、クラックがはいらない高硬度の170nm以上の真空紫外領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス成形体を容易に製造することができる。;本発明のシリカ系ガラス成形体は、クラックがはいらず高硬度であり適度な弾性を有している。;本発明の170nm以上の真空紫外領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子の製造方法は、かかる光学素子を容易に製造することができる。;本発明のシリカ系ガラスからなる光学素子は、クラックがはいらず高硬度であり適度な弾性を有し、内部歪がないので複屈折は観測されない。本発明の170nm以上の真空紫外領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子は、クラックがはいらず高硬度の表面層を有し内部歪がないので複屈折は観測されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)は、有機溶媒に溶解しなくても薄膜コーテイングが可能であり、コーテイング膜表面が平滑であり、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱等により硬化させたときにクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラス膜を形成するので、シリカ系ガラス膜、特には光学部材用のシリカ系ガラス膜を製造するのに有用である。また、離型性を有する型に注入して酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱等により硬化させたときにクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラス成形体を形成するので、シリカ系ガラス成形体、特には170nm以上の真空紫外領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学素子を製造するのに有用である。
重量平均分子量の下限値が1,500であるので硬化中に成分が揮発することが殆どなく、したがって殆ど収縮することがないので所定サイズのシリカ系ガラス成形体を形成することができる。
この環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の重量平均分子量は、製造の容易性と成形性の点で上限値は100,000が好ましい。なお、重量平均分子量は試料を2重量%のクロロホルム溶液にしてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(略称GPC)により測定して重量平均分子量既知の標準ポリスチレン換算して求めるものである。
本発明の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)は、熱硬化開始温度120℃未満の温度で粘度が10,000mPa・s以下、特には5,000mPa・s以下であることが望ましい。硬化により生成したシリカ系ガラスを光学素子として使用する場合は、レーザ光のようにコヒーレントな光を透過させることが多く、内部歪による複屈折性はレーザ光を変調させる一因となるため、配向あるいは内部歪を起こさないようにすることが必要である。熱硬化開始温度(120℃)未満の温度で粘度が10,000mPa・s以下、特には5,000mPa・s以下であると、ジハイドロジェンポリシロキサンの流動に伴う配向がおきにくく一時的に起きても配向が緩和しやすい。
【0014】
この環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)は、非極性有機溶媒と水の混合物中でジハイドロジェンジクロロシラン(H2SiCl)を加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンから揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを除去することにより容易に製造することができる。
ここで使用される非極性有機溶媒として芳香族炭化水素系有機溶媒と脂肪族炭化水素系有機溶媒が例示され、芳香族炭化水素系有機溶媒としてトルエン、キシレンが例示され、脂肪族炭化水素系有機溶媒としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンが例示される。
加水分解縮合反応は、非極性有機溶媒と水を撹拌しつつ、ジハイドロジェンジクロロシランの非極性有機溶媒溶液をじょじょに滴下することが好ましい。滴下は、ジハイドロジェンジクロロシランの揮発を防止するために5℃以下で行うことが好ましい。
非極性有機溶媒相と水性相の混合物中でジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させた後、生成した環状ジハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒層を水洗し、乾燥し、非極性有機溶媒および揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを留去することが好ましい。
【0015】
滴下終了後、静置すると非極性有機溶媒層と水性層に分離するので、非極性有機溶媒層を分取し、水洗する。この水洗は、中性になるまで、あるいは、塩素イオンが検出されなくなるまで行うことが好ましい。ある程度水洗し、弱アルカリ、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムにより中和し、生成した塩を水洗により除去してもよい。水洗した非極性有機溶媒層は、乾燥し、非極性有機溶媒および揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを留去する。水洗した非極性有機溶媒層を乾燥する方法は、環状ジハイドロジェンポリシロキサンを変質させなければ特に限定されないが、粉末状または粒状の脱水剤、例えば、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブを投入して撹拌し当該脱水剤をろ別するとよい。非極性有機溶媒および環状ジハイドロジェンポリシロキサンの留去は、環状ジハイドロジェンポリシロキサンを変質させなければ特に限定されず、減圧下での加熱、加熱下で乾燥した窒素ガスの吹き込みが例示される。ここで揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンは、3量体〜15量体位のものである。生成物が環状ジハイドロジェンポリシロキサンであることは、FT-IRにより分析したときにシラノール基の吸収不存在により首肯される。
【0016】
この環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)は、非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを共加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンから揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを除去することによっても容易に製造することができる。詳細な条件は、段落番号0020〜0022および段落番号0014,0015に記載したとおりである。
【0017】
本発明のシロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃以下で液状であることを特徴とするハイドロジェンポリシロキサン(B)は、有機溶媒に溶解しなくても薄膜コーテイングが可能であり、コーテイング膜表面が平滑であり、酸素雰囲気下での加熱等により硬化させたときにクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラス膜を形成するので、シリカ系ガラス膜、特には真空紫外光領域〜紫外光領域で吸収を有しない光学部材用のシリカ系ガラス膜を製造するのに有用である。また、離型性を有する型に注入して酸素雰囲気下での加熱等により硬化させたときにクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラスを形成するので、シリカ系ガラス成形体を製造するのに有用である。特には真空紫外光領域〜紫外光領域で吸収を有しない光学素子を製造するのに有用である。
このハイドロジェンポリシロキサン(B)の重量平均分子量は、硬化時の収縮の少なさの点で下限値は1,500が好ましく、製造の容易性と成形性の点で上限値は100,000が好ましい。なお、重量平均分子量は試料を2重量%のクロロホルム溶液にしてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(略称GPC)により測定して重量平均分子量既知の標準ポリスチレン換算して求めるものである。
本発明のハイドロジェンポリシロキサン(B)は、加熱硬化開始温度(120℃)未満の温度で粘度が10,000mPa・s以下であることが望ましい。硬化により生成したシリカ系ガラスを光学部材として使用する場合は、レーザ光のようにコヒーレントな光を透過させることが多く、内部歪による複屈折性はレーザ光を変調させる一因となるため、配向或は内部歪を起こさないようにすることが必要である。熱硬化開始温度(120℃)未満の温度で粘度が10,000mPa・s以下、特には5,000mPa・s以下であると、ハイドロジェンポリシロキサンの流動に伴う配向がおきにくく、一時的に起きても配向が緩和しやすい。
【0018】
シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)において、z=0の場合は、シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y(式中、x,yはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0<y≦0.88,x+y=1である)で示される。ここで、xが小さいと分岐度が大きくなり硬化時にクラックが入りやすくなるので0.15≦x<1.0,0<y≦0.85が好ましい。
y=0の場合は、シロキサン単位式[H2SiO2/2x[SiO4/2]z(式中、x,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0<z≦0.30,x+z=1である)で示される。ここで、xが小さいと分岐度が大きくなり硬化時にクラックが入りやすくなるので0.15≦x<1.0が好ましく、zが大きいと分岐度が大きくなり硬化時にクラックが入りやすくなるので0<z≦0.15であることが好ましい。
本発明の上記ハイドロジェンポリシロキサン(B)は、分子中に上記シロキサン単位式をx,y,zのモル分率で平均的に有するものであり、上記シロキサン単位の順に配列しているということではない。各シロキサン単位が分子中にランダムに配置している場合、ある程度のブロック状部分を有するが残余がランダムに配置している場合等があり得る。必ず[H2SiO2/2]単位を有するので直鎖状ブロックを有することがあり得るが、必ず[HSiO3/2 ]単位および/または[SiO4/2]を有するので、少なくとも分岐状の分子構造となり、網状やかご状の分子構造も取り得るので、いわばレジンである。[SiO4/2] 単位を有するとさらに分岐度が増大する。
【0019】
本発明の上記ハイドロジェンポリシロキサン(B)は、硬化開始可能温度(120℃)未満で液状であるが、薄膜コーテイングしやすくするためには、粘度が1〜10,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。分子中に[H2SiO2/2]単位量が多いほど、常温で液状になりやすく粘度が小さくなり、分子中に[HSiO3/2 ]単位量および[SiO4/2]単位量が多いほど常温で粘度が大きくなり固体状になることあり得るが、常温より高く120℃未満で固体状にはならない。ハイドロジェンポリシロキサン(B)は120℃未満ではそのケイ素原子結合水素原子が分解して脱離しないので、固体状であっても加熱して溶融させることができる
【0020】
本発明の上記ハイドロジェンポリシロキサン(B)は、非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中で、(a) ジハイドロジェンジクロロシラン(H2SiCl), (b) ハイドロジェントリクロロシラン(HSiCl3),(c)テトラアルコキシシラン(Si(OR))またはテトラクロロシラン(SiCl)を0.12≦(a)<1.0,0≦(b)≦0.88,0≦(c)≦0.30,(a) と(b)が同時に0になることがなく、 (a)+(b)+(c)=1であるようなモル比で共加水分解縮合させ、生成したハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒層を水洗し、乾燥し、非極性有機溶媒および揮発性ハイドロジェンポリシロキサンを留去することにより容易に製造することがきる。
ここで、Rはアルキル基であり、エチル基が好ましくメチル基やプロピル基であってもよい。
なお、シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y(式中、x,yはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0<y≦0.88,x+y=1である)で示されるハイドロジェンポリシロキサンは、(a) ジハイドロジェンジクロロシラン(H2SiCl)と (b) ハイドロジェントリクロロシラン(HSiCl3)を共加水分解することにより、シロキサン単位式[H2SiO2/2x[SiO4/2]z(式中、x,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0<z≦0.30,x+z=1である)で示されるハイドロジェンポリシロキサンは、(a) ジハイドロジェンジクロロシラン(H2SiCl)と(c)テトラアルコキシシラン(Si(OR))またはテトラクロロシラン(SiCl)を共加水分解することにより製造することができる。
【0021】
塩酸は、濃塩酸が好ましく、より好ましくは塩化水素含有量が15〜37重量%の塩酸である。塩酸に含まれている水が(a) ジハイドロジェンジクロロシラン(H2SiCl), (b) ハイドロジェントリクロロシラン(HSiCl3),(c)テトラアルコキシシラン(Si(OR))またはテトラクロロシラン(SiCl)の加水分解に供されるので、塩酸は(a) ジハイドロジェンジクロロシラン(H2SiCl), (b) ハイドロジェントリクロロシラン(HSiCl3),(c)テトラアルコキシシラン(Si(OR))またはテトラクロロシラン(SiCl)の加水分解に必要な等モル以上の量を使用する。
イオン系界面活性剤は、ハイドロジェントリクロロシランの急激な加水分解縮合および単独縮合によるゲル化を抑制し、ジハイドロジェンジクロロシランとの共加水分解縮合を促進する。イオン系界面活性剤には、アニオン系界面活性剤とカチオン系界面活性剤と両性界面活性剤があるが、アニオン系界面活性剤として、脂肪族炭化水素スルホン酸アルカリ金属塩、例えば、炭素原子数6〜20のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、炭素原子数6〜20のアルケンスルホン酸アルカリ金属塩;アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩;脂肪族炭化水素スルホン酸、例えば、炭素原子数6〜20のアルキルスルホン酸、炭素原子数6〜20のアルケンスルホン酸;アルキルベンゼンスルホン酸;アルキル硫酸エステルアルカリ金属塩;高級脂肪酸アルカリ金属塩が例示される。ここでアルカリ金属はナトリウムとカリウムが好ましい。カチオン系界面活性剤は、第4級アンモニウム塩、例えばテトラメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド;アルキルアミン塩酸塩,例えばドデシルアミン塩酸塩が例示される。イオン系界面活性剤の使用量は、塩酸中の水の0.01〜50重量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0022】
加水分解縮合反応は、非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中に、ジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランを含有する非極性有機溶媒溶液、あるいは、ジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランとテトラアルコキシシランもしくはテトラクロロシランを含有する非極性有機溶媒溶液を滴下することが好ましい。滴下中撹拌を継続することが好ましい。
ジハイドロジェンジクロロシラン、ハイドロジェントリクロロシラン、テトラアルコキシシランもしくはテトラクロロシランの揮発を防止するために、加水分解縮合反応は5℃以下で行うことが好ましい。
【0023】
本発明のシロキサン単位式:[H2 SiO2/2[HSiO3/2(式中、v,wはモル分率を表わし、0.12≦v<1.0,0<w≦0.88, v+w=1.0)で示されるハイドロジェンポリシロキサン(B)は、非極性有機溶媒と水の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒と無機酸とプロトン性極性溶媒を混合することによりジハイドロジェンポリシロキサンを分岐させることによっても容易に製造することができる。
この反応に使用する無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸が例示されるが、これらのうち硫酸がもっとも好ましい。プロトン性極性溶媒として、アルコールと脂肪族カルボン酸が例示されるが、炭素原子数が大きすぎると常温で液状でなくなりがちであるので、炭素原子数10以下のアルコールおよび炭素原子数5以下の脂肪族カルボン酸が好ましく、特にはエチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール、酢酸、プロピオン酸が好ましい。
【0024】
非極性有機溶媒と水の混合物中でジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させる反応は、上述したとおりである。生成したジハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒と無機酸とプロトン性極性溶媒の混合は、常温で3〜5時間位が好ましい。
反応終了後、生成したジハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒層を分取し、水洗し、乾燥し、非極性有機溶媒および揮発性ハイドロジェンポリシロキサンを留去する。分取、水洗、乾燥、非極性有機溶媒および揮発性ハイドロジェンポリシロキサンの留去については、前述したとおりである。プロトン性極性溶媒は、非極性有機溶媒および揮発性ハイドロジェンポリシロキサンの留去と同時に行うとよい。
【0025】
本発明の、(A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサン、および、(B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であることを特徴とするハイドロジェンポリシロキサンは、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱すると、酸化反応によってケイ素原子に直結した水素が水酸基になり、ケイ素原子結合水素原子と脱水縮合反応を起こして架橋する。すなわち、SiOSi結合を形成して架橋し、硬化する。この反応はオゾンでも誘起される反応であり、大気中の酸素による反応誘起よりも効率よく起きる。湿性アンモニア中ではケイ素直結水素原子が活性化され、空気中の水分と容易に反応して水酸基になり、ケイ素原子結合水素原子と脱水縮合反応を起こし架橋する。その結果、シリカ(酸化ケイ素)が生成する。もっとも、前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の分子中および前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)の分子中のすべてのケイ素原子結合水素原子が消費される必要はなく、その一部、例えば60モル%以下が残留していてもよい。ケイ素原子結合水素原子の消費度合いが増すにしたがって、すなわち、SiOSi結合を形成するに従ってシリカ系ガラスの硬度が大きくなり、鉛筆硬度が2〜10、好ましくは3〜9となる。
【0026】
酸素ガス雰囲気の代表例は、空気である。空気より酸素ガス濃度の小さい酸素ガス含有窒素ガスやヘリウムガス、アルゴンガスであってもよい。加熱する温度は、150℃以上であり、好ましくは180℃以上であり、より好ましくは180〜450℃である。加熱時間は200℃では10時間以上が好ましく、それより高温になるほど短くてよい。純不活性ガス中や真空中で200℃以上の温度で加熱すると分子の再分配反応が起こって架橋し、硬化する。加熱する温度は、200℃以上であり、好ましくは200〜450℃である。加熱時間は200℃では10時間以上が好ましく、それより高温になるほど短くてよい。
前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)、および、前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)は、酸素雰囲気下での加熱の代わりに、オゾン暴露、亜酸化窒素暴露または湿性アンモニア暴露によっても硬化する。オゾンは、純粋のオゾン、オゾンを含有する空気、水蒸気を含有するオゾン、オゾンを含有する窒素ガスが例示され、これらのいずれでもよい。亜酸化窒素は、純粋の亜酸化窒素ガス、亜酸化窒素含有空気、亜酸化窒素含有窒素ガスが例示され、これらのいずれでもよい。湿性アンモニアは、アンモニアを含有する空気、水酸化アンモニウムガス、アンモニアと水蒸気を含有する窒素ガスが例示され、これらのいずれでもよい。オゾン暴露、亜酸化窒素暴露または湿性アンモニア暴露は、加熱下で行ってもよい。
前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)、および、ハイドロジェンポリシロキサン(B)は、高エネルギー線照射によっても硬化する。その代表例は電子線とX線である。電子線の照射量は、好ましくは0.5MGy〜10MGyである。
【0027】
(A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンまたは(B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンを離型性のある型に入れ、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高め、ついで酸素雰囲気下120℃以上の温度での加熱により、または高エネルギー線照射により硬化させてシリカ系ガラス成形体を形成し、該型から取り出することによりシリカ系ガラス成形体を製造することができる。当該シリカ系ガラス成形体の形状は、特に制限されず、フィルム、スラブ、シート、短冊、三角柱、四角柱、円柱、立方体、直方体、円筒、真球、楕円球、凸型レンズの形状、凹型レンズの形状、プリズムの形状、紫外光源の封止材の形状、ランプのガラス外囲体の形状が例示される。この際、前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)と前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)を併用してもよい。
【0028】
前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)は、常温で液状であるので、型への注入は容易であるが、前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)は、[H2SiO2/2]単位のモル分率が小さく[HSiO3/2 ]単位または[SiO4/2]のモル分率が大きくなるにしたがって、粘度が大きくなるので、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高める必要がある。型は、シリカ系ガラスに対する離型性さえあれば金型、プラスチック型、セラミック型のいずれでもよい。型の内部形状は、成形物であるシリカ系ガラス、特には光学素子の形状に応じて種々の形状をとる。
このとき、型の転写を十分に行うためには、型面に密着することが重要であるから、硬化前の前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)または前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)の熱膨張と硬化収縮と硬化後の熱収縮を考慮する必要がある。室温近傍温度で型に前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)または前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)を注入または流入させ、120℃以上に加熱すると前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)または前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)の線熱膨張係数が100〜150ppmであるから数%膨張することになる。一方、縮合反応による硬化収縮は通常5%以上であるため、熱膨張と硬化収縮による体積変化は相殺できない。したがって、硬化は加圧下で行うことが好ましい。良好な光学特性を発現させるためには、硬化時に歪を発生させないようすることが好ましい。そのためには、熱硬化開始温度120℃未満の温度で粘度が10,000mPa・s以下、特には5,000mPa・s以下である前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)または前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)を使用するとよい。
型を使用しての成形は、圧縮成形、射出成形、トランスファー成形、注型成形、浸漬成形が例示される。圧縮成形、注型成形、射出成形、トランスファー成形には、加熱による硬化が適しており、注型成形と浸漬成形には高エネルギー線照射による硬化が適している。
【0029】
かくして得られたシリカ系ガラス成形体は、無色透明でありクラックおよび内部歪がなく、鉛筆高度(JIS K5400の8.4.2に規定する鉛筆ひっかき値)が2〜9であり、適度な弾性があり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域、すなわち、170〜400nmで光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域、すなわち、400〜1700nmで光透過率98〜100%であるので、光学素子用材料として有用である。かくして得られたシリカ系ガラス成形体は、エリプソメーターで測定する限りは複屈折は観測されず、その表面粗さがAtomic Force Microscopy(略称AFM)によれば12nm以下であることから、少なくとも200nmで1/10λ程度の精度は得られ、成形に使用した型内面の形状の転写性が良好である。さらには、線熱体膨張係数は約120ppmであり、400℃近傍の温度での耐久性を有しているため、高温に曝される光学素子用材料として有用である。当該シリカ系ガラスからなる光学素子は、レンズ、ミラー、プリズム、封止材、回折格子、ランプのガラス外囲体が代表的である。レンズは、凸レンズ、凹レンズ、回折レンズ、光拡散用レンズ、光ビーム集光レンズが例示される。光学素子を通過する光は、真空紫外線、遠紫外線、紫外線、エキシマレーザ光、固体レーザ光、YAGレーザ光、可視光線が例示される。
【0030】
(A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンまたは(B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であることを特徴とするハイドロジェンポリシロキサンを、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高め、真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材上に被覆し、ついで、硬化させることにより、具体的には、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱、高エネルギー線照射、オゾン暴露、亜酸化窒素暴露または湿性アンモニア暴露により硬化させることにより、無色透明でありクラックおよび内部歪がなく、鉛筆高度(JIS K5400の8.4.2に規定する鉛筆ひっかき値)が2〜9であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子を製造することができる。この際、前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)と前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)を併用してもよい。
【0031】
真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材の代表例は、合成石英、天然石英、蛍石である。
前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)または前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)が高粘度であるか、前記ハイドロジェンポリシロキサンが固体状である場合は、溶剤により稀釈してからコーテイングに供することが好ましい。特に、膜厚がμmオーダのシリカ系ガラス薄膜を形成するときは、溶剤稀釈が好ましい。溶剤として、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等の含ハロゲン炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の脂肪族ケトン;ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテルが例示される。
溶媒中の前記環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)または前記ハイドロジェンポリシロキサン(B)の濃度は、これらを低粘度化または溶解して膜厚がμmオーダのシリカ系ガラス薄膜を形成するのに十分な濃度であればよく、例えば10〜60重量%、より望ましくは10〜50重量%である。
コーテイング方法は、特に限定されず、スピンコーテイング、ブレードコーテイング、スプレー、ローラコーテイング、浸漬コーテイングが例示される。シリカ系ガラス膜の膜厚は、1〜10μm、さらには1mm位まで種々の厚みをとり得る。
【0032】
かくして得られたシリカ系ガラス層を有する光学部材は、クラックおよび内部歪がなく、鉛筆高度(JIS K5400の8.4.2に規定する鉛筆ひっかき値が2〜9であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域、すなわち、170〜400nmで光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域、すなわち、400〜1700nmで光透過率98〜100%であるので、光学素子として有用である。さらには、かくして得られたシリカ系ガラス層を有する光学素子は、還元性を有するため反射防止膜を構成するスパッタ成膜物質に対する制限はあるが、ガラス同様に反射防止膜を形成できる。さらには、線熱体膨張係数は約120ppmであり、400℃近傍の温度での耐久性を有しているため、高温に曝される光学素子用材料として有用である。かくして得られたクラックおよび内部歪がなく、鉛筆高度(JIS K5400の8.4.2に規定する鉛筆ひっかき値が2〜9であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子は、レンズ、ミラー、プリズム、回折格子、封止材、ランプのガラス外囲体、光導波路が代表的である。レンズは、凸レンズ、凹レンズ、回折レンズ、光拡散用レンズ、光ビーム集光レンズが例示される。光学素子を通過する光は、170nm以上の真空紫外線、遠紫外線、紫外線、エキシマレーザ光、固体レーザ光、YAGレーザ光、可視光線、1700nm以下の近赤外光が例示される。
【実施例】
【0033】
実施例と比較例中、溶解、撹拌、コーテイング、加熱等の操作および測定は、特に断らない限り実験室雰囲気中で行った。
実施例と比較例中、諸特性は下記の条件により測定した。
環状ジハイドロジェンポリシロキサンとハイドロジェンポリシロキサンレジンの粘度は、TOKIMEC製のE型回転粘度計により25℃で測定した。
環状ジハイドロジェンポリシロキサンとハイドロジェンポリシロキサンレジンの重量平均分子量と分子量分布は、ゲルパーミエーション(GPC)により測定した。GPC装置として、東ソー株式会社製のHLC-8020 ゲルパーミエーション(GPC)に屈折検出器と東ソー株式会社製のTSKgel GMHXL-L カラム2個を取り付けたものを使用した。試料は2重量%クロロホルム溶液として測定に供した。検量線は重量平均分子量既知の標準ポリスチレンを用いて作成した。重量平均分子量は標準ポリスチレン換算して求めた。
環状ジハイドロジェンポリシロキサンとハイドロジェンポリシロキサンレジンの29Si−NMRと1H−NMRは、Bruker ACP-300 Spectrometerにより測定した。
硬化物であるシリカ系ガラスの鉛筆硬度(鉛筆ひっかき値)は、JIS K5400の8.4.2に従い各種硬度の鉛筆で表面をひっかき、傷が発生しない最大硬度の鉛筆の硬度(濃度記号)で示した。
硬化物であるシリカ系ガラスのクラックは、KEYENCE VH-7000電子顕微鏡により観察した。
硬化物であるシリカ系ガラスの分光透過率は、島津製作所製分光光度計UV3100PCを用い、合成石英をレファレンスとして測定した。
【0034】
[実施例1] 環状ジハイドロジェンポリシロキサンの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコをドライアイスとイソプロパノールで零下5℃以下に冷却し、窒素ガスを流しつつトルエン100mlと蒸留水30mlを投入し、撹拌しつつジハイドロジェンジクロロシラン10mlとトルエン10mlの混合液を零度以下で30分間にわたり滴下した。反応混合液を更に30分間攪拌した後、じょじょに反応温度を上げ室温に戻した。更に室温で30分間攪拌した後、トルエン層を分離し、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム粉末を投入して、乾燥した後無水硫酸ナトリウム粉末をろ別し、透明なトルエン溶液を得た。そのトルエン溶液を1.0x10-2mmHgの減圧度でストリッピングしてトルエンと揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを留去して無色透明の液状物を得た。その液状物をクロロホルム溶媒としてGPC測定により標準ポリスチレン換算分子量を求めたところ重量平均分子量は5.0x10であった。この液状物の粘度は800mPa・sであった。この液状物は、29Si−NMRではHSiO2/2単位に由来する−49.05ppmのシグナルのみ観測され、1H−NMRではHSiO2/2単位に由来する4.77ppmのシグナルのみ観測された。また、FT−IRの測定でもシラノール基などポリシロキサン末端に由来する吸収ピークが観測されなかった。これらの測定結果は、加水分解縮合物生成物が環状ジハイドロジェンポリシロキサンであることを示している。
【0035】
[実施例2] 環状ジハイドロジェンポリシロキサンの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコにオクチルスルホン酸ナトリウムト0.1gとトルエン100mlと濃塩酸50mlを仕込み、窒素ガスを流しつつ5℃〜−5℃で攪拌しながら、ドライアイスとイソプロパノールで5℃以下に冷却したジハイドロジェンジクロロシラン10mlとトルエン10mlの混合液を30時間にわたり滴下した。反応混合液を更に30分間攪拌した後、じょじょに反応温度を上げ室温に戻した。更に室温で30分間攪拌した後、トルエン層を分離し、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム粉末を投入して、乾燥した後無水硫酸ナトリウム粉末をろ別し、透明なトルエン溶液を得た。そのトルエン溶液を1.0x10-2mmHgの減圧度でストリッピングしてトルエンと揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを留去して無色透明の液状物を得た。その液状物をクロロホルム溶媒としてGPC測定により標準ポリスチレン換算分子量を求めたところ重量平均分子量は5.0x10であった。この液状物の粘度は800mPa.sであった。この液状物は、29Si−NMRではHSiO2/2単位に由来する−49.05ppmのシグナルのみ観測され、1H−NMRではHSiO2/2単位に由来する4.77ppmのシグナルのみ観測された。また、FT−IRの測定でもシラノール基などポリシロキサン末端に由来する吸収ピークが観測されなかった。これらの測定結果は、加水分解縮合物生成物が環状ジハイドロジェンポリシロキサンであることを示している。
【0036】
[実施例3] ハイドロジェンポリシロキサンレジンA〜Dの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、オクチルスルホン酸ナトリウム1gとトルエン700mlと濃塩酸200mlを仕込み、窒素ガスを流しつつ零下5℃で攪拌しながら、ドライアイスとイソプロパノールで5℃以下に冷却したジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランのトルエン混合溶液(ジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランのモル比=12/98(A)、15/85(B)、25/75(C)、50/50(D)200mlを滴下ロートから60分間かけて滴下した。滴下終了後、じょじょに室温に戻し、更に室温で1時間攪拌した後、分液ロートで有機層を分取し、中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウム粉末を投入して乾燥した。無水硫酸マグネシウム粉末を濾別し、ロータリエバポレータによりトルエンを除去し、残渣を真空中で乾燥した。乾燥した各残渣(ハイドロジェンポリシロキサンレジン)は無色透明の液体であり、収率は80〜90%であり、分子量分布は複数のピークを有していた。その重量平均分子量(Mw)、粘度(mPa・s)、29Si−NMRのHSiO2/2単位に由来する−50.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.5ppmのシグナルの積分値、または1H−NMRのH2SiO2/2単位に由来する4.71ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する4.37ppmのシグナルの積分値から求めたシロキサン単位式を表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
[実施例4] ハイドロジェンポリシロキサンレジンEの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、テトラブチルアモニウムクロライド1gとトルエン400mlと濃塩酸100mlを仕込み、窒素ガスを流しつつ零下5℃で攪拌しながら、ドライアイスとイソプロパノールで5℃以下に冷却したジハイドロジェンジクロロシラン10mlとハイドロジェントリクロロシラン50ml(ジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランのモル比= 1/4)とトルエン50mlの混合液を滴下ロートから60分間かけて滴下した。滴下終了後、じょじょに室温に戻し、更に室温で1時間攪拌した後、分液ロートで有機層を分取し、中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウム粉末を投入して乾燥した。無水硫酸マグネシウム粉末を濾別し、ロータリエバポレータにより加熱減圧下でトルエンを除去し、残渣を真空中で乾燥した。乾燥した残渣(ハイドロジェンポリシロキサンレジンE)は無色透明の液体であり、収率は40%であり、分子量分布は複数のピークを有していた。その粘度は7000mPa・sであり、重量平均分子量(Mw)は5.0X103であり、その29Si−NMRのHSiO2/2単位に由来する−50.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.5ppmのシグナルの積分値、または1H−NMRのH2SiO2/2単位に由来する4.71ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する4.37ppmのシグナルの積分値から求めたシロキサン単位式は、(H2SiO)0.20(HSiO1.5)0.80であることが判明した。
【0039】
[実施例5] ハイドロジェンポリシロキサンレジンFの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、オクチルスルホン酸ナトリウムト1.0gとトルエン200mlと濃塩酸200mlを仕込み、窒素ガスを流しつつ5℃〜−5℃で攪拌しながら、ドライアイスとイソプロパノールで5℃以下に冷却したジハイドロジェンジクロロシラン4.7gとハイドロジェントリクロロシラン14.2gとテトラエトキシシラン3.2gの混合液(ジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランとテトラエトキシシランのモル比=0.28:0.62:0.10)を滴下ロートから60分間かけて滴下した。滴下終了後、じょじょに室温に戻し、更に室温で1時間攪拌した後、分液ロートで有機層を分取し、中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウム粉末を投入して乾燥した。無水硫酸マグネシウム粉末を濾別し、ロータリエバポレータにより加熱減圧下でトルエンを除去し、残渣を真空中で乾燥した。乾燥した残渣(ハイドロジェンポリシロキサンレジンF)は無色透明の液体であり、収率は65%であり、分子量分布は複数のピークを有していた。その粘度は25,000mPa・sであり、重量平均分子量(Mw)は27.5x103であり、その29Si−NMRのHSiO2/2単位に由来する−50.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.5ppmのシグナルの積分値とSiO4/2単位に由来する−112.4ppmのシグナル、または1H−NMRのH2SiO2/2単位に由来する4.71ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する4.37ppmのシグナルとの積分値から求めたシロキサン単位式は、(H2SiO)0.28(HSiO1.5)0.62(SiO4/20.10であることが判明した。
【0040】
[実施例6] ハイドロジェンポリシロキサンレジンGの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、オクチルスルホン酸ナトリウムト1.0gとトルエン200mlと濃塩酸200mlを仕込み、窒素ガスを流しつつ5℃〜−5℃で攪拌しながら、ドライアイスとイソプロパノールで5℃以下に冷却したジハイドロジェンジクロロシラン4.8gとハイドロジェントリクロロシラン14.2gとテトラエトキシシラン1.6gの混合液(ジハイドロジェンジクロロシランとハイドロジェントリクロロシランとテトラエトキシシランのモル比=0.3:0.65:0.05)を滴下ロートから60分間かけて滴下した。滴下終了後、じょじょに室温に戻し、更に室温で1時間攪拌した後、分液ロートでトルエン層を分取し、中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウム粉末を投入して乾燥した。無水硫酸マグネシウム粉末を濾別し、ロータリエバポレータにより加熱減圧下でトルエンを除去し、残渣を真空中で乾燥した。乾燥した残渣(ハイドロジェンポリシロキサンレジンG)は無色透明の液体であり、収率は70%であり、分子量分布は複数のピークを有していた。その粘度は1,500mPa・sであり、重量平均分子量(Mw)は5.5x103であり、その29Si−NMRのHSiO2/2単位に由来する−50.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.5ppmのシグナルとSiO4/2単位に由来する−112.4ppmのシグナルの積分値より求めたシロキサン単位式は、(H2SiO)0.30 (HSiO1.5)0.65(SiO0.05であることが判明した。
【0041】
[実施例7] ハイドロジェンポリシロキサンレジンHの調製
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、トルエン200mlとジハイドロジェンジクロロシラン25gを投入し、零下20℃以下まで冷却し、撹拌しつつ滴下ロートから水5mlを30分間かけて滴下した。滴下終了後に零下20℃で1時間攪拌し、反応混合液を室温まで戻し、更に1時間攪拌した。分液ロートを用いてトルエン層を分取し、それに濃硫酸(濃度47重量%)100mlと酢酸50mlを加えて室温で5時間攪拌した後、分液ロートを用いてトルエン層を分取し、中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウム粉末を投入して乾燥した。無水硫酸マグネシウム粉末を濾別し、ロータリエバポレータにより加熱減圧下でトルエンを除去し、残渣を真空中で乾燥した。乾燥した残渣(ハイドロジェンポリシロキサンレジンH)は無色透明の液体であり、収率は80%であり、分子量分布は複数のピークを有していた。その粘度は2,000mPa・sであり、重量平均分子量(Mw)は5.2x10であり、その29Si−NMRのHSiOH2SiO2/2単位に由来する−50.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.5ppmのシグナルの積分値より求めたシロキサン単位式は、(H2SiO)0.33(HSiO1.5)0.67であることが判明した。
【0042】
[実施例8]
実施例1で調製した環状ジハイドロジェンポリシロキサンを平板状の合成石英板上に2000rpmでスピンコートし、200℃で15時間加熱して、厚さ3μmのシリカ系ガラス膜を合成石英板上に形成した。シリカ系ガラス膜を有する合成石英板は、波長200nmでは90%、400nmでは99%の分光透過率を有していた。可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域では全くの吸収を示さず、99%の光透過率であった。シリカ系ガラス膜の鉛筆硬度は4Hであった。シリカ系ガラス膜にクラックは観察されなかった。
【0043】
[実施例9]
実施例3で調製した液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンDを平板状の合成石英板に2000rpmでスピンコーテイングし、200℃で2時間加熱して硬化させ、シリカ系ガラス膜を形成させた。シリカ系ガラス膜を有する合成石英板は、波長190nmでは90%、400nmでは99%の分光透過率を有していた。可視光領域では全くの吸収を示さず、99%の分光透過率であった。Filmetrics社(米国)製の薄膜測定装置F20を用いて膜厚を測定したところ、5μmであった。シリカ系ガラス膜の合成石英板との密着性は良好であった。シリカ系ガラス膜の鉛筆硬度を測定したところ4Hであった。シリカ系ガラス膜にクラックは観察されなかった。
【0044】
[実施例10]
実施例3で調製した液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンCを平板状の合成石英板上にバーコートし、200℃で15時間加熱して、厚さ10μmのシリカ系ガラス膜を合成石英板上に形成した。シリカ系ガラス膜を有する合成石英板は、波長190nmでは90%、400nmでは99%の分光透過率を有していた。可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域では全くの吸収を示さず、99%の光透過率であった。シリカ系ガラス膜の鉛筆硬度は4Hであった。シリカ系ガラス膜にクラックは観察されなかった。
【0045】
[実施例11]
ポリエチレンテレフタレートフィルム上に深さ2mmのポリテトラフルオロエチレン製の型枠を載せ、型枠内に実施例2で調製した液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンAを注入し、5体積%のアンモニアガス含有空気を充填した縦30cmx横30cmのポリエチレンフィルム袋に入れて1時間放置して液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンAを硬化させた。硬化物である厚さ2mmのシリカ系ガラス板を型枠およびポリエチレンテレフタレートフィルムから剥がして、分光透過率を測定したところ200nmでは95%、400nmでは99%の分光透過率を有していた。シリカ系ガラス板の鉛筆硬度は4Hであり、クラックは観察されなかった。
【0046】
[実施例12]
実施例3で調製した液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンBを内容積50mlのポリテトラフルオルエチレンカップに入れ、減圧下150℃のオーブン中で2時間加熱して厚さ4mmの円板状の無色透明な半硬化物を得た。この半硬化物を200℃で2時間加熱した後、4時間かけて250℃に昇温し、この温度で0.1mmHgの圧力下で8時間加熱し、その後6時間かけて徐冷することにより厚さ4mmの円板状の無色透明なシリカ系ガラス成形体を得た。この半硬化物とシリカ系ガラス成形体について実施例8と同様に分光透過率を測定したところ、波長200nmでの分光透過率は、半硬化物では90%でありシリカ系ガラス成形体では92%であった。波長400nmでの分光透過率は、半硬化物、シリカ系ガラス成形体ともに99%であった。このシリカ系ガラス成形体の鉛筆硬度は4Hであった。
【0047】
[実施例13]
実施例3で調製した液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンCを平板状の合成石英板に2000rpmでスピンコーテイングし、線量3MGyの電子線を照射して硬化させることにより、厚さ7.5μmのシリカ系ガラス膜を形成させた。シリカ系ガラス膜を有する合成石英板は、波長190nmでは92%、400nmでは99%の分光透過率を有していた。可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域では全くの吸収を示さず、99%の光透過率であった。
このシリカ系ガラス膜は合成石英板との密着性が良好であり、クラックは観察されなかった。シリカ系ガラス膜の鉛筆硬度は9Hであった。
赤外線吸収スペクトルにおけるケイ素原子結合水素原子(SiH)の特性吸収であるOSiHに由来する2264cm-1 とO1.5SiHに由来する2200cm-1の吸収ピークの高さの減少から、SiH含有量が60%減少したことが判明した。
【0048】
[実施例14]
実施例3で調製した液状ハイドロジェンポリシロキサンレジンBのメチルイソブチルケトン溶液(濃度30重量%)を調製し、合成石英板上にスピンコートし、200℃で15時間加熱して、厚さ2μmのシリカ系ガラス膜を合成石英板上に形成した。シリカ系ガラス膜を有する石英板は、波長200nmでは95%、400nmでは99%の分光透過率を有していた。可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域では全くの吸収を示さず、99%の光透過率であった。このシリカ系ガラス膜の鉛筆硬度は4Hであり、シリカ系ガラス膜にクラックは観察されなかった。このシリカ系ガラス膜で被覆された合成石英板をマッフル炉で200℃で1時間加熱した後、2時間かけて400℃に昇温し、この温度で1時間加熱し、その後6時間かけて徐冷した。この熱処理後のシリカ系ガラス膜で被覆された合成石英板を先と同様に光透過率を測定したところ、吸収の変化はなく、良好な光透過率を保持していた。このシリカ系ガラス膜の鉛筆強度は9Hであった。
【0049】
[比較例1]
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、ハイドロジェントリエトキシシランとエタノールを投入し、これを氷水で冷却し撹拌しつつ、滴下ロートからハイドロジェントリエトキシシランの3倍等量の水をじょじょに滴下した。滴下終了後、室温で撹拌した後、沈殿物を濾別してエタノールを除去し、真空中で乾燥した。次にトルエンを溶媒としてGPC測定により標準ポリスチレン換算分子量を求めた。このようにして重量平均分子量5300のハイドロジェンポリシルセスキオキサンレジンを得た。
このハイドロジェンポリシルセスキオキサンレジンを、モレキュラシーブで脱水したメチルイソブチルケトンに、濃度が30重量%になるように溶解した。この溶液を石英板上にブレードコーティングして厚さ5μmのコーティング膜を合成石英板上に作成し、乾燥させたところ、クラックが生じた。この溶液を合成石英板上にスピンコーティングし乾燥して厚さ2μmのコーティング膜を作成したが、これもクラックが生じた。
【0050】
[比較例2]
撹拌機と温度計と窒素ガス導入口と滴下ロート付き4口ガラスフラスコに、ベンゼン750ml(656g)、95〜96%硫酸90ml(166g)および発煙硫酸(15%SO3 )80ml(147g)を投入した。滴下ロートにベンゼン200ml(175g)、ハイドロジェントリクロロシラン7.0ml(9.4g)、ジハイドロジェンジクロロシラン7.0ml(8.5g)を入れ、迅速に撹拌している4口ガラスフラスコに5時間にわたり滴下した。滴下終了後、さらに30分間撹拌した。得られた混合物を分液ロートに入れ、酸性水層を捨て、ベンゼン層を硫酸と水の混合物(それぞれ、5:1,2:1,1:1,1:2,および1:5)で5回洗浄した。ついで、蒸留水で5回洗浄し、濾過し、ろ液のベンゼンを蒸発させた。得られた白色固体コポリマーは4.42g(収率58%)であり、トルエンに可溶であることが認められた。その29Si−NMRのHSiO単位に由来する−50.1ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する−84.5ppmのシグナルの積分値、または1H−NMRのH2SiO2/2単位に由来する4.71ppmのシグナルとHSiO3/2単位に由来する4.37ppmのシグナルの積分値から、シロキサン単位式:(H2SiO)0.05(HSiO1.5)0.95で示されるハイドロジェンポリシロキサンレジンであることが判明した。これをモレキュラシーブで脱水したメチルイソブチルケトンに、濃度が30重量%になるように溶解した。この溶液を合成石英上にブレードコーティングして厚さ4μmのコーティング膜を合成石英上に作成し、乾燥させた後、200℃で2時間加熱したところクラックが生じた。また、5体積%のアンモニア含有空気を充填した30cmx30cmサイズのポリエチレン袋に1時間入れて硬化させたところ、クラックが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の、(A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンおよび(B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であることを特徴とするハイドロジェンポリシロキサンは、硬化してクラックがはいらない高硬度のシリカ系ガラスを形成し、当該シリカ系ガラスは170nm以上の真空紫外線領域から紫外光領域、さらには可視光領域から1700nm以下の近赤外光領域に至る広い波長範囲で良好な光透過性を有するので、光学素子材料として有用である。
本発明の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)およびハイドロジェンポリシロキサン(B)の製造方法は、これらを効率よく生産性よく製造するのに有用である。
本発明のシリカ系ガラス成形体および光学素子は、紫外線ランプ、エキシマーレーザ、紫外光LED、半導体ナノ粒子を利用するLED等の紫外光源を具備した装置の光学素子、4倍波(266nm)を利用する固体レーザ、YAGレーザ等のレーザ装置の光学素子、光導波路等に有用である。
本発明のシリカ系ガラス成形体および光学素子の製造方法は、これらを精度、効率、生産性よく製造するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1のシリカ系ガラス膜を有する合成石英板の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 シリカ系ガラス膜
2 合成石英板
A シリカ系ガラス膜を有する合成石英板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサン。
【請求項2】
非極性有機溶媒と水の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンから揮発性環状ジハイドロジェンポリシロキサンを除去することを特徴とする、重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
【請求項3】
非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを共加水分解縮合させることを特徴とする、重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなることを特徴とする環状ジハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
【請求項4】
シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃以下で液状であることを特徴とするハイドロジェンポリシロキサン。
【請求項5】
非極性有機溶媒、塩酸、イオン系界面活性剤の混合物中で、(a) ジハイドロジェンジクロロシラン,(b) ハイドロジェントリクロロシラン,(c)テトラアルコキシシランまたはテトラクロロシランを0.12≦(a)<1.0,0≦(b)≦0.88,0≦(c)≦0.30,(b)と(c) が同時に0であることがなく、(a)+(b)+(c)=1であるようなモル比で共加水分解縮合させることを特徴とする、シロキサン単位式[H2 SiO2/2x[HSiO3/2[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
【請求項6】
非極性有機溶媒がトルエンまたはキシレンであり、イオン系界面活性剤が脂肪族スルホン酸、脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩および第4級アンモニウム塩からなる群から選択される請求項5記載のハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
【請求項7】
非極性有機溶媒と水の混合物中で、ジハイドロジェンジクロロシランを加水分解縮合させ、生成したジハイドロジェンポリシロキサンを含有する非極性有機溶媒と無機酸とプロトン性極性溶媒を混合することによりジハイドロジェンポリシロキサンを分岐させることを特徴とするシロキサン単位式:[H2 SiO2/2[HSiO3/2(式中、v,wはモル分率を表わし、0.12≦v<1.0,0<w≦0.88, v+w=1.0)で示され、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
【請求項8】
非極性有機溶媒がトルエンまたはキシレンであり、無機酸が硫酸、塩酸、硝酸またはリン酸であり、プロトン性極性溶媒がアルコールまたは脂肪族カルボン酸である請求項7記載のハイドロジェンポリシロキサンの製造方法。
【請求項9】
(A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなる環状ジハイドロジェンポリシロキサンまたは (B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンを型に入れ、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高め、ついで、環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)またはハイドロジェンポリシロキサン(B)を硬化させてシリカ系ガラス成形体を形成し、該型から取り出すことを特徴とする170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス成形体の製造方法。
【請求項10】
硬化手段が、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱、または高エネルギー線照射であることを特徴とする請求項9記載のシリカ系ガラス成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の硬化物またはハイドロジェンポリシロキサン(B)の硬化物であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であることを特徴とするシリカ系ガラス成形体。
【請求項12】
請求項9記載の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の硬化物またはハイドロジェンポリシロキサン(B)の硬化物であり、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラスからなることを特徴とする光学素子。
【請求項13】
(A)重量平均分子量が1,500〜1,000,000の範囲内であり、常温で液状であり、H2SiO2/2単位からなる環状ジハイドロジェンポリシロキサンまたは (B)シロキサン単位式[H2SiO2/2x[HSiO3/2y[SiO4/2]z(式中、x,y,zはモル分率を表わし、0.12≦x<1.0,0≦y≦0.88,0≦z≦0.30,yとzが同時に0であることがなく、x+y+z=1である)を有し、重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内であり、120℃未満で液状であるハイドロジェンポリシロキサンを、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して流動性を高めるか有機溶剤で希釈し、真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材上に被覆し、必要に応じて120℃未満の硬化しない温度に保持して該有機溶剤を揮発させ、ついで、環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)またはハイドロジェンポリシロキサン(B)を硬化させることを特徴とする、170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有する光学素子の製造方法。
【請求項14】
硬化手段が、酸素ガス含有雰囲気下で150℃以上の温度での加熱、不活性ガスもしくは真空中での200℃以上の温度での加熱、高エネルギー線照射、オゾン暴露、亜酸化窒素暴露または湿性アンモニア暴露であることを特徴とする、請求項13記載の光学素子の製造方法。
【請求項15】
真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜近赤外光領域で光透過率98〜100%である光学部材上に、請求項9記載の環状ジハイドロジェンポリシロキサン(A)の硬化物またはハイドロジェンポリシロキサン(B)の硬化物であり170nm以上の真空紫外光領域〜紫外光領域で光透過率90〜100%であり可視光領域〜1700nm以下の近赤外光領域で光透過率98〜100%であるシリカ系ガラス膜層を有することを特徴とする光学素子。




























【図1】
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【公開番号】特開2007−45859(P2007−45859A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228774(P2005−228774)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【出願人】(500295461)ダウ コーニング コーポレーション (15)
【Fターム(参考)】