説明

生体光計測装置および光計測方法

【課題】応答期間の取り方には任意性があり、信号に含まれるアーチファクト等のため十分な検出能力を示さない場合がある。このため、有効な検出法さらに結果の表示法を開発する必要がある。
【解決手段】タスク(刺激)列や選択された計測信号を基準信号として、その他の計測信号との位相差信号等を求め、位相同期性を数値化する。さらにその数値を統計処理し信頼度を数値化、脳活動部位や機能的結合状態を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、特開2000−237194号公報に開示されるような脳機能計測の分野に関わる。
【背景技術】
【0002】
脳機能計測の一例を図1(A)、(B)によって説明する。図1(A)は脳機能計測装置の概要と被験者との関係を示す図であり、図1(B)は被験者の頭部に光を照射する光照射手段の装着される位置Sと被験者の頭部に照射された光が透過した光を受光する受光用光ファイバーの装着される位置Dの配列の一例を示す図である。
【0003】
波長の異なる複数の光源102a〜102d(光源102aと102cは、例えば、波長が780nm、光源102bと102dは、例えば、波長が830nm)と、上記複数の光源102a及び102b(102c及び102d)の光をそれぞれ互いに異なった周波数で強度変調する発振器101a及び101b(101c及び101d)と、強度変調された光をそれぞれ光ファイバー103a及び103bを通して結合器104aで結合し、および光ファイバー103c及び103dを通して結合器104bで結合して、これらの結合した光を光照射用光ファイバー105aおよび105bを介して被験者106の頭皮上の異なる位置に照射する複数の光照射手段と、上記複数の光照射手段の光照射位置の近くに上記光照射位置からほぼ等距離(ここでは30mmとする)の位置に先端が位置するように設けられた複数の受光用光ファイバー107a〜107f及びこれらのそれぞれの他端に設けられた受光器108a〜108fからなる複数の受光手段とが設けられている。
【0004】
図1(A)の例では、図1(B)に示すように、光照射用光ファイバー(Sと表記)105aおよび105bの周りに、それぞれ3本の受光用光ファイバー(Dと表記)107a〜107cおよび107d〜107fを配置して生体通過光を光ファイバーに集光し、検出する。検出された生体通過光は、それぞれ、受光器108a〜108fで光電変換される。上記受光手段は被験者の頭部の内部で反射されながら透過した光を検出し電気信号に変換するもので、受光器108a〜108fとしては光電子増倍管やフォトダイオードに代表される光電変換素子を用いる。
【0005】
受光器108a〜108fで光電変換された生体通過光強度を表す電気信号(以下、生体通過光強度信号とする)は、それぞれ、ロックインアンプ109a〜109hに入力される。ここで、受光器108c及び108dは、光照射用光ファイバー105a及び105bの両方から等距離にある受光用光ファイバー107c及び107dで集光される生体通過光強度を検出しているため、受光器108c及び108dからの信号を2系統に分離し、ロックインアンプ109cと109e及び109dと109fに入力する。ロックインアンプ109a〜109dには発振器101a及び101b、そして、ロックインアンプ109e〜109hには発振器101c及び101dからの強度変調周波数が参照周波数として入力されている。従って、ロックインアンプ109a〜109dからは光源102a及び102bに対する生体通過光強度信号が分離されて出力され、ロックインアンプ109e〜109hからは光源102c及び102dに対する生体通過光強度信号が分離されて出力される。
【0006】
ロックインアンプ109a〜109hの出力である、分離された波長毎の通過光強度信号をアナログ−デジタル変換器(以下ではA/D変換器と記す)110でアナログ−デジタル変換した後に、計測制御用計算機111に送る。計測制御用計算機111では通過光強度信号を使用して、各検出点の検出信号から酸素化ヘモグロビン濃度、脱酸素化ヘモグロビン濃度および総ヘモグロビン濃度の相対変化量を演算し、複数の計測点の経時情報として計算機111内の記憶装置に格納する。ここで、総ヘモグロビン濃度変化量は酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化量の和として与えられる。
【0007】
一方、被験者の脳機能の計測のために、被験者に所定の刺激・タスクを与えて、これに対する応答を評価する。このため、統括制御兼データ処理・結果表示用計算機114は、計測制御用計算機111に指令を送り、計測制御用計算機111はこれに応じて、予め準備された刺激・タスク命令シーケンスに従い、被験者に対し刺激・タスク命令呈示装置113を用いて刺激・タスク命令を提示する。被験者の脳における刺激・タスク命令への応答が上述したように光計測される。なお、統括制御兼データ処理・結果表示用計算機114と計測制御用計算機111とは必要な情報の交換を行う。
【0008】
従来、刺激・タスクに対する被験者の応答を評価するには、繰り返し計測後、得られた平均応答の信号振幅をもとに信号の有意性を検定し、有意な活動領域を同定していた。
【0009】
【特許文献1】特開2000−237194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
応答期間の取り方には任意性があり、信号に含まれるアーチファクト等のため十分な検出能力を示さない場合がある。このため、刺激・タスクに対する被験者の応答を的確に評価できる有効な検出法さらに結果の表示法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、同源の活動は位相同期するという原理に着目して、被験者の応答を評価するため、被験者に与えられた刺激・タスクと、被験者の応答結果との位相同期性に注目して活動領域を検出する。同期性は信号の振幅・位相の両面から解析される。図2(A)、(B)は信号の同期性を説明する簡単な図である。図2(A)は、タスク期間とレスト期間とが周期的に与えられたときに得られる結果の信号例A、Bを示す図である。信号例Aは、振幅同期性と位相同期性がともに満足する形の結果例であり、信号例Bは、振幅同期性は無いが位相同期性がある形の結果例である。図2(B)は、これを表として示したものである。
【0012】
本発明は、被験者の応答を評価するには振幅同期性は条件として強すぎることに着目する。すなわち、被験者に与えられる刺激・タスクに対応する信号を基準信号として、被験者の応答に対応する計測信号との位相差信号等を求め、位相同期性を数値化し、さらにその数値を統計処理し信頼度を数値化して、有意なデータに基づいて脳活動部位や機能的結合状態を表示する。
【発明の効果】
【0013】
位相同期性は信号振幅によらないため、ヒトの頭部構造の影響を受けずに脳活動部位や機能的結合をより的確な形で示すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
刺激やタスクによって2つの信号が同期しているときには、信号間の位相差が一定であるという点に着目し、実際のデータにおいて位相差がどの程度一定であるかを検討した。
【0015】
位相差の算出には、ヒルベルト変換を用い、得られる瞬時位相から各時刻における位相差を算出した。
【0016】
ヒルベルト変換について説明する。実関数f(t)のヒルベルト変換g(t)、及び逆ヒルベルト変換はそれぞれ式(1)、(2)で定義される。
【0017】
【数1】

【0018】
計測信号を実関数f(t)とし、ヒルベルト変換を用いて解析信号Z(t)を式(3)で定義する。
【0019】
【数2】

【0020】
これを局座標表示すると、式(4)、(5)および(6)となる。
【0021】
【数3】

【0022】
具体的アルゴリズムでは、解析信号Z(t)を、計測信号f(t)の片側フーリエ変換として求める。すなわち、負の周波数に対するものは0とする。解析信号を近似させるため、計測信号f(t)のFFTを計算し、負の周波数に対応するFFT係数をゼロに置き換え、その結果について逆FFT計算を行い、解析信号Z(t)を求める。
【0023】
詳細に説明すると、つぎの4ステップのアルゴリズムを使用する。入力データの数はnとする。
第1ステップ:入力データのFFTを計算し、その結果をベクトルyに格納する。
第2ステップ:2.要素h(i)が、つぎの値をもつベクトルhを作成する。
i=1,(n/2)+1に対して、1
i=2,3,---,(n/2)に対して、2
i=(n/2)+2,---,nに対して、0
第3ステップ:yとhの要素単位の積を計算する。
第4ステップ:第3ステップで得られたデータ列の逆FFTを計算し、結果から最初n個の要素を解析信号Z(t)として出力する。
【0024】
位相差がどの程度一定であるといえるかを客観的に判断するために統計的検討を行う。位相差の分布を[−π、π]の範囲でNb個のビンのヒストグラムで表し、統計的指標としてSI(Synchronization Index)を式(7)、(8)および(9)のように定義し、求めた。
【0025】
【数4】

【0026】
式(8)に現れるpiはi番目のビンに位相差が存在する確率を表す。
【0027】
位相差の分布が完全に均一、つまり全く位相同期性がない場合は、S=Srandomとなるため、SI=0である。完全に同期している場合は、SI=1である。実際の計測データは多種のノイズ成分を含んでいるので、SI=1または0のような極端な結果が得られることはきわめて稀である。中間的な場合,位相同期性があると考えるべきかどうかを統計的に判断する。
【0028】
そのための手法として、ここではサロゲートデータ法を用いる。サロゲートデータ法とは次のような検定のための枠組みのことである。
1.元のデータから統計的性質の明確なデータを多数生成する(乱数を利用)。
2.そのランダムデータに対し問題となっている指標を計算する。
3.多数の指標に対する標本値をもとに,元のデータに関する指標の検定を行う。
【0029】
サロゲートデータとして、例えば無記憶ランダム過程で信号と同じフィルタリングを施されたものを用いる。50個のサロゲートデータから得られた統計的指標としてのSIの分布が正規分布(平均値0.2236、標準偏差0.0219)である場合、有意水準1%の閾値として、SI>0.2800を用いることができる。さらに、同期状態の時間変化を検討するために、短い(数百点程度のデータを含む)時間窓を設定し、その期間での統計的指標としてのSIを求め、時間窓の中心時刻のSIとし、時間窓を一定時間ごとにずらしていくことで、SIの時間変化を求めることも可能である。
【0030】
(実施例1)
図3は実施例1における生体計測装置の構成を示すブロック図である。本装置210は図1に示す計測制御用計算機111の計測機能を示す部分に対応する。A/D変換器110とのインタフェース201、一連の処理を行うCPU202、プログラムやデータを格納する記憶装置203、外部機器205とのインタフェース204、およびこれらを接続するバス206から構成される。また、バス206には表示手段211、キーボード212およびポインティングデバイス(例えばマウス)213が接続され、計測制御用計算機111のオペレータによるデータの入力あるいは解析結果のオペレータへの提示のために使用される。ここでは、記憶装置203に記憶されるプログラムとして、信号に必要なフィルタリングを施すフィルタリングプログラム、フィルタリングされた信号群あるいは外部信号から位相同期性を解析する位相同期性解析プログラム、位相同期性解析の結果から神経活動を検出する活動検出プログラム、検出された神経活動を分かりやすい形でユーザに提示するための画像化プログラムを備えるものとされている。検出結果は表示手段211に表示される。記憶装置203に保存されたプログラムは中央演算処理装置202によって解釈され実行される。
【0031】
図4は、実施例1で得られた位相同期性解析結果の一例を説明する図である。
【0032】
図4(A)は、プローブの構成例を示す図である。被験者の頭部に装着するプローブは、光照射用光ファイバーSと受光用光ファイバーDとを交互に配置し、光照射用光ファイバーSと受光用光ファイバーDとの間に1−24で示す計測チャンネルが形成されるようにして、視覚刺激に対する総ヘモグロビン量変化の計測ができるようにした状態を説明する図である。プローブの備える光照射用光ファイバーSと受光用光ファイバーDの数は、装着する位置、あるいは、被験者の頭の大きさ等を考慮して、適宜選択できる。被験者に対する視覚刺激は16×16の赤黒のチェッカボード刺激とした。赤黒の交代周波数は8ヘルツとした。レスト期間を20秒、刺激(タスク)期間を18秒とし、これを6回繰り返した。
【0033】
図4(B)は、総ヘモグロビン量変化の計測結果の位相同期性を評価した結果を示す図である。横軸にチャンネルの番号を、縦軸に各チャンネルのSI値(Synchronization Index)を採って、繰り返し数6回のSI値の平均値を○で示し、また、折れ線で統計的基準値(有意確率1%)を示した特性図である。したがって、この例では、チャンネル1,2,4,5,6,8および10から、チェッカボード刺激に同期したと評価し得る信号が得られていることになる。
【0034】
図4(C)は、図4(B)の結果を図式表示した図であり、有意確率1%で評価して有意な1,2,4,5,6,8および10チャンネルについて、チャンネル番号を表示し、有意でないチャンネルは黒のドットで塗りつぶした四角で、計測用ファイバーの位置は白抜きの四角で表した。図4(C)から、プローブ上部に対応する頭部の位置で脳活動が活発であったことが検出されたことが分かる。
【0035】
図4(D)は、比較のために、同一の計測結果から、従来のように刺激期間中の信号振幅をもとに検定した結果を、図4(C)と同様に表した図である。ただし、信号振幅をもとにした検定では1%の有意水準では検出できず、5%の有意水準を用いた。図4(C)と比べるとプローブの大部分に対応する頭部の位置で脳活動が活発であったような表示となっている。このことから、本発明による方が、感度良く、局在した活動を検出していることが分かる。
【0036】
図4(E)は、図4(B)、図4(C)の結果をユーザに、より分かりやすい形で図式表示する場合の表示例を示す図であり、検出結果を評価する有意水準を段階的に変更した結果を等高線として表示に関連付けたものである。すなわち、本発明の実施例1では、有意水準を0.001,0.005,0.01および0.05としたとき、活動領域を、図示したような等高線で表すことができる。図4(C)に示す検出結果が、有意水準0.01の等高線に対応する。この等高線を良く知られている画像化プログラムによって、色の濃淡で表示するものとすれば、ユーザは、活動領域を可視化された形で見ることができる。
【0037】
図4(F)は、図4(D)の結果を、図4(C)に対応して図式表示した例を示す図である。先にも述べたように、従来の、信号振幅をもとにした検定では1%の有意水準では検出できず、この例では、2%、5%の有意水準を用いた結果として表示した。この例では、等高線は2本しか得られないので、表示は散漫なものとならざるを得ない。
【0038】
(実施例2)
実施例2は、刺激・タスク命令シーケンスとして、被験者に野球の実況放送の録音を聞かせながら、自分がバッターとして立っている様子を想像するという課題を試行してもらったときの活動の評価に関する。図5(A)は実施例2のプローブの構成例と配置を模視的に示すとともに、位相同期性の評価結果を示す図である。図に卵形の線で示す図は頭を上からみた図をイメージし、上部に三角で示す図形は鼻が見えていることをイメージした図である。前頭部、左右側頭部および後頭部にプローブ1、プローブ2,3およびプローブ4を配置する。プローブ1およびプローブ2,3は、それぞれ22の計測チャンネルを得られるようにプローブを構成し、プローブ4は24の計測チャンネルを得られるようにプローブを構成した。
(A)は実施例2のプローブの構成例と配置を模視的に示すとともに、位相同期性の結果を示す図、(B)は、図5(A)に示す結果を、図4(E)で示したのと同様に、可視化して頭を上からみた図をイメージ上に表示した図である。
【0039】
図5(B)は、図5(A)に示す結果を、図4(E)で示したのと同様に、可視化して頭を上からみた図をイメージ上に表示した図である。この結果から、録音の聴解に伴う左右側頭下部(聴覚野)での活動、バッティングのイメージ化による後頭上部(視覚野)での活動、前頭部で運動のモデル形成準備による活動、具体的な運動モデルの形成による左右側頭上部(運動野)での活動が生じたことが明らかになった。
【0040】
この例でも、本発明によれば、活動領域が明確に検出できるから、被験者の能活動の評価をより厳密に行うことができる。
【0041】
(実施例3)
ところで、実施例2では、被験者の脳活動の結果を録音の聴解を基準信号として評価したものであるが、得られた結果の位相同期性の高さを評価して、高い位相同期性を示すチャンネルの信号を基準信号として評価することにより、より脳活動の動作領域を厳密に評価することができる。
【0042】
実施例3では、まず、基準信号となる録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性の高い計測チャンネルを評価する。図6は基準信号となる録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性の高い計測チャンネルを評価を示す図である。この例では、プローブ2の第10チャンネルが最も高い位相同期性を示している例である。
【0043】
そこで、プローブ2の第10チャンネルの信号を基準チャンネルとして、録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性を評価する。図7は、録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性を評価した結果を有意水準1%で判定した結果を示す図である。図5と比較すると、同じ計測結果を対象として解析した結果であるが、基準信号となる録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性の高い計測チャンネルを基準信号に選ぶことにより、より局在化した活動領域を検出できたことが分かる。図5と図7とを対比すると、基準チャンネルを変えて評価した結果、プローブ1では第13チャンネルが位相同期性無とされ、プローブ2では、第15チャンネルが位相同期性有、第18チャンネルが位相同期性無とされ、プローブ3では、第4チャンネルおよび第14チャンネルが位相同期性無、第11チャンネルが位相同期性有とされ、プローブ4では、第13チャンネルおよび第16チャンネルが位相同期性無とされたことが分かる。この結果、図7(B)に示すように、図5(B)に示されるような可視情報よりも、より限定された領域での活動が認識できる。
【0044】
(実施例4)
ところで、脳活動は、脳の領域の全範囲で同時に起こる分けではなく、脳のある領域の脳活動が、他の領域の脳活動を誘引するといった、時系列な動作であることが知られている。実施例3では、前記実施例2の実験結果を時系列な脳活動の動作として評価する実験を行った例である。
【0045】
図8は、図6に示した基準信号となる録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性の高い計測チャンネルについての応答の速さを示す図である。ここでは、刺激・タスク命令シーケンスとしての基準信号である録音の波形とこれに対応した応答波形を表示するのは難しいので、図2で説明した刺激・タスク命令シーケンスに対する応答の形で模擬的に表示した。横軸は時間、縦軸は信号の大きさである。図9は、録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性を評価し、結果を有意水準1%で判定した結果を示す図7に応答の速さ情報を表示した図である。
【0046】
図8を検討すると、プローブ2、チャンネル10が最も応答が速い。これを、図9では、プローブ2、チャンネル10のブロックにドットを付して表示した。次いで、プローブ2、チャンネル5およびプローブ3、チャンネル9の応答が早い。すなわち、これらに代表されるプローブ2およびプローブ3に示すS1の領域の応答が最も早い。次いで、プローブ1、チャンネル6およびプローブ1、チャンネル10の応答が早い。すなわち、プローブ1に示すS2の領域の応答が2番目に早い。次いで、プローブ4、チャンネル5およびプローブ4、チャンネル4の応答が早い。すなわち、プローブ4に示すS3の領域の応答が3番目に早い。最後に、プローブ3、チャンネル5、プローブ3、チャンネル11、プローブ2、チャンネル12およびプローブ2、チャンネル12の応答が4番目に早い。すなわち、プローブ2およびプローブ3に示すS4の領域の応答が4番目に早い。
【0047】
この結果から、まず、録音の聴解に伴う左右側頭下部(聴覚野)での活動が図9の領域S1に表れることが分かる。次いで、前頭部で運動のモデル形成準備による活動が図9の領域S2に表れることが分かる。続いて、バッティングのイメージ化による後頭上部(視覚野)での活動が図9の領域S31に表れることが分かる。最後に、具体的な運動モデルの形成による左右側頭上部(運動野)での活動が図9の領域S4に表れていることが分かる。
【0048】
図8からも分かるように、ここで言う早い、遅いというのは、比較の問題であって、時間の大きさで言えば、高々、秒オーダの程度にすぎないものである。しかし、これを、上述したように、応答の早さに対応したグループ分けをして、ユーザの目に見える形で表示をすれば、被験者の脳活動を動的に可視化して表示することができる。
【0049】
図10は被験者の脳活動を動的に可視化して表示する一例を示す図である。S1は、図9の領域S1に対応する表示であり、左右側頭下部(聴覚野)での活動領域をドットを付した丸で表示した。ここで、丸の面積、形は位相同期性の高い計測チャンネルの位置と数に対応させる。以下同様である。S2は、図9の領域S2に対応する表示であり、前頭部で運動のモデル形成準備による活動領域をドットを付した丸で表示した。S3は、図9の領域S3に対応する表示であり、バッティングのイメージ化による後頭上部(視覚野)での活動領域をドットを付した丸で表示した。S4は、図9の領域S4に対応する表示であり、具体的な運動モデルの形成による左右側頭上部(運動野)での活動領域をドットを付した丸で表示した。「全体」は、S1からS4の表示を総合したものであり、図7(B)に示す図と同じである。
【0050】
S1からS4の表示を、ユーザの見易い早さの動画として、S1からS4まで、順次表示手段211に順次表示すれば、ユーザは、あたかも、被験者の脳活動の領域が移動しているのを、リアルタイムで見ているように感じることができる。動画的な表示の後、「全体」を表示させて、全体的な脳活動の状態を評価することができる。
【0051】
活動の生じる速さは、各部位で観測される平均的位相差の値から判断される。位相差が小さいほど活動が早く生じている。
【0052】
(実施例5)
脳活動の時間的な変化を動画的に検討するには、先に述べたように、同期状態の時間変化を検討するために、短い(数百点程度のデータを含む)時間窓を設定し、その期間での統計的指標としてのSIを求め、時間窓の中心時刻のSIとし、時間窓を一定時間ごとにずらしていくことで、SIの時間変化を求めることでも実現できる。例えば、時間窓を一定時間ごとにずらしてSIの時間変化を求め、これを基礎として計測領域の位相同期性を評価し、この結果を、例えば、図7に示すような表示での時間変化として表示するものとすることができる。このような手法によれば、位相差の変化を敏感に捉えることができ、脳における複数の機能を脳の部位がいかなる時間的関連を持って活動しているかを正確に提示することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
脳機能の受けた障害の評価および脳機能に障害を受けた人の回復状態の評価に有用であり、リハビリのサポートに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(A)は脳機能計測装置の概要と被験者との関係を示す図であり、(B)は被験者の頭部に光を照射する光照射手段の装着される位置Sと被験者の頭部に照射された光が透過した光を受光する受光用光ファイバーの装着される位置Dの配列の一例を示す図である。
【図2】(A)、(B)は信号の同期性を説明する簡単な図であり、(A)は、タスク期間とレスト期間とが周期的に与えられたときに得られる結果の信号例A、Bを示す図、(B)は、これを表として示したものである。
【図3】実施例1における生体計測装置の構成を示すブロック図である。
【図4】(A)−(F)は、実施例1で得られた位相同期性解析結果の一例を説明する図であり、(A)は、プローブの構成例を示す図、(B)は、総ヘモグロビン量変化の計測結果の位相同期性を評価した結果を示す図、(C)は、図4(B)の結果を図式表示した図、(D)は、比較のために、同一の計測結果から、従来のように刺激期間中の信号振幅をもとに検定した結果を、図4(C)と同様に表した図、(E)は、図4(B)、図4(C)の結果をユーザに、より分かりやすい形で図式表示する場合の表示例を示す図、(F)は、図4(D)の結果を、図4(C)に対応して図式表示した例を示す図である。
【図5】(A)は実施例2のプローブの構成例と配置を模視的に示すとともに、位相位相同期性の評価結果を示す図、(B)は、図5(A)に示す結果を、図4(E)で示したのと同様に、可視化して頭を上からみた図をイメージ上に表示した図である。
【図6】基準信号となる録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性の高い計測チャンネルを評価を示す図である。
【図7】録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性を評価した結果を有意水準1%で判定した結果を示す図である。
【図8】図6に示した基準信号となる録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性の高い計測チャンネルについての応答の速さを示す図である。
【図9】録音の聴解に対応して得られた信号から位相同期性を評価し、結果を有意水準1%で判定した結果を示す図7に応答の速さ情報を表示した図である。
【図10】被験者の脳活動を動的に可視化して表示する一例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
101…発振器、102…光源、103…光ファイバー、104…結合器、105…光ファイバー、106…計測対象(被験者)、107…受光用光ファイバー、108…受光器、109…ロックインアンプ、110…アナログ・デジタル(A/D)変換器、111…計測制御用計算機、112…刺激・タスク命令シーケンス、113…刺激・タスク命令呈示装置、114…統括制御兼データ処理・結果表示用計算機、210…本装置、201,204…インタフェース、202…CPU、203…プログラムやデータを格納する記憶装置、206…バス、211…表示手段、212…キーボード、213…ポインティングデバイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の頭部表面上の複数部位に入射光を入射させ、入射光を入射部位から所定の距離だけ離れた複数部位で通過光量を検出するとともに、被験者に対して予め準備された刺激・タスク命令シーケンスを提示して、前記刺激・タスク命令シーケンスを基準位相信号とし、検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該位相同期性指標の所定のしきい値以上の検出された通過光量の信号のみを被験者の脳活動の計測値とすることを特徴とする光計測方法。
【請求項2】
被験者の頭部表面上の複数部位に入射光を入射させ、入射光を入射部位から所定の距離だけ離れた複数部位で通過光量を検出するとともに、被験者に対して予め準備された刺激・タスク命令シーケンスを提示して、前記刺激・タスク命令シーケンスを基準位相信号とし、検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該位相同期性指標から前記基準位相信号に対する最も位相同期性の高い通過光量の信号を第2の基準位相信号として、該第2の基準位相信号と前記検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該第2の基準位相信号に対する位相同期性指標の所定のしきい値以上の検出された通過光量の信号のみを被験者の脳活動の計測値とすることを特徴とする光計測方法。
【請求項3】
被験者の頭部表面上の複数部位に入射光を入射させる手段と、
前記入射光を入射部位から所定の距離だけ離れた複数部位で通過光量を検出する手段と、
被験者に対して予め準備された刺激・タスク命令シーケンスを提示する手段と、
前記刺激・タスク命令シーケンスを基準位相信号とし、検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該位相同期性指標の所定のしきい値以上の検出された通過光量の信号のみを被験者の脳活動の計測値として出力する手段と、
前記出力手段の出力を表示する手段と、
よりなることを特徴とする光計測装置。
【請求項4】
前記脳活動の計測値として出力する手段が、前記刺激・タスク命令シーケンスを基準位相信号とし、検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該位相同期性指標から前記基準位相信号に対する最も位相同期性の高い通過光量の信号を第2の基準位相信号として、該第2の基準位相信号と前記検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該第2の基準位相信号に対する位相同期性指標の所定のしきい値以上の検出された通過光量の信号のみを被験者の脳活動の計測値とする手段となされた請求項3記載の光計測装置。
【請求項5】
被験者の頭部表面上の複数部位に入射光を入射させる手段と、
前記入射光を入射部位から所定の距離だけ離れた複数部位で通過光量を検出する手段と、
被験者に対して予め準備された刺激・タスク命令シーケンスを提示する手段と、
前記刺激・タスク命令シーケンスを基準位相信号とし、検出された通過光量の信号との位相同期性指標を求め、該位相同期性指標の所定のしきい値以上の検出された通過光量の信号のみを被験者の脳活動の計測値として出力するとともに、該計測値に対応した信号を被験者の頭部を模した表示上に計測位置に対応させて表示する手段と、
よりなることを特徴とする光計測装置。
【請求項6】
前記計測位置に対応させた表示が、前記位相同期性指標の所定のしきい値の段階に応じた複数の等高線に対応した表示とされる請求項5記載の光計測装置。
【請求項7】
前記計測位置に対応させた表示が、前記刺激・タスク命令シーケンスへの応答の速さに応じてグループ化された計測位置を、応答の速さに応じた動画として表示するものである請求項5記載の光計測装置。
【請求項8】
前記位相同期性指標が短い時間窓における信号値で評価され、該時間窓を一定時間ごとにずらして得られた位相同期性指標を基礎として計測領域の位相同期性を評価し、各時間窓での位相同期性指標の所定のしきい値に応じた計測位置を表示して、位相同期性指標の所定のしきい値に応じた計測位置の時間変化を表示するものである請求項5記載の光計測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−20836(P2006−20836A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201608(P2004−201608)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】