説明

生体分子の安定化方法および組成物

【課題】本発明は生体分子の安定化方法および組成物に関する。特に臨床診断に用いられる酵素または標識抗体の安定化方法および組成物に関する。
【解決手段】(a)生体分子、および、(b)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物、を共存させる、生体分子を安定化する方法、(a)および(b)が共存している、生体分子が安定化した組成物、または、セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物を含む、生体分子を安定化するための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体分子の安定化方法および組成物に関する。特に臨床診断に用いられる酵素または標識抗体の安定化方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素および各種化合物を用いて酵素と抗体を修飾させた標識抗体は、その基質特異性の高さや簡便性によりさまざまな用途に応用されている。例えば、分子生物学用途の分析試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工したドライ系の体外診断薬、酵素センサーや酵素電極、医薬品、食品および飲料などである。これらの組成物に適用する酵素は、色素やビオチンまたはアビジンなどの標識化合物による標識、各種化合物による修飾、抗体、抗原とのコンジュゲート化等を受けることもある。
【0003】
しかし、上記のような酵素や標識抗体を含む組成物の性能を長期に渡って維持するためには、言うまでもなく酵素や標識抗体の活性を安定的に保持する事が重要である。例えば、試薬組成物中の酵素活性が時間経過により低下する時、所望の試薬の有効期間と酵素の活性低下速度に合わせて予め過剰量の酵素を添加する方策があるが、多くの場合このような手段では問題の根本的な解決にはならず、酵素や標識抗体のコストが嵩むことは避けられない。
【0004】
このため、組成物中に基質や補酵素、塩類、イオン類、糖類、糖アルコール、アミノ酸、脂肪酸エステル、牛血清アルブミンやゼラチン加水分解物等の蛋白質などを共存させることで、安定化を図る種々の方法が試みられてきた(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−141162号公報
【特許文献2】特許第3685815号公報
【特許文献3】特許第3696267号公報
【特許文献4】特開2005−114368号公報
【特許文献5】特開平10−279594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記安定化剤として例えば補酵素を用いた場合、概して高価である上、特定の生体分子に対する効果しか期待できないことが考えられる。また高分子或いは塩類、一部のアミノ酸を溶液中で用いた場合は、溶解度の低さや保存中の析出により、十分量添加することができないケースが考えられる。また、特に糖類やアミノ酸を診断薬に添加する場合は、試薬系に共存する若しくは酵素や標識抗体中に混在する夾雑物質と添加剤とが意図しない反応を引き起こす問題を発生させることがある。更に、牛血清アルブミンなどの動物性原料を用いる場合は、着色や牛海綿状脳症(BSE)などに対するリスクにも十分な配慮が必要となる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、酵素や標識抗体などの生体分子の効果的な安定化法と、それによって長期間安定性が維持された組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成する為に種々検討した結果、セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物を生体分子と共存させることにより、生体分子を効果的に安定化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のようなものである。
(1)次の(a)および(b)を共存させる、生体分子を安定化する方法:
(a)生体分子
(b)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物。
(2)生体分子が溶液中に存在する(1)記載の生体分子の安定化方法。
(3)生体分子が凍結乾燥物中に存在する(1)記載の生体分子の安定化方法。
(4)セリシンおよび/またはその加水分解物が、繭糸又は生糸から抽出した天然セリシンに由来するものである(1)記載の生体分子の安定化方法。
(5)セリシン同等物が遺伝子工学的手法により得られたものである(1)記載の生体分子の安定化方法。
(6)生体分子が蛋白質である(1)記載の生体分子の安定化方法。
(7)生体分子が酵素である(1)記載の生体分子の安定化方法。
(8)生体分子が標識抗体である(1)記載の生体分子の安定化方法。
(9)次の(a)および(b)が共存している、生体分子が安定化した組成物:
(a)生体分子
(b)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物。
(10)生体分子が溶液中に存在する(9)記載の生体分子の液状安定化組成物。
(11)生体分子が凍結乾燥物中に存在する(9)記載の生体分子の安定化組成物。
(12)セリシンおよび/またはその加水分解物が、繭糸又は生糸から抽出した天然セリシンに由来するものである(9)記載の生体分子の安定化組成物。
(13)セリシン同等物が遺伝子工学的手法により得られたものである(9)記載の生体分子の安定化組成物。
(14)生体分子が蛋白質である(9)記載の生体分子の安定化組成物。
(15)生体分子が酵素である(9)記載の生体分子の安定化組成物。
(16)生体分子が標識抗体である(9)記載の生体分子の安定化組成物。
(17)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物を共存させる工程を含む、生体分子の安定化組成物の製造方法。
(18)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物を含む、生体分子を安定化するための組成物。
(19)(9)記載の生体分子の安定化組成物を含む診断用キット。
(20)(9)記載の生体分子の安定化組成物を含むバイオセンサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セリシンおよび/またはセリシン加水分解物、もしくは、その同等物を用いることにより、生体分子の安定化を液状、乾燥状態の如何に関わらず向上させ、これら生体分子を用いた組成物の有効性を長期間に渡って維持することが可能となる。
本発明の生体分子の安定化方法によれば、酵素や標識抗体の安定性を液状、乾燥状態の如何に関わらず向上させ、これら生体分子を用いた組成物の有効性を長期間に渡って維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において「安定化」とは、生体分子がある物質と共存した状態(a)と共存していない状態(b)において、生体分子を一定期間保存した後の該生体分子の保持する残存機能が(a)>(b)となるような状態をいう。
例えば、酵素や標識抗体などの生体物質を含む水溶液の状態で、ある物質を共存させた場合(a)と、共存させない場合(b)で、適当な温度で一定時間保存した後の残存活性の比率が、(a)>(b)となる状態をいう。
また、例えば酵素や標識抗体などの生体物質を含む乾燥状態で、ある物質を共存させた
場合(a)と、共存させない場合(b)で、適当な温度で一定時間保存した後の残存活性の比率が、(a)>(b)となる状態をいう。
例えば、安定化の評価は、ある物質を共存させた場合(a)と、共存させない場合(b)についてそれぞれ残存機能の低下を経時的に測定し、半減期を比較することによって行うことができる。
「適当な温度で一定期間保存」の条件は、状態(a)と状態(b)で残存活性に差があらわれる条件であれば特に限定されないが、好ましくは、診断薬試薬中などでの長期保存安定性を念頭に置いた加速(苛酷)試験の条件が選択される。具体的には、「40℃で7日間保存」、または、「52℃で1時間保存」などが挙げられる。時間が許せば、生体分子を含有する診断薬などが実際に長期保存される温度として汎用される2℃〜10℃の冷蔵条件下で6ヶ月以上の保存を選択してもよい。
【0012】
本発明の一実施態様としては、50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH7.0)中で、酵素を25℃で2ヶ月保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の別の実施態様としては、1g/L Triton X−100を含む50mM
PIPES−NaOH緩衝液(pH7.0)中で、酵素を40℃で14日間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施態様としては、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中で、酵素を52℃で1時間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施態様としては、1g/L Triton X−100を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中で、酵素を9℃で24時間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施形態としては、1g/L Triton X−100を含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH7.0)中で、酵素を25℃で14日間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施形態としては、1g/L Triton X−100を含む50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中で、酵素を25℃で14日間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施態様としては、0.5g/L アジ化ナトリウムを含有する50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH7.0)中で、酵素を25℃で14日間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施態様としては、酵素を凍結乾燥粉末の状態で37℃で14日間保存した後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施態様としては、20mM MOPS緩衝液(pH7.0)中で、標識抗体を4℃で3日間保存させた後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
本発明の更に別の実施態様としては、1mM 塩化マグネシウム、0.1mM 塩化亜鉛、1g/L アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.4)中で、標識抗体を4℃で3日間保存させた後の残存活性率を、セリシンを添加することによって、セリシンを含まない状態に比べて向上させる方法である。
上記実施態様において、セリシンに替えてセリシン加水分解物またはセリシン同等物を用いても良い。
【0013】
ここでセリシンとは、繭糸または生糸に存在する非結晶性の天然蛋白質であり、本明細書においては特に、繭糸または生糸から非加水分解物の状態で抽出されたものをいうものとする。
一般的に、セリシンの遺伝子は2.6kbp〜10.6kbpの大きさで複数種確認されており、それらは例えば、The Journal of Biological Chemistry 257 15192−15199(1982)に記載されている。本発明に用いるセリシンは、このような配列を有する遺伝子から、産生される蛋白質であり、例えば、その全長配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列から実質的になるものである。典型的には、このアミノ酸配列は、配列番号1に示される38個のアミノ酸配列からなる本質的領域と、それ以外の非本質的領域とからなり、前記本質的領域を反復配列として含んでなるものである。例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるセリシンでは、前記本質的領域が12回反復して存在している。
本明細書において、セリシンが「配列番号2に示されるアミノ酸配列から実質的になる」とは、セリシンが生体分子を安定化する作用を有する限りにおいて、そのアミノ酸配列(配列番号2)の1もしくは複数個、好ましくは1〜2000個、より好ましくは1〜500個、さらに好ましくは1〜300個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたものであってもよいことを意味する。この場合、アミノ酸残基の欠失、置換、挿入もしくは付加は、本質的領域以外の領域になされていることが好ましい。本質的領域になされる場合においては、保存的置換であることが好ましく、セリシンが生体分子を安定化する作用を有する限りにおいて、そのアミノ酸配列の1もしくは複数個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜20個が保存的に置換されていてもよい。保存的置換とは、蛋白質の活性が実質的に改変されないように、1もしくは複数個のアミノ酸残基が、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換されることをいう。例えば、ある疎水性残基が別の疎水性残基によって置換される場合、ある極性残基が同じ電荷を有する別の極性残基によって置換される場合、ある芳香族アミノ酸が別の芳香族アミノ酸によって置換される場合などが挙げられる。このような機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。
本発明においては、非加水分解物としてのセリシンに替えて、あるいは、非加水分解物としてのセリシンと併用して、そのものが生体分子を安定化する作用を有する限り、セリシン加水分解物を用いることができる。
前記セリシンおよびセリシン加水分解物は、WO2002/086133号公報に開示される公知の方法に従い、繭糸または生糸から抽出して得ることができる。具体的には、非加水分解物としてのセリシンは、例えば以下のようにして、純度90%以上の高精製度蛋白質の状態で得ることができる。
まず繭糸または生糸を、水、好ましくは80〜100℃程度の熱水内で処理することにより、繭糸または生糸に含まれるセリシンを、該水中に溶出させ、セリシン水溶液を得る。さらに、得られたセリシン水溶液について、例えば次の(1)〜(3)のいずれかの方法を適用することにより、分離精製処理を行って、目的とするセリシンを回収することができる。
(1)前記セリシン水溶液のpHを、有機酸もしくは無機酸によってpH3〜5に調整した後、そこに有機凝集剤または無機凝集剤を添加してセリシンを析出させ、これをさらに濾過後、乾燥させて固体セリシンを得ることができる。
(2)前記セリシン水溶液と、メタノール、エタノールまたはジオキサンなどの水溶性溶媒と混合し、これによりセリシンを析出させた後、濾別乾燥して固体セリシンを得ることができる。
(3)特開平4−202435号公報に記載のように、前記セリシン水溶液を限外濾過膜または逆浸透膜に付し、所定の濾過処理を行った後、乾燥させてセリシン粉体を得ることができる。
また、セリシン加水分解物は、例えば以下のようにして、純度90%以上の高精製度蛋白質の状態で得ることができる。
まず繭糸または生糸を、水、好ましくは80〜100℃程度の熱水内で処理することにより、繭糸または生糸に含まれるセリシンを、該水中に溶出させ、セリシン水溶液を得る。このとき、電気分解した水や、酸、アルカリまたは酵素を併用して、セリシンを部分加水分解させる。そして得られたセリシン加水分解物水溶液について、例えば上記の(1)〜(3)のいずれかの方法を適用することにより、分離精製処理を行って、目的とするセリシン加水分解物を回収することができる。
かくして得られるセリシンおよびセリシン加水分解物の分子量は通常、500〜500,000の範囲内にあり、生体分子を安定化する作用を有する限りそのいずれも使用可能であるが、取扱い性の点から、重量平均分子量が5,000〜100,000、特に10,000〜50,000であるセリシン加水分解物が好ましい。
【0014】
本発明の安定化方法に用いる、「セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物」における「その同等物」(以下「セリシン同等物」ともいう)とは、天然セリシンに含まれる前記本質的領域、すなわち、配列番号1に示される38個のアミノ酸配列を少なくとも含んでなるポリペプチドであって、人工的に得られたもの、すなわち、化学合成により得られたものや遺伝子工学的手法により得られたものをいうものとする。したがって、人工的に得られたものであれば、天然物由来のセリシンまたはセリシン加水分解物と同一のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることができる。さらに、セリシン同等物には、天然物由来のセリシンまたはセリシン加水分解物の一部を利用してそれを基にさらに合成を行って得られたものも包含される。
本発明においては、前記天然物由来の「セリシンおよび/またはその加水分解物」に替えて、そのものが生体分子を安定化する作用を有する限り、これらの「その同等物」を用いることができる。
セリシン同等物は、前記した配列番号1に示される38個のアミノ酸配列からなる本質的領域を、複数回反復した配列として含んでなることが好ましい。反復配列を有するポリペプチドを使用することにより、生体分子を安定化する作用をより向上させることができる。セリシン同等物は、そのアミノ酸配列におけるアミノ酸残基数100個あたりに、前記本質的領域を少なくとも1個、さらには少なくとも2個有することが好ましい。セリシン同等物において本質的領域の含まれる割合は、多い方が好ましい。このような割合で反復配列を有することにより、セリシン同等物の全長のアミノ酸残基数が増加しても、安定して生体分子を安定化する作用を示すことができる。その作用は、典型的には、天然物由来のセリシンまたはセリシン加水分解物と比較して、同等であるかまたはそれより優れた性能を有している。
セリシン同等物の全長は、生体分子を安定化する作用を有する限り特に限定されないが、製造上の点では、前記本質的領域を2〜8回反復したものであることが好ましく、より好ましくは2〜6回、さらに好ましくは2〜4回反復したものである。
セリシン同等物の本質的領域は、そのアミノ酸配列の例えば1もしくは複数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個が保存的に置換されていてもよい。
セリシン同等物は、WO2002/086133号公報に開示される公知の方法に従って得ることができる。例えば、化学合成する際には、t−Boc法、Fmoc法による固相、液相合成法等、慣用のポリペプチドの合成手段を適宜採用することができる。また、遺伝子工学的手法により製造する際には、それをコードするDNAを入手、もしくは製造することができる場合、そのDNAによって宿主細胞を形質転換させた形質転換細胞において、製造することができる。
セリシン同等物は、融合タンパク質であることができる。このような融合タンパク質は、前記「セリシン」や「セリシン加水分解物」をコードするDNAと異種ポリペプチドをコードするDNAとを融合させて融合タンパク質をコードするDNAを作成し、これを発現させて製造することができる。
【0015】
セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物は、例えば0.1〜200g/L、好ましくは0.1〜100g/L、より好ましくは0.2〜20g/Lの濃度で添加することができる。
【0016】
本発明の安定化方法の対象となる生体分子は特に限定されるものではないが、例えば臨床診断に用いられる酵素、標識抗体などの蛋白質、核酸など、またはそれらを含有する組成物などが挙げられる。
酵素の種類は、特に限定されるものではないが、一部例を挙げると、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、β−グルグルコシダーゼ、ウリカーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールキナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。
【0017】
酵素は、天然に存在する各種微生物、動植物などの給源から調製されたもの、遺伝子工学的手法により製造されたもの、あるいは化学的に合成されたものを用いることができる。更に蛋白質工学などの手法により野生型から改変されたものであっても良い。
また、本発明の酵素は、色素やビオチンまたはアビジンなどの標識化合物による標識、各種化合物による修飾、抗体、抗原とのコンジュゲート化等を受けてもよい。
標識抗体、標識抗原としては、特に限定されるものではないが、ペルオキシダーゼ、アミラーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなどで標識した、マウスIgG、β2ミクログロブリン、癌胎児性抗原(CEA)、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)、C反応性蛋白(CRP)、α1−アンチトリプシン、α1−マイクログロブリン、ハプトグロブリン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチン、アルブミン、ヘモグロビンA1、ヘモグロビンA1C、ミオグロビン、ミオシン、デュパン−2、α−フェトプロテイン(AFP)、組織ポリペプチド抗原(TPA)、アポリポ蛋白A1、アポリポ蛋白E、リウマチ因子、抗ストレプトリジンO(ASO)、フィブリン分解産物(FDP)、フィブリン分解産物D分画(FDP−D)、フィブリン分解産物D−D分画(FDP−DDimer)、フィブリン分解産物E分画(FDP−E)、アンチトロンビン−III(AT−III)等の蛋白質、アミラーゼ、前立腺由来酸性ホスファターゼ(PAP)、神経特異エノラーゼ(NSE)、フィブリノーゲン、エラスターゼ、プラスミノーゲン、クレアチンキナーゼ心筋型(CK−MB)等の酵素、インシュリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、3,5,3'−トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、生長ホルモン(GH)、黄体化ホルモン(LH)等のホルモン、B型肝炎ウイルス関連抗体、B型肝炎ウイルス関連抗原、C型肝炎ウイルス抗体、HTLV(成人T細胞白血病ウイルス)抗体、HIV(エイズウイルス)抗体、クラミジア抗体、梅毒の抗体、トキソプラズマ抗体等各種感染症の原因ウイルスに対する抗体、抗原などが挙げられ、また抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体の混合物、またあるいは酵素処理や遺伝子工学的に断片化されたF(ab‘)2,Fab’、Fabなどの抗体フラグメントなども挙げられる。
このような複合体も本発明でいう生体分子に含まれる。
【0018】
それらの存在状態は、液状、凍結乾燥状、顆粒状、担体への固定化やチップ等にコーティングされた状態など特に限定されない。
さらに、他の物質と混合された液状組成物、凍結乾燥状組成物などであってもよい。
このような組成物は、適当な容器に入れられたり、適当なデバイスに搭載されて、例えば、分子生物学用途の分析試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工したドライ系の体外診断薬、酵素センサーや酵素電極、医薬品、食品および飲料など、種々の形態をとることができる。
【0019】
本発明においては、安定化、形状改善などの目的で、さらに他の物質を混合しても良い。
粉末の場合、一般的な安定化剤や形状改善剤として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、ラクトース、シュークロース、ラフィノース、トレハロース、シクロデキストリン、プルラン、イヌリン、可溶性デンプンなどの糖類およびグルシトール、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール類、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リジン、ヒスチジン等のアミノ酸およびアミノ酸塩、グリシルグリシン、グリシルグリシルグリシンなどのペプチド類、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、トリス塩などの無機塩類、フラビン類、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、グルコン酸などの有機酸及び有機酸の塩、ゼラチン、カゼイン、アルブミンなどのタンパク質、更にコール酸類、脂肪酸の糖エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルなどの界面活性剤を含むことが可能である。
【0020】
液状である場合、酵素タンパクなどの生体分子が完全に溶解している状態だけでなく、懸濁液のように液体の中に分散している場合も含む。液状酵素は水ではなく、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、PIPES,MES,TES,MOPS,HEPESなどのGood緩衝液に溶解又は懸濁されていても良く、この様な液状酵素中に硫安、燐安、食塩、塩化カリウムなどの塩類を含んでいても良い。また、エタノールやメタノール、プロパノールなどのアルコール類、グリセロールやエチレングリコールなどのポリオール類、アルキルグルコシド、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、脂肪酸アルコールエステルなどの界面活性剤を添加しても良い。必要に応じて、ペニシリン系、セフェム系、アミノ配糖体系、マイクロライド系、テトラサイクリン系、ニュー・キノロン系等の抗生物質、アジ化物、1,1‘−Methylen−bis[3−(1−hydroxymethyl−2,4−dioximidazolidin−5−yl)−urea],2−Methyl−3(2H)−isothiazolone−hydrochloride,5−Bromo−5−nitro−1,3−dioxane,2−Hydroxypyridine−N−oxide,2−Chloroacetamideなどの防腐剤を添加しても良い。
【0021】
酵素、標識抗体を構成成分とする組成物は、その組成物の使用目的に応じてNAD+やNADH、NADP+,NADPH,ATP,ADP,AMP,GTP,GMP,FADやFMN、ビオチン、ナイアシン、コバラミン、PQQなどの補酵素類、ナトリウム、カリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、リチウム、銅、鉄、マンガン等の金属塩、チオール化合物、セレン化合物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、トリス塩等の塩類、アミノ酸及びアミノ酸塩、糖および配糖体、また必要により、フェノール系およびアニリン系の各種トリンダー試薬とカプラーである4−アミノアンチピリン,テトラゾリウム塩類とフエナジンメトサルフェートなどの電子キャリヤー、ロイコ系試薬などの色素類,および基質類を添加することが可能である。
【0022】
標識抗体を構成成分とする組成物は、その組成物の使用目的に応じて、非特異反応防止剤を添加してもよい。非特異反応防止剤としては、特に限定されるものではないが、標識抗体と同種の抗体、標識抗体と同種の酵素を添加することができる。同種の抗体として、マウスIgG、マウスIgM、高分子量化されたマウスIgG重合体、ヤギIgG,羊IgG、馬IgG、ラットIgG、ウサギIgGが挙げられる。またこれら抗体を含む動物血清、腹水などの体液のまま添加することもできるが、ウイルス不活化処理、補体非働化処理、脱脂処理などを行って添加することが望ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
【0024】
以下の実施例1−21において、セリシン加水分解物はWO2002/086133号公報の製造例1に開示される方法に従って製造した。
詳細は以下の通りである。
(製造例1)
繭(家蚕(Bombyx mori)が作ったもの)1kgを、0.2%炭酸ナトリウム水溶液(pH11〜12)50L中において95℃の条件下において2時間熱水処理を施し、セリシン加水分解物を抽出した。得られたセリシン加水分解物抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターを用いて濾過し、凝集物を除去した後、濾液を逆浸透膜により脱塩し、濃度0.2%の無色透明のセリシン加水分解物水溶液を得た。
次いで、この水溶液をエバポレーターを用いて濃度が約2%になるまで濃縮させた後、凍結乾燥処理を行って、純度90%以上で、平均分子量20,000であるセリシン加水分解物の粉体100gを得た。
【0025】
(実施例1)
ペルオキシダーゼ(東洋紡績社PEO−302)、セリシン加水分解物を含有する下記試薬溶液を25℃、2ヶ月間または50℃で7日間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。
PIPES−NaOH 50mM pH7.0
ペルオキシダーゼ(東洋紡績社PEO−302) 5,000U/L
セリシン加水分解物 0.2〜2g/L
【0026】
(比較例1)
実施例1においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)0.2〜2g/Lを含有する試薬溶液を調製し、実施例1と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表1に示す通り、ペルオキシダーゼがセリシン加水分解物による安定化されることが示された。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例2)
実施例1のペルオキシダーゼに、セリシン加水分解物2g/Lを含有する試薬溶液に、更に防腐剤の1種であるアジ化ナトリウム0.5g/Lを含有する試薬溶液を調製した後、25℃で14日間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
【0029】
(比較例2)
実施例2においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)2g/Lを含有する試薬溶液を調製し、実施例2と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表2に示す通り、防腐剤共存下のペルオキシダーゼがセリシン加水分解物による安定化されることが示された。
【0030】
【表2】

【0031】
(実施例3)
リポプロテインリパーゼ(東洋紡績社LPL−311)、セリシン加水分解物を含有する下記試薬溶液を25℃または40℃で14日間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。
PIPES−NaOH 50mM pH7.0
Triton X−100 1g/L
リポプロテインリパーゼ(東洋紡績社LPL−311) 5,000U/L
セリシン加水分解物 0.2〜2g/L
【0032】
(比較例3)
実施例3においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)0.2〜2g/Lを含有する試薬溶液を調製し、実施例3と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表3に示す通り、リポプロテインリパーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0033】
【表3】

【0034】
(実施例4)
グリセロールキナーゼ(東洋紡績社GYK−301)、セリシン加水分解物を含有する下記試薬溶液を25℃で14日間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬を調製した。
PIPES−NaOH 50mM pH7.0
Triton X−100 1g/L
グリセロールキナーゼ(東洋紡績社GYK−301) 2,000U/L
セリシン加水分解物 2g/L
【0035】
(比較例4)
実施例4においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)2g/Lを含有する試薬溶液を調製し、実施例4と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表4に示す通り、グリセロールキナーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0036】
【表4】

【0037】
(実施例5)
コレステロールオキシダーゼ(東洋紡績社COO−321)、セリシン加水分解物を含有する下記試薬溶液を52℃で1時間処理または40℃で7日間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬を調製した。
リン酸カリウム緩衝液 50mM pH7.0
コレステロ−ルオキシダーゼ(東洋紡績社COO−321) 2,000U/L
セリシン加水分解物 4g/L
【0038】
(比較例5)
実施例5においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)4g/Lを含有する試薬溶液を調製し、実施例5と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表5に示す通り、コレステロールオキシダーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0039】
【表5】

【0040】
(実施例6)
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績社G6D−321)、セリシン加水分解物を含有する下記試薬溶液を25℃で14日間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬を調製した。
リン酸カリウム緩衝液 50mM pH7.0
Triton X−100 1g/L
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績社G6D−321) 3,000U/L
セリシン加水分解物 1g/L
【0041】
(比較例6)
実施例6においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)1g/Lを含有する試薬溶液を調製し、実施例6と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表6に示す通り、グルコース−6−リン酸脱水素酵素がセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0042】
【表6】

【0043】
(実施例7)
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(東洋紡績社PPC−301)、セリシン加水分解物を含有する下記試薬溶液を9℃または25℃で24時間保存し、残存活性率(調製直後の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
(試薬の調製)
下記組成からなる試薬をそれぞれ調製した。
Tris−HCl 50mM pH8.0
Triton X−100 1g/L
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(東洋紡績社PPC−301)
5,000U/L
セリシン加水分解物 0.2〜20g/L
【0044】
(比較例7)
実施例7においてセリシン加水分解物を添加しない試薬溶液を調製し、実施例7と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表7に示す通り、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0045】
【表7】

【0046】
(実施例8)
コレステロールオキシダーゼ(東洋紡績社COO−321)粉末1gを蒸留水10mlで溶解させた後、これにセリシン加水分解物0.5gを加えて溶解させたコレステロールオキシダーゼ溶液を凍結乾燥することにより、セリシン加水分解物を含有するコレステロールオキシダーゼ粉末を調製した。この凍結乾燥粉末を50℃で14日間保存し、残存活性率(50℃保存前の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
【0047】
(比較例8)
実施例8においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)0.5g加えて調製したコレステロールオキシダーゼ粉末を実施例8と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表8に示す通り、コレステロールオキシダーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0048】
【表8】

【0049】
(実施例9)
PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(東洋紡績社GLD−321)粉末1gを蒸留水10mlで溶解させた後、これにセリシン加水分解物0.5gを加えて溶解させたPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ溶液を凍結乾燥することにより、セリシン加水分解物を含有するPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ粉末を調製した。この凍結乾燥粉末を37℃で21日間保存し、残存活性率(37℃保存前の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
【0050】
(比較例9)
実施例9においてセリシン加水分解物を添加しない、又はセリシン加水分解物の替わりに牛血清アルブミン(シグマ社FractionV)0.5g加えて調製したPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ粉末を実施例9と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表9に示す通り、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0051】
【表9】

【0052】
(実施例10)
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡績社CNH−211)粉末1gを蒸留水10mlで溶解させた後、これにセリシン加水分解物0.5gを加えて溶解させたクレアチニンアミドヒドロラーゼ溶液を凍結乾燥することにより、セリシン加水分解物を含有するクレアチニンアミドヒドロラーゼ粉末を調製した。この凍結乾燥粉末を37℃で14日間保存し、残存活性率(37℃保存前の活性値に対する保存後の活性値の割合)を測定した。
【0053】
(比較例10)
実施例10においてセリシン加水分解物を含有しないクレアチニンアミドヒドロラーゼ粉末を実施例10と同様の条件で保存し、残存活性率を測定した。
表10に示す通り、クレアチニンアミドヒドロラーゼがセリシン加水分解物により安定化されることが示された。
【0054】
【表10】

【0055】
(実施例11−16、比較例11)
西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体の安定化
比較例11 ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(アマシャムバイオサイエンス社)を
5g/L牛血清アルブミン(ナカライテスク社)を含む20mM MOPS緩衝液pH7.0にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
実施例11 ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(アマシャムバイオサイエンス社)を
5g/Lセリシン加水分解物を含む20mM MOPS緩衝液pH7.0にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
実施例12 セリシン加水分解物は予め蒸留水に100g/Lになるよう溶解し、121℃20分間オートクレーブ処理を行った。ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(アマシャムバイオサイエンス社)を5g/Lオートクレーブ処理済みセリシン加水分解物を含む20mM MOPS緩衝液pH7.0にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
実施例13 ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(アマシャムバイオサイエンス社)を
5g/L セリシン加水分解物、0.2g/L4−アミノアンチピリン(ナカライテスク社)を含む20mM MOPS緩衝液pH7.0にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保管した。
実施例14 ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(アマシャムバイオサイエンス社)を
5g/L セリシン加水分解物、0.2g/L 4−アミノアンチピリン(ナカライテスク)を含む20mM MOPS緩衝液pH6.5にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
実施例15 抗体固相プレート試薬の調製 ヤギ抗マウスFc抗体(シグマ社)を10μg/mlとなるよう50mM 炭酸緩衝液pH9.6で希釈し、1ウェルに50μLずつELISAプレート(住友ベークライト社)に分注した。室温1時間放置して抗体をプレートに結合させた後、分注液を廃棄・十分液切りを行い、次いで蒸留水にて4倍希釈したブロックエース(大日本製薬社)を1ウェルに300μLずつ分注し室温1時間放置しブロッキングを行った。使用前に分注液を廃棄・十分液切りを行った後0.5g/L ツイーン20を含む10mMリン酸生理緩衝液pH7.2 300μL分注廃棄を3回繰り返しプレート洗浄し(以下、PBS−T洗浄と略記)、測定に使用した。
実施例16 マウスIgGの測定 0.1%BSAを含むリン酸生理緩衝液にてマウスIgG(ケミコン社)を希釈し、マウスIgG 64、128、256ng/ml濃度の試料を調製した。希釈に使用した緩衝液を0ng/ml試料とした。次いでELISAプレートにそれぞれ試料を50μLずつN=2で分注し、室温で1時間反応させた。PBS−T洗浄後、各比較例・実施例の標識抗体液50μLずつ分注し、室温で1時間反応させた。PBS−T洗浄後、酵素反応液としてTMB+(ダコ社)を50μLずつ分注し、室温遮光して10分反応させた。1N 硫酸 50μL分注、攪拌により酵素反応を停止させた後、O.D.450nm−650nmをマイクロプレートリーダーにて測定した。マウスIgG濃度ドーズ依存的に吸光度は上昇した。
ELISAにより得られた結果を用い、それぞれ256ng/ml試料と0ng/ml試料
の吸光度差を求め、対応する4℃保存条件との比の3乗根を取り、1日あたりの残存活性率を求めた結果を表11に示す。牛血清アルブミンを用いた比較例に比べ、セリシン加水分解物を含む実施例において残存活性率は高く、安定化効果が認められた。セリシン加水分解物自体オートクレーブ処理を行っても安定化効果は失われない。セリシン加水分解物とペルオキシダーゼの基質として作用しうる物質と共存させることによりさらに残存活性率向上が可能であることもわかった。
【0056】
【表11】

【0057】
(実施例17−21、比較例12、13)
アルカリフォスファターゼ標識抗体の安定化
(1)実施例17 アルカリフォスファターゼ標識抗体の作製 マウス抗CEA モノクローナル抗体 クローン5905(メディックスバイオケミカ社)200μgと、抗体の
アミノ基で結合させる標識化キット(同仁化学社 LK12)を用いて、標識キット取扱説明書に従い操作し、アルカリフォスファターゼ標識抗体を作製した。すなわち、キット添付のウォッシングバッファー100μLを同フィルトレーションチューブに入れ、ピペ
ットにより軽く混合した後、x8000g10分間遠心し、さらにウォッシングバッファー100μLを加えてもう一度同条件にて遠心した。キット添付のリアクションバッファー10μLを同NH2−ReactiveALPに加えピペッティングにより溶解し、全量を抗体が濃縮されているフィルトレーションチューブのメンブレン上に加え、ピペッティングによりメンブレン上の抗体と混合し、37℃2時間放置した。その後、キット添付のストレイジバッファー190μLを加え、ピペッティングにより標識抗体200μLを回収し、アルカリフォスファターゼ標識抗CEAモノクローナル抗体とした。
(2)比較例12 アルカリフォスファターゼ標識抗CEAモノクローナル抗体を1mM 塩化マグネシウム、0.1mM 塩化亜鉛、1g/L アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.4)にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
(3)比較例13 アルカリフォスファターゼ標識抗CEAモノクローナル抗体を20g/L 牛血清アルブミン(ナカライテスク社)、1mM 塩化マグネシウム、0.1mM 塩化亜鉛、1g/L アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.4)にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
(4)実施例18 アルカリフォスファターゼ標識抗CEAモノクローナル抗体を20g/L セリシン加水分解物、1mM 塩化マグネシウム、0.1mM 塩化亜鉛、1g/L アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.4)にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
(5)実施例19 セリシン加水分解物は予め蒸留水に100g/Lになるよう溶解し、121℃20分間オートクレーブ処理を行った。アルカリフォスファターゼ標識抗CEAモノクローナル抗体を20g/L オートクレーブ済みセリシン加水分解物、1mM 塩化マグネシウム、0.1mM 塩化亜鉛、1g/L アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.4)にて8000倍希釈、ガンマ線滅菌済み0.22μmフィルターろ過し、ガンマ線滅菌済みポリプロピレン製容器中にて4℃または25℃で3日間保存した。
(6)実施例20 抗CEA抗体固相プレート試薬の調製 マウス抗CEAモノクローナル抗体クローン5909(メディックスバイオケミカ社)を10μg/mlとなるよう50mM 炭酸緩衝液pH9.6で希釈し、1ウェルに50μLずつ黒色ポリスチレン製アッセイプレート(コーニング社)に分注した。室温1時間放置して抗体をプレートに結合させた後、分注液を廃棄・十分液切りを行い、次いで蒸留水にて4倍希釈したブロックエース(大日本製薬社)を1ウェルに300μLずつ分注し室温1時間放置しブロッキングを行った。使用前に分注液を廃棄・十分液切りを行った後0.5g/Lツイーン20を含む10mMトリス生理緩衝液pH7.5 にて300μL分注・廃棄を3回繰り返し
プレート洗浄し(以下、TBS−T洗浄と略記)、測定に使用した。
(7)実施例21 CEAの測定 0.1%BSAを含むリン酸生理緩衝液にてCEA抗原を希釈し、CEA 5,20、80ng/ml濃度の試料を調製した。希釈に使用した緩衝液を0ng/ml試料とした。次いでELISAプレートにそれぞれ試料を50μLずつN=2で分注し、37℃で1時間反応させた。TBS−T洗浄後、比較例3と実施例8の標識抗体液50μLずつ分注し、37℃で1時間反応させた。TBS−T洗浄後、酵素反応液としてAPS−5(ルミジェン社)を50μLずつ分注し、37℃20分反応後の発光シグナルをルミノスキャン(ラブシステムズ社)にて測定した。CEA濃度ドーズ依存的に発光強度は上昇した。
得られた結果でそれぞれ80ng/ml試料と0ng/ml試料の発光強度差を求め、次いで対応する4℃保存条件との比の3乗根を計算し、1日あたりの残存活性率を求めた。結果を表12に示す。比較例で示した通り、従来技術である牛血清アルブミン添加でアルカリフォスファターゼ標識抗体安定性は向上するが、驚くべきことにセリシン加水分解物添加実施例でさらに残存活性率は高く、アルカリフォスファターゼ標識抗体安定化効果が高いことが判った。本効果はオートクレーブ処理においても失われないことも判った。
【0058】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、酵素や標識抗体などの生体分子の安定性を向上させ、これら生体分子を用いた組成物の有効性を長期間に渡って維持することが可能となる。特に臨床検査分野で用いられる診断薬用途として優れており、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)および(b)を共存させる、生体分子を安定化する方法:
(a)生体分子
(b)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物。
【請求項2】
生体分子が溶液中に存在する請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項3】
生体分子が凍結乾燥物中に存在する請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項4】
セリシンおよび/またはその加水分解物が、繭糸又は生糸から抽出した天然セリシンに由来するものである請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項5】
セリシン同等物が遺伝子工学的手法により得られたものである請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項6】
生体分子が蛋白質である請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項7】
生体分子が酵素である請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項8】
生体分子が標識抗体である請求項1記載の生体分子の安定化方法。
【請求項9】
次の(a)および(b)が共存している、生体分子が安定化した組成物:
(a)生体分子
(b)セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物。
【請求項10】
生体分子が溶液中に存在する請求項9記載の生体分子の液状安定化組成物。
【請求項11】
生体分子が凍結乾燥物中に存在する請求項9記載の生体分子の安定化組成物。
【請求項12】
セリシンおよび/またはその加水分解物が、繭糸又は生糸から抽出した天然セリシンに由来するものである請求項9記載の生体分子の安定化組成物。
【請求項13】
セリシン同等物が遺伝子工学的手法により得られたものである請求項9記載の生体分子の安定化組成物。
【請求項14】
生体分子が蛋白質である請求項9記載の生体分子の安定化組成物。
【請求項15】
生体分子が酵素である請求項9記載の生体分子の安定化組成物。
【請求項16】
生体分子が標識抗体である請求項9記載の生体分子の安定化組成物。
【請求項17】
セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物を共存させる工程を含む、生体分子の安定化組成物の製造方法。
【請求項18】
セリシンおよび/またはその加水分解物、もしくは、その同等物を含む、生体分子を安定化するための組成物。
【請求項19】
請求項9記載の生体分子の安定化組成物を含む診断用キット。
【請求項20】
請求項9記載の生体分子の安定化組成物を含むバイオセンサー。

【公開番号】特開2007−151546(P2007−151546A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304094(P2006−304094)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】