説明

生体器官病変部改善用器具

【課題】X線造影によっては確認困難な病変部位とこの病変部位と最も近い血管分岐部との距離をあらかじめ特定し、この特定された距離を利用して、自己拡張型ステントを確実に病変部位に留置することができる生体器官病変部改善用器具を提供する。
【解決手段】生体器官病変部改善用器具1は、自己拡張型ステント10と、ガイドワイヤルーメン61を有する内側チューブ体3と、ステント10を収納したステント収納チューブ体2とを備え、ステント10が内側チューブ体3の先端部を覆うように配置され、ステント収納チューブ体2を基端側に移動させることにより、ステント10を露出可能であり、内側チューブ体3は、ステントの基端となる位置より所定長基端側に延びる造影表示領域を備え、造影表示領域は、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカー28からなる距離表示機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道等の生体管腔内に生じたプラーク、狭窄部もしくは閉塞部等の病変部の改善に使用される生体器官病変部改善用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
心血管に関する疾患には、動脈硬化肥厚による病変の進行度の量的異常と、不安定プラークとよばれる粥種の表面の繊維状皮膜が薄く脆弱なため、破綻して、血栓や出血、閉塞、狭窄を起こして狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を発症する異常がある。
不安定プラークは、造影画像では確認できない。このため、不安定プラークは、対象血管をOCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層撮像)法等を用いて特定する。そして、OCT法等により、不安定プラークの位置は、最も近い血管分岐部との距離、以前に留置されたステントとの距離などにて特定する。
生体内留置用ステントは、血管あるいは他の生体内管腔に生じたプラーク、狭窄部もしくは閉塞部などの病変部を治療するために、病変部に留置され、その内腔を確保する。
ステントは、体外から体内に挿入するため、そのときは直径が小さく、目的の狭窄もしくは閉塞部位で拡張させて直径を大きくし、かつその管腔をそのままで保持する物である。
【0003】
ステントとしては、金属線材、あるいは金属管を加工した円筒状のものが一般的である。カテーテルなどに細くした状態で装着され、生体内に挿入され、目的部位で何らかの方法で拡張させ、その管腔内壁に密着、固定することで管腔形状を維持する。ステントは、機能および留置方法によって、自己拡張型ステントとバルーン拡張型ステントに区別される。バルーン拡張型ステントはステント自体に拡張機能はなく、ステントを目的部位に挿入した後、ステント内にバルーンを位置させてバルーンを拡張させ、バルーンの拡張力によりステントを拡張(塑性変形)させ目的管腔の内面に密着させて固定する。このタイプのステントでは、上記のようなステントの拡張作業が必要になる。一方、自己拡張型ステントはステント自体に拡張機能を持たせたものであり、細く縮めた状態として生体内に挿入し、目的部位で開放することで自ら元の拡張された状態に戻り管腔内壁に密着、固定して管腔形状を維持する。
現在のステント留置の目的は、狭窄した血管を元の開存状態に戻すことであり、主にはPTCA等の手技を施した後に起こる再狭窄の予防、その低減化を図るものが主流であるが、最近では、狭窄部となる可能性が高い病変部位(プラーク)を改善することを目的とするものもある。
自己拡張型ステントの多くは下肢の血管や頚動脈といったペリフェラル領域において使用されており、例えば、特開平11−505441号公報(特許文献1)に示すような形態を備えるものがある。
また、本願出願人は、特開2008−272262号公報(特許文献2)に示すものを提案している。
特許文献2の生体器官病変部改善用器具1は、先端側チューブ2と、このチューブ2の基端部に固定された基端側チューブ4と、基端方向に摺動可能であるステント収納用筒状部材5と、ステント収納用筒状部材5内に収納された自己拡張型のステント3と、ステント収納用筒状部材5を基端側に移動させるための牽引ワイヤ6を備える。ステント収納用筒状部材5は、牽引ワイヤ6の牽引により固定チューブ8の外面上を基端側に移動するものであり、かつ、基端に固定され、基端側への移動時に、固定チューブ8の外面と接触する内面を備える硬質材料製筒状基端部材54を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−505441号公報
【特許文献2】特開2008−272374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2のような自己拡張型ステントを用いた生体器官病変部改善用器具を用いて、ステントの病変部位(例えば、プラーク形成部位)への留置を行う場合、生体器官病変部改善用器具の生体内への挿入前に、上述したようなOCT法を用いて、不安定プラークの位置を最も近い血管分岐部または以前に留置したステントなどの指標との距離にて特定する。
そして、確認された病変部位に生体器官病変部改善用器具のステント収納部を配置した後、その部位にてステントを放出することにより、ステントを病変部位に留置する。
しかし、自己拡張型ステントは、一度放出すると自らの拡張力により復元するため、初期留置位置を正確に行うことが必要である。また、自己拡張ステントは、それ自体のX線造影による確認が明瞭ではないことも多い。また、プラーク形成部位は、生体器官病変部改善用器具の留置手技中に用いられるX線造影による確認ができない。
そこで、本発明の目的は、X線造影によっては確認が困難な病変部位とこの病変部位の末梢側かつ最も近い血管分岐部または以前に留置したステントなどの指標との距離をOCT法等を用いて特定し、この特定された距離を利用して、自己拡張型ステントを確実に病変部位に留置することができる生体器官病変部改善用器具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 略円筒形状に形成され、生体内挿入時には中心軸方向に圧縮され、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能なステントと、ガイドワイヤルーメンを有する内側チューブ体と、前記ステントを先端部内に収納したステント収納チューブ体とを備え、かつ前記ステントが前記内側チューブ体の先端部を覆うように配置され、かつ前記ステント収納チューブ体を前記内側チューブ体に対して基端側に移動させることにより、前記ステントを露出可能である生体器官病変部改善用器具であって、
前記内側チューブ体は、少なくとも前記ステントの基端となる位置より所定長基端側に延びる造影表示領域を備え、該造影表示領域には、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカーからなる距離表示機能を備えている生体器官病変部改善用器具。
(2) 前記造影表示領域は、前記ステントの基端となる位置より5mmを超える位置まで設けられている上記(1)に記載の生体器官病変部改善用器具。
(3) 前記複数の造影性マーカーは、等間隔に設けられた目盛状の造影性マーカーである上記(1)または(2)に記載の生体器官病変部改善用器具。
(4) 前記目盛状の造影性マーカーは、複数の主目盛りと、該複数の主目盛り間に設けられ、前記主目盛りより造影性が低い副目盛りを有するものである上記(3)に記載の生体器官病変部改善用器具。
(5) 前記造影表示領域は、前記ステントの先端もしくは中央部となる位置に始端を有し、所定長基端側に延びるものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
(6) 前記生体器官病変部改善用器具は、一端部および他端部が前記内側チューブ体に固定され、中間部が前記ステントの基端部に係留されたステント基端部固定用線材と、該ステント基端部固定用線材を破断し、前記ステントの係留を解除するための破断部を有するものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【0007】
(7) 前記ステントは、基端部に設けられた前記ステント基端部固定用線材挿通用の複数の小孔を略環状に備え、前記ステント基端部固定用線材の前記中間部は、前記ステントの前記複数の小孔を環状に挿通している上記(6)に記載の生体器官病変部改善用器具。
(8) 前記ステントは、基端部に位置する複数の基端方向屈曲部を備え、前記ステント基端部固定用線材の前記中間部は、前記ステントの前記複数の基端方向屈曲部を環状に挿通している上記(6)に記載の生体器官病変部改善用器具。
(9) 前記内側チューブ体は、前記ガイドワイヤルーメンを有する先端側チューブと、該先端側チューブの基端側に先端部が固定された内側チューブ本体とを備え、前記破断部は、前記内側チューブ本体の先端部に設けられている上記(6)ないし(8)のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
(10) 前記ステント基端部固定用線材は、熱破断性ステント基端部固定用線材であり、前記破断部は、熱破断部である上記(6)ないし(9)のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
(11) 前記内側チューブ体は、前記ステント収納チューブ体のステント収納部位より基端側にて前記ガイドワイヤルーメンと連通する開口を備え、前記造影表示領域は、前記開口付近まで延びている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
(12) 前記ステントは、前記ステント基端部固定用線材が破断し、前記ステントの係留が解除されるまで、該ステントが前記ステント収納チューブ体に再収納可能である上記(6)ないし(11)のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生体器官病変部改善用器具は、略円筒形状に形成され、生体内挿入時には中心軸方向に圧縮され、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能なステントと、ガイドワイヤルーメンを有する内側チューブ体と、ステントを先端部内に収納したステント収納チューブ体とを備え、かつステントが内側チューブ体の先端部を覆うように配置され、かつステント収納チューブ体を内側チューブ体に対して基端側に移動させることにより、ステントを露出可能である生体器官病変部改善用器具であって、内側チューブ体は、少なくとも前記ステントの基端となる位置より所定長基端側に延びる造影表示領域を備え、該造影表示領域には、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカーを備えている。
X線造影によっては確認が困難な病変部位と、この病変部位の末端部と生体器官病変部改善用器具の挿入方向の手元側かつ最も近い血管分岐部、以前に留置したステント、石灰化部位、他の狭窄部位、冠動脈入り口などの指標との距離は、例えば、OCT法等を用いて特定される。そして、この生体器官病変部改善用器具では、造影表示領域の距離表示機能を用いて、上記病変部位の末端と上記指標との距離分、血管内に挿入した生体器官病変部改善用器具のステントの基端部が上記指標より離間するように配置することができる。これにより、ステントを病変部位に確実に配置可能となり、その状態を維持し、ステント収納チューブ体を基端側に移動させることにより、ステントを病変部位に確実に留置することができる。
【0009】
また、本発明の生体器官病変部改善用器具は、X線造影等により確認可能な病変部位である狭窄部へのステントの留置においても有効である。本発明の生体器官病変部改善用器具は、X線造影等により確認可能な病変部である狭窄部の末端部とこの狭窄部より生体器官病変部改善用器具の挿入方向の手元側かつ最も近い血管分岐部または前に留置したステントなどの指標との距離を測定しておき、造影表示領域の距離表示機能を用いて、上記狭窄部末端と上記指標間の距離分、血管内に挿入した生体器官病変部改善用器具のステントの基端部が上記指標より離間するように配置することにより、ステントを狭窄部に確実に配置することができる。そして、その状態を維持し、ステント収納チューブ体を基端側に移動させることにより、ステントを狭窄部に確実に留置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施例である生体器官病変部改善用器具の部分省略正面図である。
【図2】図2は、図1に示した生体器官病変部改善用器具の縦断面図である。
【図3】図3は、図1に示した生体器官病変部改善用器具のステント収納チューブ体(シース)の部分省略正面図である。
【図4】図4は、図1に示した生体器官病変部改善用器具の内側チューブ体の部分省略正面図である。
【図5】図5は、図1に示した生体器官病変部改善用器具の先端部付近の拡大縦断面図である。
【図6】図6は、図1に示した生体器官病変部改善用器具の中間部付近の拡大縦断面図である。
【図7】図7は、図1に示した生体器官病変部改善用器具の内側チューブ体を説明するための説明図である。
【図8】図8は、本発明の他の実施例の生体器官病変部改善用器具の内側チューブ体を説明するための説明図である。
【図9】図9は、図1に示した生体器官病変部改善用器具のシース基端部付近の拡大縦断面図である。
【図10】図10は、図1に示した生体器官病変部改善用器具のシャフト部基端部付近の拡大縦断面図である。
【図11】図11は、図1に示した生体器官病変部改善用器具のステント基端部付近の説明するための説明図である。
【図12】図12は、本発明の生体器官病変部改善用器具に使用される生体内留置用ステントの一例の正面図である。
【図13】図13は、図12の生体内留置用ステントの展開図である。
【図14】図14は、図12に示したステントの基端部小孔付近の拡大図である。
【図15】図15は、図14のA−A線拡大断面図である。
【図16】図16は、本発明の他の実施例の生体器官病変部改善用器具先端部付近の拡大縦断面図である。
【図17】図17は、本発明の生体器官病変部改善用器具に使用されるステントの基端部小孔付近の拡大斜視図である。
【図18】図18は、本発明の生体器官病変部改善用器具の作用を説明するための説明図である。
【図19】図19は、本発明の生体器官病変部改善用器具の作用を説明するための説明図である。
【図20】図20は、本発明の生体器官病変部改善用器具の作用を説明するための説明図である。
【図21】図21は、本発明の生体器官病変部改善用器具の作用を説明するための説明図である。
【図22】図22は、本発明の生体器官病変部改善用器具の作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の生体器官病変部改善用器具を図面に示した実施例を用いて説明する。
本発明の生体器官病変部改善用器具1は、略円筒形状に形成され、生体内挿入時には中心軸方向に圧縮され、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能なステント10と、ガイドワイヤルーメン61を有する内側チューブ体(シャフト部)3と、ステント10を先端部内に収納したステント収納チューブ体(シース)2とを備え、かつステント10が内側チューブ体3の先端部を覆うように配置され、かつステント収納チューブ体2を内側チューブ体3に対して基端側に移動させることにより、ステント10を露出可能である生体器官病変部改善用器具である。そして、内側チューブ体3は、少なくともステント10の基端となる位置より所定長基端側に延びる造影表示領域を備え、造影表示領域には、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカー28(28a,28b)からなる距離表示機能を備えている。
そして、図示する実施例の生体器官病変部改善用器具1では、内側チューブ体は、シャフト部3により構成されており、ステント収納チューブ体は、シース2により構成されている。具体的には、この実施例の生体器官病変部改善用器具1は、略円筒形状に形成され、生体内挿入時には中心軸方向に圧縮され、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能なステント10と、ガイドワイヤルーメン61を有するシャフト部3と、ステント10を先端部内に収納したシース2とを備え、かつステント10がシャフト部3上の先端付近に位置する生体器官病変部改善用器具である。
そして、この生体器官病変部改善用器具1は、一端部5aおよび他端部5bがシャフト部3に固定され、中間部5cがステント10の基端部に係留されたステント基端部固定用線材5と、ステント基端部固定用線材5を破断し、ステントの係留を解除するための破断部7とを有している。
また、図示する実施例の生体器官病変部改善用器具1は、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能なステント10と、ステント10を先端部内に収納したシース2と、シース2を摺動可能に挿通し、ステント10をシース2の先端より放出するためのシャフト部3とを備える。ステント10は、シース2の先端側を向く先端部と基端側を向く基端部を備え、さらに、基端部を除き基端側に突出する屈曲自由端を実質的に持たず、シース2から先端部の露出後にシース2を移動させることにより、露出先端部をシース2に再収納可能なものが用いられている。生体器官病変部改善用器具1は、生体器官病変部改善用器具の先端にて一端が開口し、他端がシース2のステント収納部位より基端側にて開口するガイドワイヤルーメン61を有する。シャフト部3は、一端部5aおよび他端部5bがシャフト部3に固定され、中間部5cがステント10の基端部に係留されたステント基端部固定用線材5と、ステント基端部固定用線材5を破断し、ステント10の係留を解除するための破断部7とを備えている。
【0012】
本発明の生体器官病変部改善用器具1は、ステント10と、ステント10を先端部内に収納したシース(ステント収納チューブ体)2と、シース2を摺動可能に挿通するシャフト部(内側チューブ体)3とにより構成されている。
シース(ステント収納チューブ体)2は、図1ないし図9に示すように、シースチューブ21と、シースチューブ21の基端に固定されたシースハブ22を備える。
シースチューブ21は、図1ないし図9に示すように、管状体であり、先端および後端は開口している。先端開口は、ステント10を体腔内の病変部位に留置する際、ステント10の放出口として機能する。ステント10は、この先端開口より放出されることにより応力負荷が解除されて拡張し圧縮前の形状に復元する。シースチューブ21の先端部は、ステント10を内部に収納するステント収納部位21aとなっている。また、シースチューブ21は、ステント収納部位21aより基端側に設けられた側孔23を備えている。側孔23は、ガイドワイヤを外部に導出するためのものである。
シースチューブ21の外径としては、0.5〜4.0mm程度が好ましく、特に、0.8〜2.0mmが好ましい。また、シースチューブ21の内径としては、0.2〜1.8mm程度が好ましい。シースチューブ21の長さは、300〜2500mm、特に、300〜2000mm程度が好ましい。
シースチューブ21の形成材料としては、シースチューブに求められる物性(柔軟性、硬度、強度、滑り性、耐キンク性、伸縮性)を考慮して、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、PTFE、ETFE等のフッ素系ポリマー、さらには、熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、ナイロン系(例えば、ポリアミドエラストマー)、ウレタン系(例えば、ポリウレタンエラストマー)、ポリエステル系(例えば、ポリエチレンテレフタレートエラストマー)、オレフィン系(例えば、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー)の中から適宜選択される。
【0013】
さらに、シース2の外面には、潤滑性を呈するようにするための処理を施すことが好ましい。このような処理としては、例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーをコーティング、または固定する方法などが挙げられる。また、シースチューブ21の内面に、ステント10及びシャフト部3との摺動性を良好なものにするため、上述のものをコーティング、または固定してもよい。
また、シースチューブ21の基端部には、図1ないし図3および図9に示すように、シースハブ22が固定されている。シースハブ22は、図9に示すように、シャフト部3を摺動可能、かつ液密に保持するシール部材25を備えている。また、シースハブ22は、サイドポート24を備えている。
シースハブ22の構成材料としては、硬質もしくは半硬質材料が使用される。硬質もしくは半硬質材料としては、ポリカーボネート、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー)、スチレン系樹脂[例えば、ポリスチレン、MS樹脂(メタクリレート−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体)]、ポリエステルなどの合成樹脂、ステンレス鋼、アルミもしくはアルミ合金などの金属が使用できる。
また、シール部材25および後述する弾性リング69の構成材料としては、弾性材料が使用される。弾性材料としては、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ラテックスゴムなどの天然ゴムなどのゴム類、オレフィン系エラストマー(例えば、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー)、ポリアミドエラストマー、スチレン系エラストマー(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレンブチレン−スチレンコポリマー)、ポリウレタン、ウレタン系エラストマー、フッ素樹脂系エラストマーなどの合成樹脂エラストマー等が使用される。
また、シースハブ22の先端部には、シースハブの先端より先端側に延びる補強部材26,27が設けられている。
【0014】
シャフト部(内側チューブ体)3は、図1ないし図10に示すように、シャフト本体33と、シャフト本体33の先端に設けられ、シース2の先端より突出する先端側チューブ31と、シャフト本体33の基端部に固定されたシャフトハブ30、シャフト本体33に固定されたステント基端部固定用線材5と、シャフト本端33に設けられたステント基端部固定用線材5を破断するための破断部7とを備えている。
この実施例では、ステント基端部固定用線材5は、熱破断性ステント基端部固定用線材であり、破断部7は、熱破断部となっている。なお、このようなものに限定されるものではなく、ステント基端部固定用線材5および破断部は、ステントを電気的、機械的、もしくは水圧などにより破断し、シャフト部3より離脱させるものであってもよい。
そして、この実施例では、シャフト部3は、シース2のステント収納部位より基端側の側部にて開口するガイドワイヤルーメンの基端側開口を備え、シース2は、ステント収納部位より基端側に設けられたシース側孔を備え、シース側孔および基端側開口より、ガイドワイヤを挿通可能となっている。
先端側チューブ31は、図5に示すように、シース2の先端より突出する。また、先端側チューブ31には、シース2の先端方向への移動を阻止するストッパー32が設けられている。先端側チューブ31の基端部は、図6に示すように、湾曲し、シースチューブ21の側孔23に侵入し、離脱可能に係合している。先端側チューブ31の外径は、0.2mm〜1.8mmであることが好ましい。また、先端側ストッパー32の先端部は、図5に示すように、先端側に向かって縮径していることが好ましい。ストッパー32の最大径部の外径は、0.5〜4.0mmであることが好ましい。また、ストッパー32の基端部も図5に示すように、基端側に向かって縮径していることが好ましい。また、先端側チューブ31は、先端より基端まで伸びるガイドワイヤルーメン61を有しており、その基端開口62の位置は、先端側チューブ31の先端より、10〜400mm基端側に位置することが好ましく、特に、50〜350mmが好ましい。また、基端開口62の位置は、配置されるステント10の後端(言い換えれば、ステント収納部位の後端)より、50〜250mm程度基端側であることが好ましい。
【0015】
そして、内側チューブ体3は、少なくともステント10の基端となる位置より所定長基端側に延びる造影表示領域を備え、造影表示領域には、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカー28a,28bからなる距離表示機能を備えている。
具体的には、図1,図4および図7に示すように、内側チューブ体3の先端側チューブ31は、ステント10の基端となる位置(具体的には、ステントの基端と合致する位置もしくはステントの基端と隣接する位置)から基端側に少なくとも5mmを超える造影表示領域を備えている。造影表示領域の終端は、ステント10の基端となる位置から基端側に少なくとも8mm備えることが好ましく、特に、10mmを超えることが好ましい。また、この実施例では、造影表示領域は、上述したステント10の基端となる位置が始端となっている。
そして、造影表示領域は、距離表示機能を備えている。具体的には、造影表示領域には、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカー28a,28bが設けられており、これにより、上記のステント10の基端からの距離を造影像により確認となっている。また、この実施例の生体器官病変部改善用器具では、複数の造影性マーカー28a,28bは、等間隔に設けられた目盛状の造影性マーカーとなっている。このため、マーカー数を確認することにより、上記のステント10の基端からの距離を確認できる。そして、造影性マーカー28a,28bの間隔としては、0.5〜1.5mm程度が好適であり、好ましくは1.0mm間隔である。さらに、造影性マーカー28a,28bは、複数の主目盛り28aと、複数の主目盛り間に設けられ、主目盛り28aより造影性が低い副目盛り28bを有するものであることが好ましい。このようにすることによりマーカー数のカウントが容易となり、距離把握を容易なものとする。主目盛り間隔としては、2〜5mmが好ましく、また、主目盛り間に設けられる副目盛りの数としては、1〜4が好ましい。そして、この実施例では、主目盛り28aより副目盛り28bの幅が細いものとなっており、副目盛り28bは、主目盛り28aより造影性が低くなっている。なお、副目盛りを主目盛りより造影性の低い素材にて形成することにより、造影性を低いものとしてもよい。この場合には、両メモリの幅は、同じであってもよい。
また、造影表示領域の始端は、上述したステント10の基端となる位置が始端となるものに限定されず、例えば、図8に示す実施例の生体器官病変部改善用器具のように、ステント10の先端となる位置(具体的には、ステントの先端と合致する位置もしくはステントの先端と隣接する位置)を始端とするものであってもよい。また、造影表示領域は、ステント10の中央部となる位置が始端となっているものであってもよい。
そして、この実施例の生体器官病変部改善用器具1では、内側チューブ体3(具体的には、先端側チューブ31)は、ステント収納チューブ体2のステント収納部位より基端側にてガイドワイヤルーメンと連通する開口62を備え、造影表示領域は、開口62付近まで延びていることが好ましい。図7および図8に示す実施例の生体器官病変部改善用器具では、最も基端側の造影性マーカーは、先端側チューブ31の基端開口62付近に位置するものとなっている。
造影性マーカー28a,28bは、良好なX線造影像を得ることができるものであればどのようなものであってもよい。特に、X線不透過金属(例えば、金、白金、タングステンあるいはそれらの合金、あるいは銀−パラジウム合金等)により形成することが好ましい。そして、これら金属により形成されたリング状のものを内側チューブ体3(具体的には、先端側チューブ31)の外面にカシメ、巻き付けなどにより固定したものが好ましい。また、造影性マーカー28a,28bは、先端側チューブ31の形成材料と同じもしくは相溶性を有する材料もしくは先端側チューブ31上に被膜を形成可能な材料(例えば、被膜形成性シリコーン化合物、被膜形成性ウレタン化合物)に造影性物質を添加したものにより形成することができる。造影性物質としては、例えば、硫酸バリウム、酸化ビスマス、さらには、上述したX線不透過金属の粉末のようなX線不透過材料がある。
また、先端側チューブ31は、先端側チューブ31の少なくとも造影表示領域となっている部分に設けられた補強層31aを備えることが好ましい。この実施例のものでは、補強層31aは、先端側チューブ31の全体にわたり設けられている。なお、補強層31aは、先端側チューブ31の最先端部分には設けないもとしてもよい。そして、造影表示領域となっている部分に補強層を設けることにより、当該部分を構成するチューブの圧縮変形、キンク、蛇行が抑制され、正確な距離把握を可能とする。
補強層31aは、網目状の補強層であることが好ましい。網目状の補強層は、ブレード線で形成することが好ましい。例えば、ワイヤブレードであり、線径0.01〜0.2mm、好ましくは0.03〜0.1mmのステンレス、弾性金属、超弾性合金、形状記憶合金等の金属線で形成することができる。または、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維で形成してもよい。
【0016】
シャフト本体33は、先端部が、先端側チューブ31の基端部に固定された先端部と、所定長基端側に伸びる本体部と、シャフトハブ30より突出する基端部とを有している。そして、この実施例では、シャフト本体33は、先端側チューブ31に固定された部分の先端部が、小径部となっており、本体部および基端部は、小径部より、外径が大きいものとなっている。そして、この実施例では、シャフト本体33の先端部は、熱収縮チューブ63により、先端側チューブ31の側面に固定されている。
シャフト部3の長さは、400〜2500mm程度が好ましく、特に、400〜2200mmが好ましい。また、シャフト本体33の本体部の外径としては、1.0〜2.5mm程度が好ましく、特に、1.0〜2.0mmが好ましい。また、先端側チューブ31の長さは、10〜400mm程度が好ましく、特に、50〜350mmが好ましく、外径は、0.2〜2.0mm程度が好ましい。また、ルーメン61の内径としては、0.2〜2.0mm程度が好ましく、特に、0.3〜1.0mmが好ましい。
【0017】
シャフト本体33としては、中実のもの管状のものいずれでもよい。また、コイルシャフトでもよい。シャフト部3の形成材料としては、硬度があってかつある程度の柔軟性がある材質であることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、超弾性金属などの金属線もしくは金属パイプ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ETFE等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミドなどの棒状体もしくは環状体などが好適に使用できる。なお、シャフト部3の外面には、生体適合性、特に抗血栓性を有する樹脂をコーティングしてもよい。抗血栓性材料としては、例えば、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートとスチレンの共重合体(例えば、HEMA−St−HEMAブロック共重合体)などが好適に使用できる。
さらに、シャフト部3のうち、シース2より突出する可能性のある部分の外面は、潤滑性を有していることが好ましい。このために、例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーをコーティング、または固定してもよい。また、シャフト部3の外面全体に上記のものをコーティング、または固定してもよい。さらに、ガイドワイヤとの摺動性を向上させるために、シャフト部3の内面にも上記のものをコーティング、または固定してもよい。
【0018】
そして、シャフト本体33は、シース2内を貫通し、シース2の後端開口より突出している。シャフト本体33の基端部には、図1ないし図3および図10に示すように、シャフトハブ30が固着されている。この実施例では、シャフト本体33には、図9に示すように、固定リング66が固定されている。また、シャフトハブ30には、ハブ30より先端側に伸びる基端チューブ34が固定されている。そして、基端チューブ34の先端部が固定リング66に固定されている。また、基端チューブ34の基端(シャフトハブ30の内部)には、弾性リング69が固定されている。さらに、この実施例では、固定リング66より所定長先端側に第2の固定リング68が設けられている。そして、固定リング66と第2の固定リング68間には、中間チューブ67が配置されている。中間チューブ67は、シャフト本体33およびシースチューブ21のいずれにも固定されておらず、かつ、固定リング66および第2の固定リング68と当接可能なものとなっている。このような中間チューブを設けることにより、シースの摺動が良好なものとなる。中間チューブ67としては、低摩擦性表面を有するものが好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、PTFE、ETFE等のフッ素系ポリマーなどにより形成されたチューブが好ましい。
【0019】
さらに、図5および図11に示すように、シャフト部3の先端部(具体的には、先端側チューブ31の基端部、言い換えれば、ステント配置部の基端付近)には、ステント10の基端方向への移動を規制する基端側ストッパー70が設けられている。特に、この実施例では、基端側ストッパー70は、シャフト部に巻き付けられたバネ状ストッパーとなっている。この基端側ストッパー70は、図5、図11に示すように、先端側チューブ31に巻き付けられた基端側コイル部70aと、基端側コイル部70aより先端側に延びるとともに、先端側チューブ31と部分的非接触部を有する先端側コイル部70bを有している。この実施例の先端側コイル部70bは、先端側チューブ31に偏心して固定されており、チューブ31と接触する部分と離間する部分を備えている。そして、先端側コイル部70bの先端側チューブ31との非接触部をステント基端部固定用線材5が貫通している。また、線材の一端部5aよりステント方向に延びる部分の線材5は、上記の先端側コイル部70bに固定されていてもよい。線材5の先端側コイル部70bへの固定は、コイル間による把持が好ましい。また、先端側コイル部70bは、ステント10のストッパーとして機能する。さらに、先端側コイル部70bとしては、図16に示す実施例のように、先端側チューブ31とそのほぼ全体が離間するものであってもよい。
【0020】
また、基端側コイル部は、バネ状となっており、ステントの基端部に損傷を与えることなく、係止可能なものとなっている。また、ストッパー70は、X線造影性材料により形成してもよい。これにより、X線造影下でステントの基端付近の位置を把握することができ、手技がより容易なものとなる。X線造影性材料としては、例えば、金、プラチナ、プラチナ−イリジウム合金、銀、ステンレス、白金、あるいはそれらの合金等が好適である。そして、ストッパー70は、X線造影性材料によりワイヤを形成し先端側チューブ31外面に巻き付けることにより形成される。
さらに、図4ないし図6および図11に示すように、シャフト部3は、一端部5aおよび他端部5bが該シャフト部に固定され、中間部5cがステント10の基端部に係留された熱破断性ステント基端部固定用線材5と、ステント基端部固定用線材5を破断し、ステント10の係留を解除するための熱破断部7とを備えている。
特に、この実施例では、図11に示すように、ステント10として、基端側の結合部16に設けられたステント基端部固定用線材挿通用の複数の小孔18を略環状に備えるものが用いられており、さらに、ステント基端部固定用線材5の中間部5cは、ステント10の複数の小孔18を順に貫通し、全体として、複数の小孔18を環状に挿通するものとなっている。よって、ステント10は、ステント基端部固定用線材5により、シャフト部3に係留(固定)されており、ステント基端部固定用線材5が破断(切断)されないかぎり、シャフト部3より離脱しないものとなっている。
【0021】
特に、この実施例では、ステント基端部固定用線材5の一端部5aは、ストッパー70の付近かつ若干基端側にて、先端側チューブ31の外面に巻き付けられ、かつ接着剤51により固定されている。また、ステント基端部固定用線材5の他端部5bは、シャフト本体33の外面に巻き付けられ固定されている。なお、ステント基端部固定用線材5の一端部5aおよび他端部5bは、先端側チューブおよびシャフト本体33の外面に巻き付け固定したものに限られるものではない。ステント基端部固定用線材5の一端部5aおよび他端部5bは、カシメリングにより、先端側チューブおよびシャフト本体33の外面に固定してもよい。さらに、この実施例では、ステント基端部固定用線材5は、シャフト部に固定された一端部5aおよび他端部5bより、バネ状ストッパー70を構成するコイルの間隙を通過して前記ステント方向に延びるものとなっている。具体的には、一端部5aより延びる部分のステント基端部固定用線材5および他端部5bより延びる部分のステント基端部固定用線材5ともに、ストッパー70の基端側コイル部70aの上を通過し、先端側コイル部70bを貫通して延びるものとなっている。このようにストッパーを形成することにより、ステント基端部のストッパーとしての効果を発揮し、また、ステント固定用線材をガイド(貫通)することにより、線材によるステントの固定が確実となり、また、線材のステントからのリリース時に線材のステントへのからみつきを防止し、リリースを確実に行うことができる。
【0022】
熱破断性ステント基端部固定用線材5は、熱可塑性樹脂製ファイバーであることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂が好ましく、特に、低融点であることが好ましい。また、熱破断性ステント基端部固定用線材は、熱破断される部分付近のみを低融点樹脂により構成してもよい。また、熱破断性ステント基端部固定用線材は、熱可塑性樹脂製ファイバーの単独の線材、また、熱可塑性樹脂製ファイバーを複数本束ねたものもしくは撚ったものなどであってもよい。
そして、シャフト部3は、ステント基端部固定用線材5を破断し、ステント10の係留を解除するための熱破断部7を備えている。この実施例では、熱破断部7は、破断用発熱部36と、発熱部に先端部が接続され、かつシャフト本体33の基端部まで伸びる電気ケーブル64,65と、電気ケーブル64,65と接続され、かつ、シャフト本体33の基端部に形成された電源供給器との接続部35を備えている。特に、この実施例では、熱破断部7の破断用発熱部36は、シャフト本体33の先端に固定されており、電気ケーブル64,65は、シャフト本体33の外面に固定された状態にてシャフト本体33の基端部まで伸びている。
そして、シャフト本体33の基端部には電源供給器(図示しない)との接続部35が形成されている。接続部35は、シャフト本体33の基端部の外面に形成され、ケーブル64と電気的に接続された第1の電極部37と、ケーブル65と接続された第2の電極38とを備える。また、この実施例では、第1の電極37と第2の電極38間を絶縁するための絶縁部39を備えている。熱破断性ステント基端部固定用線材5の一部、この実施例では、他端部5bより所定長中間部よりの部分が、破断用発熱部36に被包されており、接続部35の第1の電極部37と第2の電極38に与えられる電力により、破断用発熱部36が発熱し、当該部分にて熱破断性ステント基端部固定用線材5を溶融破断する。
【0023】
そして、本発明で使用するステント10は、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能な、いわゆる自己拡張型ステントである。さらに、ステント10は、シース2の先端側を向く先端部と基端側を向く基端部を備え、さらに、基端部を除き基端側に突出する屈曲自由端を実質的に持たず、シース2から先端部の露出後にシース2を移動させることにより、露出先端部をシース2に再収納可能なものが用いられている。
使用するステントとしては、基端側屈曲部の頂点もしくは頂点付近が他の線状要素と結合することにより、自由端を持たないものとなっているものであってもよい。また、使用するステントとしては、図12および図13に示すようなものであってもよい。図12は、本発明の生体器官病変部改善用器具に使用される生体内留置用ステントの一例の正面図である。図13は、図12の生体内留置用ステントの展開図である。
このステント10は、ステントの一端側から他端側まで軸方向に延びかつステントの周方向に複数配列された波状ストラット13,14と、各隣り合う波状ストラットを接続するとともに所定長軸方向に延びる1つもしくは複数の接続ストラット15とを備え、さらに、波状ストラット13,14の端部は、近接する波状ストラットの端部と結合されている。
【0024】
特に、図12および図13に示すステント10は、ステント10の一端側から他端側まで軸方向に延びかつステントの周方向に複数配列された第1波状ストラット13と、第1波状ストラット13間に位置し、ステントの一端側より他端側まで軸方向に延びかつステントの周方向に複数配列された第2波状ストラット14と、各隣り合う第1波状ストラット13と第2波状ストラット14とを接続するとともに所定長軸方向に延びる1つもしくは複数の接続ストラット15とを備える。そして、第2波状ストラット14の頂点は、ステント10の周方向に近接しかつ同じ方向に湾曲する第1波状ストラット13の頂点に対して、ステントの軸方向に所定長ずれたものとなっている。また、第1波状ストラット13の端部13a、13bは、近接する第2波状ストラットの端部14a、14bと結合されている。
この実施例のステント10は、略円筒形状に形成され、生体内挿入時には中心軸方向に圧縮され、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元するいわゆる自己拡張型ステントとなっている。
【0025】
第1波状ストラット13は、ステントの中心軸にほぼ平行に軸方向に延びるものとなっている。そして、第1波状ストラット13は、ステントの周方向に複数本配列されている。第1波状ストラット13の数としては、3本以上であることが好ましく、特に、3〜8本程度が好適である。さらに、複数本の第1波状ストラット13は、ステントの中心軸に対してほぼ等角度となるように配置されていることが好ましい。
第2波状ストラット14もステントの中心軸にほぼ平行に軸方向に延びるものとなっている。そして、第2波状ストラット14は、ステントの周方向に複数本配列されており、各第2波状ストラット14は、各第1波状ストラット間に配列されている。第2波状ストラット14の数としては、3本以上であることが好ましく、特に、3〜8本程度が好適である。さらに、複数本の第2波状ストラット14は、ステントの中心軸に対してほぼ等角度となるように配置されていることが好ましい。また、第2波状ストラット14の数は、第1波状ストラットの数と同じとなっている。
そして、このステント10は、各隣り合う第1波状ストラット13と第2波状ストラット14とを接続するとともに所定長軸方向に延びる1つもしくは複数の接続ストラット15を備えている。特に、この実施例のステント10では、接続ストラット15は、一方の波状ストラットの変曲点付近に一端を有し、隣接する他方の波状ストラットの頂点付近からこの頂点を若干越えた領域に他端を有し、軸方向に延びかつ他方の波状ストラットの頂点と同じ方向に湾曲している。具体的には、図13に示すように、接続ストラット15は、ステント10の周方向の一方側に向かう頂点を有する湾曲した第1の接続ストラット15aとステント10の周方向の他方側に向かう頂点を有する湾曲した第2の接続ストラット15bとからなる。また、接続ストラット15は、円弧状に湾曲するとともに、ステント10の周方向に近接する第1波状ストラット13または第2波状ストラット14の湾曲部の円弧とほぼ同じ半径を有するものとなっている。
【0026】
そして、この実施例のステント10は、すべての第1波状ストラットの一端側端部および他端側の端部を近接するいずれかの第2波状ストラットの端部と結合する結合部16を備えている。具体的には、ステント10の第1波状ストラットの一端側端部13aは、近接する一方の第2波状ストラット14(具体的には、近接しかつ周方向の他方側に位置する第2波状ストラット14)の一方側の端部14aと結合部16により結合されている。また、第1波状ストラットの他端側端部13bは、近接する一方の第2波状ストラット14(具体的には、近接しかつ周方向の一方側に位置する第2波状ストラット14)の端部14bと結合部16により結合されている。つまり、一端側の結合部16と他端側の結合部16では、結合する第1波状ストラット13と第2波状ストラット14の組み合わせが異なる(1つずつずれる)ものとなっている。
そして、結合部16には、図12ないし図14に示すように、放射線不透過性マーカー17が取り付けられている。この実施例では、結合部16は、図14に示すように、端部方向に所定距離離間して平行に延びる2本のフレーム部16a、16bを備えており、放射線不透過性マーカー17は、2本のフレーム部16a、16bのほぼ全体もしくは一部を被包するものとなっている。また、放射線不透過性マーカー17は、薄い直方体状のもので、2本のフレーム部16a、16bを内部に収納し、かつ中央部が窪むことにより、2本のフレーム部16a、16bに固定されている。放射線不透過性マーカーの形成材料としては、イリジウム、プラチナ、金、レニウム、タングステン、パラジウム、ロジウム、タンタル、銀、ルテニウム、及びハフニウムからなる元素の群から選択された一種のもの(単体)もしくは二種以上のもの(合金)が好適に使用できる。
さらに、ステント10は、基端部側となる各結合部16に、ステント基端部固定用線材挿通用の小孔18を備えている。この小孔18は、ステントの中心方向に向かって延びるものとなっている。なお、ステント基端部固定用線材挿通用の小孔18は、線材5の離脱性を高めるための低摩擦性内面もしくは易離脱性形態を有していることが好ましい。低摩擦性内面は、内面を平滑面とすることもしくは低摩擦性材料を被覆することなどにより形成できる。
【0027】
また、小孔の易離脱性形態としては、図17に示すようなものが考えられる。図17に示す結合部16に形成されている小孔18では、小孔18の開口縁が面取りもしくはテーパー状に拡径するものとなっている。なお、小孔18は、ステントの外面側および内面側の両者の開口縁部が面取りもしくはテーパー状に拡径するものであってもよい。これにより、ステント固定用線材の挿通および離脱が容易となる。
ステント10の構成材料としては、超弾性金属が好適である。超弾性金属としては、超弾性合金が好適に使用される。ここでいう超弾性合金とは一般に形状記憶合金といわれ、少なくとも生体温度(37℃付近)で超弾性を示すものである。特に好ましくは、49〜53原子%NiのTi−Ni合金、38.5〜41.5重量%ZnのCu−Zn合金、1〜10重量%XのCu−Zn−X合金(X=Be,Si,Sn,Al,Ga)、36〜38原子%AlのNi−Al合金等の超弾性金属体が好適に使用される。特に好ましくは、上記のTi−Ni合金である。また、Ti−Ni合金の一部を0.01〜10.0%Xで置換したTi−Ni−X合金(X=Co,Fe,Mn,Cr,V,Al,Nb,W,Bなど)とすること、またはTi−Ni合金の一部を0.01〜30.0%原子で置換したTi−Ni−X合金(X=Cu,Pb,Zr)とすること、また、冷間加工率または/および最終熱処理の条件を選択することにより、機械的特性を適宜変えることができる。また、上記のTi−Ni−X合金を用いて冷間加工率および/または最終熱処理の条件を選択することにより、機械的特性を適宜変えることができる。使用される超弾性合金の座屈強度(負荷時の降伏応力)は、5〜200kg/mm(22℃)、より好ましくは、8〜150kg/mm、復元応力(除荷時の降伏応力)は、3〜180kg/mm(22℃)、より好ましくは、5〜130kg/mmである。ここでいう超弾性とは、使用温度において通常の金属が塑性変形する領域まで変形(曲げ、引張り、圧縮)させても、変形の解放後、加熱を必要とせずにほぼ圧縮前の形状に回復することを意味する。
そして、ステントは、圧縮時の直径が、0.5〜1.8mm程度が好適であり、特に、0.6〜1.4mmがより好ましい。また、ステントの非圧縮時の長さは、5〜200mm程度が好適であり、特に、8.0〜100.0mmが好ましい。また、ステントの非圧縮時の直径は、1.5〜6.0mm程度が好適であり、特に、2.0〜5.0mmがより好ましい。さらに、ステントの肉厚としては、0.05〜0.15mm程度が好適であり、特に、0.05〜0.40mmが好適である。波状ストラットの幅は、0.01〜1.00mmが好適であり、0.05〜0.2mmが特に好ましい。波状ストラットの表面は滑らかに加工されていることが好ましく、電解研磨による平滑化がより好ましい。また、ステントの半径方向強度は、0.1〜30.0N/cmが好ましく、0.5〜5.0N/cmであることが特に好ましい。
【0028】
次に、本発明の生体器官病変部改善用器具の作用について、図11、図18ないし図22を用いて説明する。
生体器官病変部改善用器具1を血管に挿入する前に、図21に示すように、光干渉断層撮像装置のカテーテル80を対象血管81に挿入し、光干渉断層撮像法を用いて病変部位(プラーク)83の末端部とこの病変部位より生体器官病変部改善用器具の挿入方向の手元側かつ最も近い分岐血管82の血管分岐部84との距離Lを測定する。そして、光干渉断層撮像装置のカテーテル80を抜去し、図22に示すように、本発明の生体器官病変部改善用器具1を対象血管81に挿入し、X線造影を行い、X線造影像におけるシャフト本体の先端側チューブ31に設けられた距離表示機能である造影性マーカー28を見ながら、血管内に挿入した生体器官病変部改善用器具1のステント10の基端部が血管分岐部84より距離L分血管分岐部より深部側(生体器官病変部改善用器具の挿入方向の前方側)となるように配置する。
また、本発明の生体器官病変部改善用器具1の挿入のために指標は、上記の血管分岐部に限定されるものではなく、血管内に以前に留置したステント、石灰化、他の狭窄部位、冠動脈入り口などを指標としてもよい。この場合、光干渉断層撮像装置のカテーテルを対象血管に挿入し、光干渉断層撮像法を用いて病変部位(プラーク)83の末端部と生体器官病変部改善用器具の挿入方向の手元側となる指標との距離Lを測定する。そして、光干渉断層撮像装置のカテーテルを抜去し、本発明の生体器官病変部改善用器具1を対象血管81に挿入し、X線造影を行い、X線造影像におけるシャフト本体の先端側チューブ31に設けられた距離表示機能である造影性マーカー28を見ながら、上記指標より距離L分、生体器官病変部改善用器具の挿入方向の前方側となるように配置する。
そして、上述の状態では、ステント10の全体が、シース2に収納された状態となっている。そして、シース2を基端側に摺動させることにより、ステント10は、図18に示すように、シース2の先端開口より露出する。シース2より露出したステント10は、自己拡張力により拡張し、圧縮前の形態に復元しようとする。しかし、この生体器官病変部改善用器具では、ステント10の基端部は、熱破断性ステント基端部固定用線材5によりシャフト部3に係留されているため、拡張できず、図18の状態となる。ステント10の配置位置の再調整が必要な場合には、シース2を先端方向に摺動させることにより、ステント10をシース内に再収納可能である。そして、ステント10が目的部位に配置されていることを確認した後、シャフト部3に接続されている電源供給器(図示せず)を作動させて、破断用発熱部36を発熱させることにより、ステント基端部固定用線材5を破断する。これにより、 ステント10の基端部は、熱破断性ステント基端部固定用線材5による係留が解除され、図19に示すように、基端部も拡張する。その後、ステントがリリースされた生体器官病変部改善用器具1(シース2とシャフト部3)を基端方向に移動させることにより、図20に示すように、ステント10を係留していたステント基端部固定用線材5の中間部5cは、ステントより離脱する。なお、中間部5cを含む破断されたステント基端部固定用線材5は、その一端がシャフト部3に固定されているため、生体内に放出されることもステントに残留することもない。
【0029】
なお、本発明は、上述した実施例の形態のものに限定されるものではなく、例えば、特開2008−272262号公報に記載した生体器官病変部改善用器具である生体器官拡張器具に応用することもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 生体器官病変部改善用器具
2 シース
3 シャフト部
5 ステント基端部固定用線材
7 破断部
28a,28b 造影性マーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状に形成され、生体内挿入時には中心軸方向に圧縮され、生体内留置時には外方に拡張して圧縮前の形状に復元可能なステントと、ガイドワイヤルーメンを有する内側チューブ体と、前記ステントを先端部内に収納したステント収納チューブ体とを備え、かつ前記ステントが前記内側チューブ体の先端部を覆うように配置され、かつ前記ステント収納チューブ体を前記内側チューブ体に対して基端側に移動させることにより、前記ステントを露出可能である生体器官病変部改善用器具であって、
前記内側チューブ体は、少なくとも前記ステントの基端となる位置より所定長基端側に延びる造影表示領域を備え、該造影表示領域には、所定間隔離間するように設けられた複数の造影性マーカーからなる距離表示機能を備えていることを特徴とする生体器官病変部改善用器具。
【請求項2】
前記造影表示領域は、前記ステントの基端となる位置より5mmを超える位置まで設けられている請求項1に記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項3】
前記複数の造影性マーカーは、等間隔に設けられた目盛状の造影性マーカーである請求項1または2に記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項4】
前記目盛状の造影性マーカーは、複数の主目盛りと、該複数の主目盛り間に設けられ、前記主目盛りより造影性が低い副目盛りを有するものである請求項3に記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項5】
前記造影表示領域は、前記ステントの先端もしくは中央部となる位置に始端を有し、所定長基端側に延びるものである請求項1ないし4のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項6】
前記生体器官病変部改善用器具は、一端部および他端部が前記内側チューブ体に固定され、中間部が前記ステントの基端部に係留されたステント基端部固定用線材と、該ステント基端部固定用線材を破断し、前記ステントの係留を解除するための破断部を有するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項7】
前記ステントは、基端部に設けられた前記ステント基端部固定用線材挿通用の複数の小孔を略環状に備え、前記ステント基端部固定用線材の前記中間部は、前記ステントの前記複数の小孔を環状に挿通している請求項6に記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項8】
前記ステントは、基端部に位置する複数の基端方向屈曲部を備え、前記ステント基端部固定用線材の前記中間部は、前記ステントの前記複数の基端方向屈曲部を環状に挿通している請求項6に記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項9】
前記内側チューブ体は、前記ガイドワイヤルーメンを有する先端側チューブと、該先端側チューブの基端側に先端部が固定された内側チューブ本体とを備え、前記破断部は、前記内側チューブ本体の先端部に設けられている請求項6ないし8のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項10】
前記ステント基端部固定用線材は、熱破断性ステント基端部固定用線材であり、前記破断部は、熱破断部である請求項6ないし9のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項11】
前記内側チューブ体は、前記ステント収納チューブ体のステント収納部位より基端側にて前記ガイドワイヤルーメンと連通する開口を備え、前記造影表示領域は、前記開口付近まで延びている請求項1ないし10のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。
【請求項12】
前記ステントは、前記ステント基端部固定用線材が破断し、前記ステントの係留が解除されるまで、該ステントが前記ステント収納チューブ体に再収納可能である請求項6ないし11のいずれかに記載の生体器官病変部改善用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−233934(P2010−233934A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87376(P2009−87376)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】