説明

生体材料、及びそれを用いた人工関節並びにその製造方法

【課題】本発明は、繰り返し行われる日常の動作に対しても、摺動部位の摩擦を抑えて、摩耗粉の発生を抑制することができる人工関節、人工関節摺動部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するため、金属、合金またはセラミックスからなる基材と、該基材の適宜部所に、生体適合材料層が積層される生体材料であって、
上記基材は、その表面の少なくとも所要箇所に表面処理によって水酸基が形成される一方、上記生体適合材料層は、ホスホリルコリン基を含む高分子重合体からなり、上記基材と生体適合材料層とを上記水酸基と結合する一方、上記生体適合材料と結合するバインダー層を介して、接合してなることを特徴とする生体材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性、生体適合性を示す生体材料、及びそれを用いた耐摩耗性に優れた人工関節並びにその製造方法に関する。特に人の関節を補綴するための人工関節に用いられる摺動部材用途に適するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、セラミックスのような高強度な材料は、人工関節などの運動系人工臓器や欠損部を補填する補綴材料、例えば人工骨、人工歯根として、広く医療分野に使用されている。また、最近では循環器系人工臓器へも金属は積極的に利用されるようになり、そのため力学的な強度を有すること以外にも、血液凝固反応が防止されることや、埋め込み部位と軟組織とが良好に適合することという生体適合性が求められている。この生体適合性は、生体内で用いられる医療器具にとって不可欠である。
これまでに、生体適合性に優れた2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCと称す)を医療用高分子材料に応用する技術が開発されている。従来、生体適合性材料であるMPC重合体としては、MPCと疎水性基を有する単量体とを共重合させた疎水性基含有MPC共重合体が多く用いられている。しかし、この共重合体を医療用具等の基材表面に被覆した場合、血液と接触する条件下において、短時間使用であれば問題は少ないが、長時間に及ぶ使用であれば被覆が持続しないという課題が残されていた。
これらの欠点を回避するため、アミノ基含有メタアクリレートやアミノ基含有スチレンモノマー等の反応性コモノマーと、ホスホリルコリン類似基を有するモノマーとの共重合体を含有させたコーティング材を用い、これを共有結合により基材表面に固定化する技術が開示されている(特許文献1)。しかし、一般に、アミノ基含有メタアクリレートやアミノ基含有スチレンモノマーは高価であるため、工業的に不利である。
また、エポキシ基を有するMPC共重合体と、アミノ基を有するMPC共重合体とを用いて、医療用具等の基材表面に対して化学結合により固定化する方法が開示されている(特許文献2、特許文献3)。このアミノ基含有MPC共重合体では、アミノ基含有の割合によっては基材表面へ固定させることが困難となり、被覆されるコーティング材として脆弱になる場合がある。
また、医療材料にアリルアミンとホスホリルコリン類似基等からなるランダム共重合体とを固定化する方法が開示されている(特許文献4)。例えば、コーティングされる医療用具が金属材料の場合には、4-メタクリロキシエチルトリメリテートアンヒドリド(以下、4-METAと称する)重合体がバインダーとして用いられ、4-META重合体中に含まれる酸無水基が、アリルアミンとホスホリルコリン類似基等からなるランダム共重合体中のアミノ基に対して優れた反応性を示し、このバインダーを介して、上記ランダム共重合体を医療用生体材料に固定することができる。
しかしながら、上記のように、共重合体を用いるとホスホリルコリン基の割合が低くなり、生体適合性、親水性、表面潤滑性が劣る問題が生じてくる。また、長時間に及ぶ使用であれば被覆が持続しないという欠点が解決しているとは言い難い。実際、MPCコポリマーが被覆されたチタン金属製人工心臓においては、91日間の使用の後には、MPCコポリマーのうち5%しか残存していないと報告されている(非特許文献1)。
一方、人工股関節、人工膝関節等の人工関節の構成部材として、超高分子量ポリエチレン(以下、UHMWPEと称する)とコバルトクロム合金を組み合わせた、人工関節が、一般的に使用されている。しかし、人工関節が生体内において使用される時、摩擦運動により生じるUHMWPEの摩耗粉は、臼蓋カップと生体骨との間に入り込み、これらの摩耗粉がマクロファージにより貪食され、骨溶解性サイトカインが放出されるため、骨の融解が誘発されやすい。骨の融解が起こることで人工関節と骨の固着力が弱まる、いわゆるルーズニングが人工関節置換術の合併症として大きな問題となっている(非特許文献2)。
【0003】
通常、UHMWPEの摩耗量は、年間0.1〜0.2mm程度であり、人工関節置換術を施術後、しばらくは問題がないが、5年程度経過すると上述のルーズニングが著しくなり、人工関節を取り替える必要が生じる場合があり、患者にとって大きな負担となっている。
【0004】
ルーズニングの解決方法の1つは、UHMWPE摩耗粉量を減少させることである。そのために、関節面の素材の組み合わせや素材自体の改良といった様々な試みが行われている。その一つとして、近年では電子線や放射線により架橋されたUHMWPE(クロスリンクポリエチレン、以下、CLPEと称する)が盛んに研究されている。
【0005】
また、UHMWPEなどの摺動部表面の改質も盛んに研究されている。山本宣之等は、人工関節を含む医療器具の表面にアリルアミンとホスホリルコリン類似基等からなるランダム共重合体を固定し、生体適合性や表面潤滑性を付与した医療用器具を提供している(特許文献4)。石原一彦等は、UHMWPEを含む高分子材料製人工関節に、ホスホリルコリン基を有する重合性単量体をグラフト結合し、人工関節の摺動部位の摩擦を抑え摩耗粉の発生を抑制することができる高分子材料製人工関節部材を提供している(特許文献5)。
【0006】
また、摩耗を引き起こすUHMWPE等の高分子材料を用いず、関節面に硬質部材同士を組み合わせて使用することも提案されており、例えばコバルトクロム(以下、Co−Crと称する)合金骨頭とCo−Cr合金カップの組み合わせ(非特許文献3)や、アルミナセラミックス骨頭とアルミナセラミックスカップの組み合わせ(非特許文献4)による人工関節が、既に臨床使用されている。
【0007】
【特許文献1】特表平7-502053号公報
【特許文献2】特表平7-184989号公報
【特許文献3】特表平7-184990号公報
【特許文献4】国際特許公開WO01/05855
【特許文献5】特開2003-310649号公報
【非特許文献1】「In Vivo Evaluation of a MPC Polymer Coated Continuous Flow Left Ventricular Assist System」ARTIFICIAL ORGANS, VOL27,NO.2,2003
【非特許文献2】「In vivo wear of polyethylene acetabular components」THE JOURNAL OF BONE AND JOINT SURGERY, VOL75-B,NO.2,1993
【非特許文献3】「Engineering Issues and Wear Performance of Metal on Metal Hip Implants」CLINICAL ORTHOPAEDICS AND RELATED RESERCH,NO.333,1996
【非特許文献4】「Wear rates of ceramic-on-ceramic bearing surfaces in total hip implants:A 12-year follow-up study」THE JOURNAL OF ALTHROPLASTY, VOL 14, NO.7,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、表面にアリルアミンとホスホリルコリン類似基等からなるランダム共重合が固定された医療用器具では、予め十分に重合されたランダム共重合体を基材となる医療用器具表面に固定するため、ランダム共重合体と医療用具表面との間の結合は十分ではなく、生体内において長時間使用する場合や、特に、人工関節摺動部という過酷な摩擦摩耗環境下では、その効果が発揮されない。高分子性人工関節用摺動部材として、一般的に使用されているUHMWPEは、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、イソシアネート基などの官能基を持たず、アリルアミンとホスホリルコリン類似基等から成るランダム共重合体との結合性は著しく低い。これを解決するために、医療用器具表面を、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理等により処理し、例えば、カルボキシル基を表面に付与することが考えられるが、この処理による医療用器具の基材特性への影響は無視できず、満足できない。また、医療用器具の表面にアリルアミンとホスホリルコリン類似基等からなるランダム共重合体を固定することで、生体適合性や表面潤滑性が付与されているものの、高分子性人工関節用摺動部材の課題として最も重要である、長時間にわたる摩耗特性は解決していない。また、コーティングする医療用具が金属材料の場合には、4−META重合体をバインダーとして用い、4−META重合体中に含まれる酸無水基が、アリルアミンとホスホリルコリン類似基等からなるランダム共重合体中のアミノ基に対して優れた反応性を示し、これらのランダム共重合体は、このバインダーを介して、医療用生体材料に固定される。しかしながら、4−META重合体中に含まれる酸無水基は、ランダム共重合体との結合と同時に基材との結合にも使用される。従って、ランダム共重合体との結合を強固にすれば、基材との結合が脆弱化し、他方、基材との結合を強固にすれば、ランダム共重合体との結合が脆弱化する問題が含まれている。
一方、石原一彦等は、前述のなかで、人工関節用高分子材料としてUHMWPEに、ホスホリルコリン基を有する重合性単量体としてMPCを、300〜400 nmの波長の紫外線を30分間照射することによりグラフト結合し、ぬれ性を向上させることで摩擦係数を大きく低減した。更には、人工関節シミュレーション試験機を用いて、300万サイクルの摺動試験を行い、優れた摩耗特性を示した。しかしながら、臼蓋側を置換しない骨頭置換術では、UHMWPEコンポーネントは使用されず、効果を発揮できない。また、特に、高い面圧環境に陥る人工膝関節においては、その耐久性が心配される。
【0009】
Co−Cr合金同士の摩擦で生じる摩耗粉は、高い細胞毒性を有しているため、長期の使用に関しては安全性が危惧されている。一方、前述のアルミナセラミックス骨頭とアルミナセラミックスカップの組み合わせは、アルミナセラミックスが脆性材料であるために、手術中若しくは生体内での使用中に破損を生じることがあり、実用に関しては更なる改善が要求されている。更にこれらの硬質部材は、弾性に乏しく、前述のUHMWPEのようなクッション機能を有さないので、外力に対する緩衝作用が無く、骨に直接負担が掛かるので好ましくない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、繰り返し行われる日常の動作に対しても、摺動部位の摩擦を抑えて、摩耗粉の発生を抑制することができる生体材料、特に人工関節、人工関節摺動部材及びその製造方法を提供することにある。また、生体内で、十分な機械的特性を維持し、かつ、生体に対して安全であり、長期間安心して使用できるという優れた効果を奏し、患者への負担を大きく軽減できる生体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った結果、通常、金属、合金、セラミックスの表面にはMPCに代表される生体適合性材料は強固には接合されないところ、金属、合金、セラミックス表面を適切に処理し、処理された金属等の表面に4−METAモノマー等の材料からなるバインダー層を介すれば、上記金属等の上に生体適合材料からなる層を強固に積層することができることを見出した。
すなわち、本発明は、金属、合金またはセラミックスからなる基材と、該基材の適宜部所に、生体適合材料層が積層される生体材料であって、
上記基材は、その表面の少なくとも所要箇所に表面処理によって水酸基が形成される一方、上記生体適合材料層は、ホスホリルコリン基を含む高分子重合体からなり、上記基材と生体適合材料層とを、上記水酸基と結合する一方上記生体適合材料と結合するバインダー層を介して、接合してなることを特徴とする生体材料にある。
上記、生体材料は、例えば、Co−Cr合金表面に形成された水酸基と、4−METAモノマー中に形成したカルボキシル基が結合し、一方、4−METAモノマー中のメタクリル基とMPCモノマー中のメタクリル基が共重合することからなる材料が挙げられる。
上記、ホスホリルコリン基を含む高分子重合体としては、MPCポリマーまたはMPC含有コポリマー(例えば、MPC−ブチルメタクリレートコポリマー)が挙げられる。他方、上記金属、合金又はセラミックスからなる基材は、水酸基を形成可能な金属成分又は金属酸化物を含む必要があり、Ti金属、又はCo−Cr、コバルトクロムモリブデン(以下、Co−Cr−Moと称す)、ニッケルクロム(以下、Ni−Cr)、ステンレススチール(以下、SUSと称す)及びチタン(以下、Tiと称す)系合金からなる群から選択される少なくとも1種の合金、若しくは、アルミナ、ジルコニア、チタニアからなる群から選択された少なくとも1種を含むセラミックスが挙げられる。
上記バインダーとしては、一方の末端にカルボキシル基が結合され、他方の末端にメタクリル基またはメチレン基が結合された有機化合物からなり、例えば、4−META、4−メタクリロキシエチルトリメリテート酸(以下、4−MET称す)、あるいはメタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸が挙げられる。
【0012】
また、本発明は上記生体材料を製造する方法を提供するものでもあり、金属、合金またはセラミックス材料からなる基材の適宜箇所に生体適合材料層が積層された生体材料を製造する方法であって、
a)水酸基を形成可能な金属成分又は金属酸化物を含む金属、合金またはセラミックス材料からなる基材をプラズマ処理して表面に水酸基を形成する工程と、
b)一方の末端にカルボキシル基が結合され、他方の末端にメタクリル基またはメチレン基が結合された有機化合物をバインダー成分に含む溶液を、上記基材に塗布し、乾燥させるバインダー層形成工程と、
c)生体適合材料及び光重合開始剤を含む溶液に上記基材を浸漬し、紫外線を照射することにより上記バインダー層上で生体適合性モノマーを適宜箇所で重合し、接合被覆する重合工程と、を備えることを特徴とする製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、予めバインダーモノマーを被覆し、バインダーモノマーの二重結合を切断しラジカルを発生させ、これを核にMPCモノマーをグラフト重合し、MPCグラフトコーティング層を形成しているため、MPCポリマーと金属基材との間には、バインダーを介して、イオン結合、共有結合などが存在し、強固なコーティングが実現できる。もしくは、バインダーモノマーもしくはポリマーを被覆し、光重合法によりバインダーモノマーもしくはポリマーのC−H結合を切断させラジカルを発生させ、これを核にMPCモノマーをグラフト重合し、MPCグラフトコーティング層を形成しているため、MPCポリマーと金属基材との間には、バインダーを介して、イオン結合、共有結合などが存在し、強固なコーティングが実現できる。
また、本発明に係る製造方法によれば、MPCポリマー層と基材との強固な結合が実現され、高負荷環境下における人工関節摺動部材として、安定した効果が発揮される。したがって、本発明に係る生体材料によれば、金属、合金若しくはセラミックス等から成る生体材料が、MPC等の生体適合材料により被覆されているため、生体内において長時間使用する場合においても、優れた親水性、生体適合性を示す。特に、人工関節においては、骨頭部、金属またはセラミックス製カップが、MPC等の生体適合材料により被覆されているため、摩耗粉を生じる虞が無く、人体に影響を及ぼさない。また、Co−Cr合金骨頭とCo−Cr合金カップの組み合わせや、アルミナセラミックス骨頭とアルミナセラミックスカップの組み合わせる場合には、UHMWPEの摩耗粉が発生しないため、骨の融解等を生じる虞がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る生体材料、特に人工関節に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施の形態は、例示するものであって、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る生体材料である。本実施の形態1に係る生体材料は、図1の示すように金属、合金若しくはセラミックスからなる基材1と、上記基材1の少なくとも一方の主面に形成され、上記基材1の表面の少なくとも一部が処理されて成る表面処理層2と、上記表面処理層2上に積層されたバインダー層3と、該バインダー層3上に積層された生体適合材料層4とを備える。
【0016】
(バインダー層)
バインダー層として、一方の端部にカルボキシル基が結合され、他方の端部にメタクリル基、メチレン基が結合された物質からなることが好ましい。このような物質として、例えば、4−META、4−MET、もしくはメタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸等を用いることができる。
一方の端部のメタクリル基、メチレン基等は、生体適合材料を構成するMPCのメタクリル基と接合する。また、他方の端部のカルボキシル基は、酸化処理及びプラズマ処理された基材の表面に形成された水酸基と接合する。これは、4−METAの官能基が、基材をなす合金の表面の酸化被膜と反応して、4−METAの金属塩を形成するためであると考えられる。Ni−Cr合金、Co−Cr合金、ステンレス、チタン合金などの合金は、アルミナサンドブラスト処理をするだけで、表面に酸化被膜が自然に形成され、より高い接着強度が得られる。4−METAは、Ni−Cr合金やCo−Cr合金などの合金に含まれるクロム酸化物から形成されるクロム水酸化物に対して高い接着性を示す。
【0017】
(生体適合材料層)
生体適合性材料とは、生体組織を構成する細胞と同様の化学構造を有し、そのためその摩耗粉が人体内に入っても、生体内の組織が反応を起こさない材料であって、人体に悪影響を及ぼさない材料である。通常、生体内に、ウイルスや細菌等の微生物、移植された他人の臓器等の生物系異物が侵入してくると、それらの異物の表面に存在する抗原基を体内の抗体分子あるいは免疫系細胞が察知して生体防衛反応、即ち拒絶反応を示す。このような生物学的異物に対する生体反応に関して、補体系による認識というものが関与している。ここで、補体系とは、約20種類の血漿タンパク質が属していて、これらは他の免疫系タンパク質や細胞と深いつながりをもっている。補体系は、異物の存在を免疫系細胞に知らせ、侵入微生物を死滅させることを目的としている。この異物の察知は補体の活性化という形で現れ、人工骨等の材料を埋め込むことにより、補体が活性化される。このような材料を骨に直接埋め込むと、生体液などに触れ、材料表面にタンパク質が付着する。そうすると、好中球やマクロファージ(貪食細胞)が働き、サイトカインと呼ばれるポリペプチド系情報伝達物質が放出される。材料から溶出する金属イオンや摩耗粉により、金属と骨との界面において、例えば、金属を異物と認識して、材料を結合組織(軟組織)が取り囲んでしまうカプセル化、アモルファス相と呼ばれる非晶質相の形成、また摩耗粉による骨溶解の誘発などが引き起こされる。
【0018】
この生体適合性材料は、上述のカプセル化、タンパク質吸着、血栓の生成等を引き起こさず、生体内で生体材料の有する機能を発揮しうる。特に人工関節等の骨頭及び/又は臼蓋カップの接触表面上に配置すれば、生体骨の摩耗を防止することができ、さらに、骨頭と臼蓋カップの摺動により生成される生体適合材料の摩耗粉は、人体内で、生体物質と反応を起こしにくく、そのため骨融解を起こしにくいため、好適に用いられている。
【0019】
このような生体適合性材料として、ホスホリルコリン基を有する高分子材料が挙げられる。このような高分子材料として、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、4−スチリルオキシブチルホスホリルコリンが好ましい。特に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、これを単に「MPC」という。)であることが好ましい。
【0020】
また、他の生体適合性材料として、例えば、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5−メタクリロイルオキシペンチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6−メタクリロイルオキシヘキシル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリエチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリプロピルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリブチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシブチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシペンチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシヘキシル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、5−メタクリロイルオキシペンチル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、6−メタクリロイルオキシヘキシル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、5−メタクリロイルオキシペンチル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート及び6−メタクリロイルオキシヘキシル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート等が挙げられる。
【0021】
(基材)
基材を構成する金属としては、水酸基を形成しやすいチタン(Ti)、クロム(Cr)等が挙げられる。また、基材を構成する合金としては、ステンレス鋼、Cr合金、Ti合金等が挙げられる。Cr合金の好ましい具体例としては、Co−Cr合金、Co−Cr−Mo合金等が挙げられる。また、Ti合金の好ましい具体例としては、Ti-6Al-4V合金、Ti-15Mo-5Zr-3Al合金、Ti-6Al-7Nb合金、Ti-6Al-2Nb-1Ta合金、Ti-15Zr-4Nb-4Ta合金Ti-15Mo-5Zr-3Al合金、Ti-13Nb-13Zr合金、Ti-12Mo-6Zr-2Fe合金、Ti-15Mo合金及びTi-6Al-2Nb-1Ta-0.8Mo合金等が挙げられる。さらに、基材を構成するセラミックスとしては、水酸基を形成可能な金属酸化物であるアルミナ、ジルコニア、チタニア等が挙げられる。これらの材料は、プラズマ処理により表面に酸化物を形成し、続いて水酸基を形成し易く、当該水酸基とバインダー層のカルボキシル基が化学結合することにより、強固に接続されるため好適に用いられる。しかし、基材を構成する材料としては、当該基材上に形成されるバインダー層のカルボキシル基と化学結合等できる官能基を形成可能なものであれば如何なる材料であってもよい。基材上に形成されるバインダー層のカルボキシル基と化学結合等できる官能基としては、水酸基であることが好ましいが、水酸基に限られるものではない。
【0022】
(製造方法)
以下、本実施の形態1に係る生体材料の作製方法に関して概略的に説明する。
【0023】
まず、金属、合金、半導体、若しくはセラミックスからなる基材をアセトン等で超音波洗浄する。
続いて、4−META/アセトン溶液を用いて、上記基材をスピンコートする。有機溶媒としてはエタノール等を使用してもよい。ここで、4−META/アセトン溶液の濃度としては、2wt%〜20wt%であることが好ましく、更に好ましくは、5wt%〜10wt%である。最も好ましいのは、10wt%付近である。
【0024】
続いて、上述のようにスピンコートした基材を常圧で乾燥させる。ここで、温度は、20℃〜60℃であることが好ましく、更に好ましくは、40℃付近である。乾燥時間としては、1時間〜12時間である。更に好ましくは、3時間付近である。
さらに、生体適合性材料モノマーを溶媒に溶解させた溶液に、光重合剤を添加した溶液に、上記基材を浸漬する。ここで、生体適合性材料モノマーとして、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、4−スチリルオキシブチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5−メタクリロイルオキシペンチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6−メタクリロイルオキシヘキシル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリエチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリプロピルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2´−(トリブチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシブチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシペンチル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシヘキシル−2´−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、5−メタクリロイルオキシペンチル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、6−メタクリロイルオキシヘキシル−3´−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、4−メタクリロイルオキシブチル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、5−メタクリロイルオキシペンチル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート及び6−メタクリロイルオキシヘキシル−4´−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェートから選択される少なくとも1種を含む物質であることが好ましい。更に好ましくは、MPCである。また、上記溶媒として100%エタノールであることが好ましい。上記エタノールは、水を含有していても良い。さらに、光重合剤として、イルガキュア(D2959)、イルガキュア(D369)又はベンゾフェノンを用いることが好ましく、最も好ましくはイルガキュア(D2959)である。
その後、上記基材に光を照射して、重合させる。当該光として、適切な波長としては、300nm〜400nmである。重合温度としては、20℃〜60℃であることが好ましく、60℃付近であることがさらに好ましい。照射時間としては、10分〜90分であることが好ましく、通常は10分程度が適当である。
重合後、水または有機溶剤により浸漬洗浄する。当該有機溶剤として、エタノール、アセトン等を用いることができ、最も好ましいのは、エタノールである。
【0025】
(実施の形態2)
図2は、本発明に係る製造方法を用いて製造された人工股関節の断面を示す図である。本実施の形態2に係る人工股関節は、図2に示すように、金属、合金若しくはセラミックスからなる骨頭10と、有機系材料から成る臼蓋カップ20とからなる。そして、上記骨頭10は、上記骨頭10の少なくとも一部に、上記骨頭10の表面の少なくとも一部が処理されて成る表面処理層11を有する。さらに、骨頭10は、上記表面処理層11上に積層されたバインダー層12と、上記バインダー層12上に積層された生体適合材料層13とを有する。本実施の形態2に係る人工股関節は、金属、合金若しくはセラミックスからなる骨頭10が表面処理層11及びバインダー層12を介して生体適合材料層13により被覆されているため、上記金属等の摩耗粉が発生しない。しかも、骨頭10を覆う生体適合材料層13から摩耗粉が発生しても、生体適合材料層からの摩耗粉は、生体に悪影響を及ぼさないため、本実施の形態1に係る人工股関節は、好適に用いられる。
【0026】
(実施の形態3)
本実施の形態3に係る人工股関節は、図3に示すように、金属、合金若しくはセラミックスからなる骨頭10と、有機系材料から成る臼蓋カップ20とからなる。そして、上記骨頭10及び上記臼蓋カップ20は、それらの少なくとも一部に、上記骨頭10若しくは臼蓋カップ20の表面の少なくとも一部が処理されて成る表面処理層11、21を有する。さらに、上記骨頭10は、上記表面処理層11上に積層されたバインダー層12と、上記バイダー層12上に積層された生体適合材料層13とを有し、それらの生体適合材料層13が互いに接触する。
臼蓋カップ20は公知技術(特許公開No.2003−310649)より、臼蓋カップ20をベンゾフェノン含有アセトン溶液に浸漬し、生体適合材料含有水溶液に前記臼蓋カップ20を浸漬、乾燥後、紫外線300〜400nmで照射して、生体適合材料層23を形成した臼蓋カップ20が作製される。
本実施の形態3に係る人工股関節は、本実施の形態2に係る人工股関節においては、臼蓋カップ20の表面上に生体適合材料層23が形成されているのに対し、実施の形態2に係る人工股関節では、臼蓋カップ20の表面上に表面処理層等が形成されていない点で、実施の形態2に係る人工股関節と異なる。実施の形態3に係る人工股関節は、有機系材料から成る臼蓋カップ20の表面上に生体適合材料層23により被覆されているため、有機系材料から成る臼蓋カップ20から摩耗粉が発生せず、上述のルーズニングの問題も発生しないため好適に用いられる。
【0027】
(実施の形態4)
本実施の形態4に係る人工股関節は、図4に示すように、金属、合金若しくはセラミックスからなる骨頭10と、金属、合金若しくはセラミックスから成る臼蓋カップ20とからなる。そして、上記骨頭10及び上記臼蓋カップ30は、それらの少なくとも一部に、上記骨頭10若しくは臼蓋カップ30の表面の少なくとも一部が処理されて成る表面処理層11、31を有する。さらに、上記骨頭10及び上記臼蓋カップ30は、上記表面処理層11、31上に積層されたバインダー層12、32と、上記バインダー層12、32上に積層された生体適合材料層13、33とを有し、それらの生体適合材料層13、33が互いに接触する。本実施の形態4に係る人工股関節は、本実施の形態4に係る人工股関節においては、臼蓋カップとして金属、合金若しくはセラミックスからなる材料ものを使用しているのに対し、実施の形態3に係る人工股関節では、臼蓋カップとして有機系材料ものを使用している点で、実施の形態2に係る人工股関節と異なる。実施の形態4に係る人工股関節は、臼蓋カップとして金属、合金若しくはセラミックスからなる材料ものを使用しており、有機系材料を使用した場合より硬いため好適に用いられる。
【実施例1】
【0028】
本発明に係る生体材料を以下の要領で製造して、試験を行なった。基材として組成がCo-28Cr-6MoであるCo-Cr-Mo合金を使用した。また、バインダー層として4−METAを使用し、生体適合材料としてMPCを使用した。
1)まず、Co-Cr-Mo合金のサンプル(組成:Co-28Cr-6Mo合金)をアセトン液中で超音波洗浄し、
2)ついで、20〜45%硝酸中に30分浸漬し、高Cr化処理(硝酸処理)を行った。
3)この硝酸処理されたサンプルを、プラズマ処理機に入れ、酸素プラズマ処理し、サンプル表面に酸化物を形成させ、続いてCr−OH化した。
4)これを速やかに10wt%4−META/アセトン溶液を用いて、上記サンプルの表面処理面にスピンコートを行った。
5)これを40℃、3時間(常圧)で乾燥させた。
6)ついで、2wt%MPC/エタノール溶液に0.1wt%イルガキュア(D2959)を混合した溶液に上記サンプルを浸漬し、350nm紫外線を60℃にて10分照射し、
7)MPCポリマーの形成後、エタノールにて一晩浸漬洗浄した。
8)Co-Cr-Mo合金サンプル表面の静的なぬれ性(静的表面接触角)について、液滴法により評価した。静的表面接触角は、液滴量1μLの純水を滴下後、60秒時点において測定した。
9)Co-Cr-Moサンプルの表面元素状態について、X線光電子分光(以下、XPSと称す)分析を行った。X線源Mg-Kα線、印加電圧15kV、検出角度90°とした。静的表面接触角測定の結果を図5に示す。硝酸処理→酸素プラズマ処理を施したMPC処理Co-Cr-Mo合金の表面接触角度は10〜20°と極めて低い値を示したが、4−METAコーティング前に硝酸処理、酸素プラズマ処理を各々単独で施したMPC処理Co-Cr-Mo合金骨頭では接触角は40〜70°と幾らかの効果を発揮するに過ぎなかった。
XPS分析の結果を表1に示す。硝酸処理→酸素プラズマ処理を施したMPC処理Co-Cr-Mo合金のMPCに由来する窒素、リン原子濃度はそれぞれ2.5、2.1と高い値を示したが、4−METAコーティング前に硝酸処理、酸素プラズマ処理を各々単独で施したMPC処理Co-Cr-Mo合金サンプルでは窒素、リン原子濃度は0.6〜1.0、0.7〜2.0と幾らかの効果を発揮するに過ぎなかった。

【表1】

【実施例2】
【0029】
本発明に係る生体材料を以下の要領で製造して、試験を行なった。基材として組成がTi-6Al-4VであるTi-Al-V合金を使用した。また、バインダー層として4−METAを使用し、生体適合材料としてMPCを使用した。
1)Ti合金のサンプル(組成:Ti-6Al-4V合金)をアセトン液中で超音波洗浄し、
2)このサンプルを、プラズマ処理機に入れ、酸素プラズマ処理し、Ti合金表面を酸化チタン化し、続いてTi−OH化した。
3)これを速やかに10wt%4−META/アセトン溶液を用いて、上記サンプルの表面処理面にスピンコートを行った。
4)これを40℃、3時間(常圧)で乾燥させた。
5)ついで、2wt%MPCモノマー/エタノール溶液に0.1wt%イルガキュア(D2959)を混合した溶液に上記骨頭を浸漬し、350nm紫外線を60℃にて10分照射した。
6)MPCポリマーの重合後、エタノールにて一晩浸漬洗浄した。
7)対象試料として、MPC−ブチルメタクリレート共重合体をスピンコートしたTi-6Al-4V合金を準備した。
8)Ti-6Al-4V合金サンプル表面の静的なぬれ性(静的表面接触角)について、液滴法により評価した。静的表面接触角は、液滴量1μLの純水を滴下後、60秒時点において測定した。その結果を示す。MPCモノマーをグラフト処理したTi-6Al-4V合金の表面接触角度は10〜20°と極めて低い値を示したが、MPC−ブチルメタクリレート共重合体をスピンコートしたTi-6Al-4V合金の接触角は70〜80°とほとんど効果を発揮しなかった。
【実施例3】
【0030】
本発明に係る人工股関節を以下の要領で製造した。基材として組成がCo-28Cr-6MoであるCo-Cr-Mo合金を使用した。また、バインダー層として4−METAを使用し、生体適合材料としてMPCを使用した。
1.骨頭ボールの加工
以下の(a)、(b)又は(c)によりCo-Cr-Mo合金からなる骨頭ボールを作製した。
(a)Co-Cr-Mo合金(組成Co-28Cr-6Mo)のロッドから切削にて、外形をボール形状に加工し、その後表面を鏡面仕上げする。
(b)Co-Cr-Mo合金(組成Co-28Cr-6Mo)ボールを鋳造にて作製し、その後表面を鏡面に仕上げる。
(c)Co-Cr-Mo合金(組成Co-28Cr-6Mo)のロッドを鍛造にて、外形をボール形状に加工し、その後表面を鏡面仕上げする。
2.前処理
1)Co-Cr-Mo合金の骨頭ボールをアセトン液中で超音波洗浄した。
2)20〜45%硝酸中に30分浸漬し、高Cr化処理(硝酸処理)を行った。
3)硝酸処理された骨頭ボールを、プラズマ処理機に入れ、骨頭表面をCr酸化物化し、続いてCr−OH化した。
4)速やかに10wt%4−META/アセトン溶液を用いて、上記骨頭ボールの表面処理面にスピンコートを行った。その後、40℃、3時間(常圧)で乾燥させた。
3.MPC処理
1)前処理された骨頭ボールを2wt%MPC/エタノール溶液に0.1wt%イルガキュア(D2959)を混合した溶液に上記骨頭ボールを浸漬し、350nm紫外線を60℃にて10分照射した。
2)MPCポリマーの重合後、エタノールにて一晩浸漬洗浄した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る生体材料の概念を示す構造図
【図2】本発明に係る人工骨頭の第1実施形態の断面概要図
【図3】本発明に係る人工骨頭の第2実施形態の断面概要図
【図4】本発明に係る人工骨頭の第3実施形態の断面概要図
【図5】表面処理の効果を比較するためのグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、合金またはセラミックスからなる基材と、該基材の適宜部所に、生体適合材料層が積層される生体材料であって、
上記基材は、その表面の少なくとも所要箇所に表面処理によって水酸基が形成される一方、上記生体適合材料層は、ホスホリルコリン基を含む高分子重合体からなり、上記基材と生体適合材料層とを、上記水酸基と結合する一方上記生体適合材料と結合するバインダー層を介して、接合してなることを特徴とする生体材料。
【請求項2】
上記ホスホリルコリン基を含む高分子重合体が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーまたは2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有コポリマーである請求項1記載の生体材料。
【請求項3】
上記金属、合金又はセラミックスからなる基材が、水酸基を形成可能な金属成分又は金属酸化物を含む請求項1記載の生体材料。
【請求項4】
上記基材が、純チタン金属、又は、コバルトクロム、コバルトクロムモリブデン、ニッケルクロム、ステンレススチール及びチタン系合金からなる群から選択される少なくとも1種の合金、若しくは、アルミナ、ジルコニア、チタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含むセラミックスからなることを特徴とする請求項1記載の生体材料。
【請求項5】
上記基材がクロム又はチタン成分を含み、酸素プラズマ処理で、表面クロム又はチタン成分が酸化され、続いて水酸基が形成された請求項1記載の生体材料。
【請求項6】
上記バインダーが、一方の末端にカルボキシル基が結合され、他方の末端にメタクリル基またはメチレン基が結合された有機化合物からなり、上記カルボキシル基が基材表面の水酸基と結合し、他端メタクリル基またはメチレン基がホスホリルコリン基を含む高分子重合体と結合することを特徴とする請求項1に記載の生体材料。
【請求項7】
上記バインダーが、4−メタクリロキシエチルトリメリテートアンヒドリド、4−メタクリロキシエチルトリメリテート酸、あるいはメタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸である請求項6に記載の生体材料。
【請求項8】
上記請求項1〜7のいずれかに記載された生体材料を用いたことを特徴とする人工関節。
【請求項9】
金属、合金またはセラミックス材料からなる基材の適宜箇所に生体適合材料層が積層された生体材料を製造する方法であって、
a)水酸基を形成可能な金属成分又は金属酸化物を含む金属、合金またはセラミックス材料からなる基材をプラズマ処理して表面に水酸基を形成する工程と、
b)一方の末端にカルボキシル基が結合され、他方の末端にメタクリル基またはメチレン基が結合された有機化合物をバインダー成分に含む溶液を、上記基材に塗布し、乾燥させるバインダー層形成工程と、
c)生体適合材料及び光重合開始剤を含む溶液に上記基材を浸漬し、紫外線を照射することにより上記バインダー層上で生体適合材料を適宜箇所で重合し、接合被覆する重合工程と、を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
上記工程a)が、コバルトクロム、コバルトクロムモリブデン、ニッケルクロム、ステンレススチール系合金からなる群から選択される少なくとも1種の合金基材の表面を硝酸処理して、上記基材上のクロム濃度を上昇させる前工程を含む請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
上記バインダーが、4−メタクリロキシエチルトリメリテートアンヒドリドまたは4−メタクリロキシエチルトリメート酸である一方、上記生体適合材料層が、ホスホリルコリン基を含む高分子重合体からなり、上記バインダーを介して上記基材上に結合させる請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
上記バインダーが、4−メタクリロキシエチルトリメリテートアンヒドリド、4−メタクリロキシエチルトリメリテート酸、あるいはメタクリル酸である一方、上記生体適合材料が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーであり、4−メタクリロキシエチルトリメリテートアンヒドリド、4−メタクリロキシエチルトリメート酸、あるいはメタクリル酸のメタクリル基と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーのメタクリル基が共重合することで結合し、上記バインダーのカルボキシル基を介して、上記基材上に結合させる請求項10記載の製造方法。
【請求項13】
上記バインダーが、無水マレイン酸、あるいはマレイン酸である一方、上記生体適合材料が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーであり、無水マレイン酸、あるいはマレイン酸のC−H結合を切断させラジカルを発生させ、これを核に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマーのメタクリル基がラジカル重合することで結合し、上記バインダーのカルボキシル基を介して、上記基材上に結合させる請求項10記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−260247(P2007−260247A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91544(P2006−91544)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】