説明

生体組織接着性経皮デバイス

【課題】
腹膜透析チューブや高カロリー用カテーテルは長期間経皮的に留置される。これらの材質は生体組織に不活性なシリコンゴム、ポリウレタン等が用いられる。しかし、このような材質では、人体への挿入箇所で器具と皮膚組織との間に隙間が出来ることがあり、この隙間から細菌等が侵入し、感染症等の問題を起こす危険性がある。
【解決手段】
上記チューブやカテーテル等の表面に生体組織接着性があり、生体適合性に優れる反応性多糖誘導体をコートすることで、皮膚への挿入箇所でチューブ、カテーテル等と皮膚とを密着させることができ、上記問題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高分子材料からなる経皮デバイスの生体への装着状態において、生体組織と接触する部分に、生体組織接着性、生体適合性に優れる反応性多糖誘導体を有する生体組織接着性経皮デバイス及びその製造方法。
【背景技術】
【0002】
本発明は、医療現場で使用される経皮デバイスに関する。経皮デバイスとは、体外から体内に皮膚を貫通し、栄養補給、薬液注入、血液循環、エネルギー伝達等を担う医療用具である。
【0003】
患者の体腔内等に薬液等を注入したり、排泄物や内容物等を除去するために経皮デバイスが多用されている。このような経皮デバイスの材料としては、人体に対する安全性の観点から、生体組織に対して不活性なシリコンゴム、ポリウレタン等が一般に用いられている。
【0004】
しかし、このような材料からなる経皮デバイスは生体組織に対して不活性であることから、装着状態下で経皮デバイスと生体組織との間に隙間ができ、特に、長期にわたり体内に留置する場合、この隙間を通して細菌等が侵入し易く、感染症を引き起こすことがある。
【0005】
このような経皮デバイス留置による感染症は、経皮デバイスと生体組織との適合性を高めることにより、経皮デバイスと生体組織の密着性を高め、その発生を抑えることができると考えられ、生体適用物品上に生体適合性に優れる材料を被覆することがこれまで種々試みられている。
【0006】
中でも人工骨等の生体に埋入する物品上にハイドロキシアパタイト膜を被覆する方法が多数提案されている。しかし、経皮デバイスに用いられる高分子材料であるシリコンゴムやポリウレタン等は軟質な材料である為、その表面に密着性良くハイドロキシアパタイト膜を形成することは難しく、煩雑な工程を必要としていた。
【特許文献1】特開昭63−46165号公報
【特許文献2】特開昭58−109049号公報
【特許文献3】特開平5−57011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、経皮デバイスにおける上記の課題を解決すべくなされたものであり、高分子材料への被覆に適した生体組織接着性の材料を簡易な製造工程で経皮デバイスに被覆した生体組織接着性経皮デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、高分子材料からなる経皮デバイスの生体への装着状態において、経皮デバイスが生体組織と接触する部分に、生体組織接着性、生体適合性に優れる反応性多糖誘導体を有する生体組織接着性経皮デバイス及びその製造方法を提供することによって達成され、下記(1)から(16)の本発明により達成される。
【0009】
(1)高分子材料からなる経皮デバイスの、生体への装着状態において生体組織と接触する部分に、生体組織接着性、生体適合性に優れる反応性性多糖誘導体を有する生体組織接着性経皮デバイス。
【0010】
(2)前記反応性多糖誘導体が、多糖側鎖に導入された、活性水素含有基と反応しうる活性エステル基を少なくとも1つ有し、アルカリ条件下での生体組織との接触により、前記活性エステル基と生体組織表面に存在する活性水素含有基との共有結合形成反応によって化学接着を形成しうる反応性多糖誘導体からなる(1)に記載の生体組織接着性性経皮デバイス。
【0011】
(3)前記活性水素含有基が生体組織表面に存在するアミノ基、水酸基、チオール基であり、前記 反応性多糖誘導体が生体表面への接着性を有する(1)または(2)に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0012】
(4)前記活性エステル基が、そのカルボニル炭素に、求電子性基が結合したエステル基である(1)〜(3)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0013】
(5)前記求電子性基が、N−ヒドロキシアミン系化合物から導入される基である(4)に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0014】
(6)前記活性エステル基が、スクシンイミドエステル基である(1)〜(5)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0015】
(7)前記反応性多糖誘導体が、その乾燥重量に対し、前記活性エステル基を0.1〜2mmol/gの量で含む(1)〜(6)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0016】
(8)前記反応性多糖誘導体が、カルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基をさらに有する(1)〜(7)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0017】
(9)前記反応性多糖誘導体が非塩型である(1)〜(8)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0018】
(10)前記活性エステル基が導入される原料多糖が、カルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基を有する前記架橋性多糖誘導体の前駆段階において、その非塩型で、60℃から120℃の間の温度で、非プロトン性極性溶媒に溶解性を示す多糖である(1)〜(9)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0019】
(11)前記活性エステル基が導入される原料多糖が、それ自身はカルボキシ基およびカルボキシアルキル基をもたない多糖である(1)〜(10)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0020】
(12)前記原料多糖が、デキストランあるいはプルランあるいはデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1つの多糖である(11)に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0021】
(13)前記活性エステル基が導入される原料多糖が、それ自身はカルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基を有する多糖である(1)〜(10)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0022】
(14)前記活性エステル基が導入される原料多糖が、ペクチンあるいはヒアルロン酸である(13)に記載の生体組織接着性経皮デバイス。この原料多糖は、そのままで活性エステル化前駆体(酸基含有多糖)である。
【0023】
(15)経皮デバイスの生体組織接触面への反応性多糖誘導体の付与方法が、反応性多糖誘導体溶液のコーティングである(1)〜(14)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【0024】
(16)前記アルカリ条件が、pH7.5〜12の範囲である(1)〜(15)のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【発明の効果】
【0025】
本発明の経皮デバイスでは、皮膚組織との接着性に優れるので、デバイスがカテーテルの場合、長期期間留置しても、挿入箇所で皮膚とカテーテルとの間に隙間が出来ることがなく、その部分からの細菌感染を起こすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を具体的に説明する。
まず本発明の生体組織接着性経皮デバイスに係る反応性多糖誘導体について説明する。
【0027】
反応性多糖誘導体は、多糖側鎖に導入された、活性水素含有基と反応しうる活性エステル基を少なくとも1つ有する。この活性エステル基が導入される多糖(原料)については後述するが、該多糖に活性エステル基が導入された多糖誘導体は、反応条件下で生体組織に存在する活性水素含有基であるアミノ基、水酸基、チオール基と反応性を示す。
【0028】
本明細書において、このような反応性多糖誘導体は、活性エステル化多糖と称することもあり、以下では、単に多糖誘導体ということもある。なお「1分子鎖」または「分子内」の分子とは、共有結合により連続した結合で繋がった範囲の1つの分子を意味する。
【0029】
本発明に係る多糖誘導体は、活性エステル化された多糖であり、本質的に多糖骨格を保持している。したがって以下には、多糖誘導体を、多糖の活性エステル化方法(多糖誘導体の製造方法)と並列的に説明することがある。
【0030】
本発明において、多糖に導入される活性エステル基は、アルカリ条件下の水存在下で、活性水素含有基と反応して共有結合を形成できるものであればよい。このような活性エステル基は、通常、多糖分子が自己保有するか、または酸型化によって導入されたカルボキシ基またはメチルカルボキシ基のカルボニル炭素に、通常のエステルに比して強い求電子性基を結合させた基である。具体的にこの活性エステル基を「−COOX」で表した時、アルコール部位「−OX」を形成する上記求電子性基は、N−ヒドロキシアミン系化合物から導入される基であることが好ましい。N−ヒドロキシアミン系化合物は、比較的安価な原料であるため、活性エステル基導入の工業的に実施が容易であるからである。
【0031】
前記「−OX」を形成するためのN−ヒドロキシアミン系化合物としては、具体的に、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステル、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸アミド、N−ヒドロキシピペリジン等が代表的なものとして挙げられる。
【0032】
本発明において、多糖誘導体の活性エステル基は、1種単独でも2種以上が存在していてもよい。このような活性エステル基の中でも、スクシンイミドエステル基が好ましい。
【0033】
本発明で使用する多糖誘導体は、分子内に上記活性エステル基を少なくとも1つ有するが、架橋マトリックスを形成するためには、通常、1分子中に2以上有する。使用目的によっても異なるが、その乾燥重量1gあたりの活性エステル基量で表したとき、0.5〜2mmol/gであることが好ましい。
【0034】
本発明において、活性エステル基が導入され、多糖誘導体の主骨格を構成する多糖は、主骨格に単糖構造を2単位以上有するものであればよく、特に制限されない。このような多糖は、アラビノース、リボース、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等の単糖類;トレハロース、スクロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオース等の二糖類;ラフィノース、ゲンチアノース、メレチトース、スタキオース等の三糖以上の多糖類が、共有結合することにより形成されたもの、およびこれに対して、さらに官能基を導入したものが挙げられる。
【0035】
本発明において、このような多糖は、天然に存在するものでも、人工的に合成されたものでもよい。また、本発明に係る多糖誘導体は、1種単独の、または2種以上の多糖の骨格とすることができる。
【0036】
多糖誘導体の主骨格となる多糖の重量平均分子量に特に制限はない。好ましくは、上記の単糖類、二糖類または三糖以上の多糖類が、数十〜数千個結合したものに相当する重量平均分子量5,000〜250万の多糖である。より好ましくは、重量平均分子量10,000〜100万の多糖である。
【0037】
多糖誘導体の主骨格を形成する原料多糖は、上記の構成成分を持ち、活性エステル化前駆段階で、活性エステル基「−COOX」を形成するためのカルボン酸基を有する多糖(以下、酸基含有多糖と称することもある)が好ましい。ここでのカルボン酸基は、カルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基(以下、これらをカルボン酸基と称することもある)をいい、カルボキシアルキル基とは、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシイソプロピル基、カルボキシブチル基等に例示されるように、カルボキシ基がアルキル骨格に結合している官能基のことである。
【0038】
上記原料多糖は、反応性多糖誘導体の前駆段階で酸基含有多糖であればよく、カルボン酸基を自己保有する天然多糖であってもよく、それ自体はカルボン酸基を有さない多糖に、カルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基を導入した多糖であってもよい。このようなカルボン酸基含有多糖の中でも、カルボキシ基を有する天然多糖、カルボキシ基を導入したカルボキシ化多糖、カルボキシメチル基を導入したカルボキシメチル化多糖、カルボキシエチル基を導入したカルボキシエチル化多糖が好ましい。より好ましくは、カルボキシ基を有する天然多糖、カルボキシ基を導入したカルボキシ化多糖、カルボキシメチル基を導入したカルボキシメチル化多糖である。
【0039】
上記カルボン酸基を自己保有する天然多糖としては、特に限定されないが、ガラクツロン酸を含むペクチンやヒアルロン酸等が挙げられる。例えば、ペクチンはCP Kelco社(デンマーク)の「GENUE pectin」、また、ヒアルロン酸は紀文社(日本)の「ヒアルロン酸FCH」が挙げられ、一般的に商業流通しているものを利用できる。
【0040】
ペクチンはガラクツロン酸を主成分とする多糖である。ペクチンの約75〜80%以上がガラクツロン酸からなり、その他の成分としては、主に他の糖からなる。ペクチンは、上記の割合でガラクツロン酸と他の糖が結合してなる多糖である。ヒアルロン酸は、眼科用手術補助剤や変形性膝関節症治療薬等に使用されている。ヒアルロン酸はガラクツロン酸を含まない。
【0041】
本発明では、多糖誘導体のカルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基は、塩が配位していない「非塩型」であることが望ましく、最終的に得られる多糖誘導体が塩形態ではないことが望ましい。ここで「塩」とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの無機塩、テトラブチルアンモニウム(TBA)などの四級アミン、ヨウ化クロロメチルピリジリウムなどのハロゲン塩などを包含する。「非塩型」とは、これらの「塩」が配位していないことであり、「塩形態ではない」とは、これらの塩を含まないことを意味する。
【0042】
上記カルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基が導入される多糖としては、特に限定されないが、デキストラン、プルラン、デキストリンが挙げられる。
【0043】
上記デキストランは、代用血漿剤として使用されている。デキストランとしては、アマシャムバイオサイエンス社(日本)の「Dextran T fractions」、プルランは林原社(日本)の「Pullulan PI−20」、デキストリンは和光純薬工業社の「デキストリン水和物」が挙げられる。プルランは、経口薬を含む医薬添加剤として使用されており、エンドトキシン等の生物学的コンタミネーションが少ないものが好適である。
【0044】
いずれの多糖も、本発明においては、一般的に商業流通しているものを利用できる。上記医療用途で実績のある多糖は、本発明においては安全性面で好適に利用できる多糖である。
【0045】
多糖のカルボキシ化反応は、公知の酸化反応を利用して、特に制限なく行うことができる。カルボキシ化反応の種類は、特に限定されないが、例えば、四酸化二窒素酸化、発煙硫酸酸化、リン酸酸化、硝酸酸化、過酸化水素酸化が挙げられ、各々、試薬を用いて通常知られた反応を選択して酸化することができる。各反応条件はカルボキシ基の導入量により適宜設定することができる。
【0046】
例えば、原料となる多糖をクロロホルムあるいは四塩化炭素中に懸濁させ、四酸化二窒素を加えることにより、多糖の水酸基を酸化してカルボキシ化多糖(多糖のカルボキシ化体)を調製することができる。
【0047】
また、カルボキシアルキル化反応は、公知の多糖のカルボキシアルキル化反応を利用することができ、特に限定されないが、具体的にカルボキシメチル化反応の場合には、多糖をアルカリ化した後にモノクロル酢酸を使用した反応を選択することが可能である。その反応条件はカルボキシメチル基の導入量により適宜設定することができる。
【0048】
本発明では、多糖にカルボン酸基を導入する方法として、上記カルボキシ化またはカルボキシアルキル化のいずれの方法も利用でき、特に限定されないが、カルボキシ基導入反応による多糖の分子量の低下が小さく、カルボキシ基の導入量を比較的コントロールしやすい点で、カルボキシアルキル化、特にカルボキシメチル化が好適である。
【0049】
また本発明では、カルボン酸基の導入は、それ自身カルボン酸基をもたない多糖への導入に特に制限されない。それ自身カルボン酸基を有する天然多糖、たとえば、前記ヒアルロン酸などに、さらにカルボキシ基および/またはカルボキシメチル基を導入してもよい。
【0050】
上記のような酸基含有多糖のカルボキシ基および/またはカルボキシメチル基を活性エステル化するに際して、酸基含有多糖は、単独で使用しても良いし、2種以上のものを併用して使用しても良い。
【0051】
活性エステル化に使用される酸基含有多糖は、その乾燥重量1gあたりのカルボン酸基(該基を1分子とみなして)量が、通常、0.1〜5mmol/g、好ましくは0.4〜3mmol/g、より好ましくは0.6〜2mmol/gである。このカルボン酸基量の割合が、0.1mmol/gより少ないと、該基から誘導され架橋点となる活性エステル基数が不充分になる場合が多い。一方、カルボン酸基量の割合が、5mmol/gより多くなると、多糖誘導体が水を含む溶媒に溶解しにくくなる。
【0052】
上記酸基含有多糖の活性エステル化方法(多糖誘導体の製造方法)は、特に制限されず、たとえば、上記の酸基含有多糖を、脱水縮合剤との存在下で、求電子性基導入剤と反応させる方法、活性エステル基を有する化合物から活性エステル基を多糖に導入するエステル交換反応を用いる方法等が挙げられる。これらの中でも、前者の方法が本発明には好適であり、以下、主として、この方法(本発明の方法ともいう)について説明する。
【0053】
本発明の上記好ましい方法を行うに際しては、通常、上記酸基含有多糖を、非プロトン性極性溶媒の溶液に調製して反応に供する。より具体的には、該方法は、カルボキシ基またはカルボキシアルキル基を有する多糖を非プロトン性極性溶媒に溶解させる溶液調製工程、および該溶液に求電子性基導入剤と脱水縮合剤を添加して多糖のカルボキシ基またはカルボキシアルキル基を活性エステル化させる反応工程を行う方法、さらに反応生成物の精製工程および乾燥工程を行う方法が挙げられる。
【0054】
溶液調製工程においては、多糖を溶媒に加え、60℃〜120℃に加熱することによって、多糖の非プロトン性極性溶媒への溶解が達成される。
【0055】
したがって、この方法で活性エステル化される酸基含有多糖として、上記に例示した多糖のうちでも、60℃〜120℃の間の温度で非プロトン性極性溶媒に溶解するものが好ましく使用される。
【0056】
具体的に、求電子性基導入のための反応に用いられる多糖は、非プロトン性極性溶媒への溶解性の点から、カルボキシ基またはカルボキシメチル基が酸型であることが好ましい。「酸型」とは、カルボキシ基またはカルボキシメチル基のカウンターカチオン種がプロトンであることをいう。酸型のカルボキシ基を有する多糖を酸型 (原料) 多糖という。
【0057】
例えば、カルボキシ基を有する多糖であるペクチンを酸型ペクチンという。酸型のカルボキシメチル基を有するカルボキシメチルデキストランを酸型カルボキシメチル(CM)デキストラン(酸型CMデキストラン)という。「酸型」は、カウンターカチオン種がプロトンであり、塩形態ではない点で前記「非塩型」と同義である。
【0058】
「非プロトン性極性溶媒」とは、電気的に陽性な官能基を有する求核剤と水素結合を形成できるプロトンを持たない極性溶媒である。本発明に係る製造方法で使用できる非プロトン性極性溶媒は、特に限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが例示される。多糖の溶媒への溶解性が良好であることから、ジメチルスルホキシドが好適に利用できる。
【0059】
反応工程では、酸型多糖溶液に、求電子性基導入剤と脱水縮合剤とを添加して、多糖のカルボキシ基および/またはカルボキシメチル基を活性エステル化させる。活性エステル化させる時の反応温度は、特に限定されないが、好ましくは0℃〜70℃、より好ましくは、20℃〜40℃である。反応時間は反応温度により様々であるが、通常は1〜48時間、好ましくは12時間〜24時間である。
【0060】
「求電子性基導入剤」は、カルボキシ基またはカルボキシアルキル基に、求電子性基を導入し、それらを活性エステル基へ変化させる試薬をいう。求電子性基導入剤としては、特に限定されないが、ペプチド合成に汎用されている活性エステル誘導性化合物が利用でき、その一例として、N−ヒドロキシアミン系活性エステル誘導性化合物が挙げられる。N−ヒドロキシアミン系活性エステル誘導性化合物としては、特に限定されないが、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステル、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸アミド、N−ヒドロキシピペリジン等が挙げられる。このなかでも、N−ヒドロキシスクシンイミドが、ペプチド合成分野での実績があり、商業上入手し易いことより好適である。
【0061】
「脱水縮合剤」は、カルボキシ基またはカルボキシアルキル基に求電子性基導入剤を使用して活性エステル基とする際に、カルボキシ基またはカルボキシアルキル基と、求電子性基導入剤との縮合で生成する水分子を1つ引き抜き、すなわち脱水して、両者をエステル結合させるものである。脱水縮合剤としては、特に限定されないが、例えば、1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、1−シクロヘキシル−(2−モルホニル−4−エチル)−カルボジイミド・メソp−トルエンスルホネート等が挙げられる。このなかでは、1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)が、ペプチド合成分野での実績があり、商業上入手し易いことより好適である。
【0062】
精製工程においては、反応工程終了後、反応溶液より、通常の再沈、ろ過および/または洗浄等の手段により、未反応の求電子性基導入剤、脱水縮合剤、および反応副生成物を除去し、本発明に係る多糖誘導体を得ることができる。
【0063】
乾燥工程においては、前記精製工程で得られた多糖誘導体から洗浄溶媒を除去するため、通常使用される方法により乾燥させればよい。
【0064】
本発明では、前述したように、最終的に多糖誘導体の活性エステル基量は、0.1〜2mmol/gであることが好ましく、上記においては、このような多糖誘導体が得られるように、活性エステル化原料多糖のカルボキシ基への活性エステル基導入量を制御することができる。
【0065】
活性エステル基の導入量を制御するためには、前記反応工程において、求電子性基導入剤と脱水縮合剤の混合量を調整することができる。具体的には、多糖の全カルボキシ基のモル数(Xmmol)に対する脱水縮合剤のモル数(Zmmol)の比(Z/X)が、前述の反応温度において、0.1<Z/X<50を満たす添加条件であることが好ましい。Z/Xが0.1より小さい場合、脱水縮合剤の添加量が少ないため反応効率が低く、所望の活性エステル基導入率を達成し難くなり、Z/Xが50より大きい場合、脱水縮合剤の添加量が多いため、活性エステル基の導入率は高くなるものの、得られた多糖誘導体が疎水性となり生体組織との接着性が低下するからである。
【0066】
多糖の全カルボキシ基のモル数(Xmmol)に対する求電子性基導入剤のモル数(Ymmol)は、活性エステル基の導入率に応じた反応量以上を添加すれば良く、特に限定されないが、0.1<Y/X<100を満たす添加条件であることが好ましい。
【0067】
活性エステル基の導入率(%)は、活性エステル化原料の多糖が有するカルボキシ基含有モル量およびカルボキシメチル基含有モル量(以下、全カルボキシ基(TC)と表記する)に対して、得られた多糖誘導体中の活性エステル基含有量モル量(AE)の比(AE/TC)に100を乗することで表すことができる。
【0068】
活性エステル基導入率は、例えば、Biochemistry Vol. 14, No.7(1975), p1535−1541に記載の方法により決定することができる。
【0069】
特に、上記100%未満の活性エステル基の導入率で活性エステル基が導入された場合に残存する原料多糖の有するカルボキシ基および/またはカルボキシメチル基を有していてもよい。
【0070】
本発明において、活性エステル基との反応に関与する活性水素含有基は、本発明特定の反応条件下で、上記活性エステル基と反応して共有結合を形成しうる基であれば特に限定されない。
【0071】
本発明において、上記多糖誘導体と生体組織の接着は、活性エステル基と活性水素基との反応による共有結合の形成に基づく。具体的には、多糖誘導体を、アルカリ条件下で、水、水蒸気、水を含む生体組織表面と接触させることによって共有結合を形成させる方法が挙げられる。
【0072】
より具体的には、多糖誘導体を被覆した経皮デバイス表面と生体組織を接触させた状態でpH7.5〜12、好ましくはpH9.0〜10.5の水存在下に供することで多糖誘導体と生体組織表面の活性水素基間に共有結合を形成させることができる。その際、水のpHが7.5より低いと、共有結合形成性が低く、十分な接着が得られない。一方、pH12より高いものの適用は共有結合形成反応は進行するものの、生理的条件の点で好適ではない。
【0073】
本発明において、「アルカリ条件」とは、pHが少なくとも7.5以上の水分が存在する条件をいう。本発明に係る反応性多糖誘導体では、熱の共有結合形成反応への寄与が実質的に大きくないため、「アルカリ条件」の温度は、特に限定されないが、例えば10℃〜40℃の範囲であることができる。 「アルカリ条件の水と接触させる」とは、多糖誘導体をアルカリ条件のいかなる形態の水分と接触させ、多糖誘導体をアルカリ条件におくことを意味する。
【0074】
アルカリ化剤は、特に限定されないが、具体的には、炭酸水素ナトリウム水溶液、リン酸系緩衝液(リン酸水素二ナトリウム−リン酸二水素カリウム)、酢酸−アンモニア系緩衝液等が挙げられる。なかでも、炭酸水素ナトリウムは医療用pH調整剤として、その約7%水溶液(pH8.3)が静脈注射液として利用されていることより、安全性の面で好適に使用できる。
【0075】
本発明に係る生体組織接着性経皮デバイスは、上記のような生体組織と共有結合を形成する多糖誘導体を経皮デバイスの生体組織接触面に被覆して、提供することができる。
【0076】
本発明の生体適合性経皮デバイスは、前記の反応性多糖誘導体を溶解又は分散することができる溶媒(B)含む組成物を、生体適合性経皮デバイスの生体組織が接する部分に塗布し、溶媒(B)を揮散せしめることにより、生体組織が接する部分を反応性多糖誘導体で被覆することで製造できる。
【0077】
反応性多糖誘導体を溶解又は分散することができる溶媒(B)とは、反応性多糖誘導体(A)を溶解又は分散するものであれば特に限定されるものではない。例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が上げられる。反応性多糖誘導体100質量部に対し溶媒(B)100〜4000質量部が好ましい。反応性多糖誘導体100質量部に対し溶媒(B)100〜2000質量部であることがさらに好ましい。コーティン方法としては、回転塗布、流し塗布、ロール塗布等の既知の種々のコーティング方法を採用することができる。
【0078】
以下に、実施例をもって本発明を一層具体的に説明するが、これらは一例として示すものであり、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【0079】
(合成例1)
原料多糖(酸型多糖)の調製
活性エステル化多糖誘導体の原料となる原料多糖としてカルボキシメチルデキストリン(酸型CMデキストリン)を調製した。デキストリン(和光純薬工業社製、重量平均分子量25000)10gに、純水62.5gを添加し溶解した後、36%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム、和光純薬工業社製)62.5gを添加し25℃で90分間攪拌し溶解した後、15%モノクロル酢酸(W/V)(モノクロル酢酸、和光純薬工業社)75gを添加して、60℃で6時間攪拌した。その後、20%塩酸を使用して反応溶液をpH1.0に調整し、25℃で2時間攪拌した。反応溶液を90vol%エタノール水溶液(100%エタノール、和光純薬工業社製)5Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。90vol%エタノール水溶液3Lを使用して得られた析出物を洗浄して、最後にエタノールで置換した後、減圧乾燥した。これにより酸型CMデキストリンを調製した。
【0080】
(2)カルボキシ基、あるいはカルボキシメチル基の定量
上記(1)で得られた酸型CMデキストリン(原料多糖)について、これらのカルボキシ基、あるいはカルボキシメチル基の定量を行なった。原料多糖0.2g(A(g))を秤取り、0.1mol/L 水酸化ナトリウム水溶液20mlと80vol%メタノール水溶液10mlとの混合溶液に添加し、25℃で3時間攪拌した。得られた溶液に、指示薬として、1.0%フェノールフタレイン(W/V)90vol%エタノール水溶液を3滴添加し、0.05mol/l硫酸を用いて酸塩基逆滴定を行い、0.05mol/l硫酸の使用量(V1 ml)を測定した(フェノールフタレイン、和光純薬工業社製)。また、原料多糖を添加しない以外は同様にして行なったブランクでの0.05mol/l硫酸の使用量(V0 ml)を測定した。下記式(1)に従い、原料多糖のカルボキシ基およびカルボキシメチル基の基量(Bmmol/g)を算出したところ、1.26mmol/gであった。なお、使用した0.1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液、0.05mol/l 硫酸の力価は、ともに1.00であった。
B=(V0-V1)×0.1÷A………・(1)
A:原料多糖の質量(g)
B:カルボキシ基およびカルボキシメチル基の基量(mmol/g)
【0081】
(3)活性エステル化CMデキストリンの調製
酸型CMデキストリンの活性エステル化反応には、反応溶媒はDMSO、求電子性基導入剤はN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(和光純薬工業社製)、脱水縮合剤は1-エチル-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(和光純薬工業社製)
を使用し、活性エステル化多糖を調製した。上記(1)で得られたCMデキストリン(カルボキシメチル基量1.26mmol/g)3.0gをDMSO90gに添加し、70℃で3時間攪拌して溶解した。その後、NHS 4.35g(37.8mmol)とEDC7.22g(37.8mmol)を添加して、25℃で24時間攪拌した。反応溶液を無水アセトン2Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。無水アセトン1Lを使用して得られた析出物を洗浄して、減圧乾燥した。これにより、活性エステル化CMデキストリンを調製した。Z/XおよびY/Xの比は下記の通りである。
Z/X=10、Y/X=10
【0082】
(4)活性エステル化多糖(多糖誘導体)のNHS導入量の算出
(3)で得られた活性エステル化CMデキストリンについて、以下のようにして求めたNHS導入量は、0.8mmol/gであった。 NHS導入量は、多糖誘導体の単位重量あたりに存在するNHS含有量である。Nヒドロキシスクシンイミド(NHS)の検量線を作成するため、0.1、0.2、0.5、1.0、2.5mMのNHS標準水溶液を調製した。各NHS標準水溶液1mlに2N水酸化ナトリウム水溶液0.2mlを添加し、60℃で加熱して10分間攪拌した。放冷後、0.85N塩酸1.5ml、および0.5%FeCl3/1N塩酸溶液0.5mlを添加し、分光光度計を用いて吸収波長500nmの吸光度を測定した(FeCl3 和光純薬工業社製)。各NHS水溶液の濃度をX軸、吸光度をY軸としてプロットし、線形近似を行い、下記のNHS濃度算出するための数式(2)を得た。
Y=αX+β………・・(2)
X:NHS濃度(mM)
Y:波長500nmにおける吸光度
α=0.178(傾き)
β=0.021(切片)
γ=0.995(相関係数)
吸光度を元にNHS濃度、X(mM)が算出される。
次に(3)の活性エステル化多糖0.01g(C(g))を秤取り、純水1mlに添加して、25℃で3時間攪拌した後、2N水酸化ナトリウム水溶液0.2mlを添加して、60℃で過熱して10分間攪拌を行なった。室温まで放冷した後、0.85N塩酸1.5mlを添加した。不溶物を含む、得られた溶液から、ろ過綿を用いて不溶物を除去した後、0.5%FeCl3/1N塩酸溶液0.5mlを添加し、分光光度計を用いて吸収波長500nmの吸光度を測定した(FeCl3 和光純薬工業社製)。吸光度測定値が、NHS標準溶液の濃度が5mMの時の吸光度を上回るときは、純水で希釈した(希釈倍率H)。前記NHS濃度算出する数式(2)を利用して吸光度測定値より、活性エステル化多糖のNHS濃度(D mmol)を算出した。続いて下記の数式(3)より、活性エステル化多糖のNHS基導入量を求めた。
NHS基導入量(mmol/g)=(D×H)×0.001÷C…………(3)
【0083】
(合成例2)
原料多糖(酸型多糖)の調製
活性エステル化多糖誘導体の原料となる原料多糖としてカルボキシメチルデキストラン(酸型CMデキストラン)を調製した。
デキストラン(Dextran T-40、AmershamBiosciences社、重量平均分子量40000)10gに、18%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム、和光純薬工業社製)125gを添加し25℃で90分間攪拌し溶解した後、20%モノクロル酢酸(W/V)(モノクロル酢酸、和光純薬工業社)75gを添加して、60℃で6時間攪拌した。その後、20%塩酸を使用して反応溶液をpH1.0に調整し、25℃で2時間攪拌した。反応溶液を90vol%エタノール水溶液(100%エタノール、和光純薬工業社製)5Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。90vol%エタノール水溶液3Lを使用して得られた析出物を洗浄して、最後にエタノールで置換した後、減圧乾燥した。これにより酸型CMデキストランを調製した。
【0084】
(2)カルボキシ基、あるいはカルボキシメチル基の定量
合成例1(2)に記載の酸型CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。
上記(1)で得られたCMデキストランンのカルボキシメチル基量は、1.01mmol/gであった。
【0085】
(3)活性エステル化CMデキストランの調製
酸型CMデキストランの活性エステル化反応には、反応溶媒はDMSO、求電子性基導入剤はN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(和光純薬工業社製)、脱水縮合剤は1-エチル-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(和光純薬工業社製)を使用し、活性エステル化多糖を調製した。
上記(1)で得られた酸型CMデキストラン(カルボキシメチル基量1.01mmol/g)2.0gをDMSO200gに添加し、70℃で3時間攪拌して溶解した。その後、NHS 2.32g(20.2mmol)とEDCl 3.86g(20.2mmol)を添加して、25℃で24時間攪拌した。反応溶液を無水アセトン2Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。無水アセトン1Lを使用して得られた析出物を洗浄して、減圧乾燥した。これにより、活性エステル化CMデキストランを調製した。Z/XおよびY/Xの比は下記の通りである。
Z/X=10、Y/X=10
【0086】
(4)活性エステル化多糖(多糖誘導体)のNHS導入量の算出
合成例1(4)に記載の活性エステル化CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。(3)で得られた活性エステル化CMデキストランのNHS導入量は、0.4mmol/gであった。
【0087】
(合成例3)
原料多糖(酸型多糖)の調製
活性エステル化多糖誘導体の原料となる原料多糖としてカルボキシメチルヒドロキシエチルデンプン(酸型CMヒドロキシエチルデンプン)を調製した。
ヒドロキシエチルデンプン(Coatmaster 三晶社、重量平均分子量200000)10gに、18%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム、和光純薬工業社製)125gを添加し25℃で90分間攪拌し溶解した後、20%モノクロル酢酸(W/V)(モノクロル酢酸、和光純薬工業社)75gを添加して、60℃で6時間攪拌した。その後、20%塩酸を使用して反応溶液をpH1.0に調整し、25℃で2時間攪拌した。反応溶液を90vol%エタノール水溶液(100%エタノール、和光純薬工業社製)5Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。90vol%
エタノール水溶液3Lを使用して得られた析出物を洗浄して、最後にエタノールで置換した後、減圧乾燥した。これにより酸型CMヒドロキシエチルデンプンを調製した。
【0088】
(2)カルボキシ基、あるいはカルボキシメチル基の定量
合成例1(2)に記載の酸型CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。
上記(1)で得られたCMヒドロキシエチルデンプンのカルボキシメチル基量は、0.72mmol/gであった。
【0089】
(3)活性エステル化CMヒドロキシエチルデンプンの調製
酸型CMヒドロキシエチルデンプンの活性エステル化反応には、反応溶媒はDMSO、求電子性基導入剤はN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(和光純薬工業社製)、脱水縮合剤は1-エチル-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(和光純薬工業社製)
を使用し、活性エステル化多糖を調製した。 上記(1)で得られたCMヒドロキシエチルデンプン(カルボキシメチル基量0.72mmol/g)2.0gをDMSO200gに添加し、70℃で3時間攪拌して溶解した。その後、NHS 1.66g(14.4mmol)とEDC1.38g(7.2mmol)を添加して、25℃で24時間攪拌した。反応溶液を無水アセトン2Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。無水アセトン1Lを使用して得られた析出物を洗浄して、減圧乾燥した。これにより、活性エステル化CMヒドロキシエチルデンプンを調製した。Z/XおよびY/Xの比は下記の通りである。Z/X=5、Y/X=10
【0090】
(4)活性エステル化多糖(多糖誘導体)のNHS導入量の算出
合成例1(4)に記載の活性エステル化CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。(3)で得られた活性エステル化CMヒドロキシエチルデンプンのNHS導入量は、0.19mmol/gであった。
【0091】
(合成例4)
原料多糖(酸型多糖)の調製
活性エステル化多糖誘導体の原料となる原料多糖としてカルボキシメチルプルラン(酸型CMプルラン)を調製した。プルラン(PU101 林原生物科学研究所、重量平均分子量100000)10gに、18%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム、和光純薬工業社製)125gを添加し25℃で90分間攪拌し溶解した後、20%モノクロル酢酸(W/V)(モノクロル酢酸、和光純薬工業社)75gを添加して、60℃で6時間攪拌した。その後、20%塩酸を使用して反応溶液をpH1.0に調整し、25℃で2時間攪拌した。反応溶液を90vol%エタノール水溶液(100%エタノール、和光純薬工業社製)5Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。90vol%エタノール水溶液3Lを使用して得られた析出物を洗浄して、最後にエタノールで置換した後、減圧乾燥した。これにより酸型CMプルランを調製した。
【0092】
(2)カルボキシ基、あるいはカルボキシメチル基の定量
合成例1(2)に記載の酸型CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。上記(1)で得られたCMプルランのカルボキシメチル基量は、0.79mmol/gであった。
【0093】
(3)活性エステル化CMプルランの調製
酸型CMプルランの活性エステル化反応には、反応溶媒はDMSO、求電子性基導入剤はN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(和光純薬工業社製)、脱水縮合剤は1-エチル-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(和光純薬工業社製)を使用し、活性エステル化多糖を調製した。上記(1)で得られたCMプルラン(カルボキシメチル基量0.79mmol/g)2.0gをDMSO200gに添加し、70℃で3時間攪拌して溶解した。その後、NHS 1.82g(15.8mmol)とEDC1.51g(7.9mmol)を添加して、25℃で24時間攪拌した。反応溶液を無水アセトン2Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。無水アセトン1Lを使用して得られた析出物を洗浄して、減圧乾燥した。これにより、活性エステル化CMプルランを調製した。Z/XおよびY/Xの比は下記の通りである。
Z/X=5、Y/X=10
【0094】
(4)活性エステル化多糖(多糖誘導体)のNHS導入量の算出
合成例1(4)に記載の活性エステル化CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。(3)で得られた活性エステル化CMプルランのNHS導入量は、0.20mmol/gであった。
【0095】
(合成例5)
(1)原料多糖(酸型多糖)の調製
活性エステル化多糖誘導体の原料となる原料多糖としてカルボキシメチル高度分岐環状デキストリン(酸型CM高度分岐環状デキストリン)を調製した。
高度分岐環状デキストリン(商品名クラスターデキストリン、江崎グリコ株式会社製、重量平均分子量163000)10gに、純水62.5gを添加し溶解した後、36%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム、和光純薬工業社製)62.5gを添加し25℃で90分間攪拌し溶解した後、15%モノクロル酢酸(W/V)(モノクロル酢酸、和光純薬工業社)75gを添加して、60℃で6時間攪拌した。その後、20%塩酸を使用して反応溶液をpH1.0に調整し、25℃で2時間攪拌した。反応溶液を90vol%エタノール水溶液(100%エタノール、和光純薬工業社製)5Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。90vol%エタノール水溶液3Lを使用して得られた析出物を洗浄して、最後にエタノールで置換した後、減圧乾燥した。これにより酸型CM高度分岐環状デキストリンを調製した。
【0096】
(2)カルボキシ基、あるいはカルボキシメチル基の定量
合成例1(2)に記載の酸型CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。上記(1)で得られたCM高度分岐環状デキストリンのカルボキシメチル基量は、1.27mmol/gであった。
【0097】
(3)活性エステル化CM高度分岐環状デキストリンの調製
酸型CM高度分岐環状デキストリンの活性エステル化反応には、反応溶媒はDMSO、求電子性基導入剤はN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(和光純薬工業社製)、脱水縮合剤は1-エチル-3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(和光純薬工業社製)を使用し、活性エステル化多糖を調製した。上記(1)で得られたCM高度分岐環状デキストリン(カルボキシメチル基量1.27mmol/g)3.0gをDMSO90gに添加し、70℃で3時間攪拌して溶解した。その後、NHS 4.38g(38.1mmol)とEDC3.64g(19.05mmol)を添加して、25℃で24時間攪拌した。反応溶液を無水アセトン2Lに滴下し、吸引ロートを用いて析出物を回収した。無水アセトン1Lを使用して得られた析出物を洗浄して、減圧乾燥した。これにより、活性エステル化CM高度分岐環状デキストリンを調製した。Z/XおよびY/Xの比は下記の通りである。
Z/X=5、Y/X=10
【0098】
(4)活性エステル化多糖(多糖誘導体)のNHS導入量の算出
合成例1(4)に記載の活性エステル化CMデキストリンの場合と同様な方法で行なった。(3)で得られた活性エステル化CM高度分岐環状デキストリンのNHS導入量は、0.53mmol/gであった。
【0099】
(実施例1)
合成例1の活性エステル化多糖0.1gを秤取り、ジメチルホルムアミド0.9gに溶解した。それぞれの溶液中に幅1cm×5cmのポリウレタンシート(ペレセン)を10秒間浸漬後、減圧乾燥することによって、活性エステル化多糖が被覆されたポリウレタンシートを得た。活性エステル化多糖誘導体を被覆したポリウレタンシートの生体組織に対する接着性能を確認するため、ヨークシャー系食用ブタから採取した新鮮外皮(ブタ皮)を使用してIn vitro接着試験を行なった。幅1cm×5cmの短冊状ブタ皮を切り出した。ブタ皮の真皮部分を露出させ、その露出面を生体組織面とした。被覆したウレタンシートを1M-Na2HPO4と接触させた後、短冊状ブタ皮の真皮面と貼り合わせた。50gf/cm2(約4.9Pa)の荷重を1分間かけ、続いて5分間放置した後、オートグラフ(引っ張り試験機)を用いて、クロスヘッドスピード(100mm/min)で、接着した短冊状ブタ皮とウレタンシートを長さ方向に相互逆方向に引っ張り、接着試験を行なった。ブタ皮とウレタンシートがはがれた時の引っ張り強さを、接着強度とした。
【0100】
(実施例2)
実施例1の重合体の代わりに、合成例2の重合体を用いた以外は、実施例1と同様に操作して活性エステル化多糖が被覆されたポリウレタンシートを作製し、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0101】
(実施例3)
実施例1の重合体の代わりに、合成例3の重合体を用いた以外は、実施例1と同様に操作して活性エステル化多糖が被覆されたポリウレタンシートを作製し、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0102】
(実施例4)
実施例1の重合体の代わりに、合成例4の重合体を用いた以外は、実施例1と同様に操作して活性エステル化多糖が被覆されたポリウレタンシートを作製し、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0103】
(実施例5)
実施例1の重合体の代わりに、合成例5の重合体を用いた以外は、実施例1と同様に操作して活性エステル化多糖が被覆されたポリウレタンシートを作製し、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0104】
(比較例1)
実施例1において、活性エステル化多糖を塗布しない以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリウレタンシートを作製し、実施例1と同様に評価した。
表1
































【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる経皮デバイスの、生体への装着状態において少なくも生体組織と接触する部分に、生体組織接着性、生体適合性に優れる反応性多糖誘導体を有する生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項2】
前記反応性多糖誘導体が、多糖側鎖に導入された、活性水素含有基と反応しうる活性エステル基を少なくとも1つ有し、アルカリ条件下での生体組織との接触により、前記活性エステル基と生体組織表面に存在する活性水素含有基との共有結合による化学接着を形成しうる反応性多糖誘導体からなる請求項1に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項3】
前記活性水素含有基が生体組織表面に存在するアミノ基、水酸基、チオール基であり、前記 多糖誘導体が生体表面への接着性を有する(1)または(2)に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項4】
前記活性エステル基が、そのカルボニル炭素に、求電子性基が結合したエステル基である請求項1から3のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項5】
前記求電子性基が、N-ヒドロキシアミン系化合物から導入される基である請求項4に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項6】
前記活性エステル基が、スクシンイミドエステル基である請求項1から5のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項7】
前記反応性多糖誘導体が、その乾燥重量に対し、前記活性エステル基を0.1〜2mmol/gの量で含む請求項1〜4のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項8】
前記反応性多糖誘導体が、カルボキシル基および/またはカルボキシアルキル基をさらに有する請求項1から7のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項9】
前記反応性多糖誘導体が非塩型である請求項1〜8のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項10】
前記活性エステル基が導入される原料多糖が、カルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基を有する前記架橋性多糖誘導体の前駆段階において、その非塩型で、60℃から120℃の間の温度で、非プロトン性極性溶媒に溶解性を示す多糖である請求項1から9のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項11】
前記活性エステル基が導入される原料多糖が、それ自身はカルボキシ基およびカルボキシアルキル基を持たない多糖である請求項1〜10のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項12】
前記原料多糖が、デキストランあるいはプルランあるいはデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1つの多糖である請求項11に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項13】
前記活性エステル基が導入される原料多糖が、それ自身はカルボキシ基および/またはカルボキシアルキル基を有する持多糖である請求項1〜10のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項14】
前記活性エステル基が導入される原料多糖が、ペクチンあるいはヒアルロン酸である請求項13に記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項15】
経皮デバイスの生体組織接触面への反応性多糖誘導体の付与方法が、反応性多糖誘導体溶液のコーティングである請求項1から14のいずれかに記載の生体組織接着性経皮デバイス。
【請求項16】
前記アルカリ条件が、pH7.5〜12の範囲である請求項1から15のいずれかに記載の生体組織接着性性経皮デバイス。
















【公開番号】特開2006−334007(P2006−334007A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160486(P2005−160486)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】