説明

生体関連物質の検査装置

【課題】生体関連物質の不所望な温度変化を抑えることのできる検査装置を提供する。
【解決手段】検査装置は、装着された検査容器101の温度を調節するためのインキュベーター100を含んでいる。インキュベーター100は上板111と横板112と容器113とから構成され、横板112と容器113は検査容器101を収容するインキュベーター本体を構成し、インキュベーター本体と上板111は相対的に移動可能である。上板111と容器113は、それぞれ、温度調整のためのヒーター116とヒーター117とを備えている。上板111はほぼ円形の開口部である観察窓118を有し、検査容器101がインキュベーター100に装着された状態で固相坦体102を光学的に観察できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体関連物質の検査装置として、例えば、DNAチップ解析装置が知られている。DNAチップ解析装置では、DNAチップ上にスポッティングされたオリゴDNAプローブと蛍光標識サンプル溶液とを反応させ、蛍光強度としてシグナル検出を行なっている。例えば、特開平8−166387号公報は、ガラスやシリコンなどを基板に用いたDNAチップの反応容器を開示している。特許第3208390号公報や特表平09−504864号公報は、多孔質材料の基板にプローブを固相化して形成されたDNAチップを開示している。このシグナル検出は、DNAチップに励起光を照射し、フォトマルチプライヤーやCCDカメラを用いて蛍光を検出することにより行なわれる。
【特許文献1】特開平8−166387号公報
【特許文献2】特許第3208390号公報
【特許文献3】特表平09−504864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
DNAチップを用いて適切な検査を行なうためには、検体液の温度を制御することが好ましく、一般的には、加温することが多い。したがって、特許第3208390号公報や特表平09−504864号公報のDNAチップを収容するための容器に、DNAチップを観察するための窓を設置した場合、窓からの放熱により、検体液の温度が低下してしまい、検体液が所望の温度に到達できないために、所望の反応が行なわれない原因ともなる。
【0004】
本発明は、このような実状を考慮して成されたものであり、その主な目的は、生体関連物質の不所望な温度変化を抑えることのできる検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生体関連物質の検査装置に向けられている。本発明の検査装置は、生体関連物質を収容した検査容器の温度を調節するためのインキュベーターを含み、インキュベーターは、検査容器内の生体関連物質の光学的観察を可能にする観察窓を持つインキュベーター上板と、検査容器を収容するインキュベーター本体とから構成され、インキュベーター上板とインキュベーター本体とが相対的に移動可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の検査装置によれば、生体関連物質の不所望な温度変化を抑えることができる。これにより安定した反応結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0008】
<第一実施形態>
まず、第一実施形態による生体関連物質の検査装置について図1と図2を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、サンプル溶液の液面が固相坦体の上に位置している状態を示している。図2は、図1と同じ検査容器と検査装置の断面図であり、サンプル溶液の液面が固相坦体の下に位置している状態を示している。
【0010】
図1と図2に示されるように、検査容器101は、生体関連物質の検出するためのプローブが固相化された固相坦体102と、生体関連物質を含む液体であるサンプル溶液を収容する流路103とを有している。
【0011】
本発明で使用される「生体関連物質」とは、生体から抽出、単離等された物質を意味するが、生体から直接抽出されたものだけでなく、これらを化学処理、化学修飾等したものも含まれる。たとえばホルモン類、サイトカイン、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、糖鎖、アブザイム、その他のタンパク、核酸、cDNA、DNA、mRNA、RNA、人工核酸、その他の核酸などの物質である。これらの「生体関連物質」と特異的に結合可能な物質、例えば、ホルモン類、サイトカイン、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、糖鎖、アブザイム、その他のタンパク、核酸、cDNA、DNA、RNA、人工核酸、その他の核酸等が検査容器中に配置される固相担体の表面に処理されることにより、処理対象である生体関連物質を捕捉することができる。
【0012】
固相坦体102は、多孔質体で構成され、サンプル溶液105を透過し得る。固相坦体102は、これに限定されないが、例えば、多孔質基板に、オリゴDNAプローブをスポッティングして固相化して作られるDNAチップである。
【0013】
流路103は、上面の開口から固相坦体102を横切って下方に延びる大径部分103aと、大径部分103aから側方に延び側面で終端する小径部分103bとを有している。大径部分103aは、これに限定されないが、例えば円錐台形状をしている。小径部分103bは、これに限定されないが、例えばテーパーを有している。
【0014】
検査装置は、装着された検査容器101の温度を調節するためのインキュベーター100と、検査容器の上方には固相坦体102の光学画像を取得する観察装置110と、取得した光学画像を解析する解析装置(図示せず)と、装着された検査容器101の流路103の小径部分103bと流体的に接続されるチューブ114と、チューブ114と流体的に接続されたポンプ115とを備えている。
【0015】
インキュベーター100は、上板111と横板112と容器113とから構成され、検査容器101を収納し温度を効果的に調節できる箱形状をしており、例えばアルミニウムのような熱伝導性の良い材料で作られている。上板111と容器113は、それぞれ、温度調整のためのヒーター116とヒーター117とを備えている。上板111はほぼ円形の開口部である観察窓118を有しており、検査容器101がインキュベーター100に装着された状態で固相坦体102を光学的に観察できるようになっている。横板112と容器113は検査容器101を収容するインキュベーター本体を構成し、インキュベーター本体と上板111は相対的に移動可能である。上板111は、スライド動作により、観察位置と反応位置とに切り替えられるようになっている。
【0016】
また、通常、インキュベーター100に装着された検査容器101には、流路103の大径部分103aの上に光学的に透明なカバー板109が載せられ、サンプル溶液105の蒸発が防止される。
【0017】
以下では、固相坦体102はDNAチップであるものとして、また、検査装置はDNAチップ解析装置であり、遺伝子の発現解析をするものとして作用を説明する。
【0018】
検査容器101は、DNAチップ102の上に必要量のサンプル溶液105が滴下され、検査装置のインキュベーター100に装着される。このとき、サンプル溶液105の蒸発を抑えるためにカバー板109が載せられる。サンプル溶液105を収容した検査容器101は、ハイブリダイゼーション反応を促進させるために、インキュベーター100によって、35℃〜80℃程度の適当な温度に暖められるか、適当な温度サイクルで温度制御される。
【0019】
図1は、ハイブリダイゼーション反応を行なっているときの様子を示している。このとき、上板111は、スライド動作により、反応位置すなわち検査容器101の上部を被う位置に配置されており、検査容器101を効果的に加温して温度制御を行なっている。また、ポンプ115によってサンプル溶液105を加圧減圧してDNAチップ102の上下に強制的に通過させている。これにより、ハイブリダイゼーション反応をより安定的にかつ高速に行なうことができる。
【0020】
一方、図2は、光学画像を取得しているときの様子を示している。このとき、上板111は、観察位置すなわち観察装置110によって上板111の観察窓118を通してハイブリダイゼーション反応後のDNAチップ102の光学画像を取得できる位置に配置されている。スライド動作により光学画像の取得時だけ上板111を観察位置に配置することにより、検査容器101の温度変化を最小に抑えることができる。光学画像の取得の際は、ポンプ115によって検査容器101内の流路103を減圧してサンプル溶液105の液面がDNAチップ102の下に位置する状態にするとよく、これにより、鮮明な光学画像を取得することができる。
【0021】
このような構成と作用により、ハイブリダイゼーション反応の反応前・反応途中・反応終了後のいずれの時期においても、DNAチップ102を蛍光観察して、遺伝子の発現量の増減を蛍光強度の強弱として読み取ることにより、解析を行なうことが可能となる。
【0022】
<第二実施形態>
第二実施形態による生体関連物質の検査装置について、図3と図4を参照しながら、第一実施形態と異なる部分だけ説明する。
【0023】
本実施形態における検査装置のインキュベーター120は、上板121と横板122と容器123とから構成され、検査容器126を収納し温度を効果的に調節できる箱形状をしており、例えばアルミニウムのような熱伝導性の良い材料で作られている。上板121と容器123は、それぞれ、温度調整のためのヒーター116とヒーター117とを備えている。上板121は光学的に透明な例えばガラス製の観察窓124を有しており、検査容器126がインキュベーター120に装着された状態で固相坦体102を光学的に観察できるようになっている。横板122と容器123は検査容器126を収容するインキュベーター本体を構成し、インキュベーター本体と上板121は相対的に移動可能である。上板121は、スライド動作により、観察位置と反応位置とに切り替えられるようになっている。さらに上板121は、観察窓124の下面と上板121の下面とが、ほぼ同一の平面になるように調整されている。
【0024】
一方、検査容器126の流路103の大径部分103aの上方開口部の周りには、ほぼ円形のシール125が設けられている。シール125は、弾性部材からなり、例えばポリウレタンやポリエチレン、ゴムスポンジなどの発泡材や不織布で作られている。シール125は、検査容器126がインキュベーター120に装着された際に、上板121との間に隙間が発生しないようにするとともに、上板121の下面を接触しながらも上板121の滑らかな移動を妨げないように設けられている。つまり、シール125は、上板121と摺動可能である。
【0025】
本実施形態の場合においても、第一実施形態と同様に、検査容器126は、DNAチップ102の上に必要量のサンプル溶液105が滴下され、検査装置のインキュベーター120に装着される。サンプル溶液105を収容した検査容器126は、ハイブリダイゼーション反応を促進させるために、インキュベーター120により温度制御される。
【0026】
図4は、ハイブリダイゼーション反応を行なっているときの様子を示している。このとき、上板121は、スライド動作により、反応位置すなわち検査容器126の上部を被う位置に配置されており、検査容器126を効果的に加温して温度制御を行なっている。また、ポンプ115によってサンプル溶液105を加圧減圧してDNAチップ102の上下に強制的に通過させている。これにより、ハイブリダイゼーション反応をより安定的にかつ高速に行なうことができる。
【0027】
一方、図3は、光学画像を取得しているときの様子を示している。このとき、上板121は、観察位置すなわち観察装置110によって上板121の観察窓124を通してハイブリダイゼーション反応後のDNAチップ102の光学画像を取得できる位置に配置されている。
【0028】
本実施形態の場合にも、スライド動作により、光学画像の取得時だけ上板121を観察位置に配置することにより、検査容器126の温度変化を最小に抑えることができる。また、観察窓124とシール125により、検査容器126の流路103の大径部分103aの上方開口部が覆われているため、サンプル溶液105の蒸発や減少による反応結果への影響を最小限に抑えることができる。さらに、上板121のスライド動作により観察窓124の下面がシール125によって汚れや結露が拭き取られるため、汚れや結露による光学画像への悪影響をも抑えることができる。
【0029】
<第三実施形態>
第三実施形態による生体関連物質の検査装置について、図5と図6と図7を参照しながら、第一実施形態と異なる部分だけ説明する。
【0030】
本実施形態による検査装置のインキュベーター130は、上板131と横板132と容器133とから構成され、検査容器138を収納し温度を効果的に調節できる箱形状をしており、例えばアルミニウムのような熱伝導性の良い材料で作られている。上板131と容器133は、それぞれ、温度調整のためのヒーター116とヒーター117とを備えている。横板132と容器133は検査容器138を収容するインキュベーター本体を構成し、インキュベーター本体と上板131は相対的に移動可能である。上板131は一つのほぼ円形の開口である観察窓134を有しており、検査容器138がインキュベーター130に装着された状態で固相坦体102を光学的に観察できるように、観察窓134と観察装置110の光軸がほぼ一致するように調整されている。また、上板131の下側には、検査容器138と横板132と容器133と接するように中板135が装着されている。中板135は、中央部が光学的に透明な0.1mm程度の薄いガラス板でできたカバー板137を有する比較的薄い板状をしたステンレス製の枠136により構成されている。
【0031】
本実施形態では、上板131が観察装置110に固定されており、その代わりに検査容器138の側がスライド動作することにより、第一実施形態や第二実施形態と同様に、検査容器138の温度変化を最小に抑えた状態で、観察位置と反応位置とに切り替えられるようになっている。さらに、本実施形態の場合、複数の観察位置が必要な場合においても、一軸の移動だけで観察位置と反応位置の切り替えが容易にできる。
【0032】
さらに、例えば、自動機を構成するような場合、サンプル投入時や洗浄作業時においては、図8に示されるように、中板135を上板131を残して検査容器138がインキュベーター130の外に移動させることにより、分注機139による分注作業も容易に達成できるようになる。
【0033】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第一実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、ハイブリダイゼーション反応時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の上に位置している状態を示している。
【図2】第一実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、光学画像取得時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の下に位置している状態を示している。
【図3】第二実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、光学画像取得時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の下に位置している状態を示している。
【図4】第二実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、ハイブリダイゼーション反応時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の上に位置している状態を示している。
【図5】第三実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、光学画像取得時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の下に位置している状態を示している。
【図6】第三実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、光学画像取得時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の下に位置している状態を示している。
【図7】第三実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、ハイブリダイゼーション反応時における、サンプル溶液の液面が固相坦体の上に位置している状態を示している。
【図8】第三実施形態の生体関連物質の検査容器とそれが装着された検査装置の断面図であり、分注時における、
【符号の説明】
【0035】
100…インキュベーター、101…検査容器、102…DNAチップ、103…流路、103a…大径部分、103b…小径部分、105…サンプル溶液、109…カバー板、110…観察装置、111…上板、112…横板、113…容器、114…チューブ、115…ポンプ、116…ヒーター、117…ヒーター、118…観察窓、120…インキュベーター、121…上板、122…横板、123…容器、124…観察窓、125…シール、126…検査容器、130…インキュベーター、131…上板、132…横板、133…容器、134…観察窓、135…中板、136…枠、137…カバー板、138…検査容器、139…分注機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体関連物質の検査装置であり、検査装置は生体関連物質を収容した検査容器の温度を調節するためのインキュベーターを含み、インキュベーターは、検査容器内の生体関連物質の光学的観察を可能にする観察窓を持つインキュベーター上板と、検査容器を収容するインキュベーター本体とから構成され、インキュベーター上板とインキュベーター本体とが相対的に移動可能である、生体関連物質の検査装置。
【請求項2】
請求項1において、検査容器は生体関連物質を収容するための流路を有し、流路は上方に開口しており、流路の上方開口部の周囲にインキュベーター上板と摺動可能なシール材が設けられている、生体関連物質の検査装置。
【請求項3】
請求項2において、シール材が発泡材量である、生体関連物質の検査装置。
【請求項4】
請求項2において、シール材が不織布である、生体関連物質の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−201120(P2006−201120A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15544(P2005−15544)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】