説明

生分解性ガスバリア材

【課題】本発明は、天然資源を有効利用し、且つ、優れたガスバリア性を有する生分解性ガスバリア材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明では、上記課題を達成するために、ポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂基材の少なくとも片面に、ウロン酸残基を持つ多糖類からなる被膜を形成したことを特徴とする生分解性バリア材としたものである。この被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類は、α、あるいはβ−グルコシド結合したグルクロン酸又は、グルクロン酸塩を含んでも良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、化粧品、衛生用品、農薬、種子、電子部材、電子機器等が、酸素や水蒸気等によって劣化したり変質したりすることを抑制する包装用として好適な生分解性ガスバリア材に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品、衛生用品、農薬、種子、電子部材、電子機器等が、酸素や水蒸気等によって劣化したり変質したりすることを抑制するため、それらの包装用に、酸素や水蒸気の透過度を抑制したガスバリア材が使用されている。
【0003】
一方、近年の石油や石炭など化石資源の一方的な消費の下に発展してきた文明は、資源の枯渇、大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や様々な環境汚染、廃棄物問題など、地球に過大な負荷を与えつづけている。これらの環境問題に対する解決策として、環境中で分解されて水と二酸化炭素にまでなる生分解性樹脂からなる基材が市販されている。微生物によって産生される脂肪族ポリエステルや、天然由来の澱粉やセルロース、キチンキトサンなどの各種多糖類とその誘導体、完全に化学合成により得られる生分解性樹脂や澱粉などを原料として得られた乳酸を重合してえられるポリ乳酸などが挙げられる。
【0004】
これらの中でも、石油系の資源を原料とせず、天然の植物などを原料する多糖類やポリ乳酸は、生分解性のみならず、バイオマス由来の材料として注目されている。
【0005】
しかし、これらの生分解性樹脂単体では、十分な強度や機能が得られず、その利用に制限があるのが現状である。更に、包装材料などとして用いるには内容物の機能や性質を保持する為に、酸素や水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備えることが求められる。
【0006】
特にポリ乳酸は結晶性の熱可塑性樹脂で成形加工が比較的容易にできる等の理由によりフィルム化や容器への成形が盛んに行われているが、気体透過性が高く、包装用材料として使うには何らかのガスバリア性を付与する処方が必要となる。
【0007】
ガスバリア性を付与するには金属や酸化金属の蒸着、あるいはガスバリア性の高い高分子をコーティングする手法がよく用いられる。
【0008】
ガスバリア性の高分子樹脂としては塩化ビニリデン樹脂が良く用いられていたが、環境適性の面で問題があり、現在はポリビニルアルコールのような水溶性高分子のコーティングが良く用いられる(例えば特許文献1参照)。しかし、ポリビニルアルコールは生分解性と言われるものの、実際の生分解速度は遅く、また、石油系の原料を用いる完全な合成樹脂である。
【0009】
また、ポリ乳酸系樹脂の接着性はあまり良好でない為、コーティングや蒸着には各種接着性樹脂の前コーティングが行われる場合が多く、これらの樹脂も概ね石油系の原料を用いる完全な合成樹脂である。
【0010】
ところで、特許文献2には、その請求項1に、基材の少なくとも片面に、ウロン酸残基を持つ水溶性多糖類を持つ水溶性多糖類を含む皮膜を形成することを特徴とするガスバリア材が記載されている。また特許文献2には、その明細書の段落番号[0045]に、この基材として、ポリ乳酸等の生分解性プラスチックを使用することができると記載されて
いる。
【0011】
しかしながら、特許文献2の実施例には、基材として、ポリ乳酸等の生分解性プラスチックを使用しているものはなく、ポリ乳酸等の生分解性プラスチックの少なくとも片面に、ウロン酸残基を持つ水溶性多糖類を持つ水溶性多糖類を含む皮膜を形成したガスバリア材が、本当に、実現できるのかは全く不明であった。
【特許文献1】特開2004−106314号公報
【特許文献2】特開2001−334600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような背景技術を考慮してなされたもので、天然資源を有効利用し、且つ、優れたガスバリア性を有する生分解性ガスバリア材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明において上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、ポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂基材の少なくとも片面に、ウロン酸残基を持つ多糖類からなる被膜を形成したことを特徴とする生分解性ガスバリア材としたものである。
【0014】
また請求項2の発明では、被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類がα、あるいはβ−グルコシド結合したグルクロン酸又は、グルクロン酸塩を含むことを特徴とする請求項1記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0015】
また請求項3の発明では、皮膜中のウロン酸残基を持つ多糖類が、グルクロン酸又はグルクロン酸塩と、グルコースから構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0016】
また請求項4の発明では、被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類中のウロン酸含有量が60%以上の範囲にあることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0017】
また請求項5の発明では、被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類中のウロン酸含有量が90%以上の範囲にある水溶性多糖類であることを特徴とする請求項1から4の何れか1記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0018】
また請求項6の発明では、ウロン酸残基を持つ多糖類の重合度がDPw=25以上の範囲にあることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0019】
また請求項7の発明では、生分解性樹脂基材の接触角が55°以下の面に皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から6の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0020】
また請求項8の発明では、生分解性樹脂基材表面の炭素に対する酸素の割合が0.69から0.73の範囲にある面に被膜を形成したことを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0021】
また請求項9の発明では、ウロン酸残基を持つ多糖類の被膜を形成する際に添加剤とし
てカルボキシル基と反応し得る反応性官能基を2つ以上有する化合物を添加してなることを特徴とする請求項1から8の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0022】
また請求項10の発明では、被膜が下記一般式
Am M(OR)n−m
(式中、Aは炭素数1から10個の炭素主鎖1種類以上で構成され、Mは珪素、アルミニウム、チタンから選ばれる1種又は2種以上の金属元素、Rはアルキル基であり、nは金属元素の酸化数、mは置換数(0≦m<n)を表す)で表される有機金属化合物或いは有機金属化合物の加水分解物と、ウロン酸残基を持つ多糖類との複合物からなることを特徴とする請求項1から9の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0023】
また請求項11の発明では、被膜中に、さらに無機層状化合物を含むことを特徴とする請求項1から10の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0024】
また請求項12の発明では、基材あるいはウロン酸残基を持つ多糖類を含む被膜の少なくとも片側に、更にセラミックを蒸着した層を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【0025】
また請求項13の発明では、セラミック蒸着層を構成するセラミックが、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムである請求項13記載の生分解性ガスバリア材としたものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、再生可能な天然資源である多糖類を有効に利用している。さらに、殆どの天然資源は石油由来のプラスチックより燃焼熱が低い上に、生分解性もあり土に戻すことができ、廃棄物処理の心配がない。且つ、本発明によれば、酸素通過度が低く優れたガスバリア性を有し、加工適性や保存適性にも優れた生分解性ガスバリア材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明の生分解性ガスバリア材は、ポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂基材の少なくとも片面に、ウロン酸残基を含む水溶性多糖類を含む被膜が形成されている。この被膜中のウロン酸残基を含む水溶性多糖類としては、特に限定はなく、1種類以上のウロン酸残基からなるポリウロン酸や、ムコ多糖類のようなウロン酸残基とその他の糖残基から構成される多糖類であってもよい。また、ウロン酸残基のカルボン酸は、カルボン酸でもカルボン酸塩であってもよい。
【0029】
例えば、ペクチン酸や、アルギン酸、ヒアルロン酸、また、その金属塩等が含まれる。
【0030】
さらに、この被膜中のウロン酸残基を含む水溶性多糖類はα、あるいはβ−グルコシド結合したグルクロン酸又は、グルクロン酸塩を含む多糖類でもよく、グルクロン酸とグルコースから構成される多糖類の場合は、多糖類中のウロン酸含有量が60%以上、好ましくは90%以上の範囲にある多糖類が好ましい。
【0031】
例えば、デンプンやセルロースなどの天然多糖類を酸化処理して、ピラノース環(グルコース)の第6位水酸基を選択的にカルボキシル基(又はその金属塩)へ変換させ得た水溶性多糖類などでもよく、多糖類の総糖残基中、ウロン酸残基の含有量が酸化度60%以上の水溶性多糖類や、ほぼすべての第6位水酸基をカルボキシル基に変換したアミロウロ
ン酸やセロウロン酸等のポリグルクロン酸又は、その金属塩などもこれに含まれる。
【0032】
更に、これらの被膜を形成するアミロウロン酸や、セロウロン酸又は、その金属塩はGPCで測定したプルラン換算の重合度が、 DPw=25以上の範囲にあり、より好ましくはDPw=100〜500の範囲にあることを特徴とする。
【0033】
このように被膜としてウロン酸残基を含む水溶性多糖類を用いることは、天然資源の有効利用にもつながり、他のプラスチック樹脂などを用いた物と比較しても、燃焼熱が低く、生分解性もあり土に戻すことができ、廃棄物処理の心配がないという利点があり、ポリ乳酸系基材への適用には特に有利である。
【0034】
しかし、ポリ乳酸基材への水溶性樹脂のコーティングは、基材表面の親水性、塗膜の密着性について課題があり、ガスバリア性の高い十分な強度を持つ被膜を形成するのは困難であった。
【0035】
しかし、ポリ乳酸系基材の接触角が55°以下の面にウロン酸残基を持つ多糖類の水溶液をコーティングすると、特に接着性樹脂による前コーティングなどを行わなくても、ガスバリア性の高い十分な強度を持つ被膜を形成できる。この接触角は、基材表面に水滴を垂らした際の接触角であり、55°以下であると好ましい。更に、51°以下であるとより好ましい。
【0036】
接触角を下げる方法については特に限定されないが、本発明の趣旨やコスト面、工程の簡便さから、コロナ放電処理やプラズマ処理、紫外線照射、アルカリ表面処理などの表面改質がより好ましい。更に、ウロン酸残基を持つ多糖類の水溶液のはじきを抑え、均一な塗膜を形成させることと塗膜の密着をより高めるという観点からは、紫外線照射による表面改質が好ましい。
【0037】
しかし、これらの処理の程度によりポリ乳酸系基材の劣化が起こり、処理を高度に行うと接触角は低下する一方で基材の表面が荒れ、逆に均一な塗膜が得られなくなる。その為、紫外線照射の場合は、接触角50°前後が最も良好な塗膜が得られる。
【0038】
同様に、親水性を改善する上記のような処理を施したポリ乳酸系基材表面の炭素に対する酸素の割合(O/C:測定方法は後述)が0.69から0.73の範囲にある面にウロン酸残基を持つ多糖類の水溶液をコーティングすると、ウロン酸残基を持つ多糖類の水溶液のはじきを抑え、密着の良い均一な塗膜を形成させることができる。
【0039】
また、本発明の生分解性ガスバリア材は、ウロン酸残基を持つ多糖類の被膜を形成する際に添加剤としてカルボジイミド基、エポキシ基、ポリエチレンイミン、イソシアネートなどの反応性官能基を2つ以上有する化合物を添加しても良い。これらの添加剤は、ウロン酸残基を持つ多糖類被膜の各種機能、特に耐水性、耐湿性、密着性の向上に効果がある。
【0040】
添加量はウロン酸残基を持つ多糖類のガスバリア性を阻害することのない程度までであり、添加剤/ウロン酸残基を持つ多糖類の重量比で50/50以下であることが好ましく、より好ましくは5/95から10/90の範囲内である。
【0041】
また、本発明の生分解性ガスバリア材は基材の少なくとも片面に有機金属化合物あるいは有機金属化合物の加水分解物とウロン酸残基を持つ多糖類の複合物から成る被膜(複合皮膜)を形成しても良く、上記有機金属化合物は下記一般式
Am M(OR)n−m…(1)
(式中、Aは炭素数1から10個の炭素主鎖1種類以上で構成され、Mは珪素、アルミニウム、チタンなどの金属元素、Rはアルキル基であり、nは金属元素の酸化数、mは置換数(0≦m<n)を表す)
で示される有機金属化合物または該有機金属化合物の重合体からなる。
【0042】
一般式(1)で示される有機金属化合物の置換基がビニル基、エポキシ基、アルキル基、アミノ基を有してもよく、それらの有機金属化合物を1種類または2種類以上を添加することにより各種機能、特に耐水性、耐湿性、密着性を改善する事が可能となる。
【0043】
また、一般式(1)で示される有機金属化合物の金属元素は珪素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)から選ばれる。
【0044】
また、本発明において、被膜の形成に無機層状化合物を使用しても良い。無機層状化合物とは、層状構造を有する結晶性の無機化合物をいい、例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等に代表される粘土鉱物をあげることができる。無機層状化合物である限り、その種類、粒径、アスペクト比等は、そのガスバリア材の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。一般的には、スメクタイト族の無機層状化合物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等をあげることができ、これらの中でも、溶液中の安定性や、塗工性等の点から好ましいものとしてモンモリロナイトをあげることができる。
【0045】
被膜の形成方法としては、例えば、まず前述のウロン酸残基を含む水溶性多糖類の水溶液を調製する。水溶液中には塗膜の表面張力を低下させるため、または乾燥エネルギーを抑える為にもアルコールなどの溶媒を添加してもよい。次に、この水溶液を、ディッピング法、ロールコート法、スクリーン印刷法、スプレー法等の公知の塗工方法によって基材の少なくとも一方の面上にコーティングし、乾燥させる。これにより、基材上に被膜を形成することができる。
【0046】
更に、複合被膜の形成方法としては、例えば前述のような添加剤を予め多糖類の水溶液の中に混合しておいたものを単体と同様にコーティングし、乾燥することで基材上に被膜を形成することができる。
【0047】
ここで、複合被膜を基材の片面に形成する場合には、乾燥後の複合被膜の厚さが約0.01〜100μmとなるようにコーティングすることが好ましく、特に、0.01〜50μmとすることが好ましい。被膜が薄すぎると塗膜が形成されにくく、反対に被膜が厚すぎると不経済である。なお、複合被膜を基材の両面に形成する場合、複合被膜の厚さは、0.01〜20μmとすることが好ましい。
【0048】
ウロン酸を含む水溶性多糖類からなるコーテイング剤には、この他、本発明の効果を阻害しないレベルで、顔料、染料、分散剤等の添加剤等を配合することもできる。
【0049】
ガスバリア性をいっそう向上させる場合、セラミック蒸着膜を設けてもよい。真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)等の真空プロセスにより、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機物の蒸着膜を形成したものを使用することができる。
【0050】
その蒸着膜の好ましい膜厚は、当該ガスバリア材の用途や蒸着膜の膜組成等に応じて異なるが、通常、数十Å〜5000Åの範囲が好ましく、50Å〜3000Åがより好ましい。この蒸着膜が薄すぎると蒸着膜の連続性が維持されなくなり、反対に厚すぎると可撓性が低下し、クラックが発生しやすくなる。
【0051】
本発明の生分解性ガスバリア材には、必要に応じて、上述の基材及び複合被膜の他、さらにヒートシールを可能とする熱可塑性樹脂層、印刷層、保護層等を積層することができる。この場合、積層する各層は、溶融押出により積層してもよく、接着剤を用いて積層してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0053】
ウロン酸残基を持つ多糖類として、市販の柑橘系ペクチン(重量平均分子量150,000)と、澱粉の酸化物であるアミロウロン酸と、セルロースの酸化物であるセロウロン酸とを用いた。
【0054】
(アミロウロン酸の調製方法)
コンスターチ10gを蒸留水400gに加熱溶解させ冷却した。
この溶液に、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
反応温度は常に5℃以下に維持した。
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止した。
エタノール2.5Lにこの溶液を撹拌しながら添加して沈殿物を得た。
更にこの沈殿物を水/アセトン=1/7の混合水溶液で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、更にアセトンで洗浄した後、乾燥させ、白色粉末のアミロウロン酸を得た。
【0055】
生成物を0.2N−NaOH水溶液に溶解させ、0.2N−HCl水溶液で中和した水溶液の分子量測定をGPCカラムPWXL−6000(東ソー)とPWXL−3000(東ソー)を連結して、標準プルラン換算で行った。また、溶離液として、0.1−NaClを用いた。
ポリウロン酸の重量平均分子量は120,000であった。
【0056】
(セロウロン酸の調製方法)
再生セルロース10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5g溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
反応温度は常に5℃以下に維持した。
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
そして6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
1Lのエタノール中に反応液を投入して生成物を析出させ、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分洗浄し、セロウロン酸を得た。
ポリウロン酸の重量平均分子量は25,000であった。
【0057】
<実施例1、2、3>
基材1として、厚さ25μmの2軸延伸ポリ乳酸フィルムを用いた。基材1の片面に低圧水銀ランプを用いた紫外線照射装置により3分間処理を施したものを基材2として用いた。表1に基材1と基材2の接触角およびO/Cの値を示した。また、アミロウロン酸(実施例1)、セロウロン酸(実施例2)の固形分濃度5%水溶液およびペクチン(実施例3)の2%水溶液を調製しておいた。更にこの水溶液にイソプロピルアルコールを5%添加し、このコーティング剤を、#10のバーコーターを用いて基材2上に塗工し、60℃のオーブンで乾燥させ、乾燥膜厚1.0μm(ペクチンのみ0.4μm)の被膜を形成し、実施例1、2、3の生分解性ガスバリア材とした。
【0058】
<実施例4、5>
モンモリロナイトをアミロウロン酸(実施例4)、セロウロン酸(実施例5)50に対して50となる割合で混合し、コーティング剤を調製した。このコーティング剤を、グラビアコーターを用いて実施例1と同じ基材上に塗工し、80℃のオーブンに通して乾燥させ、乾燥膜厚1.5μmの複合被膜を形成し、実施例4、5の生分解性ガスバリア材とした。
【0059】
<実施例6>
5%アミロウロン酸水溶液にアミロウロン酸の重量に対し5%の水溶性ポリカルボジイミドを添加した水溶液を調製した。この水溶液を実施例1と同じ基材上にコーティングし、80℃のオーブンで乾燥させ、膜厚1.0μmの被膜を形成し、実施例6の生分解性ガスバリア材とした。
【0060】
<実施例7>
テトラエチルオルソシリケート(Si(OC254:TEOSと略記)10.4gに0.1N塩酸89.6gを加え30分攪拌し加水分解させた固形分3%(SiO2換算)溶液と5%アミロウロン酸水溶液を5:3の比率で混ぜ、コーティング剤を調製した。基材として厚さ15nmの酸化アルミニウムを蒸着させたポリ乳酸基材を用いた。この基材の蒸着面にコーティング剤を塗布し、厚さ0.5μmの被膜を形成し、実施例7の生分解性ガスバリア材とした。
【0061】
<実施例8>
基材1のポリ乳酸フィルムを低圧水銀灯の紫外線照射装置により10分処理を施したものを基材3として用いた。表1に基材3の接触角およびO/Cの値を示した。この基材に実施例1と同じアミロウロン酸水溶液をコーティングし、厚さ1.0μmの被膜を形成し、実施例8の生分解性ガスバリア材とした。
【0062】
<比較例1>
片面をコロナ処理した厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ面にアミロウロン酸5%水溶液を#10のバーコーターで塗布し、80℃で乾燥させて、比較例1のガスバリア材を得た。
【0063】
<比較例2>
アミロウロン酸に代えてPVAを使用する以外は実施例1を繰り返し、比較例2のガスバリア材を作成した。
【0064】
<比較例3>
比較例3として、基材1を用いた。
【0065】
【表1】

ここでO/Cは、日本電子株式会社製JPS−90MXVを用い、基材表面のXPS分析を行い、各基材のatomic%を求め、その酸素の値を炭素の値で割って求めた。
【0066】
[評価]
実施例1〜8、及び比較例1、2で得られた各ガスバリア材、並びに比較例3として用いた基材1の酸素通過度、密着性、生分解性を次のように測定した。結果を表2に示す。
【0067】
(酸素通過度)
酸素通過度測定装置(モダンコントロール社製、OXTRAN 10/50A)を用いて30℃、70%RH雰囲気下で測定した。
【0068】
(密着性)
セロハンテープ密着試験(クロスカット試験)を行い、塗膜の密着性を評価し、剥離の見られたものは×、変化無し○として評価した。
【0069】
(生分解性)
各ガスバリア材10g分を1cm角に切断し、八幡物産(株)製の微生物酸化分解測定装置(MODA)により、試験土壌として標準コンポスト(八幡物産(株)製 YK−2)を用い、35℃での生分解性を評価した。試験中は水蒸気を飽和した脱炭酸空気を40ml/分で通気した。
【0070】
【表2】

表2から、実施例のガスバリア材は、酸素通過度が低く、生分解性もよいことが分かる。しかし、比較例1、2のガスバリア材は酸素通過度が低いが、生分解性に劣る。さらに、比較例2のガスバリア材は植物由来の割合が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂基材の少なくとも片面に、ウロン酸残基を持つ多糖類からなる被膜を形成したことを特徴とする生分解性ガスバリア材。
【請求項2】
被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類がα、あるいはβ−グルコシド結合したグルクロン酸又は、グルクロン酸塩を含むことを特徴とする請求項1記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項3】
皮膜中のウロン酸残基を持つ多糖類が、グルクロン酸又はグルクロン酸塩と、グルコースから構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項4】
被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類中のウロン酸含有量が60%以上の範囲にあることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項5】
被膜中のウロン酸残基を持つ多糖類中のウロン酸含有量が90%以上の範囲にある水溶性多糖類であることを特徴とする請求項1から4の何れか1記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項6】
ウロン酸残基を持つ多糖類の重合度がDPw=25以上の範囲にあることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項7】
生分解性樹脂基材の接触角が55°以下の面に皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から6の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項8】
生分解性樹脂基材表面の炭素に対する酸素の割合が0.69から0.73の範囲にある面に被膜を形成したことを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項9】
ウロン酸残基を持つ多糖類の被膜を形成する際に添加剤としてカルボキシル基と反応し得る反応性官能基を2つ以上有する化合物を添加してなることを特徴とする請求項1から8の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項10】
被膜が下記一般式
Am M(OR)n−m
(式中、Aは炭素数1から10個の炭素主鎖1種類以上で構成され、Mは珪素、アルミニウム、チタンから選ばれる1種又は2種以上の金属元素、Rはアルキル基であり、nは金属元素の酸化数、mは置換数(0≦m<n)を表す)で表される有機金属化合物或いは有機金属化合物の加水分解物と、ウロン酸残基を持つ多糖類との複合物からなることを特徴とする請求項1から9の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項11】
被膜中に、さらに無機層状化合物を含むことを特徴とする請求項1から10の何れか1項記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項12】
基材あるいはウロン酸残基を持つ多糖類を含む被膜の少なくとも片側に、更にセラミックを蒸着した層を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の生分解性ガスバリア材。
【請求項13】
セラミック蒸着層を構成するセラミックが、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムである請求項13記載の生分解性ガスバリア材。

【公開番号】特開2008−49606(P2008−49606A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228944(P2006−228944)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】