説明

生分解性ポリマー−ペプチド媒介トランスフェクションのための組成物および方法

ポリヌクレオチドと生分解性ポリアセタール-ペプチドとの組み合わせである複合体を開示する。開示する複合体は細胞トランスフェクションに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して生分解性ポリマー-ペプチドを用いた生体分子の送達に関する。より具体的には、本発明は、ポリヌクレオチドとの複合体を形成した酸感受性生分解性ポリアセタールコンジュゲートペプチド、その複合体を製造する方法、およびそれらをポリヌクレオチド送達用途に使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫原性が低いなどの望ましい性質を持ち、比較的大規模な生産に適し、ある範囲の生物学的性質が得られるように容易に修飾することができる、非ウイルス薬物送達系が必要とされている。Mulligan,R.C.「The basic science of gene therapy(遺伝子治療の基礎科学)」Science 260, 926-932(1993)ならびにLuo,D.およびSaltzman,W.M.「Synthetic DNA delivery systems(合成DNA送達系)」Nat. Biotechnol. 18, 33-37(2000)を参照されたい。しかし、ポリ(リジン)およびポリエチレンイミン(PEI)などの非生分解性カチオン性ポリマーは重大な細胞毒性を持ちうる。Choksakulnimitr,S., Masuda,S., Tokuda,H., Takakura,Y.およびHashida,M.「In vitro cytotoxicity of macromolecules in different cell culture systems(さまざまな細胞培養系における高分子のインビトロ細胞毒性)」J. Control Release 34, 233-241(1995);Brazeau,G.A., Attia,S., Poxon,S.およびHughes,J.A.「In Vitro Myotoxicity of Selected cationic macrolecules used in non-viral gene therapy(非ウイルス遺伝子治療で用いられる選ばれたカチオン性高分子のインビトロ筋毒性)」Pharm. Res. 15, 680-684(1998);ならびにAhn,C.-H., Chae,S.Y., Bae,Y.H.およびKim,S.W.「Biodegradable poly(ethylenimine) for plasmid DNA delivery(プラスミドDNA送達用の生分解性ポリ(エチレンイミン))」J. Control. Release 80, 273-282(2002)を参照されたい。
【0003】
細胞毒性を低減するために、分解性カチオン性ポリマー(ポリカチオン)を開発する試みがいくつかなされている。Ahn,C.-H., Chae,S.Y., Bae,Y.H.およびKim, S.W.「Biodegradable poly(ethylenimine) for plasmid DNA delivery(プラスミドDNA送達用の生分解性ポリ(エチレンイミン))」J. Control. Release 80, 273-282(2002);Lynn,D.M., Anderson,D.G., Putman,D., Langer,R.「Accelerated Discovery of Synthetic Transfection Vectors: Parallel Synthesis and Screening of a Degradable Polymer Library(合成トランスフェクションベクターの発見の促進:分解性ポリマーライブラリーのパラレル合成およびパラレルスクリーニング)」J. Am. Chem. Soc. 123, 8155-8156(2001);Lim,Y.ら「Biodegradable Polyester, Poly[α-(4-Aminobutyl)-l-Glycolic Acid], as a Non-toxic Gene Carrier(無毒性遺伝子担体としての生分解性ポリエステル・ポリ[α-(4-アミノブチル)-l-グリコール酸])」Pharmaceutical Research 17,811-816(2000);Lim,Y., Kim,S., Suh,H.およびPark,J.-S.「Biodegradable, Endosome Disruptive, and Cationic Network-type Polymer as a High Efficient and Non-toxic Gene Delivery Carrier(高効率無毒性遺伝子送達担体としての生分解性、エンドソーム破壊性かつカチオン性のネットワーク型ポリマー)」Bioconjugate Chem. 13, 952-957(2002);Lim,Y. K.,S., Lee,Y., Lee,W., Yang,T., Lee,M., Suh,H., Park,J.「Cationic Hyperbranched Poly(amino ester): A Novel Class of DNA Condensing Molecule with Cationic Surface, Biodegradable Three-Dimensional Structure, and Tertiary Amine Groups in the Interior(カチオン性高分岐ポリ(アミノエステル):カチオン性表面、生分解性三次元構造、および内部三級アミン基を持つ、新しい種類のDNA凝縮分子)」J. Am. Chem. Soc. 123, 2460-2461(2001);ならびにTuominen,J.ら「Biodegradation of Lactic Acid Based Polymers under Controlled Composting Conditions and Evaluation of the Ecotoxicological Impact(制御されたコンポスト化条件下での乳酸系ポリマーの生分解および環境毒物学的影響の評価)」Biomacromolecules 3, 445-455(2002)を参照されたい。しかし生理的条件下では、これらのカチオン性ポリマーは塩基触媒加水分解による分解を受けやすい。
【0004】
アセタール結合を含有する酸感受性ポリマーが報告されている。Tomlinson,R.ら「Pendent Chain Functionalized Polyacetals That Display pH-Dependent Degradation: A Platform for the Development of Novel Polymer Therapeutics(pH依存的分解を示すペンダント鎖官能化ポリアセタール:新規ポリマー治療薬を開発するためのプラットフォーム)」Macromolecules 35, 473-480(2002)ならびにMurthy,N., Thng,Y.X., Schuck,S., Xu,M.C.およびFrechet,J.M.J.「A Novel Strategy for Encapsulation and Release of Proteins: Hydrogels and Microgels with Acid-Labile Acetal Cross-Likers(タンパク質の封入および放出に関する新しい戦略:酸不安定性アセタール架橋剤を使ったヒドロゲルおよびマイクロゲル)」J. Am. Chem. Soc. 124, 12398-12399(2002)を参照されたい。
【0005】
ペプチドを使ったタンパク質の送達は、生命科学研究分野において、非常に多くの注目を集めてきた。ペプチドは、その天然の性質ゆえに、生体適合性であると考えられた。Schwarze,S.R., Ho,A., Vocero-Akbani,A., Dowdy,S.「In Vivo Protein Transduction: Delivery of a Biologically Active Protein into the Mouse(インビボタンパク質形質導入:生物学的に活性なタンパク質のマウス内への送達)」Science 285, 1560-1572(1999)およびTung,C., Weissleder,R.「Arginine containing peptides as delivery vectors(送達ベクターとしてのアルギニン含有ペプチド)」Adv. Drug Deliv. Rev. 55, 281-294(2003)を参照されたい。最近、遺伝子送達の促進剤としてのペプチドの有用性が報告された。Hawley-Nelson,P., Lan,J., Shih,P., Jessee,J.A., Schifferli,K.P., Gebeyehu, G., Ciccarone,V.C., Evans,K.L.「Peptide-enhanced transfections(ペプチド促進トランスフェクション)」米国特許出願US20030069173A1(2003)およびHawley-Nelson,P., Lan,J., Shih,P., Jessee,J.A., Schifferli,K.P., Gebeyehu,G., Ciccarone,V.C., Evans,K.L.「Peptide-enhanced transfections(ペプチド促進トランスフェクション)」米国特許出願US20030144230A1(2003)を参照されたい。ペプチド媒介トランスフェクションも報告された。Legendre,J.Y., Trzeiak,A., Bohrmann,B., Deuschle,U., Kitas,E., Supersaxo,A.「Dioleoylmelittin as a Novel Serum-Insensitive Reagent for Efficient Transfection of Mammalian Cells(哺乳動物細胞の高効率トランスフェクションのための新規血清非感受性試薬としてのジオレオイルメリチン)」Bioconjugate Chem. 8, 57-63(1997)、Futaki,S., Ohashi,W., Suzuki,T., Niwa,M., Tanaka,S., Ueda,K., Harashima,H., Sugiura,Y.「Stearylated Arginine-Rich Peptides: A New Class of Transfection Systems(ステアリル化アルギニンリッチペプチド:新しい種類のトランスフェクション系)」Bioconjugate Chem. 12, 1005-1011(2001);Siprashvili,Z., Scholl,F.A., Oliver,S.F., Adams,A., Contag,C.H., Wender,P.A., Khavari,P.A.「Gene Transfer via Reversible Plasmid Condensation with Cysteine-Flanked, Internally Spaced Arginine-Rich Peptides(システインが隣接した、内部空間を持つ、アルギニンリッチペプチドによる可逆的プラスミド凝縮による遺伝子導入)」Human Gene Ther. 14, 1225-1233(2003);Haines,A.M., Phillips,R.O., Welsh,J.H., Thatcher,D.R., Irvine,A.S.「Compositions and Methods for highly Efficient Transfection(高効率トランスフェクションのための組成物および方法)」PCT国際出願WO9835984(1998);Haines,A.M., Phillips,R.O., Welsh,J.H., Thatcher,D.R., Irvine,A.S., Craig,R.K.「Compositions and Methods for highly Efficient Transfection(高効率トランスフェクションのための組成物および方法)」米国特許US6,479,464B1(2002);Haines,A.M., Phillips,R.O., Welsh,J.H., Thatcher,D.R., Irvine,A.S., Craig,R.K.「Compositions and Methods for highly Efficient Transfection(高効率トランスフェクションのための組成物および方法)」米国特許出願US20030100496(2003);Divida,G., Morris,M., Mery,J., Heitz,F., Fernandez,J., Archdeacon,J., Horndorp,K.「Peptide-Mediated Delivery of Molecules into cells(細胞内への分子のペプチド媒介送達)」PCT国際出願WO0210201A2(2002);Divida,G., Morris,M., Mery,J., Heitz,F., Fernandez,J., Archdeacon,J., Horndorp,K.「Peptide-Mediated Transfection Agents and Methods of Use(ペプチド媒介トランスフェクション剤および使用方法)」米国特許出願US20030119725A1(2003);Wolff,J.A.「Compositions and Methods for Drug Delivery Using pH sensitive Molecules(pH感受性分子を使った薬物送達のための組成物および方法)」PCT国際出願WO0075164A1(2000);Phillips,R.O., Welsh,J.H., Husain,R.D.「Membrane disruptive peptides covalently oligomerized(共有結合によってオリゴマー化された膜破壊ペプチド)」PCT国際出願WO0064929(2000);Legendre,J., Supersaxo,A., Trzeciak,A.「Peptide Conjugates for Transfecting Cells(細胞をトランスフェクトするためのペプチドコンジュゲート)」米国特許US6,030,602(2000);Wadwha,M.S., Rolland,A., Logan,M., Sparro,J.T.「Lipophilic and/or lytic peptides for specific delivery of nucleic acids to cells(細胞に核酸を特異的に送達するための親油性および/または溶解性ペプチド)」PCT国際出願WO9850078(2000)を参照されたい。
【0006】
しかし、脂質鎖がつながれていないオクタアルギニンなどの小ペプチドは、トランスフェクションとって特別良いわけではない。Futaki,S., Ohashi,W., Suzuki,T., Niwa,M., Tanaka,S., Ueda,K., Harashima,H., Sugiura,Y.「Stearylated Arginine-Rich Peptides: A New Class of Transfection Systems(ステアリル化アルギニンリッチペプチド:新しい種類のトランスフェクション系)」Bioconjugate Chem. 12, 1005-1011(2001)およびTung,C., Weissleder,R.「Arginine containing peptides as delivery vectors(送達ベクターとしてのアルギニン含有ペプチド)」Adv. Drug Deliv. Rev. 55, 281-294(2003)を参照されたい。
【発明の開示】
【0007】
いくつかの実施形態において、本発明は、ポリヌクレオチドを細胞に送達するための複合体であって、(a)ポリヌクレオチドおよび(b)生分解性ポリアセタール-ペプチドを含む複合体に向けられる。好ましくは、ポリヌクレオチドはDNAまたはRNAである。より好ましくは、ポリヌクレオチドはプラスミドDNA、アンチセンス、DNAオリゴマー、siRNA、リボザイム、またはアプタマーである。
【0008】
好ましい実施形態において、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸を含む。
【0009】
好ましくは、生分解性ポリアセタール-ペプチドは、式(I)および/または(II)
【化5】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸(図4)から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択され、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2から選択され、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24から選択される]
によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を含む。さらに好ましくは、ペプチドは、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-KRKRQQ-COOH、NH2-CKRKRQQ-COOH、NH2-CKRKR-COOH、NH2-HLVKGRG-COOH、NH2-CDCRGDCFC-COOH、NH2-RRRR-COOH、またはNH2-RRRRRRR-COOHから選択される。好ましくは、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2から選択され、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10,C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24から選択される。
【0010】
好ましくは、生分解性ポリアセタール-ペプチドは、式(III)および/または(IV):
【化6】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせであり、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、またはCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2であり、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24から選択され、Wは脂肪酸部分であるか、ガラクトース、ラクトース、マンノース、トランスフェリン、抗体断片、およびRGDペプチドから選択されるターゲティングリガンドであり、mおよびnは正の整数である]
によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を含む。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、細胞にポリヌクレオチドを送達するための複合体を製造する方法であって、ポリアセタール-ペプチドとポリヌクレオチドとを混合する段階を含む方法に向けられる。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明は、細胞をトランスフェクトする方法であって、細胞をポリヌクレオチド-ポリアセタール-ペプチド複合体と接触させることを含む方法に向けられる。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明は、式(I)または(II)によって表されるポリアセタール-ペプチドに向けられる。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、
(a)トランスフェクトされるべき細胞を固形支持体上に播種する段階、
(b)トランスフェクション用のポリヌクレオチドをポリアセタールペプチドと混合する段階、
(c)ポリヌクレオチド-ポリアセタール-ペプチド混合物を、固形支持体上の、播種した細胞と接触させる段階、および
(d)トランスフェクションを可能にするために固形支持体をインキュベートする段階
を含む、細胞トランスフェクションの方法に向けられる。
【0015】
好ましくは、ポリヌクレオチド対ポリアセタールペプチドの重量比は約1:4と1:50との間である。より好ましくは、ポリヌクレオチド対ポリアセタールペプチドの重量比は約1:16と1:32との間である。
【0016】
好ましい実施形態において、本方法は、式(I)および/または(II):
【化7】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせであり、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、またはCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2であり、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24である]
によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を持つポリアセタールペプチドを含む。
【0017】
好ましい実施形態において、本方法は、式(III)および/または(IV):
【化8】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンを含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせであり、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、またはCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2であり、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24であり、Wは脂肪酸部分であるか、ガラクトース、ラクトース、マンノース、トランスフェリン、抗体断片、およびRGDペプチドから選択されるターゲティングリガンドであり、mおよびnは正の整数である]
によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を持つポリアセタール-ペプチドを含む。
【0018】
好ましい実施形態において、本方法は、マルチウェルプレート、ディッシュ、フラスコ、チューブ、スライドまたは植込み型装置である固形支持体を含む。
【0019】
本方法の好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドはDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドまたは化学修飾核酸である。好ましくは、RNAは一本鎖または二本鎖である。好ましくは、RNAはリボザイムまたはsiRNAである。好ましい実施形態において、DNAは環状、線状または一本鎖オリゴヌクレオチドである。
【0020】
好ましい実施形態において、細胞は原核細胞または真核細胞である。好ましくは、真核細胞は酵母細胞、植物細胞または動物細胞である。より好ましくは、動物細胞は哺乳動物細胞である。さらに好ましくは、哺乳動物細胞は造血細胞、ニューロン細胞、膵臓細胞、肝細胞、軟骨細胞、骨細胞、または筋細胞である。さらに好ましくは、ニューロン細胞はNT-2細胞である。好ましくは、細胞は完全に分化した細胞または前駆細胞/幹細胞である。
【0021】
本発明のさらなる態様、特徴および利点は、以下に記載する好ましい実施形態の詳細な説明から明白になるだろう。
【0022】
本発明のこれらの特徴および他の特徴を、好ましい実施形態の図面を参照して以下に説明するが、これらは本発明を例示しようとするものであって、本発明を限定しようとするものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
好ましい実施形態において、本発明は、生分解性ポリマーへの小ペプチドのコンジュゲーションに関する。本発明のポリマー-ペプチドトランスフェクション試薬は、ペプチドの性質ゆえに、生体適合性である。したがって本発明はインビボ送達の発展をもたらすだろう。
【0024】
好ましい実施形態は、効果的なトランスフェクション試薬としての小ペプチドの利用に向けられる。好ましくは、小ペプチドは、中性pHで正に帯電する1個以上のアミノ酸残基を含有する。小ペプチドは、生分解性ポリマーにコンジュゲートされて、生分解性ポリマー-ペプチドを形成する。好ましい実施形態は、生分解性ポリマー-ペプチド、一つ以上のポリヌクレオチドと生分解性ポリマー-ポリペプチドとの複合体を含む組成物、ポリヌクレオチド/ポリマー-ポリペプチド複合体を製造する方法、および細胞トランスフェクションに複合体を使用する方法に向けられる。好ましい実施形態は生分解性ポリアセタール-ペプチドに向けられる。
【0025】
ポリアセタールはアセタール(-O-CHR-O-)繰り返し単位を含有するポリマーである。好ましい生分解性ポリアセタール-ペプチドは、式(I):
【化9】

によって表される繰り返し単位を含む。
【0026】
好ましい実施形態において、式(I)のペプチドは、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含むアミノ酸残基2〜45個の直鎖または非直鎖である。より好ましくは、ペプチドは、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-KRKRQQ-COOH、NH2-CKRKRQQ-COOH、NH2-CKRKR-COOH、NH2-HLVKGRG-COOH、NH2-CDCRGDCFC-COOH、NH2-RRRR-COOH、またはNH2-RRRRRRR-COOHである。
【0027】
好ましい実施形態において、Xは、任意に1個以上のエーテル官能基を含んでもよい炭素数2〜15の直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖である。より好ましくは、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、またはCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2のいずれか一つを含む。
【0028】
ポリアセタール-ペプチドはコポリマーであることができるので、式(I)によって表される繰り返し単位または他の繰り返し単位の二つ以上の異なる単位を含有しうる。したがって式(I)によって表される繰り返し単位を含む生分解性ポリアセタール-ペプチドという用語を本明細書において使用する場合、これは、本質的に式(I)の繰り返し単位からなるホモポリマーだけでなく、そのようなコポリマーも包含する。好ましい一実施形態では、生分解性ポリアセタール-ペプチドが、式(II):
【化10】

の繰り返し単位を含む。
【0029】
好ましい実施形態において、式(II)のペプチドは、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含むアミノ酸残基2〜45個の直鎖または非直鎖である。より好ましくは、ペプチドは、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-KRKRQQ-COOH、NH2-CKRKRQQ-COOH、NH2-CKRKR-COOH、NH2-HLVKGRG-COOH、NH2-CDCRGDCFC-COOH、NH2-RRRR-COOH、またはNH2-RRRRRRR-COOHである。
【0030】
好ましい実施形態において、Xは、任意に1個以上のエーテル官能基を含んでもよい炭素数2〜15の直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖である。より好ましくは、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、またはCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2のいずれか一つを含む。
【0031】
好ましい実施形態において、Yは炭素原子数2〜20の直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖である。より好ましくは、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24を含む群から選択される。
【0032】
好ましい実施形態において、生分解性ポリアセタール-ペプチドは、式(III):
【化11】

の繰り返し単位を含む。
【0033】
上記式(III)において、ペプチドは2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択することができる。好ましい実施形態において、式(III)のペプチドは、20の生体アミノ酸(図4)から、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含有する。より好ましくは、ペプチドは、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-KRKRQQ-COOH、NH2-CKRKRQQ-COOH、NH2-CKRKR-COOH、NH2-HLVKGRG-COOH、NH2-CDCRGDCFC-COOH、NH2-RRRR-COOH、またはNH2-RRRRRRR-COOHである。
【0034】
好ましい実施形態において、Xは、任意に1個以上のエーテル官能基を含んでもよい炭素数2〜15の直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖である。より好ましくは、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2のいずれか一つを含む。
【0035】
好ましい実施形態において、Wは促進剤および/またはターゲティング受容体である。より好ましくは、Wは脂肪酸部分であるか、ガラクトース、ラクトース、マンノース、トランスフェリン、抗体断片、およびRGDペプチドを含む群より選択されるターゲティングリガンドである。
【0036】
好ましい実施形態において、mおよびnは1〜50,000の整数である。
【0037】
好ましい実施形態において、生分解性ポリアセタール-ペプチドは、式(IV):
【化12】

の繰り返し単位を含む。
【0038】
上記式(IV)において、ペプチドは2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択することができる。好ましい実施形態において、ペプチドは、20の生体アミノ酸から、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む。
【0039】
好ましい実施形態において、Xは、任意に1個以上のエーテル官能基を含んでもよい炭素数2〜15の直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖である。より好ましくは、XはCH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2のいずれか一つを含む。
【0040】
好ましい実施形態において、Yは炭素原子数2〜20の直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖である。より好ましくは、Yは直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24を含む群から選択される。
【0041】
好ましい実施形態において、Wは促進剤および/またはターゲティング受容体である。より好ましくは、Wは脂肪酸部分であるか、ガラクトース、ラクトース、マンノース、トランスフェリン、抗体断片、およびRGDペプチドを含む群より選択されるターゲティングリガンドである。
【0042】
ポリアセタールペプチド複合体のポリアセタールはさまざまな方法を使って製造することができる。そのような方法は、例えば、参照により本明細書に組み入れられる関連出願第10/375,705号に記載されている。
【0043】
混合物中に存在するポリアセタール-ペプチドトランスフェクション試薬の濃度は、その試薬のトランスフェクション効率および細胞毒性に依存する。通例、トランスフェクション効率と細胞毒性とは釣り合っている。細胞毒性を許容できるレベルに保ちつつ、ポリマー-ペプチドトランスフェクション試薬が最も効率のよい濃度にある時、ポリアセタール-ペプチドトランスフェクション試薬の濃度は最適レベルにある。ポリマー-ペプチドトランスフェクション試薬の濃度は、一般に約20mg/mL〜1.0mg/mL PBSの範囲にあるだろう。
【0044】
細胞中に導入される分子は、核酸、タンパク質、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)および他の生体分子であることができる。核酸はDNA、RNAおよびDNA/ハイブリッドなどであることができる。使用するDNAがベクター中に存在する場合、そのベクターは、プラスミド(例えばpCMV-GFP、pCMV-luc)またはウイルス系ベクター(例えばpLXSN)など、任意のタイプであることができる。DNAは、発現されるべきcDNAの5'末端にプロモーター配列(CMVプロモーターなど)を持ち、3'末端にポリA部位を持つ線状断片であることもできる。これらの遺伝子発現要素により、関心対象のcDNAを哺乳動物細胞中で一過性に発現させることができる。DNAが一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、例えばアンチセンスODNである場合は、標的遺伝子発現を調節するために、それを細胞中に導入することができる。RNAを使用する実施形態では、核酸は一本鎖(アンチセンスRNAおよびリボザイム)であってもよいし、二本鎖(RNA干渉、siRNA)であってもよい。RNAの安定性を増加させ、遺伝子発現のダウンレギュレーションにおけるその機能を改善するために、ほとんどの場合、RNAは修飾される。ペプチド核酸(PNA)では、核酸主鎖がペプチドで置き換えられ、それによって分子の安定性が増す。特定の実施形態においては、さまざまな目的で、例えば分子治療、タンパク質機能研究、または分子機構研究などの目的で、核酸などの高分子を細胞中に導入するために、本明細書に記載する方法を使用することができる。
【0045】
導入される分子とポリマー-ペプチドとの比は、好ましくは、約1:4〜1:50、より好ましくは約1:16〜1:32である。
【0046】
本明細書に記載する方法に従って使用するのに適した細胞には、原核細胞、酵母、または植物細胞および動物細胞、特に哺乳動物細胞を含む高等真核細胞が含まれる。特定の実施形態では、細胞を、造血細胞、ニューロン細胞、膵臓細胞、肝細胞、軟骨細胞、骨細胞、または筋細胞から選択することができる。細胞は完全に分化した細胞または前駆細胞/幹細胞であることができる。好ましい一実施形態では、細胞がNT-2細胞などのニューロン細胞である。好ましい一実施形態では、形質転換されたニューロン細胞が、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経疾患を処置する方法に使用される。
【0047】
いくつかの実施形態では、10%熱非働化ウシ胎仔血清(FBS)をL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep)と共に含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で、真核細胞を成長させる。いくつかの細胞は成長因子およびアミノ酸などの特殊な栄養を必要とするので、一部の細胞は特殊な培地で培養すべきであることは、当業者には理解されるだろう。細胞の最適密度は、細胞タイプおよび実験の目的に依存する。例えば、遺伝子トランスフェクションには70〜80%コンフルエントの細胞集団が好ましいが、オリゴヌクレオチド送達の場合、最適条件は30〜50%コンフルエントの細胞である。例えば、5×104個の293細胞/ウェルを96ウェルプレート上に播種したとすると、細胞は細胞播種の18〜24時間後に90%コンフルエントに達するだろう。HeLa705細胞の場合は、96ウェルプレートで同様のコンフルエントパーセンテージに達するのに、1×104細胞/ウェルしか必要としない。
【0048】
生体分子送達の結果は異なる方法で解析することができる。遺伝子トランスフェクションおよびアンチセンス核酸送達の場合、標的遺伝子発現レベルは、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子発現、ルシフェラーゼ遺伝子発現、またはβ-ガラクトシダーゼ遺伝子発現などのレポーター遺伝子によって検出することができる。GFPのシグナルは蛍光顕微鏡下で直接観察することができ、ルシフェラーゼの活性はルミノメーターによって検出することができ、β-ガラクトシダーゼによって触媒される青色生成物は顕微鏡下で観察するか、マイクロプレートリーダーによって決定することができる。これらのレポーターがどのように機能するか、そしてそれらを遺伝子送達系にどのように導入することができるかを、当業者はよく知っている。本明細書に記載する方法に従って送達される核酸およびその産物、タンパク質、ペプチド、または他の生体分子、ならびにこれらの生体分子によって調整される標的は、例えば免疫蛍光の検出、または酵素免疫組織化学、オートラジオグラフィー、もしくはインサイチューハイブリダイゼーションなど、さまざまな方法によって決定することができる。コードされたタンパク質の発現を検出するために免疫蛍光を使用する場合は、標的タンパク質を結合する蛍光標識抗体を使用する(例えばタンパク質への抗体の結合に適した条件下でスライドに加える)。次に、蛍光シグナルを検出することによって、タンパク質を含有する細胞を同定する。送達された分子が遺伝子発現を調整することができる場合は、オートラジオグラフィー、インサイチューハイブリダイゼーション、およびインサイチューPCRなどの方法によって、標的遺伝子発現レベルも決定することができる。ただし同定方法は、送達される生体分子、それらの発現産物、それによって調整される標的、および/または生体分子の送達がもたらす最終産物の性質に依存する。
【実施例1】
【0049】
トランスフェクション実験に使用する材料の調製
以下の実施例で使用する細胞株および培養物は以下のように調製した。ヒト胚性癌腫細胞(「NT-2細胞」)は、熱非働化ウシ胎仔血清(FBS,10%)、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有(v/v)するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM/F12,90%)で成長させ、7.5%CO2を含有する湿度100%の雰囲気下、37℃でインキュベートした。
【0050】
以下の実施例で使用するGFPプラスミドは以下のように調製した。プラスミドpCMV-GFPおよびEGFP-N1をClontech(カリフォルニア州パロアルト)から購入した。緑色蛍光タンパク質(GFP)cDNAの発現をヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターによって制御し、遺伝子発現エンハンサー・ニワトリβ-グロブリンイントロンによって転写物を安定化した。プラスミドベクターpCMV-lucは、同じ哺乳動物発現ベクター骨格を持つpCMV-0に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子をクローニングすることによって構築した。プラスミドをDH5α大腸菌で増殖させ、Plasmid Maxi Kit(Qiagen(カリフォルニア州バレンシア)から購入)により、製造者の指示に従って精製した。
【0051】
ペプチドは標準的なFmoc法によって合成した。アミノ酸誘導体および樹脂はNovaBiochem(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。他の試薬および化学薬品は全てAldrich chemical Co.から購入した。1(図2)は、参照により本明細書に組み入れられる米国仮特許出願第60/507,161号(2003年9月29日出願)の手法に従って合成した。
【実施例2】
【0052】
ポリアセタールの合成
ポリアセタール1(1.5g)のジメチルホルムアミド(DMF)(100mL)溶液にアルゴンガスを3分間吹き込んだ。1.3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC,2.7g)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS,1.5g)を加えて、アルゴン雰囲気下で2日間、撹拌し続けた。沈殿物が生成し、それを濾過した。濾液をロータリーエバポレーションによって濃縮した。残渣をジクロロメタン(DCM,50mL)に再溶解し、懸濁物を濾過した。濾液をロータリーエバポレーションによって濃縮し、高真空下に置いて、ポリアセタール2(1.7g)を得た。
【実施例3】
【0053】
ポリアセタール-ペプチドの合成
ポリアセタール2(10mg)のジメチルスルホキシド(DMSO,1mL)溶液を、ペプチド(50mg)のPBS(10mL,希NaOH溶液でpH7〜8に調節)溶液に加えた。その混合物を2日間撹拌した後、ロータリーエバポレーションによって濃縮した。残渣を透析することにより、ポリアセタール-ペプチド3(図2)を得た。
【実施例4】
【0054】
ポリアセタール-ペプチドを使ったNT2細胞のトランスフェクション
5種類のポリアセタール-ペプチド試料、すなわちポリアセタール-GLP-(1-6)-H、ポリアセタール-RGD、ポリアセタール-mel-head-QQ、ポリアセタール-mel-head-QQ-Cys、およびポリアセタール-mel-headを、NT2細胞で試験した(図3)。2種類のポリマー試料、PEI1800およびスーパーフェクトを、それぞれ陰性および陽性対照として使用した。実験の前夜に1ウェルあたり1×104細胞の細胞密度で細胞を96ウェルプレートに播種した。実験当日に、各試料とDNAとの複合体を、32:1の試料:DNA比で調製した。各混合物15マイクロリットルを二つ一組にしてNT2細胞培養プレートに移した。次に、培養プレートを37℃の培養器に一晩保ち、24時間後に結果を観察した。予想どおり、陰性対照はトランスフェクションシグナルを何も示さず、陽性対照は約15〜20%のシグナルを示した。本発明者らのポリアセタール-ペプチドのうちの3つ、すなわちペプチドがGLP-(1-6)-H、mel-head-QQ、およびmel-head-QQ-Cysであるものは、膜を破壊してDNAプラスミドを細胞内に送達することができた。本発明者らの試料から観察された効率は約5〜10%とかなり良好だった(図1)。
【実施例5】
【0055】
ポリアセタール-ペプチドを使った293ヒト胎児腎臓細胞のトランスフェクション
ポリアセタール-ペプチドを使ったインビトロトランスフェクションを以下のように行なった。293ヒト胎児腎臓細胞(一般的な接着細胞)を24ウェル組織培養プレートに播種し(2×105細胞/ウェル)、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEM中で終夜インキュベートした。各ウェルについて、0.6μgのプラスミドDNA(例えばpCMV-EGFPプラスミドDNA)を含有するDNA溶液30μlに、ボルテックスしながら、ポリアセタール-ペプチド溶液(それぞれ異なる用量のポリアセタールを含有し、ポリアセタール対ポリヌクレオチド比は32:1(重量/重量))の30μlを滴下して加えた。ボルテックスしながらの滴下は極めて好ましいことがわかった。なぜならトランスフェクションの結果は混合条件に依存することがわかったからである。混合したDNAおよびポリアセタール-ペプチド溶液を室温で15分間インキュベートして、DNA-ポリアセタール-ペプチド複合体を形成させた。次に、DNA-ポリアセタール-ペプチド複合体60μLを各ウェルに加え、細胞を24時間インキュベート(37℃、7.5%CO2)した。このインキュベーション後に、GFPシグナルを後述するように検出した。市販のトランスフェクション試薬リポフェクトアミン 2000を、陽性対照として、製造者によって提供されたプロトコールに従って使用し、市販のトランスフェクション試薬ポリエチレンイミン-600ダルトン(PEI600)を陰性対照として使用した。
【実施例6】
【0056】
蛍光顕微鏡でのGFP観察
細胞内の緑色蛍光シグナルを蛍光顕微鏡(オリンパス、フィルター520nm)で観察した。10倍対物レンズを使って細胞を写真撮影した。トランスフェクトした培養内の、GFPシグナルを持つ細胞のパーセンテージを、最適なトランスフェクション剤量について、3視野のカウント数から決定した。ポリアセタール-GLP-(1-6)-H、リポフェクトアミン 2000(陽性対照)およびPEI-1800(陰性対照)を使ったp-EGFP-N1による293細胞のトランスフェクションについて得られた結果を図5に示す。これらの結果は、ポリアセタール-ペプチドのトランスフェクション効率が市販の薬剤であるポリ(エチレンイミン)-600ダルトンと比較してはるかに良好であることを示している。
【実施例7】
【0057】
マイクロプレート蛍光リーダーでのGFP観察
細胞内の緑色蛍光シグナルをマイクロプレート蛍光リーダー(モデルFLx800,Bio-Tek Instrument, Inc.,励起波長485nmおよび発光波長528nmのフィルター)で観察した。トランスフェクトした培養中のGFPシグナルをマイクロプレート蛍光リーダーで決定することにより、相対蛍光単位(RFU)を求めた。ポリアセタール-GLP-(1-6)-H、リポフェクトアミン 2000(陽性対照)およびPEI-1800(陰性対照)を使ったpCMV-EGFPによる293細胞のトランスフェクションについて得られた結果を図6に示す。これらの結果は、ポリアセタール-ペプチドのトランスフェクション効率が市販の薬剤であるポリ(エチレンイミン)-600ダルトンと比較してはるかに良好であることを示している。
【0058】
本発明の趣旨から逸脱することなく、数多くのさまざまな変更を加えうることは、当業者には理解されるだろう。したがって、上述した本発明の形態は単なる例示であって、本発明の範囲を限定しようとするものではないことを、明確に理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ポリアセタール-ペプチドおよび市販の試薬スーパーフェクト(陽性対照)を使ったプラスミドDNAによるNT-2ヒト胚性癌腫細胞のGFPトランスフェクションシグナル(%)をプロットした棒グラフを表す。これらの結果は、本発明者らのポリアセタール-ペプチドがNT-2細胞をトランスフェクトしたことを示している。ポリマー:DNAの比(重量比)は32:1である。
【図2】ポリアセタール-ペプチドの製造に関する好ましい反応スキームを表す。
【図3】ペプチドの連続したアミノ酸の好ましい配列を表す。
【図4】20の生体アミノ酸の構造を表す。
【図5】3種類のトランスフェクション剤、すなわちポリ(エチレンイミン)-600(左端)、ポリアセタール-GLP-(1-6)-H(中央)、およびリポフェクトアミン 2000(右端)による、GFPシグナルに基づく、293細胞のトランスフェクション結果を表す。
【図6】ポリ(エチレンイミン)-600、ポリアセタール-GLP-(1-6)-H、およびリポフェクトアミン 2000を使って形質転換された293細胞に関する相対蛍光単位を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチドを細胞に送達するための複合体であって、(a)ポリヌクレオチドおよび(b)生分解性ポリアセタール-ペプチドを含む複合体。
【請求項2】
ポリヌクレオチドがDNAおよびRNAからなる群より選択される、請求項1の複合体。
【請求項3】
ポリヌクレオチドがプラスミドDNA、アンチセンス、DNAオリゴマー、siRNA、リボザイム、およびアプタマーからなる群より選択される、請求項1の複合体。
【請求項4】
ペプチドが、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸を含む、請求項1の複合体。
【請求項5】
生分解性ポリアセタール-ペプチドが、(I)および(II):
【化1】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択され、
Xは、CH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2からなる群より選択され、
Yは、直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24からなる群より選択される]
からなる群より選択される式によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を含む、請求項1の複合体。
【請求項6】
ペプチドが、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ-COOH、NH2-GIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-CIGAVLKVLTTGLPALISWIRRRRRRRQQ-COOH、NH2-KRKRQQ-COOH、NH2-CKRKRQQ-COOH、NH2-CKRKR-COOH、NH2-HLVKGRG-COOH、NH2-CDCRGDCFC-COOH、NH2-RRRR-COOH、またはNH2-RRRRRRR-COOHからなる群より選択され、
Xが、CH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2からなる群より選択され、
Yが、直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10,C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24からなる群より選択される、請求項5の複合体。
【請求項7】
生分解性ポリアセタール-ペプチドが、(III)および(IV):
【化2】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択され、
Xは、CH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2からなる群より選択され、
Yは、直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24からなる群より選択され、
Wは脂肪酸部分であるか、ガラクトース、ラクトース、マンノース、トランスフェリン、抗体断片、およびRGDペプチドからなる群より選択されるターゲティングリガンドであり、
mおよびnは正の整数である]
からなる群より選択される式によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を含む、請求項1の複合体。
【請求項8】
請求項1の複合体を製造する方法であって、ポリアセタール-ペプチドおよびポリヌクレオチドを混合することを含む方法。
【請求項9】
ポリヌクレオチドを細胞に送達するための複合体を製造する方法であって、請求項5のポリアセタール-ペプチドを含む溶液を、ポリヌクレオチドを含む第2の溶液に混合することを含む方法。
【請求項10】
細胞をトランスフェクトするための方法であって、細胞を請求項9の複合体と接触させることを含む方法。
【請求項11】
式(I)または(II)によって表されるポリアセタール-ペプチド。
【請求項12】
(a)トランスフェクトされるべき細胞を固形支持体上に播種する段階、
(b)トランスフェクション用のポリヌクレオチドをポリアセタールペプチドと混合して請求項1の複合体を形成させる段階、
(c)ポリヌクレオチド-ポリアセタール-ペプチド混合物を、固形支持体上の、播種した細胞と接触させる段階、および
(d)トランスフェクションを可能にするために固形支持体をインキュベートする段階
を含む、細胞トランスフェクションの方法。
【請求項13】
ポリヌクレオチド対ポリアセタールペプチドの重量比が約1:4と1:50との間である、請求項12の方法。
【請求項14】
ポリヌクレオチド対ポリアセタールペプチドの重量比が約1:16と1:32との間である、請求項13の方法。
【請求項15】
ポリアセタールペプチドが、(I)および(II):
【化3】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンアミノ酸を含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択され、
Xは、CH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2からなる群より選択され、
Yは、直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24からなる群より選択される]
からなる群より選択される式によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を含む、請求項12の方法。
【請求項16】
ポリアセタール-ペプチドが、(III)および(IV):
【化4】

[式中、ペプチドは、20の生体アミノ酸から選ばれる、少なくとも1個以上のアルギニンまたはリジンを含む、2〜45個のアミノ酸の任意の連続した組み合わせから選択され、
Xは、CH2CH2、CH2CH2CH2CH2、CH2CH2OCH2CH2、およびCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2からなる群より選択され、
Yは、直鎖状または分岐鎖状のC4H8、C5H10、C6H12、C7H14、C8H16、C10H20、およびC12H24からなる群より選択され、
Wは脂肪酸部分であるか、ガラクトース、ラクトース、マンノース、トランスフェリン、抗体断片、およびRGDペプチドからなる群より選択されるターゲティングリガンドであり、
mおよびnは正の整数である]
からなる群より選択される式によって表される少なくとも一つの繰り返し単位を含む、請求項12の方法。
【請求項17】
固形支持体がマルチウェルプレート、ディッシュ、フラスコ、チューブ、スライドおよび植込み型装置からなる群より選択される、請求項12の方法。
【請求項18】
ポリヌクレオチドがDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドおよび化学修飾核酸からなる群より選択される、請求項12の方法。
【請求項19】
RNAが一本鎖または二本鎖である、請求項18の方法。
【請求項20】
RNAがリボザイムまたはsiRNAである、請求項18の方法。
【請求項21】
DNAが環状、線状または一本鎖オリゴヌクレオチドである、請求項18の方法。
【請求項22】
細胞が原核細胞または真核細胞である、請求項12の方法。
【請求項23】
真核細胞が酵母細胞、植物細胞または動物細胞である、請求項22の方法。
【請求項24】
動物細胞が哺乳動物細胞である、請求項23の方法。
【請求項25】
哺乳動物細胞が、造血細胞、ニューロン細胞、膵臓細胞、肝細胞、軟骨細胞、骨細胞、および筋細胞からなる群より選択される、請求項24の方法。
【請求項26】
ニューロン細胞がNT-2細胞である、請求項25の方法。
【請求項27】
細胞が完全に分化した細胞または前駆細胞/幹細胞である、請求項12の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−535311(P2007−535311A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500964(P2007−500964)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/005858
【国際公開番号】WO2005/085458
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】