説明

生理学的心臓パラメータをトレンド把握するための方法及び装置

本発明は、心臓内のインピーダンス測定値を用いて生理学的心臓パラメータをトレンド把握するために使用される標準回路を有する植込み型除細動器またはペースメーカに関する。トレンド情報は、心臓突然死(SCD)事象の始まりを予測するために使用され得る。SCD事象の始まりを予測できることによって、患者及び彼らの医師は、致命的な事象を前もって警告され、彼らが相応に対応できるようにする。トレンド情報は、また、心臓関連薬物の効能を予測し、うっ血性心不全の経過を監視し、心筋梗塞の発症を検知し、または、単に交感神経の緊張の変化を追跡するために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本システムは、概して、植込み型(インプラント可能な)除細動器及びペースメーカ、詳しくは、限定事項ではないが、心臓内のインピーダンス測定値を用いて生理学的パラメータをトレンド把握するために使用されるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、概して、4つの腔、左右心室及び左右心房に分かれている。血液は、右心房から三尖弁を経て右心室に通過する。心房腔及び心室腔は、心臓の腔の収縮及び弛緩の1つの完全な連続からなる心臓周期を経る。用語「心収縮期」は、心室の筋細胞が循環系内に血液を送出するために収縮する間の心臓周期の収縮相を表す。用語「心拡張期」は、心室の筋細胞が弛緩する間の弛緩相を表し、心房腔からの血液を心室腔に充満させる。拡張期充満の期間の完了後、新しい心臓周期の心収縮相が開始される。
【0003】
心臓周期を通じて、心臓は循環系全体に血液を送出することができる。心臓の効果的なポンプ作用は、5つの基本的要求条件に依存する。第一に、心筋の収縮は、一定の間隔で生起し同期していなければならない。第二に、心臓の腔を分離する弁は、血液が腔を通過する際に完全に開かなければならない。第三に、弁は漏れてはならない。第四に、心筋の収縮は力強くなければならない。第五に、心室は心拡張期の間に十分に充満されなければならない。
【0004】
正しく機能している時、人間の心臓は、生理学的に生成された電気インパルスに基づきそれ自身の固有の調律を維持する。しかし、心臓の収縮が一定の間隔で生起していないか、非同期である場合、心臓は不整脈であると言われる。不整脈の間、血液を効果的かつ効率的に送出する心臓の能力は危うくされる。多くの異なる種類の不整脈が識別されてきた。不整脈は、心房または心室のどちらかで起こり得る。不整脈は、心筋梗塞、心筋症または心炎といった状態の結果であるかもしれない。
【0005】
心室細動は、心臓の心室において起こる不整脈である。心室細動では、心室の種々の領域が非同期的に収縮する。心室細動の間、心臓は血液を送出することができない。正されなければ、血液を送出できず、それによって循環を維持できないことにより、致命的な結果を及ぼし得る。
【0006】
心室頻拍は、心臓の心室腔において起こる不整脈である。心室頻拍は、120ないし250の毎分心拍数の心室拍動数を特徴とし、心臓の心室内部での電気的または機械的な乱れに起因する。心室頻拍の間、拡張期充満時間は短縮され、心室収縮は、正常よりも同期しなくなり、従ってより効果的でなくなる。迅速に治療されなければ、心室頻拍は致命的な心室細動に発展し得る。
【0007】
上室性頻拍は、心房において起こる。これらの例は、心房頻拍、心房粗動及び心房細動を含む。特定の上室性頻拍の間、心房からの異所性心臓信号が極めて急速な拍動数で心室を駆動する。
【0008】
心臓突然死(SCD)は、心室細動、心室頻拍または、上室性頻拍のうちの1つといった心室または心房で起きている心調律の異常の結果であるかもしれない。心臓突然死は、毎年、約300000人の米国人を致命的に苦しめている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
慢性心疾患患者は、ペースメーカ、植込み型除細動器及びHF心臓再同期療法装置といった植込み型心臓装置を受け入れることができる。植込み型除細動器(ICD)は、不整脈状態が薬物によってコントロールできない患者のための通常の治療として使用されている。これらの装置は、SCDの発生をもたらし得る心調律の異常から患者を回復させる試みとして心臓に大きなショックを与える。現在のところ、これらの装置の内部にはSCDを確実に予測するものはまったく存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本書は、心臓内のインピーダンス測定値を用いて生理学的心臓パラメータをトレンド把握するために使用される標準回路を有する植込み型除細動器またはペースメーカを記載している。トレンド情報は、SCD事象の始まりを予測するために使用され得る。SCD事象の始まりを予測できることによって、患者及び彼らの医師は、致命的な事象を前もって警告され、彼らが相応に対応できるようにする。トレンド情報はまた、心臓関連薬物の効能を予測する、うっ血性心不全の経過を監視する、心筋梗塞の発症を検知する、または、単に交感神経の緊張(tone)の変化を追跡するために使用され得る。
【0011】
本発明の1実施形態において、心臓突然死(心臓の突然の停止)を予測する方法は、心臓内のインピーダンスを決定するステップと、決定されたインピーダンスから生理学的心臓パラメータを導出するステップと、一定の時間間隔にわたりパラメータをトレンドするステップと、心臓突然死事象の始まりを予測するステップと、を含んでいる。
【0012】
別の実施形態において、心臓突然死事象を予測するためのシステムは、心臓内のインピーダンスを測定する装置と、測定されたインピーダンスから生理学的心臓パラメータを導出する導出モジュールと、トレンドデータを生成するために一定の時間間隔にわたり導出されたパラメータをトレンドするモジュールと、を備えている。システムは、また、心臓突然死事象を予測するためにトレンドデータを分析する分析モジュールを備えることができる。
【0013】
さらなる実施形態において、心臓パラメータをトレンド把握する方法は、心臓内のインピーダンスを測定するステップと、心臓内のインピーダンスを用いて生理学的パラメータを求めるステップと、一定の時間にわたり心臓パラメータをトレンドするステップと、を含んでいる。
【0014】
さらに別の実施形態において、生理学的心臓パラメータをトレンドするための装置は、心臓内のインピーダンスを測定するインピーダンスモジュールと、測定されたインピーダンスを用いて心臓パラメータ値を計算するパラメータモジュールと、心臓パラメータ値を用いてトレンドデータを生成するトレンドモジュールと、を含んでいる。
【0015】
本発明を特徴づける上記及び種々の他の特徴、ならびに利益は、以下の詳細な説明を読み、図面を精査することで明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない図面において、同じ数字はいくつかの図を通じて実質的に類似の構成要素を示す。異なる添字を有する同じ数字は、実質的に類似の構成要素の異なる例を表す。図面は、本書において記載されている種々の実施形態を、限定としてではなく、例として概括的に例示している。
【0017】
以下の詳細な説明において、本願の一部を構成し、特定の実施形態または事例を示している添付図面を参照されたい。本発明の趣旨及び範囲を逸脱しなければ、これらの実施形態を組み合わせたり、他の実施形態を利用したり、また、構造的、論理的及び電気的変更を行うことができる。それゆえ、以下の詳細な説明は限定的な意味で解釈されてはならず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲クレーム及びそれらの等価物によって定義される。
【0018】
このシステム及び方法は、ペースメーカ、除細動器(ICD)、ペーサ/除細動器及び、標準のペーシングリード及び除細動リードを利用するマルチチャンバ及び/又はマルチサイト(シングルチャンバまたはマルチチャンバでの)心臓再同期療法(CRT)装置といった植込み型心調律管理(CRM)装置に関して記載される。そのような装置の動作を指令するソフトウェアは、生理学的心臓パラメータを生成するために装置によって収集される心臓内のインピーダンス測定値を利用する形で改修され得る。装置は、また、生成されたパラメータを時間にわたりトレンド把握するようにプログラムされ得る。トレンド情報は、心臓組織の交感神経活動の変化を表現し、それによって例えば、心臓突然死(SCD)事象の予測、患者が摂取している心臓関連薬物の効能、心筋梗塞の検知、または患者におけるうっ血性心不全の経過といった特定の生理学的指標を追跡するために使用され得る。例えば、あるトレンドが時間にわたる全体的な交感神経活動の緩徐な減少を示すかもしれないし、別のトレンドが所与の期間持続していた交感神経活動の急激な低下を示すかもしれないし、さらに別のトレンドが、心臓が特定の活動の間において反応する様態に関連し得る一日のうちの特定の時間の交感神経活動のスパイクを示すかもしれない。特定のトレンドが(上述のような)特定の生理学的指標を指示し得るので、本発明のシステムは、特定の生理学的指標の生起をトレンド情報から識別するように構成され得る。そのような生理学的パラメータは、システムがトレンド情報に基づき1つ以上の特定の指標を識別し追跡するように構成され得る範囲で、“所定の生理学的指標”と呼ぶことができる。
【0019】
交感神経活動は、自律神経系、特に心筋の収縮を調節する交感神経の活性化のレベルをいう。増大した交感神経活動(または緊張)は、特発的な命にかかわる不整脈及びSCDの発生の重要な一因である。時間にわたる特定の患者の活動(運動または睡眠といった)の間における交感神経活動の変化は、患者及び彼らの医師に重要な情報をもたらし得る。
【0020】
心収縮性に対するそれらの影響を推論することによって交感神経活動に対する洞察を与える心臓内のインピーダンス測定値から生成され得るいくつかの生理学的心臓パラメータが存在する。3つの例示的なパラメータは、一回拍出量、駆出率及び前駆出期(PEP)である。“一回拍出量”は、1回の拍動において心臓の心室から送出される血液の量をいう。“駆出率”は、心臓が心収縮期の間に空にする血液の量と心拡張期の終わりの心臓内の血液の量との百分率として表される比率をいう。“前駆出期”は、電気機械的心収縮の始まりと左心室の駆出の始まりとの間の待ち時間を示す。
【0021】
1例において、交感神経活動が増大するとPEPは短縮することが知られている。この短縮したパラメータは、心臓内のインピーダンスを通じて測定され得る。従って、もし患者が心筋梗塞(MI)に襲われたか、またはすでに心筋梗塞を経験していた場合、電気的リモデリングが心臓において生じるはずである。このリモデリングは、(ある程度の時間間隔にわたる短縮したPEP値によって検出される)増大した平均交感神経活動として現れ、最終的に致命的な不整脈として、さらにはおそらく心臓突然死として現れ得る。
【0022】
以下は、特定の生理学的指標を追跡するために使用される心臓内のインピーダンスに基づく生理学的心臓パラメータを生成及びトレンド把握する種々のシステム及び方法の詳細な説明である。図1は、本発明のシステム100の一部の1実施形態及びそれが使用される環境を概括的に例示している概略/ブロック図である。この実施形態において、システム100は、特にCRM装置105を備えており、これはリード110、112、137によって心臓114に接続されている。心臓114は、4つの腔、右心房116、右心室118、左心房120及び左心室122を備えている。心臓114は、また、冠状静脈洞124、右心房116から左心室自由壁の方へ延びる血管を備え、そしてそれは、この文書の都合上、大心静脈及び/又は支脈管を含むとみなされる。
【0023】
リード110は、チップ電極126及び/又はリング電極128といった右心房116と関係づけられた電極を備えることができる。電極は、心臓腔に挿入されるか、その心臓腔の近くにある心臓の脈管構造の一部に挿入されるか、その心臓腔の外側で心外膜部に置かれるか、又は、心臓腔に関して信号を感知する及び/又は療法を提供するために電極を構成し配置する他のいずれかの技法によって、特定の心臓腔と“関係づけ”られる。
【0024】
冠状静脈洞124及び/又は大心静脈もしくはその支脈の1つに導入されるリード112は、チップ電極130及び/又はリング電極132といった左心室122と関係づけられた1つまたは複数の電極を備える。リード137は、チップ電極138及び/又はリング電極140といった右心室と関係づけられた1つまたは複数の電極を備える。
【0025】
装置105は、また、ハウジング電極134及び/又はヘッダ電極136といった他の電極も備えることができ、これらは、特に、心臓115と関係づけられた1つ以上の電極126、128、130、132、138、140と連係した心臓信号の単極感知または収縮誘発刺激の単極供給に有用である。電極134、136は、当業界では“カン”電極(“can” electrode)と呼ばれることもあり、もって、心臓に配置された電極126、128、130、132、138、140が“カン”電極と照合されるか、または通信することができる。代替として、双極感知及び/又は療法が、電極126と128との間、電極130と132との間、電極138と140との間、または、電極126、128、130、132、138、140のいずれか1つと別の近接して配置された電極との間で、使用され得る。実際には、必要なインピーダンス測度を得るために心臓内部に配置された電極を“カン”電極と組み合わせることに加えて、心臓内部に配置された単極及び双極電極のいずれかの組合せが使用され得る。
【0026】
装置105は、以下に述べるように、モジュール、プロセスステップ及び構成要素によって表現され得るいくつかの特徴を備えることができる。例えば、装置105は、心臓腔の収縮に対応する電気的分極及び心臓内のインピーダンスを感知するための電極126〜136のうちの1つ以上と結合されている測定モジュール142を備えることができる。装置105はまた、パラメータモジュール144、トレンド把握モジュール146、分析モジュール148、及び、心臓内のインピーダンスの追跡することと導出された生理学的パラメータの時間にわたってトレンド把握することとに関連する他のモジュールまたは機能を備えることができる。例えば、装置105は、該装置105と、例えば外部プログラマ152、外部記憶装置154または外部分析モジュール156といった外部ソースと、の間で通信を行うために送受信装置150を備えることができる。
【0027】
ここで図2を参照すると、生理学的心臓パラメータをトレンド把握する例示的なシステムまたは装置200の1実施形態が提供されている。システム200は、測定モジュール210と、パラメータモジュール230と、トレンド把握モジュール250とを備えることができ、場合によってはさらに分析モジュール270を備えることができる。ここでモジュール210、230、250、270を図3〜図6に関してさらに説明する。本質的に、測定モジュール210は患者における心臓内のインピーダンス値を測定することができ、パラメータモジュール230は測定されたインピーダンス値を用いて生理学的心臓パラメータを計算するかまたは導出することができ、トレンド把握モジュール250は導出されたパラメータ値を用いてトレンドデータを生成することができ、そして分析モジュール270は所定の生理学的指標を追跡するためにトレンドデータを分析することができる。ある実施形態において、分析モジュール270は、図1に図示された装置105のような、測定モジュールとトレンド把握モジュールとパラメータモジュールとを備える装置の一部である。他の実施形態において、分析モジュール270は、図1に例示されたモジュール156のような、測定モジュールとパラメータモジュールとトレンド把握モジュールとが配置されている装置とは別の場所でトレンドデータを分析する外部分析モジュールであってもよい。また、他の実施形態において、システム200は、送受信装置150、コントローラ(図示せず)、シグナルジェネレータ(図示せず)などといった他のモジュールまたは構成要素が測定モジュール、パラメータモジュール、トレンド把握モジュール及び分析モジュールに組み込まれない場合、該他のモジュールまたは構成要素を備えることができる。
【0028】
図3は、本発明のトレンド把握装置200に関連する際の測定モジュール210のいくつかの機能及び能力を例示する。測定モジュール210は、心臓内部でのリードの正しい位置を確認する(212)、一定の時間間隔でリードの電極間に電流を通す(214)、リードの電極間の電圧を測定する(216)、測定された電圧からインピーダンス値を計算する(218)、及びインピーダンス値を記憶する(220)、といった機能を実行することができる。
【0029】
心臓内部でのリードの正しい位置を確認すること(212)は、図1の腔116〜122といった心臓腔の内部でリード(リード126、128)が正しく配置されていることを確認したり、または、図1に図示された血管124といった心臓の血管の内部でリード(リード130、132)が正しく配置されていることを確認することを含み得る。リードの正しい位置の確認(212)は、装置200の操作者が測定を開始するために該装置を作動させた時にリードの位置は正しいと仮定されているときは、測定モジュールにとって必須の機能ではない。しかし、場合によっては、リードが心臓で正しく配置されていることの確認は、測定モジュール210の感知機能の一部であり得る。
【0030】
一定の時間間隔でリードの電極に電流を通すること(214)は、心臓内部のリードの1つ以上の電極に、または、例えば図1に図示された電極134、136等の心臓の外部にある別個の電極の位置に電流を通し(図3のステップ215)且つ心臓内部に配置された電極に電流を通すことを含むことができる。電流は、一定の速度または一定の時間間隔でリードの電極に通される。電流がリードの電極に通される頻度は、リードの電極間で行われる電圧測定(216)と一致し得る。電圧測定は、また、リード電極と外部電極との間で行われ得る(217)。好ましくは、電流は、電圧測定があらゆる所望の時間に、または時間間隔で行われ得るように、電極に供給される。例えば、電圧測定は、一般に患者が眠っている間だけ、患者が運動している間だけ、または任意の日、週などの期間を任意の数だけ組合せて得られる時間だけに行うことができよう。
【0031】
測定された電圧は、その後、インピーダンス値を計算する(218)ために使用される。計算されたインピーダンス値は、図4に図示のパラメータモジュール230に直接送られるか、装置200内部に記憶されるか、または記憶のために外部ソースへ転送され得る。インピーダンス値を記憶する(220)ことは、電圧及びインピーダンス値に関連した変数を反映する配列または類似のフォーマットにインピーダンス値を記憶することを含み得る。
【0032】
パラメータモジュール230は、インピーダンス値を収集する(232)、設定時間間隔にわたりインピーダンス値を平均する(234)、計算されたインピーダンス値を用いてパラメータ値を計算する(236)、計算されたパラメータ値を記憶する(238)、そして先進患者管理システムに転送する(242)または別の外部ソースに転送する(244)等の計算されたパラメータ値を転送する(240)、といった機能を実行することができる。
【0033】
インピーダンス値を収集することは、例えばインピーダンス値の記憶された配列から記憶されたインピーダンス値にアクセスすることを含むことができる。インピーダンス値は、パラメータ値を計算するために使用される前に設定時間間隔にわたり平均されるか、またはパラメータ値に直接算出される。設定時間間隔にわたりインピーダンス値を平均する(234)ことは、例えば、日ごとに、週ごとに、または他の所望の設定時間間隔でインピーダンス値を平均することを含み得る。計算されたパラメータ値は、装置200による以後の処理のために、または外部ソースへのパラメータ値の以後の転送のために装置200の内部で記憶され得る。計算されたパラメータ値は、また、患者管理システムに、又は、他の実施形態においてモジュール250、270のトレンド把握及び分析機能を実行し得る外部ソースに直接転送され得る。
【0034】
図5に図示されたトレンド把握モジュール250は、いくつかの機能を実行することができる。例えば、トレンド把握モジュール250は、パラメータ値を収集する(252)、収集されたパラメータ値を設定時間間隔にわたりトレンド把握する(254)、異なる時間のトレンドを比較する(256)、データを患者管理システムに転送する(258)、データを外部ソースに転送する(260)、設定時間間隔にわたりパラメータ値を平均する(262)、そして設定時間間隔にわたり平均パラメータ値をトレンド把握する(264)ことができる。
【0035】
パラメータ値を収集する(252)ことは、パラメータモジュール230によって記憶された全部のパラメータ値を収集するか、特定の時間間隔で特定のパラメータ値だけを収集することを含むことができる。収集したパラメータ値を設定時間間隔にわたりトレンド把握する(254)ことは、どのパラメータ値が収集されるかということと一致し得る。収集したパラメータ値をトレンド把握することは、例えば、24時間の期間中の毎時間の、1週7日間の毎日の、所与の月の間の各週の、または1年間の間の各月などの、平均パラメータ値の変化といった、特定の時間間隔にわたるパラメータ値の変化を決定することを含むことができる。“トレンド”とは、一般に、例えば時間にわたる正味の増加、時間にわたる段階的な漸増、時間にわたる一定の値などといった、ある期間にわたるパターンとして定義され得る。異なる時間のトレンドを比較する(256)ことは、必ずしもトレンド把握モジュール250の全部の実施形態において必要とされないかもしれない。
【0036】
上述の通り、設定時間間隔にわたりパラメータ値を平均する(256)ことは、設定時間間隔にわたりトレンド把握する(264)ために使用される。従って、特定のパラメータ値または平均パラメータ値のどちらかがトレンドデータを得るために比較される。トレンドデータは、先進患者管理システム258に、又は、装置200と関係づけられる別の外部ソース260に転送される。
【0037】
トレンド把握モジュール250によって出力されたトレンドデータは、いくつかの異なる方式で分析され得る。例えば、トレンドデータは、装置200の一部である分析モジュール270によって分析され得る。他の実施形態では、装置200から独立している図1の外部分析モジュール156のような個別の、またはいずれかの形式の分析システムまたはモジュールが、トレンドデータの分析を実行することができる。
【0038】
分析モジュール270は、図6に図示されたもののようないくつかの機能を実行することができるとしてよい。例えば、分析モジュール270は、トレンドデータを収集する(272)、トレンドデータを比較する(274)、トレンドデータにおける相違を検出する(276)、そしてトレンドデータを患者管理システムへ転送する(278)ことができる。分析モジュール270は、また、交感神経活動の変化を追跡する(280)、薬剤療法の効果を監視する(282)、うっ血性心不全の経過を監視する(284)、心筋梗塞の発症を検知する(286)、心臓突然死事象を予測する(288)、結果を記憶する(290)、そして結果を外部ソースへ転送する(292)ことができる。トレンドデータを収集する(272)、トレンドデータを比較する(274)、及びトレンドデータの相違を検出する(276)機能は、トレンド把握モジュール250によって生成されたトレンド情報のさらなる分析及び処理を含むことができ、それらの結果は、例えば先進患者管理システムに転送される(278)、または別の外部ソースに転送され得る(292)。収集、比較及び検出されたトレンドデータは、指標280〜288といった特定の生理学的指標を追跡するために使用される。
【0039】
分析モジュール270によって分析されたトレンドデータは、一般に、交感神経活動(緊張)を追跡または監視する(280)ために使用され得る。トレンドデータから推測された交感神経活動の変化は、医師にとって有用な診断情報となり得る。例えば、トレンドデータは、交感神経活動を変更するために患者に与えられている薬剤または神経刺激療法の効果を監視するために使用され得る。トレンドデータはまた、患者におけるうっ血性心不全の経過を監視するために使用され得る。心臓内のインピーダンスに関連するトレンドデータを監視することは、R−R間隔周波数スペクトル(従来のアプローチ)の代わりに、またはそのような周波数に基づいた交感神経の緊張測定を増補するために使用されるであろう。
【0040】
トレンドデータは、また、心筋梗塞の発症を検知する(286)ことにも有用となり得る。この種の検知が可能であるのは、心筋梗塞が一般に、心臓交感神経密度の増大を招く電気的リモデリングを誘発するからである。従って、心筋梗塞の発症を検知することは、3つの心筋梗塞例のうちの1つは患者に気づかれないと考えられるということを調査が示していることから、重要となり得る。加えて、心筋梗塞は通常、心臓突然死事象(SCD)の最終的な前兆である。
【0041】
トレンドデータの別の用途はSCDを予測することにあり得る。上述のような生理学的パラメータにおける特定の形式のトレンドから推論され得るように、交感神経活動の変化はSCDの始まりを指示し得る。患者または患者の医師が(トレンドデータによって示される)時間にわたる交感神経活動の増大を早期に認識することによって、早期治療の機会を患者に提供することができる。
【0042】
ある実施形態において、システム200の分析モジュールは、外部ソースへの以後の伝送のために装置200の内部で結果を記憶するか、または結果をただちに先進患者管理システムへ転送することができる。一部の先進患者管理システムは、例えば特定のしきい値になった場合に、患者または患者の医師に警戒を促すことができるアラームまたは類似のインジケータを備えることができる。他の患者管理システムは、患者データを一定の時間間隔で自動的に送るかまたは、データをリアルタイムで連続的に送るために、例えば電気通信システム、固定陸上通信線または無線ネットワークシステムによるインターネット、または衛星システムといった通信システムに接続されるように構成されている。
【0043】
生理学的パラメータをトレンド把握する方法の1例が図7に図示されている。方法300は、心臓内のインピーダンスを測定するステップ310、生理学的心臓パラメータを導出するステップ330、導出された生理学的パラメータをトレンド把握するステップ350、及び所定の生理学的指標を追跡するためにトレンドデータを分析するステップ370を含むことができる。ステップ310、330、350及び370の各々は、それぞれモジュール210、230、250及び270に関して、また概括的にシステム100及び200に関して説明したそれらの機能に一致するステップまたは機能を含むことができる。
【0044】
上述のシステム及び方法によって実行される機能は、植込み型心調律管理装置といった単一の一体装置によって実行される。上述の方法のステップ及び装置に関連した機能を実行するための命令は、コンピュータ実行可能な命令を有するコンピュータ可読媒体に記憶される。本発明はまた、上述の方法ステップ及びシステム機能を実行するコンピュータプログラムを実行するための命令のコンピュータプログラムを実行するための命令のコンピュータプログラムをコード化し、且つ、コンピュータシステムによって読み取り可能な搬送波において具現化されているコンピュータデータ信号をも含むことができる。
【0045】
ある例において、現在市販されている種々の心調律管理(CRM)装置は、本発明を実施するために改修され得る。例えば、所与のCRM装置が必要な心臓内のインピーダンス測定を実行することができるハードウェアを備える場合、システムのソフトウェアは、本発明によって必要とされるインピーダンス測定、パラメータ導出、トレンド把握及び分析機能を実行するソフトウェアに改修または増補される。
【0046】
以上の説明は、限定的ではなく、例示的であるように意図されていることは理解できよう。例えば、上記の実施形態は互いに組み合わせて使用される。多くの他の実施形態は、上記の説明により当業者には明白となるであろう。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって権利が与えられる等価物の完全なる範囲とともに、該特許請求の範囲に関して決定されなければならない。添付の特許請求の範囲において、用語“を含む”及び“であって”は、それぞれ、用語“から成る”及び“において”の平易な相当語として使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】特に、生理学的心臓パラメータをトレンド把握するためのインピーダンスセンサの一部の1実施形態及びそれが使用される環境を概括的に例示している概略/ブロック図である。
【図2】特に、生理学的心臓パラメータをトレンド把握するためのインピーダンスセンサの一部の1実施形態を概括的に例示している概略/ブロック図である。
【図3】特に、図2のインピーダンスセンサの測定モジュールの別の部分の1実施形態を概括的に例示している概略/ブロック図である。
【図4】特に、図2のインピーダンスセンサのパラメータモジュールの別の部分の実施形態を概括的に例示している概略/ブロック図である。
【図5】特に、図2のインピーダンスセンサのトレンド把握モジュールの別の部分の実施形態を概括的に例示している概略/ブロック図である。
【図6】特に、図2のインピーダンスセンサの分析モジュールの別の部分の実施形態を概括的に例示している概略/ブロック図である。
【図7】特に、インピーダンスセンサの一部の別の実施形態を概括的に例示している概略/ブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓突然死を予測する方法であって、
心臓内のインピーダンスを決定するステップと、
前記決定されたインピーダンスから生理学的心臓パラメータを導出するステップと、
前記導出された生理学的心臓パラメータを一定の時間間隔にわたってトレンドするステップと、
心臓突然死事象の始まりを予測するステップと、
から成る方法。
【請求項2】
前記トレンドするステップはトレンドされたデータを生成し、前記予測するステップは前記トレンドされたデータに基づいていることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記予測するステップは、
前記生理学的心臓パラメータのトレンドを比較するステップと、
前記トレンド間の相違を検出するステップと、
から成ることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項4】
前記生理学的心臓パラメータは、一回拍出量と駆出率と前駆出期とから成る群から選定されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項5】
前記導出するステップは、
患者が安静にしている時にパラメータを導出するステップと、
患者が安静にしていない時にパラメータを導出するステップと、
から成ることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項6】
前記トレンドするステップは、安静時に得られた前記パラメータと前記患者が安静にしていない時に得られた前記パラメータとの相違を検出するステップから成ることを特徴とする請求項5の方法。
【請求項7】
前記心臓内のインピーダンスを決定するステップは、インプラント装置で前記心臓内のインピーダンスを測定することから成り、前記測定は、前記インプラント装置の2つの電極間に電流を流すことと、前記電流を流した結果生じ、前記心臓内のインピーダンスを計算するために使用される電圧を測定することと、によって行われることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項8】
心臓突然死事象を予測するためのシステムであって、
心臓内のインピーダンスを測定する測定装置と、
前記測定されたインピーダンスから生理学的心臓パラメータを導出する導出モジュールと、
トレンドデータを生成するために一定の時間間隔にわたって前記導出されたパラメータをトレンドするトレンドモジュールと、
から成るシステム。
【請求項9】
前記システムは、更に、心臓突然死事象の始まりを予測するために前記トレンドデータを分析する分析モジュールから成ることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項10】
トレンドの分析は、前記トレンドを比較することと、前記トレンド間の相違を検出することと、から成ることを特徴とする請求項9のシステム。
【請求項11】
前記システムは、更に、前記トレンドを外部ソースに報告する報告モジュールから成ることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項12】
前記報告モジュールは、心臓突然死事象の始まりを予測するトレンドを報告することを特徴とする請求項11のシステム。
【請求項13】
前記導出モジュール及びトレンド装置はインプラント測定装置とともにパッケージにされていることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項14】
前記パッケージは人体にインプラントできることを特徴とする請求項13のシステム。
【請求項15】
前記システムは、更に、前記トレンドデータを記憶するための装置から成ることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項16】
前記生理学的心臓パラメータは、一回拍出量と、駆出率と、前駆出期とからなる群から選定されることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項17】
前記生理学的心臓パラメータは、交感神経及び副交感神経の活動に相関していることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項18】
前記システムは、前記トレンドデータを別個の記憶装置にダウンロードすることを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項19】
インプラント装置は、2つの電極間に電流を流して、前記電流を流した結果生じ、前記心臓内のインピーダンスを計算するために使用される電圧を測定することによって、前記心臓内のインピーダンスを測定することを特徴とする請求項8のシステム。
【請求項20】
前記電極は、少なくとも1つの単極リード及び遠隔装置の一部であることを特徴とする請求項19のシステム。
【請求項21】
前記電極は、少なくとも1つの双極リードの一部であることを特徴とする請求項19のシステム。
【請求項22】
前記電極は、少なくとも1つの単極リード及び双極リードの一部であることを特徴とする請求項19のシステム。
【請求項23】
前記電極は、少なくとも1つの双極リード及び遠隔装置の一部であることを特徴とする請求項19のシステム。
【請求項24】
心臓パラメータをトレンドする方法であって、
心臓内のインピーダンスを測定するステップと、
前記測定されたインピーダンスを用いて生理学的心臓パラメータを導出するステップと、
前記導出されたパラメータを時間にわたりトレンドするステップと、
から成る方法。
【請求項25】
前記測定するステップは、心臓内部に配置されたリードに電流を流すことと、前記流された電流の結果としての電圧を決定することと、前記電圧に基づきインピーダンスを計算することと、から成ることを特徴とする請求項24の方法。
【請求項26】
前記インピーダンスは一定の時間間隔で測定されることを特徴とする請求項24の方法。
【請求項27】
前記生理学的心臓パラメータは、交感神経活動を示すことを特徴とする請求項24の方法。
【請求項28】
前記トレンドするステップはトレンドデータを生成し、前記方法は、更に、所定の生理学的指標を追跡するために前記トレンドデータを分析するステップから成ることを特徴とする請求項24の方法。
【請求項29】
前記所定の生理学的指標を追跡することは、心臓突然死事象を予測することから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項30】
前記所定の生理学的指標を追跡することは、薬剤療法を監視することから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項31】
前記所定の生理学的指標を追跡することは、心筋梗塞の発症を検知することから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項32】
前記所定の生理学的指標を追跡することは、うっ血性心不全の経過を監視することから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項33】
前記導出するステップは、前記測定されたインピーダンスを用いて前記パラメータを計算することと、前記計算されたインピーダンス値を配列に記憶すること、とから成ることを特徴とする請求項24の方法。
【請求項34】
前記トレンドするステップは、前記配列に記憶されたパラメータ値を比較することから成ることを特徴とする請求項33の方法。
【請求項35】
前記方法は、更に、前記所定の生理学的指標のしきい値が合致したことを前記トレンドデータが示した時に信号を生成するステップから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項36】
前記方法は、更に、通信システムを用いて前記トレンドデータを伝送するステップから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項37】
前記方法は、更に、前記トレンドデータを患者管理システムに伝送するステップから成ることを特徴とする請求項28の方法。
【請求項38】
前記測定するステップと、前記導出するステップと、前記トレンドするステップとは、一体のインプラント装置によって完了されることを特徴とする請求項24の方法。
【請求項39】
請求項24に記載の方法のためのコンピュータ実行可能命令を有するコンピュータ可読媒体。
【請求項40】
請求項24に記載の方法を実行するコンピュータプログラムを実行するための命令のコンピュータプログラムを実行するための命令のコンピュータプログラムをコード化し、コンピュータシステムによって読み取り可能な搬送波において具現化されたコンピュータデータ信号。
【請求項41】
生理学的心臓パラメータをトレンドするための装置であって、
一定の時間間隔で心臓内のインピーダンスを測定するインピーダンスモジュールと、
前記測定されたインピーダンスを用いて心臓パラメータ値を計算するパラメータモジュールと、
前記計算されたパラメータ値を用いてトレンドデータを生成するトレンドモジュールと、から成る装置。
【請求項42】
前記パラメータ値は、一回拍出量と、駆出率と、前駆出期とからなる群から選定されるパラメータを示していることを特徴とする請求項41の装置。
【請求項43】
前記トレンドデータは心臓突然死事象を予測するために使用されることを特徴とする請求項41の装置。
【請求項44】
前記装置は、更に、所定の生理学的指標を追跡するためにトレンドデータを分析する分析モジュールから成ることを特徴とする請求項41の装置。
【請求項45】
前記所定の生理学的指標は、心臓突然死事象を予測することを含むことを特徴とする請求項44の装置。
【請求項46】
前記所定の生理学的指標は、うっ血性心不全の経過を監視することを含むことを特徴とする請求項44の装置。
【請求項47】
前記所定の生理学的指標は、心筋梗塞が発症したかどうかを決定することを含むことを特徴とする請求項44の装置。
【請求項48】
前記所定の生理学的指標は、患者に対する薬剤療法の効果を監視することを含むことを特徴とする請求項44の装置。
【請求項49】
前記所定の生理学的指標は、交感神経の緊張の変化を監視することを含むことを特徴とする請求項44の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−524462(P2007−524462A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517626(P2006−517626)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/020307
【国際公開番号】WO2005/002435
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(505003528)カーディアック・ペースメーカーズ・インコーポレーテッド (466)
【Fターム(参考)】