説明

生理活性ペプチド及びこれを含有する薬剤

配列番号1又は13で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、好ましくは配列番号2〜9、又は配列番号10、15〜17で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞細胞等の細胞の細胞増殖促進剤又は分化促進剤の有効成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は新規な生理活性ペプチドに関する。また本発明は、この生理活性ペプチドを有効成分とする薬剤に関する。本発明のペプチド及び薬剤は、医薬等の分野で有用である。
【背景技術】
シースリン(sheathlin)は、エナメルマトリクスに存在するタンパク質であり、アメロブラスチン(ameloblastin)やアメリン(amelin)とも呼ばれている。既にブタ、ヒト、ウシ、マウス、ラットのシースリンのアミノ酸配列が知られている(ラット切歯由来のアメロブラスチン:Krebsbach PH,Lee SK,Matsuki Y,Kozack CA,Yamada K and Yamada Y:Full−length sequence,localization,and chromosomal mapping of ameloblastin.A novel tooth specific gene.J Biol Chem,271:4431−4435,1996、ラット臼歯由来のアメリン:Cerny R,Slaby I,Hammarstrm L and Wuitz T:A novel gene expressed in rat ameloblasts codes for proteins with cell binding domains.J Bone Miner Res,11:883−891,1996、ブタ由来のシースリン:Hu CC,Fukae M,Uchida T,Qian Q,Zhang CH,Ryu OH,Tanabe T,Yamakoshi Y,Murakami C,Dohi N,Shimizu M and Simmer JP:Sheathlin:Cloning,cDNA/polypeptide sequences,and immunolocalozation of porcine enamel sheath proteins.J Dent Res,76:648−657,1997、ヒト、ウシ及びマウス由来のシースリン:Toyosawa S,Fujiwara T,Ooshima T,Shintani S,Sato A,Ogawa Y,Sobue S and Ijuhin N:Cloning and characterization of the human ameloblastin gene.Gene,256:1−11,2000)。
また、シースリン(ラット由来)の27位〜47位のアミノ酸配列(配列番号6に相当)を認識する抗体が開示されている(The Journal of Histochemistry & Cytochemistry 45(10),p1329−1340(1997)。しかし当該文献の開示は、ある特定の抗体がこのようなアミノ酸配列を認識するということに止まり、このようなアミノ酸配列からなるペプチド自体を製造したり、このペプチドを医薬用途等に使用したりすることについての開示や示唆はない。
また、アメリンに由来するテトラペプチドや、アメリンの各種医薬用途(歯周病の治療や予防、歯の病変の修復、骨要素の結合、硬組織の無機質化の促進や誘発、インプラントの骨への効果的な取り込み、インプラント器具等の生体適合性の改善等)が報告されている(特表平11−510377号公報)。しかしながら、後述する本発明ペプチドやその医薬用途等についての開示や示唆はない。
【発明の開示】
シースリンについては前記のような種々の医薬用途が知られているが、生物活性を有するシースリン内部のアミノ酸配列が特定され、そのアミノ酸配列からなるペプチドが取得できれば、シースリンの生物活性をより効果的に発揮できる医薬素材をより安価に提供することができる。
本発明は上記観点からなされたものであり、生物活性を有するシースリン由来のペプチド、及び当該ペプチドを有効成分とする医薬を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生物活性を有するシースリン内部のアミノ酸配列を特定し、このアミノ酸配列からなるペプチドを製造し、そのペプチドが種々の生物活性を示すことを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記のアミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチド(以下、「本発明ペプチド−N」という)を提供する。

(但し、X01はVal又はGlnを、X02はAla、Phe又はGlyを、X03はPhe又はLeuを、X04はPro又はLysを、X05はArg、Gln又はProを、X06はGln、Arg又はPheを、X07はPro、Ser又はLeuを、X08はアミノ酸残基が存在しないこと又はGly若しくはGlnを、X09はアミノ酸残基が存在しないこと又はAla、Gly若しくはProを、X10はアミノ酸残基が存在しないこと又はGln若しくはThrを、X11はアミノ酸残基が存在しないこと又はGly若しくはAlaを、X12はアミノ酸残基が存在しないこと又はMet若しくはAlaを、X13はGly、Ala又はThrを、X14はThr、Ile、Pro又はGlyを、X15はPro又はValを、X16はGly又はGlnを、X17はVal、Met又はGlyを、X18はAla又はThrを、X19はSer又はProを、X20はLeu又はGlnをそれぞれ示す。)
本発明ペプチド−Nは、下記のアミノ酸配列(配列番号2)からなるものであることが好ましい。

(但し、X21はAla又はPheを、X22はArg又はGlnを、X23はPro又はSerを、X24はThr又はIleを、X25はVal、Met又はGlyをそれぞれ示す。)
本発明ペプチド−Nは、下記(A)〜(G)のいずれかのアミノ酸配列からなるものであることが好ましい。

なかでも、上記(A)、(B)又は(G)のアミノ酸配列からなるものが好ましい。
また本発明は、下記のアミノ酸配列(配列番号13)からなるペプチド(以下、「本発明ペプチド−C」という)を提供する。

(但し、X26はAla又はValを、X27はGln又はHisを、X28はGln又はGluを、X29はIle、Met又はValを、X30はアミノ酸が存在しないこと又はLys若しくはMetを、X31はArg又はHisを、X32はAsp又はAsnをそれぞれ示す。)
本発明ペプチド−Cは、下記のアミノ酸配列(配列番号14)からなるものであることが好ましい。

(但し、X33はGln又はGluを、X34はIle又はMetを、X35はLys又はMetを、X36はArg又はHisをそれぞれ示す。)
本発明ペプチド−Cは、下記(H)〜(K)のいずれかのアミノ酸配列からなるものであることが好ましい。

なかでも、上記(H)又は(I)のアミノ酸配列からなるものが好ましい。
以下、本発明ペプチド−N及び本発明ペプチド−Cをまとめて、単に「本発明ペプチド」という。
また本発明は、本発明ペプチドを有効成分とする薬剤(以下、「本発明薬剤」という)を提供する。本発明薬剤は医薬であることが好ましい。
また本発明薬剤は細胞増殖促進剤又は細胞の分化促進剤であることも好ましい。増殖や分化を促進する対象となる「細胞」は、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞であることが好ましい。
また本発明薬剤は、骨若しくは軟骨の形成促進剤もしくは再生促進剤、又は歯周組織の形成促進剤もしくは再生促進剤であることも好ましい。
また本発明は、本発明ペプチドと、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩とを少なくとも含むことを特徴とする組成物(以下、「本発明組成物」という)を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明ペプチド−N(ブタ由来)の、PDL細胞(ヒト由来)に対する増殖促進作用を示す図である。
図2は、本発明ペプチド−C(ブタ由来)の、PDL細胞(ヒト由来)に対する増殖促進作用を示す図である。
図3は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、MC3T3細胞(マウス由来)に対する増殖促進作用を示す図である。
図4は、本発明ペプチド−N及び本発明ペプチド−Cブタ由来)の、PDL細胞(ヒト由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図5は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、PDL細胞(ヒト由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図6は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、PDL細胞(ヒト由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図7は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、ST2細胞(マウス由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図8は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、BMSSC細胞(ラット由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図9は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、MC3T3細胞(マウス由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図10は、本発明ペプチド−N(ブタ由来及びヒト由来)の、MC3T3細胞(マウス由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図11は、本発明ペプチド−N(ブタ由来)の、OCCM30細胞(マウス由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図12は、本発明ペプチド(欠失を加えたもの;ヒト由来)の、MC3T3細胞(マウス由来)に対する分化促進作用を示す図である。
図13は、本発明ペプチド(数アミノ酸を付加又は置換したもの;ヒト由来)の、ST2細胞(マウス由来)に対する分化促進作用を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
<1>本発明ペプチド
(1)本発明ペプチド−N
本発明ペプチド−Nは、下記のアミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチドである。本発明ペプチド−Nは、シースリンタンパク質のN末端側に存在するアミノ酸配列をもとに設計されたものである。

上記アミノ酸配列において、X01〜X20は、下記のアミノ酸残基を示す。
X01:Val又はGln
X02:Ala、Phe又はGly
X03:Phe又はLeu
X04:Pro又はLys
X05:Arg、Gln又はPro
X06:Gln、Arg又はPhe
X07:Pro、Ser又はLeu
X08:アミノ酸残基が存在しない、又はGly若しくはGln
X09:アミノ酸残基が存在しない、又はAla、Gly若しくはPro
X10:アミノ酸残基が存在しない、又はGln若しくはThr
X11:アミノ酸残基が存在しない、又はGly若しくはAla
X12:アミノ酸残基が存在しない、又はMet若しくはAla
X13:Gly、Ala又はThr
X14:Thr、Ile、Pro又はGly
X15:Pro又はVal
X16:Gly又はGln
X17:Val、Met又はGly
X18:Ala又はThr
X19:Ser又はPro
X20:Leu又はGln
本発明ペプチド−Nには、下記のアミノ酸配列(配列番号2)からなるペプチドが包含される。

上記アミノ酸配列において、X21〜X25は、下記のアミノ酸残基を示す。
X21:Ala又はPhe
X22:Arg又はGln
X23:Pro又はSer
X24:Thr又はIle
X25:Val、Met又はGly
そして本発明ペプチド−Nは、具体的には、下記(A)〜(G)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましい。


(2)本発明ペプチド−C
本発明ペプチド−Cは、下記のアミノ酸配列(配列番号13)からなるペプチドである。本発明ペプチド−Cは、シースリンタンパク質のC末端側に存在するアミノ酸配列をもとに設計されたものである。

上記アミノ酸配列において、X26〜X32は、下記のアミノ酸残基を示す。
X26:Ala又はVal
X27:Gln又はHis
X28:Gln又はGlu
X29:Ile、Met又はVal
X30:アミノ酸が存在しない、又はLys若しくはMet
X31:Arg又はHis
X32:Asp又はAsn
本発明ペプチド−Cは、下記のアミノ酸配列(配列番号14)からなるものであることが好ましい。

上記アミノ酸配列において、X33〜X36は、下記のアミノ酸残基を示す。
X33:Gln又はGlu
X34:Ile又はMet
X35:Lys又はMet
X36:Arg又はHis
そして本発明ペプチド−Cは、具体的には、下記(H)〜(K)のいずれかのアミノ酸配列からなるものであることが好ましい。

(3)本発明ペプチドの製造
本発明ペプチドは、そのアミノ酸配列が本発明により開示されたので、その配列に基づいてペプチドの公知の化学合成法(例えば液相合成法や固相合成法等;泉屋信夫、加藤哲夫、青柳東彦、脇 道典、「ペプチド合成の基礎と実験」1985、丸善(株)参照)により製造することが可能である。例えば、前記(A)(配列番号3)のアミノ酸配列からなるペプチドを固相合成法で製造する場合には、アミノ酸配列のC末端(16位)がロイシン残基であるから、α−アミノ基(Nα)−保護−ロイシンのカルボキシル基を直接、或いは場合によってはスペーサーを介して、クロロメチル基あるいはオキシメチル基を有する不溶性樹脂に結合させた後、Nα−保護基を除去し、アミノ酸配列の15位から1位までの各保護アミノ酸(Nα−及び側鎖官能基保護アミノ酸を、単に「保護アミノ酸」と略称する)を固相合成法に従って順次結合し、次いで不溶性樹脂およびアミノ酸のNα−及び側鎖官能基の保護基を脱離させて、前記(A)(配列番号3)のアミノ酸配列からなるペプチドを得ることができる。
本発明ペプチドを合成する場合に使用される前記のクロロメチル基あるいはオキシメチル基を有する不溶性樹脂及びスペーサー、場合により保護アミノ酸を該不溶性樹脂に結合した保護アミノ酸樹脂等は、公知の方法で調製でき、各種のものが市販されている。
前記不溶性樹脂としては、C末端の保護アミノ酸のカルボキシル基と直接、或いは場合によりスペーサーを介して、結合可能であり、かつ、その後脱離可能なものであれば如何なるものでもよい。かかる不溶性樹脂としては、例えば、Boc(t−ブチルオキシカルボニル)ストラテジーの場合は、クロロメチル樹脂(クロロメチル化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)、オキシメチル樹脂あるいはスペーサーを導入した4−オキシメチル−Pam(フェニルアセタミドメチル)−樹脂が、Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)ストラテジーの場合は、オキシメチルフェノキシメチル樹脂(Wang樹脂)及びこれらの誘導体等が好ましい。
保護アミノ酸とは、官能基を公知の方法により保護基で保護したアミノ酸であり、各種の保護アミノ酸が市販されている。
保護アミノ酸の結合は、通常の縮合法、例えば、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)法、DIPCDI(ジイソプロピルカルボジイミド)法[Tartar,A.ら;J.Org.Chem.,44、5000(1979)]、活性エステル法、混合あるいは対称酸無水物法、カルボニルジイミダゾール法、DCC−HONSu(N−ヒドロキシスクシンイミド)法[Weygand,F.ら、Z.Naturforsch.,B,21,426(1966)]、DCC−HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)法[Koenig,W.ら;Chem.Ber.,103、788、2024、2034(1970)]、ジフエニルホスホリルアジド法、BOP試薬(ベンゾトリアゾリル−N−ヒドロキシトリスジメチルアミノホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩)を用いるBOP−HOBt法(Hudson,D.,J.Org.Chem.,53,617(1988))、HBTU(2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート)−HOBt法(Knorr,R.ら,Tetrahedron Lett.,30,1927(1989))、TBTU(2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレイト)−HOBt法(Knorr,R.ら,Tetrahedron Lett.,30,1927(1989))等に従って行なうことができる。これらのうち、DCC法、DCC−HOBt法、BOP−HOBt法、HBTU−HOBt法、対称酸無水物法が好ましい。
これらの縮合反応は、通常、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒又はそれらの混合溶媒中で行なわれる。
α−アミノ基の保護基の脱離試薬としては、トリフルオロ酢酸/ジクロロメタン、HCl/ジオキサン、ピペリジン/DMF又はピペリジン/NMP等が用いられ、保護基の種類により適宜選択することができる。
また、合成の各段階における縮合反応の進行の程度はE.カイサーらの方法[Anal.Biochem.,34,595(1970)](ニンヒドリン反応法)によって検査することができる。
以上のようにして、所望のアミノ酸配列を有する保護ペプチド樹脂を得ることができる。
保護ペプチド樹脂は、フッ化水素、TFMSA(トリフルオロメタンスルホン酸)[Academic Press発行、E.Gross編集、Yajima,Hら;”The Peptides”5、65(1983)]、TMSOTf(トリメチルシリルトリフラート)[Fujii,N.ら;J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,274(1987)]、TMSBr(トリメチルシリルブロミド)[Fujii,N.ら;Chem.Pharm.Bull.,35、3880(1987)]、またはトリフルオロ酢酸などで処理することにより、該樹脂および保護基を同時に脱離させることができる。上記の脱離試薬は、用いたストラテジー(Boc又はFmoc)、樹脂および保護基の種類により適宜選択することができる。これら一連の方法によって本発明ペプチドを製造することができる。
また本発明ペプチドのアミノ酸配列に対応するポリヌクレオチド(DNAあるいはRNA)を製造し、当該ポリヌクレオチドを用いた遺伝子工学的手法によっても本発明ペプチドを製造することができる。
製造したペプチドは、タンパク質化学の分野において一般に知られているタンパク質の単離、精製方法によって精製することができる。具体的には、例えば抽出、再結晶、硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法、向流分配等や、これらの任意の組合せ等の処理操作が挙げられるが、逆相高速液体クロマトグラフィーによる方法が効果的である。
製造された本発明ペプチドは、例えば塩酸やメタンスルホン酸等の酸で加水分解して公知の方法でアミノ酸組成を調べることができ、これによって本発明ペプチドが正しく製造されたか否かを推定することができる。
より厳密には、製造されたペプチドのアミノ酸配列を、公知のアミノ酸配列決定法(例えばエドマン分解法等)により決定し、本発明ペプチドが正しく製造されたか否かを確認することができる。
なお、本発明ペプチドには塩の形態のものも包含される。後述するように、本発明ペプチドは医薬用途としても有用であることから、本発明ペプチドの塩は、医学的に許容される塩であることが好ましい。
本発明ペプチドは、酸付加により塩を形成しうる。このような塩としては、例えば無機酸(塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸など)または有機カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸など)、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸等の酸性糖、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸塩類、ヘパラン硫酸、ヘパリン、6位脱硫酸化ヘパリン、2位脱硫酸化ヘパリン、N−脱硫酸化ヘパリン、アルギン酸等の酸性多糖、または有機スルホン酸(メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸など)等が例示される。これらの塩のうち、医学的に許容される塩が好ましい。
また本発明ペプチドは、塩基性物質との塩を形成しうる。このような塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、又はジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩等の有機塩基との塩のうち、医学的に許容される塩が例示される。
また、本発明ペプチドを修飾したペプチドも本発明ペプチドに包含される。このようなペプチドとしては、例えばα−アミノ基やα−カルボキシル基を修飾したペプチドや、側鎖官能基を修飾したペプチド等が挙げられる。修飾としては、ペプチド化学の分野で一般的に用いられる修飾基や保護基による修飾、また光学異性体であるD−アミノ酸等による置換が挙げられる。
本発明ペプチド−Nのうち、前記(A)〜(G)のアミノ酸配列の関係を表1に示す。また本発明ペプチド−Cのうち、前記(H)〜(K)のアミノ酸配列の関係を表2に示す。アミノ酸残基は1文字記号で示した。またアミノ酸配列中の「−」はアミノ酸残基が存在していないことを示す。例えば(A)についてみると、この第8番目のアミノ酸残基は「P」であり、これがペプチド結合を介して第9番目のアミノ酸残基(G)と結合し、全体として16アミノ酸残基からなるペプチドを形成していることを示す。また、それぞれのアミノ酸配列を有するシースリン分子を保持する動物(由来)も併せて示した。


本発明ペプチドは、後述する実施例の記載から明らかなように、細胞増殖促進作用や細胞分化促進作用、特に骨芽細胞や歯根膜細胞等の細胞増殖促進作用や細胞分化促進作用を有することから、以下に詳述するような細胞増殖促進剤、細胞の分化促進剤、骨若しくは軟骨の形成促進剤又は再生促進剤、歯周組織の形成促進剤又は再生促進剤等の薬剤の有効成分として用いることができる。
<2>本発明薬剤
本発明薬剤は、本発明ペプチド(本発明ペプチド−N及び/又はペプチド−C)を有効成分とする薬剤である。本発明薬剤は、医薬であってもよく、実験や試験用の試薬であってもよいが、医薬であることが好ましい。
本発明薬剤は細胞増殖促進剤又は細胞の分化促進剤であることが好ましい。増殖や分化の促進の対象となる「細胞」は、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞であることが好ましい。この細胞増殖促進剤や細胞分化促進剤は、その有効成分である本発明ペプチドの作用によって優れた細胞増殖促進作用や細胞分化促進作用を発揮する。
また本発明薬剤は、このような本発明ペプチドの作用を利用して、骨若しくは軟骨の形成促進剤又は再生促進剤や、歯周組織の形成促進剤又は再生促進剤とすることもできる。
本発明薬剤の有効成分として用いる本発明ペプチドは、前記の「<1>本発明ペプチド」と同様である。
特に下記(A)〜(G)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。


特に(A)、(B)又は(G)のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
また、下記(H)〜(K)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドも好ましい。

特に(H)又は(I)のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明薬剤を構成する本発明ペプチドは、単一種類であってもよく、複数種類であってもよい。
本発明薬剤の有効成分である本発明ペプチドの純度は、本発明薬剤の目的に応じて適宜設定することができる。例えば本発明薬剤を医薬とする場合には、高純度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まない本発明ペプチドを用いることが好ましい。
本発明薬剤を医薬とする場合、その目的に応じて、注射(皮下、皮内、静脈内、腹腔内等)、点眼、点入、埋入、経皮、経口、吸入等、適宜投与方法を選択することができる。また投与方法に応じて注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、点眼剤、眼軟膏剤、座剤、ペッサリー等の剤形を適宜選択し、製剤化することができる。
本発明薬剤を医薬とする場合、そのエンドトキシン濃度は、溶液形態の剤とした場合においては0.3EU/mL以下であることが好ましい。エンドトキシン濃度は、当業者に周知慣用のエンドトキシン測定法を用いて測定することができるが、カブトガニ・アメボサイト・ライセート成分を用いるリムルス試験法が好ましい。なおEU(エンドトキシン単位)は、日本工業規格生化学試薬通則(JIS K8008)、又は米国薬局方等に従って測定・算出できる。
また本発明薬剤には、本発明ペプチドに悪影響を与えず、かつ、本発明の効果に悪影響を与えない限りにおいて、他の医薬活性成分(例えば、ヒアルロン酸)や、慣用の安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤等、通常医薬に用いられる成分を使用することができる。
本発明薬剤を医薬とする場合、その投与量は、投与の目的(予防、維持(悪化防止)、軽減(症状の改善)または治療)、疾患の種類、患者の症状、性別、年令、体重、投与部位、投与方法等によって個別に設定されるべきものであり特に限定されないが、成人1人1回あたり概ね、本発明ペプチドとして1pg/投与部位〜30mg/投与部位程度を投与することができる。また投与間隔は、例えば1日1回程度であってもよく、1日2〜3回に分けてもよく、1〜3日に1回程度であってもよい。
本発明薬剤を医薬とする場合、これが投与される動物も特に限定されないが、脊椎動物が好ましく、哺乳動物がより好ましく、ヒトが特に好ましい。
本発明薬剤を医薬とする場合、それぞれの用途に応じて、例えば以下のような動物に投与することができる。
細胞増殖促進剤として用いる場合には、細胞の増殖が望まれている状態にある動物に対して投与することができる。特に、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞の増殖が望まれている状態にある動物に投与されることが好ましい。このような細胞の増殖が望まれている状態としては、例えば歯周疾患、骨折、骨欠損、骨粗鬆症、関節疾患、整形外科的疾患(離断性骨軟骨炎、変形性膝関節症など)、腫瘍等に罹患している場合や、歯科治療(歯周治療など)、整形外科治療(培養細胞移植術、骨穿孔術、骨軟骨柱移植術など)、腫瘍摘出術による骨移植、骨補填が施された直後の状態等が例示される。
細胞の分化促進剤として用いる場合には、細胞の分化が望まれている状態にある動物に対して投与することができる。特に、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞の分化が望まれている状態にある動物に投与されることが好ましい。このような細胞の分化が望まれている状態の例示は、前記の細胞増殖促進剤における場合と同様である。
骨若しくは軟骨の形成促進剤又は再生促進剤として用いる場合には、骨若しくは軟骨の形成促進又は再生促進が望まれている状態にある動物に対して投与することができる。骨若しくは軟骨の形成促進又は再生促進が望まれている状態の例示は、前記の細胞増殖促進剤における場合と同様である。
歯周組織の形成促進剤又は再生促進剤として用いる場合には、歯周組織の形成促進又は再生促進が望まれている状態にある動物に対して投与することができる。歯周組織の形成促進又は再生促進が望まれている状態の例示は、前記の細胞増殖促進剤における場合と同様である。
また、本発明ペプチドを適当な不溶性担体の表面に固着させたり、適当な素材と混合したりすることによって、細胞増殖の促進や細胞の分化促進、骨組織・軟骨組織や歯周組織の形成促進又は再生促進、生体適合性の改善等を目的とする薬剤としてもよい。このような不溶性担体又は素材としては、ビーズ、フィルム、プレート、モノフィラメント、不織布、スポンジ、織物、編物、短繊維、チューブ、中空糸等をはじめとする種々の形状のものを使用できる。具体的には、医用複合材料としてインプラント、骨セメント、骨補填剤、根管充填剤、骨折プレート、人工関節等に用いることができる。本発明ペプチドは、再生医療分野における薬剤として応用することもできる。
このような素材の表面に本発明ペプチドを固着させる場合、その固着方法も特に限定されず、物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、包括法など固定化酵素の調製法として一般的な方法(固定化酵素、1975年、講談社発行、第9〜75頁参照)を利用することができる。
例えばポリスチレン系やポリプロピレン系の不溶性担体には、物理的に本発明ペプチドを固着させることができる。また、例えばポリアミド系、セルロース系、アガロース系、ポリアクリルアミド系、デキストラン系、ビニルポリマー系の不溶性担体には、化学的に本発明ペプチドを固着させることができる。化学的な固着(結合)方法としては、不溶性担体の芳香族アミノ基を利用してジアゾカップリングさせるジアゾ化法、不溶性担体の水酸基をCNBrで活性化してペプチド結合させるCNBr法、不溶性担体のヒドラジン誘導体等を用いてペプチド結合させる酸アジド法、ハロゲン等の反応性に富む不溶性担体の官能基を利用してペプチドをアルキル化するアルキル化法、グルタルアルデヒドのような遊離のアミノ基と反応する架橋試薬によって不溶性担体とペプチドの遊離のアミノ基との間を架橋する方法、カルボジイミド法、エポキシ活性化法、さらにこれらの方法を用いてスペーサーを介して結合させる方法等が挙げられる。これらの公知の結合法から、不溶性担体の種類に応じて適宜選択して本発明ペプチドの結合に利用することができる。
また、本発明薬剤を実験や試験用の試薬として用いる場合は、用途に応じて、本発明ペプチドはそのまま使用してもよく、他の成分と混合して用いてもよい。
<3>本発明組成物
本発明組成物は、本発明ペプチド(本発明ペプチド−N及び/又はペプチド−)Cと、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩とを少なくとも含むことを特徴とする組成物である。
本発明組成物の構成成分である本発明ペプチドは、前記の「<1>本発明ペプチド」と同様である。
特に下記(A)〜(G)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。


特に(A)、(B)又は(G)のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
また、下記(H)〜(K)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドも好ましい。

特に(H)又は(I)のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
本発明組成物を構成する本発明ペプチドは、単一種類であってもよく、複数種類であってもよい,
本発明組成物の構成成分である「ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩」の由来は特に限定されない。例えば、鶏冠、臍帯、ヒアルロン酸を産生する微生物等から分離、精製されたヒアルロン酸や、合成(例えば化学合成法や酵素合成法)によって製造されたヒアルロン酸のいずれをも用いることができる。ヒアルロン酸の分子サイズも特に限定されない。一例として、重量平均分子量60万〜120万のヒアルロン酸が例示される。例えば、分子量80万〜100万程度のヒアルロン酸が好ましい例である。
「ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩のうち、薬学的に許容される塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩であることが好ましい。
本発明ペプチドと、このような「ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩」を適宜混合することにより、本発明組成物を製造することができる。これら両者の混合比(組成物中の含有比率)も特に限定されない。尚、「本発明ペプチドと、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩とを少なくとも含む」とは、本発明のペプチドとして、ヒアルロン酸付加塩を用いる場合を含む。
本発明組成物は、溶液状態、凍結状態、乾燥状態(凍結乾燥状態等)のいずれの状態であってもよい。
本発明組成物中の不純物含量等も、使用目的に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないものが好ましい。
例えば、本発明組成物中のエンドトキシン濃度は、本発明組成物を溶液状態とした場合において0.3EU/mL以下であることが好ましい。本発明組成物中のエンドトキシン濃度は、前記と同様に当業者に周知慣用のエンドトキシンの測定法を用いて測定・算出することができる。また、鉄含量は20ppm以下であることが好ましい。
また本発明組成物には、本発明ペプチドに悪影響を与えず、かつ、本発明の効果に悪影響を与えない限りにおいて、他の医薬活性成分(例えば、ヒアルロン酸)や、慣用の安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤等、通常医薬に用いられる成分を使用することもできる。
このような本発明組成物は、医療用途に用いられることが好ましい
本発明組成物を医薬とする場合、前記本発明薬剤を医薬に用いるのと同様の用途に使用することができるが、特に、本発明ペプチドをある程度保持させる必要のある疾患、例えば歯周疾患、骨折、骨欠損、関節疾患、整形外科的疾患等の当該疾患部位に対してや、椎間融合術の際等に使用されることが好ましい。
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
<実施例1>本発明ペプチドの製造
株式会社ペプチド研究所に委託し、下記(a)〜(e)のペプチドを固相合成法により製造した。(a)はシースリンタンパク質(ブタ由来)のN末端側に存在するアミノ酸配列をもとに、(b)はシースリンタンパク質(ヒト由来)中の(a)に対応する部分のアミノ酸配列をもとに、(c)はシースリンタンパク質(ブタ由来)のC末端側に存在するアミノ酸配列をもとに、(d)及び(e)はいずれもシースリンタンパク質(ブタ由来)のN末端側とC末端側の中間領域に存在するアミノ酸配列をもとにそれぞれデザインしたペプチドである。ペプチド(a)、(b)及び(c)が本発明ペプチドに相当する。

製造したペプチド(a)及び(b)のアミノ酸分析結果(加水分解条件:6N HCl、110℃、22時間)を以下に示す。カッコ内の数字は理論値を示す。
ペプチド(a):Thr(1)0.94,Ser(1)0.89,Glu(1)1.00,Gly(2)2.05,Ala(2)2.07,Val(2)2.01,Leu(1)1.02,Phe(1)0.99,NH(1)1.13,Arg(1)0.98,Pro(4)4.00
ペプチド(b):Thr(1)0.94,Ser(2)1.77,Glu(2)2.00,Gly(2)1.97,Ala(1)1.00,Val(1)0.97,Met(1)0.98,Leu(1)0.99,Phe(2)1.96,NH(2)2.12,Pro(3)2.99
また、製造したペプチド(a)及び(b)の純度の検定結果(高速液体クロマトグラフィーにより算出)を以下に示す。いずれのペプチドも、高速液体クロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィー)の溶出パターンで単一のピークが認められた。
ペプチド(a):97.3%
ペプチド(b):96.4%
なお、高速液体クロマトグラフィーの条件は下記の通りである。
・カラム :Zorbax 300SB−C18(4.6mmI.D.x 150mm)(アジュレント社製)
・溶離液 :10〜60%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸(25分)
・流速 :1.0mL/分
・温度 :ペプチド(a)については25℃、ペプチド(b)については50℃。
・検出波長:220nm
また、製造したペプチド(a)及び(b)の分子量を、エレクトロスプレーイオン化マススペクトロメトリー(ESI−MS)によって分析した結果を以下に示す。
ペプチド(a):1593.6(理論値:1593.8)
ペプチド(b):1663.6(理論値:1663.9)
以上の結果から、ペプチド(a)及び(b)が正しく製造されていることが示された。
また、製造したペプチド(c)〜(e)についても同様に分析した結果、いずれも純度が98.0%以上で、高速液体クロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィー)において単一ピークを示し、アミノ酸分析値及び分子量も理論値とよく一致することが示された。このことから、ペプチド(c)〜(e)についても正しく製造されていることが示された。なお製造した(a)〜(e)のペプチドは、いずれも白色の凍結乾燥体であった。
また、上記ペプチド(b)の一部を欠いたペプチド(下記(f)〜(j)のペプチド)、上記ペプチド(b)のN末端及び/又はC末端に数アミノ酸残基が付加されたペプチド(下記(k)〜(m)のペプチド)、及び上記ペプチド(b)中の一部のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたペプチド(下記(n)のペプチド)を、前記と同様に固相合成法により製造した。ペプチド(n)が本発明ペプチドに相当する。


製造したペプチド(f)〜(n)についても同様に分析した結果、いずれも純度が98.0%以上で、高速液体クロマトグラフィー(逆相クロマトグラフィー)において単一ピークを示し、アミノ酸分析値及び分子量も理論値とよく一致することが示された。このことから、ペプチド(f)〜(n)についても正しく製造されていることが示された。なお製造した(f)〜(n)のペプチドも、いずれも白色の凍結乾燥体であった。
<実施例2>細胞を用いた薬効薬理試験
(1)細胞の調製
(i)ヒト由来の歯周靱帯由来細胞(PDL細胞)
PDL細胞は、矯正治療のために抜歯を目的として来院した患者(16.24歳)から歯周靱帯を可能な限り傷つけないようして注意深く抜去した健全小臼歯から分離して培養した。抜去した歯牙を、滅菌した生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;ニッスイ製)で洗浄後、歯根中央1/3に存在する歯周靱帯を尖刃刀を用いてそぎ落とした。これらの歯周靱帯をプラスチックシャーレに入れ替え、丸刃刀を用いてより小さな細片にした。組織片を35mm径のシャーレ(FALCON社製)中で静置し、抗生物質(100U/ml ペニシリンG、100μg/ml ストレプトマイシン及び250μg/ml ゲンタマイシン)及び10% ウシ胎仔血清(FBS;EQUITECH−BIO社製)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle medium;DMEM;ニッスイ製)中で、37℃、5% CO条件下で培養した。その後、歯周靱帯組織片から遊出してきた細胞を同様の条件下で継代培養し、3〜5代目の細胞を実験に用いた。
(ii)マウス由来の骨芽細胞
マウス由来の骨芽細胞として、MC3T3細胞株又はST2細胞株(RIKEN CELL BANKより入手)を用いた。
(iii)ラットの大腿骨骨髄由来間葉系幹細胞(BMMSC)
ラットの大腿骨骨髄由来間葉系幹細胞(BMMSC)を用いた。この細胞株は、Maniatopoulosらの方法(文献Maniatopoulos C,Sodek J and Melcher AH:Bone formation in vitro by stromal cells obtained from bone marrow of young adult rats.Cell tissue Res,254:317−330,1988)に従い、大腿骨を無菌的に摘出し、周囲軟組織を可及的に除去した。大腿骨近遠心位骨端を切断し、15S含有minimum essential medium alpha medium(αMEM;GIBCO)5mlを用いて、シリンジにて大腿骨骨髄組織を同培養液10ml中に射出した。得られた組織を15S含有αMEMにて37℃、5O条件下で培養、3〜5代目の細胞を実験に用いた。
(iv)マウス由来のセメント芽細胞
マウス由来のセメント芽細胞として、OCCM30細胞株(Bone.1999 Jul;25(1):39−47)を用いた。この細胞株は、Washington大学歯学部Somerman教授より供与された。
(2)細胞増殖に対する本発明ペプチドの作用
24ウエルの培養プレート(FALCON社製)に、(1)で調製したPDL細胞を5×10細胞/ウエルの割合で播種した。播種後1日間は10% FBSを含有するDMEM中で培養した。播種後1日目を0日目として、前記で製造したペプチド(a)を各種濃度で培養液(2% FBSを含有するDMEM)に添加した。4日目および6日目に0.08% トリプシンと0.04% エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有するPBSを用いて細胞を剥離分散し、コールターカウンター(COULTER Z1,Coulter Electronics社製)を用いて細胞数を計測した。
また、ペプチド(a)と、抗SPN16抗体(シースリン分子中に存在する配列番号3で示されるアミノ酸配列部分に結合する抗体;広島大学内田教授より供与)とを予め37℃で30分間プレインキュベートしたものについても同様に検討した。
また対照として、2% FBSを含有するDMEMについても同様に検討した。
結果を図1に示す。図1中の左側の棒グラフは4日目、右側の棒グラフは6日目における結果をそれぞれ示す。図1中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものを、「(抗)PN」はペプチド(a)と抗SPN16抗体とのプレインキュベート産物を添加したものをそれぞれ示す。また図1中の「pg」及び「ng」は、それぞれ「pg/ml」及び「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)を添加するとPDL細胞が有意に増加し、この作用は抗SPN16抗体(ペプチド(a)に結合する)によって抑制されたことから、ペプチド(a)には細胞増殖作用があることが示された。
また、ペプチド(c)についても同様に検討した。結果を図2に示す。図2中の左側の棒グラフは4日目、右側の棒グラフは6日目における結果をそれぞれ示す。図2中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを、「PC」はペプチド(c)のみを添加したものを、「(抗)PC」はペプチド(c)と抗SPC15抗体のプレインキュベート産物を添加したものをそれぞれ示す。また図2中の「pg」及び「ng」は、それぞれ「pg/ml」及び「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(c)を添加するとPDL細胞が有意に増加し、この作用は抗SPC15抗体(ペプチド(c)に結合する)によって抑制される傾向がみられたことから、ペプチド(c)には細胞増殖作用があることが示された。
また、ペプチド(a)及び(b)について、MC3T3細胞に対する細胞増殖作用を同様に検討した。結果を図3に示す。図3中の左側の棒グラフは3日目、右側の棒グラフは6日目における結果をそれぞれ示す。図3中の「cont」は2% FBSを含有するαMEMのみで培養したものを、「B」はBMP2(bone morphogenetic protein 2;山之内製薬製)のみを添加したものを、「HN」はペプチド(b)のみを添加したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものをそれぞれ示す。また図3中の「B」、「HN」及び「PN」の次に表示してある数字の単位は「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)又は(b)を添加すると6日目においてMC3T3細胞の有意な増加がみられたことから、ペプチド(a)及び(b)には細胞増殖作用があることが示された。
(3)細胞分化に対する本発明ペプチドの作用
細胞の分化の指標として、細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した。24ウエルの培養プレートに、5×10細胞/ウエルの割合で細胞を播種し、2% FBSを含有するDMEM又はαMEMに各種濃度のペプチド(a)を添加して培養した。細胞がコンフルエントに達した時点から1週間目に以下の酵素化学的方法(Bessey−Lowry法、Bessey OA,Lowry OH and Brock MJ:A method for the rapid determination of alkaline phosphatase with five cubic millimeter of serum.J Biol Chem,164:321−329,1946)によってALP活性を測定した。
(ALP活性の測定方法)
培養細胞をPBSで洗浄後、超音波ホモジナイザー(Handy Sonic model UR−20P;トミー工業製)を用いて10mM トリス塩酸緩衝液(pH7.4、500μl)中で40秒間細胞を破砕し撹拌した。次いで、このサンプル液25μlをALP緩衝液(0.1M 炭酸塩緩衝液 pH9.8、6.7mM p−ニトロフェニルホスフェート、2mM MgCl)125μlに添加し、37℃で30分間インキュベートした。0.2N NaOHを125μlを添加することによって反応を終了させた後、マイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Laboratories製)を用いて405nmにおける吸光度を測定した。
また、2% FBSを含有するDMEM、2% FBSを含有するDMEM又はαMEMに各種濃度のペプチド(c)を添加したものについても同様に検討した。結果を図4に示す。図4中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものを、「PC」はペプチド(c)のみを添加したものをそれぞれ示す。また図4中の「pg」及び「ng」は、それぞれ「pg/ml」及び「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)又は(c)を添加するとPDL細胞のALP活性が有意に上昇したことから、ペプチド(a)及び(c)には細胞の分化促進作用があることが示された。
また、ペプチド(a)(ブタ由来)に加えて、ペプチド(b)(ヒト由来)及びBMPについても同様に検討した。細胞がコンフルエントに達した時点でALP活性を測定した結果を図5に、及び、コンフルエントに達した時点から1週間目にALP活性を測定した結果を図6にそれぞれ示す。図中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを、「B」はBMP2のみを添加したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものを、「HN」はペプチド(b)のみを添加したものをそれぞれ示す。また図中の「B」、「PN」及び「HN」の次に表示してある数字の単位は「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)又は(b)を添加するとPDL細胞のALP活性が有意に上昇した。さらにこの作用はBMP2と同等若しくはそれ以上であり、これらの結果からペプチド(a)及び(b)には極めて高い細胞の分化促進作用があることが示された。
また、ペプチド(a)、(b)及びBMP2について、ST2細胞及びBMMSC細胞を用いて同様に検討した。細胞がコンフルエントに達した時点でALP活性を測定した結果を、それぞれ図7及び図8に示す。図中の「cont」は2% FBSを含有するαMEMのみで培養したものを、「B」はBMP2のみを添加したものを、「HN」はペプチド(b)のみを添加したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものをそれぞれ示す。また図中の「B」、「HN」及び「PN」の次に表示してある数字の単位は「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)及び(b)は、PDL細胞のみならずST2細胞及びBMSSC細胞に対しても有意な細胞分化促進作用を示した。またこの作用はBMP2と同等若しくはそれ以上であり、これらの結果からもペプチド(a)及び(b)には極めて高い細胞の分化促進作用があることが示された。
また、ペプチド(a)及び(b)について、MC3T3細胞を用いて同様に検討した。細胞がコンフルエントに達した時点でALP活性を測定した結果を図9に、及び、コンフルエントに達した時点から1週間目にALP活性を測定した結果を図10にそれぞれ示す。図中の「cont」は2% FBSを含有するαMEMのみで培養したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものを、「HN」はペプチド(b)のみを添加したものをそれぞれ示す。また図中の「ng」は、「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)及び(b)は、再現性よく、MC3T3細胞に対して有意な細胞分化促進作用を示した。
また、ペプチド(a)について、OCCM30細胞を用いて同様に検討した。結果を図11に示す。図中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを、「PN」はペプチド(a)のみを添加したものをそれぞれ示す。また図中の「ng」は、「ng/ml」を示す。
この結果、ペプチド(a)は、OCCM30細胞に対しても有意な細胞分化促進作用を示した。
また、終濃度100ng/mlのペプチド(b)及び(f)〜(j)について、MC3T3細胞株を用いて同様に検討した。結果を図12に示す。図中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを示す。
この結果、ペプチド(b)がMC3T3細胞株に対して高い細胞分化促進作用を示すこと、及びペプチド(f)〜(j)もコントロールに比して僅かではあるが高い細胞分化促進作用を示すことが示された。
また、終濃度100ng/mlのペプチド(b)及び(k)〜(n)について、ST2細胞株を用いて同様に検討した。結果を図13に示す。図中の「cont」は2% FBSを含有するDMEMのみで培養したものを示す。
この結果、いずれのペプチドも、ST2細胞株に対して有意に高い細胞分化促進作用を示すことが示された。これらの結果から、ペプチド(b)のN末端及び/又はC末端に数個のアミノ酸残基が付加されたペプチド並びにペプチド(b)中のアミノ酸残基の一部が置換されたペプチドであっても、高い細胞分化促進作用を示すことが明らかになった。
(細胞の石灰化物形成能に対するペプチドの影響)
細胞の石灰化物形成能に対するペプチドの影響を検討するために、以下の実験を行った。
細胞の石灰化能を評価するために、ダールのカルシウム染色を行った。24ウエル培養プレートに5×10細胞/ウェルの割合でPDL細胞を播種し、2Sを含有するDMEMに各濃度のペプチド(a)又は(c)を添加し、10mM sodium β−glycerophosphateを加え調節した培地にて培養した。細胞がコンフルエントに達してから3週間後に、PBSで洗浄後、10中性緩衝ホルマリンにて固定し、0.01アリザリンレッドS(和光純薬)にて染色した。
この結果、ペプチド(a)又は(c)を添加するとPDL細胞の石灰化能が有意に上昇したことから、ペプチド(a)及び(c)には細胞の分化促進作用があることが示された。
また、ペプチド(a)、BMP2及びTGFβについて、MC3T3細胞を用いて同様に検討した。コンフルエントから2週間後に評価した結果、ペプチド(a)はPDL細胞のみならずMC3T3細胞に対しても有意な細胞分化促進作用を示した。またこの作用はBMP2と同等若しくはそれ以上であり、これらの結果からもペプチド(a)には極めて高い細胞の分化促進作用があることが示された。
<実施例3>動物を用いた薬効薬理試験1
歯周病モデルに対する本発明ペプチドの作用を調べるために、以下の実験を行った。
(i)歯周病モデルの作製
8週齢のWistarラットを体重100g当たり0.5ml量のカルバミル酸エチル20溶液にて全身麻酔した後、上顎第一臼歯近心歯肉に縦切開を入れた。歯肉骨膜弁を剥離し、第一臼歯近心歯槽骨を露出させた。続いて同部の歯槽骨頂より根尖側へ、フィッシャーバーで長さ約2mm、頬舌径約1mmの欠損を生食注水下に作成し、上顎第一臼歯近心根面を露出させた。露出根面に残存付着する歯周靱帯とともにセメント質ならびに象牙質表層を浅い窩洞状に削除した。
(ii)試験方法
この欠損部に、ヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量90万)の1%PBS溶液により調製した試料を露出根面に塗布し、歯肉骨膜弁を復位縫合した。ペプチド(a)を含むヒアルロン酸ナトリウムの1%PBS溶液(ペプチド(a)の濃度:0.3mg/ml)を塗布した群をペプチド群とし、ヒアルロン酸ナトリウムの1%PBS溶液のみを塗布した群(ヒアルロン酸群)、あるいはなにも塗布せずに歯肉弁を復位縫合した群(コントロール群)を対照として、術後1ヶ月の治癒形態を比較した。
(標本作製法)
クロロホルムにて動物を安楽死させた後、実験部位を摘出した。摘出した上顎骨は10中性緩衝ホルマリンにて一日浸漬固定し、続いて急速脱灰液(K−CX)にて2日間脱灰した。常法に従ってパラフィン包埋後、実験部位について歯根長軸と平行に4.5mm厚で近遠心断切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を施した。欠損部露出歯根面における歯周組織の付着形態や歯槽骨頂の位置を、光学顕微鏡で観察した。
(iii)結果(所見)
コントロール群、ヒアルロン酸群ともに上皮の根尖側移動が認められたが、ペプチド群はそれらに比較して少なかった。また、コントロール群及びヒアルロン酸群ともにセメント質及びシャーピー線維の封入を伴うセメント質の沈着はほとんどみられず、歯肉と歯根の間にはしばしば亀裂が観察された。これに対し、ペプチド群ではそのような亀裂はみられず、削除歯根表面にはシャーピー線維の封入を伴うセメント質の添加、即ち結合組織性新付着形成も観察された。また、骨再生も他の2群に比べ盛んで、高い骨再生を示した。
<実施例4>動物を用いた薬効薬理試験2
骨欠損モデルに対する本発明ペプチドの作用を調べるために、以下の実験を行った。
(i)骨欠損モデルの作製
Wistar系雄性ラット(8週齢)を体重100g当たり0.5ml量のカルバミル酸エチル20溶液にて全身麻酔した後、左右後肢脛骨表面皮膚および脛骨骨膜に切開を入れ、骨膜を剥離して、脛骨を露出させた。続いて、生理食塩水の注水下で、同部の皮質骨を直径2mmのラウンドバーで穿孔し、骨髄腔まで達する欠損(直径2mm,深さ3mm)を作製した。
(ii)試験方法
骨欠損部に、ヒアルロン酸ナトリウム製剤(商品名:アルツ(登録商標);ヒアルロン酸ナトリウムの重量平均分子量:約90万;ヒアルロン酸ナトリウムの濃度:1%)に溶解したペプチド(a)(濃度0.3mg/ml又は3mg/ml)を填入し、骨膜および皮膚を復位縫合した。ペプチドを填入した群(ペプチド群)、担体であるヒアルロン酸ナトリウムの1%PBS溶液のみを塗布した群(HA群)又は何も塗布せずに皮膚骨膜弁を復位縫合した群(コントロール群)における、術後3週目の治癒形態をX線で解析した。
(iii)結果
各群における軟X線写真像を比較した結果、コントロール群及びHA群では骨欠損の残存が比較的明瞭に観察されたが、ペプチド群(濃度0.3mg/ml又は3mg/ml)では、骨欠損がほとんど認識できない程度にまで骨が再生していることが確認された。この結果から、本発明ペプチドは、骨欠損部の骨の再生を有意に促進することが示された。
(iv)他の本発明ペプチドによる効果
同様に、コラーゲンゲル(商品名:コーケンアテロコラーゲンインプラント、株式会社高研)、ペプチド(a)及び(b)(濃度:3mg/ml)について実験を行った。その結果、コントロール群及びコラーゲンゲル群では骨欠損の残存が比較的明瞭に観察されたが、ペプチド(a)のみならず(b)を用いた場合であっても、骨欠損がほとんど認識できない程度にまで骨が再生していることが確認された。この結果から、本発明ペプチドは、骨欠損部の骨の再生を有意に促進することが示された。
<実施例5>製剤例1
以下に本発明薬剤の製剤例を示すが、これらはあくまで例示であり、本発明薬剤の剤形がこれらに限定されるものではない。
(1)軟膏剤
前記で製造したペプチド(a) 10mg
モノステアリン酸ソルビタン 7mg
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 7mg
パルミチン酸イソプロピル 37mg
ワセリン 37mg
流動パラフィン 37mg
セタノール 50mg
グリセリン 70mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記成分に精製水を加えて、1gのクリームとした。
(2)錠剤
前記で製造したペプチド(b) 100mg
乳糖 670mg
バレイショデンプン 150mg
結晶セルロース 60mg
軽質無水ケイ酸 50mg
上記成分を混合し、ヒドロキシプロピルセルロースを30mgをメタノールに溶解した溶液(ヒドロキシプロピルセルロース10重量%)を加えて混練したのち造粒した。これを径0.8mmのスクリーンで押し出して顆粒状にし、乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム15mgを加え200mgづつ打錠して錠剤を得た。
(3)カプセル剤
前記で製造したペプチド(b) 100mg
乳糖 80mg
上記成分を均一に混合し、硬カプセルに充填してカプセル剤を得た。
(4)注射剤
前記で製造したペプチド(a) 30mg
上記成分を5%マンニトール水溶液2mLに溶解し、これを無菌濾過した後、アンプルに入れて密封した。
(5)用時溶解用注射剤
(A)前記で製造したペプチド(b)(凍結乾燥体)30mg(アンプル封入した)
(B)無菌濾過したPBS 2mL(アンプル封入した)
上記(A)および(B)を1セットとして、用時溶解用注射剤を製造した。使用時には(A)を(B)で溶解して用いることができる。
<実施例6>製造例2
以下に本発明組成物の製造例を示すが、これらはあくまで例示であり、本発明組成物の組成・形態等がこれらに限定されるものではない。
(1)液体状態の組成物
前記で製造したペプチド(a) 3mg
ヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量90万)の1%PBS溶液 10ml
上記成分を混合することにより、液体状態の本発明組成物を製造した。
(2)液体状態の組成物
前記で製造したペプチド(a) 3mg
ヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量220万)の0.1%PBS溶液 10ml
上記成分を混合することにより、液体状態の本発明組成物を製造した。
(3)乾燥状態の組成物
前記で製造したペプチド(b) 30mg
ヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量90万)の1%PBS溶液 10ml
上記成分を混合して凍結乾燥することにより、乾燥状態の本発明組成物を製造した。
本発明ペプチドのアミノ酸配列を保持するシースリンは、既に歯周病治療薬の一成分として利用されている。また前記の薬効薬理試験において、本発明ペプチドの添加(又は投与)期間中、細胞や動物の状態を毎日観察したが、特段の変化は認められなかった。これらのことから、本発明ペプチドや本発明薬剤の安全性が十分に推定できる。また、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩は、既に医薬品の有効成分としても用いられていることから、本発明組成物の安全性も十分に推定できる。
【産業上の利用の可能性】
本発明ペプチドは、シースリン分子の部分ペプチドであり、シースリンに比して顕著に高い細胞増殖活性や細胞分化促進活性を示すことから、本発明薬剤、特に細胞増殖促進剤、細胞の分化促進剤、骨・軟骨若しくは歯周組織の形成促進剤又は再生促進剤の有効成分として極めて有用である。また本発明ペプチドは、再生医療等における素材としても用いることができ、この点でも極めて有用である。
さらに、本発明ペプチドは前記の通り非常に高い生物活性を示すので、本発明ペプチドを有効成分とする本発明薬剤中の有効成分量を減ずることができ、これにより安全かつ安価な本発明薬剤等を提供することができる。
本発明薬剤は、細胞増殖促進、細胞の分化促進、骨・軟骨若しくは歯周組織の形成促進又は再生促進等の種々の用途に用いることができ、極めて有用である。
本発明組成物は、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の物理化学的性質によって、本発明ペプチドが目的の部位に長時間保持される、あるいは目的の部位において本発明ペプチドが緩除に放出される等の効果を奏することから極めて有用である。また、本発明ペプチドの生物学的性質にヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の生物学的性質が加わって、さらに有利な生物学的効果を奏する可能性もあることから、極めて有用である。
【配列表】









【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチド。

(但し、X01はVal又はGlnを、X02はAla、Phe又はGlyを、X03はPhe又はLeuを、X04はPro又はLysを、X05はArg、Gln又はProを、X06はGln、Arg又はPheを、X07はPro、Ser又はLeuを、X08はアミノ酸残基が存在しないこと又はGly若しくはGlnを、X09はアミノ酸残基が存在しないこと又はAla、Gly若しくはProを、X10はアミノ酸残基が存在しないこと又はGln若しくはThrを、X11はアミノ酸残基が存在しないこと又はGly若しくはAlaを、X12はアミノ酸残基が存在しないこと又はMet若しくはAlaを、X13はGly、Ala又はThrを、X14はThr、Ile、Pro又はGlyを、X15はPro又はValを、X16はGly又はGlnを、X17はVal、Met又はGlyを、X18はAla又はThrを、X19はSer又はProを、X20はLeu又はGlnをそれぞれ示す。)
【請求項2】
下記のアミノ酸配列(配列番号2)からなる、請求項1に記載のペプチド。

(但し、X21はAla又はPheを、X22はArg又はGlnを、X23はPro又はSerを、X24はThr又はIleを、X25はVal、Met又はGlyをそれぞれ示す。)
【請求項3】
下記(A)〜(G)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項2に記載のペプチド。


【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを有効成分とする薬剤。
【請求項5】
医薬であることを特徴とする、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
細胞増殖促進剤であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項7】
「細胞」が、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
細胞の分化促進剤であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項9】
「細胞」が、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞であることを特徴とする、請求項8に記載の薬剤。
【請求項10】
骨若しくは軟骨の形成促進剤又は再生促進剤であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項11】
歯周組織の形成促進剤又は再生促進剤であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項12】
下記のアミノ酸配列(配列番号13)からなるペプチド。

(但し、X26はAla又はValを、X27はGln又はHisを、X28はGln又はGluを、X29はIle、Met又はValを、X30はアミノ酸が存在しないこと又はLys若しくはMetを、X31はArg又はHisを、X32はAsp又はAsnをそれぞれ示す。)
【請求項13】
下記のアミノ酸配列(配列番号14)からなる、請求項12に記載のペプチド。

(但し、X33はGln又はGluを、X34はIle又はMetを、X35はLys又はMetを、X36はArg又はHisをそれぞれ示す。)
【請求項14】
下記(H)〜(K)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項12に記載のペプチド。

【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1項に記載のペプチドを有効成分とする薬剤。
【請求項16】
医薬であることを特徴とする、請求項15に記載の薬剤。
【請求項17】
細胞増殖促進剤であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の薬剤。
【請求項18】
「細胞」が、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞であることを特徴とする、請求項17に記載の薬剤。
【請求項19】
細胞の分化促進剤であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の薬剤。
【請求項20】
「細胞」が、骨芽細胞、軟骨芽細胞、セメント芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞又は歯根膜由来細胞であることを特徴とする、請求項19に記載の薬剤。
【請求項21】
骨若しくは軟骨の形成促進剤又は再生促進剤であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の薬剤。
【請求項22】
歯周組織の形成促進剤又は再生促進剤であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の薬剤。
【請求項23】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド及び/又は請求項12〜14のいずれか1項に記載のペプチドと、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩とを少なくとも含むことを特徴とする組成物。

【国際公開番号】WO2004/074319
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502796(P2005−502796)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002009
【国際出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】