説明

生組織を修復するための熱可塑性ペースト

本発明は高チキソトロピックレオロジーを有する熱可塑性ペーストに関し、その成分はブロックバイオポリマーとバイオセラミックを含む。記載した材料は、骨インプラントにおいて、ならびに動物および植物生組織の再生のために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体適合性材料、とりわけ、生組織を修復するための組織工学において使用されるものの分野に含まれる。本発明は特に、チキソトロピー生体材料の分野、それらを獲得するためのプロセス、および生組織の修復、再生および調整のための処置における使用に属する。
【背景技術】
【0002】
生体適合性材料または生体材料は生組織およびそれらの機能を置換および/または再生する目的で、生体系内に埋め込まれ、または組み入れられるように設計された不活性化合物である。細胞増殖を促進し、生理的負荷をサポートし、取り扱いおよび合成が容易である様々な生体材料が組織工学において開発されている(生体材料(バイオマテリアルズ:Biomaterials)27(2006)1889−1898、生体材料26(2005)3215−322)。これらの材料の中には、さらに、しばしば生分解性である様々な型の生体適合性ポリマー類が存在する(ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)、Volume 20、2002年6月(602−606)、高分子(Macromolecules)1997、30、2876−2882、Macromol.Biosci.2001、1、91−99、ポリマー分解および安定性(Polymer Degradation and Stability)91(2006)733−739)。いくつかの材料は合成条件下で低い粘度を有するが、生理的条件下では重合し、ゲルを形成することができ、これにより、注入可能とされ、外科的処置の必要性が抑制される(生体高分子(Biomacromolecules)2006、7、288−296、生体材料26(2005)3941−3951)。科学文献には豊富な例と組み合わせが存在する。サンプルとして、バイオングムーン(Byeongmoon)ら(高分子(Macromolecules)33、8317−8322、2000)は、乳酸およびグリコール酸などの有機酸、および生理的条件下で、組織刺激を引き起こさずにゲル化することができ、さらに生分解性であり、生物により吸収可能であるポリエチレングリコールなどのバイオポリマー類を含むため生分解性であるブロックバイオポリマーの合成を記載する。しかしながら、この型の材料は、硬度に欠けるため、生理的負荷をサポートすることができず、そのため、それらは動物における骨または植物における枝などの負荷構造で使用される場合、機械的に効果がない。さらに、ポリマー類の中には、高温または応力に長期間曝露されると変形し、あまりに早く劣化するため、時として、ポリマーが分解する前に構造の完全な修復ができなくなるものがある。この問題を解決するために、バイオセラミックを使用する一連の複合材料が、当技術分野において設計されてきた。セラミックは硬度を増加させ、ポリマーの劣化速度を減少させる。バイオセラミック粒子が、生分解性ポリマー中に均質に分配され、そのため、化合物の特性もまた均質であることが一般に望ましい。身体の構造要素、例えば、骨のいくつかの医療用インプラントは時折、ポリマー/セラミック複合材料で製造される。国際公開第2008/036206号は、インプラントの抵抗性を促進し、摩耗を減少するバイオポリマーおよびバイオセラミックの埋め込み可能な複合材料を記載している。注入可能なポリマー類とは異なり、これらのインプラントは通常体外で形成され、外科的処置により配置される。不都合なことに、そのようなインプラントは、通常凸凹であり、亀裂または非標準的な形態を有する標的表面への適応の問題を有する。
【0003】
ある型の損傷では、インプラントが組織の再構築のためのプラットフォームとなる治療戦略が可能である。非常に多様な特徴を有するプラットフォームの調製を記載する様々な特許出願が当技術分野の状況において知られている。これらのプラットフォームの正確な動作のための重要な問題は、それらの処置される構造の凸凹への正確な適応である。しかしながら、いったん成形されると、これらの化合物は、修復される表面に正確に適応させるために再構築させることができない。国際公開第2007/092559号は、骨インプラントに適したバイオセラミックおよび生分解性バイオポリマー類の複合材料を記載する。その中で記載されている複合材料の組成は、その材料に生理的負荷に適した剛性を提供するが、修復される表面への正確な適応が阻止される。
【0004】
本出願の発明者らは、驚くべきことに、バイオセラミックと、交互に存在する剛性ブロックおよび可撓性ブロック、例えば、ポリエチレングリコールポリマー類から形成されたブロックポリマーとから構成された材料は、プラットフォームの硬化後に再構築可能であることを発見した。修復される表面への完全な適応のために、プラットフォームを埋め込んだ時に、機械力により再構築することができる初期形態を有するプラットフォームはこのように作製することができる。この材料はさらに、生体臨床医学分野以外の分野、例えば、植物の組織工学において、接ぎ木のためのプラットフォームとして、または発根誘導物質として適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/036206号
【特許文献2】国際公開第2007/092559号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biomaterials 27(2006)1889−1898
【非特許文献2】Biomaterials 26(2005)3215−322
【非特許文献3】Nature Biotechnology、Volume 20、2002年6月(602−606)
【非特許文献4】Macromolecules 1997、30、2876−2882
【非特許文献5】Macromol.Biosci.2001、1、91−99
【非特許文献6】Polymer Degradation and Stability 91(2006)733−739
【非特許文献7】Biomacromolecules 2006、7、288−296
【非特許文献8】Biomaterials 26(2005)3941−3951
【非特許文献9】Byeongmoonら、Macromolecules 33、8317−8322、2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
【課題を解決するための手段】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱可塑性ペーストの高チキソトロピックレオロジーを示すグラフであり、本明細書で示した研究は、36℃の温度で実施した。観察できるように、0Paの応力での粘度は4.75E+05Pa・sである。
【図2】本発明のペーストの凸凹表面への適応性を証明するものであり、機械力により、熱可塑性ペーストのボールが図の凸凹表面へ適応することがわかる。
【図3】本発明の材料のブロックポリマーの合成工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の目的:
本発明の第1の目的は、初期状態では、ペースト稠度および熱可塑性を有し、主にブロックバイオポリマーおよび、材料の総重量の10〜70%の間を占めるバイオセラミックから形成される、チキソトロピックレオロジーを有する、複合材料に関する。ブロックバイオポリマーは、一般式[(A−B−C)−D−E−D−(A−B−C)−]に対応し、ここでAおよびCはジヒドロキシまたはジアミノモノマー類であり、BおよびDはジカルボン酸類であり、Eはヒドロキシル数が≧10であるポリマーであり、nおよびmは≧1の数値的指標である。このブロックバイオポリマーは剛性ブロック(A−B−C)および可撓性ブロック(−D−E−D−)を含む。剛性ブロックは、主にエステル型結合により形成され、必要に応じてアミド型結合を含むポリマーから構成され、一方、可撓性ブロックはエステルまたはエーテル結合を含む炭化水素鎖を含む第2のポリマーから構成される。
【0012】
本発明の第2の目的は、コポリマーブロック(A−B−C)のマイクロ波での第1の合成工程であって、ここで、Aは直鎖脂肪族ジヒドロキシモノマーまたはジアミンであり、Bはジカルボン酸であり、nは≧1の数値的指標である工程と、コポリマーブロック−D−E−D−のマイクロ波での第2の合成工程であって、ここで、Dはジカルボン酸であり、Eはヒドロキシ数が≧10であるポリマーである工程と、ブロックポリマーを作製するための、コポリマーブロック(A−B−C)のコポリマーブロック−D−E−D−とのマイクロ波での第3の伸長工程と、ブロックポリマーをバイオセラミックと混合する最終工程と、を含む、マイクロ波による本発明の材料を調製するためのプロセスである。
【0013】
本発明の第3の目的は、動物組織および植物組織の両方の生組織、例えば、骨、皮膚、毛髪、爪および蹄、表層傷および傷口を修復する、および、農業接ぎ木の結合または植物発根を刺激するための処置における本発明の材料の使用を含む。
【0014】
下記定義は、明細書および特許請求の範囲の理解を促進するために提供する。
【0015】
熱可塑性ペーストは、材料の各々がそれ自体の特性(identity)を保持する一方、複合物にある特性を提供する、異なる物理特性を有する材料により形成された固体である、複合材料の組成物である。熱可塑性ペーストはとりわけ、本明細書では、20〜50℃の間の温度で硬化し、機械的作用または熱により軟化することができ、強いチキソトロピー性質を有し、その構成材料は、非制限的に、セラミック粒子とブロックポリマーを含み、ブロックポリマーは1つの硬質ブロックと、ヒドロキシル数が≧10であり、高い分子量を有し、弱い力により会合することができる鎖により形成されているポリマーを含む別の可撓性ブロックとを有する、変形可能な材料に関連する。
【0016】
ブロックポリマーは、異なる繰り返し数を有する高分子の識別可能な基またはブロックにより形成されたコポリマーである。
【0017】
バイオポリマーは応用生物学において使用されるポリマーであり、これは、それが収容されている生物と適合可能であり、とりわけ非アレルギー性ポリマーである。バイオポリマー類は、生物から単離されたか、あるいは分子生物学もしくは遺伝子工学技術により生成された天然ポリマー高分子、および公知の、または特別の目的のために設計された合成ポリマー高分子の両方を含む。どちらもホモポリマー類、コポリマー類またはその混合物を含むことができる。
【0018】
バイオセラミックは、応用生物学で使用される材料である。これは結晶またはアモルファスであり、とりわけ、無機、非金属、多孔質および脆性であり、熱の作用により形成され、熟成される。これは不活性か、または活性とすることができ、生物学的過程に関与することができる。これは不変のままとすることができ、吸収、または溶解させることができる。
【0019】
チキソトロピーは、熱または摩擦などの外力に依存する粘度変化を示すいくつかの流体の特性であり、前記外力が存在しない場合、流体の粘度は低いか、または非常に低く、一方、前記力の適用後、流体の粘度は一時的に増加する。
【0020】
ヒドロキシル数は、ポリマー内でポリエステルおよびポリエーテル結合を形成することができるOH基の量に関連する。この型の結合の酸素は、前記ポリマーと同じ複合材料の一部を形成するセラミックと水素結合を形成することができる。このように、ヒドロキシル数が低いほど、ポリマーとセラミックとの間の可能な水素結合の数が高くなる。ヒドロキシル数は、1gの材料中のヒドロキシル基に相当する水酸化カリウムのmg数である。ヒドロキシル基はわかっている量の無水酢酸でアセチル化される。過剰の無水物はその後、水を添加することにより分解され、形成した酢酸は0.5Nエタノール水酸化カリウム溶液で滴定される。脂肪および科学技術(Fat and Science Technology)、1989.no.9−1990、pp.371−373に記載されている方法に従い、ヒドロキシル数が計算される。ヒドロキシル数は式:
【数1】


に従い計算され、式中、Vはサンプルに対し必要とされる水酸化カリウム溶液のmlで表した体積であり、Vはブランクに対し必要とされる水酸化カリウム溶液のmlで表した体積であり、Nは水酸化カリウム溶液の規定度であり、mはgで表したポリマーの重量であり、AVはサンプルの酸価である。
【0021】
本発明では、「吸収性」という用語は、再生された組織により置換されるため、時間と共にサポートが消失するという事実に関連する。本発明では、「同化可能」はペーストの成分が、前もって分解させる必要なく、生物の普通の構造内に統合させることができるという事実に関連する。本発明では、「分解性」は生物が酵素過程により材料を形成する要素を分解し、それらを普通の生物化学過程に組み入れることができるという事実に関連する。
【0022】
発明の定義:
第1の観点では、本発明の目的は、そのレオロジーが特徴的にチキソトロピックであり、そのため、硬化後、適用した機械力または熱力によってある粘度を回復することができる複合材料に関する。複合材料(以後、熱可塑性ペーストと呼ぶ)の構成要素は、主に、ブロックポリマーとバイオセラミックとから構成され、必要に応じて他の微量成分を含む。ブロックポリマーの組成は、チキソトロピックレオロジーを可能にする剛性ブロックと可撓性ブロックの交互体であるため、熱可塑性ペーストの適応性に対し特に重要である。このように、可撓性ブロックは最初、弱い力によりバイオセラミックとの会合を確立する。静止ペーストでは、十分に冷却された場合、この会合は分離され、ペーストは剛性ブロックとバイオセラミックの間の会合により、ならびに、ポリマー鎖間のH結合により凝集され、そのため、機械力および小量の熱が剛性ペースト(その硬度はバイオセラミックに由来する)に適用されると、可撓性ブロックが再び、バイオセラックとの間の弱い力を確立し、結果として、粘度が上昇し、図1で示したチキソトロピックレオロジーが得られる。図1の研究は、36℃で実施しており、そのため、生理的条件下では、熱可塑性ペーストが骨などの組織を置換および再生するために必要な硬度要件を満たし、その機能が同様の温度で発現されることが証明される。
【0023】
以上で説明したように、チキソトロピーレトロジーは本発明の主な特徴である。この本発明の主な特徴は、処置される組織の表面への完全な適応を可能にするという利点を付与する。この利点を付与する要素は、材料に、機械力および熱力の作用により成形させることができるペーストの外観および稠度を提供する。図2はペーストの凹凸表面への完全な適応性を証明する。本発明の別の特徴的な利点は、その生体適合性である。本発明の熱可塑性ペーストは、これが組み入れられる生物により、よく許容されるので生体適合性である。この利点は、その成分の性質により与えられるが、ブロックバイオポリマーは2つの型のポリマー類、剛性ポリマーと可撓性ポリマーから構成され、それらはどちらも生物により分解、吸収および同化可能である。同様に、バイオセラミックもまた、吸収、同化、および生分解可能である。
【0024】
1つの実施形態では、剛性ブロックを形成するバイオポリマーは、グルタミン酸および10を超える炭素のジオール、例えば、1,8−オクタンジオールから構成されるヘテロポリマーである。他の実施形態では、カプロラクトン、乳酸、グリコール酸、フマル酸モノマー類およびそれらの混合物もまた使用することができる。複合材料内でのこのブロックの機能に適していると考えられる任意のモノマーをブロックに導入することができる。特定の実施形態では、ブロックバイオポリマーの剛性ブロックは、ペーストの総重量の5%以下のパーセンテージのアミド型結合を含む。このように得られた結果は、そのチキソトロピー特性の一定の減少を経験するより剛性の高い材料となるであろう。
【0025】
別の特定の実施形態では、ポリマーEはエチレンオキシド類、ポリアミドアミン類、ポリアミン類、ポリオール類およびそれらの組み合わせの群から選択される。好ましい実施形態では、可撓性ブロックはエチレンオキシドポリマー類、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)から形成され、その分子量は20,000kDaを超えない。別の好ましい実施形態では、エチレンオキシドポリマーは50までの分枝を含む。
【0026】
熱可塑性ペーストは、十分な数の遊離ヒドロキシルラジカルを有する任意のバイオポリマーを収容することができ、そのため、遊離ヒドロキシルラジカルはセラミックと水素結合を形成することができる。例えば、別の実施形態では、可撓性ブロックは、グリコサミノグリカン(GAG)ファミリー、例えばヒアルロン酸のバイオポリマーである。本発明のペーストがヒアルロン酸を含む場合、それは神経組織、上皮組織および結合組織との高い適合性を有する。このように、別の特定の実施形態では、ポリマーEは、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸およびそれらの混合物からなる群より選択されるグリコサミノグリカンである。
【0027】
本発明では、バイオセラミック成分は微粒子であり、ペーストの超微細構造中に均質に分配されていることが好ましい。バイオセラミック粒子がより均一に分配されているほど、材料の特性がより均一になり、各々の実際の適用におけるその挙動がより予測可能となる。本発明では、バイオセラミック材料としては、非制限的様式で、リン酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、熱分解炭素、バイオガラス、銅、鉄、コバルト、亜鉛、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ホウ素の塩、二酸化チタンおよびそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい実施形態では、バイオセラミックはヒドロキシアパタイトである。ヒドロキシアパタイトは、天然の骨の鉱物成分であり、後者が骨構造の修復のための処置において使用される場合、本発明に含まれるであろう。別の好ましい実施形態では、バイオセラミック成分はバイオガラスを含む。バイオガラスは高生体適合性の非結晶セラミックである。バイオガラスは、同等の特性を有する別のアモルファスセラミックと、または別の高生体適合性アモルファス固体と置換することができる。本発明の実施形態のいくつかは、農業および工業または観葉植物園芸の分野において使用するために設計される。本発明の特定の実施形態は、バイオセラミック中に、植物接木の組立において適用するための抗真菌剤として、銅(II)塩を組み入れる。
【0028】
本発明の本質的な成分を変更せずに、様々な要素を熱可塑性ペーストに、材料のレオロジーに有意の影響を与えることなしに、異なる実際の用途におけるその適用に対して特異的な性質を付与するようなパーセンテージで、含めることができる。特定の実施形態では、本発明は、ブロックバイオポリマーおよびバイオセラミックに加えて、抗生物質、動物または植物成長因子、細胞因子、発根因子、開花促進因子、果実成熟因子、成熟阻害因子、老化因子、発芽因子などから選択される第3の成分を≦1重量%のパーセンテージで含む。それらとしては、動物または植物ホルモン類、アルカロイド類、栄養成分類、油類、化粧品調整剤およびそれらの組み合わせが挙げられる。必要に応じて、本発明はまた、本発明の材料に原核細胞または真核細胞を播種することを企図する。
【0029】
第2の観点では、本発明は、従来の合成に比べ、伝導および/または温度と関連する熱的不整合が阻止されるのに加え、マイクロ波により与えられる電磁力により、より速い反応速度が得られるという利点が与えられるマイクロ波による合成プロセスに関する。より穏やかな温度に加え、より短い反応時間がこのように達成される。マイクロ波によるポリマー類の合成は、数分の範囲で起こり、一方、従来の方法では、プロセスは数時間続く。本発明の複合材料を合成するために、第1の工程では、カルボン酸とジオールを、カルボン酸が鎖の端に位置するように反応させる。というのは、カルボキシル基は、可撓性ブロックと反応することができるように、剛性ブロックの端に存在しなければならないからである。剛性ブロックがこのように得られるとすぐに、可撓性ブロックと反応させる第2の工程を実施し、基本ポリマーが得られるとすぐに、選択したセラミックと混合させる。合成工程中、換気し、マイクロ波効果を増加させ、重合を促進するために圧縮空気を注入することが好都合である。ポリマー類の合成は同様に、従来のプロセスにより実施することができる。これには、より高い温度が必要であり、さらに、適した触媒および重縮合中に生成した水を除去するためのシステムが必要となるであろう。図3は、本発明の熱可塑性ペーストのマイクロ波による合成において起こる反応を示す。
【0030】
第3の観点では、本発明の目的は、動物および植物の生組織の両方を修復するための処置における熱可塑性ペーストの使用に関する。好ましい実施形態では、動物組織は哺乳類の骨、例えばヒトの骨である。この場合、本発明のペーストは、骨の再生を刺激するために、例えば、天然の骨の鉱物成分であるヒドロキシアパタイトなどのバイオセラミックを含む。同等の、または改善された特性を有する他のバイオセラミックが同様に、本発明の熱可塑性ペーストのこの特定の用途のために含められ得る。より好ましい実施形態では、このように形成された熱可塑性ペーストは骨疾患および骨折の処置のために使用される。
【0031】
別の好ましい実施形態では、皮膚、毛髪、爪および蹄などの表面構造の処置および調整、ならびに表層傷および傷口の処置において熱可塑性ペーストが使用される。この場合、本発明の熱可塑性ペーストは、細胞増殖および移動を促進するポリマーE、例えば、ヒアルロン酸を含む。また、例えば、腫瘍などの不相応な細胞増殖により引き起こされる損傷の処置に対する細胞毒性エフェクター。可撓性ブロックのために選択したポリマーに関係なく、それぞれの場合に対して適した治療または美容効果を達成するために、微量成分が含められる。それらとしては、上記で述べたように、細胞毒性化合物、細胞分化または増殖因子、抗ウイルス、抗菌および抗真菌化合物、組織内因性または外因性遺伝因子の細胞発現を変更するように意図された核酸を運搬する粒子、栄養成分および化粧用油などの調整剤、ならびにそれらすべての組み合わせが挙げられる。
【0032】
別の特定の実施形態では、例えば、木化植物組織などの植物組織を修復するための処置において、熱可塑性ペーストが使用される。好ましい実施形態では、本発明は農業接ぎ木の結合において使用される。この場合、本発明の熱可塑性ペーストは、抗真菌剤のように作用する銅(II)塩を含むバイオセラミックを含む。さらに、あるいは、その代わりに、本発明の熱可塑性ペーストは、この同じ目的のために同等のまたは改善された特徴を有する他の成分を、本質的な成分の一部を形成する主成分として、あるいは1%以下の割合で存在する微量成分として含むことができる。本発明の他の好ましい実施形態は、例えば、低木および木の植物発根の刺激における記載した熱可塑性ペーストの使用を含む。この場合、本発明の熱可塑性ペーストは、そのような組織の正常な生理的過程を刺激する目的で、その微量成分中に、植物ホルモン類および必要に応じて原核細胞を含む。同じ目的で、同等の、またかは改善された特徴の他の成分を、本発明のペースト中に含ませることができる。
【実施例】
【0033】
実施例1:熱可塑性ペーストの合成;
[試薬]:
グルタル酸12g(0.09モル)と1,8−オクタンジオール11.1g(0.08モル)をマイクロ波オーブン(ディスカバリー(Discovery)CEM)内で、100Wの電力で1時間反応させる。作業は真空下(100mbar)で、システムを圧縮空気で冷却し、温度を120℃で一定に維持しながら、実施する。このように、剛性ブロックが生成する。
【0034】
剛性ブロックをその後、2000ポリエチレングリコール(6.5g、3mM)と、同じマイクロ波反応器内で240分間、100Wの電力、120℃で反応させる。作業は再び真空下で、圧縮空気で冷却しながら、実施する。
【0035】
得られたポリマー(ブロックバイオポリマー)(10g)を、本発明者らの研究室でゾル−ゲルプロセス(E.Garreta 2005、博士論文、Institut Quimic de Sarria−Universitat Ramon Llull)により得られた低結晶化度ヒドロキシアパタイト10gと、スピードミキサ(Speed Mixer、登録商標)型遊星ミキサにより混合する。
【0036】
実施例2:骨修復におけるヒドロキシアパタイトを有するペーストの使用;
実施例1の方法により合成したポリマーを使用して、1:1の重量比でヒドロキシアパタイトと混合し、成形可能かつ適応可能なペーストを達成して、熱可塑性ペーストを得る。
【0037】
このペーストをラット内の頭蓋冠欠損内に埋め込む。予備観察において、標本では炎症の徴候は観察されていない。欠損は3ヶ月後、完全に被覆されたことが観察される。
【0038】
実施例3:植物接ぎ木の結合における硫酸銅を有するペーストの使用;
その合成方法が実施例1で記載されている本発明の熱可塑性ポリマーを、高い殺菌活性を有する生成物である硫酸銅と、1:0.02比で混合する。得られた適用が容易なペーストを、最近選定した果樹の枝に堆積させる。適用後、傷上に機械的に安定な均質コーティングが観察される。2ヶ月後、すでに回復した傷上には残留物は観察されず、真菌および剪定過程に関連する他の疾患の出現はいずれも観察されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)剛性ブロック(A−B−C)と、可撓性ブロック(−D−E−D−)と、を含む式[(A−B−C)−D−E−D−(A−B−C)−]を有するブロックバイオポリマーであって、
AおよびCはジヒドロキシまたはジアミノモノマー類であり、
BおよびDはジカルボン酸類であり、
Eはヒドロキシル数が≧10であるポリマーであり、
nおよびmは≧1の数値的指標であり、
前記剛性ブロック(A−B−C)は、エステル型結合、および必要に応じてアミド型結合を含むポリマーから構成され、
前記可撓性ブロック(−D−E−D−)はエステルまたはエーテル型結合を含む炭化水素鎖を含む第2のポリマーから構成される、ブロックバイオポリマーと、
b)熱可塑性ペーストの総重量の10〜70%の割合のバイオセラミックと、
を含む、チキソトロピックレオロジーを有する熱可塑性ペースト。
【請求項2】
前記剛性ポリマー中に、前記熱可塑性ペーストの総重量の≦5%の割合でジアミノモノマー類を含む、請求項1記載の熱可塑性ペースト。
【請求項3】
Eはエチレンオキシドポリマー類、ポリアミドアミン類、ポリアミン類、ポリオール類およびそれらの組み合わせの群から選択されるポリマーである、請求項1記載の熱可塑性ペースト。
【請求項4】
前記バイオポリマーEは、500〜20000kDaの間の分子量を有するエチレンオキシドポリマーである、請求項3記載の熱可塑性ペースト。
【請求項5】
前記バイオポリマーEは、1500〜10000kDaの間の分子量を有するエチレンオキシドポリマーである、請求項4記載の熱可塑性ペースト。
【請求項6】
前記バイオポリマーEは、2000〜3000kDaの間の分子量を有するエチレンオキシドポリマーである、請求項5記載の熱可塑性ペースト。
【請求項7】
前記バイオポリマーEは、3〜50の間の分枝を含むエチレンオキシドポリマーである、請求項3記載の熱可塑性ペースト。
【請求項8】
前記バイオポリマーEは、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸およびそれらの混合物からなる群より選択されるグリコサミノグリカンである、請求項1記載の熱可塑性ペースト。
【請求項9】
前記バイオセラミックは、リン酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、熱分解炭素、バイオガラス、銅、鉄、コバルト、亜鉛、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ホウ素の塩、二酸化チタンおよびそれらの組み合わせのセラミックの群から選択される、請求項1記載の熱可塑性ペースト。
【請求項10】
前記バイオセラミックは、ヒドロキシアパタイトである、請求項9記載の熱可塑性ペースト。
【請求項11】
前記バイオセラミックは、銅(II)塩を含む、請求項9記載の熱可塑性ペースト。
【請求項12】
前記バイオセラミックは、バイオガラスを含む、請求項9記載の熱可塑性ペースト。
【請求項13】
抗生物質類、成長因子類、原核または真核細胞類、細胞因子類、栄養成分類、油類、化粧品調整剤およびそれらの組み合わせから選択される第3の成分を≦1重量%のパーセンテージでさらに含む、請求項1記載の熱可塑性ペースト。
【請求項14】
1)コポリマーブロック(A−B−C)のマイクロ波での合成工程であって、
Aは直鎖脂肪族ジヒドロキシモノマーまたはジアミンのいずれかであり、
Bはジカルボン酸であり、
nは≧1の数値的指標である、工程と、
2)コポリマーブロック−D−E−D−のマイクロ波での合成工程であって、
Dはジカルボン酸であり、
Eはヒドロキシ数が≧10であるポリマーである、工程と、
3)ブロックポリマーを生成するための前記コポリマーブロック(A−B−C)の前記コポリマーブロック−D−E−D−とのマイクロ波での伸長工程と、
4)前記ブロックポリマーを前記セラミックと混合する工程と、
を含む、請求項1記載の熱可塑性ペーストを調製するためのプロセス。
【請求項15】
生組織を修復および調整するための処置における、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の熱可塑性ペーストの使用。
【請求項16】
前記生組織は動物起源である、請求項15記載の使用。
【請求項17】
前記生組織は、ヒトの骨を含む哺乳類の骨である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
骨疾患および骨折の処置における、請求項17記載の使用。
【請求項19】
表層傷および傷口の処置を含む、皮膚、毛髪、爪および蹄のような表面構造の処置における、請求項16記載の使用。
【請求項20】
前記生組織は植物起源である、請求項15記載の使用。
【請求項21】
前記植物組織が、木化組織である、請求項20記載の使用。
【請求項22】
農業接ぎ木の結合における請求項21記載の使用。
【請求項23】
植物発根の刺激における請求項20記載の使用。

【公表番号】特表2011−520543(P2011−520543A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510011(P2011−510011)
【出願日】平成21年5月6日(2009.5.6)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070143
【国際公開番号】WO2009/141478
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510309031)
【出願人】(510309042)ウニベルシタット ラモン リュイ ファンダシオ プリバーダ (1)
【Fターム(参考)】