説明

産業用ロボット

【課題】落下防止機構の故障発生確率を低くすると共に、万一故障が発生した場合でも該故障に容易に気付くことができるようにする。
【解決手段】第1スライダ8は固定ベース7に対して垂直方向に移動可能であり、第2スライダ10はこの第1スライダ8に垂直方向に移動可能である。第2スライダ10は、第1スライダ8が移動されると、プーリ22A、22B及びベルト23を有する第2スライダ用移動機構11により、第1スライダ8に対してこれより先行して移動させられる。落下防止機構24は、第1スライダ8における前記両プーリ22A、22B間の中間部に支軸26により回動可能に支承されて、第1長孔部27A及び第2長孔部27Bを有するレバー25と、固定ベース7に設けられた第1ピン29Aと、第2スライダ10に設けられた第2ピン29Bとを有し、第1ピン29A及び第2ピン29Bを前記支軸26を中心として点対称配置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数段のスライダを有しこれらスライダを伸縮させる垂直多段式伸縮装置を備えた産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットでは、目的のストローク長に対して、設置スペースが小さい多段式伸縮装置を備えたものがある。この産業用ロボットでは、固定ベースに、第1スライダ用移動機構により移動される第1スライダを設け、この第1スライダに第2スライダを同方向に移動可能に設け、さらにプーリ及びベルトを有して当該第1スライダの移動に伴って前記第2スライダを移動させる第2スライダ用移動機構を設け、前記第1のスライダが前記第1スライダ用移動機構により移動されると、前記第2スライダ用移動機構により、第2スライダを当該第1スライダに対してさらに同方向に移動させるようにしている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
上述の多段式伸縮装置を垂直方向の搬送に使用する場合には、該多段式伸縮装置の概略構成は図12に示すようになる。図12(a)は後述する第2スライダ104がその設定された移動ストロークStにおける最上位置にある状態を示し、同図(b)は同移動ストロークStでの最下位置にある状態を示している。この多段式伸縮装置101は、固定ベース102と、この固定ベース102に垂直方向へ移動可能な第1スライダ103と、この第1スライダ103に垂直方向へ移動可能に設けた第2スライダ104と、第2スライダ用移動機構105とを備えている。なお、前記第1スライダ103を移動させるための第1スライダ用移動機構は図示していない。
【0004】
前記第2スライダ用移動機構105は、前記第1スライダ103の垂直方向両端部に設けられたプーリ105a、105bと両プーリ105a、105b間に架設されたベルト105cとを有し、当該ベルト105cの対向する二辺部のうち一方の辺部の一部105hを前記固定ベース102に連結し、他方の辺部にあって前記一部105hと対極する部分105iを前記第2スライダ104に連結してなる。
【0005】
図12(a)の状態から、図示しない第1スライダ用移動機構により第1スライダ103が下方(矢印A方向)に移動させられると、一部105hが固定ベース102に固定されたベルト105cに対してプーリ105a、105bが矢印A方向へ移動することから、ベルト105cの一辺105ca側も第1スライダ103に対してさらに矢印A´(矢印Aと同方向)方向へさらに移動し、もって当該第2スライダ104が第1スライダ103のストロークより長いストロークStで移動する。
【0006】
ところでこのようにベルト105cを備えた第2スライダ用移動機構105により第2スライダ104を移動させる構成においては、当該ベルト105cが経時的に疲労切断するおそれがあり、万一切れてしまうと第2スライダ104に対するベルト105cの支持がなくなって当該第2スライダ105が落下してしまう。
【0007】
これを防止する対応策として、特許文献3に記載の落下防止機構がある。
この落下防止機構は、モータの回転力をベルト伝達機構(モータ側プーリとボールねじ側プーリとベルトからなる)を介してボールねじに伝達してこれを回転させ、このボールねじのねじ受けを有したスライダを上下動させる昇降装置において、途中部が回動可能に軸支されたレバーの一端部を前記ベルト伝達機構のベルトに接触させ、該レバーの他端部に該ボールねじ側プーリと係止可能な係止部を形成し、このレバーを、その一端部が常時前記ベルトと接触する方向へ付勢するばねを設けた構成である。
【0008】
そして、この落下防止機構では、前記ベルトが切断されていない正常状態では、レバーの係止部がボールねじ側プーリと係止していない状態とされ、該ベルトが何らかの原因で切断されたときには前記ばねが能動的に作動してレバーをボールねじ側プーリに係止させ、該ボールねじ側プーリの自由回転をロックする。これによりボールねじの自由回転を防止してスライダの落下を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−285989号公報
【特許文献2】特開平11−245189号公報
【特許文献3】実開平5−71510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の落下防止機構の技術を、上記プーリ及びベルトを有したスライダ移動機構を備えた垂直方向の多段式伸縮装置に転用することが考えられる。具体的には、ベルトが切れたときにばねの能動的作動によりレバーを第2スライダに係止させて該第2スライダの落下を防止する構成とすることが考えられる。しかしこの構成の場合、前記ばねが壊れていても、垂直多段式伸縮装置としては支障なく動作できる。このため、前記落下防止機構が故障(例えばばねが壊れたり、レバーが固着したりするといった故障)に気付かないまま多段式伸縮装置が動作されてしまうこともあり、いざ、ベルトが切れたときには、ばねが能動的に作動せずに第2スライダの落下を防止できない事態を招来するおそれがある。さらにばねといった能動部材を有することで落下防止機構自体の故障発生確率も高い。
【0011】
特にロボットにおいては、垂直多段式伸縮装置を停止して、作業者がロボットメンテナンスやハンド取付けなどを行う際に、落下防止機構の故障に気が付かないと、不意に第2スライダが落下する危険もあり、このような事態は絶対に避けなければならない。
【0012】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、落下防止機構の故障発生確率を低くできると共に、万一故障が発生した場合でも該故障に容易に気付くことができる安全性の高い産業用ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の産業用ロボットは、固定ベースと、この固定ベースに垂直方向へ移動可能に設けられ第1スライダ用移動機構により移動させられる第1スライダと、この第1スライダに垂直方向へ移動可能に設けられた第2スライダと、前記第1スライダの垂直方向両端部に夫々設けられたプーリとこの両プーリ間に架設されたベルトとを有し当該ベルトの一部を前記固定ベースに連結し前記一部と対極をなす部分を前記第2スライダに連結してなり前記第1スライダの移動に伴って前記第2スライダを該第1スライダと同方向へ先行移動させる第2スライダ用移動機構とから構成された垂直多段式伸縮装置を備えると共に、前記第2スライダの落下を防止する落下防止機構を備えた産業用ロボットにおいて、前記落下防止機構を、前記第1スライダにおける前記両プーリ間の中間部に、長手方向中間部が支軸により回動可能に支承されたレバーと、このレバーに前記支軸近傍から一端方向へ直線状に延びるように形成された第1溝部と、前記レバーに前記支軸近傍から他端方向へ直線状に延びるように形成された第2溝部と、前記固定ベースに設けられて前記第1溝部に移動可能に挿入された第1ピンと、前記第2スライダに設けられて前記第2溝部に移動可能に挿入された第2ピンとを有し、前記第1ピン及び第2ピンは前記支軸を中心として点対称配置としたところに特徴を有する。
【0014】
上記請求項1によれば、ベルトが切れていない正常状態で、第1スライダが垂直方向へ移動すると、一部が固定ベースに固定されているベルトに対して、この第1スライダと共にスライダ移動機構の両プーリも移動するため、ベルトにおける第2スライダ側の辺部が、移動する第1スライドに対してさらにこれと同方向へ移動する。これにより前記第2スライダがこのベルトから移動力を受けてこの第1スライダに対して相対的に先行して移動する。そして、この第2スライダと共に移動する第2ピンがレバーの一方の第1溝部内面を押し、これによりレバーが回動する。この場合、第2ピンは第1ピンに対して前記支軸を中心として常に点対称配置であるから、この第2ピンは相対的に前記レバー中間部の前記支軸を中心として第1ピンと逆方向へ同期して該レバーの第2溝部内を移動し、もってレバーは支障なく回動するのである。このように落下防止機構は垂直多段式垂直装置の動作に伴って受動的に動作するのみであって、しかも構成自体もレバーを支軸で支承している程度の簡単な構成であるので、支軸部分での固着などの故障が発生することがほとんどない。
【0015】
そして、垂直多段式垂直装置が上述のように正常に動作しているときには落下防止機構のレバーも問題なく追随して回動する。
ここであえて上記レバーが固着などして故障が発生したと想定した場合、垂直多段式伸縮装置を動作させたときに、第1スライダの移動が固着状態のレバーによってロックされて垂直多段式伸縮装置の動作が停止し、これをもって、落下防止機構に故障が発生したと認識できるから、落下防止機構の故障に作業者がすぐに気がつく。
【0016】
又、作業者が、落下防止機構が正常に機能している状態で垂直多段式伸縮装置を停止してロボットメンテナンスやハンド取付けなどを行う際に、不意にベルトが切れた場合、第2スライダは該ベルトによる支持力がなくなって垂直に落下しようとするが、垂直多段式伸縮装置が動作停止していてレバーも停止しているから、垂直に落下しようとする該第2スライダの第2ピンの動きが斜状もしくは水平状をなすレバーの第2溝部により阻止され、もって、第2スライダの落下が防止される。
【0017】
又、垂直多段式伸縮装置が第1スライダを下方へ移動させている状態(レバーの他端側が下方向へ回動している状態)で、ベルトが切れた場合、第2スライダに対する該ベルトによる支持はなくなるが、支軸と第1ピンとでレバーの回動姿勢が規制されているから、当該レバーによって該第2スライダが受け止められ、該第2スライダの落下が阻止される。この後、レバーの他端側が下方向へ回動するが、垂直にしか動き得ない第2スライダに対して交差した形態のレバーが常にこの第2スライダを受け止めているから、落下することはない。
【0018】
この後、垂直多段式垂直装置の第1スライダが最下位置に至ってから上方向へ切り替え動作されるときには、レバーの他端側が上方向へ回動しようとするが、第2スライダの下方向の荷重を受けている第2ピンによりその回動が阻止され、結局、第1スライダ用移動機構が機能せず、つまり垂直多段式垂直装置が停止することになる。この停止動作によってベルトの切断発生が作業者によってすぐに認識される。
【0019】
なお、垂直多段式伸縮装置が第1スライダ及び第2スライダを上方向へ移動させている状態でベルトが切れた場合には、第2スライダに対するベルトの支持がなくなるから該第2スライダが自重によって下方向へ移動(落下)しようとするが、レバーの他端側が上方向に回動しているから、第2スライダは当該レバーにより支えられ、第2スライダの落下を防止できる。同時に、垂直多段式垂直装置にとっては、第2スライドの下方向の荷重(これにはハンドやワークなどの重量も加わっている)がかかった時点でその荷重に抗してレバーが押し上げることができず、第1スライダ用移動機構がすぐに機能停止状態となり、つまり垂直多段式垂直装置が即停止することになる。これによって作業者がベルトの切断発生にすぐに気づくことになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態を示すもので、第1スライダ用移動機構を省略した垂直多段式伸縮装置の斜視図
【図2】産業用ロボット全体の斜視図
【図3】垂直多段式伸縮装置の斜視図
【図4】第1スライダ用移動機構及び落下防止機構のレバーを省略した垂直多段式伸縮装置の斜視図
【図5】図8(b)の切断線S−Sに沿う断面図
【図6】図8(b)の切断線T−Tに沿う断面図
【図7】図8(b)の切断線U−Uに沿う断面図
【図8】(a)〜(d)は垂直多段式伸縮装置の動作状態が夫々異なる概略構成の側面図
【図9】(a)〜(d)はベルト切断の様子を示すための垂直多段式伸縮装置の概略構成の側面図
【図10】本発明の第2実施形態を示すレバーの斜視図
【図11】本発明の第3実施形態を示す図6相当図
【図12】参考例を示すもので、(a)は第2スライダが最上位置にある状態での垂直多段式伸縮装置の概略構成の側面図、(b)は第2スライダが最下位置にある状態での垂直多段式伸縮装置の概略構成の側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の第1実施形態について図1ないし図8を参照して説明する。図2において、産業用ロボット1(以下単にロボット1という)は水平移動機構2に垂直多段式伸縮装置3を水平移動可能に備えて構成されている。前記水平移動機構2は水平レール4に移動部材5を有すると共に、この移動部材5を移動させるためのボールねじ6を有する。このボールねじ6は図示しない駆動モータにより一方向及び逆方向へ回転駆動されるようになっている。上記移動部材5に前記垂直多段式伸縮装置3の固定ベース7が取り付けられている。
【0022】
この垂直多段式伸縮装置3について説明する。垂直多段式伸縮装置3は、固定ベース7と、第1スライダ8と、第1スライダ用移動機構9と、第2スライダ10と、第2スライダ用移動機構11と、落下防止機構24とを有して構成されている。
前記固定ベース7は、図4及び図5に示すように、ベース本体12と、これの一面に取り付けられた一対のレール摺動体13L、13Rとから構成されている。この固定ベース7は、そのベース本体12の他面が前記移動部材5のベース取付板5aに取り付けられている。
【0023】
前記一対のレール摺動体13L、13Rは、第1スライダ8及び第2スライダ10の移動方向(図3及び図4の矢印A方向)と直交する方向(図4及び図5の矢印Y方向)の両端部に位置させて矢印A方向に沿って平行状態に取り付けている。一対のレール摺動体13L、13Rはいずれも同じ構成である。
【0024】
そのうち一方のレール摺動体13Lには、図5に示すように、一面で開口する凹部13Laが矢印A方向へ延びるように形成されており、この凹部13Laの両内側面には、前記矢印A方向へ直線状に延びるボール状の第1のガイド部13Lb、13Lbが形成されている。なお、他方のレール摺動体13Rにも同様に凹部13Ra、第1のガイド部13Rb、13Rbが形成されている。
【0025】
又、前記第1スライダ8は、図4に示すように、一対の平行なレール14L、14Rと、この一対のレール14L、14Rの各一端面に宛がわれた状態で該各一端面にねじ止めされた第1連結端板15Aと、前記一対のレール14L、14Rの各他端面に宛がわれた状態で該各他端面にねじ止めされた第2連結端板15Bとを有して枠状に構成されている。
【0026】
そして、図5及び図6に示すように、前記一方のレール14Lの両側面において一方の辺部近くにはその長手方向に延びるように円弧溝状のガイド部14La、14Laが形成され、又、他方の辺部近くにその長手方向に延びるように円弧溝状のガイド部14Lb、14Lbが形成されている。
【0027】
又、他方のレール14Rも上記一方のレール14Lと同様に形成されており、従って、円弧溝状のガイド部14Ra、14Ra、14Rb、14Rbを有する。
前記ガイド部14Laは前記一方のレール摺動体13Lの第1のガイド部13Lbに摺動可能に係合し、又、前記ガイド部14Raは前記他方のレール摺動体13Rの第1のガイド部13Rbに摺動可能に係合している。これにより第1スライダ8が固定ベース7のレール摺動体13L、13Rに矢印A方向(図4及び図8(a)参照)及びこれとは反対の矢印B方向(図2及び図8(d)参照)へ移動可能に設けられている。
【0028】
前記第1スライダ用移動機構9は、図2及び図3に示すように、前記固定ベース7に設けた駆動用モータ16と、この駆動用モータ16によってベルト伝達機構17を介して回転されるボールねじナット(図示せず)を内部に有するナットケース19と、前記ボールねじナットと噛合するボールねじ18とを有する。前記ボールねじ18の一端部は前記第1連結端板15Aを押し引きできるように当該第1連結端板15Aに連結されており、図3及び図8(a)に示す最上位置状態から駆動用モータ16が一方向へ回転駆動されると第1連結端板15Aひいては第1スライダ8及び第2スライダ10が矢印A方向へ移動させられ、図8(d)に示す最長ストローク位置に至る。そして、この図8(d)の最長ストローク状態から前記駆動用モータ16が他方向へ回転駆動されると、第2スライダ10が矢印B方向へ移動させられる。
【0029】
又、前記第2スライダ10は、図7に示すように、前記第1スライダ8の移動方向での長さより短い寸法に形成された第2スライダ本体20と、この第2スライダ本体20に平行状態に取り付けられ、夫々、前記第1スライダ8の長さより短い寸法の一対の被ガイド体21L、21Rとを有して構成されている。この一対の被ガイド体21L、21Rのうち一方の被ガイド体21Lには、凹部21Laが前記第1スライダ8を移動させるべき方向(矢印A及びB方向)と同方向へ延びるように形成されており、さらにこの凹部21Laの両内側面には当該凹部21Laの延び方向と同方向へ延びて前記レール14Lのガイド部14Lbと摺動可能に係合するボール状の第2のガイド部21Lbが形成されている。
【0030】
又、他方の被ガイド体21Rにも、同様に、凹部21Ra、前記レール14Rのガイド部14Rbと摺動可能に係合する第2のガイド部21Rbが形成されている。
前記第2スライダ用移動機構11は、図4に示すように、前記第1スライダ8の前記第1連結端板15Aに前記一対のレール14L、14R間に位置して軸支持体22iを介して設けられた第1のプーリ22Aと、前記第1スライダ8の前記第2連結端板15Bに前記一対のレール14L、17R間に位置して軸支持体22jを介して設けられた第2のプーリ22Bと、これら第1のプーリ22A及び第2のプーリ22Bに架設したベルト23とを有する。そして、該ベルト23における一部を前記固定ベース7に固定具23aにより固定すると共に、前記一部(固定具23a部分)と対極位置にある別の部分を前記第2スライダ10の第2スライダ本体20に固定部23bにより固定している。
【0031】
この第2スライダ用移動機構11は、図8(a)の状態から第1スライダ8が矢印A方向へ移動すると、これに伴って、両プーリ22A、22Bも移動する。このとき、ベルト23の一部が固定ベース7に固定されているので、当該ベルト23の固定ベース7と反対側の辺部23Qが、移動する第1スライダ8に対してさらに矢印A方向へ移動することにより第2スライダ10が第1スライダ8に対してさらに同矢印A方向へ移動し、図8(b)及び(c)の状態を経て図8(d)の最長ストローク位置(最下位置)に至る。
【0032】
なお、前記第2スライダ10には、例えば、図示しないがハンドやカメラなどが取り付けられている。
さて、前記落下防止機構24について図1、図3、図5〜図8を参照して説明する。この落下防止機構24は、レバー25を備えており、このレバー25は、長尺で細長な板部材から構成されている。このレバー25の長手方向中間部には支軸26が一体的に取り付けられている。このレバー25には中間部近傍である支軸26近傍から一端方向へ延びるように第1溝部に相当する第1長孔部27Aが形成され、又、上記支軸26近傍から他端方向へ延びるように第2溝部に相当する第2長孔部27Bが形成されている。
【0033】
前記第1スライダ8おける前記両プーリ22A、22B間の中間部(各プーリから等距離の地点)であるレール14R中間部には、軸孔28がレール14側面と直交する方向に形成されている。
【0034】
前記固定ベース7におけるベース本体12及び第2スライダ10における第2スライダ本体20には、前記支軸26を中心点とする点対称位置に第1ピン29A及び第2ピン29Bがそれぞれ突出状態に取り付けられている。これらの外径寸法は前記第1長孔部27A及び第2長孔部27Bにほとんどガタつきなく且つ移動可能に挿入し得る寸法に設定されている。
【0035】
前記レバー25は、前記支軸26が前記軸孔28に回動可能に挿通支承されることにより、前記第1スライダ8における前記両プーリ22A、22B間の中間部に回動可能に軸支されている。この場合、前記第1ピン29Aは前記第1長孔部27Aに移動可能に挿入され、又第2ピン29Bは前記第2長孔部27Bに移動可能に挿入されている。
上記第1長孔部27A及び第2長孔部27Bの長さは、第2スライダ10の設定ストロークによって決まる前記第1ピン27A及び第2ピン27Bの移動領域より長く設定している。
【0036】
上記構成の作用について説明する。今、ベルトが切れていない正常状態(図8(a)の状態)で、なお且つ落下防止機構24が故障(例えば支軸26が軸孔28に対して固着したようなことなどが原因での動作不良)状態でないとする。この状態で、第1スライダ用移動機構9(図8には図示せず、図2及び図3参照)が第1スライダ8を垂直下方向(矢印A方向)へ移動させると、一部が固定ベース7に固定されているベルト23に対して第1スライダ8の一対のプーリ22A、22Bも移動することにより、該ベルト23の辺部23Q(図8(a)参照)が第1スライダ8に対してさらに矢印A方向へ移動する。
【0037】
これにより、この辺部23Qにおける固定具23bでベルト23に連結された前記第2スライダ10がこのベルト23から移動力を受けてこの第1スライダ8に対して相対的に先行して移動する。この場合第2スライダ10の移動速度は、第1スライダ8の移動速度の2倍となる。その移動途中状態を図8(b)、同図(c)に示す。そして図8(d)に示すように、第2スライダ10が予め設定された最下位置に至る。
【0038】
このような第1スライダ8及び第2スライダ10の移動時において、第2スライダ10に設けられた第2ピン29Bも垂直下方へ移動することにより該第2ピン29Bがレバー25の他方の第2長孔部27B内面を下方へ押す。この第2ピン29Bの移動速度は、第1スライダ8の支軸26より2倍の速度であるから、レバー25が支軸26を中心として矢印K方向(図8(a)参照)へ回動する。この場合、レバー25の一方の第1長孔部27Aに第1ピン29Aが挿入配置されているが、この第1ピン29Aと第2ピン29Bとは支軸26を中心として点対称配置形態であるので、当該レバー25は支障なく回動するのである。
【0039】
この後、この図8(d)の状態から第1スライダ用移動機構9により第1スライダ8が、逆に、上方向(矢印B方向)へ移動させられると、図8(c)、(b)の状態を経て図8(a)の最上位置に至る。この場合、前記第1スライダ8及び第2スライダ10が上方へ移動するから、レバー25も上述とは逆方向へ回動して図8(a)の状態に戻る。
【0040】
上述のように落下防止機構24は、垂直多段式垂直装置3の動作に伴って受動的に動作するのみであって、しかも構成自体もレバー25を支軸26で支承している程度の簡単な構成であるので、支軸26部分での固着などの故障が発生することがほとんどない。
【0041】
ここであえて、例えばレバー25が前述の支軸26部分で固着して落下防止機構24が故障したと想定して、垂直多段式垂直装置3の動作について説明すると、次のようになる。第1スライダ用移動機構9が第1スライダ8を下方向又は上方向へ移動させようと(垂直多段式伸縮装置3を動作させようと)したときに、落下防止機構24のレバー25が動き得ないことで、第2ピン29Bの移動が阻止(ロック)され、この阻止によって、結局第1スライダ8は動作せず、すなわち、垂直多段式伸縮装置3が動作しない。これをもって、落下防止機構24に故障が発生したと認識できる。
【0042】
このように、万一、落下防止機構24に故障が発生したとしても、垂直多段式伸縮装置3が動作不能となることで、すぐに落下防止機構24の故障を確認できる。従って、落下防止機構24が故障したままで垂直多段式垂直装置3が稼動されるということもない。
【0043】
次に、前記第1スライダ用移動機構9のベルト23が疲労劣化などで切断した場合について説明する。前記第1スライダ用移動機構9のベルト23は、使用時間が長期にわたると疲労劣化などして切断してしまうおそれがあり、この場合、その切断タイミングとしては、作業者が、垂直多段式垂直装置3を停止して各部の点検中とかメンテナンス中といったタイミングや、垂直多段式垂直装置3の稼働中であったりする。
【0044】
まず、作業者が、落下防止機構24が正常な状態で垂直多段式伸縮装置を停止してロボットメンテナンスやハンド取付けなどを行う際に、不意にベルトが切れた場合について説明する。この場合、垂直多段式垂直装置3が停止していることで、第1スライダ8ひいては支軸26が動かず、そして第1ピン29Aがもともと動かないことから、レバー25が動かない状態となっている。この状態で、ベルト23が切れたとすると、当該ベルト23による第2スライダ10に対する支持力がなくなって、当該第2スライダ10が、垂直に落下しようとするが、上述したようにレバー25が動き不能状態であるから、垂直に落下しようとする該第2スライダ10の第2ピン29Bの真下への動きが斜状もしくは水平状をなすレバー25の第2長孔部27Bにより阻止され、もって、第2スライダ10の落下が防止される。
【0045】
ここで上記「第2スライダ10の落下」とは、ベルト23切断により拘束が解除されて第2スライダ10が何ら下方からの抗力も受けずに自由落下することをいう。従って、本実施形態では、第1連結端板15Aが存在することで、該第1連結端板15Aが第2スライダ10落下に対するストッパとして機能することも予測されるが、この第1連結端板15Aは、ベルト23が切れたときの第2スライダ10の自由落下を阻止するものではない。そして、本実施形態では、第2スライダ10の落下(自由落下)を防止できるから当該第2スライダ10が第1連結端板15Aに衝当することもなければ、勢い余って該第1連結端板15Aから脱落するということもない。
【0046】
又、本実施形態では、落下防止機構24を設けたことによって、他のストッパなどは本来的には必要ではなく、このため、例えば、上記第1連結端板15Aを、レール14L、14Rの端面間連結ではなく相互に対向する側面間を連結する構成としても良い。
次に、垂直多段式伸縮装置3が動作している状態で、ベルト23が切れた場合を説明するが、まず、第2スライダ10が下方向へ移動されている過程で、ベルト23が切れた場合について図9を参照して述べる。
【0047】
仮にこの図9(b)のタイミング(第1スライダ8が下方向(矢印A方向)へ移動しているタイミング)でベルト23が切れた場合、第2スライダ10に対する該ベルト23による支持がなくなるから、該第2スライダ10は自身の重量(この第2スライダ10には自身の重量以外に自身に取り付くハンドなどの重量が加わっている)がレバー25に対して、垂直下方向に作用するが、このレバー25は第1スライダ8の矢印A方向への移動に伴って受動的に回動(支軸26を中心とした矢印K方向の回動)しているため、第2ピン29Bが斜状をなす第2長孔部27Bにより動きが規制され、一気に落下するようなことはない。
【0048】
そして、この第2ピン29B従って第2スライダ10は、レバー25の矢印K方向への回動に追随して下方へ動いてゆき、第1スライダ8が、図8(d)に示す下限位置(レバー25にとっては矢印K方向の回動限度位置)となると、真下にしか動き得ない第2スライダ10に対して交差する形態でレバー25の回動が停止するため、斜状をなす第2長孔部27Bにより第2ピン29Bの垂直下方向の動きが止められる。従って、この下限位置でも第2スライダ10は落下することはない。
【0049】
そして、最下位置から、第1スライダ用移動機構9により第1スライダ8が逆方向である上方向へ力を受けると、レバー25も矢印H方向(矢印Kと反対方向、図9(d)参照)へ回動しようとするが、第2スライダ10の下方向の荷重を受けている第2ピン29Bによりその矢印H方向の回動が阻止され、結局、第1スライダ用移動機構9が機能せず、つまり垂直多段式垂直装置3が停止することになる。この停止動作によってベルト23の切断発生が作業者によってすぐに認識される。
【0050】
なお、第2スライダ10が上方向へ移動されているタイミング(レバー25他端部が矢印H方向へ回動しているタイミング)で、ベルト23が切れた場合には、当該ベルト23が切れたことによって第2スライダ10が自重によって下方向へ移動(落下)しようとするが、レバー25が第1スライダ用移動機構9の動作つまり垂直多段式伸縮装置3の動作に受動的に矢印H方向に回動しているから、第2スライダ10は当該レバー25により支えられ、落下することはない。つまり、この場合も第2スライダ10の落下を防止できる。同時に、垂直多段式垂直装置3にとっては、第2スライド10の下方向の荷重がかかった時点でその荷重に抗してレバー25が押し上げることができなくなり、第1スライダ用移動機構9がすぐに機能停止状態となり、つまり垂直多段式垂直装置3が異常停止することになる。これによって作業者がベルト23の切断発生にすぐに気づくことになる。
【0051】
このように本実施形態によれば、落下防止機構24を、前記第1スライダ8における前記両プーリ22A、22B間の中間部に支軸26により回動可能に軸支されて、当該支軸26から一端側及び他端側に夫々延びる第1長孔部27A及び第2長孔部27Bを有するレバー25と、前記固定ベース7に設けられて第1長孔部27Aに摺動可能に挿入された第1ピン29Aと、前記第2スライド10に設けられて第2長孔部27Bに摺動可能に挿入された第2ピン29Bとを備え、前記第1ピン29Aと第2ピン29bとを前記支軸26を中心として点対称配置とする構成とした。これにより、従来のばねなどの能動部材を備えず、能動的な垂直多段式伸縮装置3と連係する受動的な落下防止機構24を実現し得た。しかもこの場合落下防止機構24の構成は、レバー29及び第1ピン29A並びに第2ピン29Bを有する程度であるから、構成も極めて簡単であり、落下防止機構24自体の故障発生確率を低くできる。
【0052】
さらに、このように落下防止機構24は、上述の構成としたことにより、垂直多段式伸縮装置3と連係するレバー25が、ベルト23切断時では直ちに第2スライダ10の落下に抗するから、垂直多段式伸縮装置3が動作停止時おいてベルト23が切れた場合であっても、又、垂直多段式伸縮装置3が動作中にベルト23が切れた場合であっても、確実に第2スライダ10の落下を防止でき、且つ、垂直多段式伸縮装置3の動作自体も速やかに停止できる。
【0053】
そして、落下防止機構24を能動的に作動する垂直多段式伸縮装置3により受動的に動作させるから、万一、何らかの原因で落下防止機構24が故障すれば、上述したように、垂直多段式伸縮装置3自体の動作が停止することになり、作業者が、落下防止機構24が故障したことに容易に且つすぐに気付くようになる。この結果、落下防止機構24の故障に気付かないまま作業者がロボット1に接近する危険を防止でき、ロボット1使用時において安全面を従来に比して格段に強化できる。
【0054】
そして、必ず、落下防止機構24が故障していないことを条件に垂直多段式伸縮装置3が動作するから、落下防止機構24が故障のまま、垂直多段式伸縮装置3ひいてはロボット1が動作する不具合をなくすことができる。
【0055】
上述した実施形態から分かるように、本発明の落下防止機構は、作業者の安全が追及されるロボットにおいて、ワークなどを保持する部材(第2スライダ)の落下を確実に防止し、且つ当該落下防止機構自体の故障にも速やかに気付かせてくれるものであり、単にシーソー的に動作するレバー機構やリンク機構とは異なるものである。
【0056】
本発明は、上述した第1実施形態に限定されず、次のように変更しても良い。レバーの形状は、上記第1実施形態のレバー25の形状以外に図10に示すレバー31の形状としても良い。すなわち、第1実施形態では、レバー25の第1溝部及び第2溝部を、夫々第1ピン29A及び第2ピン22Bの挿入先端側が開通し且つ両端が有端である第1長孔部27A及び第2長孔部27Bから構成したが、レバー31では、第1溝部及び第2溝部として、第1ピン及び第2ピンの挿入先端側が閉塞した断面U形状の第1溝部32A及び第2溝部32Bを備えており、且つ、この第1溝部32A及び第2溝部32Bは、レバー31先端側が開放している。
【0057】
又、図11に示すように、第1ピン29Aは固定ベース7のレール摺動体13Rに取付け、第2ピン29Bは第2スライダ10の被ガイド体21Rに取付けるようにしても良い。
又、垂直多段式伸縮装置の固定ベースは、水平移動機構に取付ける構成でなくても良く、任意方向に移動可能な移動機構に取付けたり、或いは固定壁や固定フレームに取付ける構成としても良い。
【符号の説明】
【0058】
図面中、1はロボット、2は水平移動機構、3は垂直多段式伸縮装置、7は固定ベース、8は第1スライダ、9は第1スライダ用移動機構、10は第2スライダ、11は第2スライダ用移動機構、14L、14Rはレール、15Aは第1連結端板、15Bは第2連結端板、22A、22Bはプーリ、23はベルト、24は落下防止機構、25はレバー、26は支軸、27Aは第1長孔部(第1溝部)、27Bは第2長孔部(第2溝部)、29Aは第1ピン、29Bは第2ピンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ベースと、この固定ベースに垂直方向へ移動可能に設けられ第1スライダ用移動機構により移動させられる第1スライダと、この第1スライダに垂直方向へ移動可能に設けられた第2スライダと、前記第1スライダの垂直方向両端部に夫々設けられたプーリとこの両プーリ間に架設されたベルトとを有し当該ベルトの一部を前記固定ベースに連結し前記一部と対極をなす部分を前記第2スライダに連結してなり前記第1スライダの移動に伴って前記第2スライダを該第1スライダと同方向へ先行移動させる第2スライダ用移動機構とから構成された垂直多段式伸縮装置を備えると共に、前記第2スライダの落下を防止する落下防止機構を備えた産業用ロボットにおいて、
前記落下防止機構を、
前記第1スライダにおける前記両プーリ間の中間部に、長手方向中間部が支軸により回動可能に支承されたレバーと、
このレバーに前記支軸近傍から一端方向へ直線状に延びるように形成された第1溝部と、
前記レバーに前記支軸近傍から他端方向へ直線状に延びるように形成された第2溝部と、
前記固定ベースに設けられて前記第1溝部に移動可能に挿入された第1ピンと、
前記第2スライダに設けられて前記第2溝部に移動可能に挿入された第2ピンとを有し、
前記第1ピン及び第2ピンは前記支軸を中心として点対称配置としたことを特徴とする産業用ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−183459(P2011−183459A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47736(P2010−47736)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】