説明

産業車輌の運転室

【課題】所望する外装パネルのサイドシルエットをコストの増大等を招くことなく形成し得る産業車輌の運転室を提供する。
【解決手段】産業車輌の運転室1は、フレーム構造体の外部に外装パネル52,53Lを溶接により接合して成る産業車輌の運転室において、フレーム構造体10の構成部材に、外装パネルのサイドシルエットに倣ったパネル取付面を有する中間部材20Lを設け、この中間部材を介して外装パネルをフレーム構造体に接合したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車輌の運転室に関するものであり、詳しくは運転室におけるフレーム構造体に対する外装パネルの取り付け態様に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に示した従来の油圧ショベル(産業車輌)Aは、クローラ形式の走行機構を有する下部走行体Bと、該下部走行体Bに搭載支持された上部旋回体Cとを備え、この上部旋回体Cには、作業機Dとともに走行・作業機兼用の運転室Eが設置されている。
【0003】
ここで、建設機械や農業機械等の産業車両における運転室は、通常、異形鋼管等の構成部材から組み立てられたフレーム構造体に、外装パネルを取り付けることによって構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図7に示す如く、上記運転室Eのフレーム構造体Hは、ベースIに立設された左前方ピラーLFと左後方ピラーLBとを左ルーフピラーLTで連結するとともに、ベースIに立設された右前方ピラーRFと右後方ピラーRBとを右ルーフピラーRTで連結し、上記左ルーフピラーLTと右ルーフピラーRTとを、左右に延びる前後のルーフビームJ、Kで連結するとともに、上記左後方ピラーLBと右後方ピラーRBとを、左右に延びる上部リヤビームMおよび中間リヤビームNで連結することによって構成されている。
【0005】
また、上述の如く構成されたフレーム構造体Hの外面に、ルーフパネルPt、リヤパネルPb、およびサイドパネルPl(右側のサイドパネルは省略)等、各種の外装パネルを溶接によって取付けることで、図6に示した油圧ショベルAの運転室Eが構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−161552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、昨今の産業車輌における運転室には、転倒した際に運転員を保護し得る構造が採用されつつあり、ROPS(Roll Over Protective Structure)や、EOPS(Excavetor Operator Protective Structure)等、転倒時保護構造の性能が重視されている。
【0008】
ここで、運転室Eにおけるフレーム構造体Hの左後方ピラーLBおよび右後方ピラーRBは、図8に示す如く運転室Eの内部スペースを損なわずに強度を確保すべく、共に四角い断面形状を呈する角鋼管(中空の管材)から形成されており、これら左後方ピラーLBと右後方ピラーRBとを連結する中間リヤビームNは、左後方ピラーLBにおける内方側面LBiの前後中央部、および右後方ピラーRBにおける内方側面RBiの前後中央部に、左右の端部を溶接によって接合されている。
【0009】
このため、油圧ショベルAが転倒した際、運転室E(フレーム構造体H)の後方部に、矢印Wlあるいは矢印Wrで示す如く横方向から大きな外力が加わった場合、その外力によって左後方ピラーLBの内方側面LBi、および右後方ピラーRBの内方側面RBiが、鎖線で示す如く容易に変形することとなり、運転室E(フレーム構造体H)が歪んでしまうため、運転室Eにおける十分な転倒時保護構造の性能を得られない虞れがあった。
【0010】
一方、従来の運転室Eを構成する外装パネルは、上述した如くフレーム構造体Hの外面に取り付けられており、例えばフレーム構造体Hの後方を覆うリヤパネルPbは、図8に示す如く、左後方ピラーLBの後方外面LBo、および右後方ピラーRBの後方外面RBoに、それぞれ溶接によって直接に取り付けられている。因みに、図8では矢印Fが運転室Eおよびフレーム構造体Hの前方を指している。
【0011】
ここで、昨今の運転室においては、デザイン性の向上を目的として、外観を曲線的なシルエットとしたものがあるが、例えば上記リヤパネルPbが上下方向に沿って曲線(曲面)に形成されている場合、上述の如くリヤパネルPbが直接に取付けられる左後方ピラーLBの後方外面LBo、および右後方ピラーRBの後方外面RBoを、上記リヤパネルPbに倣った曲線(曲面)とする必要がある。
【0012】
このため、運転室Eの外観を所望する曲線的なシルエットとするには、左後方ピラーLBおよび右後方ピラーRBの製作が煩雑となることから、コストの増大に伴う生産性の低下を招いたり、デザインの自由度が大幅に低下する等の不都合を招いていた。
【0013】
上記実状に鑑みて、本発明における目的は、生産性やデザイン自由度の低下を招くことなく、曲線的なシルエットの外観形状を得ることの可能な、産業車輌の運転室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するべく、請求項1に関わる産業車輌の運転室は、フレーム構造体の外部に外装パネルを溶接により接合してなる産業車輌の運転室において、フレーム構造体の構成部材に、上記外装パネルのサイドシルエットに倣ったパネル取付面を有する中間部材を設け、この中間部材を介して上記外装パネルを上記フレーム構造体に接合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に関わる産業車輌の運転室によれば、フレーム構造体の構成部材に中間部材を介して外装パネルを接合することで、上記外装パネルの形状に合わせて構成部材を製作する必要がなく、もって生産性やデザイン自由度の低下を招くことなく、曲線的なシルエットの外観形状を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に関わる産業車輌における運転室の実施例を示す全体外観斜視図。
【図2】図1に示した運転室のフレーム構造体を示す外観斜視図。
【図3】(a)および(b)は、図1に示したフレーム構造体の要部背面図および要部水平断面図。
【図4】図1に示した運転室のフレーム構造体および外装パネルを含んだ要部水平断面図。
【図5】(a)および(b)は、図1に示した運転室におけるフレーム構造体の外観側面図およびフレーム構造体に外観パネルを取付けた運転室の外観側面図。
【図6】一般的な産業車輌を示す概念的な全体側面図。
【図7】従来の産業車輌における運転室を示す分解斜視図。
【図8】従来の産業車輌における運転室の要部水平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を示す図面に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明を油圧ショベル(産業車輌)の運転室に適用した実施例を示しており、この運転室1は、フレーム構造体10における外面の所定箇所に、ルーフパネル51、リヤパネル52、左サイドパネル53Lおよび右サイドパネル53R等、所要の外装パネルを溶接により接合することで構成されている。なお、油圧ショベルの全体構成は、図6の一般的な油圧ショベルAと変わるところはない。
【0018】
図2に示す如く、上記運転室1におけるフレーム構造体10は、ベースフレーム11、左前方ピラー12Lと左ルーフピラー13Lとを一体成形した左サイドフレーム14L、右前方ピラー12Rと右ルーフピラー13Rとを一体成形した右サイドフレーム14R、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15R等を構成部材としている。
【0019】
そして、上記フレーム構造体10は、ベースフレーム11に立設した左サイドフレーム14Lの終端部と左後方ピラー15Lの上部とを連結するとともに、ベースフレーム11に立設した右サイドフレーム14Rの終端部と右後方ピラー15Rの上部とを連結し、左サイドフレーム14Lと右サイドフレーム14Rとを、左右に延びる前方ルーフビーム16および中間ルーフビーム17によって連結するとともに、上記左後方ピラー15Lと右後方ピラー15Rとを、上部リヤビーム18T、中間リヤビーム19および下部リヤビーム18Bによって連結することで構成されている。
【0020】
ここで、上記フレーム構造体10の左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rは、ベースフレーム11の後部左右に相対向して立設された柱部材であり、図3に示す如く、運転室1の内部スペースを損なわずに強度を確保すべく、共に四角い断面形状を呈する角鋼管(中空の管材)から形成されている。因みに、図3(b)では矢印Fがフレーム構造体10(運転室1)の前方を指している。
【0021】
また、左後方ピラー15Lの後方面15Loには、該左後方ピラー15Lの長手方向(上下方向)に沿ってチャネル材(補強部材)20Lが固設されており、また、右後方ピラー15Rの後方面15Roには、該右後方ピラー15Rの長手方向(上下方向)に沿ってチャネル材(補強部材)20Rが固設されている。
【0022】
一方、上記左後方ピラー15Lと右後方ピラー15Rとを連結する中間リヤビーム(ビーム部材)19は、左後方ピラー15Lにおける内方側面15Liの後方側、および右後方ピラー15Rにおける内方側面15Riの後方側、すなわち左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの前後方向中心o−oから後方に配置され、中間リヤビーム19の厚さ(前後方向の太さ寸法)の半分が、左後方ピラー15Lの後方面15Loおよび右後方ピラー15Rの後方面15Roより後方にオフセットした部位に、左方端面19lおよび右方端面19rを夫々溶接によって接合されている。
【0023】
言い換えれば、上記中間リヤビーム19の厚さ(前後方向の太さ寸法)の中心線19o−19oと、左後方ピラー15Lの後方面15Loおよび右後方ピラー15Rの後方面15Roとが、互いに略直線上に並んで位置した態様において、左方端面19lおよび右方端面19rが夫々溶接によって接合されている。
【0024】
また、上記中間リヤビーム19に形成された左方舌部19Lおよび右方舌部19Rは、左後方ピラー15Lの後方面15Loおよび右後方ピラー15Rの後方面15Roに臨む態様で、夫々溶接によって左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rに接合されている。
【0025】
なお、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rと中間リヤビーム19とを上述した態様で溶接する場合、溶接部における継ぎ手の形状を最も簡単な隅肉継ぎ手とし得ることは言うまでもない。
【0026】
上述した如く、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの前後方向中心からオフセットした部位に、中間リヤビーム19の左方端面19lおよび右方端面19rを接合したことで、矢印Wlあるいは矢印Wrで示す如く横方向から外力が加わった際に、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの変形が可及的に抑えられ、もってフレーム構造体10の強度が大幅に向上することとなる。
【0027】
さらに、左後方ピラー15Lと右後方ピラー15Rとにおける後方面15Lo、15Roに夫々補強部材としてのチャネル材20L、20Rを固設したことで、上記左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの曲げ強度や座屈強度が向上し、もって外力によるフレーム構造体10の歪みを可及的に防止することが可能となる。
【0028】
また、中間リヤビーム19の左方舌部19Lおよび右方舌部19Rが、左後方ピラー15Lの後方面15Loおよび右後方ピラー15Rの後方面15Roに臨んでいるため、矢印Wbで示す如く後方から加わった外力は、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rによって有効に受け止められることとなる。
【0029】
さらに、上述した如きフレーム構造体10の構成によれば、その製造工程において、間に中間リヤビーム19を置くことにより、左後方ピラー15Lと右後方ピラー15Rとの位置決めが為され、また、左後方ピラー15Lの後方面15Loおよび右後方ピラー15Rの後方面15Roと、中間リヤビーム19の左方舌部19Lおよび右方舌部19Rとで挟み込むことにより、チャネル材20L、20Rを位置決めすることができる。
【0030】
一方、図4および図5に示す如く、上記フレーム構造体10における外面の所定位置に、リヤパネル52、左サイドパネル53L、および右サイドパネル53Rを取付ける場合には、左後方ピラー15Lの後方面15Loに固定設置されたチャネル材20L、および右後方ピラー15Rの後方面15Roに固定設置されたチャネル材20Rに、溶接によって上記リヤパネル52、左サイドパネル53Lおよび右サイドパネル53Rを接合する。
【0031】
ここで、上記チャネル材20L、20Rは、上述した如く左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの補強部材であるとともに、フレーム構造体10の構成部材である左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rに、外装パネルを取付けるための中間部材でもある。
【0032】
そして、上記チャネル材20Lおよびチャネル材20Rには、上記リヤパネル52、左サイドパネル53Lおよび右サイドパネル53Rのサイドシルエット、すなわち、側方から観た場合に上下方向に延びる曲線(曲面)に倣ったパネル取付面20Lo、20Roが形成されている。
【0033】
左サイドパネル53Lの縁部53Leとリヤパネル52の縁部52eとは、共にチャネル材20Lのパネル取付面20Loに溶接されており、また右サイドパネル53Rの縁部53Reとリヤパネル52の縁部52eとは、共にチャネル材20Rのパネル取付面20Roに溶接されている。
【0034】
因みに、チャネル材20L、20Rに換えて、隣合う外装パネルの縁部を共に溶接するに十分な板厚の板材から、補強部材を兼ねる中間部材を構成することも可能である。
【0035】
上述した構成の運転室1によれば、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rに、チャネル材20L、20Rを介してリヤパネル52、左サイドパネル53Lおよび右サイドパネル53Rを接合したことで、上記外装パネルのサイドシルエットに合わせて左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rを製作する必要がなく、もって生産性やデザイン自由度の低下を招くことなく曲線的なシルエットの外観形状が得られる。
【0036】
また、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの後方へ突出したチャネル材20L、20Rに取付けることで、左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rの後方から側方へ回り込む左サイドパネル53Lおよび右サイドパネル53Rのコーナー部(図4中において鎖線で囲んだ部位)の半径(コーナー半径)を、角鋼管から成る左後方ピラー15Lおよび右後方ピラー15Rのコーナー半径よりも遙かに大きく設定でき、もってデザインの自由度が大幅に向上することとなる。
【0037】
さらに、上述した構成によれば、隣合う外装パネル同士を重ねることなく、各外装パネルをフレーム構造体10に取付けることができるので、フレーム構造体10に対して外装パネルをセット(仮組み)する工程と、フレーム構造体10に対して外装パネルを溶接する工程とを完全に分離でき、もって各工程を集約し得ることから生産性の大幅な向上を図ることが可能である。
【0038】
なお、上述した実施例においては、油圧ショベルの運転室に本発明を適用しているが、上記油圧ショベル以外の様々な産業車輌、例えばブルドーザ等の各種建設車輌や、コンバイン等の各種農業車輌においても、本発明に関わる運転室の構成を有効に適用し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1…運転室、
10…フレーム構造体、
15L…左後方ピラーLB(柱部材)、
15R…右後方ピラーRB(柱部材)、
19…中間リヤビーム(ビーム部材)、
20L,20R…チャネル材(補強部材/中間部材)、
52…リヤパネル(外装パネル)、
53L…左サイドパネル(外装パネル)、
53R…右サイドパネル(外装パネル)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム構造体の外部に外装パネルを溶接により接合してなる産業車輌の運転室において、
前記フレーム構造体の構成部材に、前記外装パネルのサイドシルエットに倣ったパネル取付面を有する中間部材を設け、この中間部材を介して前記外装パネルを前記フレーム構造体に接合したことを特徴とする産業車輌の運転室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−163163(P2010−163163A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24302(P2010−24302)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【分割の表示】特願2005−146611(P2005−146611)の分割
【原出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】