説明

田植機搭載型薬剤散布装置

【課題】 取り付け作業が容易な田植機搭載型薬剤散布装置を提供すること。
【解決手段】 田植え作業と並行して薬剤を散布する田植機搭載型薬剤散布装置であって、前記薬剤を散布する散布機構1と、前記田植機に具備される苗載せ台Sの往復動作を利用して作動され、前記散布機構1による薬剤散布を前記植え付け動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構30とを備え、該散布動作制御機構30は、前記苗載せ台Sの前面に取り付けられ、該苗載せ台Sと共に往復移動して前記散布機構1の作動の契機となる作動契機部と、前記苗載せ台Sに対向して田植機本体に取り付けられ、前記作動契機部が前記苗載せ台Sの往復動作に伴って移動することによりオン・オフが切り換えられるスイッチ22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機に搭載され、田植え作業と並行して農薬・肥料等の薬剤を散布する田植機搭載型薬剤散布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
しろかきを終えて水を導入した水田に除草を目的として散布される農薬等の薬剤は、田植えを行う数日前後に散布されるのが通常であったが、近年では成分の改良がなされ、田植えと同時に散布することが可能になっている。
【0003】
このような薬剤には液状のものと粒状のものがあり、それぞれについて散布装置が用意されている。液状薬剤用の散布装置は、苗の掻き取り爪の回転運動を利用して薬剤を間欠的に送り出し、所定時間をあけて薬剤を微量ずつ滴下するしくみになっており、田植えを行う田植機の走行中に作動させることで水田に薬剤を散布する。
【0004】
粒状の薬剤を散布する散布装置は、田植機に装着され、薬剤の収納部から間欠的に薬剤を流下させ、さらに流下させた薬剤を別の電源によって駆動されるファンによって弾き飛ばすしくみになっており、田植えを行う田植機の走行中に作動させることで水田に薬剤を散布する(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このような田植機搭載型薬剤散布装置(以下では単に散布装置と呼ぶ)を図3に示した。図の散布装置は、田植機の後部に位置する苗載せ台Sのさらに後方に設置され田植作業と並行して農薬を散布する散布機構1と、田植機に具備される苗載せ台Sの往復動作を利用して作動されて散布機構1による農薬散布を田植作業に同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構2と、散布機構1を作動させるための電力を供給する電源機構4とを備えている。
【0006】
散布機構1は、田植機の農薬が収納される収納部10と、収納部10の下部に取り付けられたパイプ部(供給路)11を通じて供給される農薬を噴出するノズル部12とを備え、苗載せ台Sの後方に立設された門型のフレーム13に固定されている。フレーム13は、苗載せ台Sの幅方向に離間して配置されたふたつの脚部14を、苗の掻き取り爪を駆動するギヤボックスBにそれぞれネジ止めされている。なお、脚部14を固定するためのネジ穴およびネジにはギヤボックスBに既設のものがそのまま流用されている。
【0007】
散布動作制御機構2の詳細を図4に示した。苗載せ台Sの裏面側には苗載せ台Sとともに往復移動するバー21が取り付けられている。バー21は、苗載せ台Sの裏面に苗載せ台Sの移動方向と平行に取り付けられている。
【0008】
バー21は断面コ字型のいわゆるチャネル形状を有し、中央の溝部21aを田植機の前方に向けた状態で梁部S等にファスニングベルト21bを用いて固定されている。溝部21aの底面にあたる部分には、複数の金属製のボルト(作動契機部)21cが取り付けられている。ボルト21cは苗載せ台Sの移動幅よりもやや狭い範囲に等間隔に配列されている。
【0009】
バー21には、その長さ方向に移動自在に近接スイッチ22が取り付けられている。近接スイッチ22は、苗載せ台Sの往復動作に伴って移動するボルト21cの接近を磁力線の作用により検出する機構を有しており、バー21に沿って移動可能に取り付けられた台車23に対し検出部22aを溝部21aの底面に向けて固定されている。台車23は、両側に車輪23aを2個ずつ取り付けられており、これら車輪23aをバー21に設けられたレール部21dに転動可能に噛み合わせることでバー21の長さ方向に移動自在となっている。
【0010】
近接スイッチ22は、台車23とともにバー21に沿って移動させると、検出部22aがボルト21cに接近する度にその接近を検出して出力を得るようになっている。(実際には苗載せ台Sに取り付けられたバー21が移動してスイッチングされる。)
【0011】
また、図3に示した支持枠Fには、近接スイッチ22を所定の位置に留めておくための支持棒部25が取り付けられている。支持棒部25は、先端に棒状部25aを備えている。棒状部25aは、台車23に形成された取付孔23bに、先端が挿入された状態となっており、これによって近接スイッチ22および台車23が常に所定の位置に留まるようになっている。
【0012】
上記のように構成された散布装置の場合、田植機の植え付け動作が開始されると、苗載せ台Sは掻き取り爪による苗の掻き取り動作に同調して側方に往復移動を開始する。苗載せ台Sが側方に往復動作を開始すると、苗載せ台Sとともにバー21が往復移動し、バー21に取り付けられた複数のボルト21cが近接スイッチ22の検出部22aの上を次々に通過する度に近接スイッチ22がスイッチングされる。
【0013】
近接スイッチ22がスイッチングされるとその度に散布機構1が備える不図示の弁が開き、収納部10から一定量の農薬が排出され、ノズル部12から田植機の後方に向けて噴出される。苗載せ台Sは田植機の植え付け動作に同調して作動し、植え付け動作が減速されると苗載せ台Sの移動速度も減少し、植え付け動作が増速されると苗載せ台Sの移動速度も増加するので、所定の植え付け面積に散布される農薬の散布量は田植機の植え付け速度に関わらず一定となる。
【特許文献1】特開平11−308959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように構成された従来の散布装置では、散布動作制御機構2は苗載せ台Sの裏側(田植機の前よりの面)に固定されている。しかしながら、この領域は田植機本体・車輪等と苗載せ台Sに挟まれているため、設置スペースが限られているとともに、取り付け作業が容易ではない場合があるという問題があった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、散布動作制御機構の取り付け作業が容易な田植機搭載型薬剤散布装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、田植え作業と並行して薬剤を散布する田植機搭載型薬剤散布装置であって、前記薬剤を散布する散布機構と、前記田植機に具備される苗載せ台の往復動作を利用して作動され、前記散布機構による薬剤散布を前記植え付け動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構とを備え、該散布動作制御機構は、前記苗載せ台の前面に臨んで取り付けられ該苗載せ台と共に往復移動して前記散布機構の作動の契機となる作動契機部と、前記苗載せ台に対向して田植機本体に取り付けられ、前記作動契機部が前記苗載せ台の往復動作に伴って移動することによりオン・オフが切り換えられるスイッチとを備えていることを特徴とする田植機搭載型薬剤散布装置を提案している。
【0017】
本発明に係る田植機搭載型薬剤散布装置よれば、散布動作制御機構は苗載せ台の前面、すなわち苗床がセットされる面(苗載せ台に対して田植機の後方側)に設けられる。これにより散布動作制御機構の取り付け作業が容易となる。
なお、従来と同様に薬剤を散布する散布機構を田植機の苗載せ台のさらに後方に設けることで、スイッチと散布機構との距離が従来よりも近くなるため、配線および取り付け作業が容易となる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の田植機搭載型薬剤散布装置において、前記苗載せ台は、苗床がセットされる条を互いに仕切る仕切壁を該苗載せ台の前面に備え、前記散布動作制御機構は、前記作動契機部を支持する支持フレームを備え、該支持フレームは、前記仕切壁に対して固定されることを特徴とする田植機搭載型薬剤散布装置を提案している。
【0019】
本発明に係る田植機搭載型薬剤散布装置よれば、作動契機部が支持フレームを介して仕切壁に対して固定されることで、散布動作制御機構の取り付け作業が容易かつ確実となり、また、苗載せ台に対する取付の位置決めが容易となる。
好ましくは、さらに苗載せ台の上端縁において苗載せ台を前面および後面から挟み込むように支持フレームを固定する。これにより、作動契機部をさらに確実に固定することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の田植機搭載型薬剤散布装置において、前記苗載せ台に固定された支持フレームと、これら支持フレームの先端に支持され、前記作動契機部を具備し前記苗載せ台と共に往復移動することにより該作動契機部が前記スイッチをスイッチングするバーとを備え、該バーは、前記苗載せ台から少なくとも10cm以上の距離で支持されていることを特徴とする田植機搭載型薬剤散布装置を提案している。
【0021】
本発明に係る田植機搭載型薬剤散布装置よれば、苗床を苗載せ台にセットする作業、および田植え作業に支障が出ない範囲にバーが支持される。
好ましくは、バーの位置を、苗載せ台の3分の2程度の位置に取り付ける。取り付け位置が苗載せ台の上端に近づきすぎると、苗載せ台に苗床をセットする作業の支障となり、また下すぎると苗載せ台に設けられた棒状の苗床ガイドと干渉してしまうためである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、散布動作制御機構を苗載せ台の前面(苗載せ台に対して田植機の後方側)に取り付けるため、散布動作制御機構の取り付け作業を容易に行うことができる。
また、請求項2に係る発明によれば、支持フレームを苗載せ台の仕切壁に取り付けるため、散布動作制御機構の取り付け作業を容易かつ確実に行うことができると共に、苗載せ台に対する取付の位置決めも容易に行うことができる。
さらに、請求項3に係る発明によれば、バーを苗載せ台から高さ10cm以上に取り付けることにより、作動契機部が苗床のセットの支障となることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。なお、従来技術と同一の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。
図1に示したものは、本実施形態に係る散布装置の概略側面図である。図において、符号30は散布動作制御機構である。散布機構1,電源機構4は従来の散布装置と同様の構成であり説明を省略する。
散布動作制御機構30は、後述の苗載せ台Sの条を仕切る仕切壁に固定された一対の支持フレーム31と、支持フレーム31に支持されたバー32と、近接スイッチ22とを備えている。
【0024】
図2に散布動作制御機構30の斜視図を示した。苗載せ台Sは、それぞれに苗床がセットされる条35を複数備え、各条35の間と、左右の端部には仕切壁36が設けられている。支持フレーム31は基台40とステー部41とを備え、基台40は更に基台本体42と、基台本体42に対して蝶番構造で回動自在に固定される押さえ部43とを備えている。基台本体42には、更に仕切壁36が挿入される溝45が設けられている。この溝45に仕切壁36の端部(苗載せ台Sの上側端部)が挿入された状態で、押さえ部43と基台本体42との間に苗載せ台Sの上側端部を挟み込んでボルト44により基台本体42と押さえ部43とを互いに接近させるように固定することで、基台40が苗載せ台Sに固定される。
【0025】
ステー部41は、苗載せ台Sの前面側(田植機の後方)に延び、先端でバー32を支持する。バー32自体の構造は従来のバー21と同様であり、作動契機部としての複数のボルト21c(図4参照)を備えている。このバー32の詳細な構造はバー21と同様であり、説明を省略する。
図に示したように、本例においては、バー32にスリーブ50が外挿され、スリーブ50に近接スイッチ22が設けられている。スリーブ50は従来の台車23と同様の構造となっており、詳細については説明を省略する。スリーブ50には、近接スイッチ22とともに支持棒部53の先端が取り付けられている。支持棒部53の基端は、図1に示したように散布機構1に対して固定されている。苗載せ台Sが往復移動すると、支持棒部53、スリーブ50および近接スイッチ22は追従せず、スリーブ50の中でバー32が往復移動するようになっている。
また、近接スイッチ22は散布機構1に対して配線54により接続され、散布機構1は電源機構4と電気的に接続されている。
【0026】
なお、バー32の取り付け位置としては、苗載せ台Sの下から3分の2程度であることが好ましい。取り付け位置が苗載せ台Sの上端に近づきすぎると、苗載せ台Sに苗床をセットする作業の支障となり、また下すぎると苗載せ台Sに設けられた棒状の苗床ガイド55と干渉してしまうからである。また苗載せ台Sからの距離(図1の符号H)は、苗床のセットと田植え作業の支障とならないように10cm以上であることが望ましい。
【0027】
以上のように構成された散布装置の使用方法について説明する。
はじめに、田植機の植え付け動作が開始されると、苗載せ台Sは掻き取り爪による苗の掻き取り動作に同調して側方に往復移動を開始する。そして、苗載せ台Sが側方に往復動作を開始すると、苗載せ台Sとともにバー32が往復移動し、バー32に取り付けられた複数の作動契機部としてのボルト(図4のボルト21c参照)が近接スイッチ22の検出部の上を次々に通過する度に近接スイッチ22がスイッチングされる。
ここで、近接スイッチ22がスイッチングされた際には、その度に散布機構1が備える不図示の弁が開口し、収納部10から一定量の農薬が排出され、ノズル部12から田植機の後方に向けて噴出される。
さらに、苗載せ台Sは田植機の植え付け動作に同調して作動し、植え付け動作が減速されると苗載せ台Sの移動速度も減少し、植え付け動作が増速されると苗載せ台Sの移動速度も増加するので、所定の植え付け面積に散布される農薬の散布量は田植機の植え付け速度に関わらず一定となる。
【0028】
上記のように、この田植機搭載型薬剤散布装置によれば、散布動作制御機構30を苗載せ台Sの前面(苗載せ台Sに対して田植機の後方側)に取り付けるため、散布動作制御機構30の取り付け作業を容易に行うことができる。
また、散布機構1と近接スイッチ22とを電気接続する配線54を苗載せ台Sの裏面から前面に渡す必要がないので、この点においても取り付け作業を従来よりも容易に行うことができる。すなわち、近接スイッチ22と散布機構1との距離が近づくため、配線54の長さを短くでき、配線作業を容易に行うことができる。
【0029】
さらに、支持フレーム31を苗載せ台Sの仕切壁36を挟み込むように取り付けるため、散布動作制御機構30の取り付け作業を容易かつ確実に行うことができると共に、苗載せ台Sに対する取付の位置決めも容易に行うことができる。
また、バー32が苗載せ台Sの下から3分の2程度の位置に取り付けられており、さらに苗載せ台Sから高さ10cm以上に取り付けられているため、苗床のセットの支障とならず、またガイド部材55とも干渉しない。
【0030】
なお、上記の実施の形態において、支持フレーム31の具体的構造、近接スイッチをはじめとする散布動作制御機構30の具体的構造については上記の例に限定されるものではなく、既知の技術を適宜組み合わせて適用することができることは言うまでもない。すなわち、例えば、特開平11−308959号公報に記載されているように、近接スイッチ22の代わりに、突起によりON/OFFとなるスイッチを使用するとしてもよい。さらに、例えば、近接スイッチ22にスイッチングさせる作動契機部は、複数のボルト21cの代わりに、複数の磁石から構成されるとしても構わない。
【0031】
また、支持フレーム31の固定位置についても上記の例に限定されることはなく、作動契機部としてのボルト21cを備えたバー32が苗載せ台Sの前面側に位置すればよい。
さらに、散布する薬剤として農薬に限ることはなく、田植え作業と並行して散布するものであればよく、例えば、肥料であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る田植機搭載型薬剤散布装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の田植機搭載型薬剤散布装置において、散布動作制御機構を示す拡大斜視図である。
【図3】従来の田植機搭載型薬剤散布装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】図3の田植機搭載型薬剤散布装置において、近接スイッチを示す拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1…散布機構、4…電源機構、21c…ボルト(作動契機部)、22…近接スイッチ、30…散布動作制御機構、31…支持フレーム、32…バー、36…仕切壁、S…苗載せ台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
田植え作業と並行して薬剤を散布する田植機搭載型薬剤散布装置であって、前記薬剤を散布する散布機構と、前記田植機に具備される苗載せ台の往復動作を利用して作動され、前記散布機構による薬剤散布を前記植え付け動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構とを備え、
該散布動作制御機構は、前記苗載せ台の前面に臨んで取り付けられ、該苗載せ台と共に往復移動して前記散布機構の作動の契機となる作動契機部と、前記苗載せ台に対向して田植機本体に取り付けられ、前記作動契機部が前記苗載せ台の往復動作に伴って移動することによりオン・オフが切り換えられるスイッチとを備えていることを特徴とする田植機搭載型薬剤散布装置。
【請求項2】
前記苗載せ台は、苗床がセットされる条を互いに仕切る仕切壁を該苗載せ台の前面に備え、
前記散布動作制御機構は、前記作動契機部を支持する支持フレームを備え、該支持フレームは、前記仕切壁に対して固定されることを特徴とする請求項1に記載の田植機搭載型薬剤散布装置。
【請求項3】
前記散布動作制御機構は、前記苗載せ台に固定された支持フレームと、これら支持フレームの先端に支持され、前記作動契機部を具備し前記苗載せ台と共に往復移動することにより該作動契機部が前記スイッチをスイッチングするバーとを備え、該バーは、前記苗載せ台から少なくとも10cm以上の距離で支持されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の田植機搭載型薬剤散布装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−68(P2006−68A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181151(P2004−181151)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000114938)ヤマト農磁株式会社 (12)
【Fターム(参考)】