説明

画像処理装置、印刷データ生成装置、印刷システム、色情報の出力方法およびそのプログラム

【課題】特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行う場合に印刷物に再現される色を、当該印刷物の印刷前に好適に確認する。
【解決手段】特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データを処理する画像処理装置は、特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、入力値と出力値とを対応付けたテーブルを記憶する記憶部と、定義色の指定を受け付ける受付部と、受け付けた定義色に対応付けられた色情報に基づいた情報を出力する出力部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行う画像データを処理する画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗装や印刷の分野において、高級感や付加価値の演出のために、製品の色彩に特殊光沢感を付与する技術が開発されている。例えば、インクジェット式のプリンターでは、カラーインクに加えて、特殊光沢インクを用いることで、印刷物に特殊光沢を発現させることができる。特殊光沢インクとは、例えば、金属光沢感を発現する金属顔料を含有するメタリックインクや、真珠光沢に類似した光沢感を発現する顔料を含有したインクをいう。
【0003】
かかる特殊光沢を発現させる色で画像の印刷を行う場合、印刷画像を作成するアプリケーションでは、印刷物がどのような色を発現するかを確認することができなかった。このため、ユーザーは、作成した印刷画像を実際に印刷してみて、所望の特殊光沢感や色彩が得られていない場合には、印刷画像の色を設定し直して、再度、印刷する必要があった。かかる作業は、ユーザーにとって煩わしいものであった。また、印刷に用いる色材や印刷用紙などが無駄になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−278074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題の少なくとも一部を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行う場合に印刷物に再現される色を、当該印刷物の印刷前に好適に確認することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データを処理する画像処理装置であって、
前記特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を前記印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、前記入力値と該出力値とを対応付けたテーブルを記憶する記憶部と、
前記定義色の指定を受け付ける受付部と、
前記受け付けた定義色に対応付けられた前記色情報に基づいた情報を出力する出力部と
を備えた画像処理装置。
【0008】
かかる構成の画像処理装置によれば、指定された定義色について、当該定義色を印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、色情報に基づいた情報として出力することができる。特殊光沢材用いて印刷を行った場合、その印刷物の印刷色は、観察条件に応じて見え方が異なるが、適用例1の構成によれば、ユーザーは、複数の観察条件の各々での定義色の印刷色の見え方を確認することができる。つまり、特殊光沢材を用いて印刷した場合の印刷色を、当該印刷の前に好適に確認することができる。
【0009】
[適用例2]前記テーブルの前記出力値は、前記印刷装置で印刷を行う際の、前記特殊光沢材を用いた色材の出力量を表す情報を含む適用例1記載の画像処理装置。
【0010】
かかる構成の画像処理装置によれば、テーブルを用いて、定義色の識別情報から特殊光沢材を用いた色材の出力量を直接的に取得できるので、画像データを色材の出力値に変換する色変換処理を高速かつ容易に行って、特殊光沢材を含む色材を用いた印刷を行うことができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2記載の画像処理装置であって、前記出力部は、前記色情報に基づいた情報として、前記複数の観察条件での前記デバイス非依存の表色系で表される階調値、または、前記分光反射率に相当する階調値を画素データとして有する画像データを出力する
画像処理装置。
【0012】
かかる構成の画像処理装置によれば、特殊光沢材用いて印刷を行った場合の印刷物の印刷色の色彩を、視覚的に確認することができるので、ユーザーの利便性が向上する。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれか記載の画像処理装置であって、前記出力部は、前記デバイス非依存の表色系で表される階調値、または、前記分光反射率に基づいて、前記特殊光沢光の発現の程度を表す指標値を算出し、該算出した指標値を前記色情報に基づいた情報として出力する
画像処理装置。
【0014】
かかる構成の画像処理装置によれば、ユーザーは、特殊光沢光の発現の程度を表す指標値に基づいて、特殊光沢光の発現の程度を正確に把握することができる。
【0015】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれか記載の画像処理装置であって、前記テーブルの前記出力値としての前記色情報は、前記デバイス非依存の表色系としての、所定の1つの光源を前提としたL***表色系で表される階調値と、前記分光反射率とを含み、前記受付部は、前記デバイス非依存の表色系としてのL***表色系で表される階調値と、前記分光反射率とのうちのいずれに基づいて、前記色情報に基づいた情報を前記出力部が出力するかを選択可能に構成されるとともに、前記L***表色系で表される階調値に基づいて、前記色情報に基づいた情報を前記出力部が出力する場合に、L***表色系で表される階調値の前提となる光源の種類の指定を受け付け可能に構成され、前記出力部は、前記L***表色系で表される階調値に基づいて、前記色情報に基づいた情報を出力することが選択され、かつ、前記光源の指定を受け付けた場合に、前記受け付けた光源の種類が前記所定の1つの光源であるときには、前記色情報に基づいた情報として、前記テーブルに記憶された、前記複数の観察条件での前記所定の1つの光源を前提としたL***表色系で表される階調値を出力し、前記受け付けた光源の種類が前記所定の1つの光源と異なるときには、前記分光反射率から、前記複数の観察条件での前記受け付けた光源の種類に対応するL***表色系で表される階調値を算出して、該算出したL***表色系で表される階調値を前記色情報に基づいた情報として出力する画像処理装置。
【0016】
かかる構成の画像処理装置によれば、記憶部に記憶するL***表色系で表される階調値は、所定の1つの光源を前提としたL***表色系で表される階調値のみであるから、記憶部の有限の記憶容量を有効に活用することができる。しかも、分光反射率からユーザーが所望の光源を前提としたL***表色系で表される階調値を算出することができるので、ユーザーの利便性が向上する。
【0017】
[適用例6]適用例1ないし適用例5のいずれか記載の画像処理装置を備えた印刷データ生成装置であって、ユーザーが入力する所定の表色系で表される階調値と、該階調値と対応付けられるべき識別情報とを、新たな定義色として受け付けて、該受け付けた階調値と対応付けられるべき識別情報を前記テーブルの前記入力値とし、該受け付けた所定の表色系で表される階調値を前記テーブルの前記出力値として、前記テーブルに登録する登録部と、前記特殊光沢材の使用を前提として作成されたICCプロファイルと、前記特殊光沢材を含む前記色材の出力量を出力値として有するLUTとを用いて、または、前記特殊光沢材を含む前記色材の出力量を出力値として有するLUTを用いて、前記新たな定義色として登録した前記所定の表色系で表される階調値を、前記特殊光沢材を含む前記色材の出力量に変換する色変換処理部とを備えた印刷データ生成装置。
【0018】
かかる構成の画像処理装置によれば、ユーザーは、特殊光沢材用いて印刷を行った場合の印刷物の印刷色の色彩が所望のものとなるように定義色を新たに定義することができるので、利便性が向上する。
【0019】
また、本発明は、画像処理装置や印刷データ生成装置としてのほかに、適用例7の画像処理方法、適用例8のプログラム、当該プログラムを記憶した記憶媒体、印刷システムなどとしても実現することができる。
【0020】
[適用例7]特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データに関する色情報をコンピューターが出力する色情報の出力方法であって、前記特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を前記印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、前記入力値と該出力値とを対応付けたテーブルを記憶しておき、前記定義色の指定を受け付け、前記受け付けた定義色に対応付けられた前記色情報に基づいた情報を出力する色情報の出力方法。
【0021】
[適用例8]特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データに関する色情報を出力するプログラムであって、前記特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の指定を受け付ける受付機能と、前記定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を前記印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、前記入力値と該出力値とを対応付けたテーブルを参照して、前記受け付けた定義色に対応付けられた前記色情報に基づいた情報を出力する出力機能とをコンピューターに実現させるプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】印刷システム20の概略構成を示す説明図である。
【図2】1DLUT141の具体例を示す説明図である。
【図3】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】印刷処理における色確認処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】分光反射率を図化表示する具体例を示す説明図である。
【図6】定義色が印刷時に再現される色彩を視認可能に画像表示する具体例を示す説明図である。
【図7】印刷処理における色変換処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.実施例:
A−1:印刷システム20の構成:
本発明の印刷システムの実施例としての印刷システム20の構成を図1に示す。図示するように、印刷システム20は、画像処理装置、または、印刷データ生成装置としてのパーソナルコンピューター100と、パーソナルコンピューター100に接続されたプリンター200とを備えている。パーソナルコンピューター100は、所定のプログラムがインストールされた汎用のパーソナルコンピューターである。プリンター200は、印刷媒体にインクドットを形成して画像を印刷するインクジェット式のプリンターである。本実施例においては、プリンター200は、メタリックインクを用いた印刷を行うことができる。
【0024】
メタリックインクとは、印刷物がメタリック感を発現するインクである。このようなメタリックインクとしては、例えば、金属顔料と有機溶剤と樹脂とを含む油性インク組成物を用いることができる。金属顔料は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金によって形成することができ、また、金属蒸着膜を破砕して作成することも可能である。メタリックインクに含まれる金属顔料の濃度は、例えば、0.1〜10.0重量%とすることができる。もちろん、メタリックインクはこのような組成に限らず、メタリック感が生じる組成であれば他の組成を適宜採用することが可能である。
【0025】
パーソナルコンピューター100は、CPU110と、メモリー140と、入出力インターフェース(I/F)部150と、ディスプレイ160と、入力機構170とを備えている。パーソナルコンピューター100には、アプリケーションプログラム120やプリンタードライバー130などの各種のコンピュータープログラムがインストールされている。アプリケーションプログラム120やプリンタードライバー130は、所定のオペレーティングシステム(図示せず)の下でCPU110により実行される。
【0026】
アプリケーションプログラム120は、画像編集機能を実現するためのプログラムである。本実施例では、アプリケーションプログラム120は、画像データをプリンター200で印刷した場合の印刷物に再現されるメタリック色をユーザーが確認可能とする色確認機能を有している。本実施例では、この色確認機能は、汎用のアプリケーションプログラム120に追加されるプラグインモジュールによって実現される。当該機能を実現するために、アプリケーションプログラム120は、受付部121、出力部122、登録部123としての機能を有している。これらの機能の詳細については後述する。また、ユーザーは、アプリケーションプログラム120の提供するGUI(Graphical User Interface)を介して、アプリケーションプログラム120により編集された画像を印刷する指示を与えることができる。アプリケーションプログラム120は、ユーザーより印刷の指示を受けると、プリンタードライバー130に印刷の対象となる画像データを出力する。なお、本実施例では、画像データは、CMYK形式の画像データである。
【0027】
プリンタードライバー130は、アプリケーションプログラム120から出力された画像データに基づいて印刷データを生成する機能を有している。当該機能を実現するために、プリンタードライバー130は、色変換処理部131、ハーフトーン処理部132、ラスターライズ処理部133としての機能を有している。これらの機能の詳細については後述する。プリンタードライバー130によって生成された印刷データは、入出力インターフェース部150を介して、プリンター200に出力される。上述したアプリケーションプログラム120がインストールされたパーソナルコンピューター100は、請求項の画像処理装置に該当する。また、プリンタードライバー130がインストールされたパーソナルコンピューター100は、請求項の印刷データ処理装置に該当する。
【0028】
メモリー140は、不揮発性の記憶媒体である。このメモリー140には、1DLUT(one-Dimensional Look up Table)141、メタリック用ICCプロファイル142、非メタリック用ICCプロファイル143、メタリック用LUT(Look up Table)144、非メタリック用LUT145が記録されている。1DLUT141は、アプリケーションプログラム120の色確認機能を実現するために記録されている。1DLUT141の詳細については後述する。
【0029】
メタリック用ICCプロファイル142は、メタリックインクを使用して印刷を行うことを前提として作成されたICCプロファイルである。メタリック用ICCプロファイル142では、デバイス非依存の表色系(ここではL***)の入力値と、プリンター200に依存する表色系(ここではCMYK)の出力値とが対応付けられている。
【0030】
非メタリック用ICCプロファイル143は、メタリックインクを使用しないで印刷を行うことを前提として作成されたICCプロファイルである。非メタリック用ICCプロファイル143は、入力プロファイルと、出力プロファイルとを備えている。入力プロファイルには、パーソナルコンピューター100が扱う画像形式(ここではCMYK)の入力値と、デバイス非依存の表色系(ここではL***)の出力値とが対応付けられている。出力プロファイルには、L***の入力値と、プリンター200に依存するCMYKの出力値とが対応付けられている。
【0031】
メタリック用LUT144および非メタリック用LUT145は、複数の格子点を備え、格子点ごとに、入力値と出力値との対応関係を示すデータを有している。メタリック用LUT144は、メタリックインクを使用して印刷を行う場合に、画像データをプリンター200のインク量の出力値に変換するために用いる。非メタリック用LUT145は、メタリックインクを使用しないで印刷を行う場合に、画像データをプリンター200のインク量の出力値に変換するために用いる。本実施例では、メタリック用LUT144には、入力値としてのCMYKの階調値と、出力値としてのCMYKLcLmMtWhのインクの出力量とが対応付けられている。なお、Lc,Lm,Mt,Whは、それぞれ、ライトシアン、ライトマゼンタ、メタリック、ホワイトを意味する。非メタリック用LUT145には、入力値としてのCMYKの階調値と、出力値としてのCMYKLcLmWhのインクの出力量とが対応付けられている。
【0032】
プリンター200は、CPU210と、メモリー240と、入出力インターフェース(I/F)部250と、ユニット制御回路260と、ヘッドユニット270と、キャリッジユニット280と、搬送ユニット290とを備えている。入出力インターフェース部250は、パーソナルコンピューター100の入出力インターフェース部150と接続するためのインターフェースである。ユニット制御回路260は、CPU210からの指示に従って各種のユニットを制御する。
【0033】
ヘッドユニット270は、印刷媒体にインクを出力するための印刷ヘッド(図示せず)を有している。ヘッドユニット270は、インクの種類ごとに複数のノズルを有しており、各ノズルから断続的にインクを出力する。ヘッドユニット270はキャリッジユニット280に搭載されている。キャリッジユニット280は、ヘッドユニット270を主走査方向に往復移動させるための駆動装置である。キャリッジユニット280には、カラーインクとして、シアンインクC、マゼンタインクM、イエロインクY、ブラックインクK、ライトシアンインクLc、ライトマゼンタインクLm、メタリックインクMt、ホワイトインクWhをそれぞれ収容したインクカートリッジ281〜288が搭載される。本実施例では、CMYKLcLmWhのカラーインクには、顔料インクを用いている。ヘッドユニット270は、キャリッジユニット280の移動に伴って主走査方向に移動しつつ、インクカートリッジ281〜288からインクの供給を受けて、ノズルからインクを断続的に出力することにより、主走査方向に沿ったドットラインを印刷媒体上に形成する。
【0034】
搬送ユニット290は、印刷媒体を搬送することによって副走査を行うための駆動装置である。搬送ユニット290は、例えば、給紙ローラー、搬送モーター、搬送ローラー、プラテン、排紙ローラー(図示省略)などによって構成される。
【0035】
A−2.1DLUT141の具体例:
1DLUT141の具体例を図2に示す。1DLUT141には、入力値として、定義色名が記録される。定義色とは、メタリックインクを用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された色である。この定義色は、プリンター200が使用するインクの種類と出力量とを用いて一意に特定できるものである。定義色は、メタリックインクのみを色材として使用して印刷を行うものであってもよいし、メタリックインクとカラーインクとを色材として使用して印刷を行うものであってもよい。図2に示す例では、定義色1〜3,メタリック赤などが定義されている。定義色1,2は、ユーザーによって定義された色である。このようにユーザーによって定義された定義色をユーザー定義色ともいう。ユーザー定義色の登録方法は後述する。定義色3などのその他の定義色は、本実施例では、アプリケーションプログラム120のプラグインモジュールのメーカーによって登録された定義色である。このように、メーカーによって定義された色をメーカー定義色ともいう。1DLUT141には、メーカー定義色について、入力値としての定義色名と、後述する出力値とが対応付けられて、予め記録されている。この1DLUT141は、本実施例では、アプリケーションプログラム120のプラグインモジュールおよびプリンタードライバー130とともに追加的にパーソナルコンピューター100にインストールされる。インストールの方法は、記憶媒体を介してもよいし、ネットワークを介してもよい。
【0036】
また、1DLUT141には、入力値と対応付けられた出力値として、インク出力値、L***値、画像データ階調値、分光反射率が記録される。インク出力値は、プリンター200によって画像データの階調値に応じて出力される各色のインクの量である。本実施例では、インク出力値は、0〜255の階調値で表される。図2に示すように、ユーザー定義色には、インク出力値は、記録されていない。一方、すべてのメーカー定義色には、インク出力値が記録されている。ただし、一部のメーカー定義色についてのみ、インク出力値が記録されていてもよい。
【0037】
***値は、周知のとおり、デバイス非依存の表色系で表される階調値である。1DLUT141では、L***値は、メタリックインクを使用して定義色の印刷を行った際に再現される色彩を表す。本実施例では、L***値のフィールドは、複数の幾何学的条件、すなわち、複数の観察条件でのL***値が記録可能に構成される。具体的には、入射角−45°に対して、受光角が−80°〜80°まで5°刻みの条件でL***値が記録される。メーカー定義色では、定義色3を除いて、複数の観察条件ごとにL***値が記録されている。かかるメーカー定義色のL***の記録値は、変角分光測色計などの測色装置を用いて、各々のメーカー定義色をプリンター200と同一の型式のプリンターで印刷した印刷物を測色した測定結果である。つまり、L***値は、プリンター200で印刷されたメーカー定義色についての、観察条件の各々での見え方を表している。なお、L***値は、同一の印刷物を測色した場合であっても、光源の種類、例えば、標準光源A,Bなどに応じて測定値が変化するが、本実施例では、1つの光源を用いた場合のL***値のみを1DLUT141に記録するものとした。本実施例では、この1つの光源として、一般的な光源であるCIE標準光源D50を採用している。
【0038】
一方、ユーザー定義色では、定義色1についてのみ、L***値が1DLUT141に記録されている。ここで、L***値が記録されているのは、複数の観察条件のうちの入射角−45°、受光角0°の条件のL***値(L*=70,a*=30,b*=40)のみである。つまり、ユーザーは、入射角−45°、受光角(観察角)0°の条件で、メタリックインクを使用して印刷した際にL*=70,a*=30,b*=40の色彩に見える色を、所望の色として新たに定義したことを示している。かかるユーザー定義色は、アプリケーションプログラム120を用いて1DLUT141に登録することができる。具体的には、ユーザーは、アプリケーションプログラム120によってディスプレイ160に表示されるGUIに、入力機構170を用いて、定義色名と、所望の観察条件における所望のL***の値を入力する。かかる操作に対して、アプリケーションプログラム120は、登録部123の処理として、入力を受け付けて、1DLUT141に登録する。
【0039】
画像データ階調値は、画像データのCMYK階調値を表す。図2の例では、ユーザー定義色のうちの定義色2について、CMYKの階調値が記録されている。この画像データ階調値は、上述したL***値と同様の方法によって、ユーザーに登録されたものである。つまり、ユーザーは、画像データの階調値を用いて、定義色を定義することも可能である。
【0040】
このように、ユーザーは、1DLUT141に用意された表色系(ここでは、L***およびCMYK)のうちの所望の表色系で表される階調値で定義色を定義することができる。例えば、1DLUT141にRGB表色系のフィールドが用意されていれば、ユーザーは、RGBの階調値によって、定義色を定義してもよい。
【0041】
分光反射率は、メタリックインクを使用して定義色の印刷を行った際の分光反射率を表す。本実施例では、分光反射率のフィールドは、L***値のフィールドと同様に、複数の幾何学的条件(観察条件)での値が記録可能に構成される。具体的には、入射角−45°に対して、受光角が−80°〜80°まで5°刻みで分光反射率が記録される。ユーザー定義色(定義色1,2)では、分光反射率は記録されていない。一方、メーカー定義色では、メタリックシアン、メタリック紫および金色を除いて、各々の観察条件についての分光反射率が記録されている。かかるメーカー定義色の分光反射率の記録値は、変角分光測色計などの測色装置を用いて、各々のメーカー定義色をプリンター200と同一の型式のプリンターで印刷した印刷物を測色した測定結果である。つまり、分光反射率は、プリンター200で印刷されたメーカー定義色についての、観察条件の各々での見え方を表している。なお、図2に例示する分光反射率の値は、標準白色板の反射率を値100とした場合の相対値であるが、絶対値としてもよいことは勿論である。
【0042】
上述した例では、メーカー定義色のうちの定義色3では、分光反射率のフィールドのみに値が記録されている。また、メーカー定義色のうちのメタリックシアン、メタリック紫および金色では、L***値のフィールドのみに値が記録されている。このように、L***値のフィールドと、分光反射率のフィールドとは、少なくとも一方のみに値が記録されていればよい。また、上述の例では、L***値および分光反射率の観察条件は、上述の例に限らず、複数の観察条件を適宜設定すればよい。例えば、入射角は−30°であってもよいし、複数の入射角を設定してもよい。ただし、メタリック色は、正反射方向(入射角は−45°、受光角45°)において、特にメタリック感が大きくなるという特徴的な見え方をするので、正反射方向を含めて、観察条件を設定することが望ましい。
【0043】
A−3.印刷処理:
印刷システム20における印刷処理の流れを図3に示す。図示する印刷処理は、パーソナルコンピューター100が、アプリケーションプログラム120によって作成された画像データを印刷データに変換して、プリンター200に出力する処理である。図3に示すように、印刷処理では、パーソナルコンピューター100のCPU110は、まず、色確認処理を行う(ステップS310)。色確認処理とは、アプリケーションプログラム120によって作成された画像データを、少なくとも一部の画像領域に定義色としてのメタリック色を指定してプリンター200で印刷する場合に、印刷された当該メタリック色が発現する色をユーザーに確認させる処理である。
【0044】
色確認処理の流れを図4に示す。本実施例では、色確認処理は、ユーザーがアプリケーションプログラム120を用いて、作成した画像データの所定領域を選択して、当該選択領域に割り当てる色を選択するための操作を行い、色の選択の候補を示すカラーパレットをディスプレイ160に表示させることで開始される。
【0045】
色確認処理が開始されると、CPU110は、アプリケーションプログラム120の受付部121の処理として、ユーザーが入力する定義色の指定を受け付ける(ステップS311)。本実施例では、1DLUT141に定義された定義色は、カラーパレット上にスポットカラーとして表示される所定の色と対応付けられている。ユーザーは、この定義色のうちの画像データに付したい色、すなわち、印刷したい色を選択して指定する。
【0046】
定義色を受け付けると、CPU110は、受付部121の処理として、さらに、ユーザーが入力する表示項目を受け付ける(ステップS312)。表示項目は、定義色が印刷された場合の色を確認するための情報の種類を表す。本実施例では、表示項目として、(1)L***値およびその前提となる光源の種類、(2)分光反射率、(3)色彩視覚表示のいずれか1つを選択可能に設定されている。色彩視覚表示とは、印刷される定義色(メタリック色)の色彩を画像として視認可能に表示することである。ただし、この色彩視覚表示では、メタリック感は再現されない。つまり、この色彩視覚表示は、印刷されたメタリック色の色彩のみを確認するために用いられる。つまり、メタリック色の簡易的な確認に用いられる。これらの表示項目は、ディスプレイ160に表示されるGUIを用いて、ユーザーが選択可能に構成されている。なお、ステップS312では、表示項目に加えて、観察条件を受け付けてもよい。また、複数の表示項目を受け付けてもよい。
【0047】
表示項目を受け付けると、CPU110は、受け付けた表示項目の種別を判断する(ステップS313)。判断の結果、受け付けた表示項目が分光反射率であれば、CPU110は、アプリケーションプログラム120の出力部122の処理として、1DLUT141を参照して、上記ステップS311で受け付けた定義色に対応付けられた分光反射率を取得し、ディスプレイ160に図化表示を行う(ステップS314)。つまり、CPU110は、観察角度ごとの分光反射率を取得し、取得したデータを図化した画像を生成して、ディスプレイ160に出力する。
【0048】
指定された定義色について、1DLUT141に分光反射率が記録されていない場合には、その旨をディスプレイ160に表示させてもよい。あるいは、上記ステップS312で分光反射率が選択不能となるようにGUIを構成してもよい。これらの点は、後述するL***値の出力などでも同様に適用できる。
【0049】
かかる図化表示の具体例を図5に示す。図示する例では、受け付けた定義色について、1DLUT141に記録された分光反射率を観察条件ごとにグラフ表示している。最も反射率が大きい系列は、観察条件が正反射(入射角−45°、受光角45°)の分光反射率である。なお、図5では、各系列の観察条件を示す凡例を省略して図示している。
【0050】
また、上記ステップS313の判断の結果、受け付けた表示項目がL***値および光源の種類であれば、CPU110は、受け付けた光源の種類が、1DLUT141に格納されたL***値の光源の種類と一致するか否かを判断する(ステップS315)。その結果、光源の種類が一致すれば(ステップS315:YES)、CPU110は、出力部122の処理として、1DLUT141を参照して、上記ステップS311で受け付けた定義色に対応付けられたL***値を取得する(ステップS317)。
【0051】
一方、光源の種類が一致しなければ(ステップS315:NO)、受け付けた光源の種類を前提とするL***値は、1DLUT141には格納されていない。そこで、CPU110は、出力部122の処理として、1DLUT141を参照して、上記ステップS311で受け付けた定義色に対応付けられた分光反射率を取得し、受け付けた光源の種類に対応するL***値を算出する(ステップS316)。分光反射率から光源の種類に応じたL***値を算出する方法は、例えば、JIS−Z8701に規定されている。
【0052】
本実施例のように、1つの光源の種類に応じたL***値のみを1DLUT141に記憶しておき、他の光源の種類に応じたL***値は、分光反射率から算出する構成とすれば、メモリー140の有限の記憶容量を有効に活用することができる。しかも、ユーザーが所望の光源に応じたL***値を出力することができるので、ユーザーの利便性も確保できる。
【0053】
上記ステップS316またはS317で、観察条件ごとのL***値を取得すると、CPU110は、出力部122の処理として、取得したL***値をディスプレイ160に出力する(ステップS318)。本実施例では、観察条件ごとのL***値を表す表形式の画像として、ディスプレイ160に出力するものとした。
【0054】
また、上記ステップS313の判断の結果、受け付けた表示項目が色彩視覚表示であれば、CPU110は、出力部122の処理として、1DLUT141を参照して、上記ステップS311で受け付けた定義色に対応付けられたL***値を取得し、当該L***値に相当する階調値(ここではCMYKの画像データ)を画素データとして有する画像データをディスプレイ160に出力して、画像表示を行う(ステップS319)。この処理では、非メタリック用ICCプロファイル143の入力プロファイルを用いて、L***値をCMYKの階調値に変換してもよい。なお、CPU110は、1DLUT141において、上記ステップS311で受け付けた定義色に対応付けられた分光反射率に相当する階調値を画素データとして有する画像データを出力してもよい。この場合、分光反射率からL***値を算出し、当該L***値に相当する階調値を算出してもよい。
【0055】
ステップS319で表示される画像の具体例を図6に示す。図示する例では、観察角度45°、30°、20°、0°に対応するL***値に相当するCMYK階調値を有する正方形の画像が、所定の期間ごとに切り替えられて、1つずつ順次表示される。上述の観察角度は、1DLUT141に設定された観察条件のうちから主要な観察条件として予め定められた観察角度である。ただし、1DLUT141に設定されたすべての観察条件に対応する画像を表示してもよい。もとより、画像は、1つずつ表示する構成に限るものではない。例えば、すべての画像を1画面で同時に表示してもよい。これらのように、各観察条件のL***値の階調値を有する画像を表示することで、ユーザーは、簡易的に、印刷されるメタリック色の色彩を確認することができる。メタリック色を使用した場合と、使用しない場合とでは、印刷色は、同じカラーインクの使用量であっても異なった色彩に見えるが、かかる構成によれば、ユーザーは、メタリックインクを使用した場合の印刷色の色彩を視覚的に確認することができ、利便性が向上する。
【0056】
以上のように、ステップS314,S318,S319のいずれかで出力を行うと、CPU110は、上記ステップS311で受け付けた定義色の採用の可否の指示を受け付ける(ステップS320)。この指示は、ユーザーが、ステップS314,S318,S319のいずれかでの出力結果によって、印刷後の定義色の見え方をディスプレイ160上で確認した後、ディスプレイ160に表示されるGUIを介して入力する。
【0057】
採用の可否の指示を受け付けると、CPU110は、採用すべき指示であったか否かを判断する(ステップS321)。判断の結果、受け付けた指示が採用を否定するものであれば(ステップS321:NO)、CPU110は、処理を上記ステップS311に戻す。つまり、ユーザーは、確認した定義色の見え方がユーザーの所望のものでない場合には、ユーザーは、採用する定義色を選択し直すことができる。勿論、ユーザーがメタリック色を新たに定義して、当該新たな定義色を選択することもできる。一方、受け付けた定義色を採用するものであれば(ステップS321:YES)、CPU110は、色確認処理を終了し、処理を印刷処理に戻す。
【0058】
ここで説明を図3の印刷処理に戻す。色確認処理によって、ユーザーが定義色の印刷色を確認し、採用する色を決定すると、ユーザーは、印刷実行指示を入力する。CPU110は、このユーザーが入力する印刷実行指示を受け付ける(ステップS330)。
【0059】
印刷実行指示を受け付けると、CPU110は、色が決定された画像データをプリンタードライバー130に出力し、プリンタードライバー130の色変換処理部131の処理として、色変換処理を行う(ステップS340)。色変換処理は、印刷対象となる画像データの階調値を、プリンター200が使用する各色のインクの出力値に変換する処理である。なお、CPU110は、アプリケーションプログラム120から出力された画像データの解像度と、プリンター200の印刷解像度とが異なる場合には、色変換処理に先立って、両者の解像度が一致するように解像度変換を行ってもよい。また、アプリケーションプログラム120で作成した画像データがラスターデータでない場合、例えば、画像データがポストスクリプトデータである場合には、画像データをラスターデータに変換する前処理を行ってもよい。
【0060】
メタリックインクを使用せずに印刷を行う場合には、CPU110は、非メタリック用ICCプロファイル143と非メタリック用LUT145とを用いて色変換を行う。具体的には、CPU110は、まず、CMYK形式の画像データを、非メタリック用ICCプロファイル143を用いて、プリンター200に依存するCMYK形式の画像データに変換する。そして、CPU110は、プリンター200に依存するCMYK形式の画像データを、プリンター200が表現可能な形式のデータ、すなわち、プリンター200が使用するCMYKLcLmWhインクの出力値に変換する。なお、非メタリック用ICCプロファイル143と非メタリック用LUT145とは、一括で変換できるように一体で構成されていてもよい。
【0061】
メタリックインクを使用して印刷を行う場合、メタリックインクの使用が指定されていない画像領域、すなわち、定義色の使用が指定されていない画像領域については、上述の方法と同様の方法で色変換処理が行われる。一方、定義色の使用が指定された画像領域については、上述の方法とは異なる手法で色変換処理が実行される。
【0062】
定義色の使用が指定された画像領域についての色変換処理の流れを図7に示す。この色変換処理が開始されると、CPU110は、まず、指定された定義色についてのインク出力値が1DLUT141に記録されているか否かを判断する(ステップS341)。判断の結果、インク出力値が記録されていれば(ステップS341:YES)、CPU110は、記録されたインク出力値をハーフトーン処理部132に出力し(ステップSS342)、処理を印刷処理に戻す。
【0063】
一方、インク出力値が記録されていなければ(ステップS341:NO)、CPU110は、指定された定義色についてのL***値が1DLUT141に記録されているか否かを判断する(ステップS343)。判断の結果、L***値が記録されていれば(ステップS343:YES)、CPU110は、記録されたL***値を入力値として用いて、第1の色変換処理を行う(ステップS344)。具体的には、指定された定義色についてのL***値のうちの、メタリック用ICCプロファイル142に対応する観察角度のL***値を、メタリック用ICCプロファイル142を用いて、プリンター200に依存するCMYK形式のデータに変換する。
【0064】
第1の色変換処理を行うと、CPU110は、変換されたCMYKの階調値を入力値として用いて、第2の色変換処理を行う(ステップS345)。具体的には、変換されたCMYKの階調値を、メタリック用LUT144を用いて、プリンター200が使用するCMYKLcLmMtWhの各色のインク出力値に変換し、ハーフトーン処理部132に出力し(ステップS345)、処理を印刷処理に戻す。
【0065】
また、L***値が記録されていなければ(ステップS343:NO)、CPU110は、指定された定義色についてのCMYK形式の画像データ階調値が1DLUT141に記録されているか否かを判断する(ステップS346)。判断の結果、CMYK形式の画像データ階調値が記録されていれば(ステップS346:YES)、CPU110は、記録されたCMYK形式の画像データ階調値を入力値として用いて、上述した第2の色変換処理を行う(ステップS345)。
【0066】
一方、CMYK形式の画像データ階調値が記録されていなければ(ステップS346:NO)、1DLUT141には、指定された定義色についてのインク出力値、L***値、画像データ階調値のいずれも記録されていないので、分光反射率が記録されていることとなる。そこで、CPU110は、記録された分光反射率からL***値を算出し(ステップS347)、処理を上記ステップS344に進める。
【0067】
ここで説明を図4の印刷処理に戻す。色変換処理を行うと、CPU110は、プリンタードライバー130のハーフトーン処理部132の処理として、ハーフトーン処理を行う(ステップS350)。ハーフトーン処理は、色変換処理した画像データを各色のドットのON/OFFを表すドットデータに変換する処理である。ハーフトーン処理としては、例えば、誤差拡散法や、ディザマトリクスを用いたディザ法が知られている。
【0068】
ハーフトーン処理を行うと、CPU110は、プリンタードライバー130のラスターライズ処理部133の処理として、ラスターライズ処理を行い、プリンター200が解釈できる形式の印刷データを生成する(ステップS360)。ラスターライズ処理は、プリンター200のノズル配置や紙送り量などに合わせて、1回の主走査単位で印画するドットパターンデータに並び替える処理である。
【0069】
ラスターライズ処理を行うと、CPU110は、プリンタードライバー130の処理として、印刷データと、プリンター200に特定の動作の実行を指示するためのコマンドデータとをプリンター200に出力する(ステップS370)。こうして、パーソナルコンピューター100の印刷処理は終了となる。かかる印刷処理によって、プリンター200が印刷データおよびコマンドデータを受信すると、プリンター200は、受信したデータに基づいて、キャリッジユニット280や搬送ユニット290を駆動させつつ、ヘッドユニット270からインクを吐出して、印刷を実行する。
【0070】
A−4.効果:
上述した印刷システム20によれば、1DLUT141に定義色として記録されたメタリック色について、当該メタリック色をプリンター200で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、1DLUT141に記録されたL***値や分光反射率に基づいた情報として出力することができる。ここで、メタリックインクを用いて印刷された印刷色は、観察条件に応じて見え方が異なる特性を有している。具体的には、メタリックインクを用いて印刷された印刷色は、入射角や受光角(観察角)によって、メタリック感や色彩が異なって見える。印刷システム20によれば、ユーザーは、定義されたメタリック色の複数の観察条件の各々での印刷後の見え方(メタリック感および色彩の少なくとも一方)を印刷前に確認することができ、印刷色を好適に把握することができる。また、出力されるメタリック色の見え方は、L***値や分光反射率といったデバイス非依存の基準によって把握することができるので、ユーザーの利便性が高い。さらに、メタリック色の見え方の確認は、ディスプレイ160上で行えるので、使用するメタリック色を変更しつつ、何度も印刷を繰り返して、インクや印刷媒体が無駄になることもない。
【0071】
また、印刷システム20によれば、1DLUT141の出力値として、インク出力値が記録されているので、1DLUT141を用いて、直接的にインク出力値を取得することができる。つまり、メタリック用ICCプロファイル142やメタリック用LUT144を用いて、色変換処理を行う必要がない。その結果、定義色についての色変換処理を高速かつ容易に行うことができる。なお、印刷システム20には、メタリック用ICCプロファイル142およびメタリック用LUT144が記憶されているので、1DLUT141に、定義色と対応付けて、インク出力値が記録されていなくても、定義されたメタリック色の色変換を行うことができる。このため、印刷システム20、または、印刷システム20に使用するプログラムのメーカーは、1DLUT141に予め記録された各々の定義色についての、想定される使用頻度、インク出力値を設定するための工数などを考慮して、特定の定義色のみに対して、インク出力値を1DLUT141に記録してもよい。
【0072】
B.変形例:
上述の実施形態の変形例について説明する。
B−1.変形例1:
1DLUT141に記録されるL***値に代えて、あるいは、加えて、XYZ表色系,xyY表色系,L***表色系などの階調値を採用することが可能である。つまり、デバイスに依存しない表色系を適宜採用することが可能である。
【0073】
B−2.変形例2:
上述した色確認処理において、出力部122は、1DLUT141に記録されたデータを用いて、特殊光沢光の発現の程度を表す、つまり、メタリック感を表す種々の指標値Inを算出して、出力してもよい。こうした指標値Inとしては、例えば、以下の式(1)が知られている。指標値Inは、1DLUT141に記録されたL***値のうちのL*値を用いて算出してもよい。あるいは、指標値Inは、1DLUT141に記録された分光反射率からL*値を算出し、さらに、算出したL*値を用いて算出してもよい。こうすれば、ユーザーは、印刷物に再現されるメタリック感を正確に把握することができる。なお、メタリック感を表す指標値は、複数の観察条件における測色値を用いて算出することができるので、かかる構成は、複数の観察条件での測色値が記録された1DLUT141を記憶するパーソナルコンピューター100に、好適に適用することができる。
【0074】
【数1】

【0075】
B−3.変形例3:
メタリックインクに代えて、あるいは、加えて、種々の特殊光沢インクを、定義色の印刷で使用するインクとして採用することが可能である。特殊光沢インクとは、所定の質感を発現するインクである。こうした質感としては、メタリック感のほかに、真珠光沢感や梨地感などとすることができる。特殊光沢インクとは、印刷媒体に印刷されたインクの光学的特性が反射角度依存性を有するインクであると捉えることもできる。
【0076】
B−4.変形例4:
上述した実施形態においては、プリンタードライバー130がパーソナルコンピューター100にインストールされた構成について示したが、プリンタードライバー130の少なくとも一部の機能は、プリンター200側に配置されてもよい。あるいは、パーソナルコンピューター100に、RIP(Raster image processor)がインストールされたコンピューター(以下、RIPコンピューターともいう)を接続し、RIPコンピューターで印刷データを生成してもよい。これらの場合、1DLUT141は、プリンター200やRIPコンピューターにも記憶されてもよい。また、パーソナルコンピューター100の1DLUT141にユーザー定義色が新たに定義された場合には、パーソナルコンピューター100は、プリンター200やRIPコンピューターに通知を行い、プリンター200やRIPコンピューターの1DLUT141にも、当該ユーザー定義色を登録させてもよい。
【0077】
B−5.変形例5:
プリンター200は、インクを色材として使用するインクジェットプリンタに限らず、特殊光沢光を発現する特殊光沢材を色材として少なくとも用いて印刷を行う種々のプリンターとすることができる。例えば、プリンター200は、トナーを色材として使用するレーザープリンターとして構成してもよい。
【0078】
B−6.変形例6:
上述した色確認処理において、出力部122は、ディスプレイ160に出力する代わりに、プリンター200に出力してもよい。こうしても、ユーザーが、画像データを印刷して印刷色を確認し、所望の印刷色でなければ、画像データの色を修正して、再度印刷を行う場合と比べて、インク量を低減できることがあるからである。例えば、メタリックインクの使用量に関しては、複数回印刷する場合と比べて、確実にインクの使用量を低減できる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における構成要素のうち、独立クレームに記載された要素に対応する要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。また、本発明はこうした実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、印刷システムのほか、画像処理装置、印刷データ生成装置、色情報の出力方法、そのプログラム、当該プログラムをコンピューターが読み取り可能に記録した記憶媒体などとしても実現することができる。
【符号の説明】
【0080】
20…印刷システム
100…パーソナルコンピューター
110…CPU
120…アプリケーションプログラム
121…受付部
122…出力部
123…登録部
130…プリンタードライバー
131…色変換処理部
132…ハーフトーン処理部
133…ラスターライズ処理部
140…メモリー
141…1DLUT
142…メタリック用ICCプロファイル
143非メタリック用ICCプロファイル
144メタリック用LUT
145…非メタリック用LUT
150…入出力インターフェース部
160…ディスプレイ
170…入力機構
200…プリンター
210…CPU
240…メモリー
250…入出力インターフェース部
260…ユニット制御回路
270…ヘッドユニット
280…キャリッジユニット
281〜288…インクカートリッジ
290…搬送ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データを処理する画像処理装置であって、
前記特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を前記印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、前記入力値と該出力値とを対応付けたテーブルを記憶する記憶部と、
前記定義色の指定を受け付ける受付部と、
前記受け付けた定義色に対応付けられた前記色情報に基づいた情報を出力する出力部と
を備えた画像処理装置。
【請求項2】
前記テーブルの前記出力値は、前記印刷装置で印刷を行う際の、前記特殊光沢材を用いた色材の出力量を表す情報を含む請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の画像処理装置であって、
前記出力部は、前記色情報に基づいた情報として、前記複数の観察条件での前記デバイス非依存の表色系で表される階調値、または、前記分光反射率に相当する階調値を画素データとして有する画像データを出力する
画像処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載の画像処理装置であって、
前記出力部は、前記デバイス非依存の表色系で表される階調値、または、前記分光反射率に基づいて、前記特殊光沢光の発現の程度を表す指標値を算出し、該算出した指標値を前記色情報に基づいた情報として出力する
画像処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか記載の画像処理装置であって、
前記テーブルの前記出力値としての前記色情報は、前記デバイス非依存の表色系としての、所定の1つの光源を前提としたL***表色系で表される階調値と、前記分光反射率とを含み、
前記受付部は、前記デバイス非依存の表色系としてのL***表色系で表される階調値と、前記分光反射率とのうちのいずれに基づいて、前記色情報に基づいた情報を前記出力部が出力するかを選択可能に構成されるとともに、前記L***表色系で表される階調値に基づいて、前記色情報に基づいた情報を前記出力部が出力する場合に、L***表色系で表される階調値の前提となる光源の種類の指定を受け付け可能に構成され、
前記出力部は、前記L***表色系で表される階調値に基づいて、前記色情報に基づいた情報を出力することが選択され、かつ、前記光源の指定を受け付けた場合に、
前記受け付けた光源の種類が前記所定の1つの光源であるときには、前記色情報に基づいた情報として、前記テーブルに記憶された、前記複数の観察条件での前記所定の1つの光源を前提としたL***表色系で表される階調値を出力し、
前記受け付けた光源の種類が前記所定の1つの光源と異なるときには、前記分光反射率から、前記複数の観察条件での前記受け付けた光源の種類に対応するL***表色系で表される階調値を算出して、該算出したL***表色系で表される階調値を前記色情報に基づいた情報として出力する
画像処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか記載の画像処理装置を備えた印刷データ生成装置であって、
ユーザーが入力する所定の表色系で表される階調値と、該階調値と対応付けられるべき識別情報とを、新たな定義色として受け付けて、該受け付けた階調値と対応付けられるべき識別情報を前記テーブルの前記入力値とし、該受け付けた所定の表色系で表される階調値を前記テーブルの前記出力値として、前記テーブルに登録する登録部と、
前記特殊光沢材の使用を前提として作成されたICCプロファイルと、前記特殊光沢材を含む前記色材の出力量を出力値として有するLUTとを用いて、または、前記特殊光沢材を含む前記色材の出力量を出力値として有するLUTを用いて、前記新たな定義色として登録した前記所定の表色系で表される階調値を、前記特殊光沢材を含む前記色材の出力量に変換する色変換処理部と
を備えた印刷データ生成装置。
【請求項7】
特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データに関する色情報をコンピューターが出力する色情報の出力方法であって、
前記特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を前記印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、前記入力値と該出力値とを対応付けたテーブルを記憶しておき、
前記定義色の指定を受け付け、
前記受け付けた定義色に対応付けられた前記色情報に基づいた情報を出力する
色情報の出力方法。
【請求項8】
特殊光沢光を発現する特殊光沢材を用いて、印刷装置で印刷を行うための画像データに関する色情報を出力するプログラムであって、
前記特殊光沢材を用いて印刷を行うスポットカラーとして予め定義された定義色の指定を受け付ける受付機能と、
前記定義色の識別情報を入力値とし、該定義色を前記印刷装置で印刷した際に発現する印刷色を複数の観察条件で観察する場合の各々の見え方を、デバイス非依存の表色系で表される階調値および分光反射率の少なくとも一方を用いて表した色情報を出力値として、前記入力値と該出力値とを対応付けたテーブルを参照して、前記受け付けた定義色に対応付けられた前記色情報に基づいた情報を出力する出力機能と
をコンピューターに実現させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−9063(P2013−9063A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139066(P2011−139066)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】