説明

画像処理装置及びX線診断装置

【課題】カテーテル手技時における関心領域の設定の自動化。
【解決手段】画像演算・記憶部10は、被検体の血管が造影されていない第1透視画像データと、被検体に投与された造影剤により血管が造影された第2透視画像データとを記憶する。画像演算・記憶部10は、第1透視画像データを画像処理して第1透視画像に含まれるカテーテル領域を特定する。画像演算・記憶部10は、第2透視画像データを画像処理して第2透視画像に含まれる血管領域を抽出する。画像演算・記憶部10は、カテーテル領域の端点の位置に基づいて血管領域に関心領域を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像処理装置及びX線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
循環器用X線画像処理装置は、全身の動静脈を対象とした血管造影検査(angiography)や血管内治療(interventional treatment)におけるイメージガイド用装置として発展してきている。ここでX線画像処理装置は、血管内に造影剤を注入した状態でX線撮像された画像を処理し、画像表示部や画像表示装置に画像データを表示する。
【0003】
例えば心臓冠状動脈造影(coronary angiogram)では、造影剤は冠状動脈の入り口に挿入されたカテーテルによって注入される。そして動脈検査としては染まった血管の状態を、組織検査としては染まった心筋組織の状態を計測する。後者では、染まり度合いから心筋組織の血流、すなわち灌流(perfusion)を測定する方法が知られている。
【0004】
これらの計測においては、画像上に関心領域(Region of Interest;ROI)を設定し、その領域における時間濃度曲線を取得する必要がある。ROIを設定するために、既知の方法としては、オペレーターがX線画像を見ながらGUI等を介してコンピューターのマウスやボタンなどを操作し、設定する必要があった。しかしながら、操作が煩雑であったり、オペレーターによる差異が発生したり、血管内治療中の清潔区域で操作することは好まれない、という問題があった。そこでROIの設定を自動化したいというニーズがあり、何らかの技術開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7496175号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態の目的は、カテーテル手技時における関心領域の設定の自動化を実現する画像処理装置及びX線診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る画像処理装置は、被検体の血管が造影されていない第1透視画像データと、前記被検体に投与された造影剤により前記血管が造影された第2透視画像データとを記憶する記憶部と、前記第1透視画像データを画像処理して前記第1透視画像に含まれるカテーテル領域を特定する特定部と、前記第2透視画像データを画像処理して前記第2透視画像に含まれる血管領域を抽出する抽出部と、前記カテーテル領域の端点の位置に基づいて前記血管領域に関心領域を設定する設定部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るX線診断装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態における基本的な処理手順を示すフローチャート。
【図3】本実施形態における、より詳細な処理手順を示すフローチャート。
【図4】図1の画像演算・記憶部により設定される関心領域の設定パターンの一例を示す図。
【図5】図1の画像演算・記憶部により設定される関心領域の設定パターンの他の例を示す図。
【図6】図1の画像演算・記憶部により設定される関心領域の設定パターンの他の例を示す図。
【図7】図1の画像演算・記憶部により設定される関心領域の設定パターンの他の例を示す図。
【図8】図1の画像演算・記憶部により設定される関心領域の設定パターンの他の例を示す図。
【図9A】図1の表示部やユーザインタフェースにより表示される、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた右冠状動脈に関するX線画像示す図。
【図9B】図1の表示部やユーザインタフェースにより表示される、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた右冠状動脈に関するX線画像示す他の図。
【図9C】図1の表示部やユーザインタフェースにより表示される、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた左冠状動脈に関するX線画像示す図。
【図9D】図1の表示部やユーザインタフェースにより表示される、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた左冠状動脈に関するX線画像示す他の図。
【図9E】図1の表示部やユーザインタフェースにより表示される、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた冠状動脈のスパイダービューに関するX線画像示す図。
【図9F】図1の表示部やユーザインタフェースにより表示される、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた脳血管に関するX線画像示す図。
【図10】本実施形態に係るROI(基準領域)と心筋局所領域とが設定された、X線アンジオ撮影で得られる冠状動脈造影画像を示す図。
【図11】本実施形態に係る、矩形状のROIが設定された冠状動脈造影画像を示す図。
【図12】本実施形態に係る、多角形状のROIが設定された冠状動脈造影画像を示す図。
【図13】本実施形態に係る表示部やユーザインタフェースに表示される時間濃度曲線の一例を示す図。
【図14】本実施形態に係るROI(基準領域)と比較対象領域とが設定された、X線アンジオ撮影で得られる冠状動脈造影画像を示す図。
【図15】図1の表示部やユーザインタフェースにより重ねて表示される、基準領域に対応する時間濃度曲線と比較対象領域に対応する時間濃度曲線とを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる画像処理装置及びX線診断装置を説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係るX線診断装置を示している。X線診断装置は、ガントリ100を有する。ガントリ100は、Cアーム7を有する。Cアーム7は、支持機構6に回転自在に支持される。Cアーム7の一端にはX線発生部2が取り付けられる。X線発生部2は、X線管球21とX線コリメータ22を有する。高電圧発生部1は、X線管球21の電極間に印加する高電圧(管電圧)を発生し、またX線管球21のフィラメントに供給するフィラメント電流を発生する。X線制御部20は、システム制御部8の制御に従って、高電圧発生部1で発生する管電圧とフィラメント電流とを制御する。
【0011】
Cアーム7の他端にはX線検出部5が取り付けられる。X線検出部5は、寝台4に載置される被検体3を挟んで、X線発生部2のX線管球21に対峙する。X線検出部5は、典型的には、入射X線を直接的又は間接的に電荷に変換する複数の検出素子(画素)が2次元状に配列されてなる固体平面検出器である。X線検出部5は、システム制御部8の制御により典型的には電荷蓄積、電荷読出、及びリセットからなる1サイクルの検出動作を一定周期で繰り返す。
【0012】
システム制御部8は、例えば、インジェクタ15から被検体3へ造影剤を注入を開始する時点でインジェクタ15から出力される注入開始信号、被検体への造影剤注入を終了する時点でインジェクタ15から出力される注入終了信号と、心電計16で測定された被検体3の心電図(ECG)とに基づいて、撮像動作を制御することを主な機能として有している。
【0013】
画像演算・記憶部10は、X線検出部5からの出力に基づいて画像のデータを発生する機能、画像のデータを記憶する機能、及び画像のデータを処理する機能を有している。例えば、画像演算・記憶部10は、被検体の血管が造影されていない第1透視画像データと、被検体に投与された造影剤により血管が造影された第2透視画像データとを発生し、記憶する機能を有する。また、画像演算・記憶部10は、第1透視画像データを画像処理して第1透視画像に含まれるカテーテル領域を特定する機能を有する。また、画像演算・記憶部10は、第2透視画像データを画像処理して第2透視画像に含まれる血管領域を抽出する機能を有する。また、画像演算・記憶部10は、カテーテル領域の端点の位置に基づいて血管領域に関心領域を設定する機能を有する。また、画像演算・記憶部10は、細線化を実行する機能、端点検出する機能、ライントレーシングを実行する機能等の種々の画像処理機能を有している。
【0014】
システム制御部8には操作部9が接続される。操作部9には、ハンドスイッチ12、ディスプレイ、及びタッチパネル等を有するユーザインタフェース14が設けられる。
【0015】
図2は、この実施形態に係わる基本的な処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示されるように、画像演算・記憶部10は、X線画像に画像処理を施し、X線画像から血管領域の端点とカテーテル領域の端点とを抽出する(ステップS61,S62)。すなわち血管領域の端点の位置座標と、カテーテル領域の端点の位置座標とが抽出される。
【0016】
次に画像演算・記憶部10は血管領域の端点の位置座標とカテーテル領域の端点の位置座標とを比較し、血管領域とカテーテル領域との位置関係を解析する(ステップS63)。具体的には、画像演算・記憶部10は、血管領域の中心線を利用して、カテーテル領域の端点に最も近い血管領域上の点を特定する。すなわち、血管領域上においてカテーテル領域の端点(以下、カテーテル端点)が特定される。そして画像演算・記憶部10は、血管領域上のカテーテル端点から一定の距離だけ離れた血管領域上の位置にROIを設定する(ステップS64)。
【0017】
図3は、実施形態に係わる詳細な処理手順を示すフローチャートである。図3のステップST1において、画像演算・記憶部10は予め記憶した造影前フレーム2aと造影中フレーム2bとを読み出す。造影前フレーム2aは、カテーテル手技時において、被検体の血管が造影剤により注入される前に撮像されたX線画像である。造影前フレーム2aは、カテーテル領域を含み、血管領域を含んでいない。なお、造影前フレーム2aは、カテーテル領域の他に、骨領域等の背景を含んでいる。造影中フレーム2bは、カテーテル手技時において、被検体に投与された造影剤により血管が造影されている時点に撮像されたX線画像である。造影中フレーム2bは、カテーテル領域と血管領域とを含んでいる。なお、造影前フレーム2bにも、カテーテル領域と血管領域との他に、骨領域等の背景を含んでいる。ステップST2において、画像演算・記憶部10は、造影前フレーム2aからカテーテル領域を抽出する。これにより、例えば、前景領域としてカテーテル領域を有する2値画像データ2cが抽出される。画像演算・記憶部10は、造影中フレーム2bからカテーテル領域と血管領域とを抽出する。これにより、例えば、前景領域としてカテーテル領域と血管領域とを有する2値画像2dが抽出される。
【0018】
すなわち実施形態では、被検体の血管が造影されていないフレーム2aと、造影剤により血管が造影されたフレーム2bとも用いて画像処理を行う。フレーム2a、2bのいずれにも、カテーテル領域を含んでいる。
【0019】
ステップST3において、画像演算・記憶部10は、2値画像2cをテンプレートとして2値画像2dにテンプレートマッチングを施し、2値画像2dからカテーテル領域を特定し、特定されたカテーテル領域を2値画像2dから除去する。具体的には、画像演算・記憶部10は、2値画像2cをテンプレートとし、この2値画像2cと2値画像2dとを比較する。画像演算・記憶部10は、両2値画像の各ピクセル間での2値比較の結果に基づいて2値画像2cとの相互相関の度合いを評価する。画像演算・記憶部10は、相互相関の度合いに基づいて、2値画像2dに含まれるカテーテル領域を特定する。以上の処理をカテーテルマッチングと称する。この処理により、2値画像2dに含まれるカテーテル領域と血管部分とを切り分けて特定することができる。そして、画像演算・記憶部10は、特定されたカテーテル領域を2値画像2dから除去し、カテーテル領域が除去された2値画像2eを生成する。2値画像2eは、造影中フレーム2bに由来する血管領域を含んでいる。
【0020】
ステップST4において、画像演算・記憶部10は、血管領域の2値画像2cと、カテーテル領域の2値画像2eとの各々について、細線化処理を施す。細線化処理により、2値画像2cから血管領域の中心線を示す細線化画像2fが生成され、2値画像2eからカテーテル領域の中心線を示す細線化画像2gが生成される。
【0021】
ステップST5において、画像演算・記憶部10は、細線化画像2fと細線化画像2gとに端点検知を実行し、細線化画像2gにおけるカテーテル端点の位置座標を検出する。具体的には、まず、画像演算・記憶部10は、細線化画像2f内のカテーテル領域の端点を画像処理等により特定する。通常、カテーテルの端点は2箇所検出されるが、実施形態では画像中央に近い端点を処理対象として選択する。また、画像演算・記憶部10は、細線化画像2g内の血管領域の端点を画像処理等により特定する。血管領域は、通常、複数の枝に分岐するので、3以上の複数の端点が特定されるのが通常である。画像演算・記憶部10は、細線化画像2g内において特定された複数の端点の中から、細線化画像2f内において処理対象として選択された端点に最も接近している端点Peを特定する。特定された端点Peは、血管領域上におけるカテーテル領域の端点(カテーテル端点)を意味する。
【0022】
ステップST6において、画像演算・記憶部10は、細線化画像2gにライントレーシング処理を実施し、カテーテル端点Peから一定の距離(例えば10mm〜50mm程度)だけ離れた血管領域の中心線上にROIを設定する。このようにして、ROIの位置座標が自動的に設定される。そして画像演算・記憶部10は、設定された位置座標に対応する造影中フレーム2bの位置座標にROIを設定する。システム制御部8は、造影中フレーム2bにROIに対応するシンボルSiが重ねて表示された画像2hを表示部11に表示する。シンボルSiが重ねて表示される画像は、造影中フレーム2bのみに限定されず、造影前フレーム2aであっても良い。シンボルSiが重ねて表示される画像は、操作部9を介して任意に選択可能である。
【0023】
なおライントレーシング処理とは、画像に含まれる線分、線分の分岐点を検出する処理である。この処理は、例えば3×3のピクセルで囲まれた領域(小領域)がとり得るビットパターンの組み合わせと、2値画像を構成する全てのピクセルの画素値(0または1)とを比較し、画像上の各小領域に一致するビットパターンを検出する。そうして、隣接する小領域ごとのビットパターンの分布から、画像中の線分の形状を認識する処理である。画像演算・記憶部10は、細線化された血管領域の中心線に対してこの処理を施す。
【0024】
次に、関心領域の種々の設定パターンについて説明する。
【0025】
関心領域の形状は、種々の形態が用意されている。図4、図5、及び図6は、ROIの形状パターンを示す図である。図4、図5、及び図6に示すように、ステップST6において画像演算・記憶部10により、血管領域BRの中心線CLがトレーシングされる。画像演算・記憶部10は、端点Peから中心線CLに沿って所定の距離間隔で複数の関心領域ROIを設定する。例えば、各関心領域ROIは、図4に示すように、中心線Cl上の点(1画素)に設定される。各関心領域ROIは、点のみに限定されず、図5に示すように、既定の面積を有する局所領域に設定されても良い。局所領域の形状は、図5に示すような長形状に限定されず、円形状や正方形、楕円、菱形等の如何なる幾何学的形状を有していても良い。関心領域ROIの向きは、図5に示すように、中心線CLに沿っていると良い。図6に示すように、中心線CL上に設定された2点P1及びP2間の範囲に限定して血管領域に関心領域ROIが設定されても良い。2点P1及びP2の間隔は、操作部9を介して任意に設定可能である。また、関心領域の形状のタイプも操作部9を介して任意に設定可能である。
【0026】
なお、上記の説明において画像演算・記憶部10は、複数の関心領域ROIを設定するとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。図7に示すように、画像演算・記憶部10は、中心線CL上の端点Peから所定の距離だけ離れた一箇所に関心領域ROIを設定しても良い。また、上記の説明において、関心領域ROIの向きは、中心線CLに沿うとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。図8に示すように、画像演算・記憶部10は、関心領域ROIを水平に並べても良い。なお、関心領域ROIの向きは、中心線CLに方向と水平とに限定されず、如何なる向きに設定可能である。関心領域ROIの向きは、例えば、操作部9を介して任意に設定可能である。
【0027】
次に、本実施形態に係るROI設定処理の臨床応用例について説明する。
【0028】
図9A、9B、9C、9D、9E、9Fは、表示部11に表示される臨床画像の一例を示す図である。図9A,Bは、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた右冠状動脈に関するX線画像示す。図9C,Dは、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた左冠状動脈に関するX線画像示す。図9Eは、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた冠状動脈のスパイダービューに関するX線画像を示す。図9Fは、ROIを示すシンボル(十字)が重ねられた脳血管に関するX線画像を示す。以上のようにこの実施形態によれば各X線透視画像にROIが自動的に重ねて表示される。
【0029】
図10は、X線アンジオ撮影で得られる冠状動脈造影画像(以下CAG画像という)を例示している。CAG画像では、造影剤のX線の吸収線量が大きいので冠状動脈を通過中は冠状動脈の形状が他の組織と区別できる程にコントラストがついて識別できる。
【0030】
図10に示すように、カテーテル101が冠状動脈102まで挿入操作され、その位置でカテーテル101から一定時間継続的に造影剤が注入される。X線撮像は、少なくとも造影剤注入開始前から、造影剤注入終了後所定時間経過までの期間にわたって行われる。
【0031】
造影剤がカテーテル101を経由して冠状動脈に注入されるときに図1のX線診断装置にてX線画像が収集される。画像収集が終了すると画像演算・記憶部10によりROI103が上記のアルゴリズムに従ってカテーテル101を基準とした血管領域上の位置に自動的に設定される。例えば、ROI103は、CAG画像上の冠状動脈の基準領域(心筋血液供給領域)103に設定される。また、基準領域の比較のために、心筋上に少なくとも一つの心筋局所領域104が設定される。
【0032】
画像演算・記憶部10は、心筋血液供給領域103に含まれる複数の画素の画素値に基づいて心筋血液供給領域103に関する時間濃度曲線(Time Density curve;TDC)を生成する。同様に、画像演算・記憶部10は、心筋局所領域104に含まれる複数の画素の画素値に基づいて心筋局所領域に関する時間濃度曲線を生成する。
【0033】
心筋局所領域104は、心筋領域上に設定され、典型的には複数の画素を有する。心筋局所領域104の造影剤量に相当する濃度は典型的には画素平均値として計算される。しかし、心筋局所領域104は単一の画素を有するものであってもよい。心筋血液供給領域103は、典型的には、血管と略等価な幅又は少し小さい幅を有する矩形形状を有し、血管に沿って任意の向きに設定され、複数の画素が含まれる。心筋血液供給領域103の造影剤量に相当する濃度としては典型的には画素平均値として計算される。心筋血液供給領域103は、インジェクタ15と心筋注目領域の間の流路の任意の部分、より限定するとカテーテルの任意の部分、又はカテーテルの出口(冠状動脈入口に等価)から心筋注目領域の間の任意の部分に設定される。このようにして設定されたROIは、例えば、図11や図12に示すようにCAG画像上に表示される。図11においてROIは、矩形状の領域として設定されている。図12においてROIは、一定の面積を持つ多角形状の領域として設定されている。
【0034】
図13は、表示部11やユーザインタフェース14に表示される時間濃度曲線の一例を示す図である。この時間濃度曲線は冠状動脈に注入された造影剤の時間経過に伴う濃度変化をグラフ化したもので、画像演算・記憶部10により算出される。このほか、造影剤の濃度に関するTTP(time to peak)値をグラフ化しても良いし、血流量、血液量、あるいは血液の平均通過時間などの血流情報を指標としてグラフ化しても良い。さらには、心筋組織の血流(灌流)を示す指標値の2次元的な分布を血流情報として取り扱うようにしても良い。
【0035】
基準領域(心筋血液供給領域)103の血流情報の比較対象領域は、心筋領域に設定される心筋局所領域104のみに限定されない。例えば、比較対象領域としては、図14に示すように、基準領域103から比較的遠方に設定された血管領域102上の局所領域106に設定されても良い。比較対象領域106は、本実施形態に係るROI設定アルゴリズムを利用して設定される。以下、比較対象領域106の設定について説明する。まず、画像演算・記憶部10は、上述のようにカテーテル101の端点から血管領域102の中心線に沿って比較的近距離だけ離れた位置に基準領域103を設定し、血管領域102の中心線に沿って比較的遠距離だけ離れた位置に比較対象領域106を設定する。画像演算・記憶部10は、基準領域103と比較対象領域106との各々について時間濃度曲線等の血流情報を算出する。基準領域103に対応する時間濃度曲線と比較対象領域106に対応する時間濃度曲線とは、例えば、表示部11やユーザインタフェース14により表示される。オペレーターは、基準領域103に対応する時間濃度曲線と比較対象領域106に対応する時間濃度曲線とを比較することで冠状動脈を容易に知ることが出来る。
【0036】
図15は、表示部11やユーザインタフェース14により重ねて表示される、基準領域103に対応する時間濃度曲線と比較対象領域106に対応する時間濃度曲線とを示す図である。なお、図15に係る基準領域103と比較対象領域106との間には、狭窄部位が存在しているとする。この場合、狭窄部位の下流側の比較対象領域106に対応する時間濃度曲線のピーク値Pe2は、狭窄部位の上流側の基準領域103に対応する時間濃度曲線のピーク値Pe1に比して著しく低くなる傾向にある。また、比較対象領域106に対応する時間濃度曲線のピーク到達時刻te2と基準領域103に対応する時間濃度曲線のピーク到達時刻te1との時間間隔は、健常者の場合よりも広くなる。ユーザは、基準領域103に対応する時間濃度曲線と比較対象領域106に対応する時間濃度曲線とを観察することで、このような狭窄部位に起因する血流異常を見つけやすくなる。
【0037】
以上述べたように実施形態によれば、血管のうちカテーテルに近い側のROIが特定され、かつ血管中心線も特定される。すなわちシステム側の処理により、オペレーターによるマニュアル操作で指定すること無く、ROIを設定することが可能になる。この実施形態によりROIが自動検出できるようになるので、ROIが検出されたことをトリガとしてソフトウェアに与えれば、各種の処理を自動的に走らせることが可能になる。さらに、この実施形態によれば、多数の時間濃度曲線のうち基準となる曲線を定めることも可能になる。
【0038】
例えば、カテーテルに近い側のROIを基準として、血管上の他のROIにおける時間濃度曲線情報を測定することができる。つまり、カテーテルに最も近い基準ROIからの時間遅れや振幅減少度を、他のROIについて自動的に測定することができる。さらには、測定結果画像や血管グラフを表示することも可能である。
【0039】
上術の通り、本実施形態に係るX線診断装置及び画像処理装置は、画像演算・記憶部10を有している。画像演算・記憶部10は、記憶部、特定部、抽出部、及び設定部を有している。記憶部は、被検体の血管が造影されていない第1透視画像データと、被検体に投与された造影剤により血管が造影された第2透視画像データとを記憶する。特定部は、第1透視画像データを画像処理して第1透視画像に含まれるカテーテル領域を特定する。抽出部は、第2透視画像データを画像処理して第2透視画像に含まれる血管領域を抽出する。設定部は、カテーテル領域の端点の位置に基づいて血管領域に関心領域を設定する。
【0040】
より詳細には、画像演算・記憶部10は、造影剤注入前のX線画像データと、造影剤注入後のX線画像データとを用いて、注入前の画像データからカテーテル領域を抽出し、注入後の画像データから血管領域を抽出する。次に画像演算・記憶部10は、カテーテル領域と血管領域との各々に対して細線化処理を行い、カテーテル領域の端部と血管領域の中心線とを算出する。そして画像演算・記憶部10は、中心線に沿ってカテーテル領域の端部から一定の距離だけ離間する血管領域上の座標にROIを設定する。
【0041】
なお、上記実施形態においては心臓の冠状動脈に造影剤を投与した画像を利用したROIの設定について示した。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、本実施形態は、脳血管造影や腹部臓器造影など、カテーテルを用いた一般的な造影検査の全てに対して適用することが可能である。本実施形態によれば、体内のあらゆる部位の血管にROIを自動設定可能なため、心臓だけでなく、体内のあらゆる血管に投与された造影剤の時間濃度曲線を取得することが可能である。
【0042】
かくして本実施形態によれば、カテーテル手技時における関心領域の設定の自動化を実現する画像処理装置及びX線診断装置を提供することが可能となる。
【0043】
なお、上記の説明において画像処理装置の処理対象画像は、X線診断装置により発生されたX線画像であるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。本実施形態に係る画像処理装置の処理対象画像は、X線コンピュータ断層撮影装置により発生されたCT画像または磁気共鳴イメージング装置により発生されたMRI画像であっても良い。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0045】
1…高電圧発生部、2…X線発生部、3…被検体、4…寝台、5…X線検出部、6…支持機構、7…Cアーム、8…システム制御部、9…操作部、10…画像演算・記憶部、11…表示部、12…ハンドスイッチ、14…ユーザインタフェース、15…インジェクタ、16…心電計、20…X線制御部、21…X線管球、22…コリメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の血管が造影されていない第1透視画像データと、前記被検体に投与された造影剤により前記血管が造影された第2透視画像データとを記憶する記憶部と、
前記第1透視画像データを画像処理して前記第1透視画像に含まれるカテーテル領域を特定する特定部と、
前記第2透視画像データを画像処理して前記第2透視画像に含まれる血管領域を抽出する抽出部と、
前記カテーテル領域の端点の位置に基づいて前記血管領域に関心領域を設定する設定部と、
を具備する画像処理装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記血管領域の中心線に沿って前記カテーテル領域の端点から一定距離だけ離間する前記血管領域上の位置に前記関心領域を設定する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記第1透視画像と前記第2透視画像との少なくとも一方に、前記設定された関心領域に対応するシンボルを重ねて表示する表示部を備える、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記設定された関心領域に関する血流情報を算出する算出部をさらに備える、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記血流情報は、血管に投与された造影剤の時間濃度曲線である、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記血管は、冠状動脈である、請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記血管領域に複数の関心領域を設定し、
前記算出部は、前記設定された複数の関心領域にそれぞれ対応する複数の血流情報を算出する、
請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記算出部は、前記設定された関心領域を基準として他の領域における血流情報を算出する、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項9】
X線を発生するX線管と、
前記X線管から発生され被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器からの出力データに基づいて、被検体の血管が造影されていない第1透視画像データと、前記被検体に投与された造影剤により前記血管が造影された第2透視画像データとを発生する画像発生部と、
前記第1透視画像データを画像処理して前記第1透視画像に含まれるカテーテル領域を特定する特定部と、
前記第2透視画像データを画像処理して前記第2透視画像に含まれる血管領域を抽出する抽出部と、
前記カテーテル領域の端点の位置に基づいて関心領域を設定する設定部と、
を具備するX線診断装置。
【請求項10】
前記設定部は、前記血管領域の中心線に沿って前記カテーテル領域の端点から一定距離だけ離間する前記血管領域上の位置に前記関心領域を設定する、請求項9に記載のX線診断装置。
【請求項11】
前記第1透視画像と前記第2透視画像との少なくとも一方に、前記設定された関心領域に対応するシンボルを重ねて表示する表示部をさらに備える、請求項9に記載のX線診断装置。
【請求項12】
前記設定された関心領域に関する血流情報を算出する算出部をさらに備える、請求項9に記載のX線診断装置。
【請求項13】
前記血流情報は、血管に投与された造影剤の時間濃度曲線である、請求項12に記載のX線診断装置。
【請求項14】
前記血管は、冠状動脈である、請求項13に記載のX線診断装置。
【請求項15】
前記設定部は、前記血管領域に複数の関心領域を設定し、
前記算出部は、前記設定された複数の関心領域にそれぞれ対応する複数の血流情報を算出する、
請求項12に記載のX線診断装置。
【請求項16】
前記算出部は、前記設定された関心領域を基準として他の領域における血流情報を算出する、請求項12に記載のX線診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−245351(P2012−245351A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96445(P2012−96445)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】