説明

画像取得方法および装置

【課題】被観察体への薬剤の投与による吸収特性や蛍光特性などの経時変化をより的確に認識することができる画像を取得する。
【解決手段】照明光の被観察体への照射により被観察体から反射された反射光を撮像素子により受光して被観察体の通常像を撮像し、撮像素子から出力された画像信号に分光画像処理を施して所定波長の分光推定画像信号を生成する画像取得装置において、撮像素子22から出力された画像信号に基づいて、分光画像生成部32において被観察体に投与される薬剤に関する特定波長の分光推定画像信号を輝度情報取得用分光推定画像信号として生成し、輝度情報取得部34において所定の時間間隔を空けて生成された輝度情報取得用分光推定画像信号の輝度情報をそれぞれ取得し、その輝度情報の変化率を取得し、表示装置3においてその輝度情報の変化率に基づいて画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被観察体に薬剤を投与してその被観察体の像を撮像する画像取得方法および装置であって、特に、被観察体の像の経時変化を撮像する画像取得方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、体腔内の組織を観察する内視鏡装置が広く知られており、白色光によって照明された体腔内の被観察体を撮像して通常画像を得、この通常画像をモニタ画面上に表示する電子式の内視鏡が広く実用化されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、上記のような内視鏡装置において、たとえば、特定の波長を吸収するICG(indrocyanine green)などを被観察体である生体組織に散布または注入などして投与し、その吸収特性の経時変化を見ることによって、その生体組織の形状や性状などの特性を観察する場合がある。特に、センチネルリンパ節のリンパの流れを観察する際に用いられることが考えられる。
【特許文献1】特開2003−126014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような薬剤の投与による吸収特性や蛍光特性などの経時変化は、微小な変化であるため、撮像素子で撮像された画像信号を用いて表示された通常画像を肉眼で観察しただけではその認識が非常に困難であり、被観察体の診断技術の低下を招くことになる。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、被観察体への薬剤の投与による吸収特性や蛍光特性などの経時変化をより的確に認識することができる画像を取得可能な画像取得方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の画像取得方法は、照明光の被観察体への照射により被観察体から反射された反射光を撮像素子により受光して被観察体の通常像を撮像し、撮像素子から出力された画像信号に分光画像処理を施して所定波長の分光推定画像信号を生成する画像取得方法において、撮像素子から出力された画像信号に基づいて、被観察体に投与される薬剤に関する特定波長の分光推定画像信号を輝度情報取得用分光推定画像信号として生成し、所定の時間間隔を空けて生成された輝度情報取得用分光推定画像信号の輝度情報をそれぞれ取得し、その輝度情報の変化率を取得することを特徴とする。
【0007】
本発明の画像取得装置は、照明光を被観察体に照射する照明光照射部と、照明光の照射により被観察体から反射された反射光を受光して被観察体の通常像を撮像する撮像素子と、撮像素子から出力された画像信号に分光画像処理を施して所定波長の分光推定画像信号を生成する分光画像処理部とを備えた画像取得装置において、分光画像処理部が、撮像素子から出力された画像信号に基づいて、被観察体に投与される薬剤に関する特定波長の分光推定画像信号を輝度情報取得用分光推定画像信号として生成するものであり、所定の時間間隔を空けて生成された輝度情報取得用分光推定画像信号の輝度情報をそれぞれ取得し、その輝度情報の変化率を取得する輝度情報取得部を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、上記本発明の画像取得装置においては、輝度情報取得部により取得された輝度情報の変化率に基づいて、撮像素子から出力された通常像に基づく画像信号または分光画像処理部で生成された分光推定画像信号の各画素に対して色を設定する配色設定部と、配色設定部より色を設定された画像信号に基づく通常画像または配色設定部により色を設定された分光推定画像信号に基づく分光推定画像を表示する表示部とをさらに設けるようにすることができる。
【0009】
また、撮像素子を、体腔内に挿入されるスコープ部に設置されるものとし、分光画像処理部を、撮像素子から出力された画像信号に基づいて、被観察体に投与される薬剤に関する特定波長とは異なる特定波長の分光推定画像信号を移動情報取得用分光推定画像信号として生成するものとし、所定の時間間隔を空けて生成された各移動情報取得用分光推定画像信号の相違に基づいて、撮像素子の撮像範囲の移動情報を取得する移動情報取得部と、移動情報手段部により取得された移動情報に基づいて、輝度情報取得用分光推定画像信号の各画素の輝度情報の位置情報を補正する補正部とをさらに設けるようにすることができる。
【0010】
また、薬剤に関する特定波長として、薬剤の吸収波長または蛍光波長を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の画像取得方法および装置によれば、撮像素子から出力された画像信号に基づいて、被観察体に投与される薬剤に関する特定波長の分光推定画像信号を輝度情報取得用分光推定画像信号として生成し、所定の時間間隔を空けて生成された輝度情報取得用分光推定画像信号の輝度情報を取得し、その輝度情報の変化率を取得するようにしたので、たとえば、その輝度情報の変化率に応じて撮像素子から出力された画像信号に色を割り当て、その画像を表示するようにすれば、より明確に薬剤の吸収特性や蛍光特性の経時変化を認識することができ、診断技術の向上を図ることができる。また、経時変化を的確に把握することにより薬剤の量を最適化することができ、QOLの観点からメリットがある。
【0012】
また、上記本発明の画像取得装置において、撮像素子から出力された画像信号に基づいて、被観察体に投与される薬剤に関する特定波長とは異なる特定波長の分光推定画像信号を移動情報取得用分光推定画像信号として生成し、所定の時間間隔を空けて生成された各移動情報取得用分光推定画像信号の相違に基づいて、撮像素子の撮像範囲の移動情報を取得し、その取得した移動情報に基づいて、移動情報取得用分光推定画像信号の各画素の輝度情報の位置情報を補正するようにした場合には、たとえば、本発明の画像取得装置を内視鏡装置に適用した際、スコープの先端が揺れてしまったり、生体である被観察体が動いてしまったりして撮像範囲が移動したとしても、各輝度情報取得用分光推定画像信号の各画素の位置関係を補正することができ、適切な輝度情報の変化率を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の画像取得装置の第1の実施形態を用いた内視鏡システムについて詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態を用いた内視鏡システム1の概略構成を示すものである。
【0014】
内視鏡システム1は、図1に示すように、被験者の体腔内に挿入され、被観察体を観察するためのスコープユニット20と、このスコープユニット20が着脱自在に接続されるプロセッサユニット30と、スコープユニット20が光学的に着脱自在に接続され、照明光L0を射出するキセノンランプが収納された照明光ユニット10とを備えている。なお、プロセッサユニット30と照明光ユニット10とは、一体的に構成されているものであってもよいし、あるいは別体として構成されているものであってもよい。
【0015】
照明光ユニット10は、通常観察を行うための照明光L0をキセノンランプから射出するものである。照明光ユニット10は、スコープユニット20のライトガイド11に光学的に接続されており、照明光L0をライトガイド11の一端から入射するように構成されている。
【0016】
スコープユニット20は、結像光学系21、撮像素子22、CDS/AGC回路23、A/D変換部24、およびCCD駆動部25を備えており、各構成要素はスコープコントローラ26により制御される。撮像素子22はたとえばCCDやCMOS等からなり、結像光学系21により結像された被観察体像を光電変換して画像情報を取得するものである。この撮像素子22としては、例えば撮像面にMg(マゼンタ),Ye(イエロー),Cy(シアン),G(グリーン)の色フィルタを有する補色型の撮像素子、あるいはRGBの色フィルタを有する原色型撮像素子を用いることができるが、本実施形態においては、原色型撮像素子を用いるものとする。なお、撮像素子22の動作はCCD駆動部25により制御される。また、撮像素子22が画像信号を取得したとき、CDS/AGC(相関二重サンプリング/自動利得制御)回路23がサンプリングして増幅し、A/D変換部24がCDS/AGC回路23から出力された画像信号をA/D変換し、その画像信号がプロセッサユニット30に出力される。
【0017】
また、スコープユニット20には、スコープコントローラ26に接続され、観察モードの切換などの種々の操作を設定可能な操作部27が設けられている。
【0018】
また、スコープユニット20の先端には照明窓28が設けられ、この照明窓28には、一端が照明光ユニット10に接続されたライトガイド11の他端が対面している。
【0019】
プロセッサユニット30は、照明光L0の被観察体への照射によってスコープユニット20により撮像された通常像に基づいて生成されたR、G、Bの3色のカラー画像信号を取得する画像取得部31と、画像取得部31により取得されたカラー画像信号に分光画像処理を施して所定波長の分光推定画像信号を生成する分光画像生成部32と、分光画像生成部32において分光画像処理を行うために用いられる分光推定マトリクスデータが記憶されている記憶部33と、分光画像生成部32において生成された特定波長の分光推定画像信号(輝度情報取得用分光推定画像信号)を所定の時間間隔で取得し、その輝度情報の変化率を取得する輝度情報取得部34と、輝度情報取得部34において取得された各画素毎の輝度情報の変化率に基づいて、画像取得部31において取得されたカラー画像信号の各画素の配色を設定する配色設定部35と、配色設定部35において色を設定されたカラー画像信号に対し、その他種々の処理を施して表示用画像信号を生成する表示信号生成部36と、プロセッサユニット30全体を制御する制御部37とを備えている。各部の動作については、後で詳述する。
【0020】
また、プロセッサユニット30には、操作者の入力を受け付ける入力部2が接続されている。そして、スコープユニット20の操作部27と同様に、入力部2においても観察モードが設定可能であり、また、後述する分光推定画像の波長の変更、撮影間隔の変更などの操作入力を受け付けるものである。
【0021】
表示装置3は、液晶表示装置やCRT等から構成され、プロセッサユニット30から出力された表示用画像信号に基づいて、通常画像および分光推定画像などを表示するものである。その作用については、後で詳述する。
【0022】
次に、本実施形態の内視鏡システムの動作について、図2および図3のフローチャートを参照して説明する。まず、被観察体へ照明光L0を照射して取得したカラー画像信号に基づいて、通常画像を表示する通常観察モードの際の動作について説明する。
【0023】
まず、スコープユニット20の操作部27または入力部2において、操作者により通常観察モードが設定される(S10)。そして、通常観察モードが設定されると、照明光ユニット10から照明光L0が射出される。そして、照明光L0はライトガイド11を介して照明窓28から被観察体に照射される。そして、照射光L0の照射によって被観察体を反射した反射光L1がスコープユニット20の結像光学系21に入射され、結像光学系21によって撮像素子22の撮像面に通常像が結像される。そして、CCD駆動部25によって駆動された撮像素子22が被観察体の通常像を撮像してカラー画像信号を取得する(S12)。このカラー画像信号はCDS/AGC回路23で相関二重サンプリングと自動利得制御による増幅を受けた後、A/D変換部24でA/D変換されて、デジタル信号としてプロセッサユニット30に入力される。
【0024】
そして、スコープユニット20から出力されたカラー画像信号が、プロセッサユニット30の画像取得部31により取得され、そして、そのカラー画像信号は、表示信号生成部36に出力される。そして、表示信号生成部36は、そのカラー画像信号に各種の信号処理を施した上、輝度信号Yと色差信号Cで構成されるY/C信号を生成し、さらに、このY/C信号へ対し、I/P変換およびノイズ除去などの各種信号処理を施して表示用画像信号を生成し、この表示用画像信号を表示装置3へ出力する。そして、表示装置3は、入力された表示用画像信号に基づいて通常画像を表示する(S14)。
【0025】
そして、上記のように通常画像が一旦表示された後、制御部37は、経時観察用撮影モード指示待ち状態となり(S16)、操作者によって経時観察用撮影モード指示が入力部2により入力されると経時観察用撮影モードに切り替えられる(S18)。そして、制御部37は経時観察用撮影モードに切り替えられると、後述する輝度情報を算出するために用いられる輝度情報取得用分光推定画像信号の波長を変更するか否かを問うメッセージを表示装置3に表示させる(S20)。そして、上記メッセージを見た操作者により輝度情報取得用分光推定画像信号の波長を手動で設定するか、もしくは自動で設定するかが入力部2を用いて選択される。
【0026】
そして、操作者により手動で輝度情報取得用分光推定画像信号の波長を設定するよう選択された場合には、操作者による所望の輝度情報取得用分光推定画像信号の波長の入力が入力部2において受け付けられ、その受け付けられた輝度情報取得用分光推定画像信号の波長は分光画像生成部32に出力される(S22)。
【0027】
一方、操作者により輝度情報取得用分光推定画像信号の波長を自動で設定するよう選択された場合には、たとえば、制御部37に予め記憶された輝度情報取得用分光推定画像信号の波長が読み出され、その輝度情報取得用分光推定画像信号の波長が分光画像生成部32に出力される(S24)。
【0028】
そして、次に、制御部37は、後述する輝度情報を取得するために用いられる輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔を変更するか否かを問うメッセージを表示装置3に表示させる(S26)。そして、上記メッセージを見た操作者により輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔を手動で設定するか、もしくは自動で設定するかが入力部2を用いて選択される。
【0029】
そして、操作者により手動で輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔を設定するよう選択された場合には、操作者による所望の輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔の入力が入力部2において受け付けられ、その受け付けられた輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔は分光画像生成部32に出力される(S28)。
【0030】
一方、操作者により輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔を自動で設定するよう選択された場合には、たとえば、制御部37に予め記憶された輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔が読み出され、その輝度情報取得用分光推定画像信号の撮影間隔は分光画像生成部32に出力される(S30)。
【0031】
そして、上記のようにして輝度情報取得用分光推定画像信号の波長と撮影間隔が設定された後、経時観察用撮影が開始される(S32)。
【0032】
まず、上述した通常観察モードと同様にして、照明光L0の照射による通常像の撮像が行なわれる(S34)
まず、プロセッサユニット30の画像取得部31により取得されたカラー画像信号は、分光画像生成部32に出力され、分光画像生成部32において、上記のようにして予め設定された波長の輝度情報取得用分光推定画像信号が生成される(S36)。具体的には、まず、入力されたカラー画像信号に基づいて推定反射スペクトルデータが算出される。推定反射スペクトルデータは、各画素毎のカラー画像信号R、G、Bに対して、下表1に示すような、記憶部33に記憶されている分光推定マトリクスデータの全てのパラメータからなる3×121のマトリクスを用いて、次式(1)で示すマトリクス演算を行って、推定反射スペクトルデータ(q1〜q121)を算出する。
【数1】

【0033】
ここで、分光推定マトリクスデータは、上述したようにテーブルとして記憶部33にあらかじめ記憶されている。なお、この分光推定マトリクスデータの詳細は、特開2003−93336号公報あるいは特開2007−202621号公報などに開示されている。本実施形態において、記憶部33に格納されている分光推定マトリクスデータの一例は次の表1のようになる。
【表1】

【0034】
この表1の分光推定マトリクスデータは、例えば400nmから1000nmの波長域を5nm間隔で分けた121の波長域パラメータ(係数セット)p1〜p121からなる。パラメータp1〜p121は各々、マトリクス演算のための係数kpr,kpg,kpb(p=1〜121)から構成されている。
【0035】
そして、この推定反射スペクトルデータに基づいて、予め設定された波長の輝度情報取得用分光推定画像信号が作成される(S36)。本実施形態では、805nmの波長の輝度情報取得用分光推定画像信号を作成する。なお、この波長は、後に被観察体に投与される薬剤ICGの最大吸収波長である。また、被観察体に投与される薬剤がICGである場合には、805nmの波長に限らず、780nm以上805nm以下の範囲の所定波長であれば如何なる波長を設定してもよい。
【0036】
具体的には、輝度情報取得用分光推定画像信号のR成分、G成分、B成分として、推定反射スペクトルデータ(q1〜q121)のうち、上記波長の推定反射スペクトルデータq82が取得される。
【0037】
そして、輝度情報取得用分光推定画像信号は、輝度情報取得部34に出力される。そして、輝度情報取得部34において、805nmの波長の輝度情報取得用分光推定画像信号のR成分、G成分、B成分に対し、XYZ変換が施され、さらにXYZ変換によって取得されたY値に基づいてL値が画素毎に算出される(S38)。
【0038】
輝度情報取得部34は、このとき算出した各画素のL値を基準輝度情報l値とし、このl値と各画素の位置情報(x,y)とを対応付けて保存する(S40)。
【0039】
そして、ここで、被観察体に対して薬剤が投与される。本実施形態においては、薬剤としてICGが投与される。
【0040】
次いで、薬剤が投与された後、再び、上述した通常観察モードと同様にして、通常像の撮像が所定のフレームレートで行なわれる(S44)。
【0041】
そして、そのフレームレートで取得されたカラー画像信号は、分光画像生成部32および配色設定部35に順次出力される。
【0042】
そして、分光画像生成部32は、順次入力されるカラー画像信号の中から、上記S28または上記S30で設定された撮影間隔のタイミングでカラー画像信号を取得する(S42)。なお、上記撮影間隔は、たとえば、数十秒間隔や数分間隔である。
【0043】
そして、S42において取得したカラー画像信号に対して、S36と同様の処理が施されて輝度情報取得用分光推定画像信号が生成される(S46)。そして、輝度情報取得用分光推定画像信号は輝度情報取得部34に出力され、S38と同様にしてL値が画素毎に算出される(S48)。
【0044】
次に、輝度情報取得部34は、S38で予め保存した基準輝度情報l値を読み出し、このl値とS48で算出したL値とに基づいて、下式により変化率Lpを各画素毎に算出する(S50)。
【0045】
Lp=L値/l
そして、輝度情報取得部34において取得された各画素毎の変化率Lpは、その位置情報(x,y)とともに配色設定部35に出力される。
【0046】
配色設定部35は、入力された各画素毎の変化率Lpの大きさに応じて、画像取得部31から出力されたカラー画像信号の各画素の色を設定して強調処理を施す(S52)。
【0047】
そして、配色設定部35で強調処理の施されたカラー画像信号は表示信号生成部36に出力される。表示信号生成部36は、強調処理の施されたカラー画像信号に各種の信号処理を施した上、輝度信号Yと色差信号Cで構成されるY/C信号を生成し、さらに、このY/C信号へ対し、I/P変換およびノイズ除去などの各種信号処理を施して表示用画像信号を生成し、この表示用画像信号を表示装置3へ出力する。そして、表示装置3は、入力された表示用画像信号に基づいて、強調処理の施された通常画像を表示する。
【0048】
そして、操作者により経時観察用撮影終了指示が入力部2から入力されるまでは、S42からS52にまでの処理が繰り返して行なわれ、順次強調処理の施された通常画像が更新されて表示される(S54)。
【0049】
そして、再び、スコープユニット20の操作部27または入力部2において、操作者により通常観察モードが設定されると、上述した通常観察モードに戻る(S56)。
【0050】
ここで、上記第1の実施形態の内視鏡システムにより、経時観察用撮影モードでリンパ節を撮影した模式図を図4に示す。なお、図4は、上から下に行くにしたがって時間が経過した画像を表わしている。また、図4の各図においては、d1からd2、d2からd3へと順次リンパが流れているものとする。
【0051】
図4の一番上の画像では、d1の部分にICGが到達して輝度情報の変化率が大きくなり、d1の部分の色が濃く現れているのがわかる。そして、図4の中央の画像では、d1からd2にICGが到達して輝度情報の変化率が大きくなり、d2の部分の色が濃く現れるとともに、d1の部分はd2の部分よりも輝度情報の変化率が小さくなるので、d2の部分よりも色が薄く現れているのがわかる。さらに、図4の一番下の画像では、d3までICGが到達して輝度情報の変化率が大きくなり、d3の部分の色が濃く現れるとともに、d2の部分はd3の部分よりも輝度情報の変化率が小さくなるので、d3の部分よりも色が薄く現れ、さらにd1の部分はd2の部分よりも輝度情報の変化率が小さくなるので、d2の部分よりもさらに色が薄く現れていることがわかる。
【0052】
また、上記第1の実施形態の内視鏡システムにおいては、輝度情報の変化率に基づいて通常画像に強調処理を施して表示するようにしたが、分光推定画像観察モードに切り替え可能にし、分光画像生成部32において所定波長の分光推定画像を生成し、その分光推定画像に対して輝度情報の変化率に基づいて強調処理を施して表示するようにしてもよい。
【0053】
分光推定画像観察モードにおいても、照明光L0の照射からカラー画像信号の取得までのステップについては、通常観察モードと同様である。
【0054】
そして、画像取得部31によって取得されたカラー画像信号は、分光画像生成部32に出力される。
【0055】
そして、分光画像生成部32において、入力されたカラー画像信号に基づいて推定反射スペクトルデータが算出される。推定反射スペクトルデータの算出方法については、上述した経時観察用撮影モードと同様である。
【0056】
そして、推定反射スペクトルデータを算出した後、たとえば、入力部2の操作によってλ1,λ2,λ3の3つの波長域が選択され、その波長域に対応する推定反射スペクトルデータが取得される。
【0057】
例えば、3つの波長域λ1,λ2,λ3として波長500nm,620nm,650nmが選択された場合は、それぞれの波長に対応する表1のパラメータp21,p45,p51の係数が用いられて算出された推定反射スペクトルデータq21,q45,q51が取得される。
【0058】
そして、この取得された推定反射スペクトルデータq21,q45,q51にそれぞれ適切なゲイン、オフセットを加味して擬似色分光推定データs21,s45,s51が算出され、この擬似色分光推定データs21,s45,s51がそれぞれ分光推定画像のR成分の画像信号R’、G成分の画像信号G’、B成分の画像信号B’とされる。そして、この分光推定画像信号R’,G’,B’が配色設定部35に入力される。
【0059】
配色設定部35は、輝度情報取得部34から出力された各画素毎の変化率Lpの大きさに応じて、分光推定画像信号の各画素の色を設定することによって強調処理を施す。
【0060】
そして、配色設定部35で強調処理の施された分光推定画像信号は表示信号生成部36に出力される。表示信号生成部36は、強調処理の施された分光推定画像信号に各種の信号処理を施した上、輝度信号Yと色差信号Cで構成されるY/C信号を生成し、さらに、このY/C信号へ対し、I/P変換およびノイズ除去などの各種信号処理を施して表示用画像信号を生成し、この表示用画像信号を表示装置3へ出力する。そして、表示装置3は、入力された表示用画像信号に基づいて、強調処理の施された分光推定画像を表示する。
【0061】
なお、上記説明では、3つの波長域λ1,λ2,λ3として波長500nm,620nm,650nmを選択するようにしたが、このような波長域の組み合わせはたとえば血管、生体組織等の観察したい部位毎に記憶部33に記憶されており、各部位にマッチングした波長域の組み合わせを用いて分光推定画像が生成される。具体的には、λ1,λ2,λ3の波長セットとしては、例えば400nm,500nm,600nmの標準セットa、血管を描出するための470nm,500nm,670nmの血管B1セットb、同じく血管を描出するための475nm,510nm,685nmの血管B2セットc、特定組織を描出するための440nm,480nm,520nmの組織E1セットd、同じく特定組織を描出するための480nm,510nm,580nmの組織E2セットb、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの差を描出するための400nm,430nm,475nmのヘモグロビンセットf、血液とカロテンとの差を描出するための415nm,450nm,500nmの血液‐カロテンセットg、血液と細胞質の差を描出するための420nm,550nm,600nmの血液‐細胞質セットhの8つの波長域の組み合わせ等が挙げられる。
【0062】
また、上記第1の実施形態の内視鏡システムにおいては、被観察体に投与される薬剤ICGの吸収波長が780nm以上805nm以下の範囲であることから、輝度情報取得用分光推定画像信号として、波長が805nmの分光推定画像信号を取得するようにしたが、本実施形態において照明光光源として使用されるキセノンランプから発せられる白色光は、ICGに対する励起光の波長である700nmの波長を含み、この励起光の波長に対して、ICGは830nm付近をピークとする蛍光を発することから、輝度情報取得用分光推定画像信号として、波長が830nmの分光推定画像信号を取得するようにしてもよい。
【0063】
また、照明光光源として、励起光の波長帯域を含まない光源を利用する場合には、励起光源を別に設けるようにすればよい。
【0064】
次に、本発明の画像取得装置の第2の実施形態を用いた内視鏡システムについて詳細に説明する。図5は、本発明の第2の実施形態を用いた内視鏡システム5の概略構成を示すものである。第2の実施形態を用いた内視鏡システム5は、第1の実施形態を用いた内視鏡システムにおいて、さらに経時観察用撮影モードにおけるスコープユニット20の先端の揺れや被観察体の動作を考慮するようにしたものである。すなわち、経時観察用撮影モードにおいては、被観察体を所定の時間間隔で撮像し、その経時変化を観察するので、その撮影の間にスコープユニット20の先端が揺れてしまったり、生体である被観察体が動いてしまったりして撮像素子の被観察体上における撮像範囲が移動してしまう可能性がある。そして、被観察体に薬剤を投与する前と投与した後とで撮像範囲が変わってしまうと、薬剤投与前に基準輝度情報l値を取得する際に撮像された通常像と、薬剤投与後に輝度情報L値を取得する際に撮像した通常像とが異なることになり、正確な各画素毎の輝度情報の変化率Lpを算出することができず誤表示を招くことになる。そこで、本発明の第2の実施形態を用いた内視鏡システムにおいては、このような誤表示が生じないようにしている。その他の構成は同様であるので第1の実施形態を用いた内視鏡システムを異なる構成のみを説明する。
【0065】
内視鏡システム5は、図5に示すように、分光画像生成部32において生成された所定波長の分光推定画像信号に基づいて、スコープユニット20の撮像範囲の移動量を算出する移動情報取得部38を備え、輝度情報取得部34が、移動情報取得部38において算出された移動量に基づいて、基準輝度情報l値の位置情報(x,y)を補正する補正部を備えるようにしたものである。
【0066】
次に、本実施形態の内視鏡システムの動作について説明するが、第1の実施形態の内視鏡システムと異なる動作について説明する。
【0067】
第2の実施形態の内視鏡システムにおいては、分光画像生成部32において基準輝度情報l値を取得するための輝度情報取得用分光推定画像信号を生成する際、805nmの波長の輝度情報取得用分光推定画像信号の他に、805nmとは異なる特定波長の分光推定画像信号を移動情報取得用分光推定画像信号として生成する。なお、上記特定波長としては、被観察体に投与される薬剤の吸収波長や蛍光波長とは関係なく、かつ血管情報や移動量を算出するための指標となるような部位が含まれている波長を選択する。薬剤がICGの場合には、たとえば、415nm辺りの波長を選択することができる。このような波長を選択することにより、移動量を算出するための指標部分の分光推定画像が薬剤の投与後においても変化せず、移動量の算出のための基準として使用することができる。また、指標部分としては、血管情報などの組織の形状に限らず、たとえば、生体組織である被観察体を焼灼することによって付加されたマーキングや、墨付けによって付加されたマーキングなども指標部分として利用することができる。
【0068】
そして、第2の実施形態の内視鏡システムでは、分光画像生成部32において、基準輝度情報l*値の取得の際、上述した移動情報取得用分光推定画像信号も取得され、その移動情報取得用分光推定画像信号は、移動情報取得部38に出力される。そして、移動情報取得部38は、入力された移動情報取得用分光推定画像信号に基づいて、移動量を算出する際の基準となる指標部分を複数決定し、その指標部分の位置情報を基準位置情報P0として取得し保存する。
【0069】
そして、薬剤の投与後に輝度情報取得用分光推定画像信号を生成し、L値を取得する際、再び、分光画像生成部32において、移動情報取得用分光推定画像信号が取得され、その移動情報取得用分光推定画像信号は、移動情報取得部38に出力される。そして、移動情報取得部38は、入力された移動情報取得用分光推定画像信号に基づいて、上述した指標部分を複数決定し、その指標部分の位置情報P1を取得する。
【0070】
そして、基準輝度情報l値を取得する際に取得された基準位置情報P0と、L値を取得する際に取得された位置情報P1とに基づいて、基準輝度情報l値を取得する際の撮像範囲とL値を取得する際の撮像範囲との間の移動量を算出する。
【0071】
そして、上記移動量は、移動情報取得部38から輝度情報取得部34に出力され、輝度情報取得部34は、上記移動量に基づいて、予め保存された基準輝度情報l値の各画素の位置情報(x,y)を補正する。なお、補正方法としては、たとえば、移動量に基づいてシフト補正するようにしてもよいし、変形処理を施すようにしてもよい。
【0072】
そして、輝度情報取得部34は、上記のようにして位置情報(x,y)が補正された基準輝度情報l値と、新たに取得したL値とに基づいて各画素毎の輝度情報の変化率Lpを算出する。
【0073】
そして、輝度情報取得部34において取得された各画素毎の変化率Lpは配色設定部35に出力される。
【0074】
その後の動作については、第1の実施形態の内視鏡システムと同様である。
【0075】
なお、上記第1および第2の実施形態の内視鏡システムにおいては、薬剤としてICGを用いるようにしたが、これに限らず、特定波長において吸光特性または蛍光特性を有するものであればよく、たとえば、AMCA(7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid)などがある。
【0076】
また、上記第1および第2の実施形態の内視鏡システムにおいては、輝度情報の変化率に基づいて、通常像を表わす画像信号や分光推定画像信号の各画素の色を設定するようにしたが、これに限らず、たとえば、輝度情報の変化率に基づいて、輝度情報画像信号を生成し、この輝度情報画像信号に基づく輝度情報画像を通常画像や分光推定画像に重ね合わせて表示するようにしてもよい。また、輝度情報画像を通常画像や分光推定画像とは別個に表示するようにしてもよい。
【0077】
また、上記説明では、本発明の画像取得装置の一実施形態を内視鏡システムに適用した例について説明したが、これに限らず、たとえば、腹腔鏡やコルポスコープなどにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の画像取得装置の第1の実施形態を用いた内視鏡システムの概略構成を示すブロック図
【図2】図1に示す内視鏡システムの作用を説明するためのフローチャート
【図3】図1に示す内視鏡システムの作用を説明するためのフローチャート
【図4】図1に示す内視鏡システムにより経時観察用撮影モードでリンパ節を撮影した模式図
【図5】本発明の画像取得装置の第2の実施形態を用いた内視鏡システムの概略構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0079】
1,5 内視鏡システム
2 入力部
3 表示装置
10 照明光ユニット
11 ライトガイド
20 スコープユニット
21 結像光学系
22 撮像素子
23 回路
24 変換部
25 駆動部
26 スコープコントローラ
27 操作部
28 照明窓
30 プロセッサユニット
31 画像取得部
32 分光画像生成部(分光画像処理部)
33 記憶部
34 輝度情報取得部
35 配色設定部
36 表示信号生成部
37 制御部
38 移動情報取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光の被観察体への照射により前記被観察体から反射された反射光を撮像素子により受光して前記被観察体の通常像を撮像し、前記撮像素子から出力された画像信号に分光画像処理を施して所定波長の分光推定画像信号を生成する画像取得方法において、
前記撮像素子から出力された画像信号に基づいて、前記被観察体に投与される薬剤に関する特定波長の分光推定画像信号を輝度情報取得用分光推定画像信号として生成し、
所定の時間間隔を空けて生成された前記輝度情報取得用分光推定画像信号の輝度情報をそれぞれ取得し、該輝度情報の変化率を取得することを特徴とする画像取得方法。
【請求項2】
照明光を被観察体に照射する照明光照射部と、前記照明光の照射により前記被観察体から反射された反射光を受光して前記被観察体の通常像を撮像する撮像素子と、該撮像素子から出力された画像信号に分光画像処理を施して所定波長の分光推定画像信号を生成する分光画像処理部とを備えた画像取得装置において、
前記分光画像処理部が、前記撮像素子から出力された画像信号に基づいて、前記被観察体に投与される薬剤に関する特定波長の分光推定画像信号を輝度情報取得用分光推定画像信号として生成するものであり、
所定の時間間隔を空けて生成された前記輝度情報取得用分光推定画像信号の輝度情報をそれぞれ取得し、該輝度情報の変化率を取得する輝度情報取得部を備えたことを特徴とする画像取得装置。
【請求項3】
前記輝度情報取得部により取得された輝度情報の変化率に基づいて、前記撮像素子から出力された前記通常像に基づく画像信号または前記分光画像処理部で生成された分光推定画像信号の各画素に対して色を設定する配色設定部と、
該配色設定部より色を設定された前記画像信号に基づく通常画像または前記配色設定部により色を設定された前記分光推定画像信号に基づく分光推定画像を表示する表示部とを備えたことを特徴とする請求項2記載の内視鏡装置。
【請求項4】
前記撮像素子が、体腔内に挿入されるスコープ部に設置されるものであり、
前記分光画像処理部が、前記撮像素子から出力された画像信号に基づいて、前記被観察体に投与される薬剤に関する特定波長とは異なる特定波長の分光推定画像信号を移動情報取得用分光推定画像信号として生成するものであり、
所定の時間間隔を空けて生成された各前記移動情報取得用分光推定画像信号の相違に基づいて、前記撮像素子の前記被観察体上における撮像範囲の移動情報を取得する移動情報取得部と、
該移動情報手段部により取得された移動情報に基づいて、前記輝度情報取得用分光推定画像信号の各画素の輝度情報の位置情報を補正する補正部とを備えたことを特徴とする請求項2または3記載の画像取得装置。
【請求項5】
前記薬剤に関する特定波長が、前記薬剤の吸収波長または蛍光波長であることを特徴とする請求項2から4いずれか1項記載の画像取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−5056(P2010−5056A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166707(P2008−166707)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【復代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
【Fターム(参考)】