説明

画像記録方法

【課題】 色相の異なるインクを用いて記録した画像の光沢性が均一となる画像記録方法を提供すること。
【解決手段】 第一のインク、第二のインク及び第三のインクは、以下の(1)及び(2)の関係を共に満足することを特徴とする画像記録方法。(1)記録媒体に1滴のインクを付与した際に形成される前記インクのドットの膜厚が厚い順に第一のインク>第二のインク>第三のインクである(2)記録媒体にインクを付与し、前記インクが付与された領域に1滴の前記クリアインクを更に付与した際の前記クリアインクの浸透時間が長い順に第一のインク≧第二のインク≧第三のインクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色材として顔料を含有するインク(以下「顔料インク」ともいう)は、染料を含有するインク(以下「染料インク」ともいう)と比較して、画像の堅牢性が高いことが知られている。しかしながら、顔料インクを用いて記録した画像は、染料インクを用いて記録した画像に比べて、光沢性が低い。
【0003】
顔料インクを用いて記録した画像の光沢性を高めるための技術として、特許文献1には、顔料インクを用いて記録した画像に、樹脂エマルションを含有するクリアインクを付与する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−39006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術について本発明者等が検討したところ、十分な光沢性が得られない場合があった。具体的には、ある色相のインクで記録した画像では高い光沢性が得られるものの、別の色相のインクで記録した画像では高い光沢性が得られなかった。そのため、2種以上の色相の異なるインクを用いて記録した画像の光沢性が均一でなかった。
【0006】
従って、本発明は、色相の異なるインクを用いて記録した画像の光沢性が均一となる画像記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第一のインク、第二のインク及び第三のインクをインクジェット方式で記録媒体に付与した後、前記記録媒体にクリアインクを付与する画像記録方法であって、前記第一のインク、第二のインク及び第三のインクはいずれも顔料を含み、且つ、それぞれ異なる色相を有し、前記クリアインクは水溶性樹脂を含み、前記第一のインク、第二のインク及び第三のインクは、以下の(1)及び(2)の関係を共に満足することを特徴とする画像記録方法である。
(1)記録媒体に1滴のインクを付与した際に形成される前記インクのドットの膜厚が厚い順に第一のインク>第二のインク>第三のインクである。
(2)記録媒体にインクを付与し、前記インクが付与された領域に1滴の前記クリアインクを更に付与した際の前記クリアインクの浸透時間が長い順に第一のインク≧第二のインク≧第三のインクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、色相の異なるインクを用いて記録した画像の光沢性が均一となる画像記録方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<画像記録方法>
まず、本発明に至った経緯を説明する。本発明者等が検討を行ったところ、顔料インクを付与した後、前記顔料インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるようにしてクリアインクを付与すると、画像の光沢性が均一とならない(以下、画像の光沢均一性が低下する、ともいう)ことがわかった。
【0010】
本発明者等が更に検討を行ったところ、係る画像の光沢均一性の低下は、付与されたクリアインクの浸透速度が、顔料インクが付与された領域によって異なるために、得られる画像に凹凸が生じるためであることがわかった。具体的には、ある色相の顔料インクを付与した領域におけるクリアインクの浸透速度と、前記ある色相の顔料インクとは異なる色相の顔料インクを付与した領域におけるクリアインクの浸透速度とが異なっている場合があった。
【0011】
本発明者等が更に検討を行ったところ、ある色相の顔料インクと、異なる色相の顔料インクとを隣接して記録媒体に付与することで2次色の画像を記録し、更にその上にクリアインクを付与すると、得られる画像の凹凸がより顕著に生じることがわかった。
【0012】
上記した原因をさらに検討した結果、本発明者等は、記録媒体に顔料インクを1滴付与した際に形成されるインクドットの膜厚と、顔料インクが付与された領域にクリアインクを1滴付与した際のクリアインクの浸透時間とが、得られる画像の凹凸と極めて密接な関係を有していることを見出した。以下、顔料インクドットの膜厚及びクリアインクの浸透時間と、得られる画像の凹凸の関係についてより詳細に説明する。説明を簡略化するため、ある色相の顔料インクを、インクAとし、インクAとは異なる色相の顔料インクをインクBとする。
【0013】
インクAが付与された領域にクリアインクを付与した際のクリアインクの浸透時間が、インクBが付与された領域にクリアインクを付与した際のクリアインクの浸透時間よりも短い場合、クリアインクは浸透時間の長いインクBが付与された領域よりも、浸透時間の短いインクAが付与された領域に優先的に流れ込み、堆積する。そのため、インクAが付与された領域上に形成されるクリアインクの膜厚は、Bが付与された領域上に形成されるクリアインクの膜厚よりも厚い。このとき、インクAを記録媒体に1滴付与した際に形成されるドットの膜厚が、インクBのドットの膜厚よりも厚いと、インクAが付与された領域における画像の膜厚(クリアインクの膜厚とインクの膜厚とを足し合わせた膜厚)は、インクBが付与された領域における画像の膜厚よりも更に厚くなってしまう。その結果、それぞれのインクが付与された領域で、画像の凹凸が顕著なものとなり、光沢性の均一性が損なわれてしまう。
【0014】
本発明者等は上記した検討の結果から、インクを記録媒体に1滴付与した際に形成されるドットの膜厚が、インクA>インクBの順で厚く、且つ、インクが付与された領域にクリアインク1滴を付与した際のクリアインクの浸透時間が、インクA≧インクBの順で長い場合に、光沢性の均一性を良好に保てることを見出した。上記したように、インクAのドットの膜厚の方が、インクBのドットの膜厚よりも厚い。一方、クリアインクの浸透時間が相対的に短い領域では、クリアインクの浸透時間が相対的に長い領域よりも、形成されるクリアインクの膜厚が厚くなる。そのため、インクAが付与された領域上のクリアインクの膜厚は、インクBが付与された領域上のクリアインクの膜厚よりも薄くなる。その結果、インクの膜厚と、係るインクが付与された領域に付与されたクリアインクの膜厚との合計である画像の膜厚がインクA、B間で均一化され、画像の光沢性が均一化される。本発明においては、少なくともそれぞれが異なる色相を有する3種の顔料インクを用いるため、係る3種の顔料インク間で、インクドットの膜厚と、クリアインクの浸透時間とが上記した関係を満たす。即ち、本発明の画像記録方法は、下記(1)及び(2)を共に満足する。
【0015】
(1)記録媒体に1滴のインクを付与した際に形成されるインクのドットの膜厚が厚い順に第一のインク>第二のインク>第三のインクである。
【0016】
(2)記録媒体にインクを付与した後に、係るインクが付与された領域に1滴の前記クリアインクを更に付与した際のクリアインクの浸透時間が長い順に第一のインク≧第二のインク≧第三のインクである。
【0017】
本発明において、第一のインクのドットの膜厚が、第二のインクのドットの膜厚に対して3倍以下であることが好ましい。また、第二のインクのドット膜厚が、第三のインクのドットの膜厚に対して、3倍以下であることが好ましい。
【0018】
上記(2)に示すクリアインクの浸透時間は、5ミリ秒以上であることが好ましく10ミリ秒以上であることがより好ましい。上限値は特に限定されないが、80ミリ秒以下であることが好ましく、40ミリ秒以下であることがより好ましい。第一〜第三のインクを付与した領域に1滴クリアインクを付与した際の浸透時間が、いずれも上記好ましい範囲内であることが特に好ましい。
【0019】
上記第一から第三のインクのうちの少なくとも二種類のインクを、隣接又は重ねて付与することで、二次色を記録することができる。本発明においては、インクジェット方式を用いてインクを記録媒体に付与する。一方、本発明のクリアインクを付与する方法は、顔料インク記録物の表面に付与できる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、ロールコーター方式、バーコーター方式、ブレードコーター方式、グラビアコーター方式などの公知の方法を用いることができる。また、スプレー方式やインクジェット方式などの非接触の方式を用いることもできる。
【0020】
ロールコーター方式、バーコーター方式、ブレードコーター方式、グラビアコーター方式や、スプレー方式でクリアインクを付与する場合には、顔料インクで画像を記録した後にこれらの方法によりクリアインクを付与することが好ましい。
【0021】
インクジェット方式でクリアインクを付与する場合には、顔料インクを記録媒体に付与した後にクリアインクを記録媒体に付与できるよう、顔料インク及びクリアインクを吐出する記録ヘッドの並び順を、顔料インクが先に吐出され、クリアインクが後に吐出されるように構成することが好ましい。また、顔料インクによる画像の記録が終了している単位領域に対してクリアインクの吐出が行われるように制御することもできる。さらに、顔料インク画像を記録した後に排紙し、再度給紙をしてから、顔料インク画像表面にクリアインクを付与してもよい。
【0022】
本発明のインクジェット記録方法においては、上記に挙げたクリアインクの付与方法の中でも、インクジェット方式でクリアインクを記録媒体に付与することが特に好ましい。インクジェット方式でクリアインクを付与すれば、画像の記録からクリアインクの付与までの時間が短く、また、クリアインクを付与する領域を適切にコントロールできる。
【0023】
顔料インクを記録媒体に1滴付与した際に形成されるドットの膜厚は、主にインクに含まれる固形分量に依存する。つまり、インクに含まれる顔料や樹脂の量が多いほど、係るインクのドットの膜厚は厚くなる。一方、インクが付与された領域に付与するクリアインクの浸透時間は、インクが形成する層の細孔の大きさ及び表面エネルギーに依存する。そのため、本発明においては、インク中の固形分量を制御することでドットの膜厚を所望の厚みに制御することができ、インク中の材料種及び量を調整することでインクが形成する細孔の大きさ及び表面エネルギー、即ち、クリアインクの浸透時間を所望の時間に制御することができる。
【0024】
尚、本発明においては、第一から第三のインクとはいずれも色相の異なる、第四のインクや、第五のインクを用いてもよい。これらのインクを用いた場合にも、上記したドットの膜厚が厚いインク程、係るインクが付与された領域に付与するクリアインクの浸透時間が長い、という関係を満たすことが好ましい。以下、本願発明の画像記録方法に好適に用いることのできる材料について、詳細に説明する。
【0025】
[顔料インク]
(色材)
上述したように、本発明においては、互いに色相の異なる3種の顔料インクを少なくとも用いる。本発明において、「互いに色相の異なる3種の顔料インク」とは、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクから選択される3種のインクであることが好ましい。更には、「互いに色相の異なる3種の顔料インク」が、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクであることがより好ましい。
【0026】
これらの顔料インクに用いる顔料としては、特に限定されず、公知の顔料をいずれも好適に用いることができる。具体的には、黒色の顔料としては、Raven1060、Raven1080、Raven1170、Raven1200、Raven1250、Raven1255、Raven1500、Raven2000、Raven3500、Raven5250、Raven5750、Raven7000、Raven5000 ULTRAII、Raven1190 ULTRAII(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Black Pearls L、MOGUL−L、Regal400R、Regal660R、Regal330R、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1300、Monarch 1400(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW200、Color Black 18、Color Black S160、Color Black S170、Special Black 4、Special Black 4A、Special Black 6、Printex35、PrintexU、Printex140U、PrintexV、Printex140V(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、No.2600、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等が挙げられる。カラー顔料としては、C.I.Pigment Yellow―12,13,14,17,20,24,55,74,83,86,93,97,98,109、110,117,120,125,128,137,138,139,147,148,150,151,153,154,155,166,168,180,185,C.I.Piment Orange−16,36,43,51,55,59,61,71,C.I.Pigment Red−9,48,49,52,53,57,97,122,123,149,168,175,176,177,180,192,202,209,215,216,217,220,223,224,226,227,228,238,240,254,255,272,C.I.Pigment Violet−19,23,29,30,37,40,50,C.I.Pigment Blue−15,15:1,15:3,15:4,15:6,22,60,64,C.I.Pigment Green−7,36,C.I.Pigment Brown−23,25,26等が挙げられる。
【0027】
(分散剤)
本発明においては、顔料を水中に分散するために、分散剤を用いることが好ましい。分散剤としては特に限定されないが、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合体であることが好ましい。共重合体は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーいずれであってもよいが、ランダムコポリマーであることが好ましい。共重合体としては、具体的には、スチレン−(メタ)アクリルエステル−(メタ)アクリル酸系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸系樹脂、ビニルナフタレン−(メタ)アクリルエステル−(メタ)アクリル酸系樹脂、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸系樹脂、(メタ)アクリルエステル−(メタ)アクリル酸系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、アルケニルエーテル系樹脂等が挙げられる。分散安定性、製造時のコストの面よりスチレン−アクリル酸系樹脂がより好ましい。なお、本明細書中、(メタ)アクリルと表記されているものは、メタクリル又はアクリルのことを指す。
【0028】
共重合体の酸価は、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは120mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。酸価が100mgKOH/g未満の場合では吐出安定性が低下する場合がある。
【0029】
共重合体の含有量は、インク全質量を基準として1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以上10.0質量%以下である。含有量が20.0質量%よりも多い場合、インクの粘度上昇による吐出安定性の低下が生じる場合がある。
【0030】
(水性媒体)
本発明のインクは水性媒体を含むことが好ましい。水性媒体として水のみを用いてもよいが、水及び水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレンまたはオキシプロピレン重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、2−ヘキサンジオール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;1、2、6−ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール類;エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル、ブチル)エーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(またはエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、エチレン尿素、ビスヒドロキシエチルスルフォン、ジグリセリン、トリグリセリン等が挙げられる。上記した水溶性有機溶剤の中でも、エチレングリコール、1、2−ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、エチレン尿素、トリメチロールプロパンが好ましい。水溶性有機溶剤含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して3質量%以上60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上で50質量%以下である。また、水の含有量は、インク全質量に対して、質量基準で、好ましくは50%以上95%以下の範囲であることが好ましい。本発明で使用するインク中には、上記の成分の他に、更に必要に応じて保湿剤を添加することは勿論、所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加してもよい。
【0031】
[クリアインク]
本発明のクリアインクは無色のインクである。本発明において、無色とは可視光の波長域である400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)が1.0以上2.0以下であることを意味する。これは、可視光の波長域において、吸光度のピークを実質的に有さないか、有していてもピークの強度が極めて小さいことを意味する。本発明のクリアインクは無色とするために色材を含まないことが好ましい。
【0032】
(水溶性樹脂)
本発明のクリアインクは水溶性樹脂を含む。水溶性樹脂としては特に限定されないが、具体的には、スチレン−(メタ)アクリルエステル−(メタ)アクリル酸系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸系樹脂、ビニルナフタレン−(メタ)アクリルエステル−(メタ)アクリル酸系樹脂、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸系樹脂、(メタ)アクリルエステル−(メタ)アクリル酸系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、アルケニルエーテル系樹脂等が挙げられる。分散安定性、製造時のコストの面よりスチレン−アクリル酸系樹脂がより好ましい。
【0033】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは120mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。酸価が100mgKOH/g未満の場合ではクリアインクの吐出安定性が低下する場合がある。
【0034】
水溶性樹脂の含有量は、インク全質量を基準として1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以上10.0質量%以下である。含有量が20.0質量%よりも多い場合、クリアインクの粘度上昇による吐出安定性の低下が生じる場合がある。
【0035】
(水性媒体)
本発明のクリアインクは、水性媒体を含むことが好ましい。水性媒体としては、上記したインクに用いることのできる水性媒体であれば、いずれも好適に用いることができる。また、本発明のクリアインクは、アセチレングリコール系界面活性剤およびポリシロキサン系界面活性剤から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれ等に限定されるものではない。尚、下記文中、部および%は特に断りのない限り質量基準である。
(イエローインクの調製)
超音波発生装置の槽内に機械的攪拌装置を備えた500mLナスフラスコを入れ、この中にビニル樹脂(スチレンアクリル酸ランダムコポリマー(酸価140mg/KOHg))2.5g、テトラヒドロフラン120mLを添加し、超音波をかけながら、よく攪拌した。また別の容器にC.I.Pigment Yellow 74を5g取り、テトラヒドロフラン120mLを添加し、顔料表面が溶媒で十分濡れるまで遊星式攪拌機(クラボウ製)にて混合した。その後、前記の500mlナスフラスコの中に添加し、ビニル樹脂とよく混合した。
【0037】
次にビニル樹脂の中和率が100%になるだけのKOHを含むアルカリ水溶液を滴下注入することで転相させた後に、60分間プレミキシングを行い、ナノマイザNM2−L200AR(吉田機械興業社製)を用いて、2時間分散を行った。この分散液からロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを留去し、濃度調整を行って顔料濃度6%のイエロー顔料分散液を得た。次に、以下に示す組成のインク調合液を、合計100部となるように調製した。
【0038】
イエロー顔料分散液 50部
グリセリン 10部
ジエチレングリコール 5部
アセチレングリコール界面活性剤(商品名:アセチレノールEH、川研ファインケミカル製)
1部
イオン交換水 残部
こうして得られたインク調合液をKOHにて、pHを9.5に調整し、ガラスフィルターAP20(ミリポア製)に通しイエローインクを得た。
【0039】
(シアンインクの調製)
上記イエロー顔料分散液の調製の際に用いたC.I.Pigment Yellow 74を、Pigment Blue−15:3 に代えた以外はイエローインクの調製と同様の操作を行い、シアン顔料分散液及びシアンインクを得た。
【0040】
(マゼンタインク1の調製)
上記イエロー顔料分散液の調製の際に用いたC.I.Pigment Yellow 74を、C.I.Pigment Red−122 に代えた以外はイエローインクの調製と同様の操作を行い、マゼンタ顔料分散液およびマゼンタインク1を得た。
【0041】
(マゼンタインク2の調製)
マゼンタインク1とイオン交換水とを、質量比が1:1となるように混合し、マゼンタインク2を得た。
【0042】
(マゼンタインク3の調製)
マゼンタインク1と、酸価170mg/KOHgのスチレン−アクリル酸ランダムコポリマーとを質量比が98:2となるように混合し、マゼンタインク3を得た。
【0043】
(クリアインクの調製)
下記の成分を、計100部となるように容器に入れ、容器の中で十分に混合攪拌した後、KOHでpHを9.5に調整し、ガラスフィルターAP20(ミリポア製)に通し、クリアインクを作製した。
【0044】
スチレン−アクリル酸ランダムコポリマー(酸価170mg/KOHg) 2.5部
グリセリン 7.5部
アセチレングリコール界面活性剤(商品名:アセチレノールEH、川研ファインケミカル製)
1部
イオン交換水 残部
(インクドットの膜厚の測定)
インクジェットプリンタ(F900、キヤノン社製)を使用し、顔料インクを単一ドットでプレミアム光沢紙(キヤノン株式会社製)上に付与し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて形状を計測することで求めた。使用したAFMは、キーエンス社製ナノスケールハイブリッド顕微鏡VN−8000であり、180μm角の領域を計測することで1滴のインクを付与した際に形成されるドットの膜厚を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
(クリアインクの浸透時間)
上記したイエローインク、シアンインク、マゼンタインク1〜3を用い、1200dpiで100%デューティーにてそれぞれ記録メディア上に付与した後、クリアインク1滴を各インクで記録された画像上に付与した。クリアインクを付与してから浸透するまでの過程を高速度カメラで撮影した。クリアインク1滴が浸透して平滑になるまでの期間を計測することで、インクを付与した領域に1滴のクリアインクを付与した際のクリアインクの浸透時間を算出した。ここで、平滑とは、高速度カメラ撮影画像のメディア表面に対して、液滴の表面が同一画素内(1画素0.875μm)となった状態を示す。尚、「デューティー」とは、デューティー(%)=実印字ドット数/(縦画素数×横画素数)×100の式で算出される値である。式中、「実印字ドット数」は単位領域あたりの実印字ドット数である。また「縦画素数」及び「横画素数」はそれぞれ単位領域あたりの縦画素数及び横画素数である。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
(印字物作成方法)
インクジェット記録装置としてインクジェットプリンタ(iPF5100、キヤノン社製)を使用し、記録時の解像度は副走査方向を1200dpi(ドット/インチ)、主走査方向を2400dpiに設定した。尚、1回の吐出動作で1ノズルから吐出されるインク量は、4.8plである。プレミアム光沢紙(キヤノン社製)に、シアンインク、イエローインク、マゼンタインク1〜3を用いて、混色レッド(マゼンタ+イエロー)及び混色ブルー(マゼンタ+シアン)の120%デューティーを8パスで記録した(各色相のインクを60%デューティーずつ付与した)。インクで画像を記録した後に排紙し、再度給紙をしてから、クリアインクを画像全体に1パスで50%デューティーでオーバーコートした。
【0048】
(光沢均一性の評価)
上記印字物作成方法によって得られた画像の光沢均一性の評価を行った。光沢均一性の評価には、QEA社製のDIAS DOI Image Analysis Systemを用い、計測したSharpnessの値を写像性値とした。Sharpness値は以下の様に定義される。白色LEDを光源とし、光源と計測サンプル間にナイフエッジがあり、サンプルに映るナイフエッジの反射像をCCDカメラ(30万画素:1画素あたり5μm)で撮影する。画素視野は2.4mm角である。この反射像のナイフエッジ部分の輝度分布を一次微分し、その半値幅の逆数をSharpness値と定義する。従って、Sharpness値は大きい程、鮮鋭な反射像が得られている事になり、写像性が高い事を意味する。画像が一定値以上のシャープネスを有していると、記録する色間でシャープネスの数値に違いがあった場合でも、人間の目には光沢性が十分均一化された画像として見える。そのため、本発明においては、クリアインクを付与した後の画像のシャープネスが2.00以上であれば、光沢均一性に優れた画像であるとした。結果を表2に示す。
【0049】
また、光沢均一性について、目視によっても評価を行った。目視評価を行う際の評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。
【0050】
○:クリアインク付与後の画像の光沢が、クリアインク付与前の画像の光沢に比較して均一になった。
【0051】
×:クリアインク付与後の画像の光沢が、クリアインク付与前の画像の光沢に比較して変化しなかった又は低下した。
【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のインク、第二のインク及び第三のインクをインクジェット方式で記録媒体に付与した後、前記記録媒体にクリアインクを付与する画像記録方法であって、
前記第一のインク、第二のインク及び第三のインクはいずれも顔料を含み、且つ、それぞれ異なる色相を有し、
前記クリアインクは水溶性樹脂を含み、
前記第一のインク、第二のインク及び第三のインクは、以下の(1)及び(2)の関係を共に満足することを特徴とする画像記録方法。
(1)記録媒体に1滴のインクを付与した際に形成される前記インクのドットの膜厚が厚い順に第一のインク>第二のインク>第三のインクである
(2)記録媒体にインクを付与し、前記インクが付与された領域に1滴の前記クリアインクを更に付与した際の前記クリアインクの浸透時間が長い順に第一のインク≧第二のインク≧第三のインクである
【請求項2】
前記第一のインク、前記第二のインク及び前記第三のインクのうちの少なくとも二種類のインクを隣接又は重ねて前記記録媒体に付与する請求項1に記載の画像記録方法。

【公開番号】特開2013−14133(P2013−14133A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128129(P2012−128129)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】