説明

異方性粒子およびその製造方法、ならびに異方性粒子を配合した化粧料

【課題】基粉末の粒子表面が疎水性物質によって、局所において緻密に被覆されていることによって、異方性の性能に優れた粒子を提供する。そして該異方性粒子の効率良い製造方法を提供する。
【解決手段】基粉末の粒子表面が疎水性物質によって、局所において緻密に被覆されていることを特徴とする異方性粒子。前記異方性粒子が、非水溶媒相と、基粉末との縮合反応により化学的に結合する疎水性を発現する物質とを混合攪拌し、続いて基粉末が分散した水相を添加し、非水溶媒相と水相の界面にて疎水性を発現する物質が縮合反応を起こし、基粉末と化学的に結合することを備える製造方法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異方性粒子に関し、特に該異方性粒子が有する異方性の性能改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業の急速な発達に伴い、エレクトロニクス・情報分野、生体・医療分野、ファインケミカル分野などに利用される粒子に対し、ナノオーダーでのサイズコントロールや用途に応じた粒子デザインの重要性が高まっている。粒子に多機能を付与するためには、性質の異なる物質の複合化が一般的に用いられ、特に一つの粒子に複数の異なる性質を持つ物質が分かれて存在する、いわゆる異方性粒子は特異的な性質を示すことで注目されている。
【0003】
異方性粒子の利用方法の一つとして、粉末乳化剤が挙げられる。粉末の乳化剤としての利用技術は、すでにLevineらによって行われており、表面処理された微細な疎水性シリカが界面活性剤を含まない分散物を安定化させることが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
また、粒子表面に部分的にアルキルシラン処理を行い、親水性部分と疎水性部分の両方を有する粉末が開発されている(例えば、非特許文献2を参照)。これは、少量の水を添加した粒子径250〜660nmのシリカ粒子を、n−オクタデシルトリメトキシシランを含むトルエン溶液に懸濁させ、遠心分離、乾燥することで、粒子表面全体にオクタデシル基が修飾された半疎水性粒子が得られる技術である。
しかしながら、この疎水性シリカは、シリカ粒子表面全体に渡り、親水性部分および疎水性部分が散在している状態のものである。仮に、粉末粒子の片側表面に親水性、他方の表面に疎水性の性質を付与し、親水部および疎水部を分けることができれば、より界面活性能が向上した粉末乳化剤となることが期待される。
【0005】
さらなる異方性粒子の応用例として、異方性粒子の片側に陽極、他方の片側に陰極の性質を付与し、電子ペーパー化のための回転ビーズが考えられる。すなわち、異方性粒子の片側が白、他方の片側が黒で、かつ粒子両球面の電荷が異なれば、粒子を電場に置いた場合に白黒の配向を制御することができ、書き換え可能な電子ペーパー化が実現される。
また、片側に陽極、他方の片側に陰極の性質を付与した異方性粒子に関し、磁場を印加したときに起こる粘度増加を伴うMR流体として、車のブレーキ、クラッチ、機械の潤滑油などへの応用も可能である。
【0006】
粒子の片側半球表面と、他方の片側半球表面とで異なる性能を持たせた具体例として、表面異方性高分子粒子が知られている(例えば、特許文献1を参照)。これは、基板の(ポリスチレンのプレートなど)の表面に修飾しようとする蛋白質(例えば免疫グロブリンG(ヒトIgG))を均一に吸着させておき、次いで高分子粒子の片側をその蛋白質に接触させて、高分子粒子の片側のみがヒトIgGに修飾され、もう片側が親水性の表面を有する特徴を有する。
しかしながら、上述の表面異方性高分子粒子の合成方法は煩雑であり、収量が比較的低いものであった。また、高分子表面に修飾される物質は半球部分においてまばらに存在するものであった。
したがって従来技術では、粒子片側表面上に修飾したい物質を緻密に被覆することは困難であった。
【特許文献1】特許第3567269号公報
【非特許文献1】Colloids and Surfaces, Vol.38, 325-343 (1989)
【非特許文献2】Journal of American Chemical Society, 2005, 127, 6271-6275
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述の事情に鑑み行われたものであり、その解決すべき第一の課題は粉末粒子表面が、疎水性物質によって、局所において緻密に被覆された異方性粒子を提供することである。第二の課題は前記異方性粒子の、油中水型乳化技術を利用した効率的製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、乳化技術を応用することにより、局所において緻密に被覆された異方性粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の第一の主題は、基粉末の粒子表面が疎水性物質によって、局所において緻密に被覆されていることを特徴とする異方性粒子である。
【0010】
前記異方性粒子において、基粉末が水に均一に分散する粉末であることが好適である。
【0011】
前記異方性粒子において、基粉末が二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、マイカ、セリサイト、タルク、酸化チタン、酸化亜鉛から選ばれる1種または2種以上であることが好適である。
【0012】
前記異方性粒子において、疎水性を発現する物質が縮合反応を起こし、基粉末と化学的に結合することが好適である。
【0013】
前記異方性粒子において、基粉末の平均粒子径が0.01〜100μmであることが好適である。
【0014】
前記異方性粒子を配合した化粧料を提供するものである。
また、前記異方性粒子を配合した乳化組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明の第二の主題は、水と相溶性のない非水溶媒相と、基粉末との縮合反応により化学的に結合する疎水性を発現する物質とを混合攪拌する工程と、
基粉末が分散した水相を添加し、非水溶媒相と水相の界面に基粉末が集合し、基粉末の粒子表面と疎水性を発現する物質が縮合反応を起こし、基粉末がその局所において緻密に被覆される工程とを備える異方性粒子の製造方法である。
【0016】
前記本発明にかかる異方性粒子の製造方法において、水相および非水溶媒相の配合比が10/90〜70/30であることが好適である。
【0017】
前記製造方法において、基粉末の配合割合が、非水溶媒相と水相の合計量に対し、0.1〜20%であることが好適である。
【0018】
前記本発明にかかる異方性粒子の製造方法において、前記基粉末との縮合反応により化学的に結合し疎水性を発現する物質が、下記一般式(1)で表される物質から選ばれる1種または2種以上を含むことが好適である。
【化1】

(式中、Xは、−Cl、−OCH、−OCからなる群より選ばれる1種又は2種以上の加水分解性基、Yは、炭素数3〜20の直鎖炭化水素基、分岐炭化水素基、環状炭化水素基、又はシアノ基、水酸基、カルボキシル基、酸アミド基、イミド基、スルホン基、アミノ基、又はグリセロイル基に置換された置換炭化水素基を表す。)
【0019】
前記本発明にかかる異方性粒子の製造方法において、前記非水溶媒相に含まれる疎水性を発現する物質の配合割合が、非水溶媒相と水相の合計量に対し、0.1〜20%であることが好適である。
【0020】
前記本発明にかかる異方性粒子の製造方法において、前記水相が、疎水性を発現する物質が縮合反応するための触媒を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基粉末表面が疎水性物質によって、局所において緻密に被覆されていることによって、基粉末自身が有する性能と疎水性の両性能が効果的に発揮することが可能な異方性粒子を得ることができる。そして該異方性粒子は、それを配合した乳化物を調製した場合に、界面活性能に優れた粉末乳化剤として機能することが可能である。
また、本発明にかかる異方性粒子の製造方法によれば、前記の異方性粒子を効率良く提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。
基粉末
本発明にかかる異方性粒子を製造する際に用いる基粉末には、水に均一に分散する粉末であれば、特に限定されないが、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機酸化物、タルク、マイカ、セリサイトなどの層状ケイ酸塩などが好適である。
【0023】
疎水性を発現する物質
本発明にかかる異方性粒子を製造する際に用いる疎水性を発現する物質としては、CSiCl3、C13Si(OC253、C17Si(OC253、CSi(OC253などのシランカップリング剤、C817CH2CH2Si(OC253、C817CONH(CH2nSi(OCH33、C817(CH2nNCO(但し、上式中、nは1〜10が好ましい)などのパーフルオロアルキル基含有シランカップリング剤の他、アルミニウム系カップリング剤やチタン系カップリング剤などを使用することもできる。
本発明にかかる異方性粒子は、上記の疎水性を発現する物質の1種または2種以上を用いて被覆されていてもよい。
【0024】
本発明にかかる異方性粒子の構成を模式的に示すと図1のようになる。図1に示されるように、異方性粒子1は、二酸化ケイ素等の基粉末2の片側表面の局所が、nープロピルトリクロロシラン等の疎水性を発現する物質3によって化学的に結合されている。
【0025】
本発明において、疎水性を発現する物質による被覆は、局所的な被覆部分において、緻密になされていることが特徴である。本発明において、「局所において」とは、基粉末表面全体に点在することを意味するものではなく、片側半球表面の一部、または片側半球表面全部もしくは片側半球表面以上において連続した部分を意味する。
【0026】
また、「緻密に」とは、疎水性を発現する物質が均一かつ高密度に被覆していることを意味する。例えば、本発明にかかる異方性粒子の緻密さは、任意の被覆部分面積に対する疎水性物質による炭素の分布面積の割合、すなわち面積占有率によって表すことができる。該面積占有率は以下のような測定方法によって算出される。
測定機器:SEM−EDX(走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析装置)(株式会社日立製作所製)
測定方法:異方性粒子の表面をSEM−EDXで観察し、任意の被覆部分面積、および該被覆部分中の炭素分布面積を画像解析にて測定し、面積占有率を算出した。
本発明においては、前記平均被覆率が40〜80%であることを特徴とする。
【0027】
次に、本発明にかかる異方性粒子の製造方法について説明する。
本発明にかかる異方性粒子の製造方法は、
非水溶媒相と、基粉末との縮合反応により化学的に結合する疎水性を発現する物質とを混合攪拌する工程と、続いて基粉末が分散した水相を添加し、非水溶媒相と水相の界面に基粉末が集合し、基粉末の粒子表面が概疎水性を発現する物質によって縮合反応を起こし、基粉末がその局所において緻密に被覆される工程を備えることを特徴とする。
非水溶媒相は以下に詳述される油分を含み、水相は水、基粉末を被覆する疎水性物質の原料成分、および前記原料成分を疎水性物質へと変換するために用いられる触媒を含む。
以下に、製造過程に用いられる成分について詳細に説明する。
【0028】
非水溶媒相
本発明にかかる異方性粒子を製造する際に用いる非水溶媒相として、常温で液状の油分が好ましく用いられる。具体的には、ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の有機溶剤、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油、流動パラフィン、イソパラフィン、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2−オクチルデシル、ミリスチン酸2−オクチルドデシル、2−エチルヘキサン酸セチル、2−エチルヘキサン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサン酸イソノニル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−ヘキシルデシル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、サリチル酸2−エチルヘキシル等のエステル油、オリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油等の油脂等が挙げられる。
本発明においては、上記油分の1種または2種以上を用いてもよい。
【0029】
また、本発明にかかる異方性粒子を製造する際に用いる非水溶媒層には、疎水性物質の原料成分を含むことを特徴とする。「疎水性物質の原料成分」とは、前述のCSiCl3、C13Si(OC253、C17Si(OC253、CSi(OC253などのシランカップリング剤、C817CH2CH2Si(OC253、C817CONH(CH2nSi(OCH33、C817(CH2nNCO(但し、上式中、nは1〜10が好ましい)などのパーフルオロアルキル基含有シランカップリング剤の他、アルミニウム系カップリング剤やチタン系カップリング剤などから選ばれる1種または2種以上に相当する。
【0030】
水相
本発明にかかる異方性粒子を製造する際に用いる水相には、水および基粉末を含むことを特徴とする。
また、前記水相には、前記疎水性物質の原料成分を疎水性物質へと変換するために用いられる触媒を含むことを特徴とする。
【0031】
前記「触媒」を含み、基粉末を分散させた水相が、非水溶媒相と「疎水性物質の原料成分」を混合攪拌したものに添加されると、そこで、触媒は「疎水性物質の原料成分」が疎水性物質に変換されるための反応を促す働きをすることになる。触媒についての詳細は後述する。
本発明にかかる異方性粒子の製造方法において、前記水相および油分の配合比(W/O比)は10/90〜70/30であることが好適である。油中水型の粉末乳化基剤を調製するにあたり、このような配合比が好ましい。W/O比が10/90より小さいと、乳化に要する粉末量が少なく製造効率が著しく低下する。一方、W/O比が70/30より大きいと、安定な油中水型の乳化基剤の調製が困難となる。
【0032】
触媒
前記水相に含まれる触媒は、疎水性を発現する原料成分が疎水性物質に変換させることのできる物質であれば、特に限定されないが、用いる原料成分に応じて適宜選択されて配合される。具体的には、n−プロピルトリクロロシランを用いた場合にはアンモニア水やピリジンなどが挙げられる。
更に、100℃程度に加熱することで疎水性を発現する原料成分の疎水性物質への変換を促進させる場合もある。
また、触媒の配合量は、「疎水性を発現する原料成分」が疎水性物質に変換するために必要な量として適宜決定される。
【0033】
本発明にかかる異方性粒子の製造方法において、基粉末の配合量は、油分と水相の合計量に対し、0.1〜20%であることが好適である。0.1%未満であると、異方性粒子の製造のために十分な量ではなく、また20%を超えると非水溶媒相への分散性が悪くなり好ましくない。
また、疎水性物質の原料成分の配合量は、油分と水相の合計量に対し、0.1〜20%であることが好適である。0.1%未満であると、基粉末の表面を被覆するために十分な量ではなく、また20%を超えて配合しても、増量による効果の向上は認められない。
【0034】
原理
非水溶媒相と疎水性物質の原料成分を攪拌しながら、触媒を含み、かつ基粉末を分散させた水相を添加すると、非水溶媒相と水相は混合せず、非水溶媒相と水相の界面を形成することとなる。この非水溶媒相と水相の界面に基粉末が並び、触媒が疎水性物質の原料成分と共存することによって、疎水性物質が非水溶媒相と水相の界面にて基粉末と縮合反応により化学的に結合される。触媒を含む水相を、非水溶媒相と疎水性物質の原料成分とを調製した後に添加することによって、基粉末粒子の非水溶媒相側の片側表面の一部、または全部、もしくは片側表面以上に疎水性物質が集合することなり、本発明にかかる異方性粒子の特徴ある緻密な被覆状態が得られる。
上記製造方法過程で調製される非水溶媒相と水相の界面に並ぶ基粉末の構成を図2に示す。図中、非水溶媒相6は前記油分、基粉末を被覆する疎水性物質の原料成分を含み、水相5は水、前記原料成分を疎水性物質へと変換するために用いられる触媒を含む。
【0035】
また、基粉末粒子の非水溶媒相側の片側表面は、疎水性物質が存在する非水溶媒相に十分に接触するため、被覆されることになる。さらに、非水溶媒相と水相の界面に並ぶ基粉末粒子の全てが、効率良く疎水性物質によって被覆されることになる。そして、この時点で本発明にかかる異方性粒子が形成される。
非水溶媒相側に面した基粉末粒子の片側表面が疎水性物質と十分に反応した後に、遠心分離機などにより基粉末のみを回収し、乾燥を行うことにより、本発明にかかる異方性粒子が単離される。
本発明にかかる異方性粒子の製造において採用される攪拌方式は、通常乳化組成物を調製するのに用いられる方式を使用することができる。具体的には、スターラー、プロペラミキサー、ディスパー、ホモミキサー、ホモジナイザー等が挙げられる。
【0036】
本発明にかかる異方性粒子は乳化基剤として使用することが可能である。このような使用により調製される乳化組成物としては、油中水型、水中油型、油中多価アルコール型などの乳化物、マルチプルエマルションなどが挙げられる。
本発明にかかる化粧料は、前記異方性粒子を含むことによって、乳化状態に優れたものとなる。また、前記異方性粒子の疎水性物質の特異な被覆状態によって、油分の種類に関わらず、幅広い化粧料に対して適用可能である。
【0037】
本発明にかかる化粧料において含まれる、前記異方性粒子の含有量は本発明の効果が得られる範囲であれば別段限定されず、適宜調整して用いることができるが、一般的には0.1〜20質量%である。0.1質量%未満であると、本発明の効果が発揮されない場合があり、20質量%を超えると、製剤処方上好ましくない場合がある。
本発明にかかる化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常の化粧料に用いられる成分、例えば、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することが可能である。
【0038】
本発明にかかる化粧料は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、頬紅、アイシャドー、白粉、口紅、浴用剤、あぶら取り紙、紙おしろい、ボディパウダー、ベビーパウダー、パウダースプレー等、従来の化粧料に用いるものであればいずれの形で適用することができ、剤型は特に問わない。
【0039】
以下、具体的に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、本発明において異方性粒子の平均粒子径の測定は以下のように実施した。
走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、無作為に抽出した粒子100個の粒子径の平均値を平均粒子径とした。
【0040】
最初に、本発明にかかる異方性粒子の製造例を以下に示す。
製造例1
トルエン40gにn−プロピルトリクロロシラン20μLを添加し、スターラーを用いて1分間攪拌することで十分に分散させ非水溶媒相とした。
別容器に基粉末として、平均粒子径5〜7μmである板状の合成金フッ素金雲母(商品名 マイカPDM−5L トピー工業株式会社製)1gを、0.1mol/Lのアンモニア水溶液10gに超音波を用いて十分に分散させ水相とした。
続いて、非水溶媒相をスターラーで攪拌しながら水相を徐添した後、15時間強攪拌し、濾過することで粉末を採取し、イオン交換水で洗浄した後、120℃で12時間加熱乾燥することで、界面活性能を有する粉末が単離される。
【0041】
製造例2
トルエン40gにn−プロピルトリクロロシラン20μLを添加し、スターラーを用いて1分間攪拌することで十分に分散させ非水溶媒相とした。
別容器に基粉末として、平均粒子径4〜6μmである球状の無水ケイ酸(商品名 球状シリカP−1500 触媒化成工業株式会社製)1gを、イオン交換水10gに超音波を用いて十分に分散させ水相とした。
続いて、非水溶媒相をスターラーで攪拌しながら水相を徐添した後、15時間強攪拌し、濾過することで粉末を採取し、イオン交換水で洗浄した後、120℃で12時間加熱乾燥することで、界面活性能を有する粉末が単離される。
【0042】
図3に製造例2で得られた、無水ケイ酸がn−プロピルトリクロロシランによって被覆された異方性粒子の実像を撮影した顕微鏡写真を示す。また、図4に製造例2で得られた異方性粒子のケイ素分布像を撮影した顕微鏡写真を示す。該ケイ素は親水性を有する基粉末である無水ケイ酸に由来しているため、図3と図4を比較することにより、本発明にかかる異方性粒子は基粉末を基として形成されていることが確認された。
一方、図5に製造例2で得られた、無水ケイ酸がn−プロピルトリクロロシランによって被覆された異方性粒子の炭素分布像を撮影した顕微鏡写真を示す。該炭素は基粉末である無水ケイ酸には由来しておらず、疎水性発現物質であるn−プロピルトリクロロシランに由来しているものである。したがって、図5と、図3及び図4を比較することにより、疎水性物質が基粉末の粒子の局所において存在していることが確認された。
【0043】
また、製造例2で得られた異方性粒子を撮影したSEM−EDX電子顕微鏡写真像から、画像解析を用いて、任意の被覆部分面積、および該被覆部分中の炭素分布面積を複数箇所において測定し、面積占有率を算出した(測定1〜6)。炭素分布面積の占有率結果を表1に示す。

【0044】
上記表1の結果により、本発明によって得られた異方性粒子は、疎水性物質が基粉末粒子の片側表面上に緻密に存在していることが確認され、その面積占有率は40〜80%であることが明らかとなった。
【0045】
比較例1
トルエン40gにn−プロピルトリクロロシラン20μLを添加し、スターラーを用いて1分間攪拌することで十分に分散させ非水溶媒相とした。
続いて基粉末として、平均粒子径4〜6μmである球状の無水ケイ酸(商品名 球状シリカP−1500 触媒化成工業株式会社製)1gを非水溶媒相に添加した後、ピリジン20μLを添加して、加熱還流下15時間強攪拌し、濾過することで粉末を採取し、イオン交換水で洗浄した後、120℃で12時間加熱乾燥することで、粉末を単離した。
【0046】
次に、前記製造例1,2で得られた異方性粒子を用いて、粉末乳化剤としての界面活性能を確認する試験を実施した。試験方法および評価方法は以下のとおりである。
試験方法
下記表2に示す組成で、油分に水を添加した後被験粉末を添加し、ディスパーで1分間分散させることで油中水型(W/O)乳化物を得た。
なお、下記表1に記載した数値は全て重量部である。
【0047】
評価方法・評価基準
前記試験方法によって得られた各乳化物の乳化状態を目視にて判定した。
○:粒子径の分布が狭く、球状の乳化粒子が乳化層を形成している。
△:乳化層を形成するが、経時で乳化粒子の合一が見られる。
×:乳化層がほとんど形成されていない。
【0048】
【表2】

※1:商品名 マイカPDM−5L トピー工業株式会社製
【0049】
上記表2より明らかなように、本発明の異方性粒子はジメチルポリシロキサンを用いて乳化を試みたところ、非常に乳化粒子径が揃った安定性に優れた乳化物が得られた(試験例1,2)。これは、疎水性を示すn−プロピルトリクロロシラン部分と、比較的親水性の高い合成金フッ素金雲母部分又は無水ケイ酸部分が、粒子上において分かれて存在するため、n−プロピルトリクロロシラン部分は油分側に、合成金フッ素金雲母部分又は無水ケイ酸部分は水分側に優先的に配向し、各種油分を用いた場合にW/O乳化物を形成することができたと判断される。
一方、比較例1の粉末はディスパー分散後一時的に乳化層を形成するものの、暫く経つと乳化粒子の合一が進行し、終には非水溶媒相と水相に分離した(試験例3)。また、試験例4については粉末が完全に水相に分散してしまい、乳化状態を成し得なかった。
【実施例1】
【0050】
さらに、本発明にかかる異方性粒子を配合した組成物の実施例を以下に示す。
W/Oクリーム
(1)シクロメチコン 28.4 質量%
(2)流動パラフィン 5.0
(3)ベントン 10.0
(4)製造例1で得られた異方性粒子 3.5
(5)プロピルパラベン 0.1
(6)グリセリン 3.0
(7)メチルパラベン 0.2
(8)精製水 残余
(製法)
25℃の温度で撹拌しながら、成分(1)、(2)、(5)の油性成分に(4)製造例1の異方性粒子を分散させ、そこへ成分(6)から(8)の水性成分の混合物を注ぎ、次いで(3)を加えて目的のW/Oクリームを得た。
【実施例2】
【0051】
O/Wサンスクリーン
油相
(1)スクワラン 4.0 質量%
(2)オクチルメトキシシンナメート 8.0
(3)シクロペンタジメチルシロキサン 5.0
(4)香料 0.1
水相1
(5)1,3−ブチレングリコール 5.0
(6)エタノール 2.0
(7)製造例2で得られた異方性粒子 3.0
(8)精製水 適量
水相2
(9)サクシノグリカン 0.2
(10)グリセリン 3.0
(11)L−アルギニンL−アスパラギン酸塩 0.01
(12)エデト酸塩 0.05
(13)メチルパラベン 適量
(14)精製水 残余
(製法)
水相1を70℃に加熱後、ミキサーもしくは超音波で分散した後、均一に溶解した水相2を添加する。さらに70℃に加熱した油相を加えて、乳化機で乳化する。これを冷却して目的のO/Wサンスクリーンを得た。
【実施例3】
【0052】
両用ファンデーション
粉末部
(1)シリコーン処理タルク 16.2 質量%
(2)シリコーン処理マイカ 40.0
(3)シリコーン処理二酸化チタン 15.0
(4)シリコーン処理超微粒子二酸化チタン 5.0
(5)シリコーン処理ベンガラ 1.0
(6)シリコーン処理黄酸化鉄 3.0
(7)シリコーン処理黒酸化鉄 0.2
(8)ステアリン酸亜鉛 0.1
(9)製造例2の異方性粒子 5.0
(10)エチルパラベン 適量
油相
(11)スクワラン 4.0
(12)固形パラフィン 0.5
(13)ジメチルポリシロキサン 4.0
(14)トリイソオクタン酸グリセリン 5.0
(15)オクチルメトキシシンナメート 1.0
(16)酸化防止剤(ビタミンE) 適量
(17)香料 適量
(製法)
(1)〜(7)を粉砕機で粉砕混合し、これに残りの粉末部を添加してよく混合する。前記粉末部に油相成分(11)〜(17)を均一になじませた後、粉砕機で粉砕混合した。さらに篩を通して中皿に圧縮成型し、目的の両用ファンデーションを得た。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明にかかる異方性粒子の概略構成を示した図である。
【図2】本発明にかかる異方性粒子の製造過程における、油中水型粉末乳化基剤の概略構成を示した図である。
【図3】本発明にかかる異方性粒子(製造例2)のSEM−EDX電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明にかかる異方性粒子(製造例2)のケイ素分布を撮影したSEM−EDX電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明にかかる異方性粒子(製造例2)の炭素分布を撮影したSEM−EDX電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0054】
1.異方性粒子
2.基粉末
3.非水溶媒相にて合成された疎水性物質
4.非水溶媒相と水相の界面に集合した基粉末
5.水相
6.非水溶媒相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基粉末の粒子表面が疎水性物質によって、局所において緻密に被覆されていることを特徴とする異方性粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の異方性粒子において、基粉末が水に均一に分散する粉末であることを特徴とする異方性粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異方性粒子において、基粉末が二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、マイカ、セリサイト、タルク、酸化チタン、酸化亜鉛から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする異方性粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の異方性粒子において、疎水性を発現する物質が縮合反応を起こし、基粉末と化学的に結合することを特徴とする異方性粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の異方性粒子において、基粉末の平均粒子径が0.01〜100μmであることを特徴とする異方性粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の異方性粒子を配合した化粧料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の異方性粒子を配合した乳化組成物。
【請求項8】
水と相溶性のない非水溶媒相と、基粉末との縮合反応により化学的に結合する疎水性を発現する物質とを混合攪拌する工程と、
基粉末が分散した水相を添加し、非水溶媒相と水相の界面に基粉末が集合し、基粉末の粒子表面と疎水性を発現する物質が縮合反応を起こし、基粉末がその局所において緻密に被覆される工程とを備える異方性粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の異方性粒子の製造方法において、水相および非水溶媒相の配合比が10/90〜70/30であることを特徴とする異方性粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の異方性粒子の製造方法において、基粉末の配合割合が、非水溶媒相と水相の合計量に対し、0.1〜20%であることを特徴とする異方性粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の異方性粒子の製造方法において、前記基粉末との縮合反応により化学的に結合し疎水性を発現する物質が、下記一般式(1)で表される物質から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする異方性粒子の製造方法。
【化1】

(式中、Xは、−Cl、−OCH、−OCからなる群より選ばれる1種又は2種以上の加水分解性基、Yは、炭素数3〜20の直鎖炭化水素基、分岐炭化水素基、環状炭化水素基、又はシアノ基、水酸基、カルボキシル基、酸アミド基、イミド基、スルホン基、アミノ基、又はグリセロイル基に置換された置換炭化水素基を表す。)
【請求項12】
請求項11に記載の異方性粒子の製造方法において、前記非水溶媒相に含まれる疎水性を発現する物質の配合割合が、非水溶媒相と水相の合計量に対し、0.1〜20%であることを特徴とする異方性粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の異方性粒子の製造方法において、前記水相が、疎水性を発現する物質が縮合反応するための触媒を含むことを特徴とする異方性粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−91289(P2009−91289A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262571(P2007−262571)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】