異種材料の接合方法、接合装置及び接合構造
【課題】接合界面に緻密な酸化皮膜が介在していたとしても、大きな入熱を投与することなく、比較的容易に接合部から除去することができ、接合強度の向上が可能な異種材料の接合方法と、このような異材接合に好適に使用することができる異種材料の接合装置、さらにはこのような方法による異種材料の接合構造を提供する。
【解決手段】互いに異なる融点を有する高融点材料1と低融点材料2を重ね合わせて接合するに際して、これら両材料の間にこれら材料とは異なる第3の材料を介在させた状態で、高エネルギービームBを高融点材料表面に照射しつつ、両材料を相対加圧し、上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて両材料を線状に接合する。
【解決手段】互いに異なる融点を有する高融点材料1と低融点材料2を重ね合わせて接合するに際して、これら両材料の間にこれら材料とは異なる第3の材料を介在させた状態で、高エネルギービームBを高融点材料表面に照射しつつ、両材料を相対加圧し、上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて両材料を線状に接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料、例えばスチール材とアルミニウム合金材のように、互いに異なる融点を有する異種材料同士の接合技術に係わり、電子ビームやレーザビームのような高エネルギービームを高融点材料と低融点材料の高融点側の材料表面に照射しつつ、移動させることによって、両材料を線状に接合するようにした異種材料の接合方法と、このような接合に用いる接合装置、さらにはこのような方法により接合された異種材料の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、異種材料を接合しようとする場合、同種材同士の溶接の場合と同様に両方の被接合材料を溶融させてしまうと、脆弱な金属間化合物が生成し、十分な継手強度を得られない。
例えば、異種金属であるアルミニウム合金と鋼を接合する場合には、硬度が高くて脆弱なFe2Al5、FeAl3などの金属間化合物が生成することから、継手強度を確保するためには、これら金属間化合物の制御が必要となる。
【0003】
ところが、アルミニウム合金の表面には、緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、それを除去するためには接合時に大きな投与熱量が必要となり、その結果、金属間化合物層が厚く成長し、接合部の強度が低くなってしまうという問題がある。
【0004】
このように、異材同士の接合に際しては、金属間化合物の成長を精密にコントロールしながら接合する必要があるため、加熱のための外部熱源として、精密な温度制御が可能な、電子ビームやレーザビームなどのような高エネルギービームを用いた方法が試みられている。
高エネルギービームを用いた異種材料の重ね接合においては、脆い金属間化合物の生成を抑制するために、高融点材料の側にデフォーカスさせた高エネルギービームを照射し、高融点材料側からの伝熱により低融点材料を溶融させて接合する方法がとられていた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
このような場合、溶接条件をコントロールし、接合界面において、片側の材料(低融点材料)のみを溶融させ、材料の拡散を利用して接合することによって金属間化合物層の成長を抑制し、その厚さを薄くすることによって、両方の材料を溶融させて接合した場合よりも、接合部の単位面積当りの強度を高くすることができると考えられていた。
【非特許文献1】「溶接学会全国大会講演概要」、社団法人日本溶接学会、2003年4月、第72集、p.152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接合界面の金属間化合物の生成を制御して、良好な接合強度を得るには、接合条件を極めて精密にコントロールしなければならず、しかもその適正接合条件範囲が極めて狭いことから、上記したように、条件制御が比較的容易な高エネルギービームを熱源として用いたとしても、工業的に実用化することが極めて困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明は、高エネルギービームを用いた異種材料の接合における上記課題に鑑みてなされたものであって、接合界面に緻密な酸化皮膜が介在していたとしても、さほど大きな入熱を投与することなく、比較的容易に接合部から除去することができ、接合強度の向上が可能な異種材料の接合方法と、このような異材接合に好適に使用することができる異種材料の接合装置、さらにはこのような方法による異種材料の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする異種材料の間に、これら材料の少なくとも一方との間に共晶反応を生じる第3の材料を介在させ、接合に際して共晶溶融を生じさせることによって、上記目的が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の異種材料の接合方法においては、互いに異なる融点を有する高融点材料と低融点材料を重ね合わせて接合するに際して、これら両材料の間にこれら材料とは異なる第3の材料を介在させた状態で、高エネルギービームを高融点材料表面に照射しつつ、両材料を相対加圧し、上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて両材料を線状に接合することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の異種材料の接合装置は、被接合材料に対して相対移動可能に配設され、相対移動しながら上記被接合材料の接合部に高エネルギービームを照射する照射ヘッドと、この照射ヘッドによる高エネルギービームの照射点の進行方向後方側に配設され、高エネルギービーム照射後の接合部を加圧する加圧ローラを備えたことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の異種材料の接合構造は、上記接合方法によって得られるものであって、両材料の新生面同士が直接、あるいは両材料の少なくとも一方と第3の材料との反応層を介して線状に接合されていると共に、この接合部の両側に、第3の材料、被接合材料に由来する成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種から成る排出物が排出されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、互いに異なる異種材料同士を線状に接合するに際して、両材料の間にこれら材料の少なくとも一方と共晶反応を生じる第3の材料を介在させ、高エネルギビームを高融点材料表面に照射しながら、両材料を相対加圧し、この第3の材料と少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じさせて接合するようにしていることから、母材の融点よりも低い低温状態において酸化皮膜を除去することができるようになり、金属間化合物の生成を抑制して被接合材の新生面同士の強固な接合状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の異種材料の接合方法について、主にアルミニウム合金板材と亜鉛めっき鋼板の接合を例に挙げて、さらに具体的かつ詳細に説明する。
【0014】
図1は、Al−Zn系2元状態図を示すものであって、図に示すようにAl−Zn系における共晶点(T1)は、655Kであり、Alの融点933Kよりもはるかに低い温度で共晶反応が生じる。
したがって、図に示した共晶点を利用してAlとZnの共晶溶融を作り出し、アルミニウム材の接合時における酸化皮膜除去や相互拡散などの接合作用に利用することによって、低温接合が実施できるため、接合界面における金属間化合物の成長を極めて有効に抑制することができる。
【0015】
ここで、共晶溶融について説明する。共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融を意味し、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えばアルミニウムと亜鉛の場合、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであるのに対して、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0016】
一方、アルミニウム材の表面には酸化皮膜が存在するが、これは高エネルギービームの照射による加熱と、その直後の所定温度での加圧によってアルミニウム材に塑性変形が生じることにより物理的に破壊されることになる。
すなわち、加圧によって材料表面の微視的な凸部同士が擦れ合うことから、一部の酸化皮膜の局所的な破壊によってアルミニウムと亜鉛が接触した部分から共晶溶融が生じ、この液相の生成によって近傍の酸化皮膜が破砕、分解されてさらに共晶溶融が全面に拡がる反応の拡大によって、酸化皮膜破壊の促進と液相を介した接合が達成される。
【0017】
共晶組成は相互拡散によって自発的達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件は2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0018】
図2(a)〜(e)は、本発明による異種材料の接合プロセスとして、亜鉛めっき鋼板(高融点材料)とアルミニウム合金板材(低融点材料)との接合例を示す概略図である。
まず、図2(a)に示すように、少なくとも接合界面側の表面に、Alと共晶を形成する第3の金属材料として機能する亜鉛めっき層1pが施された亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金材2を用意し、図2(b)に示すように、これら亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2を亜鉛めっき層1pが内側になるように重ねる。なお、アルミニウム合金材2の表面には酸化皮膜2cが生成している。
【0019】
次に、高エネルギービームを亜鉛めっき鋼板1に照射し、接合界面が所定の温度範囲となったところで、加圧し、接合面を相対的に押圧すると、押圧による塑性変形や熱的衝撃などによって、図2(c)に示すように材料表面の微視的な接触部において、局部的に酸化皮膜2cが破壊される。
【0020】
これによって、亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が生じ、そのときの温度状態に応じて、図2(d)に示すように、亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じ、共晶溶融金属3と共に酸化皮膜2cや接合界面の不純物などから成る排出物が接合部の外側(矢印方向)に排出されることにより、所定の接合面積が確保され、その結果、図2(e)に示すように、アルミニウム合金材と鋼材の新生面同士が極めて薄い反応層4によって直接接合され、鋼板1とアルミニウム合金材2の強固な金属接合が得られることなる。なお、反応層4と鋼材1の間には材料や接合条件によって鋼への亜鉛の薄い拡散層が生じる場合もあるが、接合強度への影響は少なく、実質的な問題はない。
【0021】
本発明の異種材料の接合方法における被接合材の具体的な組み合せとしては、例えば鋼材とアルミニウム合金材の組み合せを挙げることができ、このとき両材料の間に介在させる第3の材料としては、アルミニウム合金と低融点共晶を形成する材料でありさえすれば特に限定されることはなく、例えば、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
すなわち、これら金属とAlとの共晶金属は、母材であるアルミニウム合金材の融点以下で溶融するため、脆弱な金属間化合物が生成し易い鋼材とアルミニウム合金材の接合においても、低温で酸化皮膜の除去ができ、接合過程での接合界面における金属間化合物の生成が抑制でき、強固な接合が可能になる。
【0022】
また、本発明の接合方法を自動車ボディの組み立てに適用することを考えた場合、被接合材料は鋼材とアルミニウムとの組み合せがほとんどであるが、将来的には鋼材とマグネシウム、あるいはアルミニウムとマグネシウムとの組み合せなども考えられる。
鋼材とマグネシウムとの接合に際しては、後述する実施例と同様に鋼材側にめっきした亜鉛とマグネシウムの間に共晶反応を生じさせて接合することが可能である。さらに、アルミニウムとマグネシウムを接合する場合においても、亜鉛や銀を第3の材料として利用することが可能である。
【0023】
なお、本発明においては、第3の材料として、上記したような純金属に限定される必要はなく、共晶金属は2元合金も3元合金も存在するため、これらの少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0024】
本発明の異種材料の接合方法においては、上記したように接合しようとする異種材料間に、これら材料と共晶反応を生じる第3の材料を介在させ、接合に際して共晶溶融を生じさせるようにするものであるが、第3の材料を被接合材の間に介在させるための具体的手段としては、接合しようとする両材料の少なくとも一方の材料に第3の材料をめっきすることが望ましく、これによって第3の材料をインサート材として材料間に挟み込む工程を省略することができ、作業効率が向上するばかりでなく、共晶反応によって溶融されためっき層が表面の不純物と共に接合部の周囲に排出された後に、めっき層の下から極めて清浄な新生面が現れることになり、より強固な接合が可能となる。
【0025】
そして、例えば、上記したアルミニウム合金材やマグネシウム合金材と鋼材との異材接合に際しては、鋼材として、アルミニウムやマグネシウムと低融点共晶を形成する第3の金属である亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができる。この場合には、新たにめっきを施したり、特別な準備を要したりすることもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種材料の強固な接合が可能になる。
【0026】
また、本発明の異種材料の接合方法は、被接合材料の接合部を所定の接合線に沿って線状に接合するものであるが、ここで言う「線状」とは、必ずしも連続した線のみを意味するものではなく、必要に応じて断続した線状(破線状)に接合することも可能である。
【0027】
そして、このような線状に接合するためには、電子ビームやレーザビームなどのような高エネルギービームを被接合材料の高融点材料の側に移動させながら、連続的あるいは断続的に照射すると共に、当該高エネルギービームを追随する位置に配設した加圧ローラによって、ビーム照射点の進行方向後方の接合部に相対的な押圧力を連続的あるいは断続的に加えるようにすることが望ましく、これによって高エネルギービームによる精密な温度コントロールに加え、加圧ローラにより接合部が加圧密着し、材料表面の局部的な酸化皮膜の破壊が生じ、これを起点に共晶反応が促進され、低温状態にて酸化皮膜の除去ができ、金属間化合物の生成を抑制しながら、新生面同士が連続的又は断続的な線状の強固な接合を得ることが可能となる。なお、このときの高エネルギービームの移動は、相対的なものであって、ビームの照射ヘッドや加圧ローラを移動させても、被接合材の側を移動させても、場合によっては両方移動させてもよい。
【0028】
このとき、加圧ローラを移動方向に沿って複数個配置することもでき、これによって共晶反応及び反応生成物の排出と、拡散接合のそれぞれの役割を別個の加圧ローラに分担させることができ、高速溶接が可能になって、能率が向上する。
【0029】
図3は、上記した異種材料の接合に用いる装置の一例を示すものであって、図に示す異種材料の接合装置10は、高エネルギービームの1種であるYAGレーザを照射する照射ヘッド11と、この照射ヘッド11にエアシリンダを内蔵したガイド12を介して、上下方向に移動自在に取り付けられた加圧ローラ13を備えており、上記エアシリンダに送給するエア圧力を調整することによって、当該ローラ13が被接合材料1,2に加える押圧力をコントロールすることができる。
【0030】
そして、加圧ローラ13は、上記のように照射ヘッド11に取り付けられていることにより、レーザビームBの移動に伴って移動し、レーザビームBから常に一定距離を隔てた位置で、被接合材料1,2を加圧しながら移動することができ、ワークが平面の場合はもとより、車体のような3次元形状の場合にもレーザ照射位置に追従することができ、当該接合装置10が、被接合材料である、例えば亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2に対して、図中の矢印方向に相対移動することによって、連続的あるいは断続的に線状に接合することができるようになっている。
【0031】
なお、当該装置10においては、図示以外にも各種の制御手段や調整装置を備えており、レーサビームBの照射角度や照射位置、照射位置と加圧位置の距離調整などができるようにしてある。
【0032】
図4は、レーザビームBと加圧ローラ13の構成と、その位置における接合界面の温度分布を示す概略図である。
図において、アルミニウム合金材2に亜鉛めっき鋼板1が、通常発生し得るわずかな隙間をもって重ねられており、高融点材料である亜鉛めっき鋼板1の側に、焦点を材料表面の手前で結んだ、つまりデフォーカスさせたレーザビームBを照射する。
【0033】
すなわち、レーザビームBを接合界面において高融点材料である鋼板1を溶融させない範囲で、しかも接合界面の表面めっき層である亜鉛が蒸発しない範囲、つまり亜鉛の沸点T2以下の温度となるような条件で照射する。その後、加圧ローラ13により所定の加圧力を加え、アルミニウム合金材2と亜鉛めっき鋼板1を塑性変形させながら相対的に密着させる。
このとき、高温の亜鉛めっき鋼板1からの伝熱でアルミニウム合金材2の接合界面温度が上昇し、アルミニウムと亜鉛の共晶温度T1以上の温度となるように、レーザビームBと加圧ローラ13の移動速度を制御して溶接を行う。
【0034】
図5は、加圧ローラを複数(図では2個)設けた形態について説明する。
アルミニウム合金材2と亜鉛めっき鋼板1は、同様に通常発生し得るわずかな隙間をもって重ねられており、高融点材料である亜鉛めっき鋼板1にレーザビームBをデフォーカスさせて照射し、同様に、鋼板1が溶融することもめっき層の亜鉛が蒸発することもない範囲である亜鉛の沸点T2以下の温度となるような条件で照射する。
【0035】
その後、第1加圧ローラ13aによって所定の加圧力を加え、アルミニウム合金材2と亜鉛めっき鋼板1を塑性変形させながら相対的に密着させ、亜鉛めっき鋼板1からの伝熱によりアルミニウム合金材2の接合界面温度が上昇する。このときアルミニウムと亜鉛の共晶温度T1以上の温度となるように、レーザビームBと加圧ローラ13a及び13bの移動速度を制御すれば、アルミニウムと亜鉛の共晶反応を生じさせると共に、第1加圧ローラ13aの押圧により接合界面から共晶溶融金属と共に、酸化皮膜や接合界面の不純物が接合部周囲に排出される。
【0036】
ここで、第2加圧ローラ13bによって接合界面がさらに押圧されることになるので、不純物が排出されて活性な新生面同士が所定の圧力で、しかも拡散接合に有効な温度T3で密着されることにより、強固な溶接が行われる。
すなわち、この実施形態においては、主に共晶反応と排出に際して機能する第1加圧ローラ13aと、主に排出と圧接に際して機能する第2加圧ローラ13bを併設して、役割を分担させることによって、より高速での溶接が可能になるため、作業能率が向上することになる。
【0037】
本発明の異種材料の接合方法においては、図2を用いて説明したように、接合界面に共晶反応を起こさせた後、接合界面から共晶溶融金属と共に、酸化皮膜や接合界面の不純物などを接合部周囲に排出することによって、被接合材料の新生面同士を直接反応させて強固な接合を得るようにしている。
したがって、接合過程において接合界面から如何に短時間で確実にこれらを排出するかが重要である。
【0038】
例えば、加圧ローラの被接合材料との接触面をその中央部が凸形となるような断面形状とすることによって、接合界面から共晶溶融金属や酸化皮膜、不純物などがより排出されやすくなり、新生面同士の強固な接合を得ることができるようになる。
【0039】
図6は、加圧ローラ13の被接合材料1との接触面である外周面に、曲率のある凸状曲面Pを設けたものであって、このような形状のローラ13を用いることによって、接合界面から共晶溶融と共に、酸化皮膜や接合界面の不純物などの排出物6が接合部の外側に容易に排出されるようになり、異種材料1,2がその新生面同士で直接接合されるようになり、強固な金属接合を得ることができる。
なお、外周部にこのような凸状曲面Pを有する加圧ローラは、レーザビームの照射位置の少なくとも直後、つまり共晶反応および排出用のローラとして設ければよく、図5に示した第1加圧ローラ13aとして利用することが好ましい。
【0040】
また、上記同様の観点から、両材料の一方又は両方の接合部に、上記のような排出物の排出を容易ならしめる排出促進手段を設けることも望ましい。
図7は、このような排出促進手段の一例として、亜鉛めっき鋼板1の接合部に、あらかじめ接合界面側に膨らんだ形状の膨出部Eを形成した例を示すものであって、当該膨出部Eは、溶接線に沿って連続的又は断続的に設けることができる。
【0041】
この膨出部Eにおいて、アルミニウム合金材2に亜鉛めっき鋼板1が重ねられ、亜鉛めっき鋼板1に形成された当該膨出部EにデフォーカスさせたレーザビームBを照射し、その直後、加圧ローラ13によって所定の加圧力を加え、両材料1,2を塑性変形させながら相対的に密着させる。
【0042】
このとき、亜鉛めっき鋼板1の側に膨出部Eが形成されているため、加圧ローラ(13の押圧により、接合界面から共晶溶融金属と共に酸化皮膜や接合界面の不純物などの排出物6が接合部周囲に容易に排出されるようになることから、アルミニウム合金と鋼の新生面同士が直接接合され、強固な金属接合を得ることができる。
なお、この場合のローラ形状は、通常の円筒形状であっても良好な排出性を得ることができる。また、図示した例では、膨出部Eを亜鉛めっき鋼板1の側に設けたが、アルミニウム合金材2の側、あるいは両方に形成してもよい。
【0043】
図8は、このような排出促進手段の他の例として、亜鉛めっき鋼板1の接合端部に、アルミニウム合金材2から離間する方向に湾曲した湾曲部Cを形成した例を示すものであって、あらかじめ接合部先端に湾曲部Cを形成しておき、この湾曲部CにデフォーカスさせたレーザビームBを照射し、その直後に、加圧ローラ13により両者を密着させる。
これによって、同様に排出物6が接合界面から接合端側に容易に排出されるようになり、強固な金属接合を得ることができる。
【0044】
さらに、発明の異種材料の接合方法においては、低融点材料の接合端部に湾曲部を形成することによって、この湾曲部により形成される隙間を介して高エネルギービームを高融点材料に照射するようになすこともでき、これによって低融点材料の側から高エネルギービームを高融点材料に照射することができるようになり、溶接施工の自由度を大幅に拡張することができる。
【0045】
例えば、車両の軽量化による燃費向上や運動性能向上を目的として、車体パネルにアルミニウム合金などの軽合金を用いた車体構造が求められているが、低重心化による性能向上効果の大きいルーフパネルにアルミニウム合金を用いた場合、車体骨格を構成する鋼製部材の上から、アルミニウム合金製のルーフパネルを重ねた状態で、車体骨格の外側、すなわちアルミニウム合金側からレーザビームを照射しなければならない接合構造となるため、上記したような異種材料の接合方法を適用することができない。
【0046】
このため実用上は、アルミニウム合金側からリベットなどの打ち込みによる機械的締結によって、アルミニウム合金製ルーフパネルを鋼製の車体骨格部材に接合することになるが、この方法では重量やコストが増加したり、外観デザインの自由度に制約が生じたりする場合がある。
【0047】
図14は、このようなリベット締結による異種金属パネルの接合構造例を示すものであって、鋼製のレールインナ51と鋼製のレールアウタ52が溶接によって組み立てられた車体部材50の上方から、軽合金製のルーフパネル53が重ねられ、車体部材50の接合フランジ部55にルーフパネル側から複数のリベットRを打ち込むことによって、点状に接合して組み立てられている。そのため、リベットRを打ち込む際には、車室内からの押え(図中の矢印P方向)が必要となるため、接合フランジ55の設定位置の設計自由度が低くなると共に、フランジ幅W0がリベットRの直径以上に広くなり、外観デザインが劣ることになる。
【0048】
これに対し、本発明の異種材料の接合方法においては、低融点材料の接合端部に湾曲部を形成し、この湾曲部により形成される隙間から高エネルギービームを高融点材料に照射するようにしていることから、共晶溶融を利用した本発明の接合方法を低融点材料の側から高エネルギービームを照射することによって行うことができるようになる。
すなわち、図9は、鋼製の車体部材と軽合金製のルールパネルの本発明方法による接合の実施形態例を示すものであって、鋼製のレールインナ21と鋼製のレールアウタ22及び鋼製のサイドアウタ23が溶接によって組み立てられた車体部材20の上方から、アルミニウム合金製のルーフパネル25が重ねられ、車体部材20には接合用の傾斜面23aが設けてあり、傾斜面23aを備えたサイドアウタ23については、表面に亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼板が使用されている。当然ながら、他の鋼材についても亜鉛めっき鋼板を使用するようにしても差し支えない。
【0049】
一方、アルミニウム合金製のルーフパネル25のフランジ先端には湾曲部25aが形成されており、当該湾曲部25aの開放側から、亜鉛めっき鋼板から成るサイドアウタ23の傾斜面23aに向けてデフォーカスさせたレーザビームBを照射することができるようになっている。
加圧ローラ13は、ルーフパネル25の湾曲部25aをレーザビームBによって加熱された傾斜面23aに押し付ける方向に加圧することができるように配設されている。
【0050】
図10は、図9のA−A方向からの断面図であって、レーザビームBと加圧手段13は、車体部材20に対して、相対的に移動可能に配置されている。
【0051】
図11は、図10の要部拡大図であって、まず、図11(a)に示すように、レーザビームBをルーフパネル25の側から、ルーフパネル25のフランジに形成された湾曲部25aの先端部と車体部材20のルーフパネル25との間に形成される隙間を介して、サイドアウタ23の傾斜面23aに向けて照射し、傾斜面23aの接合部近傍を所定の温度に加熱する。
そのすぐ後方では、図11(b)に示すように、加圧ローラ13による加圧によってルーフパネル25の湾曲部25aがレーザ加熱された傾斜面23aに押し付けられ、これによってルーフパネル25の湾曲部25aがサイドアウタ23の傾斜面23aに密着し、サイドアウタ23からの伝熱によって接合界面が共晶反応の発現する温度に保持され、加圧ローラ13による加圧により、ルーフパネル25が車体部材20のサイドアウタ23に接合される。
【0052】
ここで、アルミニウム合金製のルーフパネル25の湾曲部25aの剛性に比較して、鋼製の構造部材である車体部材20の剛性が十分に高いため、加圧ローラ13の加圧に対する車室内側からの押えは必要ないため、ルーフパネル25と車体部材20の接合位置や接合構造を比較的自由に設定することができるため、設計自由度が高く、しかも接合フランジ幅(W1)も狭くすることができる。
【0053】
このとき、アルミニウム合金製のルーフパネル25の湾曲部25aの形状は、図11に示したような曲率を有する湾曲形状のもののみに限定されず、図12に例示するように凸形状の湾曲部15bを備えたルーフパネル25の他、種々の形状を採用することができる。
【0054】
図13は、本発明方法による鋼製車体部材と軽合金製ルーフパネルの他の接合形態例を示すものであって、ここでは、鋼製レールインナ21と鋼製レールアウタ22が溶接されて組み立てられた車体部材20の上方から、アルミニウム合金製ルーフパネル25が車体部材20の端部近くまで延伸され、このルーフパネル25が車体部材20のレールアウタ22に形成された傾斜面22aにおいて同様に接合される。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
図3に示すように、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材2(低融点材料)の上に、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1(高融点材料、亜鉛めっき厚さ:約5μm)を重ね、高融点材料側である鋼板側から照射ヘッド11によりYAGレーザビームBを照射しながら、その直後を加圧ローラ13によって加圧し、照射ヘッド11と加圧ローラ13を被溶接材料1,2に対して、図中の矢印方向に移動させることにより連続的に線状接合した。
なお、接合条件としては、最大出力3kWのYAGレーザ発振器と焦点距離150mmのレンズを用い、亜鉛めっき鋼板1表面上においてスポット径が3.5mmとなるようビームをデフォーカスし、YAGレーザ出力1.0kW、移動速度1.0m/min、加圧ローラ13による加圧力100MPaで溶接を行った。また、レーザ照射中はレーザと同軸のノズルからアルゴンガスを25L/minの流量で流すことによって、接合部位をシールドした。
【0057】
得られた接合体から、マクロ試験片を切り出し、接合部のマクロ組織を観察した結果、アルミニウム合金と鋼材の新生面同士が直接接合され、その両側に酸化皮膜や共晶溶融金属などの反応生成物などから成る排出物が排出された状態の良好な接合構造が得られることが確認された。
【0058】
(実施例2)
図9に示したような鋼製の車体部材20(高融点材料)とアルミニウム合金製のルールパネル25(低融点材料)との接合を実施した。
車体部材20を構成するレールインナ21、レールアウタ22及びサイドアウタ23は、何れも亜鉛めっき鋼板から成るものであって、それぞれ1.2mm、1.4mm及び0.55mmの厚さを有しており、亜鉛めっき厚さは、何れも約5μmのものを用いた。
【0059】
一方、アルミニウム合金製のルーフパネル25は、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材から成るものであって、そのフランジ先端には曲率半径12mmの湾曲部25aを形成することによって、当該ルーフパネル25を重ねた時に、サイドアウタ23との間に約5mmの間隙が形成されるようにした。
【0060】
そして、図10〜11に示すように、アルミニウム合金製ルーフパネル25の側に位置させた照射ヘッドから、Nd:YAGレーザビームBを上記湾曲部25aにより形成された間隙を通して、サイドアウタ23の傾斜面23aに照射しながら、移動させ、加圧ローラ13の加圧によってルーフパネル25の湾曲部25aがレーザ加熱直後の傾斜面23aに押し付けることによって、ルーフパネル25のフランジ先端部をサイドアウタ23に連続的な線状に接合した。
【0061】
このときの照射条件としては、最大出力3kWのYAGレーザ発振器及び焦点距離150mmのレンズを用い、レーザ照射後、加圧ローラ13によってアルミニウム合金製ルーフパネル25の湾曲部25aを鋼製サイドアウタ23に密着させた際に、共晶溶融が生じる温度以上となるようにするために、レーザ出力を0.8kW、送り速度を0.7〜1.0 m/min、加圧ローラ13による加圧力を120MPaとすると共に、鋼製サイドアウタ23の表面上でのスポット径が3.5mmとなるようにビームBをデフォーカスして照射した。また、レーザ照射中はアルゴンガスを25L/minの流量で流し、接合部分をシールドした。
【0062】
そして、得られた接合体から、マクロ試験片を切り出し、接合部組織を観察した結果、上記実施例と同様に、良好な接合構造が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】Al−Zn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図2】(a)〜(e)は本発明による異種材料の接合過程を概略的に示す工程図である。
【図3】本発明の接合装置の一実施例を示す概略図である。
【図4】本発明の異種材料の接合方法における接合時の温度分布を示すグラフである。
【図5】本発明の接合方法において、2個の加圧ローラを用いた場合の温度分布を示すグラフである。
【図6】本発明の接合方法において、外周面を凸状曲面とした加圧ローラを用いた場合の排出物の排出状況を示す説明図である。
【図7】本発明の接合方法において、被接合部材に排出促進手段を設けた場合の排出物の排出状況を示す説明図である。
【図8】本発明の接合方法において、被接合部材に他の形状の排出促進手段を設けた場合の排出物の排出状況を示す説明図である。
【図9】本発明の接合方法の一実施形態として、鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルの接合構造例を示す概略断面図である。
【図10】図9のA−A線についての断面図である。
【図11】(a)及び(b)は図9の要部拡大図である。
【図12】図9に示した接合構造における湾曲部の他の形状例を示す断面図である。
【図13】鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルの他の接合構造例を示す概略断面図である。
【図14】鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルのリベットによる接合構造例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1、23 亜鉛めっき鋼板(高融点材料)
1p 亜鉛めっき層(第3の材料)
2、25 アルミニウム合金材(低融点材料)
3 共晶溶融金属
4 反応層
6 排出物
10 異種材料の接合装置
11 照射ヘッド
13、13a、13b 加圧ローラ
B レーザビーム
P 凸状曲面
E 膨出部(排出促進手段)
C 湾曲部(排出促進手段)
25a、25b 湾曲部
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料、例えばスチール材とアルミニウム合金材のように、互いに異なる融点を有する異種材料同士の接合技術に係わり、電子ビームやレーザビームのような高エネルギービームを高融点材料と低融点材料の高融点側の材料表面に照射しつつ、移動させることによって、両材料を線状に接合するようにした異種材料の接合方法と、このような接合に用いる接合装置、さらにはこのような方法により接合された異種材料の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、異種材料を接合しようとする場合、同種材同士の溶接の場合と同様に両方の被接合材料を溶融させてしまうと、脆弱な金属間化合物が生成し、十分な継手強度を得られない。
例えば、異種金属であるアルミニウム合金と鋼を接合する場合には、硬度が高くて脆弱なFe2Al5、FeAl3などの金属間化合物が生成することから、継手強度を確保するためには、これら金属間化合物の制御が必要となる。
【0003】
ところが、アルミニウム合金の表面には、緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、それを除去するためには接合時に大きな投与熱量が必要となり、その結果、金属間化合物層が厚く成長し、接合部の強度が低くなってしまうという問題がある。
【0004】
このように、異材同士の接合に際しては、金属間化合物の成長を精密にコントロールしながら接合する必要があるため、加熱のための外部熱源として、精密な温度制御が可能な、電子ビームやレーザビームなどのような高エネルギービームを用いた方法が試みられている。
高エネルギービームを用いた異種材料の重ね接合においては、脆い金属間化合物の生成を抑制するために、高融点材料の側にデフォーカスさせた高エネルギービームを照射し、高融点材料側からの伝熱により低融点材料を溶融させて接合する方法がとられていた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
このような場合、溶接条件をコントロールし、接合界面において、片側の材料(低融点材料)のみを溶融させ、材料の拡散を利用して接合することによって金属間化合物層の成長を抑制し、その厚さを薄くすることによって、両方の材料を溶融させて接合した場合よりも、接合部の単位面積当りの強度を高くすることができると考えられていた。
【非特許文献1】「溶接学会全国大会講演概要」、社団法人日本溶接学会、2003年4月、第72集、p.152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接合界面の金属間化合物の生成を制御して、良好な接合強度を得るには、接合条件を極めて精密にコントロールしなければならず、しかもその適正接合条件範囲が極めて狭いことから、上記したように、条件制御が比較的容易な高エネルギービームを熱源として用いたとしても、工業的に実用化することが極めて困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明は、高エネルギービームを用いた異種材料の接合における上記課題に鑑みてなされたものであって、接合界面に緻密な酸化皮膜が介在していたとしても、さほど大きな入熱を投与することなく、比較的容易に接合部から除去することができ、接合強度の向上が可能な異種材料の接合方法と、このような異材接合に好適に使用することができる異種材料の接合装置、さらにはこのような方法による異種材料の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする異種材料の間に、これら材料の少なくとも一方との間に共晶反応を生じる第3の材料を介在させ、接合に際して共晶溶融を生じさせることによって、上記目的が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の異種材料の接合方法においては、互いに異なる融点を有する高融点材料と低融点材料を重ね合わせて接合するに際して、これら両材料の間にこれら材料とは異なる第3の材料を介在させた状態で、高エネルギービームを高融点材料表面に照射しつつ、両材料を相対加圧し、上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて両材料を線状に接合することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の異種材料の接合装置は、被接合材料に対して相対移動可能に配設され、相対移動しながら上記被接合材料の接合部に高エネルギービームを照射する照射ヘッドと、この照射ヘッドによる高エネルギービームの照射点の進行方向後方側に配設され、高エネルギービーム照射後の接合部を加圧する加圧ローラを備えたことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の異種材料の接合構造は、上記接合方法によって得られるものであって、両材料の新生面同士が直接、あるいは両材料の少なくとも一方と第3の材料との反応層を介して線状に接合されていると共に、この接合部の両側に、第3の材料、被接合材料に由来する成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種から成る排出物が排出されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、互いに異なる異種材料同士を線状に接合するに際して、両材料の間にこれら材料の少なくとも一方と共晶反応を生じる第3の材料を介在させ、高エネルギビームを高融点材料表面に照射しながら、両材料を相対加圧し、この第3の材料と少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じさせて接合するようにしていることから、母材の融点よりも低い低温状態において酸化皮膜を除去することができるようになり、金属間化合物の生成を抑制して被接合材の新生面同士の強固な接合状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の異種材料の接合方法について、主にアルミニウム合金板材と亜鉛めっき鋼板の接合を例に挙げて、さらに具体的かつ詳細に説明する。
【0014】
図1は、Al−Zn系2元状態図を示すものであって、図に示すようにAl−Zn系における共晶点(T1)は、655Kであり、Alの融点933Kよりもはるかに低い温度で共晶反応が生じる。
したがって、図に示した共晶点を利用してAlとZnの共晶溶融を作り出し、アルミニウム材の接合時における酸化皮膜除去や相互拡散などの接合作用に利用することによって、低温接合が実施できるため、接合界面における金属間化合物の成長を極めて有効に抑制することができる。
【0015】
ここで、共晶溶融について説明する。共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融を意味し、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えばアルミニウムと亜鉛の場合、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであるのに対して、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0016】
一方、アルミニウム材の表面には酸化皮膜が存在するが、これは高エネルギービームの照射による加熱と、その直後の所定温度での加圧によってアルミニウム材に塑性変形が生じることにより物理的に破壊されることになる。
すなわち、加圧によって材料表面の微視的な凸部同士が擦れ合うことから、一部の酸化皮膜の局所的な破壊によってアルミニウムと亜鉛が接触した部分から共晶溶融が生じ、この液相の生成によって近傍の酸化皮膜が破砕、分解されてさらに共晶溶融が全面に拡がる反応の拡大によって、酸化皮膜破壊の促進と液相を介した接合が達成される。
【0017】
共晶組成は相互拡散によって自発的達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件は2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0018】
図2(a)〜(e)は、本発明による異種材料の接合プロセスとして、亜鉛めっき鋼板(高融点材料)とアルミニウム合金板材(低融点材料)との接合例を示す概略図である。
まず、図2(a)に示すように、少なくとも接合界面側の表面に、Alと共晶を形成する第3の金属材料として機能する亜鉛めっき層1pが施された亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金材2を用意し、図2(b)に示すように、これら亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2を亜鉛めっき層1pが内側になるように重ねる。なお、アルミニウム合金材2の表面には酸化皮膜2cが生成している。
【0019】
次に、高エネルギービームを亜鉛めっき鋼板1に照射し、接合界面が所定の温度範囲となったところで、加圧し、接合面を相対的に押圧すると、押圧による塑性変形や熱的衝撃などによって、図2(c)に示すように材料表面の微視的な接触部において、局部的に酸化皮膜2cが破壊される。
【0020】
これによって、亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が生じ、そのときの温度状態に応じて、図2(d)に示すように、亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じ、共晶溶融金属3と共に酸化皮膜2cや接合界面の不純物などから成る排出物が接合部の外側(矢印方向)に排出されることにより、所定の接合面積が確保され、その結果、図2(e)に示すように、アルミニウム合金材と鋼材の新生面同士が極めて薄い反応層4によって直接接合され、鋼板1とアルミニウム合金材2の強固な金属接合が得られることなる。なお、反応層4と鋼材1の間には材料や接合条件によって鋼への亜鉛の薄い拡散層が生じる場合もあるが、接合強度への影響は少なく、実質的な問題はない。
【0021】
本発明の異種材料の接合方法における被接合材の具体的な組み合せとしては、例えば鋼材とアルミニウム合金材の組み合せを挙げることができ、このとき両材料の間に介在させる第3の材料としては、アルミニウム合金と低融点共晶を形成する材料でありさえすれば特に限定されることはなく、例えば、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
すなわち、これら金属とAlとの共晶金属は、母材であるアルミニウム合金材の融点以下で溶融するため、脆弱な金属間化合物が生成し易い鋼材とアルミニウム合金材の接合においても、低温で酸化皮膜の除去ができ、接合過程での接合界面における金属間化合物の生成が抑制でき、強固な接合が可能になる。
【0022】
また、本発明の接合方法を自動車ボディの組み立てに適用することを考えた場合、被接合材料は鋼材とアルミニウムとの組み合せがほとんどであるが、将来的には鋼材とマグネシウム、あるいはアルミニウムとマグネシウムとの組み合せなども考えられる。
鋼材とマグネシウムとの接合に際しては、後述する実施例と同様に鋼材側にめっきした亜鉛とマグネシウムの間に共晶反応を生じさせて接合することが可能である。さらに、アルミニウムとマグネシウムを接合する場合においても、亜鉛や銀を第3の材料として利用することが可能である。
【0023】
なお、本発明においては、第3の材料として、上記したような純金属に限定される必要はなく、共晶金属は2元合金も3元合金も存在するため、これらの少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0024】
本発明の異種材料の接合方法においては、上記したように接合しようとする異種材料間に、これら材料と共晶反応を生じる第3の材料を介在させ、接合に際して共晶溶融を生じさせるようにするものであるが、第3の材料を被接合材の間に介在させるための具体的手段としては、接合しようとする両材料の少なくとも一方の材料に第3の材料をめっきすることが望ましく、これによって第3の材料をインサート材として材料間に挟み込む工程を省略することができ、作業効率が向上するばかりでなく、共晶反応によって溶融されためっき層が表面の不純物と共に接合部の周囲に排出された後に、めっき層の下から極めて清浄な新生面が現れることになり、より強固な接合が可能となる。
【0025】
そして、例えば、上記したアルミニウム合金材やマグネシウム合金材と鋼材との異材接合に際しては、鋼材として、アルミニウムやマグネシウムと低融点共晶を形成する第3の金属である亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができる。この場合には、新たにめっきを施したり、特別な準備を要したりすることもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種材料の強固な接合が可能になる。
【0026】
また、本発明の異種材料の接合方法は、被接合材料の接合部を所定の接合線に沿って線状に接合するものであるが、ここで言う「線状」とは、必ずしも連続した線のみを意味するものではなく、必要に応じて断続した線状(破線状)に接合することも可能である。
【0027】
そして、このような線状に接合するためには、電子ビームやレーザビームなどのような高エネルギービームを被接合材料の高融点材料の側に移動させながら、連続的あるいは断続的に照射すると共に、当該高エネルギービームを追随する位置に配設した加圧ローラによって、ビーム照射点の進行方向後方の接合部に相対的な押圧力を連続的あるいは断続的に加えるようにすることが望ましく、これによって高エネルギービームによる精密な温度コントロールに加え、加圧ローラにより接合部が加圧密着し、材料表面の局部的な酸化皮膜の破壊が生じ、これを起点に共晶反応が促進され、低温状態にて酸化皮膜の除去ができ、金属間化合物の生成を抑制しながら、新生面同士が連続的又は断続的な線状の強固な接合を得ることが可能となる。なお、このときの高エネルギービームの移動は、相対的なものであって、ビームの照射ヘッドや加圧ローラを移動させても、被接合材の側を移動させても、場合によっては両方移動させてもよい。
【0028】
このとき、加圧ローラを移動方向に沿って複数個配置することもでき、これによって共晶反応及び反応生成物の排出と、拡散接合のそれぞれの役割を別個の加圧ローラに分担させることができ、高速溶接が可能になって、能率が向上する。
【0029】
図3は、上記した異種材料の接合に用いる装置の一例を示すものであって、図に示す異種材料の接合装置10は、高エネルギービームの1種であるYAGレーザを照射する照射ヘッド11と、この照射ヘッド11にエアシリンダを内蔵したガイド12を介して、上下方向に移動自在に取り付けられた加圧ローラ13を備えており、上記エアシリンダに送給するエア圧力を調整することによって、当該ローラ13が被接合材料1,2に加える押圧力をコントロールすることができる。
【0030】
そして、加圧ローラ13は、上記のように照射ヘッド11に取り付けられていることにより、レーザビームBの移動に伴って移動し、レーザビームBから常に一定距離を隔てた位置で、被接合材料1,2を加圧しながら移動することができ、ワークが平面の場合はもとより、車体のような3次元形状の場合にもレーザ照射位置に追従することができ、当該接合装置10が、被接合材料である、例えば亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2に対して、図中の矢印方向に相対移動することによって、連続的あるいは断続的に線状に接合することができるようになっている。
【0031】
なお、当該装置10においては、図示以外にも各種の制御手段や調整装置を備えており、レーサビームBの照射角度や照射位置、照射位置と加圧位置の距離調整などができるようにしてある。
【0032】
図4は、レーザビームBと加圧ローラ13の構成と、その位置における接合界面の温度分布を示す概略図である。
図において、アルミニウム合金材2に亜鉛めっき鋼板1が、通常発生し得るわずかな隙間をもって重ねられており、高融点材料である亜鉛めっき鋼板1の側に、焦点を材料表面の手前で結んだ、つまりデフォーカスさせたレーザビームBを照射する。
【0033】
すなわち、レーザビームBを接合界面において高融点材料である鋼板1を溶融させない範囲で、しかも接合界面の表面めっき層である亜鉛が蒸発しない範囲、つまり亜鉛の沸点T2以下の温度となるような条件で照射する。その後、加圧ローラ13により所定の加圧力を加え、アルミニウム合金材2と亜鉛めっき鋼板1を塑性変形させながら相対的に密着させる。
このとき、高温の亜鉛めっき鋼板1からの伝熱でアルミニウム合金材2の接合界面温度が上昇し、アルミニウムと亜鉛の共晶温度T1以上の温度となるように、レーザビームBと加圧ローラ13の移動速度を制御して溶接を行う。
【0034】
図5は、加圧ローラを複数(図では2個)設けた形態について説明する。
アルミニウム合金材2と亜鉛めっき鋼板1は、同様に通常発生し得るわずかな隙間をもって重ねられており、高融点材料である亜鉛めっき鋼板1にレーザビームBをデフォーカスさせて照射し、同様に、鋼板1が溶融することもめっき層の亜鉛が蒸発することもない範囲である亜鉛の沸点T2以下の温度となるような条件で照射する。
【0035】
その後、第1加圧ローラ13aによって所定の加圧力を加え、アルミニウム合金材2と亜鉛めっき鋼板1を塑性変形させながら相対的に密着させ、亜鉛めっき鋼板1からの伝熱によりアルミニウム合金材2の接合界面温度が上昇する。このときアルミニウムと亜鉛の共晶温度T1以上の温度となるように、レーザビームBと加圧ローラ13a及び13bの移動速度を制御すれば、アルミニウムと亜鉛の共晶反応を生じさせると共に、第1加圧ローラ13aの押圧により接合界面から共晶溶融金属と共に、酸化皮膜や接合界面の不純物が接合部周囲に排出される。
【0036】
ここで、第2加圧ローラ13bによって接合界面がさらに押圧されることになるので、不純物が排出されて活性な新生面同士が所定の圧力で、しかも拡散接合に有効な温度T3で密着されることにより、強固な溶接が行われる。
すなわち、この実施形態においては、主に共晶反応と排出に際して機能する第1加圧ローラ13aと、主に排出と圧接に際して機能する第2加圧ローラ13bを併設して、役割を分担させることによって、より高速での溶接が可能になるため、作業能率が向上することになる。
【0037】
本発明の異種材料の接合方法においては、図2を用いて説明したように、接合界面に共晶反応を起こさせた後、接合界面から共晶溶融金属と共に、酸化皮膜や接合界面の不純物などを接合部周囲に排出することによって、被接合材料の新生面同士を直接反応させて強固な接合を得るようにしている。
したがって、接合過程において接合界面から如何に短時間で確実にこれらを排出するかが重要である。
【0038】
例えば、加圧ローラの被接合材料との接触面をその中央部が凸形となるような断面形状とすることによって、接合界面から共晶溶融金属や酸化皮膜、不純物などがより排出されやすくなり、新生面同士の強固な接合を得ることができるようになる。
【0039】
図6は、加圧ローラ13の被接合材料1との接触面である外周面に、曲率のある凸状曲面Pを設けたものであって、このような形状のローラ13を用いることによって、接合界面から共晶溶融と共に、酸化皮膜や接合界面の不純物などの排出物6が接合部の外側に容易に排出されるようになり、異種材料1,2がその新生面同士で直接接合されるようになり、強固な金属接合を得ることができる。
なお、外周部にこのような凸状曲面Pを有する加圧ローラは、レーザビームの照射位置の少なくとも直後、つまり共晶反応および排出用のローラとして設ければよく、図5に示した第1加圧ローラ13aとして利用することが好ましい。
【0040】
また、上記同様の観点から、両材料の一方又は両方の接合部に、上記のような排出物の排出を容易ならしめる排出促進手段を設けることも望ましい。
図7は、このような排出促進手段の一例として、亜鉛めっき鋼板1の接合部に、あらかじめ接合界面側に膨らんだ形状の膨出部Eを形成した例を示すものであって、当該膨出部Eは、溶接線に沿って連続的又は断続的に設けることができる。
【0041】
この膨出部Eにおいて、アルミニウム合金材2に亜鉛めっき鋼板1が重ねられ、亜鉛めっき鋼板1に形成された当該膨出部EにデフォーカスさせたレーザビームBを照射し、その直後、加圧ローラ13によって所定の加圧力を加え、両材料1,2を塑性変形させながら相対的に密着させる。
【0042】
このとき、亜鉛めっき鋼板1の側に膨出部Eが形成されているため、加圧ローラ(13の押圧により、接合界面から共晶溶融金属と共に酸化皮膜や接合界面の不純物などの排出物6が接合部周囲に容易に排出されるようになることから、アルミニウム合金と鋼の新生面同士が直接接合され、強固な金属接合を得ることができる。
なお、この場合のローラ形状は、通常の円筒形状であっても良好な排出性を得ることができる。また、図示した例では、膨出部Eを亜鉛めっき鋼板1の側に設けたが、アルミニウム合金材2の側、あるいは両方に形成してもよい。
【0043】
図8は、このような排出促進手段の他の例として、亜鉛めっき鋼板1の接合端部に、アルミニウム合金材2から離間する方向に湾曲した湾曲部Cを形成した例を示すものであって、あらかじめ接合部先端に湾曲部Cを形成しておき、この湾曲部CにデフォーカスさせたレーザビームBを照射し、その直後に、加圧ローラ13により両者を密着させる。
これによって、同様に排出物6が接合界面から接合端側に容易に排出されるようになり、強固な金属接合を得ることができる。
【0044】
さらに、発明の異種材料の接合方法においては、低融点材料の接合端部に湾曲部を形成することによって、この湾曲部により形成される隙間を介して高エネルギービームを高融点材料に照射するようになすこともでき、これによって低融点材料の側から高エネルギービームを高融点材料に照射することができるようになり、溶接施工の自由度を大幅に拡張することができる。
【0045】
例えば、車両の軽量化による燃費向上や運動性能向上を目的として、車体パネルにアルミニウム合金などの軽合金を用いた車体構造が求められているが、低重心化による性能向上効果の大きいルーフパネルにアルミニウム合金を用いた場合、車体骨格を構成する鋼製部材の上から、アルミニウム合金製のルーフパネルを重ねた状態で、車体骨格の外側、すなわちアルミニウム合金側からレーザビームを照射しなければならない接合構造となるため、上記したような異種材料の接合方法を適用することができない。
【0046】
このため実用上は、アルミニウム合金側からリベットなどの打ち込みによる機械的締結によって、アルミニウム合金製ルーフパネルを鋼製の車体骨格部材に接合することになるが、この方法では重量やコストが増加したり、外観デザインの自由度に制約が生じたりする場合がある。
【0047】
図14は、このようなリベット締結による異種金属パネルの接合構造例を示すものであって、鋼製のレールインナ51と鋼製のレールアウタ52が溶接によって組み立てられた車体部材50の上方から、軽合金製のルーフパネル53が重ねられ、車体部材50の接合フランジ部55にルーフパネル側から複数のリベットRを打ち込むことによって、点状に接合して組み立てられている。そのため、リベットRを打ち込む際には、車室内からの押え(図中の矢印P方向)が必要となるため、接合フランジ55の設定位置の設計自由度が低くなると共に、フランジ幅W0がリベットRの直径以上に広くなり、外観デザインが劣ることになる。
【0048】
これに対し、本発明の異種材料の接合方法においては、低融点材料の接合端部に湾曲部を形成し、この湾曲部により形成される隙間から高エネルギービームを高融点材料に照射するようにしていることから、共晶溶融を利用した本発明の接合方法を低融点材料の側から高エネルギービームを照射することによって行うことができるようになる。
すなわち、図9は、鋼製の車体部材と軽合金製のルールパネルの本発明方法による接合の実施形態例を示すものであって、鋼製のレールインナ21と鋼製のレールアウタ22及び鋼製のサイドアウタ23が溶接によって組み立てられた車体部材20の上方から、アルミニウム合金製のルーフパネル25が重ねられ、車体部材20には接合用の傾斜面23aが設けてあり、傾斜面23aを備えたサイドアウタ23については、表面に亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼板が使用されている。当然ながら、他の鋼材についても亜鉛めっき鋼板を使用するようにしても差し支えない。
【0049】
一方、アルミニウム合金製のルーフパネル25のフランジ先端には湾曲部25aが形成されており、当該湾曲部25aの開放側から、亜鉛めっき鋼板から成るサイドアウタ23の傾斜面23aに向けてデフォーカスさせたレーザビームBを照射することができるようになっている。
加圧ローラ13は、ルーフパネル25の湾曲部25aをレーザビームBによって加熱された傾斜面23aに押し付ける方向に加圧することができるように配設されている。
【0050】
図10は、図9のA−A方向からの断面図であって、レーザビームBと加圧手段13は、車体部材20に対して、相対的に移動可能に配置されている。
【0051】
図11は、図10の要部拡大図であって、まず、図11(a)に示すように、レーザビームBをルーフパネル25の側から、ルーフパネル25のフランジに形成された湾曲部25aの先端部と車体部材20のルーフパネル25との間に形成される隙間を介して、サイドアウタ23の傾斜面23aに向けて照射し、傾斜面23aの接合部近傍を所定の温度に加熱する。
そのすぐ後方では、図11(b)に示すように、加圧ローラ13による加圧によってルーフパネル25の湾曲部25aがレーザ加熱された傾斜面23aに押し付けられ、これによってルーフパネル25の湾曲部25aがサイドアウタ23の傾斜面23aに密着し、サイドアウタ23からの伝熱によって接合界面が共晶反応の発現する温度に保持され、加圧ローラ13による加圧により、ルーフパネル25が車体部材20のサイドアウタ23に接合される。
【0052】
ここで、アルミニウム合金製のルーフパネル25の湾曲部25aの剛性に比較して、鋼製の構造部材である車体部材20の剛性が十分に高いため、加圧ローラ13の加圧に対する車室内側からの押えは必要ないため、ルーフパネル25と車体部材20の接合位置や接合構造を比較的自由に設定することができるため、設計自由度が高く、しかも接合フランジ幅(W1)も狭くすることができる。
【0053】
このとき、アルミニウム合金製のルーフパネル25の湾曲部25aの形状は、図11に示したような曲率を有する湾曲形状のもののみに限定されず、図12に例示するように凸形状の湾曲部15bを備えたルーフパネル25の他、種々の形状を採用することができる。
【0054】
図13は、本発明方法による鋼製車体部材と軽合金製ルーフパネルの他の接合形態例を示すものであって、ここでは、鋼製レールインナ21と鋼製レールアウタ22が溶接されて組み立てられた車体部材20の上方から、アルミニウム合金製ルーフパネル25が車体部材20の端部近くまで延伸され、このルーフパネル25が車体部材20のレールアウタ22に形成された傾斜面22aにおいて同様に接合される。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
図3に示すように、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材2(低融点材料)の上に、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1(高融点材料、亜鉛めっき厚さ:約5μm)を重ね、高融点材料側である鋼板側から照射ヘッド11によりYAGレーザビームBを照射しながら、その直後を加圧ローラ13によって加圧し、照射ヘッド11と加圧ローラ13を被溶接材料1,2に対して、図中の矢印方向に移動させることにより連続的に線状接合した。
なお、接合条件としては、最大出力3kWのYAGレーザ発振器と焦点距離150mmのレンズを用い、亜鉛めっき鋼板1表面上においてスポット径が3.5mmとなるようビームをデフォーカスし、YAGレーザ出力1.0kW、移動速度1.0m/min、加圧ローラ13による加圧力100MPaで溶接を行った。また、レーザ照射中はレーザと同軸のノズルからアルゴンガスを25L/minの流量で流すことによって、接合部位をシールドした。
【0057】
得られた接合体から、マクロ試験片を切り出し、接合部のマクロ組織を観察した結果、アルミニウム合金と鋼材の新生面同士が直接接合され、その両側に酸化皮膜や共晶溶融金属などの反応生成物などから成る排出物が排出された状態の良好な接合構造が得られることが確認された。
【0058】
(実施例2)
図9に示したような鋼製の車体部材20(高融点材料)とアルミニウム合金製のルールパネル25(低融点材料)との接合を実施した。
車体部材20を構成するレールインナ21、レールアウタ22及びサイドアウタ23は、何れも亜鉛めっき鋼板から成るものであって、それぞれ1.2mm、1.4mm及び0.55mmの厚さを有しており、亜鉛めっき厚さは、何れも約5μmのものを用いた。
【0059】
一方、アルミニウム合金製のルーフパネル25は、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材から成るものであって、そのフランジ先端には曲率半径12mmの湾曲部25aを形成することによって、当該ルーフパネル25を重ねた時に、サイドアウタ23との間に約5mmの間隙が形成されるようにした。
【0060】
そして、図10〜11に示すように、アルミニウム合金製ルーフパネル25の側に位置させた照射ヘッドから、Nd:YAGレーザビームBを上記湾曲部25aにより形成された間隙を通して、サイドアウタ23の傾斜面23aに照射しながら、移動させ、加圧ローラ13の加圧によってルーフパネル25の湾曲部25aがレーザ加熱直後の傾斜面23aに押し付けることによって、ルーフパネル25のフランジ先端部をサイドアウタ23に連続的な線状に接合した。
【0061】
このときの照射条件としては、最大出力3kWのYAGレーザ発振器及び焦点距離150mmのレンズを用い、レーザ照射後、加圧ローラ13によってアルミニウム合金製ルーフパネル25の湾曲部25aを鋼製サイドアウタ23に密着させた際に、共晶溶融が生じる温度以上となるようにするために、レーザ出力を0.8kW、送り速度を0.7〜1.0 m/min、加圧ローラ13による加圧力を120MPaとすると共に、鋼製サイドアウタ23の表面上でのスポット径が3.5mmとなるようにビームBをデフォーカスして照射した。また、レーザ照射中はアルゴンガスを25L/minの流量で流し、接合部分をシールドした。
【0062】
そして、得られた接合体から、マクロ試験片を切り出し、接合部組織を観察した結果、上記実施例と同様に、良好な接合構造が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】Al−Zn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図2】(a)〜(e)は本発明による異種材料の接合過程を概略的に示す工程図である。
【図3】本発明の接合装置の一実施例を示す概略図である。
【図4】本発明の異種材料の接合方法における接合時の温度分布を示すグラフである。
【図5】本発明の接合方法において、2個の加圧ローラを用いた場合の温度分布を示すグラフである。
【図6】本発明の接合方法において、外周面を凸状曲面とした加圧ローラを用いた場合の排出物の排出状況を示す説明図である。
【図7】本発明の接合方法において、被接合部材に排出促進手段を設けた場合の排出物の排出状況を示す説明図である。
【図8】本発明の接合方法において、被接合部材に他の形状の排出促進手段を設けた場合の排出物の排出状況を示す説明図である。
【図9】本発明の接合方法の一実施形態として、鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルの接合構造例を示す概略断面図である。
【図10】図9のA−A線についての断面図である。
【図11】(a)及び(b)は図9の要部拡大図である。
【図12】図9に示した接合構造における湾曲部の他の形状例を示す断面図である。
【図13】鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルの他の接合構造例を示す概略断面図である。
【図14】鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルのリベットによる接合構造例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1、23 亜鉛めっき鋼板(高融点材料)
1p 亜鉛めっき層(第3の材料)
2、25 アルミニウム合金材(低融点材料)
3 共晶溶融金属
4 反応層
6 排出物
10 異種材料の接合装置
11 照射ヘッド
13、13a、13b 加圧ローラ
B レーザビーム
P 凸状曲面
E 膨出部(排出促進手段)
C 湾曲部(排出促進手段)
25a、25b 湾曲部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに融点の異なる高融点材料と低融点材料を重ね合わせて接合するに際し、上記両材料の間にこれら材料とは異なる第3の材料を介在させた状態で、高エネルギービームを高融点材料の表面に照射しつつ、両材料を相対加圧し、上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて両材料を線状に接合することを特徴とする異種材料の接合方法。
【請求項2】
両材料の少なくとも一方に、第3の材料によるめっきが施してあることを特徴とする請求項1に記載の異種材料の接合方法。
【請求項3】
両材料の一方が亜鉛めっき鋼板であって、該亜鉛めっき鋼板にめっきされている亜鉛を第3の材料として利用することを特徴とする請求項2に記載の異種材料の接合方法。
【請求項4】
高エネルギービームを両材料に対して相対移動させながら照射すると共に、上記高エネルギービームの照射点の進行方向後方に配設した加圧ローラによって両材料を加圧することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の異種材料の接合方法。
【請求項5】
複数個の加圧ローラを用いることを特徴とする請求項4に記載の異種材料の接合方法。
【請求項6】
加圧ローラの被接合材料との接触面が凸状曲面をなしていることを特徴とする請求項4又は5に記載の異種材料の接合方法。
【請求項7】
両材料の少なくとも一方の接合部に、第3の材料、被接合材料由来成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応物の群から選ばれる少なくとも1種から成る排出物の排出を容易ならしめる排出促進手段を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の異種材料の接合方法。
【請求項8】
低融点材料の接合部に湾曲部を形成し、該湾曲部によって形成される間隙を介して高エネルギービームを高融点材料に照射することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の異種材料の接合方法。
【請求項9】
被接合材料に対して相対移動可能に配設され、相対移動しながら上記被接合材料の接合部に高エネルギービームを照射する照射ヘッドと、
該照射ヘッドによる高エネルギービーム照射点の進行方向後方に配設され、高エネルギービーム照射後の接合部を加圧する加圧ローラを備えたことを特徴とする異種材料の接合装置。
【請求項10】
上記加圧ローラが進行方向に対して複数個配設されていることを特徴とする請求項9に記載の異種材料の接合装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、上記両材料の新生面同士が直接、又は上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との反応層を介して線状に接合されていると共に、当該接合部の両側に、第3の材料、被接合材料由来成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種から成る排出物が排出されていることを特徴とする異種材料の接合構造。
【請求項12】
低融点材料が軽合金製パネル、高融点材料が亜鉛めっき鋼板から成る自動車の車体部材であることを特徴とする請求項11に記載の異種材料の接合構造。
【請求項13】
請求項8に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、低融点材料が軽合金材料から成るルーフパネル、高融点材料が亜鉛めっき鋼板から成る自動車の車体部材であって、上記両材料の新生面同士が直接又は、上記軽合金材料と亜鉛との反応層を介して接合されていると共に、当該接合部の両側に、亜鉛、被接合材料由来成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種が排出されていることを特徴とする異種材料の接合構造。
【請求項1】
互いに融点の異なる高融点材料と低融点材料を重ね合わせて接合するに際し、上記両材料の間にこれら材料とは異なる第3の材料を介在させた状態で、高エネルギービームを高融点材料の表面に照射しつつ、両材料を相対加圧し、上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて両材料を線状に接合することを特徴とする異種材料の接合方法。
【請求項2】
両材料の少なくとも一方に、第3の材料によるめっきが施してあることを特徴とする請求項1に記載の異種材料の接合方法。
【請求項3】
両材料の一方が亜鉛めっき鋼板であって、該亜鉛めっき鋼板にめっきされている亜鉛を第3の材料として利用することを特徴とする請求項2に記載の異種材料の接合方法。
【請求項4】
高エネルギービームを両材料に対して相対移動させながら照射すると共に、上記高エネルギービームの照射点の進行方向後方に配設した加圧ローラによって両材料を加圧することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の異種材料の接合方法。
【請求項5】
複数個の加圧ローラを用いることを特徴とする請求項4に記載の異種材料の接合方法。
【請求項6】
加圧ローラの被接合材料との接触面が凸状曲面をなしていることを特徴とする請求項4又は5に記載の異種材料の接合方法。
【請求項7】
両材料の少なくとも一方の接合部に、第3の材料、被接合材料由来成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応物の群から選ばれる少なくとも1種から成る排出物の排出を容易ならしめる排出促進手段を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の異種材料の接合方法。
【請求項8】
低融点材料の接合部に湾曲部を形成し、該湾曲部によって形成される間隙を介して高エネルギービームを高融点材料に照射することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の異種材料の接合方法。
【請求項9】
被接合材料に対して相対移動可能に配設され、相対移動しながら上記被接合材料の接合部に高エネルギービームを照射する照射ヘッドと、
該照射ヘッドによる高エネルギービーム照射点の進行方向後方に配設され、高エネルギービーム照射後の接合部を加圧する加圧ローラを備えたことを特徴とする異種材料の接合装置。
【請求項10】
上記加圧ローラが進行方向に対して複数個配設されていることを特徴とする請求項9に記載の異種材料の接合装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、上記両材料の新生面同士が直接、又は上記両材料の少なくとも一方と第3の材料との反応層を介して線状に接合されていると共に、当該接合部の両側に、第3の材料、被接合材料由来成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種から成る排出物が排出されていることを特徴とする異種材料の接合構造。
【請求項12】
低融点材料が軽合金製パネル、高融点材料が亜鉛めっき鋼板から成る自動車の車体部材であることを特徴とする請求項11に記載の異種材料の接合構造。
【請求項13】
請求項8に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、低融点材料が軽合金材料から成るルーフパネル、高融点材料が亜鉛めっき鋼板から成る自動車の車体部材であって、上記両材料の新生面同士が直接又は、上記軽合金材料と亜鉛との反応層を介して接合されていると共に、当該接合部の両側に、亜鉛、被接合材料由来成分、酸化皮膜及び接合過程で生じる反応生成物の群から選ばれる少なくとも1種が排出されていることを特徴とする異種材料の接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図4】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−152401(P2007−152401A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351851(P2005−351851)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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