説明

異種素材の分離方法

【課題】ポリエステル廃棄物中に含まれる異種素材を有効成分の歩留まりを低下させず、且つ安全に分離除去する方法を確立すること。
【解決手段】沈降分離時の液流れが装置下方から上方へ移動する沈降分離装置が接続された解重合反応槽内に、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とし、ポリアルキレンテレフタレート以外の異種素材を含むポリエステル廃棄物を投入し、アルキレングリコールを添加して該ポリエステルの一部または全部を解重合反応させ解重合反応液を得た後、沈降分離装置を解重合反応液の滞留時間が5秒から300秒、かつ解重合反応液の上昇速度が50〜300mm/秒にて経由させて、異種素材を連続的に分離させながら次工程へ送液することを特徴とするポリエステル廃棄物からの異種素材分離方法により解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンテレフタレートを主成分として含有するポリエステル廃棄物から有効成分を回収する方法に関し、さらに詳しくは、ポリエステル廃棄物に含まれる異種素材を沈降分離装置を経由させて分離除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートは、その化学的安定性が優れていることから、繊維、フイルム、樹脂などの生活関連資材、飲料水、炭酸飲料用ボトル等の食品分野などでの使用が急速に増大している。
【0003】
しかしながら、上記のような使用量の増大に伴って大量に発生する、使用済みポリエチレンテレフタレート(特に使用済みの飲料用ボトル)、あるいはポリエチレンテレフタレート製造段階で発生する品質不適格品(以下、ポリエステル廃棄物と略称することがある。)の処理は、大きな社会問題となっている。
【0004】
上記の問題に対して、ポリエステル廃棄物をモノマーに変換・回収し、このモノマーを原料にして再度重合反応によってポリエチレンテレフタレートを製造し再利用する、いわゆるケミカルリサイクルが検討されている。この方法は基本的にロスの無い、化合物の循環再使用が可能であり、資源の再利用が可能となる。
【0005】
これら回収したポリエステル廃棄物はエチレングリコールで解重合反応し、次いでメタノールを用いてエステル交換反応を行い、更に分離精製することでテレフタル酸ジメチル(以下、DMTと略称することがある。)およびエチレングリコール(以下、EGと略称することがある。)として回収され、資源の有効利用、トータルコストの低下につながる。
【0006】
ポリエチレンテレフタレートにエチレングリコールを過剰に加えて加熱し、解重合反応によりビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(以下、BHETと略称することがある。)および末端にβ−ヒドロキシエチルエステル基を含む低重合体の混合物を得、該混合物に対し過剰のメタノール(以下、MeOHと略称することがある。)を加え触媒の存在下、置換エステル化反応することによりテレフタル酸ジメチルを回収する方法が記載されている(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
また、ポリエステル廃棄物からテレフタル酸ジメチル及びエチレングリコールを分離回収する方法において、得られた解重合反応液中に含まれる固形異種素材のうち、反応溶液の表面に浮遊するものは浮遊選別により分離し、反応溶液の表面に浮遊しなかったもの、例えば、金属、土砂、ガラス、無機化合物、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル、レーヨン、アセテートなどについては、固液分離法により除去する方法が提案されている(例えば特許文献2参照。)。しかしながら、該解重合反応液の固液分離方法に関する具体的な記載はなく、高温溶液中から、効率的に解重合反応液の表面に浮遊しない固形異種素材を分離する方法については、具体的な方法を選択する必要がある。
【0008】
これら解重合反応液よりも比重の重い固形異種素材が、継続的に解重合槽へ混入すると、塔槽類で堆積して溶液の取り出し不良の発生や、配管、調節弁、流量計などの閉塞が発生し、工程停止を余技なくされる場合がある。更に解重合反応が完全でなく、有効成分である未反応PETが解重合液中に存在する場合は、一般的な固液分離法、例えば濾過法、遠心分離法、沈降法などでは、固形異種素材と共に、未反応PETが同伴して系外に排出されるので、有効成分ロスによる工程歩留まりの悪化が発生する。
【0009】
【特許文献1】特公昭43−2088号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】国際公開第01/30729号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術が有していた問題点を解決し、ポリエステル廃棄物中に含まれる異物、特に解重合反応液よりも比重が重い異種素材を、有効成分の歩留まりを低下させず、且つ安全に分離除去する方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記従来技術に鑑み、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的は、沈降分離時の液流れが装置下方から上方へ移動する沈降分離装置が接続された解重合反応槽内に、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とし、ポリアルキレンテレフタレート以外の異種素材を含むポリエステル廃棄物を投入し、アルキレングリコールを添加して該ポリエステルの一部または全部を解重合反応させ解重合反応液を得た後、沈降分離装置を解重合反応液の滞留時間が5秒から300秒、かつ解重合反応液の上昇速度が50〜300mm/秒にて経由させて、異種素材を連続的に分離させながら次工程へ送液することを特徴とするポリエステル廃棄物からの異種素材分離方法によって達成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分離方法により、回収目的とするポリアルキレンテレフタレートより高比重の異種成分を効果的の取り除くことができ、有効成分の回収と工程ロス防止を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を実施例などを使用して説明する。尚、これらの実施例など及び説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでも無い。
【0014】
本発明の異種素材分離方法において、ポリアルキレンテレフタレートとはテレフタル酸もしくはその誘導体とアルキレングリコールから当業者が通常の製造方法で得ることができるポリアルキレンテレフタレートを指す。好ましくは後述のポリエステル廃棄物中、80重量%以上がポリアルキレンテレフタレートであることを示す。またポリエステル廃棄物中のポリエステルとはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートが具体的にあげられるが、市場の流通及び経済性の面よりポリエチレンテレフタレートが多く使用されておりかつ好ましく用いられる。また解重合反応にはアルキレングリコールを用いるのが好ましいが、そのアルキレングリコールとは具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられるが、これらのなかでもエチレングリコールを用いるのが好ましい。この解重合反応に用いるアルキレングリコールとポリアルキレンテレフタレートを構成するアルキレン基は同じ基であることが好ましいが、異なる基であっても本発明の目的を達成することが出来る。また本発明におけるポリエステル廃棄物とはポリエステル以外には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル等のポリオレフィン、ナイロン、ポリカーボネート等のポリエステル以外の重縮合ポリマー、金属、土砂、ガラス、コンクリート等を含んでいるものを指す。
【0015】
本発明の方法においては、ポリエステル廃棄物は一般に水洗浄及び粗粉砕などの前処理を施し、解重合反応に適した形状にしてから解重合反応槽に投入し、解重合することが好ましい。本発明の方法を回分方式で実施する場合においては、前記ポリエステル廃棄物を、ポリエステル解重合触媒を含みアルキレングリコールが主成分である溶液中に投入して、150〜190℃の温度、0.1〜0.5MPaの圧力下において解重合反応を行うのが好ましい。また解重合反応槽には沈降分離時の液流れが装置下方から上方へ移動する沈降分離装置が接続されている。後述のように比重の中程度の物質が主成分であり、比重の小さい物質と大きい物質が混合している際に、これらから主成分を分離する際には、比重の小さい物質を取り除き、その後比重の大きい物質と中程度の物質を分離する際には、この構成が好ましい。解重合を行うとアルキレングリコールとポリエステル廃棄物は解重合反応液となる。この解重合反応液となるのはポリエステル廃棄物中のポリエステルが完全に解重合された状態はもちろんのこと、一部のポリエステルのみ解重合され、まだ解重合されていないポリエステルが残っている状態も含むものである。この時使用するアルキレングリコール量は、前記ポリエステル廃棄物の重量の0.5〜20重量倍とすることが好ましい。またこの際用いるアルキレングリコールとしてエチレングリコールを用いるのが好ましい。またこのときに用いる解重合触媒としては、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、若しくは酢酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、若しくは酢酸塩、またはマンガン、若しくは亜鉛の酢酸塩よりなる群から少なくとも1種選ばれる化合物を用いるのが好ましい。該解重合反応槽には、解重合反応を促進させるために撹拌機や解重合反応槽の解重合反応液の自己循環ライン等が設置されていることが好ましい。本発明の除去方法は連続方式又は回分方式のいずれにも採用できる。
【0016】
この解重合反応時において、ポリエステル廃棄物に含まれる異種素材としては、解重合反応液に対して比重の小さいポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィンを主成分とする異種プラスチックや、比重の大きい各種金属、土砂、ガラス、コンクリート粒子等が挙げられる。
【0017】
これらの液面近傍に浮遊した異種プラスチックは、解重合反応槽の抜き出し口近くに集めた後、解重合反応槽外に抜き出すことにより除去する。この除去については、解重合反応が完全に終了していない段階でも、異種プラスチックが充分に分離できるほど液面近傍に浮遊している状態、すなわち未反応のポリエステル廃棄物中のポリエステルが残存したスラリー状態であっても実施可能である。このような除去方法を採用することで、比重の小さい異種プラスチックを効率よく、また短時間で除去することが出来、リサイクル工程全体の処理速度の向上が期待できる。
【0018】
一方、解重合反応液に対して比重が重く浮遊しない、金属、土砂、ガラス、コンクリート粒子などの異種素材については、解重合反応終了後に沈降分離槽に送り、通過液(解重合反応液)の滞留時間が5秒から300秒、かつ解重合反応液の上昇速度が50〜300mm/秒以下、更に好ましくは50から100mm/秒に制御された沈降分離装置(沈降分離槽)を経由させて解重合反応液より比重の大きい連続的に異種素材を分離させながら次工程へ送液しながら分離する必要がある。沈降分離装置内の液流れが装置下方から上方へ移動することがより好ましい。解重合反応液が当該適正な上昇速度に保たれた範囲であれば、液流れが上方へ移動する場合には金属、土砂、ガラス、コンクリート粒子などの異種素材は沈降分離装置の下部へ沈積し、解重合液および未反応PETは沈降せずに次工程へと送液される。
【0019】
沈降分離装置内で上昇する液流れ速度の制御方法は、解重合槽取出し流量、沈降分離装置を経由して解重合槽へ戻る循環流量、次工程送液流量の3点のうち、2点を計測すれば、沈降分離装置内の上昇液速度の制御が可能である。また、解重合取り出し流量が常時一定の場合は、沈降分離装置の内径と容量を適正サイズに設計することで、効果的な上昇液速度を保つことが可能である。
【0020】
装置内に沈降した金属、土砂、ガラス、コンクリート粒子など異種素材の取り出し操作は、密閉されたスクリューコンベアなどで連続的に取り出しても良いし、沈降分離装置を2系列以上保有させて回分式で切替えながら取り出しても良い。回分式の場合は、沈降した異種素材を取り出す前に、分離装置内にある溶液を抜く必要があり、金網を装置底部に設置すると、圧力輸送などで沈降分離装置内の溶液を解重合槽に戻すことが可能となり、沈降異種素材の捕集と、有効成分の回収を行い、工程ロス防止を図ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。
【0022】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート廃棄物50部、ポリスチレン2部、ポリエチレン2部、エチレングリコール200部と解重合触媒として炭酸ナトリウム1.5部を投入し、100rpm攪拌下、180℃で1時間保持した。この時点で、投入したポリエチレンテレフタレートの一部は反応し、未反応分PETと、金属、土砂、ガラスなどの固形物は攪拌された液中に浮遊した状態であり、ポリスチレン及びポリエチレンは液面に浮遊した。回転数を5rpmまで低下させ、浮遊物を一箇所に集積させて、上部の液20部を分離槽に抜出したところ、ポリスチレン及びポリエチレンは解重合反応槽から完全に抜出した。
【0023】
次いで、解重合反応液を定量ポンプを用い、通過液の滞留時間10秒、下方から上方へ移動する液上昇速度を70mm/秒に設定した沈降分離装置を経由させて、解重合反応槽から全量抜き出した。沈降分離装置では、金属、土砂、ガラス混合物0.3部が捕集され、未反応PETは確認されなかった。また、沈降分離装置を経由させた後の未反応PETを含む解重合反応液には、金属、土砂、ガラスなどの固形混合物は全く含まれなかった。
【0024】
[比較例1]
実施例1において、下方から上方へ移動する液上昇速度を350mm/秒に設定した沈降分離装置を経由させて、解重合反応槽から全量抜き出したところ、金属、土砂、ガラス混合物は沈降分離槽内で捕集されず、解重合反応液と共に全量同伴した。
【0025】
[比較例2]
実施例1において、下方から上方へ移動する液上昇速度を40mm/秒に設定した沈降分離装置を経由させたところ、未反応PETが全量沈降分離装置内で金属、土砂、ガラス混合物と共に沈降し、歩留まりが悪化するのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の分離方法により、回収目的とするポリアルキレンテレフタレートより高比重の異種成分を効果的の取り除くことができ、有効成分の回収と工程ロス防止を図ることができる。その結果一旦石油資源から合成したポリアルキレンテレフタレートを回収・再使用することが出来るので、環境に負荷をかけることを少なくすることにつながり工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈降分離時の液流れが装置下方から上方へ移動する沈降分離装置が接続された解重合反応槽内に、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とし、ポリアルキレンテレフタレート以外の異種素材を含むポリエステル廃棄物を投入し、アルキレングリコールを添加して該ポリエステルの一部または全部を解重合反応させ解重合反応液を得た後、沈降分離装置を解重合反応液の滞留時間が5秒から300秒、かつ解重合反応液の上昇速度が50〜300mm/秒にて経由させて、異種素材を連続的に分離させながら次工程へ送液することを特徴とするポリエステル廃棄物からの異種素材分離方法。
【請求項2】
ポリアルキレンテレフタレートがポリエチレンテレフタレートである、請求項1記載の異素材分離方法。
【請求項3】
アルキレングリコールがエチレングリコールである、請求項1記載の異素材分離方法。

【公開番号】特開2007−131695(P2007−131695A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324528(P2005−324528)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】