説明

異種金属の接合方法及び接合構造

【課題】継手重量の増加や、新たな設備投資によるコストの増加を招くことなく、異種金属間の接触による腐食を防止して優れた耐食性を確保すると共に、異種金属接合部の接合界面におけるシール材の残存による強度低下の防止が可能な異種金属接合方法と、このような方法による接合構造を提供する。
【解決手段】シール材Sを介して重ね合わせた異種金属から成る被接合材1,2を抵抗スポット溶接するに際して、例えば先端が複数の可動片13に分割された電極E1を用い、通電・加圧時に被接合材1に接触する可動片13を接合部の外周方向に移動させることによって、軟化した固相状態における被接合材1の流動性を促進して、接合界面の密着性を向上させ、シール材Sを接合部から排出して、接合界面の密着性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属の抵抗溶接による接合技術に係わり、特に被接合材のイオン化傾向の相違によって生じる電食を防止するために、被接合材の間に絶縁材料から成るシール材を介装した状態で、抵抗スポット溶接により接合する異種金属の接合方法と、当該接合方法による接合構造、さらにこのような接合に用いる抵抗スポット溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体には、従来から広く使われている鋼に加えて、車体の軽量化を目的として、アルミニウム合金等の軽金属で形成された車体部材(例えばアルミニウム合金製ルーフパネル等)の適用が行われている。
【0003】
一般に異種金属を接合する場合、同種材同士の溶接のように双方の被接合材料を溶融させてしまうと、脆弱な金属間化合物が生成し、十分な継手強度が得られないことがある。
例えば、上記のようなアルミニウム合金と鋼材とを溶接する場合、高硬度で脆弱なFeAlやFeAlなどの金属間化合物が生成するため、継手強度を確保するためには、これら金属間化合物の制御が必要となる。
【0004】
しかし、アルミニウム合金の表面には、緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、それを除去するためには接合時に大きな熱量を投与することが必要となる結果、厚い金属間化合物層が成長し、低強度の接合部になってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、従来では、このような異種金属材料を組み合わせて使用する場合には、ボルトやリベットなどによる機械的締結によってこのような材料を接合するようにしていたが、この場合には重量やコストが増加するという問題がある。
【0006】
また、このような異種金属の接合には、摩擦圧接の適用が考えられるが、このような摩擦圧接方法は、対称性のよい回転体同士の接合など、その対象が限られている。
さらに、爆着や熱間圧延なども知られているが、設備面や能率面での問題が多く、一般の異種金属接合に広く適用することが難しいという問題がある。
【0007】
このような問題点を解決すべく改善がなされた例として、異種金属材料の間に、当該異種金属と同じ組合せの2種の材料から成るクラッド材をそれぞれ同種の材料同士が接するように介在させた状態で、10ms以下の通電時間で抵抗溶接を行うようにする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、アルミニウムと鋼の抵抗溶接において、アルミニウム材と接する鋼表面に、Al量が20wt%以上のアルミニウム合金又は純アルミニウムを2μm以上の厚さにめっきし、このめっき面をアルミニウム材に重ねて通電し、めっき層を優先的に溶融させ、鋼材側をほとんど溶融させないようにして、これら材料を接合する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0009】
一方、各種部材の接合部位に異種金属を組み合わせて用いると、異種金属が互いに接触して電気的に導通するために腐食が促進されることが知られている。
このような異種金属の接触による腐食は、金属のイオン化傾向の違いによって、金属間に電位差が生じ腐食電流が流れることによって発生するとされており、異種金属接触による腐食を防止するための対策としては、例えば、スチール製の第1の部材と、例えばアルミニウムやその合金から成る第2の部材を両部材の間にシール材を介在させた状態で、例えばリベットや補強部材などの接合手段によって接合するようにした車体部材の接合構造が提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
また、鉄系材料とアルミニウム又はアルミニウム合金材料が接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬して、接合部近傍に緻密かつ強固で密着性が高く、しかもアルミニウムと鉄との中間的なイオン化傾向を有する金属亜鉛を析出させ、これによって接合部における異種金属接触耐食性を向上させることが知られている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平4−127973号公報
【特許文献2】特開平6−39558号公報
【特許文献3】特開2000−272541号公報
【特許文献4】特開2005−154844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1記載の方法においては、クラッド材を用いるようにしているため、本来2枚の板を接合すべきところ、3枚の接合ということになり、実際の施工を考えた場合には、クラッド材の挿入と共に、固定の工程が必要となって、現状の溶接ラインに新たな設備を組み入れなければならなくなり、コストアップ要因となる。また、例えばアルミニウムと鋼を接合する場合、アルミニウムクラッド鋼自体も異種材同士を接合することにより製造することになるため、同様に製造条件が厳しく、性能の安定した安価なクラッド材を入手すること自体が困難であるという問題点がある。
【0012】
また、鋼表面にアルミニウムめっきを施した状態で抵抗溶接する特許文献2に記載の方法においては、アルミニウムめっき面とアルミニウム材を接合する際、アルミニウム表面に存在する強固な酸化皮膜を破壊するために大入熱を投入することが必要となって、アルミニウムめっきと鋼の界面に脆弱な金属間化合物が生成され、これから破壊が生じる可能性がある。
【0013】
一方、特許文献3に記載の技術においては、両材料の融点や線膨張係数が異なることから、溶接を避け、リベットやボルトなどの機械的締結を採用しているため、先に述べたように接合部材の重量やコストが増加するという問題点がある。
さらに、特許文献4に記載の技術においては、接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬するようにしているが、接合材表面に析出した亜鉛だけでは、自動車部品に求められるような耐食性能を十分に満足させることができないばかりでなく、自動車の生産工程の中に、車体部品をこのような溶液中に浸漬する工程を組み込むことは、浸漬タンク等の新たな設備投資を必要とし、コストが増加することが問題となる。
【0014】
本発明は、従来の異種金属の接合方法における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、継手重量の増加や、新たな設備投資によるコストの増加を招くことなく、異種金属の接触による腐食を防止して優れた耐食性を確保すると共に、異種金属接合部の接合界面におけるシール材の残存による強度低下の防止が可能な異種金属接合方法と、このような方法による接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的の達成に向けて鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする異種金属から成る被接合材の間にシール材を介在させた状態で、抵抗スポット溶接するに際して、例えば、溶接用電極の先端部を移動させたり、電極を振動させたり、回転させたりすることによって、少なくとも一方の被接合材の軟化した固相状態における流動を促進し、被接合材同士の密着性を向上させる手段を講じることによって、シール材の排出性が向上し、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0016】
本発明はこのような知見に基づくものであって、本発明の異種金属接合方法においては、シール材を介して重ね合わせた異種金属から成る被接合材同士を抵抗スポット溶接するに際して、例えば先端が複数の可動片に分割された電極を用いたり、電極に振動を付与したりすることによって、軟化した固相状態における被接合材の流動を促進して、接合界面の密着性を向上させるようにすることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の異種金属の接合構造は、上記接合方法によって抵抗スポット溶接されたものであって、被接合材同士が直接接合されていると共に、この接合部の周囲がシール材によって囲まれていることを特徴とする。
そして、本発明の抵抗スポット溶接装置は、本発明の上記接合方法に好適に用いられるものであって、軟化した固相状態の被接合材の流動を促進し、接合界面の密着性を向上させる手段、例えば、先端部が複数の可動片に分割された電極や、振動あるいは回転可能な電極などを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シール材を介して重ね合わせた異種金属から成る被接合材同士を抵抗スポット溶接するに際して、軟化した固相状態における被接合材の流動を促進して、接合界面の密着性を向上させることとしたので、シール材の接合部から周囲への排出が円滑に行われ、シール材を接合部に残存させることなく、接合界面から効果的に消失させて、耐食性に優れた高強度な接合構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の異種金属の接合方法について、図面に基づいて、さらに詳細かつ具体的に説明する。
【0020】
本発明の異種金属接合方法においては、上記したように、互いに異なる金属から成る被接合材の間にシール材を介在させた状態で、両材料を抵抗スポット溶接するに際して、両材料の少なくとも一方の軟化した固相状態における流動性を高めて、被接合材同士の密着性を向上させる手段を講じるようにしているが、このような手段としては、例えば被接合材と接触する先端部分が複数の可動片に分割された溶接用電極を用い、接合時、すなわち通電・加圧時に、可動片を接合中心部から外側方向に移動させるようにすることができる。
また、被接合材と接触する先端面が軸心荷重方向に対して傾斜した形状の溶接用電極を用いたり、通電・加圧時に溶接用電極に接合面に略平行な方向の振動を与えたり、溶接用電極に回転運動を与えたりすることも可能である。
【0021】
本発明の異種金属接合方法は、上記のように、異種金属間の接触による腐食防止のために、両異種材料間に介在させたシール材の接合部からの排出性を高め、もって耐食性と、シール材の残存による接合強度の低下防止とを両立させようとするものであるからして、被接合材の組合せとしては、電食防止のためにシール材の介在が必要な組合せである限り、特に限定されない。
【0022】
しかし、例えば背景技術の欄で述べたような鋼材とアルミニウム合金材料の接合のように、被接合材の表面に緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、しかも高硬度で脆弱な金属間化合物が生成され易い材料の組合せの場合には、被接合材の少なくとも一方とシール材の間に、被接合材の少なくとも一方との間で共晶溶融を生じる第3の金属から成る材料を介在させ、共晶溶融を生じさせて接合することが望ましい。
この場合、接合過程において、酸化皮膜や共晶溶融物、その他種々の反応生成物が発生し、これら夾雑物を接合界面から排出することが必要となることから、本発明の適用がより効果的なものとなる。
【0023】
共晶反応としては、例えばAl−Zn系合金において、Alの融点933K及びZnの融点692.5Kよりもはるかに低い655Kで共晶反応を生じることが知られている。
したがって、これを利用してAlとZnの共晶溶融を作り出し、アルミニウム材の接合時における酸化皮膜除去や相互拡散などの接合作用に利用することによって、低温接合が実施できるため、FeAlやFeAlなどの金属間化合物の接合界面における成長を極めて効果的に抑制することができる。
【0024】
ここで、共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融であって、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えば、上記したアルミニウムと亜鉛の場合には、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであり、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0025】
一方、アルミニウム材の表面には強固な酸化皮膜が存在するが、これは抵抗溶接時の通電と加圧によってアルミニウム材に塑性変形が生じることにより物理的に破壊されることになる。
すなわち、加圧によって材料表面の微視的な凸部同士が擦れ合うことから、一部の酸化皮膜の局所的な破壊によってアルミニウムと亜鉛が接触した部分から共晶溶融が生じ、この液相の生成によって近傍の酸化皮膜が破砕、分解されてさらに共晶溶融が全面に拡がる反応の拡大によって、酸化皮膜破壊の促進と液相を介した接合が達成される。
【0026】
共晶組成は相互拡散によって自発的に達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件としては2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0027】
上記のように鋼材とアルミニウム合金材の組合せの場合、両材料の間に介在させる第3の金属材料としては、アルミニウム合金と低融点共晶を形成する材料でさえあれば、特に限定されることはなく、例えば、上記した亜鉛(Zn)の他には、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
【0028】
すなわち、これら金属とAlとの共晶金属は、母材であるアルミニウム合金材の融点以下の温度で溶融するため、脆弱な金属間化合物が生成し易い鋼材とアルミニウム合金材の接合においても、金属間化合物がほとんど生成しないような低温で酸化皮膜を除去することができ、接合過程での接合界面における金属間化合物の生成が抑制でき、強固な接合が可能になる。
本発明の接合方法においては、被接合材と接触する先端部分が複数の可動片に分割された溶接用電極や、先端面が傾斜した電極を用いたり、電極に振動や回転を与えたりして、被接合材の軟化した固相状態における流動性を高めるようにしているので、シール材と共に、酸化皮膜や共晶溶融物、接合過程における反応生成物などの夾雑物の接合部からの排出がより効果的に行われることから、被接合材同士の密着性が高まり、異材継ぎ手の接合強度を向上させることができる。
【0029】
なお、本発明において、両材料とシール材の間に介在させる第3の金属材料としては、上記したような純金属に限定されず、共晶金属は2元合金も3元合金も存在するため、これらの少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0030】
本発明において、上記第3の金属材料を被接合材の間に介在させるための具体的手段としては、被接合材である異種金属材料の間に、第3の金属材料から成るインサート材を挿入することもできるが、被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料をめっきなどによってあらかじめ被覆しておくことが望ましく、これによって第3の材料をインサート材として被接合材間に挟み込む工程を省略でき、作業効率が向上すると共に、共晶反応によって溶融されためっき層が表面の不純物と共に接合部の周囲に排出された後に、めっき層の下から極めて清浄な新生面が現れることになり、より強固な接合が可能となる。
【0031】
そして、例えば、上記したアルミニウム合金材やマグネシウム合金材と鋼材との異材接合に際しては、鋼材として、アルミニウムやマグネシウムと低融点共晶を形成する第3の金属材料である亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができ、この場合には、特別な準備を要することもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種金属の強固な接合が可能になる。
【0032】
次に、アルミニウム合金板材と亜鉛めっき鋼板の接合を例に挙げて、本発明の実施形態について説明する。
【0033】
図1は、本発明の異種金属接合方法に用いる交流タイプのスポット溶接装置の全体図であって、アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2は、これらの間に防錆用のシール材Sとして、熱硬化性構造用接着剤を塗布した状態で重ね合わせてある。
なお、シール材Sとしては、このような絶縁性の接着剤を塗布するほか、絶縁性樹脂からなる薄いシート状のものを挟むようにすることもできる。
【0034】
図2は、図1に示した溶接用電極E1の具体的な構造を示すものであって、この例において、アルミニウム合金板1に当接する図中上側の電極E1は、当該電極の外周部を構成する中空円筒形のホルダー11と、その中心部に上下動可能に指示された駆動コア12と、該駆動コア12の図中下端側に配置された4個の可動片13から主に構成され、この可動片13は、上記駆動コア12とホルダー11の下端部に形成されたストッパー11aとの間に水平方向に移動可能に支持されている。
そして、この可動片13は、コイルばね14によってそれぞれ中心側に向けて付勢されると共に、各可動片13の上端面と上記駆動コア12の下端面は、テーパー面で互いに接していることから、駆動コア12が図中下方に押出されると、コイルばね14の弾性力に抗して、4個の可動片13が中心側から外周方向に移動するようになっている。
【0035】
図2に示した構造を備えた電極E1を搭載した抵抗スポット溶接装置を用いて、上記アルミニウム合金板1と亜鉛めっき鋼板2の接合が開始され、電極E1、E2による通電・加圧が行われると、駆動コア12が押し下げられ、可動片13がそれぞれ外周方向に拡がることによって、加熱されて軟化した被接合材、特にアルミニウム合金板1の流動性が高まり、シール材S、続いて共晶溶融物や酸化皮膜、その他の反応生成物などを含む夾雑物が排出物Dとなって接合界面から効率的に押出され、これらシール材Sや排出物Dの残存による強度低下と共に、異種金属接触による耐食性劣化を防止することができる。
【0036】
図3(a)〜(f)は、この共晶溶融を伴う接合プロセスの概略図であって、図3(a)は、接合開始前の被接合材の状態を示し、アルミニウム合金板1と、Alと共晶を形成する第3の金属材料として機能する亜鉛めっき層2pが表面に施された亜鉛めっき鋼板2とが亜鉛めっき層2pが内側になるように重ねられ、その界面には、上記したようにシール材Sが塗布されており、アルミニウム合金板1の表面には酸化皮膜1cが生成している。
【0037】
次に、溶接電極E1、E2によりこれら被接合材を相対的に押圧すると、図3(b)に示すように、シール材Sは接合部の中央部から外周部に排出され、中央部は亜鉛めっき層2pとアルミニウム合金板1の表面の酸化皮膜1cが直接接触する。
ここで、加圧及び通電により、機械的又は熱的な衝撃が負荷されると、図3(c)に示すように局部的に酸化皮膜が破壊される。
【0038】
これによって、亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が起こり、亜鉛とアルミニウムの共晶点温度以上に保持されると、図3(d)に示すように亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じる。
そして、図3(e)に示すように、電極のさらなる押圧によって、共晶溶融金属と共に、酸化皮膜1cや接合界面の不純物(図示せず)が排出物Dとなって、接合部周囲に排出されながら、さらにシール材も排出され、所定の接合面積が確保される。
【0039】
このとき、アルミニウム合金板1の電極として、可動片13を先端部に備えた電極E1を使用することによって、アルミニウム合金の軟化した固相状態における塑性流動を促進するようにしているので、接合界面の密着性が向上し、上記シール材Sや排出物Dの接合部からの排出が一層促進されることになる。
その後、アルミニウムと鋼の新生面同士が直接接合され、図3(f)に示すように、亜鉛めっき鋼板2とアルミニウム合金板1の間に拡散反応層Ldが形成され、強固な金属接合を得ることができる。
【0040】
図4は、このようにして得られた接合構造の中心部を示す拡大図であって、シール材Sや、酸化皮膜、共晶反応物などの夾雑物が接合界面から除去され、拡散反応層Ldが形成された接合部が排出物Dと、さらにはシール材Sによって、その周囲を囲われた構造となっているため、腐食環境から完全に遮断され、異種金属の接触腐食に対する優れた耐食性が得られ、強度と耐食性を両立することができる。
【0041】
このとき、図5に示すように、4個の可動片13の中心部に空間を開けておくことによって、電流をリング状に流すことができるようになり、電流値が同じ場合でも接合部の外周径を拡大することができ、もって接合強度を効率的に向上させることができる。
【0042】
なお、上記した電極E1を用いた場合の接合条件の目安としては、アルミニウム合金板1が板厚1mmの6000系合金、亜鉛めっき鋼板2が20μmのめっき厚さを有する板厚0.55mmの場合、溶接電流24000A、通電時間0.2秒、加圧力300kgf程度の条件を採用することができる。
【0043】
図6は、被接合材の軟化した固相状態における塑性流動を促進し、被接合材同士の密着性を向上させる手段の他の例を示すものであって、図示するように、電極E1、E2の先端面、つまり被接合材1,2との接触面が軸心荷重方向に対して傾いている電極を用いることによって、接合界面における面内剪段方向の力を簡素な構造によって効果的に発生させることができる。
【0044】
すなわち、このような傾斜面15を備えた上下電極E1,E2の軸心方向に負荷が加わると分力である面内剪断方向の力が付与されることになり、これによって、被接合材、特に融点が低い方のアルミニウム合金板1の塑性流動が促進され、接合界面の密着性が向上し、シール材Sや、酸化皮膜、共晶反応生成物などの夾雑物を接合界面に残存させることなく、効果的に接合界面から周囲に排除することができ、図2及び図5に示した電極を用いた場合と同様に、継手強度と耐食性を共に確保することができる。
【0045】
図7は、被接合材の軟化した固相状態における流動性を高め、接合界面の密着性を向上させる手段のさらに他の例を示すものであって、ここでは、図示するように、アルミニウム合金板1に接触する側の電極E1に、水平振動を付与する振動子20を取付け、接合に際して当該電極E1に接合面に略平行な方向に振動を与えることができるようになっており、この振動子20によって電極E1を振動させることにより、被接合材料、特にアルミニウム合金板1の塑性流動を促進し、接合界面の密着性を向上させることができる。
【0046】
振動子20によって電極E1を振動させながら、同様の条件により通電・加圧することによって接合を行うが、このときの水平振動の振幅を変化させることによって、流動性を高め、密着性を向上させる領域を変化させることができ、所望の領域での接合を実現することができ、シール材Sや酸化皮膜、共晶反応生成物などの夾雑物を接合界面から円滑に排除することができ、シール材Sや排出物Dを接合界面に残存させることなく、高強度接合構造を得ることができ、継手強度と耐食性を両立させることができる。
【0047】
そして、被接合材の塑性流動を促進し、接合界面の密着性を向上させる手段としては、図8に示すように、電極E1に回転運動を付与することによっても可能である。
このとき、電極E1に回転力を付与する回転機構としては、例えば、図9(a)に示すように、外部に備えた電動モータ30の回転を平歯車31,32により減速伝達するモータ回転機構や、図9(b)に示すようなエアータービン35を用いた回転機構を採用することができる。
【0048】
このような機構によって、電極E1を回転させながら、同様の条件により通電・加圧することによって、アルミニウム合金板1の塑性流動が促進され、接合界面の密着性が向上して、シール材Sや界面に介在する種々の夾雑物を接合界面から円滑に排除することができ、シール材Sや排出物Dを接合界面に残存させることなく、継手強度と耐食性を両立させることができる。
このような回転機構を用いることによって、接合界面における面内剪段方向の力を面内全域にわたって、比較的均一に発生させることができ、より均一・安定な接合状態を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に用いる抵抗スポット溶接装置の全体的な構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態として、可動片を備えた電極構造及び当該電極による接合要領を示す概略図である。
【図3】(a)〜(f)は共晶溶融を伴うアルミニウム合金と亜鉛めっき鋼板の接合プロセスを示す工程図である。
【図4】図3に示したプロセスによるアルミニウム合金と亜鉛めっき鋼板の接合構造を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態として、図2に示した電極の変形例を示す概略図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態として、傾斜面を備えた電極による接合要領を示す概略図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態として、振動子により電極に振動を与えながら行う異種金属の接合要領を示す概略図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態として、電極に回転運動を与えながら行う異種金属の接合要領を示す概略図である。
【図9】(a)及び(b)は図8に示した電極の回転機構の構造例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0050】
1 アルミニウム合金板亜鉛めっき鋼板
2 亜鉛めっき鋼板
13 可動片
15 傾斜面
20 振動子
30 電動モータ
35 エアータービン
S シール材
E1 溶接用電極
E2 溶接用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール材を介して重ね合わせた異種金属から成る被接合材同士を抵抗スポット溶接するに際して、軟化した固相状態の被接合材の流動を促進して、接合界面の密着性を向上させることを特徴とする異種金属接合方法。
【請求項2】
被接合材と接触する先端部分が複数の可動片に分割された溶接用電極を用いることを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合方法。
【請求項3】
被接合材との接触面が軸心荷重方向に対して傾いている溶接用電極を用いることを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合方法。
【請求項4】
溶接用電極に接合面に略平行な方向の振動を与えながら接合することを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合方法。
【請求項5】
溶接用電極に回転運動を与えながら接合することを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合方法。
【請求項6】
上記被接合材の少なくとも一方とシール材の間に、被接合材の少なくとも一方との間で共晶溶融を生じる第3の金属から成る材料を介在させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の異種金属接合方法。
【請求項7】
上記被接合材がそれぞれ亜鉛めっき鋼板及びアルミニウム合金板であって、上記亜鉛めっき鋼板にめっきされている亜鉛を第3の金属材料として利用することを特徴とする請求項6に記載の異種金属接合方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の方法で接合され、被接合材同士が直接接合された接合部の周囲がシール材によって囲まれていることを特徴とする異種金属の接合構造。
【請求項9】
軟化した固相状態の被接合材の流動性を促進し、接合界面の密着性を向上させる手段を備えたことを特徴とする抵抗スポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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