説明

癌の診断と治療を同時に遂行する抗癌剤

鎖末端官能性化したポリマー、酸化鉄などの造影物質及びドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩などの化学療法剤を含む抗癌剤であって、癌の診断と治療を同時に遂行することを特徴とし、ドキソルビシンの心臓毒性副作用が顕著に低減され、癌部位へのターゲッティング機能に優れ且つ坑癌効果を顕著に向上させることができ、同時にMRI造影剤として癌の診断及び病期のモニタリングが可能な抗癌剤が提供される。特に、固形癌の診断及び治療に優れており、原発生癌のみならず転移癌の診断及び治療を同時に効果的に遂行することができる抗癌剤が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断と治療を同時に遂行するポリマーミセル型造影剤及び抗癌剤に関する。より詳しくは、本発明は、癌を診断し且つ効果的に治療しつつも副作用が顕著に低減したミセル型ナノ粒子造影剤、及び化学療法剤を含む抗癌剤、例えば、鎖末端官能基化されたポリマー及び酸化鉄などの造影物質、並びにドキソルビシン又は製薬学的に許容されるその塩などに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体内で薬物を運搬するための運搬体として使用されるポリマーは、生物学的に合成され、または生分解される性質を有することが求められる。例えば、PLGAのようなポリマーは、生体内で乳酸とグリコール酸に分解されるため人体に何らの害がない。そのため、生分解性ポリマーを利用して薬物運搬体を調製すると、各種の薬物に対して持続的な放出効果を期待することができる。特に、所定の周期にて投薬して初めて血中濃度を保つことで薬物の効果が現われる薬物の場合、生分解性ポリマーで調製した薬物運搬体に薬物が封入されると、ポリマー運搬体の分解によって薬物が継続的に放出される。したがって、かかる徐放製剤が各種の薬物に応用されている。このような放出機序を有する担体には、ミクロスフェア(microsphere)、ナノ粒子、及びミセルなどがある。
【0003】
ナノ粒子は、その大きさが数nmから数百nmの広い表面積を有するコロイド状の不均一な分散粒子の一種である。今まで数多くの研究によってナノ粒子の製造、特性の究明、薬物封入に関する研究がなされ、薬物運搬体としての可能性が十分に立証された。ナノ粒子の人体への投入の際は、注射、経口、皮膚などの様々な方法にて運搬される。この際の薬物の分布は、少しずつ異なっている。その中の一つは、コロイド分散粒子であるナノ粒子を利用した薬物運搬体である。
【0004】
ポリマーミセルは、薬物送達システムにおいて有望な運搬体である。通常、両性ブロックコポリマーから構成されたブロック共重合ポリマーミセルは、化学療法剤のような疎水性薬剤の運搬体として使用された(Y. Kakizawa and K. kataoka、Drug. Del. Rev.、54(2)、203-222(2002))。一つのポリマーミセルは、数百個のブロックポリマーから構成されており、直径が20〜50nmである。ミセルは、二つの円形部分、すなわち密に詰められた疎水性ブロックの中心と新水性のシェル部分を有する。
【0005】
現在まで使用されてきている癌治療用の化学療法剤の代表的な例は、ドキソルビシン(Doxorubicin)またはアドリアマイシン(Adriamycin)、シスプラチン(Cisplatin)、タクソール(Taxol)、5−フルオロウラシルなどがあり、癌治療のための化学治療法として広範に使用されてきている。しかしながら、治療可能な程度の量だけを投与しても患者が激痛を感じるようになる。このような症状の理由は、化学療法剤が癌細胞だけに作用するのではなく、一般の細胞にも作用するためである。
【0006】
このような問題を解決するために、ナノ粒子を利用して化学療法剤を投与すれば、数nmから数百nmに至る特徴的な粒子の大きさのため血管内壁細胞間結合が相対的に緩い癌細胞組職に特異的に運搬され、細胞間結合が稠密な一般細胞には透過し難くなる。したがって、このような原理を用いて化学療法剤を投与すれば、化学療法剤の非特異性を物理的に乗り越えることができる。
【0007】
一方、薬物として化学療法剤を含む既存の多くの薬物運搬の問題点のうちの一つは、使用した化学療法剤が持続的に放出されないということである。すなわち、従来の薬物運搬体の場合、初期には担体の表面にある化学療法剤が拡散の形態で放出されることで初期放出量が相当に高い反面、時間が経過するにつれて放出量が次第に減少していくため、血中濃度を一定に保つことに問題が生じるようになる。
【0008】
その他、運搬体内に多量の化学療法剤を封入する必要がある。多量の化学療法剤が使用されることでこれを利用した薬物運搬体の製剤化過程やその他調製過程で消失率が高い。このことから、運搬体の製造後に運搬体内に存在する化学療法剤の量を調べてみたところ、50%以上も消失した場合が多いとの報告が既になされている。このため、多くの研究陣らが薬物として使用した化学療法剤の封入率を高めるために心血を注いでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一の目的は、上記のような問題点を解決することである。
【0010】
本発明の一の目的は、癌の診断と同時に治療することである。
【0011】
本発明の一の目的は、従来の抗癌化学療法剤の効果を顕著に向上させることである。
【0012】
本発明の一の目的は、従来の坑癌化学療法剤の副作用を顕著に低減させることである。本発明の他の一の目的は、特に、ドキソルビシンの心臓毒性の副作用を顕著に低減させることである。
【0013】
本発明の一の目的は、ドキソルビシンを癌部位だけに特異的に運搬することである。
【0014】
本発明の一の目的は、特に固形癌の診断及び治療を同時に遂行することである。
【0015】
本発明の一の目的は、原発生癌だけでなく転移癌までも診断及び治療を同時に遂行することである。
【0016】
本発明の一の目的は、溶解性に優れ且つ剤形が安定し、患者への投与時に副作用が少ない抗癌剤を提供することである。
【0017】
本発明のまた他の一の目的は、抗癌剤を運搬するのみならず、これと同時に造影剤としても機能することで疾病の診断及び疾病の進行をモニターすることである。
【0018】
本発明のまた他の一の目的は、ナノ寸法粒子の形態で抗癌剤を提供することにより、相対的に血管内壁細胞間結合が緩い癌細胞組職に抗癌剤が特異的に運搬されるターゲッティング効果を得ることである。また、高いターゲッティング効果によって抗癌剤の使用量を減らすことである。
【0019】
本発明のまた他の一の目的は、化学療法剤が徐々に放出されるようにすることで抗癌剤の効能を保ち且つ副作用を予防することである。
【0020】
本発明のまた他の一の目的は、従来の抗癌剤の投与量と同じかそれより少ない量でも優れた坑癌効果を得ることができ且つ副作用を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記のような目的を達成するために、本発明の一の目的による抗癌剤は、癌の診断と治療を同時に遂行する抗癌剤であって、
下記化学式1:
【化1】

[式中、
Rはメチル、n−ブチル、2級ブチル、3級ブチルまたはメトキシであり、そして
nは10〜500の整数である。]
で表される鎖末端官能性化したポリマーと、
造影物質、及び
化学療法剤
を含み、ミセル構造を有するナノ粒子の形態であることを特徴とする、抗癌剤が提供される。
【0022】
また、本発明の別の実施態様によると、癌の診断を遂行するポリマーミセル型造影剤であって、下記化学式1:
【化2】

[式中、
Rはメチル、n−ブチル、2級ブチル、3級ブチルまたはメトキシであり、
nは10〜500の整数である。]
で表されるポリマー、及び
造影物質を含み、
ミセル構造を有するナノ粒子の形態である造影剤が提供される。
【0023】
一方、本発明の一の態様によると、ポリマーミセル型抗癌剤の製造方法であって、薬物をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させて薬物のDMSO溶液を調製する第1段階と、上記得られた溶液にトリエチルアミンを添加する第2段階と、鎖末端官能性化したポリマーをDMSOに溶解させてポリマーのDMSO溶液を調製する第3段階と、上記得られた薬物のDMSO溶液とポリマーのDMSO溶液とを混合する第4段階と、上記得られた溶液に造影物質を添加する第5段階、及び上記得られた溶液を透析し凍結乾燥させる第6段階を含む方法が提供される。
【0024】
また他の本発明の一の目的によるポリマーミセル型造影剤の製造方法は、鎖末端官能性化したポリマーをDMSOに溶解させてポリマーのDMSO溶液を調製する第1段階と、上記得られたポリマー溶液に造影物質を添加する第2段階、及び上記得られた溶液を透析し凍結乾燥させる第3段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によるポリマーミセル型抗癌剤は、癌の治療と同時に造影剤としても機能することで癌の診断及び病期の推移をモニターすることができる。また、本発明によるポリマーミセル型抗癌剤は、ドキソルビシンの心臓毒性の副作用を格段に低減させることができる。本発明は、ナノ寸法粒子形態で抗癌剤を提供することにより、相対的に血管内壁細胞間結合が緩い癌細胞組職に抗癌剤が特異的に運搬されるターゲッティング効果を奏することができる。また、このような高いターゲッティング効果により、抗癌剤の使用量を減らすことができ、これにより、副作用と毒性を顕著に低減させることができる。また、従来と同等な量を使用する場合、ターゲッティングによって更に高い坑癌効果を得ることができる。本発明によるポリマーミセル型抗癌剤は、薬物が徐々に放出することを可能にするため、薬物の効能を長期間保ち且つ一時的な大量放出による副作用を予防することもできる。さらには、本発明によるポリマーミセル型抗癌剤は、溶解性に優れ且つ剤形が安定し、患者への投与時に副作用が少ないという長所がある。
【0026】
本発明の上に記載された目的、特徴及び利点、その他の目的、特徴及び利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な記載を参照することにより、いっそう明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤の構造を示す図である。
【図2】本発明の一の実施態様によるPEO−TMA−FAポリマーのFT−IRスペクトラムを示す図である。
【図3】本発明の一の実施態様によるPEO−TMA−FAポリマーのFT−NMRスペクトラムを示す図である。
【図4】本発明の一の実施態様によるPEO−TMA−FAポリマーのGPC曲線を示す図である。
【図5】本発明の一の実施態様に従い製造された、改質されたmPEGのNMRスペクトラムを示す図である。
【図6】本発明の一の実施態様に従い製造された、改質されたmPEG−TMAのNMRスペクトラムを示す図である。
【図7】本発明の一の実施態様に従い製造された、改質されたmPEG−TMA−FAのNMRスペクトラムを示す図である。
【図8】本発明の一の実施態様に従い製造されたポリマーミセル型造影剤及び抗癌剤の構造をcryo−TEM(FEI Co.(USA)のBIO-TEM(Biological Transmission Electron Microscopy:生物専用透過電子顕微鏡、モデル:Tecnai G2 Spirit))を使用して測定した結果を示す写真である。
【図9】本発明の一の実施態様に従い製造されたポリマーミセル型造影剤及び抗癌剤の構造をcryo−TEM(FEI Co.(USA)のBIO-TEM(Biological Transmission Electron Microscopy:生物専用透過電子顕微鏡、モデル:Tecnai G2 Spirit))を使用して測定した結果を示す写真である。
【図10】本発明の一の実施態様に従い製造されたポリマーミセル型造影剤及び抗癌剤の構造をcryo−TEM(FEI Co.(USA)のBIO-TEM(Biological Transmission Electron Microscopy:生物専用透過電子顕微鏡、モデル:Tecnai G2 Spirit))を使用して測定した結果を示す写真である。
【0028】
【図11】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型造影剤の造影効果を示す写真である。
【図12】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型造影剤の造影効果を示す写真である。
【図13】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型造影剤の造影効果を示す写真である。
【図14】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型造影剤の造影効果を示す写真である。
【図15】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤の細胞毒性試験を示すグラフである。
【図16】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤の細胞流入実験を示すグラフである。
【図17】ポリマーミセル型抗癌剤の投与後における経時的血漿濃度の変化を示すグラフである。
【図18】ポリマーミセル型抗癌剤の投与後における経時的血漿濃度の変化を示すグラフである。
【図19】ポリマーミセル型抗癌剤の投与後における各臓器に薬物が分布される程度を測定する生体内分布実験結果を示す図である。
【図20】ポリマーミセル型抗癌剤の投与後における各臓器に薬物が分布される程度を測定する生体内分布実験結果を示す図である。
【0029】
【図21】ドキソルビシンの特性ピークを示す図である。
【図22】本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤のHPLCピークを示す図である。
【図23】溶媒としてDMSOのみを使用した場合とDMSO+水の混合溶媒を使用した場合における、封入率の差を示すグラフである。
【図24】ラットにポリマーミセル型抗癌剤を投与した後における腫瘍の成長を測定した結果を示すグラフである。
【図25】ラットにポリマーミセル型抗癌剤を投与した後における腫瘍の成長を測定した結果を示すグラフである。
【図26】ラットにポリマーミセル型抗癌剤を投与した後における腫瘍の成長を撮影した写真である。
【図27】ラットにポリマーミセル型抗癌剤を投与した後における腫瘍の成長を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明についてより詳しく記述する。
本発明の一の実施態様では、上記化学式1のポリマーは、鎖末端官能性化したポリエチレンオキシドであってもよい。本発明のまた他の実施態様では、上記化学式1のポリマーは、鎖末端官能性化したメトキシポリエチレングリコール(m−PEG)であってもよい。具体的に、化学式1において、Rがメチル、n−ブチル、2級ブチルまたは3級ブチルの場合には、上記ポリマーは鎖末端官能性化したポリエチレンオキシドである。一方、化学式1中、Rがメトキシの場合には、上記ポリマーは鎖末端官能性化したメトキシポリエチレングリコール(m−PEG)である。
【0031】
上記化学式1中、nが10未満であるとポリマーとしてミセルを形成しにくくなり、500を超えるとミセル粒子の大きさが大きすぎて所望の癌細胞だけに標的運搬しにくくなる。
【0032】
本発明の一の実施態様では、上記鎖末端官能性化したポリマーは数平均分子量が1,100〜23,000であることが好ましい。1,100未満であるとポリマーとしてミセルを形成しにくくなり、23,000を超えるとミセル粒子の大きさが大きすぎて所望の癌細胞だけに標的運搬しにくくなるためである。
【0033】
本発明の一の実施態様による抗癌剤の組成は、鎖末端官能性化したポリマー:上記酸化鉄:上記ドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩の重量比が5〜50:2.5〜20:1〜2である。酸化鉄が上記範囲外であるとミセルナノ粒子が調製できなくなる。また、ドキソルビシンの量が小さすぎると封入率が低く、そしてドキソルビシンの量が多いとミセルナノ粒子が調製できなくなる。ポリマーの量が小さすぎるとミセル構造を形成しにくくなり、ポリマーの量が大きすぎるとドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩と酸化鉄の封入率が低くなる。上記ドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩の量は、本発明によるミセルナノ粒子に封入できる適正の割合を意味する。
【0034】
上記したミセルナノ粒子の大きさは30〜200nmであり、好ましくは、50〜100nmである。
【0035】
本発明の一の目的によるポリマーミセル型造影剤の組成における造影物質としては、酸化鉄、ガドリニウム、マンガン、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び稀土類元素から選ばれてよく、好ましくは酸化鉄である。酸化鉄(Fe34)は、細胞が互いに付着し、動き、成長することを助ける作用をし、特に、MRI造影効果及びミセルの形成に主な役割をする。上記酸化鉄はナノ粒子であることが好ましい。
【0036】
本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤の組成における、薬物に封入される化学療法剤としては、ドキソルビシンまたはアドリアマイシン、シスプラチン、タクソール、5−フルオロウラシル、または製薬学的に許容されるその塩などから選ばれてよく、好ましくはドキソルビシンである。
【0037】
本発明の一の目的による抗癌剤に使用できる化学療法剤であるドキソルビシンの製薬学的に許容されるその塩は、酸付加塩または塩基付加塩を含む。製薬学的に許容される塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、またはマグネシウム塩、または類似の塩が含まれる。製薬学的に許容される酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸水素、リン酸、リン酸水素、リン酸二水素、硫酸、硫酸水素、ヨウ化水素酸または亜リン酸などのような無機酸から誘導されたもの、及び酢酸、アスコルビン酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、乳酸、リンゴ酸、グルタミン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、ラクトビオン酸などのような比較的非毒性有機酸から誘導された塩が含まれる。また、アルギン酸塩などのようなアミノ酸の塩、及びグルクロン酸またはガラクツロン酸などのような有機酸の塩が含まれる。その中でも塩酸塩であることが好ましい。
【0038】
また他の本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤において、上記癌は固形癌であることが好ましい。
【0039】
また他の本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤において、上記癌は原発生癌であってよく、転移癌であってもよい。
【0040】
図1は、本発明の一の実施態様によるポリマーミセル型抗癌剤の構造を示す図である。ここで、造影物質は酸化鉄(Fe34)であり、薬物は化学療法剤であるドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩(Dox)である。鎖末端に葉酸(folic acid、FA)が結合されたポリエチレンオキシド(PEO)またはメトキシポリエチレングリコール(m−PEG)がミセル構造を形成し、その内部に酸化鉄とドキソルビシンが封入されたことを示す。
【0041】
ドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩は、固形癌を治療するために使用される静脈注射薬物であって、乳癌、肺癌、卵巣癌、悪性血液疾患などの各種癌を治療するために広範に使用される。酸化鉄は、細胞が互いに付着し、動き、成長することを助ける作用をする。細胞が酸化鉄に付くと癌細胞がドキソルビシンを食べ、抗癌剤が他の正常部位には行かずに癌細胞だけに行くようになる。ドキソルビシンの坑癌効果は非常に高い。しかしながら、ドキソルビシンの実際の患者への投与の際、患者が耐えられる投与量は、その副作用のため非常に制限的である。過量のドキソルビシンを投与すると、正常な心臓細胞に大きな損傷を与えることで心臓発作が起こることがある。このような副作用は、薬物の標的運搬と薬物を徐々に放出することで低減することができる。
【0042】
本発明の抗癌剤において、水溶液上で自発的にミセル構造が形成される。また、当該抗癌剤は、生分解性ポリマーの分解速度に依存して薬物が徐々に放出されるという特徴を有する。
【0043】
一方、本発明によって製造されたポリマーミセル型抗癌剤の生体内の薬物動態学は、次のとおりである。ミセル構造は、腎臓排出(renal exclusion)を回避し且つ受動拡散によって標的部位への薬物の血管透過性を増大させる。さらには、ミセル構造の細胞内への移入の増大及び多剤耐性(multi-drug resistance、MDR)効果の減少により、生体内においてミセル構造の薬物摂取が増大するようになる。また、薬物に接合されたPEO骨格またはmPEGが化学的に分解しつつ薬物−PEOポリマーまたは薬物−mPEGポリマー分画上で薬物が徐々に放出されるようになる。
【0044】
本発明のポリマーミセル型抗癌剤は、製薬学的剤形の有効成分として機能し、製薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤とともに製薬学的剤形を構成することができる。このとき、有効成分である本発明のポリマーミセル型抗癌剤の含量は、全組成物に対して0.001〜99wt%であることが好ましい。使用可能な担体、賦形剤または希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシア・ゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウムス及びミネラルオイルがあり、これらの1種以上を使用してよい。また、坑癌組成物が薬剤として製造される場合、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤制、香料、乳化剤または防腐剤などをさらに含んでよい。
【0045】
本発明による上記ポリマーミセル型抗癌剤は、経口、非経口、直腸、局所、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下などに投与することができるが、最も好適な投与経路は静脈内投与である。
【0046】
また、本発明による上記ポリマーミセル型抗癌剤の投与量は、治療を受ける対象の年齢、性別、体重と、治療する特定疾患または病理状態、疾患または病理状態の深刻度、投与経路及び処方者の判断によって変わり得る。当業者ならば、かかる因子に基づく投与量を決定することができる。一般に、ドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩の投与量は、1.2〜2.4mg/kg/日の範囲である。本発明によるポリマーミセル型抗癌剤は、標的運搬が可能であることから、通常投与される量のレベルを投与すればより優れた薬効を示す。また、通常投与される量より少ない量を投与しても、標的運搬が可能であることから、通常の量が投与された場合と同様な効果を示す。このため、本発明による抗癌剤の場合、投与量を顕著に減らすことができる。
【0047】
以下、下記実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。なお、下記実施例は、本発明を例示したものに過ぎず、本発明がこれらの実施例に限定されないという事実は、当該技術分野に携わる常識的な知識を有する者には当然なことである。
【実施例】
【0048】
<製造例1:PEO−TMA−FA(ポリエチレンオキシド−無水トリメリット酸−葉酸)ポリマーの製造>
下記化学式2のPEO−TMA−FAは、下記の方法:
【化3】

に従い製造した。
(1)PEOの重合
先ず、PEOを、下記反応式1:
【化4】

に表されるように重合した。
【0049】
上記反応式1で表すように、高真空下で容量1Lの丸いパイレックス(登録商標)製フラスコ内に各種の反応物を入れた。次に、当該フラスコを、真空ラインに取り付けて空気を完全に抜き取った。アルゴン気流下でn−ブチルリチウム(12mmol)を注射器にて注入し、水槽の代わりにドライアイス/イソプロパノール槽を使用して反応器の温度を−78℃まで下げた後、反応器内のアルゴンガスを真空ポンプで完全に抜き取った。次いで、精製されたベンゼン300mLを蒸留させて反応器内に注入した。反応器の温度を徐々に常温まで昇温させて反応器内のベンゼンを完全に溶解させ、開始剤を含んだ溶液中で還元させた。氷水槽を使用して0℃で注意を払いながら精製された30mL(26.5g)のエチレンオキシド(ethylene oxide;EO)(30vol%、希釈溶液)を、ブレークシール(breakseal)を破って反応器内に注入した。約1時間後、t−BuOK(THF 20mL中の12mmol)及び30mLの精製されたDMSOをブレークシール及びストップコック(stopcock)を介して反応器内に投入した。水槽を使用して反応器の温度を35℃まで上げ、5時間撹拌しながら反応させた。再び氷水槽を使用して温度を5℃まで下げて重合を10分間進めさせ、このような過程を数回繰り返し実施した。再び常温下で48時間反応させた後、アンプルを使用して反応物の一部を主反応器から取って減圧蒸留することで溶媒を除去した。次いで、残渣をTHFに溶解させ、ジエチルエーテル中に沈殿させてポリエチレンオキシド(PEO)を得た。常温下、48時間真空オーブン中で乾燥させた。次に、1H−NMR及びゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)で分析した。その結果、得られたポリマーの数平均分子量は4,400g/molであった。EOのポリマーへの転換率は100モル%以上であった。
【0050】
(2)PEO−TMAの合成
下記反応式2に従い、PEO−TMAを合成してから、再びPEO−TMA−FAを合成した。
【化5】

【0051】
上記反応式2で表すように、上記(1)で製造された分子量4,400g/molのリビングポリマー溶液([ROLi]=0.001mol)に高減圧下で無水トリメリット酸クロリド(98%)(Aldrich)を精製していない状態で0.005モルをアンプル内に注入した。再び60mLのTHFを蒸留させてから反応器に付着させ、ブレークシールを利用して反応器内に投入した。この反応物を5℃で1時間、35℃で15時間反応させた後、ジメチルエーテルに沈澱させて溶媒を除去した。沈殿物をTHFに溶解させ、エタノール中において再結晶させて鎖末端無水ポリエチレンオキシド(ω-anhydride(polyethylene oxide))を製造した。官能基化収率は、初期使用されたポリマー溶液の濃度を基準に98mol%で、数平均分子量は4,600g/molであった。
【0052】
(3)PEO−TMA−FAの合成
上記(2)で製造されたω−無水物−PEO(Mn=4,600g/mol、1g)と葉酸(0.48g、5eq.)を20mLのDMSO中において常温下で約24時間反応させた。これを再びジエチルエーテルに再沈殿させて固体を得た後、これを再びTHFに溶解させ、エタノール中において再結晶させて黄色の粉末を得た(PEO−TMA−FA)。数平均分子量は5,000g/molであり、そして反応収率はPEOを基準に98モル%以上であった。合成されたPEO−TMA−FA化合物の分析結果は、図2〜図4に示されている。
【0053】
<製造例2:mPEG−TMA−FA(メトキシポリエチレングリコール−無水トリメリット酸−葉酸)ポリマーの製造>
下記化学式3:
【化6】

により表されるmPEG−TMA−FAは、下記の方法で製造した。
【0054】
(1)mPEGの改質
下記反応式3:
【化7】

に従いmPEGを改質した。
【0055】
容量2Lの丸いパイレックス(登録商標)製フラスコ内にメトキシ−ポリエチレングリコール(分子量5,000g/mol、Aldrich;mPEG)0.01モルを入れ、これを真空ラインに挿入して空気を完全に抜き取り乾燥した。ベンゼン1Lを蒸留してmPEGを溶解させた後、氷水槽を使用して温度を下げ、アルゴン気流下でn−ブチルリチウム(30mL)を注射器を利用してゆっくり注入した。注入が終わってからゆっくり30℃まで昇温させた。48時間反応させ、透明であった色が徐々に黄色に変わっていくことを確認し、メタノールを少量蒸留して入れ、空気と接触させて反応を終了した。ジエチルエーテル中に沈澱させて末端基がリチウム(Li)で置換されたリビングメトキシポリエチレングリコール(living methoxy polyethylene glycol; mPEG−Li)を得た。得られたポリマーの数平均分子量は5,000g/molであった。図5は、上記のようにして得られた改質されたmPEGのNMRスペクトラムを示している。
【0056】
(2)mPEG−TMAの合成
下記反応式4:
【化8】

に従いmPEG−TMA−FAを製造した。
【0057】
60mLのTHFを含む上記(1)と同じ方法にて製造された分子量5,000g/molのリビングポリマー溶液([ROLi]=0.01mol)中にアルゴン気流下で無水トリメリット酸クロリド(98%)(Aldrich)を溶解させ、これを注射器にて反応器内に投入した。この反応物を5℃で1時間、35℃で15時間反応させた後、ジメチルエーテルに沈澱させて溶媒を除去した。沈殿物をTHF中に溶解させ、エタノールで再結晶させて鎖末端無水ポリエチレンオキシド(ω-anhydride poly(ethylene oxide))を製造した。官能基化収率は初期使用されたポリマー溶液の濃度を基準に85mol%で、数平均分子量は5,200g/molであった。
【0058】
(3)mPEG−TMA−FAの合成
上記(2)で製造されたω−無水物−mPEG(Mn=5,200g/mol、1g)と葉酸(0.42g、5eq.)を20mLのDMSO中において常温下で約24時間反応させた。これを再びジエチルエーテルに再沈殿させて固体を得た後、これを再びTHF中に溶解させ、エタノールで再結晶させて黄色の粉末を得た(mPEG−TMA−FA)。数平均分子量は5,600g/molで、反応収率はmPEGを基準に80モル%以上であった。
【0059】
<実施例1:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
100mLビーカーに上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)300mgを入れ、DMSO3.5mLを入れて完全に溶解させた。この溶液に酸化鉄(Aldrich、Cat# 637106、球形、粒子の大きさ20〜30nm、純度>98+%)250mgを入れ、5%マンニトール10mLを添加した。ビーカー上をホイルで覆った後、2時間超音波処理(sonication)を施した。しかる後、この溶液を50mL子に駆るチューブに入れて2000rpmで10分間遠心分離を施した。透析のために、先ず20l DDWにマンニトール1000gを溶かして5%マンニトール溶液を製造した。この際、pHは、NaOHを使用して7.4に調節した。しかる後、予め水に浸しておいた透析メンブレン(MWCO=3,500)に遠心分離が終わったサンプルを入れた後、ホルダーでその前後を縛って溶液が入れられた透析用容器に浸してから、5%マンニトール溶液を入れ替えながら24時間500rpmで撹拌して透析を進めた。透析が完了したサンプルをディープフリーザー(deep freezer)に入れて凍らせた後、凍結乾燥器を使用して3日間凍結乾燥させ、最終的にポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0060】
<実施例2:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)500mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0061】
<実施例3:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molの(PEO−TMA−FA)600mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0062】
<実施例4:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0063】
<実施例5:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄50mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0064】
<実施例6:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄100mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0065】
<実施例7:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄150mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0066】
<実施例8:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄200mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0067】
<実施例9:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄225mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0068】
<実施例10:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
【0069】
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄250mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0070】
<実施例11:PEO−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mg及び酸化鉄275mgを混合したことを除いては、上記実施例1と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0071】
<実施例12:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
100mLビーカーに上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)300mgを入れ、DMSO3.5mLを入れて完全に溶解させた。この溶液に酸化鉄250mgを入れ、5%マンニトール10mLを添加した。ビーカーの上をホイルで覆った後、2時間超音波処理(sonication)を施した。しかる後、この溶液を50mL子に駆るチューブに入れて2000rpmで10分間遠心分離を施した。透析のために、先ず20 l DDWにマンニトール1000gを溶かして5%マンニトール溶液を製造した。この際、pHは、NaOHを使用して7.4に調節した。しかる後、予め水に浸しておいた透析メンブレイン(MWCO=3,500)に遠心分離が終わったサンプルを入れた後、ホルダーでその前後を縛って溶液が入れられた透析用容器に浸してから、5%マンニトール溶液を入れ替えながら24時間500rpmで撹拌して透析を進めた。透析が完了したサンプルをディープフリーザーに入れて凍らせた。その後、凍結乾燥器を使用して3日間凍結乾燥させ、最終的にポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0072】
<実施例13:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)500mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0073】
<実施例14:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)600mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0074】
<実施例15:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0075】
<実施例16:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄50mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0076】
<実施例17:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄100mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0077】
<実施例18:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄150mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0078】
<実施例19:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄200mgを混合したことを除いては、上記実施例2と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0079】
<実施例20:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄225mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0080】
<実施例21:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄250mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0081】
<実施例22:mPEG−TMA−FAを含むポリマーミセル型造影剤の製造>
上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mg及び酸化鉄275mgを混合したことを除いては、上記実施例12と同様に実施してポリマーミセル型造影剤を製造した。
【0082】
<実施例23:PEO−TMA−FAに造影物質と薬物が封入されたポリマーミセル型抗癌剤の製造>
ドキソルビシン塩酸塩60mgを20mLバイアルに入れ、DMSO1.5mLを添加して溶解した。次に、この溶液にトリエチルアミン(2eq)を入れて約10分間撹拌した。100mLビーカーに上記製造例1に従い製造された数平均分子量5,000g/molのポリマー(PEO−TMA−FA)750mgを入れ、DMSO3.5mLを入れて完全に溶解させた。これに、予め用意したドキソルビシンを含む溶液を入れてから、酸化鉄(Aldrich、Cat# 637106、球形、粒子の大きさ20〜30nm、純度>98+%)250mgと5%マンニトール10mLを添加した。ビーカーの上をホイルで覆った後、2時間超音波処理を施した。しかる後、この溶液を50mLコニカルチューブに入れて2000rpmで10分間遠心分離を施してサンプルを製造した。透析のために、先ず20 l DDWにマンニトール1000gを溶かして5%マンニトール溶液を製造した。この際、pHは、NaOHを使用して7.4に調節した。しかる後、予め水に浸しておいた透析メンブレイン(MWCO=3,500)に遠心分離が終わったサンプルを入れた。次に、ホルダーでその前後を縛って溶液が入れられた透析用容器に浸した。5%マンニトール溶液を入れ替えながら24時間500rpmで撹拌して透析を進めた。透析が完了したサンプルをディープフリーザーに入れて凍らせた。その後、凍結乾燥器を使用してサンプルを3日間凍結乾燥させ、最終的にドキソルビシンが封入されたポリマーミセル型抗癌剤を製造した。
【0083】
<実施例24:PEO−TMA−FAに造影物質と薬物が封入されたポリマーミセル型抗癌剤の製造>
ドキソルビシン塩酸塩70mgを混合したことを除いては、上記実施例23と同様に実施してポリマーミセル型抗癌剤を製造した。
【0084】
<実施例25:PEO−TMA−FAに造影物質と薬物が封入されたポリマーミセル型抗癌剤の製造>
ドキソルビシン塩酸塩80mgを混合したことを除いては、上記実施例23と同様に実施してポリマーミセル型抗癌剤を製造した。
【0085】
<実施例26:mPEG−TMA−FAに造影物質と薬物が封入されたポリマーミセル型抗癌剤の製造>
ドキソルビシン塩酸塩60mgを20mLバイアルに入れ、DMSO1.5mLを添加して溶解した。次に、この溶液にトリエチルアミン(2eq)を入れて約10分間撹拌した。100mLビーカーに上記製造例2に従い製造された数平均分子量5,600g/molのポリマー(mPEG−TMA−FA)750mgを入れ、DMSO3.5mLを入れて完全に溶解させた。これに、予め用意したドキソルビシンを含む溶液を入れてから、酸化鉄(Aldrich、Cat# 637106、球形、粒子の大きさ20〜30nm、純度>98+%)250mgと5%マンニトール10mLを添加した。ビーカーの上をホイルで覆った後、2時間超音波処理を施した。しかる後、この溶液を50mL円錐管に入れて2000rpmで10分間遠心分離を施してサンプルを製造した。透析のために、先ず20 l DDWにマンニトール1000gを溶かして5%マンニトール溶液を製造した。この時点で、pHは、NaOHを使用して7.4に調節した。しかる後、予め水に浸しておいた透析メンブレイン(MWCO=3,500)に遠心分離が終わったサンプルを入れた後、ホルダーでその前後を縛って溶液が入れられた透析用容器に浸してから、5%マンニトール溶液を入れ替えながら24時間500rpmで撹拌して透析を進めた。透析が完了したサンプルをディープフリーザーに入れて凍らせた後、凍結乾燥器を使用して3日間凍結乾燥させ、最終的にドキソルビシンが封入されたポリマーミセル型抗癌剤を製造した。
【0086】
<実施例27:mPEG−TMA−FAに造影物質と薬物が封入されたポリマーミセル型抗癌剤の製造>
塩酸ドキソルビシン70mgを混合したことを除いては、上記実施例26と同様に実施してポリマーミセル型抗癌剤を製造した。
【0087】
<実施例28:mPEG−TMA−FAに造影物質と薬物が封入されたポリマーミセル型抗癌剤の製造>
塩酸ドキソルビシン80mgを混合したことを除いては、上記実施例26と同様に実施してポリマーミセル型抗癌剤を製造した。
【0088】
<比較例1>
ポリマーミセル化製造プロセスに供されていない標準ドキソルビシン(フリードキソルビシン)を用意した。
【0089】
<実験例1:ミセル構造、粒子の大きさ、封入率などの測定>
先ず、上記実施例1〜28に従い製造された製剤のポリマーミセルの粒子の大きさ、酸化鉄及び薬物の封入率は、下記表1に表したとおりである。
【0090】
【表1】

*直径:3種の測定値、つまり、粒子の大きさの測定する場合の散乱光による粒子の大きさ、重さによる粒子の大きさ、数による粒子の大きさ、の平均サイズ。
*wt.:重量あたりのサイズ
*封入割合(%):酸化鉄及び薬物の封入割合は3回測定した平均値を示し、誤差範囲は±0.2である。
【0091】
上記実施例4と23に従い製造されたポリマーミセル型造影剤及び抗癌剤とPEO−TMA−FAポリマーのcryo−TEMは、FEI Co.(USA)のBIO−TEM(Biological Transmission Electron Microscopy:生物専用透過電子顕微鏡、モデル:Tecnai G2 Spirit)を使用して次のような方法にて測定した。先ず、生理食塩水にゼラチンが10%になるように混合し、該ゼラチンを37℃で液相にした。液相ゼラチンとポリマーミセル試料とをよく混ぜ合わせてから常温下で固形化させる。しかる後、この試料をウルトラミクロトーム(ultra microtome)を使用して70nm厚さの切片にしてから、カーボンコーティングされた格子に載置してTEM測定を実施した。その測定結果は、図8〜図10に示されている。図8は、ポリマーPEO−TMA−FAの構造を測定したものであり、図9及び10は、実施例4、実施例23に従いそれぞれ製造されたポリマーミセルの構造を測定したものである。図面に示されているように、上記ら実施例に従い製造された造影剤及び抗癌剤はミセル形態を有し、その粒子の大きさは50〜100nmでナノ粒子であることが分かった。
【0092】
<実験例2:ポリマーミセル型造影剤の造影効果の測定>
正常マウスの肝臓における造影効果
先ず、マウスの肝臓における造影効果をみるために、雄SD−ラットを麻酔させた。次にマウスのしっぽ静脈に実施例10及び21による造影剤をそれぞれ0.9cc(固定量)ずつ注入した後、MR映像を得た。そのうちの実施例10及び21の結果を図11及び図12にそれぞれ示した。左側写真がT2造影前の映像で、右側写真がT2造影後の映像である。その結果として、T2強調映像において、MR造影剤の注入後の肝臓の信号強さが低減することを確認した。言い換えると、肝臓におけるMR造影剤として適合していることが分かった。
【0093】
肝癌モデルマウスの肝癌造影
肝癌モデルを作るために8週齢のSD系雄マウスにジエチルニトロソアミン(diethyl nitrosamine)を1:10,000に希釈した水を腫瘍ができるまで12週間毎日与えた。飼育10週後にマウスの肝癌発生を確認後、マウスのしっぽ静脈に実施例10及び21に従い製造されたMR造影剤2mL/kg(固定量)を注入した。その結果、T2強調映像とT2*強調映像からマウスの肝癌の造影効果を見ることができた。そのうちの実施例10及び21による造影剤の結果を図13と図14に示した。図13と図14に示されたように、肝実質が低い信号強度を示しつつも肝癌が相対的に高い信号強度を示し、肝癌を容易に発見することができ、既存の市場で使用されているResovistと同じ効果を得た。また、造影剤が鉄を含有したナノ粒子であるため、この粒子が肝癌に選択的に摂取されることで肝癌の信号強さ関心領域(ROI)の低減が期待できる。実際に図13及び図14に示すように肝癌において信号強さのROIが低減した。
【0094】
<実験例3:ポリマーミセル型抗癌剤のMTT測定:毒性試験>
毒性試験
生分解性ポリマーミセル型抗癌剤の毒性をKB(ヒト表皮癌)細胞とA549(ヒト肺癌)細胞で測定した。細胞を200uL RPM1640に5×104cells/mLで希釈して96−ウエル細胞培養プレートに播種した。24時間後にドキソルビシンフリー溶液(Doxorubicin free solution、FD)とブランク(blank)ミセル、上記実施例23に従い製造したドキソルビシンが封入された抗癌剤(Micelle doxorubicin、MD)を各種の濃度にて細胞培地に処理した後、48時間インキュベート(37℃、5% CO2)した。インキュベートした後、PBSで3回洗浄してから20μL MTT(テトラゾリウム塩)溶液が含まれた培地100μLを各ウエルに加え、再び4時間インキュベートした。100uL DMSOを各ウエルに加え、細胞を分解するためにプレートを強く撹拌した。ELISAリーダーを利用して540nmにおける吸光度を測定して細胞毒性を確認した。MTT測定結果を図15に示した。図15におけるMDは、実施例23に従い製造されたミセル溶液を示す。細胞毒性程度の確認結果、実験した濃度の範囲においてMDが、FD(フリードキソルビシン)に比べて高い癌細胞殺傷能を示すことを確認することができた。
【0095】
メカニズム研究
KB(ヒト表皮癌)細胞とA549(ヒト肺癌)細胞は、韓国細胞株銀行から購入した。各細胞株をRPMI 1640培地(10%ウシ胎児血清、100ユニット/mLペニシリン、0.1mg/mLのストレプトマイシン)に培養し、細胞の培養時には、37℃、5%CO2と90%湿度の条件を常に維持した。葉酸塩競争的阻害実験時には、葉酸塩を追加して実験を行った。
【0096】
葉酸塩受容体が多く発現されているKB細胞(あるいは、Caco−2、HepG2)と葉酸塩受容体が発現されていないA549においてドキソルビシンフリー溶液(FD)とPEO−TMA−FA/Fe/Dox(実施例23)の細胞内流入量を比較した。フリードキソルビシン(20uM)と実施例23に従い製造されたPEO−TMA−FA/Fe/Dox(20uM)を葉酸(2mM)と共に3時間インキュベートした後、PBSで3回洗浄した。つぎに、細胞を収穫した。その後、前述した定量法にて細胞内に入っているドキソルビシンの量を測定した。その結果を図16に示した。結果から分かるように、ドキソルビシンが、A549よりもKB細胞に多く取り込まれていた。すなわち、葉酸塩基のターゲッティング機能を間接的に確認することができた。
【0097】
<実験例4:ポリマーミセル型抗癌剤の徐放性確認/薬物動態研究>
経時的血漿濃度の変化
Sprague Dawley(SD)成体ラットをケタミンとアセプロマジンで軽く麻酔した。次に、大腿静脈には生理食塩水を、動脈には、40 I.U./mL濃度の生理食塩水を満たしたヘパリン処理済のポリエチレン管(PE−50、intramedic、Clay-Adams)をカニューレ挿入した。所定の回復時間が経過した後、ドキソルビシンフリー溶液と上記実施例23に従い製造したポリマーミセル剤形のドキソルビシンのそれぞれを10mg/kg(ドキソルビシン基準)を静脈に投与した。投与してから0(ブランク)、1、5、15、30、60、120分になった時に血液0.3mLずつを採取し、これを遠心分離(13,000rpm、3分)して約0.1mLの血漿を分離した。その後、それを除タンパクしてからHPLCで分析を行った。
【0098】
逆相C−18カラム(Shim-pack CLS-ODS、4.6mm I.D. 250 mm L.、5 m particle diameter)を利用したHPLC法を用いた。採取した血漿0.1mLに対して内部標準物質溶液50ul(2ug/mL daunomycin)とメタノール100ul、エチルアセテート1.0mLを加え、3分間ボルテックスしてから3分間遠心分離(3000rpm)を施して有機層(1.0mL)のみを取った後、これをspeed−vacで乾燥した。残渣は300ulの移動相に再組成し、そのうちの100ulを直接HPLCシステムに注入した。HPLCシステムの移動相としては、脱イオン水(リン酸によるpH=2.5):アセトニトリル=6:4を使用し、流速は1mL/minとした。HPLC検出方法としては、470nm励起波長と565nm放出波長で蛍光分析法を用いた。検量線の作成のためのドキソルビシン標準液は、0.05、0.1、0.5、1、3ug/mLになるようにメタノールに溶かして製造した。生体試料検量線の作成時には、0.05、0.1、0.5、1、3ug/mLのドキソルビシン標準液100ulを、メタノール100ulの代わりに入れて前処理を施した後に検量線を作成し、この検量線から血漿中のドキソルビシンを求めた。その結果を図17と図18に示した。図17は実施例23の結果であり、図18は実施例26の結果である。図17及び図18から、本実施例23及び26に従い製造されたポリマーミセル型抗癌剤を投与した時の血中ドキソルビシン濃度が、FD(フリードキソルビシン)を投与した時に比べ、サンプリング時間毎に増加することが分かった。血中濃度−時間のプロットから濃度曲線下面積(area under the curve、AUC)を求めた結果、ポリマーミセル型抗癌剤の場合、AUCが5倍以上増加し、それに伴い、投与量をAUCで割って得られる値であるトータルクリアランス(CL)も減少していることを確認することができた(表2参照)。これは、ポリマーミセル型抗癌剤がFD(free doxorubicin)よりも体内において長く露出したことを意味する。
【0099】
【表2】

【0100】
<実験例5:生体内分布生体内分布実験>
SD成体ラットをエーテルで軽く麻酔した後、大腿静脈にポリエチレン管(PE−50、intramedic、Clay-Adams)をカニュール挿入した。約30〜60分ぐらい安定化した後、上記実施例23及び26に従い製造されたポリマーミセル型抗癌剤(MD)とフリードキソルビシン(FD)剤形のそれぞれを10mg/kg(ドキソルビシン基準)の量で静脈に投与した。薬物を投与してから2時間後にラットを骨頭切除(decapitation)し、肝臓、心臓、腎臓、肺、脾臓を摘出し、これらの組職約1gを取った。当該組織を冷生理食塩水(0.9%NaCl)で洗浄し、各組職の重さを測定した後、その4倍にあたる冷生理食塩水(0.9%NaCl)を加え、組職ホモジナイザ((Ultra-Turrax T25、Janke & Kunkel、IKA-Labortechnik)を使用して3分間ホモジナイズさせ、遠心分離(3000rpm、10分)を施して上澄液0.1mLを取った。当該上澄液に対して、HPLCで各組職におけるドキソルビシン分布濃度を測定した。その結果を図19及び図20に示した。図19は実施例23の結果で、図20は実施例26の結果である。
【0101】
図19及び図20に示すように、本発明によるポリマーミセル型抗癌剤の場合、大半の組職においてFDよりも組職分布が高い。しかしながら、ドキソルビシンの副作用を示す心臓の場合、FDよりも組職分布が小さいため副作用が小さいものと予想された。また、肝臓や肺において、MDの場合が正常組職よりも癌組織に多く分布していた。
【0102】
<実験例6:本発明によるポリマーミセル型抗癌剤内のドキソルビシン含量測定>
塩酸ドキソルビシン(Boryung Inc.)約10mgを100mL容量のフラスコ内に精密に取り、DMSO80mLを入れて10分間撹拌して溶解した。次に、ジメチルスルホキシドを入れて100mLにした。この溶液10mLを取り、それに移動相を入れて100mLにした液を標準液とした。上記実施例23に従い製造したポリマーミセル約10mgを100mL容量フラスコ内に精密に取り、DMSO10mLを入れて10分間撹拌して溶かした。つぎに、移動相を入れて100mLにした液をサンプル溶液とした。分析は、サンプル溶液及び標準液を用い次の試験条件にて液体クロマトグラフィー法によって試験を行い、ドキソルビシンのピーク面積At及びAsを求めた。(前処理及び分析過程は、全体的に遮光された所で迅速に行う。)
ドキソルビシン(C2729NO11)の量(mg)
=塩酸ドキソルビシン標準品の量(mg)=0.9371×(At/As)×1/10
0.9371:ドキソルビシンの分子量(543.53)/塩酸ドキソルビシンの分子量(579.99)
【0103】
SHIM−PACK VP−ODS 250×4.6コラムを使用し、移動相としてはH2O:ACN=7:3を使用し、HPLCで定量した。この際、流速は1.0mL/minにし、温度は常温にし、検出器としては、蛍光検出器(Ex.:480 Em.:560nm)を使用した。図21にドキソルビシンの特性ピークを、図22にポリマーミセル型抗癌剤のHPLCピークを示した。
【0104】
<実験例7:ドキソルビシンベースの製造方法による封入率比較>
DMSOだけを使用した製造方法
塩酸ドキソルビシン10、20、40、60mgを20mLバイアルに入れ、DMSO1mLを添加して溶解した。この溶液にトリエチルアミン(2eq)を入れて約10分間撹拌した。100mLビーカーに上記製造例1に従い製造されたポリマー(PEO−TMA−FA)750mg、酸化鉄250mg、水10mLを添加してからドキソルビシンを入れ、ビーカーの上をホイルで覆った後、2時間超音波処理を施した。しかる後、この溶液を50mLコニカルチューブに入れて2000rpmで10分間遠心分離を施してサンプルを製造した。透析のために、先ず20 l DDWにマンニトール1000gを溶かして5%マンニトール溶液を製造し、このとき、pHは、NaOHを使用して7.4に調節した。しかる後、予め水に浸しておいた透析メンブレイン(MWCO=3,500)に遠心分離が終わったサンプルを入れた後、ホルダーでその前後を縛って溶液が入れられた透析用容器に浸してから、5%マンニトール溶液を入れ替えながら24時間500rpmで撹拌して透析を進めた。透析が完了したサンプルをディープフリーザーに入れて凍らせた後、凍結乾燥器を使用して3日間凍結乾燥させ、最終的にドキソルビシンが封入されたミセルを製造した。
【0105】
共溶媒(Co-solvent)の使用(DMSO+水)
塩酸ドキソルビシン10、20、40、60mgを20mLバイアルに入れ、DMSO0.5mLを添加して溶解した。この溶液に水3mLを入れ、トリエチルアミン(2eq)を入れて約10分間撹拌した。100mLビーカーに上記製造例1に従い製造されたポリマー(PEO−TMA−FA)750mg、酸化鉄250mg、水7mLを添加してからドキソルビシンを入れ、ビーカーの上をホイルで覆った後、2時間超音波処理を施した。しかる後、この溶液を50mL円錐管に入れて2000rpmで10分間遠心分離を施してサンプルを製造した。透析のために、先ず20 l DDWにマンニトール1,000gを溶かして5%マンニトール溶液を製造した。この時点で、NaOHを使用してpHを7.4に調節した。しかる後、予め水に浸しておいた透析メンブレイン(MWCO=3,500)に遠心分離が終わったサンプルを入れた後、ホルダーでその前後を縛って溶液が入れられた透析用容器に浸してから、5%マンニトール溶液を入れ替えながら24時間500rpmで撹拌して透析を進めた。透析が完了したサンプルをディープフリーザーに入れて凍らせた後、凍結乾燥器を使用して3日間凍結乾燥させ、最終的にドキソルビシンが封入されたミセルを製造した。ポリマーミセル型抗癌剤の封入率を下記表3、4及び図23に示した。表3はDMSOのみを使用した場合の結果で、表4はDMSOと水を一緒に使用した場合の結果を示す。表3及び図23に示したように、DMSOのみを使用した場合に封入率がより高かった。
【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
<実験例8:ラットへのポリマーミセル型抗癌剤の投与後の腫瘍成長の測定>
肝癌モデルを作るために8週齢のSD系雄マウスにジエチルニトロソアミンを1:10,000に希釈した水を腫瘍ができるまで12週間毎日供給した。肝癌が100%形成され、飼育10週後にMRIで腫瘍の有無を確認した。最も大きな腫瘍の大きさが直径5mmになったときに生理食塩水、ドキソルビシン(ADM)、上記実施例23及び26に従い製造されたポリマーミセル型抗癌剤(YCC)を2mg/kg容量でマウスのしっぽに静脈注射し、再びMRI撮影をした。5日間隔で3回ずつ静脈注射し、最後の静脈注射1週間後にMRI撮影をして腫瘍の大きさを比較した。図24は実施例23の腫瘍の大きさと体重の変化を、図25は実施例26の腫瘍の大きさと体重の変化を示した図である。図26は実施例23のMRI写真であり、図27は実施例26のMRI写真である。図24と図25に示すように、本発明によるポリマーミセル型抗癌剤が腫瘍の成長を最も抑制し、また体重の損失をもたらしていないことが分かった。図26及び図27に示すように、生理食塩水とドキソルビシンの場合、却って腫瘍の大きさが大きくなったのに対し、本発明によるポリマーミセル製剤を投与した場合には、腫瘍の大きさが非常に小さくなったことを確認することができた。
【0109】
<実験例9:腫瘍移植した後のポリマーミセル型抗癌剤の投与によるラットの体重変化の測定>
上記実施例23及び26に従い製造されたポリマーミセル型抗癌剤2mg/mLをラットのしっぽ静脈に注射した後の薬物投与によるラットの体重変化を測定した。その結果を図24及び図25に示す。図24は実施例23の結果であり、図25は実施例26の結果である。図24と図25に示すように、薬物投与後に死んだマウスは一匹もなく生存率100%であった。
【0110】
産業上の利用可能性
本発明によるポリマーミセル型抗癌剤は、癌を治療すると共に造影剤としても機能し、これにより、癌の診断及び病期の推移をモニターすることができる。
本発明が、特定の好適な実施態様に関して示され、そして記載されたが、態様及び詳細における各種変更が、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の本質及び範囲から逸脱することなくなされうるということが理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の診断と治療を同時に遂行するミセル構造を有するポリマー抗癌剤であって、以下の化学式1:
【化1】

[式中、
Rはメチル、n−ブチル、2級ブチル、3級ブチルまたはメトキシであり、
nは10〜500の整数である。]
として表される鎖末端官能基化されたポリマー、
造影物質、及び
化学療法剤
を含み、ミセル構造を有するナノ粒子の形態である、前記抗癌剤。
【請求項2】
化学式Iの鎖末端官能基化されたポリマーのRが、n−ブチルである、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項3】
化学式Iの鎖末端官能基化されたポリマーのRが、メトキシである、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項4】
前記鎖末端官能基化されたポリマーが、1,100〜23,000の数平均分子量を有する、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項5】
前記ポリマー抗癌剤の粒子サイズが、30〜200nmである、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項6】
前記鎖末端官能基化したポリマー:前記造影物質:前記化学療法剤の重量比は、5〜50:2.5〜20:1〜2である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項7】
上記造影物質が、酸化鉄、ガドリニウム、マンガン、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び稀土類元素から選ばれる、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項8】
前記造影物質が酸化鉄である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項9】
前記化学療法剤が、ドキソルビシン、アドリアマイシン、シスプラチン、タキソール、5−フルオロウラシル、または製薬学的に許容されるその塩である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項10】
前記化学療法剤が、ドキソルビシンまたは製薬学的に許容されるその塩である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項11】
前記化学療法剤が、塩酸ドキソルビシンである、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項12】
前記癌が、固形癌である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項13】
前記癌は原発癌である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項14】
前記癌は転移癌である、請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤。
【請求項15】
癌の診断を遂行するためのミセル構造を有するポリマー造影剤であって、以下の:
【化2】

[式中、
Rはメチル、n−ブチル、2級ブチル、3級ブチルまたはメトキシであり、
nは10〜500の整数である。]
で表される化学式1として表されるポリマー、及び
造影物質
を含み、ミセル構造を有するナノ粒子の形態である、ポリマー造影剤。
【請求項16】
化学式Iの鎖末端官能基化されたポリマーのRが、n−ブチルである、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項17】
化学式Iの鎖末端官能基化されたポリマーのRが、メトキシである、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項18】
前記鎖末端官能基化されたポリマーが、1,100〜23,000の数平均分子量を有する、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項19】
前記ポリマー型造影物質の粒子サイズが、30〜200nmである、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項20】
前記鎖末端官能基化されたポリマー:前記造影物質の重量比が、1〜10:0.5〜4である、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項21】
前記造影物質が、酸化鉄、ガドリニウム、マンガン、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び稀土類元素から選ばれる、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項22】
前記造影物質が酸化鉄である、請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤。
【請求項23】
請求項1に記載のミセル構造を有するポリマー抗癌剤を製造する方法であって、
ジメチルスルホキシド(DMSO)中に薬剤を溶解させて、薬剤のDMSO溶液を調製し;
上記得られた溶液にトリエチルアミンを添加し;
鎖末端官能基化されたポリマーをDMSOに溶解させて、ポリマーのDMSO溶液を調製し;
上記得られた薬剤のDMSO溶液とポリマーのDMSO溶液とを混合し;
上記得られた溶液に造影物質を添加し;そして
上記得られた溶液を透析し凍結乾燥させる工程
を含む、前記方法。
【請求項24】
前記薬物が、塩酸ドキソルビシンであり、
前記造影物質は酸化鉄であり、
前記薬物をDMSOに溶解する工程において、塩酸ドキソルビシンをDMSOだけに溶解させる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項15に記載のミセル構造を有するポリマー造影剤の製造方法であって、
鎖末端官能基化されたポリマーをDMSOに溶解させてポリマーのDMSO溶液を調製し;
上記得られたポリマー溶液に造影物質を添加し、そして
上記得られた溶液を透析し凍結乾燥させる工程
を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2010−528105(P2010−528105A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510184(P2010−510184)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003271
【国際公開番号】WO2008/146976
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504466616)ヨウル チョン ケミカル カンパニー, リミテッド (16)
【Fターム(参考)】