説明

癌を治療するためのエンザスタウリン

本発明は、単剤として又はクラスI選択的HDAC阻害剤と併用してエンザスタウリンを用いる、患者の癌を治療するための生物学的マーカーとしてのHDAC2に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンザスタウリンを用いる癌の治療と併せて、生物学的マーカーとしてHDAC2を用いる方法に関する。また、本発明は、癌治療における治療効果を高めるために、クラスI選択的HDAC阻害剤と併用されるエンザスタウリンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エンザスタウリンは、PKCベータ選択的阻害剤である。エンザスタウリンは、化学名3−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−4−[1−[1−(ピリジン−2−イルメチル)ピペリジン−4−イル]−1H−インドール−3−イル]−1H−ピロール−2,5−ジオンを有し、特許文献1に開示されている。
【0003】
HDACは、ヒストン脱アセチル化酵素スーパーファミリーに属している。酵母の脱アセチル化酵素に対する相同性に基づいて4つのクラスに分類される、少なくとも18種のHDAC酵素が存在する。HDACは、ヒストンアセチル基転移酵素により付加されたアセチル基を除去する。アセチル基の除去により、ヒストンがDNAに結合できるようになるため、DNAへのアクセスが制限される。結果として、HDACは、転写の発生を防ぐ。
【0004】
Roperoは、子宮内膜、結腸、及び胃腫瘍サンプルが、HDAC2不活化突然変異を有することを報告している(非特許文献1)。癌細胞株及び腫瘍(乳房、膠芽腫、卵巣、腎臓、膀胱、及び結腸直腸腫瘍)に対するQRT−PCRは、HDAC2のRNA量の減少を示した(非特許文献2)。さらに、ProteinAtlas(http://www.proteinatlas.org)によって、胃、子宮内膜、卵巣、乳房、腎臓、頚部、肝臓、肺、悪性カルチノイド、リンパ腫、膵臓、甲状腺、及び前立腺腫瘍のサブセットにおいて、中程度〜陰性のHDAC2の免疫組織化学(IHC)染色が見られることが明らかになっている。
【0005】
クラスI HDACは、周知の転写コリプレッサーであり、インビボにおいて常に転写因子及びコファクターに結合している。生物学的データは、クラスI HDACが、細胞周期の進行、転移、及びアポトーシスに関連しており、癌治療の有望な標的であることを示唆している。ボリノスタット、デプシペプチド、MS−275、MGCD0103、ベリノスタット、Baceca、パノビノスタット、PCI−24781、TSA、LAQ834、SBHA、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、アピシジン、酪酸フェニル、CI994、トラポキシン、SB−429201、ビピリジニウムジエン(Bispyridinum diene)、SHI−1:2、R306465、SB−379278A、及びPCI−34051等の、「クラス1 HDAC阻害剤」が知られている。
【0006】
癌の生物学的基礎の理解及びその治療に向けて大いに進展がみられるが、癌は依然として主な死因の1つである。応答耐性及び応答の欠如は、病院で一般的に遭遇するので、薬剤に応答する患者における変異は、耐性に関する重要な課題を提起する。薬剤に応答する患者における変異には、遺伝子、併用薬療法、環境、ライフスタイル、健康状態、及び疾患状態を含む多くの要因が関与していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,668,152号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ropero,S.ら(2006年)Nat Genet,38(5):566−569
【非特許文献2】Ozdag,H.ら(2006年)BMC Genomics,7:90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
化学療法レジメンに対して最もよく応答する患者の同定に対する医学的要求が存在する。同定されている予測生物学的マーカーは僅かであり、診断試験にまで発展し、決定的に治療法の決定を導いているものは更に少ない。患者の選択アプローチは、患者に合わせて癌治療においてエンザスタウリンを使用するために重要な価値を有する。患者がエンザスタウリンによる治療に応答する可能性があるかどうかをタイムリーに決定する方法を有することには高い価値がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、先ず、エンザスタウリンの有効性の生物学的マーカーとして用いることができるHDAC2の発現レベルを測定した後、エンザスタウリンを用いて癌を治療する方法に関する。HDAC2レベルが低いか又は検出不可能であるとき、エンザスタウリン単独が特に有効であると予測される。HDAC2レベルが高い場合、本発明は、クラスI選択的HDAC阻害剤と併用して有効量のエンザスタウリンを投与することを含む。
【0011】
本発明は、低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2を有する患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程を含む、患者の癌を治療する方法を含む。
【0012】
更に、本発明は、a)患者から癌細胞を含むサンプルを得る工程と、b)癌サンプル中のHDAC2レベルを測定する工程と、c)前記癌サンプルが、低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2を有する場合、前記患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程と、を含む患者の癌を治療する方法を提供する。
【0013】
本発明は、HDAC2のフレームシフトナンセンス突然変異を有する患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程を含む、患者の癌を治療する方法を含む。
【0014】
更に、本発明は、a)患者から癌細胞を含むサンプルを得る工程と、b)癌サンプル中のHDAC2が突然変異しているかどうかを判定する工程と、c)前記患者のサンプルがHDAC2のフレームシフトナンセンス突然変異を有する場合、前記患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程と、を含む患者の癌を治療する方法を提供する。
【0015】
本発明は、患者の癌を治療する方法であって、有効量のエンザスタウリンと、有効量のクラスI選択的HDAC阻害剤とを、高レベルのHDAC2を有する患者に投与する工程を含む方法を含む。
【0016】
更に、本発明は、a)患者から癌細胞を含むサンプルを得る工程と、b)癌サンプル中のHDAC2レベルを測定する工程と、c)前記癌サンプルが高レベルのHDAC2を有する場合、有効量のエンザスタウリンと、有効量のクラスI選択的HDAC阻害剤とを前記患者に投与する工程と、を含む患者の癌を治療する方法を提供する。
【0017】
本発明は、低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2を有する患者の癌を治療するための医薬の製造におけるエンザスタウリンの使用を含む。
【0018】
更に、本発明は、患者の癌を治療するための医薬の製造において、クラスI選択的HDAC阻害剤と併用されるエンザスタウリンの使用であって、前記患者が高レベルのHDAC2を有し、前記医薬がクラスI選択的HDAC阻害剤と併用投与される使用を提供する。
【0019】
本発明は、前記癌が、結腸直腸癌、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、乳癌、肝臓癌、肺癌、腎臓癌、皮膚T細胞リンパ腫、膠芽腫、リンパ腫、膵臓癌、及び前立腺癌からなる群から選択される、本明細書に記載される方法及び使用を提供する。更に、クラスI選択的HDAC阻害剤は、ボリノスタット、デプシペプチド、MS−275、MGCD0103、ベリノスタット、Baceca、パノビノスタット、PCI−24781、TSA、LAQ834、SBHA、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、アピシジン、酪酸フェニル、CI994、トラポキシン、SB−429201、ビピリジニウムジエン、SHI−1:2、R306465、SB−379278A、及びPCI−34051からなる群から選択され得る。
【0020】
本発明は、患者の予後予測、及び癌治療においてエンザスタウリンを使用するために現在利用可能な治療法のインフォームドセレクションに役立つ生物学的マーカーの同定を含む。本発明は、好ましい生物学的マーカーとしてHDAC2を使用する。
【0021】
腫瘍の発達中に獲得される遺伝子異常は、疾患のドライバー、及び癌のテーラーメイド治療を行う機会の両方を意味する。特定の種類の腫瘍において遺伝子及び経路が変化している患者は、ターゲティング治療に対して異なる応答をする可能性がある。発見プロセスにおいてこれら薬剤感受性の遺伝的決定因子を早期に理解することは、臨床的指示、患者の層別化、及び併用研究に関する決定を改善及び加速させるのに役立ち得る。
【0022】
これらの分集団は、治療効果、及び単剤としての又はクラスI選択的HDAC阻害剤と併用されるエンザスタウリンに対する応答の改善を標的とし得る、機能の低下したHDAC2プロファイルを有する患者群を表す。
【0023】
本発明は、結腸直腸癌、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、乳癌、肝臓癌、肺癌、腎臓癌、皮膚T細胞リンパ腫、膠芽腫、リンパ腫、膵臓癌、及び前立腺癌からなる群から選択される癌の治療に関する。
【0024】
本発明は、エンザスタウリンと併用される、ボリノスタット、デプシペプチド、MS−275、MGCD0103、ベリノスタット、Baceca、パノビノスタット、PCI−24781、TSA、LAQ834、SBHA、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、アピシジン、酪酸フェニル、CI994、トラポキシン、SB−429201、ビピリジニウムジエン、SHI−1:2、R306465、SB−379278A、及びPCI−34051からなる群から選択されるクラスI選択的HDAC阻害剤の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
癌細胞の遺伝子又はタンパク質表現を測定するための多くの方法が知られている。免疫組織化学、ウェスタンブロット、マイクロアレイ及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、癌型、癌亜型、予後及び治療効果を分子的に理解するために用いられている幾つかの例である。遺伝子及びタンパク質発現を測定するためのこれら方法の開発により、癌の分類及び多様な種類の腫瘍の予後予測の生物学的マーカーを探し、体系的に評価することが可能になる。
【0026】
本発明ではHDAC2タンパク質発現は、ウェスタンブロット又は免疫組織化学によりアッセイ又は検出されることが好ましい。更に、本発明では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりHDAC2の突然変異をアッセイし、次いで配列を決定して、前記突然変異の対立遺伝子が存在するかどうかを判定する。使用される検出法は、専門知識、技術、及び試薬の利用可能性に基づいて変化する。
【0027】
以下の定義は、本明細書の開示の理解において当業者を補助するために提供される。これら定義は、当該技術分野において知られているものを例示することを意図するため、提示される特定の要素に限定することを意図するものではない。
【0028】
用語「治療すること」(又は「治療する」若しくは「治療」)は、症状、障害、状態、若しくは疾患の進行又は重篤度を遅延、中断、抑止、制御、低下、又は逆行させることを含むプロセスを指す。
【0029】
「患者」は哺乳類、好ましくはヒトである。
【0030】
用語「有効量」は、患者に単回投与又は複数回投与したときに所望の治療を提供する、エンザスタウリン若しくはHDAC2阻害剤、又は薬学的に許容できる塩の量又は用量を指す。一般に、これら治療剤の各々の最適な投与量は、個々の患者における活性成分の相対効力に依存して変化し得る。医師は、体液若しくは身体組織中の活性成分の測定された滞留時間及び濃度、並びに/又は特定の癌に関連する疾患関連バイオマーカーのモニタリングに基づいて、用量及び投与の反復数を決定することができる。
【0031】
用語「検出可能なレベル」はウェスタンブロット又は免疫組織化学等の診断法又はアッセイによって生体サンプル中において検出されるレベルで存在する遺伝子、遺伝子転写物、又は遺伝子産物を指す。本発明では、低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2とは、HCT116細胞中のHDAC2表現に比べて、ウェスタンブロットによるHDAC2発現が20%未満であることを指す。更に、本発明では、高レベルのHDAC2とは、HCT116細胞中のHDAC2表現に比べて、ウェスタンブロットによるHDAC2発現が20%超であることを指す。
【0032】
当該技術分野において十分確立された技術を使用して、サンプル中のHDAC2発現を測定することができる。本質的には、患者から腫瘍生検を採取する。組織をホモジナイズし、溶解物をウェスタンブロットにより分析して、HDAC2タンパク質発現量を測定する。ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルの場合には、腫瘍コアの切片を作製し、免疫組織化学によりHDAC2を検出するために染色する。H−スコア等の、既知の免疫組織化学スコアリング方法により、組織病理学者は、これらサンプルが低レベルであるか高レベルであるかをスコア化する。
【0033】
用語「フレームシフトナンセンス突然変異」とは、報告されているようにHDAC2遺伝子のトランケート型又は不活化突然変異を指す。Ropero,S.ら(2006年)Nat Genet,38(5):566−9。
【0034】
十分確立されている方法を使用することにより、フレームシフトナンセンス突然変異を判定することができる。基本的に、患者のサンプル由来のDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び直接配列決定により解析して、フレームシフト突然変異の存在を判定する。DNAサンプルから得られた配列クロマトグラムを、野性型配列と比較してトランケート型変異を探す。Ropero,S.ら。
【実施例】
【0035】
実施例1
エンザスタウリン薬剤応答の感作物質としてのHDAC2
アメリカンティシューカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville,MD,USA)からHCT116細胞を入手し、5%のCOを含む加湿された37℃のインキュベータ内で、2mMのL−グルタミン及び10%のウシ胎児血清(FBS)を添加したマッコイ5A培地中で培養する。各ウェルが13nMの個々のsiRNA二重鎖を含むように、Druggable Genome v2 Library(Qiagen)中の1標的当り2つのsiRNAを用いて、プレート(384ウェル)を予めプリントする。標準的な逆トランスフェクションプロトコルに従って、トランスフェクション試薬リポフェクタミン2000(Invitrogen)と、2mMのL−グルタミン及び2%のFBSを添加したマッコイ5A培地で希釈した約1500個の細胞とを各ウェルに添加することにより、ハイスループット逆トランスフェクションを実施する。トランスフェクションの24時間後、1%のDMSO中の5種類の濃度のエンザスタウリン(0〜10μM)で各アッセイプレートを処理する、又は処理しない。72時間後、製造業者の推奨に従って、CellTiter Glo(Promega)アッセイ読み出し情報に基づいて、化学発光を用いて細胞の生存率を測定する。UBB siRNA(Qiagen)は、陽性殺細胞対照であり、All Star Non−silencing(NS−AS)又は緑色蛍光タンパク質(GFP)は陰性対照である。
【0036】
生シグナル値を未処理対照ウェルに対して正規化して、プレート間で比較を行う。IC50値を決定するために、4パラメータロジスティックスモデルに適合させる。陰性対照(上記)と比較したIC50の「変化」を以下のように計算する:(IC50標的−IC50対照)をIC50対照で除す。
【0037】
RT−PCRについては、細胞を上記のように逆トランスフェクトし、37℃で72時間siRNAと共にインキュベートし、溶解前にプレート洗浄器を用いて1×PBSで洗浄する。製造業者のプロトコルに従って、磁気ビーズ(Ambion,MagMax−96全RNA単離キット、カタログ番号1830)を使用してRNAを抽出する。NanoDrop−1000分光光度計を使用して、サンプルの全RNA濃度を測定する。cDNAを合成するためにBio−Rad製iScript cDNA合成キット(カタログ番号170−8891)を用い、製造業者の推奨に従って、MJ Research製DNA Engine Tetrad Peltierサーマルサイクラーで反応を実行する。qPCR反応体積10μL当たり5ナノグラム(5ng)のcDNAを用いる。TaqMan(登録商標)プローブ化学(ABI,Foster City,CA)を使用して、遺伝子特異的qPCRを実施し、ABI 7900HT高速リアルタイムPCRシステムで実行する。内因性のグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)、バッファ、スクランブルド対照(上記)及び無テンプレート対照(プローブに対する標準物質)を用いて、1サンプル当り3回ずつ反応を実施する。遺伝子の発現値をGAPDHに対して正規化し、ABI製SDS RQ Manager1.2ソフトウェアを用いて相対定量法(ΔΔC方法)により計算する。Cは標準的な測定基準であり、サイクル閾値数を指す。内因性発現に対する、特定のsiRNAによる対象遺伝子のノックダウンは、以下のように得られる:
(ΔC)試験=[平均標的遺伝子C−平均GAPDH C]試験
(ΔC)対照=[平均標的遺伝子C−平均GAPDH C]対照
ΔΔC=(ΔC)試験−(ΔC)対照
RQ=2−ΔΔCT
%KD=(RQsi−RQバッファ)×100/RQバッファ
式中「試験」は、処理された(si)siRNA又はバッファ対照(バッファ)を指し;「対照」は、陰性対照であるスクランブルドsiRNA対照を指す。それぞれ、RQsi及びRQバッファを上記のように計算して、(内因性量の)siRNAで処理した及び処理していない対象標的の相対遺伝子発現値を決定する。
【0038】
HDAC2を標的とする3つのsiRNAは、IC50値が2倍超変化したことから分かるように、陰性対照に比べて用量応答性死滅曲線を変化させるため、HCT116のエンザスタウリンの効果に対する感受性を高める。ハイコンテンツ画像は、陰性対照及びいずれかの条件のみに比べて、エンザスタウリン及びHDAC2 siRNAで処理されたHCT116細胞の細胞死滅が高程度であることを反映している(データは示さない)。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例2
HCT116と比べたRKOにおけるエンザスタウリンの活性増強
ヒト結腸癌細胞株であるHCT116(HDAC2野性型)と、HCT116に比べてHDAC2のタンパク質発現を生じなくさせるナンセンス突然変異を含む細胞株であるRKO(HDAC2+/−)とをアメリカンティシューカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville,MD,USA)から入手し、5%のCOを含む加湿された37℃のインキュベータ内で、2mMのL−グルタミン及び10%のFBSを添加したATCC推奨増殖培地中で培養する。25mMのN−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、2mMのL−グルタミン及び2%のウシ胎児血清(FBS)を含有するマッコイ5A培地で希釈した1000〜2000個の細胞を播種し、次いで1%のDMSOによるエンザスタウリンの段階希釈液(0〜100μM)で処理する又は処理しないことにより、薬剤用量応答実験を実施する。72又は96時間後、製造業者の推奨に従って、CellTiter Glo(Promega)アッセイ読み出し情報に基づいて、化学発光を用いて細胞の生存率を測定する。生シグナル値を未処理対照に対して正規化し、GraphPad Prism(La Jolla,CA,USA)により非線形曲線を適合させることによって分析する。
【0041】
薬剤用量応答曲線は、HCT116に比べてRKO細胞中では、IC50及びエンザスタウリンによる増殖阻害の最大効果において有意な差(2倍超)を示す。RKO細胞におけるIC50が3.56μMであるのに対して、HCT116細胞におけるエンザスタウリンのIC50は、8.34μMである。更に、RKO(95〜100%)におけるエンザスタウリンの最大死滅効果は、HCT116(50〜60%)よりも大きい。これらデータは、HDAC2ノックダウンがエンザスタウリン応答に対する感受性を高めることを遺伝学的に確認する。
【0042】
実施例3
インビトロにおける増殖阻害及び併用薬剤研究
クラスI選択的HDAC阻害剤及びエンザスタウリンが有益な効果を提供するかどうかを判定するために、癌細胞の増殖阻害について、MS−275、クラスI選択的HDAC阻害剤、及びエンザスタウリンをアッセイする。
【0043】
アメリカンティシューカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville,MD,USA)から入手したヒト結腸癌細胞株HCT116を、5%COを含む加湿された37℃のインキュベータ内にて、25mMのHEPES、2mMのL−グルタミン及び10%のFBSを含有するマッコイ5A培地中で単層として維持する。薬剤処理の24時間前に、ポリ−D−リジンでコーティングされた96ウェルプレート中の、25mMのHEPES、2mMのL−グルタミン及び2%のFBSを含有するマッコイ5A培地に、指数関数的に増殖するHCT116細胞(2000細胞/ウェル)をプレーティングする。(i)S字形用量応答曲線からIC50値を決定するために、ある範囲の濃度のエンザスタウリン(0〜10μM)及びMS−275(0〜4μM)単独で、(ii)全て固定比デザインに従って、最終濃度0.02%のDMSO中において、3種の固定されたIC50比(2.5、5、10)でエンザスタウリン及びMS−275を同時に添加することにより、細胞を72時間処理する(Koizumi,F.ら(2004年)Int J Cancer,108(3):464−72;Tallarida,R.J.ら(1997年)Life Sci,61(26):PL417−25)。次いで、細胞を固定し、ヨウ化プロピジウム(PI)で染色する。Acumen Explorerシステム(Acumen Bioscience Ltd,UK)により、細胞数を測定する。
【0044】
組み合わせ指数(CI)を計算するために、Calcusynソフトウェア(Biosoft,Cambridge,UK)を使用することにより、Chou及びTalalay(Chou,T.C.及びP.Talalay,Quantitative analysis of dose−effect relationships:the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors,Adv Enzyme Regul,1984年.22:p.27−55)によって提唱されたメジアン効果原理によりデータを解析する。CIは、異なる薬剤間の相互作用の程度の定量的測定値である:CI=1である場合、相加性;CI>1である場合、拮抗作用;及びCI<1の場合、相乗作用を示す。以下の表では、Faは、影響を受けた割合であり;CIは、組み合わせ指数であり;SDは、標準偏差であり;Eは、エンザスタウリンを意味し;Mは、MS−275を意味し;E/Mは、各薬剤のIC50値の固定比を意味する。
【0045】
【表2】

【0046】
エンザスタウリン及びMS−275の同時薬剤併用研究は、試験した全ての固定比及びFa値にわたって相乗相互作用(CI<1)を示す。これらデータにより、HDAC2の枯渇がエンザスタウリンの作用を増強するという薬理学的証拠が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2を有する患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程を含む患者の癌を治療する方法。
【請求項2】
a)患者から癌細胞を含むサンプルを得る工程と、
b)癌サンプル中のHDAC2レベルを測定する工程と、
c)前記患者のサンプルが、低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2を有する場合、前記患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程と、
を含む患者の癌を治療する方法。
【請求項3】
HDAC2のフレームシフトナンセンス突然変異を有する患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程を含む患者の癌を治療する方法。
【請求項4】
a)患者から癌細胞を含むサンプルを得る工程と、
b)癌サンプル中のHDAC2が突然変異しているかどうかを決定する工程と、
c)前記患者のサンプルがHDAC2のフレームシフトナンセンス突然変異を有する場合、前記患者に有効量のエンザスタウリンを投与する工程と、
を含む患者の癌を治療する方法。
【請求項5】
有効量のエンザスタウリンと、有効量のクラスI選択的HDAC阻害剤とを、高レベルのHDAC2を有する患者に投与する工程を含む患者の癌を治療する方法。
【請求項6】
a)患者から癌細胞を含むサンプルを得る工程と、
b)癌サンプル中のHDAC2レベルを測定する工程と、
c)前記患者のサンプルが高レベルのHDAC2を有する場合、有効量のエンザスタウリンと、有効量のクラスI選択的HDAC阻害剤とを前記患者に投与する工程と、
を含む患者の癌を治療する方法。
【請求項7】
クラスI選択的HDAC阻害剤が、ボリノスタット、デプシペプチド、MS−275、MGCD0103、ベリノスタット、Baceca、パノビノスタット、PCI−24781、TSA、LAQ834、SBHA、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、アピシジン、酪酸フェニル、CI994、トラポキシン、SB−429201、ビピリジニウムジエン、SHI−1:2、R306465、SB−379278A、及びPCI−34051からなる群から選択される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
癌が、結腸直腸癌、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、乳癌、肝臓癌、肺癌、腎臓癌、皮膚T細胞リンパ腫、膠芽腫、リンパ腫、膵臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
低レベル又は検出不可能なレベルのHDAC2を有する患者の癌を治療するための医薬の製造におけるエンザスタウリンの使用。
【請求項10】
患者の癌を治療するための医薬の製造において、クラスI選択的HDAC阻害剤と併用されるエンザスタウリンの使用であって、前記患者が高レベルのHDAC2を有し、前記医薬がクラスI選択的HDAC阻害剤と併用投与される使用。
【請求項11】
クラスI選択的HDAC阻害剤が、ボリノスタット、デプシペプチド、MS−275、MGCD0103、ベリノスタット、Baceca、パノビノスタット、PCI−24781、TSA、LAQ834、SBHA、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、アピシジン、酪酸フェニル、CI994、トラポキシン、SB−429201、ビピリジニウムジエン、SHI−1:2、R306465、SB−379278A、及びPCI−34051からなる群から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
癌が、結腸直腸癌、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、乳癌、肝臓癌、肺癌、腎臓癌、皮膚T細胞リンパ腫、膠芽腫、リンパ腫、膵臓癌及び前立腺癌からなる群から選択される、請求項9〜11のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2012−512157(P2012−512157A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540796(P2011−540796)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/066925
【国際公開番号】WO2010/074936
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】