説明

発光ダイオード及びその製造方法

【課題】繊維の集合体を構成する繊維の耐熱温度が120℃以下であっても、LEDチップの発熱による繊維の集合体の熱劣化を防止できる発光ダイオードを実現する。
【解決手段】LEDチップ20と、蛍光体28を担持し、繊維32間に多数の空隙34が形成された不織布30を備え、上記繊維32の耐熱温度が120℃以下であるLED10であって、上記不織布30に、透光性を有し、耐熱温度が150℃より高い材料より成る耐熱性結合剤36を含浸させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光ダイオードチップ(LEDチップ)と、該LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光物質を担持して成る繊維の集合体を備えた発光ダイオード(LED)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、先に、蛍光体を担持させて成る繊維の集合体をLEDチップ上に配置したLED(特開2006−60099)や、蛍光体を担持させて成る繊維の集合体でLEDチップを覆ったLED(特開2006−147925)を提案した。
図6は、蛍光体を担持させて成る不織布(繊維の集合体)でLEDチップを覆ったLEDを示すものであり、このLED60は、絶縁材料より成る基板62上に、LEDチップ64を接続・固定して成る。
また、上記基板62の表面から側面を経て裏面にまで延設された一対の外部電極66a,66bが相互に絶縁された状態で形成されている。
【0003】
上記LEDチップ64上面の一方の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ68を介して、一方の外部電極66aに接続されると共に、LEDチップ64上面の他方の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ68を介して、他方の外部電極66bに接続されている。
【0004】
上記LEDチップ64及びボンディングワイヤ68は、基板62上に載置された蛍光体70を担持して成るドーム状の繊維の集合体としての不織布72で覆われている。蛍光体70は、上記不織布72を構成する繊維の表面に担持されているものである。
上記LEDチップ64及び不織布72は、基板62上に配置された所定高さを備えた枠部材74で囲繞されていると共に、該枠部材74内に透光性材料を充填して形成された透光性の蓋部材76によって封止されている。
【0005】
上記発光ダイオード60にあっては、一対の外部電極66a,66bを介してLEDチップ64に電圧が印加されると、LEDチップ64が発光して、上記蛍光体70を励起させる紫外線や可視光等の光が放射される。この光が、LEDチップ64を覆うドーム状の不織布72に担持された蛍光体70に照射され、所定波長の可視光等の光に波長変換された後、透光性の蓋部材76を透過して外部へ放射されるのである。
【0006】
上記発光ダイオード60は、LEDチップ64をドーム状の不織布72で覆い、該不織布72を構成する繊維の表面に蛍光体70を担持せしめたことから、蛍光体70で波長変換される光を、蛍光体70で反射された反射光として取り出すことができる。このため、光の取出し効率が向上し、高輝度化を図ることができるのである。しかも、LEDチップ64が不織布72で覆われているので、LEDチップ64から放射されたほぼ全ての光を、蛍光体70を担持した不織布72に照射することができる。
また、上記発光ダイオード60は、単位体積当たりの繊維の表面積が極めて大きい不織布72を構成する繊維の表面に蛍光体70を担持せしめたことから、蛍光体70の量及び表面積を飛躍的に増大させることができるのである。
【特許文献1】特開2006−60099
【特許文献2】特開2006−147925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来のLED60にあっては、LED60を長時間駆動させたり、発光輝度を高めるために高電流駆動させた場合には、LEDチップ70が発熱し、120℃にまで達する高温状態となることがあった。
このため、不織布72を構成する繊維の耐熱温度が上記120℃以下の場合、LEDチップ70の発熱により、不織布72の熱劣化を生じることがあった。
【0008】
この発明は、従来の上記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、繊維の集合体を構成する繊維の耐熱温度が120℃以下であっても、LEDチップの発熱による繊維の集合体の熱劣化を防止できる発光ダイオードと、該発光ダイオードの製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る発光ダイオードは、発光ダイオードチップと、蛍光物質を担持し、繊維間に多数の空隙が形成された繊維の集合体を備え、上記繊維の耐熱温度が120℃以下である発光ダイオードであって、上記繊維の集合体に、透光性を有し、耐熱温度が150℃より高い材料より成る耐熱性結合剤を含浸させたことを特徴とする。
【0010】
上記耐熱性結合剤としては、例えば、ゾルゲルガラス又はシリコン樹脂が該当する。
また、上記繊維の集合体としては、多数の繊維が絡み合って形成された不織布を用いるのが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る発光ダイオードの製造方法は、
蛍光物質を担持した繊維の集合体を、液状の耐熱性結合剤中に浸漬した状態で真空雰囲気中に導入して脱気処理を行うことにより、繊維間の空隙内の空気と耐熱性結合剤とを置換させる工程と、
上記液状の耐熱性結合剤を固化させる工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る発光ダイオードは、耐熱温度が150℃より高い材料で構成された耐熱性結合剤を繊維の集合体に含浸させたことから、繊維の集合体の耐熱性が向上し、繊維の集合体を構成する繊維の耐熱温度が120℃以下であっても、LEDチップの発熱による繊維の集合体の熱劣化を防止することができる。この結果、繊維の集合体を構成する繊維の材質選択の自由度が向上する。
【0013】
上記繊維の集合体として、多数の繊維が絡み合って形成された不織布を用いた場合には、単位体積当たりの繊維の表面積が極めて大きいことから、担持する蛍光物質の表面積を極めて大きく確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づき、本発明に係る発光ダイオードの実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る発光ダイオード10を示すものであり、この発光ダイオード10は、樹脂等の絶縁材料より成り、孔12が形成された略リング状の枠体14と、第1のリードフレーム16及び第2のリードフレーム18を有している。
第1のリードフレーム16は、上記枠体14の底面14aの略全面を覆う先端部16aと、枠体14を貫通して外方へ向かって水平方向に取り出される後端部16bを有している。第1のリードフレーム16の先端部16aの一部は上記孔12内に露出しており、該孔12内に露出した第1のリードフレーム16の先端部16aに、LEDチップ20をダイボンドすることにより、第1のリードフレーム16とLEDチップ20底面の一方の電極(図示せず)とを電気的に接続している。
【0015】
また、第2のリードフレーム18は、上記枠体14を貫通して孔12内に露出する先端部18aと、枠体14の外方へ向かって水平方向に取り出されている後端部18bを有しており、第2のリードフレーム18の先端部18aと、上記LEDチップ20上面の他方の電極(図示せず)とをボンディングワイヤ22を介して電気的に接続して成る。
上記LEDチップ20は、電圧が印加されると、後述する蛍光体を励起する波長の紫外線や青色可視光等の光を発光し、例えば、窒化ガリウム系半導体結晶で構成されている。
【0016】
上記第1のリードフレーム16の先端部16aと、第2のリードフレーム18の先端部18aは、上下方向に所定の間隙を設けて対向配置されることにより、相互に絶縁されている。
また、上記枠体14の孔12内には、シリコン樹脂等より成る透光性のコーティング材24を充填してLEDチップ20を封止して成る。
【0017】
上記枠体14の上端には、段部26が形成されており、該段部26上に、蛍光体28を担持して成る繊維の集合体としての円盤状の不織布30(図2参照)が載置されている。この結果、上記LEDチップ20の上方に、蛍光体28を担持した不織布30が配置されることとなる。
【0018】
上記不織布30は、図3及び図4に示すように、多数の繊維32が立体的に絡み合って形成されるものであり、繊維32間には多数の空隙34(図4参照)が形成されており、また、多数の繊維32が立体的に絡み合っているため、単位体積当たりの繊維32の表面積が極めて大きいものである。蛍光体28は、不織布30を構成する繊維32の表面に被着・担持されているものであり、図5に示すように、繊維32の表面に、蛍光体28の粒子が多数被着されている。
上記の通り、多数の繊維32が絡み合って形成された不織布30は、単位体積当たりの繊維32の表面積が極めて大きいことから、担持する蛍光体28の表面積を極めて大きく確保することができる。
尚、不織布30を構成する繊維32の繊維密度や、不織布30の厚さ、目付等を適宜調整することにより、不織布30を構成する繊維32の総表面積を任意に増減可能である。
【0019】
上記繊維32は、その耐熱温度がLEDチップ20の発熱温度より低い材料で構成されている。具体的には、上記LEDチップ20を長時間駆動させたり、発光輝度を高めるために高電流駆動させた場合には、LEDチップ20は120℃にまで達する高温状態となることから、上記繊維32は、その耐熱温度がLEDチップ20の発熱温度である上記120℃以下の材料であるポリエチレン、ポリプロピレン等で構成されている。
尚、繊維32の直径は5〜20μm、長さは0.5〜20mm程度であるが、長さが50〜100mm程度の長繊維から成る繊維32を用いることも勿論可能である。
尚、光の透過性の観点から、透光性材料で繊維32を構成するのが好ましい。
【0020】
本発明にあっては、不織布30の耐熱性を向上させるため、蛍光体28を担持した不織布30に、透光性を有する耐熱性結合剤36を含浸させて成る。この結果、不織布30を構成する繊維32の表面に耐熱性結合剤36が被着されると共に、繊維32間の空隙34にも、耐熱性結合剤36が充填される。図4に示すように、繊維32間の全ての空隙34に耐熱性結合剤36が充填されている。
上記耐熱性結合剤36は、150℃より高い材料で構成されており、例えば、耐熱温度が600℃の無機材料であるゾルゲルガラスや、耐熱温度が300℃の有機材料であるシリコン樹脂が該当する。而して、耐熱温度が150℃より高い材料で構成された耐熱性結合剤36を、蛍光体28を担持した不織布30に含浸させることにより、不織布30の耐熱性が向上し、LEDチップ20が120℃にまで達する高温状態となっても不織布30の熱劣化を防止できるのである。
上記ゾルゲルガラスは、金属アルコキシドや金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート等の金属有機化合物を出発物質として、その加水分解、重合反応を利用して合成されるものであり、溶液状態から出発するため、任意の形状のガラスに成形容易である。
上記ゾルゲルガラス材料は、一般式M(OR)n(M:金属元素、R:アルキル基、n:金属の酸化数)の金属有機化合物、水(加水分解のため)、溶媒としてメタノール、DMF(ヂメチルフォルムアミド)、加水分解・重合反応の調整剤としてアンモニアで構成することができ、このゾルゲルガラス材料を加水分解、重合反応させることにより、ゲル化し、硬いガラス状の無機質膜形成が生じてゾルゲルガラスが形成されるのである。
【0021】
不織布30に耐熱性結合剤36を含浸させるには、例えば、上記不織布30を液槽内の耐熱性結合剤36中に浸漬した状態で、真空雰囲気中に導入して脱気処理を行い、繊維32間の空隙34内の空気と耐熱性結合剤36とを置換させれば良い。この結果、不織布30を構成する繊維32間の全ての空隙34に、耐熱性結合剤36が充填される。
不織布30に耐熱性結合剤36を充填後、不織布30を所定温度で所定時間加熱して、液状の耐熱性結合剤36を固化させる。
【0022】
上記蛍光体28は、紫外線や青色可視光等の光の照射を受けると、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換するものであり、例えば以下の組成のものを用いることができる。
紫外線を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体28として、MS:Eu(Mは、La、Gd、Yの何れか1種)、0.5MgF・3.5MgO・GeO:Mn、2MgO・2LiO・Sb:Mn、Y(P,V)O4:Eu、YVO4:Eu、(Sr,Mg)3(PO4):Sn、Y:Eu、CaSiO:Pb,Mn等がある。
また、紫外線を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体28として、BaMgAl1627:Eu,Mn、ZnSiO4:Mn、(Ce,Tb,Mn)MgAl1119、LaPO4:Ce,Tb、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、(Zn,Cd)S:Cu,Al、SrAl:Eu、SrAl:Eu,Dy、SrAl1425:Eu,Dy、YAl12:Tb、Y(Al,Ga)12:Tb、YAl12:Ce、Y(Al,Ga)12:Ce等がある。
更に、紫外線を青色可視光に変換する青色発光用の蛍光体28として、(SrCaBa)(PO)Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、(Sr,Mg)7:Eu、Sr7:Eu、Sr:Sn、Sr(PO4Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、CaWO4、CaWO4:Pb、ZnS:Ag,Cl、ZnS:Ag,Al、(Sr,Ca,Mg)10(PO)Cl:Eu等がある。
また、青色可視光を発光するLEDチップ20を用いて白色光を得る場合等において、LEDチップ20から放射される青色可視光を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体28として、Y(Al,Ga)12:Ce、SrGa:Eu、CaScSi12:Ce、SrSiON:Eu、β−SiAlON:Eu等がある。
さらに、青色可視光を発光するLEDチップ20を用いた場合等において、LEDチップ20から放射される青色可視光を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体28として、(Sr,Ca)S:Eu、(Ca,Sr)Si:Eu、CaSiN:Eu、CaAlSiN:Eu等がある。
上記赤色発光用の蛍光体28、緑色発光用の蛍光体28、青色発光用の蛍光体28を適宜選択・混合して用いることで、種々の色の発色が可能である。
尚、上記蛍光体28は、有機、無機の蛍光染料や、有機、無機の蛍光顔料を含むものである。
【0023】
本発明の上記LED10にあっては、第1のリードフレーム16及び第2のリードフレーム18を介してLEDチップ20に電圧が印加されると、LEDチップ20が発光して、上記蛍光体28を励起させる波長の紫外線や青色可視光等の光が放射される。この光が、LEDチップ20の上方に配置されている不織布30に担持された蛍光体28に照射され、所定波長の可視光等の光に波長変換された後、外部へ放射されるのである。
【0024】
而して、本発明のLED10にあっては、耐熱温度が150℃より高い材料で構成された耐熱性結合剤36を不織布30に含浸させたことから、不織布30の耐熱性が向上し、不織布30を構成する繊維32の耐熱温度が120℃以下であっても、LEDチップ20の発熱による不織布30の熱劣化を防止することができる。この結果、不織布30を構成する繊維24の材質選択の自由度が向上する。
【0025】
上記においては、繊維の集合体として不織布30を用いた場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、多数の繊維を織り込んで形成した織布を用い、該織布を構成する繊維に蛍光体28を担持させても良い。この織布も、不織布30には及ばないものの、単位体積当たりの繊維の表面積が大きいものである。
【0026】
また、蛍光物質としては、上記した蛍光体28だけでなく、蛍光ガラスや蛍光樹脂等、紫外線や青色可視光等の光の照射を受けた場合に、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換する全ての物質を含むものである。
蛍光ガラスは、ガラス材料に蛍光材料を添加して形成される透明体であり、また、蛍光樹脂は、エポキシ樹脂等の樹脂材料に蛍光材料を添加して形成される透明体である。これら蛍光ガラスや蛍光樹脂を粒子状と成し、不織布30に担持させれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る発光ダイオードを模式的に示す断面図である。
【図2】蛍光体を担持した不織布を模式的に示す斜視図である。
【図3】蛍光体を担持した不織布を模式的に示す部分拡大図である。
【図4】蛍光体を担持した不織布を模式的に示す要部拡大図である。
【図5】蛍光体を担持した不織布を構成する繊維を模式的に示す断面図である。
【図6】従来の発光ダイオードを模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 発光ダイオード
12 孔
14 枠体
16 第1のリードフレーム
18 第2のリードフレーム
20 LEDチップ
24 コーティング材
28 蛍光体
30 不織布
32 繊維
34 空隙
36 耐熱性結合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオードチップと、蛍光物質を担持し、繊維間に多数の空隙が形成された繊維の集合体を備え、上記繊維の耐熱温度が120℃以下である発光ダイオードであって、上記繊維の集合体に、透光性を有し、耐熱温度が150℃より高い材料より成る耐熱性結合剤を含浸させたことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
上記耐熱性結合剤が、ゾルゲルガラス又はシリコン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】
上記繊維の集合体が、多数の繊維が絡み合って形成された不織布であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光物質担持体。
【請求項4】
請求項1に記載の発光ダイオードの製造方法であって、
蛍光物質を担持した繊維の集合体を、液状の耐熱性結合剤中に浸漬した状態で真空雰囲気中に導入して脱気処理を行うことにより、繊維間の空隙内の空気と耐熱性結合剤とを置換させる工程と、
上記液状の耐熱性結合剤を固化させる工程と、
を備えたことを特徴とする発光ダイオードの製造方法。
【請求項5】
上記繊維の集合体が、多数の繊維が絡み合って形成された不織布であることを特徴とする請求項4に記載の発光ダイオードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−3790(P2010−3790A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159920(P2008−159920)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000122690)岡谷電機産業株式会社 (135)
【Fターム(参考)】