説明

発光素子

【課題】反射部の厚さが一定以上の厚さであっても、反射層の厚さの増加に応じて発光出力が向上する発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子1は、半導体基板10と発光部20と1.7μm以上8.0μm以下の厚さを有して半導体基板10と発光部20との間に設けられる反射部210と発光部20の反射部210の反対側に設けられ、表面に凹凸部250を有する電流分散層240とを備え、反射部210は、第1の半導体層と第2の半導体層とからなるペア層を有して形成され、第1の半導体層と第2の半導体層は、それぞれ特定の式で定められる厚さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。特に、本発明は、活性層から発せられる光に対して不透明な半導体基板を用い、半導体基板と活性層との間に所定厚以上の反射部を備える発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、n型GaAs基板と、n型GaAs基板上に設けられる光反射層と、光反射層上に設けられるn型Al0.45Ga0.55Asクラッド層と、n型Al0.45Ga0.55Asクラッド層上に設けられるp型GaAs活性層と、p型GaAs層上に設けられるp型Al0.45Ga0.55Asクラッド層と、p型Al0.45Ga0.55Asクラッド層上に設けられるp型GaAsキャップ層とを備え、光反射層は、n型AlAs/n型AlGa1−xAsの積層構造からなり、当該積層構造は膜厚を連続的に変化させたチャープ状に形成されると共に、所定の反射波長幅及び反射率が得られる変厚割合、積層数、及び混晶比の関係が規定されている発光素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発光素子は、基板側へ進行した光を光反射層が光波干渉によって反射するので、光出力を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−37017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発光素子は、光反射層単体での反射波長領域を広げることができるものの、光反射層の厚さを一定の厚さ以上にすると、チャープ状ではない光反射層を用いた場合と同様に発光出力の増加が得られない。したがって、特許文献1に記載の発光素子においても、変厚割合DDは0.1〜0.15程度であり、基準厚さをTとした場合におけるペア層の厚さはT(1−DD)及びT(1+DD)であると共に、光反射層の積層数は20〜30程度が好ましいとしている。ここで、特許文献1に記載の発光素子の構成で発光波長を631nmにすると、光反射層の厚さは2〜3μm程度になる。すなわち、特許文献1に記載の発光素子は、光反射層の厚さが2μm以上になると、発光出力の向上が飽和傾向になり、発光出力の向上には限界がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、反射部の厚さが一定以上の厚さであっても、反射層の厚さの増加に応じて発光出力が向上する発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板と、第1導電型の第1クラッド層と、第1導電型とは異なる第2導電型の第2クラッド層とに挟まれる活性層を有する発光部と、1.7μm以上8.0μm以下の厚さを有して半導体基板と発光部との間に設けられ、活性層が発する光を反射する反射部と、発光部の反射部の反対側に設けられ、表面に凹凸部を有する電流分散層とを備え、反射部は、第1の半導体層と、第1の半導体層とは異なる第2の半導体層とからなるペア層を少なくとも3つ有して形成され、第1の半導体層は、活性層が発する光のピーク波長をλ、第1の半導体層の屈折率をn、第2の半導体層の屈折率をn、第1クラッド層の屈折率をnIn、第2半導体層への光の入射角をθとした場合に、式(1)で定められる厚さTを有し、第2の半導体層は、式(2)で定められる厚さTを有し、反射部の複数のペア層の厚さはそれぞれ、式(1)及び式(2)のθの値がペア層ごとに異なることにより互いに異なり、少なくとも1つのペア層は、θの値が50°以上の値で規定される第1の半導体層及び第2の半導体層を含む発光素子が提供される。
【数1】

【数2】

【0008】
また、上記発光素子は、反射部は、15以上のペア層を有することが好ましい。
【0009】
また、上記発光素子は、ペア層は、λ/4nの1.5倍以上の厚さTを有する第1の半導体層と、λ/4nの1.5倍以上の厚さTを有する第2の半導体層とを含むことができる。
【0010】
また、上記発光素子は、第1の半導体層は、AlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成され、第2の半導体層は、AlGa1−yAs(ただし、0≦y≦1)から形成されると共に、第1の半導体層の屈折率とは異なる屈折率を有することができる。
【0011】
また、上記発光素子は、反射部の半導体基板側から1つ目のペア層、又は1つ目及び2つ目のペア層の第1の半導体層は、AlAsから形成され、反射部の半導体基板側から1つ目のペア層、又は1つ目及び2つ目のペア層の第2の半導体層は、活性層を構成する半導体のバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有するAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)、若しくは、活性層が発する光に対して不透明なAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成され、反射部の半導体基板側から3つ目以降のペア層の第1の半導体層及び第2の半導体層は、活性層が発する光に対して透明なAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されることもできる。
【0012】
また、上記発光素子は、第1の半導体層及び第2の半導体層は、互いに屈折率の異なる(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成されることもできる。
【0013】
また、上記発光素子は、第1の半導体層が(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成されると共に、第2の半導体層がAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されるか、又は、第1の半導体層がAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されると共に、第2の半導体層が(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成されることもできる。
【0014】
また、上記発光素子は、電流分散層は、キャリア濃度又は不純物濃度が互いに異なる第1の電流分散層と第2の電流分散層とを有し、第2の電流分散層は、第1の電流分散層のキャリア濃度又は不純物濃度より高いキャリア濃度又は不純物濃度を有して電流分散層の表面側に形成されることもできる。
【0015】
また、上記発光素子は、電流分散層の表面に設けられる表面電極と、表面電極が設けられている領域を除く電流分散層の表面に、活性層が発する光に対して透明であり、電流分散層を構成する半導体の屈折率と空気の屈折率との間の屈折率を有する材料からなる光取り出し層とを更に備えてもよい。
【0016】
また、上記発光素子は、光取り出し層は、活性層が発する光の波長をλ、光取り出し層を構成する材料の屈折率をn、定数A(ただし、Aは奇数)とした場合に、A×λ/(4×n)で規定される値の±30%の範囲内の厚さdを有することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る発光素子によれば、反射部の厚さが一定以上の厚さであっても、反射層の厚さの増加に応じて発光出力が向上する発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の第1の実施の形態に係る発光素子の模式的な断面図である。
【図1B】本発明の第1の実施の形態に係る発光素子が備える反射部の模式的な断面図である。
【図1C】本発明の第1の実施の形態に係る発光素子の模式的な平面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る発光素子の断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る発光素子の断面図である。
【図4A】実施例1に係る発光素子が備える反射部の簡易的な構造を示す図である。
【図4B】実施例1に係る発光素子が備える反射部の簡易的な構造における反射スペクトルを示す図である。
【図5A】0°DBR層を備える発光素子が備える反射部の簡易的な構造を示す図である。
【図5B】0°DBR層を備える発光素子が備える反射部の簡易的な構造における反射スペクトルを示す図である。
【図6】実施例1に係るエピタキシャルウエハに粗面化処理を施す時間と表面粗さ(ただし、Ra及びRMS)との関係を示す図である。
【図7】実施例1に係るエピタキシャルウエハに粗面化処理を施す時間と表面粗さ(ただし、Ry)との関係を示す図である。
【図8】実施例に係る発光素子の反射部の厚さと発光出力との関係を示す図である。
【図9】実施例2に係る発光素子の断面図である。
【図10】実施例3に係る発光素子の発光部の断面図である。
【図11】比較例1に係る発光素子の模式的な断面図である。
【図12】比較例1に係る発光素子の反射部の厚さの違いによる発光出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の要約]
半導体基板と、第1導電型の第1クラッド層と、第1導電型とは異なる第2導電型の第2クラッド層とに挟まれる活性層を有する発光部と、半導体基板と発光部との間に設けられ、活性層が発する光を反射する反射部と、発光部の反射部の反対側に設けられ、表面に凹凸部を有する電流分散層とを備える発光素子において、反射部は、1.7μm以上8.0μm以下の厚さを有し、反射部は、第1の半導体層と、第1の半導体層とは異なる第2の半導体層とからなるペア層を少なくとも3つ有して形成され、第1の半導体層は、活性層が発する光のピーク波長をλ、第1の半導体層の屈折率をn、第2の半導体層の屈折率をn、第1クラッド層の屈折率をnIn、第2の半導体層への光の入射角をθとした場合に、式(1)で定められる厚さTを有し、第2の半導体層は、式(2)で定められる厚さTを有し、反射部の複数のペア層の厚さはそれぞれ、式(1)及び式(2)のθの値がペア層ごとに異なることにより互いに異なり、少なくとも1つのペア層は、θの値が50°以上の値で規定される第1の半導体層及び第2の半導体層を含む。
【0020】
[第1の実施の形態]
図1Aは、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子の模式的な断面を示し、図1Bは、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子が備える反射部の模式的な断面を示す。また、図1Cは、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子の模式的な平面を示す。
【0021】
(発光素子1の構造の概要)
第1の実施の形態に係る発光素子1は、一例として、発光ピーク波長(λp)が631nm付近の赤色光を放射する発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)である。具体的に、発光素子1は、第1導電型としてのn型の半導体基板10と、半導体基板10の上に設けられるn型のバッファ層200と、バッファ層200の上に設けられるn型の化合物半導体の多層構造を有する反射部210と、反射部210の上に設けられるn型の第1クラッド層220と、第1クラッド層220の上に設けられる活性層222と、活性層222の上に設けられる第1導電型とは異なる第2導電型としてのp型の第2クラッド層224と、第2クラッド層224の上に設けられるp型の介在層230と、介在層230の上に設けられ、表面(すなわち、光取り出し面)に凹凸部250を有するp型の電流分散層240とを備える。
【0022】
また、発光素子1は、電流分散層240の凹凸部250が設けられている領域を除く領域の所定の位置に設けられる表面電極30と、半導体基板10のバッファ層200が設けられている面の反対側の面(すなわち、半導体基板10の裏面)に設けられる裏面電極35とを更に備える。本実施の形態において、活性層222は第1クラッド層220と第2クラッド層224とに挟まれて設けられており、以下の説明において、第1クラッド層と、活性層222と、第2クラッド層224とをまとめて発光部20という場合がある。なお、発光素子1は、表面電極30の上にワイヤーボンディング用パッドとしてのパッド電極を更に備えることもできる。
【0023】
(半導体基板10)
半導体基板10としては、例えば、所定の導電型のキャリアを含み、所定のキャリア濃度を有するGaAs基板を用いることができる。また、半導体基板10としては、所定のオフ角度を有するオフ基板、又は、オフ角度を有さないジャスト基板を用いることができる。なお、半導体基板10上に形成する複数の化合物半導体層の種類に応じて、半導体基板10を構成する化合物半導体材料を適宜、代えることもできる。
【0024】
(反射部210)
反射部210は、半導体基板10と発光部20との間に設けられ、活性層222が発する光を反射する。そして、反射部210は、活性層222を構成する半導体のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する半導体材料から形成されると共に、活性層222から発せられる光に対して透明である半導体材料から形成され、かつ、活性層222及び半導体基板10と略格子整合する半導体材料(例えば、AlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1))から形成される。また反射部210は、1.7μm以上8.0μm以下の厚さを有することが好ましい。
【0025】
具体的に、反射部210は、図1Bに示すように、複数の化合物半導体層の積層構造を有して形成される。また、反射部210は、第1の半導体層210aと、第1の半導体層210aとは異なる屈折率を有する第2の半導体層210bとからなるペア層を複数有して形成される。反射部210は、少なくとも3対、好ましくは15対以上のペア層を有して形成される。そして、第1の半導体層210aは、例えば、AlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成することができ、第2の半導体層210bは、例えば、AlGa1−yAs(ただし、0≦y≦1)から形成することができる。そして、第1の半導体層210aの屈折率と第2の半導体層210bの屈折率とは互いに異なるように形成する。なお、第1の半導体層210aがAlGaAsから形成される場合、第1の半導体層210aのAl組成「x」は、第2の半導体層210bのAl組成「y」とは異なる値に制御される。
【0026】
また、第1の半導体層210aの厚さ、及び第2の半導体層210bの厚さは、後述するように光の入射角に応じた厚さを有して形成することができるが、図1Bにおいては説明の便宜上、略同一の厚さで示す。なお、第1の半導体層210a及び第2の半導体層210bは、互いに屈折率の異なる(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成することもできる。また、第1の半導体層210aを(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成すると共に、第2の半導体層210bをAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成するか、又は、第1の半導体層210aをAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成すると共に、第2の半導体層210bを(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成することもできる。
【0027】
ここで、反射部210が有する複数のペア層はそれぞれ、活性層222が発する光の発光ピーク波長以上の波長の光を反射すると共に、それぞれ異なる入射角の光を反射する。具体的に、第1の半導体層210aは、活性層222が発する光のピーク波長をλ、第1の半導体層210aの屈折率をn、第2の半導体層210bの屈折率をn、第1クラッド層220の屈折率をnIn、第2の半導体層210bへの光の入射角をθとした場合(ただし、θは、第2の半導体層210bの主面を光の入射面とした場合、入射面の法線に対する角度である)とした場合に、以下の式(1)で定められる厚さTを有して形成される。また、第2の半導体層210bは、以下の式(2)で定められる厚さTを有して形成される。
【0028】
【数3】

【0029】
【数4】

【0030】
複数のペア層のうち、一のペア層に含まれる第1の半導体層210aの厚さは、当該一のペア層に入射する光の入射角θに応じて式(1)から算出される厚さを有して形成される。同様に当該一のペア層に含まれる第2の半導体層210bの厚さも、入射角θに応じて式(2)から算出される厚さを有して形成される。同様にして、複数のペア層に含まれる他のペア層についても、当該他のペア層に入射する光の入射角θに応じた厚さを有する第1の半導体層210a及び第2の半導体層210bを含んで形成される。なお、ペア層は、λ/4nの1.5倍以上の厚さの厚さTを有する第1の半導体層210aと、λ/4nの1.5倍以上の厚さの厚さTを有する第2の半導体層210bとを含むことが好ましい。
【0031】
ここで、本実施の形態においては、反射部210は、ペア層を少なくとも3つ含んで形成される。そして、複数のペア層の厚さはそれぞれ、式(1)及び式(2)のθの値がペア層ごとに異なることにより互いに異なる。例えば、一のペア層の厚さと他のペア層の厚さとは、互いに異なるように形成される。そして、一のペア層におけるθの値をθ、他のペア層におけるθの値をθにした場合に、一のペア層に含まれる第1の半導体層210aの厚さ及び第2の半導体層210bの厚さは、θの値を用いて式(1)及び式(2)から算出され、他のペア層に含まれる第1の半導体層210aの厚さ及び第2の半導体層210bの厚さは、θとは異なるθの値を用いて式(1)及び式(2)から算出される。更に、少なくとも1つのペア層が、θの値が50°以上の値で規定される厚さの第1の半導体層210a及び第2の半導体層210bを含んで形成されることにより、発光部20から反射部210に入射した直射入射光を除く光を反射部210において光取り出し面側に反射することができる。本実施の形態に係る発光素子1はこのような反射部210を備えることにより、活性層222から放射された光が反射部210に様々な入射角で入射しても、当該光は、反射部210において光取り出し面の方向に反射される。
【0032】
また、反射部210の半導体基板10側から1つ目のペア層、又は1つ目及び2つ目のペア層の第1の半導体層210aは、AlAsから形成されることが好ましい。そして、この場合、反射部210の半導体基板10側から1つ目のペア層、又は1つ目及び2つ目のペア層の第2の半導体層210bは、活性層222を構成する半導体のバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有するAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)、若しくは、活性層222が発する光に対して不透明なAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されることが好ましい。更に、この場合、反射部210の半導体基板10側から3つ目以降のペア層の第2の半導体層210bは、活性層222が発する光に対して透明なAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されることが好ましい。
【0033】
(発光部20)
発光部20は、第1クラッド層220、活性層222、及び第2クラッド層224を有する。まず、バッファ層200は、半導体基板10に接して設けられる。例えば、バッファ層200は、半導体基板10がn型のGaAs基板から形成される場合、n型のGaAsから形成される。また、第1クラッド層220と、活性層222と、第2クラッド層224とはそれぞれ、例えば、(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される三元系、又は四元系のIII族化合物半導体材料から形成される。なお、第1の実施の形態に係る活性層222は、例えば、ノンドープのGaIn1−xP単層(ただし、0≦x≦1)から形成することもできる。
【0034】
(介在層230)
介在層230は、第2クラッド層224を構成する半導体材料と電流分散層240を構成する半導体材料とが互いに異なる場合に、第2クラッド層224と電流分散層240とのヘテロ界面の電位障壁を低減する半導体材料から形成される。具体的に、介在層230は、第2クラッド層224と電流分散層240との間に設けられる。より具体的に、介在層230は、第2クラッド層224の活性層222の反対側に設けられると共に、第2クラッド層224を構成する半導体のバンドギャップエネルギーと電流分散層240を構成する半導体のバンドギャップエネルギーとの間のバンドギャップエネルギーを有する半導体材料から形成される。例えば、介在層230は、p型のGaIn1−zP(ただし、zは、一例として、0.6≦z≦0.9)から形成される。発光素子1が介在層230を備えることにより、発光素子1の順方向電圧を低減できる。
【0035】
(電流分散層240)
電流分散層240は、発光部20の反射部210の反対側、すなわち、発光部20と表面電極30との間に設けられ、発光素子1に供給された電流が活性層222に略均一に供給されるように当該電流を分散させる。また、電流分散層240は、活性層222が発する光を透過する半導体材料から形成される。例えば、電流分散層240は、p型のGaP、p型のGaAsP、又はp型のAlGaAsから形成することができる。そして、電流分散層240は、表面電極30が形成される領域を除く表面に凹凸部250を有する。
【0036】
(凹凸部250)
凹凸部250は、電流分散層240の発光部20の反対側の表面を粗面化して形成される。凹凸部250は、当該表面を所定のエッチャントでエッチングすることによりランダムな形状を有して形成される。また、凹凸部250は、当該表面に予め定められたパターンを有して形成することもできる。更に、凹凸部250は、発光素子1の光取り出し効率を向上させることを目的として、算術平均粗さRaが0.04μm以上0.25μm以下であることが好ましく、二乗平均粗さRMSが0.05μm以上0.35μm以下であることが好ましい。更に、凹凸部250は、最大高さRyが1.0μm以上3.0μm以下であることが好ましい。
【0037】
(表面電極30、裏面電極35)
表面電極30は、電流分散層240にオーミック接触する材料から形成される。具体的に、表面電極30は、Be、Zn、Ni、Ti、Pt、Al、Au等の金属材料から選択される少なくとも1つのp型電極用の金属材料を含んで形成される。例えば、表面電極30は、電流分散層240側からAuBe、Ni、Auの順に積層された積層構造を有して形成することができる。なお、表面電極30は、電流分散層240の介在層230の反対側の面、すなわち、発光素子1の光取り出し面の一部に設けられる。そして、表面電極30は、図1Cに示すように、発光素子1の上面視にて略円形状の円部分30aと、円部分から発光素子1の四隅に向かって延びる4本の足部分30bとを有して形成される。
【0038】
裏面電極35は、半導体基板10にオーミック接触する材料から形成される。具体的に、裏面電極35は、Ge、Ni、Ti、Pt、Al、Au等の金属材料から選択される少なくとも1つのn型電極用の金属材料を含んで形成される。例えば、裏面電極35は、半導体基板10側からAuGe、Ni、Auの順に積層された積層構造を有して形成することができる。なお、裏面電極35は、半導体基板10の裏面の略全面に形成される。
【0039】
(変形例)
第1の実施の形態に係る発光素子1は、半導体基板10上にバッファ層200を備えるが、第1の実施の形態の変形例に係る発光素子は、バッファ層200を備えずに形成することができる。
【0040】
また、第1の実施の形態に係る発光素子1は、赤色を含む光(例えば、発光波長が630nm帯の光)を発するが、発光素子1が発する光の波長はこの波長に限定されない。活性層222の構造を制御して、所定の波長範囲の光を発する発光素子1を形成することもできる。活性層222が発する光としては、例えば、深紅色、橙色光、黄色光、又は緑色光等の波長範囲の光が挙げられる。また、発光素子1が備える発光部20は、紫外領域、紫色領域、若しくは青色領域の光を発する活性層222を含むInAlGaN系の化合物半導体から形成することもできる。
【0041】
更に、発光素子1が備える半導体基板10、バッファ層200、反射部210、第1クラッド層220、第2クラッド層224、介在層230、及び電流分散層240の化合物半導体層は、これらの化合物半導体層を構成する化合物半導体の導電型を、本実施の形態の反対にすることもできる。例えば、半導体基板10、バッファ層200、反射部210、及び第1クラッド層220の導電型をp型にすると共に、第2クラッド層224、介在層230、及び電流分散層240の導電型をn型にすることもできる。
【0042】
また、活性層222は量子井戸構造を有して形成することもできる。量子井戸構造は、単一量子井戸構造、多重量子井戸構造、又は歪み多重量子井戸構造のいずれの構造からも形成することができる。なお、発光部20は、第1クラッド層220、活性層222、及び第2クラッド層234以外の半導体層を含んで形成することもできる。
【0043】
また、表面電極30の形状は、例えば、四角形状、菱形形状、多角形状等の形状を有して形成することができる。
【0044】
(発光素子1の製造方法)
第1の実施の形態に係る発光素子1は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、半導体基板10を準備する。そして、半導体基板10上に、例えば、有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE法)によって複数の化合物半導体層(すなわち、バッファ層200、反射部210、第1クラッド層220、活性層222、第2クラッド層224、介在層230、電流分散層240)を含むIII−V族化合物半導体の半導体積層構造を形成する(成長工程)。これにより、エピタキシャルウエハが製造される。
【0045】
ここで、MOVPE法を用いた半導体積層構造の形成は、成長温度、成長圧力、半導体積層構造が有する複数の化合物半導体層のそれぞれの成長速度、及びV/III比をそれぞれ所定の値に設定して実施する。なお、V/III比とは、トリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)等のIII族原料のモル数を基準にした場合における、アルシン(AsH)、ホスフィン(PH)等のV族原料のモル数の比である。
【0046】
また、MOVPE法において用いる原料は、Ga原料として、トリメチルガリウム(TMGa)、又はトリエチルガリウム(TEGa)を用いることができ、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いることができ、In原料としてトリメチルインジウム(TMIn)等の有機金属化合物を用いることができる。また、As源としてアルシン(AsH)を用いることができ、P源としてホスフィン(PH)等の水素化物ガスを用いることができる。更に、n型のドーパントの原料は、セレン化水素(HSe)、ジシラン(Si)を用いることができる。そして、p型のドーパントの原料は、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を用いることができる。
【0047】
また、n型のドーパントの原料として、モノシラン(SiH)、ジエチルテルル(DETe)、又はジメチルテルル(DMTe)を用いることもできる。そして、p型のドーパントの原料として、ジメチルジンク(DMZn)又はジエチルジンク(DEZn)を用いることもできる。
【0048】
なお、半導体基板10上にバッファ層200を形成することにより、MOVPE装置内に残留している、前回の結晶成長時に用いたドーパントの影響(すなわち、炉内メモリーの影響)をキャンセルできる。これにより、エピタキシャルウエハを安定的に製造することができる。また、バッファ層200を半導体基板10上にエピタキシャル成長させることで、バッファ層200上にエピタキシャル成長させる化合物半導体層の結晶性を向上させることができる。
【0049】
次に、フォトリソグラフィー法、成膜法(例えば、真空蒸着法、スパッタ法等)を用いて、エピタキシャルウエハの表面、すなわち、電流分散層240の表面の一部に表面電極30を形成する(表面電極形成工程)。なお、表面電極30の形成にはリフトオフ法を用いることができる。続いて、半導体基板10の裏面の略全面に裏面電極35を形成する。更に、表面電極30と電流分散層240との間、及び裏面電極35と半導体基板10裏面との間のそれぞれをオーミック接触させるべく、所定の雰囲気下(例えば、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下)、所定の温度、所定の時間、アロイ処理を実施する。
【0050】
続いて、電流分散層240の表面に凹凸化処理(すなわち、粗面化処理)を施すことにより、凹凸部250を形成する(凹凸部形成工程)。本実施の形態において粗面化処理は、表面電極30を形成した後に実施する。そして、粗面化は、表面電極30が形成されている領域を除く電流分散層240の表面に、所定のエッチャントを用いてエッチング処理を施すことにより実施する。なお、電流分散層240の表面にフォトリソグラフィー法を用いて予め定められたマスクパターンを形成した後、形成したマスクパターンをマスクとして、電流分散層240の表面にエッチング処理を施すこともできる。
【0051】
次に、表面電極30及び裏面電極35が設けられたエピタキシャルウエハを、製造する発光素子1のサイズに合わせて切断することにより、複数の発光素子1が製造される(切断工程)。具体的には、複数の表面電極30それぞれの間を、製造すべき発光素子1のサイズに合わせてダイシング装置によりダイシングする。なお、ダイシング処理後に、複数の発光素子2の端面にエッチング処理を施すことにより、ダイシングによる機械的ダメージを除去することもできる。
【0052】
このようにして製造される発光素子1は、例えば、発光波長が631nm付近の赤色領域の光を発する発光ダイオードである。そして、発光素子1の上面視における形状は略矩形であり、上面視における寸法は、一例として、275μm角である。
【0053】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態に係る発光素子1は、複数の入射角に対応して厚さが制御された第1の半導体層210aと第2の半導体層210bとからなる複数のペア層を有する反射部210を備えるので、反射部210に様々な入射角から光が入射したとしても、反射部210は、当該光を光取り出し面側に反射することができる。更に、発光素子1は、光取り出し面に凹凸部250を備えるので、反射部210により反射された光を効率的に発光素子1の外部に取り出すことができる。これにより、光取り出し効率が向上された本実施の形態に係る発光素子1を提供することができる。更に、本実施の形態に係る発光素子1は、反射部210が有する複数の半導体層の構成を調整することにより、反射部210の厚さの増加に応じて、発光出力を増加させることができる。
【0054】
また、第1の実施の形態に係る発光素子1は、式(1)及び式(2)の角度θの値が大きい値で規定される厚さの第1の半導体層210aと第2の半導体層210bとを有するペア層により反射された光であっても、光取り出し面に凹凸部250が形成されているので、光取り出し面から当該光を有効に取り出すことができる。これにより、本実施の形態に係る発光素子1は、例えば、反射部210を、活性層222が発する光の発光ピーク波長に対応した半導体層のみで構成した場合に比べて、発光出力を向上させることができる。したがって、本実施の形態によれば、半導体基板10上に成長する化合物半導体層の総数の増加による原料の増加、及び成長時間の増加による製造コストの増加を伴うことなく、光出力の高い発光素子1を提供することができる。
【0055】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る発光素子の模式的な断面の概要を示す。
【0056】
第2の実施の形態に係る発光素子1aは、第1の実施の形態に係る発光素子1と異なり、凹凸部250上に光取り出し層40を更に備える点を除き、第1の実施の形態に係る発光素子1と略同一の構成を備える。したがって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0057】
発光素子1aは、表面電極30が設けられている領域を除く電流分散層240の表面に、活性層222が発する光に対して透明であり、電流分散層240を構成する半導体の屈折率と空気の屈折率との間の屈折率を有する材料から形成される光取り出し層40を備える。光取り出し層40は、活性層222が発する光の波長をλ、光取り出し層40を構成する材料の屈折率をn、定数A(ただし、Aは奇数)とした場合に、A×λ/(4×n)で規定される値の±30%の範囲内の厚さdを有して形成される。
【0058】
光取り出し層40は、絶縁体、又は第1導電型若しくは第2導電型の酸化物若しくは窒化物から形成することができる。光取り出し層40は、例えば、SiN、SiO、ITO、Sn、TiO、ZnO等の酸化物若しくは窒化物から形成することができる。また、光取り出し層40を構成する材料は、導電性を有することは要さない。更に、光取り出し層40を構成する材料の導電型は、p型、n型のいずれであってもよい。
【0059】
発光素子1aは、電流分散層240の表面と外部の空気との間に、電流分散層240を構成する材料の屈折率と空気の屈折率との間の屈折率を有する光取り出し層40を備えるので、発光素子1aの光取り出し効率を更に向上させることができる。
【0060】
[第3の実施の形態]
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る発光素子の模式的な断面の概要を示す。
【0061】
第3の実施の形態に係る発光素子1bは、第1の実施の形態に係る発光素子1と異なり、活性層222が第1アンドープ層221と第2アンドープ層223により挟まれている点を除き、第1の実施の形態に係る発光素子1と略同一の構成を備える。したがって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0062】
具体的に、第3の実施の形態に係る発光素子1bは、半導体基板10と、半導体基板10上に形成されるバッファ層200と、バッファ層200上に形成される反射部210と、反射部210上に形成される第1クラッド層220と、第1クラッド層220上に形成される第1アンドープ層221と、第1アンドープ層221上に形成される活性層222と、活性層222上に形成される第2アンドープ層223と、第2アンドープ層223上に形成される第2クラッド層224と、第2クラッド層224上に形成される介在層230と、介在層230上に形成される電流分散層240とを備える。
【0063】
第1アンドープ層221は、第1クラッド層220中のn型ドーパントが活性層222中に拡散することを抑制する。また、第2アンドープ層223は、第2クラッド層224中のp型ドーパントが活性層222中に拡散することを抑制する。第1アンドープ層221及び第2アンドープ層223は、例えば、ドーパントを含まない(AlGa1−xIn1−yPから形成される。活性層222を第1アンドープ層221と第2アンドープ層223とで挟むことにより、第1クラッド層220及び第2クラッド層224から活性層222中へのドーパントの拡散が抑制されるので、発光部20aにおける発光効率の向上を図ることができると共に、発光素子1bの信頼性を向上させることができる。
【0064】
なお、第3の実施の形態に係る発光素子1bにおいては、活性層222を第1アンドープ層221と第2アンドープ層223とによって挟んだ構造としたが、第3の実施の形態の変形例においては、第1アンドープ層221又は第2アンドープ層223のいずれか一方を形成しない発光素子を形成することもできる。
【実施例1】
【0065】
実施例1に係る発光素子として、第1の実施の形態に係る発光素子1に対応する発光素子であって、発光ピーク波長が631nm付近の赤色発光の発光素子を製造した。具体的に、まず、15°オフのオフ角を有する半導体基板10としてのn型GaAs基板上に、MOVPE法を用いてn型GaAsからなるバッファ層(ただし、Seドープ、キャリア濃度:1×1018/cm、膜厚200nm)と、第1の半導体層210aとしてのAlAs層と、第2の半導体層210bとしてのAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層を含む反射部210とをエピタキシャル成長させた。反射部210を構成する各半導体層のキャリア濃度は、約1×1018/cmに制御した。なお、実施例1に係る発光素子として、後述するように、反射部210の構成を様々に変化させた9種類の発光素子を製造した。反射部210の構成の詳細については後述する。
【0066】
次に、反射部210の上に第1クラッド層220としてのn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pクラッド層(ただし、Seドープ、キャリア濃度:4×1017/cm、膜厚400nm)と、活性層222としてのアンドープ(Al0.1Ga0.90.5In0.5P活性層(ただし、膜厚600nm)と、第2クラッド層224としてのp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pクラッド層(ただし、Mgドープ、キャリア濃度:2×1017/cm、膜厚500nm)と、介在層230としてのp型Ga0.7In0.3P介在層(ただし、Mgドープ、キャリア濃度:6×1018/cm、膜厚20nm)と、電流分散層240としてのp型GaP電流分散層(ただし、Mgドープ、キャリア濃度:2×1018/cm、膜厚8000nm)とを順次エピタキシャル成長させた。これにより、実施例1に係る発光素子用のエピタキシャルウエハを製造した。
【0067】
なお、MOVPE成長での成長温度は、n型GaAsからなるバッファ層からp型Ga0.7In0.3P介在層までの成長温度を650℃に設定すると共に、p型GaP電流分散層の成長温度を675℃に設定した。また、その他の成長条件は、成長圧力を6666.1Pa(50Torr)に設定すると共に、複数の化合物半導体層のそれぞれの成長速度を0.3nm/secから1.5nm/secに設定した。また、V/III比は、約150に設定した。ただし、p型GaP電流分散層の成長におけるV/III比は、25に設定した。MOVPE成長において用いた原料等は、第1の実施の形態において説明したので詳細な説明は省略する。
【0068】
ここで、反射部210について詳細に説明する。反射部210が有する複数のペア層の第1の半導体層210aであるAlAs層の厚さ、及び第2の半導体層210bであるAl0.5Ga0.5As層の厚さはそれぞれ、式(1)及び式(2)から算出される厚さに制御した。すなわち、λとしてはアンドープ(Al0.1Ga0.90.5In0.5P活性層から放出される光の発光ピーク波長「631nm」を、nとしてはAlAs層の屈折率「3.114」を、nとしてはAl0.5Ga0.5As層の屈折率「3.507」を、nInとしてはn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pクラッド層の屈折率「3.127」を用いた。更に、式(1)及び式(2)中の角度θは、0°、10°、20°、30°、40°、50°、60°、70°を用いた。
【0069】
なお、ある一つのペア層のAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とはいずれも、同一の角度θの値から式(1)、式(2)を用いて算出される厚さを有する。そして、詳細は後述するが、反射部210は、角度θが70°のペア層を少なくとも1つ含み、かつ、角度θが70°ではないペア層を少なくとも2種類含む。例えば、反射部210は、角度θが10°、40°、70°の3種類のペア層を含んで形成される。
【0070】
具体的に、反射部210の全体の厚さが、約1.0μm(実施例1a)、1.5μm(実施例1b)、2.0μm(実施例1c)、3.0μm(実施例1d)、4.0μm(実施例1e)、5.0μm(実施例1f)、6.0μm(実施例1g)、7.0μm(実施例1h)、8.0μm(実施例1i)になるように、式(1)及び式(2)のθの値を変化させて、AlAs層の厚さ及びAl0.5Ga0.5As層の厚さと、ペア層のペア数を決定した。式(1)及び式(2)のθの値、反射部210の厚さ、ペア層のペア数の関係を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
また、反射部210の厚さが約2.0μmの発光素子用エピタキシャルウエハに関しては、反射部210に含まれる第1の半導体層210a及び第2の半導体層210bの種類は同一であるが、積層の順番を実施例1cの反対にしたエピタキシャルウエハ(以下、実施例1jという)も製造した。
【0073】
(反射部210の構成について)
図4Aは、実施例1に係る発光素子が備える反射部の簡易的な構造を示し、図4Bは、実施例1に係る発光素子が備える反射部の簡易的な構造における反射スペクトルを示す。また、図5Aは、0°DBR層を備える発光素子が備える反射部の簡易的な構造を示し、図5Bは、0°DBR層を備える発光素子が備える反射部の簡易的な構造における反射スペクトルを示す。
【0074】
図4Aを参照すると分かるように、実施例1に係る発光素子が備える反射部210の簡易的な構造は、半導体基板10としてのn型GaAs基板の上に、70°DBR層と、40°DBR層と、0°DBR層とがこの順に形成された構造を備える。斯かる構造の反射部210の反射スペクトルを測定したところ、図4Bに示すように、様々な波長の光を反射することが示された。
【0075】
一方、図5Aを参照すると分かるように、比較例に係る発光素子が備える反射部の簡易的な構造は、半導体基板10としてのn型GaAs基板の上に、3つの0°DBR層が形成された構造を備える。斯かる構造の反射部の反射スペクトルを測定したところ、図5Bに示すように、ピーク波長が640nm付近の波長の光のみを主として反射することが示された。
【0076】
(実施例1cについて)
ここで、反射部210の厚さが約2.0μmの場合、すなわち、実施例1cを例に、反射部210の構成を説明する。他の実施れについては表1に示したとおりである。
【0077】
実施例1cに係る反射部210の構造は以下のとおりである。すなわち、まず、n型GaAsバッファ層上に、θを70°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「70°DBR層」という)を2ペア形成した。次に、70°DBR層の上にθを60°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「60°DBR層」という)を1ペア形成した。そして、60°DBR層の上にθを50°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「50°DBR層」という)を1ペア形成した。
【0078】
更に、50°DBR層の上にθを30°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「30°DBR層」という)を2ペア形成した。そして、30°DBR層の上にθを20°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「20°DBR層」という)を6ペア形成した。
【0079】
更に、20°DBR層の上にθを10°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「10°DBR層」という)を3ペア形成した。そして、10°DBR層の上に最上層として、θを0°に設定して式(1)及び式(2)から算出される厚さを有するAlAs層とAl0.5Ga0.5As層とからなるペア層(以下、「0°DBR層」という)を1ペア形成した。このような16ペアのペア層を有する反射部210をn型GaAsバッファ層上に形成した。
【0080】
また、実施例1cの発光素子用エピタキシャルウエハに関して反射部210に含まれる第1の半導体層210a及び第2の半導体層210bの種類は同一であるが、積層の順番を実施例1cの反対にした実施例1jのエピタキシャルウエハは、以下のような構成の反射部210を備える。すなわち、n型GaAsバッファ層上に、0°DBR層1ペアと、0°DBR層上に10°DBR層3ペアと、10°DBR層上に20°DBR層6ペアと、20°DBR層上に30°DBR層2ペアと、30°DBR層上に50°DBR層1ペアと、50°DBR層上に60°DBR層1ペアと、60°DBR層上に70°DBR層2ペアとを備える。これにより、実施例1a乃至実施例1jに係る10種類のエピタキシャルウエハを製造した。
【0081】
以上のようにして製造した10種類の発光素子用のエピタキシャルウエハをMOVPE装置から搬出した後、直径が100μmの円部分と、円部分の外縁から延びる4本の足部分とを有する表面電極30を、エピタキシャルウエハの表面(すなわち、ウエハの上面であって、電流分散層240の表面)にマトリックス状に配列するように形成した。表面電極30の形成には、フォトリソグラフィー法を用いた。すなわち、エピタキシャルウエハの表面にフォトレジストを塗布した後、マスクアライナーを用いたフォトリソグラフィー法により、複数の表面電極30が形成される領域のそれぞれに開口を有するマスクパターンをエピタキシャルウエハの表面に形成した。その後、真空蒸着法を用いて開口に40nm厚のAuBeと、10nm厚のNiと、1000nm厚のAuとをこの順に蒸着した。蒸着後、リフトオフ法によりエピタキシャルウエハに形成されたマスクパターンを除去することにより、エピタキシャルウエハの表面に表面電極30を形成した。
【0082】
次に、エピタキシャルウエハの裏面、すなわち、表面電極30が形成された面の反対側の面の全面に、真空蒸着法を用いて裏面電極35を形成した。裏面電極35は、60nm厚のAuGeと、10nm厚のNiと、500nm厚のAuとをこの順に蒸着することにより形成した。表面電極30及び裏面電極35を形成した後、電極を合金化するアロイ工程を実施した。具体的には、表面電極30及び裏面電極35が形成されたエピタキシャルウエハを、窒素ガス雰囲気中、400℃にて5分間加熱することにより実施した。これにより、実施例1a乃至実施例1jに係る発光素子用の電極付エピタキシャルウエハを製造した。
【0083】
続いて、実施例1a乃至実施例1jに係る発光素子用の電極付エピタキシャルウエハの表面の表面電極30を除く領域の電流分散層240の表面に粗面化処理を施した。粗面化処理は酢酸系のエッチング液を用いて電流分散層240の表面をエッチングすることにより実施した。エッチング時間は30秒間に設定した。
【0084】
また、実施例1a乃至実施例1jに係るエピタキシャルウエハを用いて、エッチング時間と表面の凹凸との関係を調査した。調査において実施したエッチング時間は、15秒、30秒、60秒、90秒である。
【0085】
図6は、実施例1に係るエピタキシャルウエハに粗面化処理を施す時間と表面粗さ(ただし、Ra及びRMS)との関係を示し、図7は、実施例1に係るエピタキシャルウエハに粗面化処理を施す時間と表面粗さ(ただし、Ry)との関係を示す。
【0086】
図6を参照すると、電流分散層240の表面に形成された凹凸部250の平均粗さRaは0.04〜0.25μmであり、二乗平均粗さRMSは0.05〜0.35μmであった。また、図7を参照すると、凹凸部250の最大高さRyは、1.4〜2.6μmであった。
【0087】
エピタキシャルウエハに電極を形成した後、実施例1a乃至実施例1jそれぞれに係る電極付エピタキシャルウエハを、表面電極30が中心になるようにダイシング装置によって切断して、チップサイズ275μm角の実施例1a乃至実施例1jそれぞれに係る発光素子(以下、LEDベアチップという)を作製した。そして、LEDベアチップをTO−18ステムにAgペーストを用いてダイボンディングした。そして、TO−18ステムにマウントされたLEDベアチップの表面電極30にAuからなるワイヤーを用いてワイヤーボンディングして、実施例1a乃至実施例1jに係る発光素子をそれぞれ作製した。
【0088】
上述したように作製した実施例1a乃至実施例1jに係る発光素子の初期特性を評価した結果を表2に示す。なお、評価に用いた発光素子はそれぞれ、エピタキシャルウエハの中心付近から取り出した素子である。また、表2における発光出力は、20mA通電時の発光出力である。
【0089】
【表2】

【0090】
図8は、実施例に係る発光素子の反射部の厚さと発光出力との関係を示す。ここで、図8において、「□」と「△」との相違は、実験時期が異なるという点である(ただし、発光素子の製造に用いた製造設備はすべて同一である)。すなわち、第1の時期に製造した実施例に係る発光素子の発光出力を「□」で示し、第1の時期とは異なる第2の時期に製造した実施例に係る発光素子の発光出力を「△」で示した。また、第1の時期において反射部の厚さが同一の軸において複数の発光出力を示している部分があるが(例えば、反射部210の厚さが2000nm等)、これは、同時期に同一の装置で再現性を確認したものである。なお、表2の値は代表値を示す。
【0091】
図8を参照すると、実施例1aから実施例1jに係る発光素子の発光出力は、反射部の膜厚が増加するにつれて発光出力が向上することが示された。特に、反射部210の厚さが約8000nm、すなわち、約8μmまでは、発光素子の発光出力が増加することが示された。具体的には、反射部210の厚さが約6μmまでは大幅に発光出力が増加して、当該厚さが約6μmから約8μmまでは更に発光出力が増加した。なお、後述する比較例においては、反射部210の厚さが約2000nm、すなわち、約2μm以上になると発光出力が増加せず飽和した。
【0092】
具体的に、比較例に係る発光素子の発光出力は約2.0mWであるところ、実施例1に係る発光素子の発光出力は約2.1〜4.6mWであり、比較例に係る発光素子の発光出力の2倍以上の発光出力が得られる発光素子を製造できることが示された。すなわち、実施例1に係る発光素子、例えば、実施例1g〜実施例1iに係る発光素子においては、4.5mW級の発光出力が得られることが示された。また、製造時期によらず、再現性よく4.5mW級の発光出力が得られることが示された。
【0093】
なお、電流分散層240の表面の凹凸化のためのエッチング時間を15秒、30秒、60秒、90秒にして製造した発光素子の発光出力も、実施例1と略同等であることを確認した。これにより、エッチング時間を15秒から90秒に設定して電流分散層240の表面を粗面化して、当該表面の平均粗さRaが0.04〜0.25μmであり、二乗平均粗さRMSが0.05〜0.35μmであり、最大高さRyが1.4〜2.6μmであれば、実施例1と同等の発光出力が得られることが示された。
【0094】
また、表2を参照すると、反射部210の構成、及び凹凸部250の存在にかかわらず、発光ピーク波長λは、±1nm以内の範囲内であり、実用上問題がないことが示された。更に、順方向電圧Vfについても、実用上問題がないことが示された。
【0095】
また、実施例1に係る発光素子について信頼性試験を実施した。具体的に、信頼性試験は、室温、50mA通電の条件で168時間、通電試験を実施して評価した。信頼性試験の結果、実施例1に係るいずれの発光素子も、相対出力が96%から105%であった。なお、相対出力は、168時間通電後の発光出力/初期発光出力×100から算出した。したがって、実施例1に係る発光素子の信頼性は、後述する比較例1に係る発光素子と同程度であることが確認された。なお、50mA通電前後共に、評価電流値は20mAである。
【0096】
また、実施例1jに係る発光素子、すなわち、実施例1cの反射部210の構成を反対にした発光素子は、発光出力が2.775mWであり、実施例1cの発光出力の約98%の発光出力であった。この約2%の差は、素子間のバラツキであると考えられる。また、実施例1jに係る発光素子の発光ピーク波長、順方向電圧、及び信頼性については実施例1cと略同一であった。したがって、反射部210を構成するペア層の順番を反対にしても、実用上問題がないことが示された。これは、反射部210を構成する材料は、活性層222が発する光に対して透明な材料で構成されていることによる。
【実施例2】
【0097】
実施例2に係る発光素子として、実施例1に係る発光素子とは異なる電流分散層を備える発光素子を製造した。電流分散層の構成を除く他の構成、機能は実施例1と同一であるので、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0098】
図9は、実施例2に係る発光素子の断面の概要を示す。
【0099】
実施例2に係る発光素子1cは、半導体基板10と、半導体基板10の上に設けられるバッファ層200と、バッファ層200の上に設けられる反射部210と、反射部210の上に設けられる第1クラッド層220と、第1クラッド層220の上に設けられる活性層222と、活性層222の上に設けられる第2クラッド層224と、第2クラッド層224の上に設けられる介在層230と、介在層230の上に設けられる第1の電流分散層242及び第2の電流分散層244を有する電流分散層240とを備える。そして、発光素子2は、第2の電流分散層244上、すなわち、凹凸部250の上に設けられる表面電極30と、半導体基板10の反射部210の反対側に設けられる裏面電極35とを更に備える。
【0100】
実施例2に係る反射部210は厚さが2972nmであり、表1に示した実施例1dの反射部210の構成と同一の構成を有する。一方、電流分散層240は、キャリア濃度又は不純物濃度が互いに異なる第1の電流分散層242と第2の電流分散層244とを有して形成される。そして、第2の電流分散層244は、第1の電流分散層242のキャリア濃度又は不純物濃度より高いキャリア濃度又は不純物濃度を有して電流分散層240の表面側に形成される。
【0101】
電流分散層240、具体的には、第1の電流分散層242を成長する場合におけるCpMg流量(Mg流量)は、第1の電流分散層242のキャリア濃度が2×1018/cmになるように68sccmに設定した。そして、電流分散層240の膜厚8000nm中の再上部の2000nm(すなわち、第2の電流分散層244に該当する部分)の部分については、第1の電流分散層242を成長する場合のMg流量の約2倍のMg流量(すなわち、135sccM)に設定して、キャリア濃度が4×1018/cmになるように第2の電流分散層244を成長した。なお、第2の電流分散層244の厚さは、1.0μm以上3.0μm以下であることが好ましい。
【0102】
また、実施例2においては、表面電極30を形成する前に第2の電流分散層244の表面に凹凸部250を形成した。実施例1のように、第2の電流分散層244を備えていない発光素子において、表面電極30を形成する前に電流分散層240の表面に凹凸部250を形成すると、順方向電圧が高くなった。しかしながら、実施例2に係る発光素子1cにおいては、第2の電流分散層244を備えていることから、実施例1に係る発光素子と略同等のLED特性が得られることが示された。
【実施例3】
【0103】
実施例3に係る発光素子として、実施例1dに係る発光素子とは異なる反射部210を備える発光素子を製造した。反射部210を除く他の構成は実施例1dと略同一であるので、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0104】
図10は、実施例3に係る発光素子の発光部の断面の概要を示す。
【0105】
実施例3に係る発光素子の反射部210は、0°DBR層を構成する第2の半導体層210cを、活性層222が発する光に対して不透明な半導体材料であるGaAsから形成した。具体的に、実施例3に係る発光素子の反射部210の構成は以下のとおりである。すなわち、n型GaAsバッファ層上に0°DBR層2ペア(この0°DBR層2ペアは、GaAs系半導体から形成した)と、0°DBR層上に80°DBR層1ペアと、80°DBR層上に70°DBR層3ペアと、70°DBR層上に60°DBR層2ペアと、60°DBR層上に50°DBR層2ペアと、50°DBR層上に30°DBR層3ペアと、30°DBR層上に20°DBR層5ペアと、20°DBR層上に0°DBR層2ペア(この0°DBR層2ペアはAlGaAs系半導体から形成した)とを形成した。そして、バッファ層200上に設けられた0°DBR層2ペアそれぞれにおいては、第2の半導体層210cをGaAsから形成した。一方、第1クラッド層220に接する0°DBR層2ペアの第2の半導体層210bは、Al0.5Ga0.5Asから形成した。すなわち、実施例3に係る発光素子では、第1クラッド層220/0°DBR層(ただし、AlGaAs系半導体からなる)2ペア/・・・/0°DBR層(ただし、GaAs系半導体からなる)2ペア/バッファ層200というような構成になるように各層を形成した。各ペア層の第1の半導体層210a、及び0°DBR層を除く他のDBR層の第2の半導体層210bは、実施例1dと同一の材料である。
【0106】
実施例3に係る発光素子の発光出力は3.63mWであった。すなわち、実施例1dに係る発光素子の発光出力よりも約5%程度、発光出力が向上した。なお、順方向電圧、発光波長、及び信頼性については、実施例1dに係る発光素子と略同一であった。
【0107】
実施例3に係る発光素子の発光出力は、実施例1dに係る発光素子の発光出力よりも高出力化した。これは、反射部210のAlAsからなる第1の半導体層210aの屈折率とGaAsからなる第2の半導体層210cの屈折率との屈折率差が、AlAsからなる第1の半導体層210aの屈折率とAl0.5Ga0.5Asからなる第2の半導体層210bの屈折率との屈折率差より大きいことから、反射部210の反射率が向上したことに起因する。なお、GaAsからなる層は活性層222が発する光を吸収する。したがって、仮に反射部210の第2の半導体層のすべてをGaAsから形成した場合、発光素子の発光出力は低下する。したがって、反射部210の最下層、すなわち、活性層222から最も離れた位置に設けられるペア層にGaAsからなる層を設けることが好ましい。これは、反射部210に含まれるペア層の数を増加させない場合、反射部210の最下層については、光吸収を考慮するよりも反射率を増加させる方が発光出力を増加させる効果が大きいからである。
【0108】
(比較例1)
図11は、比較例1に係る発光素子の模式的な断面の概要を示し、図12は、比較例1に係る発光素子の反射部の厚さの違いによる発光出力を示す。
【0109】
比較例1に係る発光素子は、反射部212の構成等が異なる点を除き、実施例1と同様の構成を備える。したがって、実施例1に係る発光素子との相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0110】
まず、比較例1に係る発光素子の反射部212は、第1の半導体層としてのAlAs層と、第2の半導体層としてのAl0.5Ga0.5As層とからなる複数のペア層を有する。そして、比較例1においては、第1の半導体層の厚さと、第2の半導体層の厚さとを、λ/4nから算出される厚さに制御した。ここで、λは活性層222が発する光の発光ピーク波長であり、nは、第1の半導体層又は第2の半導体層の屈折率である。
【0111】
具体的に、発光ピーク波長は631nmであるので、比較例1に係る第1の半導体層としてのAlAs層の厚さTは、T=631/4×3.114(ただし、3.114はAlAs層の屈折率)となり、50.7nmである。また、比較例1に係る第2の半導体層としてのAl0.5Ga0.5As層の厚さTは、T=631/4×3.507(ただし、3.507は、Al0.5Ga0.5As層の屈折率)となり、45.0nmである。したがって、このような厚さを有する第1の半導体層及び第2の半導体層からなるペア層を有する反射部212を備えるように、比較例1に係る発光素子を製造した。
【0112】
また、反射部212に含まれるペア層のペア数を様々に変えた発光素子を製造した。具体的には、反射部212に含まれるペア層のペア数が20以上になると比較例1に係る発光素子の発光出力が飽和するので、反射部212が有するペア層のペア数を、15対、18対、20対、及び30対にした発光素子を製造した。そして、これら比較例1に係る発光素子の特性を評価した結果を、表3及び図12に示す。
【0113】
【表3】

【0114】
図12は、比較例に係る発光素子の反射部の膜厚と発光出力との関係を示す。具体的に、図12には、比較例1に係る発光素子(今回検討した発光素子)と同一の発光素子を以前に検討した結果も同時に示す。図12において、「□」が以前に検討した結果であり、「○」が今回検討した結果である。
【0115】
表3及び図12から分かるように、反射部212のペア数が15以上になると発光出力が飽和傾向を示し、ペア数が18以上ではバラツキ範囲程度(すなわち、1%以下)の発光出力の向上であった。すなわち、比較例1に係る発光素子の反射部212は、厚さが1.7μm程度、ペア数が18程度になると、発光出力の向上が望めないことが示された。今回検討した比較例1に係る発光素子の結果と以前検討した比較例1に係る発光素子と同一の発光素子の結果とを参照すると、発光出力の飽和傾向には再現性があることが示された。
【0116】
比較例1においては、電流分散層240の表面に凹凸部250は形成されていない。そこで、反射部210の厚さが2871nmの発光素子について、電流分散層240の表面に凹凸部250を形成した試料を作製して、当該試料のLED特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
凹凸部250を備えていない発光素子の発光出力は2.249mWであった。また、電流分散層240の表面に粗面化処理を施した発光素子においては、凹凸部250を備えていない発光素子に比べて発光出力が約10%程度低下することが示された。すなわち、比較例1においては、電流分散層の表面を粗面化すると発光出力が低下すること、発光出力の増大には実施例において説明した発光素子の構成が要求されることが確認された。なお、比較例1に係る発光素子であって凹凸部250を備える発光素子の凹凸のサイズを評価したところ、Ra、RMS、及びRyはいずれも実施例1と同程度であった。すなわち、凹凸部250のばらつき等によって発光出力が低下したのではないことが確認された。
【0119】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せのすべてが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0120】
1、1a、1b、1c、1d 発光素子
3 発光素子
10 半導体基板
20、20a 発光部
30 表面電極
35 裏面電極
40 光取り出し層
200 バッファ層
210 反射部
212 反射部
210a 第1の半導体層
210b、210c 第2の半導体層
220 第1クラッド層
221 第1アンドープ層
222 活性層
223 第2アンドープ層
224 第2クラッド層
230 介在層
240 電流分散層
242 第1の電流分散層
244 第2の電流分散層
250 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
第1導電型の第1クラッド層と、前記第1導電型とは異なる第2導電型の第2クラッド層とに挟まれる活性層を有する発光部と、
1.7μm以上8.0μm以下の厚さを有して前記半導体基板と前記発光部との間に設けられ、前記活性層が発する光を反射する反射部と、
前記発光部の前記反射部の反対側に設けられ、表面に凹凸部を有する電流分散層と
を備え、
前記反射部は、第1の半導体層と、前記第1の半導体層とは異なる第2の半導体層とからなるペア層を少なくとも3つ有して形成され、
前記第1の半導体層は、前記活性層が発する光のピーク波長をλ、前記第1の半導体層の屈折率をn、前記第2の半導体層の屈折率をn、前記第1クラッド層の屈折率をnIn、前記第2の半導体層への光の入射角をθとした場合に、式(1)で定められる厚さTを有し、
前記第2の半導体層は、式(2)で定められる厚さTを有し、
前記反射部の複数のペア層の厚さはそれぞれ、前記式(1)及び前記式(2)のθの値がペア層ごとに異なることにより互いに異なり、少なくとも1つのペア層は、θの値が50以上の値で規定される前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層を含む発光素子。
【数5】

【数6】

【請求項2】
前記反射部は、15以上の前記ペア層を有する請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記ペア層は、λ/4nの1.5倍以上の前記厚さTを有する前記第1の半導体層と、λ/4nの1.5倍以上の前記厚さTを有する前記第2の半導体層とを含む請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1の半導体層は、AlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成され、
前記第2の半導体層は、AlGa1−yAs(ただし、0≦y≦1)から形成されると共に、前記第1の半導体層の屈折率とは異なる屈折率を有する請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記反射部の前記半導体基板側から1つ目のペア層、又は1つ目及び2つ目のペア層の第1の半導体層は、AlAsから形成され、
前記反射部の前記半導体基板側から1つ目のペア層、又は1つ目及び2つ目のペア層の前記第2の半導体層は、前記活性層を構成する半導体のバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有するAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)、若しくは、前記活性層が発する光に対して不透明なAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成され、
前記反射部の前記半導体基板側から3つ目以降のペア層の前記第1の半導体層及び第2の半導体層は、前記活性層が発する光に対して透明なAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成される請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層は、互いに屈折率の異なる(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成される請求項3に記載の発光素子。
【請求項7】
前記第1の半導体層が(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成されると共に、前記第2の半導体層がAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されるか、又は、前記第1の半導体層がAlGa1−xAs(ただし、0≦x≦1)から形成されると共に、前記第2の半導体層が(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1、0.4≦y≦0.6)から形成される請求項3に記載の発光素子。
【請求項8】
前記電流分散層は、キャリア濃度又は不純物濃度が互いに異なる第1の電流分散層と第2の電流分散層とを有し、
前記第2の電流分散層は、前記第1の電流分散層の前記キャリア濃度又は前記不純物濃度より高い前記キャリア濃度又は前記不純物濃度を有して前記電流分散層の表面側に形成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記電流分散層の前記表面に設けられる表面電極と、
前記表面電極が設けられている領域を除く前記電流分散層の前記表面に、前記活性層が発する光に対して透明であり、前記電流分散層を構成する半導体の屈折率と空気の屈折率との間の屈折率を有する材料からなる光取り出し層と
を更に備える請求項1〜8のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記光取り出し層は、前記活性層が発する光の波長をλ、前記光取り出し層を構成する材料の屈折率をn、定数A(ただし、Aは奇数)とした場合に、A×λ/(4×n)で規定される値の±30%の範囲内の厚さdを有する請求項9に記載の発光素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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