説明

発光装置及びそれを用いた照明装置並びに画像表示装置

【課題】高輝度化された発光装置とこの発光装置を用いた照明装置並びに画像表示装置を提供する。
【解決手段】発光装置1は、発光光源2と波長変換部材5とを含み、波長変換部材5は、発光光源2より発生する近紫外から青色光を吸収し、蛍光を発生する1種類以上の柱状蛍光体粒子8を含み、柱状蛍光体粒子の少なくとも1種類の結晶方位分布の偏りが、発光装置の断面を電子後方散乱回折像法によって解析した下記(1)式で表される配向指数を、5%以上15%以下とする。
配向指数(%)=((柱状の形状を有する蛍光体粒子の底面に相当する結晶面±30°の結晶方位を有する粒子の断面積)/(柱状の形状を有する蛍光体粒子の断面積))×100%) (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置及びそれを用いた照明装置並びに画像表示装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、発光装置に用いる波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布の偏りが制御された発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、照明分野では、白色発光ダイオードを光源とする照明が用いられるようになってきた。このような照明は、LED照明やLED電球とも呼ばれている。白色発光ダイオードは、例えば青色発光ダイオードチップと蛍光体とから構成されている。具体的には、蛍光体を樹脂等に分散した複合部材が、青色発光ダイオードチップ上に被覆されている。蛍光体の一例は、青色発光ダイオードから青色の光が照射されると黄色の蛍光を発生する材料である。このため、複合部材は、波長変換部材とも呼ばれている。青色発光ダイオードから発生する青色の光とこの青色発光によって励起されて発光する黄色の光とが混色することにより白色光が得られる。
【0003】
図6は、従来の発光ダイオードの構造を示す断面図である。
図6に示すように、従来の発光ダイオード60は、発光ダイオードチップ66搭載用の第1のリードフレーム62と、第2のリードフレーム68と、発光ダイオードチップ66と第1のリードフレーム62と第2のリードフレーム68とを被覆する透光性樹脂材78とから構成されている。第1のリードフレーム62の上部62aには発光ダイオードチップ搭載用の凹部が設けられている。この凹部は、その底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状を有していると共に、凹部内面が反射面64となっている。この反射面64の底面に発光ダイオードチップ66の下面側の一方の電極がダイボンディングされている。発光ダイオードチップ66の上面に形成されている他方の電極は、ボンディングワイヤ70を介して第2のリードフレーム68の表面68aと接続されている(特許文献1参照)。
【0004】
上記発光ダイオードチップ66の上面及び側面は、リフレクタ64内に充填された波長変換部材で被覆されている。波長変換部材は、透光性エポキシ等の樹脂72と蛍光体74とからなり、樹脂72中には、発光ダイオードチップ66の発光を黄色可視光に変換する蛍光体74が分散状態で多数混入されている。このような蛍光体74としては、母材がアルミン酸イットリウム(Yl512)からなり、発光中心がセリウム(Ce)であるYAG蛍光体等が挙げられる。第1のリードフレーム62と第2のリードフレーム68との間に電圧が印加されると、発光ダイオードチップ66が発光する。上述したように、発光ダイオードチップ66の青色発光と、この青色発光によってYAG蛍光体74から黄色可視光が放射される。これらの青色可視光とYAG蛍光体74から放射される黄色可視光とが混色することにより白色光が得られる。この白色光は、透光性樹脂材78の凸レンズ部76によって集光されて外部へ放射される。
【0005】
白色発光ダイオード用の蛍光体74として、母体材料にケイ酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩、硫化物を用い、付活材(発光中心とも呼ばれている)として、遷移金属もしくは希土類金属が添加されたものが広く知られている。樹脂72としては、図4で説明したエポキシ樹脂(特許文献1参照)の他には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが使用されている。
【0006】
近年、白色発光ダイオードの高輝度化のため、発光ダイオードチップに大きな電流を流すようになっている。これに伴い発光ダイオードチップの温度が上昇する。これにより発光ダイオードチップ上に配設されている蛍光体の温度も上昇する。同じ蛍光体であれば、温度上昇と共に蛍光の輝度が低下する。このため、温度上昇に伴う輝度低下が小さく、耐久性に優れた蛍光体として、結晶構造が安定である窒化物や酸窒化物の蛍光体が使用されるようになってきた。代表的な蛍光体として、窒化ケイ素(Si)の固溶体であるサイアロン(Sialon)が挙げられる。サイアロンは、窒化ケイ素の一部の原子をAlと酸素で置換したSi−Al−O−N系の化合物である。
【0007】
サイアロンには、α型、β型の二種類の結晶系が存在し、特定の希土類元素を付活させたα型サイアロン(特許文献2〜4参照)は、有用な蛍光特性を有することから、白色発光ダイオード等への適用が検討されている。
【0008】
特許文献2及び3には、希土類元素としてEu(ユーロピウム)やEr(エルビウム)が付活されたCa-α型サイアロンが開示されている。
【0009】
特許文献4には、希土類元素としてEuが付活されたCa−α型サイアロン等の蛍光体と発光ダイオードを用いた照明装置が開示されている。
【0010】
特許文献5には、希土類元素としてEuを付活させたβ型サイアロン蛍光体が開示されている。このβ型サイアロン蛍光体の発光スペクトルは緑色光であり、かつ非常にシャープであるので、光の3原色のうち、緑色発光成分に好適な蛍光体である。このため、特許文献5のβ型サイアロン蛍光体は、青、緑、赤の光の3原色の純度が高い、つまり、半値幅の狭い狭帯域の発光が要求される液晶ディスプレイパネルのバックライト用に使用される白色発光ダイオードに好適な蛍光体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−152993号公報
【特許文献2】特許第3668770号公報
【特許文献3】特許第3726131号公報
【特許文献4】特開2003−124527号公報
【特許文献5】特開2005−255895号公報
【特許文献6】特許第3837588号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Electron Backscatter Diffraction in Materials Science, Edited by A. J. Schwartz, M. Kumar and B. L. Adams, Kluwer Academic / Plenum Publishers, New York, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発光ダイオードチップから発光される近紫外から青色の光とこの光で励起される蛍光体により波長変換された例えば黄色の光との混色により白色光を得る白色発光ダイオードでは、得られる光の強度、色調のばらつきを低減するために、蛍光体を波長変換部材中に分散させて、又は沈降させて用いている。
【0014】
さらに、波長変換のために二種類以上の蛍光体を用いる場合においては、それら蛍光体の混合状態を均一、または意図して分離させるなどの制御が行われている。
【0015】
しかしながら、蛍光体の粒子形状が柱状、あるいは柱状に近い形状を有する場合、蛍光体粒子は柱状粒子が倒れたような一方向に偏った分散を示すため、結晶方位を考慮した場合においては偏りがないとはいえず、より高輝度の発光装置を提供するには蛍光体粒子の結晶方位分布の制御が不十分であった。
【0016】
本発明は上記課題に鑑み、近紫外から青色光を光源とする発光装置の高輝度化を実現するため、波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布を制御することで、より高輝度化した発光装置と、この発光装置を用いた照明装置並びに画像表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、波長変換部材中に柱状の形状を有する蛍光体を含む発光装置において、柱状の形状を有する蛍光体の結晶方位分布の偏りについて電子後方散乱回折像法(非特許文献1参照)を用いて検討を行い、柱状の形状を有する蛍光体の結晶方位分布を所定範囲内で偏りをもたせることで、発光装置からの発光強度が向上するという知見を得て、本発明に至った。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の発光装置は、発光光源と波長変換部材とを、含み、波長変換部材は、発光光源より発生する近紫外から青色光を吸収し、蛍光を発生する1種類以上の柱状蛍光体粒子を含み、少なくとも1種類の柱状蛍光体粒子結晶方位分布の偏りは、発光装置の断面を電子後方散乱回折像法によって解析した下記(1)式で表される配向指数を、5%以上15%以下としたことを特徴とする。
配向指数(%)=((柱状の形状を有する蛍光体粒子の底面に相当する結晶面±30°の結晶方位を有する粒子の断面積)/(柱状の形状を有する蛍光体粒子の断面積))×100%) (1)
【0019】
上記構成において、前記発光光源は、好ましくは、300nm〜500nmの波長の光を発生する発光ダイオードである。蛍光体は、β型サイアロン、α型サイアロン、Euが付活されたCaAlSiNの何れか一つを含むことが好ましい。
【0020】
本発明の発光装置は、照明装置又は画像表示装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の発光装置は、青色又は紫外光を光源とする白色発光装置として蛍光体の結晶方位分布を制御しない発光装置に比べて高輝度の発光が得られる。
【0022】
本発明の発光装置は、照明や画像表示装置の光源に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の発光装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の波長変換部材中の蛍光体からなる結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析する方法の手順を示す工程図である。
【図3】実施例3のβ型サイアロン蛍光体の結晶方位分布の偏りを示す図である。
【図4】比較例1のβ型サイアロン蛍光体の結晶方位分布の偏りを示す図である。
【図5】実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置で得られた発光光度とβ型サイアロン蛍光体の配向指数との関係を示す図である。
【図6】従来の発光ダイオードの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の発光装置の構造を示す断面図である。図1に示すように、本発明の発光装置1は、発光光源2と、発光光源2を搭載する第1のリードフレーム3と、第2のリードフレーム4と、発光光源2と第1のリードフレーム3と第2のリードフレーム4とを被覆する波長変換部材5とを、含んで構成されている。
【0025】
第1のリードフレーム3の上部3aには発光光源2として発光ダイオードチップ搭載用の凹部3bが設けられている。この凹部3bは、その底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状を有していると共に、凹部3bの内面が反射面となっている。この反射面の底面に発光ダイオードチップ2の下面側の一方の電極がダイボンディングされている。発光ダイオードチップ2の上面に形成されている他方の電極は、ボンディングワイヤ6を介して第2のリードフレーム4の表面と接続されている。
【0026】
さらに発光装置1は、発光光源2と、第1及び第2のリードフレーム3,4と、波長変換部材5と、ボンディングワイヤ6と、を覆う樹脂やガラスからなるキャップ9を有していてもよい。
【0027】
発光光源2としては、近紫外から青色光3の300nm〜500nmの波長の光を発生する発光ダイオードチップを使用することができる。
【0028】
波長変換部材5は、樹脂材7と少なくとも1種類以上の蛍光体8とからなり、樹脂材中に蛍光体8が分散されている。蛍光体8の種類は、発光光源2の光と、この発光光源2の光を吸収し励起される蛍光体8から発生する光との混色によって得られる色調によって選定すればよい。所望の混色光を得るためには、蛍光体8の種類を1つ又は複数組み合わせて使用することができる。
【0029】
蛍光体8は粒子状の形状を有している。このような蛍光体粒子8としては、β型サイアロン、α型サイアロン、Euが付活されたCaAlSIN等が挙げられる。これらの蛍光体8は六角形等の柱状の結晶形状を有している。
【0030】
一般式:Si6−zAl8-z:Eu2+で表されるβ型サイアロン蛍光体8は、柱状の形状を有し、発光特性としては520nm〜550nmをピーク波長とする緑色発光を呈する。
【0031】
一般式:Cam/2Si12−(m+n)Al(m+n)16−nOn:Eu2+で表されるα型サイアロン蛍光体8も柱状の形状を有し、発光特性としては550nm〜610nmをピーク波長とする黄色から橙色の発光を呈する。
【0032】
CaAlSiN:Euも柱状の形状を有し、発光特性としては630nm〜650nmをピーク波長とする赤色発光を呈する。
【0033】
本発明の発光装置1の特徴は、波長変換部材5中の柱状の形状を有する蛍光体8の結晶方位分布の偏りを所定範囲内に制御することによって、発光装置1からの発光強度を向上させるという点にある。波長変換部材5中の柱状を有する蛍光体8の結晶方位の分布の偏りは、後で詳述するように、発光装置1の波長変換部材5の断面を電子後方散乱回折像法(非特許文献1参照)によって評価することができる。
【0034】
本発明者は、多数の発光装置1を製作し、波長変換部材5中の蛍光体8粒子の結晶方位分布の偏りを電子後方散乱回折像法によって解析した結果、下記(1)式で表される配向指数が、5%以上15%以下である場合、発光装置1からの発光強度が向上するということを見出した。
配向指数(%)=((柱状の形状を有する蛍光体粒子の底面に相当する結晶面±30°の結晶方位を有する粒子の断面積)/(柱状の形状を有する蛍光体粒子の断面積))×100%) (1)
【0035】
上記(1)式に示した配向指数は、電子後方散乱回折像法(Electron backscatter diffraction、EBSDとも呼ばれている。)で解析して得られた柱状の形状を有する蛍光体粒子8の底面に相当する結晶面と、その法線方向に対して−30°〜30°傾いた結晶面に対応する蛍光体粒子8の断面積の和を、全蛍光体粒子8の断面積の和で除し、百分率として求めたものである。すなわち、配向指数は波長変換部材5中における柱状の形状を有する蛍光体粒子8の結晶方位分布の偏りを示すものである。
【0036】
最初に、波長変換部材5における蛍光体8の結晶方位分布の偏りを、電子後方散乱回折像法(非特許文献1参照)によって評価する方法について説明する。
図2は、本発明の波長変換部材5中の蛍光体8からなる結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析する方法の手順を示す工程図である。
図2に示すように、ステップST1において、波長変換部材5中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程を行う。
ステップST2では、ステップST1の画像化工程によって作成された画像の結晶粒子の個々の方位を判定する判定工程を行う。
ステップST3においては、ステップST2の判定工程によって判定された方位の分布を特定する分析工程を行う。
最後に、ステップST4においては、ステップST3の分析工程で得られた方位分布を解析して結晶方位分布の偏りを解析する解析工程を行う。
【0037】
ステップST1の画像化工程において、波長変換部材5を機械研磨及びイオン研磨によりその断面を調製し、次にこの断面を画像化する。この画像化には、上記断面に露出させた結晶性粒子を観察できる装置を用いて行うことができる。例えば、走査電子顕微鏡の試料室内に波長変換部材5の断面を導入し、断面の二次電子像を観察することで画像化することができる。
【0038】
次に、ステップST2の判定工程においては、波長変換部材5の断面で観察される結晶性粒子の結晶方位を分析装置で取得する。このような結晶方位の分析装置としては、電子後方散乱回折像法を用いた装置が挙げられる。この装置の一例は、電子後方散乱回折像が取得可能な検出器を走査電子顕微鏡装置に付加したものである。電子後方散乱回折像法を走査電子顕微鏡で実施した場合、空間分解能は、0.1μm程度、観察試料の方位決定の分解能は1°程度である。
なお、電子後方散乱回折像法では、結晶粒子の結晶構造と結晶方位に対応した菊池パターンと呼ばれる二次元の幾何学模様が得られる。電子後方散乱回折像法では結晶面に応じた菊池パターンが観測される。その菊池パターンの形状より、観測粒子の結晶方向を決定することができる。
【0039】
ステップST3の分析工程にあっては、ステップST2で取得した菊池パターンによって結晶方位を解析できる解析プログラムを用いて行うことができる。つまり、結晶粒子の菊池パターンを取得して解析プログラムを用いて結晶方位を特定し、これを複数の結晶粒子で繰り返し行うことによって結晶方位分布を得ることができる。
ここで、結晶方位を特定する結晶性粒子の数が多ければ多いほど統計的な解析精度が向上するが、結晶性粒子の数が50個以上であれば解析に十分なデータが得られる。
【0040】
次に、ステップST4の結晶方位分布の偏りを解析する解析工程について説明する。
ステップST3の分析工程で得られた結晶方位分布によって結晶方位分布の偏りを解析する場合、上記(1)式で定義される配向指数を使用することができる。
【0041】
発明者らの検討によれば、波長変換部材5の断面で観測したβサイアロン蛍光体粒子8の上記配向指数を5%以上15%以下とすることが発光装置1の発光光度を向上させるために好ましいことを見出した。配向指数が5%よりも小さい場合には、βサイアロン蛍光体粒子8の結晶方位の偏りがなくなり、発光装置1からの発光光度が低下する。逆に、配向指数が15%よりも大きい場合には、βサイアロン蛍光体粒子8の結晶方位の偏りが大きくなり過ぎ、この場合も発光装置1の発光光度が低下するので好ましくない。発光装置1の発光光度をさらに向上させるためには、配向指数を7%以上13%以下とすることが好ましいことが分かった。
【0042】
また、波長変換部材5中に分散させる蛍光体8を、α型サイアロン及びEuが付活されたCaAlSiN(CaAlSiN:Euとも表記する。)として、上記と同様に蛍光体8の結晶方位分布の偏りの解析を行った。この場合もβ型サイアロンの場合と同様の結果が得られている。
【0043】
本発明者の実験によれば、配向指数が5%未満でも、あるいは15%よりも大きくなっても、すなわち柱状の形状を有する蛍光体8の結晶方位分布に上記の範囲を超えた偏りがあると、発光装置1の発光強度が低下する知見が得られている。これは、柱状の形状を有する蛍光体粒子8が一定の方向性をもって波長変換部材5中に存在すると、発光光源から放射される青色光や紫外光、及びそれらと波長変換部材5中で干渉して生じる発光が一定方向へ散乱される確率が高くなり、このため、発光素子内で生じる光の光路に偏りが生じることから、発光素子からの発光を外部へ効率よく取り出せなくなることに起因すると考えられる。このように、配向指数が5%未満、あるいは15%よりも大きくなる場合には、発光装置1の発光強度が低下する。
【0044】
以上のように、本発明によれば、波長変換部材5中の蛍光体粒子8の結晶方位分布の偏りを所定の範囲内とすることで、より高輝度で色むらのない発光装置1を提供することができる。
【0045】
本発明の波長変換部材5中に含まれる柱状の形状を有する蛍光体8の結晶方位分布を制御した発光装置1は、照明装置に用いることができる。
【0046】
本発明の波長変換部材5中に含まれる柱状の形状を有する蛍光体8の結晶方位分布を制御した発光装置1は、画像表示装置、例えば液晶テレビ用のバックライトに用いることができる。つまり、本発明の発光装置1、特に白色発光装置1をバックライト用の照明装置とした画像表示装置を提供することができる。本発明の発光装置1からなるバックライトは、従来の蛍光灯を用いたバックライトと比較して、三原色のスペクトル純度を高くすることができるので演色性が向上する。さらに、本発明の発光装置1からなるバックライトは発光ダイオードを光源とするので消費電力が小さくなる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
白色の発光装置1を製作した。具体的には、市販のLEDパッケージ(I-CHIUN PRECISl0N INDUSTRY CO.,LTD製,型番SMD5050)と青色LEDチップ(Genesis Photonics Inc.製、MODEL RIS45A19)と波長変換部材5とを用意し、白色発光装置1を製作した。波長変換部材5は、赤色蛍光体8としてCaAlSIN:Eu蛍光体と、緑色蛍光体8として自社製のβ型サイアロン蛍光体と、をシリコーン樹脂7(東レ・ダウコー二ング社製、型番EG6301)に配合することで調製し、青色の発光ダイオードチップ2に被覆した。CaAlSiN:Eu蛍光体8は、特許文献6に開示されている製造方法によって合成した。下記の表1に示すように、実施例1〜4では、波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布の偏りが所定の範囲内、すなわち、5%以上15%以下となるように、著しい針状及び柱状粒子を除去したβ型サイアロン蛍光体8を波長変換部材5中に分散させて、白色の発光装置(以下、白色発光装置と呼ぶ)1を製作した。
【0048】
(比較例)
また、表1に示すように、比較例1〜4では、それぞれ、波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布に所定の範囲外の偏り、すなわち、5%よりも小さいか、15%よりも大きくなるように、実施例とは逆に著しい針状及び柱状粒子を主成分としたβ型サイアロン蛍光体8を分散させた。それ以外は、実施例と同様にして白色発光装置1を製作した。
【0049】
白色発光装置1の発光光度と本発明の波長変換部材5中の蛍光体粒子8の結晶方位分布との関係を調べた。結晶方位分布の測定には、上記ステップST1で説明したように、波長変換部材5の断面を観察する必要がある。しかし、波長変換部材5の断面を作製することによって白色発光装置1が破壊される。このため、最初に実施例及び比較例で製作した白色発光装置1の発光高度を測定した。次に、波長変換部材5中の蛍光体粒子8の結晶方位分布を測定し、配向指数の算出を行った。
【0050】
作製した白色発光装置1に順方向電圧を印加し、所定の電流を流して白色発光装置1を発光させた。白色光は、青色発光ダイオードチップからの青い光と、この青い光が上記の蛍光体8に照射されて発光する赤及び緑の光と、の混色によって発生する。発光光度の測定は、超高感度瞬間マルチ測光システム(大塚電子(株)社製、MCPD−7000)を用いて行った。
なお、発光光度は、後述する比較例1における白色の発光装置1の発光光度を100%とした相対数値として算出した。
【0051】
次に、白色発光装置1の波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布の偏りの解析を図2に示した方法で実施した。波長変換部材5中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程として、白色発光装置1の断面を機械研麿とArイオン研磨とにより露出させた。
次に、白色発光装置1の断面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE=SEM、日本電子(株)製、JSM−700IF型)で観察し、波長変換部材5、つまり封止樹脂7に配合された蛍光体8の結晶性粒子の断面の画像を得た。
【0052】
画像化工程によって作成された画像のうちの結晶粒子の個々の方位を判定する判定工程では、上記電界放射型走査電子顕微鏡に、電子後方散乱回折像法測定装置(EDAX-TSL社製、形式OIM)を付加した装置を用いた。この結晶方位解析システムにより結晶方位の測定を行った。電子後方散乱回折像法では結晶面に応じた菊池パターンが観測される。その菊池パターンの形状によって、観測する粒子の結晶方向を決定した。具体的には、電子後方散乱回折像法で得られた菊池パターンから結晶方位を解析することのできるソフトウエア(EDAX−TSL社製、OIM Ver5.2)を使用して、結晶方位の分析を行った。
【0053】
結晶方位の測定条件を以下に示す。
加速電圧:15kV
作動距離:15mm
試料傾斜角度:70°
測定領域:80μm×200μm
ステップ幅:0.2μm
測定時間:50msec/ステップ
データポイント数:約400,000(40万)ポイント
なお、測定条件はこれに限定されるものではなく、試料形態、装置性能に応じて適宜に決定することができる。
【0054】
分析工程で得られた結晶方位分布を解析して、上記(1)式で定義される配向指数を求めた。
【0055】
次に、測定した発光光度及び配向指数について説明する。
(実施例1の測定結果)
実施例1の発光装置の発光光度は106.5%であり、上記(1)式から計算したβ型サイアロン蛍光体8の配向指数は13.3%であった。
【0056】
(実施例2の測定結果)
実施例2の発光装置の発光光度は103.8%であり、上記(1)式から計算したβ型サイアロン蛍光体8の配向指数は14.1%であった。
【0057】
(実施例3の測定結果)
実施例3の発光装置の発光光度は108.9%であった。
図3は、実施例3のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す図である。斜線で表示している領域がβ型サイアロン[0001]結晶面とその法線方向に対して±30度の結晶面を呈する断面、斜線のない領域がその他の結晶面が露出しているβ型サイアロン蛍光体8である。上記(1)式から計算したβ型サイアロン蛍光体8の配向指数は11.3%となった。
【0058】
(実施例4の測定結果)
実施例4の発光装置1の発光光度は104.1%であり、上記(1)式から計算したβ型サイアロン蛍光体8の配向指数は7.3%であった。
【0059】
(比較例1の測定結果)
比較例1の発光装置の発光光度は、100%であった。
図4は、比較例1のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す図である。斜線で表示している領域がβ型サイアロン[0001]結晶面とその法線方向に対して±30度の結晶面を呈する断面、斜線のない領域がその他の結晶面が露出しているβ型サイアロン蛍光体8である。上記(1)式から計算したβ型サイアロン蛍光体8の配向指数は22%となった。
【0060】
(比較例2の測定結果)
比較例2の発光装置の発光光度は98.2%であり、β型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は19.1%であつた。
【0061】
(比較例3の測定結果)
比較例3の発光装置の発光光度は102.8%であり、β型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は16.3%であつた。
【0062】
(比較例4の測定結果)
比較例4の発光装置の発光光度は100.9%であり、β型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は3.3%であつた。
【0063】
実施例1〜4及び比較例1〜4で測定した白色発光装置1の発光光度と配向指数の結果を表1に纏めて示す。
【表1】

【0064】
図5は、実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置1で得られた発光光度とβ型サイアロン蛍光体8の配向指数との関係を示す図である。図5の縦軸は、発光装置1の相対発光光度(%)を示し、横軸がβ型サイアロン蛍光体8の配向指数(%)である。
図5から明らかなように、波長変換部材5中のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを5%以上15%以下に調製した実施例1〜4の白色発光装置1では、発光光度が、基準とした比較例1の発光ダイオードに対して、約104%〜約109%で平均約5%向上した。
一方、波長変換部材5中のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布から算出される配向指数が実施例とは異なる範囲、つまり、5%以下15%以上に調製した比較例1〜4の白色発光装置1では、発光光度の基準とした比較例1の発光装置に対して約98%〜約103%程度であり、発光光度が実施例1〜4に対して低いことが判明した。
【0065】
これにより、発光装置1の波長変換部材5中のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りが所定の範囲内、つまり配向指数が5%以上15%以下、さらに好ましくは7%以上13%以下となる発光装置1において、従来の発光装置よりも発光強度が向上した発光装置1を実現できること分かった。
【0066】
本発明の波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布に所定範囲内の配光指数をもたせた発光装置1は、これらの配向指数の範囲外である発光装置に比べて高輝度の発光を示すことから、青色又は紫外光を光源とする白色発光装置1として好適であり、照明器具、画像表示装置などに好適に使用できる。
【0067】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、発光装置1の色は、緑や赤を発する蛍光体8の配合比を変えることによって白色光以外の例えば電球色に変更できる。
【符号の説明】
【0068】
1:発光装置
2:発光光源
3:第1のリードフレーム
4:第2のリードフレーム
5:波長変換部材
6:ボンディングワイヤ
7:樹脂
8:蛍光体
9:キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光光源と波長変換部材とを含む発光装置であって、
上記波長変換部材は、上記発光光源より発生する近紫外から青色光を吸収し、蛍光を発生する1種類以上の柱状蛍光体粒子を含み、
少なくとも上記1種類の柱状蛍光体粒子結晶方位分布の偏りは、上記発光装置の断面を電子後方散乱回折像法によって解析した下記(1)式で表される配向指数を、5%以上15%以下とすることを特徴とする、発光装置。
配向指数(%)=((柱状の形状を有する蛍光体粒子の底面に相当する結晶面±30°の結晶方位を有する粒子の断面積)/(柱状の形状を有する蛍光体粒子の断面積))×100%) (1)
【請求項2】
前記発光光源は、300nm〜500nmの波長の光を発生する発光ダイオードチップであることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記蛍光体は、β型サイアロンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記蛍光体は、α型サイアロンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記蛍光体は、Euが付活されたCaAlSiNを含むことを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の発光装置を含んで構成されることを特徴とする、照明装置。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の発光装置を含んで構成されることを特徴とする、画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−124393(P2011−124393A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281015(P2009−281015)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】