説明

発光装置及び電子機器

【課題】 有機EL素子を構成する電極の低抵抗化を実現しながら、高い製造容易性をもつ発光装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子8は、基板上に形成される第1及び第2電極層、及び、これらに挟持される発光機能層を含み、前記第2電極層は更に、前記基板の面を覆うようなベタ状に形成される主電極と、そのそれぞれが、行方向に沿って延びるN本の補助電極501(Nは正の整数)と、を含む。このうち補助電極は、前記主電極に比べて、より低い電気抵抗をもつ材料から作られ、前記N本の補助電極のうち少なくとも1本の補助電極は、その延在方向の途中で少なくとも1箇所の破断部分502をもち、かつ、前記第2電極層のシート抵抗は所定値以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネセンスにより発光する発光装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型で軽量な発光源として、OLED(organic light emitting diode)、即ち有機EL(electro luminescent)素子が提供されている。有機EL素子は、有機材料で形成された少なくとも一層の有機薄膜を画素電極と対向電極とで挟んだ構造を有する。この場合、画素電極は例えば陽極として、対向電極は陰極として機能する。両者間に電流が流されると同時に、前記有機薄膜にも電流が流れ、これにより、当該有機薄膜、ないしは有機EL素子は発光する。この場合、その発光の輝度は、有機薄膜に流れる電流の大きさに応じるので、当該電流の制御、言い換えれば、画素電極及び対向電極それぞれについての電位設定等に関しては、十分な注意を払う必要がある。
このような有機EL素子を多数並べ、かつ、その各々につき発光及び非発光を適当に制御すれば、所望の意味内容をもつ画像等の表示が可能となる。
かかる有機EL素子、ないしはこれを備えた画像表示装置としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開2001−296819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のような画像表示装置においては、既述の電流制御に関わる問題に関連して、画素電極あるいは対向電極の電気抵抗特性に関する問題がある。すなわち、有機EL素子は、前述のように、これら両電極で有機薄膜を挟持する構成を持つため、当該有機薄膜から発した光を装置外部へと導くためには、これら画素電極及び対向電極の少なくとも一方は、透明でなければならない。したがって、当該少なくとも一方は、透明であって導電性がある材料、例えばITO(Indium Tin Oxide)や、IZO(Indium Zinc Oxide)、あるいは光透過が可能となるまで薄膜化した銀、アルミニウム及び金その他の金属や合金等で作られる必要がある。しかし、これら透明導電性の材料は電気抵抗値が比較的高い。そのため、これらの電極の電位の安定的な設定・維持、ひいては有機薄膜への電流制御、あるいは画像表示面における輝度均一性の維持が困難となってしまうのである。
【0004】
このような不具合は特に、いわゆるトップエミッション型の画像表示装置において顕著である。ここにトップエミッション型とは、有機EL素子中の有機薄膜から発した光が、当該有機EL素子が形成されている基板が存在する位置とは反対側に向かって、装置外部へと導かれるタイプを意味する(ちなみに、当該基板の側に向かって当該光が導かれるタイプは、ボトムエミッション型と呼ばれる。)。このトップエミッション型の場合、例えば、前記対向電極が前記透明導電性材料から作られ、かつ、この対向電極が基板全面を覆うかのようなベタ状電極として形成される。したがって、前述した電気抵抗の問題は、このような対向電極においてより深刻になる。
【0005】
このような問題に対処するため、従来、いわゆる“補助電極”を形成することが行われている。すなわち、前述の構成例で言えば、比較的高抵抗の対向電極の上層又は下層として、かつ、発光領域を避けるように、比較的低抵抗の材料からなる導電性膜(即ち、補助電極)を形成するのである。これにより、当該補助電極が付設された対向電極の全体的な抵抗値は低くなり得る。
【0006】
しかし、この補助電極の形成は、それ自体に困難が伴う。例えば、前述した“発光領域を避けるように”という条件を満たすため、補助電極は、マトリクス状に配列された有機EL素子の行間を縫うように直線状に形成されるのが好ましいと通常は考えられるが、これ自体が、相当程度困難である。というのも、この場合、当該補助電極は極めて微細な線幅をもつ必要があり、しかも、それが前記行間領域に亘って線状に連続している必要があることになるからである。かかる成膜は、アライメント一つとっても困難である。また、画面サイズが大きくなればなるほど、その困難性は高まる。
【0007】
このような困難性を回避しようとするなら、例えば前記の特許文献1に記載されているように、そのような線状の電極を一挙に成膜するのではなくて、これを適当な数の、いわば部品としての電極の集合と考え、それら「複数の電極の一部が互いに重なりあ」うようにすることで(特許文献1の〔請求項1〕)、線状の補助電極を成膜するということが考えられる。しかしながら、この場合であっても、蒸着時に発生する輻射熱の影響によって蒸着マスクの伸縮が生じ、それら1個1個の電極の形状制御が困難(したがって、例えば、最終的に形成しようとする補助電極が線状に繋がらない)という問題がある。
前記の特許文献1でも、このような不具合、即ち「輻射熱を受けても開口部の精度が変化しない金属マスク」の使用の重要性が指摘されているが(特許文献1の〔0006〕)、特許文献1は、このような不具合を回避するため、「パターン加工されたパターンマスクを…平行移動させることで、前記複数の電極ラインを形成する」技術を開示する(特許文献1の〔請求項3〕等、あるいは〔図2〕乃至〔図4〕等参照)。しかしながら、この技術にも問題はある。すなわち、この技術では、1枚のマスクを少なくとも2回以上の蒸着に使用することになるので、例えば1回目の蒸着で当該マスクが汚染された場合、その汚染が2回目の蒸着で基板側に転写される、などということが生じ得るからである。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、発光素子を構成する電極の低抵抗化を中心とした、前記の課題の幾つかの全部又は一部を解決することの可能な発光装置及び電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発光装置は、上述した課題を解決するため、基板と、当該基板上にマトリクス状配列に従って並ぶ発光素子と、を備え、前記発光素子は、前記基板上に形成される第1及び第2電極層、及び、これらに挟持される発光機能層を含み、前記第2電極層は更に、前記基板の面を覆うように形成される主電極と、それぞれが、前記主電極と直接の接点をもつように形成されるとともに、前記マトリクス状配列に従って並ぶ前記発光素子の間に延びるN本の補助電極(Nは正の整数)と、を含み、前記補助電極は、前記主電極に比べて、より低い電気抵抗をもつ材料から作られ、前記N本の補助電極のうち少なくとも1本の補助電極は、その延在方向の途中で少なくとも1箇所の破断部分をもち、かつ、前記第2電極層のシート抵抗は所定値以下である。
【0010】
本発明によれば、発光素子を構成する第2電極層が、前述したような主電極及びN本の補助電極を含む。ここで“N”は、好適には例えば、発光素子の行の数に一致するとよいが、そこから適当に間引きされた数に一致してもよい(つまり、前記マトリクス状配列の行数がAであるなら、A>Nでもよい。)。
そして、本発明においては、N本の補助電極のうちの少なくとも1本の補助電極は、その延在方向の途中で少なくとも1箇所の破断部分を持つ。したがって、当該少なくとも1本の補助電極では、それ以外の補助電極のように、電荷の移動がスムースには行われない。
とはいえ、本発明では、第2電極層のシート抵抗は所定値以下である。ここで「所定値」とは、例えば「前記発光素子の全部が所定の輝度以上で発光するための値」、「前記発光素子の全部に含まれる前記発光機能層に所定の大きさ以上の電流が流れるための値」、あるいは「前記第1及び第2電極層間にかけられる電圧が前記発光機能層に係る障壁電圧以上となるための値」等々と言い換えられえ、あるいは定義されうる。これらの場合、第2電極層を全体としてみたとき、その電位設定は好適に行われ得るから、発光素子における電流制御が好適に行われ得ることになる(なお、上述でいう「障壁電圧」については、後述する図9(A)及びそれに関する実施形態中の説明、参照)。
【0011】
以上により、次のようなことが言える。すなわち、発光素子における電流制御は好適に行われながらも、そのようなことをいわば舞台裏でバックアップする補助電極は、「破断部分」をもっていてよい。この破断部分は、前述のように電荷移動を阻害こそすれ、スムースにすることはないのだから、本来、あってはならないものと考えられる。しかし、本願発明者は、シート抵抗が前記所定値以下のときには、そのような破断部分の存在も許容されることを見出した。そして、これが許容されるということは、N本の補助電極のすべてについて、必ずしもこれらを厳密に連続した線状形状をもつ電極として形成する必要がないということを意味する。つまり、本発明においては、上述したような、輻射熱による蒸着マスクの変形とか、1枚のマスクの使い回しによる汚染等々といった問題について特段の配慮を払う必要のない製造方法によって、補助電極は、製造され得るのである。これは当然、当該発光装置の製造容易性を極めて高める。
このように、本発明においては、「シート抵抗」に係る規定により、発光素子の電流制御好適化あるいはその輝度維持が、「破断部分」の存在により製造容易性が、それぞれ担保され、これらいわば相反する関係にある要求が同時に満たされることになる。
以上の事項は、後述する実施形態において、より具体的な数値等の裏づけをもって説明される。
【0012】
この発明の発光装置では、前記補助電極は、前記発光素子の行方向に沿って延びるように配置されている、ように構成してもよい。
この態様によれば、補助電極の最適な形成態様の1つが提供される。
なお、本態様にいう「行方向」とは、前記の「マトリクス状配列」の中において観念される縦方向又は横方向のいずれか1つの方向を意味する。この場合、例えば、当該「マトリクス状配列」の横方向を“行”と意味づけるなら、縦方向は“列”となるが、これを90度回転させてみれば、従前の横方向(即ち、“行”)は縦方向となって“列”となり、従前の縦方向(即ち、“列”)は横方向となって“行”となる。要するに、「行」及び「列」は、いま述べた意味においては相対的な概念であって、その意味では、本態様にいう「行」は、「列」と言い換えられうる。
【0013】
この発明の発光装置では、前記所定値は1〔Ω/sq.〕である、ように構成してもよい。
この態様によれば、第2電極層のシート抵抗が比較的低く抑制されるので、発光素子における電流制御が上述にも増して極めて好適に行われる。なお、本態様に言う「1〔Ω/sq.〕」という表記は、厳密に、“1〔Ω/sq.〕”を意味するだけでなく、各種の理論的推定、種々の環境に応じた物性値の揺らぎ、あるいは技術的常識等によってその存在が当然に見込まれるべき一定程度の範囲内の値(即ち、1±α〔Ω/sq.〕)をも含意する。
【0014】
また、本発明の発光装置では、前記基板の面の上に占める、前記破断部分の面積の、前記破断部分を含む前記補助電極の形成領域の面積に対する割合は、50〔%〕を下回る、ように構成してもよい。
この態様は、発光素子の電流制御の好適化と、製造容易性の向上との間のバランスを保つという観点からの最適な例の1つを提供する。すなわち、本願発明者は、上述のような“50〔%〕”規定を外れると、発光素子の電流制御が困難になることを見出している。この点については、後の実施形態の説明において改めて触れる。
なお、前述のように、N本の補助電極は適当に間引きされて(即ち、N<A(=発光素子行数)で)形成されてもよいが、この場合、本態様でいうのと同様の趣旨(即ち、破断部分の、いわば“量”が、それを除く補助電極の“量”に比べて、あまりに大きくなってはならない、という趣旨)に基づく制約が存在すると考えられる。
【0015】
また、本発明の発光装置では、前記基板上に前記第2電極層と電気的に接続される電源線を更に備える、ように構成してもよい。
この態様によれば、第2電極層に対する電位設定が、電源線を通じて好適に行われる。
【0016】
この態様では、前記主電極は平面視して略四辺形状をもち、前記電源線は、前記主電極の相対向する2つの辺それぞれに対向する部分をもつ、ように構成してもよい。
この態様によれば、略四辺形状をもつ主電極の二辺に対向する部分をもつ電源線が備えられているので、第2電極層に対する電源供給を行う電源線としては最好適な態様の1つをとるということができる。
しかし、このような態様は同時に、当該電源線から当該主電極の中央部分までの距離を相当程度隔てることになり、当該主電極全体の電位を維持することをより困難にする。しかるに、本発明においては、このような場合であっても、上述した、破断部分をもつN本の補助電極が存在すれば、発光素子の電流制御好適化及び製造容易性の向上という2つの効果が、変わりなく奏される。逆に言えば、このような態様においてこそ、本発明の効果はより一層実効的に享受されるということができる。
【0017】
また、本発明の発光装置では、前記主電極は、透明導電性材料から作られる、ように構成してもよい。
この態様によれば、主電極が透明導電性材料から作られるので、当該主電極を透過させるようにして発光素子から発した光を装置外部に取り出すことが可能である。
また、当該透明導電性材料は、通常、比較的高抵抗であることが予想されるが、その場合においても、上述した、破断部分をもつN本の補助電極が存在すれば、発光素子の電流制御好適化及び製造容易性の向上という2つの効果が、変わりなく奏される。逆に言えば、このような態様においてこそ、本発明の効果はより一層実効的に享受されるということができる。
【0018】
一方、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、上述した各種態様の発光装置を備える。
本発明の電子機器は、上述した各種の発光装置を備えてなるので、画像表面で輝度均一であるなど高品質な画像を表示することが可能であるとともに、その製造は容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下では、本発明に係る実施の形態について図1乃至図5を参照しながら説明する。なお、これらの図面及び後に参照する図6以降の各図面においては、各部の寸法の比率、あるいは各要素間の距離等は実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0020】
図1は、本実施形態の有機EL装置(発光装置)の一例を示す平面図である。
この図1において、有機EL装置は、素子基板7と、この素子基板7上に形成される各種の要素を備えている。ここで各種の要素とは、有機EL素子8、走査線3及びデータ線6、走査線駆動回路103A及び103B、データ線駆動回路106、プリチャージ回路106A、並びに対向電極用電源線201である。
【0021】
有機EL素子(発光素子)8は、図1に示すように、素子基板7上に複数備えられており、それら複数の有機EL素子8はマトリクス状に配列されている。有機EL素子8の各々は、画素電極、発光機能層及び対向電極から構成されている。このうち対向電極には、その機能を補助するための補助電極が設けられている。これら各要素に関しては後に改めて触れる。
画像表示領域7aは、素子基板7上、これら複数の有機EL素子8が配列されている領域である。画像表示領域7aでは、各有機EL素子8の個別の発光及び非発光に基づき、所望の画像が表示され得る。なお、以下では、素子基板7の面のうち、この画像表示領域7aを除く領域を、「周辺領域」と呼ぶ。
【0022】
走査線3及びデータ線6は、それぞれ、マトリクス状に配列された有機EL素子8の各行及び各列に対応するように配列されている。より詳しくは、走査線3は、図1に示すように、図中左右方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されている走査線駆動回路103A及び103Bに接続されている。一方、データ線6は、図中上下方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されているデータ線駆動回路106に接続されている。これら各走査線3及び各データ線6の各交点の近傍には、前述の有機EL素子8等を含む単位回路(画素回路)Pが設けられている。
【0023】
この単位回路Pは、図2に示すように、前述の有機EL素子8を含むほか、nチャネル型の第1トランジスタ68、pチャネル型の第2トランジスタ9、及び容量素子69を含む。
単位回路Pは、電流供給線113から給電を受ける。複数の電流供給線113は、図示しない電源に接続されている。
また、pチャネル型の第2トランジスタ9のソース電極は電流供給線113に接続される一方、そのドレイン電極は有機EL素子8の画素電極に接続される。この第2トランジスタ9のソース電極とゲート電極との間には、容量素子69が設けられている。一方、nチャネル型の第1トランジスタ68のゲート電極は走査線3に接続され、そのソース電極はデータ線6に接続され、そのドレイン電極は第2トランジスタ9のゲート電極と接続される。
単位回路Pは、その単位回路Pに対応する走査線3を走査線駆動回路103A及び103Bが選択すると、第1トランジスタ68がオンされて、データ線6を介して供給されるデータ信号を内部の容量素子69に保持する。そして、第2トランジスタ9が、データ信号のレベルに応じた電流を有機EL素子8に供給する。これにより、有機EL素子8は、データ信号のレベルに応じた輝度で発光する。
【0024】
素子基板7上の周辺領域上には、プリチャージ回路106Aが備えられている。このプリチャージ回路106Aは、有機EL素子8へのデータ信号の書込み動作に先立って、データ線6を所定の電位に設定するための回路である。
また、対向電極用電源線201(以下、単に「電源線201」という。)は、素子基板7の外形輪郭線にほぼ沿うように、平面視してΠ字状の形状をもつ。この電源線201は、有機EL素子8の対向電極に例えばグランドレベル等の電源電圧を供給する。
なお、前述では、走査線駆動回路103A及び103B、データ線駆動回路106、並びにプリチャージ回路106Aのすべてが素子基板7上に形成される例について説明しているが、場合によっては、そのうちの全部又は一部を、フレキシブル基板に形成するのであってもよい。この場合、当該のフレキシブル基板と素子基板7との両当接部分に適当な端子を設けておくことにより、両者間の電気的な接続を可能とする。
【0025】
平面視した場合に以上述べたような構成を備える有機EL装置は、図3に示すような積層構造物250を備えている。この積層構造物250は、図3に示すように、素子基板7を基準として、図中下から順に、回路素子薄膜11、第1層間絶縁膜301、反射層34、第2層間絶縁膜302、画素電極13、発光機能層18、対向電極5、及び補助電極501を含む。
【0026】
このうち、第1及び第2層間絶縁膜301及び302(以下、単に「絶縁膜301及び302」ということがある。)は、その他の残る導電性要素間の短絡が生じないように、あるいは、これら導電性要素の積層構造物250中の好適な配置を実現するため等に貢献する。これら絶縁膜301及び302は、様々な厚さでもって様々な絶縁性材料から作られうるが、好適には、各絶縁膜の積層構造物250中の配置位置や役割等に応じて、適宜適当な厚さ及び材料が選択されるとよい。
より具体的には例えば、絶縁膜301及び302は、SiO、SiN、SiON等々で作られて好ましい。
【0027】
回路素子薄膜11は、前述の単位回路Pに含まれる第1トランジスタ68や第2トランジスタ9等を含む。図では極めて簡略化されて描かれているが、この回路素子薄膜11は、これら各種のトランジスタを構成する半導体層、ゲート絶縁膜、ゲートメタル等や容量素子69を構成する電極用薄膜(いずれも不図示)、その他の金属薄膜から構成される。なお、図3に示す積層構造物250中には、前述した走査線3及びデータ線6も当然構築されているが、その図示は省略されている。
【0028】
一方、前述の有機EL素子8の各々は、図3に示すように、積層構造物を構成する前述の各種の要素のうち、画素電極13、発光機能層18、及び対向電極5から構成される。
【0029】
このうち画素電極13は、素子基板7上に、マトリクス状に配列するように形成されている。有機EL素子8がマトリクス状に配列されているということは、このように画素電極13がマトリクス状に配列されているということに相応する(図1及び図3参照)。
この画素電極13は、コンタクトホール360を介して、前述の回路素子薄膜11と電気的に接続されている。これにより、この画素電極13は、図2に示した第2トランジスタ9を介して電流供給線113から供給される電流を、発光機能層18に印加可能である。なお、コンタクトホール360は、第1及び第2層間絶縁膜301及び302を貫通するようにして形成されている。
このような画素電極13は、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透光性かつ導電性の材料から作られている。
【0030】
反射層34は、このような画素電極13の形成領域に対応するように、第1層間絶縁膜301上、且つ、第2層間絶縁膜302下に形成されている。反射層34は、図3に示すように、発光機能層18から発せられた光を反射する。この反射光は、図中上方に向かって進行する(図3中の矢印参照。)。このように、本実施形態に係る有機EL装置は、いわゆるトップエミッション型である。なお、このことから、素子基板7は、セラミックスや金属等の不透明材料で作られてよい(これとは反対に、ボトムエミッション型の場合、素子基板7は、透光性材料から作られている必要がある。)。
このような反射層34は、上述の反射機能をよりよく発揮するため、光反射性能の比較的高い材料から作られているとよい。例えば、アルミニウムや銀等の金属を利用することができる。
【0031】
一方、隔壁(バンク)340は、図3、あるいは図4に示すように、上述のような画素電極13のうち、平面視して隣接する画素電極13間の領域に形成されている。この隔壁340の図3中上下方向の実際上の高さは概ね1〜2μmである。この隔壁340は、各有機EL素子8を区画する役割を担う。
このような隔壁340は、例えば絶縁性の透明樹脂材料、その中でも特に撥液性をもつ材料で作られて好適である。より具体的には例えば、フッ素系樹脂、あるいは更に、アクリル樹脂の他、エポキシ樹脂、あるいはポリイミドなどを挙げることができる。
なお、隔壁340がこのような各種の樹脂材料から作られている場合には、その基層を、例えばSiO等の無機材料で作るようにするとよい(即ち、この場合、隔壁340は下層側に無機物質、上層側に有機物質という積層構造を持つことになる。)。これによれば、画素電極13が上述のようにITO等から作られている場合においても、当該画素電極13と隔壁340との密着性を高めることができる。
【0032】
発光機能層18は、図3に示すように、画素電極13の上に形成されている。この発光機能層18は、少なくとも有機発光層を含み、有機発光層は正孔と電子が結合して発光する有機EL物質から構成されている。この有機EL物質が例えば高分子材料である場合、当該有機EL物質は、例えば液滴塗布法(インクジェット法)により、前記隔壁340により区画された各空間内のみに(即ち、画素ごとに)供給される。
このように、隔壁340により区画された空間のみに有機EL物質を供給する態様によると、図4に示すように、発光機能層18を、色毎に、区別して設けることができる。図4では、図中左右方向に沿って、赤色光、緑色光及び青色光それぞれ専用の有機EL物質を含む発光機能層18R,18G及び18Bが、この順に形成されている例が示されている。なお、図中縦方向に沿っては、発光機能層18Rのみが並ぶ列、発光機能層18Gのみが並ぶ列、及び発光機能層18Bのみが並ぶ列、がそれぞれ列設されている。
発光機能層18を構成する他の層として、電子ブロック層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層及び正孔ブロック層の一部又は全部を備えていてもよい。
【0033】
対向電極5は、図3に示すように、複数の有機EL素子8の発光機能層18に接触している。つまり、対向電極5は、複数の画素電極13に共通するように、隔壁340で画定された発光機能層18の区域及び隔壁340の上に広がっている。
この対向電極5は、平面視して、素子基板7の全面を覆うかのような矩形状(その内部に特別な開口、間隙等をもたない、いわゆるベタ状)に形成される。対向電極5の周囲は、図1に示した電源線201に電気的に接続される(その接続態様は不図示)。なお、電源線201は、前述のように平面視してΠ字状であり、対向電極5は矩形状であるから、後者は前者の“Π”字に囲まれた領域に入り込むように形成される。この場合、Π字のいわば2つの足の部分が、対向電極5の両辺に対向することになる。
この実施の形態では、対向電極5は陰極で、画素電極13は陽極だが、その逆であってもよい。
このような対向電極5は、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透光性かつ導電性の材料から作られている。
【0034】
以上の構成に加えて、本実施形態に係る有機EL装置は特に、補助電極501を備えている。
この補助電極501は、図3に示すように、隔壁340の上に位置する対向電極5の上に形成されている。この補助電極501は、図3からも明らかなように、対向電極5の上に直接形成されているから、補助電極501の図中下面(対向電極5と接する面)の全部は、当該対向電極5の図中上面との間の接点の集合からなるとみることができる。要するに、両者間における電気的連絡はほぼ完全である。
【0035】
この補助電極501の平面視した場合における形状は、図4、あるいは図5に示すように略長方形状である。ただし、この略長方形状の短辺の長さは、長辺の長さに比して極めて短い。したがって、補助電極501は、殆ど“線状”といい得る形状をもつ。このような線状の補助電極501は、図4、あるいは図5に示すように複数存在し、その複数は図中縦方向相隣接して並ぶ有機EL素子8間の領域それぞれを縫うようにして延びる。そして、これら複数の補助電極501の一端は、同じく図4、あるいは図5に示すように電源線201に達する。
【0036】
これら複数の補助電極501のそれぞれは、図4、あるいは図5に示すように、その延在方向の途中で破断部分502をもつ。本実施形態では、この破断部分502は、特に図5によく示されているように、3つの有機EL素子8ごとに1個ずつ設けられている。なお、ここでいう“3つの有機EL素子8”は、前述のように、赤色光、緑色光及び青色光それぞれ専用の有機EL物質を含む発光機能層18R,18G及び18Bを含む。したがって、このような3つの有機EL素子8を一まとまりとし、本実施形態において特にこれを“1ピクセル”と呼ぶなら、本実施形態に係る破断部分502は、1ピクセルごとに1個ずつ設けられているといえる。
この破断部分502の、補助電極501の延在方向に沿った長さtは、具体的には様々に定められ得るが、この点については後に述べる。
【0037】
以上述べたような補助電極501は、少なくとも前記対向電極5の抵抗値よりは低い抵抗値をもつ材料、更に具体的には、アルミニウム、銀、金、銅、等々で作られて好適である。それぞれの電気抵抗値(比抵抗)は、2.62〔μΩ・cm〕、1.62〔μΩ・cm〕、2.4〔μΩ・cm〕、1.69〔μΩ・cm〕であり、いずれも極めて低い。
また、本実施形態に係る補助電極501の形状を具体的に規定する各数値は、以下のように定められて好適である。すなわち、その幅W(図4参照)は10〜50μm程度、その高さT(図3参照)は100〜500nm程度とされて好適である。なお、前者の幅Wは、実際上は、図4からもわかるように、図中上下方向に隣接する有機EL素子8間の距離WAをどの程度に設定するかにもかかっている。通常は、後者の“距離WA”を定めた後、前者の“幅W”を定めるという手順がとられて好適であるが、幅Wが30nmであれば、距離WAは50nm程度という関係が成立するとよい(即ち、補助電極501の両側端から、そのそれぞれに対向する有機EL素子8の端部までの距離が15nm程度(=(WA−W)/2)に設定されるとよい。)。このように、WA>Wとする理由は、補助電極501の形成プロセスに関わる位置公差を考える必要があるからである。
【0038】
以上の補助電極501及び前述した対向電極5の一体は、本発明にいう「第2電極層」の一具体例に該当する。そして、本実施形態に係る、これら補助電極501及び対向電極5の一体は、その全体としてのシート抵抗が、1〔Ω/sq.〕以下となっている。
【0039】
以上のような構成をもつ有機EL装置によれば、次のような効果が奏される。
(1) まず、本実施形態の有機EL装置では、上述のように、対向電極5及び補助電極501の一体のシート抵抗が1〔Ω/sq.〕以下となっていることから、電源線201を介した電位の設定が比較的安定的に行われる。この対向電極5の電位は、画素電極13との間の電位差の設定、ひいては発光機能層18に流れる電流に影響を及ぼすから、結局、本実施形態では、有機EL素子8の電流制御、あるいはその発光輝度の制御を極めて安定的に行うことができる。
なお、このような比較的低いシート抵抗値が実現される背景には、補助電極501の存在が大きく貢献していることは言うまでもない。ただし、本実施形態に係る補助電極501には、前述のように破断部分502が存在するので、事情は然程簡単ではない。この点も含め、補助電極501及び破断部分502の配置態様等とシート抵抗との関係については、後においても改めて述べる。
【0040】
(2) また、本実施形態の有機EL装置では、その製造(特に、補助電極501の形成)が極めて容易という効果が享受される。これは、補助電極501が破断部分502を持つから、あるいは、持っていてもよいからである。かかる効果は、補助電極501が仮に、図5の左右に示された各電源線201に挟まれた領域の全部に亘って常に連続した線状をもたなければならない場合(図8参照。なお、この図については後述する。)を想定すると明らかである。この場合、補助電極501の製造は、例えば、当該補助電極501の全線を一挙に形成するか、あるいはその一部を形成した後、その一部の端部に他の一部の端部が重なり合うように当該他の一部を形成する(以後、必要があれば、これを繰り返す)、等といったように行われる必要がある。しかしながら、前者の手法は殆ど実用不可能に近く、また、後者の手法についても、蒸着マスクの輻射熱による変形等々の問題が発生することは既に述べたとおりである(前述の〔発明が解決しようとする課題〕の項、参照)。
しかるに、本実施形態では、破断部分502が、積極的に設けられてよい。つまり、補助電極501は、先に述べた各手法に比べても、いわば極めてラフに製造され得るのである。
このようなことから、本実施形態の有機EL装置は、その製造容易性が極めて高められている。また、「ラフに製造され得る」ことの反面として、当該有機EL装置が大量生産される場合、その歩留まりは極めて向上する。
【0041】
なお、本実施形態に係る有機EL装置において、補助電極501は、例えば、図5中左から、第1,3,5,…の各列に位置する補助電極片(補助電極501中、2つの破断部分502(又は、1つの破断部分502と電源線201と)に挟まれた部分。以下、図11に関する説明でも同趣旨の用語として使う。)を形成するための開口部をもつ第1マスクと、同じく第2,4,6,…の各列に位置する補助電極片を形成するための開口部をもつ第2マスクとを用いた、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の蒸着法を用いることによって製造することができる。
この場合、前述の製造容易性の向上は、第1マスクと第2マスクとの相対的な位置関係の厳密な設定等が必要ないという意味で、享受され得ることを含む。なお、このように2枚のマスクを利用すれば、1枚のマスクをいわば使い回しする場合に懸念される汚染の転写等について心配する必要がないという効果も得られる。
【0042】
本実施形態の有機EL装置によれば、以上述べたような効果が奏されるが、以下では、これに関する補足事項について、図6乃至図8(<実施例1>、<比較例1>及び<比較例2>にそれぞれ対応する。)、及び、図9を参照しながら説明する。
【0043】
<実施例1>
まず、補助電極501が、図6に示すように、その全長の1/3に相当する長さをもち、かつ、該補助電極501の中央部分を破断する破断部分501Aをもつ場合に、対向電極5のシート抵抗がどうなるかを実験により測定した。この際、以下の各前提が置かれている。すなわち、画像表示領域7aのサイズは2インチ(なお、図6中上下方向の長さ、あるいは電源線201の延在方向の当該画像表示領域7aの長さは48mm)、解像度はQVGA(Quarter Video Graphics Array;320×240ピクセル)条件であり、対向電極5は、その材料が組成重量比10:1のMgAg(マグネシウム・銀)、その膜厚が10nmであり、補助電極501は、その材料がアルミニウム、前述の幅Wが15μm、厚さTが400nmである。
なお、この前提の下、補助電極501を設けない場合の対向電極5のシート抵抗は、4.15〔Ω/sq.〕(理論値)となった。
【0044】
このような図6の場合、当該対向電極5のシート抵抗は、0.815〔Ω/sq.〕(理論値)となった。
また、この場合、図6中、左端及び右端、並びにその周囲に位置する有機EL素子8は、十分視認に耐え得る輝度で発光したが、素子基板7の中央部分に位置する有機EL素子8は、それよりも若干輝度が低下することが確認された。
【0045】
このように、破断部分の長さt(図5参照)が、図6に示すような、1本の補助電極501の全長の1/3に相当するという比較的大きな値をとっても、実用上十分な輝度での発光が行われ得る。
【0046】
<比較例1>
次に、補助電極501が、図7に示すように、その全長の2/3に相当する長さをもつ破断部分501Bをもつ場合に、対向電極5のシート抵抗がどうなるかを実験により算出した。ただし、この「破断部分501B」は、図7からわかるように、1本の補助電極501につき2つの部分からなり、これらそれぞれは両電源線201の一側端からすぐにはじまっている。1個1個の破断部分501Bの長さは、前記の破断部分501Aと同様、補助電極501の全長の1/3に相当する。
また、この破断部分501Bをもつ補助電極501は、電源線201と直接的に接続される部分をもたない。つまり、図7において、補助電極501は、両側の電源線201からみて、素子基板7の中央部分に、いわば浮かんでいるかのような状態で形成されているのである。
なお、画像表示領域7aのサイズ等の前提条件は、上記<実施例1>と同じである。
【0047】
このような図7の場合、当該対向電極5のシート抵抗は、1.36〔Ω/sq.〕(理論値)となった。
また、この場合、図7に示す、いずれの有機EL素子8も、満足し得るに足りる輝度では発光しないことが確認された(図では、当該有機EL素子8を黒く塗りつぶすことで、かかる事態が表現されている。)。
【0048】
<比較例2>
次に、補助電極501が、図8に示すように、破断部分を全くもたない場合に、対向電極5のシート抵抗がどうなるかを実験により算出した。これは即ち、従来の態様を想定している。
なお、画像表示領域7aのサイズ等の前提条件は、上記<実施例1>と同じである。
【0049】
このような図8の場合、当該対向電極5のシート抵抗は、0.58〔Ω/sq.〕(理論値)となった。
また、この場合、当然ながら、図8に示すいずれの有機EL素子8も、十分視認に耐え得る輝度で発光することが確認された。もっとも、既に述べたように、この図8のような破断部分をもたない補助電極501の形成は、前記の図6及び図7に比べてより困難である。
【0050】
以上述べた図6乃至図8から、まず、本実施形態に係る有機EL装置では、破断部分(501A、501B、あるいは502)をもつ補助電極501の存在によっても、対向電極5、あるいはこれと補助電極501全体のシート抵抗を一定程度低く抑制することが可能であることが確認される。ただし、この場合、破断部分のいわば“量”が問題である。すなわち、かかる“量”が一定程度以上となると、前述した(1)に係る効果が思うほどには得られないのである。その限界は、図6の結果と図7の結果との間にあることは明らかである。
【0051】
ここに、比ゆ的に述べた“量”なるものは、より正確に言うならば、“素子基板7の面の上に占める破断部分(501A、501B、あるいは502)の面積の、当該破断部分を含む補助電極501の形成領域の面積に対する割合“と定義しえる。そして、この割合は、前記の図6では約33.3〔%〕であり、図7では約66.7〔%〕であるから、前記限界は、概ね50〔%〕であると導くことが可能である。
【0052】
あるいは、図6及び図7の結果たるシート抵抗の値を直接的にみることで、このシート抵抗それ自体の値に好適な限界値を設定することも可能である。すなわち、図6では0.815〔Ω/sq.〕であり、図7では1.36〔Ω/sq.〕であるから、前記限界は、概ね1〔Ω/sq.〕であると導くことが可能である。上述の実施形態で、対向電極5のシート抵抗が1〔Ω/sq.〕以下とされることには、以上のような点に根拠をもつ。ちなみに、より低いシート抵抗を実現する上で、上記実施形態における破断部分502の配置態様は、図6に示す破断部分501Aのそれよりも好条件であると考えられる。
【0053】
あるいは更に、以下に述べるような考え方に基づき、より一般的な形で、上述したと同趣旨の“限界”を定めることも可能である。
すなわち、図6乃至図8、あるいは前述の実施形態の図5等において、対向電極5が高抵抗であることの影響は、電源線201からみてより遠くに位置する有機EL素子8が、より近くに位置するそれよりも大きく受けるということがいえる。このことから、前記図6等において、電源線201から最も遠く隔たった有機EL素子8(図6等では、図面上下方向に走る素子基板7の中心線上の有機EL素子8がそれに該当する。以下、便宜上、「最遠素子8」ということがある。)が位置する対向電極5の電位E1に着目する。この場合、電源線201における電位がE0であるとするなら、このE1は、
E1=E0−ri … (1)
と表すことができる。ただし、ここでrは、当該最遠素子8と電源線201との間の電気抵抗、iは電流値である。
いま、仮に、ある有機EL素子8を構成する対向電極5に電位E0が設定されたとき、図9(A)及び(B)に示すように、その有機EL素子8の輝度がL0〔cd/m〕であり、また、電流効率がa〔cd/A〕であるとするなら、前記の(1)式は、
E1=E0−r(L0/a) … (1’)
と書き換えられる。なお、電流効率aとは、当該有機EL素子8に流れる電流と輝度との関係(比例関係)を表現する直線の、傾きに一致する(即ち、a=(L0/i)。図9(B)参照)。
この式(1’)を変形すれば、
r=a(E0−E1)/L0 … (2)
となる。
【0054】
この式(2)中、L0とE0との間には、前者を任意に定めれば後者が定まり、後者を任意に定めれば前者が定まる、という関係が一応成立する。一方、E1は、例えば、最遠素子8で達成されるべき輝度(以下、「希望輝度」という。)が前記L0を基準にして定められることに基づいて、定められ得る。図を使って説明すれば、図9(B)で希望輝度L*を定めれば、その最遠素子8に流されるべき電流I*が定まり、このI*と図9(A)とにより、E1が定まる、というようである。
いずれによせ、このE1、更に前記L0及びE0は既定値として取得可能であるから、式(2)により、rが定まる。そして、rが定まれば、当該対向電極5のシート抵抗は、これを適当に換算することによって求められ得ることになる。
【0055】
以上のようにして、上述したと同趣旨の“限界”が、希望輝度L*を定めることに基づき、より一般的な形で定められ得る。なお、この場合、E1、E0、L0、及びaは、現実の有機EL素子8を前提に定めるのが好適である。この場合更に、当該有機EL素子8間では、有機EL素子8それ自体、あるいはこれに電流を供給する駆動トランジスタ(図2中の第2トランジスタ9、参照。)等に関し、特性の相違等があり得る。したがって、これら各変数の具体値を決定するに当たっては、その特性の相違等が配慮されるとよい。
なお、図9(A)に示す電位Efは、上述の〔課題を解決するための手段〕の項で述べた、「障壁電圧」の一例を表している。
【0056】
以上のほか、全有機EL素子8を好適に発光させるためには、より微細な視点に基づき、破断部分の長さt(図5参照)を直接的に設定することも考えられる。この長さtの設定にあたっては、以下の点を考慮するとよい。
すなわち、長さtがとるべき好適な値は、画像表示領域7aの精細度に影響を受ける。例えば、t=T1(=constant)であるとして、この同じtが、精細度が100〔ppi(pixel per inch)〕である有機EL装置と、300〔ppi〕であるそれとに適用されるとした場合、後者の方が、断線部分の領域(即ち、長さT1の領域)に含まれ得るピクセルの数は一般に多くなる。そうすると、前者の場合では特に不具合は生じないが、後者の場合では、その長さT1の領域の中央付近に位置する有機EL素子8の発光に不具合が生じるおそれがある。以上のことから、精細度が高ければ高いほど、長さtは小さいほうが好ましい、という基準を導くことができる。
【0057】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る発光装置は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
(1) 上記各実施形態では、補助電極501の破断部分502は、1ピクセルごとに1個ずつ形成される態様について説明しているが、本発明は、かかる形態に限定されない。本発明に係る「補助電極」、あるいは「破断部分」は、例えば図10乃至図12に示すように様々な態様をとりうる。
【0058】
(1‐i) 図10において、破断部分503は、いわば市松模様状に並ぶ。
より詳細に、例えば、図中最上方の補助電極501をみると、当該補助電極501は、その左端部分から順に、最初の1ピクセルについては破断部分503をもたず、次の1ピクセルについては破断部分503をもち、更にその次の1ピクセルについては破断部分503をもたない、…というように、当該破断部分503は、いわば1ピクセル飛び毎に現れる。他方、図中上から2番目の補助電極501については、その延在方向にそってみた破断部分503の登場パターンが、前記の場合と逆である(即ち、1ピクセルごとに、破断部分503をもち、もたず、もつ、…というようになっている。)。
以後、図中上から3,5,7,…行目の補助電極501は、前記図中最上方の補助電極501と同じであり、図中上から4,6,8,…行目の補助電極501は、前記図中上から2番目の補助電極501と同じである。
以上のようなことから、破断部分503は、市松模様状に並ぶようにみえる。
【0059】
このような形態であっても、上記実施形態によって奏された効果と本質的に相違のない効果が奏されることに変わりはない。
加えて、この態様では、上記実施形態の場合よりも、破断部分503が占める面積が増大しているので、これを形成するためのマスクはより簡易な構成をとりうることになる。より言えば、本態様に係る破断部分503をもつ補助電極501は、マスクを1枚のみ用いた蒸着を1回実行するだけでも、比較的容易に製造され得る。つまり、前述した、2枚のマスクを用いる蒸着を実行する必要は必ずしもない。したがって、当該有機EL装置の製造容易性は更に高まる。
【0060】
(1‐ii) 図11において、補助電極501が破断部分503をもつことは、上述した図10の場合と同じである。
ただ、この図11では、これに加えて、補助電極504が形成されている。この補助電極504は、同図に示すように、電源線201の延在方向に、その長手方向を一致させる略長方形状をもつ。また、この補助電極504は、行方向に沿って相隣接する有機EL素子8の間(あるいは、より正確に言えば、各ピクセル間)に配置される。なお、補助電極504と補助電極501とは接続されてはおらず、両者間には隙間がある(あるいは、あってもよい。)。
このような補助電極504は、本発明に言う「第2電極層」を構成する一要素として、これに含まれる。
【0061】
このような形態であっても、上記実施形態によって奏された効果と本質的に相違のない効果が奏されることに変わりはない。
加えて、この態様では、図11の場合では、対向電極5の低抵抗化が、図10の場合に比べて、より実効的になり得る。これは以下の事情による。
すなわち、図11の場合は、上記実施形態の場合よりも、破断部分503が占める面積が増大しているから、前述した図6及び図7に関する説明からもわかるように、対向電極5を低抵抗にする効果は一定程度抑制される可能性がある。しかるに、図11の態様では、補助電極504が、その低下分をいわば補償するかのような働きを担い得る。したがって、図11の場合では、対向電極5の低抵抗化が、図10の場合に比べて、より実効的になり得るのである。
【0062】
なお、図11では、例えば図中左下隅付近において、図中最下行且つ最左方に位置する補助電極片の左端及び右端はそれぞれ、2つの補助電極504各々の図中下端と対向するようになっており、これら補助電極504各々の図中上端は、図の下から2番目の行且つ最左方に位置する補助電極片の右端、及び、その右隣の補助電極片の左端、に対向するようになっている。
このことは、1個の補助電極片の長さが、1個の破断部分503の長さよりも大きいことを意味する。したがって、この場合、破断部分503全体が占める面積は、該破断部分503を含む補助電極501全体の面積の中で、1/2を下回る。つまり、図11に示す態様は、本発明にいう「割合は、50〔%〕を下回る」を満たす好適な具体例の1つである。
なお、以上のことは、前記の図10、及び、後述する図12においても同様にあてはまる。
【0063】
(1‐iii) 図12において、破断部分505は、上述の図10の破断部分503と同様の市松模様状に並ぶ。
ただ、この図12では、破断部分505は、ほぼ2ピクセルに対応する長さをもつ。また、補助電極501中、破断部分505を除く部分も、ほぼ2ピクセルに対応する長さをもつ。ただし、前者の長さは、後者の長さよりも小さい。つまり、この図12に示す態様も、「割合は、50〔%〕を下回る」を満たす好適な具体例の1つである(図11に関する「補助電極片」についての説明を参照の上、図12と図11とを対比参照。)。
【0064】
このような形態であっても、上記実施形態によって奏された効果と本質的に相違のない効果が奏されることに変わりはない。
加えて、この態様では、上記図10の場合に比べても、破断部分505が占める面積が増大しているので、これを形成するためのマスクは更に簡易な構成をとりうることになる。より言えば、この場合、当該マスク中の開口部(当該開口部は破断部分505以外の補助電極501形成領域に対応する)の形成密度は、この図12の場合の方が図10の場合に比べて、小さくなる(なお、ここで「形成密度」とは、図12及び図10に関して、(マスク上の開口部の個数)/(画像表示領域7aの面積)を意味する。)。したがって、このマスクは、開口部によって囲まれた1つ1つの領域がより広いという意味では、その剛性が高まり、蒸着時の輻射熱の影響等を受けにくい可能性がある。図12のような態様の場合、そのような意味においても、当該有機EL装置の製造容易性が高まるといえる。
【0065】
(2) 上記各実施形態の有機EL装置はトップエミッション型であり、本発明はかかる形態に適用されて最も好適ではあるが、本発明が、ボトムエミッション型やデュアルエミッション型について適用されることを積極的に排除するわけではない。
【0066】
これに関連して、上記実施形態では、対向電極5がITO等の透明導電性材料から作られているが、本発明は、これにも限定されない。既に図6乃至図8を参照して説明しているように、対向電極5は、ITO等以外にも、MgAgで作られうるし、あるいは、Ag、Al、Au等のその他の材料でも作られうる。そして、この場合、当該材料が不透明な材料であっても、当該対向電極5の厚さを十分に薄くする(例えば10nm以下)なら、トップエミッション型の有機EL装置を構成することはなお可能である。
ただし、この場合、対向電極5の厚さが極めて薄くなるため、それが低抵抗材料から作られるとしても、その抵抗は非常に大きくなる。
とはいえ、高抵抗の対向電極に起因する問題の解決は、まさに本発明が課題とするところの1つであるから、当該事情をおそれることはない。
要するに、本発明においては、対向電極5が具体的に如何なる材料によって作られているかについて特に限定することはなく、また、対向電極5がどのような材料によって作られていたとしても、本発明の適用は可能であり、かつ、それ相応の効果が享受され得る。
【0067】
(3) 上記各実施形態では、発光機能層18が高分子材料からなる有機EL物質を含んでいるが、本発明は、この形態に限定されない。例えば、発光機能層18は低分子材料からなる有機EL物質を含んでよい。この場合、その製造方法は、前記液滴塗布法(インクジェット法)ではなくて、蒸着法等が用いられて好適である。
【0068】
<応用例>
次に、本発明に係る発光装置を利用した電子機器について説明する。図13ないし図15には、以上に説明した実施形態に係る有機EL装置を採用した電子機器の形態が図示されている。
【0069】
図13は、有機EL装置を採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する有機EL装置100と、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。
【0070】
図14は、有機EL装置100を適用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する有機EL装置100とを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、有機EL装置100に表示される画面がスクロールされる。
【0071】
図15は、有機EL装置100を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す斜視図である。携帯情報端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する有機EL装置100とを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が有機EL装置100に表示される。
【0072】
本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図13から図15に例示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、カーナビゲーションシステムを備えた機器等などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の本実施形態に係る有機EL装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1の単位回路の詳細を示す回路図である。
【図3】図1に示す有機EL装置の適当な破断面を臨んだ断面図であって、特に補助電極及びそれに関わる要素の形成態様が示されるように選ばれた破断面に基づく断面図である。
【図4】図1に示す有機EL装置の一部拡大平面図であって、特に補助電極及びそれに関わる要素の形成態様を示す図である(以下、この後者の点については図5乃至図8及び図10乃至図12において同じ。)。
【図5】図1に示す有機EL装置の平面図である。
【図6】<実施例1>(=破断部分501Aの全長が補助電極501の1/3)に係る有機EL装置の平面図である。
【図7】<比較例1>(=破断部分501Bの全長が補助電極501の2/3)に係る有機EL装置の平面図である。
【図8】<比較例2>(=破断部分をもたない)に係る有機EL装置の平面図である。
【図9】有機EL素子がもつ一般的な特性を示す図であって、(A)は電圧‐電流特性、(B)は電流‐輝度特性である。
【図10】変形例1(=破断部分503が市松模様状に並ぶ)に係る有機EL素子の平面図である。
【図11】変形例2(=列方向に延びる補助電極504をもつ)に係る有機EL素子の平面図である。
【図12】変形例3(=破断部分505の形成密度が図10に比べて小さい)に係る有機EL素子の平面図である。
【図13】本発明に係る電子機器の形態(パーソナルコンピュータ)を示す斜視図である。
【図14】本発明に係る電子機器の形態(携帯電話機)を示す斜視図である。
【図15】本発明に係る電子機器の形態(携帯情報端末)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
7……素子基板、7a……画像表示領域、8……有機EL素子、13……画素電極、18……発光機能層、5……対向電極、501、504……補助電極、502、501A、501B、503、505……破断部分、W……(補助電極の)幅、T……(補助電極の)厚さ、
11……回路素子薄膜、301……第1層間絶縁膜、302……第2層間絶縁膜、34……反射層、340……隔壁、103A,103B……走査線駆動回路、106……データ線駆動回路、106A……プリチャージ回路、201……電源線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
当該基板上にマトリクス状配列に従って並ぶ発光素子と、
を備え、
前記発光素子は、
前記基板上に形成される第1及び第2電極層、及び、これらに挟持される発光機能層を含み、
前記第2電極層は更に、
前記基板の面を覆うように形成される主電極と、
それぞれが、前記主電極と直接の接点をもつように形成されるとともに、前記マトリクス状配列に従って並ぶ前記発光素子の間に延びるN本の補助電極(Nは正の整数)と、
を含み、
前記補助電極は、前記主電極に比べて、より低い電気抵抗をもつ材料から作られ、
前記N本の補助電極のうち少なくとも1本の補助電極は、
その延在方向の途中で少なくとも1箇所の破断部分をもち、
かつ、
前記第2電極層のシート抵抗は所定値以下である、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記補助電極は、前記発光素子の行方向に沿って延びるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記所定値は1〔Ω/sq.〕である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記基板の面の上に占める、前記破断部分の面積の、
前記破断部分を含む前記補助電極の形成領域の面積に対する割合は、
50〔%〕を下回る、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記基板上に前記第2電極層と電気的に接続される電源線を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記主電極は平面視して略四辺形状をもち、
前記電源線は、
前記主電極の相対向する2つの辺それぞれに対向する部分をもつ、
ことを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記主電極は、透明導電性材料から作られる、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の発光装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−187737(P2009−187737A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25170(P2008−25170)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】