説明

発光装置及び電子機器

【課題】温度の変化に応じて発光輝度が変化しない有機EL装置を提供する。
【解決手段】駆動信号(Vdata)によって駆動される有機EL素子と、その動作温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段の検出結果たる前記動作温度の変化に比例した補正信号を出力する温度検知部(502)と、前記補正信号によって原駆動信号(Vdata〔org〕)を補正して前記駆動信号を生成する補正部(504)と、を備える。具体的に図においては、補正部は、DAコンバータ(61)からの原駆動信号Vdata〔org〕を、温度変化を反映したVoutによってオフセットするような補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネセンスにより発光する発光装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型で軽量な発光源として、OLED(organic light emitting diode)、即ち有機EL(electro luminescent)素子が提供されている。有機EL素子は、有機材料で形成された少なくとも一層の有機薄膜を画素電極と対向電極とで挟んだ構造を有する。この場合、画素電極は例えば陽極として、対向電極は陰極として機能する。両者間に電流が流されると同時に、前記有機薄膜にも電流が流れ、これにより、当該有機薄膜、ないしは有機EL素子は発光する。
このような有機EL素子を多数並べ、かつ、その各々につき発光及び非発光並びに発光する場合の輝度を適当に制御すれば、所望の意味内容をもつ画像等の表示が可能となる。あるいは、前記有機EL素子は、感光体ドラム等の像担持体上に静電潜像を形成するためのプリンタヘッドを構成するものとしても用いられる。
かかる有機EL素子、ないしはこれを備えた画像表示装置等としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開2000−214824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のような有機EL素子は、一種の温度依存性をもつ。すなわち、有機EL素子それ自身の温度、あるいは、それを取り巻く環境温度等の相違に応じて、その発光輝度、あるいは発光パワーは変わってくる。これをこのまま放置すると、複数の有機EL素子間で、それらの発光の程度が異なることになり、前記画像の品質を貶める等といった不具合が生じるおそれがある。
【0004】
このような問題点に対処するため、前記の特許文献1は、「有機EL素子の動作温度を検知する温度検知手段と、前記動作温度に応じて前記発光駆動エネルギーを変化させる温度補償手段」を備えることで、「環境温度が変動しても実質的な発光輝度特性を一定に保つことができる」技術を開示する(特許文献1の〔請求項1〕〔0059〕〔要約書〕等参照)。しかし、この特許文献1が、「温度検知手段」ないし「温度補償手段」として具体的に開示する形態は、例えば同文献1の〔図12〕〔図14〕〔図15〕等に示すようなものであり、これらは、温度変化を検知するサーミスタ等と直列に接続された抵抗とによる分圧電位の変化を、温度変化の現われとして検知するようなものとなっているので、両者間に比例関係がなく、より精度の高い補正を行うことが難しいという問題点がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、前記の課題の少なくとも一部を解決することの可能な発光装置及び電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発光装置は、上述した課題を解決するため、駆動信号によって駆動される発光素子と、前記発光素子の動作温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段の検出結果たる前記動作温度の変化に比例した補正信号を出力する補正信号生成手段と、前記補正信号に基づいて原駆動信号を補正して前記駆動信号を生成する補正手段と、を備える。
【0007】
本発明によれば、補正信号生成手段が、温度検出手段の検出結果に比例する補正信号を出力するようになっている。そして、本発明における発光素子は、そのような、動作温度の変化に比例した補正信号によって補正された駆動信号により駆動される。
これにより、本発明においては、発光素子が動作温度の変化に可能な限り正確に追随する。
したがって、本発明に係る発光装置においては、発光素子の温度依存性による不具合を被るおそれが極めて低減される。発光素子に温度依存性がある場合であっても、同一の駆動信号を供給する限りは、常に、同一の発光輝度で発光する、などといった発光素子の駆動を目指すことが可能となるのである。
なお、本態様にいう「原駆動信号」という語は、前記補正信号による補正を受ける前の、いわば生の駆動信号であることを含意する。もっとも、この原駆動信号であるにしろ、補正後の駆動信号であるにしろ、これらが、発光素子に流す電流値等を規定可能な信号であることに変わりはない。
【0008】
この発明の発光装置では、前記温度検出手段は、前記動作温度をtとしたとき、その抵抗値がR0・(1+αt)(ただし、R0及びαは定数)によって表現可能な温度検知抵抗素子、を含み、前記補正信号生成手段は、前記温度検知抵抗素子が、その出力端子及び反転入力端子に接続された第1オペアンプと、前記第1オペアンプの非反転入力端子に接続された第1抵抗素子と、前記第1オペアンプの非反転入力端子に接続され且つ当該非反転入力端子からみて前記第1抵抗素子と並列に接続された第2抵抗素子と、前記第1オペアンプの反転入力端子に接続され且つ当該反転入力端子からみて前記温度検知抵抗素子と並列に接続された第3抵抗素子と、を含み、前記第2及び第3抵抗素子それぞれの抵抗値の積は、前記R0及び前記第1抵抗素子の抵抗値の積に等しい、ように構成してもよい。
この態様によれば、補正信号生成手段が好適に構成されるので、前述した、「動作温度の変化に比例した補正信号」が好適に生成される。
なお、この態様(及び、後述する、「所定量ずらし手段」あるいは「調整手段」、更には「温度検知抵抗部」を備える態様)についての、より具体的な構成例及びその作用については、後の実施形態において説明される。
【0009】
また、本発明の発光装置では、前記補正手段は、前記補正信号のレベルに応じて前記原駆動信号のレベルを所定量ずらす所定量ずらし手段を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、補正手段が好適に構成されるので、前記駆動信号(この場合、補正後の駆動信号)の生成が好適に行われる。特に、本態様では、「補正」の内容が、単に「所定量ずらす」だけであるという場合を許容するから、その処理は比較的容易で、かつ迅速に行われ、また、「所定量ずらし手段」を具体的に構成する場合にも、これも比較的簡易に済ますことが可能となる、等の利点が得られる(なお、本発明一般に関して言えば、「補正」の内容が、「所定量ずらず」だけに限られない場合が当然含まれる。)。
ちなみに、原駆動信号のレベルを所定量ずらすだけで、発光素子の発光輝度を温度変化の前後で可能な限り同じにするということを考える場合には、駆動信号と発光輝度との間に比例関係が成立することが好ましく、また、その比例関係の温度変化の前後による変化は、線形変換に従うことが好ましい。逆に言うと、そのような場合に、本態様は、駆動信号の生成の好適な生成という効果を、より実効的に奏する。
【0010】
また、本発明の発光装置では、前記補正信号のレベルを調整する調整手段を更に備え、前記補正手段には、前記調整手段による調整後の補正信号が入力される、ように構成してもよい。
この態様によれば、補正手段への入力前に、調整手段が、補正信号のレベルを調整するようになっているので、例えば、当該補正手段の構成態様等、あるいはより広く、本発明に係る発光装置上において何らかの理由により取り扱い可能な電位レベルの制約等がある場合に、好適に対応可能である。
なお、本態様にいう「調整手段」は、「補正信号のレベル」を調整するが、本発明一般に関して言えば、このような調整手段は、当該レベルの調整に加えて又は代えて、補正信号の極性について調整可能であってもよい。
【0011】
また、本発明の発光装置では、前記発光素子は1個以上備えられ、前記温度検出手段は、それら1個以上の発光素子全体の周囲を取り囲むように配置され、その抵抗値が前記動作温度の変化に応じて変化する温度検知抵抗部を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、発光素子を取り囲むように配置された温度検知抵抗部が備えられているので、発光素子全体がどのような温度環境下にあるかを好適に知ることができる。また、これにより、前記補正信号もより適正に生成され得る。
【0012】
また、本発明の発光装置では、前記発光素子は、基板上に形成され、前記補正信号生成手段及び前記補正手段の少なくとも一方は、前記基板上に形成される、ように構成してもよい。
この態様によれば、装置構成の簡易化、小型化等が実現される。
【0013】
また、本発明の発光装置では、前記発光素子は、基板上に形成され、前記補正信号生成手段及び前記補正手段の少なくとも一方は、前記基板に接続されたフレキシブル基板上に形成される、ように構成してもよい。
この態様によれば、装置製造の容易化、あるいは装置構成の柔軟化が実現される。
【0014】
一方、本発明の電子機器は、上記課題を解決するため、上述した各種の発光装置を備える。
本発明の電子機器は、上述した各種の発光装置、即ち適切な補正信号によって補正された駆動信号により駆動される発光素子を備えた発光装置を備えているので、当該発光素子の温度依存性とは無関係に、高品質な画像を表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、本発明に係る実施の形態について図1乃至図4を参照しながら説明する。なお、これらの図面及び後に参照する図5以降の各図面においては、各部の寸法の比率(図5等のグラフを含む。)は実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0016】
図1は、本実施形態の有機EL装置の一例を示す平面図である。
この図1において、有機EL装置は、素子基板7と、この素子基板7上に形成される各種の要素を備えている。ここで各種の要素とは、有機EL素子8、走査線3及びデータ線6、走査線駆動回路103A及び103B、データ線駆動回路106、並びに、データ信号補正部500及び温度検知抵抗部501である。
【0017】
有機EL素子(発光素子)8は、図1に示すように、素子基板7上に複数備えられており、それら複数の有機EL素子8はマトリクス状に配列されている。有機EL素子8の各々は、画素電極、発光機能層及び対向電極から構成されている(いずれも不図示)。
画像表示領域7aは、素子基板7上、これら複数の有機EL素子8が配列されている領域である。画像表示領域7aでは、各有機EL素子8の個別の発光及び非発光に基づき、所望の画像が表示され得る。なお、以下では、素子基板7の面のうち、この画像表示領域7aを除く領域を、「周辺領域」と呼ぶ。
【0018】
走査線3及びデータ線6は、それぞれ、マトリクス状に配列された有機EL素子8の各行及び各列に対応するように配列されている。より詳しくは、走査線3は、図1に示すように、図中左右方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されている走査線駆動回路103A及び103Bに接続されている。一方、データ線6は、図中上下方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されているデータ線駆動回路106に接続されている。これら各走査線3及び各データ線6の各交点の近傍には、前述の有機EL素子8等を含む単位回路(画素回路)Pが設けられている。
【0019】
この単位回路Pは、図2に示すように、前述の有機EL素子8を含むほか、nチャネル型の第1トランジスタ68、pチャネル型の第2トランジスタ9、及び容量素子69を含む。
単位回路Pは、電流供給線113から給電を受ける。複数の電流供給線113は、図示しない電源に接続されている。
また、pチャネル型の第2トランジスタ9のソース電極は電流供給線113に接続される一方、そのドレイン電極は有機EL素子8の画素電極に接続される。この第2トランジスタ9のソース電極とゲート電極との間には、容量素子69が設けられている。一方、nチャネル型の第1トランジスタ68のゲート電極は走査線3に接続され、そのソース電極はデータ線6に接続され、そのドレイン電極は第2トランジスタ9のゲート電極と接続される。
【0020】
このような単位回路Pは次のように動作する。
すなわち、(i)図1に示す走査線駆動回路103A及び103Bが、ある走査線3を選択すると、この走査線3に対応する単位回路P内の第1トランジスタ68がオンされる。(ii)これにより、当該単位回路P内の容量素子69は、データ線6を介して供給されるデータ信号を保持する。(iii)当該単位回路P内の第2トランジスタ9のゲートには、容量素子69がもつ電荷に応じた電圧、つまり前記データ信号のレベルに応じた電圧が印加される。(iv)これによって、第2トランジスタ9は、データ信号のレベルに応じた電流を有機EL素子8に供給する。
このようにして、有機EL素子8では、その画素電極及び対向電極間、つまりその発光機能層にデータ信号のレベルに応じた電流が流れ、当該有機EL素子8は当該レベルに応じた輝度で発光する。
【0021】
温度検知抵抗部501は、その全体的な外観において、素子基板7の外形輪郭線にほぼ沿うように、平面視してΠ字状の形状をもつ。このような形状により、この温度検知抵抗部501は、前記画像表示領域7a、即ち、マトリクス状に配列された有機EL素子8の全体、を取り囲む。この温度検知抵抗部501の抵抗値は、周囲の環境温度の変化(有機EL素子8の発光現象に応じた発熱による温度変化等を含む。)に応じて変化する。このような温度検知抵抗部501は、より具体的には、適当なサーミスタ等を含み得る。
なお、上に述べた「環境温度」とは、本発明にいう「動作温度」の具体的な一例として含まれる。
【0022】
データ信号補正部500は、図1に示すように、前述のような形状をもつ温度検知抵抗部501の一端と接続するようなかたちで、当該温度検知抵抗部501をその一部として含む。
より詳細には、このデータ信号補正部500は、図3に示すように、温度検知部502、調整部503及び補正部504を含む。なお、これらの各々は、本発明に言う「補正信号生成手段」、「調整手段」及び「補正手段」それぞれの具体例の1つを構成する。また、補正部504は更に、本発明にいう「所定量ずらし手段」の具体例の1つを構成する。
【0023】
このうち温度検知部502は、図4に示すような回路構成をもつ。図4において、当該回路構成は、4つの抵抗素子と、1つのオペアンプ(第1オペアンプA1)を含む。
4つの抵抗素子のうちの1つである第4抵抗素子R4は、前述した温度検知抵抗部501と実質的にみて同じである。この第4抵抗素子R4は、前記環境温度をtとしたとき、その抵抗値が、R0・(1+αt)(ただし、R0及びαは定数)によって表現可能である。つまり、その抵抗値R4は、環境温度tに比例して変化する(なお、ここで述べた符号“R4”及び後述する符号“R1”乃至“R3”、更には図3に示す符号“R11”・“R12”・“R21”・“R22”は、それぞれに対応する抵抗素子の名前として用いるほか、いま述べたように抵抗値を表すものとしても用いることがある。)。
第1オペアンプA1は、その出力端子及び反転入力端子に、前記第4抵抗素子R4を接続する。また、この第1オペアンプA1の非反転入力端子には、第1抵抗素子R1が接続されている。
さらに、第1オペアンプA1の非反転入力端子には、第2抵抗素子R2が接続されている。この第2抵抗素子R2は、当該非反転入力端子からみて前記第1抵抗素子R1とは並列接続された関係にある。
加えて、第1オペアンプA1の反転入力端子には、第3抵抗素子R3が接続されている。この第3抵抗素子R3は、当該反転入力端子からみて前記第4抵抗素子R4とは並列接続された関係にある。
【0024】
このような温度検知部502において、前述した各抵抗素子の抵抗値は、第2及び第3抵抗素子R2及びR3それぞれの抵抗値の積が、前記R0及び第1抵抗素子R1の抵抗値の積に等しくなるように定められている。つまり、
R1・R0=R2・R3 … (1)
が成立する。
【0025】
図3に戻り、調整部503は、2つの抵抗素子及び1つのオペアンプ(第2オペアンプA2)を備える。
第2オペアンプA2の反転入力端子には、抵抗素子R11を介して、前述した温度検知部502の出力端子が接続される。また、この第2オペアンプA2の出力端子及び反転入力端子には、抵抗素子R12が接続される。また、第2オペアンプA2の非反転入力端子には、可変電源510が接続される。
【0026】
補正部504は、2つの抵抗素子及び1つのオペアンプ(第3オペアンプA3)を備える。
第3オペアンプA3の反転入力端子には、抵抗素子R21を介して、DAコンバータ61が接続される。このDAコンバータ61は、図1に示したデータ線駆動回路106の一部を構成し、デジタル信号である階調(輝度)情報を含むデータ信号を、アナログ信号たるデータ信号に変換する。データ線6を介して単位回路P(図2参照)へ供給されるデータ信号は、このDAコンバータ61、及び補正部504を通過した、アナログ信号たるデータ信号である。図3では、かかるデータ信号を表現するため、“Vdata”という符号が付されている。なお、当該データ信号Vdataは、本発明にいう「駆動信号」の具体例の1つを構成する。)。
他方、第3オペアンプA3の出力端子及び反転入力端子には、抵抗素子R22が接続される。また、第2オペアンプA2の非反転入力端子には、前述した調整部504の出力端子が接続される。
【0027】
以下では、以上述べたような有機EL装置によって奏される作用効果について、既に参照した図1乃至図4に加えて、図5及び図6を参照しながら説明する。
まず、本実施形態に係る有機EL装置では、図2を参照して説明したように、画素電極及び対向電極間に電流が流されると同時に発光機能層に電流が流され、これにより、発光機能層、あるいは有機EL素子8が発光する。
この場合、有機EL素子8はデータ信号のレベルに応じて発光するが、データ信号のレベルと発光輝度との間には、図5に示すような比例関係がある。すなわち、図5において、データ信号が、16進法表記において00hかFFhまでの間で変化すると仮定する場合、それに応じて、発光輝度は直線的に増加する。
【0028】
しかし、この際、有機EL素子8、あるいはその発光輝度は、温度依存性をもつ。すなわち、図5に示すように、前記環境温度がT1,T2及びT3(T1<T2<T3)である場合のそれぞれにおいて、データ信号のレベルと発光輝度との間に同一の直線関係は成立しない。同じレベルのデータ信号が与えられても、高温であればあるほど、より発光輝度が大きくなってしまうのである(もっとも、各直線間には線形変換の関係が成立する。例えば、T1の場合における直線をδだけ図中上方に移動させれば、T3の場合における直線が導かれる、などというようである。)。
その結果、例えば、環境温度T1の場合における最小レベル00h及び最高レベルFFh間の発光輝度の差ΔI(T1)の上限値及び下限値は、環境温度T3の場合における発光輝度の差ΔI(T3)の上限値及び下限値とは異なることになる。
なお、図5の横軸として示す「Vgs」は、図2を参照して説明した第2トランジスタ9に関するゲート・ソース間電圧を意味する。図5の横軸において、データ信号のレベルを表現する「出力範囲」(00h〜FFh)が示され得るのは、前記ゲート・ソース間電圧が、データ信号の供給に応じて変化することに根拠を置く(図2ないし単位回路Pの動作に関する前記説明参照。なお、この点は後に参照する図6においても同様にあてはまる。)。
【0029】
このような状況下、本実施形態において、前述の温度検知抵抗部501等が好適に作用する。
まず、環境温度がT1からT3へと高温側に推移したとすると、温度検知抵抗部501はこれを、自身の抵抗値の変化というかたちで検知する。
すると、図4に示した温度検知部502は、第1〜第4抵抗素子R1〜R4の間に前記(1)式が成立していることから、
V0=−(R2/R1)・Vr1・αt … (2)
なる電圧V0を出力する。ここで、Vr1は、図4に示すように、第1オペアンプA1からみて入力側の電位である。
この(2)式によれば、温度検知抵抗部501は、環境温度tの変化に比例した電圧を出力することがわかる。
【0030】
この出力電圧V0は、図3の調整部503によって調整される。この調整には、可変電源510の調整の程度に応じた、第2オペアンプA2の非反転入力端子の電圧の分だけ、もともとの出力電圧V0をオフセットするような調整が含まれる。例えば、当該電圧をVQとすれば、調整部503の出力電圧Voutは、Vout=VQ−(R12/R11)・(V0−VQ)と表現される。この場合における電圧VQを適当に調整すれば、後段の補正部504、あるいは本実施形態の有機EL装置上において利用可能な適正な電位を生成することが可能になる。
なお、上述の式において、右辺第1項と第2項とがマイナスで結ばれていることから明らかなように、調整部503は、温度検知部502の出力電圧V0の極性を反転する。
また、このような調整部503による出力電圧Voutは、本発明にいう「補正信号」の一例を構成する。
【0031】
補正部504は、前記出力電圧Voutに応じて、DAコンバータ61から送られてくるデータ信号を補正する。この補正には、前記出力電圧Voutの分だけ、もともとのデータ信号、即ち原データ信号Vdata〔org〕をオフセットするような調整が含まれる(なお、ここでいう「原データ信号Vdata〔org〕」は、本発明にいう「原駆動信号」の具体例の1つを構成する。)。その動作の態様は、図3の回路構成図において、補正部504と調整部503とを対比するとわかるように、基本的に、前述した調整部503における回路動作と同じである。
この場合、本実施形態において重要なのは、前記Voutは、V0に基づき、かつ、このV0は前記(2)式のように環境温度tの変化に比例することから、結局、原データ信号Vdataは、環境温度tの変化に比例したVoutによって補正される、ということにある。
【0032】
そして、これによると、先に図5を参照して説明したような、発光輝度の温度依存性を克服することができる。
まず、環境温度がT1の場合における図6において、発光輝度の差ΔI(T1)、及びこれを規定するDAコンバータ61の出力範囲(00h〜FFh)に関する図示は、図5における図示を再掲したものである。すなわち、データ信号が00hであるときは、点aを介して、前記ΔI(T1)の下限値が画定され、データ信号がFFhであるときは、点a’を介して、前記ΔI(T1)の上限値が画定されるのは、図5の場合と同じである。
ここで、環境温度がT1からT3へと遷移する場合を考えると、有機EL素子8が温度依存性をもつことにより、図5では、前記ΔI(I1)の上限値及び下限値が、ΔI(I3)の上限値及び下限値のように変化してしまっていた。
しかし、図6では、環境温度の遷移とともに、上述のように、原データ信号Vdata〔org〕が、調整部503の出力電圧Voutによってオフセットされる。これにより、従前の出力範囲(00h〜FFh)は、図6に示すように、Voutの分だけ「補正後の出力範囲」(00h〜FFh)にずらされるかたちになる(なお、図3において、現実に補正ないしオフセットがかけられるのは、DAコンバータ61通過後のアナログ信号たる原データ信号Vdata〔org〕であるが、DA変換前後の両信号間の1対1関係が成立しなくなるわけでは勿論ない。図6に示す「補正後の出力範囲」に示される「00h」及び「FFh」は、そのような意味において解釈可能である。)。
そして、このことから、環境温度T1においては、点a及びa’を介したΔI(T1)の上限値及び下限値の画定が行われているところ、環境温度T3においては、点b及びb’ではなく(図5も参照)、点c及びc’を介した発光輝度の差ΔI(T3)の上限値及び下限値の画定が行われる。ここで重要なのは、図6に示すように、ΔI(T1)及びΔI(T3)の両者それぞれの上限値及び下限値に変更がないこと、即ち、環境温度がT1であろうとT3であろうと、有機EL素子8の発光輝度に変更がないことである。
【0033】
以上に述べたような構成及び作用をもつ有機EL装置では、以下に述べるような効果が奏される。
(1) まず、本実施形態に係る有機EL装置によれば、温度検知部502は、図4に示すような回路構成を備えることにより、温度検知抵抗部501(ないし第4抵抗素子R4)が検出した温度の変化に比例した出力電圧V0を生成する。そして、このような出力電圧V0が、DAコンバータ61から送られてくる原データ信号Vdata〔org〕を補正するための補正信号として利用されるようになっている(図3参照)。
そして、これにより、有機EL素子8は、環境温度の変化に可能な限り正確に追随することになり、その結果、当該有機EL素子8は、環境温度の変化前後でその発光輝度を変化させるという挙動を示さない(図6参照)。
このように、本実施形態に係る有機EL装置によれば、有機EL素子8の温度依存性による不具合を被るおそれが極めて低減される。
【0034】
(2) これに関連して、本実施形態に係る有機EL装置では、前記温度検知抵抗部501が、図1を参照して説明したように、有機EL素子8がマトリクス状に配列された画像表示領域7aの周囲を取り囲む、平面視してΠ字状の形状をもつようになっていることから、これら有機EL素子8全体がどのような温度環境下にあるかが好適に知られる。これは当然、前述した(1)の効果を、より実効あらしめるものとする。
【0035】
(3) 本実施形態に係る有機EL装置では、温度検知部502が、図4に示すような回路構成を備えているので、その出力電圧V0のレベルは、第1及び第2抵抗素子R1及びR2の抵抗値R1・R2を適当に変更することに応じて、適当に変更可能である。このことは、現実の有機EL素子8の発光特性(あるいは、図5・図6のグラフの具体的なかたち)の相違に応じた、柔軟な対応をとることを可能にする。なお、これと同様なことは、調整部503及び補正部504においてもいえる。
【0036】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る発光装置は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
(1) 上述の実施形態では、走査線駆動回路103A及び103B、データ線駆動回路106、並びにデータ信号補正部500のすべてが素子基板7上に形成される例について説明しているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
本発明においては、それらのうちの全部又は一部を、フレキシブル基板上に形成するのであってもよい。例えば、図7に示すように、フレキシブル基板F7上に、データ信号補正部500が形成されてよい。この場合、当該のフレキシブル基板F7と素子基板7との両当接部分に適当な端子を設けておくことにより、両者間の電気的な接続が可能となる。
【0037】
(2) 上述の実施形態では、温度検知抵抗部501が、素子基板7の外形輪郭線にほぼ沿うような、平面視してΠ字状の形状をもつ場合について説明しているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、「温度検知抵抗部」の全体的な外観は、素子基板7の一辺に沿うような直線的な形状をもっていてもよい。
また、より広く、本発明にいう「温度検出手段」(なお、「温度検知抵抗部501」は、特許請求の範囲の記載形式の観点からも当然、「温度検知手段」の具体例の1つを構成する。)は、場合によっては、1個1個の有機EL素子8ごとに、あるいは適当な数の有機EL素子8からなるブロック単位に、対応するような構成部分をもっていてもよい。後者の「ブロック」は、例えば1本の走査線3又は1本のデータ線6に対応する全部の有機EL素子8群を1個のブロック(いわば長尺長方形ブロック)としたり、あるいは、図1に示す画像表示領域7aを4つの矩形でタイル状に4分割した場合におけるその1つに含まれる有機EL素子8群を1個のブロック(いわばタイル状ブロック)としたり、等々することが可能である。
また、このような場合、図3のデータ信号補正部500の個数は、有機EL素子8ごとに、あるいは前記ブロックごとに設けられる、「温度検出手段」を構成する複数の構成部分の個数に対応させてよい。つまり、かかる「複数の構成部分」と「データ信号補正部500」とが1対1対応するかのようにされる、ということである。この場合、例えば、あるブロック(ここでは仮に「第1ブロック」と名付ける。)に対応して第1データ信号補正部(図1・図3の符号500参照)があることになり、その第1ブロックに含まれる複数の有機EL素子8に関する複数の原データ信号Vdata〔org〕は、当該第1データ信号補正部に含まれる第1温度検知部(図3の符号502あるいは図4参照)からの出力電圧V0に基づいて、第1補正部(図3の符号504参照)によって補正される、などということになる。
このような形態によれば、画像表示領域7a内で温度分布が生じるような場合であっても、その内部領域ごとの事情に応じた好適な対応を実行することが可能となる。
【0038】
<応用>
次に、本発明に係る有機EL装置を適用した電子機器について説明する。図8は、上記実施形態に係る有機EL装置を画像表示装置に利用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての有機EL装置と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001及びキーボード2002が設けられている。
図9に、上記実施形態に係る有機EL装置を適用した携帯電話機を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001及びスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての有機EL装置1を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、有機EL装置に表示される画面がスクロールされる。
図10に、上記実施形態に係る有機EL装置を適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001及び電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての有機EL装置を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が有機EL装置に表示される。
【0039】
上記実施形態に係る有機EL装置が適用される電子機器としては、図8から図10に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。
あるいは、上記実施形態に係る有機EL装置は、いわゆるプリンタを構成するプリンタヘッドにも適用可能である。この場合、当該有機EL装置は、例えば、当該プリンタを構成する感光体ドラム上に静電潜像を形成するためなどの目的で用いられる。本発明にいう「電子機器」は、そのような場合における「プリンタ」等をも、その範囲内に収める。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1の単位回路(P)の詳細を示す回路図である。
【図3】図1に示すデータ信号補正部(500)の詳細を示す回路図である。
【図4】図3に示す温度検知部(502)の詳細を示す回路図である。
【図5】図2の第2トランジスタ(9)のゲート・ソース間電圧(横軸)と有機EL素子の発光輝度(縦軸)との関係を示すグラフである(この図はまた、当該関係の温度(T1,T2及びT3)依存性をも示す。)
【図6】図5と同趣旨の図であって、データ信号の「出力範囲」がオフセットされると、温度の相違があっても、有機EL素子の発光輝度の範囲ΔI(T1)が変化しない様子を示すグラフである。
【図7】本発明の別の実施形態に係る有機EL装置の概略構成を示す平面図である。
【図8】本発明に係る有機EL装置を適用した電子機器を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る有機EL装置を適用した他の電子機器を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る有機EL装置を適用したさらに他の電子機器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
7……素子基板、7a……画像表示領域、8……有機EL素子、500……データ信号補正部、501……温度依存性抵抗部、502……温度検知部、503……調整部、504……補正部、R1……第1抵抗素子、R2……第2抵抗素子、R3……第3抵抗素子、R4……第4抵抗素子(“501”が指す温度依存性抵抗部に実質的に同じ)、A1〜A3……第1〜第3オペアンプ、61……DAコンバータ、6……データ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号によって駆動される発光素子と、
前記発光素子の動作温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段の検出結果たる前記動作温度の変化に比例した補正信号を出力する補正信号生成手段と、
前記補正信号に基づいて原駆動信号を補正して前記駆動信号を生成する補正手段と、
を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記温度検出手段は、
前記動作温度をtとしたとき、その抵抗値がR0・(1+αt)(ただし、R0及びαは定数)によって表現可能な温度検知抵抗素子、
を含み、
前記補正信号生成手段は、
前記温度検知抵抗素子が、その出力端子及び反転入力端子に接続された第1オペアンプと、
前記第1オペアンプの非反転入力端子に接続された第1抵抗素子と、
前記第1オペアンプの非反転入力端子に接続され且つ当該非反転入力端子からみて前記第1抵抗素子と並列に接続された第2抵抗素子と、
前記第1オペアンプの反転入力端子に接続され且つ当該反転入力端子からみて前記温度検知抵抗素子と並列に接続された第3抵抗素子と、
を含み、
前記第2及び第3抵抗素子それぞれの抵抗値の積は、
前記R0及び前記第1抵抗素子の抵抗値の積に等しい、
ことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記補正手段は、
前記補正信号のレベルに応じて前記原駆動信号のレベルを所定量ずらす所定量ずらし手段を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記補正信号のレベルを調整する調整手段を更に備え、
前記補正手段には、
前記調整手段による調整後の補正信号が入力される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子は1個以上備えられ、
前記温度検出手段は、
それら1個以上の発光素子全体の周囲を取り囲むように配置され、その抵抗値が前記動作温度の変化に応じて変化する温度検知抵抗部を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記発光素子は、基板上に形成され、
前記補正信号生成手段及び前記補正手段の少なくとも一方は、
前記基板上に形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記発光素子は、基板上に形成され、
前記補正信号生成手段及び前記補正手段の少なくとも一方は、
前記基板に接続されたフレキシブル基板上に形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の発光装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−91769(P2010−91769A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261380(P2008−261380)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】