発振回路及び電子機器
【課題】発振周波数が安定するまでに要する時間の短い発振回路及び電子機器を提供する。
【解決手段】周波数補正回路を有する共振回路と、前記共振回路の両端の間に接続された増幅回路とを備えた発振回路が提供される。前記周波数補正回路は、第1のコンデンサと、両端の電位が変動可能に前記第1のコンデンサと直列的に接続された第1のトランジスタと、を有することを特徴とする。
【解決手段】周波数補正回路を有する共振回路と、前記共振回路の両端の間に接続された増幅回路とを備えた発振回路が提供される。前記周波数補正回路は、第1のコンデンサと、両端の電位が変動可能に前記第1のコンデンサと直列的に接続された第1のトランジスタと、を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発振回路及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
多機能化した電子機器等においては、様々な発振回路が用いられている。LC共振回路を用いた発振回路は、半導体基板に集積可能であり小型化に適するが、製造プロセスなどによる回路定数のばらつきを原因として発振周波数がばらつくため、共振周波数を補正する周波数補正回路が必要になる。
また、電子機器の省電力化にともない、不使用時に電源を遮断して動作を停止させるスリープモードを実装する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−174320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、周波数補正回路の影響により、起動後、発振周波数が安定するまでに要する時間が長くなる場合があり、高速応答を要求される場合などにはスリープモードが使えず、電子機器の省電力化に悪影響を与えることも想定される。
そこで、発振周波数が安定するまでに要する時間の短い発振回路及び電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、周波数補正回路を有する共振回路と、前記共振回路の両端の間に接続された増幅回路とを備えた発振回路が提供される。前記周波数補正回路は、第1のコンデンサと、両端の電位が変動可能に前記第1のコンデンサと直列的に接続された第1のトランジスタと、有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】第1の実施形態に係る発振回路の構成を例示する回路図である。
【図2】解析例の周波数補正回路の回路図である。
【図3】解析例の周波数補正回路のトランジスタの端子電圧の波形図である。
【図4】図3に表した波形図の時間軸を拡大した波形図である。
【図5】解析例の周波数補正回路のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【図6】解析例の発振回路の発振周波数を表す特性図である。
【図7】図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタの端子電圧の波形図である。
【図8】図7に表した波形図の時間軸を拡大した波形図である。
【図9】図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【図10】図1に表した発振回路の発振周波数を表す特性図である。
【図11】第2の実施形態に係る電子機器の構成を例示する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る発振回路の構成を例示する回路図である。
図1に表したように、発振回路1は、共振回路2、増幅回路3、4、定電流回路5を備える。そして、これらを同じ半導体基板に形成して1チップ化した構造を備える。
【0009】
共振回路2は、インダクタ6、共振コンデンサ7及び周波数補正回路8を有する。共振回路2の両端9、10の間に、インダクタ6と、共振コンデンサ7と、周波数補正回路8と、がそれぞれ互いに並列に接続されている。共振回路2は、LC並列共振回路である。共振回路2の共振周波数は、発振回路1の発振周波数を規定する。
インダクタ6としては、例えば、半導体基板上に設けられたスパイラルインダクタを用いることができる。共振コンデンサ7としては、例えば、金属電極間に誘電体として絶縁膜が挟まれたMIM(Metal-Insulator-Metal)構造の平行平板形のコンデンサを用いることができる。
【0010】
周波数補正回路8は、一対の第1のコンデンサ11、12、一対の第1のトランジスタ13、14を有する。
第1のコンデンサ11の一端は、接地GNDに接続されている。第1のコンデンサ11の他端と共振回路2の一端9との間に第1のトランジスタ13が接続されている。第1のコンデンサ12の一端は、接地GNDに接続されている。第1のコンデンサ12の他端と共振回路2の他端10との間に第1のトランジスタ14が接続されている。第1のトランジスタ13、14のそれぞれの両端の電位は変動可能であり、交流的には固定されていない。
【0011】
第1のコンデンサ11、12は、共振コンデンサ7と同様に、MIM構造のコンデンサを用いることができる。また、第1のトランジスタ13、14は、それぞれNチャンネル形MOSFET(以下、NMOS)で構成される。
第1のトランジスタ13、14のバックゲートは、ともに接地GNDに接続され、ゲートには、ハイレベルまたはローレベルの制御信号Contが入力される。
【0012】
ここで、ハイレベルは、第1のトランジスタ13、14が導通状態になり、そのオン抵抗が十分小さい値になるゲート電圧であり、例えば電源電圧VDDである。またローレベルは、第1のトランジスタ13、14が遮断状態になり、ドレイン・ソース間の遮断状態を十分維持できるゲート電圧であり、例えば接地電位である。
【0013】
制御信号Contがローレベルのとき、第1のトランジスタ13、14は遮断状態になり、第1のコンデンサ11、12は、共振回路2の両端9、10から切り離される。このとき、共振回路2の両端9、10間の静電容量は、第1のコンデンサ7の静電容量と、インダクタ6及び増幅回路3、4のトランジスタ15〜18の寄生容量との合成容量となる。
【0014】
制御信号Contがハイレベルのとき、第1のトランジスタ13、14が導通状態になり、周波数補正回路8の第1のコンデンサ11、12は、共振回路2の両端9、10にそれぞれ接続される。このとき、共振回路2の両端9、10間の静電容量は、制御信号Contがローレベルのときの静電容量と、第1のコンデンサ11、12との合成容量になる。
【0015】
このように、制御信号Contにより、周波数補正回路8の静電容量値を変化させて、共振回路2の両端9、10間の静電容量を変化させることができる。従って、製造プロセスなどによる、インダクタ6のインダクタンス、共振コンデンサ7のキャパシタンスなどのパラメータのばらつきによる、共振周波数のばらつきを補正し、発振回路1の発振周波数を補正することができる。
【0016】
例えば、制御信号Contのレベルを変化させたときの発振回路1の発振周波数を測定して、規定値からの誤差を最小にする制御信号Contのレベルを決定することができる。また、例えば、発振回路1に不揮発性メモリなどを設けて、誤差を最小にする制御信号Contのレベルを記憶しておいてもよい。そして、発振回路1の動作時に不揮発メモリから制御信号Contのレベルを読出して制御信号Contとして設定することにより、発振回路1の発振周波数を補正することもできる。
【0017】
第1のトランジスタ13、14のドレインは、共振回路2の両端9、10の電圧として、電源電圧VDDのほぼ1/2の直流電圧にそれぞれバイアスされている。そして、第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、発振回路1の発振動作時は発振出力に応じて変動する。第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、バイアスの直流電位を中心に変動し、交流的には固定されていない。また、第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、直流的にも交流的にも固定されていない。第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、発振回路1の発振出力に応じて変動する。
【0018】
このように、第1のトランジスタ13、14の両端、すなわちドレイン、ソースの電位は発振動作時に共振回路2の両端9、10の信号に応じて変動し、交流的には固定されていない。これにより、後述するように発振周波数が安定するのに要する時間を短くすることができる。
【0019】
増幅回路3は、トランジスタ15、16を有する。
トランジスタ15、16は、NMOSである。トランジスタ15、16のソースはともに接地GNDに接続される。トランジスタ15のドレイン及びトランジスタ16のゲートは、共振回路2の一端9に接続される。トランジスタ15のゲート及びトランジスタ16のドレインは、共振回路2の他端10に接続される。
【0020】
増幅回路3は、正帰還増幅回路であり、共振回路2の両端9、10の間に接続される。
増幅回路3は、共振回路2の両端9、10のそれぞれ信号を入力し、増幅して、両端9、10のそれぞれに正帰還する。共振回路2の両端9、10間のインピーダンスと増幅回路3の利得などの発振条件を満足する周波数で発振する。
【0021】
増幅回路4は、トランジスタ17、18を有する。
トランジスタ17、18は、Pチャンネル形MOSFET(以下、PMOS)である。トランジスタ17、18のソースには、定電流回路5を介して電源電圧VDDがそれぞれ供給される。トランジスタ17のドレイン及びトランジスタ18のゲートは、共振回路2の一端9に接続される。トランジスタ17のゲート及びトランジスタ18のドレインは、共振回路2の他端10に接続される。
【0022】
増幅回路4は、正帰還増幅回路であり、共振回路2の両端9、10の間に接続される。
なお、発振回路1においては、増幅回路3、4は、共振回路2の両端9、10に関して対称である。増幅回路4は、増幅回路3の負荷として機能している。また、増幅回路3は、増幅回路4の負荷として機能している。また、発振回路1においては、増幅回路3、4を有する構成を例示しているが、いずれか1つでもよい。
定電流回路5は、電源電圧VDDを供給され、増幅回路3、4に電流を供給する。
【0023】
次に発振回路1の動作について説明する。
電源電圧VDDが印加されると、定電流回路5を通して発振回路1に電流が供給され、増幅回路3、4のトランジスタ15〜18が増幅動作を開始する。動作開始時に、共振回路2の一端9の電圧SigPが共振回路2の他端10の電圧SigNよりも高いとき、トランジスタ17に電流が流れる。そのため、トランジスタ17の出力インピーダンスによる電圧降下のため、共振回路2の一端9の電圧SigPは低下する方向に変化する。
【0024】
また、トランジスタ16に電流が流れ、トランジスタ16の出力インピーダンスによる電圧降下のため、他端10の電圧SigNを上昇させる。その結果、他端10の電圧SigNが、一端9の電圧SigPよりも高い、SigN>SigPの状態に移行する。
【0025】
他端10の電圧SigN>一端9の電圧SIgPの状態になった場合は、上記の動作と逆の動作になり、一端9の電圧SigP>他端10の電圧SigNの状態に移行する。この動作が継続し、発振が維持される。
なお、共振回路2の両端9、10の間のインピーダンスは、共振周波数において最大値となるため、上記の説明においては、共振回路2の動作については省略している。
【0026】
発振回路1は、共振回路2を用いたマルチバイブレータであり、発振周波数は主に共振回路2の共振周波数で規定される。周波数補正回路8により共振周波数を変化させて、発振周波数を調整することができる。
【0027】
周波数補正回路8は、第1のトランジスタ13、14と第1のコンデンサ11、12で構成される。発振周波数を安定化するためには共振回路2の共振特性を表すQ値(Quality Factor)を高くする必要がある。そのため、周波数補正回路8は、共振回路2のQ値を著しく低下させないようにする必要がある。
【0028】
例えば、第1のトランジスタ13、14のインピーダンスは、第1のコンデンサ11、12のインピーダンスのそれぞれ1/10以下となるように設定する。このため、第1のトランジスタ13、14がオンのときは、共振回路2の両端9、10間の電圧の殆どが、第1のコンデンサ11、12にかかる。
【0029】
しかし、第1のトランジスタ13、14がオフのときは、第1のトランジスタ13、14のインピーダンスは、第1のコンデンサ11、12のインピーダンスよりも大きくなる。第1のトランジスタ13、14のインピーダンス≫第1のコンデンサ11、12のインピーダンスの関係となり、共振回路2の両端9、10間の電圧の殆どが、第1のトランジスタ13、14にかかる状態となる。
【0030】
ここで、図1に表したように、周波数補正回路8の第1のトランジスタ13、14の両端、すなわちドレイン、ソースの電位は、共振回路2の両端9、10の信号に応じて変化する。これにより、後述するように、発振周波数が安定するまでに要する時間の短い発振回路を提供することができる。
【0031】
第1の実施形態に係る発振回路1の構成は、以下に説明する解析結果により新たに見いだされた現象に基づいて構築されたものである。
発明者は、発振回路における周波数補正回路の動作を詳細に調べた。
【0032】
図2は、解析例の周波数補正回路の回路図である。
図2に表したように、解析例の周波数補正回路19においては、トランジスタ23、24のソース及びバックゲートが接地GNDに接続されている。トランジスタ23のドレインと共振回路2の一端9との間にコンデンサ21が接続される。トランジスタ24のドレインと共振回路2の他端10との間にコンデンサ22が接続される。
【0033】
解析例の発振回路は、図1に表した発振回路1の共振回路2の周波数補正回路8を、解析例の周波数補正回路19に置き換えて構成される。増幅回路3、負荷回路4、定電流回路5、インダクタ6、共振コンデンサ7については、図1に表した発振回路1と同様である。
【0034】
本解析においては、電源電圧VDDを印加したときから、発振周波数が安定化するまでの、トランジスタ23のソース電圧、ドレイン電圧、バックゲート電流、発振周波数の変化をシミュレーションにより調べた。なお、対称性から、共振回路の一端9と接地GNDとの間の、トランジスタ23についてシミュレーションの結果を表している。また、トランジスタ23、24はオフである。
【0035】
図3は、解析例の周波数補正回路のトランジスタの端子電圧の波形図である。
図3においては、横軸に時間time(μs)をとり、縦軸に電圧Vをとって、トランジスタ23のソース電圧の波形、ドレイン電圧の波形を、それぞれ破線、実線で表している。
図4は、図3に表した波形図の時間軸を拡大した波形図であり、時間軸time=14.99μs〜15.0μsの範囲を表している。
図5は、解析例の周波数補正回路のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【0036】
トランジスタ23のソースが接地GNDに接続されていることにより、ドレイン電圧がマイナスまで印加され、ドレイン・バックゲート間が逆方向と順方向との間で大きく振れる。これに伴い、ドレイン・バックゲート間に順方向電流が流れ、寄生する容量値も大きく変動する。しかし、ドレイン・バックゲート間のダイオードの寄生抵抗の影響で時定数が大きく、コンデンサ21の充電に長い時間を必要とする。そのために、ドレイン電圧のDC成分が定常状態に至るまでに長い時間を必要とする。ドレイン電圧のDC成分により、ドレイン・バックゲート間容量値が決定される。
【0037】
以上の理由から、ドレイン電圧が定常状態になるまでは発振周波数の変動が続き、発振周波数が長時間不安定になると推測される。
図6は、解析例の発振回路の発振周波数を表す特性図である。
時間time=0μsで電源電圧VDDが印加されてからドレイン電圧のDC成分が定常状態に至るまで、発振周波数は、変動し不安定になっている。
【0038】
従って、発振周波数が安定するまでに要する時間を短くするためには、トランジスタのドレインがバックゲートに対してマイナスまで振れないようにして、ドレイン・バックゲート間に順方向電流が流れないようにする必要があると推測される。
【0039】
また、上記のシミュレーション結果については、次のように解析することができる。
共振回路の一端9がハイレベルのとき、増幅回路3のトランジスタ15はオフである。トランジスタ23、24はオフであり、解析例の周波数補正回路19はオフである。
【0040】
このとき、コンデンサ21、22は、直流的に接地GNDと分離されている。
共振回路の一端9または他端10の電位変動に伴い、コンデンサ21、22は充放電を繰り返そうとするが、一端9または他端10の電位がある値以下に低下すると、発振回路の増幅回路3のトランジスタ15、16のインピーダンスが増加するため、時定数が長くなり、十分に充電または放電される前に次の状態に移行していく。
【0041】
また、一端9(他端10)がハイレベルのとき、コンデンサ21(22)の他端10側電極(一端9側電極)がマイナスに充電されている。一端9(他端10)の電位下降に伴いコンデンサ21(22)が放電しようとするが、接地GNDに対する放電経路がオフ状態のトランジスタ23(24)しか無い。このため、トランジスタ23(24)のドレイン端子がマイナスに充電され、インピーダンスが低下することにより放電を行う。
充電サイクル、放電サイクル双方とも高抵抗を介してしるため、充放電時定数が長くなる。
【0042】
従って、発振周波数が安定するまでに要する時間を短くするためには、トランジスタのドレインがバックゲートに対してマイナスまで振れないように、コンデンサ21、22が充放電されないようにする必要があると推測される。そして、ドレイン・バックゲート間に順方向電流が流れないようにする必要があると推測される。
【0043】
第1の実施形態に係る発振回路1の周波数補正回路8は、上記の解析結果により構築されたものであり、第1のコンデンサ11、12の一端はそれぞれ接地GNDに接続されている。また、第1のコンデンサ11の他端と共振回路2の一端9との間に第1のトランジスタ13が接続される。第1のコンデンサ12の他端と共振回路2の他端10との間に第1のトランジスタ14が接続される。
【0044】
第1のトランジスタ13、14のドレインは、共振回路2の両端9、10の電圧として、電源電圧VDDのほぼ1/2にそれぞれバイアスされている。そして、第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、発振回路1の発振動作時、共振回路2の両端9、10の信号に応じて変動する。第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、バイアスの直流電位を中心に変動し、交流的には固定されていない。また、第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、直流的にも交流的にも固定されていない。第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、発振回路1の発振動作時、共振回路2の両端9、10の信号に応じて変動する。第1のトランジスタ13、14のドレインは、バックゲートに対してマイナスに振れることはない。
【0045】
また、周波数補正回路8がオフのとき、第1のトランジスタ13、14はオフであり、第1のコンデンサ11、12は発振回路1から絶縁されている。そのため、解析例の周波数補正回路19の様な充放電現象は発生しない。
【0046】
図7は、図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタの端子電圧の波形図である。
図7においては、横軸に時間time(μs)をとり、縦軸に電圧Vをとって、第1のトランジスタ13のソース電圧の波形、ドレイン電圧の波形を、それぞれ破線、実線で表している。
図8は、図7に表した波形図の時間軸を拡大した波形図であり、時間軸time=14.99μs〜15.0μsの範囲を表している。
図9は、図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【0047】
第1のトランジスタ13、14 のそれぞれのソースと接地GNDとの間に第1のコンデンサ11、12 を入れることで、ドレイン電圧がマイナスまで印加される状態が改善されている。また、ドレイン・バックゲート間が逆方向と順方向との間で大きく振れることがない。そのため、ドレイン・バックゲート間に順方向電流は流れず、寄生する容量値も安定する。
【0048】
図10は、図1に表した発振回路の発振周波数を表す特性図である。
時間time=0(μs)で電源電圧VDDが印加されてから、第1のトランジスタ13、14のドレイン電圧はすぐに定常状態になり、発振周波数は短時間で安定している。
このように、本実施形態に係る発振回路1においては、発振周波数が安定化するのに要する時間を短くすることができる。
【0049】
なお、図1においては、周波数補正回路8が1つの場合を例示しているが、任意数並列に接続してもよい。また、周波数補正回路8として、一対の第1のコンデンサ11、12と一対の第1のトランジスタ13、14を有する構成を例示している。しかし、周波数補正回路としては、任意数の第1のコンデンサと第1のトランジスタとを有してもよい。
【0050】
また、図1においては、周波数補正回路8の第1のトランジスタ13、14のドレインは、電源電圧VDDのほぼ1/2にそれぞれバイアスされている。第1のトランジスタ13、14をスイッチ素子として用いるためにドレインまたはソースの一方は、直流電位を固定する必要がある。
【0051】
しかし、第1のトランジスタ13、14の両端、ドレイン、ソースの電位は、発振回路1の発振動作時、共振回路2の両端9、10の信号とともに変動させ、交流的には固定しない。例えば、第1のトランジスタ13、14のドレインと共振回路2の両端9、10との間にそれぞれコンデンサを挿入し、ソースと接地GNDとの間にそれぞれ抵抗を接続し、ソースの電位を直流的に固定してもよい。
【0052】
図11は、第2の実施形態に係る電子機器の構成を例示する回路図である。
図11に表したように、電子機器31は、発振回路1、制御回路32、記憶回路33を備える。
発振回路1は、図1に表した発振回路1であり、制御回路32にクロックを供給する。
制御回路32は、記憶回路33の書込み及び読出しを制御する。
記憶回路33は、デジタルデータを記憶する回路であり、例えばRAM、ROMなどの記憶素子により構成される。
【0053】
発振回路1は、発振周波数が安定するまでに要する時間が短いため、電子機器31は、高速応答が要求される場合にもスリープモードを使って、電子機器の省電力化を図ることができる。また、電子機器31は、半導体基板に集積化可能であり、小型化にも適する。また、発振回路1及び制御回路32と、記憶回路33とは、それぞれを異なる装置として構成してもよい。例えば、記憶回路33として、ICカードを用い、発振回路1及び制御回路32を用いてカードリーダを構成してもよい。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 発振回路
2 共振回路
3、4 増幅回路
5 定電流回路
6 インダクタ
7 共振コンデンサ
8 周波数補正回路
11、12 第1のコンデンサ
13、14 第1のトランジスタ
15、16、17、18、23、24 トランジスタ
19 周波数補正回路
21、22 コンデンサ
31 電子機器
32 制御回路
33 記憶回路
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発振回路及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
多機能化した電子機器等においては、様々な発振回路が用いられている。LC共振回路を用いた発振回路は、半導体基板に集積可能であり小型化に適するが、製造プロセスなどによる回路定数のばらつきを原因として発振周波数がばらつくため、共振周波数を補正する周波数補正回路が必要になる。
また、電子機器の省電力化にともない、不使用時に電源を遮断して動作を停止させるスリープモードを実装する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−174320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、周波数補正回路の影響により、起動後、発振周波数が安定するまでに要する時間が長くなる場合があり、高速応答を要求される場合などにはスリープモードが使えず、電子機器の省電力化に悪影響を与えることも想定される。
そこで、発振周波数が安定するまでに要する時間の短い発振回路及び電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、周波数補正回路を有する共振回路と、前記共振回路の両端の間に接続された増幅回路とを備えた発振回路が提供される。前記周波数補正回路は、第1のコンデンサと、両端の電位が変動可能に前記第1のコンデンサと直列的に接続された第1のトランジスタと、有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】第1の実施形態に係る発振回路の構成を例示する回路図である。
【図2】解析例の周波数補正回路の回路図である。
【図3】解析例の周波数補正回路のトランジスタの端子電圧の波形図である。
【図4】図3に表した波形図の時間軸を拡大した波形図である。
【図5】解析例の周波数補正回路のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【図6】解析例の発振回路の発振周波数を表す特性図である。
【図7】図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタの端子電圧の波形図である。
【図8】図7に表した波形図の時間軸を拡大した波形図である。
【図9】図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【図10】図1に表した発振回路の発振周波数を表す特性図である。
【図11】第2の実施形態に係る電子機器の構成を例示する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る発振回路の構成を例示する回路図である。
図1に表したように、発振回路1は、共振回路2、増幅回路3、4、定電流回路5を備える。そして、これらを同じ半導体基板に形成して1チップ化した構造を備える。
【0009】
共振回路2は、インダクタ6、共振コンデンサ7及び周波数補正回路8を有する。共振回路2の両端9、10の間に、インダクタ6と、共振コンデンサ7と、周波数補正回路8と、がそれぞれ互いに並列に接続されている。共振回路2は、LC並列共振回路である。共振回路2の共振周波数は、発振回路1の発振周波数を規定する。
インダクタ6としては、例えば、半導体基板上に設けられたスパイラルインダクタを用いることができる。共振コンデンサ7としては、例えば、金属電極間に誘電体として絶縁膜が挟まれたMIM(Metal-Insulator-Metal)構造の平行平板形のコンデンサを用いることができる。
【0010】
周波数補正回路8は、一対の第1のコンデンサ11、12、一対の第1のトランジスタ13、14を有する。
第1のコンデンサ11の一端は、接地GNDに接続されている。第1のコンデンサ11の他端と共振回路2の一端9との間に第1のトランジスタ13が接続されている。第1のコンデンサ12の一端は、接地GNDに接続されている。第1のコンデンサ12の他端と共振回路2の他端10との間に第1のトランジスタ14が接続されている。第1のトランジスタ13、14のそれぞれの両端の電位は変動可能であり、交流的には固定されていない。
【0011】
第1のコンデンサ11、12は、共振コンデンサ7と同様に、MIM構造のコンデンサを用いることができる。また、第1のトランジスタ13、14は、それぞれNチャンネル形MOSFET(以下、NMOS)で構成される。
第1のトランジスタ13、14のバックゲートは、ともに接地GNDに接続され、ゲートには、ハイレベルまたはローレベルの制御信号Contが入力される。
【0012】
ここで、ハイレベルは、第1のトランジスタ13、14が導通状態になり、そのオン抵抗が十分小さい値になるゲート電圧であり、例えば電源電圧VDDである。またローレベルは、第1のトランジスタ13、14が遮断状態になり、ドレイン・ソース間の遮断状態を十分維持できるゲート電圧であり、例えば接地電位である。
【0013】
制御信号Contがローレベルのとき、第1のトランジスタ13、14は遮断状態になり、第1のコンデンサ11、12は、共振回路2の両端9、10から切り離される。このとき、共振回路2の両端9、10間の静電容量は、第1のコンデンサ7の静電容量と、インダクタ6及び増幅回路3、4のトランジスタ15〜18の寄生容量との合成容量となる。
【0014】
制御信号Contがハイレベルのとき、第1のトランジスタ13、14が導通状態になり、周波数補正回路8の第1のコンデンサ11、12は、共振回路2の両端9、10にそれぞれ接続される。このとき、共振回路2の両端9、10間の静電容量は、制御信号Contがローレベルのときの静電容量と、第1のコンデンサ11、12との合成容量になる。
【0015】
このように、制御信号Contにより、周波数補正回路8の静電容量値を変化させて、共振回路2の両端9、10間の静電容量を変化させることができる。従って、製造プロセスなどによる、インダクタ6のインダクタンス、共振コンデンサ7のキャパシタンスなどのパラメータのばらつきによる、共振周波数のばらつきを補正し、発振回路1の発振周波数を補正することができる。
【0016】
例えば、制御信号Contのレベルを変化させたときの発振回路1の発振周波数を測定して、規定値からの誤差を最小にする制御信号Contのレベルを決定することができる。また、例えば、発振回路1に不揮発性メモリなどを設けて、誤差を最小にする制御信号Contのレベルを記憶しておいてもよい。そして、発振回路1の動作時に不揮発メモリから制御信号Contのレベルを読出して制御信号Contとして設定することにより、発振回路1の発振周波数を補正することもできる。
【0017】
第1のトランジスタ13、14のドレインは、共振回路2の両端9、10の電圧として、電源電圧VDDのほぼ1/2の直流電圧にそれぞれバイアスされている。そして、第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、発振回路1の発振動作時は発振出力に応じて変動する。第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、バイアスの直流電位を中心に変動し、交流的には固定されていない。また、第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、直流的にも交流的にも固定されていない。第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、発振回路1の発振出力に応じて変動する。
【0018】
このように、第1のトランジスタ13、14の両端、すなわちドレイン、ソースの電位は発振動作時に共振回路2の両端9、10の信号に応じて変動し、交流的には固定されていない。これにより、後述するように発振周波数が安定するのに要する時間を短くすることができる。
【0019】
増幅回路3は、トランジスタ15、16を有する。
トランジスタ15、16は、NMOSである。トランジスタ15、16のソースはともに接地GNDに接続される。トランジスタ15のドレイン及びトランジスタ16のゲートは、共振回路2の一端9に接続される。トランジスタ15のゲート及びトランジスタ16のドレインは、共振回路2の他端10に接続される。
【0020】
増幅回路3は、正帰還増幅回路であり、共振回路2の両端9、10の間に接続される。
増幅回路3は、共振回路2の両端9、10のそれぞれ信号を入力し、増幅して、両端9、10のそれぞれに正帰還する。共振回路2の両端9、10間のインピーダンスと増幅回路3の利得などの発振条件を満足する周波数で発振する。
【0021】
増幅回路4は、トランジスタ17、18を有する。
トランジスタ17、18は、Pチャンネル形MOSFET(以下、PMOS)である。トランジスタ17、18のソースには、定電流回路5を介して電源電圧VDDがそれぞれ供給される。トランジスタ17のドレイン及びトランジスタ18のゲートは、共振回路2の一端9に接続される。トランジスタ17のゲート及びトランジスタ18のドレインは、共振回路2の他端10に接続される。
【0022】
増幅回路4は、正帰還増幅回路であり、共振回路2の両端9、10の間に接続される。
なお、発振回路1においては、増幅回路3、4は、共振回路2の両端9、10に関して対称である。増幅回路4は、増幅回路3の負荷として機能している。また、増幅回路3は、増幅回路4の負荷として機能している。また、発振回路1においては、増幅回路3、4を有する構成を例示しているが、いずれか1つでもよい。
定電流回路5は、電源電圧VDDを供給され、増幅回路3、4に電流を供給する。
【0023】
次に発振回路1の動作について説明する。
電源電圧VDDが印加されると、定電流回路5を通して発振回路1に電流が供給され、増幅回路3、4のトランジスタ15〜18が増幅動作を開始する。動作開始時に、共振回路2の一端9の電圧SigPが共振回路2の他端10の電圧SigNよりも高いとき、トランジスタ17に電流が流れる。そのため、トランジスタ17の出力インピーダンスによる電圧降下のため、共振回路2の一端9の電圧SigPは低下する方向に変化する。
【0024】
また、トランジスタ16に電流が流れ、トランジスタ16の出力インピーダンスによる電圧降下のため、他端10の電圧SigNを上昇させる。その結果、他端10の電圧SigNが、一端9の電圧SigPよりも高い、SigN>SigPの状態に移行する。
【0025】
他端10の電圧SigN>一端9の電圧SIgPの状態になった場合は、上記の動作と逆の動作になり、一端9の電圧SigP>他端10の電圧SigNの状態に移行する。この動作が継続し、発振が維持される。
なお、共振回路2の両端9、10の間のインピーダンスは、共振周波数において最大値となるため、上記の説明においては、共振回路2の動作については省略している。
【0026】
発振回路1は、共振回路2を用いたマルチバイブレータであり、発振周波数は主に共振回路2の共振周波数で規定される。周波数補正回路8により共振周波数を変化させて、発振周波数を調整することができる。
【0027】
周波数補正回路8は、第1のトランジスタ13、14と第1のコンデンサ11、12で構成される。発振周波数を安定化するためには共振回路2の共振特性を表すQ値(Quality Factor)を高くする必要がある。そのため、周波数補正回路8は、共振回路2のQ値を著しく低下させないようにする必要がある。
【0028】
例えば、第1のトランジスタ13、14のインピーダンスは、第1のコンデンサ11、12のインピーダンスのそれぞれ1/10以下となるように設定する。このため、第1のトランジスタ13、14がオンのときは、共振回路2の両端9、10間の電圧の殆どが、第1のコンデンサ11、12にかかる。
【0029】
しかし、第1のトランジスタ13、14がオフのときは、第1のトランジスタ13、14のインピーダンスは、第1のコンデンサ11、12のインピーダンスよりも大きくなる。第1のトランジスタ13、14のインピーダンス≫第1のコンデンサ11、12のインピーダンスの関係となり、共振回路2の両端9、10間の電圧の殆どが、第1のトランジスタ13、14にかかる状態となる。
【0030】
ここで、図1に表したように、周波数補正回路8の第1のトランジスタ13、14の両端、すなわちドレイン、ソースの電位は、共振回路2の両端9、10の信号に応じて変化する。これにより、後述するように、発振周波数が安定するまでに要する時間の短い発振回路を提供することができる。
【0031】
第1の実施形態に係る発振回路1の構成は、以下に説明する解析結果により新たに見いだされた現象に基づいて構築されたものである。
発明者は、発振回路における周波数補正回路の動作を詳細に調べた。
【0032】
図2は、解析例の周波数補正回路の回路図である。
図2に表したように、解析例の周波数補正回路19においては、トランジスタ23、24のソース及びバックゲートが接地GNDに接続されている。トランジスタ23のドレインと共振回路2の一端9との間にコンデンサ21が接続される。トランジスタ24のドレインと共振回路2の他端10との間にコンデンサ22が接続される。
【0033】
解析例の発振回路は、図1に表した発振回路1の共振回路2の周波数補正回路8を、解析例の周波数補正回路19に置き換えて構成される。増幅回路3、負荷回路4、定電流回路5、インダクタ6、共振コンデンサ7については、図1に表した発振回路1と同様である。
【0034】
本解析においては、電源電圧VDDを印加したときから、発振周波数が安定化するまでの、トランジスタ23のソース電圧、ドレイン電圧、バックゲート電流、発振周波数の変化をシミュレーションにより調べた。なお、対称性から、共振回路の一端9と接地GNDとの間の、トランジスタ23についてシミュレーションの結果を表している。また、トランジスタ23、24はオフである。
【0035】
図3は、解析例の周波数補正回路のトランジスタの端子電圧の波形図である。
図3においては、横軸に時間time(μs)をとり、縦軸に電圧Vをとって、トランジスタ23のソース電圧の波形、ドレイン電圧の波形を、それぞれ破線、実線で表している。
図4は、図3に表した波形図の時間軸を拡大した波形図であり、時間軸time=14.99μs〜15.0μsの範囲を表している。
図5は、解析例の周波数補正回路のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【0036】
トランジスタ23のソースが接地GNDに接続されていることにより、ドレイン電圧がマイナスまで印加され、ドレイン・バックゲート間が逆方向と順方向との間で大きく振れる。これに伴い、ドレイン・バックゲート間に順方向電流が流れ、寄生する容量値も大きく変動する。しかし、ドレイン・バックゲート間のダイオードの寄生抵抗の影響で時定数が大きく、コンデンサ21の充電に長い時間を必要とする。そのために、ドレイン電圧のDC成分が定常状態に至るまでに長い時間を必要とする。ドレイン電圧のDC成分により、ドレイン・バックゲート間容量値が決定される。
【0037】
以上の理由から、ドレイン電圧が定常状態になるまでは発振周波数の変動が続き、発振周波数が長時間不安定になると推測される。
図6は、解析例の発振回路の発振周波数を表す特性図である。
時間time=0μsで電源電圧VDDが印加されてからドレイン電圧のDC成分が定常状態に至るまで、発振周波数は、変動し不安定になっている。
【0038】
従って、発振周波数が安定するまでに要する時間を短くするためには、トランジスタのドレインがバックゲートに対してマイナスまで振れないようにして、ドレイン・バックゲート間に順方向電流が流れないようにする必要があると推測される。
【0039】
また、上記のシミュレーション結果については、次のように解析することができる。
共振回路の一端9がハイレベルのとき、増幅回路3のトランジスタ15はオフである。トランジスタ23、24はオフであり、解析例の周波数補正回路19はオフである。
【0040】
このとき、コンデンサ21、22は、直流的に接地GNDと分離されている。
共振回路の一端9または他端10の電位変動に伴い、コンデンサ21、22は充放電を繰り返そうとするが、一端9または他端10の電位がある値以下に低下すると、発振回路の増幅回路3のトランジスタ15、16のインピーダンスが増加するため、時定数が長くなり、十分に充電または放電される前に次の状態に移行していく。
【0041】
また、一端9(他端10)がハイレベルのとき、コンデンサ21(22)の他端10側電極(一端9側電極)がマイナスに充電されている。一端9(他端10)の電位下降に伴いコンデンサ21(22)が放電しようとするが、接地GNDに対する放電経路がオフ状態のトランジスタ23(24)しか無い。このため、トランジスタ23(24)のドレイン端子がマイナスに充電され、インピーダンスが低下することにより放電を行う。
充電サイクル、放電サイクル双方とも高抵抗を介してしるため、充放電時定数が長くなる。
【0042】
従って、発振周波数が安定するまでに要する時間を短くするためには、トランジスタのドレインがバックゲートに対してマイナスまで振れないように、コンデンサ21、22が充放電されないようにする必要があると推測される。そして、ドレイン・バックゲート間に順方向電流が流れないようにする必要があると推測される。
【0043】
第1の実施形態に係る発振回路1の周波数補正回路8は、上記の解析結果により構築されたものであり、第1のコンデンサ11、12の一端はそれぞれ接地GNDに接続されている。また、第1のコンデンサ11の他端と共振回路2の一端9との間に第1のトランジスタ13が接続される。第1のコンデンサ12の他端と共振回路2の他端10との間に第1のトランジスタ14が接続される。
【0044】
第1のトランジスタ13、14のドレインは、共振回路2の両端9、10の電圧として、電源電圧VDDのほぼ1/2にそれぞれバイアスされている。そして、第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、発振回路1の発振動作時、共振回路2の両端9、10の信号に応じて変動する。第1のトランジスタ13、14のドレインの電位は、バイアスの直流電位を中心に変動し、交流的には固定されていない。また、第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、直流的にも交流的にも固定されていない。第1のトランジスタ13、14のソースの電位は、発振回路1の発振動作時、共振回路2の両端9、10の信号に応じて変動する。第1のトランジスタ13、14のドレインは、バックゲートに対してマイナスに振れることはない。
【0045】
また、周波数補正回路8がオフのとき、第1のトランジスタ13、14はオフであり、第1のコンデンサ11、12は発振回路1から絶縁されている。そのため、解析例の周波数補正回路19の様な充放電現象は発生しない。
【0046】
図7は、図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタの端子電圧の波形図である。
図7においては、横軸に時間time(μs)をとり、縦軸に電圧Vをとって、第1のトランジスタ13のソース電圧の波形、ドレイン電圧の波形を、それぞれ破線、実線で表している。
図8は、図7に表した波形図の時間軸を拡大した波形図であり、時間軸time=14.99μs〜15.0μsの範囲を表している。
図9は、図1に表した周波数補正回路の第1のトランジスタのバックゲート電流の波形図である。
【0047】
第1のトランジスタ13、14 のそれぞれのソースと接地GNDとの間に第1のコンデンサ11、12 を入れることで、ドレイン電圧がマイナスまで印加される状態が改善されている。また、ドレイン・バックゲート間が逆方向と順方向との間で大きく振れることがない。そのため、ドレイン・バックゲート間に順方向電流は流れず、寄生する容量値も安定する。
【0048】
図10は、図1に表した発振回路の発振周波数を表す特性図である。
時間time=0(μs)で電源電圧VDDが印加されてから、第1のトランジスタ13、14のドレイン電圧はすぐに定常状態になり、発振周波数は短時間で安定している。
このように、本実施形態に係る発振回路1においては、発振周波数が安定化するのに要する時間を短くすることができる。
【0049】
なお、図1においては、周波数補正回路8が1つの場合を例示しているが、任意数並列に接続してもよい。また、周波数補正回路8として、一対の第1のコンデンサ11、12と一対の第1のトランジスタ13、14を有する構成を例示している。しかし、周波数補正回路としては、任意数の第1のコンデンサと第1のトランジスタとを有してもよい。
【0050】
また、図1においては、周波数補正回路8の第1のトランジスタ13、14のドレインは、電源電圧VDDのほぼ1/2にそれぞれバイアスされている。第1のトランジスタ13、14をスイッチ素子として用いるためにドレインまたはソースの一方は、直流電位を固定する必要がある。
【0051】
しかし、第1のトランジスタ13、14の両端、ドレイン、ソースの電位は、発振回路1の発振動作時、共振回路2の両端9、10の信号とともに変動させ、交流的には固定しない。例えば、第1のトランジスタ13、14のドレインと共振回路2の両端9、10との間にそれぞれコンデンサを挿入し、ソースと接地GNDとの間にそれぞれ抵抗を接続し、ソースの電位を直流的に固定してもよい。
【0052】
図11は、第2の実施形態に係る電子機器の構成を例示する回路図である。
図11に表したように、電子機器31は、発振回路1、制御回路32、記憶回路33を備える。
発振回路1は、図1に表した発振回路1であり、制御回路32にクロックを供給する。
制御回路32は、記憶回路33の書込み及び読出しを制御する。
記憶回路33は、デジタルデータを記憶する回路であり、例えばRAM、ROMなどの記憶素子により構成される。
【0053】
発振回路1は、発振周波数が安定するまでに要する時間が短いため、電子機器31は、高速応答が要求される場合にもスリープモードを使って、電子機器の省電力化を図ることができる。また、電子機器31は、半導体基板に集積化可能であり、小型化にも適する。また、発振回路1及び制御回路32と、記憶回路33とは、それぞれを異なる装置として構成してもよい。例えば、記憶回路33として、ICカードを用い、発振回路1及び制御回路32を用いてカードリーダを構成してもよい。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 発振回路
2 共振回路
3、4 増幅回路
5 定電流回路
6 インダクタ
7 共振コンデンサ
8 周波数補正回路
11、12 第1のコンデンサ
13、14 第1のトランジスタ
15、16、17、18、23、24 トランジスタ
19 周波数補正回路
21、22 コンデンサ
31 電子機器
32 制御回路
33 記憶回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数補正回路を有する共振回路と、
前記共振回路の両端の間に接続された増幅回路と、
を備え、
前記周波数補正回路は、
第1のコンデンサと、
両端の電位が変動可能に前記第1のコンデンサと直列的に接続された第1のトランジスタと、
を有することを特徴とする発振回路。
【請求項2】
前記第1のコンデンサの両端のいずれかの電位は固定されていることを特徴とする請求項1記載の発振回路。
【請求項3】
前記第1のトランジスタの両端のいずれかにバイアスが供給されていることを特徴とする請求項1または2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記第1のコンデンサの一端は接地に接続され、前記第1のトランジスタは前記共振回路と前記第1のコンデンサの他端との間に接続されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発振回路。
【請求項5】
デジタルデータを記憶する記憶回路と、
前記記憶回路の書込み及び読出しを制御する制御回路と、
前記制御回路にクロックを供給する請求項1〜4のいずれか1つに記載の発振回路と、
を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
周波数補正回路を有する共振回路と、
前記共振回路の両端の間に接続された増幅回路と、
を備え、
前記周波数補正回路は、
第1のコンデンサと、
両端の電位が変動可能に前記第1のコンデンサと直列的に接続された第1のトランジスタと、
を有することを特徴とする発振回路。
【請求項2】
前記第1のコンデンサの両端のいずれかの電位は固定されていることを特徴とする請求項1記載の発振回路。
【請求項3】
前記第1のトランジスタの両端のいずれかにバイアスが供給されていることを特徴とする請求項1または2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記第1のコンデンサの一端は接地に接続され、前記第1のトランジスタは前記共振回路と前記第1のコンデンサの他端との間に接続されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発振回路。
【請求項5】
デジタルデータを記憶する記憶回路と、
前記記憶回路の書込み及び読出しを制御する制御回路と、
前記制御回路にクロックを供給する請求項1〜4のいずれか1つに記載の発振回路と、
を備えたことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図8】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図8】
【公開番号】特開2012−4785(P2012−4785A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137069(P2010−137069)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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