説明

発振回路

【課題】発振増幅器の出力側におけるノイズ成分の影響を抑制すると共に、所望の信号成分を得るための発振回路を提供する。
【解決手段】圧電振動子と増幅器を接続して、発振閉ループを形成してなる発振回路であって、増幅器の入力と、圧電振動子との接続点から、発振信号成分を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ成分を抑制する発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器の基本クロック信号発生源として、圧電振動子を用いた発振回路が使用されている。圧電振動子は、水晶、セラミック等が使用されるが、ここでは水晶を用いた場合を例に説明する。例えば、図11は従来の水晶発振回路の回路構成を示す図であり、増幅器1と、水晶振動子2からなるループによって発振回路を構成し、その信号が増幅器1の出力端からバッファ3を介して出力される。なお、バッファ3の前段から出力信号を取っても良い。
【0003】
増幅段の中間あるいは終端から信号を取ると、所望の信号成分だけでなく、増幅器1内部のトランジスタや電源等から発生するノイズ成分、あるいは発振回路が組み込まれた他の回路に存在するレギュレータや寄生する共振回路系によるノイズ成分も増幅器1によって増幅されるため、増幅器の出力Aおよびバッファの出力BでのCN比が悪化するという欠点があった。
【0004】
この欠点を改善するものとして、特許文献1は、水晶振動子の構造を3極とし、その1極から出力信号を取り出すことによって良好な位相雑音特性を得る。
【特許文献1】特開2000−59144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、水晶振動子の構造を、3極を有する構成に変更する必要があるため、使用対象が限られると共に部品のコストが高くなる問題がある。
本発明は、圧電振動子の構造を変えずにノイズ成分の影響を抑制することのできる発振回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、圧電振動子と増幅器を接続して、発振閉ループを形成してなる発振回路であって、
前記発振増幅器の入力と、前記圧電振動子との接続点から、発振信号成分を取り出すことを特徴とする発振回路を提供する。
【0007】
これにより出力信号のノイズ成分を減少できる。
本発明の第2の態様によれば、前記第1の態様において、前記接続点からバッファを介して出力信号を出力する。
【0008】
これにより、出力信号のノイズを低減できることに加えて、発振回路の後段の影響を受けずに発振動作を行うことができる。
本発明の第3の態様によれば、前記増幅器はインバータであり、圧電振動子の両端と接地間には容量素子を接続する。
【0009】
これによりノイズの低減を図ると共に帰還ループの特性も調整できる。
本発明の第4の態様によれば、第1のバンドパスフィルタとこの出力に接続された第1のインバータと一端が第1のインバータの出力に接続されると共に他端が前記第1のバンドパスフィルタに接続された圧電振動子からなる第1の発振回路と、
第2のバンドパスフィルタとこの出力に接続された第2のインバータとこの第2のインバータの出力は前記圧電振動子の一端に接続され、前記第2のバンドパスフィルタの入力は前記圧電振動子の他端に接続された第2の発振回路と、
前記圧電振動子の他端に接続され出力信号を出力するバッファからなるデュアルモード発振回路を提供する。
【0010】
これにより、ノイズの低減されたディアルモード発振回路を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水晶発振回路によれば、発振回路の出力信号のノイズ成分が抑制されるので、CN比を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明の水晶発振回路は、例えば移動体通信等の基地局用の発振器等に使用される。
図1は、本発明の水晶発振回路における第1の実施形態を示す図である。水晶発振回路は、増幅器1と、水晶振動子2から発振閉ループを備える。
【0013】
増幅器1の出力は、水晶振動子2の一端と接続され、水晶振動子2の他端は増幅器1の非反転入力端子に接続されることで、正帰還回路を構成している。また、増幅器1の非反転入力端子と水晶振動子2の接続点Eは、バッファ5の入力端子と接続され、バッファ5の出力端から出力信号が出力される。
【0014】
水晶振動子2は、たとえばSCカットのものを用いる。
バッファ5は、入力は高インピーダンスであり、出力は低インピーダンスであるので、後段の回路の影響を前段に伝えない。これにより例えば負性抵抗を乱すことで発振停止となるのを防ぐ。負性抵抗とは電流−電圧特性の傾きが負になっている現象をいい、この負性抵抗を、増幅器で形成した回路によれば、発振を持続させる発振回路を実現できる。
【0015】
ここで、増幅器1内部のトランジスタや電源等から発生するノイズ成分、あるいは回路に寄生する共振回路系によるノイズ成分あるいはフロアノイズは、Q値の高い水晶振動子2が備えた狭帯域フィルタとしての機能から、信号成分は通過するが、ノイズ成分の内通過帯域以外の周波数成分は遮断されて、増幅器1に帰還しない。すなわちQ値の高い水晶振動子2を含む帰還回路の特性によって発振周波数帯における発振周波数近傍以外のノイズ成分を通しにくくするため、通過帯域成分は通過するが、通過帯域成分以外は遮断されて、増幅器1に帰還しない。そこで本実施形態では、信号成分を増幅器1の入力端から取り出すことによって、上記各種のノイズ成分が出力信号に影響することを回避する。
【0016】
したがって、出力信号において、ノイズ成分が従来より少なくなるので、発振周波数におけるCN比を向上させることができる。
なお、上記実施形態では振動子として水晶を用いたが、これに限定されるものではなく、セラミック振動子を用いてもよい。
【0017】
図2は、本発明の水晶発振回路における第2の実施形態を示す図である。水晶発振回路は、インバータ6と、水晶振動子2と、コンデンサ3,4と、バッファ5を備える。
インバータ6は、例えばCMOS論理素子と同じ構造をした増幅素子であり、その出力側は、水晶振動子2の一端が接続されている。水晶振動子2の他端は、インバータ6の入力側に接続されている。水晶振動子2の両端には、それぞれ発振動作の安定化用であり、且つフィルタ特性を有するコンデンサ3,4の一端が接続され、これらのコンデンサ3,4の他端は接地電位GNDに接続されている。また、インバータ6の入力側はバッファ5の入力側に接続され、バッファ5の出力側に出力端子を設ける。
【0018】
ここで水晶振動子2は、主としてインダクタ成分として機能しており、たとえばSCカットのOCXOを用いる。
第2の実施形態では、増幅器としてインバータ6を使用している。
【0019】
このインバータ6は、例えばPMOSトランジスタとNMOSトランジスタがゲート共通に接続されたCMOS回路で構成される。インバータ6の前段から、出力信号がバッファ5を介して出力される。
【0020】
第2の実施態様も第1の実施態様と同様の効果を奏するが、その原理を以下に詳しく述べる。
図2に示す発振回路を図3に示すように閉ループ回路として複素周波数領域(s=jω)にて一般的に表現すると、
【0021】
【数1】

【0022】
発振しているときは入力はないので
【0023】
【数2】

【0024】
を考慮して、
【0025】
【数3】

【0026】
となり、発振しているときはループ利得=1、すなわちA(s)β(s)=1となる。ここで水晶振動子とインバータ間の接続点すなわち本発明における出力点の信号Z(s)とする。
【0027】
【数4】

【0028】
上記を前提に本発明の第2の実施態様の回路の等価回路を解析する。上記等価回路は図4のようになる。
水晶振動子のインピーダンスZCとすると、
【0029】
【数5】

【0030】
となる。
一般的に有理化すると
【0031】
【数6】

【0032】
の狭帯域に入るノイズ成分は極めて少なくその狭帯域以外のノイズ成分はカットされ、水晶振動子を通過しない。
これにより発振に必要な帰還特性とノイズ除去に必要なフィルタ特性を満足するように帰還回路の素子定数を決めて発振回路を構成し、インバータの入力端から出力信号を取り出す。したがって所望の発振安定度とノイズ低減の両方を実現できる。
【0033】
図6は本発明の水晶発振回路の第3の実施形態を示す図である。
バッファ1、水晶振動子2、バッファ5を設けた第1の実施形態に対して、さらにバリキャップコンデンサ10をバッファ1の出力端と水晶振動子2の一端に接続したものである。バリキャップコンデンサ10は、電圧によりその容量が変わるので、これにより発振周波数を調整でき、且つ帰還回路の素子定数を決めることによりノイズ除去に適するようにフィルタ特性も調整できる。
【0034】
第3の実施形態も、バッファ1の入力端からバッファ5を介して出力するので、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
図7は第4の実施例を示す図である。第4の実施例は第1の実施形態において、バッファ1と水晶振動子2の間に、コンデンサ11を設けそのコンデンサ11の一端は、コンデンサ12を介して、バリキャップコンデンサ13の一端に接続される。バリキャップコンデンサ13の一端と接地間には抵抗14が接続される。コンデンサ11の他端はコンデンサ15を介してバリキャップコンデンサ13の他端に接続される。バリキャップコンデンサ13の他端と接地との間にはコンデンサ16が接続されると共に抵抗17を介してAFC(Auto Freguency Control)電圧が入力される。これによりAFC回路を構成し、バリキャップコンデンサ16の容量がAFC電圧により可変となるので、発振回路の発振周波数が調整される。さらに、AFC回路と水晶振動子2との合成の伝達特性が得られる。これによって水晶振動子2を通過するノイズの周波数成分がその通過域以外のところでカットされるが、ノイズカットと水晶振動子の周波数特性が最適になるように、水晶振動子とAFC回路の合成の伝達特性を選択可能となる。
【0035】
図8は本発明の水晶振動子の第5の実施形態を示す図である。
インバータ6、水晶振動子2、コンデンサ3、4、バッファ5を設けた第2の実施形態に対してさらにバッファ5の前段にバンドパスフィルタ21を設けたものである。
【0036】
第4の実施形態は第2の実施形態と同様の効果を奏することに加えてバンドパスフィルタ21により、さらに雑音等の不要波が除去されるのでより雑音の少ない出力信号を出力できる。
【0037】
図9は第6の実施形態を示すものである。第2の実施形態において、水晶振動子とコンデンサ4との間に抵抗31、32を直列接続し、その抵抗31と32の中点とアース間にバリキャップコンデンサ33を接続してなるAFC回路を構成する。そして抵抗32の他端にはAFC信号を加えることにより、バリキャップコンデンサ33の容量を可変にして水晶発振回路の発振周波数を調整するものである。これにより第6の実施例は第2の実施例と同様の効果を奏する。
【0038】
図10は本発明の第7の実施形態としてデュアルモード発振回路を示す図である。
第1のバンドパスフィルタ41の出力は第1のインバータ42に接続される。
第2のバンドパスフィルタ43の出力は第2のインバータ44に接続される。第1、第2のインバータ42、44の出力は抵抗を介して共通接続されて、バリキャップコンデンサ45を介して水晶振動子46の一端に接続される。水晶振動子44の他端はバンドパスフィルタ41、43の入力に共通接続されると共にバッファ46を介して出力される。バンドパスフィルタ41は位相を180度遅らせることができるので、インバータ32と組み合わせることにより正帰還回路を構成し、水晶振動子46と共に第1のモード例えばCモードオーバートーンで発振する第1の発振回路51を構成する。バンドパスフィルタ43とインバータ44は同様に、正帰還回路を構成し、水晶振動子46と共に第2のモード、例えばBモードオーバートーンで発振する第2の発振回路52を構成する。第1の発振回路51と第2の発振回路52とは混変調信号を出力するデュアルモード発振回路である。水晶振動子46は、Qが高いので、特定の周波数しか通過しないので、ノイズの特定通過以外の周波数成分はカットされ、かつバンドパスフィルタ41、43により帰還ループ内のノイズカットも調整できるので、出力信号はノイズの逓減された信号が出力される。なおバリキャップコンデンサ45は、容量を可変にして発振回路の発振周波数を同様に調整するとともに帰還ループ内のノイズも減少するように調整できる。
【0039】
なお、上記実施形態では水晶振動子としてSCカットを用いたが、これに限定されるものではなく、ATカットを用いてもよい。
また本発明は、以上に述べた実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成を取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の水晶発振回路における第1の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の水晶発振回路における第2の実施形態を示す図である。
【図3】第2の実施形態の原理を説明するための発振回路の一般的回路図。
【図4】第2の実施形態の等価回路図。
【図5】第2の実施形態における水晶振動子の周波数通過特性を示す図。
【図6】本発明の水晶発振回路の第3の実施形態を示す図。
【図7】本発明の水晶発振回路の第4の実施形態を示す図。
【図8】本発明の水晶発振回路の第5の実施形態を示す図。
【図9】本発明の水晶発振回路の第6の実施形態を示す図。
【図10】本発明の水晶発振回路の第7の実施形態を示す図。
【図11】従来の水晶発振回路の回路構成を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 増幅器
2 水晶振動子
3,4 コンデンサ
5 バッファ
6 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と増幅器を接続して、発振閉ループを形成してなる発振回路であって、
前記増幅器の入力と、前記圧電振動子との接続点から、発振信号成分を取り出すことを特徴とする発振回路。
【請求項2】
前記接続点からバッファを介して発振信号成分を取り出すことを特徴とする請求項1記載の発振回路。
【請求項3】
前記増幅器と前記圧電振動子の間に直列に可変容量素子を接続したことを特徴とする請求項2記載の発振回路。
【請求項4】
前記増幅器の出力端と前記圧電振動子の間にAFC回路を接続したことを特徴とする請求項2記載の発振回路。
【請求項5】
前記増幅器はインバータであり、前記圧電振動素子の入力及び出力端と接地間に容量素子を接続してなる発振回路であって、
前記インバータの入力端にバッファを接続し、このバッファを介して出力することを特徴とする請求項1記載の発振回路。
【請求項6】
前記インバータと前記バッファの間にバンドパスフィルタを接続したことを特徴とする請求項5記載の発振回路。
【請求項7】
前記インバータの出力端と前記圧電振動子の間にAFC回路を接続したことを特徴とする請求項5記載の発振回路。
【請求項8】
第1のバンドパスフィルタとこの出力に接続された第1のインバータと一端が第1のインバータの出力に接続されると共に他端が前記第1のバンドパスフィルタに接続された圧電振動子からなる第1の発振回路と、
第2のバンドパスフィルタとこの出力に接続された第2のインバータとこの第2のインバータの出力は前記圧電振動子の一端に接続され、前記第2のバンドパスフィルタの入力は前記圧電振動子の他端に接続された第2の発振回路と、
前記圧電振動子の他端に接続され出力信号を出力するバッファからなるデュアルモード発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−274649(P2007−274649A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101168(P2006−101168)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】