説明

発泡性樹脂組成物及びこれを用いた射出発泡成形品の成形方法

【課題】 本発明は、射出発泡成形、特にコアバック法によって剛性及び耐衝撃性に優れた射出発泡成形品を得ることができる発泡性樹脂組成物及びこれを用いた射出発泡成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】 本発明の発泡性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂100重量部、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体5〜10重量部及び発泡剤を含有することを特徴とするので、射出発泡成形時に発泡に適した溶融粘度を発現し、得られる射出発泡成形品は、優れた外観を有していると共に、耐衝撃性及び剛性に優れ、特に厚みが薄くても、優れた耐衝撃性及び剛性を維持し優れた軽量性をも有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性樹脂組成物及びこれを用いた射出発泡成形品の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の軽量化を図るために、自動車のドアトリムなどの車両内装材としてポリプロピレン系樹脂発泡成形品が用いられており、耐衝撃性や剛性が求められている。このポリプロピレン系樹脂発泡成形品は、コアバック法によって製造されている。
【0003】
コアバック法とは、固定型と可動型とを型締めしてこれらの型の合わせ面間で形成されたキャビティ内に発泡性樹脂組成物を充填した後、可動型を後退させることによってキャビティを拡げながら発泡性樹脂組成物を発泡させて所望形状を有する発泡体を成形する方法である。
【0004】
上記コアバック法に用いられる発泡性樹脂組成物として、特許文献1には、(1)メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分未満、メルトテンションが2cN以上、かつ歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂、(2)(a)エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムおよび(b)アルケニル芳香族化合物単位含有ゴムから選ばれる少なくとも1種以上の熱可塑性ゴム、(3)ポリオレフィンワックス、および(4)発泡剤からなる発泡性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記発泡性樹脂組成物を用いてコアバック法により成形された射出発泡成形品は、その厚みが薄いと、耐衝撃性及び剛性が低いという問題点を有し、更に、アルケニル芳香族化合物単位含有ゴムは臭気があるという問題点も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−290282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、射出発泡成形、特にコアバック法によって剛性及び耐衝撃性に優れた射出発泡成形品を得ることができる発泡性樹脂組成物及びこれを用いた射出発泡成形品の成形方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発泡性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂100重量部、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体4〜14重量部及び発泡剤を含有することを特徴とする。
【0009】
ポリプロピレン系樹脂としては、従来から射出発泡成形に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体の何れであってもよい。
【0010】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィン等が挙げられる。
【0011】
本発明の発泡性樹脂組成物には、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体(CEBC)が含有されている。エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体は、A−B−Aで表されるサンドイッチ型のトリブロック共重合体であって、Aは、エチレン重合体ブロックであり、Bは、エチレンとブチレンとのランダム重合体ブロックである。なお、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体は、JSR社から商品名「ダイナロン6200P」にて市販されている。
【0012】
このように発泡性樹脂組成物にエチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体が含有されていることによって、エチレンとブチレンとのランダム重合体ブロックにおいて、ブチレン部分の一部がポリプロピレン系樹脂と相溶化すると共に、ブチレン部分の一部がポリプロピレン系樹脂中に分散した状態となることによって、発泡性樹脂組成物は、発泡時において発泡に適した溶融粘度、伸長粘度を発現し、2倍以上の高発泡倍率に発泡可能であると共に、発泡性樹脂組成物を成形して得られる発泡成形品は優れた耐衝撃性及び剛性を有している。
【0013】
そして、発泡性樹脂組成物は、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体が含有されていることから、上述の通り、発泡に適した溶融粘度を有しており、発泡性樹脂組成物がキャビティ内を流動中に、発泡ガスが溶融状態の発泡性樹脂組成物中から漏れ出てキャビティ内面と溶融状態のポリプロピレン系樹脂との間に発泡ガスが進入することによって射出発泡成形品の表面に凹凸やガス汚れが生じるようなことはなく、優れた外観を有する射出発泡成形品を成形することができる。
【0014】
エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体中において、両側のエチレン重合体ブロックの重合度は、1000〜2000が好ましく、エチレンとブチレンとのランダム重合体ブロックの重合度は、2000〜3000が好ましい。
【0015】
そして、発泡性樹脂組成物中におけるエチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体の含有量は、少ないと、発泡性樹脂組成物を発泡させて得られる射出発泡成形品の耐衝撃性が低下することがあり、多いと、発泡性樹脂組成物を用いて得られた射出発泡成形品の剛性が低下することがあるので、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して4〜14重量部に限定され、5〜10重量部が好ましい。
【0016】
更に、発泡性樹脂組成物には発泡剤が含有されている。発泡剤としては、従来から射出発泡成形に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミドなどが挙げられる。
【0017】
そして、発泡性樹脂組成物中における発泡剤の含有量は、少ないと、発泡性樹脂組成物が発泡しないことがあり、多いと、射出発泡成形の途上に発泡ガスが溶融状態の発泡性樹脂組成物から漏れ出て、キャビティ内面と溶融状態のポリプロピレン系樹脂との間に発泡ガスが進入することによって射出発泡成形品の表面に凹凸が生じることがあるので、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して1〜7重量部が好ましく、2〜5重量部がより好ましい。
【0018】
次に、発泡性樹脂組成物を用いて射出発泡成形によって射出発泡成形品を成形する要領を説明する。先ず、図1に示したように、射出発泡成形用の成形型として固定型1と可動型2を用意し、この固定型1と可動型2を射出成形機の金型取付フレーム(図示せず)にそれぞれ対向した状態で装着した後、可動型2を固定型1側に移動させて図1に示したように型締めする。
【0019】
しかる後、固定型1に設けられているゲート(図示せず)を通じて発泡性樹脂組成物を所定の射出圧力でもってキャビティ3内に射出、充填する。キャビティ3の内面と接した部分、即ち、固定型1と可動型2との対向面1a、2aの全面にポリプロピレン系樹脂の冷却固化によるスキン層4が形成される。
【0020】
次に、可動型2を、この可動型2と固定型1との対向面1a、2a間の幅が図2に示すように、成形すべき射出発泡成形品Aの厚みに相当する幅間隔となるまで後退させると、キャビティ3の容積が増大してキャビティ3内が減圧されて、発泡性樹脂組成物中に含まれている発泡剤が分解して生成される二酸化炭素や窒素などの発泡ガスによって発泡性樹脂組成物が発泡し、スキン層4で覆われた発泡樹脂からなるコア層5を有する射出発泡成形品Aが得られる。
【0021】
しかるに、本発明の発泡性樹脂組成物は、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体が含有されており、発泡性樹脂組成物は、キャビティ3内への射出、充填時に適度な溶融粘度を有しており、固定型と可動型2とが型締めされて形成されたキャビティ3内に均一に隙間なく充填される。
【0022】
そして、発泡性樹脂組成物はキャビティ3内に充填されると、上述のように、キャビティ3に接した部分において冷却固化されてスキン層4が形成されるが、発泡性樹脂組成物はエチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体が含有されているので溶融粘度が上昇しており、発泡性樹脂組成物中に含まれている発泡ガスがスキン層4を貫通して、スキン層4とキャビティ3の内面との間に漏れ出すようなことはなく、得られる射出発泡成形品Aの表面に、漏れ出た発泡ガスに起因した凹凸や汚れが生じるようなことはない。
【0023】
本発明の発泡性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂にエチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体を含有させてなるので、キャビティ3内に発泡性樹脂組成物を射出充填する際のキャビティ3の厚みW0、即ち、固定型1と可動型2との対向面1a、2aの間隔を小さく設定し、得られる射出発泡成形品Aの厚みを薄くしても、射出発泡成形品Aは、その耐衝撃性及び剛性に優れている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の発泡性樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体及び発泡剤を含有することを特徴とするので、射出発泡成形時に発泡に適した溶融粘度及び伸長粘度を発現し、得られる射出発泡成形品は、優れた外観を有していると共に、耐衝撃性及び剛性に優れ、特に発泡倍率が高くても、優れた耐衝撃性及び剛性を維持し優れた軽量性を有している。
【0025】
そして、本発明の発泡性樹脂組成物は、ベンゼン環を含む化合物を含有させる必要がなく、ベンゼン環に起因した臭気を発生させないので、得られる射出発泡成形品は鼻を突く臭気を発生させず、種々の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】射出発泡成形用金型の縦断側面図である。
【図2】可動型を後退させた状態の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1〜3、比較例1〜3、5〜6)
表1に示した所定量のポリプロピレン系樹脂(住友化学社製 商品名「AZ846E4」)、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体(CEBC、JSR社製 商品名「ダイナロン6200P」、エチレン重合体ブロックの重合度:1300〜1700、エチレンとブチレンとのランダム共重合体ブロックの重合度:2200〜2800)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS、JSR社製 商品名「ダイナロン8600P」)、炭酸水素ナトリウムを含む発泡剤(三和化成社製 商品名「セルマイク3274」)及び着色剤(東京インキ社製 商品名「136B」)を含む発泡性樹脂組成物を押出機(射出成形機スクリュー)に供給して200℃にて溶融混練した。
【0029】
一方、射出発泡成形用金型として図1に示したような固定型1と可動型2を用意し、この固定型1と可動型2を射出成形機の金型取付フレーム(図示せず)にそれぞれ対向した状態で装着した後、可動型2を固定型1側に移動させて図1に示したように型締めすると共に、固定型1及び可動型2を50℃に加熱、維持した。
【0030】
しかる後、固定型1に設けられているゲート(図示せず)を通じて、上述のように押出機にて溶融混練した発泡性樹脂組成物を所定の射出圧力でもってキャビティ3内に射出、充填した。なお、発泡性樹脂組成物をキャビティ3内に射出、充填した時のキャビティ3の厚みW0は1.2mmであった。
【0031】
次に、キャビティ3内への発泡性樹脂組成物の充填が完了してから0.5秒だけ放置した後、図2に示すように、可動型2を、この可動型2と固定型1との対向面1a、2a間の幅が成形すべき射出発泡成形品Aの厚みに相当する表1に示した幅間隔W1となるまで後退させて、キャビティ3の容積を増大させてキャビティ3内を減圧して、発泡性樹脂組成物中に含まれている炭酸水素ナトリウムが分解して生成される二酸化炭素ガスが減圧によって膨張することで発泡性樹脂組成物中に気泡が発生して発泡体が形成され、スキン層4で覆われた発泡樹脂からなるコア層5を有する平板状の射出発泡成形品Aを得た。
【0032】
(比較例4)
表1に示した所定量のポリプロピレン系樹脂(住友化学社製 商品名「AZ846E4」)、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体(CEBC、JSR社製 商品名「ダイナロン6200P」)及び着色剤(東京インキ社製 商品名「136B」)を含む樹脂組成物を押出機に供給して200℃にて溶融混練した。
【0033】
一方、射出成形用金型として図1に示したような固定型1と可動型2を用意し、この固定型1と可動型2を射出成形機の金型取付フレーム(図示せず)にそれぞれ対向した状態で装着した後、可動型2を固定型1側に移動させて図1に示したように型締めすると共に、固定型1及び可動型2を50℃に加熱、維持した。
【0034】
しかる後、固定型1に設けられているゲート(図示せず)を通じて、上述のように押出機にて溶融混練した樹脂組成物を所定の射出圧力でもってキャビティ3内に射出、充填し、樹脂組成物の充填を完了してから25秒間に亘って放置し冷却して射出成形品を得た。
【0035】
実施例1〜3、比較例1〜3、5〜6で得られた射出発泡成形品A及び比較例4で得られた射出成形品について、曲げ弾性勾配、シャルピー衝撃強度、低温落球耐衝撃性、側突試験及び外観性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0036】
(曲げ弾性勾配)
成形品から縦50mm×横150mmの平面長方形状の試験片を切り出し、この試験片の中央部に荷重を加え、試験片の中央部の荷重を加えた部分が、荷重を試験片に加える前の位置から10mmだけ変位した時の荷重を測定した。
【0037】
(シャルピー衝撃強度)
成形品から縦10mm×横80mmの平面長方形状の試験片を切り出し、この試験片の中央部に長さ10mm、深さ2mmの切り込みを形成した。シャルピー衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製 商品名「DG−UB」)を用いてJIS K7111−1に準拠して振り上げ角度を測定しシャルピー衝撃強度を測定した。なお、JIS K7111−1では、試験片の厚みが4mmであるが、厚みが4mmでない場合は、得られたシャルピー衝撃強度に係数(4/試験片の厚み(mm))を乗じた値をシャルピー衝撃強度とした。
【0038】
(低温落球耐衝撃性)
射出発泡成形品を−30℃の恒温室の水平面上に静置した後、射出発泡成形品の上面に500gの鉄球を射出発泡成形品の上面から垂直方向の高さ10cmの位置から自然落下させた。この鉄球の落下によって射出発泡成形品に割れが生じているか否かを目視観察し、射出発泡成形品に割れが生じていない場合には、垂直方向の高さ位置として更に5cm高い高さ位置から射出発泡成形品の上面に鉄球を自然落下させて射出発泡成形品に割れが生じているか否かを目視観察した。射出発泡成形品に割れが発生するまで上述の要領で鉄球の高さ位置を高くし、射出発泡成形品に割れが発生した高さ位置を測定した。
【0039】
(側突試験)
射出発泡成形品の一面に重量21.9kgの錘を速度4.4m/秒にて衝突させて射出発泡成形品に割れが発生しているか否かを目視観察した。射出発泡成形品に割れが発生している場合には、割れの長さを測定した。なお、射出発泡成形品に割れが発生している場合は、表1には割れの長さを記載した。
【0040】
(外観性)
射出発泡成形品の表面に、発泡ガスが溶融状態の発泡性樹脂組成物中から漏れ出てキャビティ内面と溶融状態のポリプロピレン系樹脂との間に進入することによって生じる凹凸が生じているか否かを目視観察した。
【0041】
【表1】

【符号の説明】
【0042】
1 固定型
2 可動型
3 キャビティ
4 スキン層
5 コア層
A 射出発泡成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂100重量部、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体4〜14重量部及び発泡剤を含有することを特徴とする発泡性樹脂組成物。
【請求項2】
固定型と可動型とを型締めしてこれらの型の合わせ面間で形成されたキャビティ内に、ポリプロピレン系樹脂100重量部、エチレン−エチレン/ブチレン−エチレンブロック共重合体4〜14重量部及び発泡剤を含有する発泡性樹脂組成物を充填した後、上記可動型を後退させることによって上記キャビティを拡げながら上記発泡性樹脂組成物を発泡させることを特徴とする射出発泡成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213889(P2011−213889A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84017(P2010−84017)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390033112)積水テクノ成型株式会社 (48)
【Fターム(参考)】