説明

発熱シートの製造方法及びこの方法により製造された発熱シート

【課題】 広範囲のシート面にわたって導電性粉末を均一に繊維製品に含有させることができ、シート面上に余剰の導電性粉末を残存させない。
【解決手段】 水に導電性粉末1〜50重量%を均一に分散させて調製した導電性粉末分散液に、織物、編物又は不織布により作られたシート状の繊維製品を浸漬し、この分散液に浸漬した繊維製品を拡幅状態で一対のニップロールにより脱液して分散液中の導電性粉末を上記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に浸透させる。脱液した繊維製品を拡幅状態でシリンダ乾燥機により乾燥して繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に繊維製品全体にわたって上記導電性粉末を均一に付着させる。導電性粉末分散液に浸漬する前の繊維製品、又は乾燥した後の繊維製品に一対の電極を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート面全体にわたって発熱する発熱シートの製造方法に関する。更に詳しくは壁暖房、床暖房、貯蔵タンクの保温、屋根や道路の融雪、土壌の保温等の用途に適した発熱シートの製造方法及びこの方法により製造された発熱シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発熱シートとして、経糸と緯糸を編み込んで形成されるシートであって、経糸及び緯糸からなる部分と前記経糸及び緯糸で仕切られる空隙部分からなり、前記経糸又は緯糸の一方が絶縁性材料であり、前記経糸又は緯糸の他方の一部が導電性線材からなり残部が絶縁性材料からなる発熱シートが開示されている。この発熱シートは、カーボン粒子を含む液体に浸漬することで、シート表面にカーボン粒子を塗布している(例えば、特許文献1)。
【0003】
別の発熱シートとして、剥離紙上に導電性カーボン、金属粉等を含有する導電性インキをシルクスクリーン印刷で複数回印刷して所定の厚さの第1印刷層を作製し、他に不織布上に同様に導電性インキを印刷して所定の厚さの第2印刷層を作製し、剥離紙と不織布を第1印刷層と第2印刷層を介して合体して一体化した発熱シートの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
更に別の発熱シートとして、ポリエステル系の結晶性合成樹脂に導電性材料を添加混合した後、混合物をシート状に成形して発熱シートを製造する方法が開示されている。この発熱シートに通電状態をもたらす一つの電極を発熱シートに設けた後、一対の電極と発熱シートとを絶縁カバーで被覆して発熱シート体を得ている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平10−223359号公報(請求項1、請求項5、[0012]〜[0013]、図1)
【特許文献2】特開平1−134891号公報(特許請求の範囲、第1〜3図)
【特許文献3】特開平5−39003号公報(請求項1、請求項3、[0023]〜[0026]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発熱シートを曲げたときに、特許文献1〜3に記載された発熱シートには次の問題点があった。即ち特許文献1に記載された発熱シートでは経糸又は緯糸の形態をした導電性線材が切断しやすく、また特許文献2に記載された発熱シートでは不織布上で合体した第1及び第2印刷層にクラックが入りやすく、更に特許文献3に記載された発熱シートでは十分な可撓性が得られない問題点があった。このため、特許文献1及び2に記載された発熱シートでは使用するに従って、体積電気抵抗率が変化し、所望の発熱量が得られない不具合を生じていた。
【0006】
本発明の第1の目的は、発熱シートの使用回数が増加しても体積電気抵抗率が変化せずに所望の発電量を得ることができる可撓性のある発熱シートの製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、広範囲のシート面にわたって導電性粉末を均一に繊維製品に含有させることができ、シート面上に余剰の導電性粉末を残存させない発熱シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に係る発明は、水に導電性粉末1〜50重量%を均一に分散させて導電性粉末分散液を調製する工程と、織物、編物又は不織布により作られたシート状の繊維製品を上記導電性粉末分散液に浸漬する工程と、分散液に浸漬した繊維製品を拡幅状態で一対のニップロールにより脱液して分散液中の導電性粉末を上記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に浸透させる工程と、上記脱液した繊維製品を拡幅状態でシリンダ乾燥機により乾燥して上記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に繊維製品全体にわたって上記導電性粉末を均一に付着させる工程とを含み、前記導電性粉末分散液に浸漬する前の繊維製品、又は前記乾燥した後の繊維製品に一対の電極を設ける工程とを有する発熱シートの製造方法である。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬する工程と、分散液に浸漬した繊維製品を一対のニップロールで脱液する工程とがこの順で2回以上行われる発熱シートの製造方法である。
【0009】
本願請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬する工程と、分散液に浸漬した繊維製品を一対のニップロールで脱液する工程と、上記脱液した繊維製品を乾燥する工程とがこの順で2回以上行われる発熱シートの製造方法である。
【0010】
本願請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、導電性粉末の平均粒径が0.1〜20μmであって、上記導電性粉末が炭素粉末、金属粉末、金属酸化物粉末及び金属で被覆された無機粉末からなる群より選ばれた1種又は2種以上の粉末である発熱シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本願請求項1に係る方法では、繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬して拡幅状態で一対のニップロールにより脱液するため、分散液中の導電性粉末を上記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に浸透させて、この状態で繊維製品をシリンダ乾燥機により乾燥することにより、広範囲のシート面にわたって導電性粉末を上記繊維同士の間及び/又は糸同士の間に均一にかつより強力に付着させることができ、乾燥した繊維製品に設けた一対の電極に電力を供給することにより、発熱シートを発熱させることができる。
【0012】
本願請求項2又は3に係る方法では、浸漬工程と脱液工程、又は浸漬工程と脱液工程と乾燥工程を2回以上繰り返すことにより、導電性粉末を必要十分に繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に浸透させて乾燥により付着することができる。
本願請求項4に係る方法では、繊維製品の形態に応じて導電性粉末の粒径を選択し、また発熱シートの用途に応じて炭素粉末、金属粉末、金属酸化物粉末及び金属で被覆された無機粉末からなる群より導電性粉末を選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施の形態について説明する。
図1に示すように本発明の発熱シート10は、シート状の繊維製品11を基材シートとする。この繊維製品11を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に繊維製品全体にわたって導電性粉末が均一に付着された状態で一対の電極12,12が取付けられる。
【0014】
繊維製品の素材には、木綿、羊毛、亜麻、ラミー、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維、アセテート、プロミックス等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリ塩化ビニル、ビニロン等の合成繊維が用いられ、フィラメントの状態又はステープルの状態をそのまま或いは紡績糸にして用いられる。繊維素材は1種類の繊維素材だけでなく、2種類以上の繊維素材を混合して用いてもよい。本発明では、導電性粉末が固着し易くかつ荷電させにくい観点から天然繊維が好ましく、特に木綿が好ましい。
【0015】
繊維製品の形態には、上記繊維素材を用いた織物、編物又は不織布が挙げられる。織物の組織には、平織り、綾織り、朱織り、これらの変形組織の他に、ドビー織り、ジャカード織りなどの多重織りを含む。編物には、シングル編、ダブル編、パール編の横編組織を含み、不織布には、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、エアレイ法等の方法を単独又は組合せて作られた不織布を含む。
【0016】
上記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間には、導電性粉末が付着する。本発明の導電性粉末は、平均粒径が0.1〜20μmの炭素粉末、金属粉末、導電性金属酸化物粉末及び金属で被覆された無機粉末からなる群より選ばれた1種又は2種以上の粉末が好ましい。導電性粉末の平均粒径を上記範囲にしたのは、下限値未満の粉末は製造が困難で取扱いにくく、また上限値を超える粉末は繊維同士の間に導入することが困難で繊維に付着しにくいためである。好ましい平均粒径は1〜10μmである。炭素粉末としては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック系の粉末、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等のカーボンファイバを粉砕した粉末、天然グラファイト、人工グラファイト等のグラファイト系の粉末が例示される。また金属粉末としては、Ni、Au、Ag、Cu、Fe等の粉末が例示される。また導電性金属酸化物粉末としては、ZnO、SnO2等が例示され、更に金属が被覆された無機粉末としては、雲母、アルミナ、ガラス等の無機粉末にAg、Ni等の金属をコーティング又はめっきした粉末が例示される。
【0017】
導電性粉末を繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に付着する方法について説明する。
先ず、水100重量%に対して導電性粉末1〜50重量%、好ましくは10〜40重量%を分散させて導電性粉末分散液を調製する。導電性粉末の含有量は所望の体積電気抵抗率を得るために決められる一方、繊維製品の形態又は組織に依存して決められる。所望の体積電気抵抗率は50〜300Ω・cmであり、発熱シートの用途によりこの範囲から決められる。粗い組織の場合には含有量を多くし、緻密な組織の場合には含有量を少なくする。導電性粉末が下限値未満では所望の体積電気抵抗率が得られず、上限値を超えると導電性粉末が繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間以外に付着するため、発熱シートに仕上げた後に繊維製品から導電性粉末が落下しやすくなる。水に直接導電性粉末を分散させずに、導電性粉末を予め分散剤、沈殿防止剤、増粘剤とともに水に混合してインクの形態にしておき、水にこのインクを添加混合して導電性粉末分散液を調製してもよい。
【0018】
また導電性粉末の繊維製品への固着力を増加させるために、分散液に水溶性バインダ又は水系バインダを含有させることが好ましい。バインダの含有量は水に対して5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%添加混合する。例えば、バインダは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ケラチン、キトサン、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂エマルション、アクリル系樹脂エマルション、グリオキザール系樹脂エマルション、エポキシ系樹脂エマルション、酢酸ビニル系樹脂エマルション、シリコーンアクリルポリマーエマルション、変性エチレン酢酸ビニル共重合体系エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション、ポリエステル系樹脂エマルション、ウレタン系樹脂エマルション及び水溶性ウレタンから選ばれた1種又は2種以上の物質である。
【0019】
これらのバインダは、発熱シートが発熱して一定の温度を超えると、バインダ自体が熱膨張して導電性粉末同士の間隙を広げ、発熱シートの体積電気抵抗率を上昇させる自己温度制御機能を有する。この自己温度制御機能により発熱シートは発熱限界を有し、過剰電力量に伴う過熱を防止することができる。
【0020】
導電性粉末分散液を調製するに際しては、バインダ以外に導電性粉末の表面改質剤、導電性粉末の分散剤又は沈殿防止剤、液の増粘剤、pH調整剤を添加してもよい。これらを添加することにより、表面改質剤の場合、導電性粉末が繊維製品に付着し易くなり、導電性粉末の付着量をより多くでき、分散剤又は沈殿防止剤の場合、分散液を高濃度に調製して1回のニップによる導電性粉末の付着量を増大することができ、増粘剤の場合、分散液の繊維製品への付着量を増大して結果的に導電性粉末の付着量を増大することができる。これらを液中に均一に分散させるために、ミキサーを用いて強制攪拌することが好ましい。
【0021】
図3に繊維製品の導電性粉末分散液の浸漬から乾燥までの第1の実施の形態を示す。先ず浸漬槽13に上記導電性粉末分散液14を貯えておく。次いで拡幅状態でロール状に巻かれた織物、編物又は不織布により作られたシート状の繊維製品11を解きながらガイドロール16及び17を介して浸漬槽13内に導入して、繊維製品11を導電性粉末分散液14に浸漬する。導電性粉末分散液14に浸漬した繊維製品11を拡幅状態で一対のニップロール18,19により脱液する。脱液した繊維製品11は、拡幅状態でシリンダ乾燥機20により乾燥する。シリンダ乾燥機20は複数のシリンダ20aを有し、脱液した繊維製品11の表面と裏面は複数のシリンダ20aに交互に接触し、繊維製品11を所定の水分率にするとともに、繊維製品11の表面及び裏面に付着した導電性粉末を繊維同士の間及び/又は糸同士の間に導入し付着させる。そのため乾燥後の繊維製品の両面には余剰の導電性粉末の付着はなく、両面は平滑化する。乾燥した後、繊維製品は図示するように巻き取ってもよいし、図示しないが折りたたんでもよい。
【0022】
繊維製品を拡幅状態で浸漬することにより、繊維製品全体に均一に導電性粉末分散液を浸透させることができ、また拡幅状態で一対のニップロールで脱液することにより、過剰の液を絞り取るとともに一対のニップロールのニップ圧によって分散液中の導電性粉末を繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に繊維製品全体にわたって均一に導入することができる。一対のニップロールによるニップ圧は、繊維製品の種類、導電性粉末の導電度、発熱シートの用途に応じて変化するが、0.9〜10MPaの範囲が好ましい。下限値未満では、導電性分散液の脱液効果及びこの分散液の繊維製品中への浸透効果がそれぞれ乏しく、上限値を超えても脱液効果がそれ程向上しないためである。好ましいニップ圧は1.5〜5MPaである。繊維同士の間及び/又は糸同士の間に導入した導電性粉末が付着する。バインダを添加した場合には導電性粉末が固着される。
【0023】
図4は第2の実施の形態を示す。図4において図3と同一符号は同一構成要素を示す。第1の実施の形態でシリンダ乾燥機20により乾燥した繊維製品11を巻き取らずに、ガイドロール21を介して冷却ロール22に表面接触させて冷却した後、ガイドロール23及び24を介して別の浸漬槽26内に導入して、繊維製品11を浸漬槽26に貯えられた導電性粉末分散液27に浸漬する。以下、第1の実施の形態と同様に、一対のニップロール28,29により脱液し、脱液した繊維製品11は、拡幅状態で別のシリンダ乾燥機30の複数のシリンダ30aにより乾燥する。この実施の形態では、第1の実施の形態の工程で繊維製品に対して導電性粉末が均一に付着しなかった部分を解消して、より均一に導電性粉末を付着させ、かつその付着量を増大させることができる。
【0024】
図5は第3の実施の形態を示す。図5において図4と同一符号は同一構成要素を示す。第3の実施の形態では、1台のシリンダ乾燥機20の前に2つの浸漬槽13及び26を設けておき、浸漬槽13及び26の後にそれぞれ一対のニップロール18,19及び28,29を設けておく。この装置では、繊維製品11を解きながらガイドロール16及び17を介して浸漬槽13内に導入して、繊維製品11を導電性粉末分散液14に浸漬する。導電性粉末分散液14に浸漬した繊維製品11を拡幅状態で一対のニップロール18,19により脱液する。脱液した繊維製品11をガイドロール23を介して導電性粉末分散液27に浸漬し、導電性粉末分散液27に浸漬した繊維製品11を拡幅状態で一対のニップロール28,29により脱液した後、拡幅状態でシリンダ乾燥機20により乾燥する。この実施の形態では、2回のニップロールによる脱液を行うことによって、導電性粉末を繊維同士の間及び/又は糸同士の間により一層確実に浸透させることができる。
【0025】
図6は第4の実施の形態を示す。図6において図3と同一符号は同一構成要素を示す。第6の実施の形態では、1台のシリンダ乾燥機20の前に1つの浸漬槽13を設けておき、浸漬槽13の後に一対のニップロール18,19を設けておく。この装置では、浸漬槽13の中に別の一対のニップロール31,32を設けておく。繊維製品11を解きながらガイドロール16及び17を介して浸漬槽13内に導入して、繊維製品11を導電性粉末分散液14に浸漬し、続いて分散液14の中で一対のニップロール31,32により脱液する。続いて浸漬槽13を通した繊維製品11をガイドロール33を介して拡幅状態で一対のニップロール18,19により脱液した後、拡幅状態でシリンダ乾燥機20により乾燥する。この実施の形態では、分散液の流動性を利用して、導電性粉末を繊維同士の間及び/又は糸同士の間により一層確実に浸透させることができる。
【0026】
第1ないし第4の実施の形態は、それぞれ単独で行ってもよいし、組合せて行ってもよい。組合せることにより導電性粉末をより均一に付着させ、かつより付着量を増大させることができる。また、上記浸漬工程、脱液工程及び乾燥工程は、図3〜図6に示すように連続して行うことが好ましい。
【0027】
繊維製品に一対の電極を設けるには3つの方法がある。第一の方法では、図1及び図2に示すように乾燥した繊維製品11を所定の寸法に切断した後、切断した繊維製品11の両端に一対の電極12,12を設ける。第二の方法では図示しないが、導電性粉末分散液に浸漬する前に長尺の繊維製品の幅方向両端にそれぞれ電極を設けておき、繊維製品を所定の長さに切断することにより、繊維製品の幅方向両端に一対の電極を得る。第三の方法では図示しないが、導電性粉末分散液に浸漬する前に長尺の繊維製品の幅方向等間隔に3列以上の電極を設けておき、繊維製品を所定の長さに切断した後、電極が繊維製品の幅方向の両側になるように繊維製品を帯状に複数切断する。第一の方法は、発熱シートを設置するサイズに応じて繊維製品をカットしてから電極を設けることができより汎用的である。また第二及び第三の方法は、生産効率が高く、発熱シートの発熱特性を安定して再現することができる。
【0028】
図1の発熱シート10では、繊維製品を切断した後、繊維製品の両端にニクロム線等の金属線を帯状に縫い付けて、一対の帯状の金属線を一対の電極12,12にする。電極12,12の端部には電極板36,36が電気的に接続される。図2の発熱シート40では、繊維製品を切断した後、繊維製品の両端にアルミニウム箔等の金属フィルムを接着させて、一対の帯状の金属フィルムを一対の電極42,42にする。電極42,42の端部には電極板36,36が電気的に接続される。また図示しないが、繊維製品を切断した後、繊維製品の両端に金属を分散した高濃度のインクを帯状に塗布し、一対の帯状の塗布層を一対の電極にする。一方の電極板36から他方の電極板36に電流を流すことにより発熱シート10,40が発熱する。
【実施例】
【0029】
次に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
<実施例1>
水100重量部に対して、導電性粉末である平均粒径5μmの天然グラファイト粉末10重量部と、バインダである水性ウレタン10重量部を添加して混合し、導電性粉末分散液を調製した。シート基材の繊維製品として密度146g/m2、幅50cm、長さ10mの朱子織りの綿織物を用いた。図3に示す処理装置により、この繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬し、脱液した後、シリンダ乾燥により乾燥した。
【0030】
<実施例2>
実施例1と同じ導電性粉末分散液と繊維製品を用いて、図4に示す処理装置により、この繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬し、脱液した後、シリンダ乾燥により乾燥した。
<実施例3>
実施例1と同じ導電性粉末分散液と繊維製品を用いて、図5に示す処理装置により、この繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬し、脱液した後、シリンダ乾燥により乾燥した。
<実施例4>
実施例1と同じ導電性粉末分散液と繊維製品を用いて、図6に示す処理装置により、この繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬し、脱液した後、シリンダ乾燥により乾燥した。
【0031】
<比較例1>
実施例1と同じ繊維製品を用いて、実施例1と同じ導電性粉末分散液をロールスクリーンプリント法により、繊維製品の両面に付着させ、シリンダ乾燥機により乾燥した。
<比較例2>
シリンダ乾燥機の代わりに、熱風式コンベアライン乾燥機を用いて乾燥した以外は、実施例1と同じ導電性粉末分散液と繊維製品を用いてしかも実施例1と同じ方法で導電性粉末を繊維製品の両面に付着させた。
【0032】
<比較評価>
実施例1〜4及び比較例1〜2の処理後の各繊維製品から図1の破線に示すように左部分Lと右部分Rを切り取ってサンプルとした。これらのサンプルの導電性粉末の付着率、体積電気抵抗率及び導電性粉末の内部付着状態を調べた。また部分LとRを切り取る前の処理後の繊維製品の表面発熱温度を測定した。これらの結果を表1に示す。なお、導電性粉末の付着率は次の式(1)により求めた。W0は処理前の繊維製品重量であり、W1は処理後の繊維製品重量である。
付着率 ={(W1 − W0)/W0}×100(%) ……… (1)
体積電気抵抗率は、テスターでサンプル2cm間を測定した。また導電性粉末の内部付着状態は、サンプルの断面を目視で観察し、導電性粉末が内部まで浸透しているものは「良好」、浸透していないものは「不良」とした。更に発熱シートの表面発熱温度は、処理後の繊維製品の幅方向両端に1cm幅のアルミニウム箔を貼り付けて電極を設けて発熱シートを作製し、放射線温度計を用いて、電極に200Vの電圧を印加したときから5分後の発熱シートの表面温度を測定した。電圧を印加する前の表面温度は18℃であった。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、サンプルにおける導電性粉末の付着率は、2つの浸漬槽と2台のシリンダ乾燥機を用いた実施例2が最も高く、次いで2つの浸漬槽と1台のシリンダ乾燥機を用いた実施例3が高く、ニップロール付きの1つの浸漬槽と1台のシリンダ乾燥機を用いた実施例4が高かった。比較例1,2の付着率は実施例1〜4の付着率より低かった。
またサンプルの体積電気抵抗率は、上記付着率に相応して、実施例2が最も低く、次いで実施例3,実施例4及び実施例1の順に高かった。比較例1,2の体積電気抵抗率は、それぞれ導電性粉末の付着率が小さいため、実施例1〜4より高い値を示した。また発熱シートの表面発熱温度は、実施例2が最も高く、実施例3及び4はそれより低い値を示し、実施例4は更に若干低い値を示した。比較例1,2は実施例1〜4より低い値を示した。更にサンプルにおける導電性粉末の内部付着状態は実施例1〜4が良好であったのに対して、比較例1,2は不良であった。このことから発熱シートの使用回数が増大しても実施例1〜4の発熱シートは、比較例1,2と比べて、付着率、体積電気抵抗率及び発熱温度が不変であることが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明実施形態の発熱シートの斜視図である。
【図2】本発明別の実施形態の発熱シートの斜視図である。
【図3】本発明第1実施形態の発熱シート製造装置の構成図である。
【図4】本発明第2実施形態の発熱シート製造装置の構成図である。
【図5】本発明第3実施形態の発熱シート製造装置の構成図である。
【図6】本発明第4実施形態の発熱シート製造装置の構成図である。
【符号の説明】
【0036】
10,40 発熱シート
11 繊維製品
12 電極
14,27 導電性粉末分散液
18,19、28,29 一対のニップロール
20,30 シリンダ乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に導電性粉末1〜50重量%を均一に分散させて導電性粉末分散液を調製する工程と、織物、編物又は不織布により作られたシート状の繊維製品を前記導電性粉末分散液に浸漬する工程と、前記分散液に浸漬した繊維製品を拡幅状態で一対のニップロールにより脱液して前記分散液中の導電性粉末を前記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に浸透させる工程と、前記脱液した繊維製品を拡幅状態でシリンダ乾燥機により乾燥して前記繊維製品を構成する繊維同士の間及び/又は糸同士の間に前記繊維製品全体にわたって前記導電性粉末を均一に付着させる工程とを含み、
前記導電性粉末分散液に浸漬する前の繊維製品、又は前記乾燥した後の繊維製品に一対の電極を設ける工程とを有する発熱シートの製造方法。
【請求項2】
前記繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬する工程と、前記分散液に浸漬した繊維製品を一対のニップロールで脱液する工程とがこの順で2回以上行われる請求項1記載の発熱シートの製造方法。
【請求項3】
繊維製品を導電性粉末分散液に浸漬する工程と、前記分散液に浸漬した繊維製品を一対のニップロールで脱液する工程と、前記脱液した繊維製品を乾燥する工程とがこの順で2回以上行われる請求項1記載の発熱シートの製造方法。
【請求項4】
導電性粉末の平均粒径が0.1〜20μmであって、前記導電性粉末が炭素粉末、金属粉末、金属酸化物粉末及び金属で被覆された無機粉末からなる群より選ばれた1種又は2種以上の粉末である請求項1記載の発熱シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の方法により製造された発熱シート。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−127779(P2006−127779A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310609(P2004−310609)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(391058598)艶金興業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】