説明

発熱スリーブ、定着装置および画像形成装置

【課題】発熱量の自己調節能力が高く、且つ、十分な強度を有する発熱スリーブを提供する。
【解決手段】金属からなる主発熱層31と、パーマロイからなる発熱制御層30とを有する発熱スリーブ19において、発熱制御層30は、焼鈍処理されたパーマロイからなり、主発熱層31は、発熱制御層30の表面にメッキによって積層した焼鈍処理されていない金属からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱スリーブ、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の定着装置として、熱容量が小さい発熱スリーブ(ベルト)を誘導加熱によって短時間に昇温可能とし、待機時の予熱を不要としたエネルギー消費の少ない定着装置が公知である。
【0003】
特許文献1には、銅からなる主発熱層(誘導発熱層)と整磁合金からなる発熱制御層とで構成された発熱層を有する発熱スリーブであって、整磁合金がキュリー温度以下であるときは、強磁性体である整磁合金の発熱制御層が磁束を捕捉し、表皮効果によって主発熱層中に誘導電流(渦電流)を集中させて主に主発熱層を発熱させ、整磁合金がキュリー温度以上であるときは、常磁性体となった整磁合金の発熱制御層が磁束を通過させ、発熱スリーブの内側に配置した磁束抑制層に磁束を誘導することで、発熱層の発熱量を低下させる発熱スリーブが記載されている。このように、発熱ベルトの発熱量を自己調節可能とすることで、通紙範囲が狭い場合に発熱ベルトの通紙範囲外の部分が過熱することを防止できる。
【0004】
定着温度に近いキュリー温度を有し、透磁率の変化が大きい整磁合金として、パーマロイ(Fe−Ni)が広く利用されている。しかしながら、パーマロイは強度が大きくないため、パーマロイを用いて発熱スリーブを形成すると、発熱スリーブが破損しやすくなるという問題がある。特に、パーマロイは、好ましい磁性を得るには焼鈍処理が欠かせないが、発熱スリーブに焼鈍処理を施すと、パーマロイの強度が低下するだけでなく、誘導発熱層を構成する銅の強度も低下してしまい、定着装置用発熱スリーブとして必要な強度を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−279672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点に鑑みて、本発明は、発熱量の自己調節能力が高く、且つ、十分な強度を有する発熱スリーブ、並びに、発熱スリーブが部分的に過熱しない定着装置および画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明による発熱スリーブは、金属からなる主発熱層と、パーマロイからなる発熱制御層とを有し、前記発熱制御層は、焼鈍処理されたパーマロイからなり、前記主発熱層は、前記発熱制御層の表面にメッキによって積層した焼鈍処理されていない金属からなるものとする。
【0008】
この構成によれば、発熱制御層を焼鈍処理したパーマロイで形成することによって最適な磁気特性を与え、主発熱層を焼鈍処理しないメッキ層として形成することによって、強度を補うことができる。
【0009】
また、本発明の発熱スリーブにおいて、前記発熱制御層は、パーマロイを塑性加工して有底筒状に成形し、底部を切除してなってもよく、電解メッキによりパーマロイの層を筒状に成形してなってもよい。
【0010】
この構成によれば、従来の加工方法によって発熱スリーブを製造できる。
【0011】
また、本発明の発熱スリーブにおいて、前記主発熱層は、ニッケルを含んでもよい。
【0012】
ニッケルまたはニッケル合金は、良好な磁性と導電性とを備えながら、メッキによって層状に形成したときに十分な強度を発揮する。
【0013】
また、本発明による定着装置は、前記発熱スリーブのいずれかと、前記発熱スリーブに外側に、交番磁界を印加する励磁コイルと、前記発熱スリーブを内側と外側とから挟み込んでニップを形成する1対のローラとを有するものとする。
【0014】
この構成によれば、発熱ベルトが、部分的過熱がないように発熱量を自己調節でき、且つ、ニップを形成するための変形に耐え得る十分な強度を有する。このため、定着装置の定着能力が高く、故障が少ない。
【0015】
また、本発明の定着装置は、前記発熱スリーブの内側に、断熱層を介して前記励磁コイルに対向する磁束抑制層を備える補助部材をさらに有してもよい。
【0016】
この構成によれば、補助部材に磁界を捕捉させることで、主発熱層の発熱量を十分に低下させられる。
【0017】
また、本発明による画像形成装置は、前記定着装置のいずれかを備えるものとする。
【0018】
この構成によれば、発熱スリーブの発熱量自己調節機能によって画像の定着が安定し、発熱スリーブの十分な強度によって発熱スリーブ破断によるダウンタイムが短い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発熱スリーブに、焼鈍処理したパーマロイからなる発熱制御層によって好ましい磁気特性を与え、焼鈍処理しないメッキ層によって十分な強度を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の発熱スリーブを備える画像形成装置の構成図である。
【図2】図1の定着装置の断面図である。
【図3】図2の定着装置の部分拡大断面図である。
【図4】パーマロイのニッケル配合率とキュリー温度との関係を示すグラフである。
【図5】図2の加圧ローラの部分拡大断面図である。
【図6】材料と加工方法とによる硬さの違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の1つの実施形態である発熱スリーブを有する画像形成装置1を示す。
【0022】
本実施形態の面像形成装置1は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによってトナー画像を形成する4つの作像部2Y,2M,2C,2Kと、作像部2Y,2M,2C,2Kが形成したトナー画像を、無端ループ状の中間転写ベルト3に、静電気力によって1次転写する1次転写ローラ4と、中間転写ベルト3に転写されたトナー画像を、さらに、静電気力によって記録紙に2次転写する2次転写ローラ5と、トナー画像が転写された記録紙を加熱および加圧してトナーを溶融し、トナー画像を記録紙に定着させる定着装置6とを有する、いわゆるタンデム方式のカラープリンタである。
【0023】
画像形成装置1は、中間転写ベルト3上のトナー画像の濃度を検出する画像濃度センサ7を有し、画像濃度センサ7は、レジストセンサとしての機能も果たす。中間転写ベルト3は、駆動ローラ8と自由ローラ9との間に掛け渡されている。
【0024】
各色の作像部2Y,2M,2C,2Kは、それぞれ、感光体10と、感光体10を帯電させる帯電器11と、帯電した感光体10を選択的に露光して静電潜像を形成する露光器12と、静電潜像にトナーを供給して現像する現像器13と、中間転写ベルト3に転写できずに残留するトナーを掻き落とすクリーナ14とを有する。
【0025】
また、画像形成装置1は、記録紙をする給紙トレイ15を有し、給紙トレイ15から給紙ローラ16によって1枚ずつ記録紙が取り出され、中間転写ベルト3と2次転写ローラ5とのニップに供給される。定着装置6によってトナー画像が定着された記録紙は、排紙ローラ17によって、排紙トレイ18上に排出される。
【0026】
図2に、定着装置6の構成を詳しく示す。定着装置6は、本発明に係る筒状の発熱スリーブ19と、発熱スリーブ19の内側に配置された定着ローラ20と、定着ローラ20に対向して発熱スリーブ19を挟み込み、記録紙Pを挟み込む幅のあるニップを形成する加圧ローラ21と、加圧ローラ21の反対側で、発熱スリーブ19に対向して配置され、発熱スリーブ19に交番磁界を印加する励磁コイル22と、発熱スリーブ19の内側に、励磁コイル22に対向するように配設された補助部材23とを有する。
【0027】
励磁コイル22は、ボビン24に巻線を巻回して形成されている。また、励磁コイル22の周囲で、発熱スリーブ19が位置しない三方には、励磁コイル22が形成した磁束を案内するためのコア25,26,27が配置されている。また、定着装置6は、発熱スリーブ19から記録紙Pを分離するための分離爪28、および、発熱スリーブ19の温度を検出する温度センサ29を有する。温度センサ29は、発熱スリーブ19の、記録紙Pのサイズに拘わらず記録紙Pと当接して熱が奪われる部分の温度を検出するように配設される。
【0028】
励磁コイル22には、不図示の高周波インバータから20〜40kHz、100〜2000Wの高周波電力が、温度センサ29の検出温度に応じて出力調節して供給される。この高周波電力の周波数を20kHz未満とすると、発熱効率が大きく低下してしまう。また、周波数を40kHzより大きくすると、連続通紙時に電力供給が不足気味となり、発熱スリーブ19の温度が十分に上昇せず、定着不良が発生するおそれがあるので好ましくない。
【0029】
図3に、発熱スリーブ19、補助部材23および定着ローラ20の構成を示す。発熱スリーブ19は、内側から順に、発熱制御層30、主発熱層31、弾性層32、離型層33が積層されてなる。補助部材23は、内側から順に、磁束抑制層34、保護層35の2つの層を有する。定着ローラ20は、芯金36の外周に、断熱層37を有する。
【0030】
発熱スリーブ19は、発熱制御層30を形成し、その上に、主発熱層31を形成し、主発熱層31の上に、さらに、弾性層32を積層し、最後に、弾性層32の上に離型層33を形成してなる。
【0031】
発熱制御層30は、先ず、パーマロイの板をドローイング加工によって、側壁の板厚が20〜200μm、好ましくは、30から70μm有底筒状に成形し、底部を切除することで、無端の発熱スリーブ状に形成する。他にも、深絞り、スピニング等の塑性加工が適用できる。また、円筒表面に、電解メッキによってパーマロイの層を形成することで無端発熱スリーブ状に成形してもよい。
【0032】
パーマロイは、定着装置6の定着温度が170〜190℃であれば、キュリー温度が150度から220℃、好ましくは、180〜200℃であり、且つ、キュリー温度以下の低温時の体積抵抗率が2×10−8〜200×10−8Ωm、好ましくは、5×10−8〜100×10−8Ωmになるような組成を選択する。パーマロイをスリーブ状に成形したなら、焼鈍処理を施して、常温(キュリー温度以下)で、比透磁率が50〜2000、好ましくは、100〜1000となるようにする。
【0033】
鉄にニッケルを配合すると、その配合率に応じて、図4に示すように、キュリー温度が変化する。つまり、ニッケルの配合率によって、パーマロイのキュリー温度が設定できる。また。パーマロイのキュリー温度は、クロム、コバルト、モリブデン等の配合によっても調節できる。なお、図4のデータは、パーマロイを電解めっきにより板状に形成したものに800℃で1時間の焼鈍処理を行った検体について、岩通計測製B−Hアナライザを用いてキュリー温度(Tc)の測定を行ったものである。
【0034】
このように、パーマロイを発熱スリーブ状に加工してから焼鈍処理して形成した発熱制御層30の外周に、金属メッキによって主発熱層31を形成する。主発熱層31は、導電性の良好な、特に、発熱制御層30がキュリー温度以上となったとき、体積抵抗率が、1×10−8〜100×10−8Ωm、好ましくは、10×10−8〜50×10−8Ωmとなるような、比透磁率が20〜2000の磁性金属材料、好ましくは、ニッケルまたはニッケル合金を用いて形成するとよい。このような材質からなる主発熱層31は、厚さ5〜80μmに形成することが好ましい。
【0035】
発熱制御層30がキュリー温度以下である場合、励磁コイル22が形成した磁束は、透磁率の高い発熱制御層30および主発熱層31に補足され、発熱制御層30および主発熱層31の内部に渦電流を励起する。渦電流は表皮効果によって、表面の主発熱層31に集中して流れ、主に主発熱層31においてジュール熱を発生させる。
【0036】
磁性材料で形成した主発熱層31では、表皮効果が大きく、主発熱層31の厚さに拘わらず渦電流の流れる範囲が限定されるので、電流密度が大きく発熱量も大きい。しかしながら、非磁性材の場合は、表皮効果が小さく、主発熱層31全体に渦電流が流れるため、発熱量が小さくなりやすい。このため、主発熱層31に非磁性材を用いる場合は、主発熱層31全体に渦電流が分散して流れたとしても、電流密度が大きくなって、十分な発熱量を得ることができるように、主発熱層31を非常に薄いものとすればよい。つまり、主発熱層31は、厚さを5〜20μm程度に薄くすることで、銅や銀等の非磁性の低抵抗の金属材料を用いて形成することができる。
【0037】
また、発熱制御層30がキュリー温度以上である場合、透磁率が低くなった発熱制御層30は、励磁コイル22が形成した磁束を十分に補足することができず、発熱スリーブ19の内部に磁束を通過させる。これにより、主発熱層31に流れる渦電流が小さくなり、主発熱層31の発熱量が、発熱制御層30がキュリー温度以下であるときよりも少なくなる。
【0038】
このように、発熱スリーブ19は、発熱制御層30がキュリー温度に達した部分の発熱量が自己抑制されるので、記録紙Pが通紙されて熱を奪われる部分の温度を所定の定着温度に維持するように、励磁コイル22に印加する電力を制御したとしても、記録紙Pに熱を奪われない部分が、定着に不都合が生じる温度まで過昇温することがない。
【0039】
また、主発熱層31を銅等で形成した場合、主発熱層31の酸化を防止するために、主発熱層31と弾性層32の間に酸化防止層を設けることが望ましい。主発熱層31を銅で形成した場合は、酸化皮膜の成長が激しい上、酸化皮膜自体の強度が非常に弱く、酸化皮膜が剥離して弾性層32の剥離を生じさせる危険性が高いため、酸化防止層によって、外気(空気)の主発熱層31への接触を防ぐことで、主発熱層31と後述の弾性層32との接着を長期間に渡って良好に維持可能とする必要があるからである。
【0040】
この酸化防止層の材料としては、通気性が皆無である金属材料が望ましく、発熱性能への影響を少なくするために、なるべく非磁性かつ低抵抗の材料で薄く形成するとことが望ましい。特にニッケル、クロム、銀は薄肉形成可能で発熱性能への影響が小さく、弾性層との接着性も良好なため、酸化防止層に適している。酸化防止層の厚みとしては0.5〜40μmの範囲内であることが望ましい。厚さが0.5μm未満ではピンホールによってシール性が悪化し、厚さが40μmを超えると発熱性能に影響し、特に過昇温の防止効果に悪影響を与えるからである。
【0041】
また、酸化防止層の材料としてポリイミド樹脂等を用いることもできる。ポリイミド樹脂は絶縁体であるため発熱性能への影響は皆無である。しかし、金属材料に比べて若干の通気性を有するため、酸化防止層の厚みは、3〜70μmとすることが望ましい。厚さが3μm未満であると、シール性が不十分となるので酸化皮膜が成長し、厚みが70μmを超えると、主発熱層31で発生した熱を定着ローラ20の外周面まで到達させることが難しく、熱効率が悪くなるからである。
【0042】
また、発熱スリーブ19は、金属メッキによって主発熱層31を形成し、必要に応じて酸化防止層を形成した後、主発熱層31を覆うように、弾性層32が形成される。弾性層32は、トナー像に均一かつ柔軟に熱を伝えるためのものである。この弾性層32が適度な弾性を有することにより、トナー像が押しつぶされたり不均一な溶融となることによる画像ノイズの発生を防止できる。
【0043】
このため、弾性層32は、耐熱性と弾性とを有するゴム材や樹脂材、例えば、定着温度での使用に耐えられるシリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性エラストマーを用いて形成する。また、それらの材料に、熱伝導性や補強等を目的とした各種の充填材を添加してもよい。熱伝導性の向上のために添加される粒子の例としては、ダイヤモンド、銀、銅、アルミニウム、大理石、ガラス等、特に実用的なものとして、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、酸化ベリリウム等が上げられる。
【0044】
弾性層32の厚さは、10〜800μm、好ましくは、100〜300μmとする。弾性層32は、厚さが10μm未満では厚さ方向の十分な弾力性を得ることが難しく、厚さが800μmを超えると主発熱層31で発生した熱を定着ローラ20の外周面まで到達させることが難しなるからである。
【0045】
弾性層32の硬度は、JIS硬度で1〜80度、好ましくは、5〜30度とする。この範囲内の硬度であれば、弾性層32の強度の低下や密着性の低下を防止しつつ、安定した定着性を確保できるからである。この条件を満たす樹脂として、1成分系、2成分系、または3成分系以上のシリコーンゴム、LTV(LowTemperatureVulcanizable:低温加硫)型、RTV(RoomTemperatureVulcanizabie:常温加硫〉型、またはHTV(HighTemperatureVulcanizable:高温加硫)型のシリコーンゴム、縮合型または付加型のシリコーンゴム等が使用できる。
【0046】
さらに、発熱スリーブ19は、弾性層32の上に、離型層33を形成してなる。離型層33は、発熱スリーブ19の最外層をなし、発熱スリーブ19と記録紙Pとの離型性を高めるためのものである。この離型層33としては、定着温度での使用に耐えられるとともにトナーに対する離型性に優れたものを使用する。例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム、あるいはPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PTFE(四フッ化エチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化エチレン共重合体)、PFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂が好ましく、これらを混合したものでもよい。
【0047】
離型層33の厚さは、5〜100μm、好ましくは、10〜50μmの範囲内のものとする。また、この離型層33と弾性層32との接着力を向上させるために、プライマー等による接着処理を行ってもよい。また、離型層33の中に必要に応じて、導電材、耐摩耗材、良熱伝導材等をフィラーとして添加してもよい。
【0048】
補助部材23の磁束抑制層34は、体積抵抗率が1×10−8〜10×10−8Ωm、好ましくは、1×10−8〜2×10−8Ωmの低抵抗で、且つ、比透磁率が0.99〜2.0、好ましくは0.99〜1.1の非磁性材料、例えば、板厚0.2〜2mm程度の銅からなる。
【0049】
発熱制御層30がキュリー温度以上となったときに、励磁コイル22が発生する磁束は、磁束抑制層34を通過する。磁束抑制層34は、電気抵抗率が低いため、大きな渦電流が流れ、この渦電流は、励磁コイル22が発生した磁束を打ち消すような磁界を形成し、主発熱層30に印加される磁束密度を低下させて、主発熱層30の発熱量をさらに低下させる。
【0050】
このような作用を発揮するために、磁束抑制層34は、発熱制御層30がキュリー温度以上となったときに、発熱制御層30よりも低抵抗であることが重要である。また、磁束抑制層34は、上記体積抵抗率および比透磁率の条件を満たすものであれば、SUSやアルミ等の他の材料で形成してもよい。
【0051】
補助部材23の保護層35は磁束抑制層34を摩擦磨耗から保護するために設けられた層である。したがって、PFAやPTFEを含有する低摩擦材料で形成することが望ましく、厚さは10〜50μm程度とするとよい。
【0052】
定着ローラ20の芯金36は、発熱スリーブ19を支持するために十分な強度と耐熱性とを有する金属等で形成される。これにより、芯金36の熱容量が大きくなるので、定着ローラ20は、発熱スリーブ19から芯金36に熱を逃がさないようにするために、芯金36の外側に断熱層37が形成されている。
【0053】
したがって、断熱層37は、熱伝導率が低く、耐熱性を有するゴム材や樹脂材の発泡体で形成することが好ましい。また、断熱層37を弾性のある材料で形成することで、発熱スリーブ19のたわみを許容し、ニップ幅を大きく保つことができる。また、断熱層37として、ソリッド体と発泡体との2層構造のものを使用してもよい。
【0054】
例えば、断熱層37として、シリコンスポンジ材を用いる場合は、厚さ1〜10mm、好ましくは、2〜7mmに形成するとよい。また、この断熱層37の硬度は、アスカーC硬度で20〜60度、好ましくは、30〜50度の範囲内とする。
【0055】
図5に、加圧ローラ21の構造を示す。加圧ローラ21は、芯金38の上に断熱層39が形成され、さらに断熱層39の表面に離型層40が形成されている。芯金38は、例えば、壁厚3mmのアルミ製パイプからなり、強度が確保できれば、PPSのような耐熱性の材質によるモールドのパイプを用いてもよい。芯金38として鉄パイプを使用することも不可能ではないが、電磁誘導による影響を受けにくい非磁性のものがより好ましい。
【0056】
加圧ローラ21の断熱層39は、例えば厚さ3〜10mmの範囲内のシリコーンゴム発泡体からなる層であるが、シリコーンゴムのソリッドとシリコーンゴム発泡体との2層構造としてもよい。
【0057】
加圧ローラ21の最外周の離型層40は、定着ローラ20の離型層33と同様に、記録紙Pに対する加圧ローラ21の離型性を向上させるためのものである。この離型層40は、厚さ10〜50μmのPTFEまたはPFA等のフッ素系樹脂で形成すればよい。
【0058】
なお、本実施形態では、加圧ローラ21は、定着ローラ20に対して300〜500Nの荷重で圧接されており、発熱スリーブ19と加圧ローラ21とが圧接されるニップ幅は約5〜15mmとなっている。本実施形態とは異なるニップ幅で使用したい場合には、加圧ローラ21の圧接荷重を変更して調整すればよい。
【0059】
このように、定着装置6では、定着ローラ20と加圧ローラ21とで発熱スリーブ19を挟み込み、発熱スリーブ19と加圧ローラ21との間にニップが形成されている。定着処理時には、図2において、加圧ローラ21が時計回りに回転駆動される。これにより、発熱スリーブ19および定着ローラ20は、加圧ローラ21との摩擦力によって、図において反時計回りに従動回転される。なお、定着ローラ20を駆動して、発熱スリーブ19および加圧ローラ21を従動回転させてもよい。
【0060】
励磁コイル22は、発熱スリーブ19の長手方向に沿って巻回されたコイルである。その横断面は、図2に示すように、発熱スリーブ19の外周に倣ってやや湾曲した形状となっている。
【0061】
本実施形態では、励磁コイル22の巻き線として、細い素続を数十〜数百本束ねてリッツ線としたものを使用している。このような励磁コイル22は通電時に巻線抵抗によって自己発熱するので、その場合でも絶縁性を保てるように巻線に耐熱性の樹脂が被覆されたものを使用している。さらに、例えばファン等によって、励磁コイル22を空冷することが望ましい。なお、本実施形態の励磁コイル22は、その長手方向に一繋がりのものである。
【0062】
コア25,26,27は、磁気回路の効率を上げるため、および、磁束の外部へ漏れを防止するために配設されている。そのため、コア25,26,27は、高透磁率であり、且つ、渦電流の損失が低い材質で形成される。また、コア25,26,27の材料は、キュリー温度が140〜220℃、好ましくは160〜200℃のものを使用するとよい。
【0063】
コア25,26,27をパーマロイのような高透磁率の合金で形成すると、渦電流の損失が大きくなりがちである。このため、このような材質を使用する場合は薄板を積層した構造のコアとすることが望ましい。また、コア25,26,27として、樹脂材に磁性粉を分散させたものを用いることもできる。このような素材は、透磁率はやや低いが、形状を自由に設定できるという利点がある。なお、励磁コイル22による磁気回路と外部との間の磁気遮蔽が、他の手段によって達成できる場合には、コア25,26,27を省略したコアなし(空芯)にしてもよい。
【0064】
コア25は、その横断面が図2に示すようなアーチ形状のものである。本実施形態では、長さが約10mmのコア片を、定着ローラ20の軸方向に13個並べて配置したものとしている。コア26は、横断面が四角形状で長さが5〜10mmのコア片を、発熱スリーブ19の両脇に配置したものである。また、コア27は、横断面が四角形状のものを、励磁コイル22の内側で、発熱スリーブ19の長手方向寸法に略対応した範囲に、連続的に配置したものである。なお、コア25,26,27を、断面が略「E」宇型の一体に形成したものとすれば、さらに発熱劾率を高めることができる。
【0065】
図6に、パーマロイ(ニッケル含有率34%)、純ニッケル、銅の3種類の材料の加工方法による強度の変化を示す。なお、各材料について、電解メッキによって所定形状に成形した焼鈍処理を行っていないメッキ品、塑性加工によって所定形状に成形した焼鈍処理を行っていない塑性加工品、および、所定形状に成形した後800℃で1時間の焼鈍処理を施した焼鈍品との、同一形状の3つの検体を作成し、マイクロビッカース硬度計を用いて、ビッカース硬度(Hv)を測定した。
【0066】
いずれの材料であっても、メッキ品の強度が最も高く、焼鈍品の強度が最も低い。本発明によれば、発熱制御層30をパーマロイで形成し、焼鈍処理によって好ましい磁気特性を付与し、焼鈍処理の後に主発熱層31を金属メッキによって形成し、主発熱層31を焼鈍処理によって強度が低下していないものとすることで、焼鈍処理によって低下した発熱制御層30の強度を補う構成としている。
【0067】
これにより、発熱スリーブ19は、発熱制御層30によって高度な発熱量の自己制御機能を発揮しながら、高い強度を有する主発熱層31によって、ニップを形成するために変形を受けても容易に破損しないだけの十分な強度を備える。
【符号の説明】
【0068】
1…画像形成装置
6…定着装置
19…発熱スリーブ
20…定着ローラ
21…加圧ローラ
22…励磁コイル
23…補助部材
30…発熱制御層
31…主発熱層
32…弾性層
33…離型層
34…磁束抑制層
35…保護層
36…芯金
37…断熱層
38…芯金
39…断熱層
40…離型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる主発熱層と、
パーマロイからなる発熱制御層とを有し、
前記発熱制御層は、焼鈍処理されたパーマロイからなり、
前記主発熱層は、前記発熱制御層の表面にメッキによって積層した焼鈍処理されていない金属からなることを特徴とする発熱スリーブ。
【請求項2】
前記発熱制御層は、パーマロイを塑性加工して有底筒状に成形し、底部を切除してなることを特徴とする請求項1に記載の発熱スリーブ。
【請求項3】
前記発熱制御層は、電解メッキによりパーマロイの層を筒状に成形してなることを特徴とする請求項1に記載の発熱スリーブ。
【請求項4】
前記主発熱層は、ニッケルを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の発熱スリーブ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の発熱スリーブと、
前記発熱スリーブに外側に、交番磁界を印加する励磁コイルと、
前記発熱スリーブを内側と外側とから挟み込んでニップを形成する1対のローラとを有することを特徴とする定着装置。
【請求項6】
前記発熱スリーブの内側に、断熱層を介して前記励磁コイルに対向する磁束抑制層を備える補助部材をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−22385(P2011−22385A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167670(P2009−167670)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】