説明

発熱量算出式作成システム、発熱量算出式の作成方法、発熱量測定システム、及び発熱量の測定方法

【課題】ガスの発熱量を容易に測定可能な発熱量測定システムを提供する。
【解決手段】発熱量が未知の計測対象混合ガスのガス温度の値、及び発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの計測対象混合ガスの物性の値を計測する計測機構10と、ガス温度及び複数の発熱温度に対する物性を独立変数とし、発熱量を従属変数とする発熱量算出式を保存する式記憶装置402と、発熱量算出式のガス温度の独立変数及び複数の発熱温度に対する物性の独立変数に、計測対象混合ガスのガス温度の値及び複数の発熱温度に対する計測対象混合ガスの物性の値を代入し、計測対象混合ガスの発熱量の値を算出する発熱量算出モジュール305と、を備える、発熱量測定システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス検査技術に係り、発熱量算出式作成システム、発熱量算出式の作成方法、発熱量測定システム、及び発熱量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、混合ガスの発熱量を求める際には、高価なガスクロマトグラフィ装置等を用いて混合ガスの成分を分析する必要がある。また、混合ガスの熱伝導率及び混合ガスにおける音速を測定することにより、混合ガスに含まれるメタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び炭酸ガス(CO2)の成分比率を算出し、混合ガスの発熱量を求める方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−514138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された方法は、熱伝導率を測定するためのセンサの他に、音速を測定するための高価な音速センサが必要である。そこで、本発明は、ガスの発熱量を容易に測定可能な発熱量算出式作成システム、発熱量算出式の作成方法、発熱量測定システム、及び発熱量の測定方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様によれば、(a)複数種類のガス成分を含む複数の混合ガスのそれぞれを加熱する発熱素子と、(b)複数の混合ガスのそれぞれのガス温度の値、及び発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの複数の混合ガスのそれぞれの物性の値を計測する計測機構と、(c)複数の混合ガスのそれぞれの既知の発熱量の値、計測されたガス温度の値、及び複数の発熱温度に対して計測された物性の値に基づいて、ガス温度及び複数の発熱温度に対する物性を独立変数とし、発熱量を従属変数とする発熱量算出式を作成する式作成モジュールと、を備える、発熱量算出式作成システムが提供される。なお、物性とは、例えば放熱係数又は熱伝導率である。
【0006】
本発明の他の態様によれば、(a)複数種類のガス成分を含む複数の混合ガスを準備することと、(b)複数の混合ガスのそれぞれのガス温度の値を計測することと、(c)発熱素子を複数の発熱温度で発熱させたときの複数の混合ガスのそれぞれの物性の値を計測することと、(d)複数の混合ガスのそれぞれの既知の発熱量の値、計測されたガス温度の値、及び複数の発熱温度に対して計測された物性の値に基づいて、ガス温度及び複数の発熱温度に対する物性を独立変数とし、発熱量を従属変数とする発熱量算出式を作成することと、を含む、発熱量算出式の作成方法が提供される。
【0007】
本発明のさらに他の態様によれば、(a)発熱量が未知の計測対象混合ガスのガス温度の値、及び発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの計測対象混合ガスの物性の値を計測する計測機構と、(b)ガス温度及び複数の発熱温度に対する物性を独立変数とし、発熱量を従属変数とする発熱量算出式を保存する式記憶装置と、(c)発熱量算出式のガス温度の独立変数及び複数の発熱温度に対する物性の独立変数に、計測対象混合ガスのガス温度の値及び複数の発熱温度に対する計測対象混合ガスの物性の値を代入し、計測対象混合ガスの発熱量の値を算出する発熱量算出モジュールと、を備える、発熱量測定システムが提供される。なお、物性とは、例えば放熱係数又は熱伝導率である。
【0008】
本発明のまたさらに他の態様によれば、(a)発熱量が未知の計測対象混合ガスのガス温度の値、及び発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの計測対象混合ガスの物性の値を計測することと、(b)ガス温度及び複数の発熱温度に対する物性を独立変数とし、発熱量を従属変数とする発熱量算出式を用意することと、(c)発熱量算出式のガス温度の独立変数及び複数の発熱温度に対する物性の独立変数に、計測対象混合ガスのガス温度の値及び複数の発熱温度に対する計測対象混合ガスの物性の値を代入し、計測対象混合ガスの発熱量の値を算出することと、を含む、発熱量の測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガスの発熱量を容易に測定可能な発熱量算出式作成システム、発熱量算出式の作成方法、発熱量測定システム、及び発熱量の測定方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロチップの斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロチップの図1のII−II方向から見た断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る発熱素子に関する回路図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る測温素子に関する回路図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る発熱素子の発熱温度と、ガスの放熱係数の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るガス物性値測定システムの第1の模式図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るガス物性値測定システムの第2の模式図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る発熱量算出式の作成方法を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るガス物性値測定システムを示す模式図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る熱伝導率と放熱係数との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係るガス物性値測定システムを示す模式図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係るガスの濃度と放熱係数との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の第4の実施の形態に係るガス物性値測定システムを示す模式図である。
【図14】本発明の第4の実施の形態に係る発熱量の測定方法を示すフローチャートである。
【図15】本発明の実施の形態の実施例1に係るサンプル混合ガスの組成と、発熱量と、を示す表である。
【図16】本発明の実施の形態の実施例1に係るサンプル混合ガスの算出された発熱量と、真の発熱量と、を示すグラフである。
【図17】本発明の実施の形態の実施例1に係るサンプル混合ガスの真の発熱量と、算出された発熱量と、の関係を示すグラフである。
【図18】本発明の実施の形態の実施例2に係るサンプル混合ガスの算出された発熱量の真値からの誤差を示す第1のグラフである。
【図19】本発明の実施の形態の実施例2に係るサンプル混合ガスの算出された発熱量の真値からの誤差を示す第2のグラフである。
【図20】本発明の実施の形態の実施例2に係るサンプル混合ガスの算出された発熱量の真値からの誤差を示す第3のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
(第1の実施の形態)
まず、斜視図である図1、及びII−II方向から見た断面図である図2を参照して、第1の実施の形態に係るガス物性値測定システムに用いられるマイクロチップ8について説明する。マイクロチップ8は、キャビティ66が設けられた基板60、及び基板60上にキャビティ66を覆うように配置された絶縁膜65を備える。基板60の厚みは、例えば0.5mmである。また、基板60の縦横の寸法は、例えばそれぞれ1.5mm程度である。絶縁膜65のキャビティ66を覆う部分は、断熱性のダイアフラムをなしている。さらにマイクロチップ8は、絶縁膜65のダイアフラムの部分に設けられた発熱素子61と、発熱素子61を挟むように絶縁膜65のダイアフラムの部分に設けられた第1の測温素子62及び第2の測温素子63と、基板60上に設けられた第3の測温素子64と、を備える。
【0013】
発熱素子61は、キャビティ66を覆う絶縁膜65のダイアフラムの部分の中心に配置されている。発熱素子61は、例えば抵抗器であり、電力を与えられて発熱し、発熱素子61に接する雰囲気ガスを加熱する。第1の測温素子62、第2の測温素子63、及び第3の測温素子64のそれぞれは、例えば抵抗器であり、発熱素子61が発熱する前の雰囲気ガスのガス温度を検出する。なお、第1の測温素子62、第2の測温素子63、及び第3の測温素子64のいずれかのみを用いてガス温度を検出してもよい。あるいは、第1の測温素子62が検出したガス温度と、第2の測温素子63が検出したガス温度と、の平均値を、ガス温度として採用してもよい。以下においては、第1の測温素子62及び第2の測温素子63が検出したガス温度の平均値をガス温度として採用する例を説明するが、これに限定されない。
【0014】
基板60の材料としては、シリコン(Si)等が使用可能である。絶縁膜65の材料としては、酸化ケイ素(SiO2)等が使用可能である。キャビティ66は、異方性エッチング等により形成される。また発熱素子61、第1の測温素子62、第2の測温素子63、及び第3の測温素子64のそれぞれの材料には白金(Pt)等が使用可能であり、リソグラフィ法等により形成可能である。
【0015】
図3に示すように、発熱素子61の一端には、例えば、オペアンプ170の+入力端子が電気的に接続され、他端は接地される。また、オペアンプ170の+入力端子及び出力端子と並列に、抵抗素子161が接続される。オペアンプ170の−入力端子は、直列に接続された抵抗素子162と抵抗素子163との間、直列に接続された抵抗素子163と抵抗素子164との間、直列に接続された抵抗素子164と抵抗素子165との間、又は抵抗素子165の接地端子に電気的に接続される。各抵抗素子162−165の抵抗値を適当に定めることにより、例えば5.0Vの電圧Vinを抵抗素子162の一端に印加すると、抵抗素子163と抵抗素子162との間には、例えば2.4Vの電圧VL3が生じる。また、抵抗素子164と抵抗素子163との間には、例えば1.9Vの電圧VL2が生じ、抵抗素子165と抵抗素子164との間には、例えば1.4Vの電圧VL1が生じる。
【0016】
抵抗素子162及び抵抗素子163の間と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW1が設けられており、抵抗素子163及び抵抗素子164の間と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW2が設けられている。また、抵抗素子164及び抵抗素子165の間と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW3が設けられており、抵抗素子165の接地端子と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW4が設けられている。
【0017】
オペアンプ170の−入力端子に2.4Vの電圧VL3を印加する場合、スイッチSW1のみが通電され、スイッチSW2,SW3,SW4は切断される。オペアンプ170の−入力端子に1.9Vの電圧VL2を印加する場合、スイッチSW2のみが通電され、スイッチSW1,SW3,SW4は切断される。オペアンプ170の−入力端子に1.4Vの電圧VL1を印加する場合、スイッチSW3のみが通電され、スイッチSW1,SW2,SW4は切断される。オペアンプ170の−入力端子に0Vの電圧VL0を印加する場合、スイッチSW4のみが通電され、スイッチSW1,SW2,SW3は切断される。したがって、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の開閉によって、オペアンプ170の−入力端子に0V又は3段階の電圧のいずれかを印加可能である。そのため、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の開閉によって、発熱素子61の発熱温度を定める印加電圧を3段階に設定可能である。
【0018】
図1及び図2に示す発熱素子61は、温度によって抵抗値が変化する。発熱素子61の発熱温度THと、発熱素子61の抵抗値RHの関係は、下記(1)式で与えられる。
RH = RSTD×[1+α(TH-TSTD) + β(TH-TSTD)2] ・・・(1)
ここで、TSTDは標準温度を表し、例えば20℃である。RSTDは標準温度TSTDにおける予め計測された抵抗値を表す。αは1次の抵抗温度係数、βは2次の抵抗温度係数を表す。また、発熱素子61の抵抗値RHは、発熱素子61の駆動電力PHと、発熱素子61の通電電流IHから、下記(2)式で与えられる。
RH = PH / IH2 ・・・(2)
あるいは発熱素子61の抵抗値RHは、発熱素子61にかかる電圧VHと、発熱素子61の通電電流IHから、下記(3)式で与えられる。
RH = VH / IH ・・・(3)
【0019】
ここで、発熱素子61の発熱温度THは、発熱素子61と雰囲気ガスの間が熱的に平衡になったときに安定する。なお、熱的に平衡な状態とは、発熱素子61の発熱と、発熱素子61から雰囲気ガスへの放熱とが釣り合っている状態をいう。平衡状態において、下記(4)式に示すように、発熱素子61の駆動電力PHを、発熱素子61の発熱温度THと雰囲気ガスの温度TIとの差で割ることにより、雰囲気ガスの放熱係数MIが得られる。なお、放熱係数MIの単位は、例えばW/℃である。
MI = PH / (TH - TI) ・・・(4)
【0020】
発熱素子61の通電電流IHと、駆動電力PH又は電圧VHは計測可能であるため、上記(1)乃至(3)式から発熱素子61の発熱温度THが算出可能である。また、雰囲気ガスの温度TIは、図1に示す第1の測温素子62及び第2の測温素子63で測定可能である。したがって、図1及び図2に示すマイクロチップ8を用いて、雰囲気ガスの放熱係数MIが算出可能である。
【0021】
マイクロチップ8は、マイクロチップ8の底面に配置された断熱部材18を介して、雰囲気ガスが充填されるチャンバ等に固定される。断熱部材18を介してマイクロチップ8をチャンバ等に固定することにより、マイクロチップ8の温度が、チャンバ等の内壁の温度変動の影響を受けにくくなる。断熱部材18はガラス等からなり、熱伝導率は、例えば1.0W/(m・K)以下である。
【0022】
図4に示すように、第1の測温素子62の一端には、例えば、オペアンプ270の−入力端子が電気的に接続され、他端は接地される。また、オペアンプ270の−入力端子及び出力端子と並列に、抵抗素子261が接続される。オペアンプ270の+入力端子は、直列に接続された抵抗素子264と抵抗素子265との間に電気的に接続される。これにより、第1の測温素子62には、0.3V程度の弱い電圧が加えられる。
【0023】
ここで、雰囲気ガスが混合ガスであり、混合ガスが、ガスA、ガスB、ガスC、及びガスDの4種類のガス成分からなっていると仮定する。ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDの総和は、下記(5)式で与えられるように、1である。
VA+VB+VC+VD=1 ・・・(5)
【0024】
また、ガスAの単位体積当たりの発熱量をKA、ガスBの単位体積当たりの発熱量をKB、ガスCの単位体積当たりの発熱量をKC、ガスDの単位体積当たりの発熱量をKDとすると、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、各ガス成分の体積率に、各ガス成分の単位体積当たりの発熱量を乗じたものの総和で与えられる。したがって、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(6)式で与えられる。なお、単位体積当たりの発熱量の単位は、例えばMJ/m3である。
Q = KA×VA+ KB×VB+ KC×VC+KD×VD ・・・(6)
【0025】
また、ガスAの放熱係数をMA、ガスBの放熱係数をMB、ガスCの放熱係数をMC、ガスDの放熱係数をMDとすると、混合ガスの放熱係数MIは、各ガス成分の体積率に、各ガス成分の放熱係数を乗じたものの総和で与えられる。したがって、混合ガスの放熱係数MIは、下記(7)式で与えられる。
MI = MA×VA+ MB×VB+ MC×VC+MD×VD ・・・(7)
【0026】
さらに、ガスの放熱係数は発熱素子61の発熱温度THに依存するので、混合ガスの放熱係数MIは、発熱素子61の発熱温度THの関数として、下記(8)式で与えられる。
MI (TH)= MA(TH)×VA+ MB(TH)×VB+ MC(TH)×VC+MD(TH)×VD ・・・(8)
【0027】
したがって、発熱素子61の発熱温度がTH1のときの混合ガスの放熱係数MI(TH1)は下記(9)式で与えられる。また、発熱素子61の発熱温度がTH2のときの混合ガスの放熱係数MI(TH2)は下記(10)式で与えられ、発熱素子61の発熱温度がTH3のときの混合ガスの放熱係数MI(TH3)は下記(11)式で与えられる。なお、発熱温度TH1、発熱温度TH2、発熱温度TH3は異なる温度である。
MI (TH1)= MA(TH1)×VA+ MB(TH1)×VB+ MC(TH1)×VC+MD(TH1)×VD ・・・(9)
MI (TH2)= MA(TH2)×VA+ MB(TH2)×VB+ MC(TH2)×VC+MD(TH2)×VD ・・・(10)
MI (TH3)= MA(TH3)×VA+ MB(TH3)×VB+ MC(TH3)×VC+MD(TH3)×VD ・・・(11)
【0028】
ここで、発熱素子61の発熱温度THに対して各ガス成分の放熱係数MA(TH),MB(TH),MC(TH),MD(TH)が非線形性を有する場合、上記(9)乃至(11)式は、線形独立な関係を有する。また、発熱素子61の発熱温度THに対して各ガス成分の放熱係数MA(TH),MB(TH),MC(TH),MD(TH)が線形性を有する場合でも、発熱素子61の発熱温度THに対する各ガス成分の放熱係数MA(TH),MB(TH),MC(TH),MD(TH)の変化率が異なる場合は、上記(9)乃至(11)式は、線形独立な関係を有する。さらに、(9)乃至(11)式が線形独立な関係を有する場合、(5)式及び(9)乃至(11)式は線形独立な関係を有する。
【0029】
図5は、天然ガスに含まれるメタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)の放熱係数と発熱素子61の発熱温度の関係を示すグラフである。発熱素子61の発熱温度に対して、メタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のそれぞれのガス成分の放熱係数は線形性を有する。しかし、発熱素子61の発熱温度に対する放熱係数の変化率は、メタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のそれぞれで異なる。したがって、混合ガスを構成するガス成分がメタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)であるである場合、上記(9)乃至(11)式は、線形独立な関係を有する。
【0030】
(9)乃至(11)式中の各ガス成分の放熱係数MA(TH1),MB(TH1),MC(TH1),MD(TH1),MA(TH2),MB(TH2),MC(TH2),MD(TH2),MA(TH3),MB(TH3),MC(TH3),MD(TH3)の値は、計測等により予め得ることが可能である。したがって、(5)式及び(9)乃至(11)式の連立方程式を解くと、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDのそれぞれが、下記(12)乃至(15)式に示すように、混合ガスの放熱係数MI(TH1),MI(TH2),MI(TH3)の関数として与えられる。なお、下記(12)乃至(15)式において、nを自然数としてfnは、関数を表す記号である。
VA=f1[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3)] ・・・(12)
VB=f2[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3)] ・・・(13)
VC=f3[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3)] ・・・(14)
VD=f4[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3)] ・・・(15)
【0031】
さらに、ボイルシャルルの法則により、ガスの体積はガスそのものの温度に比例する。ここで、例えば、発熱素子61を発熱させる前の混合ガスの温度をTIとすると、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDのそれぞれは、下記(16)乃至(19)式に示すように、混合ガスの放熱係数MI(TH1),MI(TH2),MI(TH3)及び混合ガスの温度TIの関数として与えられる。
VA=f1[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3), TI ] ・・・(16)
VB=f2[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3), TI ] ・・・(17)
VC=f3[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3), TI ] ・・・(18)
VD=f4[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3), TI ] ・・・(19)
【0032】
ここで、上記(6)式に(16)乃至(19)式を代入することにより、下記(20)式が得られる。
Q = KA×VA+ KB×VB+ KC×VC+KD×VD
= KA×f1[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3) , TI ]
+ KB×f2[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3) , TI ]
+ KC×f3[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3) , TI ]
+ KD×f4[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3) , TI ] ・・・(20)
【0033】
上記(20)式から明らかなように、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、発熱素子61の発熱温度がTH1,TH2,TH3である場合の混合ガスの放熱係数MI(TH1),MI(TH2),MI(TH3)と、混合ガスの温度TIと、を変数とする方程式で与えられる。したがって、混合ガスの発熱量Qは、gを関数を表す記号として、下記(21)式で与えられる。
Q = g[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3) , TI ] ・・・(21)
【0034】
よって、ガスA、ガスB、ガスC、及びガスDからなる混合ガスについて、予め上記(21)式を得れば、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDが未知の検査対象混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qを容易に算出可能であることを、発明者らは見出した。具体的には、発熱素子61の発熱温度がTH1,TH2,TH3である場合の検査対象混合ガスの放熱係数MI(TH1),MI(TH2),MI(TH3)と、検査対象混合ガスの温度TIと、を計測し、(21)式に代入することにより、検査対象混合ガスの発熱量Qを一意に求めることが可能となる。
【0035】
なお、混合ガスのガス成分は、4種類に限定されることはない。例えば、混合ガスがn種類のガス成分からなる場合、まず、下記(22)式で与えられる、発熱素子61の少なくともn−1種類の発熱温度TH1,TH2,TH3,・・・,THn-1に対する混合ガスの放熱係数MI(TH1),MI(TH2),MI(TH3),・・・,MI(THn-1)と、混合ガスの温度TIと、を変数とする方程式を予め取得する。そして、発熱素子61のn−1種類の発熱温度TH1,TH2,TH3,・・・,THn-1に対する、n種類のガス成分のそれぞれの体積率が未知の検査対象混合ガスの放熱係数MI(TH1),MI(TH2),MI(TH3),・・・,MI(THn-1)と、検査対象混合ガスの温度TIと、を計測し、(22)式に代入することにより、検査対象混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qを一意に求めることが可能となる。
Q = g[MI (TH1), MI (TH2), MI (TH3), ・・・, MI (THn-1) , TI ] ・・・(22)
【0036】
ただし、混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)、プロパン(C38)に加えて、jを自然数として、メタン(CH4)とプロパン(C38)以外のアルカン(Cj2j+2)を含む場合、メタン(CH4)とプロパン(C38)以外のアルカン(Cj2j+2)を、メタン(CH4)とプロパン(C38)の混合物とみなしても、(22)式の算出には影響しない。例えば、エタン(C26)、ブタン(C410)、ペンタン(C512)、ヘキサン(C614)を、下記(23)乃至(26)式に示すように、それぞれ所定の係数を掛けられたメタン(CH4)とプロパン(C38)の混合物とみなして(22)式を算出してもかまわない。
C2H6 = 0.5 CH4 + 0.5 C3H8 ・・・(23)
C4H10 = -0.5 CH4 + 1.5 C3H8 ・・・(24)
C5H12 = -1.0 CH4 + 2.0 C3H8 ・・・(25)
C6H14 = -1.5 CH4 + 2.5 C3H8 ・・・(26)
【0037】
したがって、zを自然数として、n種類のガス成分からなる混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)、プロパン(C38)に加えて、メタン(CH4)とプロパン(C38)以外のz種類のアルカン(Cj2j+2)を含む場合、少なくともn−z−1種類の発熱温度における混合ガスの放熱係数MIを変数とする方程式を求めてもよい。
【0038】
なお、(22)式の算出に用いられた混合ガスのガス成分の種類と、単位体積当たりの発熱量Qが未知の検査対象混合ガスのガス成分の種類が同じ場合に、検査対象混合ガスの発熱量Qの算出に(22)式を利用可能であることはもちろんである。さらに、検査対象混合ガスがn種類より少ない種類のガス成分からなり、かつ、n種類より少ない種類のガス成分が、(22)式の算出に用いられた混合ガスに含まれている場合も、(22)式を利用可能である。例えば、(22)式の算出に用いられた混合ガスが、メタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)の4種類のガス成分を含む場合、検査対象混合ガスが、窒素(N2)を含まず、メタン(CH4)、プロパン(C38)、及び二酸化炭素(CO2)の3種類のガス成分のみを含む場合も、検査対象混合ガスの発熱量Qの算出に(22)式を利用可能である。
【0039】
さらに、(22)式の算出に用いられた混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)とプロパン(C38)を含む場合、検査対象混合ガスが、(22)式の算出に用いられた混合ガスに含まれていないアルカン(Cj2j+2)を含んでいても、(22)式を利用可能である。これは、上述したように、メタン(CH4)とプロパン(C38)以外のアルカン(Cj2j+2)を、メタン(CH4)とプロパン(C38)の混合物とみなしても、(22)式を用いた単位体積当たりの発熱量Qの算出に影響しないためである。
【0040】
ここで、図6に示す第1の実施の形態に係るガス物性値測定システム20は、発熱量Qの値が既知のサンプル混合ガスが充填されるチャンバ101と、図1及び図2に示す発熱素子61、第1の測温素子62及び第2の測温素子63を用いて、サンプル混合ガスの複数の放熱係数MIの値及びサンプル混合ガスの温度TIの値を計測する図6に示す計測機構10と、を備える。さらに、ガス物性値測定システムは、サンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、サンプル混合ガスの複数の放熱係数MIの値、及びサンプル混合ガスの温度TIの値に基づいて、発熱素子61の複数の発熱温度に対するガスの放熱係数MI及びガスの温度TIを独立変数とし、ガスの発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を作成する式作成モジュール302を備える。なお、サンプル混合ガスは、複数種類のガス成分を含む。
【0041】
計測機構10は、サンプル混合ガスが注入されるチャンバ101内に配置された、図1及び図2を用いて説明したマイクロチップ8を備える。マイクロチップ8は、断熱部材18を介してチャンバ101内に配置されている。チャンバ101には、サンプル混合ガスをチャンバ101に送るための流路102と、サンプル混合ガスをチャンバ101から外部に排出するための流路103と、が接続されている。
【0042】
それぞれ発熱量Qが異なる4種類のサンプル混合ガスが使用される場合、図7に示すように、第1のサンプル混合ガスを貯蔵する第1のガスボンベ50A、第2のサンプル混合ガスを貯蔵する第2のガスボンベ50B、第3のサンプル混合ガスを貯蔵する第3のガスボンベ50C、及び第4のサンプル混合ガスを貯蔵する第4のガスボンベ50Dが用意される。第1のガスボンベ50Aには、流路91Aを介して、第1のガスボンベ50Aから例えば0.2MPa等の低圧に調節された第1のサンプル混合ガスを得るための第1のガス圧調節器31Aが接続されている。また、第1のガス圧調節器31Aには、流路92Aを介して、第1の流量制御装置32Aが接続されている。第1の流量制御装置32Aは、流路92A及び流路102を介してガス物性値測定システム20に送られる第1のサンプル混合ガスの流量を制御する。
【0043】
第2のガスボンベ50Bには、流路91Bを介して、第2のガス圧調節器31Bが接続されている。また、第2のガス圧調節器31Bには、流路92Bを介して、第2の流量制御装置32Bが接続されている。第2の流量制御装置32Bは、流路92B,93,102を介してガス物性値測定システム20に送られる第2のサンプル混合ガスの流量を制御する。
【0044】
第3のガスボンベ50Cには、流路91Cを介して、第3のガス圧調節器31Cが接続されている。また、第3のガス圧調節器31Cには、流路92Cを介して、第3の流量制御装置32Cが接続されている。第3の流量制御装置32Cは、流路92C,93,102を介してガス物性値測定システム20に送られる第3のサンプル混合ガスの流量を制御する。
【0045】
第4のガスボンベ50Dには、流路91Dを介して、第4のガス圧調節器31Dが接続されている。また、第4のガス圧調節器31Dには、流路92Dを介して、第4の流量制御装置32Dが接続されている。第4の流量制御装置32Dは、流路92D,93,102を介してガス物性値測定システム20に送られる第4のサンプル混合ガスの流量を制御する。
【0046】
第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれは、例えば天然ガスである。第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれは、例えばメタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)の4種類のガス成分を含む。
【0047】
第1のサンプル混合ガスがチャンバ101に充填された後、マイクロチップ8の図1及び図2に示す第1の測温素子62及び第2の測温素子63は、発熱素子61が発熱する前の第1のサンプル混合ガスの温度TIを検出する。その後、発熱素子61は、図6に示す駆動回路303から駆動電力PHを与えられる。駆動電力PHを与えられることにより、図1及び図2に示す発熱素子61は、例えば、100℃、150℃、及び200℃で発熱する。
【0048】
図6に示すチャンバ101から第1のサンプル混合ガスが除去された後、第2乃至第4のサンプル混合ガスがチャンバ101に順次充填される。第2乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれがチャンバ101に充填された後、マイクロチップ8は、第2乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの温度TIを検出する。また、図1及び図2に示す発熱素子61は、駆動電力PHを与えられ、100℃、150℃、及び200℃で発熱する。
【0049】
なお、それぞれのサンプル混合ガスがn種類のガス成分を含む場合、マイクロチップ8の図1及び図2に示す発熱素子61は、少なくともn−1種類の異なる発熱温度で発熱させられる。ただし、上述したように、メタン(CH4)及びプロパン(C38)以外のアルカン(Cj2j+2)は、メタン(CH4)及びプロパン(C38)の混合物とみなしうる。したがって、zを自然数として、n種類のガス成分からなるサンプル混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)及びプロパン(C38)に加えてz種類のアルカン(Cj2j+2)を含む場合は、発熱素子61は、少なくともn−z−1種類の異なる発熱温度で発熱させられる。
【0050】
さらに図6に示す計測機構10は、マイクロチップ8に接続された放熱係数算出モジュール301を備える。放熱係数算出モジュール301は、上記(4)式に示すように、図1及び図2に示すマイクロチップ8の発熱素子61の第1の駆動電力PH1を、発熱素子61の第1の発熱温度TH(ここでは100℃)と、第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの温度TIと、の差で割る。これにより、発熱温度が100℃の発熱素子61と熱的に平衡な第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの放熱係数MIの値が算出される。
【0051】
また、図6に示す放熱係数算出モジュール301は、マイクロチップ8の図1及び図2に示す発熱素子61の第2の駆動電力PH2を、発熱素子61の第2の発熱温度TH(ここでは150℃)と、第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの温度TIと、の差で割る。これにより、発熱温度が150℃の発熱素子61と熱的に平衡な第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの放熱係数MIの値が算出される。
【0052】
さらに、図6に示す放熱係数算出モジュール301は、マイクロチップ8の図1及び図2に示す発熱素子61の第3の駆動電力PH3を、発熱素子61の第3の発熱温度TH(ここでは200℃)と、第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの温度TIと、の差で割る。これにより、発熱温度が200℃の発熱素子61と熱的に平衡な第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの放熱係数MIの値が算出される。
【0053】
図6に示すガス物性値測定システム20は、CPU300に接続された放熱係数記憶装置401をさらに備える。放熱係数算出モジュール301は、測定されたガスの温度の値TIと、算出した放熱係数MIの値と、を放熱係数記憶装置401に保存する。
【0054】
式作成モジュール302は、例えば第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの既知の発熱量Qの値と、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の複数のガスの放熱係数MIの値と、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合の複数のガスの放熱係数MIの値と、発熱素子61の発熱温度が200℃の場合の複数のガスの放熱係数MIの値と、複数のガスの温度TIの値と、を収集する。さらに式作成モジュール302は、収集した発熱量Q、複数の放熱係数MI、及び複数のガスの温度TIの値に基づいて、多変量解析により、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の放熱係数MI、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合の放熱係数MI、発熱素子61の発熱温度が200℃の場合の放熱係数MI、及びガスの温度TIを独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を算出する。
【0055】
なお、「多変量解析」とは、A. J Smola及びB. Scholkopf著の「A Tutorial on Support Vector Regression」(NeuroCOLT Technical Report (NC−TR−98−030)、1998年)に開示されているサポートベクトル回帰、重回帰分析、及び特開平5−141999号公報に開示されているファジィ数量化理論II類等を含む。また、放熱係数算出モジュール301及び式作成モジュール302は、中央演算処理装置(CPU)300に含まれている。
【0056】
ガス物性値測定システム20は、CPU300に接続された式記憶装置402をさらに備える。式記憶装置402は、式作成モジュール302が作成した発熱量算出式を保存する。さらにCPU300には、入力装置312及び出力装置313が接続される。入力装置312としては、例えばキーボード、及びマウス等のポインティングデバイス等が使用可能である。出力装置313には液晶ディスプレイ、モニタ等の画像表示装置、及びプリンタ等が使用可能である。
【0057】
次に、図8に示すフローチャートを用いて第1の実施の形態に係る発熱量算出式の作成方法について説明する。なお、以下の例では、第1乃至第4のサンプル混合ガスを準備し、図6に示すマイクロチップ8の発熱素子61を、100℃、150℃、及び200℃に発熱させる場合を説明する。
【0058】
(a)ステップS100で、図7に示す第2乃至第4の流量制御装置32B−32Dの弁を閉じたまま、第1の流量制御装置32Aの弁を開き、図6に示すチャンバ101内に第1のサンプル混合ガスを導入する。ステップS101で、第1の測温素子62及び第2の測温素子63は、第1のサンプル混合ガスの温度TIを検出する。その後、図6に示す駆動回路303は、マイクロチップ8の図1及び図2に示す発熱素子61に第1の駆動電力PH1を与え、発熱素子61を100℃で発熱させる。さらに、図6に示す放熱係数算出モジュール301は、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の第1のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値を算出する。その後、放熱係数算出モジュール301は、第1のサンプル混合ガスの温度TIの値と、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の放熱係数MIの値と、を放熱係数記憶装置401に保存する。その後、駆動回路303は、発熱素子61に対する第1の駆動電力PH1の提供を停止する。
【0059】
(b)ステップS102で、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61の発熱温度の切り替えが完了したか否か判定する。発熱温度150℃及び発熱温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、図6に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61を150℃で発熱させる。図6に示す放熱係数算出モジュール301は、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合の第1のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値を算出し、放熱係数記憶装置401に保存する。その後、駆動回路303は、発熱素子61に対する駆動電力の供給を停止する。
【0060】
(c)再びステップS102で、図1及び図2に示す発熱素子61の発熱温度の切り替えが完了したか否か判定する。発熱温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、図6に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61を200℃で発熱させる。図6に示す放熱係数算出モジュール301は、発熱素子61の発熱温度が200℃の場合の第1のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値を算出し、放熱係数記憶装置401に保存する。その後、駆動回路303は、発熱素子61に対する駆動電力の供給を停止する。
【0061】
(d)発熱素子61の発熱温度の切り替えが完了した場合には、ステップS102からステップS103に進む。ステップS103で、サンプル混合ガスの切り替えが完了したか否かを判定する。第2乃至第4のサンプル混合ガスへの切り替えが完了していない場合には、ステップS100に戻る。ステップS100で、図7に示す第1の流量制御装置32Aを閉じ、第3乃至第4の流量制御装置32C−32Dの弁を閉じたまま第2の流量制御装置32Bの弁を開き、図6に示すチャンバ101内に第2のサンプル混合ガスを導入する。
【0062】
(e)第1のサンプル混合ガスと同様に、ステップS101乃至ステップS102のループが繰り返される。まず、第2のサンプル混合ガスの温度TIの値が測定される。また、放熱係数算出モジュール301が、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の第2のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合の第2のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値、及び発熱素子61の発熱温度が200℃の場合の第2のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値を算出する。さらに放熱係数算出モジュール301は、測定した第2のサンプル混合ガスの温度TIの値と、算出した放熱係数MIの値と、を放熱係数記憶装置401に保存する。
【0063】
(f)その後、ステップS100乃至ステップS103のループが繰り返される。これにより、第3のサンプル混合ガスの温度TIの値及び発熱素子61の発熱温度が100℃、150℃、200℃のそれぞれの場合の第3のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値と、第4のサンプル混合ガスの温度TIの値及び発熱素子61の発熱温度が100℃、150℃、200℃のそれぞれの場合の第4のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値とが、放熱係数記憶装置401に保存される。ステップS104で、入力装置312から式作成モジュール302に、第1のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、第2のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、第3のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、及び第4のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値を入力する。また、式作成モジュール302は、放熱係数記憶装置401から、第1乃至第4のサンプル混合ガスの温度TIの値と、発熱素子61の発熱温度が100℃、150℃、200℃のそれぞれの場合の第1乃至第4のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値と、を読み出す。
【0064】
(g)ステップS105で、第1乃至第4のサンプル混合ガスの発熱量Qの値と、第1乃至第4のサンプル混合ガスの温度TIの値と、発熱素子61の発熱温度が100℃、150℃、200℃のそれぞれの場合の第1乃至第4のサンプル混合ガスの放熱係数MIの値と、に基づいて、式作成モジュール302は、重回帰分析を行う。重回帰分析により、式作成モジュール302は、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の放熱係数MI、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合の放熱係数MI、発熱素子61の発熱温度が200℃の場合の放熱係数MI、及びガスの温度TIを独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を算出する。その後、ステップS106で、式作成モジュール302は作成した発熱量算出式を式記憶装置402に保存し、第1の実施の形態に係る発熱量算出式の作成方法が終了する。
【0065】
以上示したように、第1の実施の形態に係る発熱量算出式の作成方法によれば、計測対象混合ガスの発熱量Qの値を一意に算出可能な発熱量算出式を作成することが可能となる。
【0066】
(第2の実施の形態)
図9に示すように、第2の実施の形態に係るガス物性値測定システム20のCPU300には、熱伝導率記憶装置411が接続されている。ここで、図10は、発熱素子に2mA、2.5mA、及び3mAの電流を流した際の、混合ガスの放熱係数MIと、熱伝導率と、の関係を示す。図10に示すように、混合ガスの放熱係数MIと熱伝導率は一般に比例関係にある。そこで、図9に示す熱伝導率記憶装置411は、チャンバ101に導入されるガスの放熱係数MIと熱伝導率との対応関係を、近似式あるいはテーブル等で予め保存する。
【0067】
第2の実施の形態に係るCPU300は、熱伝導率算出モジュール322をさらに含む。熱伝導率算出モジュール322は、放熱係数記憶装置401から放熱係数MIの値を読み出し、熱伝導率記憶装置411からガスの放熱係数MIと熱伝導率との対応関係を読み出す。さらに熱伝導率算出モジュール322は、ガスの放熱係数MIの値と、ガスの放熱係数MI及び熱伝導率の対応関係とに基づいて、チャンバ101に導入されたガスの熱伝導率を算出する。
【0068】
第2の実施の形態に係るガス物性値測定システム20のその他の構成要素は、第1の実施の形態と同様であるので、説明は省略する。第2の実施の形態に係るガス物性値測定システム20によれば、放熱係数MIに基づいて、ガスの正確な熱伝導率の値を算出することが可能となる。
【0069】
(第3の実施の形態)
図11に示すように、第3の実施の形態に係るガス物性値測定システム20のCPU300には、濃度記憶装置412がさらに接続されている。ここで、図12は、ガス温度TIが0℃、20℃、及び40℃のときのプロパンガスの放熱係数MIと、濃度と、の関係を示す。図12に示すように、ガスの放熱係数MIと、ガスの濃度とは、一般に比例関係にある。そこで、図11に示す濃度記憶装置412は、チャンバ101に導入されるガスの放熱係数MIと、濃度と、の対応関係を、近似式あるいはテーブル等で予め保存する。
【0070】
第3の実施の形態に係るCPU300は、濃度算出モジュール323をさらに含む。濃度算出モジュール323は、放熱係数記憶装置401から放熱係数MIの値を読み出し、濃度記憶装置412からガスの放熱係数MIと、濃度と、の対応関係を読み出す。さらに濃度算出モジュール323は、ガスの放熱係数MIの値と、ガスの放熱係数MI及び濃度の対応関係とに基づいて、チャンバ101に導入されたガスの濃度を算出する。
【0071】
第3の実施の形態に係るガス物性値測定システム20のその他の構成要素は、第1の実施の形態と同様であるので、説明は省略する。第3の実施の形態に係るガス物性値測定システム20によれば、ガスの放熱係数MIに基づいて、ガスの濃度の正確な値を算出することが可能となる。
【0072】
(第4の実施の形態)
図13に示すように、第4の実施の形態に係るガス物性値測定システム21は、発熱量Qの値が未知の計測対象混合ガスが充填されるチャンバ101と、図1及び図2に示す発熱素子61、第1の測温素子62及び第2の測温素子63を用いて、計測対象混合ガスの温度TIの値、及び計測対象混合ガスの複数の放熱係数MIの値を計測する図13に示す計測機構10と、を備える。さらに、ガス物性値測定システム21は、ガスの温度TI及び発熱素子61の複数の発熱温度に対するガスの放熱係数MIを独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を保存する式記憶装置402と、発熱量算出式のガスの温度TIの独立変数及び発熱素子61の複数の発熱温度に対するガスの放熱係数MIの独立変数に、計測対象混合ガスの温度TIの値及び発熱素子61の複数の発熱温度に対する計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を代入し、計測対象混合ガスの発熱量Qの値を算出する発熱量算出モジュール305と、を備える。
【0073】
式記憶装置402は、第1の実施の形態で説明した発熱量算出式を保存する。ここでは、例として、発熱量算出式の作成のために、メタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)を含む天然ガスがサンプル混合ガスとして使用された場合を説明する。また、発熱量算出式は、発熱素子61の発熱温度が100℃の場合のガスの放熱係数MIと、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合のガスの放熱係数MIと、発熱素子61の発熱温度が200℃の場合のガスの放熱係数MIと、ガスの温度TIと、を独立変数としているものとする。
【0074】
第4の実施の形態においては、例えば、未知の体積率でメタン(CH4)、プロパン(C38)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)を含む、発熱量Qが未知の天然ガスが、計測対象混合ガスとして、チャンバ101に導入される。図1及び図2に示すマイクロチップ8の第1の測温素子62及び第2の測温素子63は、発熱素子61が発熱する前の計測対象混合ガスの温度TIを検出する。その後、発熱素子61は、図13に示す駆動回路303から駆動電力PHを与えられる。駆動電力PHを与えられることにより、図1及び図2に示す発熱素子61は、100℃、150℃、及び200℃で発熱する。
【0075】
図13に示す放熱係数算出モジュール301は、上記(1)乃至(4)式で説明した方法に従って、発熱温度100℃で発熱する発熱素子61と熱的に平衡な計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を算出する。また、放熱係数算出モジュール301は、発熱温度150℃で発熱する発熱素子61と熱的に平衡な計測対象混合ガスの放熱係数MIの値、及び発熱温度200℃で発熱する発熱素子61と熱的に平衡な計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を算出する。放熱係数算出モジュール301は、計測対象混合ガスの温度TIの値と、算出した放熱係数MIの値とを、放熱係数記憶装置401に保存する。
【0076】
発熱量算出モジュール305は、発熱量算出式のガスの放熱係数MIの独立変数及びガスの温度TIの独立変数に、計測対象混合ガスの放熱係数MIの値及び温度TIの値を代入し、計測対象混合ガスの発熱量Qの値を算出する。CPU300には、発熱量記憶装置403がさらに接続されている。発熱量記憶装置403は、発熱量算出モジュール305が算出した計測対象混合ガスの発熱量Qの値を保存する。第4の実施の形態に係るガス物性値測定システム21のその他の構成要件は、図6で説明した第1の実施の形態に係るガス物性値測定システム20と同様であるので、説明は省略する。
【0077】
次に、図14に示すフローチャートを用いて、第4の実施の形態に係る発熱量の測定方法について説明する。なお、以下の例では、図13に示すマイクロチップ8の発熱素子61を、100℃、150℃、及び200℃に発熱させる場合を説明する。
【0078】
(a)ステップS200で、図13に示すチャンバ101内に計測対象混合ガスを導入する。次に、ステップS201で、図1及び図2に示すマイクロチップ8の第1の測温素子62及び第2の測温素子63は、発熱素子61が発熱する前の計測対象混合ガスの温度TIを検出する。その後、図13に示す駆動回路303は、マイクロチップ8の図1及び図2に示す発熱素子61に第1の駆動電力PH1を与え、発熱素子61を100℃で発熱させる。図13に示す放熱係数算出モジュール301は、発熱温度100℃における計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を算出する。さらに、放熱係数算出モジュール301は、計測対象混合ガスの温度TIの値、及び発熱素子61の発熱温度が100℃の場合の計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を放熱係数記憶装置401に保存する。その後、駆動回路303は、発熱素子61に対する第1の駆動電力PH1の提供を停止する。
【0079】
(b)ステップS202で、図13に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61の発熱温度の切り替えが完了したか否か判定する。発熱温度150℃及び発熱温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS201に戻り、図13に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61を150℃に発熱させる。図13に示す放熱係数算出モジュール301は、発熱素子61の発熱温度が150℃の場合の計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を算出し、放熱係数記憶装置401に保存する。その後、駆動回路303は、発熱素子61に対する駆動電力の供給を停止する。
【0080】
(c)再びステップS202で、図1及び図2に示す発熱素子61の発熱温度の切り替えが完了したか否か判定する。発熱温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS201に戻り、図13に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61を200℃に発熱させる。図13に示す放熱係数算出モジュール301は、発熱素子61の発熱温度が200℃の場合の計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を算出し、放熱係数記憶装置401に保存する。その後、駆動回路303は、発熱素子61に対する駆動電力の供給を停止する。
【0081】
(d)発熱素子61の発熱温度の切り替えが完了した場合には、ステップS202からステップS203に進む。ステップS203で、図13に示す発熱量算出モジュール305は、式記憶装置402から、ガスの温度TI及び発熱素子61の発熱温度が100℃、150℃、及び200℃の場合のガスの放熱係数MIを独立変数とする発熱量算出式を読み出す。また、発熱量算出モジュール305は、放熱係数記憶装置401から、計測対象混合ガスの温度TIの値及び発熱素子61の発熱温度が100℃、150℃、及び200℃の場合の計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を読み出す。
【0082】
(e)ステップS204で、発熱量算出モジュール305は、発熱量算出式の温度TIの独立変数に計測対象混合ガスの温度TIの値を代入し、発熱量算出式の放熱係数MIの独立変数に計測対象混合ガスの放熱係数MIの値を代入して、計測対象混合ガスの発熱量Qの値を算出する。その後、発熱量算出モジュール305は、算出した発熱量Qの値を発熱量記憶装置403に保存し、第4の実施の形態に係る発熱量の測定方法を終了する。
【0083】
以上説明した第4の実施の形態に係る発熱量算出方法によれば、高価なガスクロマトグラフィ装置や音速センサを用いることなく、計測対象混合ガスの放熱係数MIの測定値から、計測対象混合ガスの混合ガスの発熱量Qの値を測定することが可能となる。
【0084】
天然ガスは、産出ガス田によって炭化水素の成分比率が異なる。また、天然ガスには、炭化水素の他に、窒素(N2)や炭酸ガス(CO2)等が含まれる。そのため、産出ガス田によって、天然ガスに含まれるガス成分の体積率は異なり、ガス成分の種類が既知であっても、天然ガスの発熱量Qは未知であることが多い。また、同一のガス田由来の天然ガスであっても、発熱量Qが常に一定であるとは限らず、採取時期によって変化することもある。
【0085】
従来、天然ガスの使用料金を徴収する際には、天然ガスの使用発熱量Qでなく、使用体積に応じて課金する方法がとられている。しかし、天然ガスは由来する産出ガス田によって発熱量Qが異なるため、使用体積に課金するのは公平でない。これに対し、第4の実施の形態に係る発熱量算出方法を用いれば、ガス成分の種類が既知であるが、ガス成分の体積率が未知であるために発熱量Qが未知の天然ガス等の混合ガスの発熱量Qを、簡易に算出することが可能となる。そのため、公平な使用料金を徴収することが可能となる。
【0086】
また、ガラス加工品の製造業においては、ガラスを加熱加工する際、加工精度を一定に保つために、一定の発熱量Qを有する天然ガスが供給されることが望まれている。そのためには、複数のガス田由来の天然ガスのそれぞれの発熱量Qを正確に把握し、総ての天然ガスの発熱量Qが同一になるよう調整した上で、ガラスの加熱加工工程に天然ガスを供給することが検討されている。これに対し、第4の実施の形態に係る発熱量算出方法を用いれば、複数のガス田由来の天然ガスのそれぞれ発熱量Qを正確には把握することが可能となるため、ガラスの加熱加工精度を一定に保つことが可能となる。
【0087】
さらに、第4の実施の形態に係る発熱量算出方法によれば、天然ガス等の混合ガスの正確な発熱量Qを容易に知ることが可能となるため、混合ガスを燃焼させる場合に必要な空気量を適切に設定することが可能となる。そのため、無駄な二酸化炭素(CO2)の排出量を削減することも可能となる。
【0088】
(実施例1)
まず、図15に示すように発熱量Qの値が既知の28種類のサンプル混合ガスを用意した。28種類のサンプル混合ガスのそれぞれは、ガス成分としてメタン(CH4)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のいずれか又は全部を含んでいた。例えば、No.7のサンプル混合ガスは、90vol%のメタン、3vol%のエタン、1vol%のプロパン、1vol%のブタン、4vol%の窒素、及び1vol%の二酸化炭素を含んでいた。また、No.8のサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、10vol%のエタン、3vol%のプロパン、及び2vol%のブタンを含み、窒素及び二酸化炭素を含んでいなかった。また、No.9のサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、8vol%のエタン、2vol%のプロパン、1vol%のブタン、2vol%の窒素、及び2vol%の二酸化炭素を含んでいた。
【0089】
次に、28種類のサンプル混合ガスのそれぞれの放熱係数MIの値を、発熱素子の発熱温度を100℃、150℃、及び200℃に設定して計測した。なお、例えばNo.7のサンプル混合ガスは6種類のガス成分を含んでいるが、上述したように、エタン(C26)とブタン(C410)は、メタン(CH4)とプロパン(C38)の混合物とみなしうるので、放熱係数MIの値を3種類の発熱温度で計測しても問題ない。その後、28種類のサンプル混合ガスの発熱量Qの値と、計測された放熱係数MIの値に基づいて、サポートベクトル回帰により、放熱係数MIを独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする、発熱量Qを算出するための1次方程式、2次方程式、及び3次方程式を作成した。
【0090】
発熱量Qを算出するための1次方程式を作成する際には、キャリブレーション・ポイントは、3乃至5個を目安に、適宜決定できる。作成された1次方程式は下記(27)式で与えられた。28種類のサンプル混合ガスの発熱量Qを(27)式で算出し、真の発熱量Qと比較したところ、最大誤差は2.1%であった。
Q = 39.91 - 20.59×MI (100℃) - 0.89×MI (150℃) + 19.73×MI (200℃) ・・・(27)
【0091】
発熱量Qを算出するための2次方程式を作成する際には、キャリブレーション・ポイントは、8乃至9個を目安に、適宜決定できる。28種類のサンプル混合ガスの発熱量Qを作成された2次方程式で算出し、真の発熱量Qと比較したところ、最大誤差は1.2乃至1.4%であった。
【0092】
発熱量Qを算出するための3次方程式を作成する際には、キャリブレーション・ポイントは、10乃至14個を目安に、適宜決定できる。28種類のサンプル混合ガスの発熱量Qを作成された3次方程式で算出し、真の発熱量Qと比較したところ、最大誤差は1.2%未満であった。図16及び図17に示すように、10個のキャリブレーション・ポイントを取って作成された3次方程式で算出された発熱量Qは、真の発熱量Qに良好に近似し、誤差はわずかであった。
【0093】
(実施例2)
実施例1で使用したサンプル混合ガスとは異なる、発熱量Qの値が既知の23種類のサンプル混合ガスをさらに用意した。ここで、発熱素子で加熱される前のサンプル混合ガスの温度を、−10℃、5℃、23℃、40℃、及び50℃に設定した。次に、放熱係数MIを独立変数とし、発熱量Qを従属変数として、ガスの温度TIの独立変数を含まない発熱量算出式を作成した。さらに、作成した発熱量算出式を用いて、サンプル混合ガスの発熱量Qを算出した。すると、図18に示すように、算出される発熱量Qの誤差はわずかであるものの、発熱素子で加熱される前のサンプル混合ガスの温度に応じてばらつきが生じた。
【0094】
次に、下記(28)式に示すように、放熱係数MI及びガスの温度TIを独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を作成した。
Q = 39.4 - 5.97×MI (100℃) - 30.3×MI (150℃) + 34.6×MI (200℃) + 0.331×TI ・・・(28)
さらに、作成した発熱量算出式を用いて、放熱係数MI及びガスの温度TIの独立変数に測定値を代入してサンプル混合ガスの発熱量Qを算出した。すると、図19に示すように、発熱素子で加熱される前のサンプル混合ガスの温度にかかわらず、算出される発熱量Qの誤差のばらつきが生じなかった。なお、図18及び図19に示す結果は、図1及び図2に示すように、マイクロチップ8の断熱部材18を配置し、マイクロチップ8の基板60を60℃に保温して得た。これに対し、断熱材18を用いず、またマイクロチップ8の基板60を保温しなくとも、発熱量算出式の放熱係数MI及びガスの温度TIの独立変数に測定値を代入してサンプル混合ガスの発熱量Qを算出すると、図20に示すように、算出される発熱量Qの誤差のばらつきはわずかであった。したがって、発熱量算出式に放熱係数MIの独立変数のみならずガスの温度TIの独立変数を加え、ガスの温度TIの独立変数に測定値を代入することにより、より高精度に発熱量Qが算出可能であることが示された。
【0095】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施の形態及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、第1及び第4の実施の形態においては、発熱素子の複数の発熱温度における混合ガスの放熱係数MIの値を用いたが、代わりに、混合ガスの複数の発熱温度における熱伝導率を用いて、発熱量算出式の作成及び発熱量Qの算出を行ってもよい。この様に、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【符号の説明】
【0096】
8 マイクロチップ
10 計測機構
18 断熱部材
20,21 ガス物性値測定システム
31A,31B,31C,31D ガス圧調節器
32A,32B,32C,32D 流量制御装置
50A,50B,50C,50D ガスボンベ
60 基板
61 発熱素子
62 第1の測温素子
63 第2の測温素子
64 第3の測温素子
65 絶縁膜
66 キャビティ
91A,91B,91C,91D,92A,92B,92C,92D,93,102,103 流路
101 チャンバ
161,162,163,164,165,181,182,183 抵抗素子
170,171 オペアンプ
301 放熱係数算出モジュール
302 式作成モジュール
303 駆動回路
305 発熱量算出モジュール
312 入力装置
313 出力装置
322 熱伝導率算出モジュール
323 濃度算出モジュール
401 放熱係数記憶装置
402 式記憶装置
403 発熱量記憶装置
411 熱伝導率記憶装置
412 濃度記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の混合ガスのそれぞれを加熱する発熱素子と、
前記複数の混合ガスのそれぞれのガス温度の値、及び前記発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの前記複数の混合ガスのそれぞれの物性の値を計測する計測機構と、
前記複数の混合ガスのそれぞれの既知の発熱量の値、前記計測されたガス温度の値、及び前記複数の発熱温度に対して計測された物性の値に基づいて、前記ガス温度及び前記複数の発熱温度に対する前記物性を独立変数とし、前記発熱量を従属変数とする発熱量算出式を作成する式作成モジュールと、
を備える、発熱量算出式作成システム。
【請求項2】
前記物性が放熱係数又は熱伝導率である、請求項1に記載の発熱量算出式作成システム。
【請求項3】
前記複数の発熱温度の数が、少なくとも前記複数種類のガス成分の数から1を引いた数である、請求項1又は2に記載の発熱量算出式作成システム。
【請求項4】
前記式作成モジュールが、サポートベクトル回帰を用いて前記発熱量算出式を作成する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発熱量算出式作成システム。
【請求項5】
前記計測機構が、前記発熱素子の駆動電力を、前記発熱素子の発熱温度及び前記複数の混合ガスのそれぞれのガス温度の差で割ることにより、前記複数の混合ガスのそれぞれの放熱係数を算出する放熱係数算出モジュールを更に備える、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発熱量算出式作成システム。
【請求項6】
前記複数の混合ガスのそれぞれが天然ガスである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発熱量算出式作成システム。
【請求項7】
前記複数の混合ガスのそれぞれが、前記複数種類のガス成分として、メタン、プロパン、窒素、及び二酸化炭素を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発熱量算出式作成システム。
【請求項8】
複数種類のガス成分を含む複数の混合ガスを準備することと、
前記複数の混合ガスのそれぞれのガス温度の値を計測することと、
発熱素子を複数の発熱温度で発熱させたときの前記複数の混合ガスのそれぞれの物性の値を計測することと、
前記複数の混合ガスのそれぞれの既知の発熱量の値、前記計測されたガス温度の値、及び前記複数の発熱温度に対して計測された物性の値に基づいて、前記ガス温度及び前記複数の発熱温度に対する前記物性を独立変数とし、前記発熱量を従属変数とする発熱量算出式を作成することと、
を含む、発熱量算出式の作成方法。
【請求項9】
前記物性が放熱係数又は熱伝導率である、請求項8に記載の発熱量算出式の作成方法。
【請求項10】
前記複数の発熱温度の数が、少なくとも前記複数種類のガス成分の数から1を引いた数である、請求項8又は9に記載の発熱量算出式の作成方法。
【請求項11】
前記発熱量算出式を作成することにおいて、サポートベクトル回帰が用いられる、請求項8乃至10のいずれか1項に記載の発熱量算出式の作成方法。
【請求項12】
前記複数の混合ガスのそれぞれの物性の値を計測することが、
前記発熱素子の駆動電力を、前記発熱素子の温度及び前記複数の混合ガスのそれぞれのガス温度の差で割ることと、
を含む、請求項8乃至11のいずれか1項に記載の発熱量算出式の作成方法。
【請求項13】
前記複数の混合ガスのそれぞれが天然ガスである、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の発熱量算出式の作成方法。
【請求項14】
前記複数の混合ガスのそれぞれが、前記複数種類のガス成分として、メタン、プロパン、窒素、及び二酸化炭素を含む、請求項8乃至13のいずれか1項に記載の発熱量算出式の作成方法。
【請求項15】
発熱量が未知の計測対象混合ガスのガス温度の値、及び発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの前記計測対象混合ガスの物性の値を計測する計測機構と、
前記ガス温度及び前記複数の発熱温度に対する前記物性を独立変数とし、前記発熱量を従属変数とする発熱量算出式を保存する式記憶装置と、
前記発熱量算出式の前記ガス温度の独立変数及び前記複数の発熱温度に対する前記物性の独立変数に、前記計測対象混合ガスの前記ガス温度の値及び前記複数の発熱温度に対する前記計測対象混合ガスの前記物性の値を代入し、前記計測対象混合ガスの発熱量の値を算出する発熱量算出モジュールと、
を備える、発熱量測定システム。
【請求項16】
前記物性が放熱係数又は熱伝導率である、請求項15に記載の発熱量測定システム。
【請求項17】
前記複数の温度の数が、少なくとも、前記計測対象混合ガスに含まれる複数種類のガス成分の数から1を引いた数である、請求項15又は16に記載の発熱量測定システム。
【請求項18】
複数種類のガス成分を含む複数のサンプル混合ガスの発熱量の値と、前記複数のサンプル混合ガスのガス温度の値と、前記複数の発熱温度に対する前記複数のサンプル混合ガスの物性の値とに基づいて、前記ガス温度及び前記複数の発熱温度に対する前記物性を独立変数とし、前記発熱量を従属変数とする発熱量算出式が作成された、請求項15乃至17のいずれか1項に記載の発熱量測定システム。
【請求項19】
前記発熱量算出式を作成するために、サポートベクトル回帰が用いられた、請求項18に記載の発熱量測定システム。
【請求項20】
前記計測機構が、前記発熱素子の駆動電力を、前記発熱素子の発熱温度及び前記計測対象混合ガスのガス温度の差で割ることにより、前記計測対象混合ガスの放熱係数の値を算出する放熱係数算出モジュールを更に備える、請求項15乃至19のいずれか1項に記載の発熱量測定システム。
【請求項21】
前記複数のサンプル混合ガスのそれぞれが天然ガスである、請求項18又は19に記載の発熱量測定システム。
【請求項22】
前記複数のサンプル混合ガスのそれぞれが、前記複数種類のガス成分として、メタン、プロパン、窒素、及び二酸化炭素を含む、請求項18、19、21のいずれか1項に記載の発熱量測定システム。
【請求項23】
前記計測対象混合ガスが天然ガスである、請求項15乃至22のいずれか1項に記載の発熱量測定システム。
【請求項24】
前記計測対象混合ガスが、メタン、プロパン、窒素、及び二酸化炭素を含む、請求項15乃至23のいずれか1項に記載の発熱量測定システム。
【請求項25】
前記計測対象混合ガスが、アルカンを更に含む、請求項24に記載の発熱量測定システム。
【請求項26】
発熱量が未知の計測対象混合ガスのガス温度の値、及び発熱素子が複数の発熱温度で発熱したときの前記計測対象混合ガスの物性の値を計測することと、
前記ガス温度及び前記複数の発熱温度に対する前記物性を独立変数とし、前記発熱量を従属変数とする発熱量算出式を用意することと、
前記発熱量算出式の前記ガス温度の独立変数及び前記複数の発熱温度に対する前記物性の独立変数に、前記計測対象混合ガスの前記ガス温度の値及び前記複数の発熱温度に対する前記計測対象混合ガスの前記物性の値を代入し、前記計測対象混合ガスの発熱量の値を算出することと、
を含む、発熱量の測定方法。
【請求項27】
前記物性が放熱係数又は熱伝導率である、請求項26に記載の発熱量の測定方法。
【請求項28】
前記複数の発熱温度の数が、少なくとも、前記計測対象混合ガスに含まれる複数種類のガス成分の数から1を引いた数である、請求項26又は27に記載の発熱量の測定方法。
【請求項29】
複数種類のガス成分を含む複数のサンプル混合ガスの発熱量の値と、前記複数のサンプル混合ガスのガス温度の値と、前記複数の発熱温度に対する前記複数のサンプル混合ガスの物性の値とに基づいて、前記ガス温度及び前記複数の発熱温度に対する前記物性を独立変数とし、前記発熱量を従属変数とする発熱量算出式が作成された、請求項26乃至28のいずれか1項に記載の発熱量の測定方法。
【請求項30】
前記発熱量算出式を作成するために、サポートベクトル回帰が用いられた、請求項29に記載の発熱量の測定方法。
【請求項31】
前記計測対象混合ガスの物性の値を計測することが、
前記発熱素子の駆動電力を、前記発熱素子の発熱温度及び前記計測対象混合ガスのガス温度の差で割ることと、
を含む、請求項26乃至30のいずれか1項に記載の発熱量の測定方法。
【請求項32】
前記複数のサンプル混合ガスのそれぞれが天然ガスである、請求項29又は30に記載の発熱量の測定方法。
【請求項33】
前記複数のサンプル混合ガスのそれぞれが、前記複数種類のガス成分として、メタン、プロパン、窒素、及び二酸化炭素を含む、請求項29、30、32のいずれか1項に記載の発熱量の測定方法。
【請求項34】
前記計測対象混合ガスが天然ガスである、請求項26乃至33のいずれか1項に記載の発熱量の測定方法。
【請求項35】
前記計測対象混合ガスが、メタン、プロパン、窒素、及び二酸化炭素を含む、請求項26乃至34のいずれか1項に記載の発熱量の測定方法。
【請求項36】
前記計測対象混合ガスが、アルカンを更に含む、請求項35に記載の発熱量の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−209047(P2011−209047A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75852(P2010−75852)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】