説明

発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法および装置

【課題】通常の発酵原料である甘藷や馬鈴薯を用いた場合に比べて数倍も多く含まれている粗蛋白や粗脂肪の悪影響を回避し、簡単に発酵もろみからエタノールと水を分離、回収できる方法および装置の提供。
【解決手段】発酵もろみを減圧前処理塔に供給して不純物を分離し、エタノール含有成分を塔底より取り出し、これを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔の塔頂からエタノール成分を回収し、減圧もろみ塔の底部から水分を回収する第1工程、減圧もろみ塔からエタノール成分を蒸発器に送り、蒸発器より発生した蒸気を脱水装置で脱水して精製エタノールとして回収し、脱水装置で発生したエタノール・水の混合物を第1工程に戻す(供給する)第2工程、第1工程で回収した水分から固形物を分離し、水を回収する第3工程よりなり、かつこれらの工程のうち、第1工程と第3工程の運転温度を90℃以下、好ましくは80℃以下の温度で行うものであることを特徴とする発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵原料として非可食物であるもろみを使用したことにより通常の発酵原料である糖質原料(糖蜜など)や澱粉質原料(甘藷、馬鈴薯、とうもろこしなど)を用いた場合に比べて数倍も多く含まれている粗蛋白や粗脂肪の悪影響を回避し、簡単に発酵もろみからエタノールと水を分離、回収できる方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物資源(バイオマス)を原料とする燃料用バイオエタノールは、二酸化炭素削減による地球温暖化防止という観点から、また原油価格高騰という観点から、循環型バイオエネルギーとして脚光を浴びている。従来、飲料や工業用の発酵エタノールの原料は、糖質、澱粉質などの可食植物が用いられてきたが、経済性を考えれば、少なくとも燃料用のバイオエタノールは、稲わら、麦わらなどの草木系植物や間伐材などの木質系セルロースなどの非可食植物を原料とするバイオエタノールの生産が考えられる(非特許文献1参照)。従来からの発酵技術分野では、非可食植物からの効率的なエタノール変換技術が主な研究対象であったが、ブラジルなどの安価な原料に対抗できるような技術は未だ開発されていない。
一方、発酵もろみから燃料用アルコールを精製する技術についての最近の研究は、PSA吸着法(圧力スイング吸着法)や膜モジュール(蒸気透過法)の開発において顕著であった。特許文献1によれば、濃縮塔で80〜96容量%まで濃縮したエタノールを加圧蒸気として膜モジュールに供給すれば、水分はモジュールを透過し、99.5容量%以上のエタノールを得ることができ、それまでの共沸蒸留法、ゼオライト吸着法に比べて省エネルギーが達成できるとしている。また、昨今の欧米においては、脱水装置としてPSA吸着法が採用されている場合が多いが、前記膜モジュールに比べて操作が複雑で省エネルギーとは言えない。
【0003】
我が国における工業用エタノールの原料は、澱粉質の甘藷から出発して、戦後は糖質の廃糖蜜(砂糖の搾りかす)が主流となったが、生産コストと蒸留廃液処理の問題から原料転換が進み、1974年に粗留エタノールの輸入が認可されてからは、発酵、精製に関する改良の必要性が少なくなり、この分野の研究は停滞した。燃料用エタノールに関する技術開発は第1次オイルショクの影響が大きい1980年代から国家開発プロジェクトとして採用されてきたが、未だ実用化には至っていない(非特許文献1参照)。
【0004】
燃料用エタノールの世界生産量はこの5年間で約2.5倍に増加するなど大きな関心をもって見守られている。我が国においても、各省庁の支援の下に燃料用バイオエタノールの試験生産や実証試験が行われているが、いまだ十分なものとは言えない。
【0005】
エタノールの精製技術としては従来からスーパーアロスパス方式がよく知られている。この方式は、高純度のエタノールを精製する技術で、生成物中のあらゆる不純物(非特許文献2、3参照)を精密に分離し、飲料用や工業用(医療用、化学工業用の原料)の原料に適したエタノールを生産する蒸留方法や蒸留装置に関するものである。しかし、これらの方法や装置は、燃料用バイオエタノールの蒸留方法や蒸留装置としては複雑に過ぎ、経済性に欠ける面があるうえ、もろみ塔廃液の処理や省エネルギーについては全く配慮されていない。通常、バイオエタノール1リットルを生産、精製するためには約30リットルの水を必要とする。この水を地下から汲み上げたり、あるいは工業用水を使用し、発生する廃液は活性汚泥法などの生物処理をして工場外へ排出することは、また新たな環境破壊を引き起こすこととなる。
【0006】
非特許文献1の第25ページにはバイオエタノール精製用のパイロットプラント(発酵工程を含む)のフローシートが示されている。1つはNEDOにおける濃縮脱水プラントであり、他の1つは宮古島プラントのフローシートである。このフローシートでは常圧もろみ塔で固形物を除去し、濃縮塔で中沸点物を除去しているが、いずれのプラントも濃縮塔塔頂からの蒸気を膜(ゼオライト膜モジュール)脱水装置に供給して、省エネルギー脱水の有効性を示している。しかし、蒸留廃液や廃水処理のための対策や省エネルギー対策については全く何も提案されていない。
【0007】
また、常圧もろみ塔の塔内を流下するバイオエタノールを含む蒸留液は水の沸点である100℃以上に加熱されるので、塔内壁や気液接触装置(または内部構造物)に付着、析出、焦げ付きをおこすという問題がある。
【0008】
【非特許文献1】2007年12月5日発行、「化学工学」第71巻、第12号、第792〜836頁
【非特許文献2】1997年8月10日発行、「第9版アルコールハンドブック」第190〜230頁
【非特許文献3】1966年2月20日発行、「蒸留工学ハンドブック」第529〜587頁
【特許文献1】特開2006−263561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、主として非可食植物を原料とする発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、発酵もろみを減圧もろみ塔に導入し、運転温度を90℃以下に保って減圧もろみ塔の頂部からエタノール成分を回収することを特徴とする発酵もろみからエタノールを回収する方法に関する。
本発明の第2は、発酵もろみを減圧前処理塔に供給して不純物を分離し、エタノール含有成分を取り出し、これを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔からエタノール成分を回収することおよびこれら全ての工程を、90℃以下で実施することを特徴とする発酵もろみからエタノールを回収する方法に関する。
本発明の第3は、発酵もろみを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔からエタノール成分を回収し、減圧もろみ塔の底部から水分を回収する第1工程、前記回収したエタノール成分を蒸発器に送り、蒸発器から発生したエタノール・水の混合蒸気を脱水装置を介して脱水した精製エタノールと含水エタノールに分離し、含水エタノールを第1工程のもろみ塔に戻す第2工程、第1工程で回収した水分を減圧蒸発装置を用いて水と固形物とを分離し、水を回収する第3工程、よりなり、かつ第1工程と第3工程を90℃以下で操作することができる減圧下で実施するものであることを特徴とする発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法に関する。
本発明の第4は、発酵もろみを減圧前処理塔に供給して不純物を分離し、エタノール含有成分を取り出し、これを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔からエタノール成分を回収し、減圧もろみ塔の底部から水分を回収する第1工程、前記回収したエタノール成分を蒸発器に送り、蒸発器から発生したエタノール・水の混合蒸気を脱水装置を介して脱水した精製エタノールと含水エタノールに分離し、含水エタノールを第1工程のもろみ塔に戻す第2工程、第1工程で回収した水分を減圧蒸発装置を用いて水と固形物とを分離し、水を回収する第3工程、よりなり、かつ第1工程と第3工程を90℃以下で操作することができる減圧下で実施するものであることを特徴とする発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法に関する。
本発明の第5は、請求項3または4の第2工程における蒸発器に熱を供給し、これにより発生したエタノール・水の混合蒸気から水を脱水後、エタノール蒸気を前記第1工程および/または第3工程の熱源とするとともに請求項3または4の第3工程における減圧蒸発装置に熱を供給し、これにより発生した蒸気をエゼクターで吸引・昇圧・昇温して前記第1工程の熱源とするものである請求項3または4記載の発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法に関する。
本発明の第6は、(A)減圧もろみ塔よりなる発酵もろみからのエタノール分離手段、(B)蒸発器と脱水装置よりなるエタノール脱水手段、(C)ろ過装置と減圧蒸発装置よりなる水を回収する手段、および(D)前記(A)と(C)の手段を90℃以下で操作することができる減圧手段、から構成されていることを特徴とする発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置に関する。
本発明の第7は、(A)減圧前処理塔および減圧もろみ塔よりなる発酵もろみからのエタノール分離手段、(B)蒸発器と脱水装置よりなるエタノール脱水手段、(C)ろ過装置と減圧蒸発装置よりなる水を回収する手段、および(D)前記(A)と(C)の手段を90℃以下で操作することができる減圧手段、から構成されていることを特徴とする発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置に関する。
本発明の第8は、発酵もろみに含まれるガス成分、低沸点不純物および中沸点不純物を分離するサイドカットノズルを具備し、減圧操作で塔全体の最高沸点を90℃以下で操作して発酵もろみに含まれる蛋白質などの泥状固形物が装置の内壁に付着、焦げ付き(スケーリング)を防止し、発酵もろみ中のエタノールを50〜95容量%に濃縮するエタノール分離手段(A)をもつ請求項6記載の発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置に関する。なお、サイドカットノズルとは、蒸留塔の中間棚から抜き出すノズルである。中間棚に液相を形成し、ここに溜まった液を塔壁面に取付けたノズル(管)から抜き出すことがサイドカットである。
本発明の第9は、発酵もろみに含まれるガス成分、低沸点不純物および中沸点不純物を除去する減圧前処理塔、中沸点不純物を分離するサイドカットノズルを具備し、減圧操作で塔全体の最高沸点を90℃以下で操作して発酵もろみに含まれる蛋白質などの泥状固形物が装置の内壁に付着、焦げ付き(スケーリング)を防止し、発酵もろみ中のエタノールを50〜95容量%に濃縮するエタノール分離手段(A)をもつ請求項7記載の発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置に関する。
【0011】
非可食植物をエタノール発酵した本発明における発酵もろみには、低沸点成分より列記すると、炭酸ガスなどのガス成分、アルデヒド類・アセトンなどのエタノールの沸点より低い沸点をもつ低沸点不純物、プロピルアルコール・ブチルアルコール・アミルアルコールなどその沸点はエタノールと水の中間の沸点をもつ中沸点不純物(フーゼル油分は中沸点不純物と同じ沸点領域をもつ物質であるが、酢酸ブチルなど高級アルコールと脂肪酸エステルの混合物で水に対する溶解度が低く2液層を形成するためデカンターで分離できる物)、原料に含まれ発酵により変質しなかったセルロースや発酵を行う微生物(酵母菌など)の残骸である蛋白質・脂肪などの水より沸点の高い高沸点物または不揮発性の固形物分が水と混在している。
【0012】
本発明は、発酵もろみに含まれる付着生成成分が装置内に存在する前記(A)および(C)の工程を90℃以下、好ましくは80℃以下、とくに30〜80℃で操作することができる減圧下で実施することにより、処理塔内壁および内部構造物への不純物の付着、焦げ付き(スケーリング)を防止するとともに、前記(A)、(B)、(C)の工程における温度差または機械的手段を用いて熱の効用化を図るものである。
【0013】
また、本発明における熱の供給は3箇所であり、その1は第2工程の蒸発器のリボイラーにスチームを供給し、エタノール・水混合蒸気を発生し、脱水装置へ供給し、脱水装置から排出するエタノール蒸気(通常、エタノール含有量99.5容量%以上)を、第1工程および/または第3工程の熱源として使用する。その2は第3工程の第1蒸発缶リボイラーに熱を供給する際、スチームエゼクターを介して蒸発した水蒸気を昇圧し、前記蒸発器リボイラーに戻し、熱源として循環再使用する。その3は第3工程の最終蒸発缶から発生する蒸気をスチームエゼクターで昇圧し、第1工程の熱源として使用する。
【0014】
さらに、本発明においては、回収した水を100%再利用する点も重要なポイントである。
【0015】
本発明において、プロセスを90℃以下、好ましくは80℃以下で操作するために(A)の蒸留装置と、(C)工程の蒸発装置の内部圧力を減圧に維持している。その手段としては検出部と調節部および操作部から構成される制御機構(計装)により圧力および/または温度制御をおこないプロセスの温度が90℃以下、好ましくは80℃以下になるように制御する。
前記検出部とは、測定個所における実際の温度を測定する部署であり、具体的には温度計である。
前記調節部とは、検出部で測定した温度が所定の温度からはずれた場合、所定の温度に是正するためのコントロールシステムである。
前記操作部とは、現場の配管に取り付けられた弁で、調節部の指示に従い、弁の開度を変えて検出部おける温度を所定の温度に修正するように機能する。例えば、温度が高すぎるときは、開度を絞って加える熱量を少なくする。
【0016】
図1は、本発明の基本的なブロック図を示す。図1の(A)で示すエタノール分離手段にバイオエタノールを含む発酵もろみ(エタノール含有割合は通常5〜8%、多くても15%程度が限度である)を供給し、ここでエタノールは塔上部(塔頂部を含む)からエタノール含有蒸気(エタノール濃度50〜95容量%)として取り出し、低沸点不純物は塔頂部から、中沸点不純物は塔中段から取り出す。
図1の(B)で示すエタノール脱水手段ではエタノール濃度50〜95容量%のエタノール水溶液を再蒸発し、脱水装置で99.5容量%以上のエタノールと少量のエタノールを含む希薄エタノール水溶液(例えば、30容量%濃度のもの)に分離する。
図1の(C)で示す水の回収工程では、液中に含まれている固形物または液に溶解している高沸点物を除去し、水を回収する。
【0017】
前記(A)工程における減圧もろみ塔においては、系中に含まれている蛋白質、脂肪、セルロースなどを除去する。非特許文献1、2、3のエタノール精製フローシートに示すように通常の糖や澱粉を原料としたエタノールの精製においては、常圧もろみ塔、常圧濃縮塔など常圧操作でもろみの処理を行っているのが通常である(理由は設備費が高くなる)。本発明のように非可食植物を原料とする発酵もろみには、エタノール以外の不純物の割合が高いので、常圧もろみ塔を減圧もろみ塔2とすること、更には減圧もろみ塔2の前に減圧前処理塔1を設けることは大変有意義である。減圧前処理塔1を設けることにより、処理液に含まれていた炭酸ガスなどのガス、低沸点不純物、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコールなどの中沸点不純物の分離を容易にすることができる。また減圧前処理塔1の濃縮部にホットデカンター(チムニートレイ)を設け、フーゼル油などの不純物を抜き出すこともできる。
減圧もろみ塔は、従来常圧で操業されていたが、本発明では、系が90℃以下、好ましくは80℃以下、とくに好ましくは70℃以下の温度とする減圧下で操業することが重要である。これにより、系中に含まれている蛋白質が熱変性を受けて塔内壁や内部構造物に凝固、固化、焼き付けをおこすことを防止することができる。
【0018】
減圧前処理塔および減圧もろみ塔の構造は、非特許文献3のp296〜p306に詳細に記述されているように、通常、一般的に用いられている気液接触機構を使用するが、非特許文献3では、泡鐘トレー、多孔板トレーなどの棚段塔や充填物が紹介されている。
本発明の減圧前処理塔、減圧もろみ塔は、前記した系中に含まれる蛋白質が熱変性を受け、塔内壁または内部構造物に凝固、固化、焼け付きが発生し、運転を停止する事態を予測し、これらの現象が発生(常圧塔の場合必ず発生する)した場合に掃除などメンテナンスが行ない易い構造を選定することが重要である。非特許文献3から選定すれば、充分な効果を期待するような機構は無いが、その中で、付着に強く、掃除が行ない易く手間が掛かり難いを選定基準とする泡鐘トレーが適している。棚間隔を大きくし、掃除口を介して掃除ができる構造とすることが好ましい。
【0019】
前記(B)のエタノール脱水手段として用いる脱水装置は、エタノール水溶液中に含まれている水を脱水・分離できるものであればとくに制限はない。たとえば通常の共沸蒸留塔法や液浸透膜法や蒸気浸透膜法による脱水法、あるいは圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption:PSA)などを挙げることができる。
とくに蒸気浸透膜を用いると従来の共沸蒸留塔による脱水方法に比べて大幅な省エネルギーを達成することができる。蒸気浸透膜の材質は、有機膜製でも無機膜製でもよい。分子篩により水を除去してエタノールを99.5容量%以上とすることができる。分子篩を無機膜のゼオライト膜で説明すると、エタノールの分子の大きさは0.5ナノメートル、水のそれは0.3ナノメートルであるから、0.4ナノメートルの空孔を持つゼオライト膜を使用すれば水の分子は空孔を通過し、エタノールの分子は通過できないので水と分離することができる。膜の内外の圧力差が大きいほど透過量が多くなるので加圧・真空操作となる。
加圧・真空操作とは、脱水効率を上げるため、ゼオライト膜の一方を加圧とし、他方を真空にして圧力差をつける操作である。本発明の場合、一方は0.3MPaに加圧した50〜95容量%のエタノール蒸気であり、他方は50mmHgの真空とすることにより脱水する。この膜を通過する蒸気は例えば30容量%のエタノール蒸気であり、通過しないエタノールは99.5容量%まで脱水される。
この(B)工程から得られたエタノールは通常99.5容量%以上の濃度を有する。(B)工程では減圧もろみ塔2により留出した50〜95容量%のエタノール水溶液には蛋白質などスケーリング要因物質が蒸留による精製のため混入していない。そのため系の温度を90℃以下とする必要性がない。それよりも効率(加圧による)を求める方にメリットがある。
【0020】
(C)における水の回収手段は、基本的には、水を主体とした溶液に含まれている固形物を除去することと水を蒸発させて精製することである。固形物の除去手段としては、まず比較的大きな固形物を除去する手段と小さな固形物を除去する手段とを組み合せることが好ましい。たとえば比較的大きな固形物を分離する回転式遠心分離機とそれでは捕捉できなかった微細固形物を分離するための精密ろ過器(例えば、セラミック式精密ろ過器、商品名ゼータプラス)を組み合せることが好ましい。これにより、その後段に設けられた水を蒸発させて精製するための蒸発装置の洗浄回数を減少させることができる。前記固形分分離装置の後段に設ける蒸発装置としては、機械的再圧縮機(Mechanical Vaper Recompression:MVR)、ヒートポンプ、蒸気エゼクターなどの蒸気を再圧縮したり、効率化を意図した蒸発装置などがあり、とくに好ましい蒸発装置としては多重効用式蒸発装置を挙げることができる。
多重効用式蒸発装置を用いる場合、蒸気の効用化を最大限行なうことが必要である。4重効用式蒸発装置とした場合、第1蒸発缶から蒸発する蒸気の約50%を供給スチームでスチームエゼクターを使用して圧縮昇圧し、第1蒸発缶の加熱源として使用する。更に最終缶(第4蒸発缶)から蒸発する蒸気を供給スチームで多段(例えば2段)のスチームエゼクターを使用して圧縮昇圧して(A)の減圧塔(減圧前処理塔・減圧もろみ塔)の加熱に使用して省エネルギー化を計ることが好ましい。
【0021】
多重効用式蒸発装置で回収した用水は、発酵槽の仕込み水、ボイラーへの供給水、冷却水などとして発酵工程を含むバイオ工場全体で100%再利用することができる。
【0022】
前記ろ過器などで発生した固形物は、ボイラーの燃料とすることにより、バイオ工場全体としての廃棄物を完全になくすることができる。
【0023】
図2は、本発明にかかる1具体例として示す「発酵もろみからエタノールと水の分離・回収工程図」である。さらに具体的にはバイオマスを原料とした発酵もろみ1000リットル/時を処理し、99.5容量%以上のバイオエタノールを精製するための概略フローシートである。
図2における(A)で示す領域は、発酵もろみから不純物を分離し、85容量%エタノールを回収できるエタノール分離手段をもつ工程であり、減圧前処理塔1と減圧もろみ塔2より構成されている。
図2における(B)で示す領域は、エタノール脱水工程であり、85容量%エタノールを脱水し、99.5容量%以上の濃度のエタノール(実質的に無水エタノールである)を回収するための工程であり、蒸発器3と蒸気浸透膜式脱水装置4から構成されている。
図2における(C)で示す領域は、水の回収手段をもつ工程であり、減圧もろみ塔2の塔底から排出された液状物を処理するためのろ過装置5と多重効用式蒸発装置6より構成されている。
このフローシートでは、熱源を有効利用するため図示していない熱交換器を具備していることは当然である。
【0024】
バイオマスを原料とする図示していない発酵工程から得られた発酵もろみは、通常エタノール9.5容量%、水84.5容量%、固形分4.2容量%、溶解している不純物1.8容量%(これらの値はすべて平均値であり、概略値である。バイオマスの種類により異なってくる。)よりなるものである。
【0025】
減圧前処理塔1に供給された発酵もろみは、そこに溶解している不純物(たとえば炭酸ガス、アルデヒド類、低沸点不純物、フーゼル油など)の大半(17リットル/時)を減圧前処理塔1の上部で濃縮、分離される。不純物を十分濃縮することによりエタノールの損失はほとんどなかった。減圧もろみ塔2の頂部から留出するエタノール濃度は85容量%と低く設定し、必要とするエネルギーを少なくするため還流比を下げて、省エネルギー化を計ることができた。減圧前処理塔1も減圧もろみ塔2も共に減圧で制御していて、装置にかかる温度を70℃以下に抑えていたため蛋白質などの塔内付着を抑えることができた。
【0026】
減圧もろみ塔2より留出した85容量%エタノール(124.3リットル/時)は蒸発器3において0.3Mpaの加圧下で再蒸発し、有機膜製の蒸気浸透膜式脱水装置4へ連続的に送られ、約37容量%エタノール水溶液の透過蒸気29リットル/時と99.5容量%まで脱水されたエタノール95.2リットル/時(収率99.9%以上)に分離することができた。このようにして得られたエタノールは、日本自動車技術会の自主規格であるJASO規格をクリアーできた。一方、透過蒸気(37容量%の蒸気の状態で膜を透過する)は凝縮して減圧もろみ塔2に返送し、再濃縮した。
【0027】
減圧もろみ塔2の塔底より排出される固形物濃度約4.6%の廃液(907リットル/時)は、横置きデカンタータイプの遠心分離機13で粗固形物を、精密ろ過器14で細固形物を、固形物として24リットル/時(固形物が24%濃度とすると175リットル/時)の割合で分離した後、多重効用式蒸発装置6に供給した。多重効用式蒸発装置6は、第1、第2、第3、第4の蒸発缶で構成されており、それぞれの蒸発温度は85℃、76℃、66℃、51℃といったように、後段の真空ポンプ7を調整することにより制御される。このように段階的に温度差を設けることにより、1つの熱を何回も有効利用できる。前記温度差は10℃程度あれば充分である。第1蒸発缶から発生する蒸気の約55%はスチームエゼクター8で再圧縮され、第1蒸発缶の加熱源として使用される。第2〜第4の蒸発缶の熱源は前の缶の蒸気を使用する(即ち第2蒸発缶の加熱は第1蒸発缶の蒸発蒸気であり、第3蒸発缶のそれは第2蒸発缶の蒸発蒸気であり、第4蒸発缶は第3蒸発缶の蒸発蒸気を使用する)。第4蒸発缶の蒸発蒸気は通常コンデンサーで凝縮するが、本発明では、第4蒸発缶蒸発蒸気の約25%を2段圧縮スチームエゼクター9で昇圧し(A)工程の減圧蒸留塔(減圧前処理塔1、減圧もろみ塔2)の加熱源として使用した。
第4蒸発缶から抜き出した濃縮液は、約60リットル/時(約14.2倍濃縮に相当)まで濃縮された。また減圧前処理塔1に供給された原液1000リットル/時のうち、水660リットル/時は多重効用式蒸発装置6で蒸発し、水として回収され、再利用される。
第1蒸発缶でエゼクターを介して使用するスチーム量は140kg/時であり、660÷140=4.7の効用化を実現した。なお、多重効用式蒸発装置として4段を採用しているのは、第1蒸発缶の上限温度が90℃以下(たとえば85℃)であり、第4蒸発缶の蒸発蒸気を凝縮する冷却水の温度が35℃(夏場の再冷却水温度)の場合の経済的に最適な段数とした。
通常、蒸発缶で廃液を濃縮する場合、内部の汚れ状態により温水による洗浄(CIP)を行なう。焼酎の廃液濃縮では通常1日当り1回で行う必要があったが、前記精密ろ過器の使用により、1週間に1回の洗浄でもろ過能力がダウンせず、安定した操業を可能とした。
【0028】
この実施例においては、バイオマスを原料とする発酵もろみ1000リットル/時を処理し、99.5容量%以上のバイオエタノールを精製するのに使用する熱源(スチーム)の量は、(B)工程の蒸発器3では83kg/時であり、(C)工程のエゼクター(2段圧縮スチームエゼクター9)では233kg/時であり、その他の熱源を加えてトータル316kg/時であった。99.5容量%以上のバイオエタノール1リットル/時当りの所要スチーム量は、316÷95.2=3.32kgとなり、(C)工程を含んでいない従来のエタノール精製に要する単価と同程度とすることができた。
【0029】
図3は、図2に示す「発酵もろみからエタノールと水の分離、回収工程」のうちの(A)工程の拡大図である。
図3は、減圧前処理塔1と減圧もろみ塔2から構成されているが、減圧前処理塔1を省くこともできる。減圧前処理塔1を省く場合は図4に示すように、原料の発酵もろみは減圧もろみ塔2の中段に供給し、ガス分、低沸点不純物の全ては塔頂へ移動し、塔頂に集積するのでコンデンサー10で凝縮し系外に抜き出す。またフーゼル油に相当する中沸点物不純物は棚から直接抜き出して、外部のデカンター11で分離することができる。エタノールは50〜95容量%まで濃縮し、塔頂より数段下方の棚上より沸点の温度で液状の状態で抜き出される。水(常圧で100℃)あるいは水とエタノールの混合物の沸点(常圧で78℃)より高い物質または不揮発性の固形物分は、減圧もろみ塔2の底部から排出される。
このような場合は一本の塔でガス分(塔頂)、低沸点不純物(塔頂)、エタノール(塔中段上方)、中沸点不純物(塔中段)、水と水より沸点の高い高沸点物または不揮発性の固形物分(塔底)の5つの種類に分離する必要があり、とくに中沸点不純物を塔中段に集積することが難しいので、前処理塔を持つことが望ましい。
減圧前処理塔1を設ける場合は、図3において、原料の発酵もろみは減圧前処理塔1の中段に供給し、ガス分・低沸点不純物の全て・中沸点不純物の大部分を塔上方に移行させ、コンデンサー12で凝縮した一部を低沸点物不純物として系外へ分離し、チムニートレイで抜き出したフーゼル油相当品はデカンター11で分離する。塔底部に流下する中沸点不純物の微量部分を含んだエタノール水溶液を、後段の減圧もろみ塔2の中段に供給し、エタノールを上方に移行させ、凝縮する。塔中段に集積するフーゼル油相成分はデカンター11にサイドカットする。(B)工程の蒸気浸透膜式脱水装置4で発生する透過エタノールはこの塔の中間部に供給する。
塔の内部構造は、前記したように泡鐘式棚段塔が望ましい。リボイラー・コンデンサーの型式は、多管円筒型熱交換器、プレート式熱交換器など一般に用いられている熱交換器を使用している。リボイラーの熱交換方式は、循環式、流下薄膜式など伝熱効率の高いことが望ましい。リボイラー(1)および(2)は(C)工程の第4蒸発缶から蒸発する蒸気をスチームエゼクターで吸引昇圧した蒸気で塔底液を加熱蒸発する。リボイラー(3)は(B)工程の脱水されたエタノール蒸気で加熱する。減圧前処理塔1のチムニートレイは棚上に静止液相を形成し、フーゼル油(高級アルコールと脂肪酸エステルの混合物)などエタノール・水に溶解せず棚の上で2液層を形成する。フーゼル油は上層に浮くので回収が容易にできる。デカンター11は棚の組成(温度により組成が変る)を推定し、サイドカットとして液を抜き、冷却後デカンター11で2液層に分離し、上層は系外へ、下層は塔に戻す。
【0030】
図5は、図2に示す「発酵もろみからエタノールと水の分離、回収工程」のうちの(B)工程の拡大図である。
本図は、蒸発器3および蒸気浸透膜式脱水装置4の主機器により構成されているが、脱水装置としての機能を持っていれば他の脱水装置を使用することが出来る。本図を基に説明する。
(A)エタノール分離工程の減圧もろみ塔2で85容量%まで濃縮されたエタノール水溶液は蒸発器3に供給され、リボイラーで加熱・蒸発する。蒸発器3は0.3Mpaに加圧されているので蒸気の温度は130℃である。この蒸気を蒸気浸透膜式脱水装置4に供給する。供給した85容量%のエタノール水溶液は、膜を透過する水の含有率が高いエタノール水溶液(減圧にて透過速度を上げている)と膜を透過しない99.5容量%のエタノールに分離する。透過した水の含有率が高いエタノール水溶液は凝集し、(A)工程の減圧もろみ塔2に戻す。透過しない脱水されたエタノール蒸気は、(A)工程または/および(C)工程の加熱源として効用化を計る。
蒸発器3は供給されたエタノール水溶液をその組成のまま飛沫同伴を少なくして蒸発することができれば良く、通常一般に用いられている円筒縦型圧力容器が好ましい。リボイラー(4)は、スチームを供給し、その熱量を伝熱面を介して液と熱交換することによって蒸発器3の液を加熱蒸発する機能をもち、前項で説明したリボイラー(1)(2)(3)と同じ構造で良い。蒸気浸透膜式脱水装置4として用いた有機膜は特殊有機高分子膜(芳香族ポリイミド膜)は水蒸気は透過しやすく、エタノールなどの有機化合物蒸気は透過しにくい性質がある。これを管状に成型した中空糸膜(ストロー状の膜を束ねて、それをケースに入れ、ストローの中の含水エタノール蒸気を水蒸気とエタノールに分離し、水蒸気はストローを形成している膜を通って外にのがれ、エタノールのみがストロー中を流れることにより、エタノールと水を分離することができる)を多管式熱交換器の如くモジュール化した構造である。モジュール管の内側に0.3Mpaの圧力で含水エタノール蒸気を供給し、外側は真空ポンプ2で減圧にして透過量を上げることができる。本脱水手段として有機膜の1例であるが、無機膜でも差し支えない。
【0031】
図6は、図2に示す「発酵もろみからエタノールと水の分離、回収工程」のうちの(C)工程の前段部分の拡大図である。
(A)工程の減圧もろみ塔2底部より排出される廃液には、固形分を約4.6容量%含んでいる。このままの状態で水を蒸発濃縮させると付着など装置の安定な運転を阻害する。故に、蒸発濃縮前に機械的な分離を行なう必要がある。排液はまず粗固形物ろ過器13に供給し、粗い固形物を遠心力を利用して分離する。粗固形物ろ過器13は一般に市販されている遠心力を利用して液体と固体を分離するろ過器であれば良い。構造は連続処理が可能な横型スクリュー式デカンターが適しているが、縦型デカンターやバケット式の遠心分離器でも可能である。粗固形物ろ過器13は遠心力のみで固形物を分離する機構であるので細かくて比重が軽い固形物の分離はできない。粗固形物ろ過器13の後方に設置する精密ろ過器14は、この固形物を分離ろ過することを目的としている。この精密ろ過器14は0.1μmに達する菌類・サブミクロンの微粒子などが分離できる精密ろ過器が好ましく、例えば、生ビールなどの食品ろ過に用いられているフィルターカートリッジを組み込みユニット化したろ過器、0.1μmの細孔を有するモジュール化されたセラミックフィルターなどがある。本発明ではフィルターカートリッジのユニットを使用しているが機能が満たされれば他の精密ろ過器も使用できる。
【0032】
図7は、図2に示す「発酵もろみからエタノールと水の分離、回収工程」のうちの(C)工程の後段部分の拡大図である。
(C)工程前段の精密ろ過器14で固形物を分離された液は多重効用式蒸発装置6の第1蒸発缶に供給される。この蒸発装置で約93容量%の水を蒸発し、蒸発した水は、前工程の発酵仕込水など再利用される。濃縮液には濃縮前には溶解していた水以外の物質が約50容量%混入している。このまま捨てれば有害ではないが、ごみ問題を引き起こす。ボイラーを持っていれば補助燃料として処分できる。通常、濃縮液は濃縮し、濃縮廃物として焼却処分する。多重効用式蒸発装置6の詳細な説明は化学工学関連の学術誌に単位操作として詳細に説明されている。本発明では、蒸発温度を低くするため、4つの蒸発缶を連結した4重効用蒸発装置とした。蒸発する液と加熱するスチームの伝熱方法として図では蒸発缶内に伝熱管を配したカランドリヤ式で示しているが、蒸発缶外設置のリボイラーでも構わない。蒸発缶外設置の場合、プレート式熱交換器、多管円筒型熱交換器などがあり、蒸発する液は自然循環型、強制循環型などがある。又多管円筒型熱交換器を細長くして、縦置き設置する薄膜流下式加熱器としても良い。効用化を優先するため、供給するスチームは、第1蒸発缶の蒸発蒸気を吸引するため第1スチームエゼクター8に供給する。このエゼクターにより必要とするスチーム量はエゼクターを使用しない場合の43%で賄う事ができる。第1蒸発缶を蒸発した蒸気は第1スチームエゼクター8の供給と第2蒸発缶の加熱スチームに2分される。第2蒸発缶を蒸発した蒸気は第3蒸発缶の加熱蒸気に、第3蒸発缶を蒸発した蒸気を第4蒸発缶の加熱蒸気として利用する。第4蒸発缶を蒸発した蒸気は、通常は凝縮されるが、本発明では、2段圧縮スチームエゼクター9を使用して蒸気を吸引して、51℃の蒸気を80℃まで昇圧・昇温し(A)工程で必要とするスチームとして使用する。この2段圧縮スチームエゼクター9の使用により、(A)工程の減圧もろみ塔2の加熱スチームを約30%削減することができる。図7では、第2蒸発缶に加熱用のリボイラーを設け、(B)工程からでる精製エタノールの蒸気を熱源としている。このリボイラーの設置は第2蒸発缶に限られたものではない。第1蒸発缶が最善であるが第1蒸発缶の加熱伝熱面積が第2、第3、第4蒸発缶の伝熱面積に比較して大きくなるため装置上のバランスを考慮した。
【発明の効果】
【0033】
(1)請求項1の発明の効果:もろみ塔を減圧操作し、塔全体にかかる温度を90℃以下にすることにより塔壁面および塔内構造物に発酵もろみ中に含まれる蛋白質などの熱に起因した変性による付着・焦付き(スケーリング)を防止することができる。塔壁面および塔内構造物スケーリングは即装置の運転不可をまねきかねない。
(2)請求項2、4の発明の効果:減圧もろみ塔の前に減圧前処理塔を設けたことにより、請求項1の効果に加えて、エタノールを分離する前に低沸点不純物(炭酸ガスを含む)、中沸点不純物、を除去することができるのでエタノールの分離が安定して行なうことができる。
(3)請求項3の発明の効果:発酵もろみ中に含まれる蛋白質などによる付着・焦付き(スケーリング)の発生する工程は第1工程、第3工程である。この第1、第3工程を減圧操作で行なうことでスケーリングを防止することができる。第3工程では低温域で機械的な固形物分離を行なうことで第1工程よりスケーリング発生が懸念される濃縮装置のスケーリングを防止した。第2工程の濃縮エタノールは(A)工程の減圧もろみ塔で固形分の分離が行なわれているのでスケーリング物質は含んでいない。故に脱水装置として高効率を引き出すため、加圧操作を行なうことができた。
(4)請求項4の発明の効果:第1工程において、減圧もろみ塔の前段に減圧前処理塔を設けることにより、ガス分(塔頂)、低沸点不純物(塔頂)、エタノール(塔中段上方)、中沸点不純物(塔中段)、水とそれより沸点の高い成分および不揮発性の固形分(塔底)の5成分を効率よく分離することができる。とくに中沸点不純物を1つの塔で完全に分離することは困難であるため、減圧前処理塔の設置は中沸点不純物の完全除去に極めて有効である。
(5)請求項5の発明の効果:第2工程の蒸発器に供給した熱をエタノール蒸気を介して第1工程および/または第3工程の熱源として再利用する。また、第3工程の最終蒸気を昇圧・昇温し第1工程の熱源として再利用する。このように1つの熱を装置の温度差を利用して効用化(再利用)を図り、省エネルギーを達成した。
(6)請求項6、7の発明の効果:(A)、(B)、(C)、(D)の独立した工程(それぞれの工程は独立して運転可能体制を構築する)を有機的につなぎ、熱の有効利用、安定した運転ができる。
(7)請求項8、9の発明の効果:エタノール分離手段である塔からのガス成分・低沸点不純物・中沸点不純物の分離を減圧操作で行なうことができた結果、スケーリングを防止することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の概略ブロック図である。
【図2】本発明にかかる1具体例の「発酵もろみからエタノールと水の分離、回収工程」を示す。
【図3】図2のうちの(A)工程の詳細図である。
【図4】図2のうちの(A)工程において、減圧前処理塔を省き減圧もろみ塔のみを使用するケースの詳細図である。
【図5】図2のうちの(B)工程の詳細図である。
【図6】図2のうちの(C)工程前段の詳細図である。
【図7】図2のうちの(C)工程後段の詳細図である。
【符号の説明】
【0035】
1 減圧前処理塔
2 減圧もろみ塔
3 蒸発器
4 蒸気浸透膜式脱水装置
5 ろ過装置
6 多重効用式蒸発装置
7 真空ポンプ
8 第1スチームエゼクター
9 2段圧縮スチームエゼクター
10 コンデンサー
11 デカンタ
12 コンデンサー
13 粗固形物ろ過器
14 精密ろ過器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵もろみを減圧もろみ塔に導入し、運転温度を90℃以下に保って減圧もろみ塔の頂部からエタノール成分を回収することを特徴とする発酵もろみからエタノールを回収する方法。
【請求項2】
発酵もろみを減圧前処理塔に供給して不純物を分離し、エタノール含有成分を取り出し、これを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔からエタノール成分を回収することおよびこれら全ての工程を、90℃以下で実施することを特徴とする発酵もろみからエタノールを回収する方法。
【請求項3】
発酵もろみを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔からエタノール成分を回収し、減圧もろみ塔の底部から水分を回収する第1工程、前記回収したエタノール成分を蒸発器に送り、蒸発器から発生したエタノール・水の混合蒸気を脱水装置を介して脱水した精製エタノールと含水エタノールに分離し、含水エタノールを第1工程のもろみ塔に戻す第2工程、第1工程で回収した水分を減圧蒸発装置を用いて水と固形物とを分離し、水を回収する第3工程、よりなり、かつ第1工程と第3工程を90℃以下で操作することができる減圧下で実施するものであることを特徴とする発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法。
【請求項4】
発酵もろみを減圧前処理塔に供給して不純物を分離し、エタノール含有成分を取り出し、これを減圧もろみ塔に導入し、減圧もろみ塔からエタノール成分を回収し、減圧もろみ塔の底部から水分を回収する第1工程、前記回収したエタノール成分を蒸発器に送り、蒸発器から発生したエタノール・水の混合蒸気を脱水装置を介して脱水した精製エタノールと含水エタノールに分離し、含水エタノールを第1工程のもろみ塔に戻す第2工程、第1工程で回収した水分を減圧蒸発装置を用いて水と固形物とを分離し、水を回収する第3工程、よりなり、かつ第1工程と第3工程を90℃以下で操作することができる減圧下で実施するものであることを特徴とする発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法。
【請求項5】
請求項3または4の第2工程における蒸発器に熱を供給し、これにより発生したエタノール・水の混合蒸気から水を脱水後、エタノール蒸気を前記第1工程および/または第3工程の熱源とするとともに請求項3または4の第3工程における減圧蒸発装置に熱を供給し、これにより発生した蒸気をエゼクターで吸引・昇圧・昇温して前記第1工程の熱源とするものである請求項3または4記載の発酵もろみからエタノールと水を分離、回収する方法。
【請求項6】
(A)減圧もろみ塔よりなる発酵もろみからのエタノール分離手段、(B)蒸発器と脱水装置よりなるエタノール脱水手段、(C)ろ過装置と減圧蒸発装置よりなる水を回収する手段、および(D)前記(A)と(C)の手段を90℃以下で操作することができる減圧手段、から構成されていることを特徴とする発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置。
【請求項7】
(A)減圧前処理塔および減圧もろみ塔よりなる発酵もろみからのエタノール分離手段、(B)蒸発器と脱水装置よりなるエタノール脱水手段、(C)ろ過装置と減圧蒸発装置よりなる水を回収する手段、および(D)前記(A)と(C)の手段を90℃以下で操作することができる減圧手段、から構成されていることを特徴とする発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置。
【請求項8】
発酵もろみに含まれるガス成分、低沸点不純物および中沸点不純物を分離するサイドカットノズルを具備し、減圧操作で塔全体の最高沸点を90℃以下で操作して発酵もろみに含まれる蛋白質などの泥状固形物が装置の内壁に付着、焦げ付き(スケーリング)を防止し、発酵もろみ中のエタノールを50〜95容量%に濃縮するエタノール分離手段(A)をもつ請求項6記載の発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置。
【請求項9】
発酵もろみに含まれるガス成分、低沸点不純物および中沸点不純物を除去する減圧前処理塔、中沸点不純物を分離するサイドカットノズルを具備し、減圧操作で塔全体の最高沸点を90℃以下で操作して発酵もろみに含まれる蛋白質などの泥状固形物が装置の内壁に付着、焦げ付き(スケーリング)を防止し、発酵もろみ中のエタノールを50〜95容量%に濃縮するエタノール分離手段(A)をもつ請求項7記載の発酵もろみからのエタノールと水の分離回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−65001(P2010−65001A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234931(P2008−234931)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(593053335)日本リファイン株式会社 (15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】