説明

発電プラントの運転最適化方法および運転最適化システム

【課題】発電プラントの制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量の最適値を、対話型多目的計画法により求める。
【解決手段】制約条件を設定する制約条件設定ステップと、複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、設定された制約条件の下で希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、パレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、パレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、パレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に希求水準を変更する希求水準変更設定ステップと、解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、パレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する操作変数の値を求めるステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントの運転を、対話型多目的計画法を用いて最適化するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来の典型的なコンバインドサイクル発電プラントの概略構成図である。3台のガスタービン1a,1b,1cの排ガスがそれぞれ、排熱回収ボイラ2a,2b,2cに導かれ、排熱回収ボイラ2a,2b,2cで生成された蒸気が共通の蒸気タービン3に導かれる多軸型コンバインドサイクル発電プラントを構成している。ガスタービン1a,1b,1cによってそれぞれ、ガスタービン発電機4a,4b,4cが駆動され、蒸気タービン3によって蒸気タービン発電機5が駆動される。蒸気タービン3で仕事をした後に蒸気は復水器6はポンプ7で昇圧されて排熱回収ボイラ2a,2b,2cへ戻される。
【0003】
ガスタービン1a,1b,1cに供給される高温ガスの元になる燃料は燃料弁8a,8b,8cを通して供給される。蒸気タービン3に供給される蒸気は、高圧加減弁9、中圧加減弁10、低圧加減弁11を通じて供給される。さらに、高圧バイパス弁12a,12b,12c、中圧バイパス弁13a,13b,13c、低圧バイパス弁14a,14b,14cが配置されている。
【0004】
ガスタービン1a,1b,1cは、それぞれ燃料と空気を混合し、燃焼させて得られる高温の燃焼ガスによって動力を発生し、ガスタービン発電機4a,4b,4cを回転させて発電を行なう。排熱回収ボイラ2a,2b,2cは、それぞれガスタービン1a,1b,1cで仕事を行なった排ガスから熱回収して蒸気を発生させる。蒸気タービン3は、排熱回収ボイラ2a,2b,2cから供給された蒸気を使って動力を発生し、蒸気タービン発電機5を回転させて発電を行なう。蒸気タービン3で仕事をした蒸気は、復水器6で冷却されて水になり、ポンプ7で昇圧されて排熱回収ボイラ2a,2b,2cに導かれて排ガスによって加熱され、再び蒸気タービン3に供給される。
【0005】
つぎに、従来の発電プラントの起動時の運転操作の方法の例について、図6の概略構成図および図7の起動曲線図を参照して説明する。
【0006】
(I)最初に、1台目ガスタービン1aを起動し、ガスパス中の残留排ガスを排出するためにパージ運転を行なう。その後、1台目ガスタービン1aの燃料弁8aを開けて燃料を供給し、着火する。着火確認後、定格速度に向けて昇速する。
【0007】
(II)1台目ガスタービン1aが定格速度に到達した後、1台目ガスタービン1aのガスタービン発電機4aを電力系統に同期併入して発電を開始する。
【0008】
(III)1台目ガスタービン1aを負荷上昇し、所定の最低負荷(図7では12.5%)で保持する。この負荷保持の間に1台目排熱回収ボイラ2aを暖気運転する。1台目排熱回収ボイラ2aから発生する蒸気は、蒸気の圧力レベルに応じて、高圧バイパス弁12aと中圧バイパス弁13aと低圧バイパス弁14aを通じて復水器6へ逃がしながら、所定の蒸気タービン通気条件が成立するまで1台目排熱回収ボイラ2aの昇温・昇圧を行なう。この間、1台目排熱回収ボイラ2aの高圧バイパス弁12aと中圧バイパス弁13aと低圧バイパス弁14aは、蒸気の圧力レベルに応じた最低運転圧力(フロア圧力)に入口圧力制御を行なっている。
【0009】
(IV)1台目排熱回収ボイラ2aの図示しない蒸気止弁は全開し、蒸気配管の暖気とグランド蒸気系の確立を行なう。所定の蒸気タービン通気条件が成立後、高圧加減弁9と中圧加減弁10を開けて蒸気タービン3を起動し、蒸気タービン3を速度・負荷制御する。ラブチェック運転の後、蒸気タービン3を昇速率xで所定の速度(図7では800rpm)に向けて昇速する。そして、この速度で低速ヒートソーク時間xの速度保持をする。低速ヒートソーク運転の完了後、蒸気タービン3を再び昇速率xで定格速度(図7では3600rpm)に向けて昇速する。そして、この速度で高速ヒートソーク時間xの速度保持をする。高速ヒートソーク運転の完了前に蒸気タービン3の初負荷保持(初負荷ヒートソーク運転)に必要な蒸気条件を確保できるように、1台目ガスタービン1aを所定の負荷(図7では40%)に負荷上昇させる。
【0010】
(V)高速ヒートソーク運転の完了後、蒸気タービン3の蒸気タービン発電機5を電力系統に同期併入して発電を開始する。
【0011】
(VI)蒸気タービン3を所定の最低負荷(図7では3%)に向けて負荷上昇する。そして、この負荷で初負荷ヒートソーク時間xの負荷保持をする。初負荷ヒートソーク運転の完了後、蒸気タービン3の高圧加減弁9と中圧加減弁10を入口圧力制御に移行し、1台目排熱回収ボイラ2aの高圧バイパス弁12aと中圧バイパス弁13aを全閉する。
【0012】
(VII)2台目ガスタービン1bは、所定のタイミングで接続負荷(図7では40%)に到達するように起動しておく。2台目ガスタービン1bを起動し、ガスパス中の残留排ガスを排出するためにパージ運転を行なう。その後、2台目ガスタービン1bの燃料弁8bを開けて燃料を供給し、着火する。着火確認後、定格速度に向けて昇速する。2台目ガスタービン1bが定格速度に到達した後、2台目ガスタービン1bのガスタービン発電機4bを電力系統に同期併入して発電を開始する。2台目ガスタービン1bを負荷上昇し、所定の接続負荷(図7では40%)で保持する。この負荷保持の間に2台目排熱回収ボイラ2bを暖気運転する。2台目排熱回収ボイラ2bの発生蒸気が所定の接続条件を満たすと、2台目排熱回収ボイラ2bの図示しない蒸気止弁を全開し、高圧バイパス弁12bと中圧バイパス弁13bを全閉し、2台目排熱回収ボイラ2bの発生蒸気を蒸気タービン3へ供給する。
【0013】
(VIII)同様に、3台目ガスタービン1cは、所定のタイミングで接続負荷(図7では40%)に到達するように起動しておく。3台目ガスタービン1cを起動し、ガスパス中の残留排ガスを排出するためにパージ運転を行なう。その後、3台目ガスタービン1cの燃料弁8cを開けて燃料を供給し、着火する。着火確認後、定格速度に向けて昇速する。3台目ガスタービン1cが定格速度に到達した後、3台目ガスタービン1cのガスタービン発電機4cを電力系統に同期併入して発電を開始する。3台目ガスタービン1cを負荷上昇し、所定の接続負荷(図7では40%)で保持する。この負荷保持の間に3台目排熱回収ボイラ2cを暖気運転する。3台目排熱回収ボイラ2cの発生蒸気が所定の接続条件を満たすと、3台目排熱回収ボイラ2cの図示しない蒸気止弁を全開し、高圧バイパス弁12cと中圧バイパス弁13cを全閉し、3台目排熱回収ボイラ2cの発生蒸気を蒸気タービン3へ供給する。
【0014】
(IX)2台目排熱回収ボイラ2bと3台目排熱回収ボイラ2cの発生蒸気の接続完了後、全てのガスタービン1a,1b,1cを同時に定格負荷に向けて負荷上昇する。この間、蒸気タービン3は各排熱回収ボイラ2a,2b,2cでの蒸気発生の遅れを伴って負荷上昇する。各排熱回収ボイラ2a,2b,2cの低圧蒸気は、所定の通気条件が成立すると、各低圧バイパス弁14a,14b,14cを全閉し、蒸気タービン3の低圧加減弁11が入口圧力制御により開いて供給される。
【0015】
これらの運転操作において、蒸気タービンの起動スケジュールは全体のプラント起動特性に強く影響している。これは、蒸気タービンのロータに発生する熱応力が起動時間を短縮することや燃料消費量を削減することを妨げる主要因となるからである。たとえば、図7に示す以下の4つの操作量は、蒸気タービンのロータを緩やかに暖気することによって熱応力の発生を抑える効果がある。
【0016】
(a)蒸気タービンの昇速率(x
(b)蒸気タービンの低速ヒートソーク時間(x
(c)蒸気タービンの高速ヒートソーク時間(x
(d)蒸気タービンの初負荷ヒートソーク時間(x
また、前記操作量の良し悪しを評価する指標として、たとえば、以下の3つの目的関数が考えられる。
【0017】
(a)起動時間(f
(b)燃料消費量(f
(c)蒸気タービンのロータに発生する熱応力(f
起動時間fは、より小さい値になるほど、電力需要への追従性を向上することができる。また、燃料消費量fは、より小さい値になるほど、燃料コストを抑えることができる。さらに、蒸気タービンのロータに発生する熱応力fは、より小さい値になるほど、蒸気タービンの機器寿命を延ばすことができる。つまり、これらの目的関数は全てより小さい値になるほど、より良い運転操作と言える。
【0018】
しかし、これらの目的関数は前記操作量x,x,x,xに依存したトレードオフ関係を持っている。もし、昇速率xが増加し、各ヒートソーク時間x,x,xが減少すれば、起動時間fと燃料消費量fは減少するが、蒸気タービンのロータに発生する熱応力fは増加する。もし逆に、昇速率xが減少し、各ヒートソーク時間x,x,xが増加すれば、起動時間fと燃料消費量fは増加するが、蒸気タービンのロータに発生する熱応力fは減少する。この傾向は、初負荷ヒートソーク時間xが変化すると、より顕著になる。これは、初負荷ヒートソーク運転でのガスタービン負荷が他のヒートソーク運転のときよりも高いためである。
【0019】
さらに、発電プラントを構成する機器の運転制限値および当該発電プラントの環境規制値の制約条件がある。制約条件の多くは、発電プラント運転中において、制限値の範囲内になるように安全に調整制御されている。しかし、たとえば、以下の2つの制約条件は前記操作量に依存して変化する。
【0020】
(a)蒸気タービンのロータに発生する熱応力(g
(b)排煙ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量(g
前記目的関数にある蒸気タービンのロータに発生する熱応力gは、金属のクリープ強度・疲労強度の運転制限値を守るための上限値がある。排煙ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量gは、急速な起動を行なうと急増する特性があり、環境規制値を守るための上限値がある。
【0021】
このように発電プラントの運転は、複数の目的関数を勘案して、制約条件を満たす操作量を決定する多目的最適化問題と考えられる。操作量である操作変数値に対する目的関数と制約条件の値は、発電プラントの動特性シミュレーションによって予測することができる。そこで、技術者の経験や試行錯誤によって操作変数値を変えた動特性シミュレーションを繰り返し計算することで、妥当な操作変数値を求めている。これらの操作変数値は、予め発電プラントの計画時に決定しておくことが多く、試運転時に実プラントの運転状況を反映して、運転員の経験や試行錯誤によって調整されることはあるが、それ以降の発電プラントの運転状態に応じて更新されることは少ない。
【0022】
このため、変化する売電価格、燃料コスト、メンテナンスコスト、環境対策コストなどの影響を受ける電力市場の変化に合わせて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することは困難である。したがって、常に余裕を持った保守的な運転状態になり、電力市場の変化によっては、必ずしも技術者や運転員が望んでいる運転状態にはならないといった欠点がある。
【0023】
なお、技術者や運転員の経験や試行錯誤によらずに最適な操作変数値を決定する方法も模索されている。たとえば、特許文献1には、火力発電プラントにおいて、動特性シミュレーションと数理計画法を組み合わせて、起動過程での制約条件を守り、定刻最短起動を行なうようにした技術が開示されている。特許文献2には、火力発電プラントにおいて、同様の方法により低損失定刻起動を行なうようにした技術が開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、ファジー推論のような知識ベースを用いて発電プラント起動時の操作量を決定する技術が開示されている。さらに、特許文献5、特許文献6や特許文献7には、動特性シミュレーションと最適化手法を組み合わせて発電プラント起動時の操作量を決定する技術が開示されている。
【0024】
しかし、これらの技術は起動時間だけを最短にするなど、単一の目的関数を取り扱う単目的最適化問題を対象としている。もし、上述のような複数の目的関数を取り扱う場合は、つぎの式(1)のように重みw,w,・・・,wによる線形加重和を用いて単一の目的関数とする必要がある。
【0025】
F(x)=w(x)+w(x)+・・・+w(x) ・・・(1)
一般に、複数の目的関数を取り扱う多目的最適化問題では、各目的関数のトレードオフ関係により無数あるいは複数の最適解が存在する。これらの最適解はパレート最適解と呼ばれている。そこで技術者や運転員は、この無数あるいは複数のパレート最適解の中から各目的関数の希求値に近くなるパレート最適解を取り出す意思決定が必要になる。しかし、式(1)のような線形加重和による方法では、技術者や運転員が望んでいるパレート最適解を得るのに重みw,w,・・・,wを試行錯誤的に調整する必要があり、繰り返し計算のために計算時間がかかるといった欠点がある。
【特許文献1】特許第2564271号公報
【特許文献2】特公平7−27404号公報
【特許文献3】特開平2−181001号公報
【特許文献4】特公平7−91964号公報
【特許文献5】特開平9−152903号公報
【特許文献6】特開2004−076658号公報
【特許文献7】特開2004−116416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
発電プラントの運転は、起動時間、燃料消費量、機器の寿命消費量、環境規制物質の排出量など、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラントを構成する機器の運転制限値および当該発電プラントの環境規制値などの制約条件を満たす操作量を求める多目的最適化問題と考えられる。これらの目的関数は、変化する売電価格、燃料コスト、メンテナンスコスト、環境対策コストなどの影響を受ける電力市場の変化に依存している。したがって、発電プラント運転時の操作量は、電力市場の変化に応じて柔軟に決定できることが望まれている。
【0027】
しかし、上述したように、従来技術では動特性シミュレーションの計算結果や実機プラントの運転データを用いて、技術者や運転員の経験や試行錯誤によって操作量が決定されるので、最適な操作量を見つけるためには、多大な労力を必要とする。また、この操作量は、予め発電プラントの計画時に決定しておくことが多く、試運転時に実プラントの運転状況を反映して、運転員の経験や試行錯誤によって調整されることはあるが、それ以降の発電プラントの運転状態に応じて更新されることは少ない。このため、常に余裕を持った保守的な運転状態になり、電力市場の変化によっては、必ずしも技術者や運転員が望んでいる運転状態にはならないといった欠点がある。つまり、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することは困難である。
【0028】
なお、上述したように、技術者や運転員の経験や試行錯誤によらずに発電プラントの操作量を決定する従来技術が幾つかある。しかし、これらの技術は、そもそも起動時間だけを最短にするなど、単一の目的関数を取り扱う単目的最適化問題を対象とした技術であるがゆえに、もし、上記のような複数の目的関数を取り扱う場合は、式(1)のように重みw,w,・・・,wによる線形加重和を用いて単一の目的関数とする必要がある。
【0029】
一般に、複数の目的関数を取り扱う多目的最適化問題では、各目的関数のトレードオフ関係により無数あるいは複数の最適解が存在する。これらの最適解はパレート最適解と呼ばれている。そこで技術者や運転員は、この無数あるいは複数のパレート最適解の中から各目的関数の希求値に近くなるパレート最適解を取り出す意思決定が必要になる。しかし、式(1)のような線形加重和による方法では、技術者や運転員が望んでいるパレート最適解を得るのに重みw,w,・・・,wを試行錯誤的に調整する必要があり、繰り返し計算のために計算時間がかかるといった欠点がある。つまり、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することは困難である。
【0030】
この他にも遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic Algorithm)などを用いて多目的最適化問題を直接的に解く方法が様々な分野で実用化されている。しかし、発電プラントの動特性シミュレーションは大規模かつ非線形モデルが用いられるためパレート最適解を得るには計算の繰り返しにより膨大な計算時間がかかるといった欠点がある。また、実機プラントの運転データを用いる場合は、制約条件を必ず満たした安全な運転データしか収集できないこと、様々な操作量に対する運転データを収集するには膨大な時間とコストがかかるといった欠点がある。つまり、よく知られた最適化手法などを用いては、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することは困難である。
【0031】
本発明は上述の点に鑑み、発電プラントの各機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、技術者や運転員である意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算を少なくし、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記目的を達成するために、本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の一態様では、対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化方法において、前記発電プラントを構成する複数の機器の運転制限値および当該発電プラントの環境規制値の少なくとも一方の制約条件を設定する制約条件設定ステップと、前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、前記制約条件設定ステップで設定された制約条件の下で、前記希求水準設定ステップで設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、前記解析ステップで計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、前記パレート最適解表示ステップで表示されるパレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に前記希求水準設定ステップで設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定ステップと、その希求水準変更設定ステップの後に、前記解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する前記操作変数の値を求めるステップと、を有すること、を特徴とする。
【0033】
また、本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の他の一つの態様では、対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化方法において、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を、動特性シミュレーションを用いて計算し、この計算結果を操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする動特性シミュレーションデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する動特性シミュレーションステップと、前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、前記動特性シミュレーションで得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定ステップで設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、前記解析ステップで計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、前記パレート最適解表示ステップで表示されるパレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に前記希求水準設定ステップで設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定ステップと、その希求水準変更設定ステップの後に、前記解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する前記操作変数の値を求めるステップと、を有すること、を特徴とする。
【0034】
また、本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の他の一つの態様では、対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化方法において、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を実機プラントの運転履歴データから抽出し、この抽出データを操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする運転履歴データベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する運転履歴データベース生成ステップと、前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、前記運転履歴データベース生成ステップで得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定ステップで設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、前記解析ステップで計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、前記パレート最適解表示ステップで表示されるパレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に前記希求水準設定ステップで設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定ステップと、その希求水準変更設定ステップの後に、前記解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する前記操作変数の値を求めるステップと、を有すること、を特徴とする。
【0035】
また、本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの一つの態様では、対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化システムにおいて、前記発電プラントを構成する複数の機器の運転制限値および当該発電プラントの環境規制値の少なくとも一方の制約条件を設定する制約条件設定手段と、前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定手段と、前記制約条件設定手段によって設定された制約条件の下で、前記希求水準設定手段によって設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析手段と、前記解析手段によって計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示手段と、前記希求水準設定手段で設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定手段と、その希求水準変更設定手段による変更の後に、前記解析手段によるパレート最適解の計算およびパレート最適解表示手段によるパレート最適解の表示を繰り返す繰り返し手段と、前記パレート最適解に対応する前記操作変数の値を求める手段と、を有すること、を特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの他の一つの態様では、対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化システムにおいて、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を、動特性シミュレーションを用いて計算し、この計算結果を操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする動特性シミュレーションデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する動特性シミュレーション手段と、前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定手段と、前記動特性シミュレーションで得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定手段で設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析手段と、前記解析手段で計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示手段と、前記希求水準設定手段で設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定手段と、その希求水準変更設定手段による変更の後に、前記解析手段によるパレート最適解の計算およびパレート最適解表示手段によるパレート最適解の表示を繰り返す繰り返し手段と、前記パレート最適解に対応する前記操作変数の値を求める手段と、を有すること、を特徴とする。
【0037】
また、本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの他の一つの態様では、対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化システムにおいて、実機プラントの運転履歴データから抽出し、この抽出データを操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする運転履歴データベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する運転履歴データベース生成手段と、前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定手段と、前記運転履歴データベース生成手段によって得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定手段で設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析手段と、前記解析手段で計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示手段と、前記希求水準設定手段で設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定手段と、その希求水準変更設定手段による変更の後に、前記解析手段によるパレート最適解の計算およびパレート最適解表示手段によるパレート最適解の表示を繰り返す繰り返し手段と、前記パレート最適解に対応する前記操作変数の値を求める手段と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、発電プラントの各機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、技術者や運転員である意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算を少なくし、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求めることができる。それにより、日々変化する電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定すること可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、各図で共通する要素には同一符号を付けて重複した説明は避けるものとする。
【0040】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態について、図1を参照して説明する。図1は本実施の形態に係る発電プラントの運転最適化システムの概念構成図である。
【0041】
まず、図1において、15は本実施の形態において新たに設けられた運転最適化システム、16は制御装置、17は発電プラントである。運転最適化システム15は、後述する運転最適化方法を用いて、発電プラントの操作量である操作変数値を求めるように機能する。そして、求められた操作変数値は制御装置16へ出力される。制御装置16では、前記操作変数値が設定される。そして、設定された操作変数値に従って発電プラント17を操作するための操作信号を発電プラント17へ出力し、検出信号が発電プラント17から入力される。
【0042】
つぎに、運転最適化システムによる操作変数値の求め方について説明する。
【0043】
まず、多目的最適化問題の定式化から説明する。発電プラントの運転は、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題の一般式(2)に定式化することができる。
【数1】

【0044】
ここで、x=[x,x,・・・,xは操作変数、fは目的関数、gは制約条件である。なお、ある目的関数を最小にすることは、この目的関数の逆数を最大にすることと同じ意味である。すなわち、最適化問題では、目的関数を最小にすることと、最大にすることは同じ意味であると言える。
【0045】
つぎに図1の概略構成図を参照して運転最適化方法について説明する。図1において、本システムにはヒューマンインターフェース部18と最適化計算部19が設けられている。運転最適化においては、まず、発電プラントを構成する機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を設定する。
【0046】
そのつぎの処理は以下の手順によって行なわれる。
【0047】
[ステップS11] 技術者や運転員である意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、式(2)の各目的関数に対する希求値である希求水準を設定する。設定された希求水準はヒューマンインターフェース部18から最適化計算部19へ出力される。
【0048】
[ステップS12] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、制約条件を満たして、この設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解を探索する。得られたパレート最適解は、最適化計算部19からヒューマンインターフェース部18へ出力し、意思決定者20へ提示される。
【0049】
[ステップS13] 意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、この提示されたパレート最適解に満足するか否かの判断をする。もし、意思決定者20が満足しなければ、意思決定者20は希求水準を修正し、満足するまでステップS11からステップS13の操作が繰り返される。もし、意思決定者20が満足すれば、その時点のパレート最適解の操作変数値を最適操作量として決定する。そして、決定された操作変数値は制御装置16へ出力される。
【0050】
[ステップS14] 決定されたパレート最適解は、制御装置16に設定される。
【0051】
つぎに、目的関数と制約条件について説明する。まず、目的関数fとして評価対象となる要素は、つぎのようなものに大別できる。
【0052】
(a)プラントがある状態になったときの値(たとえば、起動時間、機器の熱応力)
(b)プラントがある状態からある状態まで変わっていく間の値(たとえば、燃料消費量)
一方、制約条件gはつぎのようなものに大別できる。
【0053】
(a)操作変数xである操作量の上限値と下限値を設定する。これは、操作する機器の運転制限値に相当する。
(b)機器の熱応力などの運転制限値と、排煙ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量などの環境規制値を設定する。
【0054】
本実施の形態は、上述した制約条件、操作変数、目的関数として、以下に示すものを適用することができる。
【0055】
<制約条件の例>
本実施の形態においては、制約条件として、以下の(a)から(d)の中の少なくとも一つを含むようにする。
【0056】
(a)蒸気タービンのロータに発生する熱応力
(b)ボイラあるいは排熱回収ボイラの高温部に発生する熱応力
(c)蒸気タービンあるいはガスタービンの回転部と静止部との熱伸び差
(d)排煙ガス中の窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、二酸化炭素(CO)などの排出量
<操作変数の例>
また、本実施の形態において、操作変数として、以下の(a)から(i)の中の少なくとも一つを含むようにする。
【0057】
(a)蒸気タービンの速度変化率あるいは負荷変化率
(b)蒸気タービンを保持する速度あるいは負荷
(c)蒸気タービンを保持する時間
(d)ガスタービンの速度変化率あるいは負荷変化率
(e)ガスタービンを保持する速度あるいは負荷
(f)ガスタービンを保持する時間
(g)ボイラあるいは排熱回収ボイラの負荷変化率
(h)ボイラあるいは排熱回収ボイラを保持する負荷
(i)ボイラあるいは排熱回収ボイラを保持する時間
<目的関数の例>
本実施の形態においては、目的関数として、以下の(a)から(f)の中の少なくとも一つを含むようにする。
【0058】
(a)指定された発電出力に到達するまでの時間
(b)発電プラントの燃料消費量
(c)発電プラントの熱効率
(d)蒸気タービンのロータに発生する熱応力
(e)ボイラあるいは排熱回収ボイラの高温部に発生する熱応力
(f)排煙ガス中の窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、二酸化炭素(CO)などの排出量
以上述べたように、本実施の形態によれば、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0059】
[第2の実施の形態]
以下、第2の実施の形態について、図2を参照して説明する。図2は本実施の形態による発電プラントの運転最適化システムの概念構成図である。
【0060】
本実施の形態と第1の実施の形態との相違は、動特性シミュレーションの計算結果を用いてニューラルネットワークを学習し、このニューラルネットワークによる予測値に基づいて最適化計算を行なうようにした点にある。このため、図2に示すように、運転最適化システム15内に動特性シミュレーション部21を内蔵させている。ただし、その他の構成は図1と同じであるので説明は省略し、図2の概略構成図を参照して運転最適化方法について説明する。図2において、本システムは動特性シミュレーション部21とヒューマンインターフェース部18と最適化計算部19が設けられている。運転最適化は、以下の手順によって行なわれる。
【0061】
[ステップS21] 動特性シミュレーション部21のプラントシミュレータを用いて、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を計算し、この計算結果を操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とするデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして最適化計算部19へ出力される。
【0062】
[ステップS22] 技術者や運転員である意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、式(2)の各目的関数に対する希求値である希求水準を設定する。設定された希求水準はヒューマンインターフェース部18から最適化計算部19へ出力される。
【0063】
[ステップS23] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、動特性シミュレーション部21から入力される教師データと、ヒューマンインターフェース部18から入力される希求水準を用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測する予測モデルを構築する。
【0064】
[ステップS24] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、制約条件を満たして、この設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解をステップS23で構築したニューラルネットワークによる予測モデルによる予測値を用いて探索する。得られたパレート最適解は、最適化計算部19からヒューマンインターフェース部18へ出力し、意思決定者20へ提示される。
【0065】
[ステップS25] 意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、この提示されたパレート最適解に満足するか否かの判断をする。もし、意思決定者20が満足しなければ、意思決定者20は希求水準を修正し、満足するまでステップS21からステップS25の操作が繰り返される。もし、意思決定者20が満足すれば、その時点のパレート最適解の操作変数値を最適操作量として決定する。そして、決定された操作変数値は制御装置16へ出力される。
【0066】
[ステップS26] 決定されたパレート最適解は、制御装置16に設定される。
【0067】
以上述べたように、本実施の形態によれば、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。さらに、計算時間のかかる動特性シミュレーションから計算時間のかからないニューラルネットワークによる予測に置き換えて最適化問題を解いている。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0068】
[第3の実施の形態]
以下、第3の実施の形態について、図3を参照して説明する。図3は本実施の形態による発電プラントの運転最適化システムの概念構成図である。
【0069】
本実施の形態と第1の実施の形態との相違は、実機プラントの運転データを用いてニューラルネットワークを学習し、このニューラルネットワークによる予測値に基づいて最適化計算を行なうようにした点にある。このため、図3に示すように、運転最適化システム15内に運転データベース部22を内蔵させている。ただし、その他の構成は図1と同じであるので説明は省略し、図3の概略構成図を参照して運転最適化方法について説明する。図3において、本システムは運転データベース部22とヒューマンインターフェース部18と最適化計算部19が設けられている。運転最適化は、以下の手順によって行なわれる。
【0070】
[ステップS31] 運転データベース部22の実機プラントの運転履歴データを用いて、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を抽出し、この抽出データを操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とするデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして最適化計算部19へ出力される。
【0071】
[ステップS32] 技術者や運転員である意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、式(2)の各目的関数に対する希求値である希求水準を設定する。設定された希求水準はヒューマンインターフェース部18から最適化計算部19へ出力される。
【0072】
[ステップS33] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、運転データベース部22から入力される教師データと、ヒューマンインターフェース部18から入力される希求水準を用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測する予測モデルを構築する。
【0073】
[ステップS34] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、制約条件を満たして、この設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解をステップS33で構築したニューラルネットワークによる予測モデルによる予測値を用いて探索する。得られたパレート最適解は、最適化計算部19からヒューマンインターフェース部18へ出力し、意思決定者20へ提示される。
【0074】
[ステップS35] 意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、この提示されたパレート最適解に満足するか否かの判断をする。もし、意思決定者20が満足しなければ、意思決定者20は希求水準を修正し、満足するまでステップS31からステップS35の操作が繰り返される。もし、意思決定者20が満足すれば、その時点のパレート最適解の操作変数値を最適操作量として決定する。そして、決定された操作変数値は制御装置16へ出力される。
【0075】
[ステップS36] 決定されたパレート最適解は、制御装置16に設定される。
【0076】
以上述べたように、本実施の形態によれば、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。さらに、計算コストのかかる実機プラントの運転データから計算コストのかからないニューラルネットワークによる予測に置き換えて最適化問題を解いている。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0077】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施の形態は、前述した第2または第3の実施の形態に用いられるニューラルネットワークの種類として、動径基底関数(RBF: Radial Basis Function)ネットワークを用いて予測モデルを構築するようにしたものである。
【0078】
動径基底関数ネットワークは、入力層、中間層、出力層の3層構成のニューラルネットワークである。入力値は入力層のニューロンにそれぞれ割り当てられる。そして、重みなしで中間層へ直接伝達される。中間層ニューロンの活性化関数としてガウス関数が用いられ、中間層と出力層の伝達にはそれぞれ線形の重みが付けられる。以上をまとめると、動径基底関数ネットワークの入出力方程式はつぎの式(3)と式(4)で表される。
【数2】

【0079】
ここで、x=[x,x,・・・,xは入力値である操作変数値、Oは出力値である操作変数値に対する目的関数および制約条件の値、hはガウス関数、wは重み、qは中間層ニューロンの数、cは中間層ニューロンの中心位置、rは半径パラメータ、絶対値「||・・・||」はユークリッドノルムである。
【0080】
動径基底関数ネットワークの学習方程式はつぎの式(5)で定義される。
【数3】

【0081】
ここで、 x=[w,w,・・・,wは重みベクトル、yは教師データ、pは教師データの数、λは安定学習のための抑制項である。式(5)はつぎの式(6)に展開できる。
【0082】
y=HO+λIw
=HHw+λIw ・・・(6)
ここで、
【数4】

【0083】
ゆえに、動径基底関数ネットワークの学習は、つぎの線形連立方程式(7)を解くことと等価である。
【0084】
w=(HH+λI)−1y ・・・(7)
つまり、動径基底関数ネットワークの学習は式(7)の線形連立方程式から直接的に計算できるので、学習時間がとても速くすむ特徴がある。
【0085】
以上述べたように、本実施の形態によれば、前述した第2または第3の実施の形態に用いられるニューラルネットワークの種類として、動径基底関数ネットワークを用いて予測モデルを構築する。
【0086】
それにより、計算時間のかかる動特性シミュレーションや計算コストのかかる実機プラントの運転データから計算時間や計算コストのかからない動径基底関数ネットワークによる予測に置き換えて最適化問題を解くことができる。それにより、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。
【0087】
したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0088】
[第5の実施の形態]
本発明の第5の実施の形態は、前述した第1、第2または第3の実施の形態の多目的最適化問題を解く方法として、希求水準を用いた対話型多目的計画法の一つである満足化トレードオフ法(Satisficing Trade-off Method)を用いるようにしたものである。
【0089】
多目的最適化問題は式(2)のようなベクトル形式のままでは解くことが難しいためスカラー化して問題を解き易くする。本実施の形態では、希求水準を用いた対話型多目的計画法の一つである満足化トレードオフ法を用いると、次式のスカラー最適化問題式(8)と式(9)へ変換できる。
【数5】

【0090】
=0,if g(x)≦0,j=1,2,・・・,m
=1,otherwise
ここで、αは微小な正の値(たとえば,10−6程度)、式(9)の第2項はペナルティー関数であり,βは十分に大きな値とする。wは重みであり、次式(10)により自動的に求められる。
【数6】

≦min{f(x)|x∈X},(Xは実行可能解)
で与えられる。
【0091】
以上述べたように、本実施の形態によれば、前述した第1、第2または第3の実施の形態の多目的最適化問題を解く方法として、希求水準を用いた対話型多目的計画法の一つである満足化トレードオフ法を用いて、多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換する。これにより、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0092】
[第6の実施の形態]
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態の説明の中で述べたスカラー最適化問題における式(9)を解く方法として、遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic Algorithm)を用いて式(9)のスカラー化関数を最小にする操作変数xの値を計算するようにしたものである。遺伝的アルゴリズムは、発電プラントの運転最適化問題に見られるような非線形問題や離散変数と連続変数をもつ問題でも安定的に大域的な最適解が探索できる可能性が高いアルゴリズムである。
【0093】
以上述べたように、本実施の形態によれば、前述した第5の実施の形態のスカラー最適化問題を解く方法として、遺伝的アルゴリズムを用いる。これにより、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0094】
[第7の実施の形態]
以下、第7の実施の形態について、図4を参照して説明する。図4は本実施の形態による発電プラントの運転最適化システムの概念構成図である。
【0095】
本実施の形態は第2の実施の形態の変形であって、第2の実施の形態との相違は、ニューラルネットワークによる予測値と動特性シミュレーションによる計算結果との差異が大きい場合において、前記ニューラルネットワークの追加学習を行なうようにした点にある。このため、図4に示すように、運転最適化システム15の最適化計算部19内に、追加学習を行なうための条件分岐がある。図4において、本システムは動特性シミュレーション部21とヒューマンインターフェース部18と最適化計算部19が設けられている。運転最適化は、以下の手順によって行なわれる。
【0096】
[ステップS41] 動特性シミュレーション部21のプラントシミュレータを用いて、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を計算し、この計算結果を操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とするデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして最適化計算部19へ出力される。
【0097】
[ステップS42] 技術者や運転員である意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、式(2)の各目的関数に対する希求値である希求水準を設定する。設定された希求水準はヒューマンインターフェース部18から最適化計算部19へ出力される。
【0098】
[ステップS43] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、動特性シミュレーション部21から入力される教師データと、ヒューマンインターフェース部18から入力される希求水準を用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測する予測モデルを構築する。
【0099】
[ステップS44] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、制約条件を満たして、この設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解をステップS43で構築したニューラルネットワークによる予測モデルによる予測値を用いて探索する。
【0100】
[ステップS45] ニューラルネットワークによる予測モデルの誤差を評価するために、得られたパレート最適解に従った動特性シミュレーションを行なう。この計算結果とニューラルネットワークによる予測モデルによる予測値とを比較する。もし、誤差が所定の値よりも大きい場合は、ニューラルネットワークの追加学習を行ない、誤差が小さくなるまでステップS41からステップS45の操作が繰り返される。もし、誤差が小さくなれば、得られたパレート最適解は、最適化計算部19からヒューマンインターフェース部18へ出力し、意思決定者20へ提示される。
【0101】
[ステップS46] 意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、この提示されたパレート最適解に満足するか否かの判断をする。もし、意思決定者20が満足しなければ、意思決定者20は希求水準を修正し、満足するまでステップS41からステップS46の操作が繰り返される。もし、意思決定者20が満足すれば、その時点のパレート最適解の操作変数値を最適操作量として決定する。そして、決定された操作変数値は制御装置16へ出力される。
【0102】
[ステップS47] 決定されたパレート最適解は、制御装置16に設定される。
【0103】
以上述べたように、本実施の形態によれば、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。また、計算時間のかかる動特性シミュレーションから計算時間のかからないニューラルネットワークによる予測に置き換えて最適化問題を解いている。さらに、ニューラルネットワークによる予測精度を高めるために追加学習を行なっている。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0104】
[第8の実施の形態]
以下、第8の実施の形態について、図5を参照して説明する。図5は本実施の形態による発電プラントの運転最適化システムの概念構成図である。
【0105】
本実施の形態は第3の実施の形態の変形であって、第3の実施の形態との相違は、ニューラルネットワークによる予測値と実機プラントによる運転データとの差異が大きい場合において、前記ニューラルネットワークの追加学習を行なうようにした点にある。このため、図5に示すように、運転最適化システム15の最適化計算部19内に追加学習を行なうための条件分岐がある。図5において、本システムは運転データベース部22とヒューマンインターフェース部18と最適化計算部19が設けられている。運転最適化は、以下の手順によって行なわれる。
【0106】
[ステップS51] 運転データベース部22の実機プラントの運転履歴データを用いて、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を抽出し、この抽出データを操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とするデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして最適化計算部19へ出力される。
【0107】
[ステップS52] 技術者や運転員である意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、式(2)の各目的関数に対する希求値である希求水準を設定する。設定された希求水準はヒューマンインターフェース部18から最適化計算部19へ出力される。
【0108】
[ステップS53] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、運転データベース部22から入力される教師データと、ヒューマンインターフェース部18から入力される希求水準を用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測する予測モデルを構築する。
【0109】
[ステップS54] 最適化計算部19のコンピュータを用いて、制約条件を満たして、この設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解をステップS53で構築したニューラルネットワークによる予測モデルによる予測値を用いて探索する。
【0110】
[ステップS55] ニューラルネットワークによる予測モデルの誤差を評価するために、得られたパレート最適解に従った運転データを収集する。この運転データとニューラルネットワークによる予測モデルによる予測値とを比較する。もし、誤差が所定の値よりも大きい場合は、ニューラルネットワークの追加学習を行ない、誤差が小さくなるまでステップS51からステップS55の操作が繰り返される。もし、誤差が小さくなれば、得られたパレート最適解は、最適化計算部19からヒューマンインターフェース部18へ出力し、意思決定者20へ提示される。
【0111】
[ステップS56] 意思決定者20は、ヒューマンインターフェース部18を通じて、この提示されたパレート最適解に満足するか否かの判断をする。もし、意思決定者20が満足しなければ、意思決定者20は希求水準を修正し、満足するまでステップS51からステップS56の操作が繰り返される。もし、意思決定者20が満足すれば、その時点のパレート最適解の操作変数値を最適操作量として決定する。そして、決定された操作変数値は制御装置16へ出力される。
【0112】
[ステップS57] 決定されたパレート最適解は、制御装置16に設定される。
【0113】
以上述べたように、本実施の形態によれば、機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、意思決定者の希求水準に基づいて、意思決定者とコンピュータとが対話しながら、意思決定者が満足するパレート最適解の操作変数値を決定できる。また、計算コストのかかる実機プラントの運転データから計算コストのかからないニューラルネットワークによる予測に置き換えて最適化問題を解いている。さらに、ニューラルネットワークによる予測精度を高めるために追加学習を行なっている。したがって、意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算が少なくなり、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求められるので、電力市場の変化に応じて、柔軟に発電プラント運転時の操作量を決定することが可能になる。
【0114】
[具体的適用例]
上記第4の実施の形態において、第2の実施の形態の動特性シミュレーションを利用した場合の具体例を説明する。ここでは、多軸型コンバインドサイクル発電プラント(全出力670MW)の起動時のスケジュールを多目的最適化した事例を示す。本プラントの概略構成図および起動曲線図はそれぞれ、図6および図7に示したとおりである。
【0115】
目的関数は3つあり、(a)起動時間f,(b)燃料消費量f,(c)蒸気タービン熱応力fである。起動時間は速く、燃料消費量は少なく起動したい。さらに、蒸気タービン熱応力は小さい方が機器寿命を延ばすことができる。
【0116】
これに対して、スケジュール変数は4つある。すなわち、図7に示すように、蒸気タービンの昇速率x,低速ヒートソーク時間x,高速ヒートソーク時間x,初負荷ヒートソーク時間xである。ここで、蒸気タービンの昇速率は{120,180,360rpm/min}を取る離散変数であり、各ヒートソーク時間は5〜60分の上下限値を持つ連続変数である。また、運転制約として蒸気タービン熱応力の機器制限値、プラントNOx排出量の環境規制値を考慮した。
【0117】
まず、ランダムに起動スケジュールを変えた200ケースの動特性シミュレーションを実行し、その結果を動径基底関数ネットワークの教師データとして与えて予測モデルを作成した。そして、得られた予測モデル上で希求水準を変えてパレート最適解の探索を行なった。図8、図9および図10は各目的関数に対する2次元図であり、希求水準の設定と得られたパレート最適解の関係を示している。
【0118】
図8、図9および図10において、理想点(*印で示す)は、上述の教師データにおける各目的関数の最小値を用いている。第1希求水準(白正方形□で示す)に対し、得られた第1パレート最適解(黒正方形で示す)は全ての目的関数が改善されている。
【0119】
ここで、意思決定者はより起動時間を短縮し、より燃料消費量を少なくして起動したいとする。現在の解は、既にパレート最適解の一つであるため、全ての目的関数を改善することはできない。そこで、蒸気タービン熱応力を妥協して第2希求水準(白三角形△で示す)を設定する。得られた第2パレート最適解(黒三角形で示す)は、概ね意思決定者の意思通りの解が得られている。
【0120】
さらに、意思決定者は蒸気タービン熱応力にまだ余裕があるため、これを機器制限値まで妥協し、より燃料消費量を少なくして起動したいとする。そこで、第3希求水準(白丸○で示す)を設定する。得られた第3パレート最適解(黒丸で示す)は、蒸気タービン熱応力が機器制限値まで達し、起動時間を最短とし、燃料消費量を最小にする,このプラントの運用限界と考えられる。
【0121】
図11に希求水準の設定と得られたパレート最適解を整理する。ここで、「Solution (BRFN)」は予測モデルにより得られた最適解、「Solution (Actual)」は動特性シミュレーションにより得られた結果である。予測モデルの精度が十分に高いことが分かる。
【0122】
図12および図13に動特性シミュレーション結果を示す。ここで、図12は第1パレート最適解、図13は第2パレート最適解に対する結果である。図12および図13の横軸は時間(分)である。また、図12および図13それぞれの上方の図の縦軸はガスタービン(GT)および蒸気タービン(ST)の速度(Speed)および負荷(Load)であり、それぞれの下方の図の縦軸は応力(Stress)および窒素酸化物濃度(NOx)である。図示のように、応力および窒素酸化物濃度には上限値(Limitation)があり、各上限値を超えない運転をしなければならない。これらの図に示すように、両者は各目的関数間のトレードオフ関係が異なるだけで、運転制約を満たし、各希求水準に最も近い最適解が得られている。このように、意思決定者は多目的評価に基づいて、フレキシブルなプラント運用計画を策定できる。
【0123】
[他の実施の形態]
以上、種々の実施の形態について説明したがこれらは単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0124】
たとえば、上記実施の形態の説明では、多軸型コンバインドサイクル発電プラントを例示したが、本発明は、汽力発電プラント(ボイラと蒸気タービンのプラント)など、他の構成の発電プラントにも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの第1の実施の形態を示す概念構成図。
【図2】本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの第2の実施の形態を示す概念構成図。
【図3】本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの第3の実施の形態を示す概念構成図。
【図4】本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの第7の実施の形態を示す概念構成図。
【図5】本発明に係る発電プラントの運転最適化システムの第8の実施の形態を示す概念構成図。
【図6】従来のコンバインドサイクル発電プラントの概略構成図。
【図7】従来のコンバインドサイクル発電プラントの起動曲線図。
【図8】本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の具体的適用例における目的関数である起動時間fと燃料消費量fの関係を示す2次元図。
【図9】本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の具体的適用例における目的関数である起動時間fと蒸気タービン熱応力fの関係を示す2次元図。
【図10】本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の具体的適用例における目的関数である燃料消費量fと蒸気タービン熱応力fの関係を示す2次元図。
【図11】本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の具体的適用例における希求水準の設定と得られたパレート最適解を示す表。
【図12】本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の具体的適用例における動的シミュレーションによる第1パレート最適解を示すグラフ。
【図13】本発明に係る発電プラントの運転最適化方法の具体的適用例における動的シミュレーションによる第1パレート最適解を示すグラフ。
【符号の説明】
【0126】
1a,1b,1c ・・・ ガスタービン
2a,2b,2c ・・・ 排熱回収ボイラ
3 ・・・ 蒸気タービン
4a,4b,4c ・・・ ガスタービン発電機
5 ・・・ 蒸気タービン発電機
6 ・・・ 復水器
7 ・・・ ポンプ
8a,8b,8c ・・・ 燃料弁
9 ・・・ 高圧加減弁
10 ・・・ 中圧加減弁
11 ・・・ 低圧加減弁
12a,12b,12c ・・・ 高圧バイパス弁
13a,13b,13c ・・・ 中圧バイパス弁
14a,14b,14c ・・・ 低圧バイパス弁
15 ・・・ 運転最適化システム
16 ・・・ 制御装置
17 ・・・ 発電プラント
18 ・・・ ヒューマンインターフェース部
19 ・・・ 最適化計算部
20 ・・・ 意思決定者
21 ・・・ 動特性シミュレーション部
22 ・・・ 運転データベース部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化方法において、
前記発電プラントを構成する複数の機器の運転制限値および当該発電プラントの環境規制値の少なくとも一方の制約条件を設定する制約条件設定ステップと、
前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、
前記制約条件設定ステップで設定された制約条件の下で、前記希求水準設定ステップで設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、
前記解析ステップで計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、
前記パレート最適解表示ステップで表示されるパレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に前記希求水準設定ステップで設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定ステップと、その希求水準変更設定ステップの後に、前記解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、
前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する前記操作変数の値を求めるステップと、
を有すること、を特徴とする発電プラントの運転最適化方法。
【請求項2】
対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化方法において、
操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を、動特性シミュレーションを用いて計算し、この計算結果を操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする動特性シミュレーションデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する動特性シミュレーションステップと、
前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、
前記動特性シミュレーションで得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定ステップで設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、
前記解析ステップで計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、
前記パレート最適解表示ステップで表示されるパレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に前記希求水準設定ステップで設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定ステップと、その希求水準変更設定ステップの後に、前記解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、
前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する前記操作変数の値を求めるステップと、
を有すること、を特徴とする発電プラントの運転最適化方法。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークによる予測値と動特性シミュレーションを用いた計算結果との差が所定の範囲を超えている場合に前記ニューラルネットワークの追加学習を行なうことを特徴とする請求項2に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項4】
対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化方法において、
操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を実機プラントの運転履歴データから抽出し、この抽出データを操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする運転履歴データベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する運転履歴データベース生成ステップと、
前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定ステップと、
前記運転履歴データベース生成ステップで得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定ステップで設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析ステップと、
前記解析ステップで計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示ステップと、
前記パレート最適解表示ステップで表示されるパレート最適解が所定の基準を満たすかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしていない場合に前記希求水準設定ステップで設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定ステップと、その希求水準変更設定ステップの後に、前記解析ステップ、パレート最適解表示ステップおよび判定ステップを繰り返す繰り返しステップと、
前記判定ステップでパレート最適解が所定の基準を満たしている場合におけるパレート最適解に対応する前記操作変数の値を求めるステップと、
を有すること、を特徴とする発電プラントの運転最適化方法。
【請求項5】
前記ニューラルネットワークによる予測値と実機プラントの運転履歴データとの差が所定の範囲を超えている場合に前記ニューラルネットワークの追加学習を行なうことを特徴とする請求項4に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項6】
前記ニューラルネットワークの種類として、動径基底関数ネットワークを用いることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか一項に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項7】
前記多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換するに際して満足化トレードオフ法を用いることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか一項に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項8】
前記スカラー最適化問題を解くに際して遺伝的アルゴリズムを用いることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか一項に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項9】
前記制約条件が、
蒸気タービンのロータに発生する熱応力、
ボイラあるいは排熱回収ボイラの高温部に発生する熱応力、
蒸気タービンあるいはガスタービンの回転部と静止部との熱伸び差、
排煙ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素のうちの少なくとも一つの排出量、
の中の少なくとも一つについて制限値を定めるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項10】
前記操作変数が、
蒸気タービンの速度変化率あるいは負荷変化率、
蒸気タービンを保持する速度あるいは負荷、
蒸気タービンを保持する時間、
ガスタービンの速度変化率あるいは負荷変化率、
ガスタービンを保持する速度あるいは負荷、
ガスタービンを保持する時間、
ボイラあるいは排熱回収ボイラの負荷変化率、
ボイラあるいは排熱回収ボイラを保持する負荷、
ボイラあるいは排熱回収ボイラを保持する時間、
の中の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項11】
前記目的関数が、
指定された発電出力に到達するまでの時間、
発電プラントの燃料消費量、
発電プラントの熱効率、
蒸気タービンのロータに発生する熱応力、
ボイラあるいは排熱回収ボイラの高温部に発生する熱応力、
排煙ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素のうちの少なくとも一つの排出量、
の中の少なくとも一つを表わす関数であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の発電プラントの運転最適化方法。
【請求項12】
対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化システムにおいて、
前記発電プラントを構成する複数の機器の運転制限値および当該発電プラントの環境規制値の少なくとも一方の制約条件を設定する制約条件設定手段と、
前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定手段と、
前記制約条件設定手段によって設定された制約条件の下で、前記希求水準設定手段によって設定された希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析手段と、
前記解析手段によって計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示手段と、
前記希求水準設定手段で設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定手段と、
その希求水準変更設定手段による変更の後に、前記解析手段によるパレート最適解の計算およびパレート最適解表示手段によるパレート最適解の表示を繰り返す繰り返し手段と、
前記パレート最適解に対応する前記操作変数の値を求める手段と、
を有すること、を特徴とする発電プラントの運転最適化システム。
【請求項13】
対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化システムにおいて、
操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を、動特性シミュレーションを用いて計算し、この計算結果を操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする動特性シミュレーションデータベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する動特性シミュレーション手段と、
前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定手段と、
前記動特性シミュレーションで得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定手段で設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析手段と、
前記解析手段で計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示手段と、
前記希求水準設定手段で設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定手段と、
その希求水準変更設定手段による変更の後に、前記解析手段によるパレート最適解の計算およびパレート最適解表示手段によるパレート最適解の表示を繰り返す繰り返し手段と、
前記パレート最適解に対応する前記操作変数の値を求める手段と、
を有すること、を特徴とする発電プラントの運転最適化システム。
【請求項14】
対話型多目的計画法を用いて複数の機器を有する発電プラントの運転時の操作量である操作変数の最適値を表示する運転最適化システムにおいて、
実機プラントの運転履歴データから抽出し、この抽出データを操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を組とする運転履歴データベースに収録し、操作変数値を入力値とし、目的関数および制約条件の値を出力値とする教師データとして出力する運転履歴データベース生成手段と、
前記操作変数の関数である複数の目的関数の希求水準を設定する希求水準設定手段と、
前記運転履歴データベース生成手段によって得られた教師データを用いてニューラルネットワークを学習し、操作変数値に対する目的関数および制約条件の値を予測し、前記希求水準設定手段で設定された希求水準の値を用いて、複数の目的関数をもつ多目的最適化問題をスカラー最適化問題へ変換し、このスカラー最適化問題を前記ニューラルネットワークによる予測値を用いて解くことにより、希求水準にできる限り近いパレート最適解を計算する解析手段と、
前記解析手段で計算されたパレート最適解を表示するパレート最適解表示手段と、
前記希求水準設定手段で設定された複数の希求水準の少なくとも一部を変更する希求水準変更設定手段と、
その希求水準変更設定手段による変更の後に、前記解析手段によるパレート最適解の計算およびパレート最適解表示手段によるパレート最適解の表示を繰り返す繰り返し手段と、
前記パレート最適解に対応する前記操作変数の値を求める手段と、
を有すること、を特徴とする発電プラントの運転最適化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−30476(P2009−30476A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193353(P2007−193353)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】