説明

白血球を分割する方法

本発明は、血液塗抹標本中の着色した白血球を分割する方法に関し、該方法は、
血液塗抹標本の撮影したデジタル画像のピクセルを、当該画像の色度値に従って、少なくとも3つのピクセルのクラスの1つに割り当て、
画像の全ピクセルの色度値を、画像の背景のクラスに割り当てられたピクセルが少なくともほぼ白く見えるように同様に変換し、
得られたカラー画像の変換を、色相、彩度及び色の強度をそれぞれ表す他の色空間において行い、全ピクセルの色相、彩度及び色の強度を確定し、
白血球と関連する各ピクセルについて確率値を計算し、前記確率値は白血球核の色相についての確率値(Pnuc)と少なくとも1つの更なる確率値との積(Pwbc)に相当するものであり、
これらの確率値を、予め確定し、定めた関連性を参照して定め、
高い値の確率値の積を有するピクセルを白血球に属するものとみなす(図5a〜e)ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液塗抹標本中の着色した白血球を分割する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的は、着色した血液塗抹標本を撮影した写真を参照して、最も迅速かつ正確に白血球を分割し、必要である場合には、続いて該白血球を区分することにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
評価は、次に行い得る白血球の区分が大きな労力なしで迅速に可能であるように、多大な計算処理をすることなく、実物に対して出来る限り忠実に、白血球の形状及び位置に加えて、白血球の核を再現すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、これらのオブジェクトは、請求項1の特徴付けの部分に記した特徴によって上述したタイプの方法において得ることができる。血液塗抹標本に含まれる白血球の明らかに正確な画像が、変換を行い、次いで確率を決定し、確率の結果に照らして評価することによって、ほんの少し計算することで得ることができる。
【0005】
好ましい方法では、請求項2の特徴が実現され、それによって観察した画像において白血球のコントラストが改善される。
【0006】
評価方法の計算の簡易化は、請求項3の特徴を実現した場合に得られる。クラスタリングとは、任意選択的なまたは特定の類似した性質を有する像点をまとめたものを指す。「k平均クラスタリング」とは、クラスタの所望の数k及びクラスタの中心を決定する関数が既知であるアルゴリズムを指す。該アルゴリズムは以下のように進行する。
1.初期化:(偶発的な)kのクラスタの中心の選択。
2.割り当て:個々のオブジェクトが最も近いクラスタの中心に割り当てられる。
3.再計算:クラスタの中心をそれぞれのクラスタについて再計算する。
4.繰り返し:オブジェクトの割り当てが変化した場合に、ステップ2を続行し、そうでなければ停止する。
【0007】
データは、予め設定した開始点に基づく予め設定した数のグループにクラスタ化される。
【0008】
更に、本発明は請求項7に記載のコンピュータプログラムに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、着色した血液塗抹標本の画像における白血球の分割を参照して、例によって説明する。他の方法にて得られた白血球の画像も評価できる可能性は充分にある。
【0010】
着色した血液塗抹標本の画像は、蛍光顕微鏡の鏡筒に取り付けられたカラーカメラを使用してこれらの画像を撮影することによって得られる。
【0011】
白血球は着色した形態で存在する。白血球の核の着色は特により暗い細胞質の着色と比べて著明にコントラストがついている。ピクセルの彩度(Sat (R,G,B))及び明度(Lum(R,G,B))を、核のピクセル及び背景のピクセルの特徴づけのための特性とする。RGB色素成分からのピクセルの彩度及び明度の計算を以下に示す。
【数1】

【0012】
赤血球、白血球もしくは白血球核(白血球)及び画像の背景の3つのピクセルのクラスを規定し、それによって、背景領域が画像中の最大のピクセル数を形成すると仮定し、続いて赤血球及び白血球について仮定する。すべてのピクセルは「k平均クラスタリング」の方法によってこれらの3つのクラスのうちの1つに割り当てられる。全画素の90%以上が背景のクラスに入る場合、誤った分割を避けるために割り当てプロセスを繰り返す。「k平均クラスタリング」における手順は、Bishop, C.M. “Neural Network for Pattern Recognition.” Oxford, England: Oxford University Press,1995から既知である。
【0013】
血液塗抹標本の画像の背景色は、例えばカラーカメラの理想的でない照明、最適でないホワイトバランスを用いて、又は対象のスライドのグラスを通して撮影したカラー画像に現れ、理想的には白く見えない。相乗の色の混合物を受け取った場合、以下に説明する操作で、すべの背景のピクセルがほとんど白く見えるように、画像中の各々のピクセルCε{R, G, B}について各々の新しいピクセルC’ε{ R, G, B}の色に変換することが出来る。
【数2】

【0014】
Cbgε{R, G, B}は画像背景の平均色である。Cbg = 0では、相乗の色の混合物の想定のもとに黒い画像がある。
【0015】
RGB色領域の他の色領域への画像変換の過程で、彩度及び明度に加えて色相を決定する。個々のピクセルの色相(Hue(R, G, B))を6個のセクターに細分される円に以下のように変換する。
【数3】

新規のピクセル値Cn(Rn, Gn, Bn)はピクセル値C’(RGB)から計算される。
(R・・・赤チャンネル、G・・・緑チャンネル、B・・・青チャンネル)
【数4】

【0016】
核の色相(Pnuc)及び少なくとも1つの更なる確率値、すなわち「非赤血球の色相」(Prbc)及び/又は彩度(Psat)及び/又は明度(Plum)の確率値の積により、個々のピクセルについて白血球の確率を計算する。個々の確率値を試験画像のシリーズを参照して決定された発見的画像関数によって決定する。そのようにして確定した画像関数をグラフ化して図1、2、3及び4に図示する。個々の予め設定した画像関数の線形区分によって、画像評価の過程における参照表の効率的な補間又は適用が可能となる。評価の精度を上昇させるために、全ての確率値の積を決定することができる。一般的には、核の色相Pnucと更なる1つの確率値との確率の積で充分である。
【0017】
次に、結合した白血球確率を各ピクセルについて以下のように計算する。
【数5】

サンプル画像を参照すると、図5a、b、c、d及びeは個々の確率画像又は結合した確率画像を示す。図5aは核の色相についての確率画像、図5bは「非赤血球の色相」についての確率画像、図5cは彩度についての確率画像、図5dは明度についての確率画像、図5eは白血球について得られた確率画像を示す。明るいピクセルは高い確率値に相当し、暗いピクセルは低い確率値に相当する。
【0018】
画像の質を改善するために、最大安定極値領域法(Maximally Stable Extremal Regions, MSER)を図5eに従う確率画像に適用することができる。
【0019】
MSER法はJ.Matas, O.Chum, M.Urban, T.Pajdla; Robust wide baseline stereo from maximally stable extremal regions; International Journal of Computer Vision; Vol.22, No.10; pp. 761 - 767; 2004.、又はJ.Matus, O.Chum, M.Urban, T.Pajdla; Distinguished Regions for Wide-Baseline Stereo; Report CTU-CMP-2001-33; Prague, Czech Republic: Center for Machine Perception, Czech Technical University, 2001.に概説されている。
【0020】
MSER法の過程において、画像は異なる二値画像に何度も繰り返して変換され、すなわち、例えば1から254の間の他の値と連続的に仮定する他の閾値を用いるたびに変換される。
【0021】
明るい白血球核及び若干低い明度を示す白血球の細胞質は、図5eにおいて明瞭に見ることができる。
【0022】
続いて、核のピクセルを参照して、質定数Q(R)を、各分割した領域R’、すなわち同様の性質に伴う像点を持つ画像について計算する。

Rの中の核のピクセルの数<Tnucleus の場合
Q(R) = 0, Tnucleus = 予め設定した閾値
Rのモルフォロジカル・オープニング(morphological opening)
Rの中の穴を埋める
Rの最大領域を選択する
Q(R) = Compactness(R)NucleusRatio(R)
終了
【0023】
モルフォロジカル・オープニングとは、演算子の収縮とその後の膨張との組み合わせを指す。二値画像(各像点が「0」又は「1」の値のいずれかを有する)においては、収縮演算子は、像点の幅の縁について値「1」を有する全ての表面を収縮させる。値「0」を有する像点はその値を保持するが、値「1」を有する像点は、全ての隣接する像点が同様に値「1」を有する場合のみその値を保持する。二値画像においては、膨張演算子は、像点の幅の縁について値「1」を有する全ての表面を膨張させる。「穴を埋める」という演算が二値画像(各像点が「0」又は「1」の値のいずれかを有する)に適用される。値「0」を有する像点の表面が値「1」を有する像点の表面に囲まれている場合、これらの値「0」を有する像点は値「1」を有する像点で置換される。
【0024】
分割された画像領域Rのコンパクトネス(Compactness)は以下のように計算される。
【数6】

【0025】
画像領域Rの核のピクセル数NucleusArea(R)の、画像領域R Area(R)の総ピクセル数に対する比率によって、図6のように画像領域Rの総領域あたりの核の表面の確率比が得られる。
【数7】

Fsize(x)は対応する画像関数である。Fsize(x)のパターンを図6に示す。
【0026】
MSER法で確定した領域の質Q(R)をツリー構造に保存する。白血球を分割するために、ツリーの各枝について最も高いQ(R)を有する領域を選択する。ある枝が、Q(R)の平均値がより高い数個の小枝を有する場合、該小枝を分割するように選択する。図7は細胞の核のピクセルを含むそれらの最大安定極値領域(Maximally Stable Extremal Regions)(画像領域)を示す。明度はそれに続くMSERの数、すなわち枝の小枝の数に比例する。
【0027】
画像において白血球をこの方法により分割した後、白血球を正確に区分することができる。
【0028】
このような区分には、細胞質と細胞核の分割、それに続くテクスチャと形状の特徴の記録、並びに記録した性質と予め設定した比較値との比較が含まれてもよい。行われた比較に従って、次に、分割した白血球を様々なタイプの白血球に割り当てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、画像関数又は確率曲線を示す図である。
【図2】図2は、画像関数又は確率曲線を示す図である。
【図3】図3は、画像関数又は確率曲線を示す図である。
【図4】図4は、画像関数又は確率曲線を示す図である。
【図5】図5a、b、c、d及びeは本発明に従う処理を実行する過程で得られた様々な確率画像を示す図である。
【図6】図6は、画像関数又は確率曲線を示す図である。
【図7】図7は、分割した白血球を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液塗抹標本中の着色した白血球を分割する方法であって、
血液塗抹標本の撮影したデジタル画像のピクセルを、好ましくはクラスタリング、特に「k平均クラスタリング」を使用して、当該画像の色度値、特にRGB色度値に従って、少なくとも赤血球、白血球(細胞核及び細胞質を含む)及び画像の背景を含む、少なくとも3つのピクセルのクラスの1つに割り当て、
画像の全ピクセルの色度値、特にRGB色度値を、好ましくは個々のピクセルの色度値を背景のピクセルについて確定した平均色度値で割ることによって、画像の背景のクラスに割り当てられたピクセルが少なくともほぼ白く見えるように同様に変換し、
得られたカラー画像の変換を、色相、彩度及び色の強度をそれぞれ表す他の色空間において行い、全ピクセルの色相、彩度及び色の強度を確定し、
白血球と関連する各ピクセルについて確率値を計算し、前記確率値は白血球核の色相についての確率値(Pnuc)と少なくとも1つの更なる確率値との積(Pwbc)に相当するものであり、したがって、少なくとも1つの更なる確率値が、以下の確率値、すなわち赤血球の色相に関連しないピクセルについての確率値(Prbc)又は各ピクセルの彩度の値に割り当てられた確率値(Psat)又は各ピクセルの色の強度の値もしくは明度に割り当てられた確率値(Plum)の1つであり、
これらの確率値を、予め確定し、定めた関連性を参照して定め、
高い値の確率値の積を有するピクセルを白血球に属するものとみなすことを特徴とする、
前記着色白血球を分割する方法。
【請求項2】
白血球のピクセル又は背景の分離を強調するために、ピクセルについて得られた確率の積又は生じた確率画像に閾値法を適用し、それによって、各分割した領域について質定数Q(R)を計算して閾値を定め、
特に、分割した領域内において、この既知の領域内のピクセルの総数に対する白血球の核のピクセル数の比率を形成し、得られた最も良い質定数の閾値を使用することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
各ピクセルの明度、彩度及び色相の値を考慮に入れながら更に白血球を分割するために、クラスタリング、好ましくは「k平均クラスタリング」を用いて予め設定した極限の間の値を標準化し、グループ化することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
分割した白血球の形状の特徴及び形状のパラメータを決定し、分割した白血球をこれらの特徴及びパラメータに従って異なる白血球のタイプに割り当てることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ピクセルの確率値を計算するために参照した確率値を、特に試験画像のシリーズ又はキャリブレーションを参照して決定した発見的画像関数によって決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
画像関数が線形区分を有する区域によって構成されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
コンピュータ上でプログラムを実行した際に請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法を実行するための、コンピュータが読み取り可能なデータ記録媒体に保存されるプログラミングコード手段を有するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−546990(P2008−546990A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516062(P2008−516062)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/AT2006/000244
【国際公開番号】WO2006/133473
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(507410180)ティシュー グノースティクス ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】