白金−ニッケル−鉄燃料電池触媒
本発明は、例えば、燃料電池の触媒として使用する組成物に関し、前記組成物は白金、ニッケル、鉄を含み、(i)白金濃度は50原子%を超え、ニッケル濃度は15原子%未満であり、及び/又は鉄濃度は30原子%を超え、あるいは、(ii)白金濃度は70原子%を超え約90原子%未満である。さらに、本発明は、白金、ニッケル、鉄を含む触媒前駆体組成物からそれらの触媒組成物を調製する工程に関し、当該触媒前駆体組成の白金濃度は50原子%未満である。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は燃料電池(例えば電極触媒)及び他の触媒構造の電極に触媒として使用するのに有用な、白金、ニッケル、鉄を含む触媒に関する。
【関連技術の説明】
【0002】
燃料電池は、水素又は炭化水素系燃料などの燃料とそこに供給される酸素ガス(空気中)などの酸化剤との酸化還元反応から発生される化学的エネルギーを、低電圧の直流電流に直接変換する電気化学的装置である。したがって、燃料電池は燃料と酸化剤の分子を燃焼させずに化学的に結合し、従来の燃焼の非効率性と環境汚染を回避する。
【0003】
燃料電池は一般に燃料電極(アノード)、酸化剤電極(カソード)、電極間に挟まれた電解質(アルカリ性又は酸性)、及び燃料流と酸化剤流をそれぞれアノードとカソードへ分離して供給する手段とから構成される。動作中に、アノードに供給された燃料は酸化されて電子を放出し、電子は外部回路を経てカソードへ導かれる。カソードにおいて、供給された電子は酸化剤が還元されるときに消費される。外部回路を通過する電流には有用な仕事を行わせることができる。
【0004】
燃料電池には、リン酸、溶融炭酸塩、固体酸化物、水酸化カリウム、又はプロトン交換膜を含んでいくつかの種類がある。リン酸燃料電池は約160〜220℃、好ましくは約190〜200℃で動作する。この種類の燃料電池は現在数メガワットの施設発電装置及び50から数十万ワットの範囲のコジェネ装置(すなわち熱と電力発生の組み合わせ)に使用されている。
【0005】
対照的に、プロトン交換膜燃料電池は固体プロトン伝導性ポリマー膜を電解質として用いる。典型的に、ポリマー膜はイオン伝導性の損失を防止するために運転の間水和の形に保たれ、運転温度は運転圧力に応じて約70〜約120℃、好ましくは約100℃以下に制限される。プロトン交換膜燃料電池は、液体電解質燃料電池(例えばリン酸)よりもはるかに高い電力密度を有し、要求電力の変動を満足するように急速に出力を変化させることができる。したがって、それらは迅速な起動が重要である自動車及び小規模住宅用発電などの用途に適している。
【0006】
ある用途において(例えば自動車)、純粋な水素ガスは最適な燃料である。しかし、より低い運転コストが望ましい他の用途において、改質水素含有ガスは適切な燃料である。水素含有改質ガスは、例えば、メタノールと水を200〜300℃で二酸化炭素を含む水素富裕燃料ガスへ蒸気改質することによって製造される。理論的に、改質ガスは75容積%の水素と25容積%の二酸化炭素からなる。しかし実際には、このガスは窒素、酸素、及び純度に応じて異なる量の一酸化炭素(1容積%まで)も含む。また、ある電子装置は液体燃料を水素に改質するが、ある用途では液体燃料を直接電気に変換することが望ましく、したがって高い貯蔵密度と装置の簡単さが組み合わされる。特に、メタノールは高いエネルギー密度で低コストであり、かつ再生可能な原料から製造されるので望ましい燃料である。
【0007】
燃料電池の酸化と還元反応を有用な速度、特に約300℃以下の運転温度で進めるために、典型的に電極触媒材料が電極に提供される。当初、燃料電池は、腐食性環境に耐えることができるので、単一金属、通常白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、銀(Ag)又は金(Au)から作られた電極触媒を使用した。一般に、約300℃以下で動作する燃料電池に対して、白金は最も効率的で安定な単一金属電極触媒と考えられる。
【0008】
上記元素は最初金属粉の形で燃料電池に使用されたが、後に、これらの金属を導電性担体(例えばカーボンブラック)の表面上に分散して電極触媒の表面積を増加する技術が開発された。電極触媒の表面積の増加は活性点の数を増加させ、セルの効率を向上させる。しかしながら、電解質、高い温度、及び分子状酸素の存在が電極触媒を溶解し、且つ/又は表面移動もしくは溶解/再析出によって分散された電極触媒を焼結するので、燃料電池の性能は時間の経過で減衰する。
【0009】
白金は燃料電池用の最も効率的で安定した単一電極触媒であると考えられるが、コストが高い。さらに、必然ではないが、燃料電池技術を広範囲で商業化するために、白金よりも高い電極触媒活性が望まれている。しかし、カソード燃料電池電極触媒材料の開発は長年にわたる課題に直面している。最大の課題は電極の酸素還元反応速度の改善である。実際に、緩慢な電気化学反応速度によって、電極触媒が酸素還元のための熱力学的な可逆的電極電位を獲得することが妨げられた。これは、例えば低温及び中間温度でのPt上の酸素還元において、約10−10〜10−12A/cm2の交換電流密度に反映されている。この現象に寄与する要因は、酸素の水への望ましい還元が4電子移動反応であり、典型的に反応の早い時期に強いO−O結合の分裂が関与する事実を含む。さらに、反応を抑制する過酸化物及び恐らくは白金酸化物の形成により、開回路電圧は酸素還元の熱力学的電位から低下する。第2の課題は、長期運転時の酸素電極(カソード)の安定性である。特に、燃料電池カソードは、最も活性のない金属元素でさえ完全に安定ではない領域で動作する。したがって、非貴金属元素を含む合金組成物は、予定された燃料電池の寿命に悪影響を与えるであろう腐食速度を有する。腐食は電池が開回路条件(熱力学的効率にとって最も望ましい電位)近くで動作する時さらに激しくなり得る。
【0010】
また、燃料電池の運転中、アノードでの電極触媒材料も課題に直面している。特に、燃料中の一酸化炭素(CO)の濃度が上昇して約10ppmを超えると、電極触媒の表面は急速に触媒被毒を受ける。結果として、燃料流が一酸化炭素を含む(例えば改質水素ガスは典型的に100ppmを超える)ならば、白金(それ自体)は不十分な電極触媒である。液体炭化水素系燃料(例えばメタノール)はさらに大きな触媒被毒問題を示す。特に、白金の表面は吸着した中間体、一酸化炭素(CO)で遮蔽される。以下の反応によるそれらの被毒化学種の除去に、H2Oが重要な役割を果たすことが報告された。
Pt+CH3OH→Pt−CO+4H++4e− (1)
Pt+H2O→Pt−OH+H++e− (2)
Pt−CO+Pt−OH→2Pt+CO2+H++e− (3)
前述の反応で示すように、メタノールは電極の表面上に吸着され、白金によって部分的に酸化される(1)。吸着された水の加水分解からのOHは、吸着されたCOと反応して二酸化炭素とプロトンを生成する(2、3)。しかし、白金は燃料電池電極の運転電位(例えば200mV〜1.5V)でOH化学種を急速に生成しない。その結果、ステップ(3)は工程中で最も遅いステップであり、CO除去の速度を制限し、それによって電極触媒の被毒が起きる。これはその低い動作温度のため、特にCO被毒に感受性の高いプロトン交換膜燃料電池に当てはまる。
【0011】
酸素還元中に電極触媒のカソード活性を改善し、且つ/又は水素もしくはメタノールの酸化中に電極触媒のアノード活性を高める1つの手段は、さらに活性度が高く、腐食に抵抗性があり、且つ/又はさらに触媒被毒に許容性のある電極触媒を使用することである。例えば、白金とルテニウムを50:50原子比率で合金化することによるCOへの許容性の向上が報告された(D.Chu及びS.Gillman、J.Electrochem.Soc.、1996、143、1685参照)。しかし、現在提案されている電極触媒にはさらに改善の余地がある。
【発明の概要】
【0012】
したがって簡単にいえば、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物に関し、組成物は白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度は50原子%を超える。ただし、触媒は実験式Pt50−70Ni15−30Fe10−30の組成を含まないものである。
【0013】
さらに、本発明は、例えば、燃料電池中の酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物に関し、組成物は白金、ニッケル、鉄を含み、白金濃度は70原子%(atomic percent)を超え約90原子%未満である。
【0014】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物に関し、組成物は白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度は50原子%を超え、(i)ニッケル濃度は15原子%未満又は30原子%を超え、又は(ii)鉄濃度は10原子%未満又は30原子%を超える。
【0015】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、前駆体組成物は、白金と、約45〜約55原子%の濃度のニッケルと、鉄とを含む。
【0016】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、25原子%未満の濃度の白金と、少なくとも約45原子%の濃度のニッケルと、鉄とを含む。
【0017】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、白金と、約15原子%以下の濃度のニッケルと、鉄とを含む。
【0018】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、白金と、ニッケルと、約10原子%以下の濃度の鉄とを含む。
【0019】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、白金と、ニッケルと、45原子%を超え55原子%未満の濃度の鉄とを含む。
【0020】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、約5〜約45原子%の濃度の白金と、約25〜約35原子%の濃度のニッケルと、約20〜約70原子%の濃度の鉄とを含む。
【0021】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、約25〜約35原子%の濃度の白金と、約15〜約60原子%の濃度のニッケルと、約15〜約50原子%の濃度の鉄とを含む。
【0022】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、約45原子%以下の濃度の白金と、ニッケルと、鉄とを含むものであって、実験式、(i)Pt35−45Ni35−45Fe15−25;(ii)Pt35−45Ni15−25Fe35−45;(iii)Pt20−25Ni20−25Fe55−60;(iv)Pt15−25Ni35−45Fe35−45;(v)Pt25−30Ni55−65Fe10−15の範囲の組成を含まない。
【0023】
さらに、本発明は、触媒前駆体組成物から、酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物を調製する方法に関する。前駆体組成物は前述の組成物の任意の1種とすることができる。あるいは、前駆体組成物は、白金、ニッケル及び鉄を含み、又は本質的に白金、ニッケル及び鉄からなることができ、その中の白金濃度は45原子%未満である。当該方法は、得られる触媒組成物が、(i)白金、ニッケル及び鉄を含み、その中の白金濃度が50原子%を超え且つ/又は(ii)上記の通りとなるように、前駆体組成物をその中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を除去するのに十分な条件にて処理することを含む。
【0024】
上記方法の1つの好ましい実施形態において、触媒前駆体組成物を酸性溶液に接触させてその中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を可溶化する。他の実施形態において、この方法は、触媒前駆体組成物に電気化学的反応を行わせることを含み、例えば、アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、触媒前駆体組成物と、アノードとカソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素が反応生成物と電気に変換される。水素含有燃料又は酸素と触媒前駆体組成物とを接触させることによって、水素含有燃料は酸化され、且つ/又は酸素は触媒還元される。この反応の部分として、ニッケル及び/又は鉄は触媒前駆体組成物からその場(in situ)で溶解する。
【0025】
さらに、本発明は、前述の触媒組成物及び/又は前駆体組成物の1種又は複数種に関し、組成物は記載された金属の合金を含み、又は代りに前記組成物は本質的に記載された金属の合金からなる。
【0026】
さらに、本発明は、電気化学反応装置中に使用するための担持電極触媒粉体に関し、担持電極触媒粉体は導電性担体粒子上に任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物を含む。
【0027】
さらに、本発明は燃料電池電極に関し、燃料電池電極は電極触媒粒子と、電極触媒粒子が表面に付着している電極基板とを備え、電極触媒粒子は任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物を含む。
【0028】
さらに、本発明は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間のプロトン交換膜と、水素含有燃料の触媒酸化又は酸素の触媒還元を行うための任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物とを備える燃料電池に関する。
【0029】
さらに、本発明は、アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物と、アノードとカソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素を反応生成物及び電気へと電気化学的に変換する方法に関する。当該方法は、水素含有燃料又は酸素を前述の組成物に接触させて水素含有燃料を触媒的に酸化し、あるいは酸素を触媒的に還元するステップを含む。
【0030】
さらに、本発明は、燃料電池電解質膜及び/又は燃料電池電極に関し、これらの表面上には担持されていない組成物の層が付着しており、担持されていない組成物の層は任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物を含む。
【0031】
前述の本発明の特徴と利点及び他の特徴と利点は以下の説明及び付随する図面によってより明らかになるであろう。
【0032】
図面を通して同じ参照番号は同じ部分を示すことに留意されたい。
【発明の詳細な説明】
【0033】
本発明は、例えば、ポリマー電解質膜燃料電池(例えば電極触媒)中で対象となる酸化及び/還元反応において使用するための触媒活性を有する組成物に関し、組成物はさらに本明細書に詳細にするように、白金、ニッケル、鉄を含む。これに加え、及び/又はこれの代わりに、本発明はさらに、触媒組成物の調製における前駆体として使用することのできる、それらの対象となる反応において使用するための組成物に関する。
【0034】
これに関して、一般に、それらの反応に使用される触媒組成物のコストを低減することは、特に燃料電池に使用されるとき、望ましいが重要ではないことに留意すべきである。触媒組成物のコスト低減の1つの方法は、触媒を製造するために使用する貴金属(白金など)の量を低減することである。しかし典型的に、貴金属の濃度が減少すると、触媒組成物は腐食に対してより敏感になり、且つ/又は絶対活性度が低下する傾向がある。したがって、貴金属の質量%あたり最も高い活性度を達成することが典型的に望ましい(例えば、下の表A〜Cに記載した、Ptの質量割合あたり端電流密度(End Current Density/Weight Fraction of Pt)を参照されたい)。これは、例えば触媒組成物を配置する燃料電池の寿命を犠牲にすることなく達成されることが好ましい。貴金属の濃度を制限することによるコスト低減に加えて、あるいは代りに、白金に比べて腐食抵抗性及び/又は活性度の改善を示す理由から、本発明の触媒組成物を選択することができる(例えば白金に比べて少なくとも3倍の電極触媒活性度の増加)。
【0035】
したがって、本発明は酸化及び/又は還元反応に触媒活性を有し、白金、ニッケル、鉄を含む組成物に関する。任意選択的に、本発明の触媒組成物はこれらの金属の合金の形とすることができ、組成物は例えば本質的にこれらの金属を含む合金からなる。代りに本発明の触媒組成物は、その一部が合金の形であるこれらの金属を含むことができ、例えば、組成物はコーティングとして、擬似担体として、及び/又は単純な混合物として、酸化物粒子と相互混合された合金粒子を有する。
【0036】
本発明の触媒組成物は、その中に存在する金属が触媒活性及び/又は触媒組成物の結晶構造に役割を果たす十分な量の白金、ニッケル、鉄を含む。言い換えれば、本触媒組成物中の白金、ニッケル、鉄の濃度は、金属の存在がその中の不純物と考えられないような濃度である。例えば、存在するとき、白金、ニッケル、鉄の各濃度は、少なくとも0.1、0.5、1、又は2原子%であることが好ましく、白金、ニッケル、鉄の濃度の総計は95原子%を超え、96原子%を超え、97原子%を超え、98原子%を超え、又は99原子%を超えることが好ましい。有利に、かつ驚くべきことに、本発明の触媒組成物は、白金の量を低減しながら(例えば、白金標準に比べて)好ましい電極触媒活性を呈することができる(例えば、白金標準の活性度と略等しい、又はそれを超える)ことが発見された。
【0037】
これに関して、本発明の触媒組成物は、任意選択的に本質的に白金、ニッケル、鉄からなる(例えば、存在するとき、触媒活性及び/又は触媒の結晶構造への役割の少ない不純物がいくらか存在することができる)ことができ、金属の濃度は、本明細書に記載される個々の金属あるいは金属の組み合わせの1つ又はそれ以上の範囲内であることに留意されたい。言い換えれば、金属又は白金、ニッケル、鉄以外の非金属元素の濃度は、任意選択的に不純物と考えられる濃度(例えば1、0.5、又は0.01原子%未満)を超えなくてもよい。しかし、本発明の触媒は、代りに白金、ニッケル、鉄、ならびに例えば白金、ニッケル、及び/又は酸化鉄及び/又は炭化鉄を含んで他の構成要素を含むことができる。したがって、いくつかの実施形態において、白金、ニッケル、鉄の濃度の総計は、その中に存在する金属原子の約100%未満とすることができることに留意されたい。
【0038】
さらに、本発明の1つ又は複数の実施形態において、白金、ニッケル、及び/又は鉄は実質上その金属酸化状態にあることに留意されたい。言い換えれば、白金、ニッケル、及び/又は鉄の平均酸化状態はゼロ又はゼロに近い。それらの実施形態において、白金、ニッケル、鉄の1つ又はそれ以上の酸化状態がゼロを超える触媒組成物の部分が存在し得るが、これらの元素の組成物全体の平均酸化状態は特別の元素で通常起きる最低の酸化状態未満とすることができる(例えば、白金、ニッケル、鉄の通常起きる最低の酸化状態はそれぞれ2、1、2である)。したがって、白金、及び/又は鉄の平均酸化状態は、好ましさが増加する順序で2、1.5、1、0.5、0.1、又は0.01未満、又は0とすることができるが、ニッケルの平均酸化状態は好ましさの増加する順序で、1、0.5、0.1、又は0.01未満、又は0とすることができる。
【0039】
しかしさらに、本発明の代りの実施形態において、白金、ニッケル及び/又は鉄は実質上その金属酸化状態になくてもよいことに留意されたい。言い換えれば、本発明の1つ又は複数の実施形態において、触媒組成物中に存在する白金、ニッケル、及び/又は鉄はゼロを超える平均酸化状態を有することができる(白金、ニッケル、及び/又は鉄は、例えば、酸化物又は炭化物として存在する)。しかし、これに関して、触媒組成物の成分金属の酸化状態は多くの要因に依存することにさらに留意されたい。例えば、(i)燃料電池の動作条件(例えば高電流領域又は低電流領域)、及び/又は(ii)触媒組成物がアノードとして用いられるか、あるいはカソードとして用いられるか(例えば、カソードとして用いられるならば、触媒表面のベース金属は一般にその金属状態を保たず、アノードとして用いられるならば、触媒表面のベース金属はゼロよりも高い酸化状態になることができ、又はならなくてもよい)。
【0040】
1.触媒組成物
A.構成成分の濃度
前述のことから、本発明の触媒組成物は1つ又は複数の実施形態を有することができることに留意されたい。さらに詳細には、本発明の第1の実施形態において、図1を参照すれば、触媒組成物は白金、ニッケル、鉄を含み、白金濃度は50原子%を超えるが、前記触媒が実験式Pt50−70Ni15−30Fe10−30の組成物を含まない。したがって、本発明の第1の実施形態において、本発明は白金、ニッケル、鉄を含む触媒組成物に関し、白金濃度は50原子%(例えば、約55、60、65、70、75、80、85又は90原子%)を超え、白金濃度は、例えば、約60〜約90原子%、約65〜約85原子%、又は約70〜約80原子%の範囲である。任意選択的に、(i)ニッケル濃度は15原子%未満(例えば、約2、4、8、10、又は12原子%、例えば約2〜15原子%、又は約4〜約12原子%の範囲)とすることができ、又は30原子%を超えることができ(例えば、約32、34、36、38、40、42、44、46、又は48原子%、例えば、約30〜48原子%、約32〜約46原子%、又は約34〜約44原子%の範囲)、及び/又は(ii)鉄濃度は10原子%未満(例えば、約2、4、6、又は8原子%、例えば、約2〜10原子%、又は約4〜約8原子%の範囲)とすることができ、又は30原子%を超える(例えば、約32、34、36、38、40、42、44、46、又は48原子%、例えば、約30〜48原子%、約32〜約46原子%、又は約34〜約44原子%の範囲)ことができる。
【0041】
代りに、組成物は、70原子%を超える白金濃度(例えば、約75、80、85、又は90原子%、例えば70〜約90原子%、又は約75〜約85原子%の範囲の濃度)を有することができる。任意選択的に、ニッケル濃度は、1〜30原子%未満の範囲(例えば、約2〜約20、約3〜約18、又は約4〜約16原子%)とすることができ、且つ/又は鉄濃度は、約1〜約30原子%未満の範囲(例えば、約10〜28、約12〜約27、又は約14〜約26原子%)とすることができ、ニッケルのより低い濃度は典型的により高い鉄の濃度に一致し、逆もそうである。
【0042】
しかし、これに関して、本発明の範囲は、本明細書で変更可能な様々な白金、ニッケル、及び/又は鉄濃度範囲の全てを包含するものであることに留意されたい。さらに、本発明の触媒組成物は任意の様々な白金、ニッケル、鉄濃度、及び/又は上記濃度範囲をその意図される範囲から逸脱することなく包含できることに留意されたい。
【0043】
さらに、1つ又は複数の前の実施形態において、本発明の触媒組成物は任意選択的に白金、ニッケル、鉄のそれらの記載された濃度を含むことができ、又は代りに、それらの記載された濃度からなることができることに留意されたい。したがって、1つ又は複数の上述の組成範囲は、例えば、図1における白金、ニッケル、鉄の三元図の影を付した領域によって描くことができる。
【0044】
本発明の前述の触媒組成物の1つ又は複数について与えられる詳細は、調製された触媒組成物の全体の化学量論又はバルク化学量論に関するものであることにさらに留意されたい。すなわち、報告された合金組成物は調製された電極触媒組成物の容積全体の平均的な化学量論であり、したがって、局部的な化学量論の変動が存在し得る。例えば、表面及びそこから内方へ最初の数原子層を含む電極触媒合金粒子の容積は、バルクの化学量論とは異なり得る。同様に、粒子のバルク内に、化学量論の変動があり得る。特定のバルク化学量論に対応する表面の化学量論は電極触媒合金が調製される方法と条件又は触媒が使用される方法に大きく依存し、同じバルク化学量論を有する合金がまったく異なった表面化学量論を有することができる。特定の理論に拘束されなければ、異なる表面化学量論は、少なくとも部分的に原子配置、異なる化学相の形成、触媒構成成分の自発的な表面分離、合金化の程度の差、及び電極触媒の均一性の差に由来すると考えられる。
【0045】
B.組成の変動
既に報告したように、触媒組成物に電極触媒反応(例えば、燃料電池の運転)を行わせると、触媒から1種又は複数種の構成成分(例えば、ニッケル及び/又は鉄)が浸出することによって、組成物が変化し得る(Catalysts for low Temperature Fuel Cells Part 1:The Cathode Challanges、T.R.Ralph及びM.P.Hogarth、Platinum Metals Rev.、2002、46、(1)、p.3〜14参照)。いかなる特定の理論にも拘束されなければ、この浸出効果は、表面積の増加及び/又は触媒の組成物の変化によって触媒の活性増加作用を行う可能性があると考えられる。実際に、合成後に意図的に触媒組成物を浸出させて表面積を増加することが、Itohらによって開示された(例えば、米国特許第5,876,867号明細書参照)。したがって、本発明の触媒組成物について本明細書に詳細に示した濃度及び濃度範囲は、バルク化学量論、それから得られる任意の出発表面化学量論、及び触媒に対象とする反応(例えば、電極触媒反応)を行わせることによって得られる出発バルク及び/又は表面化学量論の修正を含むことに留意されたい。
【0046】
2.触媒組成物前駆体
A.洗浄/浸出
使用中に観察された上記の組成的な変動に関して、現在までの経験に基づいて、使用中50原子%を超える白金濃度(すなわち変動が起きた後)を有する本発明の触媒組成物の性能(例えば活性度)は、使用の前に50原子%又はそれ以上の白金濃度を有するように調製された組成物に比べて改善されると考えられることに留意されたい。言い換えれば、現在までの経験に基づいて、本明細書に詳細を示した白金、ニッケル、鉄を含み、そこからニッケル及び/又は鉄を失った後に50原子%を超える白金濃度を有する触媒組成物は、最初に同じ又は類似の組成物を有するように調製された触媒組成物よりも良好に機能するであろうと考えられる。
【0047】
したがって、本発明はさらに本明細書に詳細に示した触媒組成物の調製に用いる前駆体組成物に関し、前駆体組成物は50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の白金濃度を有する。例えば、第2実施形態において、本発明は本発明の触媒組成物の前駆体に関し、前駆体組成物は50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の濃度の白金、約45〜約55原子%(例えば、46〜54、又は48〜52原子%)の濃度のニッケル、及び鉄を含む。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、少なくとも約5又は10原子%の白金濃度、及び/又は約5〜約30原子%の範囲(例えば、約10〜約25、又は約15〜約20原子%)の鉄濃度を有することができる。
【0048】
第3実施形態において、本発明は、25原子%未満(例えば、約1〜約20原子%、又は約5〜約15原子%の範囲)の濃度の白金、少なくとも約45原子%(例えば、約50〜約90原子%、又は約60〜約80原子%の範囲)の濃度のニッケル、及び鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、(i)少なくとも約5又は約10原子%の白金濃度、及び/又は(ii)約20原子%を超えない(例えば、約5〜約20原子%又は約10〜約20原子%の範囲)白金濃度を有することができる。さらに、鉄濃度は約5〜約30原子%(例えば、約10〜約25、又は約15〜約20原子%)の範囲とすることができる。
【0049】
第4実施形態において、本発明は、50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の濃度の白金、約15原子%を超えない(例えば、約5〜約10原子%の範囲)濃度のニッケル、及び鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、(i)約10原子%を超えないニッケル濃度、(ii)約40〜約60原子%の範囲の鉄濃度及び約25〜約45原子%の白金濃度、(iii)約40〜約55原子%の鉄濃度及び約30〜40原子%の白金濃度、又は(iv)約40〜約50原子%の鉄濃度及び約35〜約45原子%の白金濃度を有することができる。
【0050】
第5実施形態において、本発明は、50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の濃度の白金、ニッケル、及び約10原子%を超えない濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、(i)少なくとも約40原子%を超えないニッケル濃度、(ii)少なくとも約50原子%のニッケル濃度、及び/又は約90、約80、又は約70原子%を超えない(例えば、約50〜約90原子%、又は約50〜約80原子%、又は約50〜約70原子%の範囲の濃度)ニッケル濃度、(iii)50原子%を超えない白金濃度、及び/又は少なくとも約10又は20原子%(例えば、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%の範囲の濃度)の白金鉄濃度を有することができる。
【0051】
第6実施形態において、本発明は、50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%の範囲)の濃度の白金、ニッケル、及び45原子%を超え55原子%未満、好ましくは約45〜約50原子%の濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、ニッケル濃度は、約1原子%を超え約50原子%未満の範囲、又は約5〜約40原子%、又は約10〜約30原子%の範囲である。
【0052】
第7実施形態において、本発明は、約5〜約45原子%の濃度の白金、約25〜約35原子%の濃度のニッケル、及び約20〜約70原子%の濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、(i)白金濃度は約10〜約45原子%及び鉄濃度は約20〜約65原子%であり、(ii)白金濃度は約15〜約40原子%及び鉄濃度は約25〜約60原子%であり、又は(iii)白金濃度は約20〜約40原子%及び鉄濃度は約25〜約55原子%である。
【0053】
第8実施形態において、本発明は、約25〜約35原子%の濃度の白金、約15〜約60原子%の濃度のニッケル、及び約15〜約50原子%の濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、(i)鉄濃度は約25〜約50原子%であり、(ii)白金濃度は約30〜約35原子%であり、且つ/又は(iii)ニッケル濃度は約15〜約40原子%である。
【0054】
第9実施形態において、本発明は、約45原子%を超えない(例えば、約40、35、30、又は25原子%を超えない)濃度の白金、ニッケル、及び鉄を含む前駆体組成物に関するが、触媒は実験式、Pt35−45Ni35−45Fe15−25、Pt35−45Ni15−25Fe35−45、Pt20−25Ni20−25Fe55−60、Pt15−25Ni35−45Fe35−45、Pt25−30Ni55−65Fe10−15内の組成物を含まない。さらに任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、実験式Pt20−30Ni55−65Fe10−15内の組成物を含まなくてもよい。それらの前駆体は、例えば、(i)約5〜約30原子%又は約10〜20原子%の白金、(ii)約40〜約80原子%又は約50〜約70原子%のニッケル、及び(iii)約20〜約30原子%の鉄を含むことができる。代りに、それらの前駆体は、例えば、(iv)約70〜約90原子%又は約75〜約85原子%のニッケル、又は(v)約70〜約90原子%又は約75〜約85原子%の鉄を含むことができる。
【0055】
1つ又は複数の前述の実施形態において、本発明の触媒前駆体組成物は任意選択的に本質的にその記載された濃度の、白金、ニッケル、鉄から構成することができることに留意されたい。したがって、前述の実施形態に記載された組成範囲の各々は、例えば、図2〜9中の白金、ニッケル、鉄の三元図における影を付した領域によってそれぞれ描くことができる。
【0056】
1つ又は複数の前述の実施形態において、触媒前駆体組成物は、代りに白金、ニッケル、鉄を含むことができる(すなわち、本明細書で前述したように他の構成成分が存在することができる)ことにさらに留意されたい。
【0057】
したがって、本発明はさらに、触媒前駆体組成物から触媒組成物を調製する方法に関し、前記前駆体組成物は本明細書で上述のように、白金、ニッケル、鉄を含む。一般に、工程は、前記前駆体組成物をその中に存在するニッケル及び/又は鉄の部分を除去するのに十分な条件(本明細書において記載されるように、例えば、触媒組成物が白金、ニッケル、鉄を含み、その濃度の総計が95原子%を超え、その中の白金濃度が、50、55、60、65、70、75、80、85原子%等を超える)にすることを含む。
【0058】
上記方法の好ましい一実施形態において、触媒前駆体組成物を酸性溶液に接触させ、その中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を前駆体から洗浄又は除去する。例えば、所与の質量の触媒前駆体組成物を所定量の過塩素酸(HClO4)溶液(例えば1M)に接触させ、所定の時間(例えば約60分間)加熱(例えば約90〜約95℃)し、濾過し、次いで繰り返し水で洗浄する。得られる濾過物は典型的に青白い色(例えば、薄い青色)を有し、ニッケル及び/又は鉄イオンの存在を示唆する。前駆体組成物は好ましくは2回洗浄し、第1濾過ステップから分離された固体ケーキを収集し、次いで実質上前に行ったステップと同じ手順を行い、ケーキ/酸溶液混合物を望ましい温度に加熱して戻す前、及び/又は加熱の間に、ケーキを十分攪拌してそれを破砕する。最終濾過を行った後、単離したケーキを乾燥する(例えば、約90℃で約48時間加熱する)。
【0059】
しかし、代替の実施形態において、触媒前駆体組成物は燃料電池に共通の条件(例えば、本明細書で以下の実施例4に説明されるように、室温に維持された0.5MのH2SO4水性電解質溶液を含む電気化学電池への浸漬)に露出し、前駆体からニッケル及び/鉄を浸出させることができることにさらに留意されたい。代りに、前駆体は、直接電気化学反応を行わせることができ、例えば、アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、触媒前駆体組成物と、アノードとカソードを接続する導電性外部回路とを備える燃料電池中で、水素含有燃料と酸素が反応生成物と電気に変換される。水素含有燃料又は酸素を触媒前駆体組成物に接触させることによって、水素含有燃料は酸化され、且つ/又は酸素は触媒還元される。この反応の一部として、ニッケル及び/又は鉄はこのようにして触媒前駆体組成物からその場で溶解する。実質上安定な組成物(すなわち、白金、ニッケル及び/又は鉄が実質上一定に保たれる組成物)を得るのに十分な時間この反応を継続させた後、組成物をセルから取り出し、対象となる将来の燃料電池反応の触媒組成物として使用することができる。
【0060】
例えば、触媒組成物前駆体からニッケル及び/又は鉄の一部を除去する工程は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に述べるもの以外とすることができることにさらに留意されたい。例えば、代替の溶液(例えば、HCF3SO3H、NAFION(登録商標)、HNO3、HCl、H2SO4、CH3CO2H)、及び/又は代替の濃度(例えば約0.05M、0.1M、0.5M、1M、2M、3M、4M、5M等)、及び/又は代替の温度(例えば、約25℃、約35℃、約45℃、約55℃、約65℃、約75℃、約85℃等)、及び/又は代替の洗浄時間又は期間(例えば、約5分間、約10分間、約20分間、約30分間、約40分間、約50分間、約60分間、又はそれ以上)、及び/又は代替の洗浄サイクル回数(例えば、1回、2回、3回、4回、5回、又はそれ以上)、及び/又は代替の洗浄技術(例えば、遠心分離、超音波、浸漬、電気化学的技術、又はこれらの組み合わせ)、及び/又は代替の洗浄雰囲気(例えば、周囲雰囲気、酸素富裕、アルゴン)、ならびにその様々な組み合わせ(当技術分野に通常の手段を用いて選択された)を用いることができる。
【0061】
実施例3によって調製され、実施例4の詳細によって分析されたある前駆体組成物について、白金、ニッケル、鉄の初期濃度に与える浸出の影響は、以下の表に示す結果でさらに示される(全ての%は原子%であり、RP(相対性能)は白金標準に対する活性度を示す)。
以下の実施例4でさらに詳細を示すように、活性度の評価工程の一部として上記サンプルを室温で0.5MのH2SO4溶液に露出した。結果が示すように、サンプルは最初20〜45原子%の白金濃度を有した(サンプルはニッケル富裕又は鉄富裕である)。しかし、酸性溶液に露出した後、ニッケル及び鉄をサンプルから失うため、全ては白金富裕であり、白金濃度は71〜80原子%(エネルギー分散分光法、又はEDSで求めて)の範囲であった。
【0062】
上に述べた、及び/又は本明細書のいずれかに述べ前駆体組成物は、例えば、洗浄又はある種のその場での浸出条件に露出する前の、調製された前駆体組成物の全体の化学量論又はバルクの化学量論を指す(例えば、電極触媒電池中に用いられる条件にする)ことに留意されたい。したがって、報告された前駆体組成物(例えば、記載された金属の合金を含む、又は本質的に合金からなる前駆体)は調製された前駆体組成物全体の平均的化学量論であり、したがって、局所的な化学量論変動が存在し得る。例えば、表面及びそこから内方へ最初の数原子層を含む電極触媒合金粒子の容積は、バルクの化学量論とは異なっていてもよい。同様に、粒子のバルク内に、化学量論の変動があり得る。特定のバルク化学量論に対応する表面の化学量論は前駆体組成物が調製される方法と条件に大きく依存する。このように、同じバルク化学量論を有する前駆体組成物はまったく異なった表面化学量論を有していてもよい。特定の理論に拘束されなければ、異なる表面化学量論は、少なくとも部分的に原子配置、化学相、組成物の均一性の差に由来すると考えられる。
【0063】
B.前駆体格子パラメータ
また、本発明の1つ又は複数の実施形態による触媒前駆体組成物は、その格子パラメータによって特徴付けることができる。特に、格子パラメータの変化は、それぞれの金属構成成分のサイズの変化が得られることを示唆する。例えば、白金、ニッケル、鉄の12−配位金属半径はそれぞれ1.387Å、1.246Å、1.274Åである。1種の金属が他に置き換えられると、平均金属半径したがって観察される格子パラメータは、それに応じて収縮又は膨張すると予測できる。したがって、平均半径は、化学量論の関数として格子変化の指標に用いることができ、又は代りに、観察された格子パラメータに基づく化学量論の指標として用いることができる。しかし、平均半径は一般則として有用であるが、局部的な規則性、原子間の顕著なサイズの格差、顕著な対称性の変化、及び/又は他のパラメータが予測とは一致しない値を生じることがあるので、実際の測定は一般論的な確認しか期待できないことに留意されたい。一般に、金属半径は純粋な金属の格子パラメータから近似される。しかし、場合によって、代替の金属半径を用いることが有用となり得る。それらの代替半径の概念の1つは、純粋な金属の代りに、既知の結晶学的に規則性のあるPtFeなどのPt系合金(立方体対称性が維持される)を用いて、金属半径を近似する。この場合、許容された白金の12−配位金属半径と共に、規則性金属合金の格子パラメータが用いられること以外は、同じ最密充填幾何形状の議論が関与する。代替の半径概念によれば、ニッケルの有効半径は約1.265Åであり、鉄の有効金属半径は1.306Åであると考えられる。また、適切であれば、より低い対称性結晶構造をより高い対称性又は親の結晶構造に近似することがしばしば有用である。純粋な白金の場合、結晶構造は面心立方体として説明することができる。白金系合金、例えばPtFeの結晶構造は、しばしば類似の、しかし親の面心立方構造の部分集合として説明することのできる、より対称性の低い種類の構造を示す。不規則性材料もやはり純粋な白金の対称性の高い種類の構造に結晶化することができるが、規則性材料は、より対称性の低い種類の構造に結晶化することができる。それらの場合において、対称性の高い(不規則性)構造と対称性の低い(規則性)構造の種類の間で格子パラメータを比較することができるように、結晶構造を擬似面心立方体として説明することは有用であろう。前駆体合金及びそれらの予測される格子パラメータの例は、Pt15Ni85Fe0(約3.630Å)、Pt15Ni65Fe20(約3.653Å)、Pt35Ni45Fe20(約3.722Å)、Pt35Ni65Fe0(約3.699Å)、Pt20Ni55Fe25(約3.676Å)、Pt20Ni25Fe55(約3.711Å)、Pt45Ni0Fe55(約3.797Å)、Pt50Ni25Fe25(約3.780Å)を含む。また、本発明の触媒組成物前駆体の不規則性合金の格子パラメータも求めることができる。しかし、触媒組成物前駆体の規則性合金の格子パラメータは予測される不規則性合金の値から偏ることができることに留意されたい。また、規則性合金の場合、観察された格子パラメータを規則性Pt3Fe又はPtFeのものと比較することは有益であろう。
【0064】
3.合金を含み/本質的に合金からなる触媒組成物前駆体の形成
本発明の触媒組成物、及び/又は触媒組成物前駆体は本質的に白金、ニッケル、鉄の合金からなることができる。代りに、本発明の触媒組成物、及び/又は触媒組成物前駆体は、白金、ニッケル、鉄の合金を含むことができる。すなわち、これらの1種又は両方ともこれらの金属の合金、かつ任意選択的にこれらの金属の1種又は複数種を非合金の形で(例えば金属の形の白金、ニッケル、及び/又は鉄、及び/又は白金、ニッケル、及び/又は鉄塩、及び/又は酸化物、及び/又は炭化物、及び/又は窒化物)代りに含むことができる。
【0065】
それらの合金は様々な方法で形成することができる。例えば、適量の構成成分(例えば金属)を互いに混合し、それぞれの融点以上の温度に加熱して金属の溶融溶液を形成し、冷却して固化することができる。
【0066】
典型的に、本発明の触媒組成物、及び/又はその前駆体は、表面積を増すために粉体の形で用いられる。すなわち活性点の数を増加して触媒組成物が用いられるセルの効率を向上させる。したがって、形成された触媒組成物合金、及び/又はその前駆体は、固化の後(例えば粉砕によって)又は固化の間に(例えば溶融合金を噴霧して液滴を固化させる)粉体に変換することができる。しかし、これに関して、場合によっては本明細書でさらに説明し図示するように、粉体の形ではない合金の電極触媒活性度を評価することが有利である(例えば以下の実施例1及び2参照)ことに留意されたい。
【0067】
表面積と効率をさらに増加させるために、触媒組成物合金(すなわち本質的に合金を含む、又は合金からなる触媒組成物)及び/又はその前駆体を、燃料電池に使用する導電性担体(例えばカーボンブラック)の表面に付着させることができる。触媒組成物又は前駆体合金を担体上に装填する1つの方法は、金属含有(例えば、白金、ニッケル、及び/又は鉄)化合物を担体上に付着させ、これらの化合物を金属の形に変換し、還元雰囲気中(例えば、アルゴンなどの不活性ガス及び/又は水素などの還元性ガスを含む雰囲気)の熱処理を用いて金属を合金化することを典型的に含む。これらの化合物を付着させる1つの方法は担体上へのその化学的凝結を含む。化学的凝結法は、典型的に、担体と金属含有化合物原料(例えば1種又は複数種の無機金属塩を含む水性溶液)を、担体上に望ましい触媒組成物又はその前駆体の装填を得るのに十分な濃度で混合し、その後、化合物化合物の凝結を開始し、スラリーを得る(例えば、水酸化アンモニウム溶液、アルコール又は水素化ホウ素ナトリウムの添加によって)。凝結工程は、同時に金属含有化合物の金属の形への還元を含むことができ、又は含まなくともよい。凝結剤として水酸化アンモニウムの場合、凝結は典型的に金属酸化物及び水酸化物を含み、金属は非金属の形である。対照的に、還元性凝結剤(例えばアルコール、アルデヒド、水素化ホウ素)の場合、凝結はその還元された金属の形を含む。次いで、スラリーは典型的に真空中で液体から濾過し、脱イオン水で洗い、乾燥して担体上に金属含有化合物を含む粉体を生成させる。
【0068】
金属化合物を付着させる他の方法は、溶液とその中に懸濁された担体を含む懸濁液を形成することを含み、溶液は、溶媒部分と、付着させる金属化合物の構成成分とを含む溶質部分を含む。懸濁液は凍結されて担体粒子上に上記化合物を付着(例えば凝結)させる。次に、凍結された懸濁液は溶媒部分を除去するために凍結乾燥され、担体と担体上の金属化合物の付着物(deposits)を含む凍結乾燥された粉体が残る。
【0069】
工程は凍結された懸濁液からの溶媒部分の昇華を含むことができるので、担体が懸濁される溶液の溶媒部分は、その凝固点以下で適切な蒸気圧を有することが好ましい。多くの金属含有化合物及び金属も溶解するそれらの昇華可能な溶媒の例は、水、アルコール(例えばメタノール、エタノール等)、酢酸、四塩化炭素、アンモニア、1,2−ジクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド等である。
【0070】
担体が分散され/懸濁された溶液は、担体の表面に付着させる金属化学種を送達する手段を提供する。金属化学種は最終的に望ましい形とすることができるが、多くの場合そうではない。金属化学種が最終的に望ましい形でなければ、付着した金属化学種は続いて最終の望ましい形に変換することができる。続いて変換されるそれらの金属化学種の例は、金属のハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩等の無機及び有機金属化合物を含む。最終的に望ましい形への変換は、熱分解、化学的還元、又は他の反応によって行うことができる。例えば、熱分解は、付着した金属化学種を加熱することによって行われ、異なる固体材料とガス状材料を得る。一般に、知られているように、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩の熱分解は約200〜約1,200℃の温度で行うことができる。
【0071】
付着した金属化学種が最終的に望ましい形に変換されれば、通常、付着させる金属化学種は変換によるあらゆる望ましくない副生成物が最終生成物から除去されるように選択される。例えば、典型的に望ましくない分解生成物を熱分解中に蒸発させる。金属合金である最終生成物を生成するためには、典型的に、担体の表面上の金属付着物の均一性を大きく変化させずに、且つ/又は最終粉体の粒子サイズを大きく変化させずに(例えば凝集によって)、付着した金属化学種を含む粉体を還元することができるように付着させる金属化学種が選択される。
【0072】
殆どあらゆる金属は、金属又は金属を含む化合物が適切な媒体(すなわち溶媒)に溶解可能であれば、本明細書に述べた1種又は複数種の工程によって担体上に付着させることができる。同様に、金属又は金属含有化合物が適切な媒体に溶解可能であれば、殆どあらゆる金属は任意の他の金属と結合させ、又は合金化することができる。
【0073】
溶質部分は、付着させる金属化学種の原料として、有機金属化合物及び/又は無機金属含有化合物を含むことができる。一般に、有機金属化合物はよりコスト高であり、無機金属含有化合物よりも不純物を多く含むことがあり、有機溶媒を必要とする。有機溶媒は水よりもコスト高であり、典型的に純度の制御又は毒性の除去のための手順及び/又は処理を必要とする。したがって、有機金属化合物及び有機溶媒は一般に好ましくない。適切な無機塩は、Ni(NO3)2・6H2O及びFe(NO3)3・9H2Oを含む。それらの塩は水への溶解性が高く、その結果、水はしばしば好ましい溶媒であると考えられる。いくつかの例において、無機金属含有化合物は、他の無機金属含有化合物と混合する前に酸性溶液に溶解することが望ましい。
【0074】
特定の組成物又は化学量論的な触媒合金あるいは触媒前駆体合金を形成するためには、それを考慮してその組成物を得るのに必要な様々な金属含有原料化合物の量が決定される。担体が予備付着された金属(pre−deposited metal)を有するならば、金属含有原料化合物の必要量を計算するとき、予備付着された担体上への金属担持(loading)を考慮にいれる。金属含有化合物の適切な量が決定された後、任意の適切な方法によって溶液を調製することができる。例えば、全ての選択された金属含有原料化合物が室温で同じ溶媒中に望ましい濃度で溶解可能であれば、それらは単に溶媒と混合することができる。代りに、原料溶液を混合することによって懸濁溶液を形成することができ、原料溶液は特定の濃度の特定の金属含有原料化合物を含む。しかし、選択された化合物の全てを互いに混合するとき(溶媒中に粉体として又は原料溶液として)同じ温度で溶解可能でなければ、混合物の温度を上昇させて1種又は複数種の原料化合物の溶解性限界を高め、懸濁溶液を形成することができる。温度による溶解性の調節に加えて、懸濁溶液の安定性は、例えば、緩衝剤の添加、錯化剤の添加及び/又はpHの調節によって調節することができる。
【0075】
様々な金属の量を変化させて異なる組成物を有する合金を形成することに加えて、この方法は担体上への金属の担持量に広範囲の変化を可能にする。これは担持された触媒合金粉体(例えば電極触媒粉体)の活性を最大にするので有益である。担持は、様々な金属の相対量を維持しながら溶液中の様々な金属の総濃度を調節することによって部分的に制御されてよい。実際に、無機金属含有化合物の濃度は溶液の溶解限界に近づくことができる。しかし、典型的に、溶液中の無機金属含有化合物の総濃度は約0.01〜約5Mであり、これははるかに溶解限界以下である。一実施形態において、溶液中の無機金属含有化合物の総濃度は約0.1〜約1Mである。金属付着物の表面積を減少させることなく担持された金属合金電極触媒の担持を最大化することが望ましいので、溶解限界以下の濃度が用いられる。例えば、特定の組成物、付着物のサイズ、付着物の担体上の分布の均一性に応じて、担持量は典型的に約5〜約60質量%であってよい。一実施形態において、担持量は約15〜約45質量%もしくは約15〜約55質量%であり、又は約20〜約40質量%もしくは約20〜約50質量%である。他の実施形態において、担持量は約20質量%、又は約40質量%、又は約50質量%である。
【0076】
その上に金属化学種(例えば金属含有化合物)を付着させる担体は、その上で熱を取り除いて金属化学種を凝結させる間に溶液中に分散/懸濁することの可能な、任意のサイズ及び組成物とすることができる。最大サイズは、懸濁液の攪拌、担体の密度、溶液の比重、系から取り除かれる熱の速度を含むいくつかのパラメータに依存する。一般に、担体は導電性であり、燃料電池に触媒化合物を支持するのに有用である。それらの導電性担体は典型的に無機、例えばカーボン担体である。しかし、導電性担体は、導電性ポリマー(例えば米国特許第6,730,350号明細書参照)などの有機材料を含むことができる。カーボン担体は主として非晶質又はグラファイト質であり、それらは商業的に調製され、又は特別に処理してそのグラファイト性質を増加させ(例えば、真空中又は不活性ガス雰囲気中高温で熱処理する)、それによって腐食抵抗性を高めることができる。カーボンブラック担体粒子は約2000m2/gまでのBrunauer、Emmett and Teller(BET)表面積を有することができる。例えば約75m2/gよりも高い中間多孔質面積を有するカーボンブラック担体粒子を用いて、満足できる結果が得られることが報告された(例えばCatalysis for Low Temperature Fuel Cells Part 1:The Cathode Challenges、T.R.Ralph and M.P.Hogarth、Platinum Metals Rev.、2002、46、(1)、p.3〜14参照)。現在までの実験結果は、約500m2/gの表面積が好ましいことを示している。
【0077】
他の実施形態において、担体はその上に予備付着された材料を有してよい。例えば、カーボン担体上の付着物の最終組成物が白金合金であるとき、カーボンに担持された白金粉体を使用することが有利である。それらの粉体は、New JerseyのJohnson Matthey,Inc.、及びSomerset,New JerseyのDe−Nora,N.A.、Inc.のE−Tek Div.などから市場で入手可能であり、特定の白金担持を有するように選択することができる。白金担持の量は担持された金属合金の望ましい化学量論を得るように選択される。典型的に、白金担持量は約5〜約60質量%である。白金の担持量は約15〜45質量%であることが好ましい。白金付着物のサイズ(すなわち最大断面長さ)は典型的に約20nm未満である。例えば、白金付着物のサイズは約10nm、5nm、2nm未満、又はさらに小さくすることができ、代りに、白金付着物のサイズは約2〜約3nmとすることができる。現在までの実験結果は、望ましい担持された白金粉体は、約150〜約170m2/g(CO吸着によって求めた)の白金表面積と、約350〜約400m2/g(N2吸着によって求めた)のカーボンと白金の組み合わせ表面積と、及び約100〜約300nmの平均担体サイズを有することをさらに特徴付けできることを示している。
【0078】
溶液及び担体は、分散物/懸濁物を形成する当技術分野に知られた任意の適切な方法によって混合することができる。例示的な混合方法は、磁気攪拌、攪拌構造又は装置(例えば、回転子)の挿入、振動、超音波、又は前記方法の組み合わせを含む。担体を溶液と十分混合できるならば、担体と溶液の相対量は広範囲に変化させることができる。例えば、溶解した無機金属含有化合物を含む水性懸濁物を用いてカーボンに担持された触媒を調製するとき、カーボン担体は典型的に約1〜約30質量%の懸濁物を含む。しかし、カーボン担体は約1〜約15質量%の懸濁物、約1〜約10質量%の懸濁物、約3〜約8質量%の懸濁物、約5〜約7質量%の懸濁物、又は約6質量%の懸濁物を含むことが好ましい。
【0079】
これに関して、上で参照した懸濁物中のカーボン担体の量は、本明細書に記載される、あるいは当技術分野で知られた他の非カーボン担体に等しく適用することができることに留意されたい。
【0080】
また、担体と溶液の相対量は、容積比で記述することができる。例えば、分散物/懸濁物は溶液又は溶媒に対する担体粒子の容積比を少なくとも1:10とすることができる。最小容積比を規定することは、溶液又は溶媒の容積に対して担体粒子の容積を増加できることを意味する。このように、溶液又は溶媒に対する担体粒子の容積比は少なくとも約1:8、1:5、又は約1:2ともすることができる。
【0081】
調製の一方法において、本明細書に説明又は例示される溶液及び担体は、担体の孔が溶液で含浸され、且つ/又は担体が均一に溶液に分散された分散物/懸濁物を形成するのに十分な出力と期間の超音波を用いて混合される。分散物/懸濁物が均一に混合されない(すなわち担体が溶液で均一に含浸されず、且つ/又は担体が溶液全体に均一に分散されない)ならば、担体上に形成された付着物は典型的に不均一であろう(例えば金属化学種の担持量は担体間で変化し、付着物のサイズは担体及び/又は担体間で大きく変動し、且つ/又は付着物の組成物は担体間で変化し得る)。担体は溶液中に均一に混合され、又は分散されることが一般に好ましいが、溶液中に担体が不均一に混合され又は分散されることが望ましい状況もあり得る。
【0082】
調製に凍結乾燥法が用いられるとき、典型的に、分散物/懸濁物中の粒子の分散の均一性はそこから熱を除去する間維持される。この均一性は、冷却するときに分散物/懸濁物の混合を継続することによって維持することができる。しかし、均一性は混合することなく分散物/懸濁物の粘度によって維持することができる。担体粒子を均一に懸濁させるために必要な実際の粘度は、分散物/懸濁物の担体粒子の量と担体粒子のサイズに大きく依存する。必要な粘度は担体粒子の密度と溶液の比重に少なからず依存する。一般に、懸濁物から熱を除去して付着物を凝結させるとき、且つ/又は必要であれば溶液又は溶媒の凍結によって分散物/懸濁物を固化するまで、粘度は担体粒子の実質的な沈澱を十分防止する。沈澱する場合、沈澱の程度は、例えば、懸濁物の固化又は凍結した部分を試験することによって求めることができる。典型的に、任意の2つの部分の担体濃度が約±10%以上変化するならば、実質的に沈澱が起きたものと考えられる。凍結乾燥法によってカーボン担持触媒粉体又はその前駆体を調製するとき、分散物/懸濁物の粘度は少なくとも約4分間沈澱を防止できれば十分である。実際に、分散物/懸濁物の粘度は少なくとも約10分間、少なくとも約30分間、少なくとも約1時間、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約18時間、及び約2日間まで沈澱を防止できれば十分であろう。典型的に、分散物/懸濁物の粘度は少なくとも約5,000mPa・sである。
【0083】
熱が分散物/懸濁物から除かれるので、少なくとも一部の溶質部分が溶媒部分から分離し、担体上及び/又は任意の予め存在する付着物(例えば、相溶性のない溶質の凝結によって形成された、予備付着された金属及び/又は予備付着された金属化学種)の上に金属化学種が付着する(例えば凝結)。懸濁物中の担体の濃度が十分であり(例えば上記の範囲内)、熱が十分除去されれば、付着すべき金属化学種の殆ど全てが溶媒部分から分離して、担体上に金属化学種を含む付着物(例えば凝結物)が形成される。一実施形態では、熱を除去して分散物/懸濁物を固化又は凍結し、固体状態の溶媒部分のマトリックス内に、担体/粒子状担体上の金属化学種又は凝結金属を含む付着物と担体/粒子状担体を含む複合体を形成する。溶液中の溶質部分の濃度が金属化学種の付着物を収容する担体の能力を超えるならば、溶質のいくらかの部分はマトリックス内で結晶化する。これが起きても、それらの結晶は担持された粉体とは考えない。
【0084】
本発明の一実施形態において、金属化学種付着物のサイズは、最終的に形成された触媒組成物合金の付着物又はその前駆体が燃料電池触媒として使用するのに適したサイズ(例えば、約20nm、約10nm、約5nm(50Å)、約3nm(30Å)、約2nm(20Å)を超えないサイズ)であるように制御される。上述のように、合金付着物サイズの制御は、系から熱を除去する間、良好に含浸され均一に分散された懸濁物を維持することによって少なくとも部分的に達成することができる。さらに、付着物サイズの制御は、化合物又は複数種の化合物を担体上に付着させるとき、熱を急速に分散物/懸濁物から除去することによって達成することができる。
【0085】
急速な熱の除去は、少なくとも約20℃の温度から、例えば、少なくとも約20℃/分の速度で、溶媒の凝固点以下の温度に分散物/懸濁物を冷却することによって達成することができる。熱の除去は、好ましさが増加する順序に、少なくとも約50、60、70、80、90、又は100℃/分の速度で、分散物/懸濁物を冷却することを含むことができる。このように、分散物/懸濁物は約50〜約100℃/分、又は約60〜約80℃/分、の速度で冷却することができる。典型的に、熱の除去は、懸濁物の温度を、室温などの温度(約20℃)又はそれ以上(例えば、約100℃)の温度から比較的短期間(例えば、約10、5、又は3分間を超えない)に溶液又は溶媒の凝固点まで低下させる速度である。
【0086】
熱は任意の適切な方法によって分散液/懸濁液から除去することができる。例えば、分散液/懸濁液の容積を含む容器を凍結乾燥機などの冷凍ユニット内に置くことができ、分散液/懸濁液の容積を冷却した表面(例えばプレート又は容器)に接触させることができ、容器内の分散液/懸濁液の容積を低温液体中に浸漬させ、又は接触させることができる。同じ容器を分散液の形成の間、及び/又は付着された担体から溶媒を分離する間使用できることが有利である。一実施形態において、容器の開口部に蓋が置かれる。蓋は容器からいかなる固体物質も抜け出ることを完全に防止することができるが、蓋は、担体が容器から出ることを実質上阻止しながら、ガスが容器から抜け出ることを許すことが好ましい。それらの蓋の例は、例えば約500、400、又は300μm(孔径の最大長さ)未満のサイズの孔を有する引き伸ばし可能なフィルム(例えば、PARAフィルム)を含む。
【0087】
一実施形態において、分散物/懸濁物は、その表面の少なくとも大部分(例えば、分散物/懸濁物の表面の少なくとも約50、60、70、80、又は90%)が低温液体に接触するようなサイズと形状にされた低温容器内の低温液体の容積に分散物/懸濁物を含む容器を浸漬又は接触させることによって、少なくとも約20℃/分未満の速度で冷却される。低温液体は典型的に溶媒の凝固点の少なくとも約20℃以下の温度である。適切な低温液体の例は、液体窒素、液体ヘリウム、液体アルゴンを典型的に含むが、より安価な媒体を用いることができる(例えば、氷水/水和塩化カルシウム混合物は約−55℃の低い温度に達することができ、アセトン/ドライアイス混合物は約−78℃の低温に達することができ、ジエチルエーテル/ドライアイス混合物は約−100℃の低温まで達することができる)。
【0088】
容器は、殆どあらゆる種類の材料から作ることができる。一般に、選択される材料は特別な取り扱い手順を必要とせず、構造の破壊なしに繰り返し使用に耐える(例えば熱衝撃抵抗性)ことができ、懸濁液への不純物の原因にならず(例えば化学的攻撃に対する抵抗性)、及び熱伝導性がある。例えば、高密度ポリエチレンから作られたプラスチック瓶を使用することができる。
【0089】
その上に付着物を有する担体は、濾過、蒸発(例えば噴霧乾燥によって)、昇華(例えば凍結乾燥)、又はその組み合わせなどの任意の適切な方法によって溶媒部分から分離することができる。蒸発又は昇華速度は、熱を加える(例えば溶媒の温度を上げる)こと、及び/又は溶媒が曝される雰囲気圧力を下げることによって高めることができる。
【0090】
一実施形態において、凍結又は固化された懸濁物はそこから溶媒部分を除去するために凍結乾燥される。凍結乾燥はLABCONCO FREEZE DRY SYSTEM(Model79480)などの任意の適切な装置中で行うことができる。当業者であれば直感的に、担体の凝集を防止するため、凍結懸濁物の温度を溶媒の凝固点以下に維持する(すなわち溶媒は昇華によって除去される)であろう。本明細書に説明又は例示する凍結乾燥工程はそれらの条件下で実施することができる。しかし、驚くべきことに、溶媒部分が完全に凍結されて残ることは重要ではない。特に、液体溶媒の蒸発速度が溶融速度よりも速いレベル(例えば、約0.1ミリバール、0.000099気圧、又は10Pa以下)に凍結乾燥機内の圧力を維持すれば、溶媒が溶融しても、自由に流動し凝集していない粉体を調製できることが発見された。したがって、典型的に、担体の凝集を招く液体状態の溶媒が十分存在しない。これは、溶媒部分を除去するために必要な時間を短縮するために有利に用いることができる。溶媒部分の除去は、担体/粒子状担体及び担体/粒子状担体上の1種又は複数種の金属化学種又は凝結金属を含む自由に流動し凝集していない担持された粉体をもたらす。
【0091】
付着されている化合物をその中の望ましい形の金属に変換するために、粉体は典型的に還元雰囲気中(例えば、水素及び/又はアルゴンなどの不活性ガスを含む雰囲気)で付着している化合物を分解するのに十分な温度で加熱される。熱処理の間に到達した温度は、典型的に少なくとも付着した化合物の分解温度程度の高さであり、担体の劣化、及び担体及び/又は触媒付着物の凝集を起すほど高くない。典型的に、温度は約60〜約1100℃、約100〜約1000℃、約200〜約800℃、又は約400〜約600℃である。無機金属含有化合物は、典型的に約600〜1000℃の温度で分解する。
【0092】
熱処理の期間は、典型的に、少なくとも実質上付着している化合物を望ましい状態に変換するのに十分な期間である。一般に、温度及び時間は逆比例する(すなわち、変換はより高い温度でより短時間に達成され、逆もそうである)。無機金属含有化合物を上記合金に変換する典型的な温度で、熱処理の期間は典型的に少なくとも約30分間である(例えば、約1、2、4、6、8、10、12分間又はそれ以上)。例えば、期間は約1〜約14時間、約2〜約12時間、又は約4〜約6時間とすることができる。
【0093】
ここで図10を参照すれば、本明細書に説明又は例示した凍結乾燥法に従って製造された、本発明のカーボン担持触媒合金粉体粒子1は、カーボン担体2と担体上の触媒合金の付着物3とを含む。粒子及び前記粒子を含む粉体は約90質量%まで担持することができる。しかし、担持された触媒粉体が燃料電池触媒として用いられるとき、担持量は典型的に約5〜約60質量%であり、好ましくは約15〜約45もしくは約15〜約55質量%であり、又はさらに好ましくは約20〜約40もしくは約20〜約50質量%(例えば、約20質量%、約45質量%、又は約50質量%)である。典型的に、担持量を約60質量%以上増加させても、活性度は増加しない。特定の理論には拘束されることなく、過剰の担持は付着している金属の一部を被覆し、被覆された部分は望ましい電気化学的反応に触媒作用を行うことができないと考えられる。他方、担持された担持触媒の活性度は、担持量が約5質量%以下であれば典型的に顕著に低下する。
【0094】
凍結乾燥法は、1種又は複数種の非貴金属を含む触媒合金のナノ粒子付着物が多く担持された、担持触媒合金粉体を製造するのに用いることができ、付着物は比較的狭いサイズ分布を有する。例えば、一実施形態において、担持された非貴金属含有触媒合金粉体は、粉体(すなわち、担持された電極触媒粉体)の少なくとも20質量%の金属担持量、約10nmを超えない平均付着物サイズ、付着物の少なくとも約70%が平均付着物サイズの約50〜約150%である付着物粒度分布を有することができる。他の実施形態において、金属担持量は粉体(すなわち、担持電極触媒粉体)の約20〜約60質量%であることが好ましく、さらに好ましくは約20〜約40質量%である。
【0095】
触媒合金付着物の平均サイズは典型的に約5nm(50Å)を超えない。しかし、触媒合金付着物の平均サイズは、3nm(30Å)、約2nm(20Å)、又は1nm(10Å)を超えない。しかし代りに、触媒合金付着物の平均サイズは、約3〜約10nm、又は約5〜約10nmにできることが好ましい。さらに、付着物のサイズ分布は、付着物の少なくとも70、75、又は80%が、平均付着物サイズの約50〜150%、好ましくは約75〜125%以内であるような分布であることが好ましい。
【0096】
担持触媒粉体を調製する凍結乾燥法は、懸濁物が単一容器中に好ましく保持され、溶液が担体から(例えば、濾過によって)物理的に分離せず、凍結が実質上溶質の全てを担体上に凝結させるので、付着物の優れた化学量論的制御が可能になる。さらに、付着物は遊離し、小さく均一に担体の表面に分散する傾向があり、それによって、全体の電極触媒活性度が高まる。さらに、濾過が必要ではないので、極めて微細な粒子の損失がなく、この方法によって製造された、担持された金属粉体はより大きな表面積と活性度を有する傾向がある。また、担体上への金属化学種の付着作用は迅速である。例えば、分散物/懸濁物の容器を低温液体中に浸漬することによって、約3〜4分間で分散物/懸濁物を固化することができる。
【0097】
4.電極/燃料電池用途における担持されていない触媒組成物
本発明の他の実施形態において、触媒組成物(例えば金属成分の合金を含む、又は本質的に金属成分の合金からなる触媒組成物)及び/又はその前駆体は、担持されなくてもよい、すなわち、本明細書に記載される触媒組成物は担体粒子なしで使用できることに留意されたい。さらに詳細には、本発明の他の実施形態において、本明細書で定義した白金、ニッケル、鉄を含む触媒組成物を、例えば、(i)電極の一方又は両方の面(例えばアノード、カソード、又は両方)に、且つ/又は(ii)ポリマー電解質膜の一方又は両方の面に、且つ/又は(iii)膜の裏打ち(例えばカーボン紙)などの他の表面に直接付着(例えばスパッタ)させることができることに留意されたい。
【0098】
これに関して、組成物の各構成成分(例えば金属含有化合物)は、例えば電極、膜等の表面上の分離した層として分離して付着させることができることにさらに留意されたい。代りに、2種又はそれ以上の構成成分を同時に付着させることができる。さらに、組成物がこれらの金属の合金を含み、又は本質的にこれらの金属の合金からなるとき、合金を形成し、次いで付着させることができ、又はその構成成分を付着させ次いでその上に合金を形成することができる。
【0099】
構成成分の付着は、既知のスパッタ技術を含んで(例えば、参照により本明細書に組み込まれている国際公開第99/16137号パンフレット、又は米国特許第6,171,721号明細書を参照されたい)当分野に既知の手段を用いて達成することができる。しかし、概して言えば、一手法において、スパッタ蒸着は、不活性雰囲気中の真空室内でターゲット成分材料とターゲット構成成分が蒸着される表面の間に電位差を形成してターゲット構成成分材料から粒子を放出させ、次いで、例えば電極又は電解質膜の表面に付着させ、このようにしてその上にターゲット構成成分の被覆を形成することによって達成される。一実施形態において、構成成分は、例えば、(i)テトラフルオロエチレンとペルフルオロポリエーテルスルホン酸のコポリマー膜(NAFION(登録商標)の商品名で販売されている膜材料など)、(ii)過フッ化スルホン酸ポリマー(ACIPLEXの商品名で販売されている膜材料など)、(iii)ポリエチレンスルホン酸ポリマー、(iv)ポリケトンスルホン酸、(v)リン酸をドープしたポリベンズイミダゾール、(vi)スルホン化ポリエーテルスルホン、(vii)他のポリ炭化水素系スルホン酸ポリマーを含むポリマー電解質膜上に蒸着される。
【0100】
所与の用途への組成物を微調整するために、組成物の各金属又は構成成分の特定量を独立に制御できることに留意されたい。しかし、ある実施形態において、付着させる各構成成分の量、又は代りに付着させる触媒(例えば触媒合金)の量は、表面積(例えば電極表面積、膜表面積等)の約5mg/cm2未満、約1mg/cm2未満、約0.5mg/cm2未満、約0.1mg/cm2未満、又は約0.05mg/cm2未満とすることができる。他の実施形態において、付着させる構成成分の量、又は代りに付着させる触媒(例えば触媒合金)の量は、約0.5〜約5mg/cm2未満、又は約0.1〜約1mg/cm2未満の範囲とすることができる。
【0101】
さらに、各構成成分の特定量、又は組成、及び/又は構成成分又は組成物が付着させる条件を制御して、得られる構成成分、又は組成物、電極の表面上の層、電解質膜等の厚さを制御できることに留意されたい。例えば、当分野で既知の手段(例えば、走査電子顕微鏡又はラザフォード後方散乱分光測光法)によって測定して、構成成分又は組成物が付着している層は、数オングストローム(例えば、約2、4、6、8、10Å、又はそれ以上)〜数十オングストローム(例えば、約20、40、60、80、100Å、又はそれ以上)の範囲、数百オングストローム(例えば、約200、300、400、500Å、又はそれ以上)までの厚さを有することができる。さらに、全ての構成成分を付着させ、任意選択的に合金化された後(又は、代りに、組成物を付着させ、任意選択的に合金化された後)、本発明の組成物の層は、数十オングストローム(例えば、約20、40、60、80、100Å、又はそれ以上)〜数百オングストローム(例えば、約200、400、600、800、1000、1500Å、又はそれ以上)までの範囲の厚さを有することができる。したがって、異なる実施形態において、厚さは、例えば、約10〜約500オングストローム(Å)、約20〜約200オングストローム(Å)、約40〜約100オングストローム(Å)とすることができる。
【0102】
さらに、組成物(又はその構成成分)が例えば電極又は電解質膜の表面上の薄膜として付着させる実施形態において、その中の白金、ニッケル、鉄の様々な濃度は本明細書で前に述べたものとすることができる。さらに、他の実施形態において、組成物中の白金、ニッケル、鉄の濃度は前に述べたもの以外とすることができる。例えば、非担持触媒組成物の一実施形態において、組成物は約15原子%を超えない濃度の白金、ニッケルと、鉄を含むことができる。
【0103】
5.燃料電池への組成物の組み込み
本発明の組成物はプロトン交換膜燃料電池に使用する触媒として特に適している。図11及び図12に示したように、全体に20で示した燃料電池は燃料電極(アノード)22及び空気電極/酸化剤電極(カソード)23を備える。電極22と23の間のプロトン交換膜21が電解質として働き、通常、ペルフルオロスルホン酸系膜などの強い酸性イオン交換膜である。プロトン交換膜21、アノード22、カソード23は1つの本体に一体化して電極とプロトン交換膜の間の接触抵抗を最小にすることが好ましい。電流コレクター24及び25は、それぞれアノード及びカソードに係合する。燃料室28及び空気室29はそれぞれの反応物を含み、それぞれ封止材26及び27によって封止される。
【0104】
一般に、電気は水素含有燃料の燃焼によって発生する(すなわち水素含有燃料と酸素が反応して、水、二酸化炭素、及び電気を形成する)。これは上記燃料電池において、水素含有燃料Fを燃料室28に導入し、酸素O(好ましくは空気)を空気室29に導入することによって達成され、それによって電流が外部回路(示していない)を通って直ちに電流コレクター24と25の間を移動することができる。水素含有燃料はアノード22で酸化されて水素イオン、電子、可能ならば二酸化炭素ガスを生成することが理想的である。水素イオンは強い酸性プロトン交換膜21を通って移動し、酸素と、外部回路を通ってカソード23へ移動する電子と反応して水を形成する。水素含有燃料Fがメタノールであるならば、化学反応を促進するために希釈酸性溶液として導入することが好ましく、それによって、出力が増加する(例えば、0.5Mメタノール/0.5M硫酸溶液)。
【0105】
プロトン交換膜中のイオン性伝導の損失を防止するために、これらは典型的に燃料電池の運転中水和されている。その結果、プロトン交換膜の材料は、典型的に、約100〜約120℃の温度での脱水に抵抗性を有するように選択される。プロトン交換膜は、通常、還元及び酸化安定性、酸及び加水分解に対する抵抗性、十分に低い電気抵抗度(例えば<10Ω・cm)、及び低い水素又は酸素透過度を有する。さらに通常、プロトン交換膜は親水性である。これは、プロトン伝導を確保し(アノードへの水の逆拡散によって)、導電性を低下させる膜の乾燥を防止する。便宜上、膜の層厚さは典型的に50〜200μmである。一般に、前述の特性は、脂肪族の水素−炭素結合のない材料、例えば、水素をフッ素で置換することによって、又は芳香族構造の存在によって得られる材料で達成され、プロトン導電性はスルホン酸基(酸性度が高い)の組み込みから得られる。また、適切なプロトン導電性膜は、E.I.duPont de Nemourts & Co.、Wilmington、Delawareによって製造されるNAFION(商標)などの過フッ化スルホン化ポリマー及びその誘導体を含む。NAFION(商標)はテトラフルオロエチレンとペルフルオロビニルエーテルとから作られたコポリマーであり、イオン交換基として働くスルホン基を有する。他の適切なプロトン交換膜は、過フッ化化合物(例えば、オクタフルオロシクロブタン及びペルフルオロベンゼン)などのモノマー、又はプラズマポリマー中にいかなる脂肪族H原子も形成しないC−H結合を備えるモノマーで作製され、酸化性分解のための攻撃部位を構成することができる。
【0106】
本発明の電極は、本発明の触媒組成物及びその上に組成物を付着させる電極基板を備える。一実施形態において、組成物を電極基板上に直接付着させる。他の実施形態において、組成物は導電性担体上に担持され、担持された組成物を電極基板上に付着させる。また、電極は組成物に接触したプロトン伝導性材料を含むこともできる。プロトン伝導性材料は電解質と組成物間の接触を容易にし、したがって燃料電池の性能を高めることができる。電極は、反応物(すなわち燃料又は酸素)と、電解質と、組成物の間の接触を増加させることによって電池効率を高めるように設計されることが好ましい。特に、燃料/酸化剤が反応物ガス流に露出した電極の面(裏面)から電極に入り、電解質が電解質に露出した電極の面(前面)を通って浸透し、反応生成物、特に水が電極を拡散して出ることを可能にするので、多孔質又はガス拡散電極が典型的に使用される。
【0107】
プロトン交換膜、電極、及び触媒組成物は互いに接触していることが好ましい。これは、典型的に、組成物を電極上又はプロトン交換膜上のいずれかに付着させ、次いで電極と膜を接触させることによって達成される。本発明の組成物は、プラズマ蒸着、粉体塗布(粉体はスラリー、ペースト、又はインクの形とすることができる)、化学的めっき、スパッタを含み、様々な方法によって電極又は膜上のいずれかに付着させることができる。プラズマ蒸着は、一般に低圧プラズマを用いる触媒組成物薄膜(例えば、3〜50μm、好ましくは5〜20μm)の膜上への付着を伴う。例として、トリメチルシクロペンタジエニル白金などの有機白金化合物は10−4〜10ミリバールでガス状であり、無線周波数、マイクロウェーブ、又は電子サイクロトロン共鳴発信機を用いて励起し、膜上に白金を付着させることができる。他の手順によれば、例えば触媒粉体はプロトン交換膜表面に分配され、高温で圧力をかけて一体化される。しかし、触媒粉体の量が約2mg/cm2を超えるならば、ポリテトラフルオロエチレンなどの結合剤を含むのが通常である。さらに、触媒は分散した小さな担体粒子上(例えば、サイズは典型的に20〜200Åであり、さらに好ましくは約20〜100Åである)にめっきすることができる。これは触媒の表面積を増加させ、すなわち反応点の数を増加させて電池の効率を改善する。例えば、それらの化学的めっき工程の1つでは、合金を含む金属成分の化合物の水性溶液又は水性懸濁液(スラリー)に伝導性カーボンブラックなどの粉状支持材料を接触させ、金属化合物又はそれらのイオンを担体上又は担体へ吸着又は含浸させる。次いで、スラリーを高速で攪拌しながら、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸、又はホルマリンなどの適切な定着剤の希釈溶液をゆっくり滴下して加え、担体上に不溶性化合物又は部分的に還元された微細金属粒子として金属成分の分散と付着を行う。
【0108】
膜又は電極上への組成物の装填(loading)、又は表面濃度は、部分的に、特定の燃料電池の望ましい出力とコストに基づく。一般に、出力は濃度の増加とともに増加するが、しかし、それを超えても性能が向上しないレベルがある。同様に、燃料電池のコストは濃度の増加とともに増加する。したがって、組成物の表面濃度は用途の要件を満たすように選択される。例えば、大気圏外宇宙船などの厳しい要求を満足するために設計された燃料電池は、通常燃料電池の出力を最大にするのに十分な組成物の表面濃度を有する。要求のより少ない用途については、望ましい出力ができるだけ少ない組成物で得られるように経済性で決定される。典型的に、組成物の装填は、約0.01〜約6mg/cm2である。現在までの実験結果は、ある実施形態において、触媒装填は約1mg/cm2未満であることが好ましく、約0.1〜1mg/cm2がさらに好ましいことを示す。
【0109】
コレクター、電極、組成物、及び膜の間の接触を促進するために、層は通常高温で圧縮される。個々の燃料電池の筐体は、良好なガスの供給が確保され、同時に生成物の水を適切に排出することができるように構成される。典型的に、いくつかの燃料電池は結合してスタックを形成するので、総出力は経済的に実現性のあるレベルまで増加する。
【0110】
一般に、本発明の触媒組成物及び燃料電池電極を用いて、水素を含む任意の燃料(例えば、水素及び改質水素燃料)に電極触媒作用を行うことができる。また、メタン(天然ガス)、エタン、プロパン、ブタンなどの飽和炭化水素、廃棄オフガス、メタノールやエタノールなどの酸素化炭化水素、ガソリンやケロセンなどの化石燃料、及びその混合物を含んで、炭化水素系燃料を用いることができる。
【0111】
プロトン交換膜の完全なイオン伝導特性を達成するために、ある実施形態において、典型的に適切な酸(ガス又は液体)が燃料に加えられる。例えば、SO2、SO3、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、又はそのフッ化物、また、トリフルオロ酢酸などの強い酸性カルボン酸、及び揮発性リン酸化合物を使用することができる(「Ber.Bunsenges.Phys.Chem.」、Volume98(1994)、631〜635ページ)。
【0112】
6.燃料電池用途
上述のように、本発明の組成物は、電気エネルギーを発生して有用な仕事を行うための燃料電池の触媒として有用である。例えば、組成物は、電気施設電力発生設備、無停電電源装置、大気圏外宇宙船、重量トラック、自動車、自動二輪車などの輸送装置(Fujiらの米国特許第6,048,633号明細書、Shinkaiらの米国特許第6,187,468号明細書、Fujiらの米国特許第6,225,011号明細書、Tanakaらの米国特許第6,294,280号明細書参照)、住宅用電力発生装置、ワイヤレス電話、ページャー、及びサテライト電話などの携帯通信装置(Pratらの米国特許第6,127,058号明細書、Kelleyらの米国特許第6,268,077号明細書参照)、ラップトップコンピュータ、個人用データアシスタント、オーディオ録音及び/又は再生装置、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電子ゲーム遊戯装置などの携帯電子装置、全地球位置把握装置などの軍事及び宇宙装置、ロボットの燃料電池に使用することができる。
【0113】
7.定義
活性度は、電極に製造されたとき、所与の電位(ボルト)での最大値又は定常状態の電流(アンペア)として定義される。さらに、異なる電極触媒を比較するとき、電極の幾何形状的面積が異なるため、活性度はしばしば電流密度(A/cm2)で表される。
【0114】
合金は、溶質と溶媒原子(溶媒の用語は過剰に存在する金属に用いられる)が不規則に配列する固溶体として説明され、液体溶液とまったく同様に説明することができる。いくつかの溶質原子が溶媒の構造中のいくつかを置換するならば、固溶体は置換固溶体として定義することができる。代りに、より小さな原子がより大きな原子の間の間隙を占拠するならば、侵入型固溶体が形成される。2種類の組み合わせも可能である。さらに、ある固溶体では、スーパー構造として説明することのできる部分的な規則性をもたらす適切な条件下で、あるレベルの規則的な配列を形成することができる。原子が長い範囲で規則性になれば、合金は結晶学的な規則性又は単純な規則性で説明することができる。これらの合金は、XRDなどの特性試験技術によって識別することのできる特性を有することができる。XRDにおける顕著な変化は対称性又は組成物の変化に起因することは明らかであろう。金属原子の全体的な配列は固溶体及び規則的な合金の場合と同様にすることができるが、金属A原子と金属B原子の特定の配置の間の関係はここでは規則的であって不規則性がなく、異なる回折パターンを与える。さらに、均一な合金は構成成分金属を含む単一化合物である。均一な合金は個々の金属及び/又は金属含有化合物の緊密な混合物を含む。本明細書で定義される合金は、一般に非金属と考えられている元素を含むことのできる材料を含むことを意味する。例えば、本発明のいくつかの合金は、一般に低レベル又は不純物レベルと考えられる量の酸素及び/又は炭素を含むことができる(例えば、Structural Inorganic Chemistry、A.F.Wells、Oxford University Press、5th Edition、1995、chapter29参照)。
【実施例】
【0115】
(実施例1−個々にアドレス可能な電極上への触媒の形成)
以下の表A〜Cに記載した触媒組成物は、Warrenらの米国特許第6,187,164号明細書、Wuらの米国特許第6,045,671号明細書、Strasser,P.、Gorer,S.、及びDevenney,M.、Combinatorial Electrochemical Techniques For The Discovery of New Fuel−Cell Cathode Materials、Nayayanan,S.R.、Gottesfeld,S.、及びZawodzinski,T.出版のDirect Methanol Fuel Cells、Proceedings of the Electrochemical Society、New Jersey ,2001、191ページ、Strasser,P.、Gorer,S.、及びDevenney,M.、Combinatorial Electrochemical Strategies For The Discovery of New Fuel−Cell Electrode Materials、Proceedings of the International Symposium on Fuel Cells for Vehicles、41st Battery Symposium、The Electrochemical Society of Japan、Nagoya 2000、153ページに開示された組み合わせ技術を用いて調製した。例えば、独立電極のアレイ(約1〜3mm2の面積を有する)を不活性基板(例えば、ガラス、石英、サファイア、アルミナ、プラスチック、及び熱処理したシリコン)上に作製した。個々の電極は実質上基板の中心に配置され、基板の周辺の接触パッドにワイヤで接続した。電極、結合したワイヤ、及び接触パッドは伝導性材料(例えば、チタン、金、銀、白金、銅、又は他の通常用いられる電極材料)から作製した。
【0116】
特に、表A〜Cに記載した触媒組成物は、フォトリソグラフ/RFマグネトロンスパッタ技術(GHz範囲)を用いて調製し、64個の個々にアドレス可能な電極アレイ上に触媒の薄膜を付着させた。石英絶縁性基板を提供しフォトリソグラフ技術を用いてその上に電極パターンを設計し、作製した。基板上に予め定めた量のフォトレジストを塗布し、フォトレジストの予め選択した領域を感光し、これらの感光させた領域を除去し(例えば、適切な現像剤を用いて)、RFマグネトロンスパッタを用いて表面全体に約500nm厚さのチタン層を蒸着させ、蒸着したチタンの予め定めた領域を除去することによって(例えば、下地のフォトレジストの溶解によって)、個々にアドレス可能な電極の複雑なパターンを基板上に作製した。
【0117】
図13を参照すれば、作製されたアレイ40は、8×8平方内に配置され互いに(十分な空間で)絶縁され、且つ、基板44(絶縁基板上に作製された)から絶縁された64個の個々にアドレス可能な電極41(直径約1.7mm)からなり、その相互接続42及び接触パッド43は、(硬化したフォトレジスト又は他の適切な絶縁材料によって)電気化学試験溶液から絶縁した。
【0118】
最初のアレイ作製後、及びスクリーニング用の触媒の蒸着の前に、電極と露出された周辺の接触パッドの外側部分を残して、ワイヤと周辺の接触パッドの内側部分を被覆するパターン形成された絶縁層を蒸着した(接触パッドの約半分がこの絶縁層で被覆されることが好ましい)。絶縁層によって、ワイヤ又は周辺の接触パッドに発生し得る反応を心配することなく、所与の接触パッドの外側部分にリード(例えば、ポゴピン(pogopin)又はワニ挟み)を接続し、アレイを溶液に浸漬する間、その結合電極にアドレスすることが可能である。絶縁層は硬化したフォトレジストであったが、絶縁性のあることが知られている任意の他の適切な材料を使用することもできる(例えば、ガラス、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化シリコン、窒化ホウ素、酸化イットリウム、又は二酸化チタン)。
【0119】
チタン電極アレイの作製に続いて、64個の孔(直径1.7mm)を有するスチールマスクを基板に押圧して、スパッタされた材料が絶縁レジスト層に付着することを防止した。また、触媒の蒸着はRFマグネトロンスパッタ及びWuらが説明した、1個又は複数の電極に同時に材料の付着を可能にする2個のシャッター遮蔽装置を用いて達成した。個々の薄膜触媒は超格子蒸着法によって形成した。例えば、本質的に金属M1、M2、M3からなる触媒組成物を調製するとき、各々を電極上に蒸着し、次いで部分的又は完全にその上の他の金属と合金化する。さらに詳細には、最初に金属M1のスパッタターゲットを選択し、所定の厚さを有するM1の薄膜を電極に蒸着する。この初期の厚さは、典型的に約3〜約12Åである。この後、金属M2をスパッタターゲットとして選択し、M1の層の上にM2の層を蒸着する。また、M2層の厚さも約3〜約12Åである。蒸着された層の厚さは金属原子の拡散長の範囲(例えば、約10〜約30Å)であり、金属をその場で合金化させることが可能である。次いで、M3の層をM1−M2合金の上に蒸着し、M1−M2−M3合金膜を形成する。3段階の蒸着ステップの結果、望ましい化学量論的な合金薄膜(厚さ9〜36Å)が形成される。これが1蒸着サイクルの結果である。触媒材料の望ましい総厚さを達成するために、蒸着サイクルを必要なだけ繰り返し、これは特定の総厚さ(典型的に約700Å)の超格子構造を形成する。数、厚さ(化学量論比)、及び個々の金属層の塗工順序は手作業で決定することができるが、コンピュータプログラムを用いて、特定のライブラリーウェハ(すなわちアレイ)を調製する間、スパッタ装置の運転を制御するのに必要な情報を含む出力ファイルを設計することが望ましい。それらのコンピュータプログラムの1つはSanta Clara、カリフォルニア州のSymyx Technologies,Inc.から入手可能なLIBRARY STUDIOソフトウェアであり、欧州特許第1080435号明細書に記載されている。いくつかのスパッタしたままの合金組成物を電子分散分光計(EDS)を用いて分析し、それらが望ましい組成物で構成されていることが確認された(EDSを用いて測定した化学的組成は実際の組成物の約5%以内である)。
【0120】
アレイを調製して、以下の表A〜Cに記載した特定の合金組成物を評価した。各アレイ上の1個の電極は本質的に白金からなり、そのアレイ上の合金のスクリーニングのための内部標準とした。
【0121】
(実施例2−電極触媒活性度の触媒スクリーニング)
実施例1に記載した方法によってアレイ上に合成された表B記載の触媒組成物を、分子状酸素の水への電気化学的還元について実験計画1(詳細は以下)に従ってスクリーニングを行い、内部及び/又は外部白金標準に対する相対電極触媒活性度を求めた。さらに、実施例1に記載した方法によってアレイ上に合成された表A及び表C記載の触媒組成物を、分子状酸素の水への電気化学的還元について実験計画2(詳細は以下)に従ってスクリーニングを行い、電極触媒活性度を求めた。
【0122】
全体的に、アレイウェーハを電気化学的スクリーニングセル、及び64個の電極触媒(動作電極)とスクリーニングに使用される64チャンネルの多チャンネル電位計の間に電気的接触を確立したスクリーニング装置に組み立てた。詳細には、スクリーニング装置中に各ウェーハアレイを64点全てが上方に面するように置き、全体的に環状であり内部直径が約2インチ(5cm)の管状電池本体を、上方に面したウェーハ表面に押圧した。この管状電池の直径は、矩形電極アレイを備えるウェーハの部分が円筒形容積の基礎を形成し、接触パッドが円筒形容積の外部にあるようにした。この円筒形容積の中へ液体イオン性溶液(すなわち、0.5MのH2SO4水性電解質)を注ぎ、共通対電極(すなわち、白金網)と共通参照電極(例えば水銀/硫酸水銀参照電極(MMS))を電解質溶液中に置いて電気回路を閉じた。
【0123】
スクリーニング中に強制的な対流拡散条件を与えるために、ブレードを備える回転軸を電解質中に置いた。回転速度は典型的に約300〜約400rpmであった。スクリーニング実験に応じて、測定中アルゴン又は純粋な酸素を電解質に通してバブリングした。アルゴンは電解質中のO2ガスを除去し、触媒の初期条件に用いるためのO2を含まない条件を模擬する働きをした。純粋な酸素の導入は、酸素還元反応のために電解質を酸素で飽和する働きをした。スクリーニング中、電解質は60℃に保ち、回転速度は一定であった。
【0124】
(実験計画1)
3つの試験グループで触媒の活性度をスクリーニングした。電気化学的測定の前に電解質をアルゴンで約20分間パージした。試験の第1グループは、アルゴンによる電解質パージ中のサイクルボルタンメトリー測定を含んだ。詳細には、第1試験グループは、
(a)速度約20mV/sで、開回路電位(OCP)から約+0.3V、約−0.63Vへ、そして約+0.3Vへ戻る電位掃引、
(b)速度約200mV/sで、OCPから約+0.3V、約−0.7Vへ、そして約+0.3Vへ戻る連続75サイクルの電位掃引、
(c)速度約20mV/sで、OCPから約+0.3V、約−0.63Vへ、そして約+0.3Vへ戻る電位掃引、
を含んだ。
試験(c)で得た内部白金標準触媒のサイクルボルタンメトリー(CV)プロファイルの形状を、安定したCVが得られるまで予備処理を行ったPt薄膜電極から得た外部標準CVプロファイルと比較した。試験(c)が類似のサイクルボルタモグラムになれば、実験の第1グループは終了したものと考えた。試験(c)のサイクルボルタモグラムの形状が予期した標準PtCV挙動にならなければ、Pt標準触媒が望ましい標準ボルタンメトリープロファイルを示すまで試験(b)と(c)を繰り返した。このようにして、後続の実験において、Pt標準触媒が安定して良好に画定された酸素還元活性度を示すことが確認された。次いで、電解質を酸素で約30分間パージした。酸素によるパージを継続しながら、以下の第2試験グループを行った。
(a)開回路電位(OCP)を1分間測定し、次いで電位を−0.4Vにして1分間保ち、次いで速度約10mV/sで約+0.4Vまで掃引、
(b)OCPを1分間測定し、次いで約5分間電流を測定しながら電位をOCPから約+0.1Vまで印加、
(c)OCPを1分間測定し、次いで約5分間電流を監視しながら電位をOCPから約+0.2Vまで印加。
試験の第3グループは、第2試験グループの完了から約1時間後の第2試験グループの繰り返しを含んだ。待機中、電解質を連続的に攪拌し、酸素でパージした。前述の試験電圧の全ては水銀/硫酸水銀(MMS)電極による。さらに、64個の白金電極を備える外部白金標準を使用して試験を監視し、酸素還元評価の正確さと安定性を確保した。
【0125】
(実験計画2)
4つの試験グループで触媒の活性度をスクリーニングした。第1試験グループは予備処理工程であり、他の3つのグループは酸素還元活性度、ならびに触媒の電気化学的表面積をスクリーニングするための同一実験の組である。電解質は電気化学的測定の前に、アルゴンで約20分間パージした。第1試験グループは、アルゴンによる電解質のパージ間のサイクルボルタンメトリー測定を含んだ。詳細には、第1試験グループは、
(a)速度約20mV/sで、開回路電位(OCP)から約+0.3V、−0.63Vへ、そして、約+0.3Vへ戻る電位掃引、
(b)速度約200mV/sで、OCPから約+0.3V、−0.7Vへ、そして、約+0.3Vへ戻る連続50回の電位掃引、
(c)速度約20mV/sで、OCPから約+0.3V、−0.63Vへ、そして、約+0.3Vへ戻る電位掃引、
を含んだ。
第1試験グループのステップ(c)の後、電解質を酸素で約30分間パージした。次いで、酸素飽和溶液(すなわち、試験(a))、続いてArパージ中に行う試験(すなわち、酸素を含まない溶液、試験(b))を含む、以下の第2試験グループを行った。
(a)酸素飽和溶液中で、OCPを1分間測定し、次いで約5分間電流を測定しながら電位を約+0.1Vまで加えた。
(b)電解質をArで約30分間パージした後、速度約20mV/sで、開回路電位(OCP)から約+0.3V、約−0.63Vへ、そして約+0.3Vへ戻る電位掃引を行った。
第3及び第4試験グループは、試験完了後の第2試験グループの繰り返しを含んだ。前述の試験電圧の全ては水銀/硫酸水銀(MMS)電極による。さらに、64個の白金電極を備える外部白金標準を使用して試験を監視し、酸素還元評価の正確さと整合性を確保した。表に示した試験結果は、第4グループの酸素還元測定、すなわち、酸素飽和溶液中の最終スクリーニングから取った。Ar飽和段階は経時的な表面積など、触媒に関する追加的なパラメータの評価に役立つ。
【0126】
上述の実験計画1(表B)又は実験計画2(表A及び表C)に従って、表A〜Cに記載の特定の合金組成物を調製しスクリーニングを行った。試験結果をその中に記載する。表B中のスクリーニング結果は第3試験グループのためである(+0.1VMMSでの定常電流)。表A及び表C中のスクリーニング結果は、第4試験グループの酸素還元測定(すなわち、酸素飽和溶液中の最終スクリーニング)から取り、Ar飽和段階は時間を経た表面積など触媒に関する追加的なパラメータの評価に役立つ。報告された電流値(端電流密度(End Current Density))は、幾何形状表面積で正規化した、クロノアンペロメトリー試験の最後の3つの電流値の平均結果である。これらの表に示した結果から、多数の組成物が、例えば内部白金標準を超える酸素還元活性を示したことに留意されたい(例えば、表A中の電極番号35、27、28、19、13、12、21、20、14、2、10、表B中の38、45、1、52、31、55、32、2、表C中の35、37、21、5、15、27、3、7、17、57、63、8、12、53、19、49、36、51、58、34、14、30、40、38に対応する触媒組成物を参照されたい)。
【0127】
(実施例3−担持電極触媒合金の合成)
カーボン担体粒子上のPt−Ni−Fe合金(以下の表D、目標触媒組成参照)の合成を異なる工程条件に従って試み、典型的に燃料電池に使用される状態での触媒の性能を評価した。それを行うために、担持された白金粉体(すなわち、カーボンブラック粒子に担持された白金ナノ粒子)上に触媒成分を付着又は凝結させた。カーボンブラック上に担持された白金は、ニュージャージー州のJohnson Matthey,Inc.、及びSomerset、ニュージャージー州のDe−Nora,N.A.、Inc.のE−Tek Div.から市場で入手可能である。それらの担持された白金粉体は広範囲の白金担持量で入手可能である。この実施例に使用した担持白金粉体は、約20又は約40質量%の公称白金担持量、約150〜約170m2/g(CO吸着による測定)の白金表面積、約350〜約400m2/gのカーボン及び白金の組合せ表面積(N2吸着による測定)、約0.5mm未満の平均粒径(分粒篩による測定)を有していた。
【0128】
凍結乾燥凝結法を用いて表D(以下)の多数の触媒組成物(すなわち、HFC1481〜83、1551〜70、1583以外の全て)をカーボン担体粒子上に形成した。凍結乾燥法は、望ましい金属原子を望ましい濃度で含む初期溶液の形成を含んだ。担持された触媒の各々はその中に使用される金属含有化合物の量を変化させて、類似の方法で調製した。例えば、約16.9質量%の最終的な公称白金担持量である、目標Pt30Ni30Fe40合金組成物(例えばHFC267)を調製するために、約0.057gのNi(NO3)2・6H2Oを5mlのH2Oに溶解した。次に、約0.106gのFe(NO3)3・9H2Oを前の溶液に溶解し、透明な黄色前駆体溶液を得た。目標Pt35Ni35Fe30合金組成物(例えば、HFC276)を調製するために、約0.057gのNi(NO3)2・6H2Oを5mlのH2Oに溶解した。次に、0.068gのFe(NO3)3・9H2Oを前の溶液に溶解し、透明な黄緑色前駆体溶液を得た。公称白金担持量が約19.2質量%の担持白金粉体0.200gを含む石英製試験瓶に、前駆体溶液を導入し、黒色懸濁物を得た。BRANSON SONIFIER 150のプローブを試験瓶に浸漬し、混合物に約90秒間出力レベル3で超音波をかけることによって懸濁液を均一化した。次いで、均一化した懸濁液を含む試験瓶を液体窒素浴に約3分間浸漬し、懸濁液を固化した。次いで、固体懸濁物を約24時間LABCONCO FREEZE DRY SYSTEM(Model79480)を用いて凍結乾燥し、溶媒を除去した。凍結乾燥機のトレイ及び収集コイルは、系を脱気する間、それぞれ約27℃及び約−49℃に保った(圧力は約0.05ミリバールに保った)。凍結乾燥の後、試験瓶は、担持白金粉体、その上に付着したニッケル及び鉄の前駆体を含む粉体を含んだ。
【0129】
触媒組成物HFC1481〜1483、1551〜1570、及び1583は、共沈法を用いて調製した。公称白金担持量37質量%の担持白金粉体を用いて触媒組成物HFC1481〜1483及び1583を調製した。公称白金担持量45質量%の担持白金粉体を用いて触媒組成物HFC1551〜1570を調製した。目標Pt30Ni25Fe45合金組成物(例えばHFC1583)を調製するために、約2.91gのNi(NO3)2・6H2Oを約10mlのH2Oに溶解し、約4.04gのFe(NO3)3・9H2Oを約10mlのH2Oに溶解し、透明な黄緑色の透明溶液を得た。鉄溶液の一部(1.42ml)と0.79mlのニッケル溶液を、0.5gの担持白金粉体及び約200mlのH2Oを含む試験瓶に加えた。懸濁液を約80℃に加熱し、攪拌した。その後、水酸化アンモニウムを溶液のpHが約10の値に到達するまで加え、その点で黒色の沈殿物が形成された。熱い懸濁液を濾過し洗浄した。濾過物のケーキを他の試験瓶に移し90℃で一夜乾燥した。乾燥後、試験瓶は担持された白金粉体と、その上に付着したニッケル及び鉄の前駆体を含む粉体を含んだ。
【0130】
次いで、回収した前躯体粉体を熱処理して構成成分をその金属状態に還元し、これらの金属同士の合金化及びカーボンブラック粒子上の白金との合金化を完全に又は部分的に行った。1つの特定の熱処理は、粉体を約6%のH2と94%のArを含む雰囲気の石英フロー炉中で約5℃/分の速度で室温から約90℃までの温度プロファイルを用いて加熱するステップと、約90℃で2時間保つステップと、温度を約5℃/分の速度で約200℃まで上昇するステップと、約200℃で2時間保つステップと、温度を約5℃/分の速度で、例えば、約600、700、800、900、又は1000℃の最高温度まで上昇するステップと、最高温度で約1、2、5、7、12、又は14時間保つ(以下の表Dに示すように)ステップと、次いで室温まで冷却するステップと、を含んだ。
【0131】
担持された触媒の実際の組成を求めるために、異なる調製の触媒(例えば、組成物の変化又は熱処理の変化)をEDS(エネルギー分散分光法)元素分析にかけた。この技術のために、サンプル粉体は直径6mm、厚さ約1mmのペレットに圧縮した。ある担持触媒の目標合金組成及び実際の組成を表Dに記載する。
【0132】
(実施例4−担持された触媒の触媒活性度の評価)
表Dに記載し、実施例3によって形成された担持触媒をその活性度を評価するために電気化学的測定を行った。評価のために、担持触媒を当分野で通常使用される回転ディスク電極(RDE)上に塗工した(大表面積Pt/Vulcanカーボン燃料電池電極触媒のCO許容値についての回転ディスク電極測定(Rotating Disk Electrode Measurements on the CO Tolerance of a High−surface Area Pt/Vulcan Carbon Fuel Cell Electrocatalyst)、Schmidtら、Journal of the Electrochemical Society(1999)、146(4)、1296〜1304、回転ディスク電極構造を用いる大表面積電極触媒の特性評価(Characterization of High−Surface−Area Electrocatalysts using a Rotating Disk Electrode Configuration)、Schmidtら、Journal of the Electrochemical Society(1998)、145(7)、2354〜2358参照)。回転ディスク電極は、酸素還元(例えば燃料電池のカソード反応)に対するその固有の電解質活性度に関して担持触媒を評価するための比較的速く簡単なスクリーニング装置である。
【0133】
担持電極触媒とNAFION(登録商標)溶液を含む水性系インクをガラス状カーボンディスク上に付着させることによって、回転ディスク電極を調製した。NAFION(登録商標)溶液中の触媒粉体の濃度は、約1mg/mLであった。NAFION(登録商標)溶液は過フッ化イオン交換樹脂、低級脂肪族アルコール及び水を含み、樹脂の濃度は約5質量%であった。NAFION(登録商標)溶液はALDRICHカタログから製品番号27,470−4として市場で入手可能である。ガラス状カーボン電極は、直径5mmであり、鏡面に研磨した。ガラス状カーボン電極は、例えば、Grove City,PennsylvaniaのPine Instrument Companyから市場で入手可能である。各電極に対して、わずかに10μLの電極触媒懸濁液をガラス状カーボンディスクに付着させ、約60〜70℃の温度で乾燥させた。得られたNAFION(登録商標)と触媒の層は厚さ約0.2μm未満であった。この方法は特定の懸濁液で作られた各電極について白金担持量がわずかに異なったが、その変化量は10質量%未満であることが測定された。
【0134】
乾燥後、各回転ディスク電極を、室温に保たれた0.5Mの水性H2SO4電解質溶液を含む電気化学的セル中に浸漬した。測定を行う前に、電解質にアルゴンを約20分間バブリングすることによって、電解質から酸素を除去した。全ての測定は電極を約2000rpmで回転しながら行い、測定された電流密度をガラス状カーボン基板面積又は電極上の白金担持量のいずれかに対して正規化した。2つの試験グループは担持電極触媒の活性度をスクリーニングするために実施した。第1試験グループは、電解質のアルゴンパージ中のサイクルボルタンメトリー測定を含んだ。詳細には、第1グループは、
(a)速度約50mV/sで、OCPから約+0.35Vへ、次いで約−0.65Vへ、そしてOCPへ戻る2回の連続電位掃引、
(b)速度約200mV/sで、OCPから約+0.35Vへ、次いで約−0.65Vへ、そしてOCPへ戻る200回の連続電位掃引、
(c)速度約50mV/sで、OCPから約+0.35Vへ、次いで約−0.65Vへ、そしてOCPへ戻る2回の連続電位掃引、
を含んだ。
第2試験は、酸素で約15分間パージし、続いて電解質の酸素によるパージを継続しながら酸素還元についての電位掃引試験の実施を含んだ。詳細には、約−0.45Vから+0.35Vへの電位掃引を約5mV/sの速度で行い、電位の関数として触媒の初期活性度を評価し、幾何形状電流密度プロットを作成した。触媒を0.15Vでの拡散補正活性度を比較することによって評価した。前述の全ての試験電圧は水銀/硫酸水銀電極を参照している。また、触媒のないガラス状カーボンRDEの酸素還元測定は、電位の枠内に認識し得る活性度を示さなかったことに注目すべきである。
【0135】
上述の担持触媒組成物を上述の方法に従って評価し、その結果を表Dに示す。その中に示した結果から、本質的に全てのカーボン担持触媒組成物が、例えばカーボン担持白金標準を超える酸素還元活性を示したことに留意されたい(例えば、サンプル144、145、171、178、218、239、240、246、267、276、301、302、304参照)。
【0136】
評価結果は、中でも、本発明の担持触媒が異なる工程温度と時間を用いて製造できることを示している。しかし、特定の触媒組成物を製造するパラメータの組を開発するためには多数の繰り返し作業を要することに留意されたい。また、データによって明らかなことは、活性度がプロセスの条件の変化によって調節できることである。
【0137】
さらに、特定の理論には拘束されないが、類似の触媒組成物の活性度の相違は、均一性(例えば、本明細書で定義したように、合金は、構成成分原子が規則性の存在又は欠如を示す領域を有する、すなわち、規則性格子内の固溶体領域又はある種の超構造を有することができる)、成分原子の平均サイズの変化による格子パラメータの変化、粒子サイズの変化、結晶構造/対称性の変化など、いくつかの要因に起因するものと現在考えられている。合成、構造及び対称性の変化の影響はしばしば予測することが困難である。
【0138】
前述の担持触媒についてのXRD分析の解釈を以下に記載する。しかし、XRD分析の解釈は主観的なものであり、したがって、以下の結論によって制限されないことに留意されたい。
【0139】
Pt30T25W45(例えば、HFC302、目標触媒組成を参照されたい):HFC302の測定された組成はPt34Ti23Fe43であった。測定された化学量論比に基づいて予測されたfcc格子定数は、約3.745Åであった。実際に、合成したままのHFC302のXRD測定は3.741Åのfcc格子定数を示した。言い換えれば、測定された格子定数は実質上予測された格子定数と同じであった。合成したままのサンプルHFC302はPtFeに類似した結晶学的規則性を示すようであるが、対称性の低下によるピークは低い強度のものであった。粒子サイズは、既知のScherrer/Warren式を用いて、約2.3nmと予測された。
【0140】
前述のことから、特定の触媒組成物について、その特定の組成物の最高の活性度を形成するためには、最適条件を決定することが好ましい。実際に、ある触媒組成物について、異なる構造的特性は、「良好な」触媒として正確に記述されるものを定義することができる。これらの特性は、組成物の相違(格子パラメータの観点から)、結晶性、結晶学的規則性、及び/又は粒子サイズの相違を含むものである。これらの特性は、必ずしも予測可能ではなく、出発材料、合成方法、合成温度及び組成物の間の複雑な相互作用に依存する。例えば、触媒合金の合成に使用する出発材料は、合成された触媒合金の活性度に役割を果たすことができる。詳細には、金属硝酸塩溶液以外の何かを用いて金属原子を供給し、異なる活性度にすることができる。さらに、代替のPt源を用いることができる。雰囲気、時間、温度等の凍結乾燥及び熱処理パラメータも最適化を必要とするであろう。この最適化は、組成に依存するであろう。さらに、この最適化は相反する現象をバランスさせることを含むだろう。例えば、熱処理温度の上昇は、一般に金属塩の金属への還元を改善し、典型的に活性度を高めることが知られているが、これは触媒合金粒子のサイズを増加させ、表面積を減少させる傾向があり、これは電極触媒活性度を低下させる。
【0141】
(実施例5−触媒組成物前駆体の洗浄)
触媒前駆体組成物は、白金濃度が50原子%を超える触媒組成物を得るために、以下の手順に従って洗浄することができる。触媒前駆体組成物(例えば、サンプルHFC302、Pt30Ni25Fe45)粉体100mgを20mlのガラス試験瓶に入れ、1MのHClO4酸溶液15mlを(酸が粉体を十分濡らすように5〜10秒間かけて)ゆっくり加える。この混合物を、混合物の温度を90〜95℃に上昇させるように予め較正した熱板上に置く(混合物を入れた試験瓶には、起こり得る沸騰がその中の圧力を増加させないように、ゆるく蓋をする)。この条件下で1時間後、混合物を濾紙でフィルター処理する。フィルター処理されたケーキは大量の水で繰り返し洗浄する。
この最初の単一洗浄サイクルに続いて、分離された濾過ケーキを他の15mlの1MのHClO4酸溶液と共に新しい試験瓶に装填する。濾過ケーキを解すために十分攪拌した後、混合物を90〜95℃の熱板に1時間戻す。次いで混合物をフィルター処理し、水で洗浄する。得られるケーキを90℃で48時間乾燥する。
【0142】
上述の説明は例示のためであり制限するものではないことを理解すべきである。当業者であれば、上述の説明を読み取ることによって多くの実施形態が明らかになろう。したがって、本発明の範囲は上述の説明によってではなく、請求項及びそれらの請求項が含まれる等価の範囲全てを参照して決定されるべきである。
【0143】
本発明又はその実施形態の元素を導入するとき、冠詞「a」、「an」、「the」及び「said」は1種又は複数種の元素があることを意味する。用語「comprising」、「including」、及び「having」は包含的であり記載した元素以外の追加の元素が存在し得ることを意味する。
【0144】
端点による数字の範囲の列挙は、その範囲内に包含される全ての数字を含む。例えば、1〜5で記述される範囲は1、1.6、2、2.8、3、3.2、4、4.75、及び5を含む。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付けた領域は、点Pt100Ni0Fe0、Pt50Ni50Fe0、Pt50Ni0Fe50によって囲まれるが、点Pt70Ni20Fe10、Pt70Ni15Fe15、Pt55Ni15Fe30、Pt50Ni20Fe30、Pt50Ni30Fe20、Pt60Ni30Fe10によって囲まれる領域を含まない。
【図2】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図3】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図4】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図5】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図6】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図7】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図8】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図9】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付けた領域は、点Pt45Ni55Fe0、Pt45Ni40Fe15、Pt40Ni45Fe15、Pt35Ni45Fe20、Pt35Ni40Fe25、Pt40Ni35Fe25、Pt45Ni35Fe20、Pt45Ni20Fe35、Pt40Ni25Fe35、Pt35Ni25Fe40、Pt35Ni20Fe45、Pt40Ni15Fe45、Pt45Ni15Fe40、Pt45Ni0Fe55、Pt0Ni100Fe0、Pt0Ni0Fe100よって囲まれるが、点Pt20Ni20Fe60、Pt20Ni25Fe55、Pt25Ni20Fe55によって囲まれる領域、点Pt25Ni40Fe35、Pt25Ni35Fe40、Pt20Ni35Fe45、Pt15Ni40Fe45、Pt15Ni45Fe40、Pt20Ni45Fe35によって囲まれる領域及び点Pt25Ni65Fe10、Pt30Ni60Fe10、Pt30Ni55Fe15、Pt25Ni60Fe15によって囲まれる領域を含まない。
【図10】本発明に係る、白金−ニッケル−鉄合金のナノ粒子が表面に付着しているカーボン担体のTEM像写真である。
【図11】燃料電池の部材を示す模式分解図である。
【図12】組み立てられた図11の燃料電池の断面図である。
【図13】本発明による、個別にアドレス可能な電極上に付着している薄膜触媒組成物を備える電極アレイの写真である。
【発明の分野】
【0001】
本発明は燃料電池(例えば電極触媒)及び他の触媒構造の電極に触媒として使用するのに有用な、白金、ニッケル、鉄を含む触媒に関する。
【関連技術の説明】
【0002】
燃料電池は、水素又は炭化水素系燃料などの燃料とそこに供給される酸素ガス(空気中)などの酸化剤との酸化還元反応から発生される化学的エネルギーを、低電圧の直流電流に直接変換する電気化学的装置である。したがって、燃料電池は燃料と酸化剤の分子を燃焼させずに化学的に結合し、従来の燃焼の非効率性と環境汚染を回避する。
【0003】
燃料電池は一般に燃料電極(アノード)、酸化剤電極(カソード)、電極間に挟まれた電解質(アルカリ性又は酸性)、及び燃料流と酸化剤流をそれぞれアノードとカソードへ分離して供給する手段とから構成される。動作中に、アノードに供給された燃料は酸化されて電子を放出し、電子は外部回路を経てカソードへ導かれる。カソードにおいて、供給された電子は酸化剤が還元されるときに消費される。外部回路を通過する電流には有用な仕事を行わせることができる。
【0004】
燃料電池には、リン酸、溶融炭酸塩、固体酸化物、水酸化カリウム、又はプロトン交換膜を含んでいくつかの種類がある。リン酸燃料電池は約160〜220℃、好ましくは約190〜200℃で動作する。この種類の燃料電池は現在数メガワットの施設発電装置及び50から数十万ワットの範囲のコジェネ装置(すなわち熱と電力発生の組み合わせ)に使用されている。
【0005】
対照的に、プロトン交換膜燃料電池は固体プロトン伝導性ポリマー膜を電解質として用いる。典型的に、ポリマー膜はイオン伝導性の損失を防止するために運転の間水和の形に保たれ、運転温度は運転圧力に応じて約70〜約120℃、好ましくは約100℃以下に制限される。プロトン交換膜燃料電池は、液体電解質燃料電池(例えばリン酸)よりもはるかに高い電力密度を有し、要求電力の変動を満足するように急速に出力を変化させることができる。したがって、それらは迅速な起動が重要である自動車及び小規模住宅用発電などの用途に適している。
【0006】
ある用途において(例えば自動車)、純粋な水素ガスは最適な燃料である。しかし、より低い運転コストが望ましい他の用途において、改質水素含有ガスは適切な燃料である。水素含有改質ガスは、例えば、メタノールと水を200〜300℃で二酸化炭素を含む水素富裕燃料ガスへ蒸気改質することによって製造される。理論的に、改質ガスは75容積%の水素と25容積%の二酸化炭素からなる。しかし実際には、このガスは窒素、酸素、及び純度に応じて異なる量の一酸化炭素(1容積%まで)も含む。また、ある電子装置は液体燃料を水素に改質するが、ある用途では液体燃料を直接電気に変換することが望ましく、したがって高い貯蔵密度と装置の簡単さが組み合わされる。特に、メタノールは高いエネルギー密度で低コストであり、かつ再生可能な原料から製造されるので望ましい燃料である。
【0007】
燃料電池の酸化と還元反応を有用な速度、特に約300℃以下の運転温度で進めるために、典型的に電極触媒材料が電極に提供される。当初、燃料電池は、腐食性環境に耐えることができるので、単一金属、通常白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、銀(Ag)又は金(Au)から作られた電極触媒を使用した。一般に、約300℃以下で動作する燃料電池に対して、白金は最も効率的で安定な単一金属電極触媒と考えられる。
【0008】
上記元素は最初金属粉の形で燃料電池に使用されたが、後に、これらの金属を導電性担体(例えばカーボンブラック)の表面上に分散して電極触媒の表面積を増加する技術が開発された。電極触媒の表面積の増加は活性点の数を増加させ、セルの効率を向上させる。しかしながら、電解質、高い温度、及び分子状酸素の存在が電極触媒を溶解し、且つ/又は表面移動もしくは溶解/再析出によって分散された電極触媒を焼結するので、燃料電池の性能は時間の経過で減衰する。
【0009】
白金は燃料電池用の最も効率的で安定した単一電極触媒であると考えられるが、コストが高い。さらに、必然ではないが、燃料電池技術を広範囲で商業化するために、白金よりも高い電極触媒活性が望まれている。しかし、カソード燃料電池電極触媒材料の開発は長年にわたる課題に直面している。最大の課題は電極の酸素還元反応速度の改善である。実際に、緩慢な電気化学反応速度によって、電極触媒が酸素還元のための熱力学的な可逆的電極電位を獲得することが妨げられた。これは、例えば低温及び中間温度でのPt上の酸素還元において、約10−10〜10−12A/cm2の交換電流密度に反映されている。この現象に寄与する要因は、酸素の水への望ましい還元が4電子移動反応であり、典型的に反応の早い時期に強いO−O結合の分裂が関与する事実を含む。さらに、反応を抑制する過酸化物及び恐らくは白金酸化物の形成により、開回路電圧は酸素還元の熱力学的電位から低下する。第2の課題は、長期運転時の酸素電極(カソード)の安定性である。特に、燃料電池カソードは、最も活性のない金属元素でさえ完全に安定ではない領域で動作する。したがって、非貴金属元素を含む合金組成物は、予定された燃料電池の寿命に悪影響を与えるであろう腐食速度を有する。腐食は電池が開回路条件(熱力学的効率にとって最も望ましい電位)近くで動作する時さらに激しくなり得る。
【0010】
また、燃料電池の運転中、アノードでの電極触媒材料も課題に直面している。特に、燃料中の一酸化炭素(CO)の濃度が上昇して約10ppmを超えると、電極触媒の表面は急速に触媒被毒を受ける。結果として、燃料流が一酸化炭素を含む(例えば改質水素ガスは典型的に100ppmを超える)ならば、白金(それ自体)は不十分な電極触媒である。液体炭化水素系燃料(例えばメタノール)はさらに大きな触媒被毒問題を示す。特に、白金の表面は吸着した中間体、一酸化炭素(CO)で遮蔽される。以下の反応によるそれらの被毒化学種の除去に、H2Oが重要な役割を果たすことが報告された。
Pt+CH3OH→Pt−CO+4H++4e− (1)
Pt+H2O→Pt−OH+H++e− (2)
Pt−CO+Pt−OH→2Pt+CO2+H++e− (3)
前述の反応で示すように、メタノールは電極の表面上に吸着され、白金によって部分的に酸化される(1)。吸着された水の加水分解からのOHは、吸着されたCOと反応して二酸化炭素とプロトンを生成する(2、3)。しかし、白金は燃料電池電極の運転電位(例えば200mV〜1.5V)でOH化学種を急速に生成しない。その結果、ステップ(3)は工程中で最も遅いステップであり、CO除去の速度を制限し、それによって電極触媒の被毒が起きる。これはその低い動作温度のため、特にCO被毒に感受性の高いプロトン交換膜燃料電池に当てはまる。
【0011】
酸素還元中に電極触媒のカソード活性を改善し、且つ/又は水素もしくはメタノールの酸化中に電極触媒のアノード活性を高める1つの手段は、さらに活性度が高く、腐食に抵抗性があり、且つ/又はさらに触媒被毒に許容性のある電極触媒を使用することである。例えば、白金とルテニウムを50:50原子比率で合金化することによるCOへの許容性の向上が報告された(D.Chu及びS.Gillman、J.Electrochem.Soc.、1996、143、1685参照)。しかし、現在提案されている電極触媒にはさらに改善の余地がある。
【発明の概要】
【0012】
したがって簡単にいえば、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物に関し、組成物は白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度は50原子%を超える。ただし、触媒は実験式Pt50−70Ni15−30Fe10−30の組成を含まないものである。
【0013】
さらに、本発明は、例えば、燃料電池中の酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物に関し、組成物は白金、ニッケル、鉄を含み、白金濃度は70原子%(atomic percent)を超え約90原子%未満である。
【0014】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物に関し、組成物は白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度は50原子%を超え、(i)ニッケル濃度は15原子%未満又は30原子%を超え、又は(ii)鉄濃度は10原子%未満又は30原子%を超える。
【0015】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、前駆体組成物は、白金と、約45〜約55原子%の濃度のニッケルと、鉄とを含む。
【0016】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、25原子%未満の濃度の白金と、少なくとも約45原子%の濃度のニッケルと、鉄とを含む。
【0017】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、白金と、約15原子%以下の濃度のニッケルと、鉄とを含む。
【0018】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、白金と、ニッケルと、約10原子%以下の濃度の鉄とを含む。
【0019】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、白金と、ニッケルと、45原子%を超え55原子%未満の濃度の鉄とを含む。
【0020】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、約5〜約45原子%の濃度の白金と、約25〜約35原子%の濃度のニッケルと、約20〜約70原子%の濃度の鉄とを含む。
【0021】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、約25〜約35原子%の濃度の白金と、約15〜約60原子%の濃度のニッケルと、約15〜約50原子%の濃度の鉄とを含む。
【0022】
さらに、本発明は、例えば燃料電池中の酸化又は還元反応に使用するための触媒の調製に前駆体として使用するための組成物に関し、当該組成物は、約45原子%以下の濃度の白金と、ニッケルと、鉄とを含むものであって、実験式、(i)Pt35−45Ni35−45Fe15−25;(ii)Pt35−45Ni15−25Fe35−45;(iii)Pt20−25Ni20−25Fe55−60;(iv)Pt15−25Ni35−45Fe35−45;(v)Pt25−30Ni55−65Fe10−15の範囲の組成を含まない。
【0023】
さらに、本発明は、触媒前駆体組成物から、酸化又は還元反応の触媒として使用するための組成物を調製する方法に関する。前駆体組成物は前述の組成物の任意の1種とすることができる。あるいは、前駆体組成物は、白金、ニッケル及び鉄を含み、又は本質的に白金、ニッケル及び鉄からなることができ、その中の白金濃度は45原子%未満である。当該方法は、得られる触媒組成物が、(i)白金、ニッケル及び鉄を含み、その中の白金濃度が50原子%を超え且つ/又は(ii)上記の通りとなるように、前駆体組成物をその中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を除去するのに十分な条件にて処理することを含む。
【0024】
上記方法の1つの好ましい実施形態において、触媒前駆体組成物を酸性溶液に接触させてその中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を可溶化する。他の実施形態において、この方法は、触媒前駆体組成物に電気化学的反応を行わせることを含み、例えば、アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、触媒前駆体組成物と、アノードとカソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素が反応生成物と電気に変換される。水素含有燃料又は酸素と触媒前駆体組成物とを接触させることによって、水素含有燃料は酸化され、且つ/又は酸素は触媒還元される。この反応の部分として、ニッケル及び/又は鉄は触媒前駆体組成物からその場(in situ)で溶解する。
【0025】
さらに、本発明は、前述の触媒組成物及び/又は前駆体組成物の1種又は複数種に関し、組成物は記載された金属の合金を含み、又は代りに前記組成物は本質的に記載された金属の合金からなる。
【0026】
さらに、本発明は、電気化学反応装置中に使用するための担持電極触媒粉体に関し、担持電極触媒粉体は導電性担体粒子上に任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物を含む。
【0027】
さらに、本発明は燃料電池電極に関し、燃料電池電極は電極触媒粒子と、電極触媒粒子が表面に付着している電極基板とを備え、電極触媒粒子は任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物を含む。
【0028】
さらに、本発明は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間のプロトン交換膜と、水素含有燃料の触媒酸化又は酸素の触媒還元を行うための任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物とを備える燃料電池に関する。
【0029】
さらに、本発明は、アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物と、アノードとカソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素を反応生成物及び電気へと電気化学的に変換する方法に関する。当該方法は、水素含有燃料又は酸素を前述の組成物に接触させて水素含有燃料を触媒的に酸化し、あるいは酸素を触媒的に還元するステップを含む。
【0030】
さらに、本発明は、燃料電池電解質膜及び/又は燃料電池電極に関し、これらの表面上には担持されていない組成物の層が付着しており、担持されていない組成物の層は任意の前述の触媒及び/又は前駆体組成物を含む。
【0031】
前述の本発明の特徴と利点及び他の特徴と利点は以下の説明及び付随する図面によってより明らかになるであろう。
【0032】
図面を通して同じ参照番号は同じ部分を示すことに留意されたい。
【発明の詳細な説明】
【0033】
本発明は、例えば、ポリマー電解質膜燃料電池(例えば電極触媒)中で対象となる酸化及び/還元反応において使用するための触媒活性を有する組成物に関し、組成物はさらに本明細書に詳細にするように、白金、ニッケル、鉄を含む。これに加え、及び/又はこれの代わりに、本発明はさらに、触媒組成物の調製における前駆体として使用することのできる、それらの対象となる反応において使用するための組成物に関する。
【0034】
これに関して、一般に、それらの反応に使用される触媒組成物のコストを低減することは、特に燃料電池に使用されるとき、望ましいが重要ではないことに留意すべきである。触媒組成物のコスト低減の1つの方法は、触媒を製造するために使用する貴金属(白金など)の量を低減することである。しかし典型的に、貴金属の濃度が減少すると、触媒組成物は腐食に対してより敏感になり、且つ/又は絶対活性度が低下する傾向がある。したがって、貴金属の質量%あたり最も高い活性度を達成することが典型的に望ましい(例えば、下の表A〜Cに記載した、Ptの質量割合あたり端電流密度(End Current Density/Weight Fraction of Pt)を参照されたい)。これは、例えば触媒組成物を配置する燃料電池の寿命を犠牲にすることなく達成されることが好ましい。貴金属の濃度を制限することによるコスト低減に加えて、あるいは代りに、白金に比べて腐食抵抗性及び/又は活性度の改善を示す理由から、本発明の触媒組成物を選択することができる(例えば白金に比べて少なくとも3倍の電極触媒活性度の増加)。
【0035】
したがって、本発明は酸化及び/又は還元反応に触媒活性を有し、白金、ニッケル、鉄を含む組成物に関する。任意選択的に、本発明の触媒組成物はこれらの金属の合金の形とすることができ、組成物は例えば本質的にこれらの金属を含む合金からなる。代りに本発明の触媒組成物は、その一部が合金の形であるこれらの金属を含むことができ、例えば、組成物はコーティングとして、擬似担体として、及び/又は単純な混合物として、酸化物粒子と相互混合された合金粒子を有する。
【0036】
本発明の触媒組成物は、その中に存在する金属が触媒活性及び/又は触媒組成物の結晶構造に役割を果たす十分な量の白金、ニッケル、鉄を含む。言い換えれば、本触媒組成物中の白金、ニッケル、鉄の濃度は、金属の存在がその中の不純物と考えられないような濃度である。例えば、存在するとき、白金、ニッケル、鉄の各濃度は、少なくとも0.1、0.5、1、又は2原子%であることが好ましく、白金、ニッケル、鉄の濃度の総計は95原子%を超え、96原子%を超え、97原子%を超え、98原子%を超え、又は99原子%を超えることが好ましい。有利に、かつ驚くべきことに、本発明の触媒組成物は、白金の量を低減しながら(例えば、白金標準に比べて)好ましい電極触媒活性を呈することができる(例えば、白金標準の活性度と略等しい、又はそれを超える)ことが発見された。
【0037】
これに関して、本発明の触媒組成物は、任意選択的に本質的に白金、ニッケル、鉄からなる(例えば、存在するとき、触媒活性及び/又は触媒の結晶構造への役割の少ない不純物がいくらか存在することができる)ことができ、金属の濃度は、本明細書に記載される個々の金属あるいは金属の組み合わせの1つ又はそれ以上の範囲内であることに留意されたい。言い換えれば、金属又は白金、ニッケル、鉄以外の非金属元素の濃度は、任意選択的に不純物と考えられる濃度(例えば1、0.5、又は0.01原子%未満)を超えなくてもよい。しかし、本発明の触媒は、代りに白金、ニッケル、鉄、ならびに例えば白金、ニッケル、及び/又は酸化鉄及び/又は炭化鉄を含んで他の構成要素を含むことができる。したがって、いくつかの実施形態において、白金、ニッケル、鉄の濃度の総計は、その中に存在する金属原子の約100%未満とすることができることに留意されたい。
【0038】
さらに、本発明の1つ又は複数の実施形態において、白金、ニッケル、及び/又は鉄は実質上その金属酸化状態にあることに留意されたい。言い換えれば、白金、ニッケル、及び/又は鉄の平均酸化状態はゼロ又はゼロに近い。それらの実施形態において、白金、ニッケル、鉄の1つ又はそれ以上の酸化状態がゼロを超える触媒組成物の部分が存在し得るが、これらの元素の組成物全体の平均酸化状態は特別の元素で通常起きる最低の酸化状態未満とすることができる(例えば、白金、ニッケル、鉄の通常起きる最低の酸化状態はそれぞれ2、1、2である)。したがって、白金、及び/又は鉄の平均酸化状態は、好ましさが増加する順序で2、1.5、1、0.5、0.1、又は0.01未満、又は0とすることができるが、ニッケルの平均酸化状態は好ましさの増加する順序で、1、0.5、0.1、又は0.01未満、又は0とすることができる。
【0039】
しかしさらに、本発明の代りの実施形態において、白金、ニッケル及び/又は鉄は実質上その金属酸化状態になくてもよいことに留意されたい。言い換えれば、本発明の1つ又は複数の実施形態において、触媒組成物中に存在する白金、ニッケル、及び/又は鉄はゼロを超える平均酸化状態を有することができる(白金、ニッケル、及び/又は鉄は、例えば、酸化物又は炭化物として存在する)。しかし、これに関して、触媒組成物の成分金属の酸化状態は多くの要因に依存することにさらに留意されたい。例えば、(i)燃料電池の動作条件(例えば高電流領域又は低電流領域)、及び/又は(ii)触媒組成物がアノードとして用いられるか、あるいはカソードとして用いられるか(例えば、カソードとして用いられるならば、触媒表面のベース金属は一般にその金属状態を保たず、アノードとして用いられるならば、触媒表面のベース金属はゼロよりも高い酸化状態になることができ、又はならなくてもよい)。
【0040】
1.触媒組成物
A.構成成分の濃度
前述のことから、本発明の触媒組成物は1つ又は複数の実施形態を有することができることに留意されたい。さらに詳細には、本発明の第1の実施形態において、図1を参照すれば、触媒組成物は白金、ニッケル、鉄を含み、白金濃度は50原子%を超えるが、前記触媒が実験式Pt50−70Ni15−30Fe10−30の組成物を含まない。したがって、本発明の第1の実施形態において、本発明は白金、ニッケル、鉄を含む触媒組成物に関し、白金濃度は50原子%(例えば、約55、60、65、70、75、80、85又は90原子%)を超え、白金濃度は、例えば、約60〜約90原子%、約65〜約85原子%、又は約70〜約80原子%の範囲である。任意選択的に、(i)ニッケル濃度は15原子%未満(例えば、約2、4、8、10、又は12原子%、例えば約2〜15原子%、又は約4〜約12原子%の範囲)とすることができ、又は30原子%を超えることができ(例えば、約32、34、36、38、40、42、44、46、又は48原子%、例えば、約30〜48原子%、約32〜約46原子%、又は約34〜約44原子%の範囲)、及び/又は(ii)鉄濃度は10原子%未満(例えば、約2、4、6、又は8原子%、例えば、約2〜10原子%、又は約4〜約8原子%の範囲)とすることができ、又は30原子%を超える(例えば、約32、34、36、38、40、42、44、46、又は48原子%、例えば、約30〜48原子%、約32〜約46原子%、又は約34〜約44原子%の範囲)ことができる。
【0041】
代りに、組成物は、70原子%を超える白金濃度(例えば、約75、80、85、又は90原子%、例えば70〜約90原子%、又は約75〜約85原子%の範囲の濃度)を有することができる。任意選択的に、ニッケル濃度は、1〜30原子%未満の範囲(例えば、約2〜約20、約3〜約18、又は約4〜約16原子%)とすることができ、且つ/又は鉄濃度は、約1〜約30原子%未満の範囲(例えば、約10〜28、約12〜約27、又は約14〜約26原子%)とすることができ、ニッケルのより低い濃度は典型的により高い鉄の濃度に一致し、逆もそうである。
【0042】
しかし、これに関して、本発明の範囲は、本明細書で変更可能な様々な白金、ニッケル、及び/又は鉄濃度範囲の全てを包含するものであることに留意されたい。さらに、本発明の触媒組成物は任意の様々な白金、ニッケル、鉄濃度、及び/又は上記濃度範囲をその意図される範囲から逸脱することなく包含できることに留意されたい。
【0043】
さらに、1つ又は複数の前の実施形態において、本発明の触媒組成物は任意選択的に白金、ニッケル、鉄のそれらの記載された濃度を含むことができ、又は代りに、それらの記載された濃度からなることができることに留意されたい。したがって、1つ又は複数の上述の組成範囲は、例えば、図1における白金、ニッケル、鉄の三元図の影を付した領域によって描くことができる。
【0044】
本発明の前述の触媒組成物の1つ又は複数について与えられる詳細は、調製された触媒組成物の全体の化学量論又はバルク化学量論に関するものであることにさらに留意されたい。すなわち、報告された合金組成物は調製された電極触媒組成物の容積全体の平均的な化学量論であり、したがって、局部的な化学量論の変動が存在し得る。例えば、表面及びそこから内方へ最初の数原子層を含む電極触媒合金粒子の容積は、バルクの化学量論とは異なり得る。同様に、粒子のバルク内に、化学量論の変動があり得る。特定のバルク化学量論に対応する表面の化学量論は電極触媒合金が調製される方法と条件又は触媒が使用される方法に大きく依存し、同じバルク化学量論を有する合金がまったく異なった表面化学量論を有することができる。特定の理論に拘束されなければ、異なる表面化学量論は、少なくとも部分的に原子配置、異なる化学相の形成、触媒構成成分の自発的な表面分離、合金化の程度の差、及び電極触媒の均一性の差に由来すると考えられる。
【0045】
B.組成の変動
既に報告したように、触媒組成物に電極触媒反応(例えば、燃料電池の運転)を行わせると、触媒から1種又は複数種の構成成分(例えば、ニッケル及び/又は鉄)が浸出することによって、組成物が変化し得る(Catalysts for low Temperature Fuel Cells Part 1:The Cathode Challanges、T.R.Ralph及びM.P.Hogarth、Platinum Metals Rev.、2002、46、(1)、p.3〜14参照)。いかなる特定の理論にも拘束されなければ、この浸出効果は、表面積の増加及び/又は触媒の組成物の変化によって触媒の活性増加作用を行う可能性があると考えられる。実際に、合成後に意図的に触媒組成物を浸出させて表面積を増加することが、Itohらによって開示された(例えば、米国特許第5,876,867号明細書参照)。したがって、本発明の触媒組成物について本明細書に詳細に示した濃度及び濃度範囲は、バルク化学量論、それから得られる任意の出発表面化学量論、及び触媒に対象とする反応(例えば、電極触媒反応)を行わせることによって得られる出発バルク及び/又は表面化学量論の修正を含むことに留意されたい。
【0046】
2.触媒組成物前駆体
A.洗浄/浸出
使用中に観察された上記の組成的な変動に関して、現在までの経験に基づいて、使用中50原子%を超える白金濃度(すなわち変動が起きた後)を有する本発明の触媒組成物の性能(例えば活性度)は、使用の前に50原子%又はそれ以上の白金濃度を有するように調製された組成物に比べて改善されると考えられることに留意されたい。言い換えれば、現在までの経験に基づいて、本明細書に詳細を示した白金、ニッケル、鉄を含み、そこからニッケル及び/又は鉄を失った後に50原子%を超える白金濃度を有する触媒組成物は、最初に同じ又は類似の組成物を有するように調製された触媒組成物よりも良好に機能するであろうと考えられる。
【0047】
したがって、本発明はさらに本明細書に詳細に示した触媒組成物の調製に用いる前駆体組成物に関し、前駆体組成物は50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の白金濃度を有する。例えば、第2実施形態において、本発明は本発明の触媒組成物の前駆体に関し、前駆体組成物は50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の濃度の白金、約45〜約55原子%(例えば、46〜54、又は48〜52原子%)の濃度のニッケル、及び鉄を含む。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、少なくとも約5又は10原子%の白金濃度、及び/又は約5〜約30原子%の範囲(例えば、約10〜約25、又は約15〜約20原子%)の鉄濃度を有することができる。
【0048】
第3実施形態において、本発明は、25原子%未満(例えば、約1〜約20原子%、又は約5〜約15原子%の範囲)の濃度の白金、少なくとも約45原子%(例えば、約50〜約90原子%、又は約60〜約80原子%の範囲)の濃度のニッケル、及び鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、(i)少なくとも約5又は約10原子%の白金濃度、及び/又は(ii)約20原子%を超えない(例えば、約5〜約20原子%又は約10〜約20原子%の範囲)白金濃度を有することができる。さらに、鉄濃度は約5〜約30原子%(例えば、約10〜約25、又は約15〜約20原子%)の範囲とすることができる。
【0049】
第4実施形態において、本発明は、50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の濃度の白金、約15原子%を超えない(例えば、約5〜約10原子%の範囲)濃度のニッケル、及び鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、(i)約10原子%を超えないニッケル濃度、(ii)約40〜約60原子%の範囲の鉄濃度及び約25〜約45原子%の白金濃度、(iii)約40〜約55原子%の鉄濃度及び約30〜40原子%の白金濃度、又は(iv)約40〜約50原子%の鉄濃度及び約35〜約45原子%の白金濃度を有することができる。
【0050】
第5実施形態において、本発明は、50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%)の濃度の白金、ニッケル、及び約10原子%を超えない濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、(i)少なくとも約40原子%を超えないニッケル濃度、(ii)少なくとも約50原子%のニッケル濃度、及び/又は約90、約80、又は約70原子%を超えない(例えば、約50〜約90原子%、又は約50〜約80原子%、又は約50〜約70原子%の範囲の濃度)ニッケル濃度、(iii)50原子%を超えない白金濃度、及び/又は少なくとも約10又は20原子%(例えば、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%の範囲の濃度)の白金鉄濃度を有することができる。
【0051】
第6実施形態において、本発明は、50原子%未満(例えば、約45、40、35、30、25、20、15、10、又は5原子%、例えば、約5〜約45原子%、約10〜約40原子%、又は約20〜約30原子%の範囲)の濃度の白金、ニッケル、及び45原子%を超え55原子%未満、好ましくは約45〜約50原子%の濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、ニッケル濃度は、約1原子%を超え約50原子%未満の範囲、又は約5〜約40原子%、又は約10〜約30原子%の範囲である。
【0052】
第7実施形態において、本発明は、約5〜約45原子%の濃度の白金、約25〜約35原子%の濃度のニッケル、及び約20〜約70原子%の濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、(i)白金濃度は約10〜約45原子%及び鉄濃度は約20〜約65原子%であり、(ii)白金濃度は約15〜約40原子%及び鉄濃度は約25〜約60原子%であり、又は(iii)白金濃度は約20〜約40原子%及び鉄濃度は約25〜約55原子%である。
【0053】
第8実施形態において、本発明は、約25〜約35原子%の濃度の白金、約15〜約60原子%の濃度のニッケル、及び約15〜約50原子%の濃度の鉄を含む前駆体組成物に関する。任意選択的に、(i)鉄濃度は約25〜約50原子%であり、(ii)白金濃度は約30〜約35原子%であり、且つ/又は(iii)ニッケル濃度は約15〜約40原子%である。
【0054】
第9実施形態において、本発明は、約45原子%を超えない(例えば、約40、35、30、又は25原子%を超えない)濃度の白金、ニッケル、及び鉄を含む前駆体組成物に関するが、触媒は実験式、Pt35−45Ni35−45Fe15−25、Pt35−45Ni15−25Fe35−45、Pt20−25Ni20−25Fe55−60、Pt15−25Ni35−45Fe35−45、Pt25−30Ni55−65Fe10−15内の組成物を含まない。さらに任意選択的に、この実施形態の前駆体組成物は、実験式Pt20−30Ni55−65Fe10−15内の組成物を含まなくてもよい。それらの前駆体は、例えば、(i)約5〜約30原子%又は約10〜20原子%の白金、(ii)約40〜約80原子%又は約50〜約70原子%のニッケル、及び(iii)約20〜約30原子%の鉄を含むことができる。代りに、それらの前駆体は、例えば、(iv)約70〜約90原子%又は約75〜約85原子%のニッケル、又は(v)約70〜約90原子%又は約75〜約85原子%の鉄を含むことができる。
【0055】
1つ又は複数の前述の実施形態において、本発明の触媒前駆体組成物は任意選択的に本質的にその記載された濃度の、白金、ニッケル、鉄から構成することができることに留意されたい。したがって、前述の実施形態に記載された組成範囲の各々は、例えば、図2〜9中の白金、ニッケル、鉄の三元図における影を付した領域によってそれぞれ描くことができる。
【0056】
1つ又は複数の前述の実施形態において、触媒前駆体組成物は、代りに白金、ニッケル、鉄を含むことができる(すなわち、本明細書で前述したように他の構成成分が存在することができる)ことにさらに留意されたい。
【0057】
したがって、本発明はさらに、触媒前駆体組成物から触媒組成物を調製する方法に関し、前記前駆体組成物は本明細書で上述のように、白金、ニッケル、鉄を含む。一般に、工程は、前記前駆体組成物をその中に存在するニッケル及び/又は鉄の部分を除去するのに十分な条件(本明細書において記載されるように、例えば、触媒組成物が白金、ニッケル、鉄を含み、その濃度の総計が95原子%を超え、その中の白金濃度が、50、55、60、65、70、75、80、85原子%等を超える)にすることを含む。
【0058】
上記方法の好ましい一実施形態において、触媒前駆体組成物を酸性溶液に接触させ、その中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を前駆体から洗浄又は除去する。例えば、所与の質量の触媒前駆体組成物を所定量の過塩素酸(HClO4)溶液(例えば1M)に接触させ、所定の時間(例えば約60分間)加熱(例えば約90〜約95℃)し、濾過し、次いで繰り返し水で洗浄する。得られる濾過物は典型的に青白い色(例えば、薄い青色)を有し、ニッケル及び/又は鉄イオンの存在を示唆する。前駆体組成物は好ましくは2回洗浄し、第1濾過ステップから分離された固体ケーキを収集し、次いで実質上前に行ったステップと同じ手順を行い、ケーキ/酸溶液混合物を望ましい温度に加熱して戻す前、及び/又は加熱の間に、ケーキを十分攪拌してそれを破砕する。最終濾過を行った後、単離したケーキを乾燥する(例えば、約90℃で約48時間加熱する)。
【0059】
しかし、代替の実施形態において、触媒前駆体組成物は燃料電池に共通の条件(例えば、本明細書で以下の実施例4に説明されるように、室温に維持された0.5MのH2SO4水性電解質溶液を含む電気化学電池への浸漬)に露出し、前駆体からニッケル及び/鉄を浸出させることができることにさらに留意されたい。代りに、前駆体は、直接電気化学反応を行わせることができ、例えば、アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、触媒前駆体組成物と、アノードとカソードを接続する導電性外部回路とを備える燃料電池中で、水素含有燃料と酸素が反応生成物と電気に変換される。水素含有燃料又は酸素を触媒前駆体組成物に接触させることによって、水素含有燃料は酸化され、且つ/又は酸素は触媒還元される。この反応の一部として、ニッケル及び/又は鉄はこのようにして触媒前駆体組成物からその場で溶解する。実質上安定な組成物(すなわち、白金、ニッケル及び/又は鉄が実質上一定に保たれる組成物)を得るのに十分な時間この反応を継続させた後、組成物をセルから取り出し、対象となる将来の燃料電池反応の触媒組成物として使用することができる。
【0060】
例えば、触媒組成物前駆体からニッケル及び/又は鉄の一部を除去する工程は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に述べるもの以外とすることができることにさらに留意されたい。例えば、代替の溶液(例えば、HCF3SO3H、NAFION(登録商標)、HNO3、HCl、H2SO4、CH3CO2H)、及び/又は代替の濃度(例えば約0.05M、0.1M、0.5M、1M、2M、3M、4M、5M等)、及び/又は代替の温度(例えば、約25℃、約35℃、約45℃、約55℃、約65℃、約75℃、約85℃等)、及び/又は代替の洗浄時間又は期間(例えば、約5分間、約10分間、約20分間、約30分間、約40分間、約50分間、約60分間、又はそれ以上)、及び/又は代替の洗浄サイクル回数(例えば、1回、2回、3回、4回、5回、又はそれ以上)、及び/又は代替の洗浄技術(例えば、遠心分離、超音波、浸漬、電気化学的技術、又はこれらの組み合わせ)、及び/又は代替の洗浄雰囲気(例えば、周囲雰囲気、酸素富裕、アルゴン)、ならびにその様々な組み合わせ(当技術分野に通常の手段を用いて選択された)を用いることができる。
【0061】
実施例3によって調製され、実施例4の詳細によって分析されたある前駆体組成物について、白金、ニッケル、鉄の初期濃度に与える浸出の影響は、以下の表に示す結果でさらに示される(全ての%は原子%であり、RP(相対性能)は白金標準に対する活性度を示す)。
以下の実施例4でさらに詳細を示すように、活性度の評価工程の一部として上記サンプルを室温で0.5MのH2SO4溶液に露出した。結果が示すように、サンプルは最初20〜45原子%の白金濃度を有した(サンプルはニッケル富裕又は鉄富裕である)。しかし、酸性溶液に露出した後、ニッケル及び鉄をサンプルから失うため、全ては白金富裕であり、白金濃度は71〜80原子%(エネルギー分散分光法、又はEDSで求めて)の範囲であった。
【0062】
上に述べた、及び/又は本明細書のいずれかに述べ前駆体組成物は、例えば、洗浄又はある種のその場での浸出条件に露出する前の、調製された前駆体組成物の全体の化学量論又はバルクの化学量論を指す(例えば、電極触媒電池中に用いられる条件にする)ことに留意されたい。したがって、報告された前駆体組成物(例えば、記載された金属の合金を含む、又は本質的に合金からなる前駆体)は調製された前駆体組成物全体の平均的化学量論であり、したがって、局所的な化学量論変動が存在し得る。例えば、表面及びそこから内方へ最初の数原子層を含む電極触媒合金粒子の容積は、バルクの化学量論とは異なっていてもよい。同様に、粒子のバルク内に、化学量論の変動があり得る。特定のバルク化学量論に対応する表面の化学量論は前駆体組成物が調製される方法と条件に大きく依存する。このように、同じバルク化学量論を有する前駆体組成物はまったく異なった表面化学量論を有していてもよい。特定の理論に拘束されなければ、異なる表面化学量論は、少なくとも部分的に原子配置、化学相、組成物の均一性の差に由来すると考えられる。
【0063】
B.前駆体格子パラメータ
また、本発明の1つ又は複数の実施形態による触媒前駆体組成物は、その格子パラメータによって特徴付けることができる。特に、格子パラメータの変化は、それぞれの金属構成成分のサイズの変化が得られることを示唆する。例えば、白金、ニッケル、鉄の12−配位金属半径はそれぞれ1.387Å、1.246Å、1.274Åである。1種の金属が他に置き換えられると、平均金属半径したがって観察される格子パラメータは、それに応じて収縮又は膨張すると予測できる。したがって、平均半径は、化学量論の関数として格子変化の指標に用いることができ、又は代りに、観察された格子パラメータに基づく化学量論の指標として用いることができる。しかし、平均半径は一般則として有用であるが、局部的な規則性、原子間の顕著なサイズの格差、顕著な対称性の変化、及び/又は他のパラメータが予測とは一致しない値を生じることがあるので、実際の測定は一般論的な確認しか期待できないことに留意されたい。一般に、金属半径は純粋な金属の格子パラメータから近似される。しかし、場合によって、代替の金属半径を用いることが有用となり得る。それらの代替半径の概念の1つは、純粋な金属の代りに、既知の結晶学的に規則性のあるPtFeなどのPt系合金(立方体対称性が維持される)を用いて、金属半径を近似する。この場合、許容された白金の12−配位金属半径と共に、規則性金属合金の格子パラメータが用いられること以外は、同じ最密充填幾何形状の議論が関与する。代替の半径概念によれば、ニッケルの有効半径は約1.265Åであり、鉄の有効金属半径は1.306Åであると考えられる。また、適切であれば、より低い対称性結晶構造をより高い対称性又は親の結晶構造に近似することがしばしば有用である。純粋な白金の場合、結晶構造は面心立方体として説明することができる。白金系合金、例えばPtFeの結晶構造は、しばしば類似の、しかし親の面心立方構造の部分集合として説明することのできる、より対称性の低い種類の構造を示す。不規則性材料もやはり純粋な白金の対称性の高い種類の構造に結晶化することができるが、規則性材料は、より対称性の低い種類の構造に結晶化することができる。それらの場合において、対称性の高い(不規則性)構造と対称性の低い(規則性)構造の種類の間で格子パラメータを比較することができるように、結晶構造を擬似面心立方体として説明することは有用であろう。前駆体合金及びそれらの予測される格子パラメータの例は、Pt15Ni85Fe0(約3.630Å)、Pt15Ni65Fe20(約3.653Å)、Pt35Ni45Fe20(約3.722Å)、Pt35Ni65Fe0(約3.699Å)、Pt20Ni55Fe25(約3.676Å)、Pt20Ni25Fe55(約3.711Å)、Pt45Ni0Fe55(約3.797Å)、Pt50Ni25Fe25(約3.780Å)を含む。また、本発明の触媒組成物前駆体の不規則性合金の格子パラメータも求めることができる。しかし、触媒組成物前駆体の規則性合金の格子パラメータは予測される不規則性合金の値から偏ることができることに留意されたい。また、規則性合金の場合、観察された格子パラメータを規則性Pt3Fe又はPtFeのものと比較することは有益であろう。
【0064】
3.合金を含み/本質的に合金からなる触媒組成物前駆体の形成
本発明の触媒組成物、及び/又は触媒組成物前駆体は本質的に白金、ニッケル、鉄の合金からなることができる。代りに、本発明の触媒組成物、及び/又は触媒組成物前駆体は、白金、ニッケル、鉄の合金を含むことができる。すなわち、これらの1種又は両方ともこれらの金属の合金、かつ任意選択的にこれらの金属の1種又は複数種を非合金の形で(例えば金属の形の白金、ニッケル、及び/又は鉄、及び/又は白金、ニッケル、及び/又は鉄塩、及び/又は酸化物、及び/又は炭化物、及び/又は窒化物)代りに含むことができる。
【0065】
それらの合金は様々な方法で形成することができる。例えば、適量の構成成分(例えば金属)を互いに混合し、それぞれの融点以上の温度に加熱して金属の溶融溶液を形成し、冷却して固化することができる。
【0066】
典型的に、本発明の触媒組成物、及び/又はその前駆体は、表面積を増すために粉体の形で用いられる。すなわち活性点の数を増加して触媒組成物が用いられるセルの効率を向上させる。したがって、形成された触媒組成物合金、及び/又はその前駆体は、固化の後(例えば粉砕によって)又は固化の間に(例えば溶融合金を噴霧して液滴を固化させる)粉体に変換することができる。しかし、これに関して、場合によっては本明細書でさらに説明し図示するように、粉体の形ではない合金の電極触媒活性度を評価することが有利である(例えば以下の実施例1及び2参照)ことに留意されたい。
【0067】
表面積と効率をさらに増加させるために、触媒組成物合金(すなわち本質的に合金を含む、又は合金からなる触媒組成物)及び/又はその前駆体を、燃料電池に使用する導電性担体(例えばカーボンブラック)の表面に付着させることができる。触媒組成物又は前駆体合金を担体上に装填する1つの方法は、金属含有(例えば、白金、ニッケル、及び/又は鉄)化合物を担体上に付着させ、これらの化合物を金属の形に変換し、還元雰囲気中(例えば、アルゴンなどの不活性ガス及び/又は水素などの還元性ガスを含む雰囲気)の熱処理を用いて金属を合金化することを典型的に含む。これらの化合物を付着させる1つの方法は担体上へのその化学的凝結を含む。化学的凝結法は、典型的に、担体と金属含有化合物原料(例えば1種又は複数種の無機金属塩を含む水性溶液)を、担体上に望ましい触媒組成物又はその前駆体の装填を得るのに十分な濃度で混合し、その後、化合物化合物の凝結を開始し、スラリーを得る(例えば、水酸化アンモニウム溶液、アルコール又は水素化ホウ素ナトリウムの添加によって)。凝結工程は、同時に金属含有化合物の金属の形への還元を含むことができ、又は含まなくともよい。凝結剤として水酸化アンモニウムの場合、凝結は典型的に金属酸化物及び水酸化物を含み、金属は非金属の形である。対照的に、還元性凝結剤(例えばアルコール、アルデヒド、水素化ホウ素)の場合、凝結はその還元された金属の形を含む。次いで、スラリーは典型的に真空中で液体から濾過し、脱イオン水で洗い、乾燥して担体上に金属含有化合物を含む粉体を生成させる。
【0068】
金属化合物を付着させる他の方法は、溶液とその中に懸濁された担体を含む懸濁液を形成することを含み、溶液は、溶媒部分と、付着させる金属化合物の構成成分とを含む溶質部分を含む。懸濁液は凍結されて担体粒子上に上記化合物を付着(例えば凝結)させる。次に、凍結された懸濁液は溶媒部分を除去するために凍結乾燥され、担体と担体上の金属化合物の付着物(deposits)を含む凍結乾燥された粉体が残る。
【0069】
工程は凍結された懸濁液からの溶媒部分の昇華を含むことができるので、担体が懸濁される溶液の溶媒部分は、その凝固点以下で適切な蒸気圧を有することが好ましい。多くの金属含有化合物及び金属も溶解するそれらの昇華可能な溶媒の例は、水、アルコール(例えばメタノール、エタノール等)、酢酸、四塩化炭素、アンモニア、1,2−ジクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド等である。
【0070】
担体が分散され/懸濁された溶液は、担体の表面に付着させる金属化学種を送達する手段を提供する。金属化学種は最終的に望ましい形とすることができるが、多くの場合そうではない。金属化学種が最終的に望ましい形でなければ、付着した金属化学種は続いて最終の望ましい形に変換することができる。続いて変換されるそれらの金属化学種の例は、金属のハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩等の無機及び有機金属化合物を含む。最終的に望ましい形への変換は、熱分解、化学的還元、又は他の反応によって行うことができる。例えば、熱分解は、付着した金属化学種を加熱することによって行われ、異なる固体材料とガス状材料を得る。一般に、知られているように、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩の熱分解は約200〜約1,200℃の温度で行うことができる。
【0071】
付着した金属化学種が最終的に望ましい形に変換されれば、通常、付着させる金属化学種は変換によるあらゆる望ましくない副生成物が最終生成物から除去されるように選択される。例えば、典型的に望ましくない分解生成物を熱分解中に蒸発させる。金属合金である最終生成物を生成するためには、典型的に、担体の表面上の金属付着物の均一性を大きく変化させずに、且つ/又は最終粉体の粒子サイズを大きく変化させずに(例えば凝集によって)、付着した金属化学種を含む粉体を還元することができるように付着させる金属化学種が選択される。
【0072】
殆どあらゆる金属は、金属又は金属を含む化合物が適切な媒体(すなわち溶媒)に溶解可能であれば、本明細書に述べた1種又は複数種の工程によって担体上に付着させることができる。同様に、金属又は金属含有化合物が適切な媒体に溶解可能であれば、殆どあらゆる金属は任意の他の金属と結合させ、又は合金化することができる。
【0073】
溶質部分は、付着させる金属化学種の原料として、有機金属化合物及び/又は無機金属含有化合物を含むことができる。一般に、有機金属化合物はよりコスト高であり、無機金属含有化合物よりも不純物を多く含むことがあり、有機溶媒を必要とする。有機溶媒は水よりもコスト高であり、典型的に純度の制御又は毒性の除去のための手順及び/又は処理を必要とする。したがって、有機金属化合物及び有機溶媒は一般に好ましくない。適切な無機塩は、Ni(NO3)2・6H2O及びFe(NO3)3・9H2Oを含む。それらの塩は水への溶解性が高く、その結果、水はしばしば好ましい溶媒であると考えられる。いくつかの例において、無機金属含有化合物は、他の無機金属含有化合物と混合する前に酸性溶液に溶解することが望ましい。
【0074】
特定の組成物又は化学量論的な触媒合金あるいは触媒前駆体合金を形成するためには、それを考慮してその組成物を得るのに必要な様々な金属含有原料化合物の量が決定される。担体が予備付着された金属(pre−deposited metal)を有するならば、金属含有原料化合物の必要量を計算するとき、予備付着された担体上への金属担持(loading)を考慮にいれる。金属含有化合物の適切な量が決定された後、任意の適切な方法によって溶液を調製することができる。例えば、全ての選択された金属含有原料化合物が室温で同じ溶媒中に望ましい濃度で溶解可能であれば、それらは単に溶媒と混合することができる。代りに、原料溶液を混合することによって懸濁溶液を形成することができ、原料溶液は特定の濃度の特定の金属含有原料化合物を含む。しかし、選択された化合物の全てを互いに混合するとき(溶媒中に粉体として又は原料溶液として)同じ温度で溶解可能でなければ、混合物の温度を上昇させて1種又は複数種の原料化合物の溶解性限界を高め、懸濁溶液を形成することができる。温度による溶解性の調節に加えて、懸濁溶液の安定性は、例えば、緩衝剤の添加、錯化剤の添加及び/又はpHの調節によって調節することができる。
【0075】
様々な金属の量を変化させて異なる組成物を有する合金を形成することに加えて、この方法は担体上への金属の担持量に広範囲の変化を可能にする。これは担持された触媒合金粉体(例えば電極触媒粉体)の活性を最大にするので有益である。担持は、様々な金属の相対量を維持しながら溶液中の様々な金属の総濃度を調節することによって部分的に制御されてよい。実際に、無機金属含有化合物の濃度は溶液の溶解限界に近づくことができる。しかし、典型的に、溶液中の無機金属含有化合物の総濃度は約0.01〜約5Mであり、これははるかに溶解限界以下である。一実施形態において、溶液中の無機金属含有化合物の総濃度は約0.1〜約1Mである。金属付着物の表面積を減少させることなく担持された金属合金電極触媒の担持を最大化することが望ましいので、溶解限界以下の濃度が用いられる。例えば、特定の組成物、付着物のサイズ、付着物の担体上の分布の均一性に応じて、担持量は典型的に約5〜約60質量%であってよい。一実施形態において、担持量は約15〜約45質量%もしくは約15〜約55質量%であり、又は約20〜約40質量%もしくは約20〜約50質量%である。他の実施形態において、担持量は約20質量%、又は約40質量%、又は約50質量%である。
【0076】
その上に金属化学種(例えば金属含有化合物)を付着させる担体は、その上で熱を取り除いて金属化学種を凝結させる間に溶液中に分散/懸濁することの可能な、任意のサイズ及び組成物とすることができる。最大サイズは、懸濁液の攪拌、担体の密度、溶液の比重、系から取り除かれる熱の速度を含むいくつかのパラメータに依存する。一般に、担体は導電性であり、燃料電池に触媒化合物を支持するのに有用である。それらの導電性担体は典型的に無機、例えばカーボン担体である。しかし、導電性担体は、導電性ポリマー(例えば米国特許第6,730,350号明細書参照)などの有機材料を含むことができる。カーボン担体は主として非晶質又はグラファイト質であり、それらは商業的に調製され、又は特別に処理してそのグラファイト性質を増加させ(例えば、真空中又は不活性ガス雰囲気中高温で熱処理する)、それによって腐食抵抗性を高めることができる。カーボンブラック担体粒子は約2000m2/gまでのBrunauer、Emmett and Teller(BET)表面積を有することができる。例えば約75m2/gよりも高い中間多孔質面積を有するカーボンブラック担体粒子を用いて、満足できる結果が得られることが報告された(例えばCatalysis for Low Temperature Fuel Cells Part 1:The Cathode Challenges、T.R.Ralph and M.P.Hogarth、Platinum Metals Rev.、2002、46、(1)、p.3〜14参照)。現在までの実験結果は、約500m2/gの表面積が好ましいことを示している。
【0077】
他の実施形態において、担体はその上に予備付着された材料を有してよい。例えば、カーボン担体上の付着物の最終組成物が白金合金であるとき、カーボンに担持された白金粉体を使用することが有利である。それらの粉体は、New JerseyのJohnson Matthey,Inc.、及びSomerset,New JerseyのDe−Nora,N.A.、Inc.のE−Tek Div.などから市場で入手可能であり、特定の白金担持を有するように選択することができる。白金担持の量は担持された金属合金の望ましい化学量論を得るように選択される。典型的に、白金担持量は約5〜約60質量%である。白金の担持量は約15〜45質量%であることが好ましい。白金付着物のサイズ(すなわち最大断面長さ)は典型的に約20nm未満である。例えば、白金付着物のサイズは約10nm、5nm、2nm未満、又はさらに小さくすることができ、代りに、白金付着物のサイズは約2〜約3nmとすることができる。現在までの実験結果は、望ましい担持された白金粉体は、約150〜約170m2/g(CO吸着によって求めた)の白金表面積と、約350〜約400m2/g(N2吸着によって求めた)のカーボンと白金の組み合わせ表面積と、及び約100〜約300nmの平均担体サイズを有することをさらに特徴付けできることを示している。
【0078】
溶液及び担体は、分散物/懸濁物を形成する当技術分野に知られた任意の適切な方法によって混合することができる。例示的な混合方法は、磁気攪拌、攪拌構造又は装置(例えば、回転子)の挿入、振動、超音波、又は前記方法の組み合わせを含む。担体を溶液と十分混合できるならば、担体と溶液の相対量は広範囲に変化させることができる。例えば、溶解した無機金属含有化合物を含む水性懸濁物を用いてカーボンに担持された触媒を調製するとき、カーボン担体は典型的に約1〜約30質量%の懸濁物を含む。しかし、カーボン担体は約1〜約15質量%の懸濁物、約1〜約10質量%の懸濁物、約3〜約8質量%の懸濁物、約5〜約7質量%の懸濁物、又は約6質量%の懸濁物を含むことが好ましい。
【0079】
これに関して、上で参照した懸濁物中のカーボン担体の量は、本明細書に記載される、あるいは当技術分野で知られた他の非カーボン担体に等しく適用することができることに留意されたい。
【0080】
また、担体と溶液の相対量は、容積比で記述することができる。例えば、分散物/懸濁物は溶液又は溶媒に対する担体粒子の容積比を少なくとも1:10とすることができる。最小容積比を規定することは、溶液又は溶媒の容積に対して担体粒子の容積を増加できることを意味する。このように、溶液又は溶媒に対する担体粒子の容積比は少なくとも約1:8、1:5、又は約1:2ともすることができる。
【0081】
調製の一方法において、本明細書に説明又は例示される溶液及び担体は、担体の孔が溶液で含浸され、且つ/又は担体が均一に溶液に分散された分散物/懸濁物を形成するのに十分な出力と期間の超音波を用いて混合される。分散物/懸濁物が均一に混合されない(すなわち担体が溶液で均一に含浸されず、且つ/又は担体が溶液全体に均一に分散されない)ならば、担体上に形成された付着物は典型的に不均一であろう(例えば金属化学種の担持量は担体間で変化し、付着物のサイズは担体及び/又は担体間で大きく変動し、且つ/又は付着物の組成物は担体間で変化し得る)。担体は溶液中に均一に混合され、又は分散されることが一般に好ましいが、溶液中に担体が不均一に混合され又は分散されることが望ましい状況もあり得る。
【0082】
調製に凍結乾燥法が用いられるとき、典型的に、分散物/懸濁物中の粒子の分散の均一性はそこから熱を除去する間維持される。この均一性は、冷却するときに分散物/懸濁物の混合を継続することによって維持することができる。しかし、均一性は混合することなく分散物/懸濁物の粘度によって維持することができる。担体粒子を均一に懸濁させるために必要な実際の粘度は、分散物/懸濁物の担体粒子の量と担体粒子のサイズに大きく依存する。必要な粘度は担体粒子の密度と溶液の比重に少なからず依存する。一般に、懸濁物から熱を除去して付着物を凝結させるとき、且つ/又は必要であれば溶液又は溶媒の凍結によって分散物/懸濁物を固化するまで、粘度は担体粒子の実質的な沈澱を十分防止する。沈澱する場合、沈澱の程度は、例えば、懸濁物の固化又は凍結した部分を試験することによって求めることができる。典型的に、任意の2つの部分の担体濃度が約±10%以上変化するならば、実質的に沈澱が起きたものと考えられる。凍結乾燥法によってカーボン担持触媒粉体又はその前駆体を調製するとき、分散物/懸濁物の粘度は少なくとも約4分間沈澱を防止できれば十分である。実際に、分散物/懸濁物の粘度は少なくとも約10分間、少なくとも約30分間、少なくとも約1時間、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約18時間、及び約2日間まで沈澱を防止できれば十分であろう。典型的に、分散物/懸濁物の粘度は少なくとも約5,000mPa・sである。
【0083】
熱が分散物/懸濁物から除かれるので、少なくとも一部の溶質部分が溶媒部分から分離し、担体上及び/又は任意の予め存在する付着物(例えば、相溶性のない溶質の凝結によって形成された、予備付着された金属及び/又は予備付着された金属化学種)の上に金属化学種が付着する(例えば凝結)。懸濁物中の担体の濃度が十分であり(例えば上記の範囲内)、熱が十分除去されれば、付着すべき金属化学種の殆ど全てが溶媒部分から分離して、担体上に金属化学種を含む付着物(例えば凝結物)が形成される。一実施形態では、熱を除去して分散物/懸濁物を固化又は凍結し、固体状態の溶媒部分のマトリックス内に、担体/粒子状担体上の金属化学種又は凝結金属を含む付着物と担体/粒子状担体を含む複合体を形成する。溶液中の溶質部分の濃度が金属化学種の付着物を収容する担体の能力を超えるならば、溶質のいくらかの部分はマトリックス内で結晶化する。これが起きても、それらの結晶は担持された粉体とは考えない。
【0084】
本発明の一実施形態において、金属化学種付着物のサイズは、最終的に形成された触媒組成物合金の付着物又はその前駆体が燃料電池触媒として使用するのに適したサイズ(例えば、約20nm、約10nm、約5nm(50Å)、約3nm(30Å)、約2nm(20Å)を超えないサイズ)であるように制御される。上述のように、合金付着物サイズの制御は、系から熱を除去する間、良好に含浸され均一に分散された懸濁物を維持することによって少なくとも部分的に達成することができる。さらに、付着物サイズの制御は、化合物又は複数種の化合物を担体上に付着させるとき、熱を急速に分散物/懸濁物から除去することによって達成することができる。
【0085】
急速な熱の除去は、少なくとも約20℃の温度から、例えば、少なくとも約20℃/分の速度で、溶媒の凝固点以下の温度に分散物/懸濁物を冷却することによって達成することができる。熱の除去は、好ましさが増加する順序に、少なくとも約50、60、70、80、90、又は100℃/分の速度で、分散物/懸濁物を冷却することを含むことができる。このように、分散物/懸濁物は約50〜約100℃/分、又は約60〜約80℃/分、の速度で冷却することができる。典型的に、熱の除去は、懸濁物の温度を、室温などの温度(約20℃)又はそれ以上(例えば、約100℃)の温度から比較的短期間(例えば、約10、5、又は3分間を超えない)に溶液又は溶媒の凝固点まで低下させる速度である。
【0086】
熱は任意の適切な方法によって分散液/懸濁液から除去することができる。例えば、分散液/懸濁液の容積を含む容器を凍結乾燥機などの冷凍ユニット内に置くことができ、分散液/懸濁液の容積を冷却した表面(例えばプレート又は容器)に接触させることができ、容器内の分散液/懸濁液の容積を低温液体中に浸漬させ、又は接触させることができる。同じ容器を分散液の形成の間、及び/又は付着された担体から溶媒を分離する間使用できることが有利である。一実施形態において、容器の開口部に蓋が置かれる。蓋は容器からいかなる固体物質も抜け出ることを完全に防止することができるが、蓋は、担体が容器から出ることを実質上阻止しながら、ガスが容器から抜け出ることを許すことが好ましい。それらの蓋の例は、例えば約500、400、又は300μm(孔径の最大長さ)未満のサイズの孔を有する引き伸ばし可能なフィルム(例えば、PARAフィルム)を含む。
【0087】
一実施形態において、分散物/懸濁物は、その表面の少なくとも大部分(例えば、分散物/懸濁物の表面の少なくとも約50、60、70、80、又は90%)が低温液体に接触するようなサイズと形状にされた低温容器内の低温液体の容積に分散物/懸濁物を含む容器を浸漬又は接触させることによって、少なくとも約20℃/分未満の速度で冷却される。低温液体は典型的に溶媒の凝固点の少なくとも約20℃以下の温度である。適切な低温液体の例は、液体窒素、液体ヘリウム、液体アルゴンを典型的に含むが、より安価な媒体を用いることができる(例えば、氷水/水和塩化カルシウム混合物は約−55℃の低い温度に達することができ、アセトン/ドライアイス混合物は約−78℃の低温に達することができ、ジエチルエーテル/ドライアイス混合物は約−100℃の低温まで達することができる)。
【0088】
容器は、殆どあらゆる種類の材料から作ることができる。一般に、選択される材料は特別な取り扱い手順を必要とせず、構造の破壊なしに繰り返し使用に耐える(例えば熱衝撃抵抗性)ことができ、懸濁液への不純物の原因にならず(例えば化学的攻撃に対する抵抗性)、及び熱伝導性がある。例えば、高密度ポリエチレンから作られたプラスチック瓶を使用することができる。
【0089】
その上に付着物を有する担体は、濾過、蒸発(例えば噴霧乾燥によって)、昇華(例えば凍結乾燥)、又はその組み合わせなどの任意の適切な方法によって溶媒部分から分離することができる。蒸発又は昇華速度は、熱を加える(例えば溶媒の温度を上げる)こと、及び/又は溶媒が曝される雰囲気圧力を下げることによって高めることができる。
【0090】
一実施形態において、凍結又は固化された懸濁物はそこから溶媒部分を除去するために凍結乾燥される。凍結乾燥はLABCONCO FREEZE DRY SYSTEM(Model79480)などの任意の適切な装置中で行うことができる。当業者であれば直感的に、担体の凝集を防止するため、凍結懸濁物の温度を溶媒の凝固点以下に維持する(すなわち溶媒は昇華によって除去される)であろう。本明細書に説明又は例示する凍結乾燥工程はそれらの条件下で実施することができる。しかし、驚くべきことに、溶媒部分が完全に凍結されて残ることは重要ではない。特に、液体溶媒の蒸発速度が溶融速度よりも速いレベル(例えば、約0.1ミリバール、0.000099気圧、又は10Pa以下)に凍結乾燥機内の圧力を維持すれば、溶媒が溶融しても、自由に流動し凝集していない粉体を調製できることが発見された。したがって、典型的に、担体の凝集を招く液体状態の溶媒が十分存在しない。これは、溶媒部分を除去するために必要な時間を短縮するために有利に用いることができる。溶媒部分の除去は、担体/粒子状担体及び担体/粒子状担体上の1種又は複数種の金属化学種又は凝結金属を含む自由に流動し凝集していない担持された粉体をもたらす。
【0091】
付着されている化合物をその中の望ましい形の金属に変換するために、粉体は典型的に還元雰囲気中(例えば、水素及び/又はアルゴンなどの不活性ガスを含む雰囲気)で付着している化合物を分解するのに十分な温度で加熱される。熱処理の間に到達した温度は、典型的に少なくとも付着した化合物の分解温度程度の高さであり、担体の劣化、及び担体及び/又は触媒付着物の凝集を起すほど高くない。典型的に、温度は約60〜約1100℃、約100〜約1000℃、約200〜約800℃、又は約400〜約600℃である。無機金属含有化合物は、典型的に約600〜1000℃の温度で分解する。
【0092】
熱処理の期間は、典型的に、少なくとも実質上付着している化合物を望ましい状態に変換するのに十分な期間である。一般に、温度及び時間は逆比例する(すなわち、変換はより高い温度でより短時間に達成され、逆もそうである)。無機金属含有化合物を上記合金に変換する典型的な温度で、熱処理の期間は典型的に少なくとも約30分間である(例えば、約1、2、4、6、8、10、12分間又はそれ以上)。例えば、期間は約1〜約14時間、約2〜約12時間、又は約4〜約6時間とすることができる。
【0093】
ここで図10を参照すれば、本明細書に説明又は例示した凍結乾燥法に従って製造された、本発明のカーボン担持触媒合金粉体粒子1は、カーボン担体2と担体上の触媒合金の付着物3とを含む。粒子及び前記粒子を含む粉体は約90質量%まで担持することができる。しかし、担持された触媒粉体が燃料電池触媒として用いられるとき、担持量は典型的に約5〜約60質量%であり、好ましくは約15〜約45もしくは約15〜約55質量%であり、又はさらに好ましくは約20〜約40もしくは約20〜約50質量%(例えば、約20質量%、約45質量%、又は約50質量%)である。典型的に、担持量を約60質量%以上増加させても、活性度は増加しない。特定の理論には拘束されることなく、過剰の担持は付着している金属の一部を被覆し、被覆された部分は望ましい電気化学的反応に触媒作用を行うことができないと考えられる。他方、担持された担持触媒の活性度は、担持量が約5質量%以下であれば典型的に顕著に低下する。
【0094】
凍結乾燥法は、1種又は複数種の非貴金属を含む触媒合金のナノ粒子付着物が多く担持された、担持触媒合金粉体を製造するのに用いることができ、付着物は比較的狭いサイズ分布を有する。例えば、一実施形態において、担持された非貴金属含有触媒合金粉体は、粉体(すなわち、担持された電極触媒粉体)の少なくとも20質量%の金属担持量、約10nmを超えない平均付着物サイズ、付着物の少なくとも約70%が平均付着物サイズの約50〜約150%である付着物粒度分布を有することができる。他の実施形態において、金属担持量は粉体(すなわち、担持電極触媒粉体)の約20〜約60質量%であることが好ましく、さらに好ましくは約20〜約40質量%である。
【0095】
触媒合金付着物の平均サイズは典型的に約5nm(50Å)を超えない。しかし、触媒合金付着物の平均サイズは、3nm(30Å)、約2nm(20Å)、又は1nm(10Å)を超えない。しかし代りに、触媒合金付着物の平均サイズは、約3〜約10nm、又は約5〜約10nmにできることが好ましい。さらに、付着物のサイズ分布は、付着物の少なくとも70、75、又は80%が、平均付着物サイズの約50〜150%、好ましくは約75〜125%以内であるような分布であることが好ましい。
【0096】
担持触媒粉体を調製する凍結乾燥法は、懸濁物が単一容器中に好ましく保持され、溶液が担体から(例えば、濾過によって)物理的に分離せず、凍結が実質上溶質の全てを担体上に凝結させるので、付着物の優れた化学量論的制御が可能になる。さらに、付着物は遊離し、小さく均一に担体の表面に分散する傾向があり、それによって、全体の電極触媒活性度が高まる。さらに、濾過が必要ではないので、極めて微細な粒子の損失がなく、この方法によって製造された、担持された金属粉体はより大きな表面積と活性度を有する傾向がある。また、担体上への金属化学種の付着作用は迅速である。例えば、分散物/懸濁物の容器を低温液体中に浸漬することによって、約3〜4分間で分散物/懸濁物を固化することができる。
【0097】
4.電極/燃料電池用途における担持されていない触媒組成物
本発明の他の実施形態において、触媒組成物(例えば金属成分の合金を含む、又は本質的に金属成分の合金からなる触媒組成物)及び/又はその前駆体は、担持されなくてもよい、すなわち、本明細書に記載される触媒組成物は担体粒子なしで使用できることに留意されたい。さらに詳細には、本発明の他の実施形態において、本明細書で定義した白金、ニッケル、鉄を含む触媒組成物を、例えば、(i)電極の一方又は両方の面(例えばアノード、カソード、又は両方)に、且つ/又は(ii)ポリマー電解質膜の一方又は両方の面に、且つ/又は(iii)膜の裏打ち(例えばカーボン紙)などの他の表面に直接付着(例えばスパッタ)させることができることに留意されたい。
【0098】
これに関して、組成物の各構成成分(例えば金属含有化合物)は、例えば電極、膜等の表面上の分離した層として分離して付着させることができることにさらに留意されたい。代りに、2種又はそれ以上の構成成分を同時に付着させることができる。さらに、組成物がこれらの金属の合金を含み、又は本質的にこれらの金属の合金からなるとき、合金を形成し、次いで付着させることができ、又はその構成成分を付着させ次いでその上に合金を形成することができる。
【0099】
構成成分の付着は、既知のスパッタ技術を含んで(例えば、参照により本明細書に組み込まれている国際公開第99/16137号パンフレット、又は米国特許第6,171,721号明細書を参照されたい)当分野に既知の手段を用いて達成することができる。しかし、概して言えば、一手法において、スパッタ蒸着は、不活性雰囲気中の真空室内でターゲット成分材料とターゲット構成成分が蒸着される表面の間に電位差を形成してターゲット構成成分材料から粒子を放出させ、次いで、例えば電極又は電解質膜の表面に付着させ、このようにしてその上にターゲット構成成分の被覆を形成することによって達成される。一実施形態において、構成成分は、例えば、(i)テトラフルオロエチレンとペルフルオロポリエーテルスルホン酸のコポリマー膜(NAFION(登録商標)の商品名で販売されている膜材料など)、(ii)過フッ化スルホン酸ポリマー(ACIPLEXの商品名で販売されている膜材料など)、(iii)ポリエチレンスルホン酸ポリマー、(iv)ポリケトンスルホン酸、(v)リン酸をドープしたポリベンズイミダゾール、(vi)スルホン化ポリエーテルスルホン、(vii)他のポリ炭化水素系スルホン酸ポリマーを含むポリマー電解質膜上に蒸着される。
【0100】
所与の用途への組成物を微調整するために、組成物の各金属又は構成成分の特定量を独立に制御できることに留意されたい。しかし、ある実施形態において、付着させる各構成成分の量、又は代りに付着させる触媒(例えば触媒合金)の量は、表面積(例えば電極表面積、膜表面積等)の約5mg/cm2未満、約1mg/cm2未満、約0.5mg/cm2未満、約0.1mg/cm2未満、又は約0.05mg/cm2未満とすることができる。他の実施形態において、付着させる構成成分の量、又は代りに付着させる触媒(例えば触媒合金)の量は、約0.5〜約5mg/cm2未満、又は約0.1〜約1mg/cm2未満の範囲とすることができる。
【0101】
さらに、各構成成分の特定量、又は組成、及び/又は構成成分又は組成物が付着させる条件を制御して、得られる構成成分、又は組成物、電極の表面上の層、電解質膜等の厚さを制御できることに留意されたい。例えば、当分野で既知の手段(例えば、走査電子顕微鏡又はラザフォード後方散乱分光測光法)によって測定して、構成成分又は組成物が付着している層は、数オングストローム(例えば、約2、4、6、8、10Å、又はそれ以上)〜数十オングストローム(例えば、約20、40、60、80、100Å、又はそれ以上)の範囲、数百オングストローム(例えば、約200、300、400、500Å、又はそれ以上)までの厚さを有することができる。さらに、全ての構成成分を付着させ、任意選択的に合金化された後(又は、代りに、組成物を付着させ、任意選択的に合金化された後)、本発明の組成物の層は、数十オングストローム(例えば、約20、40、60、80、100Å、又はそれ以上)〜数百オングストローム(例えば、約200、400、600、800、1000、1500Å、又はそれ以上)までの範囲の厚さを有することができる。したがって、異なる実施形態において、厚さは、例えば、約10〜約500オングストローム(Å)、約20〜約200オングストローム(Å)、約40〜約100オングストローム(Å)とすることができる。
【0102】
さらに、組成物(又はその構成成分)が例えば電極又は電解質膜の表面上の薄膜として付着させる実施形態において、その中の白金、ニッケル、鉄の様々な濃度は本明細書で前に述べたものとすることができる。さらに、他の実施形態において、組成物中の白金、ニッケル、鉄の濃度は前に述べたもの以外とすることができる。例えば、非担持触媒組成物の一実施形態において、組成物は約15原子%を超えない濃度の白金、ニッケルと、鉄を含むことができる。
【0103】
5.燃料電池への組成物の組み込み
本発明の組成物はプロトン交換膜燃料電池に使用する触媒として特に適している。図11及び図12に示したように、全体に20で示した燃料電池は燃料電極(アノード)22及び空気電極/酸化剤電極(カソード)23を備える。電極22と23の間のプロトン交換膜21が電解質として働き、通常、ペルフルオロスルホン酸系膜などの強い酸性イオン交換膜である。プロトン交換膜21、アノード22、カソード23は1つの本体に一体化して電極とプロトン交換膜の間の接触抵抗を最小にすることが好ましい。電流コレクター24及び25は、それぞれアノード及びカソードに係合する。燃料室28及び空気室29はそれぞれの反応物を含み、それぞれ封止材26及び27によって封止される。
【0104】
一般に、電気は水素含有燃料の燃焼によって発生する(すなわち水素含有燃料と酸素が反応して、水、二酸化炭素、及び電気を形成する)。これは上記燃料電池において、水素含有燃料Fを燃料室28に導入し、酸素O(好ましくは空気)を空気室29に導入することによって達成され、それによって電流が外部回路(示していない)を通って直ちに電流コレクター24と25の間を移動することができる。水素含有燃料はアノード22で酸化されて水素イオン、電子、可能ならば二酸化炭素ガスを生成することが理想的である。水素イオンは強い酸性プロトン交換膜21を通って移動し、酸素と、外部回路を通ってカソード23へ移動する電子と反応して水を形成する。水素含有燃料Fがメタノールであるならば、化学反応を促進するために希釈酸性溶液として導入することが好ましく、それによって、出力が増加する(例えば、0.5Mメタノール/0.5M硫酸溶液)。
【0105】
プロトン交換膜中のイオン性伝導の損失を防止するために、これらは典型的に燃料電池の運転中水和されている。その結果、プロトン交換膜の材料は、典型的に、約100〜約120℃の温度での脱水に抵抗性を有するように選択される。プロトン交換膜は、通常、還元及び酸化安定性、酸及び加水分解に対する抵抗性、十分に低い電気抵抗度(例えば<10Ω・cm)、及び低い水素又は酸素透過度を有する。さらに通常、プロトン交換膜は親水性である。これは、プロトン伝導を確保し(アノードへの水の逆拡散によって)、導電性を低下させる膜の乾燥を防止する。便宜上、膜の層厚さは典型的に50〜200μmである。一般に、前述の特性は、脂肪族の水素−炭素結合のない材料、例えば、水素をフッ素で置換することによって、又は芳香族構造の存在によって得られる材料で達成され、プロトン導電性はスルホン酸基(酸性度が高い)の組み込みから得られる。また、適切なプロトン導電性膜は、E.I.duPont de Nemourts & Co.、Wilmington、Delawareによって製造されるNAFION(商標)などの過フッ化スルホン化ポリマー及びその誘導体を含む。NAFION(商標)はテトラフルオロエチレンとペルフルオロビニルエーテルとから作られたコポリマーであり、イオン交換基として働くスルホン基を有する。他の適切なプロトン交換膜は、過フッ化化合物(例えば、オクタフルオロシクロブタン及びペルフルオロベンゼン)などのモノマー、又はプラズマポリマー中にいかなる脂肪族H原子も形成しないC−H結合を備えるモノマーで作製され、酸化性分解のための攻撃部位を構成することができる。
【0106】
本発明の電極は、本発明の触媒組成物及びその上に組成物を付着させる電極基板を備える。一実施形態において、組成物を電極基板上に直接付着させる。他の実施形態において、組成物は導電性担体上に担持され、担持された組成物を電極基板上に付着させる。また、電極は組成物に接触したプロトン伝導性材料を含むこともできる。プロトン伝導性材料は電解質と組成物間の接触を容易にし、したがって燃料電池の性能を高めることができる。電極は、反応物(すなわち燃料又は酸素)と、電解質と、組成物の間の接触を増加させることによって電池効率を高めるように設計されることが好ましい。特に、燃料/酸化剤が反応物ガス流に露出した電極の面(裏面)から電極に入り、電解質が電解質に露出した電極の面(前面)を通って浸透し、反応生成物、特に水が電極を拡散して出ることを可能にするので、多孔質又はガス拡散電極が典型的に使用される。
【0107】
プロトン交換膜、電極、及び触媒組成物は互いに接触していることが好ましい。これは、典型的に、組成物を電極上又はプロトン交換膜上のいずれかに付着させ、次いで電極と膜を接触させることによって達成される。本発明の組成物は、プラズマ蒸着、粉体塗布(粉体はスラリー、ペースト、又はインクの形とすることができる)、化学的めっき、スパッタを含み、様々な方法によって電極又は膜上のいずれかに付着させることができる。プラズマ蒸着は、一般に低圧プラズマを用いる触媒組成物薄膜(例えば、3〜50μm、好ましくは5〜20μm)の膜上への付着を伴う。例として、トリメチルシクロペンタジエニル白金などの有機白金化合物は10−4〜10ミリバールでガス状であり、無線周波数、マイクロウェーブ、又は電子サイクロトロン共鳴発信機を用いて励起し、膜上に白金を付着させることができる。他の手順によれば、例えば触媒粉体はプロトン交換膜表面に分配され、高温で圧力をかけて一体化される。しかし、触媒粉体の量が約2mg/cm2を超えるならば、ポリテトラフルオロエチレンなどの結合剤を含むのが通常である。さらに、触媒は分散した小さな担体粒子上(例えば、サイズは典型的に20〜200Åであり、さらに好ましくは約20〜100Åである)にめっきすることができる。これは触媒の表面積を増加させ、すなわち反応点の数を増加させて電池の効率を改善する。例えば、それらの化学的めっき工程の1つでは、合金を含む金属成分の化合物の水性溶液又は水性懸濁液(スラリー)に伝導性カーボンブラックなどの粉状支持材料を接触させ、金属化合物又はそれらのイオンを担体上又は担体へ吸着又は含浸させる。次いで、スラリーを高速で攪拌しながら、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸、又はホルマリンなどの適切な定着剤の希釈溶液をゆっくり滴下して加え、担体上に不溶性化合物又は部分的に還元された微細金属粒子として金属成分の分散と付着を行う。
【0108】
膜又は電極上への組成物の装填(loading)、又は表面濃度は、部分的に、特定の燃料電池の望ましい出力とコストに基づく。一般に、出力は濃度の増加とともに増加するが、しかし、それを超えても性能が向上しないレベルがある。同様に、燃料電池のコストは濃度の増加とともに増加する。したがって、組成物の表面濃度は用途の要件を満たすように選択される。例えば、大気圏外宇宙船などの厳しい要求を満足するために設計された燃料電池は、通常燃料電池の出力を最大にするのに十分な組成物の表面濃度を有する。要求のより少ない用途については、望ましい出力ができるだけ少ない組成物で得られるように経済性で決定される。典型的に、組成物の装填は、約0.01〜約6mg/cm2である。現在までの実験結果は、ある実施形態において、触媒装填は約1mg/cm2未満であることが好ましく、約0.1〜1mg/cm2がさらに好ましいことを示す。
【0109】
コレクター、電極、組成物、及び膜の間の接触を促進するために、層は通常高温で圧縮される。個々の燃料電池の筐体は、良好なガスの供給が確保され、同時に生成物の水を適切に排出することができるように構成される。典型的に、いくつかの燃料電池は結合してスタックを形成するので、総出力は経済的に実現性のあるレベルまで増加する。
【0110】
一般に、本発明の触媒組成物及び燃料電池電極を用いて、水素を含む任意の燃料(例えば、水素及び改質水素燃料)に電極触媒作用を行うことができる。また、メタン(天然ガス)、エタン、プロパン、ブタンなどの飽和炭化水素、廃棄オフガス、メタノールやエタノールなどの酸素化炭化水素、ガソリンやケロセンなどの化石燃料、及びその混合物を含んで、炭化水素系燃料を用いることができる。
【0111】
プロトン交換膜の完全なイオン伝導特性を達成するために、ある実施形態において、典型的に適切な酸(ガス又は液体)が燃料に加えられる。例えば、SO2、SO3、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、又はそのフッ化物、また、トリフルオロ酢酸などの強い酸性カルボン酸、及び揮発性リン酸化合物を使用することができる(「Ber.Bunsenges.Phys.Chem.」、Volume98(1994)、631〜635ページ)。
【0112】
6.燃料電池用途
上述のように、本発明の組成物は、電気エネルギーを発生して有用な仕事を行うための燃料電池の触媒として有用である。例えば、組成物は、電気施設電力発生設備、無停電電源装置、大気圏外宇宙船、重量トラック、自動車、自動二輪車などの輸送装置(Fujiらの米国特許第6,048,633号明細書、Shinkaiらの米国特許第6,187,468号明細書、Fujiらの米国特許第6,225,011号明細書、Tanakaらの米国特許第6,294,280号明細書参照)、住宅用電力発生装置、ワイヤレス電話、ページャー、及びサテライト電話などの携帯通信装置(Pratらの米国特許第6,127,058号明細書、Kelleyらの米国特許第6,268,077号明細書参照)、ラップトップコンピュータ、個人用データアシスタント、オーディオ録音及び/又は再生装置、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電子ゲーム遊戯装置などの携帯電子装置、全地球位置把握装置などの軍事及び宇宙装置、ロボットの燃料電池に使用することができる。
【0113】
7.定義
活性度は、電極に製造されたとき、所与の電位(ボルト)での最大値又は定常状態の電流(アンペア)として定義される。さらに、異なる電極触媒を比較するとき、電極の幾何形状的面積が異なるため、活性度はしばしば電流密度(A/cm2)で表される。
【0114】
合金は、溶質と溶媒原子(溶媒の用語は過剰に存在する金属に用いられる)が不規則に配列する固溶体として説明され、液体溶液とまったく同様に説明することができる。いくつかの溶質原子が溶媒の構造中のいくつかを置換するならば、固溶体は置換固溶体として定義することができる。代りに、より小さな原子がより大きな原子の間の間隙を占拠するならば、侵入型固溶体が形成される。2種類の組み合わせも可能である。さらに、ある固溶体では、スーパー構造として説明することのできる部分的な規則性をもたらす適切な条件下で、あるレベルの規則的な配列を形成することができる。原子が長い範囲で規則性になれば、合金は結晶学的な規則性又は単純な規則性で説明することができる。これらの合金は、XRDなどの特性試験技術によって識別することのできる特性を有することができる。XRDにおける顕著な変化は対称性又は組成物の変化に起因することは明らかであろう。金属原子の全体的な配列は固溶体及び規則的な合金の場合と同様にすることができるが、金属A原子と金属B原子の特定の配置の間の関係はここでは規則的であって不規則性がなく、異なる回折パターンを与える。さらに、均一な合金は構成成分金属を含む単一化合物である。均一な合金は個々の金属及び/又は金属含有化合物の緊密な混合物を含む。本明細書で定義される合金は、一般に非金属と考えられている元素を含むことのできる材料を含むことを意味する。例えば、本発明のいくつかの合金は、一般に低レベル又は不純物レベルと考えられる量の酸素及び/又は炭素を含むことができる(例えば、Structural Inorganic Chemistry、A.F.Wells、Oxford University Press、5th Edition、1995、chapter29参照)。
【実施例】
【0115】
(実施例1−個々にアドレス可能な電極上への触媒の形成)
以下の表A〜Cに記載した触媒組成物は、Warrenらの米国特許第6,187,164号明細書、Wuらの米国特許第6,045,671号明細書、Strasser,P.、Gorer,S.、及びDevenney,M.、Combinatorial Electrochemical Techniques For The Discovery of New Fuel−Cell Cathode Materials、Nayayanan,S.R.、Gottesfeld,S.、及びZawodzinski,T.出版のDirect Methanol Fuel Cells、Proceedings of the Electrochemical Society、New Jersey ,2001、191ページ、Strasser,P.、Gorer,S.、及びDevenney,M.、Combinatorial Electrochemical Strategies For The Discovery of New Fuel−Cell Electrode Materials、Proceedings of the International Symposium on Fuel Cells for Vehicles、41st Battery Symposium、The Electrochemical Society of Japan、Nagoya 2000、153ページに開示された組み合わせ技術を用いて調製した。例えば、独立電極のアレイ(約1〜3mm2の面積を有する)を不活性基板(例えば、ガラス、石英、サファイア、アルミナ、プラスチック、及び熱処理したシリコン)上に作製した。個々の電極は実質上基板の中心に配置され、基板の周辺の接触パッドにワイヤで接続した。電極、結合したワイヤ、及び接触パッドは伝導性材料(例えば、チタン、金、銀、白金、銅、又は他の通常用いられる電極材料)から作製した。
【0116】
特に、表A〜Cに記載した触媒組成物は、フォトリソグラフ/RFマグネトロンスパッタ技術(GHz範囲)を用いて調製し、64個の個々にアドレス可能な電極アレイ上に触媒の薄膜を付着させた。石英絶縁性基板を提供しフォトリソグラフ技術を用いてその上に電極パターンを設計し、作製した。基板上に予め定めた量のフォトレジストを塗布し、フォトレジストの予め選択した領域を感光し、これらの感光させた領域を除去し(例えば、適切な現像剤を用いて)、RFマグネトロンスパッタを用いて表面全体に約500nm厚さのチタン層を蒸着させ、蒸着したチタンの予め定めた領域を除去することによって(例えば、下地のフォトレジストの溶解によって)、個々にアドレス可能な電極の複雑なパターンを基板上に作製した。
【0117】
図13を参照すれば、作製されたアレイ40は、8×8平方内に配置され互いに(十分な空間で)絶縁され、且つ、基板44(絶縁基板上に作製された)から絶縁された64個の個々にアドレス可能な電極41(直径約1.7mm)からなり、その相互接続42及び接触パッド43は、(硬化したフォトレジスト又は他の適切な絶縁材料によって)電気化学試験溶液から絶縁した。
【0118】
最初のアレイ作製後、及びスクリーニング用の触媒の蒸着の前に、電極と露出された周辺の接触パッドの外側部分を残して、ワイヤと周辺の接触パッドの内側部分を被覆するパターン形成された絶縁層を蒸着した(接触パッドの約半分がこの絶縁層で被覆されることが好ましい)。絶縁層によって、ワイヤ又は周辺の接触パッドに発生し得る反応を心配することなく、所与の接触パッドの外側部分にリード(例えば、ポゴピン(pogopin)又はワニ挟み)を接続し、アレイを溶液に浸漬する間、その結合電極にアドレスすることが可能である。絶縁層は硬化したフォトレジストであったが、絶縁性のあることが知られている任意の他の適切な材料を使用することもできる(例えば、ガラス、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化シリコン、窒化ホウ素、酸化イットリウム、又は二酸化チタン)。
【0119】
チタン電極アレイの作製に続いて、64個の孔(直径1.7mm)を有するスチールマスクを基板に押圧して、スパッタされた材料が絶縁レジスト層に付着することを防止した。また、触媒の蒸着はRFマグネトロンスパッタ及びWuらが説明した、1個又は複数の電極に同時に材料の付着を可能にする2個のシャッター遮蔽装置を用いて達成した。個々の薄膜触媒は超格子蒸着法によって形成した。例えば、本質的に金属M1、M2、M3からなる触媒組成物を調製するとき、各々を電極上に蒸着し、次いで部分的又は完全にその上の他の金属と合金化する。さらに詳細には、最初に金属M1のスパッタターゲットを選択し、所定の厚さを有するM1の薄膜を電極に蒸着する。この初期の厚さは、典型的に約3〜約12Åである。この後、金属M2をスパッタターゲットとして選択し、M1の層の上にM2の層を蒸着する。また、M2層の厚さも約3〜約12Åである。蒸着された層の厚さは金属原子の拡散長の範囲(例えば、約10〜約30Å)であり、金属をその場で合金化させることが可能である。次いで、M3の層をM1−M2合金の上に蒸着し、M1−M2−M3合金膜を形成する。3段階の蒸着ステップの結果、望ましい化学量論的な合金薄膜(厚さ9〜36Å)が形成される。これが1蒸着サイクルの結果である。触媒材料の望ましい総厚さを達成するために、蒸着サイクルを必要なだけ繰り返し、これは特定の総厚さ(典型的に約700Å)の超格子構造を形成する。数、厚さ(化学量論比)、及び個々の金属層の塗工順序は手作業で決定することができるが、コンピュータプログラムを用いて、特定のライブラリーウェハ(すなわちアレイ)を調製する間、スパッタ装置の運転を制御するのに必要な情報を含む出力ファイルを設計することが望ましい。それらのコンピュータプログラムの1つはSanta Clara、カリフォルニア州のSymyx Technologies,Inc.から入手可能なLIBRARY STUDIOソフトウェアであり、欧州特許第1080435号明細書に記載されている。いくつかのスパッタしたままの合金組成物を電子分散分光計(EDS)を用いて分析し、それらが望ましい組成物で構成されていることが確認された(EDSを用いて測定した化学的組成は実際の組成物の約5%以内である)。
【0120】
アレイを調製して、以下の表A〜Cに記載した特定の合金組成物を評価した。各アレイ上の1個の電極は本質的に白金からなり、そのアレイ上の合金のスクリーニングのための内部標準とした。
【0121】
(実施例2−電極触媒活性度の触媒スクリーニング)
実施例1に記載した方法によってアレイ上に合成された表B記載の触媒組成物を、分子状酸素の水への電気化学的還元について実験計画1(詳細は以下)に従ってスクリーニングを行い、内部及び/又は外部白金標準に対する相対電極触媒活性度を求めた。さらに、実施例1に記載した方法によってアレイ上に合成された表A及び表C記載の触媒組成物を、分子状酸素の水への電気化学的還元について実験計画2(詳細は以下)に従ってスクリーニングを行い、電極触媒活性度を求めた。
【0122】
全体的に、アレイウェーハを電気化学的スクリーニングセル、及び64個の電極触媒(動作電極)とスクリーニングに使用される64チャンネルの多チャンネル電位計の間に電気的接触を確立したスクリーニング装置に組み立てた。詳細には、スクリーニング装置中に各ウェーハアレイを64点全てが上方に面するように置き、全体的に環状であり内部直径が約2インチ(5cm)の管状電池本体を、上方に面したウェーハ表面に押圧した。この管状電池の直径は、矩形電極アレイを備えるウェーハの部分が円筒形容積の基礎を形成し、接触パッドが円筒形容積の外部にあるようにした。この円筒形容積の中へ液体イオン性溶液(すなわち、0.5MのH2SO4水性電解質)を注ぎ、共通対電極(すなわち、白金網)と共通参照電極(例えば水銀/硫酸水銀参照電極(MMS))を電解質溶液中に置いて電気回路を閉じた。
【0123】
スクリーニング中に強制的な対流拡散条件を与えるために、ブレードを備える回転軸を電解質中に置いた。回転速度は典型的に約300〜約400rpmであった。スクリーニング実験に応じて、測定中アルゴン又は純粋な酸素を電解質に通してバブリングした。アルゴンは電解質中のO2ガスを除去し、触媒の初期条件に用いるためのO2を含まない条件を模擬する働きをした。純粋な酸素の導入は、酸素還元反応のために電解質を酸素で飽和する働きをした。スクリーニング中、電解質は60℃に保ち、回転速度は一定であった。
【0124】
(実験計画1)
3つの試験グループで触媒の活性度をスクリーニングした。電気化学的測定の前に電解質をアルゴンで約20分間パージした。試験の第1グループは、アルゴンによる電解質パージ中のサイクルボルタンメトリー測定を含んだ。詳細には、第1試験グループは、
(a)速度約20mV/sで、開回路電位(OCP)から約+0.3V、約−0.63Vへ、そして約+0.3Vへ戻る電位掃引、
(b)速度約200mV/sで、OCPから約+0.3V、約−0.7Vへ、そして約+0.3Vへ戻る連続75サイクルの電位掃引、
(c)速度約20mV/sで、OCPから約+0.3V、約−0.63Vへ、そして約+0.3Vへ戻る電位掃引、
を含んだ。
試験(c)で得た内部白金標準触媒のサイクルボルタンメトリー(CV)プロファイルの形状を、安定したCVが得られるまで予備処理を行ったPt薄膜電極から得た外部標準CVプロファイルと比較した。試験(c)が類似のサイクルボルタモグラムになれば、実験の第1グループは終了したものと考えた。試験(c)のサイクルボルタモグラムの形状が予期した標準PtCV挙動にならなければ、Pt標準触媒が望ましい標準ボルタンメトリープロファイルを示すまで試験(b)と(c)を繰り返した。このようにして、後続の実験において、Pt標準触媒が安定して良好に画定された酸素還元活性度を示すことが確認された。次いで、電解質を酸素で約30分間パージした。酸素によるパージを継続しながら、以下の第2試験グループを行った。
(a)開回路電位(OCP)を1分間測定し、次いで電位を−0.4Vにして1分間保ち、次いで速度約10mV/sで約+0.4Vまで掃引、
(b)OCPを1分間測定し、次いで約5分間電流を測定しながら電位をOCPから約+0.1Vまで印加、
(c)OCPを1分間測定し、次いで約5分間電流を監視しながら電位をOCPから約+0.2Vまで印加。
試験の第3グループは、第2試験グループの完了から約1時間後の第2試験グループの繰り返しを含んだ。待機中、電解質を連続的に攪拌し、酸素でパージした。前述の試験電圧の全ては水銀/硫酸水銀(MMS)電極による。さらに、64個の白金電極を備える外部白金標準を使用して試験を監視し、酸素還元評価の正確さと安定性を確保した。
【0125】
(実験計画2)
4つの試験グループで触媒の活性度をスクリーニングした。第1試験グループは予備処理工程であり、他の3つのグループは酸素還元活性度、ならびに触媒の電気化学的表面積をスクリーニングするための同一実験の組である。電解質は電気化学的測定の前に、アルゴンで約20分間パージした。第1試験グループは、アルゴンによる電解質のパージ間のサイクルボルタンメトリー測定を含んだ。詳細には、第1試験グループは、
(a)速度約20mV/sで、開回路電位(OCP)から約+0.3V、−0.63Vへ、そして、約+0.3Vへ戻る電位掃引、
(b)速度約200mV/sで、OCPから約+0.3V、−0.7Vへ、そして、約+0.3Vへ戻る連続50回の電位掃引、
(c)速度約20mV/sで、OCPから約+0.3V、−0.63Vへ、そして、約+0.3Vへ戻る電位掃引、
を含んだ。
第1試験グループのステップ(c)の後、電解質を酸素で約30分間パージした。次いで、酸素飽和溶液(すなわち、試験(a))、続いてArパージ中に行う試験(すなわち、酸素を含まない溶液、試験(b))を含む、以下の第2試験グループを行った。
(a)酸素飽和溶液中で、OCPを1分間測定し、次いで約5分間電流を測定しながら電位を約+0.1Vまで加えた。
(b)電解質をArで約30分間パージした後、速度約20mV/sで、開回路電位(OCP)から約+0.3V、約−0.63Vへ、そして約+0.3Vへ戻る電位掃引を行った。
第3及び第4試験グループは、試験完了後の第2試験グループの繰り返しを含んだ。前述の試験電圧の全ては水銀/硫酸水銀(MMS)電極による。さらに、64個の白金電極を備える外部白金標準を使用して試験を監視し、酸素還元評価の正確さと整合性を確保した。表に示した試験結果は、第4グループの酸素還元測定、すなわち、酸素飽和溶液中の最終スクリーニングから取った。Ar飽和段階は経時的な表面積など、触媒に関する追加的なパラメータの評価に役立つ。
【0126】
上述の実験計画1(表B)又は実験計画2(表A及び表C)に従って、表A〜Cに記載の特定の合金組成物を調製しスクリーニングを行った。試験結果をその中に記載する。表B中のスクリーニング結果は第3試験グループのためである(+0.1VMMSでの定常電流)。表A及び表C中のスクリーニング結果は、第4試験グループの酸素還元測定(すなわち、酸素飽和溶液中の最終スクリーニング)から取り、Ar飽和段階は時間を経た表面積など触媒に関する追加的なパラメータの評価に役立つ。報告された電流値(端電流密度(End Current Density))は、幾何形状表面積で正規化した、クロノアンペロメトリー試験の最後の3つの電流値の平均結果である。これらの表に示した結果から、多数の組成物が、例えば内部白金標準を超える酸素還元活性を示したことに留意されたい(例えば、表A中の電極番号35、27、28、19、13、12、21、20、14、2、10、表B中の38、45、1、52、31、55、32、2、表C中の35、37、21、5、15、27、3、7、17、57、63、8、12、53、19、49、36、51、58、34、14、30、40、38に対応する触媒組成物を参照されたい)。
【0127】
(実施例3−担持電極触媒合金の合成)
カーボン担体粒子上のPt−Ni−Fe合金(以下の表D、目標触媒組成参照)の合成を異なる工程条件に従って試み、典型的に燃料電池に使用される状態での触媒の性能を評価した。それを行うために、担持された白金粉体(すなわち、カーボンブラック粒子に担持された白金ナノ粒子)上に触媒成分を付着又は凝結させた。カーボンブラック上に担持された白金は、ニュージャージー州のJohnson Matthey,Inc.、及びSomerset、ニュージャージー州のDe−Nora,N.A.、Inc.のE−Tek Div.から市場で入手可能である。それらの担持された白金粉体は広範囲の白金担持量で入手可能である。この実施例に使用した担持白金粉体は、約20又は約40質量%の公称白金担持量、約150〜約170m2/g(CO吸着による測定)の白金表面積、約350〜約400m2/gのカーボン及び白金の組合せ表面積(N2吸着による測定)、約0.5mm未満の平均粒径(分粒篩による測定)を有していた。
【0128】
凍結乾燥凝結法を用いて表D(以下)の多数の触媒組成物(すなわち、HFC1481〜83、1551〜70、1583以外の全て)をカーボン担体粒子上に形成した。凍結乾燥法は、望ましい金属原子を望ましい濃度で含む初期溶液の形成を含んだ。担持された触媒の各々はその中に使用される金属含有化合物の量を変化させて、類似の方法で調製した。例えば、約16.9質量%の最終的な公称白金担持量である、目標Pt30Ni30Fe40合金組成物(例えばHFC267)を調製するために、約0.057gのNi(NO3)2・6H2Oを5mlのH2Oに溶解した。次に、約0.106gのFe(NO3)3・9H2Oを前の溶液に溶解し、透明な黄色前駆体溶液を得た。目標Pt35Ni35Fe30合金組成物(例えば、HFC276)を調製するために、約0.057gのNi(NO3)2・6H2Oを5mlのH2Oに溶解した。次に、0.068gのFe(NO3)3・9H2Oを前の溶液に溶解し、透明な黄緑色前駆体溶液を得た。公称白金担持量が約19.2質量%の担持白金粉体0.200gを含む石英製試験瓶に、前駆体溶液を導入し、黒色懸濁物を得た。BRANSON SONIFIER 150のプローブを試験瓶に浸漬し、混合物に約90秒間出力レベル3で超音波をかけることによって懸濁液を均一化した。次いで、均一化した懸濁液を含む試験瓶を液体窒素浴に約3分間浸漬し、懸濁液を固化した。次いで、固体懸濁物を約24時間LABCONCO FREEZE DRY SYSTEM(Model79480)を用いて凍結乾燥し、溶媒を除去した。凍結乾燥機のトレイ及び収集コイルは、系を脱気する間、それぞれ約27℃及び約−49℃に保った(圧力は約0.05ミリバールに保った)。凍結乾燥の後、試験瓶は、担持白金粉体、その上に付着したニッケル及び鉄の前駆体を含む粉体を含んだ。
【0129】
触媒組成物HFC1481〜1483、1551〜1570、及び1583は、共沈法を用いて調製した。公称白金担持量37質量%の担持白金粉体を用いて触媒組成物HFC1481〜1483及び1583を調製した。公称白金担持量45質量%の担持白金粉体を用いて触媒組成物HFC1551〜1570を調製した。目標Pt30Ni25Fe45合金組成物(例えばHFC1583)を調製するために、約2.91gのNi(NO3)2・6H2Oを約10mlのH2Oに溶解し、約4.04gのFe(NO3)3・9H2Oを約10mlのH2Oに溶解し、透明な黄緑色の透明溶液を得た。鉄溶液の一部(1.42ml)と0.79mlのニッケル溶液を、0.5gの担持白金粉体及び約200mlのH2Oを含む試験瓶に加えた。懸濁液を約80℃に加熱し、攪拌した。その後、水酸化アンモニウムを溶液のpHが約10の値に到達するまで加え、その点で黒色の沈殿物が形成された。熱い懸濁液を濾過し洗浄した。濾過物のケーキを他の試験瓶に移し90℃で一夜乾燥した。乾燥後、試験瓶は担持された白金粉体と、その上に付着したニッケル及び鉄の前駆体を含む粉体を含んだ。
【0130】
次いで、回収した前躯体粉体を熱処理して構成成分をその金属状態に還元し、これらの金属同士の合金化及びカーボンブラック粒子上の白金との合金化を完全に又は部分的に行った。1つの特定の熱処理は、粉体を約6%のH2と94%のArを含む雰囲気の石英フロー炉中で約5℃/分の速度で室温から約90℃までの温度プロファイルを用いて加熱するステップと、約90℃で2時間保つステップと、温度を約5℃/分の速度で約200℃まで上昇するステップと、約200℃で2時間保つステップと、温度を約5℃/分の速度で、例えば、約600、700、800、900、又は1000℃の最高温度まで上昇するステップと、最高温度で約1、2、5、7、12、又は14時間保つ(以下の表Dに示すように)ステップと、次いで室温まで冷却するステップと、を含んだ。
【0131】
担持された触媒の実際の組成を求めるために、異なる調製の触媒(例えば、組成物の変化又は熱処理の変化)をEDS(エネルギー分散分光法)元素分析にかけた。この技術のために、サンプル粉体は直径6mm、厚さ約1mmのペレットに圧縮した。ある担持触媒の目標合金組成及び実際の組成を表Dに記載する。
【0132】
(実施例4−担持された触媒の触媒活性度の評価)
表Dに記載し、実施例3によって形成された担持触媒をその活性度を評価するために電気化学的測定を行った。評価のために、担持触媒を当分野で通常使用される回転ディスク電極(RDE)上に塗工した(大表面積Pt/Vulcanカーボン燃料電池電極触媒のCO許容値についての回転ディスク電極測定(Rotating Disk Electrode Measurements on the CO Tolerance of a High−surface Area Pt/Vulcan Carbon Fuel Cell Electrocatalyst)、Schmidtら、Journal of the Electrochemical Society(1999)、146(4)、1296〜1304、回転ディスク電極構造を用いる大表面積電極触媒の特性評価(Characterization of High−Surface−Area Electrocatalysts using a Rotating Disk Electrode Configuration)、Schmidtら、Journal of the Electrochemical Society(1998)、145(7)、2354〜2358参照)。回転ディスク電極は、酸素還元(例えば燃料電池のカソード反応)に対するその固有の電解質活性度に関して担持触媒を評価するための比較的速く簡単なスクリーニング装置である。
【0133】
担持電極触媒とNAFION(登録商標)溶液を含む水性系インクをガラス状カーボンディスク上に付着させることによって、回転ディスク電極を調製した。NAFION(登録商標)溶液中の触媒粉体の濃度は、約1mg/mLであった。NAFION(登録商標)溶液は過フッ化イオン交換樹脂、低級脂肪族アルコール及び水を含み、樹脂の濃度は約5質量%であった。NAFION(登録商標)溶液はALDRICHカタログから製品番号27,470−4として市場で入手可能である。ガラス状カーボン電極は、直径5mmであり、鏡面に研磨した。ガラス状カーボン電極は、例えば、Grove City,PennsylvaniaのPine Instrument Companyから市場で入手可能である。各電極に対して、わずかに10μLの電極触媒懸濁液をガラス状カーボンディスクに付着させ、約60〜70℃の温度で乾燥させた。得られたNAFION(登録商標)と触媒の層は厚さ約0.2μm未満であった。この方法は特定の懸濁液で作られた各電極について白金担持量がわずかに異なったが、その変化量は10質量%未満であることが測定された。
【0134】
乾燥後、各回転ディスク電極を、室温に保たれた0.5Mの水性H2SO4電解質溶液を含む電気化学的セル中に浸漬した。測定を行う前に、電解質にアルゴンを約20分間バブリングすることによって、電解質から酸素を除去した。全ての測定は電極を約2000rpmで回転しながら行い、測定された電流密度をガラス状カーボン基板面積又は電極上の白金担持量のいずれかに対して正規化した。2つの試験グループは担持電極触媒の活性度をスクリーニングするために実施した。第1試験グループは、電解質のアルゴンパージ中のサイクルボルタンメトリー測定を含んだ。詳細には、第1グループは、
(a)速度約50mV/sで、OCPから約+0.35Vへ、次いで約−0.65Vへ、そしてOCPへ戻る2回の連続電位掃引、
(b)速度約200mV/sで、OCPから約+0.35Vへ、次いで約−0.65Vへ、そしてOCPへ戻る200回の連続電位掃引、
(c)速度約50mV/sで、OCPから約+0.35Vへ、次いで約−0.65Vへ、そしてOCPへ戻る2回の連続電位掃引、
を含んだ。
第2試験は、酸素で約15分間パージし、続いて電解質の酸素によるパージを継続しながら酸素還元についての電位掃引試験の実施を含んだ。詳細には、約−0.45Vから+0.35Vへの電位掃引を約5mV/sの速度で行い、電位の関数として触媒の初期活性度を評価し、幾何形状電流密度プロットを作成した。触媒を0.15Vでの拡散補正活性度を比較することによって評価した。前述の全ての試験電圧は水銀/硫酸水銀電極を参照している。また、触媒のないガラス状カーボンRDEの酸素還元測定は、電位の枠内に認識し得る活性度を示さなかったことに注目すべきである。
【0135】
上述の担持触媒組成物を上述の方法に従って評価し、その結果を表Dに示す。その中に示した結果から、本質的に全てのカーボン担持触媒組成物が、例えばカーボン担持白金標準を超える酸素還元活性を示したことに留意されたい(例えば、サンプル144、145、171、178、218、239、240、246、267、276、301、302、304参照)。
【0136】
評価結果は、中でも、本発明の担持触媒が異なる工程温度と時間を用いて製造できることを示している。しかし、特定の触媒組成物を製造するパラメータの組を開発するためには多数の繰り返し作業を要することに留意されたい。また、データによって明らかなことは、活性度がプロセスの条件の変化によって調節できることである。
【0137】
さらに、特定の理論には拘束されないが、類似の触媒組成物の活性度の相違は、均一性(例えば、本明細書で定義したように、合金は、構成成分原子が規則性の存在又は欠如を示す領域を有する、すなわち、規則性格子内の固溶体領域又はある種の超構造を有することができる)、成分原子の平均サイズの変化による格子パラメータの変化、粒子サイズの変化、結晶構造/対称性の変化など、いくつかの要因に起因するものと現在考えられている。合成、構造及び対称性の変化の影響はしばしば予測することが困難である。
【0138】
前述の担持触媒についてのXRD分析の解釈を以下に記載する。しかし、XRD分析の解釈は主観的なものであり、したがって、以下の結論によって制限されないことに留意されたい。
【0139】
Pt30T25W45(例えば、HFC302、目標触媒組成を参照されたい):HFC302の測定された組成はPt34Ti23Fe43であった。測定された化学量論比に基づいて予測されたfcc格子定数は、約3.745Åであった。実際に、合成したままのHFC302のXRD測定は3.741Åのfcc格子定数を示した。言い換えれば、測定された格子定数は実質上予測された格子定数と同じであった。合成したままのサンプルHFC302はPtFeに類似した結晶学的規則性を示すようであるが、対称性の低下によるピークは低い強度のものであった。粒子サイズは、既知のScherrer/Warren式を用いて、約2.3nmと予測された。
【0140】
前述のことから、特定の触媒組成物について、その特定の組成物の最高の活性度を形成するためには、最適条件を決定することが好ましい。実際に、ある触媒組成物について、異なる構造的特性は、「良好な」触媒として正確に記述されるものを定義することができる。これらの特性は、組成物の相違(格子パラメータの観点から)、結晶性、結晶学的規則性、及び/又は粒子サイズの相違を含むものである。これらの特性は、必ずしも予測可能ではなく、出発材料、合成方法、合成温度及び組成物の間の複雑な相互作用に依存する。例えば、触媒合金の合成に使用する出発材料は、合成された触媒合金の活性度に役割を果たすことができる。詳細には、金属硝酸塩溶液以外の何かを用いて金属原子を供給し、異なる活性度にすることができる。さらに、代替のPt源を用いることができる。雰囲気、時間、温度等の凍結乾燥及び熱処理パラメータも最適化を必要とするであろう。この最適化は、組成に依存するであろう。さらに、この最適化は相反する現象をバランスさせることを含むだろう。例えば、熱処理温度の上昇は、一般に金属塩の金属への還元を改善し、典型的に活性度を高めることが知られているが、これは触媒合金粒子のサイズを増加させ、表面積を減少させる傾向があり、これは電極触媒活性度を低下させる。
【0141】
(実施例5−触媒組成物前駆体の洗浄)
触媒前駆体組成物は、白金濃度が50原子%を超える触媒組成物を得るために、以下の手順に従って洗浄することができる。触媒前駆体組成物(例えば、サンプルHFC302、Pt30Ni25Fe45)粉体100mgを20mlのガラス試験瓶に入れ、1MのHClO4酸溶液15mlを(酸が粉体を十分濡らすように5〜10秒間かけて)ゆっくり加える。この混合物を、混合物の温度を90〜95℃に上昇させるように予め較正した熱板上に置く(混合物を入れた試験瓶には、起こり得る沸騰がその中の圧力を増加させないように、ゆるく蓋をする)。この条件下で1時間後、混合物を濾紙でフィルター処理する。フィルター処理されたケーキは大量の水で繰り返し洗浄する。
この最初の単一洗浄サイクルに続いて、分離された濾過ケーキを他の15mlの1MのHClO4酸溶液と共に新しい試験瓶に装填する。濾過ケーキを解すために十分攪拌した後、混合物を90〜95℃の熱板に1時間戻す。次いで混合物をフィルター処理し、水で洗浄する。得られるケーキを90℃で48時間乾燥する。
【0142】
上述の説明は例示のためであり制限するものではないことを理解すべきである。当業者であれば、上述の説明を読み取ることによって多くの実施形態が明らかになろう。したがって、本発明の範囲は上述の説明によってではなく、請求項及びそれらの請求項が含まれる等価の範囲全てを参照して決定されるべきである。
【0143】
本発明又はその実施形態の元素を導入するとき、冠詞「a」、「an」、「the」及び「said」は1種又は複数種の元素があることを意味する。用語「comprising」、「including」、及び「having」は包含的であり記載した元素以外の追加の元素が存在し得ることを意味する。
【0144】
端点による数字の範囲の列挙は、その範囲内に包含される全ての数字を含む。例えば、1〜5で記述される範囲は1、1.6、2、2.8、3、3.2、4、4.75、及び5を含む。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付けた領域は、点Pt100Ni0Fe0、Pt50Ni50Fe0、Pt50Ni0Fe50によって囲まれるが、点Pt70Ni20Fe10、Pt70Ni15Fe15、Pt55Ni15Fe30、Pt50Ni20Fe30、Pt50Ni30Fe20、Pt60Ni30Fe10によって囲まれる領域を含まない。
【図2】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図3】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図4】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図5】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図6】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図7】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図8】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付した領域は、1つ又は複数の従属実施形態による1つ又は複数の従属領域を含むことができる。
【図9】本発明の一実施形態を示す領域に影を付したPt−Ni−Fe三元図である。影を付けた領域は、点Pt45Ni55Fe0、Pt45Ni40Fe15、Pt40Ni45Fe15、Pt35Ni45Fe20、Pt35Ni40Fe25、Pt40Ni35Fe25、Pt45Ni35Fe20、Pt45Ni20Fe35、Pt40Ni25Fe35、Pt35Ni25Fe40、Pt35Ni20Fe45、Pt40Ni15Fe45、Pt45Ni15Fe40、Pt45Ni0Fe55、Pt0Ni100Fe0、Pt0Ni0Fe100よって囲まれるが、点Pt20Ni20Fe60、Pt20Ni25Fe55、Pt25Ni20Fe55によって囲まれる領域、点Pt25Ni40Fe35、Pt25Ni35Fe40、Pt20Ni35Fe45、Pt15Ni40Fe45、Pt15Ni45Fe40、Pt20Ni45Fe35によって囲まれる領域及び点Pt25Ni65Fe10、Pt30Ni60Fe10、Pt30Ni55Fe15、Pt25Ni60Fe15によって囲まれる領域を含まない。
【図10】本発明に係る、白金−ニッケル−鉄合金のナノ粒子が表面に付着しているカーボン担体のTEM像写真である。
【図11】燃料電池の部材を示す模式分解図である。
【図12】組み立てられた図11の燃料電池の断面図である。
【図13】本発明による、個別にアドレス可能な電極上に付着している薄膜触媒組成物を備える電極アレイの写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)ニッケル濃度が15原子%未満である、組成物。
【請求項2】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)鉄濃度が30原子%を超える、組成物。
【請求項3】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が70原子%を超え約90原子%未満である、組成物。
【請求項4】
白金、ニッケル及び鉄の濃度の総計が、少なくとも約95原子%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
白金、ニッケル及び鉄の濃度の総計が、少なくとも約97原子%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
本質的に白金、ニッケル及び鉄からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ニッケル濃度が少なくとも約1原子%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
鉄濃度が少なくとも約1原子%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
白金濃度が約60〜約90原子%の範囲である、請求項1、2及び4〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
白金濃度が70〜約80原子%の範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
白金、ニッケル及び/又は鉄が金属酸化状態である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
本質的に白金、ニッケル及び鉄の合金からなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
ニッケル濃度が、約2原子%を超え約15原子%未満である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
鉄濃度が約30原子%を超え約48原子%未満である、請求項1、2、4〜7、10及び11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)鉄濃度が10原子%未満である、組成物。
【請求項16】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)ニッケル濃度が30原子%を超える、組成物。
【請求項17】
電気化学反応装置に使用するための担持電極触媒粉体であって、導電性担体上に請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を含む、担持電極触媒粉体。
【請求項18】
前記導電性担体が、無機担体及び有機担体からなる群から選択されるものである、請求項17に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項19】
前記組成物が、前記導電性担体上に金属合金付着物として存在する、請求項17又は18に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項20】
前記導電性担体上に、少なくとも約20質量%の金属合金付着物が担持されている、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項21】
前記導電性担体上に、約5〜約60質量%の金属合金付着物が担持されている、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項22】
前記導電性担体上に、約20〜約40質量%の金属合金付着物が担持されている、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項23】
前記金属合金付着物が、約30オングストローム以下の平均サイズを有する、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項24】
前記金属合金付着物が、約10〜約20オングストロームの平均サイズを有する、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項25】
前記金属合金付着物の少なくとも約80%が当該金属合金付着物の平均サイズの約75〜約125%の範囲にある粒度分布を有する、請求項23又は24に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項26】
電極触媒粒子と、前記電極触媒粒子が表面上に付着している電極基材とを備え、前記電極触媒粒子が請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を含む、燃料電池電極。
【請求項27】
前記電極触媒粒子が請求項17〜25のいずれか一項に記載の担持電極触媒粉体を含む、請求項26に記載の燃料電池電極。
【請求項28】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間のプロトン交換膜と、水素含有燃料の触媒酸化又は酸素の触媒還元を行うための請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物と、を備える燃料電池。
【請求項29】
前記組成物が、前記プロトン交換膜の表面上にあり前記アノードに接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項30】
前記組成物が、前記アノードの表面上にあり前記プロトン交換膜に接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項31】
前記組成物が、前記プロトン交換膜の表面上にあり前記カソードに接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項32】
前記組成物が、前記カソードの表面上にあり前記プロトン交換膜に接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項33】
アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物と、前記アノードと前記カソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素の反応生成物及び電気への電気化学的変換方法であって、
前記水素含有燃料又は前記酸素を前記組成物と接触させて、前記水素含有燃料を触媒酸化させること、あるいは、前記酸素を触媒還元することを含む方法。
【請求項34】
前記水素含有燃料が本質的に水素からなる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記水素含有燃料が、飽和炭化水素、廃棄オフガス、含酸素炭化水素、化石燃料及びこれらの混合物からなる群から選択される炭化水素系燃料である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記水素含有燃料がメタノールである、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
担持されていない触媒組成物の層を表面上に有する燃料電池電解質膜であって、前記担持されていない触媒組成物の層が請求項1〜18のいずれか一項に記載の触媒組成物を含む燃料電池電解質膜。
【請求項38】
担持されていない触媒組成物の層を表面上に有する燃料電池電極であって、前記担持されていない触媒組成物の層が請求項1〜16のいずれか一項に記載の触媒組成物を含む燃料電池電極。
【請求項39】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、ニッケル濃度が約45原子%を超え約55原子%未満である、触媒前駆体組成物。
【請求項40】
前記白金濃度が少なくとも約10原子%であり約40原子%未満である、請求項39に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項41】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が25原子%未満であり、ニッケル濃度が少なくとも約45原子%である、触媒前駆体組成物。
【請求項42】
白金濃度が少なくとも約5原子%であり約15原子%未満である、請求項41に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項43】
ニッケル濃度が約60原子%を超え約80原子%未満である、請求項41又は42に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項44】
鉄濃度が約5原子%を超え約30原子%未満である、請求項41〜43のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項45】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、ニッケル濃度が約15原子%未満である触媒前駆体組成物。
【請求項46】
ニッケル濃度が約10原子%未満である、請求項45に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項47】
鉄濃度が約40〜約60原子%であり、白金濃度が約25〜約45原子%である、請求項45又は46に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項48】
鉄濃度が約40〜約55原子%であり、白金濃度が約30〜約40原子%である、請求項45〜47のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項49】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、鉄濃度が約10原子%未満である、触媒前駆体組成物。
【請求項50】
ニッケル濃度が少なくとも約40原子%である、請求項49に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項51】
ニッケル濃度が少なくとも約50原子%である、請求項49に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項52】
ニッケル濃度が約90原子%以下である、請求項49〜51のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項53】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、鉄濃度が少なくとも約45原子%であり55原子%未満である、触媒前駆体組成物。
【請求項54】
ニッケル濃度が少なくとも約10原子%であり約30原子%未満である、請求項53に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項55】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、(i)白金濃度が約5〜約45原子%であり、(ii)ニッケル濃度が約25〜約35原子%であり、(iii)鉄濃度が約20〜約70原子%である、触媒前駆体組成物。
【請求項56】
白金濃度が約10〜約45原子%であり、鉄濃度が約20〜約65原子%である、請求項55に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項57】
白金濃度が約15〜約40原子%であり、鉄濃度が約25〜約60原子%である、請求項55に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項58】
白金濃度が約20〜約40原子%であり、鉄濃度が約25〜約55原子%である、請求項55に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項59】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、(i)白金濃度が約25〜約35原子%であり、(ii)ニッケル濃度が約15〜約60原子%であり、(iii)鉄濃度が約15〜約50原子%である、触媒前駆体組成物。
【請求項60】
鉄濃度が約25〜約50原子%である、請求項59に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項61】
白金濃度が約30〜約35原子%である、請求項59又は60に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項62】
ニッケル濃度が約15〜約40原子%である、請求項59〜61のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項63】
白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度が約45原子%未満である触媒前駆体組成物であって、下記実験式(i)〜(v)で示される範囲の組成を含まない、触媒前駆体組成物。
(i) Pt35−45Ni35−45Fe15−25
(ii) Pt35−45Ni15−25Fe35−45
(iii)Pt20−25Ni20−25Fe55−60
(iv) Pt15−25Ni35−45Fe35−45
(v) Pt25−30Ni55−65Fe10−15
【請求項64】
触媒がPt20−30Ni55−65Fe10−15を含まない、請求項63に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項65】
白金濃度が約40原子%未満である、請求項63又は64に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項66】
白金濃度が少なくとも約10原子%である、請求項63〜65のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項67】
ニッケル濃度が少なくとも約50原子%であり、約70原子%未満である、請求項63〜66のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項68】
鉄濃度が少なくとも約5原子%である、請求項63〜67のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項69】
鉄濃度が少なくとも約20原子%を超え約30原子%未満である、請求項63〜68のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項70】
本質的に白金、ニッケル及び鉄からなる、請求項39〜69のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項71】
合金からなる、請求項39〜69のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項72】
前記合金が不規則性である、請求項71に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項73】
前記合金が規則性である請求項71に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項74】
白金、ニッケル及び鉄が金属酸化状態である、請求項39〜73のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項75】
電気化学反応装置に用いるための触媒組成物の調製に使用する担持触媒前駆体組成物であって、導電性担体上に請求項39〜74のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物を含む、担持触媒前駆体組成物。
【請求項76】
白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度が45原子%未満である触媒前駆体組成物から触媒組成物を調製する方法であって、得られる触媒組成物が白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度が50原子%を超えるように、当該触媒前駆体中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を除去するのに十分な条件にて前記触媒前駆体組成物を処理することを含む方法。
【請求項77】
前記触媒前駆体組成物を酸性溶液に接触させて、当該触媒前駆体組成物中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を可溶化する、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、触媒前駆体組成物と、前記アノードと前記カソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素が、反応生成物及び電気へと変換される電気化学的反応に前記触媒前駆体組成物を曝す方法であって、
水素含有燃料又は酸素と触媒前駆体組成物とを接触させて、前記水素含有燃料を酸化させ且つ/又は前記酸素を触媒還元し、前記触媒前駆体組成物からニッケル及び/又は鉄をその場で溶解させることを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記水素含有燃料が本質的に水素からなる、請求項76〜78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記水素含有燃料が、飽和炭化水素、廃棄オフガス、含酸素炭化水素、化石燃料及びこれらの混合物からなる群から選択される炭化水素系燃料である、請求項76〜79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記水素含有燃料がメタノールである、請求項76〜80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記触媒組成物が、請求項1〜16のいずれか一項によって定義されるものである、請求項76〜81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記触媒組成物前駆体が、請求項39〜75のいずれか一項によって定義されるものである、請求項76〜82のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)ニッケル濃度が15原子%未満である、組成物。
【請求項2】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)鉄濃度が30原子%を超える、組成物。
【請求項3】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が70原子%を超え約90原子%未満である、組成物。
【請求項4】
白金、ニッケル及び鉄の濃度の総計が、少なくとも約95原子%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
白金、ニッケル及び鉄の濃度の総計が、少なくとも約97原子%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
本質的に白金、ニッケル及び鉄からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ニッケル濃度が少なくとも約1原子%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
鉄濃度が少なくとも約1原子%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
白金濃度が約60〜約90原子%の範囲である、請求項1、2及び4〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
白金濃度が70〜約80原子%の範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
白金、ニッケル及び/又は鉄が金属酸化状態である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
本質的に白金、ニッケル及び鉄の合金からなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
ニッケル濃度が、約2原子%を超え約15原子%未満である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
鉄濃度が約30原子%を超え約48原子%未満である、請求項1、2、4〜7、10及び11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)鉄濃度が10原子%未満である、組成物。
【請求項16】
白金、ニッケル及び鉄を含む組成物であって、(i)白金濃度が50原子%を超え、(ii)ニッケル濃度が30原子%を超える、組成物。
【請求項17】
電気化学反応装置に使用するための担持電極触媒粉体であって、導電性担体上に請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を含む、担持電極触媒粉体。
【請求項18】
前記導電性担体が、無機担体及び有機担体からなる群から選択されるものである、請求項17に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項19】
前記組成物が、前記導電性担体上に金属合金付着物として存在する、請求項17又は18に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項20】
前記導電性担体上に、少なくとも約20質量%の金属合金付着物が担持されている、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項21】
前記導電性担体上に、約5〜約60質量%の金属合金付着物が担持されている、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項22】
前記導電性担体上に、約20〜約40質量%の金属合金付着物が担持されている、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項23】
前記金属合金付着物が、約30オングストローム以下の平均サイズを有する、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項24】
前記金属合金付着物が、約10〜約20オングストロームの平均サイズを有する、請求項19に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項25】
前記金属合金付着物の少なくとも約80%が当該金属合金付着物の平均サイズの約75〜約125%の範囲にある粒度分布を有する、請求項23又は24に記載の担持電極触媒粉体。
【請求項26】
電極触媒粒子と、前記電極触媒粒子が表面上に付着している電極基材とを備え、前記電極触媒粒子が請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を含む、燃料電池電極。
【請求項27】
前記電極触媒粒子が請求項17〜25のいずれか一項に記載の担持電極触媒粉体を含む、請求項26に記載の燃料電池電極。
【請求項28】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間のプロトン交換膜と、水素含有燃料の触媒酸化又は酸素の触媒還元を行うための請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物と、を備える燃料電池。
【請求項29】
前記組成物が、前記プロトン交換膜の表面上にあり前記アノードに接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項30】
前記組成物が、前記アノードの表面上にあり前記プロトン交換膜に接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項31】
前記組成物が、前記プロトン交換膜の表面上にあり前記カソードに接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項32】
前記組成物が、前記カソードの表面上にあり前記プロトン交換膜に接触している、請求項28に記載の燃料電池。
【請求項33】
アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物と、前記アノードと前記カソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素の反応生成物及び電気への電気化学的変換方法であって、
前記水素含有燃料又は前記酸素を前記組成物と接触させて、前記水素含有燃料を触媒酸化させること、あるいは、前記酸素を触媒還元することを含む方法。
【請求項34】
前記水素含有燃料が本質的に水素からなる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記水素含有燃料が、飽和炭化水素、廃棄オフガス、含酸素炭化水素、化石燃料及びこれらの混合物からなる群から選択される炭化水素系燃料である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記水素含有燃料がメタノールである、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
担持されていない触媒組成物の層を表面上に有する燃料電池電解質膜であって、前記担持されていない触媒組成物の層が請求項1〜18のいずれか一項に記載の触媒組成物を含む燃料電池電解質膜。
【請求項38】
担持されていない触媒組成物の層を表面上に有する燃料電池電極であって、前記担持されていない触媒組成物の層が請求項1〜16のいずれか一項に記載の触媒組成物を含む燃料電池電極。
【請求項39】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、ニッケル濃度が約45原子%を超え約55原子%未満である、触媒前駆体組成物。
【請求項40】
前記白金濃度が少なくとも約10原子%であり約40原子%未満である、請求項39に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項41】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が25原子%未満であり、ニッケル濃度が少なくとも約45原子%である、触媒前駆体組成物。
【請求項42】
白金濃度が少なくとも約5原子%であり約15原子%未満である、請求項41に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項43】
ニッケル濃度が約60原子%を超え約80原子%未満である、請求項41又は42に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項44】
鉄濃度が約5原子%を超え約30原子%未満である、請求項41〜43のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項45】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、ニッケル濃度が約15原子%未満である触媒前駆体組成物。
【請求項46】
ニッケル濃度が約10原子%未満である、請求項45に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項47】
鉄濃度が約40〜約60原子%であり、白金濃度が約25〜約45原子%である、請求項45又は46に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項48】
鉄濃度が約40〜約55原子%であり、白金濃度が約30〜約40原子%である、請求項45〜47のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項49】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、鉄濃度が約10原子%未満である、触媒前駆体組成物。
【請求項50】
ニッケル濃度が少なくとも約40原子%である、請求項49に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項51】
ニッケル濃度が少なくとも約50原子%である、請求項49に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項52】
ニッケル濃度が約90原子%以下である、請求項49〜51のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項53】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、白金濃度が50原子%未満であり、鉄濃度が少なくとも約45原子%であり55原子%未満である、触媒前駆体組成物。
【請求項54】
ニッケル濃度が少なくとも約10原子%であり約30原子%未満である、請求項53に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項55】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、(i)白金濃度が約5〜約45原子%であり、(ii)ニッケル濃度が約25〜約35原子%であり、(iii)鉄濃度が約20〜約70原子%である、触媒前駆体組成物。
【請求項56】
白金濃度が約10〜約45原子%であり、鉄濃度が約20〜約65原子%である、請求項55に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項57】
白金濃度が約15〜約40原子%であり、鉄濃度が約25〜約60原子%である、請求項55に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項58】
白金濃度が約20〜約40原子%であり、鉄濃度が約25〜約55原子%である、請求項55に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項59】
白金、ニッケル及び鉄を含む触媒前駆体組成物であって、(i)白金濃度が約25〜約35原子%であり、(ii)ニッケル濃度が約15〜約60原子%であり、(iii)鉄濃度が約15〜約50原子%である、触媒前駆体組成物。
【請求項60】
鉄濃度が約25〜約50原子%である、請求項59に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項61】
白金濃度が約30〜約35原子%である、請求項59又は60に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項62】
ニッケル濃度が約15〜約40原子%である、請求項59〜61のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項63】
白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度が約45原子%未満である触媒前駆体組成物であって、下記実験式(i)〜(v)で示される範囲の組成を含まない、触媒前駆体組成物。
(i) Pt35−45Ni35−45Fe15−25
(ii) Pt35−45Ni15−25Fe35−45
(iii)Pt20−25Ni20−25Fe55−60
(iv) Pt15−25Ni35−45Fe35−45
(v) Pt25−30Ni55−65Fe10−15
【請求項64】
触媒がPt20−30Ni55−65Fe10−15を含まない、請求項63に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項65】
白金濃度が約40原子%未満である、請求項63又は64に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項66】
白金濃度が少なくとも約10原子%である、請求項63〜65のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項67】
ニッケル濃度が少なくとも約50原子%であり、約70原子%未満である、請求項63〜66のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項68】
鉄濃度が少なくとも約5原子%である、請求項63〜67のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項69】
鉄濃度が少なくとも約20原子%を超え約30原子%未満である、請求項63〜68のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項70】
本質的に白金、ニッケル及び鉄からなる、請求項39〜69のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項71】
合金からなる、請求項39〜69のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項72】
前記合金が不規則性である、請求項71に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項73】
前記合金が規則性である請求項71に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項74】
白金、ニッケル及び鉄が金属酸化状態である、請求項39〜73のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項75】
電気化学反応装置に用いるための触媒組成物の調製に使用する担持触媒前駆体組成物であって、導電性担体上に請求項39〜74のいずれか一項に記載の触媒前駆体組成物を含む、担持触媒前駆体組成物。
【請求項76】
白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度が45原子%未満である触媒前駆体組成物から触媒組成物を調製する方法であって、得られる触媒組成物が白金、ニッケル及び鉄を含み、白金濃度が50原子%を超えるように、当該触媒前駆体中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を除去するのに十分な条件にて前記触媒前駆体組成物を処理することを含む方法。
【請求項77】
前記触媒前駆体組成物を酸性溶液に接触させて、当該触媒前駆体組成物中に存在するニッケル及び/又は鉄の一部を可溶化する、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
アノードと、カソードと、その間のプロトン交換膜と、触媒前駆体組成物と、前記アノードと前記カソードとを接続する導電性外部回路と、を備える燃料電池中において、水素含有燃料及び酸素が、反応生成物及び電気へと変換される電気化学的反応に前記触媒前駆体組成物を曝す方法であって、
水素含有燃料又は酸素と触媒前駆体組成物とを接触させて、前記水素含有燃料を酸化させ且つ/又は前記酸素を触媒還元し、前記触媒前駆体組成物からニッケル及び/又は鉄をその場で溶解させることを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記水素含有燃料が本質的に水素からなる、請求項76〜78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記水素含有燃料が、飽和炭化水素、廃棄オフガス、含酸素炭化水素、化石燃料及びこれらの混合物からなる群から選択される炭化水素系燃料である、請求項76〜79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記水素含有燃料がメタノールである、請求項76〜80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記触媒組成物が、請求項1〜16のいずれか一項によって定義されるものである、請求項76〜81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記触媒組成物前駆体が、請求項39〜75のいずれか一項によって定義されるものである、請求項76〜82のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−504624(P2007−504624A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525500(P2006−525500)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/028958
【国際公開番号】WO2005/034266
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(501430560)サイミックス テクノロジーズ, インコーポレイテッド (5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/028958
【国際公開番号】WO2005/034266
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(501430560)サイミックス テクノロジーズ, インコーポレイテッド (5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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