説明

皮膚サンプルの年齢範囲の決定方法

本発明は、対象から得られる核酸またはタンパク質分子を分析することにより、対象の皮膚サンプルを、ある年齢範囲に属すると特徴付けるための方法を提供する。本方法は1つまたは複数の皮膚マーカーの、表皮サンプルにおける発現または変異を分析する工程を含む。本方法は、サンプル由来の遺伝子またはタンパク質プロファイルを分析し、それらを既知の皮膚年齢指標と比較するためにマイクロアレイを使用することを含み得る。治療製剤および美容製剤も本明細書において提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して皮膚サンプリングに関し、より具体的には年齢指標に基づき皮膚を特徴付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
老化は生物または対象における経時的な変化の蓄積である。ヒトにおける老化は、肉体的、心理的および社会的変化の多次元的過程を意味する。老化の次元のなかには経時的に成長および拡大するものもあるが、減少するものもある。例えば、反応時間は、年齢とともに遅くなるかもしれないが、世界の出来事に関する知識および知恵は拡大するかもしれない。調査によれば、老齢になってさえも肉体的、精神的および社会的成長および発達の可能性がある。老化は全ての人間社会の重要な部分であり、生ずる生物学的変化を反映しているが、文化的および社会的慣習も反映している。
【0003】
哺乳類に関して言えば、ヒトは本質的に無毛である; つまり、体毛に干渉されずに人体の皮膚の大部分を見ることができる。したがって皮膚は、環境によるいかなる(自然的および人為的)侵襲にも曝される。太陽が紅斑を引き起こすことが最初に理解されて以来、人々はその「有害光線」を回避する手段を講じてきた。一世紀前、エリザベス時代の英国において、いかなる代価を払っても太陽を回避することが流行であった。それでも、エリザベス女王時代の人たちの皮膚はしわが寄り、経時的老化の他の兆候を呈していた。
【0004】
ヒトの皮膚は、全身に広がる複雑な器官である。異なる身体部分には異なるタイプの皮膚が存在しており、例えば、顔面の皮膚は頭皮のものとは異なり、手のおもて面(手掌)の皮膚ですら手の甲のものとは異なる。皮膚のタイプは人の身体の場所によって変化しうるが、一般に、皮膚は2種の組織主要層から構成されている。最外層である表皮(epidermis)または表皮(cuticle)は、表層(外側から内へ、角質層、淡明層および顆粒層)ならびに深層(有棘層および基底層)から構成されている。真皮(dermis)、真皮(cutis vera)、または真皮(true skin)は上側の乳頭層と下側の網状層とから構成されている。
【0005】
古代以来、さまざまな物質を皮膚に貼付して、一般的には皮膚の最外層に影響を与えることにより、その外観を改善し、または一般的には真皮に影響を与えることにより、皮膚の病気を治療してきた。ごく最近では、皮膚を若返らせ、太陽光(UV線)および風雨への曝露から失われた弾力性および柔軟性を取り戻すために努力が払われている。
【0006】
光老化皮膚(すなわち太陽UV線からの損傷により老けて見える皮膚)の生理機能と比べて、経時的に老化した皮膚または内因的に老化した皮膚(古い皮膚)の生理機能には違いがある。古い皮膚は一般に滑らかで傷のない外観を保っているが、光老化皮膚の方は固くてしみがあり、くっきりと深いしわが見られることも珍しくない。一般に古い皮膚の方が健全な皮膚より表皮が薄いが、光老化皮膚の表皮は健全な皮膚より厚く(表皮肥厚)、時間が経つにつれて萎縮することが多い。光老化皮膚は、経時的に老化した皮膚にない大きな境界帯(Grenz zone)(表皮のすぐ下の好酸性物質の広帯域で、創傷治癒を示すコラーゲン構成および構造)を一般に有する。N. A. FenskeおよびC. W. Lober, 「Structural and functional changes of normal aging skin」, J. Am. Acad. Dermatol., 15:571-585 (1986)(非特許文献1)も参照されたい。
【0007】
生物学では、「老化(senscence)」は老化の状態または過程である。「細胞老化」は、単離された細胞が培養下で分裂する能力には限りのあること(すなわち、1965年にLeonard Hayflickによって発見されたヘイフリックの限界)を実証する現象であるのに対し、「生物老化」は生物の老化である。生物老化は、ほぼ完璧に再生する期間(ヒトでは、約20〜35歳)の後で、ストレスに応答する能力の低下、恒常性の不均衡の増大および疾患リスクの増大によって特徴付けられる。この不可逆的な一連の変化は必然的に死で終わる。研究者(具体的には生物老年学の学者(biogerontologist))のなかには、老化を疾患として扱うものもいる。老化に効果を及ぼす遺伝子が発見されるにつれて、老化は他の遺伝子疾患と同じように、すなわち、潜在的に「処置可能である」と次第に見なされつつある。
【0008】
明らかなことには、個体の皮膚の老化を予測するための皮膚年齢指標を医師が開発することを可能にする、さらなる技術開発の必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N. A. FenskeおよびC. W. Lober, 「Structural and functional changes of normal aging skin」, J. Am. Acad. Dermatol., 15:571-585 (1986)
【発明の概要】
【0010】
本発明は、一つには、特定の遺伝子に由来する核酸またはタンパク質産物の分析を用いて、個体の皮膚サンプルを区別または分類できるという発見に基づく。本方法は、例えば、DNA、RNAまたはそれから得られるタンパク質産物に基づく有益な遺伝情報を提供する。
【0011】
一つの態様において、本方法は、バイオマーカーの直接的な定量的および定性的評価を可能にする、テープ剥離手順を介して皮膚の表面からDNAもしくはRNAなどの核酸またはタンパク質を回収するための非侵襲的な手法の使用を伴う。テープで収集された核酸およびタンパク質産物は、生検によるこのような分子の回収と質および有用性の面で匹敵することが明らかであるが、非侵襲的方法は生検サンプルを用いては得ることができない皮膚の最外層の細胞に関する情報を提供する。最終的に、非侵襲的方法は生検よりも外傷がはるかに少ないが、本発明は、皮膚サンプリングのためのそのような侵襲的方法の使用を除外するものではない。
【0012】
このようにして、適切な年齢範囲を決定するために個体の皮膚上の細胞を捕捉するため、本方法が用いられる。皮膚サンプルを、若年であるまたは老年であると特徴付けるために、皮膚から得た核酸分子を分析する。一つの態様において、核酸分子は分析の前に増幅される。二次的な結果には、皮膚の光老化および/または経時的老化の種々の症状の診断および予後診断のための検査、ならびに皮膚の処置のための治療計画または美容計画を予測するための検査を含めることができる。別の態様において、皮膚細胞を溶解させて1種または複数種のタンパク質を抽出し、これを次に定量化して、例えば、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子の遺伝子産物と比較するが、その組み合わせは少なくとも1つの「若年」遺伝子および少なくとも1つの「老年」遺伝子を含まなければならない。本発明の方法は、皮膚サンプルを得るための本明細書において記述される非侵襲的技術に限定されないことが理解されるべきである。例えば、限定するものではないが、当業者は、皮膚の擦過、生検、吸引、吹きつけおよび他の技術などの、皮膚サンプルを得るための他の技術を承知しているであろう。本明細書において記述されるように、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,949,338号に記載の、非侵襲的なテープ剥離は、皮膚サンプルを得るための説明例である。
【0013】
別の態様において、本方法は、皮膚から得た核酸分子の核酸配列における1つまたは複数の変異の検出を伴う。そのような変異は、皮膚サンプルが得られた対象由来の皮膚の経時的老化および/または光老化に関連する症状をもたらす、核酸配列の置換、欠失および/または挿入でありうる。
【0014】
一つの態様において、分析される核酸は、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されているもののうちのいずれか1つまたは複数である。したがって、本明細書において提供されるのは、以下の工程を含む、対象の皮膚サンプルの年齢範囲を決定するための方法である:例えば対象からの、皮膚または皮膚病変部のテープ剥離または生検により、核酸またはタンパク質を得る工程、および表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている核酸またはそのタンパク質産物と比較して核酸を分析する工程。この方法において、その発現が皮膚の適切な年齢範囲に関する情報を与える少なくとも1つの核酸分子を、サンプル中で検出する。
【0015】
本発明の非侵襲的方法は、粘着テープに粘着しているサンプルを単離するのに十分な様式で、皮膚の標的領域に粘着テープを貼付する工程であって、該サンプルが核酸分子および/またはタンパク質を含む、工程を伴う。典型的には、その発現がサンプル中の皮膚の年齢または年齢範囲に関する情報を与える、少なくとも1つの核酸分子またはタンパク質である。テープ剥離を用いて皮膚を特徴付ける方法には、以下のような、いくつかの用途がある: (i) 皮膚の年齢分類; (ii) 光老化および/または経時的老化の重症度および進行のモニタリング; (iii) 処置の効力のモニタリング; ならびに(iv) 特定の処置計画または美容計画の予測。これらの用途のいずれも、それら自体が本明細書において開示される態様を表すが、他の方法では(例えば、生検の使用によっては)回収が困難または実行不可能な情報を回収するために、非侵襲的サンプリングを用いるのが好ましい。この情報は皮膚の表面に近い皮膚細胞のDNA、タンパク質またはRNAの中に含まれうる。一つの態様において、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子のうちの1つまたは複数の発現をサンプルにおいて検出し、サンプルを特徴付ける。表1〜3は、3つの例示的な皮膚「年齢指標」の遺伝子を示すための例として提示されている。選択される遺伝子から若年および老年の層別化が明確である限り、表1〜3のいずれかに提示されている数よりも少ない遺伝子を用いることによっても年齢指標を開発できることが理解されるべきである。
【0016】
他の態様は、一つには、皮膚のテープ剥離の場合、極性のない柔軟な粘着テープ、とりわけゴム系粘着剤の付いた柔軟なテープが他のタイプの粘着テープよりも効果的であるという発見に基づく。ゴム系粘着剤の付いた柔軟なテープを用いると、わずか10回またはそれ未満のテープ剥離、およびある特定の例では、わずか4回またはまさに1回のテープ剥離を使って、皮膚の表皮層から核酸分子を単離および/または検出することができる。
【0017】
別の態様において、本発明の方法は、視覚的分析のために検出可能に標識されたプローブを対象の皮膚へ直接的に適用することを含む、皮膚サンプルの年齢範囲またはインサイチュでの皮膚の年齢範囲の決定を提供する。その発現が皮膚の年齢範囲に関する情報を与える少なくとも1つの核酸分子が、特異的プローブを用いて皮膚において検出される。一例を挙げれば、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子のうちの1つまたは複数の発現を皮膚上で検出して、皮膚の年齢範囲を決定する。一つの態様において、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子のうちの1つまたは複数の発現をサンプルにおいて検出し、皮膚サンプルを特徴付ける。
【0018】
別の局面において、本発明は、対象における皮膚サンプルを特徴付けるためのキットを提供する。一つの態様において、キットは、生検針または非侵襲的なテープ剥離用の粘着テープなどの皮膚サンプル収集装置、および表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせにおける1つもしくは複数の核酸分子に、または表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせにおける核酸分子の核酸もしくはタンパク質発現産物に選択的に結合する1つまたは複数のプローブまたはプライマーを含む。キットは、一方の鎖上の遺伝子の上流に選択的に結合するフォワードプライマーおよび相補鎖上の遺伝子の上流に選択的に結合するリバースプライマーの1つまたは複数の対を含むことができる。別の態様において、キットは表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせにおいて特定されている遺伝子の、遺伝子または核酸分子またはタンパク質産物の少なくとも断片を含んだマイクロアレイを含む。
【0019】
別の態様において、対象由来の皮膚サンプルを特徴付けるためのキットは、アプリケータ、および表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせにおける1つもしくは複数の核酸分子に、または表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせにおける核酸分子の核酸もしくはタンパク質発現産物に選択的に結合する1つまたは複数のプローブまたはプライマーを含む。一つの態様において、プローブはRNAの発現の視覚的同定のために検出可能に標識される。
【0020】
別の局面において、本発明は、遺伝子の発現を低減または増大させるための薬剤を含んだ美容製剤を提供する。一つの態様において、薬剤は、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子の発現を低減または増大する。別の態様において、美容製剤は、乳剤、クリーム、ローション、溶液、無水基剤、ペースト、粉末、ゲルまたは軟膏である。乳剤は水中油型乳剤または油中水型乳剤であってよい。あるいは、製剤は水溶液または含水アルコール溶液のような、溶液であってもよい。別の態様において、美容製剤は、リップスティックまたは粉末のような、無水基剤である。別の態様において、製剤は抗老化製品または保湿製品のなかに含まれる。美容製剤はさらに、エストラジオール; プロゲステロン; プレグネノロン(pregnanalone); コエンザイムQ10; メチルソラノメタン(methylsolanomethane: MSM); 銅ペプチド(銅抽出物); プランクトン抽出物(フィトソーム(phytosome)); グリコール酸; コウジ酸; パルミチン酸アスコルビル; オールトランスレチノール; アゼライン酸(azaleic acid); サリチル酸; ブロパロエストロール(broparoestrol); エストロン; アドロステンジオン(adrostenedione); アンドロスタンジオール; または日焼け止め剤の、1つまたは複数を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】若年個体の皮膚サンプルを老年個体の皮膚サンプルと区別する同定された100遺伝子分類器の階層的クラスタ分析である。クラスタ分析の左側に示したツリー構成は、表1に示した通りの順序で遺伝子を表している。
【図2】若年個体の皮膚サンプルを老年個体の皮膚サンプルと区別する100遺伝子分類器から作成された皮膚年齢指標を示すグラフ図である。
【図3】若年個体の皮膚サンプルを老年個体の皮膚サンプルと区別する同定された61遺伝子分類器の階層的クラスタ分析である。皮膚年齢指標 = 「群A」の合計 - 「群B」の合計 + α(定数)。クラスタ分析の左側に示したツリー構成は、表2に示した通りの順序で遺伝子を表している。
【図4】若年個体の皮膚サンプルを老年個体の皮膚サンプルと区別する61遺伝子分類器から作成された皮膚年齢指標を示すグラフ図である。
【図5】若年個体の皮膚サンプルを老年個体の皮膚サンプルと区別する83遺伝子分類器の階層的クラスタ分析である。皮膚年齢指標 = 「群A」の合計 - 「群B」の合計 + α(定数)。クラスタ分析の左側に示したツリー構成は、表3に示した通りの順序で遺伝子を表している。
【図6】若年個体の皮膚サンプルを老年個体の皮膚サンプルと区別する83遺伝子分類器から作成された皮膚年齢指標を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、一つには、特定の遺伝子に由来する核酸分子またはタンパク質産物の分析を用いて、年齢指標に基づき個体由来の皮膚サンプルを特徴付けられるという発見に基づく。したがって、本発明は、1つまたは複数の遺伝子またはタンパク質の同定に基づきサンプルの発現プロファイルを決定することに基づいて皮膚サンプルを特徴付けるのに有用な方法およびキットを提供する。
【0023】
ヒトおよび他の動物において、細胞老化は各細胞周期でのテロメアの短縮に起因している; テロメアが短くなりすぎると、細胞は死滅する。テロメアの長さはそれゆえ、Hayflickによって予測された「分子時計」である。テロメアの長さは、不死細胞(例えば、生殖細胞およびケラチノサイト幹細胞であるが、他の皮膚細胞型ではない)においては酵素であるテロメラーゼにより維持される。実験室では、死に至る細胞株は、全ての細胞に存在するものの少数の細胞型でしか活性でないテロメラーゼ遺伝子を活性化することによって不死化することができる。
【0024】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」とは、文脈上明らかに他の意味に解されない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば「その方法(the method)」についての言及は、1つもしくは複数の方法、および/または本開示を読めば当業者には明らかになると考えられる本明細書において記述される種類の工程などを含む。
【0025】
他に規定されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書において記述されるものと類似のまたは同等の任意の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料をこれから記述する。
【0026】
老化のいくつかの遺伝的要素が、単純な出芽酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から線虫(Caenorhabditis elegans)などの蠕虫およびショウジョウバエ(キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster))に及ぶ、モデル生物を用いて同定されている。これらの生物の研究から、少なくとも二つの保存された老化経路の存在が明らかになっている。
【0027】
これらの経路の一つには、NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素の遺伝子であるSir2が含まれる。酵母では、Sir2は三つの遺伝子座、つまり酵母接合遺伝子座、テロメアおよびリボソームDNA (rDNA)でのゲノムサイレンシングに必要とされる。ある種の酵母では、複製老化は、一部は、rDNAリピート間の相同組み換えによって起こりうる; つまり、rDNAリピートの切り出しによって染色体外rDNA環(ERC)の形成が生じる。これらのERCは細胞分裂の間に複製し母細胞へと優先的に隔離され、必須の核因子を取り去ること(titrate away)(奪い合うこと)によって細胞老化を引き起こすものと考えられている。ERCは他の酵母種(これも複製老化を呈する)では観察されておらず、ERCはヒトなどの高等生物における老化の一因になるものとは考えられていない。染色体外環状DNA (eccDNA)は蠕虫、ハエおよびヒトにおいて見つかっている。老化におけるeccDNAの役割は、あったとしても、知られていない。
【0028】
高等生物における環状DNAと老化との間の関連性の欠如にもかかわらず、Sir2の追加のコピーは蠕虫およびハエの両方の寿命を延ばすことができる。高等生物におけるSir2ホモログが寿命を調節する機構は不明であるが、ヒトSIRT1タンパク質はp53、Ku70およびフォークヘッドファミリーの転写因子を脱アセチル化することが実証されている。SIRT1はCBP/p300などのアセチル化を調節することもでき、特定のヒストン残基を脱アセチル化することが示されている。
【0029】
RAS1およびRAS2も酵母において老化に影響を与え、ヒトホモログを有する。RAS2の過剰発現は酵母において寿命を延ばすことが示されている。
【0030】
他の遺伝子は、酸化ストレスに対する抵抗性を高めることにより酵母における老化を調節する。ミトコンドリアの遊離基の影響を防ぐタンパク質であるスーパーオキシドジスムターゼは、過剰発現させた場合に、静止期にある酵母の寿命を延ばすことができる。
【0031】
高等生物では、老化は、一つにはインスリン/IGF-1経路を通じて調節される可能性が高い。蠕虫、ハエおよびマウスにおいてインスリン様シグナル伝達に影響を与える変異は、寿命延長と関連している。酵母では、Sir2活性はニコチンアミダーゼPNC1によって調節される。PNC1はカロリー制限、熱ショックおよび浸透圧ショックなどの、ストレス条件下で転写的に上方制御される。PNC1は、ニコチンアミドをナイアシンに変換することによって、Sir2の活性を阻害するニコチンアミドを除去する。PBEFとして公知の、ヒトにおいて見出されるニコチンアミダーゼは、類似の機能を果たす可能性があり、ビスファチンとして公知のPBEFの分泌型は血清インスリンレベルを調節するのに役立つ可能性がある。しかしながら、ヒトとモデル生物との間で生物学には明らかな差異があるので、これらの機構が同様にヒトに存在するかどうかは不明である。
【0032】
Sir2活性はカロリー制限の下で増大することが示されている。細胞中で利用可能なグルコースが不足することで、より多くのNAD+が利用可能となり、Sir2を活性化しうる。赤ブドウの皮の中に見出されるポリフェノールであるレスベラトロールは、酵母、蠕虫およびハエの寿命を延ばすことが報告された。レスベラトロールはSir2を活性化させ、それゆえ、カロリー制限の影響を模倣することが示されている。
【0033】
ヒト皮膚の経時的老化の特に重要な原因は、高齢者の集団の間で異なる可能性が高く、食事、遺伝子および環境などの要因を含む。とはいえ、経時的な皮膚老化は、一般に、ストレス活性化経路(SAP)の活性化および分裂促進因子活性化経路(ERK)の抑制によるものと考えられている。従来の見識とは対照的であるが、ヒト皮膚の経時的老化および光老化は類似の分子病態生理を有することが分かっている。ERKは健康な皮膚に必要な成長因子の作用を媒介する。ERKの妨害は、表皮および真皮における細胞数の減少のため、経時的に老化した皮膚の菲薄化につながりうる。そのほぼ逆に、SAPは、プロコラーゲン合成の阻害および成熟コラーゲンの分解の両者を促進する因子(例えば、c-Jun)を活性化し、それによって皮膚の形態、強度および機能の減弱をもたらす。皮膚の経時的老化には、ERKのいくらかの妨害および/またはSAPのいくらかの活性化が含まれるものと予測されうる。
【0034】
遺伝子発現は不完全に制御されており、多くの遺伝子の発現レベルの不規則な変動が、酵母におけるそのような遺伝子の研究から示唆されるように、老化の過程に寄与する可能性がある。遺伝学的に同一である個々の細胞は、そうであるにもかかわらず、外部の刺激に対して実質的に異なる応答を示し、および著しく異なった寿命を持つことがあり、このことは、後成的要因が遺伝子発現および老化において遺伝的要因と同様に重要な役割を果たすことを示唆している。
【0035】
したがって、一つの態様において、本発明では、個体から皮膚のサンプルを得るために非侵襲的なテープ剥離技術を利用する。このようにして、DNAマイクロアレイアッセイ法を用いて皮膚年齢指標を作成し、個体の老化を予測する。テープ剥離によって、皮膚表面からの表面細胞、および付属器細胞が剥がされる。テープ剥離した細胞から単離した少量の核酸分子を増幅し、マイクロアレイ分析および定量的PCRに用いることができる。さらに、溶解した細胞から得たタンパク質を年齢の特徴付けおよび判定のために定量化してもよい。結果として、テープ剥離は非侵襲的な診断方法であり、この方法はその後の組織学的分析を妨げない。テープ剥離では、表皮から表面細胞が主にサンプリングされるが、この方法は年齢および年齢に関連した障害の判定にかなり有望である。それゆえこの特性は、個体を、個体の実年齢よりも若年であるまたは老年であると特徴付けられる皮膚を有すると、特徴付けるのに役立ちうる。さらに、UV線への曝露などの、環境因子から生じる真皮および表皮の変化もある。したがって、本発明は、表皮遺伝情報検索(Epidermal Genetic Information Retrieval: EGIR) (参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,949,338号参照)を用いたテープ剥離によって収集された角質層RNAを用いて、若年個体の皮膚サンプルと老年個体の皮膚サンプルを区別できることを実証する。
【0036】
本明細書において用いられる「対象」または「個体」という用語は、本方法が行われる任意の個体または患者をいう。一般に、対象はヒトであるが、当業者には理解されるように、対象は動物であってもよい。かくして、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、例えばウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む家畜、および霊長類(サル、チンパンジー、オランウータンおよびゴリラを含む)などの哺乳類を含む他の動物は、対象の定義のなかに含まれる。
【0037】
本明細書において用いられる場合、「サンプル」および「生物学的サンプル」という用語は、本発明によって提供される方法に適した任意のサンプルをいう。細胞のサンプルは、例えば、対象の非侵襲的なテープ剥離もしくは生検によって得た皮膚サンプル、または対象の体液のサンプルを含む、任意のサンプルであってよい。かくして、一つの態様において、本発明の生物学的サンプルは組織サンプル、例えば、針生検によるサンプルなどの生検標本である。一つの態様において、「サンプル」という用語は、対象の皮膚に由来する任意の調製物をいう。例えば、本明細書において記述される非侵襲的方法を用いて得た細胞のサンプルを用いて、本発明の方法のための核酸分子またはタンパク質を単離することができる。
【0038】
本明細書において用いられる場合、「対応する細胞」または「対応するサンプル」とは、検査する細胞と同じ臓器に由来する、および検査する細胞と同じ種類の、対象由来の細胞またはサンプルをいう。一つの局面において、対応する細胞は、年齢が一致するまたは許容される年齢範囲内である健常個体から得た細胞のサンプルを含み、そのため、該サンプルは該年齢範囲内の個体から典型的に得られる代表的サンプルである。そのような対応する細胞は、検査される細胞を提供する個体と同じ性別の個体に由来してもよいが、そうでなくともよい。かくして、「正常サンプル」または「対照サンプル」という用語は、健常と考えられかつ既知年齢である類似の種の対象から採取された任意のサンプルをいう。したがって、RNAの正常/標準レベルは、既知年齢の対象由来のサンプル中に存在するRNAのレベルを意味する。RNAの正常レベルは、年齢が一致する正常健常対象から採取された皮膚サンプルまたは細胞抽出物を組み合わせ、存在する一種または複数種のRNAのレベルを決定することによって定めることができる。さらに、RNAの正常レベルは、既知の年齢範囲内である対象の集団から取った平均値として決定することもできる。したがって、対象および対照のサンプルにおけるRNAのレベルを、標準値と比較することができる。標準値と対象値との間の偏差によって、年齢を特徴付けるための、および/または年齢に基づきサンプルを区別するためのパラメータが定められる。
【0039】
「皮膚」という用語は、表皮(角質層を含む)およびその下層の真皮からなる、身体の外側の保護被覆をいい、汗腺および皮脂腺、ならびに毛包構造を含むと理解されている。本出願全体にわたり、「皮膚の」という形容詞を用いてもよく、これはその用語が用いられる文脈に応じて、一般的に、皮膚の特質を指すと理解されるべきである。ヒトの皮膚の表皮は数種の異なる皮膚組織層を含む。最も深い層は基底層で、それは円柱細胞からなる。その上の層は、多面細胞から構成される有棘層である。有棘層から押し上げられた細胞は扁平化し、ケラトヒアリン顆粒を合成して顆粒層を形成する。これらの細胞は外部へと移動するにつれて核を失い、ケラトヒアリン顆粒は張原線維と融合し一緒になる。このことによって淡明層と呼ばれる透明な層が形成される。淡明層の細胞は密に詰まっている。淡明層から細胞が上昇して行くにつれて、多層状の不透明な鱗片へと圧縮されるようになる。これらの細胞は全て扁平な細胞残存物であり、それはケラチンで完全に充填され、核を含む他の内部構造を全て失っている。これらの鱗片は表皮の外層である角質層を構成する。角質層の底部では、細胞は密に詰まっており、お互いが強く粘着されているが、層の上部へ行くほど粗く詰まるようになり、やがては表面ではがれ落ちる。
【0040】
本明細書において用いられる場合、「経時的老化」とは、対象の皮膚に影響を与える経時的に起こる避けられない変化をいう。対照的に、「光老化」とは、外部環境からの攻撃物により徐々に生じる対象の皮膚に対する変化をいう。例示的な外部の攻撃物にはUV線、遊離基、化学物質および毒素が含まれるが、これらに限定されることはない。皮膚の経時的老化および/または光老化の例示的な症状には、堅さおよび弾力性の喪失、乾燥、艶の喪失、ならびにすじおよびしわが含まれるが、これらに限定されることはない。したがって、「日焼けによる損傷」および「環境による損傷」という用語は、皮膚に関して用いられる場合、対象の皮膚を年不相応に老化させうる任意の外部環境からの攻撃物を包含するように広く用いられる。
【0041】
本明細書において用いられる場合、「遺伝子」という用語は、RNA合成のためのコードされた指示を与える、DNAのセグメントに沿ったヌクレオチドの直鎖状配列をいい、RNAは、タンパク質へ翻訳された場合に、遺伝形質の発現をもたらす。したがって、「皮膚マーカー」または「バイオマーカー」という用語は、異なる年齢または年齢範囲の個体に由来する皮膚表面サンプルと、既知の年齢または年齢範囲の個体の皮膚表面サンプルとの間で、発現レベルが異なる遺伝子をいう。それゆえ、本発明の皮膚マーカーの発現は、検査される対象の年齢に関連するか、またはその年齢を示す。多くの統計的技術が当技術分野において公知であり、これを用いて、発現の統計的有意差が高い(例えば、90%または95%の)信頼水準で観察されているかどうかを判定することができる。このように、これらの遺伝子の発現の増加または減少は、対象の年齢に関連し、対象の年齢を特徴付けることができる。
【0042】
本明細書において用いられる場合、「核酸分子」という用語は一本鎖、二本鎖または三本鎖の、DNA、RNA(例えば、伝令RNA、miRNAなど)、およびそれらの任意の化学的修飾物を意味する。実質的に任意の核酸修飾が企図される。「核酸分子」は、長さが10、20、30、40、50、60、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000、15,000、20,000、30,000、40,000、50,000、75,000、100,000、150,000、200,000、500,000、1,000,000、1,500,000、2,000,000、5,000,000またはさらにそれ以上の塩基から、全長の染色体DNA分子までの、ほぼすべての長さのものであってよい。遺伝子の発現を分析する方法のためには、サンプルから単離される核酸は典型的にはRNAである。
【0043】
マイクロRNA (miRNA)は、ヒトを含む多様な種においてmRNA発現の調節に関わる平均22ヌクレオチド長の小さな一本鎖RNA分子である。何百ものmiRNAがハエ、植物および哺乳類において発見されている。miRNAは、mRNAの3'非翻訳領域に結合することによって遺伝子発現を調節し、i) mRNAの切断または2) 翻訳の抑制のどちらかを触媒する。miRNAによる遺伝子発現の調節は、細胞発生、細胞分化、細胞間情報伝達およびアポトーシスなどの多くの生物学的過程の中心となる。最近では、miRNAがマウス上皮の胚形成時に活性を有し、皮膚形態形成において重要な役割を果たすことが明らかになった。
【0044】
遺伝子発現におけるmiRNAの役割を考慮すると、miRNAは、特定の細胞型におけるmRNAの相対量を完全に指定しないとしても、これに影響を与え、したがって、様々な細胞型における特定の遺伝子発現プロファイル(すなわち、特異的なmRNAの集団)を決定することは明らかである。さらに、異なる細胞型では、細胞における特異的miRNAの特定の分布も特有であるという可能性が高い。かくして、組織のmiRNAプロファイルを決定することを、その組織における実際のmRNA集団の発現プロファイリングのための手段として用いることができる。したがって、miRNAレベルはある年齢範囲内の対象の特徴付けの目的に有用である。
【0045】
本明細書において用いられる場合、「タンパク質」という用語は、少なくとも二つの共有結合しているアミノ酸をいい、これにはタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドが含まれる。タンパク質は、天然のアミノ酸およびペプチド結合、または合成ペプチド模倣構造体から構成されることができる。かくして、本明細書において用いられる「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然アミノ酸も合成アミノ酸もともに意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは本発明の目的ではアミノ酸と見なされる。「アミノ酸」はプロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含む。側鎖は(R)または(S)配置のどちらであってもよい。
【0046】
「プローブ」または「プローブ核酸分子」は、少なくとも部分的に一本鎖であり、かつ関心対象の配列に少なくとも部分的に相補的な、または少なくとも部分的に実質的に相補的な、核酸分子である。プローブはRNA、DNA、またはRNAとDNAとの両方の組み合わせであってよい。骨格の糖がリボースまたはデオキシリボース以外である核酸を含むプローブ核酸分子を有することも、本発明の範囲内である。プローブ核酸はペプチド核酸であってもよい。プローブは核酸分解活性に抵抗性の連結または検出可能な標識を含んでもよく、他の部分、例えばペプチドに機能的に連結されてもよい。
【0047】
一本鎖核酸分子は、グアニン(G)のシトシン(C)との塩基対合能およびアデニン(A)のチミン(T)またはウリジン(U)との塩基対合能に基づき、別の一本鎖核酸分子の全体または一部と塩基対合(ハイブリダイズ)して二重らせん(二本鎖核酸分子)を形成できる場合に、該別の核酸分子に対して「相補的」である。例えば、ヌクレオチド配列5'-ATAC-3'はヌクレオチド配列5'-GTAT-3'に対して相補的である。
【0048】
本発明において用いられる「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の完全な分子、ならびにそれらの断片、例えばエピトープ決定基に結合できるFabおよびF(ab')2、FvおよびSCA断片を含むよう意図される。「特異的に結合する」または「特異的に相互作用する」という用語は、抗体に関して用いられる場合、抗体と特定のエピトープとの相互作用が少なくとも約1×10-6、一般的には少なくとも約1×10-7、通常は少なくとも約1×10-8、および特に少なくとも約1×10-9もしくは1×10-10またはそれ以下の解離定数を有することを意味する。
【0049】
本明細書において用いられる場合、「ハイブリダイゼーション」とは、核酸鎖が塩基対合を通じて相補鎖と結合する過程をいう。ハイブリダイゼーション反応は、感受性が高くかつ選択的であるため、関心対象である特定の配列が低濃度で存在するサンプル中でさえも同定され得る。インビトロの状況において、適当にストリンジェントな条件は、例えば、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション溶液中の塩もしくはホルムアミドの濃度によって、またはハイブリダイゼーション温度によって規定することができ、それらは当技術分野において周知である。具体的には、ストリンジェンシーは、塩の濃度を低下させることにより、ホルムアミドの濃度を増加させることにより、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させることにより高めることができる。例えば、高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションは、およそ37℃〜42℃およそ50%ホルムアミド中で行うことができよう。ハイブリダイゼーションは、およそ30℃〜35℃およそ35%〜25%ホルムアミド中の低いストリンジェンシー条件下で行うことができよう。具体的には、ハイブリダイゼーションは、42℃で50%ホルムアミド、5×SSPE、0.3% SDSおよび200 mg/mlのせん断変性サケ精子DNA中の高ストリンジェンシー条件下で行うことができよう。ハイブリダイゼーションは、上記のような、ただし35℃の低温で35%ホルムアミド中の、低いストリンジェンシー条件下で行うことができよう。特定のストリンジェンシーレベルに対応する温度範囲は、関心対象の核酸のプリン対ピリミジン比を算出し、それに応じて温度を調整することによってさらに狭めることができる。上記の範囲および条件に関する変更は当技術分野において周知である。
【0050】
本明細書において用いられる場合、「変異」という用語は標準的な野生型配列に対してのゲノムの変化をいう。変異は、ゲノム内のある位置での核酸配列の欠失、挿入もしくは再構成であってよく、またはそれらはゲノム内のある位置での単一塩基の変化であってよく、これは「点変異」といわれる。変異は遺伝することがあり、または変異は個体の寿命の間に1つもしくは複数の細胞で発生することもある。
【0051】
本明細書において用いられる場合、「キット」または「研究キット」という用語は、例えば、検出、アッセイ、分離、精製などのような、生物学的研究の反応、手順または合成を行うのに用いられる製品の集まりをいい、これらの製品は、通常は共通の包装内にまとめて、エンドユーザーに出荷されるのが一般的である。
【0052】
組織由来のサンプルは、当技術分野において周知のたくさんの手段によって単離することができる。サンプルを単離するための侵襲的方法は、例えばさまざまな組織の生検過程における針または外科用メスの使用を含むが、これらに限定されることはない。サンプルを単離するための非侵襲的方法は、テープ剥離および皮膚擦過を含むが、これらに限定されることはない。
【0053】
したがって、本明細書において提供されるテープ剥離方法は、典型的には1回または複数回、対象の皮膚に粘着テープを貼付し、かつ対象の皮膚から該粘着テープをはがす工程を伴う。ある特定の例では、粘着テープは約1回〜10回、皮膚に貼付され、皮膚からはがされる。あるいは、約10枚の粘着テープを連続的に皮膚に貼付し皮膚からはがしてもよい。これらの粘着テープはその後、さらなる分析のために組み合わせる。したがって、粘着テープを10回、9回、8回、7回、6回、5回、4回、3回、2回もしくは1回、標的部位に貼付し、標的部位からはがしてもよく、および/または10枚、9枚、8枚、7枚、6枚、5枚、4枚、3枚、2枚もしくは1枚の粘着テープを標的部位に貼付し、標的部位からはがしてもよい。一つの説明例では、粘着テープは約1回〜8回、別の例では、1回〜5回皮膚に貼付され、別の説明例では、テープは4回皮膚に貼付され、皮膚からはがされる。
【0054】
ゴム系粘着剤は、例えば、合成ゴム系粘着剤であってよい。説明例におけるゴム系粘着剤は、高い引きはがし、高いせん断力、および高い粘着性を持つ。例えば、ゴム系粘着剤は、D-SQUAME (商標)のようなアクリル系テープのピーク力粘着性(peak force tack)より少なくとも25%、50%、または100%大きいピーク力粘着性を持ちうる。D-SQUAME (商標)は、2ニュートンのピーク力を持つことが見出されており、本明細書において提供される方法に用いられるゴム系粘着剤のピーク力は、4ニュートンまたはそれ以上でありうる。さらに、ゴム系粘着剤は、アクリル系テープの2倍、5倍、または10倍大きい粘着力を持ちうる。例えば、D-SQUAME (商標)は、0.0006ニュートンメートルの粘着力を持つことが見出されているのに対し、本明細書において提供されるゴム系テープはテクスチャ分析器によると約0.01ニュートンメートルの粘着力を持ちうる。さらに、ある特定の説明例では、本明細書において提供される方法で用いられる粘着剤は、他のゴム系粘着剤、特に医療用に用いられるものおよびダクトテープより高い引きはがし、せん断力および粘着性を持つ。
【0055】
実質的にいかなるサイズおよび/または形状の粘着テープならびに標的皮膚部位のサイズおよび形状も、それぞれ、本発明の方法によって用いられ分析されることができる。例えば、粘着テープは、10ミリメートル〜100ミリメートルの直径の、例えば直径が15〜25ミリメートルの円板に加工することができる。粘着テープは、約50 mm2〜1000 mm2、約100 mm2〜500 mm2または約250 mm2の表面積を持つことができる。
【0056】
別の態様において、サンプルは生検などの、侵襲的手段を用いて得ることができる。テープ剥離の代わりにまたはその後に生検材料を採取してもよく、これを標準的な病理組織学的分析に供する。テープ剥離サンプルと同時に採取した生検サンプルの分析は、次に、DNAマイクロアレイによる選択された病変RNAサンプルの分析の1つまたは複数から得たデータ、遺伝子発現データと病理組織診断との相関性、および皮膚年齢指標のための候補発現分類器の作成と関連付けることができる。
【0057】
本明細書において用いられる場合、「生検」とは、分析のための細胞または組織の採取をいう。当技術分野において公知の多くの異なる種類の生検手順が存在する。最も一般的な種類には、(1) 組織のサンプルだけが取り出される切開生検; (2) 塊または疑わしい領域全体が取り出される切除生検; および(3) 組織または体液のサンプルが針で取り出される針生検が含まれる。幅広の針が用いられる場合、その手順はコア生検と呼ばれる。細い針が用いられる場合、その手順は細針吸引生検と呼ばれる。他の種類の生検手順には薄片生検、パンチ生検、掻爬生検およびインサイチュ生検が含まれるが、これらに限定されることはない。別の態様において、皮膚を器具で擦過して皮膚サンプルを得て、皮膚から1つまたは複数の核酸分子を取り出す。
【0058】
テープ剥離方法を用いて得られる皮膚サンプルは、付属器構造体を含む細胞を含んだ表皮細胞を含む。ある特定の説明例では、サンプルは、主に表皮細胞を含み、またはさらには表皮細胞のみを含む。表皮は主にケラチノサイト(>90%)からなり、それらは、基底層から分化し、細胞構成のレベルが低下しているさまざまな層を経て外側へ移動し、角質層の角化細胞になる。表皮の再生は、非病変部皮膚において20〜30日ごとに行われる。表皮に存在する他の細胞型は、メラニン形成細胞、ランゲルハンス細胞およびメルケル細胞を含む。本明細書において実施例に例証されているように、本発明のテープ剥離方法は、表皮サンプルの単離で特に有効である。
【0059】
核酸分子は、当業者に周知のたくさんの手段によって、皮膚サンプルから収集された細胞および細胞物質を溶解することにより単離することもできる。例えば、RNeasy (商標) (Qiagen, Valencia, CA)およびTriReagent (商標) (Molecular Research Center, Inc, Cincinnati, OH)を含むがこれらに限定されない、ポリヌクレオチドを単離するために利用可能ないくつかの市販品を用いることができる。単離されたポリヌクレオチドを、次いで、サイトカインをコードするポリヌクレオチドを含む特定の核酸配列についてテストまたはアッセイすることができる。核酸サンプル内の標的核酸分子を回収する方法は、当技術分野において周知であり、マイクロアレイ分析を含むことができる。
【0060】
核酸分子は当技術分野において公知のたくさんの方法で分析することができる。例えば、核酸分子の存在は、特異的な核酸分子のプローブまたは断片を用いてDNA-DNAもしくはDNA-RNAハイブリダイゼーションまたは増幅により検出することができる。核酸増幅に基づくアッセイ法では、特定のDNAまたはRNAを含んだ形質転換体を検出するために、核酸配列に基づいたオリゴヌクレオチドまたはオリゴマーの使用を伴う。
【0061】
一つの態様において、核酸分子の分析は、遺伝子のヌクレオチド配列を決定するための遺伝子分析を含む。サンプルから単離されたDNA断片と公知の配列のDNA断片との間の長さまたは配列の相違は、1つまたは複数のヌクレオチドの挿入、欠失または置換に起因するため、核酸配列の決定は、個体の皮膚に及ぼされる環境的影響から生じる変異に関する情報をもたらす。これらの変異は転位または逆位を含むこともでき、直接的な配列決定以外の技術により決定することは困難である。したがって、本発明の方法を用いて、対象の年齢の決定および/または特徴付けのために、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている1つまたは複数の遺伝子における遺伝子変異を検出することができる。
【0062】
タンパク質発現産物に特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いて、核酸分子の発現を検出および測定するための種々のプロトコルが当技術分野において公知である。例としては酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および蛍光活性化細胞選別法(FACS)が挙げられる。これらのおよび他のアッセイ法は、特に、Hampton, R.ら(1990; Serological Methods, a Laboratory Manual, APS Press, St Paul, Minn.)およびMaddox, D. E.ら(1983; J. Exp. Med. 158:1211-1216)に記述されている。
【0063】
別の態様において、本発明の核酸分子の発現産物に特異的に結合する抗体を用いて、対象の皮膚サンプルを特徴付けることができる。抗体は修飾ありまたはなしで用いられてもよく、共有結合的にまたは非共有結合的にレポーター分子と連結することによって標識されてもよい。
【0064】
多種多様の標識および結合技術が当業者に知られており、それらをさまざまな核酸およびアミノ酸アッセイ法において用いることができる。表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせの核酸分子に関連した配列を検出するための、標識されたハイブリダイゼーションプローブまたはPCRプローブを作製するための手段には、オリゴ標識法、ニックトランスレーション法、末端標識法、または標識されたヌクレオチドを用いるPCR増幅法が含まれる。あるいは、核酸分子、またはその任意の断片がmRNAプローブの作製のためにベクターにクローニングされてもよい。そのようなベクターは当技術分野において公知であり、市販されており、T7、T3またはSP6などの適切なRNAポリメラーゼおよび標識ヌクレオチドの添加によって、RNAプローブをインビトロで合成するのに用いることができる。これらの手順は、種々の市販のキット(Pharmacia & Upjohn, (Kalamazoo, Mich.); Promega (Madison Wis.); およびU.S. Biochemical Corp., Cleveland, Ohio)を用いて行うことができる。検出を容易にするために使用できる適当なレポーター分子または標識は、放射性核種、酵素、蛍光物質、化学発光物質、または発色物質、および基質、補因子、阻害剤、磁性粒子などを含む。
【0065】
PCRシステムでは、通常、2本の増幅プライマーと、単位複製配列内の部位に特異的に結合する、付加的な単位複製配列特異的な蛍光性ハイブリダイゼーションプローブとを用いる。プローブは1つまたは複数の蛍光標識部分を含むことができる。例えば、プローブは2種の蛍光色素: 1) レポーターとして働く、5'末端に位置する6-カルボキシ-フルオレセイン(FAM)、および2) クエンチャとして働く、3'末端に位置する6-カルボキシ-テトラメチル-ローダミン(TAMRA)で標識することができる。増幅が行われる場合、伸長段階中に、Taq DNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性がプローブからレポーターを切断し、したがってレポーターはクエンチャから遊離する。結果的に生じるレポーター色素の蛍光発光の増加がPCR過程中にモニターされ、それが生じたDNA断片の数を表す。インサイチュPCRを標的核酸分子の直接的な位置測定および可視化のために利用することができ、皮膚の経時的老化または光老化と発現とを関連付けるうえでさらに有用であり得る。
【0066】
本発明の核酸分子に対する特異的なハイブリダイゼーションプローブを作製するための手段は、mRNAプローブの産生用のベクターへの核酸配列のクローニングを含む。そのようなベクターは当技術分野において公知であり、市販されており、適切なRNAポリメラーゼおよび適切な標識ヌクレオチドの添加によってインビトロでRNAプローブを合成するために用いることができる。ハイブリダイゼーションプローブは種々のレポーター基、例えば、32Pもしくは35Sのような放射性核種、またはアビジン/ビオチンカップリングシステムを介してプローブに結合しているアルカリホスファターゼのような、酵素標識などによって標識することができる。
【0067】
本発明の核酸分子の発現と関連する皮膚の経時的老化および/または光老化の判定または特徴付けのための基礎を提供するために、正常なまたは標準的な発現プロファイルを確立する。このような標準的なプロファイルを用いて、未知年齢の個体のサンプルをテストするための比較のための皮膚年齢指標を開発することができる。既知の皮膚特性もしくは年齢範囲の対象から(例えば、「若年」の範囲(すなわち、約18〜30歳、約19〜30歳、約23〜29歳もしくは約23〜42歳)に入る対象または「老年」の範囲(すなわち、約60〜69歳もしくは約46〜90歳)に入る対象から)得た値を比較することによって、標準的なハイブリダイゼーションを定量化することができる。そのようなサンプルから得た標準値を、既知年齢および/または既知年齢範囲の対象由来のサンプルから得た値と比較することができる。標準値と対象値との間の偏差を用いて、対象の皮膚を特徴付ける。
【0068】
したがって、本発明の一つの局面において、対象の皮膚の特徴付けのために非侵襲的なサンプリング方法が提供される。一つの態様において、既知年齢の個体の皮膚サンプルのサンプルセットが作製される。各サンプルは、既知年齢範囲の個体の表皮のテープ剥離サンプルまたは生検サンプルによって回収された核酸分子からなる。テープ剥離に加えて、同一病変部の標準的生検も、付随の分析および特徴付けとともに行うことができる。正常皮膚の表皮をテープ剥離することによって回収された核酸分子は、陰性対照となる。
【0069】
別の局面において、本発明は、若年の個体と老年の個体を区別する方法を提供する。一つの態様において、本方法は、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている1つまたは複数の遺伝子に由来する核酸分子を分析する工程を含む。未知年齢範囲の対象の皮膚サンプルを、多数の遺伝子の発現についてアッセイする。発現の分析には、遺伝子の発現を検出するための任意の定性的または定量的方法が含まれ、これらの多くが当技術分野において公知である。この方法は、定量的方法を用いてマーカーの発現を測定することにより、または定性的方法を用いることにより特定のマーカーの発現を分析する工程を含むことができる。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドを分析するための非限定的な方法を以下に論じる。
【0070】
本発明の遺伝子の発現を分析する方法では、1つまたは複数の遺伝子産物の発現を検出するために、マイクロアレイ、または他の小規模のハイスループット技術を利用することができる。また、そのようなマイクロアレイを用いた発現レベルの定量的測定は当技術分野において公知であり、典型的には、本明細書において記載されているような発現を測定するための伝統的方法の改変型を含む。例えば、そのような定量化は、放射線画像解析装置および画像化ソフトウェアを用いて、マイクロアレイのスポットに結合している放射性標識プローブの放射線画像を測定することによって行うことができる。
【0071】
所与の年齢範囲に特有の遺伝子セットを同定することによって、遺伝子発現の相違を未知年齢の個体の特徴付けのために利用することができる。一つの態様において、核酸分子は、対象由来のサンプルから単離される伝令RNA (mRNA)を含む、RNAである。所与の疾患状態に対して上方制御および下方制御された遺伝子セットを、その後組み合わせてもよい。組み合わせることによって、当業者は所与の年齢範囲に特有の遺伝子セットまたはパネルを同定することが可能になる。そのような遺伝子セットには非常に大きな決定的および特徴的価値がある。というのも、それらの遺伝子セットを、マイクロアレイ分析よりも単純なアッセイ法(例えば「リアルタイム」定量的PCR)において日常的に使用することができるからである。そのような遺伝子セットはまた、病因への洞察および新薬のデザインのための標的を提供する。
【0072】
また、いくつかの参照投影プロファイルを含んだ参照データベースを、例えば、「若年」(すなわち、約18〜30歳、約19〜30歳、約23〜29歳もしくは約23〜42歳)または「老年」(すなわち、約60〜69歳もしくは約46〜90歳)などの、既知年齢および/または既知年齢範囲の対象の皮膚サンプルから作成する。次いで、参照投影プロファイルを含んだ参照データベースと投影プロファイルを比較する。対象の投影プロファイルがデータベース中の特定の年齢範囲のプロファイルと最も良く一致する場合、対象は、同定された年齢範囲内の個体に特徴的な皮膚を有するものと決定される。さまざまなコンピュータシステムおよびソフトウェアを本発明の分析方法の実施のために利用することが可能であり、それらは当業者には明らかである。例示的なソフトウェアプログラムとしてはCluster & TreeView (Stanford, URLs: rana.lbl.govまたはmicroarray.org)、GeneCluster (MIT/Whitehead Institute, URL: MPR/GeneCluster/GeneCluster.html)、Array Explorer (SpotFire Inc, URL: spotfire.com/products/scicomp.asp#SAE)およびGeneSpring (Silicon Genetics Inc, URL: sigenetics.com/Products/GeneSpring/index.html) (コンピュータシステムおよびソフトウェアについては、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,203,987号も参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0073】
別の局面において、本発明の方法は皮膚の特徴付けのための皮膚のインサイチュ分析を伴う。インサイチュの方法の場合、核酸分子は分析の前に対象から単離される必要はない。一つの態様において、発現したRNAの視覚的検出のために、検出可能に標識されたプローブを対象の細胞または組織と接触させて、上記のように皮膚を特徴付ける。
【0074】
別の局面において、本発明の方法はまた、経時的老化および/または光老化の進行をモニタリングするのに、ならびに経時的老化および/または光老化の症状のための1つまたは複数の処置の有効性をモニタリングするのに有用でありうる。例えば、処置前の投影プロファイルを処置後のプロファイルと比較することによる。
【0075】
関連する局面において、本発明の方法はまた、経時的老化および/または光老化の特定の症状を有する対象に適した処置計画を決定するために有用でありうる。かくして、本発明の方法は、対象の特定の皮膚特性に基づいて処置を対象に合わせて調整する、個別化医療を実践するための手段を提供するのに有用である。この方法は、例えば、上記のように、対象の皮膚をまず初めに特徴付けることによって実践することができる。
【0076】
対象の皮膚の光老化および/または経時的老化が確認され、処置プロトコルが開始されたら、本発明の方法を定期的に繰り返して、対象における関心対象の遺伝子の発現プロファイルをモニターすることができる。連続的アッセイから得た結果を用いて、数日から数ヶ月に及ぶ期間にわたり処置の効力を示すことができる。したがって、本発明の別の局面は、光老化および/または経時的老化の症状を有する対象の処置のための治療計画をモニタリングするための方法を目的とする。治療前および治療中の核酸分子の核酸配列における発現プロファイルまたは変異の比較から、治療の効力が示されるであろう。それゆえ、当業者は必要に応じて治療的手段を認識かつ調整することができるであろう。
【0077】
光老化および/または経時的老化の症状を処置するための治療計画の効力は、治療の開始時点での対象の年齢範囲に特有の症状または臨床的徴候がなくなることによって同定することができる。例えば、皮膚弾力性の回復、しわの減少および/または皮膚密度の回復はいずれも、治療計画の効力を同定するために用いることができる。
【0078】
ハイスループット(または超ハイスループット)の形式で行われる場合、本発明の方法は、関心対象の細胞サンプルおよび/または遺伝子が、それぞれが互いに区別されるように(例えば、ウェル中に)配置されている、固体支持体(例えば、マイクロタイタープレート、シリコンウエハまたはスライドグラス)上にて行うことができる。使用される特定の支持体に応じて、そのような方法を用いて同時にたくさんのサンプルまたは遺伝子(例えば、96、1024、10,000、100,000個またはそれ以上)を検査することができる。サンプルがアレイ(すなわち、規定のパターン)に配置される場合、アレイ中の各サンプルはその位置によって(例えば、x-y軸を用いて)規定され、したがって各サンプルに「アドレス」を提供することができる。アドレス指定可能なアレイ形式の利点は、細胞サンプル、試薬、関心対象の遺伝子などを所望の時点で特定位置に分注でき(または特定位置から除去でき)、かつ例えば、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子のいずれか1つまたは複数に由来する核酸分子の核酸配列における発現産物および/または変異について、サンプル(またはアリコット)をモニターできるように、本方法を全体的にまたは部分的に自動化できるということである。
【0079】
かくして、マイクロアレイを用いて、多数の遺伝子の発現レベルを同時にモニターすること(転写産物画像を作成すること)ができ、遺伝子変種、変異および多型を同定することができる。マイクロアレイにおいて用いられるポリヌクレオチドは、少なくとも配列断片が公知である関心対象の遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチド、または特定の細胞型もしくは年齢範囲に共通している1つもしくは複数の未同定cDNAに特異的なオリゴヌクレオチドでありうる。マイクロアレイ用に公知の配列に対するオリゴヌクレオチドを作製するために、ヌクレオチド配列の5'末端からまたはより好ましくは3'末端から始まるコンピュータアルゴリズムを用いて関心対象の遺伝子を検査する。このアルゴリズムによって、その遺伝子に特有であり、ハイブリダイゼーションに適した範囲内のGC含量を有し、かつ、ハイブリダイゼーションを妨げうる推定上の二次構造を欠いた、規定の長さのオリゴマーが同定される。場合によっては、マイクロアレイにオリゴヌクレオチドの対を用いることが適切なこともある。この「対」は、好ましくは配列の中央に位置する1つのヌクレオチドを除き、同一であろう。対における第二のオリゴヌクレオチド(1つがミスマッチである)は、対照として役立つ。オリゴヌクレオチド対の数は2〜100万に及びうる。オリゴマーは、光指向性の化学工程を用いて基板上の指定の領域で合成される。基板は紙、ナイロンもしくは他のタイプの膜、フィルタ、チップ、スライドガラスまたはその他任意の適当な固体支持体であってよい。
【0080】
本発明の別の局面によれば、例えば対象の皮膚に特徴的な年齢範囲を決定するために本発明によって提供される方法を用いて、個体の皮膚を特徴付けるのに有用なキットが提供される。一つの態様において、本発明のキットは、皮膚サンプル収集装置、および表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせの核酸分子のうちの1つまたは複数に選択的に結合する1つまたは複数のプローブまたはプライマーを含む。別の態様において、キットは、皮膚サンプル収集装置に加えてまたはその代わりに1つまたは複数のアプリケータを含む。そのようなアプリケータは対象の皮膚における遺伝子発現のインサイチュ分析に有用である。例えば、アプリケータを用いて、発現したRNAの視覚的検出のために検出可能に標識されたプローブを適用し、皮膚病変部を特徴付けることができる。
【0081】
別の態様において、本発明のキットは、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせの中の1つの核酸分子の一部分に結合するプローブを含む。別の態様において、キットはさらに、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子のいずれか一つの、遺伝子または核酸分子またはタンパク質産物の少なくとも断片を含んだマイクロアレイを含む。いくつかの態様において、多くの試薬が本発明のキットの中に提供されてもよく、そのうちの一部だけが特定の反応または手順においてともに使用されるべきである。例えば、複数のプライマーが提供され得るが、そのうちの2つだけが特定の用途に必要とされる。
【0082】
別の態様において、本発明のキットは、プライマーの対を含んだ第一の容器を含む区分化された運搬体を提供する。これらのプライマーは、典型的には、一方の鎖上の遺伝子の上流に選択的に結合するフォワードプライマー、および相補鎖上の遺伝子の上流に選択的に結合するリバースプライマーである。任意で、本発明のキットはさらに、例えば、サンプル収集装置を用いたサンプル収集のための方法および/または対象から採取されたサンプルの発現プロファイルと比較するための例示的な遺伝子発現プロファイルについて示している、添付の説明書を含んでもよい。
【0083】
以下の実施例は、本発明の利点および特徴をさらに例証するために提供されるが、本発明の範囲を限定するよう意図されるものではない。それらは使用されうるものの典型であるが、当業者に公知の他の手順、方法論または技術が代わりに使用されてもよい。
【実施例】
【0084】
実施例1
RNA定量化およびプロファイリング
本研究は二つの別々の段階、つまりサンプル収集および特徴付けの段階(段階1)ならびにRNAプロファイリングの段階(段階2)に分けられる。段階1において、テープ剥離標本および生検サンプルの収集は、実験責任者または実験責任者が委託した熟練者によって行われ、種々の部位における生検サンプルを得た。RNAプロファイリングの段階(段階2)は、RNA精製、および遺伝子発現プロファイリングのためのDNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションを含むが、これらに限定されることはない。
【0085】
材料および試薬
粘着テープはAdhesives Research (Glen Rock, PA)からバルクロールで購入した。これらのロールは、Diagnostic Laminations Engineering (Oceanside, CA)によって直径が17ミリメートルの小さい円板へと特注加工された。ヒト脾臓の全RNAはAmbion (カタログ番号7970; Austin, TX)から購入した。RNeasy RNA抽出キットはQiagen (Valencia, CA)から購入した。逆転写酵素、PCRプライマーおよびプローブと、特異的cDNAの増幅および蛍光検出に必要な緩衝液および酵素の全てを含むTaqMan Universal Master Mixとは、Applied Biosystems (Foster City, CA)から購入した。MELT全核酸単離システムはAmbion (Austin, TX)から購入した。
【0086】
RNA単離
圧力サイクリング技術(pressure cycling technology: PCT; Garrett, Tao et al. 2002; Schumacher, Manak et al. 2002)またはMELT全核酸システムのどちらかを用いてテープからRNAを抽出した。(Qiagen RNeasyキットの中に同梱されている)緩衝液RLT 1.2 mlを含んだPULSE(商標)チューブ(Pressure Biosciences, Gaithersburg, MD)へテープを挿入することにより、二つ一組で抽出した。PULSE(商標)チューブをPCT-NEP2017圧力サイクラーへ挿入し、以下のパラメータを用いてサンプルを抽出した: 室温; 各サイクルの上下で20秒間圧力を保持する、35 Kpsiの圧力サイクル×5回。圧力抽出の後、前記緩衝液を取り出して、その部位を剥離するために用いた残りのテープを処理するために使用した; この緩衝液を次に、より大きなRNA (>200ヌクレオチド)の収集のための標準的なQiagen RNeasyプロトコルにしたがい、大きなRNA分子(すなわち、mRNA)が結合する精製カラムへの適用によって処理したが、一方で、マイクロRNA精製のためにカラムフロースルーを残しておく。mRNAから分離したmiRNAを含むカラムフロースルーを、Qiagen miRNA精製手順(ワールドワイドウェブのqiagen.com/literature/protocols/pdf/RY20.pdf)にしたがって処理し、マイクロRNAを精製する。各対象に対して剥離された2部位からのRNAをプールして、各対象由来の単一のサンプルを作製した。
【0087】
MELT全核酸プロトコルを用いたRNA単離
MELT緩衝液192 μl+MELTカクテル8 μlを含む2 mlのエッペンドルフチューブの中でテープを抽出し、これを室温で10分間ボルテックスした。MELT溶解物を>10,000×gで3分間遠心沈殿させた後に、分注済みの結合ビーズマスターミックスに移し、300 μlの洗浄溶液1および2で洗浄した。RNAを溶出溶液100 μl中に溶出した。
【0088】
mRNAの定量化
実験データは、特定のcDNAについて閾値蛍光に達するために必要なPCRサイクルの数として報告され、「Ct」値として記述されている(Gibson, Heid et al. 1996; Heid, Stevens et al. 1996; AppliedBiosystems 2001)。全RNA集団の定量化は既述(Wong, Tran et al. 2004)のように行った。簡潔に説明すると、商業的に購入したヒト脾臓全RNAから作成した標準曲線(Ct, アクチン 対 log[RNA]; AppliedBiosystems 2001)を参照して定量的RT-PCRを用いることにより、テープから回収されたRNA集団を測定する。6回反復したCt, アクチン値の平均を用い、標準曲線を参照してサンプル中のRNAの濃度を算出した。
【0089】
RNA増幅およびアレイハイブリダイゼーション
RNAをMulti-Enzymatic Liquefaction of Tissue法(Ambion, Austin, TX)によって単離し、WT-Ovation pico増幅システム(NuGen, San Carlos, CA)を用いて増幅した。増幅されたRNAをAffymetrix U133 plus 2.0マイクロアレイにハイブリダイズさせ、BioconductorによるRを用いてデータを処理し分析した。
【0090】
GeneChipデータの前処理
Affymetrix GeneChipsをAffymetrix series 3000スキャナでスキャンすることから得た画像ファイルは、GCOSソフトウェア(Affymetrix)を用いて「CEL」形式のファイルに変換される。CELファイルの正規化は、(ワールドワイドウェブのbioconductor.orgにおける)Bioconductor総合ソフトウェアパッケージのソフトウェアを用いて行われる。具体的には、「gcrma」パッケージ中の関数「just.gcrma」によって行われる光学的ノイズおよびオリゴヌクレオチドプローブの結合親和性の調整を伴うロバストなマルチアレイ分析(Wu et al., 2006; およびWu et al., 2004)を用いて、GeneChipデータを正規化する。
【0091】
マイクロアレイデータ分析のための統計的手法
二つの一般的な統計問題に本提案で対処する: (i) 異なる年齢範囲(すなわち若年 vs 老年)で差次的に発現される遺伝子の同定、ならびに(ii) 遺伝子発現データに基づいて、若年および老年皮膚サンプルを群に分類するためのルールの形成(および評価)。
【0092】
上記の問題に対処するために使われる方法は、現在、マイクロアレイデータの統計的評価において標準である。他の者たちは、これらの方法をAffymetrixアレイのデータに適用して、前立腺がんにおける遺伝子発現を研究し、HIV感染後の遺伝子発現の変化を特徴付け、ハイスループットの遺伝子型決定プラットホームを開発している。差次的に発現される遺伝子を同定するためには、順列に基づいた偽発見率の推定が好ましい。本発明者らの過去の研究においてこれらの方法を実施するためにR定量的プログラミング環境用のスクリプトが開発されたが、本プロジェクトではBioconductor総合ソフトウェアパッケージの「siggenes」を使用または適合させる可能性が高い。分類ルールの開発はリサンプリング法(単純ベイズ分類器および最短収縮重心分類器に適用されたk-分割交差検定、632+ブートストラップおよび/またはバギング)ならびにサポートベクターマシン(SVM)に依存し、これらはいずれも、本発明者らの過去の研究において用いられ、前立腺組織を悪性または良性と分類する際にうまく機能した。使用される可能性が高い実行では、k-分割交差検定を行う。k回のトレーニング/テストサイクルの各々で、差次的に発現された遺伝子についてトレーニングデータの初期スクリーニングを行い、遺伝子をその差次的発現の事後確率にしたがって順序付ける。差次的発現の事後確率の最も高いr個の遺伝子に基づく単純ベイズ分類器および最短収縮重心分類器を、分類誤差率の正確な補間を可能とするのに十分な1〜1024の間のrの値を選んで、形成する。「1 seルール」をテストセットの誤差率に適用して、誤差率を最小限にする分類器を選ぶ。SVMの場合、内部632+ブートストラップを各トレーニングサンプルに適用して、分類器の形成の際に使われる遺伝子の数を選択する。K個のテストセットによる「1 seルール」誤差率を用いて、分類精度を特徴付ける。
【0093】
単変量および多変量の統計分析手段の使用に加えて、高性能の生物情報分析手法は、例えば正常老化のサンプルと進行性老化のサンプルとの間で、差次的に発現されることが見出された遺伝子間の考えられ得る生物学的関連を解明する手助けになるであろう。これらの手法は遺伝的ネットワークおよび経路の分析に焦点を合わせており、(ワールドワイドウェブのingenuity.comにおける)Ingenuityおよび(ワールドワイドウェブのgenego.comにおける)MetaCoreなどのソフトウェアパッケージにより実行されている。遺伝子発現マイクロアレイ分析から浮かび上がる遺伝子間の生物学的関連の同定は、それらの発現パターンの生物学的有意義性を関連付ける手助けとなりうるだけでなく、それらの生物学に基づいて、診断用パネルに提示されるべき差次的発現遺伝子のセットを減らす手助けにもなりうる。この分析の最終結果は、将来の、さらに大規模な臨床試験において検証される候補発現分類器を規定することであろう。
【0094】
RNA、増幅cDNAおよびマイクロアレイデータのQC測定基準
インフォームド・コンセントの後に、EGIRを用いて対象の皮膚のテープ剥離を行った。EGIRテープから単離して、得られたRNAを増幅し、Affymetrix U133 plus 2.0 GeneChipにてプロファイル分析した。マイクロアレイデータをGCRMAアルゴリズムによって正規化した。質の高いマイクロアレイデータが作成されることを保証するため、RNA、増幅cDNAおよびマイクロアレイデータに対してQC測定基準を確立した。Experionシステム(Biorad, Hercule, CA)を用いてキャピラリー電気泳動によってRNAの質を評価し、少なくとも1つの、目に見える18S rRNAを含んだRNAをRNA増幅のためにさらに処理した。Nanodropシステムによって増幅cDNAを定量化し、Experionシステムによって増幅cDNAの質も評価した。収量5 μg超の増幅cDNAおよび平均サイズ分布750 nt超のcDNAを、マイクロアレイハイブリダイゼーションへと進めた。Rのsimpleaffyプログラムを用いてアレイデータの質をさらに評価し、5.0未満のスケーリング因子および30%超の%存在コール(% present call)を有するアレイデータをさらなるデータ分析に用いた。
【0095】
クラスモデリング - PAM
アレイデータQCに合格した後で、「若年」および「老年」個体由来の皮膚標本をさらに分析し、3つの別個の遺伝子分類器を同定した。
【0096】
第一に、全サンプルにわたって100未満の遺伝子発現値をフィルタ処理して除去し、14000個のプローブセットをテストした。「若年」および「老年」皮膚の間で差次的に発現される遺伝子についてANOVA (p<0.05)、多重検定補正アルゴリズム(WestafallおよびYoung順列)ならびに偽発見率(FDR) 0.05を用いて、これらの14000個のプローブセットを統計分析に供した。その結果、偽発見率q < 0.05で、「若年」および「老年」サンプルの間で2倍の差異が示され、483個の差次的発現遺伝子が同定された。100遺伝子パネル(表1)は、「若年」および「老年」個体由来の皮膚を区別する潜在的な分類器であることが分かった。スタンフォード大学(Stanford, CA)から自由に入手できるマイクロアレイ予測分析(PAM)ソフトウェアを用いて、遺伝子および各分類器パネルを分析した。
【0097】
第二に、超低発現遺伝子(全サンプルにわたっての発現レベル < 100)を除外した後に、差次的に発現される遺伝子について、およそ14,000個の遺伝子を統計分析に供した。t検定を行って、「若年」(18〜30歳)と「老年」(60〜69歳)を比較した(p<0.05)。BenjaminiおよびHochberg法を用いて多重検定補正を行った。その結果、偽発見率q < 0.05で、「若年」および「老年」サンプルの間で2倍の差異が示され、313個の差次的発現遺伝子が同定された。PAMを用いてこれらの遺伝子を「若年」と「老年」との間でランク付けし、61遺伝子分類器を選択した(表2)。
【0098】
第三に、超低発現遺伝子(全サンプルにわたっての発現レベル < 100)を除外した後に、差次的に発現される遺伝子について、およそ24,200個の遺伝子を統計分析に供した。4群: 年齢31〜39歳、40〜50歳、51〜59歳および70〜96歳に分けた、「若年」および「老年」サンプルを、t検定を行って比較した(p<0.01)。年齢範囲31〜39歳および40〜50歳は「若年」群に属し、年齢範囲51〜59歳および70〜96歳は「老年」群に属する。BenjaminiおよびHochberg法を用いて多重検定補正を行った。その結果、偽発見率q < 0.05で、2354個の差次的発現遺伝子が同定された。PAMを用いてこれらの遺伝子を「若年」と「老年」との間でランク付けし、83遺伝子(106プローブセット)分類器を選択した(表3)。
【0099】
PAMソフトウェアでは、トレーニングセットにおいてクラスごとに標準化された重心を計算する最短重心法の変法を用いる。これは、その遺伝子のクラス内標準偏差で除した、各クラスにおける各遺伝子の平均遺伝子発現を意味する。最短重心分類では新たなサンプルの遺伝子発現プロファイルを取り、それをこれらのクラス重心の各々と比較する。平方距離で、最も近くに重心があるクラスは、その新しいサンプルに対して予測されるクラスである。
【0100】
これらの遺伝子を全て階層的クラスタリング分析に供したところ(図1)、「若年」標本は一つにまとまって、「老年」標本とは明らかに区別された。これらのデータは、EGIRを用いたテープ剥離によって収集された角質層RNAを用いて、皮膚を「若年」または「老年」であると区別および/または特徴付けられることを示唆している。かくして、EGIR技術によって収集されたRNAは、マイクロアレイに基づく遺伝子発現プロファイリングに対して十分以上であり、皮膚の病理学的状態を適切に反映している。
【0101】
実施例2
皮膚から核酸を回収するためのテープ剥離
以下の手順を用いて、対象の正常皮膚(例えば、乳様突起部または上背部)から核酸を回収した。
【0102】
テープは常時、手袋をはめた手で取り扱った。プロトコルによって特に規定されていない限り、比較的傷がない健常な特定部位を探した。好ましい正常皮膚部位は乳様突起(頭蓋底部の耳後部の骨突起)および肩甲棘のすぐ上の上背である。必要ならその部位を剃って非軟毛を除去する。その部位をアルコールティッシュ(70%イソプロピルアルコール)で拭き取り、テープの貼付前に完全に風乾させた。次いでテープを皮膚部位に貼付した。二枚以上のテープを使用した場合は、左側から開始して連続した順序で貼付した。次のテープを整列させるために、外科用皮膚マーカーおよび/または水溶性マーカーを用いて皮膚上にテープの位置の印を付けた。
【0103】
テープ収集の手順は、テープに圧力をかけることにより、かつ圧力をかけている間にテープが動かないことを確実にするために、皮膚がピンと張った状態で保持されることを確実することにより、開始した。その後、テープを一方向にゆっくりはがした。次いでテープの端をパケット上部の条片上に、テープの粘着面を下向きにし、サンプルを保護するようにして置いた。その後、それに続くテープを、妥当な場合、同じ部位に貼り、直前の貼付で用いた方向とは反対方向にゆっくりはがした。
【0104】
プロトコルにおいて特に規定されていない限り、前記貼付の部位を少なくとも計4枚のテープで剥離した。その後、テープを保存用バッグの中に入れて、すぐにドライアイス上に置くか、または分析まで-20℃以下の保存状態に置いた。
【0105】
Bensonら(2006)による最近の研究は、RNAを乾癬病巣から回収できること、およびテープ剥離によって回収されたRNAの全般的なRNA発現プロファイルが、同じ患者の病変部に由来する生検RNAと一致することを実証している。さらなる研究(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,183,057号を参照のこと)によって、乾癬病巣をエンブレルによる処置の間にテープでサンプリングできること、ならびに処置第一週目における遺伝子発現と第4週目および第8週目の臨床反応とが強く関係付けられることが示されている。この研究はさらに、皮膚の表面から生理学的に関連のあるRNAを回収することについての、テープ剥離の実績を確立するものである。
【0106】
【表1】



【0107】
【表2】


【0108】
【表3】




【0109】
本発明を上記の実施例に関連して記述してきたが、変更および変形は本発明の趣旨および範囲のなかに包含されることが理解されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、対象の皮膚サンプルの年齢範囲を決定するための方法:
対象由来の皮膚のサンプルにおいて、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている1つまたは複数の遺伝子に由来する核酸を分析する工程であって、それによって対象の皮膚の年齢範囲を決定する、工程。
【請求項2】
核酸がRNAである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
核酸を分析する工程が、核酸の核酸配列における1つまたは複数の変異を検出する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数の変異が、置換、欠失および挿入からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
分析する工程の前に、サンプルから得た核酸を増幅する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
粘着テープに粘着しているサンプルを単離するのに十分な様式で、皮膚の標的領域に粘着テープを貼付することによってサンプルが得られる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
対象の光老化または経時的老化の症状のための処置計画を決定するための特徴付けを使用する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
単離された核酸またはその増幅産物がマイクロアレイに適用される、請求項3記載の方法。
【請求項9】
マイクロアレイを用いて発現プロファイルが検出される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
皮膚病変の部位または周囲の辺縁部において採取された生検材料からサンプルが得られる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
テープがポリウレタンフィルム上にゴム系粘着剤を含む、請求項6記載の方法。
【請求項12】
約1〜10枚の粘着テープまたは1〜10回のテープの貼付が適用され、かつ皮膚からはがされる、請求項6記載の方法。
【請求項13】
約1〜8枚の粘着テープまたは1〜8回のテープの貼付が適用され、かつ皮膚からはがされる、請求項6記載の方法。
【請求項14】
約1〜5枚の粘着テープまたは1〜5回のテープの貼付が適用され、かつ皮膚からはがされる、請求項6記載の方法。
【請求項15】
皮膚の標的領域の生検材料を採取する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項16】
分析する工程がインサイチュで行われる、請求項3記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、皮膚サンプルの年齢範囲を同定する方法:
表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている1つまたは複数の遺伝子と比較して、サンプル由来の核酸を分析する工程、および分析に基づいて皮膚の年齢範囲を同定する工程。
【請求項18】
核酸がRNAである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
核酸を分析する工程が、核酸の核酸配列における1つまたは複数の変異を検出する工程を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
1つまたは複数の変異が、置換、欠失および挿入からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
分析する工程の前に、サンプルから得た核酸を増幅する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
粘着テープに粘着しているサンプルを単離するのに十分な様式で、皮膚の標的領域に粘着テープを貼付することによってサンプルが得られる、方法であって、サンプルが核酸分子を含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
単離された核酸またはその増幅産物がマイクロアレイに適用される、請求項19記載の方法。
【請求項24】
マイクロアレイを用いて発現プロファイルが検出される、請求項19記載の方法。
【請求項25】
対象に由来する皮膚の標的領域から採取された生検材料からサンプルが得られる、請求項17記載の方法。
【請求項26】
テープがポリウレタンフィルム上にゴム系粘着剤を含む、請求項22記載の方法。
【請求項27】
約1〜10枚の粘着テープまたは1〜10回のテープの貼付が適用され、かつ皮膚からはがされる、請求項22記載の方法。
【請求項28】
約1〜8枚の粘着テープまたは1〜8回のテープの貼付が適用され、かつ皮膚からはがされる、請求項22記載の方法。
【請求項29】
約1〜5枚の粘着テープまたは1〜5回のテープの貼付が適用され、かつ皮膚からはがされる、請求項22記載の方法。
【請求項30】
皮膚の標的領域の生検材料を採取する工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項31】
分析する工程がインサイチュで行われる、請求項19記載の方法。
【請求項32】
以下の工程を含む、対象の皮膚の年齢範囲を決定するための方法:
対象由来のサンプルにおける標的タンパク質のレベル変化を、年齢範囲が既知の対象由来の対応サンプルにおける標的タンパク質のレベルと比較して、検出する工程であって、タンパク質が表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている遺伝子の発現産物であり、それによって対象の年齢範囲を決定する、工程。
【請求項33】
粘着テープに粘着しているサンプルを単離するのに十分な様式で、皮膚の標的領域に粘着テープを貼付することによってサンプルが得られる、方法であって、サンプルが細胞を含み、かつ方法が、該細胞を溶解して標的タンパク質を抽出する工程をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
テープがポリウレタンフィルム上にゴム系粘着剤を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
1〜10枚の粘着テープが皮膚に貼付され、かつ皮膚からはがされる、請求項33記載の方法。
【請求項36】
約1〜8枚の粘着テープが貼付され、かつ皮膚からはがされる、請求項33記載の方法。
【請求項37】
約1〜5枚の粘着テープが貼付され、かつ皮膚からはがされる、請求項33記載の方法。
【請求項38】
皮膚の標的領域の生検材料を採取する工程をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項39】
タンパク質が生検サンプルから抽出され、かつ該生検サンプル中のタンパク質のレベルおよびテープサンプル中のタンパク質のレベルが分析される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
サンプルが皮膚の標的領域の生検材料から得られる、請求項32記載の方法。
【請求項41】
以下の工程を含む、対象の皮膚の年齢範囲を決定するための方法:
(a) 対象の皮膚の標的領域の遺伝子発現プロファイルを提供する工程であって、皮膚の標的領域が、特定の年齢範囲に対するマーカーである複数の遺伝子をタンパク質レベルで同時に発現する、工程; および
(b) 対象の遺伝子発現プロファイルを、年齢範囲が既知の対応皮膚サンプルから得られた参照遺伝子発現プロファイルと比較する工程であって、参照遺伝子発現プロファイルが、表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されている1つまたは複数の標的遺伝子の発現値を含む、工程。
【請求項42】
参照遺伝子発現プロファイルがデータベース内に含まれる、請求項41記載の方法。
【請求項43】
比較する工程がコンピュータアルゴリズムを用いて行われる、請求項41記載の方法。
【請求項44】
皮膚サンプル収集装置と、表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせの中の1つもしくは複数の核酸分子に、または表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせの中の核酸分子の核酸もしくはタンパク質産物に選択的に結合する1つまたは複数のプローブまたはプライマーとを含む、対象由来の皮膚サンプルを特徴付けるためのキット。
【請求項45】
表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせの中の1つの核酸分子の一部分に結合するプローブを提供する、請求項44記載のキット。
【請求項46】
一方の鎖上の遺伝子の上流に選択的に結合するフォワードプライマーと、相補鎖上の遺伝子の上流に選択的に結合するリバースプライマーとを含む1つまたは複数のプライマー対を提供するキットであって、遺伝子が表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されているいずれかの遺伝子である、請求項44記載のキット。
【請求項47】
皮膚サンプル収集装置が生検針である、請求項44記載のキット。
【請求項48】
皮膚サンプル収集装置が粘着テープである、請求項44記載のキット。
【請求項49】
粘着テープがポリウレタンフィルム上にゴム系粘着剤を含む、請求項48記載のキット。
【請求項50】
表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせに記載されているいずれかの遺伝子の、遺伝子または核酸またはタンパク質産物の少なくとも断片を含有するマイクロアレイをさらに含む、請求項44記載のキット。
【請求項51】
アプリケータと、表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせの中の1つもしくは複数の核酸分子に、または表1、表2、表3もしくはそれらの任意の組み合わせのいずれかの中の核酸分子の核酸もしくはタンパク質発現産物に選択的に結合する1つまたは複数のプローブまたはプライマーとを含む、対象における皮膚の年齢範囲を決定するためのキット。
【請求項52】
プローブが検出可能に標識されている、請求項51記載のキット。
【請求項53】
対象がヒトである、請求項1、17、32または41のいずれか一項記載の方法。
【請求項54】
サンプルが表皮サンプルである、請求項1、17、32または41のいずれか一項記載の方法。
【請求項55】
表1、表2、表3またはそれらの任意の組み合わせの中の遺伝子の発現を低減または増大するための薬剤を含有する美容製剤。
【請求項56】
乳剤、クリーム、ローション、溶液、無水基剤、ペースト、粉末、ゲルまたは軟膏を含む、請求項55記載の美容製剤。
【請求項57】
乳剤が水中油型乳剤または油中水型乳剤である、請求項56記載の美容製剤。
【請求項58】
美容製剤が溶液であり、かつ溶液が水溶液または含水アルコール溶液である、請求項55記載の美容製剤。
【請求項59】
美容製剤が無水基剤であり、かつ無水基剤がリップスティックまたは粉末である、請求項55記載の美容製剤。
【請求項60】
抗老化製品または保湿製品のなかに含まれる、請求項55記載の美容製剤。
【請求項61】
エストラジオール; プロゲステロン; プレグネノロン(pregnanalone); コエンザイムQ10; メチルソラノメタン(methylsolanomethane)(MSM); 銅ペプチド(銅抽出物); プランクトン抽出物(フィトソーム(phytosome)); グリコール酸; コウジ酸; パルミチン酸アスコルビル; オールトランスレチノール; アゼライン酸(azaleic acid); サリチル酸; ブロパロエストロール(broparoestrol); エストロン; アドロステンジオン(adrostenedione); およびアンドロスタンジオールの、1つまたは複数をさらに含む、請求項55記載の美容製剤。
【請求項62】
日焼け止め剤をさらに含む、請求項55記載の美容製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−501183(P2012−501183A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525224(P2011−525224)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/055327
【国際公開番号】WO2010/025341
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(506332074)ダームテック インターナショナル (3)
【Fターム(参考)】