皮革に貫通孔を開ける方法
【課題】裂傷を生じさせることなく皮革に貫通孔を開ける。
【解決手段】穴開け棒10は、平面状の先端面11と、先端面11の縁部を取り囲む外側面12とを備える。先端面11は、穴開け棒10の皮革Lへの押し当て方向P1に対して垂直に設定される。外側面12は、先端面11に対する角度が垂直または垂直よりも鋭角に設定される。穴開け棒10により皮革Lに貫通孔を開ける方法は、皮革Lを表面L1側が露見するように平面状に広げる第1の手順と、穴開け棒10の先端面11を皮革Lの表面L1に対して平行にした状態で穴開け棒10を皮革Lの表面L1に対して垂直に押し込み、皮革Lの表面L1側に陥没穴L3を形成する第2の手順と、皮革Lの裏面L2を除去して陥没穴L3を貫通孔に加工する第3の手順とを備える。
【解決手段】穴開け棒10は、平面状の先端面11と、先端面11の縁部を取り囲む外側面12とを備える。先端面11は、穴開け棒10の皮革Lへの押し当て方向P1に対して垂直に設定される。外側面12は、先端面11に対する角度が垂直または垂直よりも鋭角に設定される。穴開け棒10により皮革Lに貫通孔を開ける方法は、皮革Lを表面L1側が露見するように平面状に広げる第1の手順と、穴開け棒10の先端面11を皮革Lの表面L1に対して平行にした状態で穴開け棒10を皮革Lの表面L1に対して垂直に押し込み、皮革Lの表面L1側に陥没穴L3を形成する第2の手順と、皮革Lの裏面L2を除去して陥没穴L3を貫通孔に加工する第3の手順とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴開け棒および皮革に貫通孔を開ける方法に関する。詳しくは、平面状に広げられた皮革に押し当てることで、この皮革に穴を開けることができる穴開け棒、および、この穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮革製品を大量生産する際には、原材料となる皮革を抜き型により裁断して加工することが広く行われている。ここで、皮革製品に貫通孔を開ける必要がある場合、先端が尖った孔開け棒を皮革に押し当てて挿通させることが一般的に行われている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−000155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術では、皮革に開けられた貫通孔の縁部に微小な裂傷が生じて皮革製品の見栄えが悪くなるという問題があった。また、上記裂傷は皮革製品に応力集中を生じさせるので、皮革製品の耐久性が大きく低下するという問題もあった。
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、裂傷を生じさせることなく皮革に貫通孔を開ける方法、および、この方法を実現させるための穴開け棒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の皮革裁断用抜き型は次の手段をとる。
まず、第1の発明は、平面状に広げられた皮革に押し当てることで、この皮革に穴を開けることができる穴開け棒である。この穴開け棒は、皮革に押し当てられる側の先端に平面状に形成された先端面と、この先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面と、を備えている。先端面は、穴開け棒の皮革への押し当て方向に対して垂直となるように設定されている。外側面は、この外側面の先端面に対する角度が垂直または垂直よりも鋭角となるように設定されている。
本発明者は、皮革に穴を開ける際に穴の縁部に裂傷が生じるのは、穴開け棒を皮革に押し当てる際に皮革の繊維が穴開け棒により押し広げられることが原因であると見出し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、穴開け棒を皮革に押し当てる際に、皮革の繊維を押し広げないようにすることを、上記課題を解決するための手段としたものである。
この第1の発明によれば、穴開け棒を皮革に押し当てて、この皮革を押し当てられた側で裁断して穴を開ける。このため、皮革の繊維は、穴の縁部において穴開け棒の外径により押し広げられることがなくなる。これにより、皮革に裂傷を生じさせることなく穴を開けて、皮革製品の見栄えおよび耐久性を向上させることができる。
【0006】
ついで、第2の発明は、上述した第1の発明において、穴開け棒が円柱形状に形成され、かつ、この円柱の一方側の底面が穴開け棒の先端面となるように形成されているものである。
この第2の発明によれば、穴開け棒は、円柱形状という単純かつ強度の高い形状に形成される。これにより、穴開け棒を従来よりも細くして、皮革に従来よりも径の小さな穴を開けることができる。また、穴開け棒の加工の手間を減らして、穴開け棒の製作費用を削減することができる。
【0007】
さらに、第3の発明は、平面状に形成された先端面を備え、かつ、この先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面が先端面に対して垂直または垂直よりも鋭角をなすように形成された穴開け棒を平面状に広げられた皮革に押し当てて、穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける方法である。この方法は、皮革をこの皮革の表面側が露見するように平面状に広げる第1の手順と、上記穴開け棒の先端面を皮革の表面に対して平行にした状態で上記穴開け棒を皮革の表面に対して垂直に押し込み、皮革の表面側に陥没穴を形成する第2の手順と、皮革の裏面を除去して上記陥没穴を貫通孔に加工する第3の手順と、を備えている。
皮革の繊維は、押し潰されることにより強度の高い圧縮層を形成する。このため、穴開け棒の平面状の先端面を皮革にあてがって押し込むと、この穴開け棒の先端面により皮革が押し潰されて圧縮層が形成される。これにより、穴開け棒を皮革に挿通させて貫通孔を開けることが難しくなる。
この第3の発明によれば、穴開け棒を皮革に垂直に押し込んでこの皮革を局所的に押し潰すことで陥没穴を形成し、その後で陥没穴の反対側の皮革を穴開け棒により形成された圧縮層ごと除去する。これにより、皮革の繊維を押し広げることなく皮革に貫通孔を開けることができる。ここで、上記陥没穴を皮革の表面側に形成することで、除去される皮革を裏面側に位置させて、皮革製品の見栄えの悪化を低減させることができる。
【0008】
さらに、第4の発明は、上述した第3の発明のうち、第1の手順において、復元力を備えた平板の上に皮革をこの皮革の裏面側が平板に当接するように平面状に広げ、第3の手順において、上記平板から皮革を引き離してこの皮革の裏面を除去するものである。
この第4の発明によれば、上記第1の手順において、皮革を平板に沿うように平面状に広げることが容易となり、上記第2の手順において、穴開け棒に押される皮革を平板により支持することができる。このため、皮革に貫通孔を開ける際の作業性が向上する。ここで、上記平板は、上記第2の手順において穴開け棒から押されて変形しても、その復元力により元の状態に戻ることができる。このため、同じ平板を繰り返し使用することができ、皮革に貫通孔を開ける際のコストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る穴開け棒の一実施形態を適用した抜き型の側面図および抜き型の使用方法を表した模式図である。
【図2】上記抜き型により裁断加工された直後の皮革を表した平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】上記裁断加工された皮革の使用状態を表した斜視図である。
【図5】上記抜き型の刃先側の構成を示す斜視図である。
【図6】上記抜き型の刃先とは反対側の構成を表した斜視図である。
【図7】図1のVII−VII線断面図である。
【図8】上記実施形態の穴開け棒を表した斜視図である。
【図9】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第1の手順を表す。
【図10】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第1の手順と第2の手順との間の手順を表す。
【図11】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第2の手順を表す。
【図12】図11の部分拡大図である。
【図13】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第3の手順を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
始めに、一実施形態に係る穴開け棒10の構成について、図1ないし図13を用いて説明する。この穴開け棒10は、図1ないし図6に示すように、抜き型Dに一体に取り付けられる(図5および図6参照)。そして、穴開け棒10は、抜き型Dを平面状に広げられた皮革Lに押し当てて皮革Lを皮革製品L5(図2ないし図4参照)に裁断加工する(図1参照)際に、皮革製品L5に陥没穴L3を開ける(図2および図3参照)ために用いられる。なお、本実施形態においては、図4に示すように、上記皮革製品L5はシフトノブSの一部品であり、上記陥没穴L3は貫通孔L4に加工されて、皮革製品L5をシフトノブSの他の皮革部品S1と縫合するために用いられる。
【0011】
抜き型Dは、図5ないし図7に示すように、平板状に形成された枠板部D1(図7参照)に、複数本の穴開け棒10と、皮革Lを裁断するための刃部D2と、刃部D2の刃先D4を抜き型Dの当接面D5から離間させる台座部D3(図7参照)と、を取り付けた構成とされている。これにより、各穴開け棒10および刃部D2の配設が容易になる。さらに、各穴開け棒10および刃部D2の相対位置を固定して、同じ形状の皮革製品L5を繰り返し生産することができる。
上記枠板部D1は、図5ないし図7に示すように、皮革製品L5の形状に対応した平板形状(図7参照)に形成されて、その縁部の全周に刃部D2が取り付けられている(図5および図6参照)。これにより、刃部D2により裁断加工される皮革製品L5の配置をイメージしやすくして、皮革Lから皮革製品L5を効率よく生産することができる。なお、枠板部D1は、抜き型Dの押し当て方向P1(図1参照)に対して垂直となるように設定されている。
【0012】
上記刃部D2は、図5ないし図7に示すように、長方形形状の金属板を枠板部D1の縁部の全周を囲む(図5および図6参照)ように曲げ加工し、その一方側(図7で見て下側)の長辺に沿って片刃の刃先(図7参照)D4を形成した構成となっている。ここで、「片刃の刃先」とは、板材の縁部に、その一方側の板面の延長面に沿うように形成された刃先のことをいう。
刃部D2は、図7に示すように、その刃先D4側の板面を枠板部D1の縁部に垂直に当接させた状態で、この枠板部D1を囲んでいる。また、刃部D2は、図1および図12に示すように、その刃先D4側の板面が抜き型Dの押し当て方向P1と平行になり(図12参照)、かつ、その刃先D4が上記押し当て方向P1と垂直な平面上に位置する(図1参照)ように配設されている。
上記各構成により、刃部D2は皮革Lを均一な力で裁断することができる。また、刃部D2が皮革Lを裁断する際に皮革製品L5として分離される側の皮革Lに余分な外力がはたらかないようにして、裁断加工により皮革製品L5に与えられる傷やしわなどのダメージを低減させることができる。
【0013】
台座部D3は、図5ないし図7に示すように、ゴムなどの弾性を有する素材により(図7参照)枠板部D1の板面から刃部D2の刃先D4側(図7で見て下側)に突出するように形成されている。この台座部D3は、図9に示すように、抜き型Dがその刃部D2側(図示下側)から他部材(例えば、図9に示す皮革L)に当接するときに、この他部材に刃部D2の刃先D4よりも先に当接面D5で当接するようになっている。これにより、刃部D2の刃先D4を他部材と接触しないように離間させて、抜き型Dの安全性を向上させることができる。
また、台座部D3は、図10ないし図12に示すように、プレス装置Pによる押し当て方向P1の押圧力により押し縮められて、刃部D2の刃先D4を押し当て方向P1側(図11で見て下側)に突出させるようになっている。これにより、抜き型Dは、刃部D2の刃先D4を離間させた状態のままプレス装置Pにセットして、台座部D3を取り外す必要なく皮革Lの裁断加工を行うことができる。
【0014】
ここで、台座部D3は、図5ないし図7に示すように、穴開け棒10および刃部D2から離間するように配設されている。これにより、図11に示すように、台座部D3を押し縮めて皮革Lの裁断加工を行う際に穴開け棒10および刃部D2が台座部D3に押圧されないようにして、抜き型Dの精度の低下を抑制することができる。
また、台座部D3の当接面D5は、図1ないし図9に示すように、抜き型Dの押し当て方向P1(図1参照)に対して垂直となるように設定されている。これにより、プレス装置Pによる押し当て方向P1の押圧力を刃部D2の刃先D4に均一に伝えることができる。
【0015】
穴開け棒10は、図7および図8に示すように、金属により円柱形状(図8参照)に形成されて、枠板部D1の板面に垂直に(すなわち、抜き型Dの押し当て方向P1に沿う向きに)挿し込まれている(図7参照)。言い換えると、穴開け棒10は、円柱形状という単純かつ強度の高い形状に形成されている。
上記構成により、穴開け棒10を従来よりも細くして、皮革Lに従来よりも径の小さな穴を開けることができる。また、穴開け棒10の加工の手間を減らして、穴開け棒10の製作費用を削減することができる。
【0016】
穴開け棒10は、その円柱の一方側(図7で見て下側)の底面を先端面11として、その円柱の先端面11周りの側面を外側面12とするように構成されている。言い換えると、穴開け棒10の先端面11周りの外側面12は、先端面11に対して垂直に設定されている。
上記構成により、穴開け棒10を皮革Lに対して垂直に押し当てることで、穴開け棒10の外径により皮革Lの繊維を押し広げないようにしながらこの皮革製品L5に陥没穴L3を開けることができるようになる。このため、皮革製品L5に裂傷を生じさせることなく陥没穴L3を開けて、この皮革製品L5の見栄えおよび耐久性を向上させることができる。
【0017】
ここで、上述した穴開け棒10が取り付けられた抜き型Dを平面状に広げられた皮革Lに押し当てて皮革製品L5に裁断加工し、この皮革製品L5に貫通孔L4を形成する方法について説明する。
本実施形態の方法においては、図9ないし図13に示すように、皮革Lを皮革製品L5に裁断加工して貫通孔L4を形成するために、上述した抜き型Dと、抜き型Dをその押し当て方向にプレスするプレス装置Pと、プレス装置Pのプレス時に皮革Lの台座となる平板Bと、皮革製品L5の革漉き処理をすることができる革漉き機G(図13参照)と、が用いられる。
なお、本実施形態においては、裁断加工される皮革Lは天然皮革であり、その厚さt1(図9参照)が1.1mm〜1.3mmの範囲のものが用いられる。また、革漉き処理後の皮革製品L5の厚さt3(図13参照)は、1.0mm〜1.1mmの範囲に設定されている。
【0018】
皮革Lを裁断加工する際には、まず、図9に実線で示すように、平板Bの上に皮革Lを平面状に広げる。この際、皮革Lは、その裏面L2側(図示下側)が平板Bに当接し、かつ、その表面L1側(図示上側)が上方に露見するように広げられる。皮革Lを平板Bに当接するように広げることで、皮革Lを平面状に広げることが容易となる。ここで、上記手順は、本発明における「第1の手順」に相当する。
【0019】
ついで、図9に仮想線で示すように、平面状に広げられた皮革Lの表面L1上に抜き型Dをその刃先D4を下側にして載置し、この抜き型Dの配置を調整する。ここで、抜き型Dの台座部D3は、刃部D2の刃先D4を皮革Lと接触しないように離間させているので、作業者(図示省略)は皮革Lの表面L1を傷つけることなく抜き型Dの配置を調整することができる。
ここで、枠板部D1および台座部D3の当接面D5は、図7および図10に示すように、それぞれ抜き型Dの押し当て方向P1(図10参照)に対して垂直となるように設定されている。また、穴開け棒10は、上記押し当て方向P1に沿う向きに挿し込まれている。このため、穴開け棒10の先端面11は、皮革Lの表面L1上に対して平行となるように配設される。
【0020】
そして、図10に示すように、プレス装置Pを抜き型Dに上方から当接させ、抜き型Dに押し当て方向P1に押圧する力を加える。この際、抜き型Dの台座部D3はプレス装置Pの押圧力により押し縮められ、刃部D2の刃先D4は台座部D3の押し当て方向P1側(図示下側)に突出して皮革Lの表面L1にあてがわれる。
ここで、刃部D2の刃先D4と穴開け棒10の先端面11とは、図7および図10に示すように、上述した枠板部D1から見て上記押し当て方向P1側(図10で見て下側)への突出量が等しくなるように設定されている。このため、プレス装置Pにより刃部D2の刃先D4が皮革Lの表面L1にあてがわれると、この皮革Lの表面L1に対して穴開け棒10が垂直にあてがわれた状態となる。
【0021】
続いて、図11および図12に示すように、プレス装置Pを作動させて、抜き型Dを押し当て方向P1に強く押圧させる。この際、抜き型Dの台座部D3はプレス装置Pの押圧力によりさらに押し縮められ、刃部D2の刃先D4は台座部D3の押し当て方向P1側(図示下側)にさらに突出する。このため、皮革Lは抜き型Dの枠板部D1に対応した形状に裁断されて、皮革製品L5として分離される。
そして、穴開け棒10はプレス装置Pの押圧力により皮革Lの表面L1に対して垂直に押し込まれる。このため、穴開け棒10の先端面11は、皮革Lの表面L1に対して平行な状態でこの皮革Lを局所的に押圧する。これにより、穴開け棒10は、皮革Lの表面L1を裁断してこの皮革Lの表面L1側(図示上側)に陥没穴L3を形成する。ここで、上記手順は、本発明における「第2の手順」に相当する。
【0022】
ところで、穴開け棒10の先端面11周りの外側面12は、先端面11に対して垂直に設定されているため、穴開け棒10は皮革Lの繊維を押し広げることがない。これにより、皮革Lに裂傷を生じさせることなく陥没穴L3を開けて、皮革製品L5の見栄えおよび耐久性を向上させることができる。
なお、穴開け棒10は、上記陥没穴L3を形成する際に皮革Lの陥没穴L3に対応した部分の繊維を平面状の先端面11で押し潰し、この皮革Lの裏面L2から図11で見て下側に突出させる。これにより、穴開け棒10は、皮革Lを挿通することなくその裏面L2側に圧縮層L6を形成するようになっている。
【0023】
上記第1の手順から第2の手順までの間の各手順により皮革Lから分離された皮革製品L5には、図3に示すように、貫通孔L4が形成されるべき位置に陥没穴L3が形成されている。この陥没穴L3は、皮革製品L5の表面L1側(図示上側)に向かって開口している。また、上述した圧縮層L6は、上記陥没穴L3の開口とは反対側(図示下側)に形成されている。
上記圧縮層L6の厚さt2(図13参照)は、抜き型Dの各構成の配置および形状、プレス装置Pの押圧力、および、皮革Lの厚さt1など、既知の物理量により決定される。このため、上記厚さt2は、計算または実験により前もって所定の厚さとなるように設定することができる。なお、本実施形態においては、上記t2は、0.1mm〜0.2mmの範囲に設定されている。
【0024】
上記構成により、上記圧縮層L6を皮革製品L5の陥没穴L3の開口とは反対側の面ごと所定の厚さだけ除去することで、陥没穴L3を貫通孔L4に加工することができる。ここで、上記手順は、本発明における「第3の手順」に相当する。
具体的には、図13に示すように、皮革Lから分離させた皮革製品L5を平板Bから引き離し、革漉き機Gにより皮革製品L5の圧縮層L6側(図示下側)の面を厚さt2だけ除去する革漉き処理を行う。すなわち、皮革製品L5は、厚さt1(本実施形態では1.1mm〜1.3mm)から厚さt2(本実施形態では0.1mm〜0.2mm)だけ革漉き処理されて、厚さt3(本実施形態では1.0mm〜1.1mm)となるように加工される。
ここで、上記陥没穴L3は、皮革製品L5の表面L1側(図示上側)に向かって開口している。このため、上記圧縮層L6は、皮革製品L5の裏面L2側(図示下側)に位置される。これにより、陥没穴L3を貫通孔L4に加工する際に皮革製品L5から除去される部分を皮革製品L5の裏面L2として、皮革製品L5の見栄えの悪化を低減させることができる。
【0025】
ところで、上述した第2の手順において、皮革Lが抜き型Dを介してプレス装置Pから受ける押圧力は、図11および図12に示すように、平板Bが弾性変形することにより受け止められるようになっている。これにより、皮革Lが抜き型Dの刃部D2および穴開け棒10を介して受ける押圧力を平板Bに支持させて、皮革Lの裁断加工および陥没穴L3の形成の確実性を向上させることができる。
上記平板Bは、図9ないし図12に示すように、復元力を備えた合成樹脂により形成されている。このため、平板Bは、上述した第2の手順において穴開け棒10から押されて変形しても(図11および図12参照)、その復元力により元の状態(図9参照)に戻るようになっている。これにより、上述した圧縮層L6を、皮革Lの陥没穴L3側(図11で見て上側)に押し戻して、上述した第3の手順において圧縮層L6を除去しやすくすることができる。また、上述した皮革製品L5に貫通孔L4を形成する方法において、同じ平板Bを繰り返し使用することができ、皮革Lに貫通孔L4を形成する際のコストを低減させることができる。
【0026】
本発明は、上述した一実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような各種の形態を実施することができる。
(1)穴開け棒の先端面周りの外側面は円柱の側面である必要はなく、例えば穴開け棒をその先端側に向かって径が広がった円錐台形状に形成することができる。すなわち、穴開け棒の先端面周りの外側面を、その先端面に対する角度が垂直よりも鋭角となるように設定することができる。この構成を用いた場合でも、穴開け棒の外径により皮革の繊維を押し広げないようにしながら皮革に穴を開けることができる。
(2)本実施形態では裁断加工される皮革として天然皮革を用いたが、この皮革が人造皮革である場合でも、本発明の穴開け棒は本実施形態と同じ機能を発揮する。
(3)抜き型の形状および穴開け棒を含めた抜き型の各構成の配置は適宜設定することができる。
(4)本実施形態において、皮革製品に貫通孔を形成するために用いる手段は適宜決定することができる。例えば、第3の手順において、革漉き機の代わりに革漉き包丁を用いて革漉きを行うことができる。また、グラインダーを用いて皮革の裏面を研削により除去することもできる。
(5)本実施形態の第3の手順において、皮革の裏面の除去量を圧縮層の厚さに等しくする必要はなく、圧縮層の厚さよりも厚く皮革の裏面を除去してもよい。また、皮革の裏面の除去量を皮革の部分ごとに変えることもできる。
(6)穴開け棒の使用方法は、抜き型に一体に取り付けて皮革に貫通孔を形成するものに限定されず、例えば穴開け棒により皮革に陥没穴を形成するだけであってもよい。また、穴開け棒のみを抜き型とは独立させて用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
10 穴開け棒
11 先端面
12 外側面
B 平板
D 抜き型
D1 枠板部
D2 刃部
D3 台座部
D4 刃先
D5 当接面
G 革漉き機
L 皮革
L1 表面
L2 裏面
L3 陥没穴
L4 貫通孔
L5 皮革製品
L6 圧縮層
P プレス装置
P1 押し当て方向
S シフトノブ
S1 皮革部品
t1 厚さ
t2 厚さ
t3 厚さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴開け棒および皮革に貫通孔を開ける方法に関する。詳しくは、平面状に広げられた皮革に押し当てることで、この皮革に穴を開けることができる穴開け棒、および、この穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮革製品を大量生産する際には、原材料となる皮革を抜き型により裁断して加工することが広く行われている。ここで、皮革製品に貫通孔を開ける必要がある場合、先端が尖った孔開け棒を皮革に押し当てて挿通させることが一般的に行われている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−000155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術では、皮革に開けられた貫通孔の縁部に微小な裂傷が生じて皮革製品の見栄えが悪くなるという問題があった。また、上記裂傷は皮革製品に応力集中を生じさせるので、皮革製品の耐久性が大きく低下するという問題もあった。
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、裂傷を生じさせることなく皮革に貫通孔を開ける方法、および、この方法を実現させるための穴開け棒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の皮革裁断用抜き型は次の手段をとる。
まず、第1の発明は、平面状に広げられた皮革に押し当てることで、この皮革に穴を開けることができる穴開け棒である。この穴開け棒は、皮革に押し当てられる側の先端に平面状に形成された先端面と、この先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面と、を備えている。先端面は、穴開け棒の皮革への押し当て方向に対して垂直となるように設定されている。外側面は、この外側面の先端面に対する角度が垂直または垂直よりも鋭角となるように設定されている。
本発明者は、皮革に穴を開ける際に穴の縁部に裂傷が生じるのは、穴開け棒を皮革に押し当てる際に皮革の繊維が穴開け棒により押し広げられることが原因であると見出し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、穴開け棒を皮革に押し当てる際に、皮革の繊維を押し広げないようにすることを、上記課題を解決するための手段としたものである。
この第1の発明によれば、穴開け棒を皮革に押し当てて、この皮革を押し当てられた側で裁断して穴を開ける。このため、皮革の繊維は、穴の縁部において穴開け棒の外径により押し広げられることがなくなる。これにより、皮革に裂傷を生じさせることなく穴を開けて、皮革製品の見栄えおよび耐久性を向上させることができる。
【0006】
ついで、第2の発明は、上述した第1の発明において、穴開け棒が円柱形状に形成され、かつ、この円柱の一方側の底面が穴開け棒の先端面となるように形成されているものである。
この第2の発明によれば、穴開け棒は、円柱形状という単純かつ強度の高い形状に形成される。これにより、穴開け棒を従来よりも細くして、皮革に従来よりも径の小さな穴を開けることができる。また、穴開け棒の加工の手間を減らして、穴開け棒の製作費用を削減することができる。
【0007】
さらに、第3の発明は、平面状に形成された先端面を備え、かつ、この先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面が先端面に対して垂直または垂直よりも鋭角をなすように形成された穴開け棒を平面状に広げられた皮革に押し当てて、穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける方法である。この方法は、皮革をこの皮革の表面側が露見するように平面状に広げる第1の手順と、上記穴開け棒の先端面を皮革の表面に対して平行にした状態で上記穴開け棒を皮革の表面に対して垂直に押し込み、皮革の表面側に陥没穴を形成する第2の手順と、皮革の裏面を除去して上記陥没穴を貫通孔に加工する第3の手順と、を備えている。
皮革の繊維は、押し潰されることにより強度の高い圧縮層を形成する。このため、穴開け棒の平面状の先端面を皮革にあてがって押し込むと、この穴開け棒の先端面により皮革が押し潰されて圧縮層が形成される。これにより、穴開け棒を皮革に挿通させて貫通孔を開けることが難しくなる。
この第3の発明によれば、穴開け棒を皮革に垂直に押し込んでこの皮革を局所的に押し潰すことで陥没穴を形成し、その後で陥没穴の反対側の皮革を穴開け棒により形成された圧縮層ごと除去する。これにより、皮革の繊維を押し広げることなく皮革に貫通孔を開けることができる。ここで、上記陥没穴を皮革の表面側に形成することで、除去される皮革を裏面側に位置させて、皮革製品の見栄えの悪化を低減させることができる。
【0008】
さらに、第4の発明は、上述した第3の発明のうち、第1の手順において、復元力を備えた平板の上に皮革をこの皮革の裏面側が平板に当接するように平面状に広げ、第3の手順において、上記平板から皮革を引き離してこの皮革の裏面を除去するものである。
この第4の発明によれば、上記第1の手順において、皮革を平板に沿うように平面状に広げることが容易となり、上記第2の手順において、穴開け棒に押される皮革を平板により支持することができる。このため、皮革に貫通孔を開ける際の作業性が向上する。ここで、上記平板は、上記第2の手順において穴開け棒から押されて変形しても、その復元力により元の状態に戻ることができる。このため、同じ平板を繰り返し使用することができ、皮革に貫通孔を開ける際のコストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る穴開け棒の一実施形態を適用した抜き型の側面図および抜き型の使用方法を表した模式図である。
【図2】上記抜き型により裁断加工された直後の皮革を表した平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】上記裁断加工された皮革の使用状態を表した斜視図である。
【図5】上記抜き型の刃先側の構成を示す斜視図である。
【図6】上記抜き型の刃先とは反対側の構成を表した斜視図である。
【図7】図1のVII−VII線断面図である。
【図8】上記実施形態の穴開け棒を表した斜視図である。
【図9】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第1の手順を表す。
【図10】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第1の手順と第2の手順との間の手順を表す。
【図11】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第2の手順を表す。
【図12】図11の部分拡大図である。
【図13】上記実施形態の穴開け棒により皮革に貫通孔を開ける工程を表した断面図であり、本発明の第3の手順を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
始めに、一実施形態に係る穴開け棒10の構成について、図1ないし図13を用いて説明する。この穴開け棒10は、図1ないし図6に示すように、抜き型Dに一体に取り付けられる(図5および図6参照)。そして、穴開け棒10は、抜き型Dを平面状に広げられた皮革Lに押し当てて皮革Lを皮革製品L5(図2ないし図4参照)に裁断加工する(図1参照)際に、皮革製品L5に陥没穴L3を開ける(図2および図3参照)ために用いられる。なお、本実施形態においては、図4に示すように、上記皮革製品L5はシフトノブSの一部品であり、上記陥没穴L3は貫通孔L4に加工されて、皮革製品L5をシフトノブSの他の皮革部品S1と縫合するために用いられる。
【0011】
抜き型Dは、図5ないし図7に示すように、平板状に形成された枠板部D1(図7参照)に、複数本の穴開け棒10と、皮革Lを裁断するための刃部D2と、刃部D2の刃先D4を抜き型Dの当接面D5から離間させる台座部D3(図7参照)と、を取り付けた構成とされている。これにより、各穴開け棒10および刃部D2の配設が容易になる。さらに、各穴開け棒10および刃部D2の相対位置を固定して、同じ形状の皮革製品L5を繰り返し生産することができる。
上記枠板部D1は、図5ないし図7に示すように、皮革製品L5の形状に対応した平板形状(図7参照)に形成されて、その縁部の全周に刃部D2が取り付けられている(図5および図6参照)。これにより、刃部D2により裁断加工される皮革製品L5の配置をイメージしやすくして、皮革Lから皮革製品L5を効率よく生産することができる。なお、枠板部D1は、抜き型Dの押し当て方向P1(図1参照)に対して垂直となるように設定されている。
【0012】
上記刃部D2は、図5ないし図7に示すように、長方形形状の金属板を枠板部D1の縁部の全周を囲む(図5および図6参照)ように曲げ加工し、その一方側(図7で見て下側)の長辺に沿って片刃の刃先(図7参照)D4を形成した構成となっている。ここで、「片刃の刃先」とは、板材の縁部に、その一方側の板面の延長面に沿うように形成された刃先のことをいう。
刃部D2は、図7に示すように、その刃先D4側の板面を枠板部D1の縁部に垂直に当接させた状態で、この枠板部D1を囲んでいる。また、刃部D2は、図1および図12に示すように、その刃先D4側の板面が抜き型Dの押し当て方向P1と平行になり(図12参照)、かつ、その刃先D4が上記押し当て方向P1と垂直な平面上に位置する(図1参照)ように配設されている。
上記各構成により、刃部D2は皮革Lを均一な力で裁断することができる。また、刃部D2が皮革Lを裁断する際に皮革製品L5として分離される側の皮革Lに余分な外力がはたらかないようにして、裁断加工により皮革製品L5に与えられる傷やしわなどのダメージを低減させることができる。
【0013】
台座部D3は、図5ないし図7に示すように、ゴムなどの弾性を有する素材により(図7参照)枠板部D1の板面から刃部D2の刃先D4側(図7で見て下側)に突出するように形成されている。この台座部D3は、図9に示すように、抜き型Dがその刃部D2側(図示下側)から他部材(例えば、図9に示す皮革L)に当接するときに、この他部材に刃部D2の刃先D4よりも先に当接面D5で当接するようになっている。これにより、刃部D2の刃先D4を他部材と接触しないように離間させて、抜き型Dの安全性を向上させることができる。
また、台座部D3は、図10ないし図12に示すように、プレス装置Pによる押し当て方向P1の押圧力により押し縮められて、刃部D2の刃先D4を押し当て方向P1側(図11で見て下側)に突出させるようになっている。これにより、抜き型Dは、刃部D2の刃先D4を離間させた状態のままプレス装置Pにセットして、台座部D3を取り外す必要なく皮革Lの裁断加工を行うことができる。
【0014】
ここで、台座部D3は、図5ないし図7に示すように、穴開け棒10および刃部D2から離間するように配設されている。これにより、図11に示すように、台座部D3を押し縮めて皮革Lの裁断加工を行う際に穴開け棒10および刃部D2が台座部D3に押圧されないようにして、抜き型Dの精度の低下を抑制することができる。
また、台座部D3の当接面D5は、図1ないし図9に示すように、抜き型Dの押し当て方向P1(図1参照)に対して垂直となるように設定されている。これにより、プレス装置Pによる押し当て方向P1の押圧力を刃部D2の刃先D4に均一に伝えることができる。
【0015】
穴開け棒10は、図7および図8に示すように、金属により円柱形状(図8参照)に形成されて、枠板部D1の板面に垂直に(すなわち、抜き型Dの押し当て方向P1に沿う向きに)挿し込まれている(図7参照)。言い換えると、穴開け棒10は、円柱形状という単純かつ強度の高い形状に形成されている。
上記構成により、穴開け棒10を従来よりも細くして、皮革Lに従来よりも径の小さな穴を開けることができる。また、穴開け棒10の加工の手間を減らして、穴開け棒10の製作費用を削減することができる。
【0016】
穴開け棒10は、その円柱の一方側(図7で見て下側)の底面を先端面11として、その円柱の先端面11周りの側面を外側面12とするように構成されている。言い換えると、穴開け棒10の先端面11周りの外側面12は、先端面11に対して垂直に設定されている。
上記構成により、穴開け棒10を皮革Lに対して垂直に押し当てることで、穴開け棒10の外径により皮革Lの繊維を押し広げないようにしながらこの皮革製品L5に陥没穴L3を開けることができるようになる。このため、皮革製品L5に裂傷を生じさせることなく陥没穴L3を開けて、この皮革製品L5の見栄えおよび耐久性を向上させることができる。
【0017】
ここで、上述した穴開け棒10が取り付けられた抜き型Dを平面状に広げられた皮革Lに押し当てて皮革製品L5に裁断加工し、この皮革製品L5に貫通孔L4を形成する方法について説明する。
本実施形態の方法においては、図9ないし図13に示すように、皮革Lを皮革製品L5に裁断加工して貫通孔L4を形成するために、上述した抜き型Dと、抜き型Dをその押し当て方向にプレスするプレス装置Pと、プレス装置Pのプレス時に皮革Lの台座となる平板Bと、皮革製品L5の革漉き処理をすることができる革漉き機G(図13参照)と、が用いられる。
なお、本実施形態においては、裁断加工される皮革Lは天然皮革であり、その厚さt1(図9参照)が1.1mm〜1.3mmの範囲のものが用いられる。また、革漉き処理後の皮革製品L5の厚さt3(図13参照)は、1.0mm〜1.1mmの範囲に設定されている。
【0018】
皮革Lを裁断加工する際には、まず、図9に実線で示すように、平板Bの上に皮革Lを平面状に広げる。この際、皮革Lは、その裏面L2側(図示下側)が平板Bに当接し、かつ、その表面L1側(図示上側)が上方に露見するように広げられる。皮革Lを平板Bに当接するように広げることで、皮革Lを平面状に広げることが容易となる。ここで、上記手順は、本発明における「第1の手順」に相当する。
【0019】
ついで、図9に仮想線で示すように、平面状に広げられた皮革Lの表面L1上に抜き型Dをその刃先D4を下側にして載置し、この抜き型Dの配置を調整する。ここで、抜き型Dの台座部D3は、刃部D2の刃先D4を皮革Lと接触しないように離間させているので、作業者(図示省略)は皮革Lの表面L1を傷つけることなく抜き型Dの配置を調整することができる。
ここで、枠板部D1および台座部D3の当接面D5は、図7および図10に示すように、それぞれ抜き型Dの押し当て方向P1(図10参照)に対して垂直となるように設定されている。また、穴開け棒10は、上記押し当て方向P1に沿う向きに挿し込まれている。このため、穴開け棒10の先端面11は、皮革Lの表面L1上に対して平行となるように配設される。
【0020】
そして、図10に示すように、プレス装置Pを抜き型Dに上方から当接させ、抜き型Dに押し当て方向P1に押圧する力を加える。この際、抜き型Dの台座部D3はプレス装置Pの押圧力により押し縮められ、刃部D2の刃先D4は台座部D3の押し当て方向P1側(図示下側)に突出して皮革Lの表面L1にあてがわれる。
ここで、刃部D2の刃先D4と穴開け棒10の先端面11とは、図7および図10に示すように、上述した枠板部D1から見て上記押し当て方向P1側(図10で見て下側)への突出量が等しくなるように設定されている。このため、プレス装置Pにより刃部D2の刃先D4が皮革Lの表面L1にあてがわれると、この皮革Lの表面L1に対して穴開け棒10が垂直にあてがわれた状態となる。
【0021】
続いて、図11および図12に示すように、プレス装置Pを作動させて、抜き型Dを押し当て方向P1に強く押圧させる。この際、抜き型Dの台座部D3はプレス装置Pの押圧力によりさらに押し縮められ、刃部D2の刃先D4は台座部D3の押し当て方向P1側(図示下側)にさらに突出する。このため、皮革Lは抜き型Dの枠板部D1に対応した形状に裁断されて、皮革製品L5として分離される。
そして、穴開け棒10はプレス装置Pの押圧力により皮革Lの表面L1に対して垂直に押し込まれる。このため、穴開け棒10の先端面11は、皮革Lの表面L1に対して平行な状態でこの皮革Lを局所的に押圧する。これにより、穴開け棒10は、皮革Lの表面L1を裁断してこの皮革Lの表面L1側(図示上側)に陥没穴L3を形成する。ここで、上記手順は、本発明における「第2の手順」に相当する。
【0022】
ところで、穴開け棒10の先端面11周りの外側面12は、先端面11に対して垂直に設定されているため、穴開け棒10は皮革Lの繊維を押し広げることがない。これにより、皮革Lに裂傷を生じさせることなく陥没穴L3を開けて、皮革製品L5の見栄えおよび耐久性を向上させることができる。
なお、穴開け棒10は、上記陥没穴L3を形成する際に皮革Lの陥没穴L3に対応した部分の繊維を平面状の先端面11で押し潰し、この皮革Lの裏面L2から図11で見て下側に突出させる。これにより、穴開け棒10は、皮革Lを挿通することなくその裏面L2側に圧縮層L6を形成するようになっている。
【0023】
上記第1の手順から第2の手順までの間の各手順により皮革Lから分離された皮革製品L5には、図3に示すように、貫通孔L4が形成されるべき位置に陥没穴L3が形成されている。この陥没穴L3は、皮革製品L5の表面L1側(図示上側)に向かって開口している。また、上述した圧縮層L6は、上記陥没穴L3の開口とは反対側(図示下側)に形成されている。
上記圧縮層L6の厚さt2(図13参照)は、抜き型Dの各構成の配置および形状、プレス装置Pの押圧力、および、皮革Lの厚さt1など、既知の物理量により決定される。このため、上記厚さt2は、計算または実験により前もって所定の厚さとなるように設定することができる。なお、本実施形態においては、上記t2は、0.1mm〜0.2mmの範囲に設定されている。
【0024】
上記構成により、上記圧縮層L6を皮革製品L5の陥没穴L3の開口とは反対側の面ごと所定の厚さだけ除去することで、陥没穴L3を貫通孔L4に加工することができる。ここで、上記手順は、本発明における「第3の手順」に相当する。
具体的には、図13に示すように、皮革Lから分離させた皮革製品L5を平板Bから引き離し、革漉き機Gにより皮革製品L5の圧縮層L6側(図示下側)の面を厚さt2だけ除去する革漉き処理を行う。すなわち、皮革製品L5は、厚さt1(本実施形態では1.1mm〜1.3mm)から厚さt2(本実施形態では0.1mm〜0.2mm)だけ革漉き処理されて、厚さt3(本実施形態では1.0mm〜1.1mm)となるように加工される。
ここで、上記陥没穴L3は、皮革製品L5の表面L1側(図示上側)に向かって開口している。このため、上記圧縮層L6は、皮革製品L5の裏面L2側(図示下側)に位置される。これにより、陥没穴L3を貫通孔L4に加工する際に皮革製品L5から除去される部分を皮革製品L5の裏面L2として、皮革製品L5の見栄えの悪化を低減させることができる。
【0025】
ところで、上述した第2の手順において、皮革Lが抜き型Dを介してプレス装置Pから受ける押圧力は、図11および図12に示すように、平板Bが弾性変形することにより受け止められるようになっている。これにより、皮革Lが抜き型Dの刃部D2および穴開け棒10を介して受ける押圧力を平板Bに支持させて、皮革Lの裁断加工および陥没穴L3の形成の確実性を向上させることができる。
上記平板Bは、図9ないし図12に示すように、復元力を備えた合成樹脂により形成されている。このため、平板Bは、上述した第2の手順において穴開け棒10から押されて変形しても(図11および図12参照)、その復元力により元の状態(図9参照)に戻るようになっている。これにより、上述した圧縮層L6を、皮革Lの陥没穴L3側(図11で見て上側)に押し戻して、上述した第3の手順において圧縮層L6を除去しやすくすることができる。また、上述した皮革製品L5に貫通孔L4を形成する方法において、同じ平板Bを繰り返し使用することができ、皮革Lに貫通孔L4を形成する際のコストを低減させることができる。
【0026】
本発明は、上述した一実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような各種の形態を実施することができる。
(1)穴開け棒の先端面周りの外側面は円柱の側面である必要はなく、例えば穴開け棒をその先端側に向かって径が広がった円錐台形状に形成することができる。すなわち、穴開け棒の先端面周りの外側面を、その先端面に対する角度が垂直よりも鋭角となるように設定することができる。この構成を用いた場合でも、穴開け棒の外径により皮革の繊維を押し広げないようにしながら皮革に穴を開けることができる。
(2)本実施形態では裁断加工される皮革として天然皮革を用いたが、この皮革が人造皮革である場合でも、本発明の穴開け棒は本実施形態と同じ機能を発揮する。
(3)抜き型の形状および穴開け棒を含めた抜き型の各構成の配置は適宜設定することができる。
(4)本実施形態において、皮革製品に貫通孔を形成するために用いる手段は適宜決定することができる。例えば、第3の手順において、革漉き機の代わりに革漉き包丁を用いて革漉きを行うことができる。また、グラインダーを用いて皮革の裏面を研削により除去することもできる。
(5)本実施形態の第3の手順において、皮革の裏面の除去量を圧縮層の厚さに等しくする必要はなく、圧縮層の厚さよりも厚く皮革の裏面を除去してもよい。また、皮革の裏面の除去量を皮革の部分ごとに変えることもできる。
(6)穴開け棒の使用方法は、抜き型に一体に取り付けて皮革に貫通孔を形成するものに限定されず、例えば穴開け棒により皮革に陥没穴を形成するだけであってもよい。また、穴開け棒のみを抜き型とは独立させて用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
10 穴開け棒
11 先端面
12 外側面
B 平板
D 抜き型
D1 枠板部
D2 刃部
D3 台座部
D4 刃先
D5 当接面
G 革漉き機
L 皮革
L1 表面
L2 裏面
L3 陥没穴
L4 貫通孔
L5 皮革製品
L6 圧縮層
P プレス装置
P1 押し当て方向
S シフトノブ
S1 皮革部品
t1 厚さ
t2 厚さ
t3 厚さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状に広げられた皮革に押し当てることで、当該皮革に穴を開けることができる穴開け棒であって、
前記皮革に押し当てられる側の先端に平面状に形成された先端面と、
前記先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面と、を備え、
前記先端面は、前記穴開け棒の前記皮革への押し当て方向に対して垂直となるように設定され、
前記外側面は、当該外側面の前記先端面に対する角度が垂直または垂直よりも鋭角となるように設定されていることを特徴とする穴開け棒。
【請求項2】
請求項1に記載の穴開け棒であって、
円柱形状に形成され、かつ、当該円柱の一方側の底面が前記先端面となるように形成されていることを特徴とする穴開け棒。
【請求項3】
平面状に形成された先端面を備え、かつ、当該先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面が前記先端面に対して垂直または垂直よりも鋭角をなすように形成された穴開け棒を平面状に広げられた皮革に押し当てて、前記穴開け棒により前記皮革に貫通孔を開ける方法であって、
前記皮革を当該皮革の表面側が露見するように平面状に広げる第1の手順と、
前記穴開け棒の先端面を前記皮革の表面に対して平行にした状態で前記穴開け棒を前記皮革の表面に対して垂直に押し込み、前記皮革の表面側に陥没穴を形成する第2の手順と、
前記皮革の裏面を除去して前記陥没穴を貫通孔に加工する第3の手順と、を備えることを特徴とする皮革に貫通孔を開ける方法。
【請求項4】
請求項3に記載の皮革に貫通孔を開ける方法であって、
前記第1の手順において、復元力を備えた平板の上に前記皮革を当該皮革の裏面側が前記平板に当接するように平面状に広げ、前記第3の手順において、前記平板から前記皮革を引き離して当該皮革の裏面を除去することを特徴とする皮革に貫通孔を開ける方法。
【請求項1】
平面状に広げられた皮革に押し当てることで、当該皮革に穴を開けることができる穴開け棒であって、
前記皮革に押し当てられる側の先端に平面状に形成された先端面と、
前記先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面と、を備え、
前記先端面は、前記穴開け棒の前記皮革への押し当て方向に対して垂直となるように設定され、
前記外側面は、当該外側面の前記先端面に対する角度が垂直または垂直よりも鋭角となるように設定されていることを特徴とする穴開け棒。
【請求項2】
請求項1に記載の穴開け棒であって、
円柱形状に形成され、かつ、当該円柱の一方側の底面が前記先端面となるように形成されていることを特徴とする穴開け棒。
【請求項3】
平面状に形成された先端面を備え、かつ、当該先端面の全周の縁部を取り囲むように形成された外側面が前記先端面に対して垂直または垂直よりも鋭角をなすように形成された穴開け棒を平面状に広げられた皮革に押し当てて、前記穴開け棒により前記皮革に貫通孔を開ける方法であって、
前記皮革を当該皮革の表面側が露見するように平面状に広げる第1の手順と、
前記穴開け棒の先端面を前記皮革の表面に対して平行にした状態で前記穴開け棒を前記皮革の表面に対して垂直に押し込み、前記皮革の表面側に陥没穴を形成する第2の手順と、
前記皮革の裏面を除去して前記陥没穴を貫通孔に加工する第3の手順と、を備えることを特徴とする皮革に貫通孔を開ける方法。
【請求項4】
請求項3に記載の皮革に貫通孔を開ける方法であって、
前記第1の手順において、復元力を備えた平板の上に前記皮革を当該皮革の裏面側が前記平板に当接するように平面状に広げ、前記第3の手順において、前記平板から前記皮革を引き離して当該皮革の裏面を除去することを特徴とする皮革に貫通孔を開ける方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−87177(P2013−87177A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227931(P2011−227931)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【特許番号】特許第5085779号(P5085779)
【特許公報発行日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【出願人】(594000882)愛知皮革工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【特許番号】特許第5085779号(P5085779)
【特許公報発行日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【出願人】(594000882)愛知皮革工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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