説明

盛土の補強工法

【課題】 あらゆる方向の荷重に対して抵抗できる盛土の補強工法を提供する。
【解決手段】 基礎地盤4の上部に造成された盛土1を引張荷重及び圧縮荷重に抵抗可能な強度を有する杭7、20、25により補強する盛土の補強工法であって、前記盛土1に、前記杭7を略鉛直方向に打設するとともに、その近傍に、前記杭20を斜め方向に打設し、前記略鉛直方向の杭7の頭部と前記斜め方向の杭20の頭部とを結合して補強杭群6を構成し、この補強杭群6を前記盛土1の両側面3a、3bの少なくとも1箇所に設け、前記両側面3a、3bの対向する両補強杭群6、6に対応するように、前記盛土1に、前記杭25を略水平方向に打設し、該略水平方向の杭25の両端部と前記両補強杭群6、6の前記略鉛直方向の杭7の頭部と前記斜め方向の杭20の頭部とを結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土の補強工法に関し、特に、小口径杭(口径300mm以下の杭)を用いた盛土の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路や鉄道等を通すために、基礎地盤の上部に土砂を盛り上げて周囲よりも高い盛土(築堤等)造成する工事が行われ、このような工事によって造成された盛土を補強する方法として、例えば、特許文献1に記載のような方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の補強方法は、堤防等の盛土の法面及び犬走から口径が20〜30cmのケーシングパイプを先端が基礎地盤に達するように圧入し、ケーシングパイプ内に鉄筋を補強材として挿入し、ケーシングパイプ内に先端からコンクリートを打設しながらケーシングパイプを引き抜くことにより、盛土から基礎地盤に至る補強杭を構築し、このような補強杭を鉛直方向及び斜め方向を向くように複数構築し、法面から突出させた各補強杭の頭部間にコンクリートを打設し、この板状のコンクリートで複数の補強杭の頭部間を連結し、このような補強杭群を盛土の両法面に、長手方向に適当な間隔ごとに複数箇所に設けることにより盛土を補強し、盛土の安定化を図るように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−110319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような盛土の補強方法にあっては、複数の補強杭群によって盛土の沈下やすべりに抵抗することができるので、新設、既設を問わず、堤防、護岸、路床等の盛土を補強し、盛土の安定化を図ることはできる。
【0006】
しかし、上記のような盛土の補強方法にあっては、頭部が連結された補強杭群により、盛土に作用する鉛直荷重(地震に伴う鉛直方向の慣性力等)に対しては十分に抵抗することができるが、補強杭群が個別に設けられているため、盛土全体を補強することができず、特に、水平荷重(地震に伴う水平方向の慣性力等)に対しては十分に抵抗することができないため、盛土を初期の形状に保つことが困難になり、盛土に滑り、沈下等が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、鉛直荷重と水平荷重の両方に十分に抵抗することができる盛土の補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、基礎地盤の上部に造成された盛土を引張荷重及び圧縮荷重に抵抗可能な強度を有する杭により補強する盛土の補強工法であって、前記盛土に、前記杭を略鉛直方向に打設するとともに、その近傍に、前記杭を斜め方向に打設し、前記略鉛直方向の杭の頭部と前記斜め方向の杭の頭部とを結合して補強杭群を構成し、この補強杭群を前記盛土の両側面の少なくとも1箇所に設け、前記両側面の対向する両補強杭群に対応するように、前記盛土に、前記杭を略水平方向に打設し、該略水平方向の杭の両端部と前記両補強杭群の前記略鉛直方向の杭の頭部と前記斜め方向の杭の頭部とを結合することを特徴とする。
【0009】
本発明の盛土の補強工法によれば、鉛直荷重(例えば、自動車による活荷重、地震に伴う鉛直方向の慣性力)に対しては、盛土に鉛直下向きの荷重が作用すると、略鉛直方向の杭及び各斜め方向の杭に圧縮抵抗力が発生し、盛土内部に大きな圧縮力が作用するのを防止できる。また、盛土に鉛直上向きの荷重(地震の鉛直動のうち、上向きの慣性力が作用する場合)が作用すると、略鉛直方向の杭及び各斜め方向の杭には引張抵抗力が発生し、盛土内部に大きな引張力が作用するのを防止できる。さらに、盛土内部に鉛直上向きと下向きの歪が大きく作用する(両振幅)と、盛土内部の沈下を助長する可能性が高くなるが、略鉛直方向の杭及び各斜め方向の杭によってこれを抑制することができる。
【0010】
さらに、盛土の両側面の結合部(支点部)に、各補強杭群の略鉛直方向の杭の頭部、各斜め方向の杭の頭部、及び水平方向の杭の端部を集中させているので、各補強杭群の略鉛直方向の杭、各斜め方向の杭に作用する力を各結合部(支点部)に集中させることができるとともに、水平方向の杭を通じて対向する反対側の各補強杭群の結合部(支点部)にその力を伝達させ、その力を反対側の各補強杭群の略鉛直方向の杭及び各斜め方向の杭に分散させることができ、複数の補強杭群により、盛土の全体の安定性を確保することができる。
【0011】
さらに、本発明において、前記各杭の周囲に隙間を設け、該隙間内にグラウト材を充填することとしてもよい。
【0012】
本発明の盛土の補強工法によれば、各杭の周囲をグラウト材で覆うことができるので、各杭に錆が発生するのを防止できる。
【0013】
さらに、本発明において、前記各杭の先端に板材を取り付け、該板材の一部を前記各杭の外面から突出させ、前記各杭と前記板材とを一体に回転させることにより、前記各杭の周囲に前記隙間を設けることとしてもよい。
【0014】
本発明の盛土の補強工法によれば、各杭の周囲に容易に隙間を設けることができる。
【0015】
さらに、本発明において、前記各杭の先端に前記各杭よりも大径の先端ビットを設け、前記先端ビットを回転させることにより、前記各杭の周囲に前記隙間を設けることとしてもよい。
【0016】
本発明の盛土の補強工法によれば、各杭の周囲に容易に隙間を設けることができる。
【0017】
さらに、本発明において、前記各杭の周囲の少なくとも1箇所に、前記各杭の周囲を覆う袋体を設け、該袋体の内部にグラウト材を充填することとしてもよい。
【0018】
本発明の盛土の補強工法によれば、各杭の周囲は、内部にグラウト材を充填した袋体で覆われることになるので、錆び易い部分に袋体を設けることにより、各杭に錆が発生するのを防止できる。
【0019】
さらに、本発明において、前記各杭の複数箇所に内外を貫通する孔を設けるとともに、前記各杭の内部に袋体を設け、該袋体の内部にグラウト材を充填して膨出変形させることにより、前記袋体の一部を前記孔から前記各杭の外面側に突出させ、又は前記各杭の内部の前記各孔に対応する部分にそれぞれシート部材を設け、前記各杭の内部にグラウト材を充填することにより、前記各シート部材を膨出変形させて前記各シート部材の一部を前記各孔から前記各杭の外面側に突出させることとしてもよい。
【0020】
本発明の盛土の補強工法によれば、各杭の各孔から各杭の外面側に突出させた袋体の一部又はシート部材の一部により、各杭の周囲に隙間を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上、説明したように、本発明の盛土の補強工法によれば、あらゆる方向の荷重に抵抗することができるので、盛土の沈下、すべり、水平方向の変形を防止でき、盛土を初期の形状に保ち続けることができ、長期的に盛土の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による盛土の補強工法の一実施の形態を示した概略図である。
【図2】鉛直方向の小口径杭、斜め方向の小口径杭、及び水平方向の小口径杭の打設方法の一例を示した断面図である。
【図3】鉛直方向の小口径杭、斜め方向の小口径杭、及び水平方向の小口径杭の打設方法の他の例を示した断面図である。
【図4】鉛直方向の小口径杭、斜め方向の小口径杭、及び水平方向の小口径杭の外面側の袋体と隙間との関係を示した断面図である。
【図5】鉛直方向の小口径杭、斜め方向の小口径杭、及び水平方向の小口径杭の打設方法の内面側の袋体と隙間との関係を示した概略図である。
【図6】図5の断面図である。
【図7】連結具の斜視図である。
【図8】補強杭群の配置の一例を示した概略図である。
【図9】補強杭群の配置の他の例を示した概略図である。
【図10】本発明による盛土の補強工法による力の伝達メカニズム(水平荷重)を示した説明図である。
【図11】本発明による盛土の補強工法による力の伝達メカニズム(鉛直荷重)を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図3には、本発明による盛土の補強工法の一実施の形態が示されている。この盛土の補強工法は、小口径杭(口径300mm以下の杭)を用いた補強工法であって、道路や鉄道等を通すために造成された築堤等の盛土を補強し、盛土の安定化を図るのに有効なものである。
【0024】
すなわち、本実施の形態の盛土の補強工法は、図1に示すように、基礎地盤4の上部に土砂等を盛り上げて造成した断面台形状の盛土1に対して、複数本の小口径杭7、20、25を複数方向から打設し、これらの複数本の小口径杭7、20、25によって盛土1を補強することにより、盛土1の安定化を図るものである。
【0025】
小口径杭7、20、25は、引張荷重及び圧縮荷重に抵抗可能な強度を有する材料、具体的には、水平荷重(例えば、地震に伴う水平方向の慣性力等)、及び鉛直荷重(例えば、自動車による活荷重や地震に伴う鉛直方向の慣性力等)に対して抵抗可能な強度を有し、かつ所定の曲げ剛性を有する材料からなる杭部材8、21、26と、杭部材8、21、26の内面8c、21c、26c側及び外面8b、21b、26b側に設けられるグラウト材15とから構成され、杭部材8、21、26は、例えば、丸形鋼管、角形鋼管、H形鋼等(本実施の形態では丸形鋼管)から構成されている。
【0026】
上記のような構成の小口径杭7、20、25を用いて盛土1を補強するには、後述する連結具30をガイドとして用い、この連結具30を盛土1の一方の側面3aの所定の位置に配置し、この連結具30を利用して略鉛直方向に杭部材8を打設し、斜め方向に杭部材21を打設し、略水平方向に杭部材26を打設する。
【0027】
連結具30は、例えば、図7に示すように、軸線が略鉛直方向を向くように設けられる筒状の第1取付部31と、軸線が斜め方向を向くように設けられる傾斜角度の異なる複数の筒状の第2取付部32と、軸線が略水平方向を向くように設けられる筒状の第3取付部33と、第1取付部31と第2取付部32との間、隣接する第2取付部32間、及び第2取付部32と第3取付部33との間を溶接等によって一体に連結する板状の連結板34とから構成されている。
【0028】
上記の連結具30を、第1取付部31が略鉛直方向を向き、第2取付部32が斜め方向を向き、第3取付部33が略水平方向を向くように、盛土1の一方の側面3aの所定の位置に配置し、第1取付部31をガイドとして杭部材8を打設し、各第2取付部32をガイドとして杭部材21を打設し、第3取付部33をガイドとして杭部材26を打設することにより、盛土1の一方の側面3aから略鉛直方向に杭部材8を打設し、斜め方向に複数本の杭部材21を打設し、略水平方向に杭部材27を打設することができる。
【0029】
杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26を打設した後に、溶接等により、杭部材8の頭部9を第1取付部31に一体に連結し、杭部材21の頭部22を第2取付部32に一体に連結し、杭部材26の端部26aを第3取付部33に一体に連結し、杭部材8の頭部8と各杭部材21の頭部22と杭部材26の端部26aとを連結具30を介して剛結合する。
【0030】
なお、上記の連結作業は、後述するように、杭部材8、21、26の外面8b、21b、26b側に形成される隙間14内、及び杭部材8、21、26の内面8c、21c、26c側にグラウト材15を充填して固化させ、杭部材8、21、26を地山(盛土1、基礎地盤4、及び支持層5)と一体化した後に行うように構成してもよい。
【0031】
なお、連結具30は、上記の構成のものに限らず、杭部材8の頭部9と各杭部材21の頭部22と杭部材26の端部26aとを剛結合できる構成のものであればよい。また、連結具30を用いずに、杭部材8の頭部9と各杭部材21の頭部22と杭部材26の端部26aとを溶接等によって直接に剛結合するように構成してもよい。
【0032】
杭部材8は、例えば、図2及び図3に示すような方法によって盛土1に打設することができる。図2に示す方法は、杭部材8の先端8aを斜めに切断し、この斜めに切断した杭部材8の先端8aに略楕円形状の板材12を取り付け、この板材12の一部を杭部材8の外面8bから外方に延出させ、杭部材8と板材12とを一体に回転させながら圧入することにより、杭部材8の先端8aを盛土1、基礎地盤4を貫通させて支持層5に貫入させる方法である。
【0033】
また、図3に示す方法は、杭部材8の先端8aに杭部材8よりも大径の先端ビット13を設け、このような構成の杭部材8と先端ビット13とを一体に回転させながら圧入することにより、杭部材8の先端8aを盛土1、基礎地盤4を貫通させて支持層5に貫入させる方法である。
【0034】
図2及び図3に示すような方法によって杭部材8を地山(盛土1、基礎地盤4、及び支持層5)に貫入させることにより、地山に、杭部材8よりも大径の孔を削孔できるとともに、削孔によって生じた土砂を孔外に容易に排出することができ、杭部材8の外面8bと地山との間に所定の筒状の隙間14を形成することができる。
【0035】
そして、上記のように形成した隙間14内、及び杭部材8の内面8c側にセメントミルク等のグラウト材15を充填して固化させることにより、杭部材8と地山(盛土1、基礎地盤4、及び支持層5)とを一体化した略鉛直方向の小口径杭7を構築することができる。
【0036】
なお、図4に示すように、予め、杭部材8の外面8bの1箇所又は複数箇所に、杭部材8の全周を覆う筒状の袋体16を取り付け、袋体16に注入管(図示せず)を挿入しておき、杭部材8を地山に貫入させた後に、袋体16の内部に注入管を介してセメントミルク等のグラウト材15を充填して膨出変形させ、袋体16によって杭部材8の外面8bを被覆するように構成してもよい。このような袋体16を杭部材8に取り付けておくことにより、杭部材8の外面8b側に所定の隙間14を確保することができるとともに、袋体16で杭部材8の外面8bを被覆することができるので、地下水等が作用する部分に袋体16を設けておくことにより、杭部材8に錆びが発生するのを防止できる。なお、注入管は、袋体16へのグラウト材の注入後に撤去してもよいし、残置させてもよい。
【0037】
なお、袋体16の両端の杭部材8の部分に環状の突起10を一体に設けておき、袋体16の外面が突起10よりも外方に食み出ないように構成しておくことにより、杭部材8を地山に貫入させる際に、袋体16が地山と接触して損傷等するのを防止できる。
【0038】
また、図5及び図6に示すように、杭部材8の複数箇所に内外を貫通する孔11を設けるとともに、杭部材8の内面8c側に袋体17を装着しておき、杭部材9の内面8c側にグラウト材15を充填することにより袋体17を膨出変形させ、袋体17の一部を各孔11を介して杭部材8の外面8b側に突出させるように構成してもよい。このように袋体17の一部を杭部材8の外面8b側に突出させることにより、杭部材8の外面8b側に所定の隙間14を確保することができる。
さらに、図示はしないが、杭部材8の内面8c側の各孔11に対応する部分にシート部材を設けて、シート部材の周縁部を各孔11の周縁部に接着剤等によって一体に接合しておき、杭部材8の内面8c側にグラウト材を充填することにより、各シート部材を膨出変形させて、各シート部材の一部を各孔11から杭部材8の外面8b側に突出させるように構成してもよい。このようにシート部材の一部を杭部材8の外面8b側に突出させることにより、杭部材8の外面8b側に所定の隙間14を確保することができる。
【0039】
杭部材21は、杭部材8と同様の方法により、地山(盛土1、支持地盤4、及び支持層5)に角度を変えて複数本打設し、各杭部材21の外面21b側に形成された隙間14内、及び各杭部材21の内面21c側にセメントミルク等のグラウト材15を充填して固化させることにより、各杭部材21と地山(盛土1、支持地盤4、及び支持層5)とを一体化した斜め方向の小口径杭20を構築することができる。
【0040】
また、杭部材8と同様に、各杭部材21の外面21bの1箇所又は複数箇所に、各杭部材21の全周を覆う筒状の袋体16を取り付けておき、この袋体16の内部にグラウト材15を充填するように構成してもよい。さらに、各杭部材21の複数箇所に内外を貫通する孔23を設けるとともに、各杭部材21の内面23c側に袋体17を装着しておき、各杭部材21の内面23c側にグラウト材15を充填することにより袋体17を膨出変形させ、袋体17の一部を各孔23を介して各杭部材21の外面21b側に突出させるように構成してもよい。さらに、各杭部材21の内面23c側の各孔23に対応する部分にシート部材を設けておき、各杭部材21の内面23c側にグラウト材15を充填することにより、各シート部材を膨出変形させて、各シート部材の一部を各孔23から各杭部材21の外面21b側に突出させるように構成してもよい。
【0041】
杭部材26は、杭部材8と同様の方法により、地山(盛土1)に打設し、杭部材26の外面26b側に形成された隙間14内、及び杭部材26の内面26c側にセメントミルク等のグラウト材15を充填して固化させることにより、杭部材26と地山(盛土1)とを一体化した略水平方向の小口径杭25を構築することができる。
【0042】
また、杭部材8と同様に、杭部材26の外面26bの1箇所又は複数箇所に、杭部材26の全周を覆う筒状の袋体16を取り付けておき、この袋体16の内部にグラウト材15を充填するように構成してもよい。さらに、杭部材26の複数箇所に内外を貫通する孔27を設けるとともに、杭部材26の内面26c側に袋体17を装着しておき、杭部材26の内面26c側にグラウト材15を充填することにより袋体17を膨出変形させ、袋体17の一部を孔27を介して各杭部材26の外面26b側に突出させるように構成してもよい。さらに、各杭部材26の内面26c側の各孔27に対応する部分にシート部材を設けておき、各杭部材26の内面26c側にグラウト材15を充填することにより、各シート部材を膨出変形させて、各シート部材の一部を各孔27から各杭部材26の外面26b側に突出させるように構成してもよい。
【0043】
上記のように盛土1の一方の側面3aの所定の位置に設けられた略鉛直方向の小口径杭7と複数本の斜め方向の小口径杭20とによって補強杭群6が構成され、このような補強杭群6を盛土1の両側面3a、3bに長手方向に沿って所定の間隔ごとに複数箇所に設け、両側面3a、3bの対向する補強群6、6間を各補強杭群6に対応して設けられた略水平方向の小口径杭25によって連結する。
【0044】
この場合、図8に示すように、盛土1の両側面3a、3bに、両側面3a、3bの複数の補強杭群6同士が互いに正対するように設け、対向する補強杭群6間を略水平方向の小口径杭25によって連結してもよいし、図9に示すように、一方の側面3aの複数の補強杭群6と他方の側面3bの複数の補強杭群6とが斜めに対向するように、各側面3a、3bに複数の補強杭群6を設け、斜め方向に対向する補強杭群6間を略水平方向の小口径杭25によって連結してもよい。図9に示すような構成とした場合には、複数の補強杭群6によってトラス構造を構成することができる。
【0045】
上記のように構成した本実施の形態の盛土の補強工法にあっては、1本の略鉛直方向の小口径杭7の杭部材8の頭部9と複数本の斜め方向の小口径杭20の杭部材21の頭部22とを連結具30によって剛結合することによって1つの補強杭群6を構成し、このような補強杭群6を盛土1の両側面3a、3bに長手方向に所定の間隔ごとに複数箇所に設け、両側面3a、3bの対向する両補強杭群6の略鉛直方向の小口径杭7の杭部材8及び各斜め方向の小口径杭20の杭部材21の頭部9、22間を略水平方向の小口径杭25の杭部材26の両端部26a、26aで連結し、杭部材26の両端部26a、26aと両補強杭群6の杭部材8及び各杭部材21の頭部9、22とを連結具30によって剛結合したことにより、以下のような作用効果を奏する。
【0046】
水平荷重(例えば、地震に伴う水平方向の慣性力)に対しては、図10に示すように、盛土1の両側面3a、3bの剛結合部(支点部A)で補強杭群6の略鉛直方向の小口径杭7の杭部材8の頭部9、各斜め方向の小口径杭20の杭部材21の頭部22、略水平方向の小口径杭25の杭部材26の端部26aを連結しているので、略鉛直方向の小口径杭7、各斜め方向の小口径杭20、及び略水平方向の小口径杭25に作用する力を剛結合部(支点部A)に集中させることができ、この力を略水平方向の小口径杭25を介して対向する反対側の補強杭群6の剛結合部(支点部B)に伝達させ、反対側の補強杭群6の略鉛直方向の小口径杭7、各斜め方向の小口径杭20に分散させることができる。
例えば、図10の左方向(矢印)への慣性力が作用した場合には、盛土1の側面3b側の部分には引張力が作用し、側面3a側には圧縮力が作用することになるが、これらの荷重を側面3b側の小口径杭7、20、側面3a側の小口径杭7、20、及び両側面3a、3b間の小口径杭25によって支持することができるので、盛土1の変形を抑制することができる。また、図10の右方向への慣性力が作用した場合には、盛土1の側面3b側の部分には圧縮力が作用し、側面3a側には引張力が作用することになるが、これらの荷重を側面3b側の小口径杭7、20、側面3a側の小口径杭7、20、及び両側面3a、3b間の小口径杭25によって支持することができるので、盛土1の変形を抑制することができる。
従って、盛土1の両側面3a、3bの両補強杭群6の相互作用により、水平荷重に抵抗することができるので、盛土1に、滑り、水平方向の変形等が生じるようなことはなく、盛土1を初期の断面形状に保つことができ、盛土1全体の安定性を確保することができる。
【0047】
鉛直荷重(例えば、自動車による活荷重、地震に伴う鉛直方向の慣性力)に対しては、図11に示すように、盛土1に鉛直下向きの荷重が作用した場合には、略鉛直方向の小口径杭7及び各斜め方向の小口径杭20に圧縮抵抗力が発生することにより、盛土1内部に大きな圧縮力が作用するのを防止できる。反対に、盛土1に鉛直上向きの荷重(地震の鉛直動のうち、上向きの慣性力が作用する場合)が作用した場合には、略鉛直方向の小口径杭7及び各斜め方向の小口径杭20に引張抵抗力が発生することにより、盛土1内部に大きな引張力が作用するのを防止できる。盛土1内部に鉛直上向きと下向きの歪が大きく作用する(両振幅)と、盛土1内部の沈下を助長する可能性が高いが、複数の補強杭群6の略鉛直方向の小口径杭7及び各斜め方向の小口径杭20によりこのような現象を抑制することができる。従って、鉛直荷重に抵抗することができるので、盛土1に沈下、水平方向の変形等が生じるようなことはなく、盛土1を初期の断面形状に保つことができ、盛土1全体の安定性を確保することができる。
【0048】
また、略鉛直方向の小口径杭7の杭部材8、各斜め方向の小口径杭20の杭部材21、及び略水平方向の小口径杭25の杭部材26の外面側に隙間14を設け、その隙間14内にグラウト材15を充填するように構成したので、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26に錆が発生するのを防止できる。
【0049】
さらに、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26の外面側に袋体16を設け、袋体16の内部にグラウト材15を充填することにより、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26を被覆するように構成したので、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26の錆び易い部分に袋体16を設けることにより、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26に錆が発生するのを防止できる。
【0050】
さらに、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26に内外を貫通する孔11、23、27を設けるとともに、内面側に袋体17を設けて、袋体17の内部にグラウト材15を充填することにより袋体17を膨出変形させて、袋体17の一部を孔13、23、27から杭部材8、各杭部材211、及び杭部材26の外面側に突出させるように構成したので、杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26の外面側に所定の隙間14を確保でき、その隙間14にグラウト材15を充填することにより杭部材8、各杭部材21、及び杭部材26に錆びが発生するのを防止できる。
【0051】
さらに、各補強杭群6が設けられている盛土1の各地点において、その部分に生じる沈下、あらゆる方向の滑りを各補強杭群6の鉛直方向の小口径杭7及び各斜め方向の小口径杭20によって抑制できる。
【0052】
さらに、盛土1の両側面3a、3bの複数の補強杭群6と、対向する補強杭群6、6間を連結する略水平方向の小口径杭25とにより、盛土1に何れの方向から荷重が作用しても、それらの荷重に抵抗することができるので、盛土1を初期の断面形状に保つことができ、盛土1に大きなすべりや沈下が生じるのを防止できる。
【0053】
さらに、盛土1の両側面3a、3bから各補強杭群6を施工することになるので、盛土1を鉄道や道路等の築堤として利用しながら施工することも可能となる。さらに、盛土1の両側面3a、3bに鋼矢板(シートパイル)等が設けられている場合には、鋼矢板等をドリルで貫通した後に、盛土1に各杭部材8、21、26を打設することができるので、そのような状況でも施工することが可能となる。
【0054】
なお、前記の説明においては、連結具30をガイドとして、杭部材8、杭部材21、杭部材26を地山に打設したが、杭部材8、杭部材21、及び杭部材26を地山に打設した
後に、杭部材8の頭部9と杭部材21の頭部22と杭部材26の端部26aとを連結具30により連結してもよい。
【0055】
この場合、杭部材8、杭部材21、及び杭部材26の打設位置が所定の位置からずれる場合もあるので、そのような場合には、打設した杭部材8の頭部9、杭部材21の頭部22、及び杭部材26の端部26aにそれぞれ第1取付部31、第2取付部32、及び第3取付部33を取り付けた後に、第1取付部31と第2取付部32との間隔に合わせた寸法の連結板34、隣接する第2取付部32、32間の間隔に合わせた寸法の連結板34、第2取付部32と第3取付部33との間隔に合わせた寸法の連結板34を用意し、この連結板34により第1取付部31と第2取付部32との間、隣接する第2取付部32、32間、及び第2取付部32と第3取付部33との間を連結するように構成すればよい。
【0056】
なお、前記の説明においては、盛土2の複数箇所に補強杭群6を設けたが、1箇所のみに補強杭群6を設けるように構成してもよい。
【0057】
また、前記の説明においては、補強杭群6を、1本の略鉛直方向の小口径杭7と複数本の斜め方向の小口径杭20とによって構成したが、基礎地盤4の条件によっては、補強杭群6を、1本の略鉛直方向の小口径杭7と1本の斜め方向の小口径杭20とによって構成してもよい。
【0058】
さらに、前記の説明においては、杭部材8、21を、先端8a、21aが支持層5に達する深さまで打設したが、十分な摩擦抵抗力が得られる場合には、杭部材8、21の先端8a、21aを基礎地盤4内で止めるように構成してもよい。
【0059】
さらに、前記の説明においては、略鉛直方向の小口径杭7の頭部9と斜め方向の小口径杭20の頭部22と略水平方向の小口径杭25の端部26aとを剛結合したが、それらをヒンジ結合又はスライド結合として、所定の荷重までは回動又はスライド可能、所定以上の荷重では剛結合としてもよいし、或いは、それらをヒンジ結合又はスライド結合として、所定の荷重までは剛結合、所定以上の荷重では回動可能又はスライド可能に構成してもよい。このような結合にしても、上述した剛結合のものと同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0060】
1 盛土
2 上面
3 側面
3a 一方の側面
3b 他方の側面
4 基礎地盤
5 支持層
6 補強杭群
7 略鉛直方向の小口径杭
8 杭部材
8a 先端
8b 外面
8c 内面
9 頭部
10 突起
11 孔
12 板材
13 先端ビット
14 隙間
15 グラウト材
16 袋体
17 袋体
20 斜め方向の小口径杭
21 杭部材
21a 先端
21b 外面
21c 内面
22 頭部
23 孔
25 略水平方向の小口径杭
26 杭部材
26a 端部
26b 外面
26c 内面
27 孔
30 連結具
31 第1取付部
32 第2取付部
33 第3取付部
34 連結板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎地盤の上部に造成された盛土を引張荷重及び圧縮荷重に抵抗可能な強度を有する杭により補強する盛土の補強工法であって、
前記盛土に、前記杭を略鉛直方向に打設するとともに、その近傍に、前記杭を斜め方向に打設し、前記略鉛直方向の杭の頭部と前記斜め方向の杭の頭部とを結合して補強杭群を構成し、この補強杭群を前記盛土の両側面の少なくとも1箇所に設け、前記両側面の対向する両補強杭群に対応するように、前記盛土に、前記杭を略水平方向に打設し、該略水平方向の杭の両端部と前記両補強杭群の前記略鉛直方向の杭の頭部と前記斜め方向の杭の頭部とを結合することを特徴とする盛土の補強工法。
【請求項2】
前記各杭の周囲に隙間を設け、該隙間内にグラウト材を充填することを特徴とする請求項1に記載の盛土の補強工法。
【請求項3】
前記各杭の先端に板材を取り付け、該板材の一部を前記各杭の外面から突出させ、前記各杭と前記板材とを一体に回転させることにより、前記各杭の周囲に前記隙間を設けることを特徴とする請求項2に記載の盛土の補強工法。
【請求項4】
前記各杭の先端に前記各杭よりも大径の先端ビットを設け、前記先端ビットを回転させることにより、前記各杭の周囲に前記隙間を設けることを特徴とする請求項2に記載の盛土の補強工法。
【請求項5】
前記各杭の周囲の少なくとも1箇所に、前記各杭の周囲を覆う袋体を設け、該袋体の内部にグラウト材を充填することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の盛土の補強工法。
【請求項6】
前記各杭の複数箇所に内外を貫通する孔を設けるとともに、前記各杭の内部に袋体を設け、該袋体の内部にグラウト材を充填して膨出変形させることにより、前記袋体の一部を前記孔から前記各杭の外面側に突出させ、又は前記各杭の内部の前記各孔に対応する部分にそれぞれシート部材を設け、前記各杭の内部にグラウト材を充填することにより、前記各シート部材を膨出変形させて前記各シート部材の一部を前記各孔から前記各杭の外面側に突出させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の盛土の補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−117249(P2011−117249A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277913(P2009−277913)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】