説明

監視システム

【課題】事象に対する監視情報を分析して兆候を検出し、複数の兆候から事象の発生を総合判断する。それにより、早期に自然災害等の発生を的確に監視することができる監視システムを提供する。
【解決手段】監視システム1の監視データを取得する兆候監視部3A、3B、3Cは、監視データを分析判定して兆候データを検出する際に用いるしきい値が、総合判断部4によって変更自在に設定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視対象から複数の兆候の情報を的確に入手し、事象の発生予測を迅速に総合判断を行うことができる監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から大雨や台風の接近の際には、監視システムとして、例えば、河川情報提供システムが機能している。河川情報提供システムでは、河川の氾濫による災害を防止するため、雨量、水位等の河川情報(例えば、雨量レーダ、テレメータなどの監視データ、水位予測データや浸水深、浸水範囲、破堤幅等の情報)が観測されて発表されている。
【0003】
通常、監視データに基づく監視システムである従来の河川情報提供システムでは、気象・海象情報やテレメータ雨量水位情報等を単に個別に表示・アナウスするもので、各種のデータを総合分析した総合判断結果は示されていない。
【0004】
また、避難誘導支援情報や氾濫シミュレーション情報、土砂災害予測情報、及び過去のデータとの参照分析に関する情報等は、含まれていない。
【0005】
また、従来システムにおける情報の表示は単に、数値や表やグラフでの表示であり、専門家でない者にはわかりにくい。また、過去のデータとの比較がなされないため、データが示す危険の度合いが判りにくい。
【0006】
また、公的機関からの気象予警報・洪水予警報・水防警報等は、発表内容の伝達にとどまっており、独自にデータを解析してアラーム通知をおこなうことはなされていない。
【0007】
また、平成13年6月に水防法が改正され、河川管理者である国や都道府県は、管理する河川について浸水想定区域を指定し、これを受けて市町村は、地域防災計画において洪水予報の伝達方法や避難情報などを定めると共に、住民に対してこれらの情報を公表することになっている。この公表の手段として現在、洪水ハザードマップの作成が進められている。
【0008】
この洪水ハザードマップは、住民に対して水害による被害を軽減できるように水害に対する各種情報を分かり易いスタイルで公表し、自分の住んでいる地域の水害危険度を認識してもらい、延いては自主的な防災活動を促すことにより、洪水による被害を最小限に食い止めることを目的として活用されている。(例えば、特許文献1を参照)
【特許文献1】特開2004−197554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、従来の河川情報提供システムは、監視データに基づく気象・海象情報やテレメータ雨量水位情報等を単に個別に表示するもので、各種のデータを総合して分析した総合判断結果は示されていない。
【0010】
従って、警報等の出ていない段階では、一般の人はアナウスされた個々の情報をハザードマップ等を参考にしたりして、それぞれの人が自分で判断して対処しなければならない。もし、不適切な判断により後の行動を決定した場合には、避難が遅れたりして災害にまきこまれてしまう恐れも有る。
【0011】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたもので、事象に対する監視情報を分析して総合判断し兆候を検出し、複数の兆候から事象の発生予測を総合判断する。それにより、早期に自然災害等の発生を的確に監視することができる監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、監視対象の監視データを取得する複数の兆候センサを有し、前記監視データを分析判定して兆候データを検出する複数の兆候監視部と、この兆候監視部が検出した複数の前記兆候データから事象の発生を検出および予測する総合判定部と、この総合判定部と接続し、多種多様な事象やその兆候及び事象発生の発生確率と密接するしきい値の関係を蓄積したデータベースとを具備した監視システムであって、
前記兆候監視部は前記監視データを分析判定して前記兆候データを検出する際に用いるしきい値が、前記総合判定部によって変更自在に設定可能であることを特徴とする監視システムが提供される。
【0013】
また、前記総合判定部から発生事象の情報や事象発生予測の情報を受け取り、表示する表示部を備えていることを特徴とする監視システムが提供される。
【0014】
また、前記しきい値の設定変更は、前記兆候監視部に接続している操作部によって手動により設定することができることを特徴とする監視システムが提供される。
【0015】
また、前記総合判定部は、さらに他の兆候の発生を予測する他兆候発生予測手段を備えていることを特徴とする監視システムが提供される。
【0016】
また、前記兆候監視部は、前記兆候センサからの信号を入力して分析を行う兆候分析手段と、この兆候分析手段での分析結果を受け取り、兆候の発生を判定する兆候発生判定手段を備えていることを特徴とする監視システムが提供される。
【0017】
また、前記兆候発生判定手段は、前記総合判定部で設定される前記しきい値を参照することを特徴とする監視システムが提供される。
【0018】
さらに、前記兆候監視部には、少なくとも河川監視をおこなう兆候監視部を含んでいることを特徴とする記載の監視システムが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、事象についての複数の兆候を示す情報を一括して分析判断することにより、事象発生の有無を総合的に判断することができる。それにより兆候の早期発見を支援することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の監視システムを実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の監視システムの一実施形態を示すブロック図である。監視システム1は大別すると、各兆候センサ2a、2b、2cにより観測した兆候(ある事象につながる前触れ)の監視データを分析・判定し、兆候データを検出する兆候監視部3A、3B、3Cと、この兆候監視部3A、3B、3Cからの検出結果としての兆候データを入力し、事象(複数の特定の兆候により、その発生が判断される)の発生を総合的に判定・予測する総合判定部4と、この総合判定部4にそれぞれ接続された表示部5と、データベース(DB)6と、操作部7とで構成されている。
【0022】
兆候監視部3A、3B、3Cは、例えば、河川監視、気象レーダおよび衛星画像のそれぞれの観測対象毎に、河川監視兆候監視部3A、気象レーダ兆候監視部3Bおよび衛星画像兆候監視部3Cが形成されている。
【0023】
それぞれの各兆候監視部3A、3B、3Cは、(イ)観測により監視データを収集する兆候センサ2a、2b、2c、(ロ)兆候センサ2a、2b、2cが収集した監視データを分析して、特徴パラメータを抽出する兆候分析手段8a、8b、8c、(ハ)兆候分析手段8a、8b、8cで抽出した特徴パラメータに対して、しきい値判定により兆候の判定をおこない、兆候の発生を意味する兆候データを検出する兆候発生判定手段9a、9b、9cとで構成されている。
【0024】
兆候センサ2a、2b、2cとそれによる兆候データは、例えば、レーダによる雨量データ、テレメータによる雨量・水位・水質・ダム諸量等情報、光ファイバセンサによる堤体変状・堤体内水位・河川水位・内水位情報、GIS(Geographic Information System)による地図情報、GPS(Global Positioning System)等による位置情報及びCCTV、デジタルカメラ、移動体からの動画像・静止画像情報等の諸データである。
【0025】
また、特徴パラメータとしては、災害に影響を及ぼす度合いの強いもの、例えば、水位、雨量等を選定する。
【0026】
データベース(DB)6には、種々の個別のデータベース(不図示)が蓄積され、各個別のデータベースには、それぞれの過去の蓄積データと兆候監視部3A、3B、3Cに設定するしきい値とが蓄積されている。
【0027】
個別のデータベースの例は、雨量、水位、水質等に関連する水位水質データベース、河川の渇水データを蓄積してある渇水データベース、過去の洪水情報が蓄積してある洪水データベース、過去の土砂災害情報を蓄積してある土砂災害データベース、住所データベース等である。これらのデータベースは、洪水予測、土砂災害予測、氾濫シミュレーション等によって更に細分化、又は新たなデータベースが構築されて蓄積される。
【0028】
総合判定部4は、(イ)各兆候監視部3A、3B、3Cの各兆候発生判定手段からの判定結果として発生した兆候の兆候データを入力し、この兆候データに基づきデータベース6を参照して発生した事象を判定し、判定結果を表示部5に表示する事象の発生検出手段4A、(ロ)発生した兆候の兆候データを入力し、この兆候データに基づきデータベース6を参照して、発生しそうな事象を予測して抽出をおこなう事象の発生予測手段4B、(ハ)事象の発生予測手段4Bから発生予測に基づき、発生しそうな事象に対する監視すべき兆候データのしきい値を自動設定し、兆候発生判定の感度を変更する他兆候の発生予測手段4Cとで構成されている。
【0029】
また、総合判定部4には、事象判定結果や事象判定予測結果等を表示するディスプレイ等の表示部5、事象・兆候・しきい値等のデータと関係テーブルが格納されているデータベース6、および、しきい値を手動により設定することができる操作部7が接続されている。
【0030】
次に、上記構成の監視システム1の動作について、図2に示した監視システム1のフローチャートを参照して説明する。なお、各部については、図1で示した名称と符号を用いている。
【0031】
まず、兆候監視部3A、3B、3Cの兆候センサ2a、2b、2cで監視データを入手して兆候を監視する(ステップS1)。
【0032】
次に、兆候センサ2a、2b、2cが収集した監視データを、兆候析手段で分析して特徴パラメータを抽出する。この抽出した特徴パラメータを兆候発生判定手段9a、9b、9cにより、予め設定されているしきい値と比較してしきい値判定を行い、兆候が有ると判定した場合は、兆候データとて、その結果を総合判定部4に通知する(ステップS2)。
【0033】
総合判定部4の事象の発生検出手段4Aでは、データベース6を参照して、入力された兆候データと一致する事象をデータベース6から抽出し、事象の発生を判定する(ステップS3)。
【0034】
判定により、「事象の発生あり」と判定された場合は、その結果を表示部5に表示する(ステップS4)(ステップS5)。
【0035】
判定により、「事象の発生なし」と判定された場合は、事象の発生予測手段4Bで、データベース6から検出した兆候を含む発生しそうな事象を予測して抽出をおこなう(ステップS6)。
【0036】
発生しそうな事象を予測の抽出により、「予測事象あり」の場合は、結果を表示装置に表示する。一方、発生しそうな事象を予測の抽出により、「予測事象なし」の場合は、兆候の監視を継続する(ステップS7)(ステップS8)。
【0037】
発生しそうな事象を予測の抽出により、「予測事象あり」の場合は、さらに、その表示結果により、予測した事象の発生を見落とすことなく確実に検出するために、兆候監視部3A、3B、3Cに設定する監視すべき兆候のしきい値を変えるか否か判断する(ステップS9)。
【0038】
兆候監視部3A、3B、3Cに設定する監視すべき兆候のしきい値を変えるか否かの判断で、「変える」と判断した場合は、兆候監視部3A、3B、3Cに設定するしきい値を他兆候の発生予測手段4Cにより自動設定するか、または、操作部7により手動設定する。そして、新たに設定されたしきい値によって兆候監視部3A、3B、3Cで兆候の監視を継続する(ステップS10)。
【0039】
一方、兆候監視部3A、3B、3Cに設定する監視すべき兆候のしきい値を「変えない」と判断した場合は、従来のしきい値のままで兆候監視部3A、3B、3Cで兆候の監視を継続する。
【0040】
次に、事象の判断、および、「しきい値の変更」と「兆候の発生」との関係について説明する。図3は、事象と兆候との関係を説明する説明図であり、図4は、「しきい値の変更」と「兆候の発生」との関係の説明図である。なお、図4では、O印が兆候の発生を示している。
【0041】
すなわち、図3に示したように、各事象は、それぞれ、複数の兆候(例えば、事象1の場合、兆候A〜兆候C)によって判断される。
【0042】
また、図4に示したように、事象(事象1〜事象5)の判断に用いられる各兆候(兆候A〜兆候E)は、しきい値の設定値により、抽出される場合と、抽出されない場合が存在する。
【0043】
例えば、兆候A(河川特定地点水位)の場合、しきい値a1では、事象1(堤防決壊)、事象2(道路冠水)および事象3(流域浸水)では、兆候の発生が検出される。しかし、事象4(橋脚流出)および事象5(土石流発生)では、兆候の発生としては検出されない。
【0044】
ただし、しきい値a1をしきい値a2に変更した場合は、事象4(橋脚流出)が、兆候の発生として検出されるようになる。
【0045】
なお、兆候B〜兆候Eと事象1〜事象5についても、同様である。
【0046】
従って、状況に応じてしきい値を変更することによって、事象ごとに適切に兆候を検出することができる。それにより、住民に早めの避難勧告等を伝達することができ、災害を被害を抑制することができる。
【0047】
また、事象の発生予測手段4Bによる予測は、予測モデルを用いておこなう。この適用される予測モデルの中で外乱特性を記述する様々な方法がある。例えば、外乱特性を記述する方法として大きく分けると、ARX(Autoregressive model with exogenous input)モデルに代表される式誤差モデルと、FIR(Finite Impulse Response)モデルに代表される出力誤差モデルとがある(厳密にはFIRモデルは、出力誤差モデルであると同時に式誤差モデルでもあるが、予測の観点からは出力誤差モデルと考える方がよい)。この外乱特性の記述法の違いは、結果的に予測方法の違いとなって現われ、さらに、この予測方法の違いが予測精度に影響を与える。
【0048】
すなわち、例えば、洪水の最も重要な指標である河川の水位を予測する場合、ARXモデル(式誤差モデル)においては、河川水位変化の間接要因である過去の水位変化の自己回帰部分による予測と、河川水位変化の直接要因である降雨量および汲み出し装置のポンプ吐出量等の外部入力部分による予側と、によって河川水位予測が行われる。
【0049】
一方、FIRモデル(出力誤差モデル)おいては、直接要因である外部入力による予測によってのみ河川水位予測が行われる。ここで過去の河川水位を間接要因としたのは、直接要因である降雨量や上流側ポンプ吐出量の変化の結果として過去の水位が変化し、その過去の水位が未来の水位に変化を与えているからである。すなわち、過去の水位は未来の水位を変化させるための「本当の要因」ではないからである。
【0050】
これらの予測モデルは、過去の実績に応じていずれかが選択される場合も有るし、双方が適用される場合もある。
【0051】
これらの予測によっても、事象ごとに適切に兆候を予測することができる。それにより、住民に早めの避難勧告等を伝達することができ、災害を被害を抑制することができる。
【0052】
なお、本発明は上記の実施形態のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の監視システムの一実施形態を示すブロック図。
【図2】本発明の監視システムの一実施形態を示すフローチャート。
【図3】本発明の監視システムにおける事象と兆候との関係を説明する説明図。
【図4】本発明の監視システムにおける「しきい値の変更」と「兆候の発生」との関係の説明図。
【符号の説明】
【0054】
1…監視システム、2a、2b、2c…兆候センサ、3A、3B、3C…兆候監視部、4…総合判定部、4A…事象の発生検出手段、4B…事象の発生予測手段、4C…他兆候の発生予測手段、5…表示部、6…データベース、7…操作部、8a、8b、8c…兆候分析手段、9a、9b、9c…兆候発生判定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の監視データを取得する複数の兆候センサを有し、前記監視データを分析判定して兆候データを検出する複数の兆候監視部と、この兆候監視部が検出した複数の前記兆候データから事象の発生を検出および予測する総合判定部と、この総合判定部と接続し、多種多様な事象やその兆候及び事象発生の発生確率と密接するしきい値の関係を蓄積したデータベースとを具備した監視システムであって、
前記兆候監視部は前記監視データを分析判定して前記兆候データを検出する際に用いるしきい値が、前記総合判定部によって変更自在に設定可能であることを特徴とする監視システム。
【請求項2】
前記総合判定部から発生事象の情報や事象発生予測の情報を受け取り、表示する表示部を備えていることを特徴とする請求項1記載の監視システム。
【請求項3】
前記しきい値の設定変更は、前記兆候監視部に接続している操作部によって手動により設定することができることを特徴とする請求項1又は2記載の監視システム。
【請求項4】
前記総合判定部は、さらに他の兆候の発生を予測する他兆候発生予測手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の監視システム。
【請求項5】
前記兆候監視部は、前記兆候センサからの信号を入力して分析を行う兆候分析手段と、この兆候分析手段での分析結果を受け取り、兆候の発生を判定する兆候発生判定手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の監視システム。
【請求項6】
前記兆候発生判定手段は、前記総合判定部で設定される前記しきい値を参照することを特徴とする請求項5記載の監視システム。
【請求項7】
前記兆候監視部には、少なくとも河川監視をおこなう兆候監視部を含んでいることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−15916(P2008−15916A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188278(P2006−188278)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】