説明

監視診断システム

【課題】 内燃機関表面の特定部位に取り付けられた表面振動センサにより検出される表面振動の性能データに対して、表面振動センサの特性等を考慮しつつ予め定められた手法によって異常の有無を検知し、異常が見つかった場合にはその異常の種類から総合的に判断して故障箇所と故障内容とを診断する。
【解決手段】 内燃機関表面の振動計測部位に取り付けられた表面振動センサ61aと、この表面振動センサ61aによる振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、取り込んだ期間単位のデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理部62とを備えており、異常検知部6は、このフィルタ処理部62にて求められた実効値と正常範囲値データ格納部8に格納されている正常範囲値とを比較することにより、実効値が正常範囲値から外れている場合に異常を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の特定の部位に設置された表面振動センサ及び温度、圧力等の従来センサにより検出される性能データに基づいて内燃機関の各部の異常を検知し故障を診断する監視診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の故障を予知する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この故障予知装置は、機関の各部の振動や温度、発生音等を検出するための複数のセンサと、これらの各センサの検出値の変化を予め各種の異常に応じて設定された標準的な変化傾向と比較し、特定の変化傾向の組み合わせと一致する傾向を示している場合にその変化傾向に該当する箇所の異常と判定する判定手段と、この判定手段による判定結果を予知信号として出力する出力手段とを備えている。
【0004】
このような構成の故障予知装置によれば、例えば振動センサを主軸受メタルに1個、シリンダブロックに2個、ギアケースに1個、排気マニホールドに1個ずつ設け、温度センサを主軸受メタルの裏側と各気筒の排気管に1個ずつ、潤滑油系に1個設け、音センサを機関の近傍に配置する、というように必要な箇所にそれぞれ必要なセンサを取り付けることにより、例えば、主軸受メタルに取り付けられた振動センサと温度センサとによって主軸受メタルの磨耗状態が判定でき、シリンダブロックに取り付けられた振動センサと主軸受メタルに取り付けられた温度センサとによってクランク軸の亀裂の有無を判定でき、ギアケースに取り付けられた振動センサと機関の近傍に配置された音センサとによってねじりダンパの異常の有無が判定できるようになっている。
【特許文献1】特許第3053304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の故障予知装置では、個々の部位に取り付けられた種々のセンサによって個々の部位の故障の予知は可能であるものの、例えばある部位のセンサによる異常の検知が、他の部位の影響によるものである場合に、他の部位の故障まで予知できる構成とはなっていない。つまり、各部位に直接取り付けられたセンサ(例えば、振動センサ)が主として各部位の振動を検知することにより当該部位の故障を予知するためにだけ使用されており、これら複数のセンサの検知出力を総合的に勘案して、内燃機関の故障箇所や故障内容を総合的に判断することまでは行われていなかった。
【0006】
また、各部位の状態をセンサによって直接検出する場合、センサ数が多くなるために必然的にコストアップにつながるといった問題があった。
【0007】
ところで、熟練した機関長は、聴音棒を使い機関の固体音(振動)の変化を利用して、機関の状態を評価している。換言すると、機関表面振動を用いて機関の状態を把握することが可能と言える。従って、温度、圧力等の従来形センサによる信号を検知項目として構築された監視診断システムに、機関表面振動センサによる信号を新たな検知項目として取り入れることにより、以下の2つのメリットが生まれると考えられる。1つ目のメリットは、従来形のセンサによる検知項目に振動センサによる検知項目が増えることで、診断精度の向上が図れる点であり、2つ目のメリットは、従来形センサでは検知できない機関内部の微小な変化、例えばメタル等の磨耗を検知できるようになると、従来形センサだけによる監視診断システムより高いレベルの予防保全が実践できる点である。
【0008】
ここで、本発明者らは、上記の温度、圧力等の従来型センサで構成された監視診断システムをすでに提案している(特願2003−154928号)。この診断監視システムは、内燃機関の各検出部位にそれぞれ取り付けられた温度、圧力等を検出する検出手段と、内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定された性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、各検出手段により各検出部位の値を直接的または間接的な手法により検出することによって得られる性能データと正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、各検出手段より得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、この異常検知手段での検知結果に基づき、内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段とを備えた構成となっている。
【0009】
すなわち、各計測項目の正常範囲値は、内燃機関(以下単に「機関」ともいう。)が正常かつ現地で稼動させる状態(舶用の場合は海上公試以後)で、機関出力との相関を一度計測、算出することで設定している。そして、このようにして得られた関係式から、機関出力を常時監視することで、各計測項目の正常値をリアルタイムで求めている。
【0010】
従って、機関表面振動解析のアルゴリズムを従来形センサ(温度センサ、圧力センサ)で構成された上記監視診断システムに統合させることを考えると、各々の振動値は機関の出力との相関で正常範囲値を設定してリアルタイムで表示させる必要がある。
【0011】
ここで、本発明者らは、機関の出力と表面振動との間に相関関係があることを実証するために、以下の試験を行った。
【0012】
機関の表面振動解析による機関内部の微小変化の検知対象項目は、以下の3項目である。
【0013】
(1)動弁系磨耗
(2)主軸受メタル磨耗
(3)ピストン磨耗
これらの項目は、従来から使用されている温度、圧力、流量等のセンサでは異常の検知が困難である項目であり、かつメンテナンスに機関停止など多大な工数が発生するものを基準として設定している。
【0014】
この試験では、実際の機関(仕様の詳細については省略する。)1台を疑似故障試験用として用意した。また、上記3項目について、機関の表面振動で異常を検知するため、最終的に以下の計測位置での計測を試みた。
【0015】
(1)ライナ中心横のブロック(以下「気筒横ブロック」という。)の表面
(2)気筒のヘッド(以下「気筒ヘッド」という。)の表面
(3)主軸受横のブロック(以下「主軸受横ブロック」という。)の表面
上記計測位置を図70に示す。図70は、6気筒エンジンの概観図である。
【0016】
各計測位置での負荷による変化を調査した結果、いずれの計測位置においても負荷の増加に伴って、振動が増加することが確認された。因みに、計測位置が第2気筒横ブロックの表面の場合の、負荷0%、50%、100%のそれぞれの計測結果を図71(a)〜(c)に示す。このような計測結果は、図示は省略しているが他の計測位置においても同様であった。因みに、図71の各図において、図中に記載の1個の数字と2個のアルファベットの組み合わせによる記号は、先頭の数字が各気筒の番号を示しており、「FT」がファイアリングトップ(気筒爆発)、「EC」がイグゾーストバルブのクローズ(排気弁着座)、「SC」がサクションバルブのクローズ(吸気弁着座)を意味している。例えば、図中の「1FT」は第1気筒の爆発タイミング位置を示し、「6EC」は第6気筒の排気弁着座タイミング位置を示し、「2SC」は第2気筒の吸気弁着座タイミング位置を示している。このような記号の意味は、後に出てくる各図の計測結果においても同様である。
【0017】
以上の結果より、各検出対象部位の振動値は、機関の出力との相関で正常範囲値を設定してリアルタイムで表示させることが可能であることが実証された。
【0018】
本発明はこのような実証結果を踏まえて創案されたもので、その目的は、内燃機関表面の特定部位に取り付けられた表面振動センサにより検出される表面振動の性能データに対して、表面振動センサの特性等を考慮しつつ予め定められた手法によって異常の有無を検知し、異常が見つかった場合にはその異常の種類から総合的に判断して故障箇所と故障内容とを診断することにより、内燃機関の故障をいち早くかつより精度よく診断することのできる監視診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明に係わる内燃機関の監視診断システムは、内燃機関の正常運転時の運転データに基づいて設定された検出対象部位の振動性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動センサと、この表面振動センサによる振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、取り込んだ期間単位のデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、このフィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係わる内燃機関の監視診断システムは、内燃機関の正常運転時の運転データに基づいて設定された検出対象部位の振動性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動センサと、この表面振動センサによる振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、この振動波形の信号からさらに検出対象部位の振動を検出できる所定のタイミングにて信号波形を切り出す時間ゲート手段と、この時間ゲート手段により切り出されたデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、このフィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする。すなわち、本発明の監視診断システムは、上記発明の監視診断システムにおいて、時間ゲート手段をさらに追加した構成となっている。
【0021】
内燃機関が例えば4サイクル機関である場合、1燃焼サイクルはクランク軸2回転(クランク角度720度)に該当する。その結果、1サイクル内でのタイミングチャートをもとに時系列で現象を捉えることができる。つまり、対象とする現象を1サイクル単位で処理できることになる。
【0022】
具体的には、連続して入力される時間データを第1気筒燃焼トップ信号(回転トップパルス:1FTDC)をトリガにして、燃焼1サイクル毎の処理ができるように時間データを区切り、この燃焼1サイクル単位で表面振動センサによる振動波形の信号を取り込む。この場合、時間ゲート手段により、燃焼サイクル毎に区切られた時間データから、1FTDCを基準として、必要とする任意の区間で時間データをさらに切り出すようにしてもよい。そして、このようにして切り出された時間データの振動波形の信号を周波数分析(フィルタ処理)し、周波数分析結果に周波数軸上でバンドパスフィルタをかけて、部分和(パーシャルオーバーオール:実効値RMS)を求め、このRMS値を、異常検知手段に入力する。
【0023】
一方、異常検知手段では、リアルタイムに適当な正常値を求めるために、以下に示すアルゴリズムを適用している。まず図72に示す通り、機関出力(電力)と各計測値の相関を予め求めておく。その後、出力をリアルタイムで計測すれば、同時に各計測項目の正常値が求められる。
【0024】
例えば、図73に示すように、機関出力より算出された正常値101に、図中斜線を付して示すように上下限の正常範囲(実際は「注意」と「警報」の2水準で検知)を設定し、計測値がこの範囲を超えた場合に異常とみなす。
【0025】
故障診断手段は、この異常検知手段での検知結果に基づき、後述する診断マップやガイダンスマップを参照して内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する。
【0026】
ここで、表面振動センサが取り付けられる振動計測部位は、隣接配置されている3個の気筒のうち中央部に位置している気筒の横ブロックの1箇所であり、この部位に取り付けられた表面振動センサによる検出対象部位は、隣接配置されている上記3個の気筒の動弁系の振動である。また、表面振動センサが取り付けられる振動計測部位は、各気筒のヘッドの1箇所であり、この部位に取り付けられた表面振動センサによる検出対象部位は、各気筒の動弁系の振動である。さらに、表面振動センサが取り付けられる振動計測部位は、任意の気筒(より好ましくは、複数の気筒のうち中央部に位置している気筒)の主軸受横ブロックの1箇所であり、この部位に取り付けられた表面振動センサによる検出対象部位は、各気筒の主軸受メタル部分の振動である。これら表面振動センサの振動計測部位と検出対象部位との関係は、後述する疑似故障試験によって求めたものである。
【0027】
また、表面振動センサが取り付けられる振動計測部位は、気筒のライナの1箇所であり、この部位に取り付けられた表面振動センサによる検出対象部位は、当該気筒のピストン部分の振動である。また、表面振動センサが取り付けられる振動計測部位は、気筒の横ブロックの1箇所であり、この部位に取り付けられた表面振動センサによる検出対象部位は、当該気筒のピストン部分の振動である。これら表面振動センサの振動計測部位と検出対象部位との関係は、後述する疑似故障試験によって求めたものである。
【0028】
また、本発明に係わる内燃機関の監視診断システムは、前記内燃機関内部の各検出部位にそれぞれ取り付けられた温度、圧力等を検出する第1検出手段と、前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動を検出する第2検出手段と、前記内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定された性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、前記第2検出手段による振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、取り込んだ期間単位のデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、前記各第1検出手段により各検出部位の値を直接的または間接的な手法により検出することによって得られる性能データと前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記各検出手段より得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知するとともに、前記フィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
このような特徴を有する本発明によれば、正常範囲値データ格納手段に格納される正常範囲値のデータは、実稼働する作業場に内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定されている。これにより、各内燃機関の設置状況に応じた適正な正常範囲値が設定されることになり、このように設定された圧力や温度等の正常範囲値と、圧力センサや温度センサ等の各第1検出手段より得られた圧力及び温度に関する性能データとを比較するとともに、設定された振動の正常範囲値と、表面振動センサである各第2検出手段より得られた表面振動に関する性能データとを比較することで、その内燃機関の異常検知の精度を上げることが可能となる。
【0030】
また、本発明に係わる内燃機関の監視診断システムは、前記内燃機関内部の各検出部位にそれぞれ取り付けられた温度、圧力等を検出する第1検出手段と、前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動を検出する第2検出手段と、前記内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定された性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、前記第2検出手段による振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、この振動波形の信号からさらに検出対象部位の振動を検出できる所定のタイミングにて信号波形を切り出す時間ゲート手段と、この時間ゲート手段により切り出されたデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、前記各第1検出手段により各検出部位の値を直接的または間接的な手法により検出することによって得られる性能データと前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記各検出手段より得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知するとともに、前記フィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする。
【0031】
このような特徴を有する本発明によれば、正常範囲値データ格納手段に格納される正常範囲値のデータは、実稼働する作業場に内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定されている。これにより、各内燃機関の設置状況に応じた適正な正常範囲値が設定されることになり、このように設定された圧力や温度等の正常範囲値と、圧力センサや温度センサ等の各第1検出手段より得られた圧力及び温度に関する性能データとを比較するとともに、設定された振動の正常範囲値と、表面振動センサである各第2検出手段より得られた表面振動に関する性能データとを比較することで、その内燃機関の異常検知の精度を上げることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の監視診断システムによれば、検知項目として、温度センサや圧力センサ等の従来形センサによる信号の検知項目に、機関表面振動センサによる信号を新たな検知項目として加えることにより、診断精度の向上を図ることができるとともに、従来形センサだけでは検知できない機関内部の微小な変化、例えばメタル等の磨耗を検知できるようになるため、より高いレベルの予防保全が実践できるといった特有の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0034】
本発明の監視診断システムは、本発明者らが先に提案している基本となる監視診断システム(以下「基本監視診断システム」という。)に組み込むことでより優れた効果を発揮する。従って、本実施形態では、まずこの基本監視診断システムについてその全体を説明し、その後、本発明の監視診断システムの特徴(基本監視診断システムに追加した部分)について説明する。
【0035】
−基本監視診断システムの説明−
図2は、基本監視診断システムのシステム構成を示す機能ブロック図である。
【0036】
この基本監視診断システムは、大別すると、内燃機関及び発電機等の被駆動機(以下、「内燃機関」と称す)10の検知部位に設けられた各種センサ群1〜4、データ収集部5、異常検知部6、故障診断部7、正常範囲値データ格納部8、診断マップ格納部9a、ガイダンスマップ格納部9bにより構成されている。
【0037】
温度センサ群1の各温度センサ1aは、主軸受メタルの裏側、各気筒の排気管、潤滑油系、冷却水系などの必要箇所に必要個数取り付けられており、圧力センサ群2の各圧力センサ2aは、主に潤滑油系、冷却水系、吸入空気系、燃料供給系及びシリンダブロックのクランク室などの必要箇所に必要個数取り付けられており、流量センサ群3の各流量センサ3aは潤滑油系や燃料供給系などの必要箇所に必要個数取り付けられており、振動センサ群4の各振動センサ4aは、主軸受メタル、シリンダブロック、ギアケース、排気マニホールドなどの必要箇所に必要個数取り付けられている。
【0038】
このような各センサ群1〜4の取り付け自体は、内燃機関の分野においては従来から行われていることであり、特に目新しいことではない。また、これらの各センサ1a〜4aからデータを収集すること自体も従来から行われていることである。ただし、この基本監視診断システムでは、後述するように、任意のセンサの検知による性能データの検出方法に工夫を凝らせている。
【0039】
このような各センサ群1〜4により検出された性能データは、データ収集部5によって収集された後、異常検知部6に送られる。
【0040】
異常検知部6では、データ収集部5を介して得られる各センサ1a〜4aからの性能データと出力に重み付き移動平均処理して、正常範囲値データ格納部8に格納されている正常範囲値(これについては後述する)とを比較することにより、各センサ1a〜4aより得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知する。
【0041】
故障診断部7は、この異常検知部6での検知結果に基づき、診断マップ格納部9aに格納されている診断マップ(これについては後述する)を参照して、内燃機関10の故障箇所と故障内容とを診断し、その診断結果を出力する。また、故障診断部7は、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップ格納部9bに格納されているガイダンスマップ(これについても後述する)から対策情報を抽出し、診断結果として出力する。
【0042】
図3は、本実施形態における内燃機関10の構造の一例を示している。
【0043】
本実施形態の内燃機関10は、エンジン部11と発電機12とが筐体20内に一体に組み込まれたいわゆるパッケージ形発電機である。筐体(パッケージ)20の右上部には、外部の空気を筐体20内部に取り入れるための吸入口21が設けられており、吸入口21から取り入れられた空気の一部は、エアクリーナ13を介してエンジン部11で燃料を燃焼させた後、ターボチャージャ(T/C)14に導かれている。エンジン部11には、FOポンプ(図示省略)、FOフィルタ、LO(潤滑油)フィルタ、フィードポンプ(図示省略)、ラジエータなどが収容されているとともに、エンジン部11のクランクシャフトを介して駆動されるラジエータファン15が取り付けられており、ラジエータファン15の下流側の筐体(パッケージ)20に、内部空気を外部に放出するための導出口22が設けられている。
【0044】
<正常範囲値データ格納部8に格納される正常範囲値の説明>
正常範囲値データ格納部8に格納される正常範囲値のデータは、内燃機関10が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定される。すなわち、内燃機関10は、設置場所や設置環境等によって正常運転時に得られる運転データが異なる。例えば、冬の厳しい北海道で使用する場合と、夏の暑い沖縄で使用する場合とでは、正常運転時に得られる運転データは当然に異なることになる。そのため、本基本監視診断システムでは、正常範囲値データ格納部8に格納する正常範囲値のデータを、内燃機関10を設置した後の正常運転時に得られる運転初期データに基づいて設定する。これにより、内燃機関10の設置状況に応じた適正な正常範囲値が設定されることになる。
【0045】
この正常範囲値の設定方法を、内燃機関10の排気温度と機関出力との関係に着目して具体的に説明する。
【0046】
この正常範囲値のデータは、設置される内燃機関10の外部環境条件(大気温度、気圧、湿度、冷却水温度等)と内燃機関10の出力の大きさとに基づいて、正常値を、下式(1)〜(4)のように数式化する。
【0047】
【数1】

そして、この数式(1)〜(4)と、内燃機関10が設置された後の正常運転時の運転初期データとを用いて正常値を計算により求め、適正な許容値を考慮して、正常範囲幅を設定する。これにより、内燃機関10の設置場所に応じて係数を決めることができるため、正常範囲値(正常範囲幅)をより適正に設定することができる。
【0048】
なお、この正常範囲値による異常検知の手法については、上記で説明した内燃機関10の排気温度に限らず、給気圧力、冷却水の温度及び圧力、海水の圧力、潤滑油の温度及び圧力、燃料油の圧力及び流量など検出する大部分のデータに適用する。
【0049】
<異常検知部6の説明>
図4は、内燃機関10の正常運転時に得られる運転初期データの一例であり、排気温度(℃)と内燃機関10の出力(kW)との関係を示している。従来は、最大出力に対する排気温度を基に上限温度を設定し、この上限温度を超えたときに異常と判断していたが、本実施形態では、この運転初期データを、上記数式(1)〜(4)に当てはめて正常範囲値(正常範囲幅)を計算している。
【0050】
図5は、計算により求めた正常範囲値(図中、斜線を付して示す幅)を図4に示す運転初期データに重ね合わせて示したグラフである。すなわち、本実施形態の異常検知部6では、内燃機関10の出力(以下、「機関出力」ともいう。)に対して、排気温度がその機関出力に対する正常範囲値(斜線部分)内にある場合には正常と判断し、この正常範囲値を超えた場合に異常を検知する。
【0051】
<重み付き移動平均の説明>
ここで、機関出力が安定せず、出力の時間変化が大きい場合には、時間遅れのある性能データの正常範囲値を、変化の早い出力から単純に上記数式(1)〜(4)を用いて求めたのでは誤差が大きく、異常検知の精度が落ちることになる。そこで、本実施形態では、次のようにして異常検知の精度向上を図っている。
【0052】
すなわち、温度センサ1aより得られる性能データと、それの正常値計算に用いる出力に重み付き移動平均処理して得られたデータを用いている。この場合、重み付き移動平均処理は、温度センサ1aより得られる性能データと出力の時間変化を一致させるように設定する。出力に対して時間遅れの大きい(変化の遅い)性能データには少ない移動平均数で移動平均処理を行う一方、正常値計算に用いる出力は多い移動平均数で移動平均処理を行うように構成する。このように性能と出力の時間変化を一致させることで、正常範囲の誤差を少なくし、異常検知の精度の向上を図っている。
【0053】
図6は、機関出力(kW)と排気温度のタイミングチャートを示している。負荷変動の大きい機関出力に対して性能データである排気温度は時間遅れのあるデータとなっている。時間遅れは、特にエンジンの起動時と停止時に(すなわち、過渡状態において)顕著に現れる。そのため、エンジンの起動時や停止時も含めて、出力変化の大きい過渡状態では、この時間遅れを考慮しなければ、正しい異常検知が行えない。
【0054】
図7は、図6に示すグラフで負荷変動の大きい時の機関出力と排気温度との関係(図6中、破線で囲んだ部分)を時間軸を拡大して示したものであり、移動平均処理を行う前の状態である。因みに、図中の移動平均(出力:1,排温:1)とは、出力も排気温度も移動平均処理を行っていない(すなわち、出力及び排気温度共に移動平均数=1)ことを示している。ここで、上記数式(1)〜(4)を用いて計算した機関出力に対する排気温度の正常範囲値(正常範囲幅)は、図7に細い実線の波形幅で示すように、機関出力の変動に応じて不規則に変動している。そして、このグラフに、排気温度を検出する温度センサにより検知された排気温度データ(図中、符号81により示す)を重ね合わせると、排気温度に異常が無くても、図中の丸囲み部分及び黒丸部分で排気温度データが正常範囲値からはみ出す結果、この部分で異常を検知(誤検知)してしまうことになる。
【0055】
これに対し、図8は、機関出力及び排気温度の両方を、同数(出力及び排気温度共に同じ移動平均数)で移動平均処理を行った結果を示している。移動平均処理を行った結果、排気温度の実測データ81と出力の変化が平均化され、図7に示した場合に比べて誤検知の回数が減っている。しかしながら、このような性能と出力の同数の移動平均処理では、両者の時間変化は一致せず、図中の黒丸部分で排気温度データ81が正常範囲値からはみ出す結果、この部分で異常を検知(誤検知)することになる。
【0056】
これに対し、図9は、機関出力及び排気温度の両方を、異なる数(出力の移動平均数=60、排気温度の移動平均数=1)で移動平均処理を行った結果を示している。このような重み付き移動平均処理を行った結果、排気温度の実測データと正常範囲値の変化の時間遅れがほぼ一致したものとなっており、図8に示した場合に比べて異常検知の精度が大きく改善され、誤検知の回数が0回となっており、出力変動が大きいときの異常検知の精度が向上している。なお、図9には移動平均処理をしていない機関出力(符号98により示す)も参考に示している。
【0057】
因みに、図10は別の事例を示しており、エンジン起動時の機関出力と排気温度との関係を示したものである。
【0058】
図11は図10の起動時(破線で囲んだ部分)を時間軸を拡大して示しており、機関出力及び排気温度の両方を、同数(出力及び排気温度共に移動平均数=10)で移動平均処理を行った結果を示している。この場合、図中の白丸部分83で排気温度データ82が正常範囲値からはみ出す結果、この部分で異常を検知(誤検知)してしまうことになる。
【0059】
これに対し、図12は、機関出力及び排気温度を、重み付き移動平均処理(出力の移動平均数=20、排気温度の移動平均数=1)で移動平均処理を行った結果を示している。このように重み付き移動平均処理を行った結果、正常範囲値の変化が排気温度の実測データ82の時間遅れを考慮したものとなっている。つまり、図11に示した場合に比べて異常検知の精度が大きく改善されて誤検知の回数が0回となっており、異常検知の精度が向上している。
【0060】
<性能データの検出に関する本実施形態の説明>
(1)燃料供給系の燃料油圧の検出
燃料供給系に設けられる圧力センサ2aでは、配管内燃料の燃料(FO)ポンプの噴射に伴う圧力変動を考慮せずに燃料圧力を検出した場合には、誤検知が頻繁に発生することになる。
【0061】
図13は、図3に示すエンジン部11の燃料供給系の概略図である。
【0062】
燃料供給系は、図示しない燃料タンクと燃料ポンプ(FOポンプ)31に設けられたフィードポンプ32の入力側とが第1配管34によって接続され、フィードポンプ32の出力側とFOフィルタ33の入力側とが第2配管35によって接続され、FOフィルタ33の出力側とFOポンプ31の入力側とが第3配管36によって接続されている。そして、FOポンプ31の出力側が第4配管37を介して図示しない燃料タンクに接続された構成となっている。
【0063】
このような構成の燃料供給系においては、任意の配管(例えば、第3配管36)に燃料油圧を測定するための圧力センサ2aが取り付けられている。しかしながら、FOフィルタ33後の燃料油圧には、スピルにより大きな圧力変動がある。そのため、この圧力変動が原因で、圧力測定の精度が低下し、圧力センサ2aの寿命も低下することになる。
【0064】
そこで、本実施形態では、FOフィルタ33直後の第3配管36部分を分岐して、絞りφ0.3の圧力取出管38を接続し、この圧力取出管38に圧力センサ2aを接続している。すなわち、圧力取出管38に絞りφ0.3の細孔部38aを設けることにより、配管内燃料の燃料ポンプ31の噴射に伴う圧力変動を減衰させて平均的な燃料圧力を測定する構成としている。
【0065】
図14は、圧力センサ2aによって配管内の燃料油圧を測定した結果の一例を示している。圧力取出管38に細孔部38aを設けない場合には、図中符号91で示すように、0.2〜0.4MPaの範囲で圧力変動が生じているが、絞りφ0.3の細孔部38aを設けた場合、図中符号92で示すように、圧力変動が改善されており、平均的な燃料圧力の測定が可能となっている。この例では、絞りφ0.3の細孔部38aを圧力取出管38に設けることで、圧力変動を0.02MPa以下に低減できている。このように、配管内燃料の燃料ポンプ31の噴射に伴う圧力変動を減衰させることにより、燃料圧力の検出精度と圧力センサ2aの耐久性を向上させることができる。
【0066】
(2)クランク室内圧によるブローバイ検出
エンジン11のクランク室の圧力を測定する圧力センサ2aでは、クランク室内のピストンやクランクの運動に伴う圧力変動を考慮せずにクランク室圧力を検出した場合には、誤検知が頻繁に発生することになる。
【0067】
図15は、クランク室の圧力を測定する系の概略図であり、本発明の一例として、エンジン11の図示しないクランク室への給油口41部分を分岐して、絞りφ0.2の圧力取出管42を接続し、この圧力取出管42に圧力センサ2aを接続している。すなわち、圧力取出管42に絞りφ0.2の細孔部42aを設けることにより、クランク室内のピストンやクランクの運動に伴う圧力変動を減衰させて平均的なクランク室圧力を測定する構成としている。
【0068】
図16は、圧力センサ2aによってクランク室の圧力を測定した結果を示している。圧力取出管42に細孔部42aを設けない場合には、図中符号95で示すように、0.0〜0.9kPaの範囲で圧力変動が生じているが、絞りφ0.2の細孔部42aを設けた場合には、図中符号96で示すように、圧力変動が改善されており、平均的なクランク室圧力の測定が可能となっている。このように圧力変動を減衰させることにより、クランク室圧力の検出精度と圧力センサ2aの耐久性を向上させることができる。
【0069】
これにより、異常検知部6は、図17に示すように、平均的なクランク室圧力と機器外部の大気圧との圧力差に対して、予め求めておいたブローバイガス量と当該圧力差との関係から、ブローバイガス量を精度良く推定することが可能となり、後述する故障診断部7での故障診断も精度良く行うことができる。
【0070】
(3)ラジエータファンの空気流量の検出
内燃機関10のラジエータファン15(図3参照)の空気流量の検出の場合、図3に示すパッケージ形発電機では、パッケージ外部の空気温度とラジエータファン15の前もしくは後に設置された温度センサ1aにより検出された空気温度との温度差から、ラジエータファン15の空気流量を推定して、冷却系の異常を検知する。これは、パッケージ形発電機では、内燃機関10自体やラジエータからの放熱量が空気流量と前記温度差との積に比例する(空気温度差×空気流量∝(機関+発電機)放熱量)ことから、この関係を利用して、ラジエータファン損傷、ラジエータ目詰まりなどの故障によって空気流量が低下した場合、空気温度差が増大することを利用するものである。
【0071】
図18は、空気温度差から冷却系の異常を検知する様子を示したグラフであり、この例では、空気流量が低下して空気温度差が8℃を超えると(図中、丸で囲んだ部分)、冷却系の異常と判断している。すなわち、ラジエータファン15の損傷やラジエータ目詰まりなどの故障が発生していると考えられる。
【0072】
異常検知部6での処理を以上のように構成することにより、より精度の高い異常検知が可能であり、次段の故障診断部7に正確な異常検知データを提供することができ、故障診断部7での診断精度を向上させることができる。
【0073】
なお、上記で説明した以外の異常検知処理については、内燃機関10に関して従来から行われている異常検知処理を本発明においても利用することができるので、ここでは上記以外の他のセンサ(温度センサ、圧力センサ、振動センサ、流量センサ)の性能データによる異常検知処理については説明を省略する。
【0074】
<故障診断部7の説明>
故障診断部7は、異常検知部6による各検知項目と内燃機関10の各部位の故障名とを対応させた診断マップ格納部9aに格納されている診断マップを用いて故障診断を行うとともに、内燃機関の各部位の故障名とこの故障名に対応する対策情報とを対応させたガイダンスマップ格納部9bに格納されているガイダンスマップを用いて診断結果を出力する。
【0075】
図19は、診断マップのデータ構成例を示している。
【0076】
この診断マップは、縦の項目に故障名を列挙し、横の項目に異常検知名を列挙して、異常検知名から推定される故障名の箇所に丸印を付したデータ構成となっている。
【0077】
ここで、異常検知名の各項目に記載されている内容の意味については、図20に一覧形式でまとめている。
【0078】
故障診断部7は、異常検知部6での検知結果に基づき、診断マップ格納部9aに格納されている診断マップから、異常と判断された検知項目を含む故障名を検索し、これを診断結果として出力する。
【0079】
具体的には、図19に示す診断マップを参照すると、例えば異常検知項目が「排気偏温大」、「燃料油圧低」、「燃料流量大」の3項目である場合には、故障名として「燃料供給管漏油・破損」を特定し、異常検知項目が「排気偏温大」、「燃料油圧低」の2項目である場合には、故障名として「燃料供給管漏油・破損」、「燃料フィードポンプ異常・破損」、「燃料こし器目詰まり」の3つが選択される。
【0080】
このように、本実施形態の故障診断部7は、予め用意されている診断マップから、異常検知部6の検知結果に合致する故障名を検索することで、検知結果を総合的に勘案した故障診断を行っている。
【0081】
また、故障診断部7では、異常検知部6での検知結果に加え、異常と判断された検知項目の性能データの時間変化率の大小を加味することにより、該当する故障名をさらに絞り込む構成としている。
【0082】
例えば、燃料油圧の低下を検知した場合でも、その変化率が小さい場合(ゆっくりと変化する場合)には、例えば燃料こし器の目詰まりが考えられ、その変化率が大きい場合(急に変化する場合)には、燃料供給管の漏油や破損、燃料フィードポンプの異常や破損等が考えられる。なお、図19では、変化率が大きい故障名を○、小さい故障名を●で示している。
【0083】
このように、性能データの時間変化率の大小を加味することで、今まで区別できなかった燃料こし器の目詰なのか、燃料フィードポンプの漏油や破損等なのかを区別することが可能となり、故障診断の精度がさらに向上することになる。
【0084】
図21(a)〜(c)は、ガイダンスマップのデータ構成例を示している。
【0085】
このガイダンスマップは、個々の故障名ごとにその対策情報を格納したものであり、不良要因、点検、修理・整備の各項目からなっている。
【0086】
故障診断部7は、診断マップから検索した故障名に基づき、ガイダンスマップから対策情報を抽出し、診断結果として出力する。
【0087】
具体的には、図21に示すガイダンスマップを参照すると、診断マップから検索された故障名が例えば「燃料供給管漏油・破損」の場合(同図(a)参照)、その不良要因としては、「継手部シール不良」、「振動大による折損」、「スピル圧大による破損」とが対応付けられており、そのときの点検方法として、「管継手ボルトの緩み」、「管継手部パッキンの破損」、「燃料配管の振動大、亀裂」、「スピル圧の過大」、「燃料配管の振動大、亀裂」がそれぞれに対応付けられており、その修理・整備方法として、「増し締め」、「パッキン交換」、「振れ止め増強、配管交換」、「圧力低減装置設置:減衰弁など」、「燃料配管の補強・振止め、交換」がそれぞれに対応付けられている。診断結果として出力するのは、このような一覧表そのものを図示しない表示部に表示し、またはプリンタ等の出力手段から印字出力するようにしてもよいし、不良要因からさらに絞り込んだ内容のみを表示または印字出力するようにしてもよい。この場合、各表の上部に記載されている「異常内容、異常検知、最終状態」といった内容も合わせて表示または印字出力してもよい。ただし、出力形態としては、このような一覧表形式に限るものではなく、必要に応じて種々の形態に加工することが可能である。
【0088】
なお、上記実施形態では、診断マップとガイダンスマップを別ファイルとして構成し、別々の格納部9a,9bに格納しているが、診断/ガイダンスマップとして1つのファイルで構成し、1つの格納部に格納することが可能である。
【0089】
−本発明に係わる監視診断システムの説明−
図1は、本発明に係わる監視診断システムのシステム構成を示す機能ブロック図である。
【0090】
この監視診断システムは、大別すると、内燃機関10の検知部位に設けられた各種センサ群1〜4、内燃機関10の表面の検知部位に設けられた表面振動センサ群61、時間ゲート部62、フィルタ処理部63、データ収集部5、異常検知部6、故障診断部7、正常範囲値データ格納部8、診断マップ格納部9a、ガイダンスマップ格納部9bにより構成されている。
【0091】
すなわち、図2に示す基本監視診断システムと異なるところは、各種センサ群1〜4の他に表面振動センサ群61を追加するとともに、この表面振動センサ群61に対応して時間ゲート部62とフィルタ処理部63とを追加した点であり、その他の構成は図2に示す基本監視診断システムと全く同じである。ただし、表面振動センサ群61を追加した分、異常検知部6での異常検知処理及び故障診断部7での故障診断処理は、当然、表面振動センサ61による検知結果を加味した処理となり、正常範囲値データ格納部8にも内燃機関の正常運転時の運転データに基づいて設定された検出対象部位の振動性能データの正常範囲値(図73に示す正常範囲値)が格納されており、診断マップ格納部9aにも表面振動センサの検知結果に対応した故障名が列挙されている。また、表面振動センサ61を追加した代わりに、内燃機関内部に取り付けていた従来の振動センサ群4を省略することも可能である。
【0092】
時間ゲート部62は、表面振動センサ61aによる振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、この振動波形の信号からさらに検出対象部位の振動を検出できる所定のタイミングにて信号波形を切り出すブロックである。また、フィルタ処理部63は、この時間ゲート部62により切り出されたデータを周波数分析し、その分析結果から実効値RMSを演算により求めるブロックである。
【0093】
本発明の監視診断システムでは、表面振動センサ61の機関表面の取り付け位置、すなわち機関表面計測位置をどの位置にするかが重要なポイントであり、これによって機関内部のどの部位の異常(振動)を検知できるか、すなわち検知対象部位が決まる。
【0094】
この場合、検知対象とする部位以外からの信号の影響を受けることなく、機関の表面振動に基づいて精度よく内部の異常を検知するためには、適切な信号処理を施す必要がある。そのため、本疑似故障試験では、表面振動解析を用いた実用的なシステム構築を優先させ、かつ、煩雑なプログラミングを用いないシンプルな処理にするために、計測位置を最適化することにより、内部の微小変化を簡易な処理によって精度良く計測できることを試みた。
【0095】
今回対象とした機関は4サイクル機関である。4サイクル機関の場合、1燃焼サイクルはクランク軸2回転(クランク角度720度)に該当する。その結果、1サイクル内でのタイミングチャートをもとに時系列で現象を捉えることができる。つまり、図22のフロー図に示す手順に従い、対象とする現象を1サイクル単位で処理できることになる。
【0096】
具体的には、図23に示すように、連続して入力される時間データを第1気筒燃焼トップ信号(回転トップパルス:1FTDC)をトリガにして、燃焼1サイクル毎の処理ができるように時間データを区切り(図23中、時間T1)、この燃焼1サイクル単位(時間T1)で表面振動センサ61aによる振動波形の信号(以下「振動時間データ」という。)を取り込む。この場合、時間ゲート部62により、燃焼サイクル毎に区切られた振動時間データから、1FTDCを基準として、必要とする任意の区間(図23中、時間T2)で振動時間データをさらに切り出す。そして、このようにして切り出された振動時間データをフィルタ処理部63にて周波数分析し、周波数分析結果に周波数軸上でバンドパスフィルタをかけて、部分和(パーシャルオーバーオール:実効値RMS)を求める。そして、この求めたRMS値を、データ収集部5を介してリアルタイムで異常検知部6に送出する。
【0097】
一方、正常範囲値データ格納部8には、[課題を解決するための手段]のところですでに説明したように、図73に示すような正常範囲値のデータが格納されている。異常検知部6では、正常範囲値データ格納部8に格納ている正常範囲値のデータとフィルタ処理部63によりフィルタ処理されたRMS値とに基づいて、検知対象部位の異常の有無を検知する。
【0098】
<本発明の監視診断システムによる検知技術の検証>
すでに説明したように、機関の表面振動による異常検知には2つのメリットがあり、そのうちの1つ目のメリットとして挙げられるのが、従来形センサによる検知項目に表面振動センサによる検知項目を追加することで、診断精度の向上が図れることである。言い換えると、表面振動を検知することで故障名を絞込めるということである。
【0099】
本実施形態では、後述する疑似故障試験を実施することにより、内容の確証を行った。
【0100】
ここでは、疑似故障試験の一例として、「燃料供給管漏油、破損」と「燃料調圧弁異常」の例を示す。図24は、これらの故障名を検知するための検知項目の対応を定義した診断マップを示している。
【0101】
図24の診断マップに示すように、いずれの故障名も従来センサでは「排気偏温大」と「燃料圧力低下」が検知されるだけで、それ以上の故障名の絞込みはできない。
【0102】
これに対し、「燃料調圧弁異常」により燃焼のアンバランスが発生した場合には、図25の燃焼アンバランスによる振動の変化のグラフに示すように、回転の0.5次成分の振動値が増加する。従って、従来形センサの検知結果に機関表面振動の「ブロック振動の増加」という検知名が追加されることで、図24の診断マップに示すように、「燃料調圧弁異常」という1つの故障名を絞り込むことができている。このように、従来センサだけでは分離できなかった故障名を絞り込めるようになる。
【0103】
<疑似故障試験の説明>
以上の検証を踏まえ、本発明者らは、表面振動センサ61aの機関表面の振動計測位置と検知対象部位との関係をより具体的に求めるべく、機関表面振動から機関内部の異常を検知するための疑似故障試験を行った。以下にその疑似故障試験の内容について説明する。
【0104】
この疑似故障試験において、機関の表面振動解析による機関内部の微小変化の検知対象項目(検知対象部位)は、以下の3項目である。
【0105】
(1)動弁系磨耗
(2)主軸受メタル磨耗
(3)ピストン磨耗
これらの項目は、従来から使用されている温度、圧力、流量等のセンサでは異常の検知が困難である項目であり、かつメンテナンスに機関停止など多大な工数が発生するものを基準として設定している。
【0106】
この疑似故障試験では、実際の機関(仕様の詳細については省略する。)1台を疑似故障試験用として用意した。また、上記3項目について、機関の表面振動で異常を検知するため、最終的に図70に示す5箇所の振動計測位置での計測を試みた。具体的には、第2気筒ヘッド表面、第2気筒横ブロック表面、第2気筒ライナ(内部)、第5気筒横ブロック表面、第4主軸受横ブロック表面、の5箇所である。ただし、図70に示すように、試供機関が6気筒エンジンの場合である。
【0107】
[動弁系磨耗の検知試験の説明]
動弁系の磨耗等が発生した場合を想定して、第2気筒の弁隙間を正常状態から大きくして、着座時のランプ域を外れて着座させるようにして疑似故障試験を実施した。振動計測位置は、第2気筒ヘッド表面、第2気筒横ブロック表面、第5気筒横ブロック表面の3箇所である。
【0108】
(1)表面振動センサ61aを第2気筒ヘッドの表面に取り付けた場合
図26は、表面振動センサ61aを第2気筒ヘッド(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図27は、表面振動センサ61aを第2気筒ヘッド(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図28は、図26に示す正常時の振動時間データと図27に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示しており、図29は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0109】
これらの結果から、表面振動センサ61aを第2気筒ヘッドの表面に取り付けた場合には、吸気弁、排気弁の着座のタイミング(図27中、符号110により示す丸部分)で、正常時には見られなかった振動が検出された。すなわち、表面振動センサ61aを第2気筒ヘッドの表面に取り付けた場合には、動弁系の着座タイミングでの時間ゲートをかけなくても、図28及び図29に示すように、動弁系磨耗の現象を捉えることができた。
【0110】
一方、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて周波数分析し、RMS値を求めた。図30は、図26に示す正常時の振動時間データと図27に示す磨耗時の振動時間データとを、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図31は、時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。時間ゲートをかけない場合と同様、顕著に動弁系磨耗の現象を捉えることができた。
【0111】
(2)表面振動センサ61aを第2気筒横ブロックの表面に取り付けた場合
図32は、表面振動センサ61aを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図33は、表面振動センサ61aを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図34は、図32に示す正常時の振動時間データと図33に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示しており、図35は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0112】
これらの結果から、表面振動センサ61aを第2気筒横ブロックの表面に取り付けた場合には、上記の第2気筒ヘッドと同じように、吸気弁、排気弁の着座のタイミング(図33中、符号120により示す丸部分、及び図34中、符号121により示す丸部分)で、正常時には見られなかった振動が時間データ上で検出された。しかし、第2気筒横ブロックの振動を時間ゲートをかけずに周波数分析し、RMS値を求めると、図34及び図35に示すように、各気筒の爆発による振動等の影響で、有意な差が出なかった。
【0113】
そこで、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて周波数分析し、RMS値を求めた。図36は、図32に示す正常時の振動時間データと図33に示す磨耗時の振動時間データとを、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図37は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。図36に示すように、第2気筒吸気弁着座タイミング(図36中、符号123により示す丸部分)で動弁系磨耗の現象を捉えることができ、RMS値を求めると、図37に示すように有意な差が得られた。
【0114】
(3)表面振動センサ61aを第5気筒横ブロックの表面に取り付けた場合
図38は、表面振動センサ61aを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図39は、表面振動センサ61aを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図40は、図38に示す正常時の振動時間データと図39に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示しており、図41は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0115】
これらの結果から、表面振動センサ61aを第5気筒横ブロックの表面に取り付けた場合には、吸気弁、排気弁の着座のタイミング(図39中、符号130により示す丸部分)では、時間軸データでも顕著な差が出なかったが、RMS値で比較するために、まず時間ゲート無しで周波数分析した。しかし、図40中の符号131で示す丸部分、及び図41に示すように、有意な差はなかった。
【0116】
そこで、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて周波数分析をし、RMS値を求めた。図42は、図38に示す正常時の振動時間データと図39に示す磨耗時の振動時間データとを、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図43は、時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。図42及び図43に示すように、有意な差は得られなかった。よって、第5気筒横ブロックでは第2気筒と離れているため、第2気筒の動弁系磨耗を検知するのは困難であると考えられる。
【0117】
以上、第2気筒の動弁系磨耗に対して、上記3箇所でそれぞれ計測、解析した結果をまとめると、下表1のようになる。
【0118】
【表1】

[主軸受メタル磨耗の検知試験の説明]
主軸受メタル磨耗が発生した場合を想定して、主軸受メタルとクランク軸とのクリアランスを広げるために、全ての主軸受メタル厚さを正常状態から−30μm(オーバーレイ相当:磨耗限度) にし、疑似故障試験を実施した。振動計測位置は、第5気筒横ブロック、第4主軸受横ブロックの2箇所である。
【0119】
(1)表面振動センサ61aを第5気筒横ブロックの表面に取り付けた場合
図44は、表面振動センサ61aを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図45は、表面振動センサ61aを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図46は、図44に示す正常時の振動時間データと図45に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示しており、図47は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0120】
これらの結果から、第5気筒横ブロックでは、時間軸データ、周波数解析のいずれを行っても、現象に顕著な差は現れなかった。
【0121】
一方、主軸受メタルが磨耗した場合、各気筒での爆発タイミングでの振動に変化が現れると考えられるため、第4気筒爆発(4FTDC)のタイミングで時間ゲートをかけた。図48は、図44に示す正常時の振動時間データと図45に示す磨耗時の振動時間データとを、第4気筒爆発(4FTDC)のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図49は、時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。図48及び図49から明らかなように、周波数分析した後にパーシャルオーバーオールからRMS値を求めたが、有意な差は得られなかった。
【0122】
以上のことより、第5気筒横ブロックでは主軸受メタルの状態(磨耗)を検知できないため、振動センサの機関表面の取付部の構造を考慮しながら、別の計測位置で評価する必要がある。
【0123】
(2)表面振動センサ61aを第4主軸受横ブロックの表面に取り付けた場合
図50は、表面振動センサ61aを第4主軸受横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図51は、表面振動センサ61aを第4主軸受横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図52は、図50に示す正常時の振動時間データと図51に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示しており、図53は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0124】
これらの結果から、第4主軸受横ブロックでは、図51に示すように、時間軸データでみると全体に高周波の信号が増え、特に各気筒の燃焼のタイミング(図51中、符号151により示す丸部分)で顕著に振動が増加することを確認した。その結果、第4主軸受横ブロックでは、各気筒の燃焼タイミングでの時間ゲートをかけなくても、図52及び図53に示すように、磨耗時に有意な差が得られた。
【0125】
一方、第4気筒の燃焼タイミングで、時間ゲートをかけた。図54は、図50に示す正常時の振動時間データと図51に示す磨耗時の振動時間データとを、第4気筒の燃焼タイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図55は、時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。図54及び図55に示すように、時間ゲートをかけない場合と同様、顕著に現象を捉えることができている。
【0126】
さらに、第4軸受ブロックでの振動で、他軸受の振動の変化が検知できる可能性を探るために、以下の比較を行った。
【0127】
(比較1)第4軸受ブロックの信号から、第2気筒爆発位相で時間ゲートをかけた後の周波数分析結果(図56参照)
(比較2)第2軸受ブロックの信号から、第2気筒爆発位相で時間ゲートをかけた後の周波数分析結果(図57参照)
その結果、図56及び図57に示す通り、特に3kHz以上の高周波の広帯域でよく似た特徴を示すスペクトルが得られた。これによって、第4軸受ブロックから他軸受の振動の変化を検知することが可能であることが確認された。すなわち、ブロックの中央に位置する第4軸受ブロックの振動で他の軸受の主軸受メタル磨耗を検知することが可能となる。
【0128】
以上、主軸受メタル磨耗に対して、上記2箇所でそれぞれ計測、解析した結果をまとめると、下表2のようになる。
【0129】
【表2】

<ピストン磨耗の検知試験の説明>
ピストンが磨耗した場合を想定して、市場の実機(15カ月運転)のピストンを回収し、疑似故障試験を実施した。磨耗量は3〜5μm程度であり、標準のピストン表面のデフリックコートの厚さが20〜30μm程度あることを考えると、今回供試品として用いたピストンの磨耗量はかなり小さいといえる。振動計測位置は、第2気筒シリンダライナ、第2気筒横ブロックの2箇所である。各々の振動計測位置については、ピストンとライナ間でのスラップにより発生する振動を計測することで磨耗による影響が検知できるとの想定のもとに決定した。
【0130】
(1)表面振動センサ61aを第2気筒シリンダライナの表面に埋め込む形で取り付けた場合
第2気筒シリンダライナの信号で直接スラップによる影響を調査した。
【0131】
図58は、表面振動センサ61aを第2気筒シリンダライナ(負荷0%)の表面内部に埋め込む形で取り付けたときのピストンが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図59は、表面振動センサ61aを第2気筒シリンダライナ(負荷0%)の表面内部に埋め込む形で取り付けたときのピストンの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図60は、図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示している。
【0132】
これらの結果から、燃焼1サイクルを通しての時間軸データでは、図58及び図59に示すように、顕著な差はなかった。さらに、RMS値で比較するために、時間ゲート無しで周波数分析したが、図60に示すように、有意な差はなかった。
【0133】
一方、第2気筒シリンダライナのスラスト側(振動が大きい側)では、燃焼1サイクルに以下の通り、ピストンとの間でスラップが3回発生する。
【0134】
a)第2気筒爆発上死点(No2FTDL)
b)第2気筒オーバーラップ上死点前60°(No2FTDL前60°)
c)第2気筒オーバーラップ上死点後110°(No2FTDL後110°)
そこで、1サイクル中に3回発生するスラップのタイミングで時間ゲートをかけて周波数分析し、RMS値を求めた。図61は、図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、第2気筒爆発上死点のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図62は、図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、第2気筒オーバーラップ上死点前60°のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図63は、図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、第2気筒オーバーラップ上死点後110°のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示している。各々のタイミングでは変化が見られたが、周波数軸上での共通した顕著な傾向は見られなかった。
【0135】
ライナの振動はピストンの磨耗に対して、スラップ現象そのものを計測していると考えられるが、同時に表面振動にどのような影響があるかを第2気筒横ブロック振動で確認した。
【0136】
(2)表面振動センサ61aを第2気筒横ブロックの表面に取り付けた場合
第2気筒シリンダライナの信号で直接スラップによる影響を調査した。
【0137】
図64は、表面振動センサ61aを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に埋め込む形で取り付けたときのピストンが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データであり、図65は、表面振動センサ61aを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときのピストンの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データである。また、図66は、図64に示す正常時の振動時間データと図65に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示しており、図67は、周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0138】
これらの結果から、第2気筒横ブロックでは、時間軸データでも顕著な差が出なかった(図64、図65参照)。また、RMS値で比較するために、時間ゲート無しで周波数分析しても有意な差はなかった(図66、図67参照)。
【0139】
次に、爆発上死点でのスラップのタイミングで時間ゲートをかけて周波数分析をし、RMS値を求めた。図68は、図64に示す正常時の振動時間データと図65に示す磨耗時の振動時間データとを、爆発上死点でのスラップのタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示しており、図69は、時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示している。
【0140】
時間ゲートをかけても、周波数軸上で広帯域の変化は見られないものの、狭帯域では評価が可能であった。ただし、正常時と磨耗時とのRMS値の差は小さかった。
【0141】
結論としては、第2気筒横ブロックの表面振動で、ピストン磨耗を評価するのは若干厳しいものの、図73に示す正常範囲値を狭く設定すれば、ピストン磨耗を評価することも可能である。また、この疑似故障試験では、上記したように、今回供試品として用いたピストンの磨耗量があまりに小さかったために、現象が顕著に現れなかった可能性が大きく、ピストンの磨耗量がもう少し大きい場合には、現象を捉えることが十分に可能であると推察される。
【0142】
以上、ピストン磨耗に対して、上記2箇所でそれぞれ計測、解析した結果をまとめると、下表3のようになる。
【0143】
【表3】

表3中の「△」の評価の意味は、ピストン磨耗を評価するのは若干厳しいものの、正常範囲値を狭く設定する等すれば、ピストン磨耗を評価することも十分可能であることを示している。
【0144】
以上、疑似故障試験を行って、(1)動弁系磨耗、(2)主軸受メタル磨耗、(3)ピストン磨耗、のそれぞれにおける各振動計測位置での検知技術を検証した。その結果、下表4の通りの振動計測位置で各々の異常検知に必要な振動データを得られることがわかった。
【0145】
【表4】

以上説明したように、本発明の監視診断システムによれば、表面振動解析により診断精度向上につながる検知技術と機関内部微小変化の検知技術を、疑似故障試験で検証し、従来センサによる監視診断システムと統合させることによって、監視診断システムの検知能力を飛躍的に伸ばすことができ、より高い安全性を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明に係わる監視診断システムのシステム構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明に係わる基本監視診断システムのシステム構成を示す機能ブロック図である。
【図3】本実施形態における内燃機関の一例を示す概略構成図である。
【図4】内燃機関の正常運転時に得られる運転初期データの一例を示すグラフである。
【図5】計算により求めた正常範囲値を図4に示す運転初期データに重ね合わせて示したグラフである。
【図6】機関出力(kW)と排気温度との関係を示すタイミングチャートである。
【図7】図6に示すグラフの負荷変動の大きい時の機関出力と排気温度との関係を時間軸を拡大して移動平均処理していない状態で異常検知した場合のグラフである。
【図8】機関出力及び排気温度の両方を、同数の移動平均処理を行った結果を示すグラフである。
【図9】機関出力及び排気温度を異なる移動平均数として重み付き移動平均処理を行った結果を示すグラフである。
【図10】図6に示すグラフとは異なる事例の機関起動時の機関出力と排気温度との関係を示したグラフである。
【図11】機関出力及び排気温度の両方を、同数で移動平均処理を行った結果を示すグラフである。
【図12】機関出力及び排気温度の両方を、重み付き移動平均処理を行った結果を示すグラフである。
【図13】エンジン部の燃料供給系の概略図である。
【図14】圧力センサによって配管内の燃料油圧を測定した結果を示すグラフである。
【図15】クランク室の圧力を測定する系の概略図である。
【図16】圧力センサによってクランク室の圧力を測定した結果を示すグラフである。
【図17】クランク室圧力とブローバイガス量との関係を示すグラフである。
【図18】空気温度差から冷却系の異常を検出する様子を示したグラフである。
【図19】診断マップのデータ構成の一例を示す説明図である。
【図20】異常検知名の各項目に記載されている内容の意味を一覧形式でまとめた説明図である。
【図21】ガイダンスマップのデータ構成例を示す説明図である。
【図22】本発明に係わる監視診断システムの特徴的な部分のフロー図である。
【図23】連続して入力される振動時間データ(振動波形の信号)を示す波形図である。
【図24】診断マップのデータ構成の他の例を示す説明図である。
【図25】燃焼アンバランスによる振動の変化を示すグラフである。
【図26】表面振動センサを第2気筒ヘッド(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図27】表面振動センサを第2気筒ヘッド(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図28】図26に示す正常時の振動時間データと図27に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図29】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図30】図26に示す正常時の振動時間データと図27に示す磨耗時の振動時間データとを、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図31】時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図32】表面振動センサを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図33】表面振動センサを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図34】図32に示す正常時の振動時間データと図33に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図35】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図36】図32に示す正常時の振動時間データと図33に示す磨耗時の振動時間データとを、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図37】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図38】表面振動センサを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図39】表面振動センサを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの動弁系が磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図40】図38に示す正常時の振動時間データと図39に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図41】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図42】図38に示す正常時の振動時間データと図39に示す磨耗時の振動時間データとを、吸気弁の着座のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図43】時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図44】表面振動センサを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図45】表面振動センサを第5気筒横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図46】図44に示す正常時の振動時間データと図45に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図47】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図48】図44に示す正常時の振動時間データと図45に示す磨耗時の振動時間データとを、第4気筒爆発(4FTDC)のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図49】時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図50】表面振動センサを第4主軸受横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図51】表面振動センサ61aを第4主軸受横ブロック(負荷0%)の表面に取り付けたときの主軸受メタルの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図52】図50に示す正常時の振動時間データと図51に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図53】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図54】図50に示す正常時の振動時間データと図51に示す磨耗時の振動時間データとを、第4気筒の燃焼タイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図55】時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図56】第4軸受ブロックの信号から、第2気筒爆発位相で時間ゲートをかけた後の周波数分析結果を示す波形図である。
【図57】第2軸受ブロックの信号から、第2気筒爆発位相で時間ゲートをかけた後の周波数分析結果を示す波形図である。
【図58】表面振動センサを第2気筒シリンダライナ(負荷0%)の表面内部に埋め込む形で取り付けたときのピストンが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図59】表面振動センサを第2気筒シリンダライナ(負荷0%)の表面内部に埋め込む形で取り付けたときのピストンの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図60】図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図61】図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、第2気筒爆発上死点のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図62】図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、第2気筒オーバーラップ上死点前60°のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図63】図58に示す正常時の振動時間データと図59に示す磨耗時の振動時間データとを、第2気筒オーバーラップ上死点後110°のタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図64】表面振動センサを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に埋め込む形で取り付けたときのピストンが正常時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図65】表面振動センサを第2気筒横ブロック(負荷0%)の表面に埋め込む形で取り付けたときのピストンの磨耗時の燃焼1サイクルの振動時間データを示す波形図である。
【図66】図64に示す正常時の振動時間データと図65に示す磨耗時の振動時間データとを、時間ゲート無しで比較した結果を示す波形図である。
【図67】周波数分析後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図68】図64に示す正常時の振動時間データと図65に示す磨耗時の振動時間データとを、爆発上死点でのスラップのタイミングで時間ゲートをかけて比較した結果を示す波形図である。
【図69】時間ゲートをかけて周波数分析した後の正常時のRMS値と磨耗時のRMS値の比較結果を示すグラフである。
【図70】疑似故障試験により機関の表面振動で異常を検知するための計測位置を示す内燃機関である6気筒エンジンの正面より見た概観図である。
【図71】計測位置が第2気筒横ブロックの表面の場合の、負荷0%、50%、100%のそれぞれの計測結果を示す波形図である。
【図72】機関出力(電力)と各計測値の相関を示すグラフである。
【図73】計算により求めた正常範囲値を図72に示す機関出力(電力)と各計測値の相関データに重ね合わせて示したグラフである。
【符号の説明】
【0147】
1 温度センサ群
1a 温度センサ
2 圧力センサ群
2a 圧力センサ
3 流量センサ群
3a 流量センサ
4 振動センサ群
4a 振動センサ
5 データ収集部
6 異常検知部
7 故障診断部
8 正常範囲値データ格納部
9a 診断マップ格納部
9b ガイダンスマップ格納部
10 内燃機関
11 エンジン部
12 発電機
13 エアクリーナ
14 ターボチャージャ(T/C)
15 ラジエータファン
20 筐体
21 吸入口
22 導出口
31 燃料ポンプ(FOポンプ)
32 フィードポンプ
33 FOフィルタ
34 第1配管
35 第2配管
36 第3配管
37 第4配管
38 圧力取出管
41 給油口
42 圧力取出管
61 表面振動センサ群
61a 表面振動センサ
62 時間ゲート部
63 フィルタ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の監視診断システムにおいて、
前記内燃機関の正常運転時の運転データに基づいて設定された検出対象部位の振動性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、
前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動センサと、
この表面振動センサによる振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、取り込んだ期間単位のデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、
このフィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、
この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする監視診断システム。
【請求項2】
内燃機関の監視診断システムにおいて、
前記内燃機関の正常運転時の運転データに基づいて設定された検出対象部位の振動性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、
前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動センサと、
この表面振動センサによる振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、この振動波形の信号からさらに検出対象部位の振動を検出できる所定のタイミングにて信号波形を切り出す時間ゲート手段と、
この時間ゲート手段により切り出されたデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、
このフィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、
この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする監視診断システム。
【請求項3】
内燃機関の監視診断システムにおいて、
前記内燃機関内部の各検出部位にそれぞれ取り付けられた温度、圧力等を検出する第1検出手段と、
前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動を検出する第2検出手段と、
前記内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定された性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、
前記第2検出手段による振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、取り込んだ期間単位のデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、
前記各第1検出手段により各検出部位の値を直接的または間接的な手法により検出することによって得られる性能データと前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記各検出手段より得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知するとともに、前記フィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、
この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする監視診断システム。
【請求項4】
内燃機関の監視診断システムにおいて、
前記内燃機関内部の各検出部位にそれぞれ取り付けられた温度、圧力等を検出する第1検出手段と、
前記内燃機関表面の1または複数の振動計測部位に取り付けられた表面振動を検出する第2検出手段と、
前記内燃機関が設置された後の正常運転時の運転初期データに基づいて設定された性能データの正常範囲値を予め格納している正常範囲値データ格納手段と、
前記第2検出手段による振動波形の信号を気筒の燃焼1サイクルの期間単位で順次取り込むとともに、この振動波形の信号からさらに検出対象部位の振動を検出できる所定のタイミングにて信号波形を切り出す時間ゲート手段と、
この時間ゲート手段により切り出されたデータを周波数分析し、その分析結果から実効値を求めるフィルタ処理手段と、
前記各第1検出手段により各検出部位の値を直接的または間接的な手法により検出することによって得られる性能データと前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記各検出手段より得られた性能データが正常範囲値から外れている場合に異常を検知するとともに、前記フィルタ処理手段にて求められた実効値と前記正常範囲値データ格納手段に格納されている正常範囲値とを比較することにより、前記実効値が前記正常範囲値から外れている場合に異常を検知する異常検知手段と、
この異常検知手段での検知結果に基づき、前記内燃機関の故障箇所と故障内容とを診断する故障診断手段と、を備えたことを特徴とする監視診断システム。
【請求項5】
前記表面振動センサが取り付けられる前記振動計測部位が、隣接配置されている3個の気筒のうち中央部に位置している気筒の横ブロックの1箇所であり、この部位に取り付けられた前記表面振動センサによる前記検出対象部位が、前記3個の気筒の動弁系の振動である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の監視診断システム。
【請求項6】
前記表面振動センサが取り付けられる前記振動計測部位が、各気筒のヘッドの1箇所であり、この部位に取り付けられた前記表面振動センサによる前記検出対象部位が、各気筒の動弁系の振動である請求項2または請求項4に記載の監視診断システム。
【請求項7】
前記表面振動センサが取り付けられる前記振動計測部位が、任意の気筒の主軸受横ブロックの1箇所であり、この部位に取り付けられた前記表面振動センサによる前記検出対象部位が、各気筒の主軸受メタル部分の振動である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の監視診断システム。
【請求項8】
前記振動計測部位が、複数の気筒のうち中央部に位置している気筒の主軸受横ブロックである請求項7に記載の監視診断システム。
【請求項9】
前記表面振動センサが取り付けられる前記振動計測部位が、気筒のライナの1箇所であり、この部位に取り付けられた前記表面振動センサによる前記検出対象部位が、当該気筒のピストン部分の振動である請求項2または請求項4に記載の監視診断システム。
【請求項10】
前記表面振動センサが取り付けられる前記振動計測部位が、気筒の横ブロックの1箇所であり、この部位に取り付けられた前記表面振動センサによる前記検出対象部位が、当該気筒のピストン部分の振動である請求項2または請求項4に記載の監視診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【公開番号】特開2006−29240(P2006−29240A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210703(P2004−210703)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】